説明

ガン光線力学治療用新規光増感剤

【課題】新規化合物およびそれを光増感剤として含むガン光線力学治療用医薬の提供。
【解決手段】5−アジド−4−オキソ−ヘキサン酸メチルエステル並びに触媒としてのNaReO4及びCF3SO2Hを、無水酢酸及び四塩化炭素の混合溶液中に加えて還流することにより合成される新規化合物である式(IX)の化合物である5‐アセタミド‐4‐オキソ‐5‐ヘキセン酸メチルエステルおよびそれを光増感剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、その製造方法並びに該化合物又はその薬学的に許容可能な塩を光増感剤として含む、ガン光線力学治療用医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ガンの治療には、外科手術、放射線療法、化学療法等の多様な方法があり、治療されるガンの性質、体内における部位などに応じて好ましい方法が選択される。しかしながら、放射線療法、化学療法などの方法の多くは重い副作用を有することが知られており、その主な理由は、これらの方法が比較的無差別な細胞毒性を有するということである。したがって、病気の組織に対してより選択性の高い治療方法である光線力学療法(以下、PDTという。)は、他の多くのガン治療方法に比較して上記の不利益を大きく減少させることのできるものである。
【0003】
ガンのPDTの原理は、可視光線と光増感剤の組み合わせが、どちらもそれ自体無害であるが両者と酸素が同時に存在すると、光増感剤が光励起され光励起三重項状態となり、これを介してガン細胞を不活性化する致死的な細胞毒性物質を生成するという現象に基づく。そして光増感剤、酸素および光を同時に適用するこの方法は、病気の組織が正常組織に比較して選択的に光増感剤を取り込むこと(約2倍)、及び光照射を病気の組織に限定して正常組織での光増感剤の活性化を制限することによって得られたガン組織に対する2重の選択性によって、専ら病気の組織のみが生成した細胞毒性物質に対して露出され、正常組織を無傷に保ちつつ腫瘍を選択的に破壊することを可能にする。
【0004】
光増感剤は、特定の波長の光を吸収し、これを有用なエネルギーに変換する化合物である。特にPDTにおいては、光増感剤は、選択的に病気の組織中に蓄積され、細胞毒性物質を産生することを特徴とする。PDTにおける光増感剤の作用機序は詳しく解明されている。光照射によって、まず、光増感剤が基底状態(S0)から第一励起状態(S1)へ励起され、さらに分子間のクロスリンクを介して、三重項状態(T1)へ変換される。この三重項状態が長く続くことによって、励起された光増感剤と周囲の分子との相互作用及びPDTの間における細胞毒性種の生成も可能となる。具体的には、励起された光増感剤は、以下の2つのタイプの反応のいずれかを介して、究極的にはPDTにおける腫瘍細胞の破壊をもたらす(非特許文献1):
1)生物学的な溶媒又は他の光増感剤のいずれかとの間で水素原子の除去又は電子伝達を行うことによって、反応性の高いフリーラジカルとラジカルイオンを生成する。これが酸素分子と反応してスーパーオキサイドアニオンなどの反応性の酸素種を生成して酸素による生物学的ダメージを細胞に与える;及び
2)基底状態の酸素分子との間のエネルギー伝達により、第一励起状態の酸素である一重項酸素を生成する。この非常に反応性の高い両性イオン種が、多くの生物学的基質と反応して酸化的ダメージを起こし、細胞死に導く。
【0005】
従来使用されてきた光増感剤の多くは、ヘマトポルフィリンを酸で処理して合成した、以下の式(I):
【化1】

{式中、R1とR2は、‐CH(OH)CH3又は‐CH=CH2であり、そして、nは、0〜6の整数である。}
により表される、フォトフリン(登録商標)などのヘマトポルフィリン誘導体である。ヘマトポルフィリンは、エーテル結合を持つ20種類以上の混合物からなり、ヘム色素と同様、光増感剤において重要と考えられる以下の式(II):
【化2】

により表されるポルフィリン環を有している。ポルフィリン及びヘムはどちらもすべてのエネルギー産生細胞において合成され、ヘムタンパク質の補欠分子団に含まれる。後述する他の光増感剤である5−アミノレブリン酸(ALA)を介して合成されるヘムは、呼吸によって酸素を取り込んでラジカルを形成し、これによってDNAが切断されて細胞死をもたらすと考えられる。しかしながら、ヘマトポルフィリン誘導体には、可視領域の中でも比較的波長の短いところに極大吸収があり、組織透過性の良い長波長領域には吸収がないこと、及び腫瘍への選択性が低いという2つの欠点があり、その効果は限定的なものである(非特許文献2)。
【0006】
また、ヘマトポルフィリン誘導体以外の臨床で最近使用されている光増感剤には、生物学的アッセイにおいて着色剤として広く使用されている、以下の式(III):
【化3】

