ガラス基板用の担体
薄いガラスシート(7)用の担体(31)が開示される。担体は、第1(15)および第2(17)の対向表面を有するエラストマー(9)と、前記エラストマー(9)の第1の表面(15)に接着した支持体(11)とを備えている。使用中、薄いガラスシート(7)がエラストマーの第2の表面(17)に直接接触し、かつ、取り外し可能に接着する。薄いガラスシート(7)に、強いが、取り外し可能な接着を提供するため、エラストマーの第2の表面(17)は10〜90の範囲のショアA硬さおよび185ナノメートル以下の粗さを有する。このようにして、担体/ガラスシート組立体(13)は、薄いガラスシート(7)の露出面(23)における電子部品の製造の間に遭遇する状況に耐えることができる。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2009年5月6日出願の欧州特許出願第09305404.7号の利益を主張する。本願ならびに本明細書に記載される刊行物、特許、および特許文献の開示全体の内容が参照することによって援用される。
【技術分野】
【0002】
本開示は、ガラス基板(ガラスシート)上における電子部品の製造に関し、特に、このような製造の間に薄型基板を支持する担体に関する。
【背景技術】
【0003】
例えば、液晶ディスプレイ(LCD)および有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイなどのピクセル化ディスプレイの生産では、薄膜トランジスタ(TFT)を含めたさまざまな電子部品がガラス基板上に製造される。この施用のための標準的な基板厚さは0.7ミリメートルであり、ディスプレイ製造業者は、これらの基板とともに使用するのに適当な位置に、洗練された製造装置を所有している。
【0004】
最近になって、例えば0.1ミリメートル以下の厚さを有する基板など、実質的に薄い基板がガラス製造業者によって製造されている。加工のため、このような薄型基板は、一時的に、より厚い担体に接着させることを必要とし、この担体は、製造プロセスの終わりに、基板を損傷させることなく放出する。加えて、担体が、高価な再生利用手段を必要とせずに、少なくとも数回、再利用できれば望ましいであろう。さらには、既存の装置を上手く活用するために、担体/基板組立体は、殆どまたは全く変更することなく、TFTを含めた電子部品の製造に用いられる従来の装置および試薬を使用した処理に適していることが好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この問題に対して、今日までさまざまな試みが提案されてきたが、当技術分野ではこの問題に対する解決法は見出されなかった。本問題は、担体が直面しなければならない競合する要件、すなわち、1)ガラス基板上での電子部品の製造の間に使用する化学的処理および昇温に耐える能力、2)不良は製造ライン全体の運転停止を意味しうることから、基板と担体との相対運動を有さず、不良が実質的にゼロの、製造プロセスの間に担体上にガラス基板を堅固に保持する能力、および3)いずれにも損傷を与えずに、製造プロセス後に、ガラス基板およびその上に形成された電子部品を放出する能力の理由から、困難であることが分かる。
【0006】
以下に十分に論じるように、本開示によれば、同時に満たすべき上記要件のすべてを可能にする担体の構造および担体とガラス基板の接触面の臨界パラメーターが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様によれば、0.5ミリメートル以下の厚さを有する薄いガラスシート(7)用の担体(31)が開示され、前記担体は、
(A)第1(15)および第2(17)の対向表面を有するエラストマー(9)と、
(B)前記エラストマー(9)の第1の表面(15)に接着した支持体(11)であって、前記薄いガラスシート(7)の厚さの1〜10倍の範囲の厚さを有する支持体(11)と、
を備え、ここで、
(i)使用中、前記薄いガラスシート(7)が、前記エラストマーの第2の表面(17)に直接接触し、かつ、取り外し可能に接着し;
(ii)前記エラストマーの第2の表面(17)が、
(a)10〜90の範囲のショアA硬さ、および
(b)185ナノメートル以下の粗さ(Ra値)
を有し;
(iii)前記第1の表面(15)と前記支持体(11)との接着が、20ミリメートル/分の剥離速度および90°の剥離角で測定した場合に、少なくとも0.5キロニュートン/メートルの剥離強度を有する;
ことを特徴とする。
【0008】
第2の態様によれば、第1の態様の担体(31)および、0.5ミリメートル以下の厚さを有する薄いガラスシート(7)を備えた組立体(13)が開示される。
【0009】
本開示のさまざまな態様の上記概要に用いられる参照番号は、単に読み手の利便性のためであって、本発明の範囲を限定することは意図されておらず、そのように解釈されるべきではない。さらに一般的には、前述の概要および後述する詳細な説明は両方とも、本発明の単なる典型例であり、本発明の性質および特徴を理解するための概観または枠組みを提供することが意図されていることが理解されるべきである。
【0010】
本発明の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に記載され、一部には、その説明から当業者には容易に明らかとなり、あるいは、本明細書に記載される本発明の実施によって認識されよう。添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に取り込まれ、その一部を構成する。本明細書および図面に開示される本発明のさまざまな特徴は、いずれかの組合せおよびすべての組合せで用いることができることも理解されるべきである。
【0011】
図1〜3は、正確な縮尺ではなく、例示する要素の相対的な大きさを示すことは意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】取り外し可能に接着した薄いガラスシートを備えた担体の実施の形態の概略図。
【図2】図1の担体からの薄いガラスシートの取り外しを例証する概略図。
【図3】エラストマーとガラス表面の間の付着エネルギーを測定するための実験装置を例証する概略図。
