説明

キノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法およびこれを利用した堆肥物の製造方法ならびにこの製造方法による堆肥物

【課題】 キノコ栽培廃菌床に残存するキノコの菌糸から効率よくキノコ成分を抽出できるとともに、キノコ屑を原因とする悪臭の発生を防止することができる、新しいキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法を提供する。
【解決手段】 キノコ栽培廃菌床に加圧熱水を接触させることで、キノコ成分を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ栽培廃菌床からキノコ成分を抽出できるキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法と、この加圧熱水処理方法を利用した堆肥物の製造方法ならびにこの製造方法により得られる堆肥物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、シイタケ、マイタケ、ブナシメジ等のキノコ類には、各種の有用な栄養エキス、成分が含まれていることは知られており、そのための抽出方法も検討されている。たとえば、植物類とキノコ類とを、加圧熱水抽出機と飽和水蒸気加熱処理機を利用して、エキスを抽出することが提案されている(特許文献1)。
【0003】
ところで、シイタケ、マイタケ、ブナシメジ等のキノコの栽培には、おが屑等からなるキノコ栽培床(培地)が用いられているが、キノコを収穫した後には、キノコ栽培廃菌床として廃棄される。近年、キノコ栽培の急激な増加に伴って、このキノコ栽培廃菌床が多量に排出されている。そして、キノコ栽培廃菌床を処分する方法としては、焼却処分する方法がまず考えられるが、通常、キノコ栽培廃菌床中には多量の水分(通常、50〜70%の水分)が含まれているため、このため、キノコ栽培廃菌床の焼却処分は大量のエネルギーを必要とし、得策ではない。
【0004】
そこで、排出されたキノコ栽培廃菌床を再利用することが種々検討され、実際に各種の試みがなされてきている。たとえば、キノコ栽培廃菌床をキノコの再栽培に利用するために、キノコ栽培廃菌床に残存する糖質や窒素分、ミネラル分等の有効成分を利用する方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、キノコ栽培廃菌床を堆肥として利用することも試みられている。たとえば、キノコ栽培廃菌床にオリゴ糖を添加して、微生物発酵を促進させることで、効率よくキノコ栽培廃菌床を堆肥化させる製造方法が提案されている(特許文献3)。あるいは、微生物によるメタン発酵の原料として、アルコールやメタンガスの生産に利用することも試みられており、さらに、家畜の飼料として利用することも試みられている。
【特許文献1】特許第3212278号(特開平11-196818号公報)
【特許文献2】特許第2638399号(特開平6-25号公報)
【特許文献3】特開平11-171677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、たとえば、上記特許文献1記載のキノコ類からエキスを抽出する方法では、植物類とともに抽出する必要があり、また、2度にわたる抽出処理を必須要件としている。そして、なによりもこの特許文献1記載の方法は、キノコ栽培後の廃菌床を原料としていない。
【0007】
また、上記特許文献2記載のキノコ栽培廃菌床に残存する有効成分の利用方法では、キノコ栽培廃菌床中に残存する栽培床の成分を利用するだけのものであって、キノコ栽培廃菌床のおが屑に絡まって残存するキノコの菌糸や子実体の一部が有するグルカン由来の糖成分やキチン成分等の有効成分(キノコ成分)を抽出するものではない。さらに、この特許文献2記載の利用方法は、微生物を利用しているため、キノコ栽培廃菌床に使用されているおが屑の木質成分(セルロースやへミセルロース、リグニン等を大量に含み、分解され難い)が、微生物発酵の妨げになり、微生物発酵の効率性に悪影響を与えるという問題があった。
【0008】
さらに、たとえば、上記特許文献3記載の堆肥化させる製造方法や、微生物によるメタン発酵の原料、家畜の飼料とすることについても、依然として、キノコ栽培廃菌床中に未分解のセルロースやへミセルロース、リグニン等の木質成分が大量に残留しているため、微生物発酵を利用して堆肥化させることや各種微生物発酵の原料とすること、家畜の飼料等とすることには、弊害が生じることが多い。さらにまた、これら堆肥化させる過程、微生物発酵の原料や家畜の飼料とする過程において、上記のとおりキノコ栽培廃菌床にはおが屑の塊にキノコの菌糸や子実体の一部が絡み合って残存(キノコ屑)していることから、このキノコ屑が腐敗して悪臭を放ち、環境公害にまで発展することもある。
