説明

キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法及びその製造方法で得られたプリント配線板並びにそのプリント配線板を用いた内蔵キャパシタ回路を備える多層プリント配線板。

【課題】複雑な製造方法を必要とすることなく、キャパシタ回路部を除き、可能な限り誘電体層を除去したプリント配線板の製造技術を提供する。
【解決手段】基材2の表面に下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層のキャパシタ回路形成層を設け、外層に位置する前記上部電極形成層をエッチング加工し、上部電極回路9等の回路部以外の領域の誘電層4を露出させ、前記上部電極回路9等の表面にエッチングレジスト層を残留させ、露出した誘電層4を物理的に粗く除去し、物理的に除去し、残留する誘電層4をエッチング除去し、前記上部電極回路9及びその他の回路部の表面に残留させたエッチングレジスト層を剥離し、下部電極形状を形成するためのエッチングレジスト層を形成し、第2エッチングレジストパターン10を形成した後、エッチング加工して、下部電極回路11を形成し、キャパシタ回路を備えるプリント配線板1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、プリント配線板の製造方法及びその製造方法で得られたプリント配線板並びにそのプリント配線板を用いた内蔵キャパシタ回路を備える多層プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、キャパシタ回路(素子)を内蔵した多層プリント配線板は、その内層に位置する絶縁層の内の1以上の層を誘電層として用い、その誘電層の両面に位置する内層回路としてキャパシタの上部電極及び下部電極を形成し用いられてきた。従って、このようなキャパシタ回路は、内蔵キャパシタ回路と称されてきた。
【0003】
このような内蔵キャパシタを備える多層プリント配線板の製造は、一般的なプリント配線板の製造プロセスを応用し、図5〜図7に示した製造方法が検討されてきた。即ち、図5(a)に示した内層コア材20(図面中では基材2の両面に下部電極回路11が形成されたもの)を用い、この両面に高誘電率材料を用いた誘電層4と上部電極形成層(金属箔)5を張り合わせ、図5(b)に示す如き状態となることが期待される。
【0004】
そして、外層に位置する第1導電性金属層6を、エッチングする等して、キャパシタの上部電極回路9となるように加工し、図6(c)に示す状態となるのである。このとき、回路部以外の領域の誘電層は露出した状態となる。
【0005】
次に、図6(d)に示すように、上部電極回路9の上にプリプレグ21及び金属箔22を張り合わせる(図面中には、プリプレグに含まれた骨格材の図示は省略した。本件明細書の全体に於いて同様である。)。そして、外層に位置する金属箔22を、エッチングする等して、外層回路23に加工し、必要なメッキ層24を形成し、ビアホール25を形成する等して、図7(e)に示す、内蔵キャパシタ回路を備えた多層プリント配線板30が得られるのである。
【0006】
図5〜図7に示した内蔵キャパシタ回路を備えた多層プリント配線板の製造方法は、通常の多層プリント配線板の製造方法を、そのまま転用したものであり、誘電層が多層プリント配線板の全面に亘って広がっており、キャパシタ回路以外の電源ライン、信号伝達ラインの下部及び周辺にも誘電層が存在することになる。この誘電層は、高誘電率であるためシグナル信号等の伝送に障害となる寄生容量が生ずるという問題があった。また、この誘電層に対し、インダクタ等の他の回路素子を埋め込もうとしても不可能な場合が多く、回路設計に一定の制約を受けるのが通常であった。
【0007】
ところが、上記の一般的なプリント配線板の製造プロセスを転用して、内蔵キャパシタ層を備える多層プリント配線板を製造しようとすると、図5(a)に示す内層コア材2の両面に高誘電率材料を用いた誘電層4と上部電極形成層5の張り合わせにおいて、大きな問題が発生していた。一般的に、誘電層4に含まれるフィラー含有率が80wt%を超えるのが一般的で、樹脂量が少ないため、張り合わせ時のレジンフローが少なく、下部電極間のギャップをうまく埋設することができず、図5(b)に図示したような理想的な状態には出来なかった。しかも、上記製造方法で得られた多層プリント配線板は誘電層が全面に亘って広がっており、必要な部位のみに誘電層を残すことは出来ない。
【0008】
従って、当業者間では、誘電体層を必要な部位にのみ形成するため種々の方法が検討されてきた。例えば、特許文献1に開示されているように内層基板表面に設けた絶縁層を開口処理して、その部位に高誘電材料を埋め込んだり、特許文献2に開示されているように、予め樹脂フィルム上に形成したキャパシタ回路付層を内層コア材表面に転写する方法、特許文献3に開示されているように、スクリーン印刷法で誘電体フィラーを含有したペーストを必要な部位にのみ印刷する等の方法が採用されてきた。
【0009】
【特許文献1】特開平09−116247号公報
【特許文献2】特開2000−323845号公報
【特許文献3】特開平08−125302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2〜特許文献3に開示された発明では、不要部に誘電層が残留した状態は解消出来るものの、誘電層の膜厚均一性に欠け、転写やスクリーン印刷する際の位置精度に問題が生じていた。
【0011】
キャパシタは、可能な限り大きな電気容量を持つことが基本的な品質として求められる。キャパシタの容量(C)は、C=εε(A/d)の式(εは真空の誘電率)から計算される。特に、最近の電子、電気機器の軽薄短小化の流れから、プリント配線板にも同様の要求が行われることになり、一定のプリント配線板面積の中で、キャパシタ電極の面積を広く採ることは殆ど不可能であり、表面積(A)に関しての改善に関しては限界がある事は明らかである。従って、キャパシタ容量を増大させるためには、キャパシタ電極の表面積(A)及び誘電体層の比誘電率(ε)が一定とすれば、誘電体層の厚さ(d)を薄くする必要があり、膜厚均一性に欠けることはキャパシタとしての品質のバラツキが大きくなり好ましくない。
【0012】
また、転写やスクリーン印刷する際の位置精度に問題がある場合には、折角形成した上部電極と下部電極との位置にズレが生じ、キャパシタの電気容量を左右する表面積(A)の実効面積が減少し、設計通りのキャパシタ性能が得られなくなり、製品品質がスペックアウトするのである。
【0013】
そこで、複雑な製造方法を必要とすることなく、誘電層の膜厚均一性及びキャパシタ回路の位置精度に優れ、キャパシタ回路部を除き、可能な限り誘電体層を除去したプリント配線板の製造技術及びキャパシタ回路を内蔵する多層プリント配線板等が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、本件発明に係るキャパシタ回路を内蔵するプリント配線板の製造方法に想到したのである。この製造方法は、従来の最も一般的なプリント配線板の製造プロセスを採用出来るため、特段の顕著な設備投資も要さず工業的なメリットが大きなものとなる。
【0015】
本件発明に係るキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法は、以下の工程A〜工程Hを備えることを特徴としたものである。
【0016】
工程A: 基材の表面に下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層の3層構造のキャパシタ回路形成層を設けるラミネート工程。
工程B: 外層に位置する前記上部電極形成層にエッチングレジスト層を形成し、第1エッチングレジストパターンを形成する第1エッチングレジストパターン形成工程。
工程C: 第1エッチングレジストパターンを形成した後、エッチング加工して、上部電極回路及びその他の回路部以外の領域の誘電層を露出させる上部電極形成工程。
工程D: 前記上部電極回路及びその他の回路部の表面にエッチングレジスト層を残留させたまま、露出した誘電層を物理的に除去する第1誘電層除去工程。
工程E: 前記第1誘電層除去工程により、前記上部電極回路及びその他の回路部以外の領域の露出した誘電層を物理的に除去してもなお残留する誘電層をエッチング除去する第2誘電層除去工程。
工程F: 前記上部電極回路及びその他の回路部の表面に残留させたエッチングレジスト層を剥離する第1エッチングレジスト層剥離工程。
工程G: 下部電極形状を形成するためのエッチングレジスト層を形成し、第2エッチングレジストパターンを形成する第2エッチングレジストパターン形成工程。