【図4】ショア(Shore(登録商標))A硬さ10を有するシリコーンエラストマーの表面粗さに対する担持不良を示すグラフ。
【図5】図4のショアA硬さのシリコーンエラストマーの付着エネルギーに対する担持不良を示すグラフ。付着エネルギーは、研磨したパイレックス(登録商標)ガラスからなる円筒および0.1メートル/秒の円筒速度について決定した。
【図6】ショアA硬さ22を有するシリコーンエラストマーの表面粗さに対する担持不良を示すグラフ。
【図7】図6のショアA硬さを有するシリコーンエラストマーの付着エネルギーに対する担持不良を示すグラフ。付着エネルギーは、研磨した「パイレックス」ガラスからなる円筒および0.1メートル/秒の円筒速度について決定した。
【図8】ショアA硬さ33を有するシリコーンエラストマーの表面粗さに対する担持不良を示すグラフ。
【図9】図8のショアA硬さを有するシリコーンエラストマーの付着エネルギーに対する担持不良を示すグラフ。付着エネルギーは、研磨した「パイレックス」ガラスからなる円筒および0.1メートル/秒の円筒速度について決定した。
【図10】図4、6、および8のデータを合せた表面粗さに対する担持不良を示すグラフ。この図では、黒ダイヤモンド、白ダイヤモンド、および黒三角は、それぞれ、10、22、および33のショアA硬さデータを表している。
【図11】図5、7、および9のデータを合せた、付着エネルギーに対する担持不良を示すグラフ。この図では、黒ダイヤモンド、白ダイヤモンド、および黒三角は、それぞれ、10、22、および33のショアA硬さデータを表している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書および添付の特許請求の範囲では、「ガラス」という語句は、ガラスとガラスセラミック材料の両方を含む。
【0014】
本開示の構造的特徴が図1および2に例証されている。それらに見られるように、担体31は、第1の表面15および第2の表面17を有するエラストマー9を備える。第1の表面15は支持体11に接着し、第2の表面17は、担体の使用中、ガラスシート7に、具体的にはガラスシート7の表面25に、直接接触する。このような使用の間に、ガラスシート7の露出面23上に電子部品が形成される。
【0015】
ガラスシート7は、さまざまな組成を有しうる。代表的な組成として液晶ディスプレイに使用されるものが挙げられ、例えば、Corning Incorporated社製のEAGLE XG(商標)ガラス、NEG社製のOA−20ガラス、およびAsahi社製のAN−100ガラスなどである。従来のLCDガラスとは異なり、ガラスシート7の厚さは0.5ミリメートル以下であり、例えば、0.1ミリメートル未満でありうる。ガラスは剥き出しのままであるか、あるいは、磨耗からの保護、付着の調節および/または脆弱性の低減など、所望の特性を提供することができる任意のポリマーまたは分子でコーティングされてもよい。例として、ペルフルオロオクタデシルトリクロロシランはエラストマーへのガラスの付着の調節に使用することができ、ポリイミドはガラスの脆弱性の低減に使用することができる。
【0016】
支持体11もまた、さまざまな組成を有しうる。典型的には、支持体は、例えばガラスシート7と同一のガラスなど、ガラスからなるが、異なるガラス、または、例えばステンレス鋼などの金属でできていてもよい。支持体11は、ガラスシート7の厚さの1〜10倍の範囲の厚さを有する。1つの実施の形態では、支持体11は、LCDディスプレイの製造に使用されるガラス基板の範囲の厚さを有し、例えば、0.7ミリメートルである。支持体11の長さおよび幅は、支持される薄いガラスシートの大きさに応じて大きく異なりうる。参考のため、LCDディスプレイの製造に使用されるGen 5基板は、片面が1.5平方メートルの範囲の表面積を有する。支持体11は、同様の表面積を有するか、または、用途に応じて、それより小さい、または大きい面積を有しうる。
【0017】
エラストマー9は、表面15における、支持体11との実質的に取り外し可能ではない接着、ならびに、表面17における、ガラスシート7との強力だが取り外し可能な接着を提供する重要な機能をする。用途に応じて、エラストマー9は、支持体11の表面全体または表面の一部分のみを覆うことができる。部分的な覆いは、エラストマー9と薄いガラスシート7の間の取り外し可能な接着の調整に使用することができる。エラストマー9の厚さは変化に富んでいて差し支えなく、例えば、0.1〜数ミリメートルの範囲でありうる。エラストマーのヤング率はまた、広範囲でありうる。例えば、ヤング率は約1〜10MPaであってよく、例えば、約1〜5MPaである。十分に滑らかな表面17を有するエラストマー層を得るために、エラストマーは、硬化の間に、例えば、ペルフルオロシラン(例えば、ペルフルオロデシルトリクロロシラン)の薄層の蒸着によって疎水性化されたガラスシートなど、滑らかな疎水性化したガラスシートで覆うことができる。
【0018】
好ましくは、エラストマーは無極性エラストマーであり、その例として、シリコーンエラストマー、フルオロシリコーンエラストマーおよびペルフルオロエラストマーが挙げられる。これらの中でもとりわけ、ペルフルオロエラストマーは、低レベルのガス放出(例えば、325℃で1時間浸漬後の検出できない程度のガス放出)および高レベルの熱的および化学的安定性(例えば、400℃に至るまでの熱安定性およびシリコーンおよびフルオロシリコーンよりも高い化学的耐久性)につながる、水素原子のフッ素原子による全置換および完全な架橋を達成する能力の理由から、多くの用途に特に適している。ペルフルオロエラストマーは、シリコーンエラストマーよりも高い、ガラスに対する結合エネルギーを示しうる。これは、薄いガラスシート7および支持体11の組成に応じて、一部の用途にとっての追加の利点でありうる。
【0019】
シリコーンエラストマーは、それらの接着レベルを、硬化の間に使用される架橋剤の量を変化させることによって簡単に調整できるという利点を有する。しかしながら、最終製品中の未反応の架橋剤および/または低分子量種は、電子部品の製造の間に許容できないレベルのガス放出を生じうる。上述のように、ペルフルオロエラストマーは、典型的には、ガス放出の問題を有しない。
【0020】
