説明

キズ検査用基準ゲージの製造方法

【課題】検査対象物の内部キズが維持基準を満足するものか否かを正確に検査し得るキズ検査用基準ゲージを高品質で製作し得るキズ検査用基準ゲージの製造方法を提供する。
【解決手段】キズ検査用基準ゲージ1は第1のピースと第2のピース3とを拡散接合により一体化し、その内部に維持基準に対応する凹溝等を封止形成したものからなり、このキズ検査用基準ゲージは、第1のピース2又は第2のピース3の接合面2a,3aや端面に予めレーザ加工等により凹溝等4を加工し両者を合体しHIP装置により拡散接合して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力,ロケット,航空機,船舶,車両,二輪車,機関車,マシーン,タンク,プラント,橋梁,橋,建造物,鍵,鋳物等のキズ検査対象物のキズ測定時において、その検査方法の正否を決めるために使用される基準ゲージの製造方法に係り、特に、キズの評価のために決められている維持基準に対してキズ検査対象物の合否を正しく判断し得るキズ検査用基準ゲージの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面キズの確認方法には、目視試験(VT)や超音波探傷試験(UT)及び渦電流探傷試験(ET)等がある。これらの試験方法を適用する場合、各々の試験方法の校正を行うための試験片(基準ゲージ)が必要になる。特に、超音波探傷試験や渦電流探傷試験の場合にはキズの深さを評価する必要があるため、人工キズとしては表面から深さを変えての模擬欠陥の加工が必要になる。従来これらのキズの加工方法としては放電加工(EDM)が一般に採用されている。しかしこの加工方法では、加工に電極を使用するため電極の厚さよりも幅の狭いキズの加工は不可能であり、キズ幅としては0.5mm(500μm)が限度であり、これ以下の幅の加工はできない。一方、目視の確認精度として、アメリカの規格で採用されているミルワイヤ(1/1000mm:0.025mmの線)の識別が求められているが、現実にミルワイヤの入手は困難であり、これに相当する目視基準ゲージが必要となり、これを手軽に社会に供給することが必要となるが、今の所、このような基準ゲージは存在していない。また、キズを評価するために維持基準が決められているが、キズ検査対象物がこの維持基準を満足しているか否かを正確に決められるものではない。なお、基準ゲージに関する特許文献はあまり見当らないが、特許文献1がある。
【特許文献1】特開2002−250694(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記のように、これからのキズ検査の場合には、自然キズに近い幅の狭い人工キズを有するものが必要であり、維持基準が良否判定の基準となる。具体的には、例えば、少なくとも30μm程度で1/17の加工精度を有するものが必要である。前記特許文献1の特開2002−250694の「非接触式目視検査方法及び装置」の場合は基準となるキズは放電加工による500μm程度のものであり、前記の条件を満足するものではない。また、現存している放電加工機や電子ビーム加工機では500μmよりも狭幅のキズ加工はできない。
次に、原子力機器やロケット等の機器点検に適用される各種試験方法(RT,ET,VT)では、その評価精度を向上させるため、より幅の狭い自然キズに近いキズ加工が求められている。この自然キズに近いキズ加工が可能となれば、原子力機器は勿論、原子力機器以外の産業分野での各種試験方法の評価精度を向上させることが可能となり、製品の安全性が大幅に向上し、社会全般における信頼性を大きく向上させることができる。
【0004】
本発明は、以上の事情に鑑みて発明されたものであり、維持基準に対するキズ検査対象物の良否が正確にわかり、かつ比較的容易に加工でき、更に鋼以外の各種の材質に対しても加工可能であり、各種材質のキズ検査対象物のキズ検査が正確にできる簡便構造のキズ検査用基準ゲージの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以上の目的を達成するために、請求項1の発明は、金属,非金属,貴金属,合金,セラミックス,複合材等の同一材料又は異種材料からなる第1及び第2のピースの接合面や端面に検査対象物のキズに関する維持基準に対応する凹溝や細線,細条(以下、凹溝等という)を単列,並列,複層並列,重ね,複層重ねに形成してなるキズ検査用基準ゲージの製造方法であって、該製造方法は、前記第1のピース及び第2のピースの接合面を所定粗さに仕上げる第1のステップと、前記第1のピース及び第2のピースの一方又は双方の接合面や端面の一部に前記凹溝等を形成する第2のステップと、前記凹溝等を拡散接合しにくい処理を施す第3のステップと、前記第1のピースと第2のピースの接合面を接合せしめてこれ等をHIP装置内に入れて拡散接合又は高周波加熱接合を行う第4のステップとからなることを特徴とする。
