説明

キナーゼハスピンに基づく組成物および方法

本発明は、キナーゼハスピンの活性を変化させる因子を使用して、ヒストンH3のリン酸化を上昇又は減少させる方法に関する。本発明には、阻害剤を同定するアッセイ、阻害剤の役割を果たす、又はリン酸化されたヒストンを特異的に認識する抗体を生成する役割を果たすペプチド、ペプチドをコード化するポリヌクレオチド、細胞内ハスピンレベルを上昇させる方法、並びに、細胞分裂における異常がハスピンの過剰発現又は発現不足によるかどうかを判定するために生物学的試料中のハスピン活性を評価する方法が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハスピンによるヒストンH3のリン酸化を阻害する因子を同定するアッセイに関する。本発明には、ハスピンの阻害剤として作用するペプチド、及びそれらのペプチドをコード化するヌクレオチドが含まれる。該ペプチドのリン酸化形態は、リン酸化された後のヒストンH3を特異的に認識する抗体を生成するために使用される場合があり、これらの抗体は、ハスピン活性を測定するアッセイにおいて使用される場合がある。更に、本発明には、低分子干渉RNAの使用に基づきハスピン活性を阻害する方法が含まれる。
【背景技術】
【0002】
細胞分裂の間の誤りは、ゲノムの不安定性及び異数性をもたらし得、癌及び先天性異常の発生の原因となる可能性がある。キナーゼの選択群は、有糸分裂を調整することがわかっている。特に、サイクリン依存性キナーゼ、Aurora、Polo及びNIMA/Nekファミリーは、クロマチン中、及び細胞分裂の間の現象を調節するための紡錘体装置において、基質をリン酸化する(非特許文献1)。
【0003】
驚くことではないが、ヒストンは有糸分裂キナーゼの主要な標的である。例えば、ヒストンH3は、有糸分裂及び減数分裂の間にセリン10において過剰にリン酸化される(非特許文献2;非特許文献3)。この修飾の機能は議論されているが、クロマチン凝縮、又はコヒーシンの遊離及びISWIクロマチン再構成ATPアーゼを促進する場合がある(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献3;非特許文献6)。ヒストンH3のセリン10における変異を有するテトラヒメナ種は、有糸分裂及び減数分裂の間にクロマチン凝縮の混乱及び異常な染色体単離を示す(非特許文献7)が、S.cerevisiaeにおける同様の突然変異はこのような影響を有さない(非特許文献8)。従って、セリン10におけるヒストンのリン酸化は、有糸分裂において重要な役割を果たすが、おそらく他の有糸分裂ヒストン修飾によってもたらされる過剰のため、これを必要とする範囲は種に依存しているように思われる(非特許文献8)。実際に、リン酸化される可能性がある、高度に保存された多くのセリン及びスレオニン残基は、全ての真核生物のコアヒストンで見つかっている。スレオニン11(非特許文献9)、及びH3のセリン28(非特許文献10)の有糸分裂リン酸化が報告されている。
【0004】
生体内における有糸分裂の間にヒストンをリン酸化するプロテインキナーゼの同一性は、幾分不明のままである。最も研究されているのは、分裂前期の間の染色体上に位置し、分裂後期に紡錘体中間帯を再局在化する前の分裂中期までに内部セントロメアにおいて濃縮される「染色体パッセンジャータンパク質」である、オーロラBである(非特許文献11)。これと一致し、オーロラBはクロマチン及び有糸分裂関連基質の両方を有し、複数の段階で有糸分裂に影響する。オーロラB相同体は、紡錘体への単一方向の結合を修正することにより分裂中期における染色体の二方向性を確保する上で重要な役割を果たしており、正常な染色体分裂及び細胞質分裂に関与している(非特許文献12;非特許文献5)。これらの相同体は又、多くの生物において、セリン7における動原体性ヒストン変異体CENP−Aのリン酸化、及びセリン10におけるヒストンH3のリン酸化に必要となる(非特許文献8;非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18;非特許文献19)。
【0005】
しかし、有糸分裂ヒストンH3セリン10のリン酸化をオーロラBのみにはっきりと割り当てることは可能ではない(Nigg 2001年;PrigentおよびDimitrov 2003年)。実際、アスベルギルスにおいて、有糸分裂ヒストンH3のセリン10のリン酸化はキナーゼNIMAに依存している(非特許文献20)。加えて、有糸分裂の間に他のヒストン残基のリン酸化を引き起こすキナーゼが存在するはずである。オーロラB及びDlk/ZipキナーゼがH3セリン28及びスレオニン11の有糸分裂リン酸化のそれぞれの原因であるという幾つかの証拠はあるものの、これらの鍵酵素の性質は不明のままである(非特許文献21;非特許文献9)。
【0006】
ハスピン/Gsg2(ハプロイド生殖細胞特異的核プロテインキナーゼ/生殖細胞特異的遺伝子2)は、マウスにおいて精巣特異的遺伝子として最初に同定された(特許文献22;特許文献23)。最近の研究では、更に低いレベルのハスピンmRNAが他の器官、及び試験を行った全ての増殖性細胞系にも存在することが示されており、このことは、ハスピンの発現が真に生殖細胞特異的でないことを示している(特許文献24)。ハスピン相同体をコード化する遺伝子は、酵母、微胞子虫、植物、線虫、ハエ、魚、両生類及びほ乳類等の全ての主要な真核生物門に存在している(特許文献25)。これらのハスピン遺伝子は、特有のC末端の推定上のキナーゼドメインを含み、一緒に新規の真核生物プロテインキナーゼファミリーを構成するタンパク質をコード化する(特許文献26)。ハスピンタンパク質のN末端部分は種の間で余り保存されておらず、公知のドメインに対して明らかな相同性を有さない(特許文献23;特許文献27;特許文献25)。
【非特許文献1】Nigg、「Nat.Rev.Mol.Cell Biol.」、2001年、第2巻、21−32
【非特許文献2】Hendzelら、「Chromosoma」、1997年、第106巻、348−360
【非特許文献3】Prigentら、「J.Cell.Sci.」、2003年、第116巻、3677−3685
【非特許文献4】Van Hooserら、「J.Cell.Sci.」、1998年、第111巻、3497−506
【非特許文献5】Andrewsら、「Curr.Opin.Cell.Biol.」、2003年、第15巻、672−683
【非特許文献6】Swedlowら、「Mol.Cell」、2003年、第11巻、557−569
【非特許文献7】Weiら、「Cell」、1999年、第97巻、99−109
【非特許文献8】Hsuら、「Cell」、2000年、第102巻、279−291
【非特許文献9】Preussら、「Nucleic Acids Res.」、2003年、第31巻、878−885
【非特許文献10】Gotoら、「J.Biol.Chem.」、1999年、第274巻、25543−25549
【非特許文献11】Carmenaら、「Nat.Rev.Mol.Cell Biol.」、2003年、第4巻、842−854
【非特許文献12】Shannonら、「Curr.Biol.」、2002年、第12巻、R458−460
【非特許文献13】Adamsら、「J.Cell Bio.」、2001年、第153巻、865−880
【非特許文献14】Gietら、「J.Cell.Biol.」、2001年、第152巻、669−682
【非特許文献15】Petersenら、「J.Cell.Sci.」、2001年、第114巻、4371−4384
【非特許文献16】Zeitlinら、「J.Cell.Biol.」、2001年、第155巻、1147−1157
【非特許文献17】Crosioら、「Mol.Cell Biol.」、2002年、第22巻、874−875
【非特許文献18】Ditchfieldら、「J.Cell Biol.」、2003年、第161巻、267−280
【非特許文献19】Haufら、「J.Cell Biol.」、2003年、第161巻、281−294
【非特許文献20】De Souzaら、「Cell」、2000年、第102巻、293−302
【非特許文献21】Gotoら、「Genes Cells」、2002年、第7巻、11−17
【非特許文献22】Tanakaら、「FEBS Letts.」、1994年、第355巻、4−10
【非特許文献23】Tanakaら、「J.Biol.Chem.」、1999年、第274巻、17049−17057
【非特許文献24】Higgins、「Gene」、2001年、第267巻、55−69
【非特許文献25】Higgins、「Cell Mol.Life Sci.」、2003年、第60巻、446−462
【非特許文献26】Higgins、「Prot.Sci.」、2001年、第10巻、1677−1684
【非特許文献27】Yoshimuraら、「Gene」、2001年、第267巻、49−54
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、スレオニン3におけるヒストンH3のリン酸化に関与するプロテインキナーゼがハスピンであるという所見に基づいている。ハスピンのレベルが異常に低い場合は、分裂中期において染色体の配列が起こらない。ハスピンレベルが異常に高い場合は、細胞が分裂中期に入る前の有糸分裂の間に、細胞周期内で遅延が発生する。従って、多すぎる又は少なすぎるハスピンは、細胞分裂において重大な欠陥をもたらす可能性がある。ヒトヒストンH3及びヒトハスピンの完全長配列については、既に報告されている。
【0008】
最初の態様において、本発明は、試験化合物がハスピンによるヒトヒストンH3のリン酸化を阻害するかどうかを判定するアッセイに関する。これは、ハスピン、及びハスピンのリン酸化のための基質の役割を果たすポリペプチドを含む溶液をインキュベートすることによって達成される。ハスピンは、好ましくはヒトであり、天然の原料から生成される場合もあれば、組換えにより生成される場合もあり、化学的に合成される場合もある。アッセイに使用されるポリペプチドは、5〜135個(好ましくは8〜135個)のアミノ酸長でなければらなず、N末端配列ARTKQ(配列番号4)を有する。このN末端配列は、H3誘導性配列により連続して加えられる、以下の1〜130個のアミノ酸により、C末端において伸長される場合がある:
TARKSTGGKAPRKQLATKAARKSAPATGGVKKPHRYRPGTVALREIRRYQKSTELLIRKLPFQRLVREIAQDFKTDLRFQSSAVMALQEACEAYLVGLFEDTNLCAIHAKRVTIMPKDIQLARRIRGERA(配列番号21)。
【0009】
加えて、1個のメチオニンが場合により、配列番号4にN末端アミノ酸として追加される場合もあれば、伸長されたペプチドの何れかに含まれる場合もある。ポリペプチドの最終的な長さは、好ましくは8〜45個のアミノ酸である。従って、好ましいペプチドは、8、21及び45残基長のペプチドを含む。必要に応じて、thr−3以外のスレオニン及びセリンを、リン酸化できないアミノ酸、例えばアラニンと置換される場合がある。これにより、アッセイにおいて3位のリン酸化のみが測定されるようになる。
【0010】
ハスピンアッセイにおいて、インキュベーションは、リン酸化に適した条件下で、並びに理想的には数種の異なる濃度からなる試験化合物の存在下で実施すべきである。インキュベーションの終了時に、生成されたH3のリン酸化の量を測定する。これは、当業界で周知の、本明細書の実施例の項に記載されるアッセイを使用して達成することができる。一般的に、このようなアッセイには、32P標識ATPを使用して実施するインキュベーションが含まれる。インキュベーションの終了時に、放射能亜リン酸を、H3リン酸化部位を含むポリペプチドに転写し、ポリペプチドを単離し、存在する放射能を測定する。使用できるポリペプチドには、ヒストンH3自体、前述のH3のアミノ末端を表すペプチド、及びこれらのペプチドを含むより大きなペプチド、例えば、H3−グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(H3−GST)が含まれる。試験化合物がハスピンの活性を阻害するかどうかの判定においては、試験化合物の非存在下で実施すること以外は前述と同様であるインキュベーションも実施すべきである。試験化合物の存在及び非存在下で発生するリン酸化の量を比較することによって、阻害が起こったかどうかの判定が可能である。
【0011】
