説明

ガンマ−ヘレグリン

【課題】ヘレグリンスーパーファミリーの新規な成員を同定する。
【解決手段】ヘレグリンスーパーファミリーの新規な成員が同定され、”γ−HRG”と命名された。この分子は、ヒトの肺癌MDA−MB−175細胞から分泌され、構造 性活性レセプター複合体の形成を促し、オートクライン的方法でこれらの細胞の成長を刺激する。γ−HRGポリペプチド及び核酸が、その多くの用途(例え ば、γ−HRGの組み換え生産のためのγ−HRG核酸の使用)ともに開示される。γ−HRGアンタゴニスト(例えば、中和抗体及びアンチセンス核酸分子) 並びにその用途も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、従来同定されていたヘレグリン(heregulins)に存在しなかった独特のN末端ドメインを有するヒト乳ガンMDA−MB−175細胞によって分秘されるガンマ−ヘレグリン(γ−HRG)と称される新規のヘレグリンポリペプチドの発見に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の成長と分化を制御するシグナルの形質導入は、種々の細胞性タンパクのリン酸化によって部分的に制御される。プロテインチロシンキナーゼは、この工程を触媒する酵素である。レセプタープロテインチロシンキナーゼは、細胞内基質のリガンド刺激チロシンリン酸化を介して細胞成長を方向付けると信じられている。クラスIサブファミリーの成長因子レセプタープロテインチロシンキナーゼは、ErbB1遺伝子によってコードされる170kDa表皮成長因子レセプター(EGFR)を含む。ErbB1は、ヒトの悪性腫瘍の原因として関係してきた。特に、この遺伝子の発現の増大は、乳房、膀胱、肺および胃のより活発的なガンに観察されてきた。
【0003】
クラスIサブファミリーの第二のメンバー、p185neuは、始めは、化学的に処置されたラットの神経芽腫の形質転換遺伝子の産物として同定された。neu遺伝子(ErbB2およびHER2とも呼ばれる)は、185kDaのレセプタ−プロテインチロシンキナーゼをコードする。ヒトHER2遺伝子の増幅および/または過剰発現は、乳房および卵巣癌の予後とわずかな関係がある(Slamonら,Science 235:177-182(1987);およびSlamonら,Science 244:707-712(1989))。HER2の過剰発現は、胃、子宮内膜、唾液腺、肺、腎臓、大腸および膀胱のガンを含む他のガンと関係づけられてきた。従って、Slamonらは米国特許第4968603号において、腫瘍細胞におけるHER2遺伝子の増幅または発現を調べるための種々の診断アッセイを記載し、クレームしている。Slamonらは、腫瘍細胞におけるHER2ガン遺伝子の多数の(multiple)遺伝子コピーの存在が、疾患が主な腫瘍部位を越えて広がるらしいこと、並びに、それゆえ別な方法で他の診断因子によって示唆される場合より、活発な処置を必要とすることを示唆することを見出した。Slamonらは、リンパ節の状態の測定に加えてHER2遺伝子増幅試験が、大いに改良された予後の有益を提供すると結論した。
【0004】
ErbB3またはHER3と称されるさらなる関連遺伝子についても記載されてきた。米国特許第5183884号;Krausら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:9193-9197(1989);欧州特許出願第444961号公報;およびKrausら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:2900-2904(1993)を参照。Krausら(1989)は、顕著に土昇したレベルのErbB3 mRNAが、あるヒト乳腺腫瘍細胞系に存在し、ErbB1およびErbB2に似たErbB3が、ヒトの悪性腫瘍においてある役割を演じるかもしれないことを示唆することを見出した。また、Krausら(1993)は、キメラEGFR/ErbB3レセプターのErbB3触媒ドメインのEGF−依存性活性化が、感染したNIH−3T3細胞における増殖反応を起こす結果となることを示した。さらに、これらの研究者は、あるヒトの乳腺腫瘍細胞系が、安定した状態のErbB3チロシンリン酸化の顕著な上昇を示し、このレセプターがヒトの悪性腫瘍においてある役割を演じるかもしれないことを示唆することを証明した。ガンにおけるErbB3の役割は、第三者によって探求されてきた。乳房(Lemoineら,Br.J.Cancer 66:1116-1121(1992))、胃腸(Pollerら,J.Pathol.168:275-280(1992),Rajkumer ら,J.Pathol.170:271-278(1993),およびSanidasら,Int.J.Cancer 54:935-940(1993))、および膵臓のガン(Lemoineら,J.Pathol.168:269-273(1992),およびFriess ら,Clinical Cancer Research 1:1413-1420(1995))において過剰発現されることが見出されてきた。
【0005】
成長因子レセプタープロテインチロシンキナーゼのクラスIサブファミリーはHER4/Erb4レセプターを含むようにさらに広げられてきた。欧州特許出願第599274号;Plowmanら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90;1746-1750(1993);およびPlowmanら,Nature 366:473-475(1993)を参照。Plowmanらは、増大したHER4の発現が、乳房の腺癌を含む上皮由来のある癌腫と密接に関連することを見出した。HER4の発現を評価するヒトの腫瘍性状態(特に乳ガン)の検出のための診断方法が、欧州特許出願第599274号に記載されている。
【0006】
HER2癌遺伝子の活性化物質の探求により、ヘレグリンポリペプチドのファミリーを発見するに至った。これらのタンパクは、Orr-Urtreger ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:1867-1871(1993)によるヒト染色体8の短腕(the short arm)にマップされた単一の遺伝子の択一的スプライシング(alternate splicing)から得られるらしい。
【0007】
Holmesらは、彼らがヘレグリン−α(HRG−α)、ヘレグリン−β1(HRG−β1)、ヘレグリン−β2(HRG−β2)、ヘレグリン−β2様(HRG−β2−like)およびヘレグリン−β3(HRG−β3)と称するHER2レセプターのポリペプチド活性化物質のファミリーを単離およびクローン化した。Holmesら,Science256:1205-1210(1992);国際公開92/20798号;および米国特許第5367060号を参照。45kDaのポリペプチド、HRG−αが、MDA−MB−231ヒト乳ガン細胞系のならし培地から精製された。これらの研究者は、MCF7乳房腫瘍細胞のHER2レセプターのチロシンリン酸化を活性化するという、精製されたヘレグリンポリペプチドの能力を証明した。さらに、SK−BR−3細胞(高レベルのHER2レセプターを示す)へのヘレグリンポリペプチドの分裂促進活性(the mitogenic activity)が例証された。EGFファミリーに属する他の成長因子のように、可溶性HRGポリペプチドは、タンパク分解的に処理されて45kDaの可溶性形態を放出する膜結合前駆体(プロHRG(pro-HRG)と称される)から誘導されると思われる。これらのpro−HRGは、N末端シグナルペプチドを欠く。
ヘレグリンは最初の213アミノ酸残基において実質的に同一であるが、C末端部位において異なる二つの種々のEGF様ドメインに基づいて、αとβの二つの主要なタイプにクラス分けされる。それにも拘わらず、これらのEGF様ドメインは、それに含まれる6つのシステイン残基の間隔が同じである。アミノ酸配列の比較に基づいて、Holmesらは、EGF様ドメインの最初と6番目のシステインとの間において、HRGがヘパリン結合EGF様成長因子(HB−EGF)に45%類似し、アンビレグリン(amphiregulin)(AR)に35%同一、TGF−αに32%同一、およびEGFに27%同一であることを見出した。
【0008】
ヒトのHRGのラット等価物である、44kDaのneu分化因子(NDF)が、Pelesら,Cell,69:205-216(1992);およびWenら,Cell,69:559-572(1992)によって最初に記載された。HRGポリペプチドのように、NDFはEGF様ドメインが続くイムノグロブリン(Ig)相同ドメインを備え、N末端シグナルペプチドを欠く。次に、Wen ら,Mol.Cell.Biol.,14(3):1909-1919(1994)は、“エグゾ−スティブ・クローニング(exhaustive cloning)”を行って、NDFのファミリーを広げた。この研究は、6つの別個の繊維芽細胞系pro−NDFを示した。Holmesらの命名を採用すれば、NDFはEGF様ドメインの配列に基づいてαまたはβポリペプチドのいずれかのように分類される。1から4までのイソ型タンパク質は、ジャスタメンブレン・ストレッチ(justamembrane stretch)(EGF−様ドメインとトランスメンブレンとの間)を基準として特徴決定される。また、イソ型タンパク質a、bおよびcは、種々の長さの細胞質ドメインを有することが記載されている。これらの研究者は、種々のNDFイソ型タンパク質が択一的スプライシングによって生成され、別個の組織特異的機能を行うと結論してしている。NDFに関する欧州特許第505148号;国際公開第93/22424号;および国際公開第94/28133も参照。
【0009】
Fallsら,Cell,72:801-815(1993)は、彼らがアセチルコリンレセプター誘導活性(ARIA)ポリペプチドと称するヘレグリンファミリーの他のメンバーについて記載する。チキン由来のARIAポリペプチドは、筋肉のアセチルコリンレセプターの合成を刺激する。国際公開第94/08007号も参照。ARIAはβ-型ヘレグリンであり、HRGαおよびHRGβ1−β3のIg−様ドメインとEGF−様ドメインとの間の糖化部位に富んだ完全なスペーサー領域を欠く。
【0010】
Marchionniら,Nature,362:312-318(1993)は、彼らがグリア成長因子(glial growth factors)(GGF)と称するいくつかのウシ由来タンパクを同定した。これらのGGFは、Ig−様ドメインとEGF−様ドメインを上記の他のヘレグリンタンパクと共有するが、アミノ末端クリングルドメインも有する。GGFは一般的に、Ig−様ドメインとEGF−様ドメインとの間に完全なグリコシル化スペーサー領域を持たない。GGFのうちのたった一つであるGGFIIが、N末端シグナルペプチドを有する。GGFとその使用に関する国際公開第92/18627;国際公開第94/00140;国際公開第94/04560;国際公開第94/26298;および国際公開第95/32724も参照。
【0011】
Hoらは、J.Biol.Chem.270(4):14523-14532(1995)において、感覚および運動性のニューロン誘導因子(sensory and motor neuron-derived factor)(SMDF)と称されるヘレグリンファミリーの別のメンバーを記載する。このタンパクは、別個のN末端ドメインではなく、他の全てのヘレグリンポリペプチドに特有のEGF−様ドメインを備えている。SMDFと他のヘレグリンポリペプチドとの間の主な構造上の差異は、SMDFのIg−様ドメイン、および他の全てのヘレグリンポリペプチドに特有の“グリコ(glyco)”スペーサーが欠如していることである。SMDFの別の特徴は、N末端近くの疎水性アミノ酸の二つのストレッチ(stretches)の存在である。
【0012】
ヘレグリンポリペプチドは、HER2レセプターを活性化する能力に基づいて最初に同定され(Holmesら,上掲)、neuを発現するある卵巣細胞およびneu-移入繊維芽細胞が、NDFに結合も架橋結合もしないか、あるいはNDFに反応せずにチロシンリン酸化を行わないことが見出された(Peles ら,EMBO J.12:961-971(1993))。これは、他の細胞性成分が、完全なヘレグリンの反応を与えるのに必要であることを示唆した。Carrawayらは、続いて、125I−rHRGβ1177-244が、ウシErbB3が安定に移入されたNIH−3T3繊維芽細胞に結合し、形質移入されていない親細胞には結合しないことを証明した。従って、ErbB3がHRGのレセプターであること、内在性チロシン残基のリン酸化並びに両方のレセプターを発現する細胞のErbB2レセプターのリン酸化を仲介すると結論した。Carawayら,J.Biol.Chem.269(19):14303-14306(1994)、Sliwkowskiら,J.Biol.Chem.269(20):14661-14665(1994)は、HER3のみが移入された細胞が、ヘレグリンに対して低い親和性を示す一方、HER2およびHER3の両方が移入された細胞が高い親和性を示すことを見出した。
【0013】
この観察は、Kokaiら,Cell 58:287-292(1989);Sternら,EMB0 J.7:995-1001(1988);およびKingら,4:13-18(1989)によって先に記載された“receptor cross-talking”と関連する。これらの研究者は、EGFRに対するEGFの結合によりEGFRキナーゼドメインおよびp185HER2のクロスリン酸化(cross phosphorylation)の活性化を生じることを見出した。これは、リガンド誘発レセプターヘテロダイマー化と、付随したヘテロダイマー内におけるレセプターのクロスリン酸化の結果であると信じられている(Wadaら,Cell 61:1339-1347(1990))。
【0014】
Plowmanと彼の同僚は、p185HER4/p185HER2活性化について同様に研究した。彼らは、p185HER2のみ、p185HER4のみ、もしくは二つのレセプターを共に、ヒトのTリンパ球において表し、ヘレグリンがp185HER4のチロシンリン酸化を刺激しうることを証明したが、両方のレセプターを表す細胞におけるp185HER2リン酸化を刺激することのみ可能であった。Plowmanら,Nature 336:473-475(1993)。しかして、ヘレグリンは、いくつかのレセプターと相互作用し得るEGF成長因子のメンバーの唯一知られた例である。CarrawayとCantley,Cell 78:5-8(1994)。
【0015】
ヘレグリンの生物学的役割がいくつかのグループによって調べられた。例えば、Fallsら(上述)は、ARIAが筋管の分化においてある役割を演じること、すなわち運動ニューロンのシナプス後の筋細胞におけるニューロトランスミッターレセプターの合成および濃縮に影響を及ぼすことを見出した。 CorfasとFischbachは、ARIAがニワトリの筋肉におけるナトリウムチャネルの総数を増加することも示した。CorfasとFischbach,J.Neuroscience,13(5):2118-2125(1993)。GGFIIがサブコンフルエント静止状態ヒト筋芽細胞(subconfluent quiescent human myoblasts)の分裂促進性であること、並びにGGFIIの連続的存在下におけるクローン化されたヒト筋芽細胞の分化により、6日間分化した後に多数の筋管を生じることも示した(Sklarら,J.Cell Biochem.,Abst.W462,18D,540(1994))。1994年11月24日に公開された国際公開第94/26298号
も参照。
【0016】
Holmesらは、上述したように、HRGが、哺乳動物細胞系に分裂促進効果を発揮することを見出した(SK−BR−3およびMCF−7など)。Schwann細胞におけるGGFsの分裂促進活性も報告されている。例えばBrockesら,J.Biol.Chem.255(18):8374-8377(1980);LemkeとBrockes,J.Neurosci.4:75-83(1984);Brockesら,J.Neuroscience 4(1):75-83(1984);Brockesら,Ann.Neurol.20(3):317-322(1986);Brockes,J.,Methods in Enzym.,147:217-225(1987)およびMarchionniら,上掲。Schwann細胞は、ニューロンの軸索の周りのミエリン鞘を提供する重要なグリア細胞を構成し、それゆえ個々の神経繊維を形成する。しかして、Schwann細胞が末梢神経の発達、機能および再生において重要な役割を演じることは明らかである。治療的見地からこの意味は、Leviら,J.Neuroscience 14(3):1309-1319(1994)に向けられてきた。Leviらは、傷を受けた脊髄の領域に移植されうるヒトSchwann細胞を含む細胞性人工器官の構成の可能性を議論している。Schwann細胞をex vivoで培養する方法が記載されている。国際公開第94/00140号およびLiら,J.Neuroscience 16(6):2012-2019(1996)を参照。
【0017】
Pinkas-Kramarskiらは、NDFが、胎児および成体のラットの脳のニューロンおよびグリア細胞、並びにラットの脳細胞の一次培養において示されるらしいことを見出し、星状細胞の生存および成熟ファクターとして作用するかもしれないことを示唆した(Pinkas-Kramarskiら,PNAS,USA 91:9387-9391(1994))。MeyerとBirchmeier,PNAS,USA91:1064-1068(1994)は、in situハイプリダイゼーションとRNアーゼ保護研究を用いて、マウス胚形成および周産期の動物におけるヘレグリンの発現を分析した。これらの著者は、この分子の発現に基づいて、ヘレグリンが、間葉およびニューロンのファクターとしてin vivoにおいて役割を演じると結論した。また、かれらの知見は、ヘレグリンが上皮の発達において作用することを暗示している。同様に、Danilenkoら,Abstract 3101,FASEB 8(4-5):A535(1994)は、NDFとHER2レセプターの相互作用が、傷の修復の間における表皮移動および分化の指揮において重要であることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4968603号
【特許文献2】米国特許第5183884号
【特許文献3】欧州特許出願第444961号公報
【特許文献4】欧州特許出願第599274号
【特許文献5】欧州特許出願第599274号
【特許文献6】国際公開92/20798号
【特許文献7】米国特許第5367060号
【特許文献8】欧州特許第505148号
【特許文献9】国際公開第93/22424号
【特許文献10】国際公開第94/28133
【特許文献11】国際公開第94/08007号
【特許文献12】国際公開第92/18627
【特許文献13】国際公開第94/00140
【特許文献14】国際公開第94/04560
【特許文献15】国際公開第94/26298
【特許文献16】国際公開第95/32724
【特許文献17】国際公開第94/26298号
【特許文献18】国際公開第94/00140号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Slamonら,Science 235:177-182(1987)
【非特許文献2】Slamonら,Science 244:707-712(1989
【非特許文献3】Krausら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:9193-9197(1989)
【非特許文献4】Krausら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:2900-2904(1993)
【非特許文献5】Lemoineら,Br.J.Cancer 66:1116-1121(1992)
【非特許文献6】Pollerら,J.Pathol.168:275-280(1992)
【非特許文献7】Rajkumer ら,J.Pathol.170:271-278(1993)
【非特許文献8】Sanidasら,Int.J.Cancer 54:935-940(1993)
【非特許文献9】Lemoineら,J.Pathol.168:269-273(1992)
【非特許文献10】Friess ら,Clinical Cancer Research 1:1413-1420(1995)
【非特許文献11】Plowmanら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90;1746-1750(1993)
【非特許文献12】Plowmanら,Nature 366:473-475(1993)
【非特許文献13】Orr-Urtreger ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:1867-1871(1993)
【非特許文献14】Holmesら,Science256:1205-1210(1992)
【非特許文献15】Pelesら,Cell,69:205-216(1992)
【非特許文献16】Wenら,Cell,69:559-572(1992)
【非特許文献17】Wen ら,Mol.Cell.Biol.,14(3):1909-1919(1994)
【非特許文献18】Fallsら,Cell,72:801-815(1993)
【非特許文献19】Marchionniら,Nature,362:312-318(1993)
【非特許文献20】J.Biol.Chem.270(4):14523-14532(1995
【非特許文献21】Peles ら,EMBO J.12:961-971(1993)
【非特許文献22】Carawayら,J.Biol.Chem.269(19):14303-14306(1994)
【非特許文献23】Sliwkowskiら,J.Biol.Chem.269(20):14661-14665(1994)
【非特許文献24】Kokaiら,Cell 58:287-292(1989)
【非特許文献25】Sternら,EMB0 J.7:995-1001(1988)
【非特許文献26】Kingら,4:13-18(1989)
【非特許文献27】Wadaら,Cell 61:1339-1347(1990)
【非特許文献28】Plowmanら,Nature 336:473-475(1993)
【非特許文献29】CarrawayとCantley,Cell 78:5-8(1994)
【非特許文献30】CorfasとFischbach,J.Neuroscience,13(5):2118-2125(1993)
【非特許文献31】Sklarら,J.Cell Biochem.,Abst.W462,18D,540(1994)
【非特許文献32】Brockesら,J.Biol.Chem.255(18):8374-8377(1980)
【非特許文献33】LemkeとBrockes,J.Neurosci.4:75-83(1984)
【非特許文献34】Brockesら,J.Neuroscience 4(1):75-83(1984)
【非特許文献35】Brockesら,Ann.Neurol.20(3):317-322(1986)
