説明

ガラス溶着方法及びガラス層定着方法

【課題】 信頼性の高いガラス溶着体を製造することができるガラス溶着方法、及びそのためのガラス層定着方法を提供する。
【解決手段】 ガラス部材にガラス層3を定着させる仮焼成の際に、リング状の照射領域を有するレーザ光L2がガラス層3に照射される。このとき、ガラス層3の幅方向において、レーザ光L2のビームプロファイルの双峰部Mのそれぞれは、ガラス層3の両縁部3bのそれぞれに重なっている。これにより、ガラス層3の中央部3aでは、レーザ光L2において強度が相対的に高い部分が照射される時間が短くなる一方で、ガラス層3の両縁部3bでは、レーザ光L2において強度が相対的に高い部分が照射される時間が長くなる。そのため、ガラス層3においては、中央部3aと両縁部3bとでレーザ光L2の照射による入熱量が均一化され、ガラス層3の全体が適切に溶融させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス部材同士を溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法、及びそのためのガラス層定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野における従来のガラス溶着方法として、有機物(有機溶剤やバインダ)、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を、溶着予定領域に沿うように一方のガラス部材に定着させた後、そのガラス部材にガラス層を介して他方のガラス部材を重ね合わせ、溶着予定領域に沿ってレーザ光を照射することにより、一方及び他方のガラス部材同士を溶着する方法が知られている。
【0003】
ところで、ガラス部材にガラス層を定着させるために、炉内での加熱に代えて、レーザ光の照射によってガラス層から有機物を除去する技術が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。このような技術によれば、ガラス部材に形成された機能層等が加熱されて劣化するのを防止することができ、また、炉の使用による消費エネルギの増大及び炉内での加熱時間の長時間化を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−366050号公報
【特許文献2】特開2002−367514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザ光の照射によってガラス部材にガラス層を定着させ(いわゆる仮焼成)、その後、レーザ光の照射によってガラス層を介してガラス部材同士を溶着すると(いわゆる本焼成)、溶着状態が不均一になったり、ガラス層のガラス粉が汚染物として残存したりして、その結果、ガラス溶着体の信頼性が低下する場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、信頼性の高いガラス溶着体を製造することができるガラス溶着方法、及びそのためのガラス層定着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ガラス溶着体において、溶着状態が不均一になったり、ガラス層のガラス粉が汚染物として残存したりするのは、図13に示されるように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層の温度が融点Tmを超えるとガラス層のレーザ光吸収率が急激に高くなることに起因していることを突き止めた。
【0008】
つまり、ガラス部材に配置されたガラス層においては、ガラス粉の粒子性等によってレーザ光吸収材の吸収特性を上回る光散乱が起こり、レーザ光吸収率が低い状態となっている(例えば、可視光下において白っぽく見える)。このような状態で、図14に示されるように、ガラス層の温度が融点Tmよりも高く且つ結晶化温度Tcよりも低い温度TpとなるようにレーザパワーPでレーザ光を照射すると、ガラス粉の溶融によってその粒子性が崩れるなどしてレーザ光吸収材の吸収特性が顕著に現れ、ガラス層のレーザ光吸収率が急激に高くなる(例えば、可視光下において黒っぽく或いは緑っぽく見える)。そのため、レーザパワーPでレーザ光を照射すると、実際には、ガラス層の温度が結晶化温度Tcよりも高い温度Taに達してしまう。
【0009】
このことを踏まえ、レーザ光のビームプロファイルがガウシアン分布である場合に、照射領域の周縁部においてガラス層を溶融させ且つガラス層を結晶化させないレーザパワーでレーザ光をガラス層に照射すると、図15に示されるように、レーザ光の強度が相対的に高くなるガラス層30の中央部30aで温度が結晶化温度Tcに達する。その結果、ガラス層30の中央部30aにおけるガラス部材40と反対側の部分が結晶化してしまう。ガラス層30の一部が入熱過多によって結晶化すると、結晶化部分の融点が非結晶化部分の融点よりも高くなるため、ガラス部材同士を溶着して製造したガラス溶着体において、溶着状態が不均一になる。なお、図15は、ガラス部材40と反対側からガラス層30にレーザ光を照射した場合である。