前述のアッセイの多くの変形は当業者に明らかとなる。例えば、H3ヒストンのリン酸化部分、即ち、N末端8、21又は45アミノ酸を、インキュベーション終了時の分離に役立つビオチンのような成分に、又はGST以外の担体タンパク質に直接又は間接的に連結することができる。ポリペプチドに関連する放射能量の定量分析は、放射能カウンターを使用するか、電気泳動後のオートラジオグラフィーによって測定することができる。
【0012】
別の態様において、本発明は、ハスピン活性のアッセイに関連して、前述の配列に対応する配列を有する、実質的に純粋なペプチドに関する。各ペプチドは、H3のN末端配列ARTKQ(配列番号4)を含み、5〜135個の残基であり、ハスピンによるヒトヒストンH3のリン酸化を阻害し、H3自体ではない。ARTKQ配列は、配列番号21により連続して加えられるアミノ酸を有するC末端方向において、1〜130個のアミノ酸に伸長することができる。このようにして作製されるポリペプチドは、例えば、8〜134個のアミノ酸、8〜45個のアミノ酸、及び8〜20個のアミノ酸からなる長さを有する。配列番号4においてアルギニンとリシンの間に現れるスレオニンは、リン酸化の部位であり、3個のRTK残基が一般的に存在する(但し、メチル化のような幾つかの修飾を導入したり、おそらくは保存的な置換を行いながら活性を維持するようなことは可能な場合がある)。本発明に含まれるペプチドには、ARTKQTAR(配列番号1);ARTKQTA(配列番号2);ARTKQT(配列番号3);ARTKQ(配列番号4);RTKQTAR(配列番号5);RTKQTA(配列番号6);及びRTKQT(配列番号7)が含まれる。何れのペプチドにも、N末端残基として追加のメチオニンが含まれる場合もある。H3−GSTのような組換形態の場合、メチオニンは開始コドンとして必要である。これは、発現系において除去される場合もあれば、除去されない場合もある。従って、ペプチドを発現系において組換えにより作製した後単離した場合は、開始コドンに由来するN末端メチオニンが存在する場合がある。
【0013】
該ペプチドはハスピンのH3ヒストンと競合するため、ハスピンキナーゼ活性の阻害剤として使用することができる。従って、該ペプチドは、リン酸化の新規阻害剤を同定するアッセイにおいて陽性対照の役割を果たす。該ペプチドは又、以下で詳述する通り、H3のリン酸化形態に特異的に結合する抗体の産生にも有用である。
【0014】
細胞内でハスピンキナーゼ活性を遮断するために、前述のペプチドをコード化するポリヌクレオチドを作製し、作動可能にプロモーターに連結するように、ベクターに組み込むことができる。即ち、該ポリヌクレオチドは発現ベクターに組み込むことができる。「作動可能に連結」という用語は、コード配列がプロモーターの制御下にあり、コード化されたペプチドが正確に翻訳された生成物が転写により生成されるように結合していることを意味する。該ベクターは、ヒストンのリン酸化を阻害する効果を試験する宿主細胞に形質転換するために使用される場合がある。代替として、ハスピンレベルを減少させる低分子干渉RNA(siRNAs)、又はこれらのsiRNAをコード化するポリヌクレオチドの何れかにより、細胞が形質転換される場合がある。効果的なsiRNAの設計方法は当業界で周知であり(Gong,et al.,Trends Biotechnology.22(9):451−4(2004);Reynolds,et al.,Nat.Biotechnol.22(3):326−30(2004);Bertrand,et al.,Methods Mol Biol.288:411−30;Gilmore,et al.,J.Drug Target.12(6):315−40(2004)、既に報告されているヒトハスピン配列をベースとする場合がある(図2を参照)。
【0015】
別の態様において、本発明には、前述のアミノ酸配列の何れかを含むが、thr−3がリン酸化されている、実質的に純粋なペプチド又はタンパク質が含まれる。例えば、本発明には、ペプチドAR(pT)KQTAR(配列番号8)(式中、pTはリン酸化されたスレオニンを表す)が含まれる。該ペプチド又はタンパク質は、リン酸化されたヒストンH3自体でないが、適切な動物、例えば、マウス、ウサギ、ヤギ等に投与された時にリン酸化されたH3と結合する抗体の生成を誘導することができる。加えて、抗体を生成するためのペプチドは、AR(pT)KQTA(配列番号9);AR(pT)KQT(配列番号10);AR(pT)KQ(配列番号11);R(pT)KQTAR(配列番号12);R(pT)KQTA(配列番号13);及びR(pT)KQT(配列番号14)からなる群から選択することができる。以前に考察した通り、メチオニンは又、N末端アミノ酸として存在する場合もある。
【0016】
本発明には、該リン酸化ペプチドの1種を、抗体生産を誘導する上で有効な用量及び期間において動物に投与することにより、リン酸化されたヒトのヒストンH3を特異的に認識する抗体を作製する方法が含まれる。「特異的に認識する」という用語は、ヒストンの非リン酸化形態と比べて、リン酸化形態に対して少なくとも100倍以上の親和性をもって結合する抗体を表す。抗体生成に使用される種々の動物のプロトコールは当業界で周知であり、本発明と共に使用することができる。該方法には又、ヒストンのリン酸化形態に結合するが、非リン酸化形態に結合しない抗体を選択する工程が含まれる。選択工程では、固定化された非リン酸化ペプチドを使用したポリクローナル抗体の集団を消耗する場合がある。リン酸化及び非リン酸化タンパク質及びペプチドに対する、並びに周囲の残基の修飾(例えば、Arg−2、Lys−4のメチル化及び/又はアセチル化)を行うタンパク質及びペプチドの抗体の結合の間の比較が行われるスクリーニング手順は又、ポリクローナル又はモノクローナルの何れの抗体が生成されるかに関係なく実施される場合もある。
【0017】
前述のヒストンリン酸化の阻害剤は、細胞分裂を研究する科学者及び臨床医にとって、特に異常な有糸分裂の原因及び異常を修正する方法を調べるために設計された実験において有用となる。しかし、ヒストンH3のリン酸化を増加させる方法も有用となる。従って、本発明には又、作動可能にプロモーターに連結した、ヒトのハスピンをコード化するヌクレオチドからなる発現ベクター、好ましくは誘導性ベクターにより細胞を形質転換する方法が含まれる。
【0018】
ハスピン活性のアッセイは、生物学的試料が異常な細胞分裂を起こしている細胞を含むかどうかをを判定するために使用される場合もあれば、異常の原因、即ち、該異常がハスピン活性が高すぎるか、又は低すぎることに部分的に起因しているかどうかを判定するために異常な細胞の試料を評価する上で使用される場合もある。該方法には、生物学的試料を得て、当業界で周知の方法を使用して、存在するハスピン活性の量を測定することが含まれる(実施例の項を参照)。リン酸化及び非リン酸化ヒストンH3を区別する前述の抗体は、ハスピン活性を評価する上で使用される場合がある。生物学的試料から得た結果を、異常な細胞を含まないことが知られる対照試料の結果、一般的な集団から得た結果、又は標準的な方法を使用して選択されたその他幾つかの対照群から得た結果と比較する。この比較が過剰に高い又は過剰に低いハスピン活性を示す場合は、生物学的試料が異常な有糸分裂を起こしやすい細胞を含んでおり、細胞分裂における異常がハスピンに関連する欠陥に少なくとも部分的に起因すると結論付けることができる。
【0019】
前述の組成物及び方法は、細胞分裂を研究する科学者にとってツールとして有用となるばかりでなく、異常な細胞分裂に関連する疾患の治療又は予防のための新規の薬剤及び方法の開発にも有用となる。従って、ハスピンの修飾因子は、癌のような疾患の予防又は治療のための薬剤としての使用可能性を有している。アッセイは、最も応答しそうな患者を選択するための治療と結び付けることができる。例えば、過剰に高いハスピンレベルを有することが判明している異常な有糸分裂を起こす細胞は一般的に、活性が上昇していない細胞よりもハスピン阻害剤に対して応答しやすいと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
最近の数年の間に、ヒストンのプロテインキナーゼリン酸化特異的部位が、有糸分裂の調節において重要な役割を果たすことが明らかになっている。染色体の誤配列及びその他の異常によって起こる誤りは、癌及び先天性異常の発生の原因となる可能性がある。
【0021】
本発明は、ヒストンH3の特定のスレオニン残基をリン酸化するキナーゼとしてのタンパク質ハスピンの同定に基づいている。このリン酸化における欠陥は、有糸分裂における異常と関連する。従って、ハスピンのレベルが異常に高いか、異常に低いかの何れの場合に、細胞分裂における有意な変化が明らかとなる。この工程を試験するための方法及び組成物は、細胞分裂がどのように調節され、臨床的に重要な新規の治療及び診断手法の開発をもたらす可能性があるかを科学者が理解する上で役立つことになる。
【0022】
I.ハスピンキナーゼ活性の阻害剤
ハスピンの活性を阻害するためのペプチドは、この酵素がヒストンH3と相互作用する特定の部位に基づいて設計されている。阻害剤として使用される最も好ましいペプチド配列は、ARTKQTAR(配列番号1)である。しかし、該配列はより大きなポリペプチド又は化合物に組み入れられる場合もあれば、幾分短くされる場合もあるが、但し、最終的な配列は、少なくとも5個の長さからなる残基であり、一般的にRTKコア配列は維持されるものとする。しかし、このコア内に軽微な変形を導入したり、非ペプチド成分を加えることも可能な場合がある。当業界においては、構造的制約を導入し、阻害効力を高め、溶解性、安定性、薬物動態等を変えるために、ペプチド配列の変更を行えることが認識されている。加えて、8個又は5個のアミノ酸よりも短い配列は、より大きな化合物の成分として有用となる可能性もある。
【0023】
該ペプチドは、標準的なN−tert−ブチルオキシカルボニル(tBoc)化学を使用した固相ペプチド合成によって作製することができる。阻害抗力、選択性、薬物動態を上昇させるか、又はペプチドの精製に役立つ(例えば、ビオチン)変更されたアミノ酸又は非アミノ酸試薬も又、標準的な方法を使用して含められる場合もある。ペプチド配列は、リンカーによってATP類似物(いわゆる「二基質阻害剤」)に結合され、更に高い効力を有する場合がある。阻害剤は、合成されると、逆相カラムによる高圧液体クロマトグラフィーのような手順、又は当業界で周知のその他の方法を使用して精製することができる。純度はHPLCで評価することができ、正しい組成の存在は質量分析によって確認することができる。阻害性ペプチドは、本明細書の実施例の項に記載されるようなインビトロアッセイにおいて使用され、新規阻害剤を同定するアッセイにおいて陽性対照の役割を果たし、治療薬としての潜在的価値を有する場合がある。
【0024】
阻害剤の細胞内効果を試験するため、阻害性ペプチドをコード化するDNA配列は、宿主によって認識される転写調節及び翻訳調節シグナルを含むベクター中に導入される場合がある。タンパク質及びペプチドをクローン化及び発現する上で適切なベクター及び技法は、分子生物学の分野において周知である。ベクターは、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、電気穿孔法又はウィルス伝達のような方法によって、宿主細胞中に、好ましくはほ乳類宿主細胞内に導入される場合がある。ペプチドを発現する細胞は、十分に確立された標準的な方法を使用して選択することができる。細胞内のペプチドをコード化する核酸の存在を確認するための一つの方法は、適切に選択したプライマーを使用した、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施することである。ヒストンH3へのリン酸塩の導入は、リン酸化されたタンパク質に特異的な抗体、及び増強された化学発光による定量化を使用した、細胞溶解物のウェスタンブロッティングにより、又はリン酸化されたタンパク質に特異的な抗体を使用して、32Pの存在下で増殖した細胞の溶解物からヒストンH3を沈殿させた後、沈殿中の放射能を測定することにより、検出することができる。
【0025】
ヒストンH3の阻害は又、ハスピンの発現を阻害するために設計された低分子干渉RNAを使用して試験することができる。阻害性RNAを設計する標準的な方法は、当業界で開示されており、公知のハスピン配列をベースとしている場合がある。siRNAの効果を試験するために使用できる方法については、実施例の項に記載されている。
【0026】
II.抗体
