説明

ガラス基板の平坦化方法

【課題】 ガラス基板の表面に微細な傷等の凹部がある場合、ガラス基板の表面をより一層平坦化する。
【解決手段】 エッチング液として、ガラス基板に対するエッチングレートが0.01μm/分以上で5μm/分未満と比較的遅い第1のエッチング液と、ガラス基板に対するエッチングレートが5μm/分以上で15μm/分以下と比較的速い第2のエッチング液とを用意する。そして、ガラス基板に対して、まずエッチングレートの遅い第1のエッチング液を用いてエッチングを行うと、エッチングの進行が遅いため、ガラス基板の表面の凹部が特にガラス基板の厚さ方向に成長するのを抑制しながら、ガラス基板の表面層と共に凹部を除去することができ、次いでエッチングレートの速い第2のエッチング液を用いてエッチングを行うと、ガラス基板の表面をより一層平坦化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はガラス基板の平坦化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶表示パネルの構成部材として用いられるガラス基板では、非常に高い平坦性が要求される場合がある。従来のこのようなガラス基板の平坦化方法には、ガラス基板に対して、エッチングレートが異なる2種類のエッチング液を用意し、まずエッチングレートの速いエッチング液を用いてエッチングを行い、次いでエッチングレートの遅いエッチング液を用いてエッチングを行い、これによりガラス基板の表面を平坦化するようにした方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−77640号公報
【0004】
上記従来のガラス基板の平坦化方法では、当初のガラス基板の表面に微細な傷等の凹部がある場合、まずエッチングレートの速いエッチング液を用いてエッチングを行うと、エッチングの進行が速いため、ガラス基板の表面層と共に凹部が除去され、次いでエッチングレートの遅いエッチング液を用いてエッチングを行うと、ガラス基板の表面が平坦化される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のガラス基板の平坦化方法では、まずエッチングレートの速いエッチング液を用いてエッチングを行い、次いでエッチングレートの遅いエッチング液を用いてエッチングを行っているので、後述することから、ガラス基板の表面の平坦性が非常に高いとは言えないという問題がある。
【0006】
そこで、この発明は、当初のガラス基板の表面に微細な傷等の凹部があっても、ガラス基板の表面をより一層平坦化することができるガラス基板の平坦化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記目的を達成するため、ガラス基板に対して、エッチングレートが異なる複数種類のエッチング液を用意し、エッチングレートの遅いエッチング液からエッチングレートの速いエッチング液の順となるように、複数回のエッチングを行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、当初のガラス基板の表面に微細な傷等の凹部がある場合、まずエッチングレートの遅いエッチング液を用いてエッチングを行い、エッチングの進行が遅いため、凹部が特にガラス基板の厚さ方向に成長するのを抑制しながら、ガラス基板の表面層と共に凹部を除去することができ、次いでエッチングレートの速いエッチング液を用いてエッチングを行い、これによりガラス基板の表面をより一層平坦化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1はこの発明の第1実施形態としてのガラス基板の平坦化方法の工程を示す図である。まず、図1のステップS1において、図示していないが、ガラス基板を第1のエッチング槽内に収容された第1のエッチング液中に浸漬し、ガラス基板の両面をエッチングする。この場合、第1のエッチング液は、フッ酸および水を含むフッ酸系水溶液からなり、ガラス基板に対するエッチングレートが0.01μm/分以上で5μm/分未満と比較的遅くなるように、フッ酸濃度が調整されている。
【0010】
次に、ガラス基板を第1のエッチング槽内の第1のエッチング液中から取り出す。次に、図1のステップS2において、同じく図示していないが、ガラス基板を第2のエッチング槽内に収容された第2のエッチング液中に浸漬し、ガラス基板の両面をエッチングする。この場合、第2のエッチング液は、フッ酸および水を含むフッ酸系水溶液からなり、ガラス基板に対するエッチングレートが5μm/分以上で15μm/分以下と比較的速くなるように、フッ酸濃度が調整されている。
【0011】
ところで、当初のガラス基板1の表面に、図2(A)に示すような微細な傷等の凹部2がある場合には、まずエッチングレートの遅い第1のエッチング液を用いてエッチングを行うと、エッチングの進行が遅いため、凹部2が特にガラス基板1の厚さ方向に成長するのを抑制しながら、ガラス基板1の表面層と共に凹部2を除去することができ、次いでエッチングレートの速い第2のエッチング液を用いてエッチングを行うと、ガラス基板1の表面をより一層平坦化することができる。
【0012】