【0010】
一方、レーザ光のビームプロファイルがガウシアン分布である場合に、照射領域の中央部においてガラス層を溶融させ且つガラス層を結晶化させないレーザパワーでレーザ光をガラス層に照射すると、図16に示されるように、レーザ光の強度が相対的に低くなるガラス層30の両縁部30bで温度が融点Tmに達せず、更には、溶融したガラス層30の中央部30aが固化する際に収縮する。その結果、溶融しなかったガラス粉20がガラス層30の両縁部30b近傍に残存してしまう。そのため、ガラス部材同士を溶着して製造したガラス溶着体において、ガラス層30のガラス粉20が汚染物として残存する。なお、図16は、図15と同様に、ガラス部材40と反対側からガラス層30にレーザ光を照射した場合である。
【0011】
本発明者は、以上の知見に基づいて更に検討を重ね、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明に係るガラス溶着方法は、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法であって、延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を所定の幅で第1のガラス部材に配置する工程と、溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第1のレーザ光を照射することにより、ガラス層を溶融させ、第1のガラス部材にガラス層を定着させる工程と、ガラス層が定着した第1のガラス部材にガラス層を介して第2のガラス部材を重ね合わせ、ガラス層に第2のレーザ光を照射することにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着する工程と、を含み、第1のレーザ光の照射領域はリング状であり、第1のレーザ光は、ガラス層の幅方向において第1のレーザ光のビームプロファイルの双峰部のそれぞれがガラス層の両縁部のそれぞれに重なるように、ガラス層に照射されることを特徴とする。また、本発明に係るガラス層溶着方法は、第1のガラス部材にガラス層を定着させてガラス層定着部材を製造するガラス層定着方法であって、延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を所定の幅で第1のガラス部材に配置する工程と、溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第1のレーザ光を照射することにより、ガラス層を溶融させ、第1のガラス部材にガラス層を定着させる工程と、を含み、第1のレーザ光の照射領域はリング状であり、第1のレーザ光は、ガラス層の幅方向において第1のレーザ光のビームプロファイルの双峰部のそれぞれがガラス層の両縁部のそれぞれに重なるように、ガラス層に照射されることを特徴とする。
【0012】
これらのガラス溶着方法及びガラス層定着方法では、ガラス層を溶融させ、第1のガラス部材にガラス層を定着させる際に、リング状の照射領域を有する第1のレーザ光がガラス層に照射される。そして、第1のレーザ光は、ガラス層の幅方向において第1のレーザ光のビームプロファイルの双峰部のそれぞれがガラス層の両縁部のそれぞれに重なるように、ガラス層に照射される。これにより、ガラス層の中央部では、第1のレーザ光において強度が相対的に高い部分が照射される時間が短くなる一方で、ガラス層の両縁部では、第1のレーザ光において強度が相対的に高い部分が照射される時間が長くなる。そのため、ガラス層においては、中央部と両縁部とで第1のレーザ光の照射による入熱量が均一化される。従って、ガラス層の中央部が結晶化したり、溶融しなかったガラス粉がガラス層の両縁部近傍に残存したりするのを防止して、ガラス層の中央部及び両縁部を適切に溶融させることができる。よって、これらのガラス溶着方法及びガラス層定着方法によれば、信頼性の高いガラス溶着体を製造することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係るガラス溶着方法においては、第1のレーザ光は、ガラス層の幅方向において双峰部のそれぞれのピーク値が両縁部のそれぞれの外側に位置するように、ガラス層に照射されることが好ましい。この場合、第1のレーザ光の照射領域がガラス層に対してその幅方向に多少ずれても、第1のレーザ光の強度は、ガラス層の中央部に比べガラス層の両縁部で高くなる。従って、溶融しなかったガラス粉が両縁部近傍に残存するのを確実に防止することができる。
【0014】
また、本発明に係るガラス溶着方法においては、第1のレーザ光は、第1のガラス部材側から第1のガラス部材を介してガラス層に照射されることが好ましい。この場合、ガラス層における第1のガラス部材側の部分が十分に加熱されるので、第1のガラス部材に対するガラス層の密着性を向上させることができる。しかも、ガラス層における第1のガラス部材と反対側の部分(すなわち、ガラス層において第2のガラス部材と溶着される部分)が入熱過多によって結晶化するのが防止されるので、第2のガラス部材に対するガラス層の溶着状態を均一化することができる。
【0015】