支持体11との実質的に取り外し可能ではない接着の観点から、支持体の組成に応じて、一部のエラストマーは、支持体上にコーティングされ、所定の位置で硬化されることによってこのような接着を形成することができる。付着は、加硫速度を変化させることによって促進できる。Gent, The Journal of Adhesion, 79, pp315-325, (2003)参照。他のエラストマーでは、接着促進剤は、必要なレベルの接着を達成するのに役立ちうる。L. Leger, Macromol. Symp. 149, pp197-205 (2000)参照。
【0021】
例えば、ペルフルオロエラストマーおよびガラスからなる支持体の場合、例えばFDS(ペルフルオロオクタデシルトリクロロシラン)などの1種類以上のフッ素化シランが接着促進剤として使用されうる。フッ素化シランは、フッ素化された鎖がペルフルオロエラストマーに浸透し、結果として、エラストマーとガラス支持体間の付着を改善するように、ガラス上に蒸着することができる。
【0022】
接着剤はまた、エラストマーを支持体に取り付けるのに使用することもできるが、この試みは、担体の使用中における、薄いガラスシート7の表面23上に形成される電子部品の汚染の可能性から、一般的には好ましくない。接着剤は、ポリマーの分子量に関して接着促進剤とは異なる。よって、接着剤は一般に高分子ポリマーである一方、接着促進剤は、接着剤の分子量が接着促進剤の分子量よりも実質的に大きくなるような分子ポリマーである。
【0023】
しかしながら形成されると、ガラスシート7は担体/ガラスシート組立体の処理の完了後にエラストマーから剥離されることから、エラストマーと支持体との間の接着は、エラストマーが支持体に付着した状態を保持するように十分に高い剥離強度を有することを必要とする。定量的に、エラストマー9の表面15と支持体11の接着は、この機能性を達成するために、20ミリメートル/分の剥離速度および90°の剥離角で測定する場合、少なくとも0.5キロニュートン/メートルの剥離強度を有することが必要とされる。剥離強度は、引張強度を測定するように設定されたINSTRON(登録商標)機器を使用して測定される。所定の剥離速度および角度、すなわち、20ミリメートル/分およびエラストマー9と支持体11との接触面に対して90°について、引張荷重がモニタされ、エネルギーに変換される。
【0024】
エラストマー9と支持体11との間の接着と比較して、エラストマーと薄いガラスシートとの間の接着は弱いことが必要とされるが、処理の間にガラスシートが外れてしまうほど弱くてはいけない。以下に提示する実施例によって実証されるように、一方では、十分な接着の発生、他方では、過剰な接着の発生というこの達成困難なバランスは、エラストマー9の表面17が、(i)10〜90の範囲のショアA硬さ、および(ii)185ナノメートル以下の粗さ、例えば、約100ナノメートル以下の粗さを有することを確実にすることによって達成することができることが見出された。
【0025】
ショアA硬さは、軟質材料の硬さの測定に用いられる規格化された試験である。他の硬度試験と同様に、貫入器(indentor)を所定の力の下で貫通させ、押し込み深さ(すなわち、材料の貫入抵抗)をショアA硬さ値の決定に用いる。粗さは、干渉法によるフィンガープリント(=表面品質)が知られている基準面を含む、走査型干渉顕微鏡を使用して測定される。サンプルの粗さを決定するため、光源がサンプルと基準面の両方に光を当てる。サンプルおよび基準面からの反射光は、サンプルの粗さに応じて決まる干渉法によるフィンガープリントを与えるように再結合され、ナノメートル単位の粗さ値へと変換される。
【0026】
ショアA硬さおよび表面粗さの試験に加えて、エラストマー9は、電子部品の製造の間に担体/ガラスシート組立体が遭遇する条件下、および、特に、シートと担体との分離を生じる可能性が最も高い条件下で試験することによって特徴付けることができる。それらの条件は、25℃で20分間、超音波(50/60ヘルツ)アセトン浴中で組立体サンプルを試験することによって効果的に近似することができる。この試験の厳格さは、実質的に不良ゼロの実際に使用することができる組立体と使用できない組立体とを区別するのに十分である。定量的に、サンプルの45%よりも多くが試験に耐えうる場合、すなわち、ガラスシート7が表面17上に保持される確率が45%を超える場合には、実際の不良の割合は実質的にゼロであろう。
【0027】
薄いガラスシート7と表面17との接着はファンデルワールス型のものであることに留意すべきである。したがって、表面17からの薄いガラスシートの取り外しは、表面に最小の損傷しか与えない。よって、担体を再利用することができることを意味し、これは、顕著な経済上の利点を示す。というのも、再利用不可能な担体は、最後に最終製品に至るよりも多くの材料(例えば、支持体11がガラスでできている場合にはさらなるガラス)が製造で消費される(例えば、薄いガラスシート7よりも10倍厚い支持体用にさらに最大で10倍のガラス)ことを意味するからである。
【実施例】
【0028】
以下の非限定的な例は、本開示の実施の形態をさらに例証するものである。実施例において報告される付着エネルギーは、図3に概略的に例証される回転円筒試験を使用して決定した。M.E.R. Shanahan, A. Carre, Viscoelastic dissipation in wetting and adhesion phenomena, Langmuir, 11, p.1396, 1995参照。
【0029】
この試験で用いた装置21は、傾斜αの調整可能な角度を有する平面を含む。試験するエラストマーの層27が、前記平面に取り付けられ、矢印に示されるように、ガラスの円筒19が平面を転がり落ちる。所定の角度αについて円筒の速度が測定される。次に、ジュール/平方メートルで表した付着エネルギーG(v)を次の式から計算する:
G(v)=(m・g・sin(α))/w
ここで、gは重力定数であり、mおよびwは、それぞれ、円筒の質量および幅である。
【0030】
実施例1
この実施例は、電子部品の製造の間に遭遇するであろう状況に耐える、担体/ガラスシート組立体の能力におけるショアA硬さおよび表面粗さの影響を例証する。
【0031】
上述のタイプの「頑健性」試験を行った、すなわち、組立体サンプルを、25℃で20分間、超音波(50/60ヘルツ)アセトン浴中で処理し、試験に不耐性/耐性のサンプル数を決定した。試験の厳格さの理由から、45%を超える残存確率(55%未満の失敗率)を許容されると見なした。