ここで、上記第1実施形態のガラス基板の平坦化方法によりガラス基板1を平坦化し、当該ガラス基板1の表面中央部における表面形状を高精度全自動微細形状測定器(株式会社小坂研究所、ET4000型(触針式))を用いて測定したところ、図3に示す結果が得られた。この場合、ガラス基板1として、サイズが320mm×400mmのものを用意し、その表面中央部の水平方向の長さ10mmの表面形状を測定した(以下、同じ)。
【0013】
また、比較のために、上記と同様のガラス基板1に対して、上記第1実施形態のガラス基板の平坦化方法とは逆に、まずエッチングレートの速い第2のエッチング液を用いてエッチングを行い、次いでエッチングレートの遅い第1のエッチング液を用いてエッチングを行い、これにより得られたガラス基板1の表面形状を上記測定器を用いて測定したところ、図4に示す結果が得られた。
【0014】
なお、上記測定器は、ガラス基板1の面方向について10mmと比較的広範囲に亘る表面形状を測定する一方で、ガラス基板1の厚さ方向について1μm未満と非常に高精度で表面形状を測定するものである。したがって、上述したようなガラス基板1の表面に存在する微細な傷等の凹部2(直径数μm〜数十μm)や後述するディンプル(直径数百μm)等の、局所的な表面形状よりも、より広範囲に亘って表面形状の平坦性を測定することができる。
【0015】
さて、図3および図4から明らかなように、図3に示す第1、第2のエッチング液の順でエッチングを行った場合のガラス基板1の表面の平坦性は、図4に示す第2、第1のエッチング液の順でエッチングを行った場合のガラス基板1の表面の平坦性よりもより一層良くなっていることが分かる。したがって、上記第1実施形態のガラス基板の平坦化方法では、ガラス基板1の表面をより一層平坦化することができる。
【0016】
(第2実施形態)
ところで、上記第1のエッチング液の代わりに、上記第1のエッチング液に1種類以上のフッ素化合物を添加したもの(以下、第1の変形エッチング液という)を用いてエッチングを行い、次いで上記第2のエッチング液を用いてエッチングを行い、これにより得られたガラス基板1の表面形状を上記測定器を用いて測定したところ、図5に示す結果が得られた。
【0017】
図5から明らかなように、図4に示す第2、第1のエッチング液の順でエッチングを行った場合のガラス基板1の表面の平坦性よりもより一層良くなっていることが分かる。したがって、この第2実施形態のガラス基板の平坦化方法でも、ガラス基板1の表面をより一層平坦化することができる。
【0018】
ところで、上記第2実施形態のガラス基板の平坦化方法では、図2(A)に示すように、当初のガラス基板1の表面に目視できない程度の大きさ(直径数μm〜数十μm)の微細な凹部2がある場合、ガラス基板1をエッチングする間に、ガラス基板1の凹部2以外の部分においてその厚さ方向にエッチングされるだけでなく、当該凹部2についてもエッチングされてしまう。
【0019】
この場合、凹部2は等方的にエッチングされるため、図2(B)に示すように、エッチングの間に、ガラス基板1の厚さ方向および面方向にエッチングされて成長し、エッチング終了時に、目視できる程度の大きさ(直径数百μm)のディンプル3と呼ばれる表面不良となってしまう場合があった。また、ガラス基板1の表面が白っぽく見えたり、粗っぽく見えたりする場合があった。そこで、次に、このような問題を解決することができるこの発明の第3、第4実施形態について説明する。
【0020】
(第3実施形態)
図6はこの発明の第3実施形態としてのガラス基板の平坦化方法の工程を示す図である。まず、図6のステップS11において、図示していないが、ガラス基板を不活性液槽内に収容された不活性液中に浸漬する。この場合、不活性液は、第1の変形エッチング液および第2のエッチング液に対して不活性でエッチング温度下で液体であり、表面張力が各エッチング液よりも小さく、沸点が各エッチング液よりも高いものであり、例えば、ペルフルオロ−2−ブチルテトロヒドロフラン、ペルフルオロ−2−プロピルテトヒドロピランロ等のペルフルオロアルキル化合物液が挙げられる。
【0021】
さて、ガラス基板を不活性液槽内の不活性液中に浸漬すると、不活性液がガラス基板の表面の凹部内に充填される。次に、ガラス基板を不活性液槽内の不活性液中から取り出す。この状態では、図7(A)に示すように、ガラス基板1の凹部2を含む表面全体には不活性液4が付着されている。
【0022】
次に、図6のステップS12において、図示していないが、ガラス基板1を第1の変形エッチング槽内の第1の変形エッチング液中に浸漬し、ガラス基板1の両面をエッチングする。次に、ガラス基板1を第1の変形エッチング槽内の第1の変形エッチング液中から取り出すと、ガラス基板1の表面に付着された不活性液4が除去された状態となる(図7(B)参照)。この状態では、ガラス基板1の表面の凹部2内には不活性液4がそのまま充填されて付着されている。
【0023】
次に、図6のステップS13において、同じく図示していないが、ガラス基板1を第2のエッチング槽内の第2のエッチング液中に浸漬し、ガラス基板1の両面をエッチングする。次に、ガラス基板1を第2のエッチング槽内の第2のエッチング液中から取り出す。図7(C)に、この第2のエッチング液によるエッチングを終えたときの、ガラス基板1の表面の凹部の状態を示す。
【0024】
