説明

ガラスロービング、ガラスロービングの製造方法及びガラス繊維強化複合樹脂材

【課題】熱可塑性樹脂、特にポリブチレンフタレートの補強用として用いられた場合に成形されたFRTPの強度を低下させず、開繊性に優れたガラスロービングとこのガラスロービングの製造方法、さらにガラス繊維強化複合樹脂材を提供する。
【解決手段】ガラスロービング10は、質量百分率表示でエポキシ樹脂を1.5%以上2.9%以下、潤滑剤が0.5%以上1.5%以下含有してなるガラス繊維集束剤により表面被覆されたガラスストランド11よりなる。ガラスロービング10の製造方法は、ノズルから引き出された溶融ガラスをフィラメントに成形する工程と、このフィラメントの表面に前記ガラス繊維集束剤を塗布する工程と、集束剤の塗布されたフィラメントを集束してガラスロービング10として巻き取る工程とを有する。ガラス繊維強化複合樹脂材は本発明のガラスロービング10を用い、熱可塑性樹脂が含浸して冷却切断された所定長のペレット状とされたもの、あるいは製織または編み込み、複合材とされたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
無機ガラス繊維を回巻状に巻き取ったガラスロービング、特に、溶融ガラスをガラス繊維とした直後に、直接回巻体に巻き取られるガラスロービングと、このガラスロービングの製造方法、そしてこのガラスロービングを用いるガラス繊維強化複合樹脂材に関する。
【背景技術】
【0002】
無機ガラスを繊維状に成形する方法は多数あるが、直接巻き取り法と呼ばれる成形方法によって製造されるガラスロービング(DWR:Direct Wound Roving)は、一般に以下のような工程によってガラス繊維を製造する方法である。まず、各種の無機ガラス原料を高温状態に加熱されたガラス溶融槽に投入し、この内部で溶融した後に、数百〜数千のノズルを有する白金製ブッシングより引き出された溶融ガラスを直径が数ミクロンから二十数ミクロンのガラスフィラメントに引き伸ばし、それぞれのガラスフィラメントの表面に集束剤を塗布する。次いでこれらのガラスフィラメントは数百〜数千本を引き揃えて、ガラスストランドとし、回転するコレットに綾を掛けながら巻き取られる。巻き取られたガラスストランドは、乾燥されて集束剤に含まれる水分を蒸発させ、集束剤の皮膜が形成されて、内外層部分を除去した後、DWRの製品とされる。またガラスロービングには、DWR以外にも溶融ガラスを一旦ケーキに巻き取り、乾燥後、数個〜数十個のケーキを引き揃え、再度円筒状に巻き取ることにより製造する方法もある。このようにケーキから再度巻き取る方法は、DWRと区別して合糸ロービングと呼ばれている。合糸ロービングは、比較的細いガラスストランドを数本から数十本束ねたものであり、1本の太いガラスストランドからなるDWRはその構成が大きく異なっている。
【0003】
これらのガラスロービングは、フィラメントワインディング法(FW法)、引抜法、シートモールディングコンパウンド法(SMC法)、スプレーアップ法、プリフォーム法などの成形法により、FRP成形品の強化材として広く使用されているが、一般に細いガラスストランドを束ねた合糸ロービングはSMC法、スプレーアップ法、プリフォーム法などのロービングを切断して使用するFRP製法に多く用いられ、一方、1本のガラスストランドからなるDWRは、FW法や引抜法といった連続した状態で用いるFRP製法に多く用いられる。
【0004】
このようにガラスロービングは、種々の成形方法によって数多くの樹脂の補強材として利用され、構造材料として非常に重要なものである。DWRは、特に高強度な樹脂材を構成するものとして利用されており、その性能や品位の向上のためこれまでにも多数の発明が行われてきた。例えば、特許文献1にはFRPの機械的強度及び耐熱水性を向上させたガラスロービングと、これを強化材として含むFRPを提供するためにエポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシランから選択される少なくとも1種類のシランと、アクリルシランを含む集束剤が塗布され、90〜110℃で被膜形成されたガラスロービングとするという発明が開示されている。
【0005】
特許文献2には、DWR製造中に、集束剤の塗布によってDWR中に含有することになる多量の水分を乾燥させる工程で問題となるDWR内部圧の上昇に伴う破裂(パンク)現象の発生を抑止するため、ガラスロービングの内表面から外表面に貫通して形成される開口部を備え、この開口部がガラスロービングの端面上部からの投影図においてスパイラル状であるガラスロービングにするという発明が開示されている。
