説明

キースイッチ装置及びキーボード

【課題】スタビライザー部材を有するキースイッチ装置において、スイッチ操作の低背化及び高ストローク化の双方を実現する構成を備えたキースイッチ装置、さらにそのようなキースイッチ装置を複数備えたキーボードの提供。
【解決手段】キートップ14がストローク下限位置にあるときは、短辺部分46の第1部分46bはメンブレンスイッチシート22の上にその面方向と平行に延在し、一方短辺部分46の第2部分46cは、ベース側係合部分50がベース12のスタビライザー係合部52に上下方向のがたつきなく係合するように、屈曲部分46aから第1部分46bとは異なる方向に延び、メンブレンスイッチシート22の厚み分のストロークが確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打鍵操作されるキースイッチ装置に関し、特には電子機器の入力装置であるキーボードで使用されるキースイッチ装置に関する。本発明はさらに、そのようなキースイッチ装置を複数備えたキーボードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノート型パーソナルコンピュータ等の携帯用電子機器の分野では、機器の携帯性を向上させるために、キーボードを含む機器筺体の薄型化(低背化)を実現するための様々な技術が提案されている。特に、打鍵操作される複数のキースイッチ装置を備えたキーボードを薄型化する際には、一定水準以上の操作性を確保するためにキースイッチ装置のストローク量を所定量に維持しつつ、キースイッチ装置の非操作時及び押し下げ操作時の全高を低減することが望まれている。
【0003】
この種の低背型キーボードに使用可能なキースイッチ装置として、例えば特許文献1は、ベースと、ベース上に配置されるキートップと、互いに連動してキートップをベース上で昇降方向に案内支持する一対のリンク部材と、キートップの昇降動作に応じて電気回路の接点を開閉するシート状のスイッチ(本明細書ではメンブレンスイッチシートと称する)とを備えたキースイッチ装置を開示する。ここでは、一対のリンク部材はいわゆるギヤリンク形式のものであり、側面視逆V字状に組み合わされて、それらの一端で互いに歯車状に噛み合うとともにキートップに回動可能に支持され、かつ他端でベースに摺動可能に係合する。
【0004】
また特許文献2には、側面視がV字状のギヤリンク形式のリンク部材と、一対のリンク部材のそれぞれの回動軸部を回動可能に受容して支持する軸受部を有するフレーム部材とを備えたキースイッチ装置が開示されている。さらに特許文献3には、リンク部材がパンタグラフ形式となっているキースイッチが開示されている。
【0005】
キートップは、これらのリンク部材がそれぞれの一端を中心に互いに連動して反対方向へ揺動するとともに、それぞれの他端がベースに沿って略水平方向へ摺動することにより、ベースに対して略鉛直方向に所定の姿勢を維持しつつ平行移動できる。
【0006】
また、キートップのサイズが大きい場合には、上述のリンク機構だけではキートップの安定性が欠け、例えば該キートップの端を押した際にキーが傾いた状態で動作してしまうことがある。そこで、これを防止するためにスタビライザーと呼ばれる部材がキートップとベース部材とを連結するように配置されることがある。例えば特許文献4には、キートップ11の先端11b下部に上端が回動自在に軸着され、下端が基板側回動支点18a、18aに軸支されるスタビライザー12を設けたキースイッチ10が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−3628号公報
【特許文献2】特開2009−73621号公報
【特許文献3】実開平5−66832号公報
【特許文献4】特開2005−93129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年のキースイッチ装置では、キースイッチ装置が設けられるキーボード等の薄型化のために、無負荷時でのキートップの高さはできるだけ低くすること(低背化)が望まれる一方、一定水準の操作性を確保するためにキートップのストロークは所定量以上であること(高ストローク化)が望まれる。この低背化及び高ストローク化の双方を実現するために、キートップが最も押し下げられたときにリンク部材やスタビライザー部材をいかにして該キートップの厚み内に収容するかが課題となる。特にスタビライザー部材は、ベース部材とキートップとの間に設けられるメンブレンシートと干渉し、十分なストローク量が得られない場合がある。