により表されるメチレンブルーがある。しかしながら、この化合物は低毒性であるという利点を有する一方、細胞内酵素によって普遍的に還元されて光増感剤としての活性を失ってしまうことから、そのインビボにおける光増感剤としての使用は限定的なものである(非特許文献1)。
【0007】
我々は先の研究において、「アラレマイシン」と名づけた、以下の式(IV):
【化4】

により表される5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸を抗生物質のスクリーニングにおいて見出した。そして、ストレプトミセス属放線菌が生産するこの化合物が、ジャイレース活性の阻害を介して染色体分配を阻害する抗菌活性を有することを明らかにした(非特許文献3)。さらに該化合物は、以下の式(V):
【化5】

により表される抗癌抗生物質プリモカルシン(非特許文献4)の公知の類縁体であり(非特許文献5)且つポルフィリンの前駆体であって従来の光増感剤の一つである、以下の式(VI):
【化6】

により表される、ALAと構造が類似していることから、ポルフィリン合成系に作用して細胞の光感受性を増大させることが期待された。しかしながら、光増感剤としてのALAは、低分子であり、極性を有することから、多くの皮膚症状に対する局所的PDT、表在性基底細胞癌などにも使用可能であると考えられる一方、局所剤として使用した場合、あまり皮膚の奥深くまでは浸透しないという問題も有する(非特許文献1)。
【0008】
したがって、これらの欠点を克服した新規な光増感剤の開発が必要とされる。
【0009】
上記のように知られた化合物である5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸の類縁体の中でも、以下の式(VII):
【化7】

により表されるそのエチルエステル(5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸エチルエステル)は、従来技術であるプリモカルシン合成反応の中間体としてすでに合成された公知の化合物である。その方法は、以下の式(VIII):
【化8】

により表される化合物を出発物質として使用し、いくつかの反応を経て5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸エチルエステルを中間体として得ることを含むものであった。得られた上記エチルエステルをアンモニア処理して得られるのが、プリモカルシンである(非特許文献5)。
【0010】
上記エチルエステルに対応するメチルエステルである本発明の化合物、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルは、新規化合物であって、上記エチルエステルを記載した非特許文献5にも記載されておらず、したがって、該メチルエステルの合成方法は知られていない。さらに、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルの合成に上記反応を適用することは、反応の選択性及び収率の低下が予想された。また、上記方法に関する記載には、出発物質の合成方法が含まれていない等の不明な点があった。
【0011】
【非特許文献1】Sharman, W.,et al., DDT Vol.4, No.11 November (1999) 507-517
【非特許文献2】大倉一郎、「ポルフィリンを用いた光線力学療法」生体の高分子、高分子学会編、p.133-145
【非特許文献3】阿波雄基、岩井伯隆、永井和夫、和地正明、(2002)天然物由来Gyrase阻害剤の単離、第25回日本分子生物学会年会講演要旨集、p.562 (抗生物質5-Acetamido-4-oxo-5-hexanoic acidの分離と構造決定)
【非特許文献4】Isono, K., and Suzuki, S. (1962) Studies of primocarcine. II. J. Antibiotics, Ser. A, 15, 77-79 (抗癌抗生物質primocarcin(5-Acetamido-4-oxo-5-hexenoic acid類縁化合物)の分離とその特性)
【非特許文献5】Bowman, R. E., Closier, M. D., and Islip P.J. (1965) The Synthesis of primocarcin and analogues. J. Chem. Soc., 470-473. (Primocarcinとその類縁体の合成法)
【非特許文献6】Carmichael, J., DeGraff, W.G., Gazgar, A.F., Minna, J.D., and Mitchell, J.B. Evaluation of a tetrazolium-based semiautomated colorimetric assay: assessment of chemosensitivity testing. Cancer Res., 47, 936-942, 1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ヘマトポルフィリン誘導体に代わる新規光増感剤用新規化合物又は薬学的に許容可能なその塩、該化合物の製造方法、並びに該化合物又は塩を含む、ガン光線力学治療用医薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下の式(IX):
【化9】