また、本発明に係るガラス溶着方法は、第1のガラス部材にガラス層を定着させる工程の前に、第1のガラス部材に配置されたガラス層の一部に第3のレーザ光を照射することにより、ガラス層の一部を溶融させ、ガラス層にレーザ光吸収部を形成する工程を更に含み、第1のガラス部材にガラス層を定着させる工程では、レーザ光吸収部を照射開始位置として、溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第1のレーザ光を照射することが好ましい。
【0016】
上述したように、第1のガラス部材に配置されたガラス層のレーザ光吸収率は、ガラス層が溶融すると急激に高くなる。そのため、第1のガラス部材に配置されたガラス層を溶融させるために、単に、溶着予定領域に沿ってレーザ光の照射領域を相対的に移動させても、レーザ光の照射開始位置から、ガラス層がその幅方向全体に渡って溶融した安定状態の領域に至るまでに、ガラス層がその幅方向全体に渡って溶融していない不安定状態の領域が出現してしまう。ただし、レーザ光の照射開始位置においてガラス層をその幅方向全体に渡って溶融させるようなレーザパワーでレーザ光を照射すると、ガラス層が入熱過多によって結晶化するおそれがある。
【0017】
そこで、ガラス層を溶融させて第1のガラス部材にガラス層を定着させる前に、ガラス層の一部に第3のレーザ光を照射してガラス層の一部を溶融させ、第3のレーザ光を照射していない部分よりもレーザ吸収率が高いレーザ光吸収部をガラス層に予め形成する。そして、このレーザ光吸収部を照射開始位置として、溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第1のレーザ光を照射する。このように、第1のレーザ光の照射開始位置が既にレーザ光吸収部になっているので、第1のレーザ光の照射を開始する起点付近からすぐに、ガラス層がその幅方向全体に渡って溶融した安定状態の領域とすることができる。そのため、ガラス層が結晶化するようなレーザパワーでレーザ光を照射する必要もない。そして、このような安定状態のガラス層を介して第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されるので、溶着状態を均一化することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、信頼性の高いガラス溶着体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るガラス溶着方法の一実施形態によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。
【図2】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図3】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図4】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図5】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図6】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図7】ガラス層の幅方向における仮焼成用のレーザ光のビームプロファイルとガラス層との位置関係を示す図である。
【図8】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図9】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図10】ガラス層の延在方向における仮焼成用のレーザ光のビームプロファイルを示す図である。
【図11】ガラス層の幅方向におけるガラス層の温度分布を示す図である。
【図12】ガラス層の幅方向における仮焼成用のレーザ光のビームプロファイルとガラス層との位置関係を示す図である。
【図13】ガラス層の温度とレーザ光吸収率との関係を示すグラフである。
【図14】レーザパワーとガラス層の温度との関係を示すグラフである。
【図15】ガラス層の幅方向におけるガラス層の温度分布を示す図である。
【図16】ガラス層の幅方向におけるガラス層の温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1に示されるように、ガラス溶着体1は、溶着予定領域Rに沿って形成されたガラス層3を介して、ガラス部材(第1のガラス部材)4とガラス部材(第2のガラス部材)5とが溶着されたものである。ガラス部材4,5は、例えば、無アルカリガラスからなる厚さ0.7mmの矩形板状の部材であり、溶着予定領域Rは、ガラス部材4,5の外縁に沿うように所定の幅で矩形環状に設定されている。ガラス層3は、例えば、低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなり、溶着予定領域Rに沿うように所定の幅で矩形環状に形成されている。
【0022】