【0009】
そこで、本発明はこのような背景から、キノコ栽培廃菌床に残存するキノコ成分に着目し、キノコの菌糸や子実体の一部からも効率よくキノコ成分を抽出することができ、キノコ屑を原因とする悪臭の発生を防止することもできる、新しいキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法と、木質成分を除去することで微生物発酵の効率性が向上する堆肥物を得ることができる新しい堆肥物の製造方法とこの方法により得られる新しい堆肥物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、キノコ栽培廃菌床に加圧熱水を接触させることで、キノコ成分を抽出することを特徴とする。
【0011】
また、第2には、加圧熱水の温度が、110℃から250℃の範囲であることを特徴とし、第3には、加圧熱水にアルカリを添加することを特徴とする。
【0012】
さらに、第4には、抽出されるキノコ成分が、グルカンであることを特徴とし、第5には、このグルカンが、β-1,3-グルカンおよびβ-1,6-グルカンの一方、または、両方であることを特徴とする。第6には、抽出されるキノコ成分が、キチンであることも特徴とする。
【0013】
さらにまた、第7には、上記第1から第6いずれかの発明によって、キノコ栽培廃菌床に含まれる木質成分を除去し、キノコ栽培廃菌床を堆肥物として改変させることを特徴とし、そして、第8には、上記第7の発明によって、キノコ栽培廃菌床に含まれる木質成分を除去し、キノコ栽培廃菌床を改変させてなることをも特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のとおりの本発明によって、第1の発明によれば、キノコ栽培廃菌床に残存するキノコの菌糸や子実体の一部から効率よくキノコ成分を抽出できるとともに、キノコ屑を原因とする悪臭の発生を防止することができる。
【0015】
第2の発明によれば、上記第1の発明の効果に加えて、さらに効率よくキノコの有効成分を抽出することができる。
【0016】
第3の発明によれば、上記第1および第2の発明の効果に加えて、さらに効率よくキノコの有効成分を抽出することができる。
【0017】
第4および第5の発明によれば、上記第1から第3の発明の効果に加えて、キノコの有効成分であるグルカン、特にβ-1,3-グルカンやβ-1,6-グルカンをも効率よく抽出することができる。
【0018】
第6の発明によれば、上記第1から第5の発明の効果に加えて、キノコの有効成分であるキチンをも効率よく抽出することができる。
【0019】
第7の発明によれば、キノコ栽培廃菌床から、微生物発酵の効率性が向上する堆肥物を製造することができる。
【0020】
そして、第8の発明によれば、微生物発酵や家畜の飼料に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の最良の形態について説明する。
【0022】
シイタケ、マイタケ、ブナシメジ等の各種キノコを栽培後のキノコ栽培廃菌床、より具体的には、このキノコ栽培廃菌床の構成物の一つであるおが屑には、キノコの菌糸や子実体の一部が絡み合って残存している。そして、このキノコ菌糸には、キノコが有するグルカン由来の糖成分やキチン成分等種々の有効成分が含まれている。つまり、本発明は、発明者の鋭意研究の結果に基づき、上記のとおりのおが屑を有するキノコ栽培廃菌床に加圧熱水(亜臨界水)を接触させるという従来にはなかった方法を行うことで、キノコ菌糸や子実体の塊のほぼ全量を水溶化(可溶化)してキノコ成分(有効成分)を抽出可能とし、キノコ栽培廃菌床から抽出することを特徴とするキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法である。
【0023】
本発明における、「加圧熱水」は亜臨界水であり、この亜臨界水は、250℃付近で加水分解力が最大となり、有機物を高速で水に溶ける低分子に分解することができる。また、亜臨界水とすることで、水でありながら、油を抽出する力が強く、有機物中の油はほぼ100%瞬時に抽出することもできる。通常、亜臨界水とは、水の臨界点以下の温度および圧力の水のことである。さらに説明すると、この水の臨界点とは、水の温度が374℃、圧力が218atm(647K、22.1MPa)とすることで、水と水蒸気の密度が等しくなり、水(液体)か水蒸気(気体)かの区別がつかない状態になる。この点が臨界点である。