【0006】
特許文献3には、毛羽の発生や持ち上がりや崩落の発生が少ないガラスロービングを提供するために、ガラスストランドのストランドピッチが50〜80mmの範囲にあり、かつ、ワインド数が、5〜9の範囲にあるガラスロービングが提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−048760号公報
【特許文献2】特開2003−212590号公報
【特許文献3】特開2007−112636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガラスロービングに関わる発明は、上述したように数多く行われているが、これまでに行われた発明だけで、多くの用途で用いられるガラスロービングのさらなる性能向上を実現することはできない。上述したようにガラス繊維は、多数の樹脂材の補強材として用いられるが、例えば熱可塑性樹脂としてポリブチレンフタレート(PBTとも呼ばれる)の補強材としても多用されている。ポリブチレンフタレートを補強するガラス繊維に用いられるガラス繊維用集束剤は、マトリックスとの親和性を考慮し、主成分としてエポキシ樹脂が含まれているが、このようなエポキシ樹脂を主成分とする集束剤で表面処理されたDWRは、樹脂の含浸性が悪いという欠点がある。そこで樹脂の含浸性を向上させるために、樹脂に含浸する前にガラスストランドを予備開繊させ、テンションをかけることが行われている。しかしながらこの用途で用いられるガラスストランドの開繊性が悪いと樹脂の含浸状態が悪くなり、その結果としてPBTポリブチレンテレフタレートの補強材としてDWRが用いられた時に十分な補強性を発揮できなくなるという問題がある。
【0009】
本発明は上述したような問題点に鑑み、熱可塑性樹脂、特にポリブチレンフタレートの補強用として用いられた場合に成形されたFRTPの強度を低下させることなく、開繊性に優れたガラスガラスロービングと、このガラスロービングの製造方法及びこのガラスロービングを用いるガラス繊維強化複合樹脂材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、開繊性に優れた性能を有し、しかもポリブチレンフタレートとの親和性に優れるガラスストランドを実現するものである相反するとも言える両性能を満足する困難な課題に関して研究に鋭意努力を重ね、ガラスストランドの表面を被覆するガラス繊維集束剤に含有される成分を特定の成分に限定することによってこの問題を解決できることを見いだし、ここにその内容を提示するものである。
【0011】
本発明のガラスロービングは、ガラス繊維集束剤によって表面被覆されたガラスストランドよりなるガラスロービングであって、前記ガラス繊維集束剤が、質量百分率表示でエポキシ樹脂を1.5%以上2.9%以下、潤滑剤を0.5%以上1.5%以下含有してなることを特徴とする。
【0012】
ガラス繊維集束剤によって表面被覆されたガラスストランドよりなるガラスロービングであって、前記ガラス繊維集束剤が、質量百分率表示でエポキシ樹脂を1.5%以上2.9%以下、潤滑剤を0.5%以上1.5%以下含有してなるという点について、以下に説明する。本発明のガラスロービングは、ガラスロービングを構成する各々のガラスフィラメントの表面にガラス繊維集束剤を塗布したものであり、このガラス繊維集束剤の構成成分が固形分換算で表して、エポキシ樹脂が1.5質量%から2.9質量%の範囲内にあり、かつ潤滑剤が0.5質量%から1.5質量%の範囲内にあるということを表している。
【0013】
本発明に係るガラス繊維集束剤中のエポキシ樹脂は、例えばビスフェノールA型、フェノールノボラック型、O−クレゾールノボラック型及び水添ビスフェノールA型等の何れかが使用できる。ガラス繊維集束剤中のエポキシ樹脂は、ガラス繊維表面の強度を高め、樹脂との結合性を向上する働きに大きく寄与している。このためガラス繊維集束剤中のエポキシ樹脂は、質量百分率表示で1.5%未満であると、エポキシ樹脂が十分に働かないため、補強された樹脂の強度が低下することになるので好ましくない。一方、ガラス繊維集束剤中のエポキシ樹脂は、質量百分率表示で2.9%を超えるとガラス繊維が強固に固結し過ぎた状態となり、開繊性が悪化することに繋がるため好ましくない。