により表される化合物である5‐アセタミド‐4‐オキソ‐5‐ヘキセン酸メチルエステル、又は薬学的に許容可能なその塩が提供される。
【0014】
本発明によれば、上記新規化合物5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルの製造方法であって、以下のステップ:
以下の式(X):
【化10】

により表される5−アジド−4−オキソ−ヘキサン酸メチルエステル並びに触媒としてのNaReO4及びCF3SO2Hを、無水酢酸及び四塩化炭素の混合溶液中に加えて還流すること;
を含む、前記方法が提供される。
【0015】
さらに、本発明によれば、5‐アセタミド‐4‐オキソ‐5‐ヘキセン酸メチルエステル又は薬学的に許容可能なその塩を光増感剤として含む、ガン光線力学治療用医薬が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、抗生物質のスクリーニングにおいて見出された5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸の合成過程において、新規化合物5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルの合成に成功した。
【0017】
合成された5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルは、従来の光増感剤ALAに比べて高い光感受性増大効果を示した。
【0018】
用語の説明
本明細書において、「ガン光線力学治療」及び「PDT」という用語は交換可能に使用され、いずれも光増感剤をガン患者に投与し、レーザー光照射を行うことにより、腫瘍を壊死させる方法を意味する(非特許文献1)。
【0019】
本明細書において、「光増感剤」という用語は、特定の波長の光を吸収し、これを有用なエネルギーに変換する化合物を意味する。
【0020】
本発明者らは、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸の合成過程において上記新規化合物5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルを合成することに成功した(図1参照)。その方法においては、まず4−ペンチニルカルボン酸を出発物質として用い、慣用方法によって合成の中間体である以下の式(X):
【化11】

により表されるアジ化ケトン(5−アジド−4−オキソ−ヘキサン酸メチルエステル)を合成する。
【0021】
当初、発明者らは次のステップとして、上記式(X)のアジ化ケトンにエタノール中でナトリウムエトキシドを加えて、該アジ化ケトンのアジド基をアミノ基に変換し且つ5位と6位の炭素の間に二重結合を形成することによって、以下の式(XI):
【化12】

により表される5−アミノ−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルを合成し、これからさらに以下の式(IV):
【化13】