リン酸化されたヒストンH3と結合するが、その非リン酸化対応物とは結合しない抗体を生成する好ましい方法については、実施例の項に記載されている。一つの方法には、ハスピンがヒストンと相互作用する部位に由来する、リン酸化されたペプチドを動物に注射することが含まれる。抗体を単離した後、H3の非リン酸化形態と結合する抗体は、ヒストン自体、又は固相担体上に固定化されたリン酸化部位ペプチドの何れかを使用して除去される場合がある。リン酸化ペプチドの抗体の結合を非リン酸化ペプチドと比較するスクリーニングアッセイが実施される場合もある。
【0027】
抗体を作製し、検出する方法は、Harlow,et al.,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,NY(1988);及びCampbell,“Monoclonal Antibody Technology” in Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology(1984)のような標準的な参考文献で証明さていれるように、当業者に周知である。
【0028】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、無傷の分子、並びに抗原と結合する能力を保持する断片(例えば、Fab及びF(ab')断片)を含むものとして意図される。これらの断片は通常、(Fab断片を生成する)パパイン又は(F(ab’)断片を生成する)ペプシンのような酵素を使用して、無傷の抗体をタンパク質分解により切断することによって生成される。「抗体」という用語は又、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の両方も指す。ポリクローナル抗体は、抗原により免疫化された動物の血清に由来する。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術を使用して調製することができる(Kohler,et al.,Nature 256:495(1975);Hammerling,et al.,in Monoclonal Antibodies and T−Cell Hybridomas,Elsevier,NY pp.563−681(1981))。一般的にこの技術には、動物、通常はマウスを抗原で免疫化することが含まれる。免疫化れた動物の脾細胞を抽出し、適切な骨髄腫細胞、例えばSPO細胞と融合する。融合した後、得られたハイブリドーマ細胞をHAT培地中で選択的に維持し、次いで、限界希釈によってクローン化する(Wands,et al.,Gastroenterology 80:225−232(1981))。次に、このような選択によって得られた細胞を、H3ヒストンのリン酸化形態と結合するが、非リン酸化形態とは結合しない抗体を分泌するクローンを同定するために評価する。
【0029】
本発明の抗体、又は抗体の断片は、ヒストンのリン酸化が起こった程度を判定するアッセイにおいて使用される場合がある。これらのアッセイは、インビトロで行われる場合もあれば、細胞を溶解した後に細胞上で実施することができる。標準的なラジオイムノアッセイ又はイムノメトリックアッセイは、「ツーサイト」又は「サンドイッチ」アッセイとしても知られている(Chard,in Laboratory Techniques in Biochemisry and Molecular Biology,North Holland Publishing Co.,NY(1978)を参照)。代表的なイムノメトリックアッセイにおいては、非標識抗体の定量的な量は、試験する液体中では不溶性である固相担体に結合する。抗原の固定化抗体への最初の結合の後、検出可能な標識二次抗体(一時抗体と同じであるか同じでない)の定量的な量を加え、結合した抗原の検出及び/又は定量を可能にする(例えば、Radioimmune Assay Methods,Kirkham,et al.,pp.199−206,E&S Livingstone,Edinburgh(1980)を参照)。このような種類のアッセイの多くの変形は当業界で公知であり、リン酸化H3ヒストンの検出のために使用される場合がある。
【0030】
リン酸化ヒストンH3の抗体は又、タンパク質の精製において使用される場合がある(例えば、放射能の計測の前に)。例えば、抗体は、セファロース4Bのようなクロマトグラフのマトリックスに固定化される場合がある(例えば、Dean,et al.,Affinity Chromatography,A Practical Approach,IRLP Press(1986)を参照)。このマトリックスはカラム中に充填され、リン酸化ヒストンH3を含む調製液は、結合を促進する条件下、例えば、低塩条件下で通過する。次いで、カラムを洗浄し、抗体からの解離を促進するバッファー(例えば、変更したpH又は塩濃度を有するバッファー)を使用して、結合したヒストンを溶出する。或いは、リン酸化H3ヒストンに特異的な抗体は、このタンパク質を検出するように設計されたウェスタンブロット又は免疫蛍光顕微鏡において使用される場合がある。又、このような種類のアッセイのために標準的な方法が使用される場合もある。
【0031】
III.その他の方法
試験化合物がハスピンのキナーゼ活性を阻害するかどうかを判定するアッセイは、試験化合物の存在下又は非存在下で、ハスピン及びH3(又はリン酸化のH3部位を有するペプチド又はタンパク質)を32P−ATPと共にインキュベートすることによって実施される場合がある。試験化合物の存在下で観察されたリン酸化の減少は、該化合物が阻害剤として作用していることの現れである。
【0032】
ハスピン活性を上昇させる方法は、異常な有糸分裂活性を示し、それによって治療薬を探すか、又は細胞分裂を試験することに使用できる細胞を生成することに関する場合がある。ハスピンによるH3の上昇したリン酸化は、(例えば、実施例の項に記載される通り)ハスピンをコード化するヌクレオチドを発現ベクターに導入することによって達成することができる。次いで、ベクターは、細胞を形質転換するために使用することができ、組換えハスピンの存在は、例えば、PCR増幅のような標準的な方法を使用して確認することができる。ハスピンの高いレベルの発現は細胞増殖と矛盾していることが判明しているため、発現ベクターは誘導性プロモーターを含む必要がある。従って、形質転換の後に、細胞は誘導なしで増殖させることができ、増加したハスピン生成の効果を、培地に誘導物質を導入することによって試験する。ベクターpTRE2pur及び誘導物質ドキシサイクリンを使用した例については、実施例の項に記載されている。試験化合物の効果を判定するため、該化合物が誘導の直前に細胞に導入される場合がある。
【0033】
生物学的試料中のハスピン活性又はH3リン酸化のアッセイは、細胞が異常な有糸分裂を起こしている試料(例えば、腫瘍細胞)について試験を行う価値がある。ハスピン活性における異常が、観察される細胞分裂の異常に起因しているかどうかを判定するために、これらのアッセイを使用することができる。異常な細胞の存在しない細胞を含む対照試料、又は一般的な集団の結果を基に比較を行う場合もある。
【0034】
IV.組成物及び方法の使用
本明細書に記載される種々の組成物及び方法は、細胞分裂を試験する、並びに有糸分裂における異常がどのようにして癌等の疾患の原因となるかを研究する科学者にとってツールとして有用となる。ハスピン活性を変化させる化合物は又、治療薬としての使用可能性も有する。その他のプロテインキナーゼの阻害に基づく治療は、現在研究されている最も有望な抗癌治療であり、慢性骨髄性白血病のグリーベック、及び肺癌のイレッサという二つの阻害剤が既に市販されている。
【実施例】
【0035】
実施例1:ハスピンによるヒストンH3のリン酸化
この実施例は、ヒストンH3におけるスレオニン3のリン酸化が有糸分裂の間に起こり、培養細胞におけるこの修飾に関与する主要なキナーゼがハスピンであることを証明している。波状発現及びRNA干渉実験では、ハスピンが正常な有糸分裂染色体配列に必要であることが示されている。この機能と一致して、ハスピンはクロマチン及び紡錘体の成分と関連しており、有糸分裂の間にリン酸化される。
【0036】
I.材料及び方法
抗体、タンパク質、ペプチド及び細胞
ヒトハスピンの329〜344個の残基([C]DRLERTRSSRKSKHQE(配列番号15))に対応する、KLH結合ペプチドのウサギ抗血清を生成し、Zymed Laboratories Inc(米国カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)により免疫化したペプチド上でアフィニティー精製した。ホスホ−ヒストンH3(Thr−3)のウサギポリクローナル抗血清B8634は、BSAに結合したペプチドAR[pT]KQTAR(Ahx)C(配列番号16)で免疫化することによって生成し、等価の非リン酸化ペプチドを使用して消耗し、リン酸化ペプチド(Biosource[米国マサチューセッツ州ホプキントン])でアフィニティー精製した。或いは、Upstate(米国ニューヨーク州レークプラシッド)のホスホヒストンH3(Thr−3)のウサギポリクローナル抗体が同様の結果をもって使用される場合がある。ウサギ抗ホスホヒストンH3(Ser−28)はUpstate製であり、ウサギポリクローナル及びマウスモノクローナル抗ホスホヒストンH3(Ser−10)はCell Signaling Technology製であり、ウサギ抗ヒストンH3はAbcam(英国ケンブリッジ)製である。ヤギ抗B23/ヌクレオホスミン及びマウス9E10抗myc−FITCは、Santa Cruz Bioctechnology(米国カリフォルニア州サンタクルーズ)製であり、セントロメアのヒト自己抗体はImmunovision(米国アーカンソー州スプリングデール)製である。
【0037】
ヒトサイクリンA、サイクリンB及びPCNAのマウスモノクローナル抗体は、BD Transduction Laboratories製であり、α−チューブリンのマウスモノクローナル抗体は、Sigma(米国ミズーリ州セントルイス)製である。精製した牛胸腺は、Roche製である。追加のAhx及びシステイン残基(約95%純粋)を有するヒトヒストンH3ペプチドH3(1−8)、H3(1−8)pT3、H3(9−16)pT11及びH3(20−27)pT22はそれぞれ、Biosourceで合成されたものである。その他のペプチドは、ヒトH3の残基1〜21個であり、その後にGGKビオチンが続き、Arg−2において非対照的にジメチル化されるか(>95%純粋;Abgent[米国カリフォルニア州サンディエゴ]により合成)、Lys−4又はLys−9においてジメチル化されるか、Lys−9及びLys−14においてアセチル化されるか、又はSer−10においてリン酸化されるか(>90%純粋;Upstate)。ヒトHEK293、HeLa及びU2OS細胞は、10%FBS/DMEM中で維持されている。
【0038】
組換えタンパク質の生成
組換型アフリカツメガエルH3、尾のないH3(gH3)、H2B及びH4ヒストンを、Luger,et al.,J.Mol.Biol.272:301−311(1997)に従って調製する。ヒストンテールGSTタンパク質をコード化するプラスミドを生成するために、プラスミドpBOS−H3−N−GFP及びpBOS−H4−GFP(Kimura,et al.,J.Cell.Biol.153:1341−1353(2001)から増幅された、ヒトH3(NM_003537)の残基1〜45個又はヒトH4(NM_003541)の残基1〜26個をコード化するPCR生成物、並びにヒトHeLa細胞ゲノムDNAから増幅された、H2B(NM_003526)の残基1〜35個をコード化するPCR生成物を、pETGEX−CT(Sharrocks,Gene 138:105−108(1994)のNco I部位に挿入する。H3−GSTの部位特異的変異をPCR変異誘発によって生成する。6His標識キナーゼドメインをコード化する構築物は、ヒトハスピンの残基471〜798個をコード化するPCR生成物をベクターpET45b(+)(Novagen)のPshA I部位に挿入することによって生成する。変異K511Aを含む等価な構築物は、PCRをベースとする変異誘発によって生成する。全ての構築物は、DNA配列決定によって確認され、E.coli BL21株(Novagen)に導入された。GST及び6His融合タンパク質は、標準的な手段によりIPTG誘発E.coliから精製された。
【0039】
ほ乳類細胞内におけるハスピンの発現