次に、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法(ガラス部材4とガラス部材5とを溶着してガラス溶着体1を製造するために、ガラス部材4にガラス層3を定着させてガラス層定着部材を製造するガラス層定着方法を含む)について説明する。
【0023】
まず、図2に示されるように、ディスペンサやスクリーン印刷等によってフリットペーストを塗布することにより、溶着予定領域Rに沿ってガラス部材4の表面4aにペースト層6を形成する。フリットペーストは、例えば、低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなる粉末状のガラスフリット(ガラス粉)2、酸化鉄等の無機顔料であるレーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)、酢酸アミル等である有機溶剤及びガラスの軟化点温度以下で熱分解する樹脂成分(アクリル等)であるバインダを混練したものである。つまり、ペースト層6は、有機溶剤、バインダ、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んでいる。
【0024】
続いて、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去する。これにより、矩形環状に延在する溶着予定領域Rに沿うように、ガラス層3が所定の幅でガラス部材4に配置されることになる。つまり、ガラス層3は、バインダ、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んでいる。なお、ガラス部材4の表面4aに配置されたガラス層3は、ガラスフリット2の粒子性等によってレーザ光吸収性顔料の吸収特性を上回る光散乱が起こり、レーザ光吸収率が低い状態となっている(例えば、可視光下においては、ガラス層3が白っぽく見える)。
【0025】
続いて、図3に示されるように、ガラス部材4に対してガラス層3を鉛直方向上側に位置させた状態で、ガラス部材4を載置台7上に載置する。そして、溶着予定領域Rに沿って矩形環状に形成されたガラス層3の1つの角部に集光スポットを合わせてレーザ光(第3のレーザ光)L1を照射する。このレーザ光L1のスポット径は、ガラス層3の幅より大きくなるように設定され、ガラス層3に照射されるレーザ光L1のレーザパワーがガラス層の幅方向(レーザ光L1の進行方向と略直交する方向)において同程度になるように調整されている。これにより、ガラス層3の一部が幅方向全体に同等に溶融されて、レーザ光の吸収率が高いレーザ光吸収部8aが幅方向全体にわたって形成される。
【0026】
その後、図4に示されるように、ガラス層3の残りの3つの角部にも、同様にレーザ光L1を順に照射してレーザ光吸収部8b,8c,8dを形成する。なお、レーザ光吸収部8a〜8dでは、ガラスフリット2の溶融によってその粒子性が崩れるなどしてレーザ光吸収性顔料の吸収特性が顕著に現れ、この部分のレーザ光吸収率は、レーザ光L1を照射されなかった部分に比べて高い状態となる(例えば、可視光下においては、レーザ光吸収部8a〜8dに対応する角部のみが黒っぽく或いは緑っぽく見える)。
【0027】
続いて、図5,6に示されるように、レーザ光吸収部8aを起点(照射開始位置)として、ガラス層3に集光スポットを合わせてレーザ光(第1のレーザ光)L2を溶着予定領域Rに沿って照射する。すなわち、レーザ光吸収部8aを照射開始位置として、溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させてガラス層3にレーザ光L2を照射する。このとき、レーザ光L2は、ガラス部材4に対してガラス層3を鉛直方向上側に位置させた状態で、載置台7に設けられた開口(図示せず)、及びガラス部材4を介して、ガラス部材4側からガラス層3に照射される(レーザ光L1も同様)。これにより、バインダがガス化してガラス層3から除去されると共にガラス層3が溶融・再固化し、ガラス部材4の表面4aにガラス層3が焼き付けられて定着させられ(仮焼成)、ガラス層定着部材が製造される。
【0028】
ここで、仮焼成用のレーザ光L2の照射領域は、図7(a)に示されるように、ガラス層3においてリング状となっている。このとき、図7(b)に示されるように、ガラス層3の幅方向において、レーザ光L2のビームプロファイル(強度分布)の双峰部M(レーザ光の強度が相対的に高い凸状の部分)のそれぞれは、ガラス層3の両縁部3bのそれぞれに重なっており、双峰部Mのそれぞれのピーク値Mpは、両縁部3bのそれぞれの外側に位置している。
【0029】
そして、ガラス層3の仮焼成の際には、レーザ光吸収率が予め高められたレーザ光吸収部8aを照射開始位置としてレーザ光L2の照射を開始しているため、照射開始位置からすぐに、ガラス層3が幅方向全体にわたって溶融する。これにより、溶着予定領域R全域にわたって、ガラス層3の溶融が不安定となる不安定領域が低減され、ガラス層3の溶融が安定した安定領域となる。また、残りの3つの角部にもそれぞれレーザ光吸収部8b〜8dを設けているため、ガラス溶着体として機能させる際に負荷がかかり易い角部が、仮焼成の際に確実に溶融する。なお、ガラス部材4の表面4aに定着させられたガラス層3は、溶着予定領域R全域にわたって、ガラスフリット2の溶融によってその粒子性が崩れるなどしてレーザ光吸収性顔料の吸収特性が顕著に現れ、レーザ光吸収率が高い状態となる。
