説明

ガルバノスキャナシステムおよび制御方法

【課題】加減速時間や、ガルバノメータの応答性に関係なく、レーザ加工開始点と終了点において、レーザの照射ムラが発生しないガルバノ制御用コントローラを提供する。
【解決手段】互いに直交する2軸のガルバノスキャナ101と、前記ガルバノスキャナ101にレーザ光を照射するレーザ装置105と、前記ガルバノスキャナ101と前記レーザ装置105を制御するコントローラ103かなるガルバノスキャナシステムにおいて、
前記コントローラ103は、前記ガルバノスキャナ101の駆動指令に従って、レーザ出力波形が生成されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガルバノメータを用いてレーザ加工するガルバノスキャナシステムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガルバノメータとこれを駆動するガルバノメータコントローラとレーザ駆動装置とからなるガルバノスキャナシステムは、バーコードの作成や、微小な配線加工などに用いられており、レーザにより対象物を加熱昇華することで加工する方法である。バーコードや配線加工の高精度化に伴って、均一な線幅を作製することが潜在的に望まれていた。このために、ガルバノメータへの動作指令は、コントローラに入力されたモーションプログラムをモーションコントローラが解析しミラーの動作速度を出力することで行われる。モーションコントローラからガルバノメータへ指令が出力されたタイミングから実際にミラーが動作開始するには、コントローラからサーボドライバへの指令遅れなどの原因により、一定の遅延動作が発生する。コントローラには、この遅延を補正するための遅延時間の設定が可能になっており、この遅延時間は、実際のガルバノメータの動作遅延時間に合わせて設定される。このような方法を実施するために、従来のガルバノメータコントローラとしては、3つの方法が提案されている。第1には、レーザオフディレイパラメ−タを設定して照射開始時間を遅らせる方法である(例えば、特許文献1参照)。第2には、ガルバノメータへの動作指令の一定速駆動期間だけレーザを照射する方法である(例えば、特許文献2参照)。また、第3には、レーザ加工装置として、レーザの照射位置を制御するための移動指令と、レーザの出力を制御するためのレーザ駆動指令を生成するコントローラを使用するものである(例えば、特許文献3参照)。
第1の従来のガルバノメータコントローラについて図2を用いて説明する。201は、コントローラからサーボドライバへの指令速度を示す。202は、一定遅延時間後に動作するガルバノメータの速度を示している。203はレーザの出力を示す。204はコントローラからサーボドライバへの指令などの遅れを考慮し、どの程度レーザの照射開始を遅らせるかを設定するためのレーザオンディレイパラメータである。205は、レーザの照射終了をコントローラの指令に対しどの程度遅らせるかを設定する為のレーザオフディレイパラメータである。
次に、動作について説明する。レーザオンディレイパラメータ205を設定し、ミラーの停止状態におけるレーザの照射を抑制し、一方、マーキングの描き終わり時点では、コントローラの指令は完了しているがミラーは遅れて動作が完了するので、レーザオフディレイパラメータ205を調整することで実際にミラー動作が停止するまではレーザの照射を継続する。このために、ミラー速度の加減速度領域では、より多くのレーザが照射されることで、加工痕の幅に加減速領域では太くなり、幅にむらができることになる。
また、第2の従来例としては、マーキング線の描き始め地点よりも手前から前記ガルバノメータの動作を開始させるとともに、マーキング線の描き終わり地点を越えても前記ガルバノメータが動作するように制御されている。
このように、従来のコントローラでは、動作指令から実際にガルバノメータが実動作開始するまでの遅延時間を設定することにより、レーザの出力開始タイミングとガルバノメータの実動作開始のタイミングを調整するように図られている。この時に出力されるレーザはモーションプログラムで指定された強度で出力される。例えば、指令速度に到達するまでの加速区間や、指定位置へ位置決めする際の減速区間においても、常に指定されたレーザ強度が出力される。この時のレーザ強度の設定は、アナログ指令のレーザの場合、出力電圧値で制御され、PWM照射のレーザの場合、PWM周期に対するPWM出力幅で決定される。