により表されるカルボン酸アミド(5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸)を得ようと試みた。しかし、合成された5−アミノ−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルは非常に不安定であり、該合成反応の中間体として使用することは不可能であった。
【0022】
そこで、本発明者らは、上記式(X)のアジ化ケトン中のアジド基に対して同時に還元とアセチル化を行うステップによって、他の中間体として式(IX)のアミド(5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステル)を合成することを考案し、得られた該アミドを用いて式(IV)のカルボン酸アミドを合成することに成功した(図1参照)。
【0023】
上記のように、本発明の新規化合物5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルは、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸の合成中間体として得られたものであるが、これを従来技術によって対応するエチルエステルと同様に合成することが適当でないと予想されたことは既に述べたとおりである。これに対して、本発明の方法は、上記従来技術とは出発物質、各反応ステップともに全く異なるものであり、目的のメチルエステルを容易な反応により高収率で合成することのできるものであった。加えて、上記メチルエステルから合成されるアラレマイシン(5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸)の6位の炭素をさらに水素化することを介して、多様なα−カルボニル化合物を合成することができ、上記ステップは、α−カルボニル化合物の製造過程においても広く適用できると考えられる。
【0024】
本発明の好ましい実施態様によれば、上記ステップにおいて溶媒であり且つアセチル基の供給源である無水酢酸とともに使用される溶媒は、ハロゲン性の溶媒であり、好ましくはクロロホルム、塩化メチレン又は四塩化炭素のいずれかであり、より好ましくは四塩化炭素である。また、本発明の方法中では、アジ化ケトンからアミドへの変換反応に通常用いられるEtOH中のNaOEtの代わりに、NaReO4を触媒として用いることにより、5−アジド−4−オキソ−ヘキサン酸メチルエステルから5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルを合成することに成功した。NaReO4の使用量は、0.005〜0.03当量、より好ましくは0.013当量である。
【0025】
得られた5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルが細胞内で光感受性増大効果を有するためには、上記合成ステップによって導入されたアセタミド基中のアセチル部分による水溶液中での該化合物の安定化及びメチレン部分による細胞内でのラジカル生成が必要とされ、有効な光増感剤としての特徴を該化合物に与えるこれらの部分を効率よく導入することのできる上記合成方法は、非常に有益なものである。加えて、細胞へ効率よく取り込まれるためには、細胞膜透過性の高い脂溶性の化合物であることも必要であり、その点でも本発明のメチルエステルは優れたものといえる。
【0026】
さらに、上記メチルエステルから慣用方法によって、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸をはじめとしたその誘導体が合成可能である。上述の5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステル及びその誘導体の新規合成法により、新規光増感剤開発のためのこれら新規リード化合物の安定供給が可能となった。
【0027】
さらに、Hela細胞を用いた実験によって、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルが、従来の光増感剤ALAに比較して優れた光感受性の増大を示すことを明らかにした。インビトロで癌細胞と光増感剤を接触させ、光(又はレーザー)を照射することによって示される、光増感剤の癌細胞生存率(光感受性)に及ぼす効果と、同じ光増感剤がインビボでマウスの固形腫瘍に対して及ぼす成長抑制効果との間に正の相関関係のあることはすでに証明されている(非特許文献2)。したがって、上記メチルエステルは、新規光増感剤開発のリード化合物として期待される。また、構造的類縁体である、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸(アラレマイシン)が抗菌活性を有するが、本発明の上記メチルエステルも抗菌活性を示す。
【実施例】
【0028】
特記されない限り、以下の実施例中において使用した反応物質は、商業的に入手した。
【0029】
実施例1 5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルを中間体として介する、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸の合成
図1に示した合成スキームにしたがって以下のステップを実施することにより、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルを中間体として介する、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸の合成を行った(図1参照)。
1)ラクトン(図1中の式(XIII)により表されるテトラヒドロ−2−エチリデン−5−フラノン)の合成
PDCl2(PhCN)2(54mg、0.14mmol)の入っているフラスコの中にMeCN(25mL)、Et3N(0.060mL、0.43mmol)、及びカルボン酸(図1中の式(XII)により表される4−ペンチニルカルボン酸)(0.16g、14.3mmol)をこの順に入れ、5時間加熱還流した。溶媒を減圧下留去し、粗生物をシリカゲルクロマト(メルク社製のシリカゲル60)に付すと、式(XIII)のラクトンが1.36g得られた(収率85%):1H NMR δ1.68(dt, J=7.2 Hz, 3H), 2.54-2.70(m, 2H), 2.76-2.86(m, 2H), 4.62(tq, J=1.5, 7 Hz, 1H)
【0030】
2)ブロモケトン(図1中の式(IVX)により表される5−ブロモ−4−オキソヘキサン酸メチルエステル)の合成
式(XIII)のラクトン(850mg, 7.58mmol)をCCl4(10mL)に溶かし、0℃に冷却後、その中にBr2(0.39mL, 7.57mmol)のCCl4(2mL)溶液を滴下した。30分たってから濃縮し、MeOH(10mL)とEt3Nを少量加えた。室温下、1時間攪拌し、濃縮した。こうして合成した粗生成物をシリカゲルクロマトに付すと、式(IVX)のブロモケトンが1.20g得られた(収率 71%):1H NMR δ1.77(d, J=7Hz, 3H), 2.49-2.78(m, 2H), 2.91(ddd, J=18, 7.5, 6Hz, 1H),3.14(ddd J=18, 6.5, 6Hz, 1H), 3.69(s, 3H), 4.49(q, J=7Hz, 1H);13C NMR δ20.2, 28.4, 33.6, 47.5, 52.0, 172.8, 202.9。