【0009】
そこで本発明は、スタビライザー部材を有するキースイッチ装置において、スイッチ操作の低背化及び高ストローク化の双方を実現する構成を備えたキースイッチ装置、さらにそのようなキースイッチ装置を複数備えたキーボードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ベースと、該ベースの上方に配置されるキートップと、互いに連動して該キートップを該ベースの上方で昇降方向へ案内支持する一対のリンク部材と、該キートップの昇降動作に対応して電気回路の接点部を開閉するスイッチ機構とを具備し、該一対のリンク部材の各々は、前記ベース及び前記キートップのいずれか一方に摺動自在に連結される摺動部を有するとともに、該摺動部の連結相手である該ベース又はキートップが、該摺動部に摺動自在に係合する摺動係合部を有する、キースイッチ装置であって、前記キートップに回動可能に軸支されるとともに前記ベースに回動可能かつ摺動可能に係合し、前記キートップを略水平な姿勢に維持しつつ上下動させるための補助となるスタビライザー部材をさらに有し、前記スタビライザー部材は、前記キートップ側から直線状に延びる第1部分と、該第1部分の反キートップ側の端部に一端が接続されるとともに該第1部分とは異なる方向に延びる第2部分とを有し、前記第1部分は、前記キートップが下限位置まで押下されたときに、前記ベースの上面に配置された前記スイッチ機構のメンブレンスイッチシートの面に対して平行に延びるように構成され、前記キートップが下限位置まで押下されたときに、前記第2部分の反キートップ側端部が、前記キートップの昇降方向について前記第1部分の反キートップ側端部から最大前記メンブレンスイッチシートの厚み分だけ下向きに変位する、キースイッチ装置を提供する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のキースイッチ装置において、前記キートップが下限位置まで押下されたときに、前記第2部分の反キートップ側端部が、前記キートップの昇降方向について前記第1部分の反キートップ側端部から前記メンブレンスイッチシートの厚みに等しい距離だけ下向きに変位する、キースイッチ装置を提供する。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のキースイッチ装置において、前記メンブレンスイッチシートは、前記キートップが下限位置に位置したときに、前記スタビライザー部材が前記メンブレンスイッチシートに干渉しないように形成された逃がし穴を有する、キースイッチ装置を提供する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のキースイッチ装置において、前記メンブレンスイッチシートは、前記キートップが下限位置に位置したときに、前記キートップに形成され前記スタビライザー部材を回動可能に支持するスタビライザー軸支部が前記メンブレンスイッチシートに干渉しないように形成された逃がし穴をさらに有する、キースイッチ装置を提供する。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のキースイッチ装置において、前記ベースは、前記スタビライザー部材の前記第2部分の他端に接続されたベース側係合部分が前記ベースに対して回動可能かつ摺動可能となるように該ベース側係合部分に係合するスタビライザー係合部を有し、該スタビライザー係合部は前記ベースを構成する金属板の絞り加工により、前記ベースの上面側に凸となりかつ少なくとも前記ベースに対する前記ベース側係合部分の摺動範囲内において、前記ベースの上面と平行かつ平坦な部分を有する、キースイッチ装置を提供する。