【0024】
この点を考慮するとともに、さらに効率よくキノコの有効成分を抽出するために、本発明における加圧熱水(亜臨界水)の温度は、110℃から250℃の範囲とすることが好ましい。また、圧力については、0.1MPaから5MPaの範囲とすることが好ましい。なお、加圧熱水(亜臨界水)となる原水は、通常の水道水でも使用できるが、イオン交換水や蒸留水、フィルター濾過した濾過水(たとえば、限外濾過水)等のように十分に精製した水を用いることが好ましい。
【0025】
本発明をさらに説明すると、温度が120℃以上の加圧熱水で、おが屑を含むキノコ栽培廃菌床を処理すると、抽出初期の1時間で濁ったリグニンを主体とした木質成分が抽出されるので、この抽出物を除去する。一方、キノコ成分は、その主体となるβ-グルカンやキチン等の成分が抽出されることに基づいている。特に、180℃以上の加圧熱水で抽出することにより、水溶性高分子のβ-グルカンが、220℃以上ではキチン由来の成分が抽出される。また、加圧熱水にアルカリを用いるとさらに効率的に抽出作業を行うことができる。
【0026】
また、本発明における加圧熱水に、アルカリを添加することで、さらに効率よくキノコの有効成分を抽出することができる。具体的には、120から140℃の抽出初期に各種木質成分が抽出されるので除去でき、170℃からは水溶性高分子のβ-グルカンが抽出されて選択的に得ることができる。
【0027】
本発明において効率よく抽出できるキノコ成分は、上記のとおり、グルカン由来の糖成分、あるいは、キチン成分である。特に、糖成分であるグルカンについては、β-1,3-グルカンが効率よく(選択的に)抽出することができる。もちろん、グルカンとしては、β-1,6-グルカンも選択的に抽出することができる。そして、上記のアルカリの添加とは、通常は、0.01N以上のNaOHやKOH等のアルカリ水溶液を用いることによって実施される。特に、グルカンであるβ-グルカンの選択的取得のため、濃度が順次増大されたアルカリ水溶液を用いて多段階で抽出することもできる。
【0028】
また、このアルカリ水溶液には、抽出時に還元末端からのピーリング反応による多糖類の分解、低分子化を防ぐために、たとえば、NaBH4等を添加することも有効でもある。そして、本発明の処理方法を実施するに際しては、あらかじめ、キノコ原料をケトンあるいはアルコールによる洗浄を行うことも考慮できる。
【0029】
なお、本発明の実施する際には、キノコ栽培廃菌床をあらかじめ切断、もしくは、粉砕等の処理を施して、小塊ないし粉末としておくことが望ましい。その大きさについては限定しないが、10から100メッシュ程に粉砕することで効率的に本発明を実施することができて好ましい。また、キノコ成分の抽出に先立って、有機溶媒あるいは熱水等によってキノコ栽培廃菌床をあらかじめ予備処理しておくことが望ましい。この予備処理の操作によりキノコ成分の抽出の効果を上げることができるとともに、後述する堆肥物の製造方法にもその効果を上げることができ、より質のよい堆肥物を得ることができる。
【0030】
また、この予備処理において、適宜にキノコの細胞壁の水素結合を弱め、もしくは破壊する手段を適用してもよい。この際の水素結合を弱める、もしくは、破壊するための手段としては、たとえば、次亜塩素酸塩や過塩素酸塩、スルホン酸塩、パーフルオロスルホン酸塩、あるいは各種の酸化剤、もしくはDMSO、DMF等の有機溶媒がそれらの例として挙げられ、なかでも、次亜塩素酸ナトリウムやDMSOがその好適な例として示される。
【0031】
また、対象とするキノコ栽培廃菌床については、シイタケ、マイタケ、ハナビラタケ、ブナシメジ、ナメコ、エリンギ等の各種のキノコを栽培した後の塊状である栽培廃菌床を使用することができ、特に制限されるものではない。
【0032】
図1は、本発明のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法を実施するための装置の一構成例を模式的に示した構成図である。
【0033】