工程H: 第2エッチングレジストパターンを形成した後、エッチング加工して、下部電極回路を形成し、キャパシタ回路を備えるプリント配線板とする第2エッチング工程。
【0017】
そして、本件発明に係るキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法において、前記ラミネート工程における基材の表面への3層構造のキャパシタ回路形成層(下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層)の形成は、基材に3層構造(下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層)を備えるキャパシタ層形成材の下部電極形成層を張り合わせる方法を用いる。
【0018】
また、本件発明に係るキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法において、前記ラミネート工程における基材の表面への3層構造のキャパシタ回路形成層(下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層)の形成は、基材表面に下部電極形成層を形成し、その下部電極形成層の表面に誘電層を形成し、更に上部電極形成層形成する方法(以下、「順次積層法」と称する。)を採用することも可能である。
【0019】
上述の順次積層法において、前記下部電極形成層は、ポリイミド樹脂にエアロゾルデポジション法で金属層を形成し得る事ができる。
【0020】
また、上述の順次積層法において、前記下部電極形成層は、基材上にスパッタリング蒸着法で銅、ニッケル、コバルト若しくはこれらの合金のいずれからなるシード層を設け、その後電解法で銅、ニッケル、ニッケル合金のいずれかを析出成長させて得る事も出来る。
【0021】
また、上述の順次積層法において、前記下部電極形成層は、ポリイミド樹脂製の基材上にダイレクトメタライゼーション法で銅、ニッケル、コバルト若しくはこれらの合金のいずれからなるシード層を設け、その後電解法で銅、ニッケル、ニッケル合金のいずれかを析出成長させて得る事も出来る。
【0022】
また、上述の順次積層法において、前記下部電極形成層は、基材材料であるポリイミド樹脂を金属箔表面にキャスティングして基材表面に下部電極形成層のある状態として得る事も出来る。
【0023】
更に、上述の順次積層法において、前記誘電層は、スパッタリング蒸着法又はエアロゾルデポジション法のいずれかの方法を用いることができる。
【0024】
そして、上述の順次積層法において、前記上部電極形成層の形成に、スパッタリング蒸着法又はエアロゾルデポジション法のいずれかの方法を用いることができる。
【0025】
以上のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法により得られるプリント配線板は、余分な部位に誘電層が無く、しかも、誘電層を除去した部位に残留誘電体が無いため、高品質のものとなる。
【0026】
更に、通常の多層プリント配線板製造プロセスの中で、上述のキャパシタ回路を備えるプリント配線板を内層コア材として用いる等で、高品質の内蔵キャパシタ回路を備える多層プリント配線板が得られる。
【発明の効果】
【0027】
本件発明に係るキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法は、その工程内に不要部位の誘電層の除去に際し、物理的除去工程と化学的除去(エッチング除去)工程とを組み合わせて用いるものである。このような特徴のある製造方法を採用することで、回路に損傷を与えることなく、誘電層の不要部位での誘電層除去が良好に行える。その結果、仮に、キャパシタ回路を形成したと同一面内又は隣接平面内に信号回路を形成しても、高周波シグナル信号の伝送に障害となる寄生容量が小さく、インダクタ等の他の回路素子を埋め込むことも可能となり、回路設計の制約条件を大幅に緩和することが可能となるのである。従って、この製造方法で得られたキャパシタ回路を備えるプリント配線板は極めて高品質のものとなる。更に、このキャパシタ回路を備えるプリント配線板を内層コア材として用いる等して、得られる内蔵キャパシタ回路を備える多層プリント配線板も高品質なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法>
本件発明に係るキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法は、以下の工程A〜工程Hを備えることを特徴としたものである。中でも、不要部位の誘電層の除去に際し、後述の物理的除去と化学的除去(エッチング除去)とを組み合わせる点に特徴を有する。以下、図1〜図3を主に用いて、工程毎に説明する。
【0029】
工程A: このラミネート工程は、図1(a)に示すように、基材2の表面に下部電極形成層3/誘電層4/上部電極形成層5の3層構造のキャパシタ回路形成層6を設ける工程のことであり、その形成方法に関しての特段の限定はない。そして、キャパシタ回路形成層6は、基材2の片面又は両面に設けることも出来る。なお、説明に用いる図面には片面の場合を例示的に使用している。
【0030】
しかしながら、キャパシタ回路形成層(下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層)の3層構造を基材の表面に設けるにあたり、次のような方法を採用することが好ましい。このキャパシタ回路形成層の製造に関しては、主に2タイプの製造方法を採用する。以下、「キャパシタ回路形成層の製造方法I」と「キャパシタ回路形成層の製造方法II」との分けて説明する。
【0031】
キャパシタ回路形成層の製造方法I: このキャパシタ回路形成層の製造方法は、3層構造(下部電極形成層3/誘電層4/上部電極形成層5)を備えるキャパシタ層形成材6を予備的に製造しておき、図4(A)に示すように、このキャパシタ層形成材6の下部電極形成層3を当接させ、基材2に張り合わせる方法である。このとき、図4に示してはいないが、図1に示す如き接着剤層7を基材表面に設けることも可能である。
【0032】
最初に、「基材」に関して説明を行っておく。ここで言う基材とは、リジットプリント配線板又はフレキシブルプリント配線板等の製造に使用される基材材料であるエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、液晶ポリマー等の電気的絶縁性に優れた樹脂素材を主剤としたフィルム状、層状のものの全ての概念を含むものとして記載している。そして、これらの基材の形状に関して、シート状、テープ状等の特段の限定はない。更に、これらの基材内部にはガラスクロス、ガラス不織布等の骨格材を含む場合であっても構わない。また、基材にポリイミド樹脂フィルム等を用いる場合には、その表面に接着剤層を設けることも可能であり、市販され公知の接着剤の全てを用いることが可能である。従って、図1〜図3には、最も構成要素の多い例として、基材2にポリイミド樹脂フィルムを用いるとして、その表面にエポキシ樹脂系の接着剤層7を設けた場合を示している。
【0033】
3層構造(下部電極形成層3/誘電層4/上部電極形成層5)を備えるキャパシタ層形成材6を予備的製造は、下部電極形成層3として用いる金属箔の表面に、誘電層4を形成し、更に、当該誘電層4の表面に上部電極形成層5を設けるという手順となる。下部電極形成層3として用いる金属箔には、銅箔、ニッケル箔、コバルト箔、ニッケル合金箔(ニッケル−リン合金箔、ニッケル−コバルト合金箔)、ニッケル−リン合金層を備えるニッケル箔等種々の金属箔の使用が可能であり、誘電層の形成方法等に適合させて、適宜選択使用すればよい。
【0034】
ここで言う下部電極形成層3の形成には、主に金属箔を用いることを意図している。従って、下部電極形成層3をニッケル層とする場合には、所謂純度が99.9%(その他、不可避不純物)以上の純ニッケル箔で形成される層である。そして、下部電極形成層3をニッケル合金層とする場合であり、ニッケル−リン合金組成を用いる場合には、リン含有量は0.1wt%〜11wt%である事が好ましい。ニッケル−リン合金層のリン成分は、キャパシタ層形成材の製造及び通常のプリント配線板の製造プロセスにおいて高温負荷されることがあれば、誘電層の内部に拡散し、誘電層との密着性を劣化させ、誘電率にも変化を与えていると考えられる。しかしながら、適正なリン含有量を備えたニッケル−リン合金層は、キャパシタとしての電気特性を向上させる。リン含有量が0.1wt%未満の場合には、純ニッケルを用いた場合と変わらないものとなり、合金化することの意義が失われるのである。これに対し、リン含有量が11wt%を超えると、誘電層の界面にリンが偏析し、誘電層との密着性が劣化し、剥離しやすいものとなる。従って、リン含有量は、0.1wt%〜11wt%の範囲が好ましい。そして、誘電層とのより安定した密着性を確保するためには、リン含有量が0.2wt%〜3wt%の範囲であれば工程に一定のバラツキがあっても安定した品質のキャパシタ回路の形成が可能となる。なお、最適な範囲を敢えて指摘するならば、リン含有量が0.25wt%〜1wt%で最も良好な誘電層との密着性を確保し、同時に良好な誘電率をも確保出来るのである。なお、本件発明におけるリン含有量は、[P成分重量]/[Ni成分重量]×100(wt%)として換算した値である。