【非特許文献36】Brockes,J.,Methods in Enzym.,147:217-225(1987)
【非特許文献37】Leviら,J.Neuroscience 14(3):1309-1319(1994)
【非特許文献38】Liら,J.Neuroscience 16(6):2012-2019(1996)
【非特許文献39】Pinkas-Kramarskiら,PNAS,USA 91:9387-9391(1994)
【非特許文献40】MeyerとBirchmeier,PNAS,USA91:1064-1068(1994)
【非特許文献41】Danilenkoら,Abstract 3101,FASEB 8(4-5):A535(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、新規のγ−HRGポリペプチドおよび核酸の発見に関する。この分子は、ヒト乳ガンMDA−MB−175細胞によって分泌され、構成的な活性レセプター複合体の形成を導き、自己分泌によりこれらの細胞の成長を刺激する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
従って、本発明は、単離されたγ−HRGポリペプチドを提供する。このγ−HRGポリペプチドは、好ましくは実質的に均質であり、天然配列ポリペプチド(例えば図1のヒトγ−HRG)および変異体γ−HRG(例えばキメラγ−HRG)からなる群から選択されても良い。さらに、γ−HRGポリペプチドは、哺乳動物(例えばヒト)から単離されたポリペプチド、組換え手段で作成されたポリペプチド、並びに合成手段で作成されたポリペプチドからなる群から選択されてもよい。従って、ポリペプチドは、天然グリコシル化と無関係であっても、また完全にグリコシル化されていなくてもよい。好ましい実施態様において、単離されたγ−HRGは、SEQ ID NO:2のヒトγ−HRGのエフェクター機能を所有し、(a)SEQ ID NO:2の完全なヒトγ−HRGのアミノ酸配列;(b)天然に生じる(a)の配列以外の動物種由来の完全なγ−HRGのアミノ酸配列:(c)天然に生じる(a)または(b)の対立性変異体またはイソ型タンパク質;および(d)一または二のアミノ酸のみが置換した(a)、(b)または(c)のアミノ酸配列からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む。
【0022】
本発明は、さらにγ−HRGおよび薬学的に許容できるキャリアーを含む組成物(好ましくは無菌のもの)を提供する。この組成物は、ErbBレセプター(活性化されるErbBレセプターと同じでも異なっても良い)を発現する細胞をγ−HRGポリペプチドと接触させる工程を含むErbBレセプターを活性化する方法において用いられても良い。この方法は、例えば細胞が細胞培養中であるようなin vitroであってもよく、または、細胞が哺乳動物中(例えば、ErbBレセプター活性化から利益を得ることができる患者)に存在するようなin vivoであってもよい。別の実施態様において、本発明は、細胞をγ−HRGポリペプチドと接触させる工程を含む細胞(特に、細胞表面にErbBレセプターを発現する細胞)の増殖、分化もしくは生存を増幅するin vitroまたはin vivoの方法を提供する。その細胞は、例えば、グリア細胞または筋細胞であってもよい。さらに、本発明は、ErbBレセプターを含むことが疑われるサンプルをγ−HRGポリペプチド(例えば、ラベルされたγ−HRG)と接触させ、結合が生じたかどうかを検出する工程を含む、ErbBレセプターを検出する方法を提供する。この方法では、ガン患者(例えば、乳ガンまたは卵巣ガン)の予後を測定するためのアッセイが提供される。
【0023】
γ−HRGは、他のヘレグリンに存在しない独特のN末端ドメイン(NTD)を備えている。このNTDとその断片(その上NTDまたはその断片をコードする核酸も)は、例えば、γ−HRGを検出および生成するための抗NTD抗体、および核酸プローブのような、γ−HRG−特異的試薬の生成に特に使用できると考えられる。従って、本発明は、SEQ ID NO:4のγ−HRGN-末端ドメイン(NTD)の少なくとも30アミノ酸の連続した配列を含む単離されたポリペプチド、あるいはSEQ ID NO:4の完全なγ−HRGN-末端ドメイン(NTD)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供する。
【0024】
NTD特異的抗体は、とりわけ、γ−HRGを含むことが疑われるサンプルとその抗体(任意にラベルされる)とを接触させ、結合が生じたかどうかを検出する工程を含むγ−HRGを検出する方法において用いられても良い。また、この抗体は、γ−HRGを含む混合物を、抗体が結合する固相上を通過させ、γ−HRGを含む画分を回収する工程を含む、γ−HRGを精製する方法において使用されてもよい。
【0025】
γ−HRGのNTDをコードする核酸は、テストサンプル(例えば、ガンを有する、あるいはガンに罹りやすいことが疑われる哺乳動物に由来の)中のγ−HRGをコードする核酸分子の存在を検出するために使用されてもよく、テストサンプルと単離された核酸とを接触することを含み、かつ単離された核酸がテストサンプル中の核酸分子とハイブリダイズするか否かを調べることを含む。また、γ−HRGのNTDをコードする核酸は、γ−HRGに一致する実体配列を有する核酸を同定および単離するためにハイプリダイゼーションアッセイにおいて用いることもできる。さらなる実施態様において、このNTDをコードする核酸は、テストサンプル中のγ−HRGをコードする核酸分子を増幅するためのポリメラーゼチェーン反応においてプライマーとして用いることもできる。
【0026】
また本発明は、in vitroまたはin vivoのいずれかでγ−HRG生成および/または生物学的活性をブロックすることが望ましい方法に使用するためのγ−HRG−特異的アンタゴニストを提供する。あるタイプのアンタゴニストは、γ−HRGのNTDに特異的に結合する中和抗体である。別のタイプのアンタゴニストは、アンチセンス核酸分子であり、例えば、NTDをコードする核酸配列に相補的であり、MDA−MB−175細胞によるγ−HRGポリペプチドの生成を減少しうる分子である。
【0027】
別の態様において、本発明は、γ−HRGをコードする単離された核酸分子(および単離されたアンチセンス核酸分子;上記参照)を提供する。例えば、核酸分子は、(a)SEQ ID NO:1の完全なγ−HRGのコード領域のヌクレオチド配列を含む核酸;(b)遺伝暗号の縮退の範囲内で(a)の配列に対応する核酸;および(c)適度に厳密な条件下でSEQ ID NO:2のヒトγ−HRGのN末端ドメイン(NTD)をコードするDNAに相補的なDNAにハイブリダイズし、SEQ ID NO:2のヒトγ−HRGのエフェクター機能を有するポリペプチドをコードする核酸からなる群から選択されても良い。単離された核酸分子は、任意に、操作により連結されたプロモーターをさらに含む。
【0028】
他の実施態様では、本発明は、核酸分子(例えば、ベクターを用いて形質転換された宿主細胞によって認識されたコントロール配列に操作により連結された核酸分子を含む発現ベクター);核酸分子を含む宿主細胞:および宿主細胞を培養し、かつ細胞培養からγ−HRGを回収する工程を含むγ−HRGの生成を果たすためにγ−HRGをコードする核酸分子を用いる方法を提供する。また、単離された核酸は、in vivoまたはex vivo遺伝子治療において使用されても良い。
【0029】
形質転換された宿主細胞におけるγ−HRGの生成に代わるものとして、本発明は、(a)増幅可能な遺伝子と少なくとも約150塩基対の隣接配列を含む、内在性γ−HRG遺伝子内またはそれに近接するDNA配列と相同である相同的DNAを用いて内在性γ−HRG遺伝子を含む細胞を形質転換し、しかして組換えにより、この相同的DNAが細胞ゲノムに組み込まれ;(b)増幅可能な遺伝子の増幅のために選定された条件下で細胞を培養し、それによってγ−HRG遺伝子も増幅され;そしてその後(c)細胞からγ−HRGを回収することを含むγ−HRGの生成方法を提供する。
【0030】
さらに本発明は、治療に有効な量のγ−HRGを哺乳動物に投与することを含む哺乳動物の処置方法を提供する。例えば、哺乳動物は神経学的または筋の疾患を患っていてもよい。逆に言えば、本発明は、治療に有効な量のγ−HRGアンタゴニストを哺乳動物に投与することを含む哺乳動物の処置方法を提供する。この後者の場合の哺乳動物は、γ−HRGレベル/生物学的活性の減少から利益を受けることができる者である(例えば、ガン)。
【0031】
本発明の上記または他の態様は、以下の詳細な記載を参酌することにより当業者にとって明らかなものとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1A】図1は、 γ−HRGのcDNA(SEQ ID NO:1)および推測されるアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)を図示する。疎水性領域に下線が付されている。EGF様ドメインには陰が付され、EGF様ドメインのシステイン残基が囲まれている。N連結グリコシル化部位は、核酸配列の上に(・)が付されている。
【図1B】図1は、 γ−HRGのcDNA(SEQ ID NO:1)および推測されるアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)を図示する。疎水性領域に下線が付されている。EGF様ドメインには陰が付され、EGF様ドメインのシステイン残基が囲まれている。N連結グリコシル化部位は、核酸配列の上に(・)が付されている。
【図1C】図1は、 γ−HRGのcDNA(SEQ ID NO:1)および推測されるアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)を図示する。疎水性領域に下線が付されている。EGF様ドメインには陰が付され、EGF様ドメインのシステイン残基が囲まれている。N連結グリコシル化部位は、核酸配列の上に(・)が付されている。
【図2】図2は、異なるHRGイソ型タンパク質の図式的な比較である。囲みは種々のHRGイソ型タンパク質の主な構造モチーフを示す。γ−HRGの構造上の特徴は、HRGβ、SMDFおよびGGFと比較されている。EGF様ドメイン(EGF)はブラックボックスとして示されている。ジャクスタメンブレン(juxtamembrane)(番号が付されている)、トランスメンブレン(TM)領域および細胞質ドメインが、別個の枠として記載されている。グリコシル化されたスペーサードメイン(Spacer domain)は、γ−HRG、HRGβおよびSMDFにおけるIg様ドメイン(Ig domain)とEGF様ドメインとを分ける。γ−HRGの特有のN末端配列に縞模様が付されている。HRGβ、SMDFおよびGGFのN末端領域は、分けて陰が付されている。GGFは、N末端領域にクリングル様モチーフ(kringle)およびシグナルペプチド配列(SP)を有する。
【図3】図3は、未標識のγ−HRGと結合した125I−rHRGβ1(177-244)の置換曲線である。ErbB3−またはErbB4−免疫付着因子が、125I−rHRGβ1(177-244)(0.23nM)および種々の量のγ−HRGとインキュベートされた。
【図4】図4Aおよび4Bは、MDA−MB−175(図4A)およびSK−BR−3(図4B)細胞の増殖における2C4、4D5およびErbB4免疫付着因子の効果を示す。MDA−MB−175およびSK−BR−3細胞は、96ウェルプレートにまかれ、2時間付着された。実験は、1%の血清を含む媒体中で行われた。抗ErbB2抗体、ErbB4免疫付着因子(H4−IgG)または媒体のみが添加され、細胞が2時間37℃でインキュベートされた。次いで、H4−IgG効果を中和するためにrHRGβ1(1nM)または100nMのrHRGβ1、もしくは媒体のみが添加され、細胞が4日間インキュベートされた。単層が洗浄され、0.5%クリスタルバイオレットで染色/固定された。細胞増殖を調べるために、吸収を540nmで測定した。
【図5A】図5Aは、実施例に同定されたγ−HRGイソ型タンパク質(クローン20)の部分的アミノ酸配列(SEQ ID NO:10)を伴うγ−HRGアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)の配列である。
【図5B】図5Bは、実施例に同定されたγ−HRGイソ型タンパク質(クローン20)の部分的アミノ酸配列(SEQ ID NO:10)を伴うγ−HRGアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)の配列である。
【図6A】図6Aは、実施例で同定されたγ−HRGイソ型タンパク質(クローン20)の部分的ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:11)を伴うγ−HRG核酸配列(SEQ ID NO:1)の配列である。
【図6B】図6Bは、実施例で同定されたγ−HRGイソ型タンパク質(クローン20)の部分的ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:11)を伴うγ−HRG核酸配列(SEQ ID NO:1)の配列である。
【図6C】図6Cは、実施例で同定されたγ−HRGイソ型タンパク質(クローン20)の部分的ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:11)を伴うγ−HRG核酸配列(SEQ ID NO:1)の配列である。
【図6D】図6Dは、実施例で同定されたγ−HRGイソ型タンパク質(クローン20)の部分的ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:11)を伴うγ−HRG核酸配列(SEQ ID NO:1)の配列である。
【図6E】図6Eは、実施例で同定されたγ−HRGイソ型タンパク質(クローン20)の部分的ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:11)を伴うγ−HRG核酸配列(SEQ ID NO:1)の配列である。
【図6F】図6Fは、実施例で同定されたγ−HRGイソ型タンパク質(クローン20)の部分的ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:11)を伴うγ−HRG核酸配列(SEQ ID NO:1)の配列である。
【図6G】図6Gは、実施例で同定されたγ−HRGイソ型タンパク質(クローン20)の部分的ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:11)を伴うγ−HRG核酸配列(SEQ ID NO:1)の配列である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
I.定義
一般的に、以下の語句または成句は、詳細な説明、実施例、およびクレームにおいて用いられた場合に、示された定義を有する。
他に示さなければ、用語“ErbB”はここで用いられる場合に、いずれか一つまたはそれ以上の哺乳動物のErbBレセプター(すなわち、ErbB1または表皮成長因子(EGF)レセプター;ErbB2またはHER2レセプター;
ErbB3またはHER3レセプター;ErbB4またはHER4レセプター;
および今後同定されるべきこのクラスIチロシンキナーゼファミリーの別のメンバー)を指し、かつ、“erbB”は、これらのレセプターをコードする哺乳動物のErbB遺伝子を指す。
【0034】
“γ−HRG”(または“ガンマ−ヘレグリン”)は、SEQ ID NO:2の天然配列γ−HRGの少なくとも一つの生物学的特性(以下に定義)を有するあらゆるポリペプチド配列であるとここに定義される。この定義は、ヒトMDA−MB−175細胞のような天然γ−HRG源もしくは他の動物種のような別の起源から単離されたポリペプチドだけでなく、組換え又は合成方法によって調製されたポリペプチドも含む。それは、機能的誘導体、対立変異体、天然に生じるイソ型タンパク質およびその類似体を含む種々の形態をも含む。時として、γ−HRGは、哺乳動物から単離された内在性γ−HRGポリペプチドと称する“天然γ−HRG”である。γ−HRGは、天然γ−HRG(例えば図1に示されたヒトγ−HRG)と同じアミノ酸配列を備える限りにおいて、“天然配列γ−HRG”とすることもできる。しかしながら、“天然配列γ−HRG”は、組換え又は合成手段によって生成されるポリペプチドを含む。“完全なγ−HRG”は、細胞から放出された可溶性または分泌されたγ−HRGである(すなわち、アミノ末端配列を欠く)。γ−HRG“イソ型タンパク質”は、γ−HRGの少なくとも一部のN末端ドメイン(以下参照)を含む天然に生じるポリペプチドである。γ−HRGイソ型タンパク質の例は、以下の実施例に記載されている。
【0035】
任意に、γ−HRGは、天然グリコシル化と無関係である。“天然グリコシル化”は、天然γ−HRGが誘導される哺乳動物細胞において生成される際に、天然γ−HRGに共有結合している炭水化物分子を指す。従って、非ヒト細胞において生成されたヒトγ−HRGは、例えば天然グリコシル化と関係がないように記載することができる。時として、γ−HRGは、グリコシル化とは何ら関係がない(例えば、原核生物において組み換えにより生成された結果)。
【0036】
γ−HRGは、このタンパク質を上述したヘレグリンポリペプチドから区別する特有のアミノ末端ドメインを有する。これは、ここでは“N末端ドメイン”または“NTD”と称される(すなわち、図1の約残基1から約残基560;SEQ ID NO:3の核酸配列によってコードされたSEQ ID NO:4)。
【0037】
“完全な”NTDは、細胞表面から放出されたNTDである。しかしながら、表現“NTD”は、図1に記載されたNTDの機能的均等物を含む。
【0038】
用語“γ−HRG変異体”は、図1のγ−HRG配列のNまたはC末端、もしくは内部に一つ以上のアミノ酸残基が付加され;一つ以上のアミノ酸残基が削除され、かつ任意に一つ以上のアミノ酸残基で置換されたγ−HRGポリペプチド;並びに一つのアミノ酸残基が共有結合的に修飾されて得られた生成物が非自然発生的なアミノ酸を備えている上記ポリペプチドの誘導体を含む。通常は、生物学的に活性なγ−HRG変異体は、図1のアミノ酸配列に“実質的に相同”であり、それゆえ一般的には図1に示されたヒトγ−HRGと少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約75%、さらに好ましくは少なくとも約80%、そしてさらに好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%のアミノ酸配列の同一性を備えるアミノ酸配列を備えるだろう。
【0039】
γ−HRG変異体のあるタイプは、“γ−HRGフラグメント”であり、一つ以上のアミノ酸残基または炭水化物単位が削除された天然に生じる全長のγ−HRG配列の一部である。アミノ酸残基の削除は、N末端またはC末端のいずれかもしくは内部を含むポリペプチドのどこに生じても良い。フラグメントは通常、γ−HRGと共通する少なくとも一つの生物学的特徴を有する。γ−HRGフラグメントは、γ−HRGのNTDの少なくとも20、30、40、50または100アミノ酸残基の連続した配列を備えるであろう。好ましいフラグメントは、SEQ ID NO:2のヒトγ−HRGの配列に同一な約30−150残基を備えている。
【0040】
別のタイプのγ−HRG変異体は、“キメラγ−HRG”であり、この用語は、異種のポリペプチドに融合または結合された全長のγ−HRGまたはその断片を含むポリペプチドを含む。キメラは、通常は、γ−HRGと共通する少なくとも一つの生物学的特徴を有するだろう。キメラγ−HRGの例は、免疫付着因子およびエピトープのタグが付されたγ−HRGを含む。他の実施態様において、異種のポリペプチドはチオレドキシン、サルベージレセプター結合エピトープ、細胞毒性ポリペプチドまたは酵素である(例えば、プロドラッグを活性試薬に変えるもの)。
【0041】
用語“免疫付着因子”は、表現“γ−HRG−イムノグロブリンキメラ”と交換可能に用いられ、γ−HRGの生物学的に活性な部位とイムノグロブリン配列とを組み合わせるキメラ分子を指す。イムノグロブリン配列は、好ましくは、しかしながら必須ではないが、イムノグロブリン定常ドメインである。本発明のキメラのイムノグロプリン分子は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブタイプ、IgA、IgE、IgDまたはIgMから得ても良いが、好ましくはIgG1またはIgG3である。
【0042】
用語“エピトープのタグが付された”は、ここで用いられた場合には、“タグポリペプチド”に融合した完全なγ−HRGまたはそのフラグメントを含むキメラポリペプチドを指す。タグポリペプチドは、それに対して抗体が形成されるエピトープを提供するのに十分であり、さらにγ−HRGの活性と抵触しないように十分短い残基を有する。タグポリペプチドは、それに対する抗体が他のエピトープと実質的に交差反応しないように非常に独特であることが好ましい。適切なタグポリペプチドは、一般的に少なくとも6アミノ酸残基、そして通常は約8−50アミノ酸残基を有する(好ましくは約9−30残基)。
【0043】
ここで用いられる場合、用語“サルベージレセプター結合エピトープ”は、IgG分子のin vivo血清半減期を増大する原因であるIgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)のFc領域のエピトープを指す。
【0044】
ここで用いられる場合、用語“細胞毒性試薬”は、細胞の機能を抑制または阻害および/または細胞の破壊を引き起こす物質を指す。この用語は、放射性同位元素(例えばI、Y、Pr)、化学療法剤、並びに細菌、真菌、植物または動物由来の酵素的活性毒素またはそのフラグメントのような毒素を含むことを意図する。また、この用語は、国際公開第94/22867号に記載されたバイサイクリックアンサミシン(bicyclic ansamycins);EP600832に開示された1,2−ビス(アリールアミノ)安息香酸誘導体;EP600831に開示された6,7−ジアミノ−フタラジン−1−オン(6,7-diamino-phthalazin-1-one)誘導体;EP516598に開示された4,5−ビス(アリールアミノ)−フタリミド(4,5-bis(arylamino)-phthalimide)誘導体;またはSH2−含有基質タンパク質に対するチロシンキナーゼの結合を阻害するペプチド(例えば、国際公開第94/07913号参照)のようなガン遺伝子生成物/チロシンキナーゼ阻害因子を含む。
【0045】
“化学療法剤”は、ガンの処置に使用できる化学的化合物である。化学療法剤の例は、アドリアマイシン、ドキソルビシン、5−フルオロウラシル(5−FU)、シトシンアラビノシド(Ara-C)、シクロホスファミド、チオテパ、バスルファン、シトキシン、タキソール、メトトレキサート、シスプラチン、メルファラン、ビンプラスチン、ブレオマイシン、エトポシド、イホスファミド、マイトマイシンC、マイトキサントロン、ビンクリスチン、VP−16、ビノレルビン、カルボブラチン、テニポシド、ダウノマイシン、カルミノマイシン、アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、ニコチンアミド、エスペラミシン(米国特許第4675187号参照)、メルファランおよび他の関連するナイトロジェンマスタード、並びに内分泌治療(ジエチルスチルベストロール(DES)、タモキシフェン、LHRH拮抗薬、プロゲスチン、抗プロゲスチン等)を含む。