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のキースイッチ装置において、前記ベースは、前記スタビライザー部材の前記第2部分の他端に接続されたベース側係合部分が前記ベースに対して回動可能かつ摺動可能となるように該ベース側係合部分に係合するスタビライザー係合部を有し、該スタビライザー係合部は前記ベースを構成する金属板の切断及び曲げ加工により、前記ベースの上面側に凸となりかつ少なくとも前記ベースに対する前記ベース側係合部分の摺動範囲内において、前記ベースの上面と平行かつ平坦な部分を有する、キースイッチ装置を提供する。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のキースイッチ装置を複数備えたキーボードを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、打鍵操作されるキートップを案内支持するリンク部材及びスタビライザー部材を有するキースイッチ装置において、構成部材の製造に際し特殊な処理や不都合な負荷をかけることなく、キースイッチ装置の低背化及び高ストローク化を実現することができる。
【0018】
メンブレンスイッチシートに逃がし穴を設けることにより、キートップの、メンブレンスイッチシートの厚み分のストロークをさらに確保することができる。
【0019】
ベースのスタビライザー係合部を絞り加工又は切断(切除)・曲げ加工により形成することにより、スタビライザー係合部の天面部の厚みをベースを構成する金属板の厚みと同等にでき、キースイッチ装置のさらなる薄型化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るキースイッチ装置の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1のキースイッチ装置のフレーム部材及びリンク部材を示す斜視図である。
【図3】図1のキースイッチ装置のキートップ及びスタビライザー部材を示す斜視図である。
【図4】スタビライザー部材の上面図及び側面図である。
【図5】(a)キートップが上限位置にあるときの各部材の位置関係を示す側断面図であり、(b)キートップが下限位置にあるときの各部材の位置関係を示す側断面図である。
【図6】ベース部材のスタビライザー係合部の一構成例を示す三面図である。
【図7】ベース部材のスタビライザー係合部の他の構成例を示す三面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の好適な実施形態に係るキースイッチ装置10の構成例を示す斜視図である。キースイッチ装置10は、板状のベース12と、ベース12の上方に配置されるキートップ14と、互いに連動してキートップ14をベース12の上方で昇降方向へ案内支持する一対のリンク部材16と、キートップ14をその上下動(昇降)ストローク全体にわたって水平保持するように構成されたスタビライザー部材18(後述)と、姿勢をキートップ14の昇降動作に対応して電気回路の接点部(図示せず)を開閉するスイッチ機構20とを有する。このようなキースイッチ装置10を、複数配列してキーボードを構成することができる。またスイッチ機構20は、キートップ14に対応する位置に該接点部を担持してベース12の上に載置されるメンブレンスイッチシート22と、キートップ14とメンブレンスイッチシート22との間に配置されるとともにキートップ14の下降動作に伴い該接点部を閉成するように作用する、図示例ではラバードーム状の作動部材24とを有する。
【0022】
またキースイッチ装置10は、図2により明瞭に示すように、ベース12の上面26に固定的に取り付けられ、一対のリンク部材16のそれぞれの回動軸部28(後述)を回動可能に受容して支持する軸受部30を有する、平面視で略矩形形状のフレーム部材32を有する。ベース12は、例えば板金材料からなる独立した金属薄板のような平板状の剛性部材であり、その上面26にてメンブレンスイッチシート22及び作動部材24を静止支持する。なお本発明の実施形態では、後述するスタビライザー部材18及びこれに関連する構造以外のものは、特許文献2に記載のような従来のものと同様でもよい。
【0023】