【0014】
本発明に係るガラス繊維集束剤中の潤滑剤は、ガラスフィラメントに滑りを付与し、加工工程などでガラス繊維を保護するために用いられるものであるが、ガラスフィラメント表面に潤滑剤の粒子が存在することによって、ガラスフィラメントに引張応力が付与された際に各フィラメント間が離れ易くなるという性能が発揮され開繊幅は向上するという働きをするものである。ガラス繊維集束剤中の潤滑剤の含有量が質量百分率表示で0.5%未満であると上述した効果が十分に得られず、また本発明で使用されるエポキシ樹脂の働きを十分に助ける働きもしないものとなるので好ましくない。一方、ガラス繊維集束剤中の潤滑剤の含有量が質量百分率表示で1.5%を超えるものであると、潤滑剤の含有量が過剰に成りすぎ、樹脂の補強材としてガラス繊維が用いられた場合に十分な強度が得られないといった問題点が発生する場合がある。
【0015】
本発明に係るガラス繊維集束剤中の潤滑剤としては、キャンディラワックス、カルナウバワックス、みつろう、ラノリン、及び鯨蝋等の動植物性ワックス、モンタンワックス、石油ワックス等の鉱物系ワックス、脂肪酸アミド及び脂肪酸エステル系、脂肪酸エーテル系、芳香族エステル系、芳香族エーテル系界面活性剤等の何れかが使用できる。ただし、アミノシランや他の集束剤原料との相性、コスト面等の経済性を考慮すると、ポリエチレンワックスを使用することが好ましい。
【0016】
本発明に係るガラス繊維集束剤中には、上記成分以外に、例えばシランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、具体的に例示するとアミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、クロルシラン、メルカプトシランが使用できるが好ましくはγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’ −β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシランとすることである。
【0017】
本発明のガラスロービングは、上述に加え開繊操作によって開繊幅が8mm以上となるものであれば、開繊された各々のガラスフィラメントの繊維間隙に十分に熱可塑性樹脂などの樹脂を含浸させることができ、安定した品位の繊維強化複合材を得ることが容易になるので好ましい。
【0018】
開繊操作によって開繊幅が8mm以上となるというのは、次のような操作を行うことによって確認することができる。すなわち本発明のガラスロービングから解舒されたガラスストランドを水平間隔が20mmとなるように配置した全部で3本の真鍮製棒(以下テンションバーと呼称する)に架かるように走行させた後のガラスストランドの開繊幅を計測するものである。より具体的には、ガラスロービングから解舒されたガラスストランドが走行中に最初に遭遇する1本目のみを水平位置から上方へ50mmの位置に固定配置した、全部で3本の真鍮製棒(以下テンションバーと呼称する)に架かるように走行させ、ガラスストランドに引張力を加えて予備的な開繊操作を行う。ガラスストランドはテンションバー間を走行する途中で束ねられた状態から1本ずつのガラスフィラメントへと解舒された状態、すなわち開繊がおこなわれた状態となる。そして、この走行によるガラスストランドへの開繊操作の後にガラスストランドの開繊幅を3回計測すると、その平均値が8mm以上となっているということを意味している。この開繊操作において、テンションバー間を走行するガラスストランドの走行速度は、50m/分の速度となるように走行速度を調整した状態で開繊が行われることが必要である。
【0019】
開繊操作による開繊幅が8mm未満であると、例えばポリブチレンフタレートを含浸する際に十分にポリブチレンフタレートが繊維間に染み込まず、両者の親和性に支障が生じることに繋がる場合があるため好ましくない。
【0020】
しかし本発明のガラスロービングは、開繊幅が8mm以上となるものであれば、どこまでも開繊幅が拡がってもよいというものではない。なぜなら必要以上に開繊幅が拡がりすぎると含浸操作等がむしろ行いにくくなることもあるためである。以上のような観点から開繊幅は、50mm以下とすることが好ましく、より好ましくは30mm以下とすることである。
【0021】