【0046】
本願で用いられる用語“プロドラッグ”は、親薬剤と比較して腫瘍細胞に対して毒性が少なく、酵素学的に活性化され得るかより活性な親形態に変換され得る、薬学的に活性な物質の前駆体または誘導体を指す。本発明のブロドラッグは、より活性な細胞毒性のない薬剤に変換されうる、ホスファート含有プロドラッグ、チオホスファート含有プロドラッグ、スルファート含有プロドラッグ、ペプチド含有プロドラッグ、Dアミノ酸修飾プロドラッグ、グリコシル化プロドラッグ、β−ラクタム−含有プロドラッグ、任意に置換されたフェノキシアセトアミド含有プロドラッグまたは任意に置換されたフェニルアセトアミド含有プロドラッグ、5−フルオロシトシンおよび他の5−フルオロウリジンプロドラッグを含むが、これらに限定されない。本発明で使用するためのプロドラッグ形態に誘導され得る細胞毒性薬剤の例は、上記化学療法剤を含むが、これらに限定されない。
【0047】
“単離されたγ−HRG”、“高度に精製されたγ−HRG”および“実質的に均質なγ−HRG”は交換可能に用いられ、γ−HRG源から精製されるか、組換え又は合成方法によって調製され、かつ、(a)スピニングキャップ配列決定装置、または市販の、あるいは本願出願時に公開されている方法によって修飾された、最も商業的に利用できるアミノ酸配列決定装置を用いることによってN末端または内在性アミノ酸配列の少なくとも15、好ましくは20アミノ酸残基を得るように、あるいは(b)クーマシーブルー、あるいは好ましくは銀染色を用いて非還元または還元条件下でSDS−PAGEによって均質(homogeneity)であるように、他のペプチドまたはタンパク質を十分に含まないγ−HRGを意味する。ここで均質とは、約5%未満の他の起源のタンパクの混入を意味する。
【0048】
“生物学的特徴”は、“γ−HRG”と関連して用いられた場合に、SEQ ID NO:2の天然配列γ−HRGによって直接または間接的に引き起こされるかあるいは行われるエフェクターまたは抗原性の機能または活性を備えることを意味する(その天然、または変性したコンホメーションのいずれにせよ)。
【0049】
“エフェクター機能”は、レセプター活性化(例えば、ErbB2、ErbB3および/またはErbB4レセプターの活性化);一以上のこれらのレセプターを有する細胞(例えば、SK−BR−3細胞、Schwann細胞、肝細胞、グリア芽細胞(glioblastoma cells)、上皮細胞、筋細胞、星状細胞および/または稀突起膠細胞)の生存、分化および/または増殖の増強:レセプター結合(例えば、ErbB2、ErbB3および/またはErbB4レセプター);分裂促進活性;細胞膜にイオンチャネル(例えばNa+チャネル)の形成誘発;神経筋接合部におけるアセチルコリンレセプター合成の誘発;ニューロンと、筋、神経または腺細胞との間のシナプス接合の形成の増幅;エストロゲンレセプターのダウンレギュレーション;および細胞インターナリゼーション(恐らく核局在化と関係するものであろう)を含む。天然配列γ−HRGの根本的なエフェクター機能は、以下の実施例に証明されているもの、すなわちErbB3および/またはErbB4レセプターに結合する能力;ErbBレセプター、例えばErbB2/ErbB3および/またはErbB2/ErbB4レセプター複合体を活性化する能力(チロシンリン酸化アッセイで調べられる);および/または細胞増殖を誘発する能力である。
【0050】
“抗原性機能”は、天然配列γ−HRGの特有のN末端ドメイン(NTD)に対して生じた抗体と交差反応しうるエピトープまたは抗原性部位を具備することを意味し、このような抗体は他の既知のヘレグリンポリペプチドとは意味のある交差反応をしない。γ−HRGポリペプチドの主要な抗原性機能は、γ−HRGのNTDに特異的に結合する抗体に、少なくとも約106L/モルの親和性で結合することである。通常は、このポリペプチドは少なくとも約107L/モルの親和性で結合する。
【0051】
“生物学的に活性”とは、“γ−HRG”と共に用いられた場合には、天然配列γ−HRGのエフェクター機能を示しかつ具備し、さらに抗原性機能を有する(しかし必須ではない)γ−HRGポリペプチドを意味する。
【0052】
“抗原的に活性な”γ−HRGは、γ−HRGの抗原性機能を有し、かつさらにエフェクター機能を有する(しかし必須ではない)ポリペプチドとして定義される。
【0053】
γ−HRG配列に関する“アミノ酸配列の同一性のパーセント”とは、ここでは、配列を直線化し、必要であれば最大のパーセントの配列同一性が得られるようにキャップを導入した後で、配列同一性の一部として伝統的な置換を考慮しないで、図1に記載された推定アミノ酸配列を有するγ−HRG配列における残基と同一の候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。γ−HRG配列にN末端、C末端または内部の、伸長、欠失または挿入のいずれも、配列の同一性または相同性に影響すると解釈されるべきではない。
【0054】
用語“ガン”および“ガン性”とは、制御できない細胞成長によって通常特徴付けされる哺乳動物における生理学上の状態を指し、記載する。ガンの例は、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、および白血病を含むが、これらに限定されない。このようなガンのより特定の例は、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胃ガン、膵臓ガン、グリオブラストーマ(glioblastoma)および神経線維腫症のようなグリア細胞腫瘍、頸部ガン、卵巣ガン、肝臓ガン、膀胱ガン、ヘパトーム、乳ガン、結腸ガン、結腸直腸ガン、子宮内膜ガン、唾液腺ガン、腎臓ガン、腎性のガン、前立腺ガン、外陰部のガン、甲状腺ガン、肝性のガン、および種々の種類の頭および首のガンを含む。
【0055】
“疾患状態の測定”は、腫瘍性疾患、特に乳房、卵巣、胃、子宮内膜、唾液腺、肺、腎臓、結腸および膀胱のガンに対して、患者の生存および再発時間の尤度を測定する行為を指す。特に、γ−HRGは、癌患者から得られたガン性組織におけるErbB(例えば、ErbB2、ErbB3またはErbB4であるが、通常はErbB2)の過剰発現を定量するために用いられる。これは、“ガン患者の処置の適切なコースの決定”としても関連する。例えば、ErbB2過剰発現によって特徴づけられる患者は、他の診断因子によって示唆されるより、より積極的な処置(例えば、化学−または放射線治療)を必要とするかもしれない。
【0056】
この語句は、in situにおいて高度の腺管癌患者を診断することを含む。例えば、Disisら,Cancer Research,54:16-20(1994)。
【0057】
用語“サンプル”は、患者の組織、体液、または細胞を指す。通常は、組織または細胞は患者から除去されるが、in vivo診断も考えられる。固体状の腫瘍の場合、組織サンプルは、外科的に除去された腫瘍から得られ、通常の技術によってテストするために調製される。リンパ種と白血病の場合には、リンパ球、白血病性細胞、またはリンパ組織が得られ、適切に調製されるだろう。尿、涙、血清、脳脊髄液、糞便、痰、細胞抽出物等を含む患者の他のサンプルも、特定の腫瘍には用いられるだろう。
【0058】
表現“ラベルされた”とは、ここで用いられる場合には、検出可能な化合物または組成物と直接または間接的に結合した分子(例えば、γ−HRGまたは抗γ−HRG抗体)を指す。ラベルは、それ自身によって検出され(例えば、ラジオアイソトープラベルまたは蛍光ラベル)、もしくは、酵素ラベルの場合には、検出可能な基質化合物または組成物の化学変化を触媒し得る。
【0059】
“固相”により、関心のある試薬(例えば、γ−HRGまたはそれに対する抗体)が付着できる非水性マトリックスが意味される。ここに含まれた固相の例は、部分的または完全にガラス(例えば、制御された孔ガラス)、ポリサッカリド(例えばアガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコールおよびシリコーンから形成されたものを含む。ある実施態様では、文脈に基づいて、固相はアッセイプレートのウェルを含み、別の場合には、精製カラム(例えば、親和性クロマトグラフィーカラム)である。この用語は、米国特許第4275149号に記載されたような、分離した粒子の不連続固相(a discontinuous solid phase)をも含む。
【0060】
語句“ErbBレセプターを活性化”は、ErbBレセプターの細胞内キナーゼドメインにチロシン残基をリン酸化することを引き起こす作用を指す。一般的に、これは、一つ以上のレセプターのキナーゼドメインを活性化し、それによって一つ以上のレセプターのチロシン残基のリン酸化、および/または付加基質ポリペプチドにおけるチロシン残基のリン酸化を引き起こす、二つ以上のErbBレセプターのレセプター複合体(例えば、ErbB2/ErbB3またはErbB2/ErbB4複合体)に対するγ−HRGの結合を含む。ErbBレセプターリン酸化は、以下に記載されたチロシンリン酸化アッセイを用いて定量されうる。
【0061】
表現“細胞の生存を増幅”とは、in vitroまたはin vivoのいずれかにおいて、γ−HRGにさらされていない未処理の細胞と比較して、細胞の生存期間が増加する作用を指す。
【0062】
語句“細胞の増殖を増幅”は、in vitroまたはin vivoのいずれかにおいて、未処理の細胞と比較して、細胞の成長および/または繁殖の程度を増大する工程を含む。細胞培養における細胞増殖における増大は、γ−HRGにさらす前後の細胞総数を計測することによって検出されうる(以下の実施例を参照)。増殖の程度は、集密性の程度の顕微鏡的試験を介して定量されうる。細胞増殖は、細胞による3Hの取り込みを測定することによっても定量されうる。
【0063】
“細胞の分化の増幅”により、元の細胞とは異なる一つ以上の特徴または機能の獲得または所有の程度が増大する作用が意味される(すなわち、細胞の特殊化)。
【0064】
これは、細胞の表現型における変化をスクリーニングすることによって検出されうる(例えば、細胞における形態の変化を同定)。
【0065】
“グリア細胞”は、中枢神経系および末梢神経系から誘導され、乏突起膠細胞、星状細胞、上衣細胞または小グリア細胞、並びに神経節の衛星細胞および末梢神経線維の周りの神経線維鞘細胞またはSchwann細胞から選択されうる。
【0066】
“筋細胞”は、骨格、心臓または平滑筋組織細胞を含む。この用語は、より特殊化された筋細胞に分化する細胞を含む(例えば、筋芽細胞)。
【0067】
“単離されたγ−HRG核酸”は、通常は天然源において関係する少なくとも一つの混入する起源の核酸を含まず、好ましくは他の哺乳動物のRNAまたはDNAを実質的に含まない。語句“通常関連する少なくとも一つの混入する起源の核酸を含まない”は、核酸が起源または天然細胞に存在するが、異なる染色体の位置に存在する、あるいは起源細胞に通常見出されない核酸配列が隣接している場合を含む。単離されたγ−HRG核酸の例は、図1に示されたヒトγ−HRGと少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは90%、最も好ましくは95%の配列同一性を有する、生物学的に活性なγ−HRGをコードするRNAまたはDNAである。
【0068】
“厳密な条件”は、(a)洗浄のために低イオン強度および高温度、例えば50℃で、0.015M NaCl/0.0015M クエン酸ナトリウム/0.1% NaDodSO4(SDS)を用いる、または(b)ハイブリダイゼーションの間にホルムアミドのような変性剤を用いる、例えば50%(vol/vol)のホルムアミドと、0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/50mMのリン酸ナトリウムバッファー、pH6.5、750mM NaCl、75mMクエン酸ナトリウム、42℃を用いるものである。他の例は、0.2x SSCおよび0.1%SDS中で42℃において洗浄することを伴って、42℃において50%ホルムアミド、5xSSC(0.75M NaCl、0.075M クエン酸ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5x Denhardt'sナトリウム、超音波処理されたサケ精液DNA(50μg/mL)、0.1% SDS、および10%デキストランスルファートの使用である。
【0069】
“適度に厳密な条件”は、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載され、上記より厳密性の低い洗浄溶液およびハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度および%SDS)の使用を含む。適度に厳密な条件の例は、約37−50℃で1xSSCでフィルターを洗浄した後で、20%ホルムアミド、5xSSC(150mM NaCl,15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5x Denhardt's溶液、10%デキストランスルファートおよび20mg/mLの変性され剪断されたサケ精液DNAを含む溶渣中で37℃で一夜インキュベーションするような条件である。当業者は、プローブ長等のファクターを適応させるのに必要なものとして、温度、イオン強度等の調節方法を認識するだろう。
【0070】
表現“コントロール配列”は、特定の宿主生命体における操作により連結されたコード配列の発現に必要なDNA配列を指す。原核生物に適したコントロール配列は、例えば、プロモーター、任意にオペレーター配列、並びにリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが知られている。
【0071】
核酸は、別の核酸配列と機能的に関連するように配置された場合に“操作により連結”される。例えば、ポリペプチドの分泌に関係するプレプロテインとして発現されるのであれば、プリシークエンス(presequence)または分泌リーダー(secretory leader)のDNAが、ポリペプチドのDNAに操作により連結され;配列の転写に影響を与えるなら、プロモーターまたはエンハンサーがコード配列に操作により連結され、翻訳を容易にするように配置されるのであれば、コード配列にリボソーム結合部位が操作により連結される。一般的に、“操作により連結”は、連結されたDNA配列が連続であり、分泌リーダーの場合には、連続かつ読み枠内であることを意味する。しかしながら、エンハンサーは連続である必要がない。連結は、都合の良い制限部位におけるリゲーションによって行われる。もしそのような部位が存在しないのなら、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、通常の方法に従って用いられる。
【0072】
γ−HRG“アンタゴニスト”は、γ−HRGエフェクター機能を妨げ、妨害する分子である(例えば、γ−HRGによってErbBレセプターの結合および/または活性化を妨げ、妨害する分子)。このような分子は、例えば、ここに記載されたチロシンリン酸化アッセイにおいてγ−HRGによるErbBレセプター活性化の競合阻害する能力に関して選別されうる。好ましいアンタゴニストは、他のヘレグリンポリペプチドとErbBレセプターとの相互作用を実質的に妨害しないものである。γ−HRGアンタゴニストの例は、γ−HRGに対する中和抗体およびγ−HRG遺伝子に対するアンチセンスポリヌクレオチドを含む。
【0073】
用語“アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド”および“アンチセンスオリゴ”は、γ−HRGmRNAまたはDNAの領域とハイブリダイズし、それによってin vitroまたはin vivoでγ−HRGポリペプチドの生成を妨げまたは低減するポリヌクレオチドを指す。好ましいアンチセンスポリヌクレオチドは、図1のγ−HRG NTDコード領域の少なくとも一部に相補的なものである。この用語は、“修飾された”ポリヌクレオチドを含み、その例がここに記載されている。
【0074】
用語“抗体”は、最も広い意味で用いられ、ポリエピトピック特異性を備えた単一の抗γ−HRGモノクローナル抗体および抗γ−HRG抗体組成物を特にカバーする(中和および非中和抗体を含む)。ここで特に興味のある抗体は、上述した技術背景に記載されたもののような、他の既知のヘレグリンタンパク質と有意味に交差反応しないものであり、従ってγ−HRGに“特異的に結合する”ものである。このため、γ−HRGの特有のNTDに結合する抗体は、特に使用できる。このような実施態様において、非γ−HRGタンパクに対する抗体の結合の程度は、例えば放射線免疫沈降法(RIA)によって調べて10%未満であろう。
【0075】
ここで用いられるように、用語“モノクローナル抗体”は、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち少数存在するかもしれない可能な自然発生変異を除いて、個々の抗体が同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して向けられている。さらに、通常は異なる決定基(エピトープ)に対して向けられた異なる抗体を含む通常の(ポリクローナル)抗体調製物とは対称的に、各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に向けられている。
【0076】
ここで、モノクローナル抗体は、所望の生物学的活性を示す限り、抗γ−HRG抗体の可変(高頻度可変領域を含む)ドメインを定常ドメインと、軽鎖を重鎖と、あるいはある種の鎖を他の種の鎖と繋ぎ合わせることにより生成されるハイブリッドおよび組換え抗体、元の種あるいはイムノグロブリンクラスまたはサブクラスに関わらず、異種タンパクとの融合物、並びに抗体フラグメント(例えば、Fab、F(ab)2、およびFv)を含む。(例えば、米国特許第4816567号およびMage & Lamoyi,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.79-97(Marcel Dekker,Inc.)New York(1987))。
【0077】
しかして、修飾語句“モノクローナル”は、抗体の実質的に均質な集団から得られる抗体の特徴を示し、特定の方法による抗体の生成が必要であるとは解釈されない。例えば、本発明に従って用いられるモノクローナル抗体は、Kohler & Milstein,Nature 256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって調製され、組換えDNA法によって調製される(米国特許第4816567号)。“モノクローナル抗体”は、例えばMcCaffertyら,Nature 348:552-554(1990)に記載された技術を用いて調製されたファージライブラリーからも単離される。
【0078】
非ヒト(例えばマウスの)抗体の“ヒューマナイズされた(humanized)”形態は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含む、特異的キメライムノグロブリン、イムノグロブリン鎖またはこれらの断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab)2または抗体の他の抗原結合配列)である。たいていの場合は、ヒューマナ イズされた抗体は、受け入れ側の抗体の相補的決定領域(CDR)の残基が、所望の特異性、親和性および能力を備えたマウス、ラットまたはウサギのような非ヒト種のCDR(ドナー抗体)の残基で置換されるヒトイムノグロブリン(受け入れ側の抗体)である。ある場合には、ヒトイムノグロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒトFR残基によって置換される。さらに、ヒューマナイズされた抗体は、受け入れ側の抗体もしくは導入されたCDRまたはFR配列に見出される残基を含んでも良い。これらの修飾は、抗体の性能をさらに洗練および最適化するようになされる。一般的に、ヒューマナイズされた抗体は、非ヒトイムノグロブリンのCDR領域に対応するCDR領域の全てまたは実質的に全て、並びにFR領域の全てまたは実質的に全てがヒトイムノグロブリン共通配列のものである、少なくとも一つ、通常は二つの種々のドメインの実質的に全てを含むだろう。また、ヒューマナイズされた抗体は、イムノグロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、通常はヒトイムノグロブリンのものを最適に含むだろう。
【0079】
“中和抗体”によって、天然配列γ−HRGのエフェクター機能をブロックまたは実質的に低減し得る、ここに定義されたような抗体分子が意味される。例えば、中和抗体は、ここに記載されたチロシンリン酸化アッセイにおいてErbBレセプターを活性化するγ−HRGの能力を阻害または低減しうる。また、中和抗体は、ここに記載された細胞増殖アッセイにおいてγ−HRGの分裂促進活性を遮断してもよい。
【0080】
“処置”は、治療処置および予防処置の両方を指す。処置の必要な者は、既に疾患を有する者と、疾患に係る傾向を有する者または疾患が予防されるべき者を含む。
【0081】
処置の目的となる“哺乳動物”は、ヒト、家庭または農場の動物、および動物園の、スポーツの、またはペットの動物、例えばヒツジ、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ等を含む、哺乳動物として分類されるあらゆる動物を指す。好ましくは、ここで言う哺乳動物とはヒトである。
【0082】
“薬学的に許容できる”キャリアー、賦形剤または安定化剤は、使用される投与量および濃度において、それに曝される細胞または哺乳動物に対して無毒なものである。生理学的に許容できるキャリアーは、多くの場合、水性のpH緩衝溶液である。生理学的に許容できるキャリアーの例は、リン酸、クエン酸、および他の有機酸のようなバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子重量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたはイムノグロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシンのようなアミノ酸;モノサッカリド、ジサッカリド、およびグルコース、マンノースまたはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;マンニトールまたはソルビトールのような糖アルコール;ナトリウムのような塩形成カウンテリオン(counterions);および/またはTweenTM、ポリエチレングリコール(PEG)、およびPluronicsTMのような非イオン性界面活性剤を含む。
【0083】