キートップ14は、例えば樹脂材料の一体成形品からなる平面視で略矩形の平板状又は皿状部材であり、図3により明瞭に示すように、打鍵操作される操作面14aの反対側の内面14bに、いずれも同一構造の2組のリンク軸支部34が、リンク摺動方向(図3では概ね左右方向)へ互いに並置して形成される。各組を成す2つのリンク軸支部34は、キートップ14の内面14bの、リンク摺動方向について略中央の領域で、両者間に各リンク部材16の第2端領域を挿入可能な距離だけ互いに離れて配置される。従って各リンク軸支部34には、一対のリンク部材16の各々が、その第2端領域に設けた回動部にて回動自在に連結される。
【0024】
一対のリンク部材16は、互いに同一の形状及び寸法を有し、それらの一端で互いに歯車状に連結されて側面視V字形態を呈し得るように組み合わされる。一対のリンク部材16の各々は、例えば樹脂材料の一体成形品からなり、互いに略平行に延びる一対の腕部36と、それら腕部を互いに連結する胴部38とを一体に備える。図示された実施形態では、各リンク部材16において、胴部38に隣接する両腕部36の端部領域をリンク部材16の第1端領域と定義し、胴部38から同一方向へ延長された両腕部36の端部領域をリンク部材16の第2端領域と定義する。
【0025】
各リンク部材16の第1端領域には、両腕部36の互いに離反する外側面から胴部38の反対側へ、摺動部を構成する一対の摺動軸部42が互いに同軸状に突設される。また、各リンク部材16の第2端領域には、両腕部36の内側面から摺動軸部42と反対側へ、回動部を構成する一対の回動軸部28が互いに同軸状に突設される。さらに、各リンク部材16の一方の腕部には、回動軸部28に近接する第2端領域の先端面に1枚の歯が設けられ、他方の腕部には、回動軸部28に近接する第2端領域の先端面に2枚の歯が設けられる。
【0026】
各リンク部材16は、第1端領域の一対の回動軸部28を、フレーム部材32に設けた対応の軸受部30に回動可能に嵌入し、かつ第2端領域の一対の摺動軸部42を、キートップ14に設けた対応の軸支部34に摺動可能に嵌入して、ベース12とキートップ14との間に配置される。このとき一対のリンク部材16は、それぞれの一方の腕部の1枚の歯と、それぞれの他方の腕部の2枚の歯とが、互いに噛み合わされて連動構造を成し、それにより、両腕部の回動軸部28が規定するそれぞれの回動軸線を中心として、互いに連動して回動できるようになっている。
【0027】
作動部材24は、ゴム材料から一体成形されたドーム状部材であり、そのドーム頂部をキートップ14側に向けた姿勢で、キートップ14とメンブレンスイッチシート22との間に配置される。作動部材24は、その下端のドーム開口端で、フレーム部材32の内側に配置されて、メンブレンスイッチシート22に固定される。作動部材24は、無負荷時にはドーム頂部を、メンブレンスイッチシート22から上方へ離隔して配置する。作動部材24のドーム頂部の内面には、メンブレンスイッチシート22の接点部に位置合わせして、キートップ14が下降したときに接点部を押圧閉成するための突起(図示せず)が形成される。
【0028】
キースイッチ装置10では、キートップ14に外力が加わらないときには、作動部材24がドーム頂部でキートップ14をベース12から鉛直上方へ離れたストローク上限位置に付勢支持する。このときメンブレンスイッチシート22は、接点部が開いた状態にある。また、打鍵操作によりキートップ14が押下げられると、作動部材24は、キートップ14の下降動作に伴い弾性変形して、キートップ14に上方への弾性付勢力(初期位置復帰力)を加えるとともに、キートップ14がストローク下限位置に達するときに、ドーム頂部の内面の突起でメンブレンスイッチシート22を外側から押圧して接点部を閉成する。キートップ14への押下げ力が解除されると、作動部材24が弾性的に復元し、キートップ14を上限位置へ復帰させるとともに、メンブレンスイッチシート22が復元して接点部が開放される。このように、作動部材24は、キートップ14を昇降動作の上限位置に復帰させる弾性的付勢力を発揮する付勢部材としても機能する。
【0029】
キートップ14は、一対のリンク部材16がそれぞれの第1端領域の回動軸線を中心に同期して反対方向へ揺動するとともに、それぞれの第2端領域が対応の案内部34による案内作用下で略水平方向へ摺動することにより、基部12に対し略鉛直方向へ、平行移動する。ここでキートップ14が図示例のように第2端領域の摺動方向(図1では概ね左右方向)へ比較的大きい寸法を有する場合、キートップ14の操作面14aを全ストロークにわたって水平に維持するために上述のスタビライザー部材18が使用される。