【0006】
また、請求項2の発明は、前記第3のステップにおける前記凹溝等の拡散接合しにくい処理が、前記凹溝等内を酸化処理するものからなることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3の発明は、前記酸化処理が、炭素,コウミヨウタン,鉛,薬剤,火力,水,油等の処理を行うものからなることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4の発明は、前記凹溝等の形成が、レーザ,電子ビーム,放電加工,ウオータジェット,エッチング,アーク加工によることを特徴とする。
【0009】
また、請求項5の発明は、前記第1のピース及び第2のピースは検査対象物の構成と同一の材料及びその組み合わせからなることを特徴とする。
【0010】
また、請求項6の発明は、前記第1のピースと第2のピースとの結合が溶接結合により形成されたものであり、前記凹溝等が溶接接合面,その境界面,母材に形成されるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1のキズ検査用基準ゲージの製造方法によれば、第1のピース及び/又は第2のピースに形成される凹溝等を維持基準に対応する形態にすることができ、かつキズ検査用基準ゲージは前記凹溝等を一体的に構造体の内部に正確に保持することができ、高品質の基準ゲージを製造することができる。
【0012】
また、請求項2のキズ検査用基準ゲージの製造方法によれば、酸化処理を行うことにより拡散接合時に凹溝等が無くなることが防止され、所望の形態の基準溝を形成することができる。
【0013】
また、請求項3のキズ検査用基準ゲージの製造方法によれば、酸化処理の手段が具体的に示され、凹溝等は拡散接合により消滅することがない。
【0014】
また、請求項4のキズ検査用基準ゲージの製造方法によれば、凹溝等がレーザ加工等により形成されるため、極めて微細な形状に、かつ正確に凹溝等を形成することができる。また、レーザ加工等のため、任意の材質のピースに対しても加工可能である。
【0015】
また、請求項5のキズ検査用基準ゲージの製造方法によれば、基準ゲージのピースは検査対象物と同一の材料及び材料組み合わせから形成されるため、正確なキズ判定を行うことができる。
【0016】
また、請求項6のキズ検査用基準ゲージの製造方法によれば、溶接による接合面にも凹溝等を作ることができ、従来不可能とされたキズ検査用基準ゲージを作ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のキズ検査用基準ゲージの製造方法の実施の形態を図面を参照して詳述する。図1(a),図1(b)及び図2はキズ検査用基準ゲージの概要構造を示すものである。キズ検査用基準ゲージ1は第1のピース2と第2のピース3とを合体したものからなり、その接合面2a及び3aの箇所には凹溝等4が形成されている。この凹溝等4の形状や形態が維持基準のキズの形状,形態に対応するものである。なお、第1のピース2や第2のピース3の材質は検査対象物の材料構成と同一のものが使用される。即ち、同一材料に限らず異種材料についても広く適用される。勿論この凹溝等4は内部に形成されているため通常の目視によっては確認できないが、内部を透視し得るテスト装置によって容易に確認することができる。なお、この凹溝等4は、例えば、レーザ加工により形成されるため、第1のピース2や第2のピース3の材質としては鋼のみならず、ステンレス,銅,アルミニウム,チタン,タンタル,タングステン,モリブデン,マグネシューム,セラミックス金,銀,複合材等が採用される。また、レーザ加工のため5μm程度、更にこれ以下の微細寸法の凹溝等4を正確に形成することができる。