また、第3の実施例として、図10に、ガルバノメータによるレーザ加工装置を示す。
ガルバノメータを利用したレーザ加工技術は、高密度配線の回路基板等の加工に用いられ、前記ガルバノメータに取り付けられたガルバノミラーによって反射されたレーザ光を、被加工物の照射面上に照射して溶解、あるいは蒸発させて加工するものである。
図において11はガルバノミラーであり、12はガルバノミラーを回転させるガルバノメータである。ガルバノメータ12には、位置検出器であるエンコーダ13、および駆動装置14が接続されており、駆動装置14からの駆動電流に応じてガルバノミラー11を回転させるとともに、回転角はエンコーダ13で検出され、駆動装置14に与えられる。15はコントローラであり照射位置指令を駆動装置14に与え、駆動装置14は前記照射位置指令とエンコーダ13からの位置情報に基づいて駆動電流をガルバノメータに出力する。16はレーザ発振器でレーザ光をガルバノミラー12に出力する。21はコントローラ15の中央処理部で、加工命令に対し、コントローラソフトウェア22を使用して照射位置指令を定周期で生成し、駆動装置14に指令する。またレーザ出力指令(レーザパワー指令)を生成し、レーザ信号生成回路23に指令する。レーザ出力指令はコントローラの照射位置指令周期の間隔で、加工の度合いを均一にするように調整される。レーザ信号生成回路23は、中央処理部21からのレーザ出力指令に基づきレーザ駆動信号を生成し、レーザ発振器に出力する。
このように、コントローラからガルバノミラーへの照射位置指令の周期でレーザの出力指令を調整することで、レーザ照射点の移動速度の変化におけるレーザの単位時間当たりの照射エネルギーをできるだけ均一にする方法が提案されている。(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2−299786号公報(第5−7頁、図1)
【特許文献2】特開平7−290257号公報(図2、図3)
【特許文献1】特開平9−285882号公報(第8頁、 図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のガルバノコントローラは、コントローラからサーボドライバへの速度の指令が送信されてから、実際にミラーが動作するまでに、一定の遅れが発生するが、この遅れを無視して、コントローラからの指令と同期してレーザの照射を開始すると、実際にミラーが動作するまでの時間分余計にレーザが照射されてしまい、マーキングの描き始めでマーキング対象物を損傷させてしまうという問題が潜在的にあり、これまでにこの問題を解決するための手段がとられている。従来例にあげたものも潜在的な問題を解決する手段ではあるが、ガルバノメータへの移動指令を発行している際にレーザの出力指令も同時に行うが、この時、指令された速度に到達するまでの加速区間や、指定位置へ位置決めする際の減速区間においても、常に指定された強度でレーザ出力されている。図2において、206は単位時間あたりのレーザ照射量を示す。206に示すように、加速時及び、減速時の区間は、指令された速度より遅い速度での移動になるため、加減速区間でのレーザの照射時間は指令された速度での定速での動作区間でレーザ照射時間が長くなるので、208に示す理想とする加工痕に対し、実際は、207に示すような、マーキング開始部と終了部が膨らむような加工痕となってしまうという問題点が生じていた。
また、マーキング線の描き始め地点よりも手前から前記ガルバノメータの動作を開始させるとともに、マーキング線の描き終わり地点を越えても前記ガルバノメータが動作するように制御されていても、加減速期間に、定速期間のレーザ強度で照射されていることから、マーキング開始部と終了部が膨らむような加工痕となってしまうという問題が生じていた。
また、図11、図12に、第3の従来例のレーザ加工装置の動作の説明図を示す。図11(a)はコントローラ21から駆動装置14に与えられる位置指令、図11(b)は照射面上のレーザの移動速度、図11(c)は、コントローラ14の中央処理部からレーザ信号生成回路23に与えられるレーザ出力指令、図11(d)は、照射面に照射されるレーザパワーを表す。なお、コントローラ14のソフトウェアの制御周期を250μsとしている。図において、位置指令を駆動装置に与えるタイミングと実際の移動には250μsのタイムラグがあるものとし、中央処理部は、レーザパワー指令を位置指令と1周期ずらして発行している。また、レーザパワーの大きさは、目標速度に対する現在の指令速度の比率から周期毎に演算して調整する。その結果、図11(b)と図11(d)から速度変動に対応してレーザパワーも変動することになる。