【0035】
本件発明に言うニッケル箔及びニッケル合金箔とは、圧延法及び電解法等で得られた物の全てを含む。そして、金属箔の最表層に、これらニッケル若しくはニッケル合金層を備えた複合箔の如きものも含む概念として記述している。例えば、金属基材を構成する材料として、銅箔の表面にニッケル層若しくはニッケル合金層を備えた複合材を用いることもできる。
【0036】
このような物性を備える限り、フッ素樹脂基板、液晶ポリマー等を基板材料としたプリント配線板の製造プロセスで用いられる、300℃〜400℃の高温加工プロセスを経ても強度の劣化は殆ど無い。なお、本件発明に言うニッケル箔及びニッケル合金箔の結晶組織は、結晶粒が可能な限り細かく強度を向上させたものであることが好ましい。更に具体的に言えば、平均結晶粒径0.5μm以下のレベルに微細化され、機械的強度の高い物性を備えることが好ましいのである。
【0037】
そして、下部電極形成層3の厚みは、1μm〜100μmであることが好ましい。上記厚みが1μm未満では、キャパシタ回路を形成したときの電極としての信頼性に著しく欠け、その表面へ誘電層を形成する事が極めて困難となる。一方、100μmを超える厚みとすることには、実用上の要求が殆どない。また、下部電極形成層3の厚さを10μm以下として、キャパシタ層形成材6を製造する場合には、ハンドリングが困難となる。そこで、下部電極形成層3となる金属箔が、接合界面を介して、キャリア箔と張り合わせられたキャリア箔付金属箔を用いることが好ましい。キャリア箔は、本件発明に言うキャパシタ層形成材に加工して以降の段階で除去すれば良い。
【0038】
次に、下部電極形成層3として用いる金属箔の表面への誘電層4の形成方法に関しても、特段の限定はない。例えば、誘電層4をゾルーゲル法を用いて600℃〜700℃の高温焼成プロセスを経て得ることも可能である。基材2を加熱しながら行うMOCVD法により任意の組成の誘電層4を形成することも可能である。また、誘電体フィラーを含有した樹脂溶液を調製し、グラビアコーター等を用いて、金属箔の表面に塗布し乾燥させ、硬化させることにより形成することも可能である。しかしながら、スパッタリング蒸着法又はエアロゾルデポジション法等の低温プロセスでの製造方法を採用する事が好ましい。高温負荷が行われないため、下部電極形成層3として用いた金属箔の物性変化が殆ど無く、形成した誘電層4と下部電極形成層3との密着性も良好となるからである。なお、ここで言う誘電層とは、ペロブスカイト構造を持つ誘電膜のことであり、主に(Ba1−x Sr)TiO(0≦x≦1)膜又はBiZrO(0≦x≦1)膜等である。ここで、(Ba1−x Sr)TiO(0≦x≦1)膜において、x=0の場合にはBaTiO組成を意味し、x=1の場合にはSrTiO組成を意味するものとなる。そして、この中間組成として、(Ba0.7 Sr0.3)TiO等が存在する。
【0039】
そして、本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法で形成する前記誘電層は、厚さが20nm〜1μmであることが好ましい。この誘電層の厚さが薄いほど電気容量が向上するため、より薄いほど好ましいのである。しかし、誘電層の厚さが20nm未満となると、例え誘電層の上記マンガン、ケイ素等の添加を行ったとしても、リーク電流を小さくする効果がなくなり、絶縁破壊が早期に起こるため長寿命化が出来ない。これに対し、電気容量が小さくても良いのであれば、誘電膜の厚さは厚くて構わない。しかしながら、市場に求められているキャパシタ回路の電気容量等の要求値を考えるに、この1μm程度の厚さが上限と考える。
【0040】
更に、誘電層内の添加成分として、上記酸化物誘電膜にマンガン、ケイ素、ニッケル、アルミニウム、ランタン、ニオブ、マグネシウム、スズから選ばれる一種又は二種以上を含ませ、結晶粒界に偏析させることで、リーク電流の流路を遮断することも好ましい。中でも、マンガンを用いることが好ましい。このマンガンは、誘電膜の内部ではマンガン酸化物として存在していると考えられ、ゾル−ゲル法等で得られた酸化物誘電膜の結晶粒界に偏析させることを一義とし、リーク電流の流路の遮断効率が高くなる。このとき当該酸化物誘電膜に含ませるマンガン量は0.01mol%〜5.00mol%とすることが好ましい。当該マンガン量が0.01mol%未満の場合には、得られた酸化物誘電膜の結晶粒界へのマンガンの偏析が不十分であり、良好なリーク電流の減少効果が得られない。一方、当該マンガン量が5.00mol%を超える場合には、得られた酸化物誘電膜の結晶粒界へのマンガンの偏析が過剰になり、誘電膜が脆く靱性が失われ、エッチング法で上部電極形状等を加工する際のエッチング液シャワー等により誘電層破壊が起こる等の不具合が生じやすくなるのである。また、マンガン量が過剰となると、以下に述べる製造方法での酸化物結晶組織の成長が抑制される傾向もある。従って、マンガンを、上述の範囲で含む組成を採用することで、キャパシタとしてのリーク電流をより小さくして長寿命化を達成するのである。なお、より好ましくは、当該酸化物誘電膜に含ませるマンガン量は0.25mol%〜1.50mol%である。より確実に酸化物誘電膜の品質を確保するためである。なお、酸化物誘電膜とは、ペロブスカイト構造を持つ誘電膜のことであり、この酸化物誘電膜に酸化マンガン成分が含まれているとの明示の無き限り、酸化マンガンを含まない。
【0041】
また、マンガンが酸化物結晶格子内に置換配置する場合も想定される。一般に酸化物誘電膜は、低酸素分圧下での結晶化により酸素欠損を生じる。このためチタンの価数が4価から3価に還元され、この価数の異なるチタン原子間の電子ホッピングにより絶縁性が低下するとされる。しかし、適切な量のマンガンが、酸化物結晶内に置換固溶した場合、2価ないし3価の原子価配置をとり、酸素欠損を補償することができ、チタンの還元が起こらず絶縁性を向上させる効果が期待できる。
【0042】
また、ゾルーゲル法、MOCVD法、スパッタリング蒸着法のいずれかで形成した酸化物誘電膜を誘電層とした場合のリーク電流は、酸化物誘電膜の結晶粒界及び構造欠陥を経由して流れる可能性が高い。即ち、酸化物誘電膜の組織が微細で、結晶粒界の多い状態でのリーク電流は大きくなる。これに対して、酸化物誘電膜の組織が一定の範囲に粗大化し、結晶粒界の少ない状態でのリーク電流は小さく、高容量の誘電層となる。特に、通常の条件でゾル−ゲル法、MOCVD法、スパッタリング蒸着法のいずれかで形成した酸化物誘電膜に関しては、その結晶組織内の構造欠陥が多く存在し、酸化物誘電膜の組織を一定の範囲に粗大化し、結晶粒界の少ない状態を作り出すことは困難である。そこで、ゾル−ゲル法、MOCVD法、スパッタリング蒸着法のいずれかで形成した酸化物誘電膜に樹脂成分を含浸させリーク電流の流路となる構造欠陥を埋設することが好ましい。
【0043】
この埋設に用いる樹脂成分は、エポキシ系樹脂を主剤として用いた樹脂組成物を用いることが好ましい。中でも、樹脂成分総量に対してエポキシ樹脂40重量%〜70重量%、ポリビニルアセタール樹脂20重量%〜50重量%、メラミン樹脂またはウレタン樹脂0.1重量%〜20重量%を含有し、該エポキシ樹脂の5重量%〜80重量%がゴム変成エポキシ樹脂である樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0044】
ここに用いられるエポキシ樹脂としては、積層板等や電子部品の成型用として市販されているものであれば特に制限なく使用できる。具体的に例示すれば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N−ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミン化合物、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル化合物、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル等の臭素化エポキシ樹脂等がある。これらのエポキシ樹脂は1種又は2種以上を混合して用いることが好ましい。またエポキシ樹脂としての重合度やエポキシ当量は特に限定されない。