【0032】
エラストマーのプレス成形後にガラス表面上に直接架橋することによって、Corning Incorporated社製の「EAGLE XG」ガラスに接着させたシリコーンエラストマーを用いて試験を行った。「EAGLE XG」ガラスからなるガラスシートをシリコーンエラストマーの露出面に施用した。3種類のショアA硬さ値(10、22、および33)およびさまざまな表面粗さを有するエラストマーサンプルを試験した。図3の回転円筒試験を使用して付着エネルギーを決定した。円筒は、研磨された「パイレックス」ガラスでできていた。試験速度は0.2ミリメートル/秒〜0.1メートル/秒の範囲であった。
【0033】
試験結果を表1、2、および3ならびに図4〜11に示す。このデータに見られるように、ショアA硬さと表面粗さの値は互いに作用する。すなわち、ショアA硬さ値が低くなると表面粗さが大きくなりうる。しかしながら、一般に、低い表面粗さ値と低いショアA値の組合せが、最も高い付着エネルギーおよび最も高い担持成功率を与える。
【0034】
実施例2
この実施例は、TFT蒸着プロセスのシミュレートを意図した試験において、シリコーンエラストマーをペルフルオロエラストマーと比較する。
【0035】
担体/ガラスシート組立体を、20分間の2回の上記実施例1に記載するタイプの超音波洗浄、ならびに、5分間の濃縮フォトレジスト現像液および14時間の270℃におけるAuおよびクロムエッチングに供した。シリコーンエラストマーおよびペルフルオロエラストマーは両方とも、超音波洗浄およびフォトレジスト試験において良好に機能した。ペルフルオロエラストマーは昇温エッチング試験においてシリコーンエラストマーより優れていたが、両方とも許容可能であった。試験完了後、ガラスシートは、シリコーンエラストマーよりもペルフルオロエラストマーからのほうが容易に取り外し可能であった。
【0036】
さらなる比較試験では、シリコーンエラストマーおよびペルフルオロエラストマーを熱安定性およびガス放出について比較した。ペルフルオロエラストマーは425℃より高い温度に対して安定であったが、シリコーンエラストマーは安定ではなかった。ガス放出試験では、325℃で1時間保持したペルフルオロエラストマーにはガス放出は見られなかったが、シリコーンエラストマーは、同一条件下で環状シロキサンのガス放出を示した。しかしながら、Wacker Chemie AG社製のシリコーン・ゴムRT622からのガス放出は、ストーブ中で予熱することによって(例えば、200℃で10時間)、劇的に低減できる。この処理は、TFT処理の間のガス放出を低減する。
【0037】
図3の回転円筒試験を用いた付着エネルギー実験も、シリコーンエラストマーおよびペルフルオロエラストマー上で行った。実験は、ペルフルオロエラストマーが、一貫して、シリコーンエラストマーよりも高い付着エネルギー値を生じ、一部の事例では40倍も高かったことを示した。
【0038】
これらの実験結果を考慮すると、シリコーンエラストマーは多くの用途に使用することができるが、ペルフルオロエラストマーは、より幅広い適用性を有することから、より好ましい。
【0039】
本発明の範囲および精神から逸脱しない、さまざまな変更は、前述の開示から、当業者にとって明白であろう。添付の特許請求の範囲は、本明細書に記載される特定の実施の形態ならびに、これらの実施の形態の変更、変形および等価物にも及ぶことが意図されている。
【表1】
【表2】
【表3】
【符号の説明】
【0040】
7 薄いガラス基板
9 エラストマー
11 支持体
13 担体/薄いガラス基板組立体
15 エラストマーの第1の表面
17 エラストマーの第2の表面
19 ガラスの円筒
21 付着エネルギー試験装置
23 薄いガラス基板の露出面
25 薄いガラス基板の接着面
27 エラストマー層
31 担体
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2009年5月6日出願の欧州特許出願第09305404.7号の利益を主張する。本願ならびに本明細書に記載される刊行物、特許、および特許文献の開示全体の内容が参照することによって援用される。
【技術分野】
【0002】
本開示は、ガラス基板(ガラスシート)上における電子部品の製造に関し、特に、このような製造の間に薄型基板を支持する担体に関する。
【背景技術】
【0003】
例えば、液晶ディスプレイ(LCD)および有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイなどのピクセル化ディスプレイの生産では、薄膜トランジスタ(TFT)を含めたさまざまな電子部品がガラス基板上に製造される。この施用のための標準的な基板厚さは0.7ミリメートルであり、ディスプレイ製造業者は、これらの基板とともに使用するのに適当な位置に、洗練された製造装置を所有している。
【0004】
最近になって、例えば0.1ミリメートル以下の厚さを有する基板など、実質的に薄い基板がガラス製造業者によって製造されている。加工のため、このような薄型基板は、一時的に、より厚い担体に接着させることを必要とし、この担体は、製造プロセスの終わりに、基板を損傷させることなく放出する。加えて、担体が、高価な再生利用手段を必要とせずに、少なくとも数回、再利用できれば望ましいであろう。さらには、既存の装置を上手く活用するために、担体/基板組立体は、殆どまたは全く変更することなく、TFTを含めた電子部品の製造に用いられる従来の装置および試薬を使用した処理に適していることが好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この問題に対して、今日までさまざまな試みが提案されてきたが、当技術分野ではこの問題に対する解決法は見出されなかった。本問題は、担体が直面しなければならない競合する要件、すなわち、1)ガラス基板上での電子部品の製造の間に使用する化学的処理および昇温に耐える能力、2)不良は製造ライン全体の運転停止を意味しうることから、基板と担体との相対運動を有さず、不良が実質的にゼロの、製造プロセスの間に担体上にガラス基板を堅固に保持する能力、および3)いずれにも損傷を与えずに、製造プロセス後に、ガラス基板およびその上に形成された電子部品を放出する能力の理由から、困難であることが分かる。