しかしながら、加減速区間などの速度変化区間にあわせてレーザ光の出力を変動させる方法は、コントローラがガルバノミラーへの移動指令を出力する周期に依存してしまうため、コントローラからの指令周期が長いと、レーザ出力の調整間隔も長くなってしまい、緻密なレーザ出力調整ができなくなる。また、一方、コントローラからガルバノミラーへの照射位置指令の周期を短くすれば、より早い周期でのレーザ出力調整が可能にはなるが、実際は、CPUの処理性能に限界があり、指令の周期は簡単には高速化できないという問題が生じていた。
また、図12では、位置指令を駆動装置に与えるタイミングと実際の移動とのタイムラグを300μsとし、コントローラ14の制御周期と比例しない場合を示している。中央処理部がレーザパワー指令を発行するタイミングは、コントローラのソフトウェアの制御周期であるため、図6(d)に示すように、移動開始とレーザの照射のタイミングがずれ、加工の度合に影響してしまうという問題が生じしていた。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、加減速時間や、ガルバノメータの応答性に関係なく、レーザ加工開始点と終了点において、レーザの照射ムラが発生しないガルバノ制御用コントローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、互いに直交する2軸のガルバノスキャナと、前記ガルバノスキャナにレーザ光を照射するレーザ装置と、前記ガルバノスキャナと前記レーザ装置を制御するコントローラかなるガルバノスキャナシステムにおいて、前記コントローラは、前記ガルバノスキャナの駆動指令に従って、レーザ出力波形が生成されるものである。
請求項2に記載の発明は、前記コントローラが、レーザ出力遅延処理部を備えたものである。
請求項3に記載の発明は、前記コントローラが、前記ガルバノスキャナのレーザ照射開始までの移動量と、レーザ出力終了までの残移動量が入力されるレーザ出力決定部を備えたものである。
請求項4に記載の発明は、前記コントローラが、前記レーザ装置へのレーザパワー指令の増分値指令を生成するレーザ信号生成回路を備えたものである。
請求項5に記載の発明は、前記増分値指令が、前記レーザ信号生成回路の制御周期で、前記レーザパワー指令に演算された値が用いられるものである。
請求項6に記載の発明は、前記増分値指令が、前記レーザ信号生成回路の分解能に応じて分割されたものである。
請求項7に記載の発明は、ガルバノスキャナの移動開始時点または移動停止時点について、前記レーザ信号生成回路に最小分解能の前記増分値指令が、与えられるものである。
請求項8に記載の発明は、互いに直交する2軸のガルバノスキャナが駆動信号により操作され、レーザ装置により前記ガルバノスキャナにレーザ光を照射され、コントローラにより前記ガルバノスキャナと前記レーザ装置が制御されるガルバノスキャナシステムの制御方法において、前記コントローラで前記ガルバノスキャナの駆動指令に従って、レーザ出力波形が生成されるものである。
請求項9に記載の発明は、前記コントローラに前記レーザ光を照射するためのパラメータが設定され、前記ガルバノスキャナの動作が開始してから移動した距離と、前記パラメータとを比較して、前記レーザ装置から前記レーザ光を照射するものである。
請求項10に記載の発明は、前記コントローラに前記レーザ光を照射するためのパラメータが設定され、前記ガルバノスキャナの残移動量が、前記パラメータ以下になった場合に、前記レーザ装置から前記レーザ光の照射を停止するものである。
請求項11に記載の発明は、前記ガルバノスキャナの動作を開始してから移動量だけ移動に要する時間と、前記コントローラで設定されたレーザオンディレイパラメータの時間とを足し合わせた時間だけ遅延させて前記レーザ装置からレーザを照射するものである。
請求項12に記載の発明は、前記ガルバノスキャナの一定速度領域における残移動量と指令速度から求められる減速時間とレーザオフディレイパラメータを比較して、レーザオフディレイパラメータが、前記減速時間以下になった際に、前記レーザ装置の前記レーザ光の照射を停止するものである。
請求項13に記載の発明は、前記パラメータは、前記ガルバノスキャナの移動に関して、加減速区間分の距離が設定されているものである。