本発明のガラスロービングは、上述に加え熱可塑性樹脂成形品に用いられるものであれば、熱可塑性樹脂成形品の強度を十分に高め、優れた性能と品位を発揮させるものとなるので好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂成形品としては、例えばメチルペンテン(TPX)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリルニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリエステルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニルサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファド(PPS)等があり、これらに適用してもよい。
【0023】
また本発明のガラスロービングは、上述の各種熱可塑性樹脂成形品の内でも、高分子鎖の配高度の高い結晶性樹脂に適用するのがより好ましい。すなわち結晶性樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、メチルペンテン(TPX)、ポリアセタール(POM)等が該当する。
【0024】
本発明のガラスロービングは、上述に加えポリブチレンテレフタレート樹脂製形品の補強用として用いられるものであれば、耐熱性、難燃性、耐薬品性及び電気的特性に優れたポリブチレンテレフタレートの機械的強度をさらに強化した優れた構造材とすることができる。
【0025】
ポリブチレンテレフタレートは、例えばテレフタル酸(TPA)またはテレフタル酸ジメチル(DMT)と1,4-ブタンジオールを重縮合して合成したポリマーをベースとし、各種の添加剤をコンパウンドして得られるものである。
【0026】
本発明のガラスロービングは、使用するガラス繊維集束剤に、上述のエポキシ樹脂、潤滑剤以外の成分を必要に応じて複数添加してよく、それぞれの成分の配合比は、必要に応じて決定すればよい。
【0027】
本発明のガラスロービングは、DWRとして用いるのが好ましいものであるが、それ以外のものであってもよい。すなわちDWR以外に、溶融ガラスを一旦ケーキに巻き取り、乾燥後、数個〜数十個のケーキを引き揃え、再度円筒状に巻き取ることにより製造する合糸ロービングに適用してもよい。
【0028】
本発明のガラスロービングの製造方法は、ノズルから引き出された溶融ガラスを冷却してガラスフィラメントを成形する紡糸工程と、得られたガラスフィラメントの表面に質量百分率表示でエポキシ樹脂を1.5%以上2.9%以下、潤滑剤を0.5%以上1.5%以下含有してなるガラス繊維集束剤を塗布する集束剤塗布工程と、集束剤の塗布されたフィラメントを集束して巻き取る巻き取り工程とを有することを特徴とする。
【0029】
ノズルから引き出された溶融ガラスを冷却してガラスフィラメントを成形する紡糸工程と、得られたガラスフィラメントの表面に質量百分率表示でエポキシ樹脂を1.5%以上2.9%以下、潤滑剤を0.5%以上1.5%以下含有してなるガラス繊維集束剤を塗布する集束剤塗布工程と、集束剤の塗布されたフィラメントを集束して巻き取る巻き取り工程とを有するという点について、以下に説明する。本発明のガラスロービングの製造方法は、ガラス溶融炉内に投入されたガラス原料を熔解し、均質な状態とした後にブッシングに付設された耐熱性を有するノズルから溶融ガラスを細いストリーム状に引き出し、その後ノズル周囲の雰囲気や冷却装置の働きによって溶融ガラスを冷却する紡糸工程を経てガラスフィラメントとする。次いでこのガラスフィラメントの表面に予め準備したガラス繊維集束剤を塗布する集束剤塗布工程を経ることになる。このガラス繊維集束剤は、本発明に係るもので、その成分としてエポキシ樹脂を1.5質量%以上2.9質量%以下、潤滑剤が0.5質量%以上1.5質量%以下となるような構成である。そして最後にガラス繊維集束剤を均等に塗布された状態で、そのガラスフィラメントを数百から数千本引き揃えて集束し、ガラスロービングとして巻き取り装置によって巻き取られる巻き取り工程を経て回巻形状となるというものである。
【0030】
回巻形状に巻き取られたガラスロービングは、防塵や汚れの防止、及び繊維表面の保護などの目的のため、有機フィルム材、例えばシュリンク包装やストレッチフィルム等、用途に応じた包装を施し、複数段に積層した状態で顧客に供給されることになる。
【0031】