“リポソーム”は、哺乳動物に薬剤を輸送するのに使用される、種々のタイプの脂質、リン脂質および/または界面活性剤からなる小さいベシクルである。リポソームの成分は、通常は、生物学的膜の脂質編成に類似した、二重層形態に編成される。
【0084】
II.発明の実施の形態
1.γ−HRGポリペプチドと核酸ヒトγ−HRGのDNAおよびアミノ酸配列が図1に記載されている。ここに記載された新規のγ−HRGは、そのDNAが適度に厳密ないし厳密な条件下で、図1の特有のN末端ドメイン(NTD)におけるDNA(またはそのフラグメント)にハイブリダイズする、適切な配列同一性を有する成長因子のファミリーのメンバーであるかもしれないことが考えられる。このようなγ−HRG変異体の例は図5に示されたイソ型タンパク質である。しかして、本発明のさらなる態様は、γ−HRGのNTDをコードするDNAと適度に厳密ないし厳密な条件下でハイブリダイズするDNAを含む。このような天然配列γ−HRG分子を単離し種々のγ−HRGを調製する技術を後述する。
【0085】
γ−HRGの調製に適した技術は、当該技術分野でよく知られ、ポリペプチドの内在性の起源からγ−HRGを単離すること、ペプチド合成(ペプチド合成装置を用いる)および組換え技術(またはこれらの技術のあらゆる組み合わせ)を含む。γ−HRGの調製の好ましい技術は、以下に記載された組換え技術である。γ−HRGの組換え生成のためのベクター、宿主細胞等に関する米国特許第5364934号も参照。
【0086】
γ−HRGポリペプチドを生成するために、γ−HRGをコードするDNAが単離され(例えば、以下の実施例1に記載されたようにcDNAライブラリーから)、かつ適切なベクターにおいて他の核酸に操作により連結される。このようにして単離されたDNAは、選択された発現システムに基づいて発現を増幅するように変異されても良い。例えば、転写されたmRNAにおける5’ステムおよびループ構造を避ける、および/または選択された宿主によってさらに容易に転写されるコドン(例えば、E.coliまたは酵母の発現によく知られた好ましいコドン)を具備するように、ヌクレオチド置換がなされてもよい。ベクターは、宿主細胞内で複製することができ、クローニングに用いることができ(すなわち、使用可能な量の核酸を生成すること)、および/またはγ−HRGの発現を命令するプラスミドまたは他のDNAである。ベクターの設計は、中でも、ベクターについて意図される使用および宿主細胞に依存する。通常、ベクター成分は、N末端シグナル配列、複製起点、一つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサー成分、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位および転写終結配列のーつ以上を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0087】
γ−HRGの哺乳動物細胞培養生成のために特に使用できるプラスミドは、pRK5(欧州特許第307247号)およびその誘導体、もしくはpSVI6B(1991年6月13日に公開された国際公開第91/08291)である。他に使用できるベクターは、国際公開第96/04391に開示されている。宿主細胞は、通常はベクターで形質転換される。ここで、ベクターのクローニングまたは発現に適した宿主細胞は、原核宿主細胞(例えば、E.coll、Bacillusの株、Pseudomonasおよび他の細菌)、酵母および他の真核性微生物、並びに高度の真核生物の細胞(チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞および他の哺乳動物の細胞)である。細胞は、生存している動物に存在してもよい(例えば、ウシ、ヤギまたはヒツジ)。昆虫細胞を使用してもよい。クローニングおよび発現方法は、当該技術分野で周知である。γ−HRGの発現を得るために、発現ベクターが、形質転換またはトランスフェクションによって宿主細胞中に導入され、得られた組換え宿主細胞が、プロモーターを誘発し、組換え細胞を選択し、もしくはγ−HRG DNAを増幅するのに適合するように修飾された通常の栄養培地中で培養される。一般的に、in vitro哺乳動物細胞培養の生産性を最大化するための原理、プロトコルおよび実践的な技術は、Mammalian Cell Biotechnology:a Practical Approach,M.Butler,ed.(IRL Press,1991)に見出される。
【0088】
用語“形質転換”および“トランスフェクション”は、ここでは交換可能に用いられ、細胞中にDNAを導入する方法を指す。形質転換またはトランスフェクション後に、γ−HRG DNAが宿主細胞ゲノムに組み込まれるか、染色体外成分として存在してもよい。原核細胞または実質的な細胞壁構造を有する細胞が宿主として用いられる場合には、DNAを用いた細胞のトランスフェクションの好ましい方法は、Cohen ら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.69:2110-2114(1972)に記載されたカルシウム処理方法、またはChung ら,Nuc.Acids.Res.16:3580(1988)のポリエチレングリコール法である。酵母が宿主として用いられる場合には、通常は、トランスフェクションは、Hinnen,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,75:1929-1933(1978)によって教示されるように、ポリエチレングリコールを用いて行われる。哺乳動物細胞が宿主細胞として用いられる場合には、トランスフェクションは、通常、リン酸カルシウム沈降法、 Grahamら,Virology 52:546(1978),Gormanら,DNA and Protein Eng.Tech.2:3-10(1990)によって行われる。しかしながら、核注入、電気穿孔法、プロトプラスト融合のような、原核性及び真核性細胞にDNAを導入するための他の既知の方法も、本発明における使用に適している。
【0089】
本発明において特に使用できるのは、γ−HRGをコードするDNAの哺乳動物細胞における過渡的発現(transient expression)を提供する発現ベクターである。一般的に、過渡的発現は、宿主細胞が、発現ベクターの多くのコピーを蓄積し、発現ベクターによってコードされた高レベルの所望のポリペプチドを合成するような、宿主細胞中で効果的に複製できる発現ベクターの使用を含む。適切な発現ベクターと宿主細胞を含む過渡的発現システムは、クローン化されたDNAによってコードされたポリペプチドの便利な陽性の同定、並びに所望の生物学的または生理学的特性に関して前記ポリペプチドを早くスクリーニングすることを考慮する。
【0090】
本発明のγ−HRGが、1991年5月16日に公開された国際公開第91/06667に示されているように、相同的組換えによって調製されうることがさらに考慮される。手短に言えば、内在性γ−HRG遺伝子を有する細胞を相同的DNAを用いて形質転換することを含み、この相同的DNAは、(a)増幅可能な遺伝子(例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR))、および(b)γ−HRGをコードする遺伝子の内部または近くに存在する細胞ゲノム中のヌクレオチド配列と相同的な、少なくとも約150塩基対の長さを備えた少なくとも一つの隣接配列を含む。形質転換は、組換えにより細胞ゲノム中に相同的DNAが組み込まれる様な条件下で行われる。相同的DNAを組み込んだ細胞は、増幅可能な遺伝子の増幅を選択する条件下におかれ、それによってγ−HRG遺伝子が付随的に増幅される。得られた細胞は、所望の量のγ−HRGの生成について選別される。γ−HRGをコードする遺伝子の近くに存在する隣接配列は、例えば、図1のγ−HRGのヌクレオチド配列を開始点として用いて、ゲノミックウォーキングの方法によって容易に同定される。
【0091】
γ−HRGは、分泌されたポリペプチドとして培養培地から回収されるが、宿主細胞の溶解物から回収されてもよい。最初の工程として、粒子の破片、宿主細胞または溶解されたフラグメントが、例えば、遠心または限外ろ過によって除去され;任意に、タンパク質が、商業的に利用できるタンパク質濃縮フィルターで濃縮され、イムノアフィニティーカラムでの分画;イオン交換カラムでの分画;硫酸アンモニウムまたはエタノール沈降;逆相HPLC;シリカでのクロマトグラフィー;ヘパリンセファロースでのクロマトグラフィー;カチオン交換樹脂でのクロマトグラフィー;クロマトフォーカシング:SDS−PAGE;およびゲルろ過(例えば、High Load SuperdexTM 75 prep grade coluinを用いる、以下の実施例を参照)から選択された一つ以上の精製方法によって、γ−HRGを他の不純物から分ける。γ−HRGが不溶性の、集合した形態として最初に発現された場所(特に細菌性宿主細胞中)、組換えタンパク質屈折体を可溶化および復元するのに当該技術分野で利用できる技術を用いてγ−HRGを可溶化および復元する必要があるかもしれない(例えば、米国特許第4511502号参照)。
【0092】
γ−HRG変異体(以下参照)は、変化によって引き起こされた、特徴の実質的な変化を考慮して、天然配列γ−HRGと同じ方法で回収される。例えば、エピトープが付されたγ−HRGの調製は、融合ポリペプチドを吸着するために、エピトープに対する抗体を含むイムノアフィニティーカラムを用いた精製を容易にする。ウサギポリクローナル抗γ−HRGカラムのようなイムノアフィニティーカラムは、少なくとも一つの残存するイムノエピトープにそれを結合することによって、γ−HRG変異体を吸着するために用いられる。
【0093】
天然配列γ−HRGのアミノ酸配列変異体は、適切なヌクレオチドの変化を天然配列γ−HRG DNA中に導入することによって、または所望のγ−HRGポリペプチドのin vitroにおける合成によって調製される。このような変異体は、例えば、図1のヒトγ−HRGについて示されたアミノ酸配列の残基の欠失、挿入または置換を含む。アミノ酸の変化は、N−および/またはO−結合グリコシル化部位の数や位置を変えるような、天然配列γ−HRGの翻訳後処置も変えるかもしれない。可能性のあるN−結合グリコシル化部位は図1に示されている。一般的に、Asn残基はGlnで置換されるが、他の置換または欠失も可能である。
【0094】
突然変異誘発に好ましい位置の天然γ−HRGポリペプチドのある残基または領域の同定に使用できる方法は、Cunninghamと Wells,Science 244:1081-1085(1989)によって記載された“アラニン走査突然変異誘発(alanine scanning mutagenesis)”である。
【0095】
アミノ酸配列の欠失は、一般的に、約1から30残基、好ましくは約1から10残基の範囲とされ、通常は連続的である。連続した欠失は、通常は多数の残基にさえ形成されるが、単一または半端な数の欠失もこの範囲内である。欠失は、γ−HRGの活性を修飾するために種々の哺乳動物のγ−HRG間で相同性の低い領域に導入されてもよい。EGF様ドメインのγ−HRGからの欠失は、より顕著にγ−HRGの生物学的活性を修飾しそうである。模範的なγ−HRG欠失変異は、図1の残基749−768が欠失したγ−HRGである。他の模範的な欠失は、図1に同定された一つ以上のN結合グリコシル化部位が欠失した、および/または潜在的なプロテアーゼ切断部位に関係する一つ以上の残基が除去された(すなわち、残基411−414、440−441、481−482、500−501、606−607のいずれか一つ以上が除去された)、および/または一つ以上のシステイン残基が除去された天然配列γ−HRGを含む。図1のγ−HRGアミノ酸配列における関心のある領域は、残基1−748(すなわち、β3C末端ドメインを欠くγ−HRG):1−703(すなわち、EGF様ドメインを欠くγ−HRG);1−569(すなわち、EGF様ドメインとスペーサードメインを欠くγ−HRG);1−560(すなわち、EGF様ドメイン、スペーサードメインおよびIgドメインを欠くγ−HRG):342−363(疎水性領域);364−560;364−768;411−560;411−768;412−560;412−768;413−560;413−768;414−560;414−768;415−560;415−768;441−560;441−768;482−560;482−768;501−560;501−768;607−560;607−768を含む。これらの領域は、本質的にこれらの領域から構成される、またはこれらの領域を含むγ−HRGポリペプチドの調製に使用されうる。このような欠失変異体は、付加的な内因性の欠失および/または置換をさらに含んでもよく、および/または抗γ−HRG抗体を生成する際に使用するための、例えば免疫原性ポリペプチド等の異種ポリペプチドに融合されてもよい。また、これらの変異体は、付加的なカルボキシルまたはアミノ末端アミノ酸残基(例えば、アミノ末端メチオニル残基)を含んでもよい。
【0096】
アミノ酸配列挿入は、1つの残基から100以上の残基を含むポリペプチドの長さの範囲のアミノ−および/またはカルボキシル末端融合、並びに単一または多数のアミノ酸残基の内在配列挿入(intrasequence insertions)を含む。内在配列挿入(すなわち、完全なγ−HRG配列の内部における挿入)は、通常、約1から10残基、好ましくは1から5残基、最も好ましくは1から3残基の範囲とすることができる。挿入は、好ましくは多数の残基にさえすることができるが、このことは必須とされない。末端挿入の例は、N末端メチオニル残基を備えたγ−HRG、組換え細胞培養におけるγ−HRGの直接的生成の人工物を含む。
【0097】
好ましいタイプの挿入変異体は、キメラγ−HRGである。異種ポリペプチドに結合したγ−HRGを含む融合タンパク質は、組換えDNA技術を用いて構成することができ、異種ポリペプチドは、ヘテロ二官能性(heterobifunctional)架橋剤の使用のような当該技術分野において周知の技術によってγ−HRGポリペプチドに共有結合されうる。模範的なカップリング試薬は、N−スクシニミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオナート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCL)、活性のあるエステル(例えばジスクシニミジルスベラート)、アルデヒド(グルタルアルデヒド)、ビス−アジド化合物(例えばビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えばビスー(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアナート(例えば、トリエン2,6−ジイソシアナート)、およびビス−活性フルオリン化合物(例えば、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)を含む。
【0098】
キメラγ−HRGポリペプチドは、γ−HRGと、例えば、β−ラクタマーゼまたはE.coli trp座にコードされた酵素のような細菌性ポリペプチド、または酵母タンパク質等の免疫原性のポリペプチドとの融合体、1989年4月6日に公開された国際公開第89/02922に記載されたようなアルブミンまたはフェリチンのようなタンパク質との融合体を含む。キメラγ−HRGの別の例は、本願の実施例に記載されたチオレドキシン融合タンパク質である。
【0099】
ある実施態様では、キメラポリペプチドは、γ−HRG(またはそのフラグメント)と、抗タグ抗体が選択的に結合できるエピトープを具備するタグポリペプチドとの融合体を含む。エピトープタグは、通常、γ−HRGのアミノ−またはカルボキシル末端において付される。その存在がタグポリペプチドに対するラベルされた抗体を用いて検出される限り、このようなエピトープが付されたγ−HRGの形態が望ましい。また、エピトープタグを付することにより、抗タグ抗体を用いた親和精製により、γ−HRGを容易に精製することが可能になる。タグポリペプチドとそれらに対する各抗体は、当該技術分野で周知である。例としては、flu HAタグポリペプチドとその抗体12CA5(Fieldら,Mol.Cell.Biol.8:2159-2165(1988));c−mycタグとそれに対する8F9、3C7、6E10、G4、B7および9E10抗体(Evanら,Molecular and Cellular Biology 5(12):3610-3616(1985)):および単純ヘルペスウイルス糖タンパク質D(gD)タグとその抗体(Paborskyら,Protein Engineering 3(6):547-553(1990))が含まれる。
【0100】
また、キメラγ−HRGは、天然γ−HRGより長い半減期を有する免疫付着因子を含んでもよい。異種イムノグロブリン定常ドメインに結合したポリペプチドから構成される免疫付着因子は、当該技術分野において知られている。
【0101】
最も単純かつ最も直接的な免疫付着因子の設計は、γ−HRGとイムノグロブリン重鎖のヒンジおよびFc領域とを組み合わせる。通常は、本発明のγ−HRGイムノグロブリンキメラを調製する際に、γ−HRGをコードする核酸またはその断片が、イムノグロブリン定常ドメイン配列のN末端をコードする核酸のC末端に融合されるが、N末端融合も可能である。通常は、このような融合において、コードされたキメラポリペプチドは、イムノグロブリン重鎖の定常領域の少なくとも機能的に活性なヒンジ、CH2およびCH3ドメインを保持するだろう。また、融合は、定常ドメインのFc部のC末端に、もしくは重鎖のCH1または軽鎖の対応領域のN末端に直接的に形成される。キメラγ−HRGは、例えば、読み枠のγ−HRG部位(the γ-HRG portion in-frame)をコードするcDNA配列を、タグポリペプチドまたはイムノグロブリンDNA配列に融合し、適切な宿主細胞中で得られたDNA融合構成物を発現することによって最も簡単に構成される。
【0102】
本発明に含まれる別のタイプのキメラγ−HRGは、細胞毒性ポリペプチド(たとえば、細菌、真菌、植物または動物由来の酵素学的に活性な毒素、またはこれらのフラグメント)と融合したγ−HRGである。あるいは、毒素は、単離されたγ−HRGに共有結合されてもよい。使用することのできる酵素学的に活性な毒素およびそのフラグメントは、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性フラグメント、体外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA(例えばリシンA鎖)、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファーサルシン(alpha- sarcin)、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、Phytolaca americanaタンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP−S)、モモジカ カランチア(momordica charantia)インヒビター、カーシン(curcin)、クロチン(crotin)、サパオナリア オフィシナリス(sapaonaria officinalis)インヒビター、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)およびトリコテセン(tricothecenes)を含む。
【0103】
さらなる種類のキメラγ−HRGは、プロドラッグ(例えば、ペプチジル化学療法試薬、国際公開第81/01145を参照)を活性な抗ガン剤に変換するプロドラッグ活性化酵素と融合したγ−HRGポリペプチドである。例えば、国際公開第88/07378および米国特許第4975278号参照。このようなキメラ分子の酵素成分は、プロドラッグをより活性な細胞毒性形態に変換するようにプロドラッグに作用しうるあらゆる酵素を含む。
【0104】
本発明の方法で使用できる酵素は、リン酸塩含有プロドラッグを遊離試薬に変換するのに使用できるアルカリホスファターゼ;硫酸塩含有プロドラッグを遊離試薬に変換するのに使用できるアリールスルファターゼ;無毒性5−フルオロシトシンを抗ガン剤、5−フルオロウラシルに変換するのに使用できるシトシンデアミナーゼ;ペプチド含有プロドラッグを遊離試薬に変換するのに使用できるセラチアプロテアーゼ、サーモリシン、ズプチリジン、カルボキシペプチダーゼおよびカテプシン(例えば、カテプシンBおよびL)のようなプロテアーゼ;Dアミノ酸置換基を含有するプロドラッグを変換するのに使用できるD−アラニルカルボキシペプチダーゼ;グリコシル化されたプロドラッグを遊離試薬に変換するのに使用できる、β−ガラクトシダーゼおよびノイラミニダーゼのような炭水化物切断酵素;β-ラクタムを用いて誘導された試薬を遊離試薬に変換するのに使用できるβ-ラクタマーゼ;およびアミン窒素原子においてそれぞれフェノキシアセチルまたはフェニルアセチル基を用いて誘導された試薬を遊離試薬に変換するのに使用できるペニシリンVアミダーゼまたはペニシリンGアミダーゼのようなペニシリンアミダーゼを含むが、これらに限定されない。あるいは、当該技術分野において“アブザイム”としても知られる、酵素活性を備えた抗体が、本発明のプロドラッグを遊離活性試薬に変換するのに使用されうる(例えば、Massey,Nature 328:457-458(1987))。
【0105】
さらなるタイプのキメラポリペプチドは、サルベージレセプター結合エピトープに融合したγ−HRGである。このようなキメラ分子は、天然配列γ−HRGと比較した際に、増大した血清半減期を有してもよい。語句“長い半減期”は、γ−HRG誘導体と共に用いられる場合には、対応する天然配列γ−HRGよりも長いプラスマ半減期および/またはより遅いクリアランスを有するγ−HRG誘導体に関する。
【0106】
in vivo半減期が増大したこのようなキメラポリペプチドを調製するための系統的方法は、いくつかの工程を含む。最初は、IgG分子のFc領域のエピトープを結合するサルベージレセプターの配列およびコンホメーションを同定することを含む。このエピトープが同定されたら、γ−HRGの配列が、同定された結合エピトープの配列およびコンホメーションを含むように修飾される。配列が変異された後、γ−HRG変異体が、元の分子より長いin vivo半減期を有するか否かを調べるためにテストされる。もしγ−HRG変異体が、試験に基づいてより長いin vivo半減期を有しない場合には、その配列は、同定された結合エピトープの配列およびコンホメーションを含むようにさらに変更される。変更されたγ−HRGは、より長いin vivo半減期について試験され、この方法は、より長いin vivo半減期を示す分子が得られるまで続けられる。
【0107】
サルベージレセプター結合エピトープは、通常、Fcドメインの1または2のループのいずれか一つ以上のアミノ酸残基がγ−HRGに転移される領域を構成する。より好ましくは、Fcドメインの1または2のループの3つ以上の残基が転移される。さらに好ましくは、エピトープがFc領域(例えば、IgGの)のCH2ドメインから得られる。
【0108】