請求項14に記載の発明は、前記コントローラの中央処理部では、ソフトウェア制御周期でレーザパワー指令、増分値指令またはパワーディレイの少なくとも1つが、レーザ信号生成回路に与えられ、前記レーザ信号生成回路は、自己の制御周期単位で前記レーザパワー指令に対する加算する増分値を演算するものである。
請求項15に記載の発明は、前記増分値指令は、前記レーザ信号生成回路の分解能で分割され、前記レーザパワー指令が前記レーザ信号生成回路の分解能でステップ上に増加するものである。
請求項16に記載の発明は、前記ガルバノスキャナの動作開始時または動作停止時に前記レーザ光で加工する際には、レーザパワー指令に加算する増分値を最小分解能値として与えられるものである。
請求項17に記載の発明は、レーザ信号生成回路に、現在のレーザパワー指令と今回のレーザパワー指令の差分値を前記レーザ信号生成回路の分解能に応じて分割した値をパワー増分値として前記レーザ信号生成回路に与えるとともに、前記レーザ信号生成回路は、レーザ信号生成回路の制御周期毎に前記パワー増分値をレーザパワー指令に加算してレーザパワー信号を生成し、レーザ発振器に出力するという手順で処理するものである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1から3および8から13に記載の発明によると、レーザの照射タイミングを距離で設定することにより加減速区間を除いた部分のみのレーザ照射を設定できるので、レーザの照射始めと照射終わりでレーザの照射ムラが発生しない。また、請求項2に記載の発明によると、パラメータにてレーザ照射タイミングを設定できるので、照射区間を加工プログラムの変更せずに調整できる。
請求項4から7および14から17に記載の発明によると、コントローラのレーザ信号生成回路に出力指令を指令する際、現在のレーザパワー指令と今回のレーザパワー指令の差分値を前記レーザ信号生成回路の分解能に応じて分割し、分割した値をパワー増分値として前記レーザ信号生成回路に与え、レーザ信号生成回路は、前記パワー増分値を前記レーザ信号生成回路の制御周期毎に加算してレーザパワー信号を生成し、レーザ発振器に出力するため、コントローラのソフトウェアの制御周期より短い周期でレーザ駆動信号を更新できるため、速度変動に対して、より高精度な加工が実現できる。レーザ信号生成回路の分解能としては、ガルバノミラーへ最終的に指令を行う駆動装置の指令周期同等以上の分解能が必要である。
また、レーザパワー指令に加えパワーディレイ時間を指令し、前記レーザ信号生成回路は、出力指令受信時から前記パワーディレイ時間の経過後にレーザ駆動信号を前記レーザ発振器に出力するため、移動処理のタイムラグに対してもより高精度な加工が実現できる。
さらに、ガルバノメータが停止状態から動作を開始する時と、動作中から停止状態となる時のレーザパワーを指定できるので、加工開始点と加工終了点において確実にレーザ加工ができることを特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の方法の具体的実施例について、図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0007】
図1に、本発明の方法を実施するガルバノスキャナ装置の構成を示す。図において101はガルバノメータであり、X軸用、Y軸用の2軸で構成される。105は実際にレーザを発射するレーザ装置であり、コントローラ103からの指令を受けてレーザ照射を行う。102は、ガルバノメータ101を動作制御するサーボドライバであり、コントローラ103からの指令を受け、ガルバノメータ101を制御している。103は、指定された形状を描くための指令を2つのサーボドライバへ行うコントローラである。コントローラ103は、サーボドライバ102への指令と、レーザ装置105へのレーザ照射のオンオフを制御する。コントローラ103の図示しないCPUのサンプリング周期を用いてサーボドライバ102への指令とレーザ装置105への指令を行うのでサーボドライバ102とレーザ装置105間は、同期した制御が可能である。104は、コントローラ103への動作指令、パラメータの読み書き、コントローラステータスの取得などを行うためのホストPCである。ユーザは、ホストPC104からコントローラ103を操作できる。
【0008】