本発明のガラスロービングの製造方法で製造されるガラス繊維は、平均直径4μm以上の繊維径を有しており、ガラス組成としてはEガラス、ARガラス、DガラスあるいはHガラス等の既知の材質を有するものであってもよく、さらには新規に開発されたガラス組成を有するものであってもよい。
【0032】
本発明のガラス繊維強化複合樹脂材は、本発明のガラスロービングを使用した複合樹脂材であって、熱可塑性樹脂が含浸されて切断されて所定長のペレット状とされた複合材であるか、あるいは製織及び/または編み込まれ、樹脂と共に複合材であることを特徴とする。
【0033】
本発明のガラスロービングを使用した複合樹脂材であって、熱可塑性樹脂が含浸されて切断されて所定長のペレット状とされた複合材であるか、あるいは製織及び/または編み込まれ、樹脂と共に複合材であるとは、次のようなものである。
【0034】
本発明のガラス繊維強化複合樹脂材は、以下の2形態のいずれかである。まず、第一の形態としては、ガラス繊維集束剤によって表面被覆されたガラスストランドよりなるガラスロービングであって、前記ガラス繊維集束剤が、質量百分率表示でエポキシ樹脂を1.5%以上2.9%以下、潤滑剤を0.5%以上1.5%以下含有してなるガラスロービングを使用する、そしてこのガラスロービングに熱可塑性樹脂を含浸させる。次いでペレットの成形方法としては熔融被覆法、練込法等の何れかの方法によってペレット状の外観を呈する複合材とするというものである。熔融被覆法というのは、ロービングに熔融状態の樹脂を被覆させた後にペレット化するものである。また練込法というのは、押出機などを使用してガラスロービングから切断されたチュップドストランドを樹脂と混合した後に所定長のペレット形状として切断するものである。
【0035】
第二の形態としては、ガラスロービングを切断することなく1本のガラスストランドを編み機等の所定の装置によって編み込むか、あるいは少なくとも経糸と緯糸、2種類のガラス繊維を交互に織り込むことによって布状のガラス繊維シート材を予め製造後に熱可塑性樹脂を含浸するということによって得られるものである。
【0036】
ペレット化については、樹脂が含浸された後に固化し、ペレターザー等の切断加工装置を用いて所定長に切断すればよい。
【0037】
本発明のガラス繊維強化複合樹脂材は、自動車用構造材や産業用の耐熱性構造部材などとして特に好適なものである。というのも補強材として使用されているガラスストランドが熱可塑性樹脂と親和性がよく、樹脂が十分に含浸された状態で複合化が行われているからである。
【発明の効果】
【0038】
以上のように本発明のガラスロービングは、ガラス繊維集束剤によって表面被覆されたガラスストランドよりなるガラスロービングであって、前記ガラス繊維集束剤が、質量百分率表示でエポキシ樹脂を1.5%以上2.9%以下、潤滑剤を0.5%以上1.5%以下含有してなるものであるため、熱可塑性樹脂、特にポリブチレンフタレート(PBT)の補強用として用いられた場合に成形されたFRTPの強度を低下させることなく、開繊性に優れたガラスロービングである。
【0039】
また本発明のガラスロービングの製造方法は、ノズルから引き出された溶融ガラスを冷却してガラスフィラメントを成形する紡糸工程と、得られたガラスフィラメントの表面に質量百分率表示でエポキシ樹脂を1.5%以上2.9%以下、潤滑剤を0.5%以上1.5%以下含有してなるガラス繊維集束剤を塗布する集束剤塗布工程と、集束剤の塗布されたフィラメントを集束して巻き取る巻き取り工程とを有するものであるため、適温まで冷却された状態で集束剤塗布工程を行うことによって、過不足なく均等な塗布が行え、塗布工程で潤滑剤が適度な開繊性を実現するように働き、しかも同時に集束剤中のエポキシ樹脂の強度の補強機能を助けることになる。そしてこれらの工程の後に巻き取り工程を行うことで、優れた品位のガラスロービングを輸送などに効率的な回巻状態とすることができ、優れた品位のガラスロービングを顧客へと潤沢かつ迅速に供給することができる。
【0040】
また本発明のガラス繊維強化複合樹脂材は、本発明のガラスロービングを使用した複合樹脂材であって、熱可塑性樹脂が含浸されて切断されて所定長のペレット状とされた複合材であるか、あるいは製織及び/または編み込まれ、樹脂と共に複合材とされたものであるため、十分な含浸性のあるガラスロービングと共に用いられており、ガラスロービングによる補強効果が妨げられることもないためマトリックスである熱可塑性樹脂、特にポリブチレンフタレート(PBT)の優れた性能が十分に発揮されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のガラスロービングの斜視図である。