【0018】
次に、以上の構造のキズ検査用基準ゲージ1の製造方法を図3乃至図6及び図7のフローチャートを用いて説明する。この製造方法としては概略第1のステップ乃至第4のステップからなる。
【0019】
まず、前記の第1のステップを説明する。第1のピース2及び第2のピース3を所定の形状のブロック体として形成した後、図3に示すように、第1のピース2及び第2のピース3の接合面2a及び3aを仕上げ加工する。後に説明する拡散接合によって第1のピース2と第2のピース3とを一体的に接合するには、この両者の接合面2a及び3aが高精度に仕上げられることが必要である。例えば、ILS以下に仕上げることが望ましい。この仕上げ加工方法としては各種のものが採用され、これ等には公知技術が適用可能である。
【0020】
次に、第2のステップを説明する。図4に示すように、例えば、第1のピース2の接合面2aにレーザ加工等により凹溝等4を形成する。この凹溝等4は前記のように維持基準に対応するものである。図4では四角状の凹溝等4が形成されているが、これに限定するものではなく、各種形状のものや単列に限らず、並列,複層,重ね形状も採用される。また、本例では第1のピース2側にのみ凹溝等4が形成されているが第2のピース3側でもよく、また、第1のピース2及び第2のピース3の双方に形成されてもよい。また、前記のように凹溝等4は維持基準に対応する形態のものからなるが、後に説明する拡散接合によって凹溝等4の一部が変形することも考えられるため、この変形代を加味したものにすることが必要となる場合もある。この変形代や主に経験上求められる。
【0021】
次に、第3のステップを説明する。一般に、拡散接合は接合面を隙間なく密に合体することが主目的であるため、凹溝等4も拡散接合時に変形又は皆無になる恐れがある。凹溝等4をレーザ加工した状態にほぼ保持するために第3のステップが行われる。このステップは拡散接合時において凹溝等4の部分が変形しないように、即ち、拡散接合の影響を受けないようにするためのものである。なお、図7のフローチャートに記載するように第2のステップと第3のステップとの間に酸化処理がすでにされたか否かのステップがある。これは、第2のステップにおける凹溝等4の加工時に酸化処理が自動的に行われる場合があるからである。具体的手段としては図5に示すようにこの凹溝等4内に微粒子のカーボン5を挿入するか(図5a)、又はこの凹溝等4の部位を酸化処理(図5(6))して酸化層6を形成する。これにより、凹溝等4の形態を保持することができる。
【0022】
次に、図6により第4のステップを説明する。このステップは拡散接合の工程である。拡散接合はHIP(Hot Isostatie Pressing)装置により行われ、公知技術である。具体的には、第1のピース2と第2のピース3とを接合合体させ、これをカプセル7で真空封止し、これをHIP装置に入れてHIP処理を行う。具体的には真空加熱又は高周波加熱による押圧によって行われる。ピース形状に見合ったHIP処理を行うことにより第1のピース2と第2のピース3とは拡散接合して一体化する。ここで、カプセル7を除去し、仕上げ加工することにより所望のキズ検査用基準ゲージ1が製作される。
【0023】
以上の工程によりキズ検査用基準ゲージ1が製作されるが、その製造工程については開示しないノウハウがあり、これにより、任意の形状高精度のキズ検査用基準ゲージ1を形成することができる。また、第1のピース2や第2のピース3の形状や凹溝等4の形状も図示のものに限定しないことは勿論である。
【0024】
図8は、第1のピース2と第2のピース3とが溶接結合される場合におけるキズ検査用基準ゲージ1a((a))を示す。このキズ検査用基準ゲージ1aは検査対象物と同一の溶接結合された検査ピースを図示のように溶接部8(断面B−B(b))とその境界面(断面C−C(c))及び母材(断面D−D(d))で切断し、夫々の切断面に前記の図7に示すフローチャートによる工程を施して形成される。これにより、従来不可能とされていた溶接部におけるキズ検査が正確に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によって製作されるキズ検査用基準ゲージは全ての構造物や建造物のキズ検査の基準ゲージとして使用され、その使用範囲は極めて広い。