図3に、本発明を実現するためのコントローラのブロック図を示す。301は、レーザの照射や、レーザの照射先の移動指令を記述するためのモーションプログラムである。302はモーションプログラムを解析するプログラム解析部であり、モーションプログラムを処理しやすいよう中間データへ変換する。303はプログラム解析された中間データを元に、ガルバノメータへの指令周期毎の動作指令データを演算する指令作成部である。304は指令作成部が演算した結果である。306は、レーザの出力遅延を管理するレーザ出力遅延処理部である。305は、レーザ装置へのレーザ出力指令である。307は、ガルバノメータへの動作指令タイミングと、ガルバノメータの実動作タイミングを遅延時間として設定したレーザ出力遅延時間である。309は、レーザの出力開始までの移動量と、310はレーザ出力終了までの残移動量である。308は、309、310を元にレーザ出力遅延処理部へのレーザ出力タイミングを決定しているレーザ出力決定部である。
モーションプログラムに記述されているレーザのオンオフ制御指令、レーザ強度やガルバノメータへの動作指令を、プログラム解析部302が動作指令作成部にて処理しやすい中間データへ変換し、指令作成部303へ処理を依頼する。
【0009】
図5にサーボドライバへの指令を払い出す周期(補間周期)で動作する処理フローチャートを示す。最初に指令作成部が起動され、指令作成部ST501ではサーボドライバへの指令位置を作り出すとともに、既に移動した移動量と、目標位置までの残移動量を作成する。次に、レーザ出力決定部ST502が動作し、指令作成部ST501が作成した既に移動した移動量と、目標位置までの残移動量をもとに、レーザの出力の有無を決定する。最後にレーザ出力遅延処理部ST503は、レーザ出力決定部が決定したレーザ出力の有無にしたがいレーザの出力を行う。
本発明が特許文献1と異なる部分は、レーザ照射区間を移動開始からの移動量と、目標位置までの残移動量により、レーザの出力区間を決定する機能を備えた部分である。
【0010】
次に、ユーザが実際にレーザを照射し加工する際の手順を説明する。
まず、ユーザは指定した箇所へのレーザ照射を行うように、ホストPC上で加工プログラムを作成する。
次に、コントローラのパラメータである、レーザ照射開始までの移動距離と、レーザ照射終了までの残移動距離を設定する。最後に、ホストPC上で作成された加工プログラムをコントローラへ送り実行する。
コントローラでは、ホストPCより設定されたパラメータに従い、レーザの照射を行う。
図4に本発明でのレーザ照射、指令および実駆動パターンの関係について示す。201、202、203、204は図2と同様である。コントローラからサーボドライバへ指令を開始する際に、レーザ照射開始までの移動量309として設定された値に到達するまで、レーザは照射しない。ここでは、指令速度201に達する加速時間から求められる距離が設定されている。パラメータで設定された移動量309だけ移動に要する時間と、コントローラで設定されたレーザオンディレイパラメータ204の時間とを足し合わせた時間だけ遅延させてレーザを照射する。
一方、レーザオフのタイミングは、一定速度領域において指令の残移動量310に到達すると、予めコントローラに設定されているレーザオフディレイパラメータと比較される。ここで、指令の残移動量310は減速に必要な距離が設定されており、残移動量310と指令速度201から求められる減速時間とレーザオフディレイパラメータ205とを比較して、レーザオフディレイパラメータ205が、減速時間以下になった際にレーザ照射を停止する。
このように、加減速区間分の距離をコントローラのパラメータとして設定することで、一定速度区間のみでのレーザの照射を行うことが可能となる。
【0011】
図6にコントローラのレーザ出力決定部でのレーザ照射区間制御を行うフローチャートを示す。
レーザ出力決定部では、指令作成部が作成した既に移動した移動量と、パラメータで設定されたレーザ出力を開始するまでの移動量を比較する(ST601)。指定された移動量分動作していなければレーザ出力遅延処理部へのレーザ出力要求をオフ(ST603)し、既に指定された移動量以上動作していればレーザ出力遅延処理部へのレーザ出力要求をオン(ST602)する。また、ST604にてレーザ出力終了時の残移動量と現在の残移動量を比較し、残移動量が設定されたレーザ出力終了時の残移動量以下になった場合にレーザ出力遅延部へのレーザ出力要求をオフ(ST605)する。レーザ出力遅延処理部では、レーザ出力遅延時間に設定した時間経過後にレーザ出力の開始や停止を行う。
【0012】