【0045】
そして、エポキシ系樹脂の「硬化剤」とは、ジシアンジアミド、有機ヒドラジド、イミダゾール類、芳香族アミン等のアミン類、ビスフェノールA、ブロム化ビスフェノールA等のフェノール類、フェノールノボラック樹脂及びクレゾールノボラック樹脂等のノボラック類、無水フタル酸等の酸無水物等である。また、硬化剤は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。エポキシ樹脂に対する硬化剤の添加量は、それぞれの当量から自ずと導き出されるものであるため、本来厳密にその配合割合を明記する必要性はないものと考える。従って、本件発明では、硬化剤の添加量を特に限定していない。
【0046】
その他、必要に応じて適宜量添加する硬化促進剤がある。この硬化促進剤には、3級アミン、イミダゾール系、尿素系硬化促進剤等を用いることが出来る。本件発明では、この硬化促進剤の配合割合は、特に限定を設けていない。なぜなら、硬化促進剤は、誘電層の製造工程での生産条件等を考慮して、製造者が任意に選択的に添加量を定めて良いものであるからである。
【0047】
この樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂の配合量は、樹脂成分総量の40重量%〜70重量%であることが好ましい。配合量が40重量%未満であれば、電気特性としての絶縁性及び耐熱性が劣化する。一方、70重量%を超えて配合すると、硬化中の樹脂流れが大きくなり過ぎて、誘電層内で樹脂成分の偏在が起こりやすくなる。
【0048】
そして、エポキシ樹脂組成物の一部として、ゴム変成エポキシ樹脂を使用する事が好ましい。このゴム変性エポキシ樹脂は、接着剤用や塗料用として市販されている製品であれば特に制限なく使用できる。具体的に例を挙げれば、“EPICLON TSR−960”(商品名、大日本インキ社製)、“EPOTOHTO YR−102”(商品名、東都化成社製)、“スミエポキシ ESC−500”(商品名、住友化学社製)、“EPOMIK VSR 3531”(商品名、三井石油化学社製)等がある。これらのゴム変成エポキシ樹脂は1種類を単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。ここにおけるゴム変成エポキシ樹脂の配合量は全エポキシ樹脂量の5重量%〜80重量%である。ゴム変成エポキシ樹脂の使用により、誘電層内への樹脂成分の定着を促進する。従って、当該ゴム変成エポキシ樹脂の配合量が5重量%未満の場合には、誘電層内への定着促進効果は得られない。一方、当該ゴム変成エポキシ樹脂の配合量が80重量%を超えるものとすると硬化後の樹脂としての耐熱性が低下する。
【0049】
そして、当該エポキシ樹脂組成物に使用されるポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールとアルデヒド類の反応により合成されるものである。現在、ポリビニルアセタール樹脂として、様々な重合度のポリビニルアルコールと1種又は2種類以上のアルデヒド類の反応物が塗料用や接着剤用として市販されているが、本件発明ではアルデヒド類の種類やアセタール化度には特に制限なく使用できる。また原料ポリビニルアルコールの重合度は特に限定されないが、硬化後の樹脂としての耐熱性や溶剤に対する溶解性を考慮すると、重合度2000〜3500のポリビニルアルコールから合成された製品の使用が望ましい。さらに分子内にカルボキシル基等を導入した変成ポリビニルアセタール樹脂も市販されているが、組み合わされるエポキシ樹脂との相溶性に問題がなければ、特に制限なく使用できる。絶縁層に配合されるポリビニルアセタール樹脂の配合量としては樹脂組成物総量の20重量%〜50重量%である。当該配合量が20重量%未満であれば、樹脂としての流動性を改良する効果が得られない。一方、当該配合量が50重量%を超えると硬化後の絶縁層の吸水率が高くなるので、誘電層の構成材としては極めて好ましくないものとなる。
【0050】
本件発明で用いる樹脂組成物は、上記成分に加えて、前記ポリビニルアセタール樹脂の架橋剤としてメラミン樹脂またはウレタン樹脂を配合させることが好ましい。ここで使用されるメラミン樹脂としては塗料用として市販されているアルキル化メラミン樹脂が使用できる。具体的に例示すると、メチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、iso−ブチル化メラミン樹脂、およびこれらの混合アルキル化メラミン樹脂がある。メラミン樹脂としての分子量やアルキル化度は特に限定されない。
【0051】
当該ウレタン樹脂としては、接着剤用、塗料用として市販されている分子中にイソシアネート基を含有した樹脂が使用できる。具体的に例示するとトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等のポリイソシアネート化合物とトリメチロールプロパンやポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等のポリオール類との反応物がある。これらの化合物は樹脂としての反応性が高く、雰囲気中の水分で重合する場合があるので、本件発明では、この不具合の起きないように、これらの樹脂をフェノール類やオキシム類で安定化したブロックイソシアネートと呼ばれるウレタン樹脂の使用が好ましい。
【0052】
本件発明における樹脂組成物に添加するメラミン樹脂またはウレタン樹脂の配合量は、樹脂組成物総量の0.1重量%〜20重量%である。当該配合量が0.1重量%未満ではポリビニルアセタール樹脂の架橋効果が不十分となり、絶縁層の耐熱性が低下し、20重量%を超えて配合すると、誘電層内での定着性が劣化する。
【0053】
この樹脂組成物には、上記必須成分に加えてタルクや水酸化アルミニウムで代表される無機充填剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤等の添加剤を所望により使用することもできる。これらは誘電層に対する樹脂成分の浸透性を改良し、難燃性向上、コストの低減等に効果がある。
【0054】
以上に述べた樹脂組成物は、誘電層内への含浸が容易となるように、溶剤を用いて固形分量を一定の範囲に制御した、固形分量0.1wt%〜1.0wt%の希薄樹脂ワニスとして用いる。この希薄樹脂ワニスは、スピンコート法を採用して誘電層の表面に塗布して浸透させることが、塗工の均一性を維持する観点から好ましい。
【0055】
また、ゾル−ゲル法により誘電層4を形成しようとする場合、一般的には、以下の(I)〜(III)の工程を経るのが通常である。
【0056】
(I)所望の酸化物誘電膜を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程。(II)前記ゾル−ゲル溶液を基材表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で450℃〜550℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う工程を複数回繰り返し膜厚調整を行う塗工工程。そして、この(II)の工程を、複数回繰り返し、所望の膜厚とする調整を行う。
(III)次に、最終的焼成として550℃〜800℃×5分〜60分の不活性ガス置換雰囲気又は真空中での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。以上の工程を経て、酸化物誘電膜である誘電層を形成する。
【0057】
しかしながら、ゾル−ゲル法を用いるにあたっては、以下の(a)〜(c)の工程を経て酸化物誘電膜を形成することが好ましい。
【0058】
(a)所望の酸化物誘電膜を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程。
(b)前記ゾル−ゲル溶液を金属基材の表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返すにあたり、1単位工程と1単位工程との間に任意に550℃〜800℃×2分〜60分の不活性ガス置換又は真空中での予備焼成処理を設けて膜厚調整を行う塗工工程。
(c)そして、最終的に550℃〜800℃×5分〜60分の不活性ガス置換又は真空中での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。