この図1に沿って本発明のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法について、さらに説明すると、図1に例示した装置は、抽出器(1)、ガスボンベ(2)、圧力調整弁(3)、高圧ポンプ(4)、タンク(5)、加熱器(6)、冷却器(7)および受器(8)を備えた、熱水流通式の装置(以下、熱水流通式装置とすることがある)であり、キノコ成分の抽出を効率よく行うことができる。この図1に例示した熱水流通式装置によって、本発明のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法を実施するには、試料であるキノコ栽培廃菌床を抽出器(1)に充填し、試料が流出しないよう抽出器(1)の両端をフィルターでキャップし、装置に接続する。そして、系内(熱水流通式装置内)の空気をガスボンベ(2)から供給される窒素ガスで置換し、圧力調整弁(3)で系内(熱水流通式装置内)の圧力を所定圧に調節した後、高圧ポンプ(4)でタンク(5)に貯留されている溶媒の供給を開始する。溶媒は、ヒーティングコイル(61)等を具備した加熱器(6)内で所定温度に加熱されて加圧熱水状態となり、抽出器(1)内に流入し、試料の抽出が行われる。抽出物を伴った溶媒は冷却器(7)で冷却された後、圧力調整弁(3)を通過して、水溶液として最終的に受器(8)で回収される。回収されたこの水溶液を、蒸留や凍結乾燥等の公知の方法で脱水して粉末状等としてキノコ成分を得ることができる。なお、このように粉末状とすることで、保存性もよくすることができる。
【0034】
このように、熱水流通式装置等のような耐圧性の密閉容器内で、キノコ成分の抽出は、120℃以上250℃以下の加圧熱水あるいはアルカリを添加した加圧熱アルカリ水と、試料であるキノコ栽培廃菌床とを接触させることによって行われる。その際、120℃から140℃で前処理的にキノコ成分を抽出して、160℃以上200℃未満、好ましくは180から190℃で抽出を行えば、β-グルカン由来の多糖抽出物が得られる。また、200℃以上230℃以下、好ましくは220℃で抽出を行えば、キチン由来の物質を含む抽出物が得られる。このようにして、加圧熱水の温度、抽出開始温度を適宜に変化させることにより、キノコ成分と木質成分とを分離することができ、また木質成分を除去することができる。
【0035】
抽出に使用する熱水量としては、通常、試料であるキノコ栽培廃菌床の重量に対し、10から100倍重量の水を用いる。また、抽出時間については、試料の大きさ(粉末状の場合では、粒度)によっても異なるため特に限定されるものではないが、通常は、たとえば、120℃以上250℃以下それぞれの温度において10から60分の抽出時間である。
【0036】
なお、本発明のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法は、バッチ式の装置を利用した処理で実施することも可能で、この場合は処理にかかる費用をさらに抑えることができ、実用的でもある。
【0037】
これによって従来困難であったキノコ栽培廃菌床を多角的に応用できる。すなわち、微生物発酵が困難であったキノコ栽培廃菌床を、微生物発酵の効率性が向上し、そこからアルコール等を得ることができ、さらには、燃料電池へのエネルギーとして利用することができる。
【0038】
さらにまた、本発明は、上記のとおりの特徴を有するキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法を利用して、堆肥物の製造方法を提供する。この堆肥物の製造方法の特徴を説明すると、加圧熱水をキノコ栽培廃菌床に接触させることで、キノコ栽培廃菌床に含まれるおが屑のセルロースやへミセルロースおよびリグニン等の木質成分、その中でも特にリグニン成分を抽出して除去でき、キノコ栽培廃菌床を堆肥物として改変させている。つまり、上記のとおりのキノコ栽培廃菌床を加圧熱水処理方法によって、キノコ成分を抽出した後に残ったキノコ栽培廃菌床(キノコ栽培廃菌床残渣)を堆肥物とすることができる。
【0039】
そして、本発明は、上記の堆肥物の製造方法によって、キノコ栽培廃菌床に含まれるおが屑のセルロースやへミセルロースおよびリグニン等の木質成分を効果的に抽出して除去し、キノコ栽培廃菌床を改変させてなることを特徴とする堆肥物も提供する。つまり、キノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理後のキノコ栽培廃菌床残渣は、上記のとおり、堆肥物として利用したり、法面の基盤材等多角的に展開することが可能である。
【0040】
以下に実施例を示し、さらに詳しく、本発明について説明する。もちろん、以下の例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0041】