特注の二本鎖アダプターを使用して、完全長ヒトハスピンcDNA(アミノ酸1〜798個;Higgins,Gene 267:55−69(2001))を、発現ベクターpcDNA3(Invitrogen)のHind−III−Xba I部位に結合し、myc標識ハスピンを生成するために、2〜798個の残基をコード化するcDNAを、pcDNA3由来プラスミドpCANmyclに挿入した。EGFPハスピンをコード化するプラスミドを生成するため、アミノ酸2〜798個をコード化するハスピンcDNAを、pEGFP−C1(Clontech)のSac II−BamH I部位に挿入する。誘導性ベクターを生成するため、pCANmycハスピンのmycハスピンをコード化するcDNA(Hind III−EcoR V)を平滑末端化し、pTRE2/pur(BD Clontech)のPvu II部位に挿入して、それぞれpEGFPハスピン又はpEGFP−C1のEGFPハスピン又はEGFPのみをコード化するNhe I−Xba I断片を、pTRE2purのNhe I部位に結合する。全ての構築物は、DNA配列決定によって確認する。一時的な形質転換を、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を使用して実施する。HeLa Tet−On(BD Clontech)細胞の安定した形質転換を、リポフェクチン及びプラス試薬(Invitorgen)を使用して実施する。24時間後、細胞を96穴プレートに移し、1μg/mLのプロマイシン及び100μg/mLのG418を含む培地中でインキュベートする。1μg/mLのドキシサイクリンの(非存在下ではなく)存在下でmycハスピン又はEGFPハスピンを発現するクローンを、それぞれ抗mycイムノブロッティング、又はEGFP蛍光のフローサイトメトリー分析によって選択する。
【0040】
蛍光顕微鏡検査
免疫蛍光検査のため、細胞又は分裂中期の広がりを、4%パラホルムアルデヒド/PBSで10分間固定し、メタノール中で5分間−20℃にてインキュベートし、5%FBS/PBSで30分間以上3回洗浄し、次いで、5%FBS/PBS中の、2μg/mLの抗myc 9E10−FITC、1μg/mLのヤギ抗B23/ヌクレオホスミン、0.1μg/mLのマウス抗α−チューブリン、1/4000のヒト抗セントロメア、1/1000のマウス抗ホスホヒストンH3(Ser−10)又は0.2μg/mLのウサギ抗ホスホヒストンH3(Thr−3)と、2時間25℃にてインキュベートした後、約1μg/mLのロバ抗ヤギ、マウス又はヒトIgG−Cy3(Jackson ImmunoResearch)又はヤギ抗ウサギ又はマウスIgG−Alexa488(Invitorgen)とインキュベートした。DNAを検出するため、0.5μg/mLのHoechst 33342(Sigma)又は2.5μMのDRAQ5(Alexis)を使用する。蛍光顕微鏡検査は、Nikon TE2000倒立型共焦点顕微鏡を使用して実施し、ビデオ顕微鏡検査は、Nikon ECLIPSE E6000倒立型蛍光顕微鏡を、生存する細胞の画像化のために37℃で加熱したステージと共に使用して実施する。
【0041】
細胞の同調
必要に応じて、HeLa Tet−On安定形質転換体を、同調前に、1μg/mLのドキシサイクリンで24〜48時間インキュベートする。細胞は、ダブルチミジンブロック(Spector,et al.,Cells.A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,NY(1997))によりG1/Sの境界にて同調させるか、又は50ng/mL(HeLa)又は150ng/mL(NIH3T3)のノコダゾール、又は100ng/mLのコルセミドで12〜16時間処理することによって分裂前中期に同調させる。細胞のサイクル解析のため、細胞を、70%冷エタノール中で透過させ、1%BSA/5%FBSを使用して遮断し、10μg/mlのマウスモノクローナルMPM−2−FSF(Upstate)(Taylor,et al.,Cell 89:727−735(1997))を使用して染色し、次いで、50μg/mLのヨウ化プロピジウム、100U/mLのRNアーゼA、PBS中で、1時間25℃にてインキュベーションし、DNAを染色する。分析は、FACSortフローサイトメーター(BD Biosciences)で実施する。
【0042】
免疫沈降、GSTプルダウン及び免疫ブロッティング
免疫沈降のため、細胞を、1μg/mLのペプスタチン/1μg/mLのロイペプチン/1μg/mLのアンチパイン/1μg/mLのキモスタチン/1mMのフッ化フェニルメチルスルフィル/1mMのNaF/0.1μMのオカダ酸を含む、50mM トリス/0.5M NaCL/1% Triton X−100/1% DOC/0.1% SDS/2mM EDTA、pH7.4(バッファーL)に懸濁し、21ゲージの針を15回通して剪断することによって溶解する。不溶性物質を、13,000rpmで15分間遠心分離させることによって除去し、タンパク質G−セファロースを使用して溶解物から予め障害物を除去し、ブラッドフォードアッセイ(Bio−Rad)に基づいて濃度を均等化する。溶解物を抗体と1.5時間4℃にてインキュベートし、タンパク質G−セファロースを加え、更に1.5時間インキュベートする。ビーズをバッファーLで4回、食塩加Hepesバッファー(HBS)pH7.4で3回洗浄する。GSTプルダウンアッセイのために、細胞を、0.3M NaCl及び前述のプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤を含む、20mMトリス/1% Triton X−100/1mM EDTA/1mM DTT、pH7.4(バッファーT)で溶解し、透明にし、グルタチオン−セファロースを使用して予め障害物を除去する。細胞溶解物(200μg)を、5μLのグルタチオン−セファロースで予め吸収した、2.5μgのGST融合タンパク質と共に、0.4M NaClを含む200μLのバッファーT中で1時間4℃にてインキュベートする。免疫ブロッティングのための全細胞溶解物を、30mMトリス/1.5%SDS/5%グリセロール/0.1%ブロモフェノールブルー、pH6.8中で調製する。プロテアーゼ阻害剤を含む、10mM Hepes/0.5% Triton X−100/1.5mM MgCl/10mM KCl、pH7.4中の低張溶解物を、核(ペレット)及び細胞質が豊富な(上清)細胞分画を生成するために使用する。SDS−PAGE及び免疫ブロッティングを、標準手段(Coligan,et al.,Current Protocols in Immunology In Current Protocols(ed.R.Coico).John Wiley and Sons,Inc.,New York(1994))を使用して実施する0.2μmのPVDF免疫ブロット膜に対するペプチドスロットブロットを、Bio−Dot SF装置(Bio−Rad Laboratories)を使用して実施する。
【0043】
インビトロキナーゼアッセイ
ハスピン及びオーロラBキナーゼアッセイを、2.5μM ATP及び2.5μCi[γ32P]−ATP(3000 Ci/ミリモル)、又は100μM ATPを含む、30μLのHBS/10mM MnCl中で15分間37℃にて実施する。外因性基質を、ヒストン及びGSTタンパク質について、反応当たり0.5〜1μgで、ペプチドについて0.20〜1ナノモルで加える。HABA/アビジンアッセイ(Sigma)によって、ビオチニル化ペプチドを定量する。ヒストン及びGSTタンパク質への32Pの取り込みを、SDS−PAGE及びオートラジオグラフィーによって、ビオチニル化ペプチドへの取り込みを、製造業者の薦め(Promega Corporation[米国ウィスコンシン州マディソン])に従い、SAMビオチン捕獲膜上の固体化及びチェレンコフ計測によって可視化する。
【0044】
ホスファターゼ処理
コルセミドで処理した、又は未処理の誘導されたHeLa Tet−On/Mycハスピン細胞からのMycハスピン免疫沈降物を、ラムダホスファターゼバッファー(New England Biolabs)中の200Uのラムダホスファターゼ、又はバッファー単独で、30分間30℃にてインキュベートし、SDS−PAGE及び免疫ブロッティングにより解析する。
【0045】
RNA干渉
ヒトハスピンを有効にするsiRNA(ID#1093)、マウスの予め設計されたsiRNA(ID#67120)及び陰性対照#1又は#2 siRNA(#4611、4613)はAmbionから、ヒトハスピン及び陰性対照SMARTpool siRNAはDharmaconから得る。siRNAを使用した形質転換を、製造業者の薦め(Ambion)に従い、siPORT脂質を使用して実施した。
【0046】
II.結果
ハスピンの細胞下の局在化
ハスピンの細胞下の局在化を判定するため、HeLa細胞を、myc標識ヒトハスピンで形質転換し、抗myc免疫蛍光染色を実施した。結果は、mycハスピンが静止期の間に核内で広範に見られることを示した。更に強い染色は、核内構造の周囲で明らかであった。同様のハスピンパターンは、形質転換されたHEK293及びCOS細胞で既に報告されているが、区画の同定は判定されていなかった(Tanaka,et al.,J.Biol.Chem.274:17049−17057(1999);Tanaka,et al.,Mol.Hum.Reprod.7:211−218(2001))。抗myc及びB23/ヌクレオホスミンを使用した二重染色は、これらの構造が核小体であることを証明した。EGFPハスピンで形質転換されたHeLa細胞の37℃における生細胞共焦点蛍光顕微鏡は、ハスピンが、DNAのパターンを同じパターンで核に局在化していることを確認した。核周囲領域における蓄積は、固定された細胞内で見られるほど明確ではなく、これは、固定が核のハスピンを優先的に安定化することを示す。
【0047】
固定化された有糸分裂細胞においては、mycハスピン及びEGFPハスピンが、分裂前期から分裂後期において、凝縮された染色体と関連するように思われる。分裂中期の広がりにおいては、セントロメアの領域において最も強い染色を有して、mycハスピンは染色体の腕の上で見られた。ビデオ顕微鏡により、37℃にて、生きたHeLa細胞を可視化した時、EGFPハスピンが、分裂前期に凝縮された染色体上に存在し、有糸分裂の間、凝縮された染色体と関連したままである。ハスピンの局在化は、生きた有糸分裂細胞の共焦点顕微鏡によって更に詳細に調べられた。染色体上のEGFPハスピンの局在化に加え、分裂前期から分裂終期におけるセントロメアにおいても、それは現れた。分裂終期の細胞の中心体に対するEGFPハスピンの局在化が見られたように、セントロメアから広まる紡錘糸に対する、より弱いEGFPハスピンの局在化は、分裂中期からはっきりと見える。固定細胞中のEGFPハスピン及びα−チューブリンの局在化は、ハスピンが紡錘体極と関連することを確認した。EGFP単独は、有糸分裂細胞の細胞質中に広範に見られた。
【0048】
非標識ハスピンの局在化を、ヒトハスピンのアミノ酸329〜344個を表すペプチドに対する、アフィニティー生成されたポリクローナル抗体を使用して評価した。免疫ブロッティングによって、抗体は、形質転換されたHEK293細胞及びHeLa細胞に特異的であったが、内在性ハスピンを検出しなかった。低張溶解による、核及び細胞質が豊富な画分内への形質転換細胞の分画により、ハスピンは核画分のみに見られた。この抗体を使用した、HeLa細胞内における、形質転換された非標識ハスピンの免疫蛍光測定は、静止期における核の局在化、及び油脂分裂の間の染色体の関連を確認した。EGFPハスピン固定細胞内のセントロメアにおいて検出することができるが、我々は、これまで、紡錘体又はセントロメアにおける、ハスピン又はmycハスピンの免疫染色を可能にする、固定化技法を確立することができなかった。
【0049】
ハスピンはヒストンH3キナーゼである
インビトロにおけるハスピンのキナーゼ活性をも調べた。これらの実験のため、本発明者等は、本質的に全てのプロテインキナーゼにおいて活性のために重要である、単一の保存されたリジン残基の変異(K511A)を含む、対照のハスピンタンパク質(myc−ハスピン−KD)を調製した。ベクター単独、mycハスピン及びmyc−ハスピン−KD形質転換HEK293細胞の溶解物について、γ32P−ATPの存在下に、インビトロキナーゼアッセイを行った。ベクターで形質転換した細胞においては、リン酸化されたタンパク質は生成されなかったが、mycハスピン免疫沈降においては、約85kDaの放射標識されたバンドが見られた。このバンドは免疫ブロッティングによって検出されたmycハスピンの位置と一致し、mycハスピンが自己リン酸化されていることを示す。myc−ハスピン−KD免疫沈降物を調べたときに、このようなリン酸化は見られなかった。これは、観察されたキナーゼ活性がハスピンキナーゼドメインに対して本質的であることの証拠を提供する。