最も好ましい実施態様では、サルベージレセプター結合エピトープは、配列(5’から3’):PKNSSMISNTP(SEQ ID NO:5)を含み、そして任意に、HQSLGTQ(SEQ ID NO:6)、HQNLSDGK(SEQ ID NO:7)、HQNISDGK(SEQ ID NO:8)、またはVISSHLGQ(SEQ ID NO:9)からなる群から選択された配列をさらに含む。他の最も好ましい実施態様では、サルベージレセプター結合エピトープは、配列(5’から3’):HQNLSDGK(SEQ ID NO:7)、HQNISDGK(SEQ ID NO:8)、またはVISSHLGQ(SEQID NO:9)、及び配列:PKNSSMISNTP(SEQ ID NO:5)を含むポリペプチドである。
【0109】
あるいは、γ−HRGは、erbB発現細胞に細胞性防御メカニズムを集中させるように、T細胞レセプター分子(例えばCD2またはCD3)または、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)等のIgGのFcレセプター(Fc7R)のような白血球上のトリガー分子に結合する分子(抗体の様な分子)に融合されてもよい。同様に、erbB遺伝子を発現する細胞に細胞毒性試薬を局在させるキメラγ−HRGポリペプチドもここで考慮される。例えば、このようなキメラγ−HRGポリペプチドにおける異種のポリペプチドは、細胞毒性試薬に結合するものであってもよい(例えば、サポリン(saporin)に向けられた抗体、抗インターフェロンα、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサートまたは放射活性同位体ハプテン)。
【0110】
変形の第三グループは、アミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、天然配列γ−HRG分子の少なくとも一つのアミノ酸残基が除去され、異なる残基がそのかわりに挿入される。例えば、置換変異体は、図1のアミノ酸配列内の1,2,3またはそれ以上の位置において一つのアミノ酸が別のアミノ酸に置換されることによって、完全なγ−HRGについて図1に示されたアミノ酸配列と異なるものであってもよい。
【0111】
上述された天然配列における変化は、米国特許第5364934号に記載された保存的および非保存的変異のための技術およびガイドラインのいずれかを用いてなされる。交換、付加または削除すべきアミノ酸を選択することに関する指導について、特にその表1およびその表の周りの論考を参照。
【0112】
天然γ−HRGの適切なコンホメーションを維持することに関係しないあらゆるシステイン残基も、分子の酸化安定性を改良し、異常な架橋結合をさけるために、通常はセリンで置換されてもよい。また、潜在的なプロテアーゼ切断部位における残基(すなわち、残基411−414,440−441,481−482,500−501,606−607のいずれか一つ以上)も、他の残基で置換されてもよい。
【0113】
代表的な置換は、β型EGF様ドメインがα型EGF様ドメインで置換されたγ−HRG、およびβ型EGF様ドメインがラットNDFまたはARIAのβ型EGF様ドメインで置換されたγ−HRGを含む。図1のヒトγ−HRGのさらに典型的な置換は、以下の置換:hγ−HRG(Cys297→Ser)、hγ−HRG(Cys639→Ser)、hγ−HRG(Pro90→Ala)、hγ−HRG(His159→Arg)、hγ−HRG(Glu237→Asp)、hγ−HRG(Asn329→Gln)、hγ−HRG(Leu365→Val)、hγ−HRG(Val396→Leu)、hγ−HRG(Gln455→Asn)、hγ−HRG(Val468→Leu)、hγ−HRG(Thr520→Ser)、hγ−HRG(Lys570→Arg)、hγ−HRG(Leu593→Ala)、hγ−HRG(Val657→Ala)、hγ−HRG(Asn467→Gln)、hγ−HRG(Asn691→Gln)のいずれか一つ以上を含む。
【0114】
天然配列γ−HRGのアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当該技術分野で知られた種々の方法によって調製される。これらの方法は、天然源からの単離(天然に生じるアミノ酸配列変異体の場合)、または天然配列γ−HRGの初期に調製された変異体または非変異体のオリゴヌクレオチド介在(または特定部位の突然変異誘発)変異、PCR変異誘発、およびカセット式変異誘発による調製を含むが、これらに限定されない。
【0115】
γ−HRGポリペプチドの共有結合修飾は、本発明の範囲内に含まれる。天然配列γ−HRGとそのアミノ酸配列変異体の両方が、共有結合により修飾されてもよい。γ−HRGまたはそのフラグメントの標的化されたアミノ酸残基を、選択された側鎖もしくはN−またはC−末端残基と反応しうる有機的誘導剤と反応させることによって、γ−HRGまたはそのフラグメントの共有結合修飾が分子中に導入されてもよい。γ−HRGの潜在的共有結合修飾に関する米国特許第5364934号参照。
【0116】
腫瘍標的化については、上述されたもののような細胞毒性試薬とγ−HRGを共有結合的に結合させることが有益とされるかもしれない。例えば、種々の放射性核種(例えば、212Bi、131I、131In、90Yおよび186Re)が、放射性物質結合γ−HRGの生成に利用される。炭素14ラベルされた1−イソチオシアナートベンジル−3−メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)が、γ−HRGに対するラジオヌクレオチドの結合用に典型的なキレート試薬である。国際公開第94/11026号参照。
【0117】
γ−HRGの別の種類の共有結合修飾は、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマーのような種々の非タンパク様ポリマーの一つにγ−HRGポリペプチドを結合することを含む。また、γ−HRGは、例えば、コアセルベーション技術または界面重合(例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−ミクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリラート)ミクロカプセル)によって調製されたミクロカプセル、コロイド状薬剤輸送システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、ミクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)、もしくはマクロエマルジョンにエントラップされてもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences,16th edition,Oslo,A.,Ed.,(1980)に記載されている。
【0118】
アミノ酸配列変異体と共有結合変異体が調製されたら、生物学的および/または抗原的に活性である分子を選択するのが通常である。変異体が天然配列γ−HRGに対して生じた抗体と交差反応しうるか否かを調べるために、競合型イムノアッセイが用いられる。レドックスまたは熱安定性、疎水性、タンパク分解の感受性、キャリアーまたはマルチマー(multimers)との凝集傾向のようなタンパク質またはポリペプチド特性のさらなる潜在的な修飾が、当該技術分野で周知の方法によりアッセイされる。
【0119】
通常、関心の向けられた変異体は以下の特徴:(a)ErbB3および/またはErbB4に結合する能力;(b)ErbB2/ErbB3および/またはErbB2/ErbB4レセプター複合体におけるErbBレセプターを活性化する能力:および(c)ErbB2およびErbB3レセプターおよび/またはErbB2およびErbB4レセプターを発現する細胞の増殖を刺激する能力の一つ以上を備えるであろう。
【0120】
特徴(a)を選別するために、ErbB3およびErbB4レセプターのいずれかまたは両方に結合するγ−HRG変異体の能力が、in vitroで容易に調べられる。例えば、これらのレセプターの免疫付着因子形態が生成され(以下参照)、ErbB3およびErbB4免疫付着因子が固体相上に固定されうる(例えば、ヤギ−抗ヒト抗体で被覆されたアッセイプレート上に)。固定された免疫付着因子に結合するγ−HRGの能力は、例えば他のヘレグリン分子による競合置換を調べることによって調べられる。さらに詳しくは、以下の実施例に記載された125I−HRG結合アッセイを参照。
【0121】
特徴(b)については、実施例に記載されたMCF7細胞を用いたチロシンリン酸化アッセイが、ErbBレセプターの活性化を選別するための手段を提供する。本発明の他の実施態様において、γ−HRG変異体がErbBレセプターを活性化する能力を定性的および定量的に測定するために、国際公開第95/14930号に記載されたKIRA−ELISAが用いられる。簡単に言うと、本出願に記載されたアッセイに従って、細胞密度が60%〜75%のMCF7細胞(測定可能なレベルのErbB2、ErbB3およびErbB4を生産する)が平底96ウェル培養プレートの各ウェルに添加され、37℃、5%CO2中で一夜培養される。次の朝、ウェルの上清がデカントされ、プレートがペーパータオルに軽くタンプされる。次いで、培養培地(コントロール)、天然配列γ−HRGまたは変異体γ−HRGのいずれかを含む培地が、各ウェルに添加される。細胞が37℃で約30分間刺激され、ウェルの上清がデカントされ、プレートがペーパータオルに再度軽くタンプされる。細胞を溶解しレセプターを可溶化するために、100μlの溶解バッファーが各ウェルに添加される。溶解バッファーは、50mM HEPES(Gibco)、0.5% Triton-X 100(Gibco)、0.01%チメロサール、30KIU/mlアプロチニン(ICN Biochemicals,Aurora,OH)、1mM 4−(2−アミノエチル)−ベンゼンスルホニルフルオリドヒドロクロリド(AEBSF;ICN Biochemicals)、50μMロイペプチン(ICN Biochemicals)および2mMオルトバナジン酸塩(Na3VO4、Sigma Chemical Co,St.Louis,MO)を含む150mM NaCL、pH7.5からなる。次いで、プレートは、60分間、室温においてプレートシェーカー(Bellco Instruments,Vineland,NJ)上で優しく揺さぶられる。
【0122】
細胞が溶解される間に、ErbB2、ErbB3またはErbB4細胞外ドメイン(関心の向けられたレセプターに依存)に対して向けられた親和精製されたポリクローナル抗体を用いて4℃で一夜被覆されたELISAミクロタイタープレート(Nunc Maxisorp,Inter Med,Denmark)がデカントされ、ペーパータオルにタンプされ、優しく揺らしながら室温で60分間、150μl/ウェルのブロックバファー(0.5%BSA(Intergen Company,Purchase,NY)および0.01%チメロサールを含むPBS)でブロックされる。60分後、抗ErbB被覆プレートか、自動プレート洗浄機(Scan Washer 300,Skatron Instruments,Inc,Sterling,VA)を用いて洗浄バッファー(0.05% Tween-20と0.01%チメロサールを含むPBS)で6回洗浄される。
【0123】
細胞培養ミクロタイターウェルからの可溶化されたErbBレセプターを含む溶解物は、抗ErbB被覆されかつブロックされたELISAウェルに移され(85μl/ウェル)、優しく攪拌しながら室温で2時間インキュベートされる。
【0124】
未結合レセプターは洗浄バッファーで洗浄することにより取り除かれ、希釈バファー(0.5%BSA、0.05%Tween-20、5mM EDTAおよび0.01%チメロサールを含むPBS)中の100μlのビオチニル化4G10(抗ホスホチロシン抗体)が各ウェルに添加される。室温で2時間インキュベートした後に、プレートを洗浄し、100μlの希釈バッファー中のHRPO結合ストレプトアビジン(Zymed Laboratories,S.San Francisco,CA)が各ウェルに添加される。プレートが、優しく攪拌しながら室温で30分間インキュベートされる。
【0125】
遊離のアビジン結合体が洗浄され、100μlの新たに調製された培養基溶液(テトラメチルベンジジン(TMB);2−成分培養基キット;Kirkegaard and Perry,Gaithersburg,MD)が各ウェルに添加される。反応は10分間行われ、その後に、発色が100μl/ウェルの1.0M H3PO4の添加によって停止される。450nmにおける吸収が、Macintosh Centris 650(Apple Computers,Cupertino,CA)およびDeltaSoftソフトウェア(BioMetallics,Inc,Princeton,NJ)で管理されたvmaxプレートリーダー(Molecular Devices,Palo Alto,CA)を用いて、650nmの参照波長を用いて(ABS450/650)読みとられた。
【0126】
しかして、変異体γ−HRGによって誘発されたErbBレセプターリン酸化の程度が、天然配列γ−HRGおよびコントロール(恐らくは活性化しない)によって誘発されたものと比較されうる。
【0127】
最後に、特徴(c)については、ErbB2およびErbB3レセプターおよび/またはErbB2およびErbB4レセプターを発現する細胞の増殖を刺激するγ−HRG変異体の能力が、細胞培養において容易に調べられる。この実験に使用できる細胞は、ATCCから入手可能なMCF7とSK−BR−3細胞を含む。これらの腫瘍細胞系は細胞培養プレートにプレートされ、それに付着されてもよい。γ−HRG変異体および天然配列γ−HRGコントロールは、例えば1nMの終濃度に添加されてもよい。単層は、洗浄され、クリスタルバイオレットで染色/固定されてもよい。それゆえ、増殖が上述されたようにして定量されうる。さらに詳しくは、以下の実施例を参照。変異体を含むγ−HRGの増殖能力を調べるために使用できる別の細胞は、SchWann細胞である。上記Liらを参照。
2.治療用組成物及び方法また、γ−HRGは、中枢(脳及び脊髄)、末梢(交感神経、副
【0128】
交感神経、感覚、及び腸)を含むニューロン、及び運動ニューロンのin vivoでの発達、維持、及び/または再生の促進において有用であると考えられている。従って、γ−HRGは、ヒトなどの哺乳類の神経系に影響を与える種々の”神経系疾患”の診断及び/または治療のための方法に油用であると思われる。
このような疾患は、神経系が、例えば、外傷、手術、発作、虚血、感染、代謝的疾患、栄養欠乏、悪性疾患、または毒性薬によって損傷を受けた患者において生ずるであろう。この薬剤は、ニューロンの生存、増殖、または分化を促進する用に設計される。例えば、γ−HRGは、外傷または手術によって損傷を受けた運動ニューロンの生存または増殖を促進するのに用いることができる。また、γ−HRGは、筋萎縮性側索硬化症(Lou Gehrig病)、ベル麻痺、及び棘筋萎縮症又は麻痺を含む種々の状況といった、運動ニューロン疾患の治療に用いることができる。γ−HRGは、アルツハイマー病、パーキンソン病、癲癇、多発性硬化症、ハンティングトン舞踏病、ダウン症候群、感音難聴、及びメニェール病などのヒトの”神経退行(neurodegenerative)疾患”の治療に用いることができる。
【0129】
さらに、γ−HRGは、ニューロパシー、特に末梢ニューロパシーの治療に用いることができる。”末梢ニューロパシー”とは、運動、感覚、感覚運動、または自律神経の機能障害に最も頻繁に現れる、末梢神経系に影響する疾患である。
【0130】
末梢神経ニューロパシーによって現れる広範な形態は、各々独自に、同様に広範な数の原因によるものである。例えば、末梢ニューロパシーは、遺伝的に獲得され、全身性疾患によってもたらされ、あるいは、毒性薬によって誘発される。例えば、遠位感覚運動ニューロパシー、または、胃腸管の運動減退又は膀胱アトニーなどの自律神経ニューロパシーを含むが、これらに限定されない。全身性疾患に伴うニューロパシーの例は、ポストポリオ症候群を含み;遺伝性ニューロパシーの例は、シャルコー・マリー・ツース病、レフサム病、無β‐リポ蛋白血症、タンジアー病、クラッベ病、異染性白質萎縮症、ファブリー病、及びデジェリーヌ病を含み;毒性薬によって生ずるニューロパシーの例は、化学治療薬での治療によって生ずるものを含む。
【0131】
また、γ−HRGは、筋肉細胞及びそれらに影響する状況の治療にも用いられる。例えば、γ−HRGは、哺乳類の筋系の病態生理学的状態、例えば、骨格筋疾患(例えば、ミオパシーまたはジストロフィー)、心筋疾患(心房性不整脈、心筋症、虚血性障害、先天性疾患、または心臓障害など)、または平滑筋疾患(例えば、多発性硬化症、血管病変、または先天性血管外傷)の治療:筋肉障害の治療;筋肉細胞萎縮の低減;哺乳類における筋肉細胞の生存、増殖及び/または再生の向上;高血圧の治療;及び/または(重筋無力症または頻拍患者におけるような)機能的アセチルコリンレセプターが不十分な筋肉細胞の治療に用いられる。
【0132】
γ−HRGは、細胞膜表面におけるイオンチャンネルの形成を誘発し、及び/または個体におけるシナプス接合の形成を促進するために用いられる。またγ−HRGは、記憶促進剤としても有用であり、ニコチンに対する切望感を取り除くものと思われる。
【0133】
γ−HRGは、ErbBレセプター、特にErbG2レセプターを産生する組織の修復及び/または再生を促進するのに用いられる。例えば、γ−HRGは、皮膚の創傷;胃腸管疾患;バレット食道;嚢胞性または非嚢胞性末期腎臓疾患;及び炎症性腸疾患の治療に用いられる。同様に、この分子は、ヒトの胃腸、呼吸、生殖、または尿管における上皮再生を促進するのに用いられる。
【0134】
他の実施態様において、γ−HRGは、腫瘍細胞の浸潤及びメスターシス(mestasis)を阻害するのに用いられる。低下した内因性γ−HRGレベルによって特徴づけられる腫瘍は(Park等,Proc.Am.Assoc.Cancer Res.,34:521(1993))、γ−HRGに依存している。γ−HRGは、ErbBレセプターと相互作用をすることによって腫瘍細胞の化学治療薬に対する感受性を向上させることにより、化学治療を促進するのに用いることができる。ErbBレセプター過剰発現(overexpression)を特徴とする癌細胞を、癌組織に対する細胞毒性薬としてのγ−HRGを用いて治療するのが望ましい。γ−HRG−酵素複合体は、ErbBれせぷたーを発現する標的細胞に対する標的化したプロドラッグ治療のために有用である。
【0135】
他の状態では、特にγ−HRGの過剰なレベルが存在する及び/または哺乳類においてγ−HRGによるErbBレセプターの過剰な活性化が生じている場合、哺乳類をγ−HRGアンタゴニストで治療するのが好ましい。γ−HRGアンタゴニストで治療される例示的な状態または疾患は、良性または悪性腫瘍(例えば、腎臓、肝臓、腎臓、膀胱、乳房、胃腸、卵巣、結腸直腸、前立腺、膵臓、舌、外陰、甲状腺、肝臓の癌;肉腫;グリア芽腫;及び種々の頭部及び首部腫瘍);白血病及びリンパ性悪性疾患;ニューロン性、グリア性、星状細胞性、視床下部性、及び他の腺性、マクロファージ性、上皮性、間質性、胞胚腔性の疾患などの他の疾患;炎症性、脈管形成性及び免疫学的疾患;乾癬及び瘢痕組織形成を含む。また、γ−HRGアンタゴニストは、腫瘍細胞の免疫反応に対する耐性を逆転させるために、病理学的新脈管形成を阻害するために、及び、免疫系を刺激するために用いることもできる。
【0136】
本発明のさらなる実施態様では、γ−HRGはアンタゴニストは、γ−HRGの過剰産生及び/またはγ−HRGによるErbBレセプターの過剰活性化を特徴とする神経疾患を罹患した患者に投与してもよい。γ−HRGアンタゴニストは、手術後に起こるかもしれない感覚ニューロンの迷走的再生の阻害、あるいは、例えば慢性痛み症候群の治療における感覚ニューロンの選択的切除において用いられる。
【0137】
治療的用途のためには、γ−HRGは、必要に応じて患者に投与される。あるいは、ここで遺伝子治療(γ−HRGをコードする核酸、あるいは、γ−HRGの阻害が望ましい場合は、アンチセンスポリヌクレオチド)も考えられる。
【0138】
γ−HRG遺伝子発現のアンチセンス阻害は、多重レベルで起こりうる。しかし、好ましい方法は、γ−HRGmRNAのタンパク質への輸送の妨害を含むものである。これを達成するために、γ−HRGmRNAに相補的なオリゴデオキシヌクレオチド(オリゴ)を用いてもよい。このアンチセンスオリゴは、生得的なセンスmRNAに、相補的ワトソン−クリック塩基対によって結合する。しかし、プラスミド由来のアンチセンスRNA(即ち、プラスミドにおいてアンチセンスDNAが提供された場合)も考えられる。Mercola及びCohen,Cancer Gene Therapy,2(1):47-59(1995)。他の実施態様、いわゆる”抗−遺伝子法(anti-gene approach)”によると、アンチセンス分子は、既に形成された対を持つアンチセンス分子の第3の塩基のフーグスチーン(Hoogsteen)(または抗−フーグスチーン)水素結合を介して、γ−HRGDNAに結合してトリプルヘリックスまたはトリプレックスを形成するものである。アンチセンスオリゴは、γ−HRGmRNA転写に沿っていずれを向くことも可能であるが、好ましい標的配列は、その5’末端において、開始コドンに渡るものである。一般に、アンチセンスオリゴは、γ−HRGに比較的特異的であり、従って、少なくともγ−HRGの独特なNTDをコードするDNAの部分に相補的である。対象のオリゴは、通常は少なくとも15−17塩基を含有する。最も活性名アンチセンス配列を同定するために、欠失分析が行われる。
【0139】
アンチセンスオリゴは、自動的方法によって容易に合成できる。米国特許第5,489,677号参照。通常、in vivoでの使用を意図するアンチセンスオリゴは、ヌクレアーゼ分解を受けにくく、及び/または、細胞による取り込み効率を向上させるように修飾される。幾つかのバックボーン修飾が、ヌクレアーゼ分解を妨げるために開発されている。一つの例示的修飾により、”メチル−ホスホネート”(MO)オリゴとなる。この方法によると、ヌクレオチド結合間における非架橋酸素原子の一つがメチル基に置換され、全体としてオリゴの負電荷が取り除かれる効果を有する。Tonkinson等,Cancer Investigation,14(1):54-65(1996)。Tonkinson等に記載されたヌクレアーゼ分解を低減させるための他の修飾は、ホスホロチオエート(PS)修飾であり、リンにおける非架橋酸素の一つがイオウで置換されている。基本のオリゴを修飾する他の方法は、Cohen,J.Adv.Pharmacol.,25:319-339(1993)に総説されている。例えば、、デオキシリボース−ホスフェートバックボーン全体がペプチド様バックボーンに置換された新しい類似物が報告されている。上記Mercola及びCohen参照。細胞取り込みを向上させるためにアンチセンスオリゴは、DOTMAなどのカチオン性脂質と複合した、ポリリシンまたはリポフェクチンと結合した、及び/またはコレステリル部分に共有結合したリポソーム中にカプセル化することができる。上記Tonkinson参照。
【0140】