【0059】
前者のゾル−ゲル法(従来法)を用いた酸化物誘電膜である誘電層の形成は、焼成を行うのが最終段階における1回のみである。これに対して、後者のゾル−ゲル法では、1単位工程の途中に1回以上の予備焼成を設けて、誘電層として用いる酸化物誘電膜を製造するのである。以下、後者のゾル−ゲル法における(a)〜(c)工程に関して説明する。
【0060】
(a)工程: この工程は、所望の酸化物誘電膜を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程である。この工程に関して、特段の制限はなく、市販の調製剤を使用しても、自らが配合しても構わない。結果として、所望の前記酸化物誘電膜として、上記酸化物被膜のいずれか得ることが出来ればよいのである。
【0061】
(b)工程: この工程は、前記ゾル−ゲル溶液を金属基材の表面に塗工し(以下の説明上、単位「塗工」と称する。)、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し(以下の説明上、単位「乾燥」と称する。)、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う(以下の説明上、単位「熱分解」と称する。)一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返すにあたり、1単位工程と1単位工程との間に少なくとも1回以上の550℃〜800℃×2分〜60分の不活性ガス置換又は真空中での予備焼成処理を設けて膜厚調整を行う塗工工程である。
【0062】
即ち、この工程では、塗工→乾燥→熱分解の連続した一連の工程を1単位工程と称している。そして、従来の方法では、単にこの1単位工程を複数回繰り返して、最終的に焼成していた。これに対し、本件発明では、1単位工程を複数回繰り返す途中に、少なくとも1回以上の予備焼成工程を設けるのである。従って、例えば6回の1単位工程を繰り返し行う場合で考えると、1回の予備焼成工程を設けるとすれば1単位工程(1回目)→予備焼成工程→1単位工程(2回目)→1単位工程(3回目)→1単位工程(4回目)→1単位工程(5回目)→1単位工程(6回目)のプロセスを採用する等である。そして、2回の焼成工程を設けるとすれば、1単位工程(1回目)→予備焼成工程→1単位工程(2回目)→1単位工程(3回目)→予備焼成工程→1単位工程(4回目)→1単位工程(5回目)→1単位工程(6回目)のプロセスを採用する等である。更に、全ての1単位工程間に焼成工程を設けるとすれば、1単位工程(1回目)→予備焼成工程→1単位工程(2回目)→予備焼成工程→1単位工程(3回目)→予備焼成工程→1単位工程(4回目)→予備焼成工程→1単位工程(5回目)→予備焼成工程→1単位工程(6回目)のプロセスを採用することになる。
【0063】
従来のゾル−ゲル法で得られた酸化物誘電膜の結晶状態は、誘電層の断面を、集束イオンビーム加工し、透過型電子顕微鏡で1000000倍で観察したときの観察像から、微細な結晶粒が存在し、結晶粒内に多数のボイドが確認出来る。これはゾル−ゲル液に含まれる有機成分が、焼成時に蒸発気散するためであると考えられる。このような状態で、ウェットエッチングを行うと、エッチング液が誘電層に浸透しやすい。従って、上部電極をエッチングによりパターニングするとき、誘電層を透過したエッチング液により基板(下部電極の構成材)が浸食され、その浸食部位の誘電膜が欠落し、無くなる。これに対して、この(b)工程を採用することにより、酸化物誘電膜の組織が、膜密度が高く緻密で、結晶粒内の構造欠陥の少ない状態になる。従って、上述のように上部電極をウェットエッチング法でパターニングしても、誘電層に対するエッチング液の浸透が起こりにくい為、上部電極をエッチングによりパターニングした後の誘電膜が露出する予定の部位に誘電膜が確実に観察され、基板(下部電極の構成材)のエッチング溶出が防止出来る。この結果、リーク電流は小さく、高容量の誘電層を備えるキャパシタ回路が得られる。
【0064】
ここで、1単位工程の塗工に関して述べる。ゾル−ゲル溶液を金属基材の表面に塗工する際の塗工手段に関しては、特に限定を要さない。しかしながら、膜厚の均一性及びゾル−ゲル溶液の特質等を考慮する限り、スピンコータを用いることが好ましい。
【0065】
次に、1単位工程の乾燥に関して述べる。ゾル−ゲル溶液の塗工が完了すると、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う。このときの乾燥条件は、120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で行われ、この条件を外れると、乾燥が不十分で後の熱分解後の誘電膜表面に粗れが生じたり、乾燥が過剰になると、後の熱分解反応が不均一になり得られる誘電膜の場所的な品質バラツキを生じやすくなる。この乾燥及び熱分解を行うときには、酸素含有雰囲気で行う。即ち、還元雰囲気で行うと有機物の分解が促進されない。
【0066】
更に、1単位工程の熱分解に関して述べる。上記乾燥が終了すると、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う。ここで、採用した熱分解温度が極めて特徴的である。従来の熱分解温度には450℃〜550℃の温度範囲が採用されてきた。これに対し、本件発明に係る製造方法では、金属基材の余分な酸化を防止するため270℃〜390℃という低温域での熱分解温度を採用しているのである。ここで熱分解温度を270℃未満とすると、いかに長時間の加熱を続けても良好な熱分解が起こりにくく、生産性に欠けると共に、良好なキャパシタ特性が得られない。一方、誘電膜は、金属基材の表面上に形成するものであり、390℃を超える加熱を行うと、誘電膜と金属基材との界面に於いて、金属基材の表面の酸化が顕著に見られるようになる。しかしながら、大量生産を行う上での工程のバラツキと品質の安全性を考慮すると、それ以下の温度である370℃程度を上限とする事が好ましい。そして、加熱時間は、採用する分解温度とゾル−ゲル溶液の性状によって決められるものであるが、上記の加熱温度範囲を採用することを前提に、5分未満の加熱では十分な熱分解が行えない。また、加熱時間が30分を超えると、上記温度範囲でも金属基材表面の酸化が進行するのである。
【0067】
そして、上述した1単位工程と1単位工程との間に設ける予備焼成工程は、550℃〜800℃×2分〜60分の不活性ガス置換又は真空中での焼成処理を行う。この条件は、以下に述べる(c)工程とほぼ同様であるため、その説明で数値の臨界的意義等を述べることとする。
【0068】
(c)工程: この工程は、最終的に550℃〜800℃×5分〜60分の不活性ガス置換又は真空中での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程である。この焼成工程が所謂本焼成工程であり、この焼成を経て、最終的な誘電層となる。この焼成工程では、金属材である基材の酸化劣化を防止するため、不活性ガス置換雰囲気又は真空中で加熱を行う。このときの加熱温度には、550℃〜800℃×5分〜60分の条件を採用する。この温度条件未満の加熱では、焼成が困難であり、基材との密着性に優れ、適正な緻密さと適度な粒度の結晶組織を備える誘電膜が得られないのである。そして、この温度条件を超える過剰の加熱を行うと、誘電膜の劣化及び基材の物理的強度の劣化が進行し、キャパシタ特性である高い電気容量及び長寿命化が図れなくなる。
【0069】
また、以上のゾル−ゲル法のような高温プロセスを忌避したい場合には、エアロゾルデポジション法を用いて誘電層を形成する事が好ましい。このエアロゾルデポジション法は、誘電材料として用いることの出来るPZT、BiZrO等の無機酸化物であり、且つ、0.02μm〜2.0μm径の微粒子をガスと混合してエアロゾル化して、50〜1kPa程度の減圧雰囲気中でノズル(開口径1mm以下)を通して、被膜形成位置に数100m/secまで加速した噴射速度で粒子粒を下部電極形成層3に衝突させ誘電層4を形成する方法であり、良好な膜密度及び密着性が得られ、且つ、誘電層として優れた絶縁性を示すという特徴がある。また、エアロゾルデポジション法に関する重複記載を避けるため、下部電極形成層及び上部電極形成層を当該手法で形成する場合に関しても併記しておく。即ち、エアロゾルデポジション法で用いる原料に、所定の金属材料として0.02μm〜2.0μm径の微粒子の銅粉、ニッケル粉、ニッケル合金粉、金粉等を用いることで、下部電極形成層及び上部電極形成層の形成が可能となる。
【0070】