【0031】
3)アジ化ケトン(式(X)により表される5−アジド−4−オキソ−ヘキサン酸メチルエステル)の合成
式(IVX)のブロモケトン(1.20g,5.38mmol)をDMF(5mL)に溶解し、この中にNaN3(699mg,10.8mmol)を加えた。室温下、1時間攪拌した後、水を加えた。生成物を3回Et2O抽出した。抽出液をMgSO4で乾燥し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルクロマトに付すと式(X)のアジ化ケトンが976mg得られた(収率 98%):1H NMR δ1.41(d, J=7Hz、3H),2.56-2.62(m, 2H), 2.77‐2.83(m, 2H), 3.63(s, 3H), 3.97(q, J=7Hz, 1H);13C NMRδ15.8, 27.6, 33.7, 51.9, 63.2, 172.6, 205.8。
【0032】
4)アミド(式(IX)により表される5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステル)の合成
Ac2O(0.5mL)とCCl4(0.5mL)の混合溶液の中にNaReO4(1mg、0.0037mmol)、CF3SO3H
(0.001mL,0.011mmol)、及び式(X)のアジ化ケトン(50mg, 0.27mmol)を加え、10時間加熱還流した。溶液を減圧下濃縮し、粗生成物をシリカゲルクロマトに付すと、式(IX)のアミドが34mg得られた(収率63%):1H NMR δ2.12(s, 3H), 2.68(t, J=6.5Hz, 2H)3.11(t, J=6.5Hz, 2H), 3.70(s,3H), 5.84(t, J=1Hz, 1H), 6.93(d, J=1Hz, 1H), 7.99(br s, 1H);13C NMR δ24.8, 28.1, 30.8, 52.0, 109.5, 137.7, 169.0, 172.7, 194.9。
5)カルボン酸アミド(式(IV)により表される5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸)の合成
氷冷したMeOH(1.1mL)とH2O(1.1mL)の混合溶媒中に式(IX)のアミド (180mg, 0.904mmol)と1N水酸化リチウム(1.2mL)を加えた。この溶液を30分間そのままの温度で攪拌し、その後、溶液を10%酒石酸を加えて弱酸性にした。生成物を酢酸エチルで3回抽出し、抽出液をMgSO4で乾燥し、濃縮した。最後に粗生成物をシリカゲルクロマトに付すと、式(IV)のカルボン酸アミド6148mgが得られた(収率88%):1H NMR((CD3)2SO中)δ2.02(s, 3H), 2.46-2.51(m, 2H), 2.96(t, J=6Hz, 2H), 5.79(s, 1H), 6.46(s, 1H), 9.10(br s, 1H), 12.15(bs s, 1H); 13C NMR(CD3OD中)δ24.0, 28.9, 32.2, 110.6, 140.1, 172.0, 176.0, 196.6。
【0033】
実施例2 5−アミノレブリン酸及び5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルによる光感受性の増大
ヒト子宮癌細胞Hela細胞を、35mmシャーレに2×104となるように播種し、10-4M、10-5M濃度の5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルを、単独で及び10-3MのALAの共存下、暗所で1時間接触させた後に洗浄した。この処理後の細胞をさらに光照射した群及び暗所に維持した群に分けた(1群3例)。光照射は500Wハロゲンランプ(東芝、425WN-EH)で500nm以上の光を照射し、光量は28J/cm2であった。照射24時間後に、MTT法(非特許文献6)で細胞生存率を決定した(図2参照)。光照射することによって、10-4モル濃度の5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステル単独処理後の細胞生存率が約30%低下し、10-3モル濃度でも光照射後に約90%の細胞生存率を示す5−アミノレブリン酸に比較して顕著な光照射による細胞毒性の増大を示した。また、10-4モル濃度の5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルを10-3モル濃度の5−アミノレブリン酸と併用しても、光照射によって暗所においた場合に比べて顕著に細胞生存率が低下した。このことにより、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルの細胞に対する光感受性の増大作用が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルを中間体として介する、5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸の合成法を示すスキームである。
【図2】図2は、5−アミノレブリン酸及び5−アセタミド−4−オキソ−5−ヘキセン酸メチルエステルによるHela細胞の光感受性の増大を、上記薬剤への露出後に光照射した場合及び暗所においた場合それぞれの細胞の細胞生存率を比較することによって示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(IX):
【化1】

により表される化合物である5‐アセタミド‐4‐オキソ‐5‐ヘキセン酸メチルエステル、又は薬学的に許容可能なその塩。
【請求項2】
請求項1に記載の5‐アセタミド‐4‐オキソ‐5‐ヘキセン酸メチルエステルの合成方法であって、以下のステップ:
以下の式(X):
【化2】

により表される5−アジド−4−オキソ−ヘキサン酸メチルエステル並びに触媒としてのNaReO4及びCF3SO2Hを、無水酢酸及び四塩化炭素の混合溶液中に加えて還流すること、
を含む、前記方法。
【請求項3】
請求項1に記載の5‐アセタミド‐4‐オキソ‐5‐ヘキセン酸メチルエステル又は薬学的に許容可能なその塩を光増感剤として含む、ガン光線力学治療用医薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−282577(P2006−282577A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104466(P2005−104466)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(899000013)財団法人理工学振興会 (81)
【Fターム(参考)】