特に、高精度,高品質の保持を必要とする原子力関係や宇宙開発機器等の安全管理に対しては極めて有効であり、広い範囲で使用され、安全性確保のツールとして極めて有用のものとし使用される。また、本発明によるキズ検査用基準ゲージは使用者に販売されて利用されるが、製造側で販売管理する必要がある。よってキズ検査用基準ゲージにはその材質,シリアルナンバ等の管理に必要な表示が刻印やエッチング等により表示され製作者側でこれを基にしてIT手法等を用いて管理される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るキズ検査用基準ゲージの全体概要構造を示す斜視図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】本発明のキズ検査用基準ゲージの製造方法の第1のステップを説明するための模式的斜視図。
【図4】本発明のキズ検査用基準ゲージの製造方法の第2のステップを説明するための模式的斜視図。
【図5】本発明のキズ検査用基準ゲージの製造方法の第3のステップを説明するための模式的断面図(a),(b)。
【図6】本発明のキズ検査用基準ゲージの製造方法の第4のステップを説明するための模式的構成図。
【図7】本発明のキズ検査用基準ゲージの製造方法を説明するためのフローチャート。
【図8】接合面が溶接結合の場合のキズ検査用基準ゲージを示す斜視図(a)及び断面図(b),(c),(d)。
【符号の説明】
【0027】
1 キズ検査用基準ゲージ
1a キズ検査用基準ゲージ
2 第1のピース
2a 接合面
3 第2のピース
3a 接合面
4 凹溝等
5 微粒子カーボン
6 酸化層
7 カプセル
8 溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属,非金属,貴金属,合金,セラミックス,複合材等の同一材料又は異種材料からなる第1及び第2のピースの接合面や端面に検査対象物のキズに関する維持基準に対応する凹溝や細線,細条(以下、凹溝等という)を単列,並列,複層並列,重ね,複層重ねに形成してなるキズ検査用基準ゲージの製造方法であって、該製造方法は、前記第1のピース及び第2のピースの接合面を所定粗さに仕上げる第1のステップと、前記第1のピース及び第2のピースの一方又は双方の接合面や端面の一部に前記凹溝等を形成する第2のステップと、前記凹溝等を拡散接合しにくい処理を施す第3のステップと、前記第1のピースと第2のピースの接合面を接合せしめてこれ等をHIP装置内に入れて拡散接合又は高周波加熱接合を行う第4のステップとからなることを特徴とするキズ検査用基準ゲージの製造方法。
【請求項2】
前記第3のステップにおける前記凹溝等の拡散接合しにくい処理が、前記凹溝等内を酸化処理するものからなることを特徴とする請求項1に記載のキズ検査用基準ゲージの製造方法。
【請求項3】
前記酸化処理が、炭素,コウミヨウタン,鉛,薬剤,火力,水,油等の処理を行うものからなることを特徴とする請求項2に記載のキズ検査用基準ゲージの製造方法。
【請求項4】
前記凹溝等の形成が、レーザ,電子ビーム,放電加工,ウオータジェット,エッチング,アーク加工によることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のキズ検査用基準ゲージの製造方法。
【請求項5】
前記第1のピース及び第2のピースは検査対象物の構成と同一の材料及びその組み合わせからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のキズ検査用基準ゲージの製造方法。
【請求項6】
前記第1のピースと第2のピースとの結合が溶接結合により形成されたものであり、前記凹溝等が溶接接合面,その境界面,母材に形成されるものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のキズ検査用基準ゲージの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−78350(P2007−78350A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−39473(P2004−39473)
【出願日】平成16年2月17日(2004.2.17)
【出願人】(593210525)
【出願人】(504062212)
【Fターム(参考)】