以上のようにして、下部電極形成層3の表面に誘電層4が形成されると、当該誘電層4の表面に金属箔を張り合わせるか、メッキ(無電解メッキ含む)等の電気化学的手法、スパッタリング蒸着法、エアロゾルデポジション法等を用いて、上部電極形成層5を設けるのである。そして、このときの上部電極形成層5の厚さは、製品仕様に応じて変更されるのであり、特段の限定は要しない。通常は、1.5μm〜5μm程度である。
【0071】
キャパシタ回路形成層の製造方法II: また、本件発明に係るキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法において、前記ラミネート工程における基材の表面への3層構造のキャパシタ回路形成層(下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層)の形成は、図4(B)に示すように、基材2表面に下部電極形成層3を形成し、その下部電極形成層3の表面に誘電層4を形成し、更に上部電極形成層5を形成する方法(以下、「順次積層法」と称する。)を採用することも好ましい。即ち、このような順次積層法を用いると、キャパシタ回路形成層の製造方法Iの場合のキャパシタ回路形成材では達成出来無いような、薄いキャパシタ回路形成層の形成が可能となる。以下、工程を追って説明する。
【0072】
「基材」に関する概念は、上記キャパシタ回路形成層の製造方法Iの場合と同様である。従って、基材表面への下部電極形成層3の形成に関して説明する。基材表面への下部電極形成層3の形成方法の一つとして、基材と金属箔とを張り合わせて得られるものを用いることが出来る。係る場合、基材と金属箔との界面に接着剤層を設けても良い。また、フレキシブル基材としてポリイミド樹脂フィルム又はテープを用いる場合には、銅箔表面にポリイミド樹脂をキャスティングして得られるものを用いることができる。これらに関しては、公知の技術により一般的に広く用いられているため、製造方法に関する詳細な説明は省略する。更に、ポリイミド樹脂表面にエアロゾルデポジション法を用いて下部電極形成層3となる金属層を形成する事も可能である。
【0073】
また、基材上にスパッタリング蒸着法又はダイレクトメタライゼーション法で銅、ニッケル、コバルト若しくはこれらの合金のいずれかからなるシード層を設け、その後電解法で銅、ニッケル、ニッケル合金のいずれかを析出成長させて得られるものを用いることも好ましい。基材との密着性に優れ、膜厚の制御が容易だからである。特に、後者のダイレクトメタライゼーション法は、ポリイミド樹脂基材を用いる場合に有用である。
【0074】
基材上にスパッタリング蒸着法で銅、ニッケル、コバルト若しくはこれらの合金のいずれかからなるシード層を設ける場合には、基材の表面をプラズマ処理する等の密着性向上処理を施し、銅、ニッケル、コバルト若しくはこれらの合金のいずれかからなるスパッタリングターゲットにアルゴンイオン等を照射して、たたき出した粒子を基材表面に着地させ、0.1μm〜1μm厚さの前記シード層を形成する。
【0075】
一方、ダイレクトメタライゼーション法を用いる場合には、基材としてポリイミド樹脂フィルム又はテープ(以下、「ポリイミド樹脂フィルム等」と称する。)を用い、シード層を形成する領域を、水酸化カリウム溶液又は水酸化ナトリウム溶液でアルカリ処理してイミド環を開環処理し表面にカルボキシル基を形成する。このアルカリ処理は、アルカリ溶液中にポリイミド樹脂フィルムを浸漬するか、ポリイミド樹脂フィルムの表面にアルカリ溶液をスプレーすることによる等の手法で行われる。開環処理の不要な面は、予め耐水性フィルムで被覆しておくと、以下に述べるダイレクトメタライゼーションプロセスで溶液に晒される場合でも、被覆した面からの吸水、吸湿を防止して、より安定して高い加熱後引き剥がし強度を備えることになる。
【0076】
上記開環処理したポリイミド樹脂フィルム等は、水洗して中和工程に入る。開環してカルボキシル基を形成し、強アルカリ化したポリイミド樹脂表面を、酸溶液を用いて中和するのである。ここで中和に用いる溶液には、塩酸を用いることが好ましい。その後、中和したカルボキシル基と金属イオン含有溶液とを接触させ金属成分を吸着させることでカルボキシル金属塩をポリイミド樹脂フィルム等の表面に形成し、水洗した後に、ポリイミド樹脂フィルム表面に形成したカルボキシル金属塩を還元剤として水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸、ジメチルアミン等を用いて還元して、ポリイミド樹脂フィルム等の表面に金属膜を形成するのである。そして、この吸着還元工程を複数回繰り返して、10nm〜80nmのアモルファス金属膜と、同時に金属粒子とポリイミド樹脂とが混在し平均厚さが50nm〜180nmの混合層との二層ができる。
【0077】
そして、この2層の上に、平均厚さが50nm〜700nmの銅、ニッケル、コバルト若しくはこれらの合金のいずれかの薄膜を形成し、シード層が完成する。この薄膜の形成には、以下のようなメッキ液を用いた電解法を採用することが好ましい。
【0078】
銅薄膜を形成する場合は、硫酸銅系溶液、ピロ燐酸銅系溶液等の銅イオン供給源として使用可能な溶液を用い、特に限定されるものではない。例えば、硫酸銅系溶液であれば、濃度が銅30g/l〜100g/l、硫酸50g/l〜200g/lの溶液を用いて、液温30℃〜80℃、電流密度1A/dm〜100A/dmの条件とする。ピロ燐酸銅系溶液であれば、濃度が銅10g/l〜50g/l、ピロ燐酸カリウム100g/l〜700g/lの溶液を用いて、液温30℃〜60℃、pH8〜pH12、電流密度1A/dm〜10A/dmの条件とする等である。
【0079】
純ニッケル系薄膜を形成する場合は、ニッケルメッキ液として用いられる溶液を広く使用することが可能である。例えば、i)硫酸ニッケル240g/l、塩化ニッケル45g/l、ホウ酸30g/l、液温55℃、pH5、電流密度0.2A/dmのワット浴条件、ii)スルファミン酸ニッケル400g/l、ホウ酸30g/l、液温55℃、pH4.5、電流密度0.2A/dmのスルファミン酸浴条件、iii)硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が5g/l〜30g/l、ピロリン酸カリウム50g/l〜500g/l、液温20℃〜50℃、pH8〜pH11、電流密度0.2A/dm〜10A/dmの条件とする等である。なお、純ニッケル薄膜とは、意図的な合金元素を添加していないという意味で用いたものであり、不可避的な不純物を除外した完全な100%純度と言う意味で用いたものでないことを明らかにしておく。
【0080】
亜鉛−ニッケル合金薄膜を形成する場合は、例えば、硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が1g/l〜2.5g/l、ピロリン酸亜鉛を用いて亜鉛濃度が0.1g/l〜1g/l、ピロリン酸カリウム50g/l〜500g/l、液温20℃〜50℃、pH8〜pH11、電流密度0.2A/dm〜10A/dmの条件等を採用するのである。
【0081】
ニッケル−コバルト合金薄膜を形成する場合は、例えば、硫酸コバルト80g/l〜180g/l、硫酸ニッケル80g/l〜120g/l、ホウ酸20g/l〜40g/l、塩化カリウム10g/l〜15g/l、リン酸2水素ナトリウム0.1g/l〜15g/l、液温30℃〜50℃、pH3.5〜pH4.5、電流密度0.2A/dm〜10A/dmの条件等を採用するのである。
【0082】
また、リン酸系溶液を用いることで、ニッケル−リン合金メッキとすることも可能である。この場合、硫酸ニッケル120g/l〜180g/l、塩化ニッケル35g/l〜55g/l、HPO30g/l〜50g/l、HPO20g/l〜40g/l、液温70℃〜95℃、pH0.5〜pH1.5、電流密度0.2A/dm〜10A/dmの条件等を採用するのである。
【0083】
そして、以上のようにしてスパッタリング蒸着法又はダイレクトメタライゼーション法で形成したシード層の表面上に電気化学的手法を用いて回路を形成するための銅層を形成する。ここで「電気化学的手法を用いて」としているのは、イオン化傾向の差を利用した無電解銅メッキでも、電解銅メッキでも、無電解銅メッキと電解銅メッキとを組み合わせて行う場合でも良いことを意味しており、結果として所望に金属成分を析出させ、成長させ厚さを増し下部電極形成層として機能しうる状態にすることを意味している。ここで用いる無電解銅メッキ浴、電解銅メッキ浴の組成、その他のメッキ条件に関しては、特に限定は要さない。任意の条件を選択使用すればよいのである。この段階で下部電極形成層3が基材2の表面に形成されたことになる。
【0084】