【0006】
以下に十分に論じるように、本開示によれば、同時に満たすべき上記要件のすべてを可能にする担体の構造および担体とガラス基板の接触面の臨界パラメーターが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様によれば、0.5ミリメートル以下の厚さを有する薄いガラスシート(7)用の担体(31)が開示され、前記担体は、
(A)第1(15)および第2(17)の対向表面を有するエラストマー(9)と、
(B)前記エラストマー(9)の第1の表面(15)に接着した支持体(11)であって、前記薄いガラスシート(7)の厚さの1〜10倍の範囲の厚さを有する支持体(11)と、
を備え、ここで、
(i)使用中、前記薄いガラスシート(7)が、前記エラストマーの第2の表面(17)に直接接触し、かつ、取り外し可能に接着し;
(ii)前記エラストマーの第2の表面(17)が、
(a)10〜90の範囲のショアA硬さ、および
(b)185ナノメートル以下の粗さ(Ra値)
を有し;
(iii)前記第1の表面(15)と前記支持体(11)との接着が、20ミリメートル/分の剥離速度および90°の剥離角で測定した場合に、少なくとも0.5キロニュートン/メートルの剥離強度を有する;
ことを特徴とする。
【0008】
第2の態様によれば、第1の態様の担体(31)および、0.5ミリメートル以下の厚さを有する薄いガラスシート(7)を備えた組立体(13)が開示される。
【0009】
本開示のさまざまな態様の上記概要に用いられる参照番号は、単に読み手の利便性のためであって、本発明の範囲を限定することは意図されておらず、そのように解釈されるべきではない。さらに一般的には、前述の概要および後述する詳細な説明は両方とも、本発明の単なる典型例であり、本発明の性質および特徴を理解するための概観または枠組みを提供することが意図されていることが理解されるべきである。
【0010】
本発明の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に記載され、一部には、その説明から当業者には容易に明らかとなり、あるいは、本明細書に記載される本発明の実施によって認識されよう。添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に取り込まれ、その一部を構成する。本明細書および図面に開示される本発明のさまざまな特徴は、いずれかの組合せおよびすべての組合せで用いることができることも理解されるべきである。
【0011】
図1〜3は、正確な縮尺ではなく、例示する要素の相対的な大きさを示すことは意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】取り外し可能に接着した薄いガラスシートを備えた担体の実施の形態の概略図。
【図2】図1の担体からの薄いガラスシートの取り外しを例証する概略図。
【図3】エラストマーとガラス表面の間の付着エネルギーを測定するための実験装置を例証する概略図。
【図4】ショア(Shore(登録商標))A硬さ10を有するシリコーンエラストマーの表面粗さに対する担持不良を示すグラフ。
【図5】図4のショアA硬さのシリコーンエラストマーの付着エネルギーに対する担持不良を示すグラフ。付着エネルギーは、研磨したパイレックス(登録商標)ガラスからなる円筒および0.1メートル/秒の円筒速度について決定した。
【図6】ショアA硬さ22を有するシリコーンエラストマーの表面粗さに対する担持不良を示すグラフ。
【図7】図6のショアA硬さを有するシリコーンエラストマーの付着エネルギーに対する担持不良を示すグラフ。付着エネルギーは、研磨した「パイレックス」ガラスからなる円筒および0.1メートル/秒の円筒速度について決定した。
【図8】ショアA硬さ33を有するシリコーンエラストマーの表面粗さに対する担持不良を示すグラフ。
【図9】図8のショアA硬さを有するシリコーンエラストマーの付着エネルギーに対する担持不良を示すグラフ。付着エネルギーは、研磨した「パイレックス」ガラスからなる円筒および0.1メートル/秒の円筒速度について決定した。
【図10】図4、6、および8のデータを合せた表面粗さに対する担持不良を示すグラフ。この図では、黒ダイヤモンド、白ダイヤモンド、および黒三角は、それぞれ、10、22、および33のショアA硬さデータを表している。
【図11】図5、7、および9のデータを合せた、付着エネルギーに対する担持不良を示すグラフ。この図では、黒ダイヤモンド、白ダイヤモンド、および黒三角は、それぞれ、10、22、および33のショアA硬さデータを表している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書および添付の特許請求の範囲では、「ガラス」という語句は、ガラスとガラスセラミック材料の両方を含む。
【0014】
本開示の構造的特徴が図1および2に例証されている。それらに見られるように、担体31は、第1の表面15および第2の表面17を有するエラストマー9を備える。第1の表面15は支持体11に接着し、第2の表面17は、担体の使用中、ガラスシート7に、具体的にはガラスシート7の表面25に、直接接触する。このような使用の間に、ガラスシート7の露出面23上に電子部品が形成される。
【0015】
ガラスシート7は、さまざまな組成を有しうる。代表的な組成として液晶ディスプレイに使用されるものが挙げられ、例えば、Corning Incorporated社製のEAGLE XG(商標)ガラス、NEG社製のOA−20ガラス、およびAsahi社製のAN−100ガラスなどである。従来のLCDガラスとは異なり、ガラスシート7の厚さは0.5ミリメートル以下であり、例えば、0.1ミリメートル未満でありうる。ガラスは剥き出しのままであるか、あるいは、磨耗からの保護、付着の調節および/または脆弱性の低減など、所望の特性を提供することができる任意のポリマーまたは分子でコーティングされてもよい。例として、ペルフルオロオクタデシルトリクロロシランはエラストマーへのガラスの付着の調節に使用することができ、ポリイミドはガラスの脆弱性の低減に使用することができる。
【0016】