【0030】
スタビライザー部材18は、図4に示すような平面視で略コの字又は長辺の1つが切除された略矩形形状の枠状部材からなり、略直線状の長辺部分44と、長辺部分44の各端に直交するように一端が接続されかつ互いに平行に延びる一対の短辺部分46とを有する。一例として、スタビライザー部材18は、線径が0.5mm〜1mmの金属材料からなるワイヤー部材を曲げ加工して作製してもよいし、樹脂材料を成形して作製してもよい。図3に示すように、スタビライザー部材18の長辺部分44は、その両端近傍部分がキートップ14の裏面14bに設けられた2つのスタビライザー軸支部48に軸支され、少なくともキートップ14の上下動ストロークに応じて定められる角度範囲内で回動可能となっている。
【0031】
またスタビライザー部材18は、一対の短辺部分46のそれぞれの他端に直交するように一端が接続され、長辺部分44の延びる方向と略同一方向に所定長さだけ延びるベース側係合部分50を有し、ベース側係合部分50は、図1又は後述する図5に示すように、ベース12に形成されたスタビライザー係合部52に、ベース12に対して回動可能かつ、リンク部材16の第2端領域の摺動方向に略垂直な方向にベース12に対して摺動可能に係合する。このようなスタビライザー部材18及びこれに関連する構成により、キートップ14の操作面14aはその上下動ストローク全体にわたって、安定して水平状態を維持することができる。
【0032】
本発明では、図4及び図5に示すように、スタビライザー部材18の一対の短辺部分46の各々が、単純な直線状部材ではなく、少なくとも1箇所の屈曲部分46aを有することを特徴とする。詳細には、一対の短辺部分46の各々は、長辺部材44との接続端から屈曲部分46aまで略直線状に延びる第1部分46bと、屈曲部分46aからベース側係合部分50との接続端まで略直線状に延びる第2部分46cとからなり、全体として略「く」の字を呈する部材として構成される。
【0033】
次に、スタビライザー部材18の作用について説明する。図5(a)に示すように、キートップ14がそのストローク上限位置にあるときは、スタビライザー部材18の作用は従来のスタビライザーと実質同等であるが、図5(b)に示すようにストローク下限位置にあるときは、短辺部分46の第1部分46bはメンブレンスイッチシート22の上にその面方向と平行に延在し、一方短辺部分46の第2部分46cは、ベース側係合部分50がベース12のスタビライザー係合部52に上下方向のがたつきなく係合するように、屈曲部分46aから第1部分46bとはいくらか異なる方向に延びる。従って、図1及び図5に示すように、メンブレンスイッチシート22と第2部分46c及びベース側係合部分50とが干渉しないように、メンブレンスイッチシート22に逃がし穴54を形成しておくことにより、図5(b)に示す下限位置において、キートップ14の、メンブレンスイッチシート22の厚み分のストロークをさらに確保することができ、キートップ14の下端部をメンブレンスイッチシート22に当接させることもできる。なおここで、図1及び図5に示すように、下限位置においてキートップ14の下面に形成されたスタビライザー軸支部48が近接するメンブレンスイッチシート22の部分に関しても、該スタビライザー軸支部48との干渉を回避するための逃がし穴56を形成しておくことが好ましい。
【0034】
なお図示例では、スタビライザー部材18の短辺部分46の第2部分46cは略直線状の部材であるが、図5(b)に示す下限位置、すなわち第1部分46bが水平方向に延びているとき(メンブレンスイッチシート上に延在しているとき)において、第2部分46cの反キートップ側端部すなわちベース側係合部分50が、キートップの上下動方向(メンブレンスイッチシート面に垂直な方向)について第1部分46bの反キートップ側端部(屈曲部分46a)から最大メンブレンスイッチシート22の厚み分だけ(好ましくはメンブレンスイッチシート22の厚みに等しい距離だけ)下向き(キートップの押下げ方向)に変位する形態であれば、第2部分46cは全体として滑らかな曲線状部材である等、他の形状を具備してもよい。