このように、全移動量に対しどの区間をレーザ照射するのかを、パラメータにて設定でき、コントローラが動作中に移動量と残移動量と比較してレーザのオンオフ制御を行うので、ユーザはこのパラメータを調整することで、加減速時間や、ガルバノメータの応答性に関係なく、一定速度区間のみのレーザ制御が可能となり、レーザ照射の開始点と終了点でのレーザの照射ムラがなくなる。
【実施例2】
【0013】
図7は、本発明の方法を実施するレーザ加工装置の構成例である。実施例1と異なる点は、コントローラ14の中央処理部21がレーザ信号生成回路23に与えるレーザ出力指令であり、レーザパワー指令、(レーザパワー)増分値指令、パワーディレイの3種類がある部分である。
図8において、図8(a)はコントローラ21から駆動装置14に与えられる位置指令、図8(b)は照射面上のレーザの移動速度、図8(c)は、コントローラ14の中央処理部21からレーザ信号生成回路23に与えられるレーザ出力指令、図8(d)は、照射面に照射されるレーザパワーである。
図7、図8を用いて、動作について説明する。コントローラ14の中央処理部21はソフトウェアの制御周期でレーザ信号生成回路23に対しレーザパワー指令、増分値指令、パワーディレイを与える。レーザパワー指令は、レーザパワー指令値であり、初期時点(250μs時点)では“0”である。増分値指令は、レーザ信号生成回路の制御周期単位で、レーザパワー指令に対し加算されるレーザパワーの増分値である。コントローラのソフトウェアでは、式1に基づきレーザパワーの増分値の演算を行う。
【0014】
レーザパワー増分値=
(目標レーザパワー − 現在レーザパワー)÷(位置指令の周期/レーザ信号生成回路の制御周期) ・・・ 式1
【0015】
レーザパワー増分値は、前記現在のレーザパワー指令と前記レーザパワーの目標値の差分値を、位置指令周期に対する前記レーザ信号生成回路23の分解能(ハードウェア制御周期)に応じて分割されたものとなる。
たとえば、現在レーザパワーが“0” 、レーザパワーの目標値が“100”、位置指令の周期が250μs、前記レーザ信号生成回路23のハードウェア制御周期が“10μs”である場合、増分値指令は“100/25=4”となる。
パワーディレイは、レーザ信号生成回路23がレーザ発振器16にレーザ駆動信号を出力する際のディレイであり図7では“0”としている。
前記レーザ信号生成回路23は、前記レーザパワー指令“0”に前記増分値“4”をレーザ信号生成回路の制御周期毎に加算してレーザ駆動信号を生成し、レーザ発振器25に出力する。25回の加算終了後は最終値を出力しつづける。つぎのコントローラのソフトウェアの制御周期で新たな指令がくると、同様にしてレーザ信号生成回路の制御周期毎にレーザ駆動信号を生成する。
このように、コントローラのレーザ信号生成回路にレーザ出力指令を指令する際、現在のレーザパワー指令と今回のレーザパワー指令の差分値を前記レーザ信号生成回路の分解能に応じて分割し、分割した値をパワー増分値として前記レーザ信号生成回路に与えることにより、レーザ信号生成回路は、前記パワー増分値を前記レーザ信号生成回路の制御周期毎に加算してレーザパワー信号を生成し、レーザ発振器に出力するため、コントローラのソフトウェアの制御周期より短い周期でレーザ駆動信号を更新できるため、速度変動に対して、より高精度な加工が実現できる。
【実施例3】
【0016】
図9は、本発明の請求項2の実施例の動作を示す図であり、図8と同様に、図9(a)はコントローラ21から駆動装置14に与えられる位置指令、図9(b)は照射面上のレーザの移動速度、図9(c)は、コントローラ14の中央処理部21からレーザ信号生成回路23に与えられるレーザ出力指令、図9(d)は、照射面に照射されるレーザパワーである。
つぎに、図7、図9を用いて、タイムラグを入れた場合の動作について説明する。図9では、図8の条件に加え、位置指令を駆動装置に与えるタイミングと実際の移動には280μsのタイムラグがあるものとしている。この場合、レーザ出力指令としては、図8の場合と同様、レーザパワー指令“0”、増分値指令は“4”となる。一方、パワーディレイ値は、位置指令と実際の移動とのタイムラグにあわせるため“30”とする。
前記レーザ信号生成回路23は、パワーディレイを考慮して、中央処理部からの入力後30μs後から、前記レーザパワー指令“0”に前記増分値“4”をレーザ信号生成回路の制御周期毎に加算してレーザ駆動信号を生成しレーザ発振器16に出力する。