(任意にベクターに含まれた)核酸を患者の細胞に入れるための主要な2つの方法があり;それらは、in vivo及びex vivoである。in vivo輸送では、通常はγ−HRGが必要とされている部位に、核酸が患者に直接注入される。ex vivo処理では、患者の細胞が取り出され、核酸がこれらの単離された細胞に導入され、変性した細胞が患者に直接、あるいは、例えば多孔質膜にカプセル化されて患者に埋め込むことにより投与される(例えば、米国特許第4,892,538号及び第5,283,187号参照)。生存可能な細胞に核酸を導入するために利用可能な種々の技術がある。この技術は、核酸が、培養された細胞にin vitroで輸送されるか、対象とするホストの細胞中にin vivoで輸送されるかによって変化する。哺乳類細胞にin vivoで核酸を輸送するのに適した技術は、リポソーム、電気穿孔法、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE−デキストラン、カルシウムホスフェート析出法、等を含む。遺伝子のex vivo輸送に通常用いられるベクターは、レトロウイルスである。
【0141】
ここで好ましいin vivo核酸輸送技術は、ウイルスベクター(アデノウイルス、単純ヘルペス1型ウイルス、またはアデノ−関連ウイルスなど)でのトランスフェクション及び脂質ベースの系(胃炎死の脂質媒介輸送に有用な脂質は、例えばDOTMA、DOPE及びDC−Cholである)を含む。ある種の状態においては、核酸源を、細胞表面膜タンパク質または標的細胞に特異的な抗原、標的細胞のレセプターに対するリガンドなどといった標的細胞をターゲットする試薬とともに提供するのが好ましい。リポソームが用いられる場合、エンドサイトーシスを伴う細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質が、ターゲット及び/または取り込む促進のために用いられ、例えば、特定の細胞タイプに親和性のカプシドタンパク質又はそのフラグメント、サイクル中にインターナリゼーションを受けるタンパク質に対する抗体、及び、細胞内位置をターゲットし、細胞内半減期を向上させるタンパク質である。レセプター媒介エンドサイトーシスの技術は、例えば、Wu等,J.Biol.Chem.,262:4429-4432(1987);及びWagner等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:3410-3414(1990)に記載されている。現在知られている遺伝子マーキング及び遺伝子治療プロトコールの総説については、Anderson,等,Science,256:808-813(1992)を参照されたい。また、WO93/25673及びその中の参考文献も参照のこと。
【0142】
γ−HRGまたはγ−HRGアンタゴニストの治療用製剤は、所定の純度を有し、任意に生理学的に許容されるキャリア、賦形剤、又は安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Edition,Osol.,A.,Ed.,(1980))を有するγ−HRGまたはγ−HRGアンタゴニストを混合することにより、凍結乾燥ケーキまたは水溶液の形態で、貯蔵のために調製される。製薬的に許容されるキャリア、賦形剤、または安定化剤は、用いられる投与量及び濃度において受容者に非毒性であり、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、アスパラギン、アルキニン又はリシン等のタンパク質;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む炭化水素;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/またはTween(商品名)、Pluronics(商品名)、またはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0143】
in vivo投与に用いられるγ−HRG又はγ−HRGアンタゴニストは無菌でなければならない。これは、凍結乾燥及び再構成の前または後に、除菌濾過膜を通すことによって容易に達成される。製剤は、通常は凍結乾燥形態又は溶液で貯蔵される。
【0144】
治療用γ−HRG又はγ−HRGアンタゴニスト組成物は、一般的に、無菌のアクセスポートを有する容器、例えば、皮下注入針によって接合可能なストッパーを持つ静脈内溶液バッグまたはバイアルに配置される。
【0145】
γ−HRG又はγ−HRGアンタゴニスト投与の経路は、周知の方法、例えば、静脈内、腹膜内、大脳内、筋肉内、眼内、動脈内、または病巣内経路の吸入または輸液、あるいは後述の徐放システムによる注入又は輸液に従う。γ−HRGは、輸液またはボーラス注入によって連続的に投与される。
【0146】
徐放(sustained-release)製剤の好ましい例は、タンパク質を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスを含み、このマトリクスは、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルの形状をしている。徐放マトリクスは、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、Langer 等,J.Blomed.Mater.Res.,15:167-277(1981)及びLanger,Chem.Tech.,12:98-105(1982)に記載のポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号、EP58,481)、L-グルタミン酸及びγ-L-グルタメートのコポリマー(Sidman等,Biopolymers,22:547-556(1983))、非分解性エチレン−酢酸ビニル(Langer等,上記)、Lupron Depot(商品名)(乳酸−グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注入可能な微小球)等の分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、及び、ポリ-D-(−)-3-ヒドロキシブチル酸(EP133,988)を含む。
【0147】
徐放性γ−HRG又はγ−HRGアンタゴニスト組成物は、リポソーム的にトラップされた薬剤も含む。γ−HRGを含むリポソームは、それ自体周知の方法によって調製される:DE3,218,121;Epstein等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688-3692(1985);Hwang等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4030-4034(1980);EP52,322;EP36,676;EP88,046;EP143,949;EP142,641;日本国特許出願83-118008;米国特許第4,485,045号及び第4,544,545号;及びEP102,324。通常は、リポソームは小さく(約200−800オングストローム)単ラメラタイプであり、その脂質含有量は約30モル%コレステロールより大きく、選択される割合は、最適な治療のために調節される。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG−誘導ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成物の逆相エバポレーション(reverse phase evaporation)法によって製造できる。リポソームは、所定の孔サイズのフィルターを通して押し出され、所望の径を持つリポソームが得られる。化学治療薬(ドキソルビシン等)を、任意にリポソーム内に含有させてもよい。Gabizon等,J.National Cancer Inst.81(19)1484(1989)参照。
【0148】
神経疾患のために、シラスティック膜等の膜にγ−HRGを吸着させるのが好ましく、それは、損傷を受けた神経組織の近傍に埋め込まれる。PCT公開番号
WO91/04014(1991年4月4日発行)。
【0149】
他の治療的養生法は、本発明のγ−HRGまたはγ−HRGアンタゴニストの投与と組み合わされる。神経状態を治療するために、γ−HRGは、任意に、所望の治療効果を達成する他の神経向性因子と組み合わされ、あるいは協調して投与される。例えば、γ−HRGは、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン(NT-3)、骨由来神経因子(BDNF)、ニューロトロフィン-4及び5-(NT-4/5)、インシュリン様成長因子(例えば、IGF-1またはIGF-2)、gas6、またはニューロンに相乗的刺激作用を有する他の神経向性因子とともに用いることができ、”相乗的”なる語は、γ−HRGと第2の物質の組み合わせの効果が、いずれかの物質で個々に達成される効果より大きいことを意味する。神経向性因子の好ましい投与量は、これらの分子について、この分野で知られている量と同様である。
【0150】
ここに記載されるγ−HRGまたはγ−HRGアンタゴニストで治療される癌患者は、放射線治療も受けてもよい。あるいは、それに付け加えて、化学治療薬を患者に投与してもよい。そのような化学治療薬の組成及び投与量のスケジュールは、製造者の指示に従うか、熟練した実施者が経験的に決定する。また、これらの化学治療薬の組成及び投与量スケジュールは、Chemotherapy Service Ed.,M.C.Perry,Williams & Wilkins,Baltimore,MD(1992)に記載されている。
【0151】
化学治療薬は、γ−HRGまたはγ−HRGアンタゴニスト投与に先んじても後でもよく、あるいはそれと同時に投与してもよい。癌の指標としては、EGFR、ErbB2、ErbB3、ErbB4または脈管内皮因子(VEGF)に結合する抗体等の、抗原を伴う腫瘍に対する抗体も投与するのが好ましい。あるいは、それに付け加えて、1つまたはそれ以上のサイトカインを患者に投与してもよい。
【0152】
治療的に用いられるγ−HRG又はγ−HRGアンタゴニストの有効な投与量は、例えば、治療目的、投与経路、及び患者の状態に依存するであろう。従って、治療者は、最適な治療効果を得るために求められる投与量を決定し、経路を修正する必要がある。典型的な1日の投与量は、1日当たり、患者の体重1kgについて、約1μgから100mg、好ましくは、10μgから10mgであろう。典型的には、医師は、γ−HRGまたはγ−HRGアンタゴニストを、上記の疾患の治療に所定の効果が達成される量まで投与するであろう。
【0153】
3.非治療的方法
γ−HRGポリペプチドは、成長している細胞(グリア及び筋肉細胞など)にex vivoで用いられる。細胞特異的因子、例えば、シュワン細胞特異的マーカーであるP75NGFRの単離のために、細胞培地中にそのような細胞集団を有するのが好ましい。このような因子は、診断材料として有用であり、P75NGFRの場合、診断用途のための抗体を製造する抗原として用いられる。また、哺乳類患者への(例えば、遮断された中枢軸索の再生に影響を与えるべく、末梢神経創傷の再生を助け、自家移植片に換わるものとして、損傷を受けた脊髄の領域への)移植のための細胞性プロテーゼとして用いるために、哺乳類細胞(例えば、シュワン細胞)の集団を有するのも好ましい。
【0154】
本発明のin vitro法によれば、ErbBレセプターを含む細胞が提供され、細胞培養媒質中に配置される。好ましい組織培養媒質は、当業者に周知であり、最小必須媒質(Minimal Essential Medium)(MEM)、RPMI−1640、及びダルベッコの修飾イーグル媒質を含むがこれらに限定されない。これらの組織培養媒質は、Sigma Chemical Company(St.Louis,HO)及びGIBCO(Grand Island,NY)から商業的に入手できる。細胞は、次いで、細胞培養媒質中で、有効量のγ−HRGの存在下、細胞が生存可能かつ成長を維持するのに十分な条件で培養される。細胞は、クロット、寒天、または液体培地において種々の方法で培養することができる。
【0155】
細胞は、有効量のγ−HRGの存在下、例えば37℃といった生理学的に許容される温度で培養される。γ−HRGの量は、変化させてよいが、好ましくは約10ng/mlから約1mg/mlである。γ−HRGは、当然のことながら、当業者が過度の実験を行うことなしに経験的に決定した投与量で培地に添加してもよい。培地におけるγ−HRGの濃度は、細胞とγ−HRgが培養される条件等の種々の要因に依存する。特定の温度及びインキュベーション時間、並びに他の培養条件は、例えば、γ−HRGの濃度、及び細胞及び媒質のタイプ等の種々の要因に依存しうる。当業者は、過度の実験無しに、作動的かつ最適な培養条件を決定できるであろう。
【0156】
シュワン細胞のex vivo培養の技術は、ヒトのクローナル筋原細胞のex vivo培養を記述した上記のLi等,及びSklar等,に記載されている。γ−HRGは、これらの方法で用いられる他のヘレグリンポリペプチドと置換しうる。
【0157】
γ−HRGポリペプチドは、ErbB(例えば、ErbB2)過剰発現及び/または増幅で特徴づけられる癌の診断に用いることができる。同様に、γ−HRG発現を検知できる分子(例えば、核酸プローブ及び抗-γ−HRG抗体)を、γ−HRG発現の検出に用いることができる(例えば、幾つかの乳癌等の、γ−HRGが構成的活性複合体の形成を導く癌において、後述の実施例参照)。このような診断アッセイは、リンパ腺状態、主要な腫瘍サイズ、組織学的程度、エストロゲンまたはプロエストロゲン状態、腫瘍DNA含有量(倍数性)、または細胞増殖(S相フラクション)の測定といった他の診断/予後評価と組み合わせて用いることができる。Muss等,New Eng.J.Hed.,330(18):1260-1266(1994)参照。
【0158】
ここで測定するサンプルとして得られるのは、例えば、患者の腫瘍病変部からの組織サンプルである。ホルマリン固定、パラフィン包理ブロックが調製される。上記のMuss等,及び、Press等,Cancer Research 54:2771-2777(1994)参照。組織断片(例えば、4μM)は、周知の方法で調製される。次いで、組織断片に結合したγ−HRGの量が定量化される。
【0159】
一般に、γ−HRG(タンパク質または核酸プローブ)またはHRG抗体は、直接または間接に、検出可能なラベルで標識される。多数のラベルが利用可能であり、一般的に、以下の範疇に部類される:(a)放射性同位元素、例えば、35S、14C、125I、3H、及び131I等。γ−HRGまたは抗体は、Current Protocols in Immunology,Ed.Coligen等,Wiley Publishers,Vols 1&2に記載された技術を用いて放射性同位元素でラベルすることができ、例えば、放射活性はシンチレーション計数を用いて測定できる。
【0160】
(b)蛍光ラベル、例えば、希土類キレート(ユーロピウムキレート)またはフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、リサミン、フィコエリスリン(phycoerythrin)及びテキサスレッド等が利用可能である。
蛍光ラベルは、例えば、上記のCurrent Protocols in Immunologyに記載された技術を用いてγ−HRGまたは抗体に接合できる。蛍光は、フルオロメーター(Dynatech)を用いて定量化できる。
【0161】
(c)種々の酵素−基質ラベルが利用可能であり、米国特許第4,275,149号は、これらのうちの幾つかの総説を提供する。酵素は、一般的に、色原体物質の化学変換を触媒し、それは種々の技術を用いて測定できる。例えば、酵素は基質の色変化を触媒し、分光測光法によって測定できる。蛍光変化の定量化技術は、上記されている。化学発光物質は、化学反応によって電気的に励起され、次いで、(例えば、Dynatech ML3000化学発光計を用いて)測定可能な光を放出するか、蛍光アクセプターにエネルギーを供与する。酵素的ラベルの例は、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ:米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、マレーとデヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRPO)等のペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リソザイム、サッカリドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、ヘテロ環オキシダーゼ(ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ等)、ラクトベルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ等を含む。酵素をタンパク質に接合する技術は、O'Sullivan等,Methods for the Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay,in Method in Enzyme(ed.Langone & H.Van Vunakis),Academic Press,New York,73:147-166(1981)及び上記のCurrent Protocols in Immunologyに記載されている。
【0162】
酵素−基質の組み合わせの例は、例えば、(a)セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRPO)と基質としての過酸化水素であって、過酸化水素は染料前駆物質(例えば、オルトフェニレンジアミン(OPD)又は3,3',5,5'-テトラメチルベンジジンヒドロクロリド(TMB))を酸化する;(b)アルカリホスファターゼ(AP)と色原体物質としてのパラ−ニトロフェニルホスフェート;及び(c)β-D-ガラクトシダーゼ(β-D-Gal)と色原体(例えば、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシダーゼ)またはフルオロゲン(fluorogenic)物質4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシダーゼ(4- methylumbelliferyl-β-D-galactosidase)を含む。
【0163】
当業者は、多数の他の酵素−基質の組み合わせが利用可能である。これらの総説については、米国特許第4,275,149号及び第4,318,980号参照。
【0164】
ラベルは、γ−HRGまたは抗体に、間接的に接合するときもある。当業者は、これを達成するための種々の技術を知っているであろう。例えば、γ−HRGまたは抗体はビオチンに接合し、上記の3つの広い範疇のラベルは、アビディンに接合する、あるいはその逆である。ビオチンはアビディンに特異的に結合するので、ラベルは、この間接的方法で、γ−HRGまたは抗体に接合する。ビオチン−アビディン複合体を含む技術の総説は、上記のCurrent Protocols in Immunology参照。あるいは、ラベルとγ−HRGまたは抗体との間接的接合を達成するために、γ−HRG又は抗体を小さなハプテン(例えばジゴキシン)に接合し、上記の異なるタイプのラベルの一つを抗-ハプテン抗体(例えば、抗-ジゴキシン抗体)に接合する。よって、ラベルとγ−HRGまたは抗体との間接的接合が達成される。
【0165】
本発明の他の実施態様では、γ−HRG又は抗体はラベルされる必要はなく、それらの存在は、ラベルされた抗-γ−HRG又は抗-抗体の抗体(例えば、HRPOとの接合体)を用いて検出される。
【0166】
好ましい実施態様では、γ−HRGは又は抗体は、物質(例えば、テトラメチルベンジジン(TMB)またはオルトフェニレンジアミン(OPD))の色変化を触媒する酵素的ラベルで標識される。即ち、放射性材料の使用が回避される。試薬の色変化は、適当な波長において(例えば、650nmの参照波長で、TMBでは450nm、OPDでは490nm)分光測光学的に測定される。
【0167】
よって、スライド上の組織断片は、ラベルされたγ−HRG又は抗体に露出され、組織断片の染色強度が測定される。通常はin vitro分析が考えられるが、検出可能な部分に接合したγ−HRG又は抗体のin vivo診断も実施することができる。例えば、米国特許第4,938,948号参照。
【0168】
γ−HRG製剤は、放射性ヨウ素、酵素、フルオロホア、スビンラベル等で標識した場合、γ−HRGのアッセイ(例えば、ラジオイムノアッセイ、固相酵素免疫検定法、またはラジオレセプターアッセイにおける標品として使用するためのγ−HRGの標識)、親和性精製技術(例えば、ErbB3またはErbB4レセプター等のErbBレセプターのためのもの)、及び競合型のレセプター結合アッセイにおける標品(standard)としても有用である。この点において、独特なNTDまたはそのフラグメント(例えば、連続した20以上のアミノ酸残基を有するもの)は、検出及び/または精製で使用するγ−HRG−特異的抗体の製造のための免疫原として有用である。
【0169】
同様に、γ−HRGをコードする核酸は、種々の組織におけるγ−HRG発現を検出するプローブとして有用である。この点において、γ−HRGの独特なNTDをコードする核酸をコードする又は相補的な核酸あるいはそのフラグメントが特に有用である。DNA分析の技術は良く知られている。例えば、米国特許第4,968,603号参照。通常、DNA分析は、哺乳類から誘導されたサンプルのサザンプロットを含む。
【0170】
4.γ−HRG抗体及びその使用ポリクローナル及びモノクローナル抗体等の抗体を製造する技術は、この分野で周知である。ポリクローナル抗体は、動物を(任意に、免疫化される種において免疫源となる異種タンパク質と接合されていてもよい)γ−HRGまたはそのフラグメントで免疫化することによって生ずる。γ−HRGに向けられたモノクローナル抗体は、培地における連続細胞系による抗体分子の産生のために提供される任意の方法を用いて製造される。モノクローナル抗体を製造するのに適した方法は、Kohler等,Nature 256:495-497(1975)の原型のハイブリドーマ法、及び、B細胞ハイブリドーマ法 Kozbor,J.,Immunol.133:3001(1984);Brodeur等,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp51-63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987);及びBoerner等,J.Immunol.147:86-95(1991)を含む。
【0171】
本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手法に従って(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することのできるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)容易に単離され配列される。
【0172】