この第3実施形態のガラス基板の平坦化方法では、第1の変形エッチング液および第2のエッチング液でガラス基板1のエッチングを行うとき、図7(B)に示すように、ガラス基板1の表面の凹部2内に不活性液4が充填されているので、この充填された不活性液4がエッチングマスクとして機能し、図7(C)に示すように、当該凹部2のガラス基板1の厚さ方向および面方向への成長が抑制され、目視できる程度の大きさのディンプル3の発生が減少した。また、この場合、ガラス基板1の表面が白っぽく見えたり、粗っぽく見えたりすることはなかった。
【0025】
(第4実施形態)
ところで、上記第3実施形態において、上記第2のエッチング液の代わりに、上記第2のエッチング液に0.1〜1.0%の無機オキソ酸系を添加したものを用いてエッチングを行ったところ、無機オキソ酸系により不活性液がガラス基板1の表面の凹部2内に沈着され、上記第3実施形態の場合と比較して、目視できる程度の大きさのディンプル3の発生がさらに減少した。なお、この場合も、ガラス基板1の表面が白っぽく見えたり、粗っぽく見えたりすることはなかった。
【0026】
(その他の実施形態)
上記各実施形態では、ガラス基板1の両面をエッチングして平坦化する場合について説明したが、これに限らず、ガラス基板1の一方の表面にPVC、PET、ガラス、レジスト等からなる保護層を形成した状態において、ガラス基板1の他方の表面のみをエッチングして平坦化するようにしてもよい。
【0027】
また、複数個の液晶表示パネルの製造に際し、完成された液晶表示パネルを複数個形成することが可能な面積を有する2枚のガラス基板を複数のシール材を介して貼り合わせ、且つ、2枚のガラス基板の外周部を外周シール材で封止した組立体を用意し、この組立体の2枚のガラス基板の各表面を同時にエッチングして平坦化するようにしてもよい。また、この場合、一方のガラス基板の表面に保護層を形成し、他方のガラス基板の表面のみをエッチングして平坦化するようにしてもよい。
【0028】
さらに、上記各実施形態では、基本的には、ガラス基板1に対して、まずエッチングレートの遅い第1のエッチング液を用いてエッチングを行い、次いでエッチングレートの速い第2のエッチング液を用いてエッチングを行っているが、これに限らず、エッチングレートが異なる3種類以上のエッチング液を用意し、エッチングレートの遅いエッチング液からエッチングレートの速いエッチング液の順となるように、3回以上のエッチングを行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の第1実施形態としてガラス基板の平坦化方法の工程を示す図。
【図2】(A)はガラス基板の表面の凹部を説明するために示す図、(B)はガラス基板の表面のディンプルを説明するために示す図。
【図3】この発明の第1実施形態のガラス基板の平坦化方法により得られたガラス基板の表面の平坦性を示す図。
【図4】比較のためのガラス基板の表面の平坦性を示す図。
【図5】この発明の第2実施形態のガラス基板の平坦化方法により得られたガラス基板の表面の平坦性を示す図。
【図6】この発明の第3実施形態としてガラス基板の平坦化方法の工程を示す図。
【図7】(A)はガラス基板の表面の凹部を含む表面全体に不活性液が付着した状態を説明するために示す図、(B)はガラス基板の表面の凹部のみに不活性液がそのまま付着した状態を説明するために示す図、(C)ガラス基板の表面の凹部の成長が抑制された状態を説明するために示す図。
【符号の説明】
【0030】
1 ガラス基板
2 凹部
3 ディンプル
4 不活性液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板に対して、エッチングレートが異なる複数種類のエッチング液を用意し、エッチングレートの遅いエッチング液からエッチングレートの速いエッチング液の順となるように、複数回のエッチングを行うことを特徴とするガラス基板の平坦化方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、前記エッチング液は2種類であり、エッチングレートの遅い第1のエッチング液の前記ガラス基板に対するエッチングレートは0.01μm/分以上で5μm/分未満であり、エッチングレートの速い第2のエッチング液の前記ガラス基板に対するエッチングレートは5μm/分以上で15μm/分以下であることを特徴とするガラス基板の平坦化方法。
【請求項3】
請求項2に記載の発明において、前記第1のエッチング液は1種類以上のフッ素化合物を含有することを特徴とするガラス基板の平坦化方法。
【請求項4】
請求項2または3の何れか一項に記載の発明において、前記第1のエッチング液によるエッチングを行う前に、前記ガラス基板を前記第1、第2のエッチング液に対して不活性な液体中に浸漬することを特徴とするガラス基板の平坦化方法。
【請求項5】
請求項4に記載の発明において、前記第2のエッチング液は無機オキソ酸系を含有することを特徴とするガラス基板の平坦化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−269619(P2007−269619A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165580(P2006−165580)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【出願人】(501255549)三和フロスト工業株式会社 (3)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】