また、ガルバノメータが停止状態から移動を開始する時には、レーザパワー指令“0”が出力されると、移動開始時点でのレーザパワーが0となり、未加工部となるので、コントローラ側で設定された移動開始時のレーザパワー値を、ガルバノメータが停止状態から移動を開始する瞬間と、移動状態から停止状態になる瞬間に出力するようにする。コントローラのソフトウェアでは、式2,3に基づき移動開始時と移動完了時のレーザパワーの増分値の演算を行う。
【0017】
移動開始時レーザパワー増分値=
(目標レーザパワー − 移動開始時レーザパワー)÷(位置指令の周期/レーザ信号生成回路の制御周期) ・・・ 式2
【0018】
移動終了時レーザパワー増分値=
(移動終了時レーザパワー − 現在レーザパワー)÷(位置指令の周期/レーザ信号生成回路の制御周期) ・・・ 式3
【0019】
このように、コントローラのレーザ信号生成回路にレーザ出力指令を指令する際、レーザパワー指令、増分値指令に加えパワーディレイ時間を指令し、前記レーザ信号生成回路は、出力指令受信時から前記パワーディレイ時間の経過後に、レーザ駆動信号を前記レーザ発振器に出力するため、コントローラのソフトウェアの制御周期に比べ短い間隔のタイムラグに対しても、より高精度な加工が実現できる。
加速時から一定速度に変化した場合、加速時は、増分値指令に応じて増加していき、一定速度になったことをエンコーダ信号から検出した場合、レーザは一定強度で照射される。
減速時は、オフディレイパラメータが残移動量以下になった場合、レーザ強度は減少値指令に応じて減少していく。このようにすることで、速度変動に対して、より高精度な加工が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のガルバノスキャナシステムの構成を示す図
【図2】従来の方法でのガルバノ動作指令、レーザの出力指令を示すタイミングチャート
【図3】本発明でのコントローラのソフトウェアブロック
【図4】本発明での、ガルバノ動作指令とレーザの出力指令を示すタイミングチャート
【図5】サーボドライバへの指令払い出し周期で動作する処理フローチャート
【図6】レーザ出力決定部のフローチャート
【図7】本発明の実施例を示すガルバノスキャナシステムの構成図
【図8】本発明の第2の実施例の動作説明図
【図9】本発明の第3の実施例の動作説明図
【図10】従来のガルバノスキャナシステムの構成図
【図11】従来の移動速度にあわせてレーザパワーを調整する動作例
【図12】従来のレーザ照射に時間遅れを設定した場合の動作例
【符号の説明】
【0021】
11 ガルバノミラー
12 ガルバノメータ
13 エンコーダ
14 駆動装置
15 コントローラ
16 レーザ発振器
21 中央処理部
22 コントローラソフトウェア
23 レーザ出力生成回路
101 ガルバノメータ
102 サーボドライバ
103 コントローラ
104 ホストPC
105 レーザ装置
201 指令速度
202 ミラー速度
203 レーザ出力
204 レーザオンディレイタイマ
205 レーザオフディレイタイマ
206 単位時間あたりのレーザ照射量
207 従来制御方式での加工痕
208 理想加工痕
301 モーションプログラム
302 プログラム解析部
303 指令作成部
304 ドライバへの動作指令
305 レーザ出力線
306 レーザ出力遅延処理部
307 レーザ出力遅延時間
308 レーザ出力決定部
309 レーザ出力開始までの移動量
310 レーザ出力終了までの残移動量
401 本発明方式での加工痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する2軸のガルバノスキャナと、前記ガルバノスキャナにレーザ光を照射するレーザ装置と、前記ガルバノスキャナと前記レーザ装置を制御するコントローラかなるガルバノスキャナシステムにおいて、
前記コントローラは、前記ガルバノスキャナの駆動指令に従って、レーザ出力波形が生成されることを特徴とするガルバノスキャナシステム。
【請求項2】
前記コントローラは、レーザ出力遅延処理部を備えたことを特徴とする請求項1記載のガルバノスキャナシステム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記ガルバノスキャナのレーザ照射開始までの移動量と、レーザ出力終了までの残移動量が入力されるレーザ出力決定部を備えたことを特徴とする請求項1記載のガルバノスキャナシステム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記レーザ装置へのレーザパワー指令の増分値指令を生成するレーザ信号生成回路を備えたことを特徴とする請求項1記載のガルバノスキャナシステム。