次に、下部電極形成層3の表面に誘電層4を形成する。しかし、下部電極形成層3が既に有機材表面に形成されているのであるから、ゾル−ゲル法のような高温プロセスを必要とする誘電層の形成方法は採用し得ず、低温で製造出来るプロセスを採用することが好ましい。即ち、下部電極形成層3の表面に、誘電体粉末を含有した樹脂を塗布する塗工法、スパッタリング蒸着法、エアロゾルデポジション法等の低温で誘電層を形成出来る手法を採用する。ここで言う誘電層とは、上述と同様であり、誘電材料として用いることの出来るペロブスカイト構造を備えるPZT、BiZrO等の無機酸化物層のことである。また、ここで言うエアロゾルデポジション法も、上述と同様である。
【0085】
そして、更に、その誘電層4上にメッキ(無電解メッキ含む)等の電気化学的手法、スパッタリング蒸着法、エアロゾルデポジション法等を用いて上部電極形成層5を形成し、基材表面にキャパシタ回路形成層(下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層)が完成するのである。なお、上部電極形成層5を構成する素材及び厚さに関する概念は、上述のとおりである。
【0086】
工程B: この第1エッチングレジストパターン形成工程は、図1(b)に示すように、外層に位置する前記上部電極形成層5にエッチングレジスト層を形成し、上部電極形状を形成するための第1エッチングレジストパターン8を形成する。このときのエッチングレジスト層には、液体レジスト、ドライフィルム等を用いることが好ましい。上部電極形成層5にエッチングレジスト層を形成すると、露光、現像して、第1エッチングレジストパターン8を形成する。特に、後述する第1誘電層除去工程を考えると、厚さ10μm以上のドライフィルムを用いることが好ましい。ブラスト粒子のクッション材として効果的だからである。
【0087】
工程C: この上部電極形成工程では、第1エッチングレジストパターンを形成した後、上部電極形成層5をエッチング加工して、図1(c)に示すように、上部電極回路9及びその他の回路部(図1(c)では省略している。)以外の領域の誘電層4を露出させる。このときのエッチング加工には、エッチング液を用いて不要部位を溶解させるウエットエッチングの使用が可能である。
【0088】
工程D: この第1誘電層除去工程では、前記上部電極回路9及びその他の回路部の表面にエッチングレジストパターン8を残留させたまま、図2(d)に示すように、露出した誘電層4を物理的に除去するが、この段階で誘電層を完全に除去するまでの処理は必要ない。以下に述べる物理的手法で、誘電層を完全に除去しようとすると、上部電極回路表面にエッチングレジスト層が存在しても、上部電極回路9の表面が損傷を受けやすくなるからである。従って、誘電層4の内部にクラック等の欠陥を導入し、誘電層の大部分が残る程度が好ましい。ここで、誘電層を物理的に除去するには、2つの方法がある。一つはバフ研磨を用いる方法、もう一方はブラスト処理(特に、ウエットブラスト処理)を用いるのが好ましい。
【0089】
誘電層の除去に用いるバフ研磨とは、#600以上のきめの細かいバフを用いて行うことが好ましい。#600よりも粗いバフを用いると、上部電極回路等の突出部が引っかかり損傷を受けるため、回路品質が維持出来なくなる。このようにバフ研磨を用いることで、誘電層4の内部にクラック等の欠陥を容易に導入することができる。そして、バフ研磨を用いれば、上部電極回路の端部は何ら損傷を受けず、上部電極回路と下部電極形成層との短絡は起こらず、後述する上部電極調整工程は、ほぼ不要となる。更に、バフ研磨時のバフの押し圧は、誘電層4の大部分が残る程度で構わないのであるから、極めて軽いもので構わない。なお、バフ研磨を選択する場合には、エッチングレジスト層は残留させても、させなくても構わない。但し、事後的に行う第2誘電層除去工程でエッチングレジスト層が必要となる。
【0090】
誘電層の除去に用いるブラスト処理とは、ドライブラスト処理及びウエットブラスト処理の双方を意図している。しかしながら、ブラスト処理を行った後の研磨面の仕上がり状況及び回路面の損傷の軽減化を考慮すると、ウエットブラスト処理を採用することが好ましい。このウエットブラスト処理とは、微粒粉体である研磨剤を水に分散させたスラリー状の研磨液を、高速水流として被研磨面に衝突させ、微細領域の研磨を可能としたものである。このウエットブラスト処理は、ドライな環境で行うブラスト処理に比べて極めて緻密で損傷の少ない研磨が可能という点で特徴を有する。このウエットブラスト処理を用いて、回路間ギャップ等に露出した誘電層を研磨して除去することで、不要な誘電層の除去を行うのである。ブラスト処理では、研磨剤の衝突による回路部の損傷を防止するため、上部電極表面にエッチングレジスト層が存在する状態で行うことが好ましい。即ち、上部電極回路9のエッチングが終了した後、エッチングレジストパターン8を剥離しないまま用いて、ブラスト処理を行うのである。このようにすれば、エッチングレジスト層が衝突するブラスト粒子の緩衝層となり回路の損傷を軽減出来るのである。
【0091】
また、上記のようにして誘電層4を物理的に除去すると、上部電極回路9の表面にあるエッチングレジストパターン8(エッチングレジスト層)が損傷を受ける場合がある。このような場合には、次工程である第2誘電層除去工程の存在及び以下に述べる上部電極調整工程を設ける場合があることを考え、再度上部電極回路9の表面にエッチングレジスト層を設ける工程を付加することが好ましい。
【0092】
更に、上述のような誘電層の除去が終了すると、特にブラスト処理を用いた場合、上部電極回路の端部の誘電体が損傷を受け、上部電極回路の端部と下部電極形成層とが短絡しやすくなっている。そこで、上部電極面積が狭くなるが、上部電極回路の周囲の僅かの領域をエッチング除去して、短絡部位を除去する上部電極調整工程を設ける事が好ましい。このときのエッチングには、スパッタリングのような乾式エッチングを使用することも可能であるが、感光性エッチングレジスト層を形成し、エッチング液を用いた加工が好ましい。また、この上部電極調整工程は、以下に述べる下部電極のエッチングと同時に行うことも可能である。
【0093】
工程E: この第2誘電層除去工程では、前記第1誘電層除去工程により、前記上部電極回路及びその他の回路部以外の領域の露出した誘電層を物理的に除去してもなお残留する誘電層をエッチング除去し、図2(e)の状態とする。このときのエッチングには、下部電極形成層3を溶解することの出来るエッチング液を用いて、当該エッチング液を第1誘電層除去工程で誘電層4の内部に導入したクラック等の欠陥から浸透させ、下部電極形成層3の表面を僅かに溶解させ、残留する誘電層をエッチング除去する。従って、このエッチングは、極めて軽いエッチングとなる。
【0094】
工程F: この第1エッチングレジスト層剥離工程では、前記上部電極回路9及びその他の回路部の表面に残留させたエッチングレジスト層8を剥離し、図2(f)の状態とする。剥離方法に関しては、通常アルカリ溶液を用いて、エッチングレジスト成分を膨潤させ剥離する。
【0095】
工程G: この第2エッチングレジストパターン形成工程では、下部電極回路形状を形成するためのエッチングレジスト層を形成し、露光、現像して、図3(g)に示すような第2エッチングレジストパターン10を形成する。このときの第2エッチングレジストパターン10は、誘電層の物理除去の緩衝材として機能する必要がないため、厚さ、種類等に関する特段の限定はない。
【0096】
工程H: この第2エッチング工程では、第2エッチングレジストパターン10を形成した後、エッチング加工して、下部電極回路11を形成し、当該第2エッチングレジストパターン10を剥離して、キャパシタ回路を備えるプリント配線板1とする。このときのエッチングには、上部電極回路の形成と同様の公知のエッチング法、フォトリソグラフィック法、スパッタリング法等を使用してパターニングすることが可能であるが、エッチング液を用いた加工が経済的観点から好ましい。
【0097】
<キャパシタ回路を備えるプリント配線板>
以上のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法により得られるプリント配線板は、余分な部位に誘電層が無く、しかも、誘電層を除去した部位に残留誘電体が無いため、高品質のプリント配線板となる。なお、本件発明に言うプリント配線板とは、ガラス−エポキシ基材、ガラス−ポリイミド基材等のリジッド基板、ポリイミド樹脂フィルム、PETフィルム等を基材としたフレキシブル基板、そして、ポリイミド樹脂テープ、PETテープ等をフィルムキャリアテープとしたTAB、COF製品の全てを含む概念として記載している。