【図2】本発明のガラスロービングの開繊性を評価する方法に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、順番に本発明のガラスロービングとガラスロービングの製造方法、及びガラス繊維強化複合樹脂材について具体的に説明する。
【実施例】
【0043】
本発明のガラスロービングは図1に示すような構成で回巻体の形態を呈している。すなわちガラスストランド11が層状になるように重ねて巻き取られた円筒形状の構造である。このガラスロービングを製造するためには、まずEガラスのガラス組成となるように調合した各種ガラス原料をガラス熔融炉中で熔解し、均質な状態にした。次いで、この熔融ガラスはガラス熔融炉の成形域に備えられたブッシングへと導いて、耐熱性ノズルから引き出し、ガラスフィラメントの直径が17μmとなるように冷却条件、巻き取り条件等を調整した状態で成形した。引き出されたガラスフィラメントは、このように直径を整えた状態で冷却され、次いで予め準備した各種のガラス繊維集束剤を集束剤塗布装置であるロールコーターによって均等に塗布した。
【0044】
このようにガラスフィラメント表面にガラス繊維用集束剤が塗布されたガラスフィラメントは集束器(ギャザリングシューとも呼ぶ)によって4000本を束ねて1本のガラスストランドとし、さらに紙管に巻き取ってケーキ(回巻体とも呼ぶ)とした。次にこのケーキを加熱して乾燥した後に、紙管から回巻状態のガラスストランドだけを抜き取って、その内層の数百グラムを除去してDWRを得た。このようにして作製されたDWRのガラスストランドを内層より引き出し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ株式会社製 トレコン1401−X−06)中に導入し、260℃に加熱して含浸させて、ペレタイザーにより10mmにカットした後、ペレットを得た。ちなみにペレット化の際の引き取り速度は50m/minとした。
【0045】
なお、DWRのガラスストランドの開繊性の評価方法は、次のような試験を行うことによって実施した。試験方法の説明は、図2を参照しながら行う。ガラスロービング10から引き出したガラスストランド11をテンションバー12(材質は真鍮棒)に通し、予備開繊させる。テンションバー12は直径10mm、各テンションバー12の横の間隔Lは20mm、ガラスストランド11をガラスロービング10から引き出したときに最初にかかるテンションバー12は水平位置から上方へ50mmの距離Hの位置に他のテンションバーと平行となるように配設固定したものである。これら3本のテンションバー12でガラスストランド11に同じ大きさのテンション(引張応力)を加えた後、ガラスストランド11が各々のガラスフィラメントにどの程度の幅になるまで開繊されたか、その大きさを比較するため、開繊幅Wの測定を行った。開繊幅Wの測定値は、ガラスストランド11が走行して3本目のテンションバー12を通過した直後のガラスストランド11の幅Wを小数点1桁にて、mm単位で3回メジャーによって計測することで得られた値の平均値を算出し、小数点1桁目を四捨五入したものである。開繊幅Wの測定は、メジャーによって計測する以外にレーザー計測装置や投影型計測装置等の計測装置を使用して計測したものであっても、小数点1桁まで正確な計測が行えるものであればよい。
【0046】
ちなみに図2には、テンションバー12による開繊操作の後の工程についても示している。前記したポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ株式会社製 トレコン1401−X−06)中に導入するには、含浸装置13中へとガラスストランド11を走行させる。開繊操作後のガラスストランド11には含浸装置の上部に設けられた熱可塑性樹脂粉末の投入口13aからポリブチレンテレフタレート樹脂を投入し、加熱して熱可塑性樹脂の加熱熔融体13bとした中を走行させつつ含浸操作が行われる。この後、ポリブチレンテレフタレート樹脂が含浸されたガラスストランドは冷却され、ポリブチレンテレフタレート樹脂は固化し、ペレターザー14に設けられた回転駆動される複数の切断刃を放射状に配設された切断ロール14aによって長さ10mmに連続的に切断されて長繊維ペレット20が得られる。
【0047】