支持体11もまた、さまざまな組成を有しうる。典型的には、支持体は、例えばガラスシート7と同一のガラスなど、ガラスからなるが、異なるガラス、または、例えばステンレス鋼などの金属でできていてもよい。支持体11は、ガラスシート7の厚さの1〜10倍の範囲の厚さを有する。1つの実施の形態では、支持体11は、LCDディスプレイの製造に使用されるガラス基板の範囲の厚さを有し、例えば、0.7ミリメートルである。支持体11の長さおよび幅は、支持される薄いガラスシートの大きさに応じて大きく異なりうる。参考のため、LCDディスプレイの製造に使用されるGen 5基板は、片面が1.5平方メートルの範囲の表面積を有する。支持体11は、同様の表面積を有するか、または、用途に応じて、それより小さい、または大きい面積を有しうる。
【0017】
エラストマー9は、表面15における、支持体11との実質的に取り外し可能ではない接着、ならびに、表面17における、ガラスシート7との強力だが取り外し可能な接着を提供する重要な機能をする。用途に応じて、エラストマー9は、支持体11の表面全体または表面の一部分のみを覆うことができる。部分的な覆いは、エラストマー9と薄いガラスシート7の間の取り外し可能な接着の調整に使用することができる。エラストマー9の厚さは変化に富んでいて差し支えなく、例えば、0.1〜数ミリメートルの範囲でありうる。エラストマーのヤング率はまた、広範囲でありうる。例えば、ヤング率は約1〜10MPaであってよく、例えば、約1〜5MPaである。十分に滑らかな表面17を有するエラストマー層を得るために、エラストマーは、硬化の間に、例えば、ペルフルオロシラン(例えば、ペルフルオロデシルトリクロロシラン)の薄層の蒸着によって疎水性化されたガラスシートなど、滑らかな疎水性化したガラスシートで覆うことができる。
【0018】
好ましくは、エラストマーは無極性エラストマーであり、その例として、シリコーンエラストマー、フルオロシリコーンエラストマーおよびペルフルオロエラストマーが挙げられる。これらの中でもとりわけ、ペルフルオロエラストマーは、低レベルのガス放出(例えば、325℃で1時間浸漬後の検出できない程度のガス放出)および高レベルの熱的および化学的安定性(例えば、400℃に至るまでの熱安定性およびシリコーンおよびフルオロシリコーンよりも高い化学的耐久性)につながる、水素原子のフッ素原子による全置換および完全な架橋を達成する能力の理由から、多くの用途に特に適している。ペルフルオロエラストマーは、シリコーンエラストマーよりも高い、ガラスに対する結合エネルギーを示しうる。これは、薄いガラスシート7および支持体11の組成に応じて、一部の用途にとっての追加の利点でありうる。
【0019】
シリコーンエラストマーは、それらの接着レベルを、硬化の間に使用される架橋剤の量を変化させることによって簡単に調整できるという利点を有する。しかしながら、最終製品中の未反応の架橋剤および/または低分子量種は、電子部品の製造の間に許容できないレベルのガス放出を生じうる。上述のように、ペルフルオロエラストマーは、典型的には、ガス放出の問題を有しない。
【0020】
支持体11との実質的に取り外し可能ではない接着の観点から、支持体の組成に応じて、一部のエラストマーは、支持体上にコーティングされ、所定の位置で硬化されることによってこのような接着を形成することができる。付着は、加硫速度を変化させることによって促進できる。Gent, The Journal of Adhesion, 79, pp315-325, (2003)参照。他のエラストマーでは、接着促進剤は、必要なレベルの接着を達成するのに役立ちうる。L. Leger, Macromol. Symp. 149, pp197-205 (2000)参照。
【0021】
例えば、ペルフルオロエラストマーおよびガラスからなる支持体の場合、例えばFDS(ペルフルオロオクタデシルトリクロロシラン)などの1種類以上のフッ素化シランが接着促進剤として使用されうる。フッ素化シランは、フッ素化された鎖がペルフルオロエラストマーに浸透し、結果として、エラストマーとガラス支持体間の付着を改善するように、ガラス上に蒸着することができる。
【0022】
接着剤はまた、エラストマーを支持体に取り付けるのに使用することもできるが、この試みは、担体の使用中における、薄いガラスシート7の表面23上に形成される電子部品の汚染の可能性から、一般的には好ましくない。接着剤は、ポリマーの分子量に関して接着促進剤とは異なる。よって、接着剤は一般に高分子ポリマーである一方、接着促進剤は、接着剤の分子量が接着促進剤の分子量よりも実質的に大きくなるような分子ポリマーである。
【0023】
しかしながら形成されると、ガラスシート7は担体/ガラスシート組立体の処理の完了後にエラストマーから剥離されることから、エラストマーと支持体との間の接着は、エラストマーが支持体に付着した状態を保持するように十分に高い剥離強度を有することを必要とする。定量的に、エラストマー9の表面15と支持体11の接着は、この機能性を達成するために、20ミリメートル/分の剥離速度および90°の剥離角で測定する場合、少なくとも0.5キロニュートン/メートルの剥離強度を有することが必要とされる。剥離強度は、引張強度を測定するように設定されたINSTRON(登録商標)機器を使用して測定される。所定の剥離速度および角度、すなわち、20ミリメートル/分およびエラストマー9と支持体11との接触面に対して90°について、引張荷重がモニタされ、エネルギーに変換される。
【0024】
エラストマー9と支持体11との間の接着と比較して、エラストマーと薄いガラスシートとの間の接着は弱いことが必要とされるが、処理の間にガラスシートが外れてしまうほど弱くてはいけない。以下に提示する実施例によって実証されるように、一方では、十分な接着の発生、他方では、過剰な接着の発生というこの達成困難なバランスは、エラストマー9の表面17が、(i)10〜90の範囲のショアA硬さ、および(ii)185ナノメートル以下の粗さ、例えば、約100ナノメートル以下の粗さを有することを確実にすることによって達成することができることが見出された。
【0025】
ショアA硬さは、軟質材料の硬さの測定に用いられる規格化された試験である。他の硬度試験と同様に、貫入器(indentor)を所定の力の下で貫通させ、押し込み深さ(すなわち、材料の貫入抵抗)をショアA硬さ値の決定に用いる。粗さは、干渉法によるフィンガープリント(=表面品質)が知られている基準面を含む、走査型干渉顕微鏡を使用して測定される。サンプルの粗さを決定するため、光源がサンプルと基準面の両方に光を当てる。サンプルおよび基準面からの反射光は、サンプルの粗さに応じて決まる干渉法によるフィンガープリントを与えるように再結合され、ナノメートル単位の粗さ値へと変換される。