実施例1:キノコ栽培廃菌床の加圧熱水方法
本実施例において、キノコ栽培廃菌床を加圧熱水処理には、図1に例示した熱水流通式の装置(以下、熱水流通式装置とすることがある)を利用した。
【0042】
試料であるキノコ栽培廃菌床を乾燥させ、この乾操させたキノコ栽培廃菌床を粉砕し、50から100メッシュ程に調整した試料10gを、30ml容のステンレス製抽出器に充填し、試料が流出しないよう孔径5ミクロンのステンレス製焼結フィルターで両端をキャップして熱水流通式装置にセットした。ついで、系内(熱水流通式装置内)の空気を窒素ガスで置換し、圧力調整弁で系内の圧力を3.0MPaに調整した後、溶媒である蒸留水を高圧ポンプで送り、油浴で加熱して抽出器に流通させた。
【0043】
温度は室温から昇温を開始し、50分間で120℃まで昇温させた。ここで25分間抽出処理を続け、その後、35分で190℃まで昇温させ、ここで25分間の抽出処理を続けた。さらに、20分間で230℃まで温度を上げて、ここで25分間の抽出処理を行った。その後、塩浴を下げて水を流し、抽出器の冷却および洗浄を行った。抽出物は、<1>第1フラクション(Fr1)として、50分の昇温時間と25分間の抽出時間の合計75分、<2>第2フラクション(Fr2)として、この75分間に加えて、35分の昇温時間と25分間の抽出時間の合計135分、<3>第3フラクション(Fr3)として、この135分間に加えて、20分の昇温時間と25分間の抽出時間の合計180分の3回に分けてサンプリングし、3つのフラクションの試料を採取した。つまり、最終的に、初めから75分間のFr1、75分から135分までのFr2、135分から180分のFr3の3区画分を抽出した。
【0044】
図2に、熱水流通式装置内における抽出時間の経過に対する熱水温度を示した。抽出物は、最初の抽出物は色が濃く、120℃で抽出した抽出物は汚れた概観であった。しかし、温度が140℃を越えると濁りが少なくなった。Brix%(中に含まれる抽出物質:屈折率で測定する)は、120℃から140℃で高くなるが、その後は低くなり、180℃付近から再び高くなった。それとともに、粘性のある成分が抽出された。さらに温度を上げると再び濁ってきた。
【0045】
各区画分の抽出量を初期重量に対する%で算出した結果を表1に示した。また、この表1には、各温度での画分の重量%も示した。
【0046】
【表1】

この表1に示したデータは、各加圧熱水処理時に抽出されたものである。これを常温まで冷却すると、液層と沈殿層とに分かれ、この液層を乾燥後、重量を求め、前記沈殿層の重量との総計量で算出したものである。なお、この表1では、Fr1は120℃、Fr2は190℃、Fr3は230℃である。
【0047】
そして、各画分で示すと、
<1> 120℃まで:約500mg(はじめの沈殿量は少ない)、
<2> 190℃:約1.5g(はじめの沈殿量は、約300mg)、
<3> 230℃:約150mg(はじめの沈殿量は少ない)。
【0048】
次に、Fr2およびFr3についての分析を行った。Fr1は褐色が強く、木質成分(特にリグニン)であると推定できるので、分析はFr2およびFr3について実施した。
【0049】
Fr2の成分は、比較的色が薄い粘性物質で、また200℃以上で抽出された成分であるFr3は、Brix%が低く、140℃から200℃の抽出物とは成分が異なることが推定できた。この中で、190℃で抽出された成分であるFr2(沈殿層)は、フェノール-硫酸法で求めた全糖量、元素分析、NMR分析を行った。求めた全糖量は76%であった。また、炭素と水素と窒素は、それぞれ40.0%、6.2%、0.6%であった。Fr2は、窒素が少ないことから、グルカン等の主として糖質成分から構成されていることが推定できた。
【0050】
そして、このFr2に関しては、13C NMRを利用して分析した。ここで、β-1,6-グルカン(以下、β-(1→6)グルカンとすることがある)のC6を正確に帰属するため、パルス幅は1350に設定し、水素原子が2個結合した炭素核のみ下向きのシグナルとして検出できるようにした。
【0051】
結果は、図3に示したとおり、62.2ppmにグルコシル化していないC6、87.6ppmにC3が観測され、β-1,3-グルカン(以下、β-(1→3)グルカンとすることがある)の構造が推定された。一方、70.2ppmにグルコシル化したC6が帰属するため、β-(1→6)グルカンの構造も推定された。シグナルの強さから、前者が主鎖で、後者が側鎖と結論することができる。これらの構造は、通常のマイタケの構造とよく一致し、190℃でキノコ栽培廃菌床中に残存するマイタケ成分が効率よく抽出されることが確認できた。