【0035】
上述のように本発明によれば、スタビライザー部材18の短辺部分46のうち、キートップ14に接続される側の(長辺部分44に接続されている)端部と屈曲部分46aとの間を延びる直線状の第1部分46bはストローク下限位置においてメンブレンスイッチシートに平行な状態(通常は水平状態)に延びるので、キートップ14とメンブレンスイッチシート22との間の空間を有効に活用できる(極限すれば、図5(b)に示す側断面においてキートップ14とメンブレンスイッチシート22との間の上下方向距離は、第1部分46bの厚さ(線径)に一致する)。従って従来に比べ、メンブレンスイッチシート22の厚み分だけキートップのストロークを多く確保でき、キースイッチ装置の低背下及び高ストローク化の少なくとも一方の実現に寄与する。
【0036】
なお短辺部分が屈曲部分を有さない直線状の部材であっても、図1において逃がし穴54及び56の間も全て切除してメンブレンスイッチシート22の大きな逃がし穴を設ければ、キートップのストロークに関して言えば本願発明と同等の効果を得ることは可能ではある。しかし、メンブレンスイッチシート22には種々の回路基板が形成されるので、その有効面積はできるだけ広い方が好ましく、上述のように大きな逃がし穴を設けることは得策ではない。一方本願発明によれば、スタビライザー部材18に関して言えば、スタビライザー軸支部48、スタビライザー部材18の第2部分46c及びベース側係合部分50のための逃がし穴54、56を設ければよいので、より多くのメンブレンスイッチシート22の有効面積を確保することができる。
【0037】
またメンブレンスイッチシート22の有効面積をできるだけ広くする(逃がし穴の面積をできるだけ小さくする)という観点からは、第1部分46bの長さはできるだけ長いことが好ましく、例えば図4のように第1部分46bと第2部分46cとの長さの比が概ね2:1である形態の他、1:1、3:1、4:1、5:1、10:1、20:1或いはこれらの比の中間の値を適用することができる。
【0038】
次に、図6及び図7を参照して、ベース12に形成される、スタビライザー部材18のベース側係合部分50に係合するスタビライザー係合部52の好適な構造について説明する。スタビライザー係合部52については、スタビライザー部材18のベース側係合部分50を摺動可能かつ回動可能に保持するために一定の強度が要求される一方、高さ方向(キートップ14の上下動方向)については極力小さい寸法を有することが望まれる。
【0039】
そこで図6に示す形態では、ベース12を絞り加工することによってスタビライザー係合部52を形成している。スタビライザー係合部52は、ベース12に絞り加工を施して上面側に凸となるように形成され、詳細にはスタビライザー部材18のベース側係合部分50の径方向断面と同方向の断面(A−A断面)において、互いに平行な上辺52a及び下辺52bを備えた略台形形状を有し、上辺52aと下辺52bとの間の上下方向(最短)距離がベース側係合部分50の直径を略等しくなるようにする。このようにすれば上辺52aの厚みはベース12の板厚と同一となって薄型化に寄与するとともに、またベース側係合部分50はベース12の上面26(図1参照)と同一高さ面に沿って摺動することができる。なおスタビライザー係合部52は台形形状でなくともよいが、ベース側係合部分50の円滑な動作のために、少なくともベース12に対するベース側係合部分50の摺動範囲内において、ベース12の上面と平行かつ平坦な上辺部分を有することが好ましい。
【0040】