【0026】
ショアA硬さおよび表面粗さの試験に加えて、エラストマー9は、電子部品の製造の間に担体/ガラスシート組立体が遭遇する条件下、および、特に、シートと担体との分離を生じる可能性が最も高い条件下で試験することによって特徴付けることができる。それらの条件は、25℃で20分間、超音波(50/60ヘルツ)アセトン浴中で組立体サンプルを試験することによって効果的に近似することができる。この試験の厳格さは、実質的に不良ゼロの実際に使用することができる組立体と使用できない組立体とを区別するのに十分である。定量的に、サンプルの45%よりも多くが試験に耐えうる場合、すなわち、ガラスシート7が表面17上に保持される確率が45%を超える場合には、実際の不良の割合は実質的にゼロであろう。
【0027】
薄いガラスシート7と表面17との接着はファンデルワールス型のものであることに留意すべきである。したがって、表面17からの薄いガラスシートの取り外しは、表面に最小の損傷しか与えない。よって、担体を再利用することができることを意味し、これは、顕著な経済上の利点を示す。というのも、再利用不可能な担体は、最後に最終製品に至るよりも多くの材料(例えば、支持体11がガラスでできている場合にはさらなるガラス)が製造で消費される(例えば、薄いガラスシート7よりも10倍厚い支持体用にさらに最大で10倍のガラス)ことを意味するからである。
【実施例】
【0028】
以下の非限定的な例は、本開示の実施の形態をさらに例証するものである。実施例において報告される付着エネルギーは、図3に概略的に例証される回転円筒試験を使用して決定した。M.E.R. Shanahan, A. Carre, Viscoelastic dissipation in wetting and adhesion phenomena, Langmuir, 11, p.1396, 1995参照。
【0029】
この試験で用いた装置21は、傾斜αの調整可能な角度を有する平面を含む。試験するエラストマーの層27が、前記平面に取り付けられ、矢印に示されるように、ガラスの円筒19が平面を転がり落ちる。所定の角度αについて円筒の速度が測定される。次に、ジュール/平方メートルで表した付着エネルギーG(v)を次の式から計算する:
G(v)=(m・g・sin(α))/w
ここで、gは重力定数であり、mおよびwは、それぞれ、円筒の質量および幅である。
【0030】
実施例1
この実施例は、電子部品の製造の間に遭遇するであろう状況に耐える、担体/ガラスシート組立体の能力におけるショアA硬さおよび表面粗さの影響を例証する。
【0031】
上述のタイプの「頑健性」試験を行った、すなわち、組立体サンプルを、25℃で20分間、超音波(50/60ヘルツ)アセトン浴中で処理し、試験に不耐性/耐性のサンプル数を決定した。試験の厳格さの理由から、45%を超える残存確率(55%未満の失敗率)を許容されると見なした。
【0032】
エラストマーのプレス成形後にガラス表面上に直接架橋することによって、Corning Incorporated社製の「EAGLE XG」ガラスに接着させたシリコーンエラストマーを用いて試験を行った。「EAGLE XG」ガラスからなるガラスシートをシリコーンエラストマーの露出面に施用した。3種類のショアA硬さ値(10、22、および33)およびさまざまな表面粗さを有するエラストマーサンプルを試験した。図3の回転円筒試験を使用して付着エネルギーを決定した。円筒は、研磨された「パイレックス」ガラスでできていた。試験速度は0.2ミリメートル/秒〜0.1メートル/秒の範囲であった。
【0033】
試験結果を表1、2、および3ならびに図4〜11に示す。このデータに見られるように、ショアA硬さと表面粗さの値は互いに作用する。すなわち、ショアA硬さ値が低くなると表面粗さが大きくなりうる。しかしながら、一般に、低い表面粗さ値と低いショアA値の組合せが、最も高い付着エネルギーおよび最も高い担持成功率を与える。
【0034】
実施例2
この実施例は、TFT蒸着プロセスのシミュレートを意図した試験において、シリコーンエラストマーをペルフルオロエラストマーと比較する。
【0035】
担体/ガラスシート組立体を、20分間の2回の上記実施例1に記載するタイプの超音波洗浄、ならびに、5分間の濃縮フォトレジスト現像液および14時間の270℃におけるAuおよびクロムエッチングに供した。シリコーンエラストマーおよびペルフルオロエラストマーは両方とも、超音波洗浄およびフォトレジスト試験において良好に機能した。ペルフルオロエラストマーは昇温エッチング試験においてシリコーンエラストマーより優れていたが、両方とも許容可能であった。試験完了後、ガラスシートは、シリコーンエラストマーよりもペルフルオロエラストマーからのほうが容易に取り外し可能であった。
【0036】
さらなる比較試験では、シリコーンエラストマーおよびペルフルオロエラストマーを熱安定性およびガス放出について比較した。ペルフルオロエラストマーは425℃より高い温度に対して安定であったが、シリコーンエラストマーは安定ではなかった。ガス放出試験では、325℃で1時間保持したペルフルオロエラストマーにはガス放出は見られなかったが、シリコーンエラストマーは、同一条件下で環状シロキサンのガス放出を示した。しかしながら、Wacker Chemie AG社製のシリコーン・ゴムRT622からのガス放出は、ストーブ中で予熱することによって(例えば、200℃で10時間)、劇的に低減できる。この処理は、TFT処理の間のガス放出を低減する。
【0037】
図3の回転円筒試験を用いた付着エネルギー実験も、シリコーンエラストマーおよびペルフルオロエラストマー上で行った。実験は、ペルフルオロエラストマーが、一貫して、シリコーンエラストマーよりも高い付着エネルギー値を生じ、一部の事例では40倍も高かったことを示した。
【0038】
これらの実験結果を考慮すると、シリコーンエラストマーは多くの用途に使用することができるが、ペルフルオロエラストマーは、より幅広い適用性を有することから、より好ましい。