【0050】
重要なことに、HEK293及びHeLa細胞の両方からのmycハスピン免疫沈降物を使用したインビトロキナーゼ活性において、本発明者等は、約17kDaの付加的なリン酸化されたバンドを観察した。一つの可能性は、これが、交差反応のための、抗ハスピン抗体によって直接に免疫沈降したタンパク質であることである。しかし、抗myc標識モノクローナル抗体を使用してmycハスピンを免疫沈降した時に同じ結果が得られ、これが真実でないことを示す。本発明者等は、17kDaのタンパク質が、ハスピンと一緒に免疫沈降するリン酸化基質であり得ると結論付けた。
【0051】
有糸分裂の間のハスピンの染色体位置、及びコアヒストンが、14〜17kDaの範囲の分子量を有する主要な細胞成分であることを認識し、ヒストンが、ハスピンのための外因性の基質としての役割を果たすかどうかを判定することを追求した。明らかに、ヒストンH1、H3、H2B、H2A及びH4の精製した混合物を試験した場合、ハスピンは、外因性のリン酸化されたバンドと明らかにサイズが同一である、約17kDaの単一のバンドについて選択性を示した。myc−ハスピン−KD又はベクターのみを形質転換した細胞のインビトロアッセイにおいては、このようなバンドは得られなかった。クマシーブルー染色したSDS−PAGEゲルを使用したオートラジオグラムのオーバーレイに基づき、現れたリン酸化されたバンドはヒストンH3と一致した。
【0052】
ハスピンキナーゼ活性のための標的として、精製したヒストンを別々に試験した場合、本発明者等は、この状況においては、他のヒストンのより弱いリン酸化も観察されたが、ヒストンH3が最も効率的にリン酸化されたことを確認した。E.coli中で生成され、及び転写後の修飾を欠く、組換ヒストンH3(Luger,et al.,J.Mol.Biol.272:301−311(1997))は又、ハスピン活性の効率的な基質であり、これは、予め存在したヒストンの修飾が、インビトロにおけるハスピンの作用に必要でないことを示す。N末端26テール残基(gH3)を欠くヒストンH3の組換え型は、ハスピンによってリン酸化されず、これは、リン酸化部位がこの領域中に存在することを示す。組換えヒストンH2B及びH4は、ハスピンの相対的に弱い基質であった。本発明者等は、ヒストンH3が、少なくともインビトロにおいて、ハスピンキナーゼのための基質と関連し、その役割を果たすと結論付けた。
【0053】
ハスピンはヒストンH3をスレオニン3でリン酸化する
ヒストンのN末端テール領域は、ヌレクオソームのオリゴマー中で曝し、これまでに分析されているヒストン修飾の主要な標的である(Jenuwein,et al.,Science 293:1074−1080(2001);Turner,Cell 111:285−291(2002))。ハスピンが、H3のN末端における残基を標的にするかどうかを判定するため、本発明者等は、テールの正常な方向を維持するため、GST−N末端と融合したH3の最初の45残基を含む、タンパク質(H3−GST)を生成した。形質転換細胞からのmycハスピンの免疫沈降物は、H3−GSTをリン酸化することができたが、GSTのみ、H2B−GST又はH4−GSTはリン酸化しなかった。ハスピンによるリン酸化のために必要なテール中の残基を同定するため、本発明者等は、存在する7個のセリンスレオニン残基のそれぞれのアラニンへの変異を含むH3−GSTタンパク質を生成した(T3A、T6A、S10A、T11A、T22A、S28A、T32A)。変異T3Aは、ハスピンによってリン酸化されなかったが、もう一方の変異H3−GSTは、野生型のように挙同し、これは、スレオニン3がハスピンによるリン酸化の標的であるか、ハスピンとH3−GSTとの関連に必要であることを示す。
【0054】
ハスピンとH3との相互作用を調べるため、本発明者等は、mycハスピン形質転換細胞の溶解物からの「プルダウン」アッセイにおいて、H3−GST融合タンパク質を使用した。アッセイの条件において、mycハスピンはH3−GSTに結合するが、mycハスピンの、GSTのみ、H2B−GST及びH4−GSTへの結合は検出されなかった。重要なことに、H3−T3A−GSTのmycハスピンへの結合は、野生型とは識別不能であり、これは、ハスピンがこの変異体をリン酸化することの失敗は、二つのタンパク質の関連の失敗によらないことを示す。スレオニン3に隣接する残基の変異(R2A及びK4A)は、ハスピンのH3−GSTへの検出可能な関連を示さず、ハスピンによるH3−GSTのリン酸化を実質的に減少し、これは、これらの残基が、ハスピンとヒストンH3との相互作用に必要であることを示す。
【0055】
ハスピンがスレオニン3をリン酸化することを直接的に確認するため、本発明者等は、ホスホ−ヒストンH3(Thr−3)抗体を生成した(材料及び方法の項を参照)。最初に、抗体の特異性を確認するため、本発明者等は、それらが、スレオニン3でリン酸化された時にH3テールの1〜8個の残基を表す合成ペプチドを認識するが、同等の非リン酸化ペプチド、及びスレオニン11又は22でリン酸化されたH3ペプチドと結合しないことを証明した。第二に、本発明者等は、E.coli中で、6His標的融合タンパク質としての、ヒトハスピンのキナーゼドメインの精製組換え型、及びキナーゼを欠損するK511A変異を含む、同等のタンパク質を生成した。次いで、本発明者等は、種々の精製した基質とのインビトロキナーゼ反応を実施し、スレオニン3のリン酸化を検出するため、抗ホスホ−ヒストンH3(Thr−3)との免疫ブロッティングを使用した。ハスピンのキナーゼドメイン(キナーゼ−KDドメインではない)は、組換えヒストンH3及びH3−GST中でスレオニン3をリン酸化することができた。H3−T3A−GST変異又はGSTのみにおいては、このようなリン酸化は検出されなかった。又、これらの結果により、形質転換細胞から免疫沈降した完全長のハスピン、及びハスピンの、精製された組換え体キナーゼドメインが、少なくともインビトロにおいて、ヒストンH3の新規の残基、スレオニン3と特に関連し、リン酸化することが明らかになる。
【0056】
ヒストンH3は有糸分裂の間にスレオニン3をリン酸化する
次に、本発明者等は、培養細胞において、ヒストンH3がスレオニン3をリン酸化するなら、いつ、どこで行うのかを判定することを望んだ。これらの研究の前に、本発明者等は、他の公知の修飾を有する、種々のH3ペプチドの抗ホスホ−ヒストンH3(Thr−3)抗体による認識を更に特徴付けた。他のホスホ特異的H3抗体の結合が、側方の修飾の存在によって変化するので、これは重要であった(Turner,Cell 111:285−291(2002);Clayton,et al.,FEBS Lett.546:51−58(2003))。本発明者等は、修飾のないH3の1〜21個の残基を表すアルギニン−2において非対象にジメチル化された、リジン−4又は−9においてジメチル化された、リジン−9又は−14においてアセチル化された、又はセリン10においてリン酸化された、ビオチニル化ペプチドを試験した。γ32P−ATPからの放射能標識されたリン酸塩を取り込んだ時、全てのペプチドは、組換えハスピンキナーゼドメインによって同様にリン酸化された。対照的に、抗ホスホ−ヒストンH3(Thr−3)抗体を使用した免疫ブロッティングによって、ペプチドのリン酸化の程度を測定した時、試験した修飾の間で、アルギニン−2のメチル化は実質的に減少するが、リン酸化されたスレオニン3の認識は消失しないことが明らかであった。2種の、非依存的なアフィニティー精製された抗ホスホ−ヒストンH3(Thr−3)抗血清を使用して、同様の結果が得られた(材料及び方法の項を参照)。
【0057】
H3スレオニン3のリン酸化のタイミングを判定するため、二重チミジン処理によってG1/S境界でHeLa細胞を同調させ、固定の解放後の種々の時間における細胞溶解物の免疫ブロット分析において、抗ホスホヒストンH3(Thr−3)を使用した。DNA含有量の分析は、細胞終期の進行に従って使用され、分裂指数は、開示されたように(Taylor,et al.,Cell 89:727−35(1997))、抗MPM−2を使用した染色によって判定した。MPM−2は、分裂前期、分裂前中期及び分裂中期においてリン酸化され、及び分裂後期の間の脱リン酸化されるタンパク質の群を認識する。予想通り、セリン10及びセリン28におけるH3のリン酸化は、多くの有糸分裂細胞において関連がある。スレオニン3におけるH3のリン酸化は、極めて類似するパターンを示し、これは、スレオニン10及び−28等のこの修飾が、有糸分裂の間に主として起こっていることを示す。
【0058】
次に、本発明者等は、共焦点免疫蛍光顕微鏡により、HeLa細胞中のH3のスレオニン3のリン酸化の位置及びタイミングを調べ、セリン10リン酸化のものと比較した。静止期細胞の大部分において、抗ホスホ−ヒストンH3(Thr−3)抗体を使用した、わずかな染色が観察された。それにもかかわらず、明らかな染色体凝縮なしで、スレオニン3のリン酸化が、細胞の小集団において検出することができた。これらの細胞は、既に報告されている通り、(Hendzel,et al.,Chromosoma 106:348−360(1997);Van Hooser,et al.,J.Cell Sci.111:3497−3506(1998))セリン10リン酸化が最初に検出される点において、後期のG2細胞と同一であった。分裂前期においては、リン酸化されたスレオニン3は凝縮された染色体上で検出され、分裂前中期及び分裂中期の染色体は、抗体と強く反応した。染色の強度は、分裂後期の間に実質的に減少し、分裂周期においては凝縮した染色体上では染色されなかった。
【0059】
全体的に、スレオニン3のリン酸化及び脱リン酸化のタイミングは、セリン10のものと非常に似ていた。対照的に、二つの修飾の位置に相違があった。後期G2細胞においては、スレオニン3のリン酸化は斑点状のパターンで現れたが、核の周辺においてしばしば起こるセリン10のリン酸化の拡散された斑点が観察された。斑点状のスレオニン3のリン酸化は、セントロメアと一致しなかった。これは、修飾が染色体の腕の中心で開始することを示す。分裂前期の末期では、二つの修飾が部分的に重複し、各染色体の大部分を超えて広がるが、各修飾についての最も強い染色は異なる位置にあった。固定細胞及び分裂中期の染色体における、セントロメアの抗体による染色は、分裂前期の末期から、スレオニン3のリン酸化がセントロメア間で最も強いが、セリン10の染色は、染色体の腕の異なるバンドにおいて最も強いことを示した。U2OS細胞の場合においては、セリン10及びスレオニン3におけるH3のリン酸化が、染色体凝縮が明らかになった後にのみ観察されたが、同様の結果がU2OS細胞で得られた。特にアルギニン−2において、他のヒストン修飾における変化は、ホスホ−H3(Thr−3)抗体を使用して得られる染色パターンに影響を及ぼすことが可能である。それにもかかわらず、最も率直な解説は、有糸分裂の初期及び分裂後期の間の脱リン酸化の段階の間に、ヒストンH3がスレオニン3でリン酸化されることである。
【0060】
ハスピンの過剰発現は、H3スレオニン3のリン酸化、及び有糸分裂の差異の遅延をもたらす
機能を判定する手段として、本発明者等は、ハスピンを過剰発現するHeLa細胞系の生成を試みた。ベクターのみを有する安定した形質転換体は容易に得られるが、ハスピンで形質転換された細胞からの安定したクローンは、全て、検出できないか、又は異常なサイズのハスピンタンパク質を含んでいる。これは、高レベルのハスピンの発現が、細胞増殖に適合していないことを示す。この問題を回避するため、本発明者等は、ベクターpTRE2pur中にmycハスピンDNAを有するHeLa Tet−On細胞(BD Clontech)、及び対照としてベクターのみの安定した形質転換体を生成した。この系においては、ハスピン遺伝子は誘導性プロモーターの下にあり、ドキシサイクリンを加えない限りは発現しない。本発明者等は、誘導前には免疫ブロッティングによって検出できないレベルのmycハスピンを発現し、1μg/mLのドキシサイクリンで処理した24時間後に最大レベルを発現する安定した系を得た。
【0061】