【0052】
また、Fr3に関しては、元素分析で約4%程の窒素が検出され、FT−IRスペクトルを測定した結果、キトサンに類似したスペクトルを示し、この物質がキチン、キトサンの混合した構造の物質成分の混在していることが推定できた。総じて、キノコ栽培廃床から、マイタケ成分がマイタケから直接抽出する時と同様に、抽出できることが確認できた。抽出後には、多量のキノコ栽培廃菌床残査が発生したが、キノコ栽培廃菌床に含有するおが屑の木質成分が分解されているため、微粉状で堆肥物として十分使用できるものであった。
実施例2:アルカリを用いてのキノコ栽培廃菌床の加圧熱水方法
本実施例は、実施例1と同様の装置(熱水流通式装置)および試料(マイタケを栽培したキノコ栽培廃菌床)を用い、またその工程も基本的に同じであるが、溶媒である蒸留水に0.01NのNaOHを添加した点で異なる。
【0053】
50分間に溶液温度を120℃まで上げ、さらに25分で140℃まで上げて、抽出処理を行って抽出成分Fr1を得た。さらに、20分間で180℃まで上げ、その後25分間180℃で抽出処理を行い、抽出成分Fr2を得た。なお、図3に抽出時間の経過に対する装置内の温度を示した。
【0054】
実施例1と同様に、Fr1は褐色が強い(濁度が強い)抽出成分が抽出され、木質成分(特にリグニン)であると推定できる。
【0055】
一方、Fr2を実施例1と同様にフェノール-硫酸法で求めた全糖量、元素分析、NMR分析を行った結果、図には示していないが、実施例1のFr2と同様の構造を示し、β-(1→3)グルカンを主成分とする抽出物を抽出できることが確認できた。
実施例3:バッチ式装置を用いてのキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法
バッチ式の装置を用いて、マイタケからのキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理を行った。
【0056】
マイタケを栽培したキノコ栽培廃菌床(含水率55%)を乾操させずに、そのまま粉砕し、10から100メッシュに調整した試料70gと蒸留水140gを500ml容のステンレス製容器に充填し、装置にセットした。系内(装置内)の空気を窒素ガスで置換し、圧力調整弁を0.5MPaに調整した後、昇温加熱した。130℃まで30分間で昇温させ、この温度で1時間の抽出処理をした。その際の圧力は1MPaまで上昇した。その後、自然冷却で40℃まで下げて、内容物を取り出した。
【0057】
この1回目の抽出処理後のキノコ栽培廃床を、熱水に入れて十分洗浄した後、ろ過して室内で6時間の風乾をした。風乾処理したキノコ栽培廃床に蒸留水140gを加え、再び系内(装置内)の空気を窒素ガスで置換し、圧力調整弁を1.0MPaに調整した後、昇温加熱した。180℃まで60分間で昇温させ、この温度で1時間の抽出処理をした。その際の圧力は、1.5Mpaまで上昇した。その後、自然冷却で40度まで下げて内容物を取り出した。
【0058】
この2回目の抽出処理後のキノコ栽培廃床に再び熱水を注いだ。1時間の攪拌をした後、ろ過し、ついで、洗浄して水に溶ける成分(水溶液)とキノコ栽培廃床残渣に分離した。
【0059】
そして、実施例1および2と同様に、フェノール-硫酸法で求めた全糖量、元素分析、NMR分析を行ったところ、図には示していないが、前者の水溶液から、糖質のものを分離することができた。この糖質の成分は、グルコース成分であった。
実施例4:キノコ栽培廃菌床残渣の堆肥物としての利用
キノコ栽培廃菌床残渣の堆肥物としての効果を評価するため、キノコ栽培廃菌床残渣での植物の発芽試験を行った。具体的には、キノコの栽培廃菌床を緑化へ応用するために、畑作への施用試験を行った。
【0060】
畑作物への廃菌床施用試験は以下の条件で実施した。なお、通常の土壌をコントロールとした。
(1)供試キノコ栽培廃菌床は、マイタケ栽培後のキノコ栽培廃菌床(マイタケ栽培廃菌床)および加圧熱水処理後のマイタケ栽培廃菌床(マイタケ栽培廃菌床残渣=本発明の堆肥物);
(2)試験規模は、1種類(1m2)が3連制;
(3)試験地は、新潟市五十嵐。また、試験期間は、平成15年6月から10月;
(4)マイタケ栽培廃菌床およびマイタケ栽培廃菌床残渣を、約1ヶ月間野外に野積みした(熟成);