【0098】
<内蔵キャパシタ回路を備える多層プリント配線板>
本件発明に係るキャパシタ回路を備えるプリント配線板を、通常の多層プリント配線板製造プロセスの中で、内層コア材として用いる等で、キャパシタ回路を形成したと同一面内又は隣接平面内に信号回路を形成しても、高周波シグナル信号の伝送に障害となる寄生容量が小さく、インダクタ等の他の回路素子を埋め込むことも可能となり、回路設計の制約条件を大幅に緩和し、高品質の内蔵キャパシタ回路を備える多層プリント配線板が得られる。この多層プリント配線板の製造方法にあっては、公知の方法の全てを使用することが可能であり、特段の説明は要さないものと考える。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本件発明に係るキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法は、上部電極回路形状等に損傷を与えることなく、不要部位の誘電層の除去が確実に行える。しかも、その製造方法は、基本的に従来あるプリント配線板製造プロセスを基本としたものであり、大きな設備投資を要するものではない。そして、その製造方法で得られるキャパシタ回路を備えるプリント配線板は、不要部位の誘電層の除去が施されており、種々の使用方法が可能な高品質の製品となる。特に、当該プリント配線板を、多層プリント配線板の内層コア材として用いると、キャパシタ回路を形成したと同一面内又は隣接平面内に信号回路を形成しても、高周波シグナル信号の伝送に障害となる寄生容量が小さく、インダクタ等の他の回路素子を埋め込むことも可能となり、回路設計の制約条件を大幅に緩和することが可能となるのである。従って、多層プリント配線板の薄層化、小型化に大きく寄与出来るものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造フローを表す断面模式図。
【図2】キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造フローを表す断面模式図。
【図3】キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造フローを表す断面模式図。
【図4】キャパシタ層形成材の製造フローを表す断面模式図。
【図5】キャパシタ回路を内蔵する多層プリント配線板の製造フローを表す模式図(従来法)。
【図6】キャパシタ回路を内蔵する多層プリント配線板の製造フローを表す模式図(従来法)。
【図7】キャパシタ回路を内蔵する多層プリント配線板の製造フローを表す模式図(従来法)。
【符号の説明】
【0101】
1 キャパシタ回路を備えるプリント配線板1
2 基材
3 下部電極形成層
4 誘電層
5 上部電極形成層
6 キャパシタ層形成材
7 接着剤層
8 第1エッチングレジストパターン(エッチングレジスト層)
9 上部電極回路
10 第2エッチングレジストパターン(エッチングレジスト層)
11 下部電極回路
20 内層コア材
21 プリプレグ
22 金属箔
23 外層回路
24 メッキ層
25 ビアホール
30 内蔵キャパシタ回路を備えた多層プリント配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法であって、
以下の工程A〜工程Hを備えることを特徴としたキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法。
工程A: 基材の表面に下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層の3層構造のキャパシタ回路形成層を設けるラミネート工程。
工程B: 外層に位置する前記上部電極形成層にエッチングレジスト層を形成し、第1エッチングレジストパターンを形成する第1エッチングレジストパターン形成工程。
工程C: 第1エッチングレジストパターンを形成した後、エッチング加工して、上部電極回路及びその他の回路部以外の領域の誘電層を露出させる上部電極形成工程。
工程D: 前記上部電極回路及びその他の回路部の表面にエッチングレジスト層を残留させたまま、露出した誘電層を物理的に除去する第1誘電層除去工程。
工程E: 前記第1誘電層除去工程により、前記上部電極回路及びその他の回路部以外の領域の露出した誘電層を物理的に除去してもなお残留する誘電層をエッチング除去する第2誘電層除去工程。
工程F: 前記上部電極回路及びその他の回路部の表面に残留させたエッチングレジスト層を剥離する第1エッチングレジスト層剥離工程。
工程G: 下部電極形状を形成するためのエッチングレジスト層を形成し、第2エッチングレジストパターンを形成する第2エッチングレジストパターン形成工程。
工程H: 第2エッチングレジストパターンを形成した後、エッチング加工して、下部電極回路を形成し、キャパシタ回路を備えるプリント配線板とする第2エッチング工程。
【請求項2】
前記ラミネート工程における基材の表面への3層構造のキャパシタ回路形成層(下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層)の形成は、
基材に3層構造(下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層)を備えるキャパシタ層形成材の下部電極形成層を張り合わせるものである請求項1に記載のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
前記ラミネート工程における基材の表面への3層構造のキャパシタ回路形成層(下部電極形成層/誘電層/上部電極形成層)の形成は、
基材表面に下部電極形成層を形成し、その下部電極形成層の表面に誘電層を形成し、更に上部電極形成層形成するものである請求項1に記載のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
前記下部電極形成層は、ポリイミド樹脂にエアロゾルデポジション法で金属層を形成し得られるものである請求項3に記載のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記下部電極形成層は、基材上にスパッタリング蒸着法で銅、ニッケル、コバルト若しくはこれらの合金のいずれからなるシード層を設け、その後電解法で銅、ニッケル、ニッケル合金のいずれかを析出成長させて得られるものである請求項3に記載のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法。
【請求項6】
前記下部電極形成層は、ポリイミド樹脂製の基材上にダイレクトメタライゼーション法で銅、ニッケル、コバルト若しくはこれらの合金のいずれからなるシード層を設け、その後電解法で銅、ニッケル、ニッケル合金のいずれかを析出成長させて得られるものである請求項3に記載のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法。
【請求項7】
前記下部電極形成層は、基材材料であるポリイミド樹脂を金属箔表面にキャスティングして基材表面に下部電極形成層のある状態として得られるものである請求項3に記載のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法。
【請求項8】
前記誘電層は、スパッタリング蒸着法又はエアロゾルデポジション法のいずれかの方法を用いることを特徴とする請求項3〜請求項7のいずれかに記載のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法。
【請求項9】
前記上部電極形成層は、スパッタリング蒸着法又はエアロゾルデポジション法のいずれかの方法を用いることを特徴とする請求項3〜請求項8のいずれかに記載のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれかに記載のキャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法により得られるプリント配線板。
【請求項11】
請求項10に記載のプリント配線板を用いて得られる内蔵キャパシタ回路を備える多層プリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−339296(P2006−339296A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160278(P2005−160278)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】