誘導後、mycハスピンを発現する細胞は、誘導していない細胞に比べ、増殖に欠陥を示した(細胞数は、二つの別個の実験において、8日後に、誘導していない対照の58%〜60%に減少した)。ドキシサイクリンは、ベクターのみで形質転換した細胞の増殖には、影響を及ぼさなかった(細胞数は、二つの実験において、8日後に、誘導していない対照の104〜115%であった)。次いで、本発明者等は、DNA含有量分析及びMPM−2染色を用い、誘導した条件において、mycハスピン及びベクターで形質転換した細胞の同調した集団の細胞終期を通じて経過を比較した。G1/Sにおけるダブルチミジンブロックから解除した後、mycハスピン及び対照細胞の両方はS期を通じて進行し、同じ化学反応速度論で、G2期に入った。MPM−2染色によって定義されるような有糸分裂への侵入は、2種の細胞系において同じであるが、MPM−2エピトープの消失は、mycハスピン発現細胞において顕著に遅れ、これは、分裂後期より前の遅れであることを示す。mycハスピンで形質転換された細胞を誘導した時と、誘導していない時とで比較した場合に同じ効果が見られたが、ベクターで形質転換した細胞のドキシサイクリン処理は、細胞増殖において影響を及ぼさなかった。MPM−2染色の強度における上昇が、ハスピンで形質転換された細胞では観察されず、DNA含有量によって測定したように、有糸分裂の長い時間が又、G2/Mから出、G1に入ることにおける遅れに反映されるため、ハスピンのキナーゼ活性が直接にMPM−2ホスホ−エピトープを誘導しそうにもない。更に、別の実験において、13時間後の解除における有糸分裂細胞の列挙は、mycハスピンの過剰発現による、分裂前期/分裂前中期における蓄積、及び分裂後期/分裂終期の数の対応する減少を示した。
【0062】
同調した細胞からの溶解物の免疫ブロッティングは、mycハスピンタンパク質が、細胞周期を通じて同じレベルで存在することを示した。しかし、興味深いことに、mycハスピンの移動度は、細胞が有糸分裂を起こしている時点に、特に解除後11〜14時間の間に有意に遅れた。実際、選択的分離によって、又はコルセミド処理の後に単離された有糸分裂細胞の溶解物におけるmycハスピンは、ほとんど全体が大きい形態であった。mycハスピンは、有糸分裂ブロックからの細胞の解除後に約85kDaのサイズに戻し、この小さい形態のみが、静止期において検出される。コルセミドで遮断した細胞から免疫沈降したmycハスピンのラムダホスファターゼによる処理は、有糸分裂の間のサイズの上昇が、リン酸化に起因することを示した。本発明者等は、ハスピンが有糸分裂の間に強くリン酸化されると結論付ける。
【0063】
細胞周期を通じた過剰発現されたハスピンのキナーゼ活性を調べるため、本発明者等は、同調した細胞溶解物からのmycハスピンの免疫沈降させ、基質としてH3−GST、又は陰性対照としてH3−T3A−GSTを使用したインビトロキナーゼアッセイを実施した。有糸分裂の間、mycハスピンは明らかにリン酸化されたにもかかわらず、細胞周期の間に、キナーゼ活性の変化はみられなかった。これに一致して、本発明者等は、選択的な分離又はコルセミドブロック及び静止期又は非動機細胞によって得られた有糸分裂細胞から免疫沈降されたハスピンの活性に相違を認めなかった。
【0064】
ヒストンリン酸化におけるハスピン過剰発現の効果を調べるため、本発明者等は、抗ホスホ−ヒストンH3抗体を使用した免疫ブロッティングによって、同調した細胞溶解物を試験した。対照の細胞においては、スレオニン3、セリン10及びセリン28におけるヒストンH3のリン酸化が、有糸分裂細胞の数と相互に関連がある。しかし、mycハスピン発現細胞においては、スレオニン3におけるリン酸化が劇的に増加し、細胞周期を通じて存在した。対照的に、H3におけるセリン10及びの28のリン酸化の強度は、mycハスピンの過剰発現によって有意に変化しなかった。これらの所見は、ハスピンが生体内においてヒストンH3スレオニン3キナーゼとして作用するという仮説に対する確かな裏付けとなる。
【0065】
内在性ハスピンは、有糸分裂の間のヒストンH3スレオニン3リン酸化の原因となる
本発明者等は、有糸分裂の間の内在性ハスピンの役割を判定することを望んだ。抗ハスピン抗体は、免疫ブロッティングによって、HeLa又はHEK−293細胞における内在性ハスピンを検出することはできなかったが、本発明者等の以前のノーザン解析は、全ての増殖生細胞がハスピンmRNAを発現していることを示唆している(Higgins,Gene 267:55−69(2001))。内在性ハスピン活性を検出するための更に感度の高い手法として、本発明者等は、インビトロキナーゼアッセイによる、形質転換されていないHeLa細胞からの抗ハスピン免疫沈降物を分析した。これは、H3−GSTをリン酸化できるものの、H3−T3A−GSTをリン酸化できないキナーゼ活性を示し、これは、H3スレオニン3キナーゼ、おそらくは内在性ハスピンの存在を示す。陰性対照の免疫沈降物には、このような活性は認められなかった。基質特異性のパターンは、H3−GST及びH3−T3A−GSTをリン酸化するが、H3−S10A−GSTをリン酸化しないHeLa細胞からの免疫沈降したオーロラBのものとは、予想通り明らかに異なっていた。
【0066】
選択的分離によって得られた、ノコダゾール遮断細胞又は有糸分裂細胞を、非同調又は静止期集団と比較した場合、免疫沈降した内在性ハスピンのキナーゼ活性は検出されなかった。実際、本発明者等が、G1/Sにおいて同調及びそれに続き解除した細胞からの内在性ハスピンを調べた時、細胞周期の間に、キナーゼ活性においてわずかの変化が見られ、過剰発現したハスピンを使用して結果を確認した。対照的に、既に報告されているように(Bischoff,et al.,EMBO J.17:3052−3065(1998))、オーロラBの活性及びタンパク質レベルはG2/Mにおいて上昇した。しかし、結果が、生体内における有糸分裂の間のハスピン活性の制御を除外しないことに注目すべきである。
【0067】
内在性ハスピンが、スレオニン3におけるH3のリン酸化に必要であるかどうかを調べるため、本発明者等は、RNA干渉を実施した。100μMにおいて、ヒトハスピンに特異的な低分子干渉RNA ID#1093は、89±1%でHeLa細胞中でハスピンmRNAレベルを減少させた(Ambion)。本発明者等は、非同調性及びノコダゾールで遮断した、両方の有糸分裂HeLa細胞において、20又は100nMのこのsiRNAが内在性ハスピンのキナーゼ活性を減少させるが、陰性対照siRNAは減少しないことを確認した。処理は、小細胞溶解物において検出されるオーロラBキナーゼ活性においてわずかな効果を示した。明らかに、ハスピンsiRNAは、有糸分裂細胞中で、スレオニン3におけるH3のリン酸化を劇的に減少することが示された。対照的に、セリン10におけるH3リン酸化のレベルに変化は見られなかった。ハスピンsiRNAは、U20S細胞中でのH3スレオニン3リン酸化において、マウスのハスピンsiRNAをNIH3T3細胞で使用し、同様の減少をもたらした。従って、内在性ハスピンは、有糸分裂細胞においてスレオニン3におけるH3リン酸化に必要である。
【0068】
ハスピンの消耗は正常な分裂中期染色体配列を妨げる
有糸分裂における、ハスピンRNA干渉の効果を調べるため、本発明者等は、U2OS及びHeLa細胞を、ハスピン又は対照siRNAで形質転換し、免疫蛍光法によって、有糸分裂中の染色体の分布を評価した。ハスピンsiRNAで形質転換したU2OS細胞中で、本発明者等は、部分的な分裂中期のプレートが存在する、末期の分裂前中期の配列の数の上昇に注意したが、多くの染色体は、紡錘体極付近で明らかに「らせん構造」であった。抗セントロメア抗体を使用した染色は、ほとんどの整列していない染色体の二重線(doublet)を示し、それらが、単一方向の姉妹染色分体対であることを示した。分裂中期のプレートに存在する染色体のセントロメアは、しばしば、不十分に整列していると思われる。有糸分裂細胞の列挙は、ハスピンsiRNAが分裂前中期において細胞の蓄積を引き起こし、対照と比較し、分裂後期及び分裂終期の細胞においては、対応して減少することを示した。ハスピンsiRNAで処理した集団においては、H3スレオニン3リン酸化が、異なる細胞においては、様々な程度に減少することに気付いた。本発明者等が、これらの細胞のみ、低レベルのスレオニン3リン酸化(「低pT3」)を調べた時、分裂中期を超えた分裂前中期の増加比は特に劇的であった。中〜高レベルのpT3を有する細胞において、又は対照の形質転換体においては、分裂前中期及び分裂中期として区別される細胞の間に50%−50%の分割があり、10%未満は、部分的な分裂中期配列を有していた。対照的に、80%を超える、低pT3を有する、ハスピンsiRNAで形質転換した細胞は分裂前中期にあり、20%未満は分裂中期であった。それらの細胞は、有糸分裂を破壊するために、更に完全なハスピンの欠損を明らかに必要とするが、HeLa細胞中で非依存的にsiRNA試薬を使用して、同様の結果が得られた。本発明者等は、ハスピンが、分裂中期において、染色体の正常な配列にハスピンが必要であると結論付けた。
【0069】
III.考察
ハスピンは有糸分裂キナーゼである
本発明の実施例は、ハスピンが有糸分裂キナーゼであるという多くの基準を示す。第一に、最も重要なことに、ハスピンの過剰発現又は欠失が不完全な有糸分裂をもたらす。第二に、ハスピンは、有糸分裂機構の重要な成分と関連してユニークなパターンを有する。第三に、ハスピンのリン酸化、及びH3のハスピン依存性リン酸化は、有糸分裂の間に特異的に発生する。
【0070】
ハスピンは、有糸分裂を通して凝縮染色体に、それに続く核膜破壊(NEBD)でセントロメアに、分裂中期の間は紡錘微細管に、分裂終期では中心体に局在化する。この局在化は、Plk1はこれらのタンパク質がNEBDの前にはセントロメアで見出され、Plk1がセントロメアで見出されるが、有糸分裂の染色体の腕との顕著な関連を示さない(Carmena,et al.,Rev.Mol.Cell Biol.4:842−854(2003);Barr,et al.,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.5:429−440(2004))以外は、オーロラA及びポロ様キナーゼ1(Plk1)の局在化と同じである。オーロラBのように、ハスピンは、紡錘体成分と共に、染色体の凝縮、特にセントロメア領域において、一緒に行動する。しかし、本発明者等は、分裂後期の開始のように(Carmena,et al.,Rev.Mol.Cell Biol.4:842−854(2003))、ハスピンが、染色体から、パッセンジャータンパク質に特有な紡錘体への移動起こすという証拠を見出さなかった。
【0071】
興味深いことに、本発明者等は、キナーゼドメインの潜在的な活性ループにおいてリン酸化される残基の欠失(Higgins,Prot.Sci.10:1677−1684(2001))と一致し、細胞周期の間のハスピンキナーゼ活性の変化を検出することができなかった。本発明者等は、その活性を調節するタンパク質への結合を調節するか、又は染色体及び紡錘体を標的にするタンパク質と関連するハスピンを調節することによって、有糸分裂リン酸化が、ハスピンの機能を制御すると考える。INCENP及びスルビビンによるオーロラBのこの種の標的は、詳細に記載されている(Carmena,et al.,Rev.Mol.Cell Biol.4:842−854(2003)。このような関連は、本発明者等の実験で使用された溶解条件中で崩壊される。
【0072】
ハスピンは正常な有糸分裂に必要である
本発明者等は、RNA干渉によるハスピンの欠失が、分裂中期における正常な染色体配列を妨げるが、ハスピンの過剰発現は、分裂中期の前で遅延をもたらすことを見出した。Plk1及びオーロラA及びB等のその他の有糸分裂キナーゼ(Carmena,et al.,Rev.Mol.Cell Biol.4:842−854(2003);Barr,et al.,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.5:429−440(2004))と同じように、ハスピン活性が特定の範囲で維持されなければならず、多すぎても少なすぎても正常な有糸分裂を妨げることが明らかである。ハスピン活性の減少による染色体集合の不成功は、オーロラBの欠陥と類似している(Adams,et al.,J.Cell Biol.153:865−880(2001);Shannon,et al.,Curr.Biol.12:R458−460(2002);Andrews,et al.,Curr.Opin.Cell Biol.15:672−683(2003))。ハスピンが、シンテリックな(syntelic)染色体の紡錘体への接着を補正すること、オーロラBに依存する分裂中期プレートの形成の間の正常な過程において役割を果たすことが可能である。本発明者等は又、ハスピン欠損の効果が、セントロメアのキネシン関連タンパク質、特に、CENP−Eの機能の破壊、又は動原体キナーゼBub1の欠損による効果(Schaar,et al.,J.Cell Biol.139:1373−1382(1997);Johnson,et al.,J.Cell Sci.117:1577−1589(2004))と同じであることに気付いた。従って、ハスピンは、動原体の組み立て、及び紡錘体の接着の調製、又は染色体移動に関与する微小管モーターの活性の調節において役割を果たしているかもしれない。