【0030】
ガラス層3の仮焼成に続いて、図8に示されるように、ガラス層定着部材10(すなわち、ガラス層3が定着したガラス部材4)にガラス層3を介してガラス部材5を重ね合わせる。続いて、図9に示されるように、ガラス層3に集光スポットを合わせてレーザ光(第2のレーザ光)L3を溶着予定領域Rに沿って照射する。すなわち、溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L3の照射領域を相対的に移動させてガラス層3にレーザ光L3を照射する。これにより、溶着予定領域R全域にわたってレーザ光吸収率が高く且つ均一な状態となっているガラス層3にレーザ光L3が吸収されて、ガラス層3及びその周辺部分(ガラス部材4,5の表面4a,5a部分)が溶融・再固化し(本焼成)、ガラス部材4とガラス部材5とが溶着予定領域Rに沿って溶着されてガラス溶着体1が得られる(溶着においては、ガラス層3が溶融し、ガラス部材4,5が溶融しない場合もある)。なお、レーザ光L3の照射は、ガラス層3の全体に対して一括で行うものであってもよい。
【0031】
以上説明したように、ガラス溶着体1の製造するためのガラス溶着方法(ガラス層定着方法を含む)においては、ガラス層3を溶融させ、ガラス部材4にガラス層3を定着させる際に(すなわち、仮焼成の際に)、リング状の照射領域を有するレーザ光L2がガラス層3に照射される。そして、レーザ光L2は、ガラス層3の幅方向においてレーザ光L2のビームプロファイルの双峰部Mのそれぞれがガラス層3の両縁部3bのそれぞれに重なるように、ガラス層3に照射される。これにより、図10に示されるように、ガラス層3の中央部3aでは、レーザ光L2において強度が相対的に高い部分が照射される時間が短くなる一方で、ガラス層3の両縁部3bでは、レーザ光L2において強度が相対的に高い部分が照射される時間が長くなる。そのため、ガラス層3においては、中央部3aと両縁部3bとでレーザ光L2の照射による入熱量が均一化され、図11に示されるように、ガラス層3の全体で温度が融点Tmよりも高く且つ結晶化温度Tcよりも低くなる。従って、仮焼成の際に、ガラス層3の中央部3aが結晶化したり、溶融しなかったガラスフリット2がガラス層3の両縁部3b近傍に残存したりするのを防止して、ガラス層3の全体を適切に溶融させることができる。よって、このガラス溶着方法によれば、信頼性の高いガラス溶着体1を製造することが可能となる。
【0032】
なお、ガラス部材4とガラス部材5とを溶着する際には(すなわち、本焼成の際には)、例えばガラス層3の両縁部3bが多少溶融しなくても、仮焼成が確実に行われていれば、溶着状態が不均一になったり、ガラス層3のガラスフリット2が汚染物として残存したりするという事態は生じない。このように、ガラス層3の仮焼成の状態は、ガラス層3の本焼成の状態を左右するものであるから、仮焼成用のレーザ光の照射条件は、本焼成用のレーザ光の照射条件に比べシビアとなる。
【0033】
また、仮焼成用のレーザ光L2は、ガラス層3の幅方向において双峰部Mのそれぞれのピーク値Mpがガラス層3の両縁部3bのそれぞれの外側に位置ように、ガラス層3に照射される。これにより、図12に示されるように、位置Pに対して位置P或いは位置Pというように、レーザ光L2の照射領域がガラス層3に対してその幅方向に多少ずれても、レーザ光L2の強度は、ガラス層3の中央部3aに比べガラス層3の両縁部3bで高くなる。従って、溶融しなかったガラスフリット2がガラス層3の両縁部3b近傍に残存するのを確実に防止することができる。
【0034】
また、仮焼成用のレーザ光L2は、ガラス部材4側からガラス部材4を介してガラス層3に照射される。これにより、ガラス層3におけるガラス部材4側の部分が十分に加熱されるので、ガラス部材4に対するガラス層3の密着性を向上させることができる。しかも、ガラス層3におけるガラス部材4と反対側の部分(すなわち、ガラス層3においてガラス部材5と溶着される部分)が入熱過多によって結晶化するのが防止されるので、ガラス部材5に対するガラス層3の溶着状態を均一化することができる。
【0035】
また、ガラス部材4にガラス層3を定着させる前に(すなわち、仮焼成の前に)、ガラス層3の一部にレーザ光L1を照射することによりガラス層3にレーザ光吸収部8aを形成し、仮焼成の際には、レーザ光吸収部8aを照射開始位置として、溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させてガラス層3にレーザ光L2を照射する。このように、レーザ光L2の照射開始位置が既にレーザ光吸収部8aになっているので、レーザ光L2の照射を開始する起点付近からすぐに、ガラス層3がその幅方向全体に渡って溶融した安定状態の領域とすることができる。そのため、ガラス層3が結晶化するようなレーザパワーでレーザ光L2を照射する必要もない。そして、このような安定状態のガラス層3を介してガラス部材4とガラス部材5とが溶着されるので、ガラス溶着体1において溶着状態を均一化することができる。