引張強さの計測は、この長繊維ペレット20を260℃で射出成形することによってガラス繊維強化熱可塑性樹脂からなる略板状のFRTP成形品を作製した。なお、FRTP成形品におけるガラス含有量は40質量%であった。このようにして作製されたFRTP成形品の機械強度は、引張強さを測定することによって評価した。なお、引張強さはASTM D638に基づいて測定した。
【0048】
様々な配合量のガラス維集束剤を使用して行った上述の本発明の実施例に関わる評価については、その評価結果などを以下の表1にまとめて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
本発明の実施例である試料No.1は、γ‐アミノプロピルトリエトキシシランが0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョンが1.5質量%、潤滑剤が1.5質量%を含む水溶液を混合し、脱イオン水を加えてガラス繊維用集束剤を調整して使用したものであるが、得られたガラスロービングの開繊幅Wは12mmと十分に大きく、このガラスロービングを使用して複合化することによって得られたポリブチレンテレフタレート樹脂のガラス繊維強化複合樹脂体の引張強さは203MPaと大きな値を示すものであった。
【0051】
試料No.2は、実施例1と同様の手順で作製されたもので、使用されたガラス繊維集束剤はγ‐アミノプロピルトリエトキシシランが0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョンが1.5質量%、潤滑剤が0.5質量%を含む水溶液を混合し、脱イオン水を加えて作製したものである。この試料No.2の評価結果は、まずガラスストランドの開繊幅Wの計測結果は、10mmと申し分なく大きく、またガラスロービングを使用して複合化することによって得られたポリブチレンテレフタレート樹脂のガラス繊維強化複合樹脂体の引張強さは205MPaと非常に大きい値を示した。
【0052】
試料No.3は、他の実施例と同様の手順で作製されたもので、ガラス繊維集束剤についてはγ‐アミノプロピルトリエトキシシランが0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョンが2.9質量%、潤滑剤が0.5質量%を含む水溶液を混合し、脱イオン水を加えて作製したものである。この試料No.3の評価結果は、他の実施例と同様にガラスストランドの開繊幅Wの計測結果は、9mmであって問題なく大きいものであり、ガラスロービングを使用して複合化することによって得られたポリブチレンテレフタレート樹脂のガラス繊維強化複合樹脂体の引張強さについても、202MPaと大きい値を示すものであった。
【0053】
一方、本発明の比較例については、使用するガラス繊維集束剤について異なるものを使用した以外は実施例と同様の手順で作製を行い、評価も実施したものである。比較例である試料No.11は、ガラス繊維集束剤が、γ‐アミノプロピルトリエトキシシランが0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョンが1.5質量%、潤滑剤が2.0質量%を含む水溶液を混合し、脱イオン水を加えてガラス繊維用集束剤を作製したものである。この比較例の試料No.11の評価結果は、まず開繊幅Wの計測結果が13mmであって、開繊幅については申し分ないものであったが、潤滑剤の含有量が多すぎるため過剰添加となってエポキシ樹脂による強度向上効果をむしろ阻害する働きをし、その結果ガラスロービングを使用して複合化することによって得られたポリブチレンテレフタレート樹脂のガラス繊維強化複合樹脂体の引張強さが185MPaとなって200MPa以上に満たない低い品位となった。
【0054】
比較例の試料No12については、上記同様に実施例と同様の作製手順で、評価方法も同じであるが、使用したガラス繊維集束剤のみを異なるものとしている。すなわちガラス繊維集束剤として、γ‐アミノプロピルトリエトキシシランが0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョンが3.3質量%、潤滑剤が0.3質量%を含む水溶液を混合し、脱イオン水を加えてガラス繊維用集束剤を作製したものである。この試料No.12の評価結果は、ラスロービングを使用して複合化することによって得られたポリブチレンテレフタレート樹脂のガラス繊維強化複合樹脂体の引張強さは201MPaであって、200MPaを超えたが、他の実施例には及ばないものであった。その理由としては潤滑剤の含有量が0.3mmと少なく、開繊幅Wは6mmであり、十分な開繊が行われなかったため、樹脂が含浸しにくいものとなっていたことによるものである。