【0073】
ハスピンの別の機能的研究において、Tanaka等は、マウスEGFPハスピンで一時的に形質転換したHEK293細胞が、G2/Mを有する細胞集団においてDNA含有量完全な減少、及び4日後に、G1を有する細胞においてDNA含有量の蓄積をもたらすことを見出した。キナーゼドメインから10アミノ酸を欠失し、キナーゼ活性を欠失したハスピンの変異型は、2日後に同じ効果をもたらした(Tanaka,et al.,J.Biol.Chem.274:17049−17057))。本発明者等の結果との相違についての基礎は判明していない。HEK293細胞は、効果のない紡錘体チェックポイントを有することが報告されており(Kung,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:9553−9557))、ハスピンが誘導する有糸分裂の欠損は、それらのケースにおいて、G1チェックポイントのそれに続く活性化をもたらすことが可能である。
【0074】
スレオニン3におけるH3のリン酸化
本発明者等は、有糸分裂の間、コアヒストンH3がスレオニン3においてリン酸化されることを示す。Polioudaki等は、最近比較結果を報告した(Polioudaki,et al.,FEBS Lett.560:39−44(2004))が、本発明者等は二つの重要な方法でこれらの所見を広げた。第一に、本発明者等は、セリン10及びスレオニン3のリン酸化の開始のタイミングが同じであり、おそらくG2の末期に、HeLa細胞において明らかなクロマチン凝縮の前に検出できることを見出した(Hendzel,et al.,Chromosoma 106:348−360(1997);Van Hooser,et al.,J.Cell Sci.111:3497−3506(1998))。第二に、本発明者等は、リン酸化セリン10及びスレオニン3の免疫染色を実施し、有糸分裂の間、明瞭に局在化することを直接的に示す。スレオニン3リン酸化は、染色体の腕上の中心から開始すると思われる。分裂中期によって、セントロメアクロマチンにおいて最も強く、染色体の腕に沿って存在し、ハスピンの分布を反映している。対照的に、セリン10リン酸化は、分裂前期の末期から分裂中期において染色体の腕で主に見出された。二つの修飾は、分裂終期における染色体の凝縮前に同時に除去される。
【0075】
ヒストンH3スレオニン3キナーゼの存在は、最初25年前に開示された。Shoemaker and Chalkley(Shoemaker,et al.,J.Biol.Chem.255:11048−11055(1980))は、「ヒストンH3に対する異常な基質特異性」及びリン酸化されたスレオニン3を示す、牛胸腺クロマチンと関連するキナーゼ活性を特徴付けた。更に最近、HP1−γ−GSTタンパク質と複合体を形成することができる、鳥類の核膜に関連する末梢ヘテロクロマチン由来のH3スレオニン3キナーゼが開示された(Polioudaki,et al.,FEBS Lett.560:39−44(2004))。しかし、何れの研究においても、キナーゼの同一性は判定されなかった。四つの系統の証拠は、本発明者等に、ハスピンが、少なくともHeLa、U2OS及びNIH3T3細胞においては、有糸分裂ヒストンH3スレオニン3リン酸化に関与する主要なキナーゼであると結論付けた。第一に、mycハスピンの過剰発現は、H3のリン酸化の増加、特にスレオニン3においてもたらされた。第二に、ハスピン活性を欠失される、低分子の阻害性RNAは、スレオニン3におけるH3の有糸分裂リン酸化を劇的に減少させた。第三に、ハスピンは、H3がスレオニン3でリン酸化される時に、有糸分裂染色体と関連する。第四に、ハスピンは、特にヒストンH3と関連し、生体内でスレオニン3をリン酸化する。過剰発現及びRNAiの効果は、ハスピンが、有糸分裂の間のH3スレオニン3リン酸化に必要な機構の成分であることを示す。ハスピンがインビトロでH3と関連しリン酸化するという所見と組み合わせると、これらの実験によって、ハスピンが生体内でH3を直接的にリン酸化するという説得力のある証拠が得られる。
【0076】
有糸分裂ヒストンH3スレオニン3リン酸化の機能
ハスピンsiRNAが染色体凝縮を阻止しないが、本発明者等の結果は、クロマチン構造における更なる微妙な効果を除外しない。スレオニン3のリン酸化のタイミングは、末期のG2及び分裂前期において姉妹染色分体の凝縮及び/又は分解の促進において役割を果たし得ることを示す。これは、コンデンシン、コヒーシン又はトポイソメラーゼの補充又は機能における変化を通じて生じ得る(Swedlow,et al.,Mol.Cell 11:557−569(2003))。不適切なスレオニン3リン酸化によって引き起こされるクロマチン構造における欠陥は、有糸分裂の後期において、特に、二方向のためのコヒーシンの重要性を示す染色体の配列を妨害する(Tanaka,Curr.Opin.Cell Biol.14:365−371(2002))。又、セントロメア領域におけるそれの存在は、動原体における紡錘体微小管の接着又は活性を制御することにおいて、スレオニン3のリン酸化のための更に直接的な役割を反映するかもしれない。動原体と対になる緊張交差(tension across)は、紡錘体に対する二方向の染色体の接着を安定化するのに重要である。緊張(tension)は、内部セントロメアにおいて、オーロラBから動原体を引っ張り、その結果、その基質に対するキナーゼのアクセスを制御し、二方向の接着を選択的に安定化することが提案された(Tanaka,Curr.Opin.Cell Biol.14:365−371(2002);Andrews,et al.,Curr.Opin.Cell Biol.15:672−683(2003))。H3のスレオニン3におけるセントロメアのヌクレオソームのリン酸化が、動原体及びセントロメアクロマチンの緊張の伝達に影響を及ぼすことが可能である。これはおそらく、オーロラBの活性を変化させることによって、姉妹染色分体のセントロメア分離に影響を及ぼし、染色体の二方向性に影響を及ぼすことができる。
【0077】
分子レベルにおいて、スレオニン3のリン酸化は、ヌクレオソームの接触に直接影響を及ぼすことができ、又Lys−9のメチル化がHP1結合を促進するのと同様の方法で、有糸分裂の間に調節性タンパク質のための結合部位を生成することができる(Lachner,et al.,Curr.Opin.Cell Biol.14:286−298(2002))。又、スレオニン3が、「2進スイッチ」の成分として役割を果たすと仮定されている。スレオニン3のリン酸化は、隣接した、メチル化リジン−4残基に結合する、今のところ定義されていないタンパク質を追い出す役割を果たすことができる(Fischle,et al.,Nature 425:475−479(2003))。リジン−4 トリ−又はジメチル化は、活性又は成分転写状態、更には「オープンな」クロマチン構造と関連しており(Schneider,et al.,Nat.Cell Biol.6:73−77(2004))、従って、有糸分裂の間にスレオニン3リン酸化によって無効にされる。ヒストンH3中のアルギニン−2もメチル化することができ(Schurter,et al.,Biochemistry 40:5747−5756(2001))、類似した相互作用のスレオニン3及びこの残基が生じることができる。
【0078】
隣接していないヒストン修飾間のクロストークも生じ(Fischle,et al.,Curr.Opin.Cell Biol.15:172−183(2003))、スレオニン3のリン酸化が、他のヒストン修飾酵素の活性の結合に影響を及ぼすかもしれない。前の修飾が又、H3をリン酸化するハスピンの能力を侵害するかもしれない。本発明者等は、ハスピンが、アミノ酸修飾を欠き、組換えH3−GSTと関連しリン酸化する、組換えH3及び化学的に合成されたH3ペプチドをリン酸化することを見出した。更に、種々の修飾を含むH3ペプチドは、ハスピンキナーゼドメインについての良好な基質と同等である。又、これらの結果は、ハスピン活性が生体内で既に存在していたH3修飾によっては影響されないことを示す。しかし、本発明者等は、H3の特定の修飾形態のためのハスピン活性が生体内で増加するか減少する可能性を除外することができない。これは、本発明者等のインビトロの試験において試験されないヒストン修飾の組み合わせの存在、修飾されたH3に対する結合について競合する生体内における他のタンパク質の存在、及び本発明者等が使用した組換えハスピンタンパク質中に存在しない、ハスピンのN−ドメインの影響のため、これは起こるかもしれない。実際、H3−GSTを有する完全長のハスピンの関連は、アルギニン−2及びリジン−4における変異によって減少する。
【0079】
ハスピン活性の非ヒストン標的
ハスピン活性の唯一の標的がヒストンH3であることはありそうもないことに気付くべきであり、従って、本発明者等は処置されたハスピン活性の効果を、H3スレオニン3リン酸化の影響に帰することができる有糸分裂の間のセントロメア及び紡錘体におけるハスピンの存在は、基質がこれらの位置においても見出されることを強く示唆する。実際、本発明者等は、酵母ツーハイブリッド法における潜在的なハスピン結合タンパク質としての有糸分裂紡錘体及びセントロメアタンパク質を同定し、本発明者等は、ハスピンsiRNA処理に続く、有糸分裂における紡錘体崩壊に気付いた。従って、ハスピンは、有糸分裂の複数の手順においてクロマチン及び紡錘体タンパク質の両方の活性を調整する、オーロラ、Nek及びポロファミリーのメンバーと共通の特性を有している(Nigg,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.2:21−32(2001))。実際、ハスピン、オーロラ及びポロの機能及び局在化の重複は、ハスピン及び他のキナーゼとの間の相互作用を研究することを生ずることを示唆する。
【0080】
IV.結論
本発明者等の知識の及ぶ限り、等価のスレオニン3が全ての真核生物のヒストンH3で見出され、この残基について、非常に保存されて、かつ重大な機能を示唆する。更に、多種多様の真核生物のハスピン遺伝子の存在は、真核生物における重大な機能を示唆する(Higgins,Cell.Mol.Life Sci.60:446−52(2003))。出芽酵母における二つのハスピン相同体に関する利用可能な限定的情報は、本発明者等が開示したハスピンの機能と一致する。ハスピン相同体ALK1のmRNA処理レベルは、有糸分裂細胞周期の間、有糸分裂の初期の発現においてピークを有して著しく定期的である(Cho,et al.,Mol.Cell 2:65−73(1998);Spellman,et al.,Mol.Biol.Cell 9:3273−3297)1998))。第二の相同体YBL009Wは、胞子形成の間に有意に誘導される(Chu,et al.,Science 282:699−705(1998))。データは、有糸分裂及び減数分裂の間の、それぞれのAlk1p及びYb1009wpの機能を示す(Higgins,Cell.Mol.Life Sci.60:446−462(2003))。本発明者等は、ハスピンが、有糸分裂、及びおそらく減数分裂の間、染色体及び紡錘体機能の調整の統合における重大な役割を有する、選択されたキナーゼの群のメンバーであることを提案する。減数分裂後の精子細胞においけるハスピンの高いレベル(Tanaka,et al.,J.Biol.Chem.274:17049−17057(1999))も、精子形成の間に生じるクロマチンの再構築及び圧縮における役割を示唆するかもしれない。ハスピン機能の更なる研究は、ヒストンコードの解読を補助し、有糸分裂及び減数分裂の細胞分裂の間にゲノムの安定性を維持する機序において重大な見識をもたらすと思われる。