【請求項5】
前記増分値指令は、前記レーザ信号生成回路の制御周期で、前記レーザパワー指令に演算された値が用いられることを特徴とする請求項4記載のガルバノスキャナシステム。
【請求項6】
前記増分値指令は、前記レーザ信号生成回路の分解能に応じて分割されたことを特徴とする請求項4記載のガルバノスキャナシステム。
【請求項7】
ガルバノスキャナの移動開始時点または移動停止時点について、前記レーザ信号生成回路に最小分解能の前記増分値指令が、与えられることを特徴とする請求項4記載のガルバノスキャナシステム。
【請求項8】
互いに直交する2軸のガルバノスキャナが駆動信号により操作され、レーザ装置により前記ガルバノスキャナにレーザ光を照射され、コントローラにより前記ガルバノスキャナと前記レーザ装置が制御されるガルバノスキャナシステムの制御方法において、
前記コントローラで前記ガルバノスキャナの駆動指令に従って、レーザ出力波形が生成されることを特徴とするガルバノスキャナシステムの制御方法。
【請求項9】
前記コントローラに前記レーザ光を照射するためのパラメータが設定され、前記ガルバノスキャナの動作が開始してから移動した距離と、前記パラメータとを比較して、前記レーザ装置から前記レーザ光を照射することを特徴とする請求項8記載のガルバノスキャナシステムの制御方法。
【請求項10】
前記コントローラに前記レーザ光を照射するためのパラメータが設定され、前記ガルバノスキャナの残移動量が、前記パラメータ以下になった場合に、前記レーザ装置から前記レーザ光の照射を停止することを特徴とする請求項8記載のガルバノスキャナシステムの制御方法。
【請求項11】
前記ガルバノスキャナの動作を開始してから移動量だけ移動に要する時間と、前記コントローラで設定されたレーザオンディレイパラメータの時間とを足し合わせた時間だけ遅延させて前記レーザ装置からレーザを照射することを特徴とする請求項8記載のガルバノスキャナシステムの制御方法。
【請求項12】
前記ガルバノスキャナの一定速度領域における残移動量と指令速度から求められる減速時間とレーザオフディレイパラメータを比較して、レーザオフディレイパラメータが、前記減速時間以下になった際に、前記レーザ装置の前記レーザ光の照射を停止することを特徴とする請求項8記載のガルバノスキャナシステムの制御方法。
【請求項13】
前記パラメータは、前記ガルバノスキャナの移動に関して、加減速区間分の距離が設定されていることを特徴とする請求項8記載のガルバノスキャナシステムの制御方法。
【請求項14】
前記コントローラの中央処理部では、ソフトウェア制御周期でレーザパワー指令、増分値指令またはパワーディレイの少なくとも1つが、レーザ信号生成回路に与えられ、前記レーザ信号生成回路は、自己の制御周期単位で前記レーザパワー指令に対する加算する増分値を演算することを特徴とする請求項8記載のガルバノスキャナシステムの制御方法。
【請求項15】
前記増分値指令は、前記レーザ信号生成回路の分解能で分割され、前記レーザパワー指令が前記レーザ信号生成回路の分解能でステップ上に増加することを特徴とする請求項14記載のガルバノスキャナシステムの制御方法。
【請求項16】
前記ガルバノスキャナの動作開始時または動作停止時に前記レーザ光で加工する際には、レーザパワー指令に加算する増分値を最小分解能値として与えられることを特徴とする請求項8記載のガルバノスキャナシステムの制御方法。
【請求項17】
レーザ信号生成回路に、現在のレーザパワー指令と今回のレーザパワー指令の差分値を前記レーザ信号生成回路の分解能に応じて分割した値をパワー増分値として前記レーザ信号生成回路に与えるとともに、前記レーザ信号生成回路は、レーザ信号生成回路の制御周期毎に前記パワー増分値をレーザパワー指令に加算してレーザパワー信号を生成し、レーザ発振器に出力するという手順で処理することを特徴とする請求項8記載のガルバノスキャナシステムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−170579(P2008−170579A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2066(P2007−2066)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】