本発明のハイブリドーマ細胞はmそのようなDNAの好ましい源として提供される。一度単離された後、DNAは発現ベクターの中に配置され、次いで、E.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞といった免疫グロブリンタンパク質を生成しないホスト細胞にトランスフェクトされ、形質転換されたホスト細胞におけるモノクローナル抗体の合成がを得る。
【0173】
DNAは、例えば、相同的ネズミ配列に換えてヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード配列を置換することにより(Morrison,等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851(1984))、または、非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部または一部の配列をコードする免疫グロブリンに共有結合させることによって修飾してもよい。この方法において、”キメラ(chimeric)”または”ハイブリッド(hybrid)”抗体が調製され、これらは抗-γ−HRGモノクローナル抗体の結合特異性を有する。
【0174】
非−ヒト抗体のヒト化方法は、この分野で知られている。一般的に、ヒト化抗体は、それに導入された非ヒト源からの1つ又はそれ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非−ヒトアミノ酸残基は、”外来(import)”残基と呼ばれることが多く、典型的には”外来”可変ドメインから取り込まれる。ヒト化は、実際にはWinterとその協力者の方法に従い(Jones等,Nature 321:522-252(1986);Reichmann等,Nature 332:323-327(1988);及びVerghoeyen等,Science 239:1534-1536(1988))、齧歯類のCDR配列をヒト抗体の対応する配列で置換することによって行われる。従って、これらの”ヒト化”抗体は、キメラ抗体であり(米国特許第4,816,567号)、生得的なヒト可変ドメインより実質的に短い部分が、非−ヒト種からの対応する配列で置換されている。実際には、ヒト化抗体は、典型的にヒト抗体であり、幾つかのCDR残基及び可能性としては幾つかのFR残基が、齧歯類抗体の類似部位からの残基で置換される。
【0175】
ヒト化抗体の製造において用いられる、重鎖及び軽鎖の、ヒト可変ドメインの選択は、抗原性を低減するのに極めて重要である。いわゆる”ベスト-フィット(best-fit)”法に従って、齧歯類抗体の可変ドメインの配列は、周知のヒト可変ドメイン配列の全てのライブラリーに対してスクリーニングされる。齧歯類に最も近いヒト配列は、ヒト化抗体のヒト骨格(FR)として許容される(Sims等,J.Immunol.,151:2296(1993);及びChothia及びLesk,J.Mol.Biol.,196:901(1987))。他の方法は、重鎖及び軽鎖の特定のサブグループの全てのヒト抗体の共通配列から誘導される特定の骨格を使用する。同じ骨格は、幾つかの異なるヒト化抗体に使用しうる(Carter等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4285(1992);及びPresta等,J.Immunol.151:2623(1993))。
【0176】
抗体が、抗原に対する高親和性及び他の好適な生物学的特性の保持でヒト化されることはさらに重要である。この目的を達成するために、好ましい方法に従って、旁配列及び概念的なヒト化生成物の、旁及びヒト化配列の三次元モデルを用いた分析過程によって、ヒト化された抗体が調製される。三次元免疫グロブリンモデルが共通に利用でき、当業者になじみ深い。選択した候補となる免疫グロブリン配列の可能な三次元構造を図解及び表示するコンピュータプログラムが利用できる。これらの表示の検討により、候補となる免疫グロブリン配列の機能化における残基の同様な役割の分析、例えば、候補となる免疫グロブリンの、その抗原に対する結合能力に影響する残基の分析をすることができる。このようにして、FR残基を選択し、共通かつ外来の配列から結合することにより、標的抗原に対する向上した親和性といった所望の抗体特性が達成される。一般的に、CDR残基は、直接的かつ最も本質的に、抗原結合への影響に含まれている。
【0177】
ヒト抗体を製造するための代替的方法に従って、トランスジェニック動物(例えばマウス)が利用可能であり、免疫化に際して、内因性免疫グロブリン生成無しに、ヒト抗体の全てのレパートリーを製造することができる。例えば、キメラ及び生殖系(germ-line)突然変異マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合的欠失が、内因性抗体製造の完全な阻害をもたらすことが記載されている。そのような生殖系突然変異マウスにおけるヒト生殖系免疫グロブリン遺伝子アレーの輸送は、抗原攻撃の際のヒト抗体の産生をもたらす。Jakobovits等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551(1993);Jakobovits等,Nature 362:255-258(1993);及びBruggermann等,Year in Immuno.7:33(1993)。
【0178】
あるいは、ファージ提示(phrge display)技術(McCafferty等,Nature 348:552-553(1990))を、非免疫化ドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからin vitroでヒト抗体及び抗体フラグメントを製造するのに用いることができる。この技術によると、抗体Vドメイン遺伝子は、M13またはfd等の糸状バクテリオファージの主または副いずれかの被覆タンパク質遺伝子に骨格中にクローンされ、ファージ粒子表面における機能的抗体フラグメント賭して提示される。糸状粒子は、ファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むので、抗体の機能的特性に基づく選択は、これらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択をもたらす。よって、ファージは、B細胞の幾つかの特性に類似する。ファージ提示は、種々の形式で行うことができる;それらの総説については、Johnson,Kevin S.及びChiswell,David J.,Current Opinion in Structural Biology 3:564-571(1993)を参照のこと。V遺伝子セグメントの幾つかの源が、ファージ提示に用いられる。Clackson 等,Nature,352:624-628(1991)は、免疫化マウスの肝臓から由来するV遺伝子の小さなランダム結合ライブラリーから、抗−オキサゾロン抗体の多様アレーを単離した。非免疫化ヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーが構成でき、抗原の多様アレーに対する抗体(自己抗原を含む)が、Marks等,J.Mol.Biol.222:581-597(1991)、または、Griffith等,EMBO J.12:725-734(1993)に記載された方法に実質的に従って単離される。
【0179】
二特異的抗体は、少なくとも2つの抗原に対して特異的に結合する抗体である。この場合、結合特異性の一つは、γ−HRGに対するものであり、他方は任意の異なる抗原に対するもの、例えば、ErbBレセプターを活性化する他のポリペプチドに対するものである。例えば、γ−HRG及び他のヘレグリンポリペプチドに特異的に結合する二特異的抗体は、本発明の範囲に含まれる。二特異的抗体は、全長抗体または抗体フラグメント(例えば、F(ab’)2二特異的抗体)として調製できる。
【0180】
二特異的抗体の製造方法は、この分野で知られている。全長二特異的抗体の伝統的な製造は、免疫グロブリンの2つの重鎖及び軽鎖の対の共発現に基づき、2つの鎖は異なる特異性を有している(Millstein等,Nature 305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖のランダムな分類のため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ(quadromas))は、10の異なる抗体分子の混合物を生成スル可能性があり、その一つのみが正しい二特異的構造を有する。正しい分子の精製は通常親和性クロマトグラフィー過程で行われるが、扱いにくく製造収率は低い。類似の方法が、WO 93/08829及びTraunecker等,EMBO J.,10:3655-3659(1991)に記載されている。
【0181】
異なる方法に従って、所定の結合特性を持つ抗体可変ドメイン(抗体−抗原結合部拉)は、免疫グロブリン固定ドメイン配列に融合される。融合は、好ましくは、少なくともヒンジ、CH2、及びCH3領域を部分を含む免疫グロブリン重鎖固定ドメインで行われる。融合の少なくとも一方に存在する、軽鎖結合に必要な部位を含有する第1の重鎖固定領域(CH1)を有するのが好ましい。免疫グロブリン重鎖の融合及び必要ならば免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAは、別々の発現ベクターに挿入され、適当なホスト動物に共トランスフェクションされる。これによって、構造体における3つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適の収率を与える場合に、具体化における3つのポリペプチドフラグメント相互の比率の調整に大きな柔軟性が与えられる。しかしながら、少なくとも2つの等しい比率のポリペプチド鎖が、高収率をもたらす場合、または比率が特に重要な意味を持たない場合、1つの発現ベクターに、2つ又は3つ全てのポリペプチド鎖に対するコード配列を挿入することもできる。
【0182】
この方法の好ましい実施態様では、二特異的抗体は、一つの腕に第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、及び、他の腕に(第2の結合特異性を与える)ハイブリッド免疫グロブリン重鎖対からなる。この非対称構造は、二特異的分子の1/2のみの免疫グロブリン軽鎖の存在が容易な分離方法を与えるように、所望の二特異的化合物を、望まない免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを促進する。この方法は、Wo 94/04690に記載されている。二特異的抗体のさらに詳細については、例えば、Suresh等,Methods in Enzymology,121:210(1986)を参照のこと。
【0183】
他の方法によると、抗体分子対間の界面は、組み換え細胞培地から回収される異種ダイマーの比率を最大にするように設計することができる。好ましい界面は、少なくとも、CH3抗体固定ドメインの一部を含む。この方法では、第1の抗体分子の界面からの一つ又はそれ以上の小さなアミノ酸側鎖は、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置換される。第2の抗体分子には、この大きな側鎖と同一または類似のサイズの補償的”溝”が、大きな側鎖を小さなもの(例えば、アラニンまたはスレオニン)に置換することによって形成される。これにより、ホモダイマーなどの他の望まない最終生成物を赳えて異種ダイマーの収率を向上させるメカニズムが提供される。
【0184】
二特異的抗体は、交差結合(cross-linking)又は”異種接合(heteroconjugate)”抗体を含む。例えば、異種接合の抗体の一つは、アビディンに結合でき、他はビオチンに結合できる。このような抗体は、例えば、望まない細胞に対する免疫系細胞のターゲットのために(米国特許第4,676,980号)、及びHIV感染の治療のために(WO91/00360)提案されている。異種接合抗体は、任意の従来の交差結合方法を用いて製造することができる。好ましい交差結合試薬は、この分野で知られており、多くの交差結合試薬に沿って、米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0185】
抗体フラグメントからの二特異的抗体を製造する技術は、文献に記載されている。例えば、二特異的抗体は、化学結合を用いて調製できる。Brennan等,Science 229:81(1985)は、生得的抗体が、タンパク質分解的に切断されて、F(ab’)2フラグメントを生成する方法を記載している。これらのフラグメントは、ジチオール錯形成試薬亜砒酸ナトリウムの存在下で還元されて隣接するジチオールを安定化し、分子間ジスルフィドの形成を防止する。生成されたFab’フラグメントは、チオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に変換される。Fab’-TNB誘導体の一つは、次いで、メルカプトエチルアミンで還元することによりFab’-チオールに戻し、等モル量の他のFab’-TNB誘導体と混合して、二特異的抗体を生成する。生成された二特異的抗体は、酵素の選択的固定化のための試薬として用いることができる。
【0186】
最近の発達は、E.coliからのFab’-SHフラグメントの直接回収を促進し、それは化学的結合して二特異的抗体を形成する。Shalaby等,J.Exp.Med.,175:217-225(1992)は、全てのヒト化二特異的抗体F(ab’)2分子の製造を記載している。各Fab’フラグメントは、E.coliから別々に分泌され、in vitroで化学的結合されて二特異的抗体を形成する。このようにして生成された二特異的抗体は、erbBを過剰発現する細胞及び通常のヒトT細胞に結合し、並びに、ヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞毒性リンパ球の溶解活性をトリガーすることができる。
【0187】
組み換え細胞培地から直接に二特異的抗体フラグメントを製造及び単離する種々の技術が記載されている。例えば、二特異的抗体は、ロイシンジッパーを用いて製造されている。Kostelny等,J.Immunol.148(5):1547-1553(1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドは、結合して、遺伝子融合により2つの異なる抗体のFab’部分となる。抗体ホモダイマーは、ヒンジ領域で還元されてモノマーとなり、次いで、再酸化されて抗体異種ダイマーを形成する。この方法は、抗体ホモダイマーの製造にも用いられる。Hollinger等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)に記載された”ダイアボディ(diabody)”技術は、二特異的抗体フラグメントを製造する代替的メカニズムを提供した。フラグメントは、リンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含むが、このリンカーは、同じ鎖の2つのドメイン間を結合するには短すぎる。従って、1つのフラグメントのVH及びVLドメインは、強制的に他のフラグメントの相補的VL及びVHドメインと対をなすので、2つの抗原結合部位が形成される。一本鎖Fv(sFv)ダイマーを用いることによる二特異的抗体フラグメントの他の製造方法が報告されている。Gruber等,J.Immunol.152:5368(1994)参照。
【0188】
2以上の価数を持つ抗体が考えられる。例えば、三特異的抗体が調製できる。Tutt等,J.Immunol.147:60(1991)。
【0189】
中和抗体を製造するために、抗体は、上記で合成したこれらの分子を製造する技術を用いて作製される。好ましい中和抗体は、γ−HRGに特異的(即ち、例えば免疫析出によって測定される他のヘレグリンと有意な交差反応をしない)。
【0190】
抗体パネルの製造に従って、抗体には、所定の基準(即ち、in vitroまたはinvivoのいずれかでγ−HRGの生物学的活性を中和できる)を満たすそれらの分子を同定するためにスクリーニング工程が施される。例えば、γ−HRG変異体のスクリーニングのための上記のアッセイの一つまたはそれ以上において、γ−HRGの、γ−HRG活性をブロックする能力が評価できる。細胞上のγ−HRGのErbBレセプターへの結合及びまたは活性化能力及び/またはγ−HRGのマイトジェン活性をブロックするこれらの抗体は、中和抗体として選択できる。
【0191】
抗体は、γ−HRGポリペプチドについて上述したのと類似の方法で、細胞毒性試薬又は酵素(例えば、プロドラッグ−活性化酵素)に結合させてもよい。さらに、抗体は、γ−HRGポリペプチドについて上述したようにラベルしてもよく、特に、抗体は診断アッセイにおいて用いられる。
【0192】
γ−HRG抗体、例えば、特定の細胞、組織、または血清におけるその生成は、γ−HRGの診断アッセイにおいて有用である。抗体は、上記のγ−HRGのような方法でラベルされ及び/または不溶性マトリクスに固定化される。γ−HRGについての好ましい診断アッセイは良く知られており、7−HRGポリペプチドアッセイについて上記で議論した。γ−HRG分子の秘匿された性質が与えられた後、生物学的流体におけるこの分子の検出のために特に有用なアッセイが、1995年3月28日に発行された米国特許第5,401,638号に記載されている。この方法によると、体液(例えば、ヒト血漿又は血清)中のγ−HRGは、それに特異的に結合する固定化抗体を用いて”捕捉”される。次に、任意にラベルされていてもよい第2の抗体が用いられ、捕捉されたγ−HRGが検出される。この第2の抗体は、γ−HRGの任意のエピトープに結合するものでよい。このようにして、対照に対する体液中のγ−HRGの量が検出される。
【0193】
γ−HRG抗体は、組み換え細胞培地又は天然源からの、γ−HRGの親和性精製にも有用である。
【0194】
中和抗-γ−HRG抗体も、in vitro又はin vivoでのγ−HRGの生物学的活性をブロックするのに用いられる。これが望まれる臨床的状態は、γ−HRGアンタゴニストの使用について上述した。
【0195】
5.診断キット及び製品
本発明は、便宜的に少なくとも2つのタイプの診断アッセイ(即ち、γ−HRGを用いた癌検出用、及び、抗体又はDNAマーカーを用いた、サンプル中のγ−HRGの存在の検出用)を提供するので、これらのアッセイの試薬は、キット、即ち、試験すべきサンプルと混合される試薬の組み合わせの包装として供給できる。キットの成分は、通常は予め設定した割合で提供される。よって、キットは、適当なラベルで直接又は間接に標識された、抗体またはγ−HRG(DNAまたはポリペプチド)を含む。検出可能なラベルが酵素である場合、キットは、酵素に必要な基質または補因子(例えば、検出可能な色原体またはフルオロホアを供給する基質前駆物質)を含む。さらに、安定化剤、バッファー等を含む他の添加剤を含んでもよい。種々の試薬の相対的な量は、アッセイの感度を実質的に大敵にする試薬濃度とするように広範に変化させてよい。特に、試薬は、賦形剤を含む通常は親油性化された乾燥粉末として提供してもよく、溶解させることにより適当な濃度の試薬溶液となるようにする。また、キットは、バイオアッセイを実施する使用説明書を具備してもよい。
【0196】
本発明の他の実施態様では、上記の疾患の治療に有用な材料を含む製品(article of manufacture)が提供される。製造物品は、容器及びラベルを具備する。好ましい容器は、例えば、ボトル、瓶、シリンジ、及び試験管を含む。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成される。容器は、病状を治療するのに有効な組成物を収容し、無菌のアクセスポートを具備してもよい(例えば、容器は、静脈内溶液バッグまたは皮下注射針で刺通可能なストッパーを具備する瓶であってよい)。組成物中の活性試薬はγ−HRG又はそのアンタゴニストである。容器上又は容器に付帯されたラベルは、組成物が選ばれた病状を治療するために用いられることを表示する。製品は、さらに、リン酸緩衝塩水、リンガー液及びデキストロース溶液などの製薬的に許容されるバッファーを収容する第2の容器を具備してもよい。さらに、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び使用説明書と共に挿入する包装などの、商業的または使用者の立場から望ましい材料を含んでもよい。
【0197】
以下の実施例は、例示のために提供され、何ら限定するものではない。明細書中の全ての引用文献の開示は、ここに参考として特に取り入れるものである。
【実施例】
【0198】
実施例1
この実施例は、本発明のγ−HRGポリペプチドの単離及び生化学的特徴付けを記載する。
【0199】
材料及び方法 試薬:HRGβ1(177-244)のEGF様ドメインは、E.coliで発現させ、前述のように精製して放射性ラベルした(Sliwkowski等,J.Biol.Chem.269:14661-14665(1994))。抗-ErbB2モノクローナル抗体2C4及び4D5は、別に記載されている(Fendly等,Cancer Research 50:1550-1558(1990))。ErbB3-及びErbB4-イムノアドヘシン(immunoadhesins):唯一のM1 I部位を、免疫グロブリンのヒンジドメインをコードする領域においてヒトIgG重鎖を発現するプラスミド中に処理した。また、M1 I部位は、これらのレセプターのECD/TM結合をコードする領域において一組のErbB発現プラスミド中にも処理した。全ての突然変異誘発は、Kunkel法(Kunkel,T.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488(1985))を用いて行った。M1I部位は、適当なErbB-IgG融合構造を作製するのに利用した。種々のErbB-IgGキメラの融合結合は:ErbB2については、E646ErbB2−(TR)−DKTH224VH;ErbB3については、L636ErbB3−(TR)−DKTH224VH;ErbB4については、G640ErbB4−(TR)−DKTH224VHであった。保持されたTR配列は、M1 I部位から誘導された。最終的な発現構造は、pRK−タイプのプラスミドバックボーンであり、真核発現は、CMVプロモーターによって制御される(Gorman等,DNA Prot.Eng.Tech.2:3-10(1990))。
【0200】
in vitro実験のためのタンパク質を得るために、接着性HEK-293細胞を、標準リン酸カルシウム法を用いて、適当な発現プラスミドでトランスフェクションした(Gorman等,上記、及び、Huang等,Nucleic Acids Res.18:937-947(1990))。血清含有媒質を、トランスフェクション後15時間で血清無し媒質に置換し、トランスフェクションされた細胞を5−7日インキュベートした。得られた条件付け媒質を収集し、プロテインAカラムを通した(1mL Pharmacia HiTrap(商品名))。精製したIgG融合を、引き続きPBSに対して透析し、Centi-prep-30フイルター(Amicon)を用いて濃縮した。グリセロールを、最終のウド25%まで添加し、材料を−20℃で保存した。材料の濃度は、Fc-ELISAを介して測定した。
【0201】