【0055】
以上のように本発明の実施例と比較例とを参照することによって、本発明のガラスロービングが優れた引張強度を実現する熱可塑性樹脂、すなわちポリブチレンテレフタレートの補強用ガラス繊維として好適なものであり、ガラスロービングの製造方法は、高い品位のガラスロービングを製造するために必須のものであることが明瞭となった。また本発明のガラス繊維強化複合樹脂材は、十分高い強度性能を発揮するものであることも同時に明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のガラスロービングは、ポリブチレンフタレート(PBT)の補強用として利用することが特に好ましいため、実施例としてはポリブチレンフタレート(PBT)についての適用例を示したが、ポリブチレンフタレート以外の他の熱可塑性樹脂に適用し、電子工業等の各種精密ハウジング構成体や建築用材料、工業用途の各種構成部材等、種々の用途に使用してもよい。
【0057】
さらに、上記の実施形態では、ガラスロービングに樹脂を含浸した後にペレターザーを用いてペレット化する場合について例示して説明したが、勿論、本発明はロービングを経糸、緯糸とする織物にする場合や1本のガラスストランドから編み物を製造する場合にも適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0058】
10 ガラスロービング
11 ガラスストランド
12 テンションバー(真鍮棒)
13 含浸装置
13a 熱可塑性樹脂粉末の投入口
13b 熱可塑性樹脂の加熱熔融体
14 ペレタイザー
14a 切断ロール
20 長繊維ペレット
B 熱可塑性樹脂(ポリブチレンフタレート(PBT))の粉末
L テンションバー(真鍮棒)の水平間距離
H テンションバー(真鍮棒)の水平位置からの垂直距離
W 開繊幅


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維集束剤によって表面被覆されたガラスストランドよりなるガラスロービングであって、
前記ガラス繊維集束剤が、質量百分率表示でエポキシ樹脂を1.5%以上2.9%以下、潤滑剤を0.5%以上1.5%以下含有してなることを特徴とするガラスロービング。
【請求項2】
開繊操作によって開繊幅が8mm以上となるものであることを特徴とする請求項1に記載のガラスロービング。
【請求項3】
ガラスロービングが、熱可塑性樹脂成形品に用いられるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガラスロービング。
【請求項4】
ポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の補強用として用いられるものであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のガラスロービング。
【請求項5】
ノズルから引き出された溶融ガラスを冷却してガラスフィラメントを成形する紡糸工程と、得られたガラスフィラメントの表面に質量百分率表示でエポキシ樹脂を1.5%以上2.9%以下、潤滑剤を0.5%以上1.5%以下含有してなるガラス繊維集束剤を塗布する集束剤塗布工程と、集束剤の塗布されたフィラメントを集束して巻き取る巻き取り工程とを有することを特徴とするガラスロービングの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4の何れかに記載のガラスロービングを使用した複合樹脂材であって、
熱可塑性樹脂が含浸されて切断されて所定長のペレット状とされた複合材であるか、あるいは製織及び/または編み込まれ、樹脂と共に複合材であることを特徴とするガラス繊維強化複合樹脂材。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248030(P2010−248030A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99482(P2009−99482)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】