【0039】
本発明の範囲および精神から逸脱しない、さまざまな変更は、前述の開示から、当業者にとって明白であろう。添付の特許請求の範囲は、本明細書に記載される特定の実施の形態ならびに、これらの実施の形態の変更、変形および等価物にも及ぶことが意図されている。
【表1】
【表2】
【表3】
【符号の説明】
【0040】
7 薄いガラス基板
9 エラストマー
11 支持体
13 担体/薄いガラス基板組立体
15 エラストマーの第1の表面
17 エラストマーの第2の表面
19 ガラスの円筒
21 付着エネルギー試験装置
23 薄いガラス基板の露出面
25 薄いガラス基板の接着面
27 エラストマー層
31 担体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5ミリメートル以下の厚さを有する薄いガラスシート用の担体であって、前記担体が、
(A)第1および第2の対向表面を有するエラストマーと、
(B)前記エラストマーの第1の表面に接着した支持体であって、前記薄いガラスシートの厚さの1〜10倍の範囲の厚さを有する支持体と、
を備え、ここで、
(i)使用中、前記薄いガラスシートが、前記エラストマーの第2の表面に直接的に接触し、かつ、取り外し可能に接着し;
(ii)前記エラストマーの第2の表面が、
(a)10〜90の範囲のショアA硬さ、および
(b)185ナノメートル以下の粗さ
を有し;
(iii)前記第1の表面と前記支持体との接着が、20ミリメートル/分の剥離速度および90°の剥離角で測定した場合に、少なくとも0.5キロニュートン/メートルの剥離強度を有する;
ことを特徴とする、担体。
【請求項2】
前記エラストマーが、接着剤を使用することなく、前記支持体に接着されることを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項3】
25℃における50または60ヘルツの超音波アセトン浴に入れたときに、薄いガラスシートが前記第2の表面に20分間保持される確率が45%を超えることを特徴とする請求項1または2記載の担体。
【請求項4】
前記エラストマーが無極性エラストマーであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の担体。
【請求項5】
前記支持体がガラスからなることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の担体。
【請求項6】
前記支持体と前記エラストマーとの接着促進剤をさらに含むことを特徴とする請求項5記載の担体。
【請求項7】
前記エラストマーがペルフルオロエラストマーであることを特徴とする請求項6記載の担体。
【請求項8】
請求項1記載の担体、および、0.5ミリメートル以下の厚さを有する薄いガラスシートを備えた組立体。
【請求項9】
前記薄いガラスシートが、ピクセル化ディスプレイ用の基板としての使用に適したガラスを含むことを特徴とする請求項8記載の組立体。
【請求項1】
0.5ミリメートル以下の厚さを有する薄いガラスシート用の担体であって、前記担体が、
(A)第1および第2の対向表面を有するエラストマーと、
(B)前記エラストマーの第1の表面に接着した支持体であって、前記薄いガラスシートの厚さの1〜10倍の範囲の厚さを有する支持体と、
を備え、ここで、
(i)使用中、前記薄いガラスシートが、前記エラストマーの第2の表面に直接的に接触し、かつ、取り外し可能に接着し;
(ii)前記エラストマーの第2の表面が、
(a)10〜90の範囲のショアA硬さ、および
(b)185ナノメートル以下の粗さ
を有し;
(iii)前記第1の表面と前記支持体との接着が、20ミリメートル/分の剥離速度および90°の剥離角で測定した場合に、少なくとも0.5キロニュートン/メートルの剥離強度を有する;
ことを特徴とする、担体。
【請求項2】
前記エラストマーが、接着剤を使用することなく、前記支持体に接着されることを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項3】
25℃における50または60ヘルツの超音波アセトン浴に入れたときに、薄いガラスシートが前記第2の表面に20分間保持される確率が45%を超えることを特徴とする請求項1または2記載の担体。
【請求項4】
前記エラストマーが無極性エラストマーであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の担体。
【請求項5】
前記支持体がガラスからなることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の担体。
【請求項6】
前記支持体と前記エラストマーとの接着促進剤をさらに含むことを特徴とする請求項5記載の担体。
【請求項7】
前記エラストマーがペルフルオロエラストマーであることを特徴とする請求項6記載の担体。
【請求項8】
請求項1記載の担体、および、0.5ミリメートル以下の厚さを有する薄いガラスシートを備えた組立体。
【請求項9】
前記薄いガラスシートが、ピクセル化ディスプレイ用の基板としての使用に適したガラスを含むことを特徴とする請求項8記載の組立体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−526393(P2012−526393A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509867(P2012−509867)
【出願日】平成22年5月3日(2010.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/033355
【国際公開番号】WO2010/129459
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月3日(2010.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/033355
【国際公開番号】WO2010/129459
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
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