【0081】
実施例2:マイクロタイタープレートハスピンキナーゼアッセイ
高い処理能力フォーマットにおける、ホスホヒストン−H3(Thr−3)抗体の潜在的使用を証明するため、本発明者等は、ELISAをベースとするハスピンキナーゼアッセイのパイロット実験を実施した。これらのアッセイにおいて、H3−GST基質タンパク質を、PBS中で一晩4℃にてインキュベートすることによって、96穴のマイクロタイタープレートに固定した。洗浄に続き、1%BSA/TBSでブロッキングし、6Hisハスピンキナーゼを合計容量50μLの生理食塩加Hepes−バッファー(HBS)/100μM ATP/10mM MnClに加え、37℃、20分間で固定化された基質のリン酸化を行った。TBS/0.1%Tween−20で3回洗浄した後、アフィニティー生成した、ポリクローナル抗ホスホ−ヒストンH3(Thr−3)抗体を室温で1時間、加えた。洗浄後、抗体の結合(即ちリン酸化)を、1/2000のロバ抗ウサギIgG−西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート(Jackson)、次いでテトラメチルベンジジン(TMB)発色(BD Biosciendes)により検出した。HSOの添加後、A450nm−A570nmの測定を実施した(バックグラウンド吸光度における穴毎の変化を補正するため)。結果は、このアッセイが、好感度かつ特異的に、ハスピンキナーゼが媒介するH3−GSTのリン酸化を検出し得ることを示した。キナーゼ、基質及びホスホ特異的抗体の滴定は、わずかな6ng/ウェルのキナーゼ、100ng/ウェル(2.5ピコモル/ウェル)の基質及び0.1μg/mLのホスト特異的抗体が使用され、H3−T3A−GST変異基質により定義されるバックグランドを超える、明らかなシグナルを生成することを証明した。これらの結果は、一般的手法の可能性、及び十分な量のタンパク質が、高い処理能力のスクリーニングを可能にすることを証明する。更に、このアッセイ系を使用し、本発明者等は、EDTAによる、及びペプチドH3(1−8)(ARTKQTAR、配列番号1)によるハスピンキナーゼ活性の阻害を証明した。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】ヒトハスピン(配列番号17;Higgins,Gene 267:55−69(2001))のアミノ酸配列を示す。ここで本明細書を通して、ペプチド配列は、左側のN末端で開始し、C末端まで伸長する。
【図2】ヒトハスピン遺伝子(配列番号18;Higgins,Gene 267:55−69(2001))のヌクレオチド配列を示す。
【図3】ヒトヒストンH3(配列番号19;Lusic,et al.,EMBO J.22:6550−6561(2003))のアミノ酸配列を示す。N末端のメチオニンは、通常タンパク質加工の間に除去されるため、タンパク質の付番はアラニン残基から開始する。ハスピンによるリン酸化部位は、3位のスレオニン、即ち、「スレオニン3」又は「thr−3」である。thr−3のすぐ近くに隣接するアルギニン(R)及びリジン(K)残基も又、リン酸化に必要である。thr−3以外のスレオニン及びセリン残基は、リン酸化することができないアミノ酸、例えば、ハスピン活性に影響を与えないアラニンと置換される場合がある。
【図4】ヒトヒストンH3(配列番号20;Lusic,et al.,EMBO J.22:6550−6561(2003))の遺伝子配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験化合物がハスピンキナーゼ活性を阻害するかどうかを判定するアッセイであって、
a)リン酸化に適した条件下で、ハスピン及び5〜135個のアミノ酸長のポリペプチドを含む溶液をインキュベートする工程であって、ここで:
i)前記インキュベーションが、前記試験化合物の存在下で実施され;及び
ii)前記ポリペプチドが、N末端配列ARTKQ(配列番号4)を有し、ハスピンによってリン酸化される、工程;
b)工程a)のインキュベーション後に、リン酸化されたポリペプチドの量を測定する工程;
c)工程b)で得られた結果を、前記試験化合物の非存在下で実施した同様のインキュベーションから得られた結果と比較する工程;ならびに
d)前記試験化合物の存在下におけるリン酸化の量が、前記試験化合物の非存在下における量よりも少ない場合に、前記試験化合物が前記ポリペプチドのリン酸化を阻害すると結論付ける工程
を包含する、アッセイ。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、N末端配列ARTKQ(配列番号4)を有し、そのC末端において、以下の配列を有する1〜130個のアミノ酸が後に続く、請求項1に記載のアッセイ:
TARKSTGGKAPRKQLATKAARKSAPATGGVKKPHRYRPGTVALREIRRYQKSTELLIRKLPFQRLVREIAQDFKTDLRFQSSAVMALQEACEAYLVGLFEDTNLCAIHAKRVTIMPKDIQLARRIRGERA(配列番号21)。
【請求項3】
前記ポリペプチドが8、21又は45個のアミノ酸長である、請求項2に記載のアッセイ。
【請求項4】
前記インキュベーションが[γ32P]−ATPの存在下で実施され、前記[γ32P]−ATPから前記ポリペプチドを単離し、単離した該ポリペプチドと関連する放射能の量を測定することによって、発生したリン酸化の量が測定される、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項5】
前記ポリペプチドがヒトのヒストンH3又はH3−GSTの何れかである、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項6】
前記ポリペプチドが、単離を促進するためにビオチンと結合されている、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項7】
アミノ酸配列ARTKQ(配列番号4)を含む、実質的に純粋なポリペプチドであって:
a)前記ポリペプチドが5〜135個のアミノ酸長であり;
b)前記ポリペプチドが、ハスピンによるヒトのヒストンH3のリン酸化を阻害し;及び
c)前記ペプチド又はタンパク質自体がヒストンH3でない、ポリペプチド。
【請求項8】
前記ポリペプチドがN末端配列ARTKQ(配列番号4)を有し、そのC末端において、以下の配列を有する1〜130個のアミノ酸が後に続く、請求項7に記載の実質的に純粋なポリペプチド:
TARKSTGGKAPRKQLATKAARKSAPATGGVKKPHRYRPGTVALREIRRYQKSTELLIRKLPFQRLVREIAQDFKTDLRFQSSAVMALQEACEAYLVGLFEDTNLCAIHAKRVTIMPKDIQLARRIRGERA(配列番号21)。
【請求項9】
前記ポリペプチドが8〜130個のアミノ酸長である、請求項8に記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記ポリペプチドが8〜45個のアミノ酸長である、請求項8に記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記ポリペプチドが8〜20個のアミノ酸長である、請求項8に記載のポリペプチド。
【請求項12】
前記ポリペプチドが、N末端アミノ酸として追加のメチオニンをも含む、請求項8に記載のポリペプチド、
【請求項13】
前記ポリペプチドが8〜130個のアミノ酸長である、請求項12に記載のポリペプチド。
【請求項14】
前記ポリペプチドが8〜45個のアミノ酸長である、請求項12に記載のポリペプチド。
【請求項15】
前記ポリペプチドが8〜20個のアミノ酸長である、請求項12に記載のポリペプチド。
【請求項16】
以下:
ARTKQTAR(配列番号1);
ARTKQTA(配列番号2);
ARTKQT(配列番号3);
ARTKQ(配列番号4);
RTKQTAR(配列番号5);
RTKQTA(配列番号6);及び
RTKQT(配列番号7)
からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、実質的に純粋なペプチド。
【請求項17】
前記ペプチドが、N末端アミノ酸として追加のメチオニンを含む、請求項16に記載のペプチド。
【請求項18】
ハスピンのキナーゼ活性を阻害する方法であって、請求項7〜17の何れかに記載の有効濃度のペプチドと前記ハスピンとを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項19】
請求項7〜17の何れかに記載のペプチドをコード化する配列を含む、実質的に純粋なポリヌクレオチド。
【請求項20】
請求項7〜17の何れかに記載のペプチドをコード化する配列からなる、実質的に純粋なポリヌクレオチド。
【請求項21】
プロモーターと作動可能に連結した、請求項20に記載のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項22】
請求項21に記載のベクターで形質転換した宿主細胞。
【請求項23】
細胞によるヒストンH3のリン酸化を阻害する方法であって、ハスピンSiRNAのポリヌクレオチドで前記細胞をトランスフェクトする工程からなる、方法。
【請求項24】
アミノ酸配列AR(pT)KQTAR(配列番号8)を含む、実質的に純粋なペプチド又はタンパク質であって、
a)前記ペプチド又はタンパク質が、抗体を生成することのできる動物に投与した場合に、リン酸化されたヒトのH3ヒストンに結合する抗体の生成を誘導することができ;
b)前記ペプチド又はタンパク質自体が、リン酸化されたH3ヒストンでない、
ペプチド又はタンパク質。
【請求項25】
アミノ酸配列AR(pT)KQTAR(配列番号8)を含む、実質的に純粋なペプチドであって、前記ペプチドが8〜20個のアミノ酸長であり、(pT)がリン酸化されたスレオニンである、ペプチド。
【請求項26】
前記ペプチドがN末端アミノ酸として追加のメチオニンを含む、請求項24又は25に記載のペプチド。
【請求項27】
以下:
AR(pT)KQTAR(配列番号8);
AR(pT)KQTA(配列番号9);
AR(pT)KQT(配列番号10);
AR(pT)KQ(配列番号11);
R(pT)KQTAR(配列番号12);
R(pT)KQTA(配列番号13);及び
R(pT)KQT(配列番号14);
からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる実質的に純粋なペプチドであって、式中、(pT)はリン酸化されたスレオニンである、実質的に純粋なペプチド。
【請求項28】
前記ペプチドが、N末端アミノ酸として追加のメチオニンを含む、請求項27に記載のペプチド。
【請求項29】
H3ヒストンのリン酸化の速度を上昇させる方法であって、
a)細胞中の活性な誘導性プロモーターと作動可能に連結したヒトハスピンをコード化するヌクレオチドを含む発現ベクターで前記細胞をトランスフェクトする工程;
b)トランスフェクトされた該細胞を誘導物質の非存在下で増殖させる工程;及び
c)組換えハスピンの発現を上昇させる上で十分な濃度の誘導物質と前記細胞とを接触させる工程
を包含する、方法。
【請求項30】
異常なハスピン活性による異常な細胞分裂を起こす細胞の存在について、生物学的試料を評価する方法であって、
a)前記生物学的試料中のハスピン活性量を測定する工程;
b)工程a)における結果を、異常な細胞のないことが知られる対照試料の結果、又は一般的な集団から得た結果と比較する工程;
c)前記生物学的試料中のハスピン活性量が、対照試料又は一般的な集団における量よりも有意に多いか有意に少ない場合に、前記生物学的試料が、異常なハスピン活性に部分的に起因した異常な細胞分裂を起こしている細胞を含むと結論付ける工程
を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−522616(P2008−522616A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545530(P2007−545530)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【国際出願番号】PCT/US2005/043790
【国際公開番号】WO2006/062855
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【Fターム(参考)】