(5)施工は、各平方メートル(m2)当たりマイタケ栽培廃菌床10kgに対し、パーク堆肥10kgを混合し、草種として、洋芝もしくはハギ類(メドハギ/イタチハギ)の種子(新潟県法面緑化協会の播種量)を混合および攪拌し、これを敷いて転圧した;
(6)そして、各区画毎に堀取りを行い、草種別に分別後、草丈を測定した。
【0061】
結果は、図5に示した。この図5中において、「A」はコントロールとして無処理のマイタケ栽培廃菌床であり、「B」はマイタケ栽培廃菌床残渣(本発明の堆肥物)である。また、「A1」および「B1」では洋芝、「A2」および「B2」ではハギ類の育成結果を示している。
【0062】
図5に示したとおり、洋芝については、その草丈(cm)いずれも生長するが、加圧熱水無処理のマイタケ栽培廃菌床を使用したものに比べて、本発明の加圧熱水処理を施して得られたマイタケ栽培廃菌床残渣の方が、顕著な草丈の生長を示した。ハギ類に関しても同様に、加圧熱水処理を施して得られたマイタケ栽培廃菌床残渣において、顕著な草丈の生長を示した。
【0063】
そして、本発明の堆肥物であるマイタケ栽培廃菌床残渣については、キノコ栽培廃菌床に残存するキノコ菌糸や子実体の一部(キノコ屑)の腐敗による、悪臭もほとんど発生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法を実施するための装置の一構成例を模式的に示した構成図である。
【図2】熱水流通式の装置内における、加圧熱水処理の抽出時間の経過に対する熱水温度を示した図である。
【図3】抽出物である第2フラクション(Fr2)の13C NMRスペクトルを示した図である。
【図4】熱水流通式の装置内における、0.01NのNaOHを用いた加圧熱水処理の抽出時間の経過に対する熱水温度を示した図である。
【図5】本発明の堆肥物における、洋芝およびハギ類の生長量の評価結果を示した図である。
【符号の説明】
【0065】
1 抽出器
2 ガスボンベ
3 圧力調整弁
4 高圧ポンプ
5 タンク
6 加熱器
61 ヒーティングコイル
7 冷却器
8 受器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコ栽培廃菌床に加圧熱水を接触させることで、キノコ成分を抽出することを特徴とするキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法。
【請求項2】
加圧熱水の温度が、110℃から250℃の範囲である請求項1記載のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法。
【請求項3】
加圧熱水にアルカリを添加する請求項1または2記載のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法。
【請求項4】
抽出されるキノコ成分が、グルカンである請求項1から3いずれかに記載のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法。
【請求項5】
グルカンが、β-1,3-グルカンおよびβ-1,6-グルカンの一方、または、両方である請求項4記載のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法。
【請求項6】
抽出されるキノコ成分が、キチンである請求項1から5いずれかに記載のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法。
【請求項7】
請求項1から6いずれかに記載のキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法によって、キノコ栽培廃菌床に含まれる木質成分を除去し、キノコ栽培廃菌床を堆肥物として改変させることを特徴とする堆肥物の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の堆肥物の製造方法によって、キノコ栽培廃菌床に含まれる木質成分を除去し、キノコ栽培廃菌床を改変させてなることを特徴とする堆肥物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−176765(P2006−176765A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339459(P2005−339459)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(503361813)学校法人 中村産業学園 (26)
【Fターム(参考)】