細胞培養:ヒト乳癌細胞系MDA-MB-175、MDA-MB-231、SK-BR-3及びMCF7を、American Type Culture Collectionから得て、10%の熱不活性化FBS、2mMのグルタミン及び10%のペニシリン-ストレプトマイシンを添加した、F12 Ham’s及びダルベッコの修飾イーグル媒質(DMEM)の50:50混合物中に保存した。
【0202】
cDNAライブラリーの製造及び特徴付け:MDA-MB-175細胞から、グアニジウムイソチオシアネート-セリウムクロリド法(Sambrook等,Molecular Cloning:A laboratory Manual(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989))を用いて、全部のRNAを精製した。ポリ(A)+RNAを、供給者の薦めに従って、オリゴ(dT)ダイナビーズ(Dynabeads)(DYNAL)を用いて単離した。第1及び第2の鎖合成は、Gibco BRL cDNA合成キットを用いて行った。AmershanからのcDNAクローニングシステムを用いたとき、γgt10cDNA組み換えが生成された。in vitroパッケージングは、Gigapack II(商品名)パッケージエクストラクト(Stratagene)を用いて行った。PstI-Xhol HRGβ3 cDNAフラグメント(nt144−618)は、ランダムブライミングでラベルし、1×106ブラークをスクリーニングした。陽性のクローンを、二次及び三次スクリーニングによって確認して精製した。ファー時DNAを、BamHIフラグメントとして単離し、pBluescript SK-の対応する部位にサブクローニングした。クローン5は、Sequenase version 2.0(商品名)DNA配列キット(United States Biochemicals,Inc.)を用いて完全に配列させた。両方の鎖を配列させた。
【0203】
細菌性発現系:クローン5のcDNAフラグメント(nt1690−2722)を、pEt−32TRX融合ベクター(Novagen)にサブクローニングした。
【0204】
このBglII-BglIIフラグメントを、pEt32aプラスミドのBanHI部位に挿入した。E.coliにおけるtrxγ-HRG(アミノ酸455−768)タンパク質発現は、供給者の薦めに従って誘発した。
【0205】
組み換えγ−HRGの精製:trxγ-HRGを発現するE.coliを回収し、50mMのTris HCL pH8中に、9ml/gで懸濁した。リソザイムを最終のウド0.2mg/mlまで添加し、溶液を氷上で1時間攪拌した。DnaseI(10μg/ml)及びMgCl2(4mM)を添加した。次いで、溶液を30分間超音波処理し、その後細胞ペレットを回収した。ペレット画分を、6M Gdn HCL、0.1M Tris HCL、pH8.8に、250ml/gで溶解させた。可溶化したタンパク質は、1/10容量の1MのNa2SO3及び1/10容量の0.2MのNa2S4O6を添加することによって亜硫酸化(sulfitolyze)した。反応は、室温で1.5時間行い、High Load Superdex(商品名)75 prepgradeカラム(Pharmacia)を用いたゲル濾過クロマトグラフィーによって精製した。リフォールディングは、1mMのシステインの添加によって開始し、10mMのメチオニンを酸化防止剤として添加して、室温で終夜インキュベートした。タンパク質濃度は、定量的アミノ酸分析によって測定した。
【0206】
ノーザン及びサザンハイブリダイゼーション:全てのRNAは、Chomczynski等,Anal.Biochem.162:156-159(1987)の方法によって単離した。ポリ(A)+は、供給者の薦めに従って、オリゴd(T)セルロースカラム(Qiagen)を用いて単離した。RNAは、変性させ、0.8%ホルムアルデヒド/1%寒天ゲル中でサイズ分画し、ナイロン膜(Hybond,Amersham)に移した。RNAは、UV架橋させた(UV Stratalinker,Stratagene)。ブレハイブリダイゼーションは、42℃において、50%ホルムアルデヒド/1%SDS/1MのなCl、10%硫酸デキストラン、及び100μg/mlのヘリング精子DNA中で、少なくとも2時間行った。HRGβ3のEGF様ドメインの相補的配列を持つ制限フラグメント、あるいは、γ−HRGの独特配列(nt1238−1868)をコードするKpnI-AvaII cDNAフラグメントのいずれかを用いたcDNAプローブは、ランダムプライミング(Prime-It II,Stratagene)で放射性ラベルした。ハイブリダイゼーションは、32Pラベルしたフラグメントを含む同じ溶液中で42℃で16時間行った。ブロットは、2×SSC/1%SDSにより室温で数回洗浄し、同じ溶液により65℃で20分間洗浄し、最後に、0.2×SSC/1%SDSにより室温で15分間洗浄した。ブロットは空気乾燥させ、−80℃において16時間、補力スクリーンを持つDu Pont Reflection(商品名)フィルムに露出させた。肝臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、結腸、末梢血液白血球、心臓、脳、胎盤、はい、肝臓、骨格筋、腎臓及び膵臓からのポリ(A)+2μgを含むヒトの多重組織ノーザンブロット(Clontech)を、供給者の薦めに従って、放射性ラベルしたγ−HRGcDNAプローブ(nt841−1447)でハイブリダイズした。
【0207】
MDA-MB-175及びMDA-MB-231ゲノムDNAは、上記のSambrook等,に記載されたように単離した。DNAは、0.25NのHClでの輸送処理に先立って異なる制限酵素で消化し、ナイロン膜(Hybond,Amershal)上に移した。γ−HRGのBglII-NdeIcDNAフラグメント(nt1690−2351)も、ランダムプライミングによって放射性ラベルし、ハイブリダイゼーションプローブとして用いた。プレハイブリダイゼーションは、6×SSC/5×Denhardt's/0.75%SDS、10%硫酸デキストラン及び100μg/mlヘリング精子DNA中において、68℃で4時間行い、放射性ラベルしたプローブでのハイブリダイゼーションは終夜行った。ノーザンブロットと同様の洗浄条件を用いたが、68℃の0.2×SSC/0.1%SDSでの洗浄工程を追加し、検出は上記の用に行った。
【0208】
125I−HRG 結合アッセイ:結合アッセイは、ヌンクのブレークアパートストリップウェル(Nunc breakapart strip well)において行った。プレートは、50mMの炭酸バッファー(pH9.6)中の5μg/mlヤギ-抗-ヒト抗体(Boehringer Mannheim)の100μlで、4℃において終夜被覆した。プレートは、洗浄バッファー(PBS/0.05%Tween-20(商品名))で2回洗浄し、100μlの1%BSA/PBSで30分間ブロックした。バッファーを除去し、各ウェルを、1%BSA/PBS中の15ngのIgG融合タンパク質とともに、強く振とうさせながら1.5時間インキュベートした。プレートは、洗浄バッファーで3回洗浄し、強く振とうさせながら種々の濃度のγ−HRG及び125I−HRgβ1を添加することにより、競合的結合を行わせた。1.5−2時間のインキュベーションの後、ウェルを洗浄バッファーで3回洗浄し、排出させ、個々のウェルを100 Series Iso Data γ-カウンターを用いて計数した。
【0209】
チロシンリン酸化アッセイ:MCF7細胞を、10%のFBSを含有するF12/DMEM中で、1×105細胞/ウェルでプレートした。48時間後、細胞を血清無しのF12/DMEMで洗浄し、6時間血清涸渇させた。種々の濃度の細菌性発現した先端を切ったγ−HRG(即ち、0pM、22pM、66pM、200pM及び600pMのtrxγ−HRG)またはMDA-MB-175細胞の未精製条件の媒質を、結合バッファー(F12/DMEM中の0.1%BSA)中で調製し、各ウェルに添加した。室温で8分間のインキュベーションの後、媒質を注意深く吸引し、100μlのサンプルバッファー(5%SDS、0.25%2-メルカプトエタノール、25mMのTris-HCL pH6.8)を添加することにより反応を停止させた。各サンプル20μlを4−12%勾配ゲル(gradient gel)(Novex)中でサイズ分画し、次いで、電気泳動的にニトロセルロース膜に移した。アンチホスホチロシン(antiphosphotyrosine)(UBIからの4G10、10μg/mlで使用)免疫ブロットを発生させ、反射密度測定によってMr〜180kDaにおける主要反応性バンドを定量化した。
【0210】
MDA-MB-175細胞からの条件付け媒質の製造及び特徴付け:細胞は、T175フラスコに播種し、70−80%の融合度(confluency)(〜2.5×107細胞/フラスコ)に達するまで成長させた。次いで、細胞をPBSで洗浄し、血清無しF12/DMEM媒質中で3−4日間成長させた。次いで媒質を回収し、濾過し、YM10 Diaflo限外濾過膜(Amicon)を具備する限外濾過セルを用いて濃縮した。γ−HRGは、非還元条件下でのウェスタンブロット分析により、MDA-MB-175細胞の条件付け媒質中で可視化した。γ−HRGは、C4逆相絡むを用いたHPLCによって部分的に精製した。CHO発現する全長 HRGβ1(レーン1)は及び半純粋γ−HRG(レーン2)を電気泳動させ、ブロットをErbB2/ErbB4 IgG異種ダイマーでプローブして、ウェスタンブロットを発生させた。一部の精製された上清を含むレーンでは、〜64kDのバンドが見られたのに対し、CHO発現する全長HRGβ1は45kDaタンパク質として移動した。
クリスタルバイオレットでの細胞増殖アッセイ:腫瘍細胞系を、以下の密度で96ウェルプレートにプレートした:MDA-MB-175について2×104細胞/ウェル、及び、SK-BR-3について1×104細胞/ウェル。媒質は、1%のFBSを含有し、細胞は2時間接着させた。モノクローナル抗体、免疫接着(10μg/ml)または媒質のみを添加し、細胞を37℃で2時間インキュベーションした。γHRGβ1177-244は、最終濃度1nMとなるように、または細胞接着の中和のために100nMを添加し、細胞を4日間インキュベーションした。単層をPBSで洗浄し、0.5%のクリスタルバイオレットで染色/固定した。プレートを空気乾燥し、染料をエタノール中の0.1Mクエン酸ナトリウムで希釈(50:50)し、540nmにおける吸収を測定した。
【0211】
結果及び考察 γ−HRGの単離及び配列分析:MDA-MB-175細胞におけるヘレグリン転写を特徴づけるために、この細胞系から誘導したmRNAでλgt 10 cDNAライブラリーを構成した。ライブラリーは、HRGβ3のEGF様ドメイン及びN-末端配列の一部に相当するcDNAプローブでスクリーニングした。種々のクローンが同定された。全長cDNA配列を含むクローンの一つが、単離され配列分析された。図1は、γ−HRGのヌクレオチド配列及び予想されるアミノ酸配列を示す。2303塩基対(bp)の単一のオープンリーディングフレームは、nt334のATGコドンから開始する。この開始コドンは、潜在的な翻訳開始部位として知られるヌクレオチド配列の中に存在する(Kozak,Nucleic Acid Research 15:8125-8148(1987))。数個の停止コドンは、開始コドンの上流側に見られた。nt2637のTAG停止コドンは、3’非コード配列に続き、それは、他のHRGアイソフォーム(isoform)配列と同一であり、A-リッチな領域に続くポリアデニル化シグナルを含む。オープンリーディングフレームは、84.2kDaの計算上の分子量を持つ768アミノ酸残基のタンパク質をコードする。
【0212】
γ−HRGの構造分析:図2に示すように、γ−HRGは、GGF、SMDF、及びHRGβアイソフォームと完全に一致するEGF様ドメインを有する。GGF、SMDF及びHRGβ3と同じように、アミノ酸配列は、11可変アミノ酸残基が伸びた後に、近接膜領域で終端する。従って、γ−HRGは経膜的領域(TM)及び細胞質ドメインを欠く。HRGα及びHRGβにおけるように、多数のN-またはO-結合グリコシル化部位を持つスペーサー領域が存在する。この領域は、Ig様ドメインを持つEGF様ドメインに連結する。最近発見された新しいアイソフォーム、即ち感覚及び運動ニューロン誘導因子(SMDF)を除いて、全ての周知のHRGフォームはこのモチーフを含む。Ig様ドメインの蒸留のN−末端ドメインは、独特であり他の全てのヘレグリンから区別できる。HRGα及びHRGβに見られる最初の33アミノ酸配列は存在しない。しかし、γ−HRGは、周知のDNA又はタンパク質配列に類似性を示す560アミノ酸配列を有する。他のHRGアイソフォームで見られるように、γ−HRGは、N−末端シグナル配列を欠く。しかし、独特な領域は、22アミノ酸伸びた疎水性アミノ酸残基を示し、それは、内部のシグナル配列として機能し、γ−HRGの分泌能力の原因となる場合もある。モチーフデータベースを検索した後、N−末端領域に構造的モチーフは見いだせなかった。
【0213】
MDA-MB-175、MDA-MB-231細胞系及び異なるヒト組織におけるヘレグリン転写の同定:MDA-MB-175、MDA-MB-231細胞系及び哺乳類腺組織におけるヘレグリン転写を比較するために、ポリ(A)+RNAにノーザンブロット分析を行った。HRGβ3のEGF様ドメインに相当する放射性ラベルしたフラグメントを用い、MDA-MB-231RNAにおいて、以前観察されたように3つの転写を検出した(Holmes等,Science 256:1205-1210(1992))。3つの転写のシグナル強度の変動性は、異なる細胞バッチ及びRNA調製物に依存した。同様の転写サイズは、通常の乳房組織RNAにも見られた。しかし、MDA-MB-175では、3.3kbの主要な転写のみが見られた。γ−HRGの独特なN−末端配列に相当する32PラベルしたcDNAプローブを用いた場合、MDA-MB-231RNAにも乳房組織RNAにも、ハイブリダイゼーションシグナルは局在化しなかった。MDA-MB-175RNAでは、再び主要な3.3kbバンドが検出された。オートラジオグラフへの過剰な露出により、1.8kb、5kb及び7.5kbのサイズのさらに低い強度のバンドが見られた。これらは、EGF様ドメインプローブを用いた広範な露出後のオートラジオグラムにも見られた。種々のヒト組織が、γ−HRGmRNAの存在について試験された。転写は、精巣、卵巣、骨格筋に見られ、心臓、脳及び腎臓に弱い強度で見られた。脾臓、胸腺、前立腺におけるノーザンブロットでは転写は見られず、結腸、末梢血液白血球、胎盤、肺、肝臓及び膵臓では小さな強度で見られた。いかなる理論に依るものでもないが、これは、これらの組織における異なるスプライシングによると思われる。
γ−HRGアイソフォームはDNA再配列の結果ではない:ヘレグリン/NDFアイソフォームは、分化的にスプライシングされた遺伝子の産物である。γ−HRGがヘレグリン遺伝子の代替的スプライシング変異体ではなく、MDA-MB-175細胞におけるDNA再配列の産物である可能性が示された。この問いに答えるために、MDA-MB-231及びMDA-MB-175細胞から回収されたゲノムDNAのサザンブロット分析を行った。両方の細胞系のゲノムDNAは、制限酵素で消化してサイズ分画した。ブロットを、γ−HRGの放射性ラベルしたcDNAプローブ(nt1690−2351)でハイブリダイズした。cDNAプローブの5’プライムは、独特なN−末端配列に相補的であった。3’プライムは、ヘレグリンに共通に分配された配列の一部を含み、これは、上記のMarchionni等,がエクソン2と定義している。これは、プローブが、エクソン/イントロン結合または可能なDNA再配列部位に渡って設計されたことを意味する。MDA-MB-175及びMDA-MB-231細胞系の両方におけるバンドサイズの比較は相違を示さず、γ−HRGが、DNA再配列の産物ではなく、新たなヘレグリン遺伝子のスプライシング変異体であることを強く示唆している。
【0214】
γ−HRGの機能活性:MDA-MB-175細胞で条件付けされた媒質を、MDF7細胞への結合アッセイで分析したとき、〜26pMの濃度が検出された。
【0215】
しかし、この数値は、未精製媒質のHRGβ1(177-244)結合の置換特性に比較して得られたものである。この上清における低い濃度により、組み換えタンパク質が生成される。EGF様ドメインでのスクリーニング後に得られた異なるλgt10クローンの部分配列分析は、MDA-MB-175細胞が、一つ以上の新規なHRGアイソフォームを転写するという結論を導く。図1のγ−HRGを離れて、図1のγ−HRGのアイソフォームをコードするクローン20が広範に特徴付けされた(図5及び6A-C参照)。γ−HRGと比較して、クローン20は、アミノ酸560と561との間に、少なくとも26アミノ酸残基の挿入を含む。さらに、N−末端DNA配列は、付加的塩基対によってγ−HRGと相違している。
【0216】
しかし、クローン20は5’末端を欠いている。哺乳類細胞における初期発現実験は、クローン20DNA配列を含む構造物で行われた。分泌されたフォームのタンパク質配列分析は、N−末端配列及び疎水性領域を欠く加工されたポリペプチドを示した。タンパク質分解的切断が、このクローンの付加的挿入領域において、2つのアルギニン残基の間で起こった(即ち、タンパク質分解的に加工したタンパク質のN末端残基は、図5における残基315であった)。これらのデータに基づき、γHRGチオレドキシン融合タンパク質のN−末端切断物を、細菌性発現系で発現させた。C−末端チオレドキシン融合タンパク質として発現させたとき、幾つかの哺乳類サイトカイン及び成長因子はE.coli細胞質に留まると報告されているが、trxγ−HRGは不溶性であった(LaVAllie等,Bio/Technology 11:187-193(1993))。これらの条件下で、trxγ−HRGは封入体に蓄積され、そこから組み換えタンパク質が単離される。精製に続いて、タンパク質は亜硫酸化され、次いでシステインの添加によりリフォールドされる。γ−HRGと、ヘレグリンレセプターErbB3及びErbB4との相互作用が試験された。in vitro系を用いた結合分析が行われ、個々のレセプターの結合特性が実験された。ErbB3及びErbB4の細胞外ドメインを含むIgG融合タンパク質が構成された。イムノアドヘシンは、125I−HRGβ1(177−244)(0.23nM)及び増加させた量の非標識γ−HRGとともにインキュベーションした。γ−HRGは、ErbB3及びErbB4の両方のレセプター各々に置換可能であった。結合分析は、ErbB3イムノアドヘシンに対するγ−HRGについて、19±1.3nMのEC50、ErbB4−IgGに対して、13.3±0.8nMのEC50を示した(図3)。競合的結合アッセイにおける、HRGβ1(177-244)とチオレドキシンHRGβ1(177-244)融合タンパク質との比較により、N−末端チオレドキシン配列は、結合親和性に影響しないことが示された。全てのチロシンキナーゼクラスIレセプターを中位のレベルで発現するヒト乳癌細胞系MCF7(Beerli等,Mol.Cell.Biol.,15:6496-6505(1995))における、ErbBレセプターのチロシンリン酸化を刺激するγ−HRGの能力が実験された。細胞は、種々の量のγ−HRGで処理され、抗-ホスホチロシン抗体での免疫ブロットを用いてチロシンキナーゼ活性が測定された。投与量依存性のチロシンリン酸化が検出された。EC50は、γ−HRGβ1(60pM)で処理したMCF7で見られたものと同様であった。MDA-MB-175細胞の上清に見られるγ−HRGの機能活性を評価した。分泌されたアイソフォームのサイズ測定は、ErbB2/ErbB4−IgG異種ダイマーで実施されるウェスタンブロットによって行った。γ−HRGは、C4逆相カラムを用いたHPLCにより、条件付け媒質から半精製した。SDS−PAGEにより〜64kDaのバンドが見られ、全長HRGβ1を発現したCHOは、45kDaの分子量サイズで泳動した。これらのデータは、成熟したタンパク質が、HRGβ1より20kDa大きいことを示している。いかなる理論によるものではないが、γ−HRGの加工は、分泌事象の間に起こり、γ−HRGの”成熟”フォームを放出すると思われる。MCF7細胞に対する結合実験により、125I−HRGβ1(177-244)の未精製条件付け媒質での投与量依存性の置換が示された。さらに、MCF7細胞に対するチロシンリン酸化実験は、分泌されたγ−HRGのシグナル化能力も明らかにした。これらの発見は、組み換えγ−HRGで行った実験から得られたデータに合致する。
【0217】
ヘレグリンはヒト乳房腫瘍細胞系MDA-MB-175の自己分泌成長因子である:MDA-MB-175細胞は、ErbB2/ErbB3及びErbB2/ErbB4異種ダイマー複合体Sliwkowski等,J.Biol.Chem.269:14661-14665(1994)のリガンド依存性形成を阻害するErbB2モノクローナル抗体(2C4)で処理した。クリスタルバイオレット染色アッセイにおいて、2C4でのインキュベーションは、この細胞系に対する強い成長阻害効果を示した(図4A)。外来HRGは、この阻害を有意に逆転しなかった。一方2C4は、ErbB2過剰発現細胞系SK-BR-3には阻害効果を示さなかった(図4B)。2C4からの異なるエピトープと相互作用する他のErbB2に対するモノクローナル抗体である(Fendly等,上記)4D5での処理は、MDA-MB-175さいぼうにおいて中程度の成長阻害性であった。4D5による細胞分化の阻害は、ErbB2発現レベルに依存する(Lewis等,Cancer Immunol.Immunother.,37:255-263(1993))。SK-BR-3細胞における66%の最大阻害が検出された(図5B)。しかしながら、この効果は、外来HRGによって打ち負かされる。分泌されたγ−HRGが-ErbBレセプターと自己分泌的に相互作用することをさらに実証するために、可溶性レセプターイムノアドヘシンを用いてさらなる阻害実験を行った。MDA-MB-175及びSK-BR-3細胞を、ErbB4−IgGとともに4日間インキュベーションし、細胞増殖をクリスタルバイオレット染色によって測定した。イムノアドヘシンでの処理は、MDA-MB-175細胞において64%の強い成長阻害をもたらした。この効果は、過剰の外来HRGの添加によって完全に中和された。HRGを発現しないSK-BR-3細胞においては、ErbB4−IgG処理は効果がなかった。これらの発見から、MDA-MB-175によるγ−HRGの分泌は、構成的活性レセプター複合体の形成を導き、これらの細胞の自己分泌的成長を刺激すると結論づけられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたγ−HRG。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【公開番号】特開2009−235108(P2009−235108A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171357(P2009−171357)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【分割の表示】特願平10−506093の分割
【原出願日】平成9年7月8日(1997.7.8)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】