【0036】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、仮焼成用のレーザ光L2は、ガラス部材4と反対側からガラス部材4を介さずにガラス層3に照射されてもよい。
【0037】
また、仮焼成用のレーザ光L2の照射対象となるガラス層3は、バインダ、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んだものに限定されず、有機溶剤、バインダ、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んだペースト層6に相当するものや、有機溶剤及びバインダを含まずに、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んだものであってもよい。また、ガラスフリット2は、ガラス部材4,5の融点よりも低い融点を有するものに限定されず、ガラス部材4,5の融点以上の融点を有するものであってもよい。また、レーザ光吸収性顔料は、ガラスフリット2自体に含まれていてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…ガラス溶着体、2…ガラスフリット(ガラス粉)、3…ガラス層、4…ガラス部材(第1のガラス部材)、5…ガラス部材(第2のガラス部材)、8a〜8d…レーザ光吸収部、10…ガラス層定着部材、R…溶着予定領域、L1…レーザ光(第3のレーザ光)、L2…レーザ光(第1のレーザ光)、L3…レーザ光(第2のレーザ光)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法であって、
延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を所定の幅で前記第1のガラス部材に配置する工程と、
前記溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することにより、前記ガラス層を溶融させ、前記第1のガラス部材に前記ガラス層を定着させる工程と、
前記ガラス層が定着した前記第1のガラス部材に前記ガラス層を介して前記第2のガラス部材を重ね合わせ、前記ガラス層に第2のレーザ光を照射することにより、前記第1のガラス部材と前記第2のガラス部材とを溶着する工程と、を含み、
前記第1のレーザ光の照射領域はリング状であり、前記第1のレーザ光は、前記ガラス層の幅方向において前記第1のレーザ光のビームプロファイルの双峰部のそれぞれが前記ガラス層の両縁部のそれぞれに重なるように、前記ガラス層に照射されることを特徴とするガラス溶着方法。
【請求項2】
前記第1のレーザ光は、前記ガラス層の幅方向において前記双峰部のそれぞれのピーク値が前記両縁部のそれぞれの外側に位置するように、前記ガラス層に照射されることを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項3】
前記第1のレーザ光は、前記第1のガラス部材側から前記第1のガラス部材を介して前記ガラス層に照射されることを特徴とする請求項1又は2記載のガラス溶着方法。
【請求項4】
前記第1のガラス部材に前記ガラス層を定着させる工程の前に、前記第1のガラス部材に配置された前記ガラス層の一部に第3のレーザ光を照射することにより、前記ガラス層の一部を溶融させ、前記ガラス層にレーザ光吸収部を形成する工程を更に含み、
前記第1のガラス部材に前記ガラス層を定着させる工程では、前記レーザ光吸収部を照射開始位置として、前記溶着予定領域に沿って前記第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のガラス溶着方法。
【請求項5】
第1のガラス部材にガラス層を定着させてガラス層定着部材を製造するガラス層定着方法であって、
延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含む前記ガラス層を所定の幅で前記第1のガラス部材に配置する工程と、
前記溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することにより、前記ガラス層を溶融させ、前記第1のガラス部材に前記ガラス層を定着させる工程と、を含み、
前記第1のレーザ光の照射領域はリング状であり、前記第1のレーザ光は、前記ガラス層の幅方向において前記第1のレーザ光のビームプロファイルの双峰部のそれぞれが前記ガラス層の両縁部のそれぞれに重なるように、前記ガラス層に照射されることを特徴とするガラス層定着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−111339(P2011−111339A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267475(P2009−267475)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】