図7は、スタビライザー係合部の他の実施形態を示しており、ここではスタビライザー係合部52′は、ベース12の切り起こしにより形成される。詳細には、ベース12の一部を(コの字状に)切断又は切除して略矩形形状のタブ状部分を形成し、該タブ状部分を曲げ起こして立ち壁部52a′を形成し、さらに立ち壁部分52a′の先端側を水平に(ベース12のスタビライザー係合部52′以外の部分と平行に)曲げて天面部52b′を形成する。さらに、52a′には、開口部52c′を設け、スタビライザー部材18のベース側係合部分50が該開口部52c′内に挿入された状態で回動かつベース12の面上に沿って摺動可能となるようにする。開口部52c′は、少なくともベース12に対するベース側係合部分50の摺動範囲に相当する寸法を有し、またベース側係合部分50に円滑な動作のために、天面部52c′は少なくともベース12に対するベース側係合部分50の摺動範囲内において、ベース12の上面と平行かつ平坦であることが好ましい。また、スタビライザー部材18のベース側係合部分50の径方向断面と同方向の断面(A′−A′矢視)において、互いに平行な天面部52b′とベース12のスタビライザー係合部52′以外の部分との間の上下方向(最短)距離がベース側係合部分50の直径を略等しくなるようにする。このような構成によっても、天面部52b′の厚みはベース12の板厚と同一となって薄型化に寄与するとともに、またベース側係合部分50はベース12の上面26(図1参照)と同一高さ面に沿って摺動することができる。
【0041】
なお図示例では立ち壁部52a′はベース12の面のスタビライザー係合部52′以外の部分の面に対して略垂直な部材であるが、天面部52b′がベース12の面に対して平行であればよく、立ち壁部52a′の角度に制限はない。
【0042】
さて、本実施形態のようなギヤリンク方式を採用したキースイッチ装置では、その小型化のため、一対のリンク部材の各々の歯数には制限があり、上述の実施形態では互いに噛み合うリンク部材の一方の歯数が1、他方の歯数が2となっている。このように歯数が少なく、かつ歯形状が通常の平歯車に相当するものである場合、キートップの上下動ストローク全体にわたって(すなわち各リンク部材の歯車部分の回転範囲全体にわたって)、各リンク部材を互いに完全に噛み合わせることは非常に難しい。より具体的に言えば、歯数が少ない場合は、限られた回転動作範囲においてのみ両歯車が完全に噛み合うので、上下動ストロークの両端付近において最も両リンク部材の噛み合わせが悪くなり、キートップのがたつき(いわゆるワブル)につながる。またリンク部材の形状や寸法上の制約から、歯数を増やすことも困難である。
【0043】
そこで、各リンク部材の歯車部分を、捩れ角を備えたはすば歯車形状とすることにより、歯数が少ない場合であっても上下動ストローク全体にわたって良好な噛み合わせを維持することができる。より具体的に言えば、上記捩れ角をギヤリンクの回転動作角度以上とすることにより、上下動ストロークの両端を含め全範囲にわたって、両歯車をがたつきなく噛み合わせることが可能となり、安定したキートップ動作を実現できる。
【0044】
またリンク部材の歯車部分は通常、キートップの両側に2対設けられるので、各側でのはすば歯車の捩れ方向を互いに反対側とし、全体としていわゆるやまば歯車状の特性が得られる構成としてもよい。はすば歯車は通常、スラスト方向(本実施形態ではキー操作面に平行な方向)の荷重を受けるが、両側で歯車の捩れ方向を逆にすることにより、各側でのスラスト方向荷重が互いに打ち消し合うので、キートップの安定性をより高めることができる。
【符号の説明】
【0045】
10 キースイッチ装置
12 ベース
14 キートップ
16 リンク部材
18 スタビライザー
20 スイッチ機構
22 メンブレンスイッチシート
24 作動部材
32 フレーム部材
44 長辺部分
46 短辺部分
50 ベース側係合部分
52、52′ スタビライザー係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、該ベースの上方に配置されるキートップと、互いに連動して該キートップを該ベースの上方で昇降方向へ案内支持する一対のリンク部材と、該キートップの昇降動作に対応して電気回路の接点部を開閉するスイッチ機構とを具備し、該一対のリンク部材の各々は、前記ベース及び前記キートップのいずれか一方に摺動自在に連結される摺動部を有するとともに、該摺動部の連結相手である該ベース又はキートップが、該摺動部に摺動自在に係合する摺動係合部を有する、キースイッチ装置であって、
前記キートップに回動可能に軸支されるとともに前記ベースに回動可能かつ摺動可能に係合し、前記キートップを略水平な姿勢に維持しつつ上下動させるための補助となるスタビライザー部材をさらに有し、
前記スタビライザー部材は、前記キートップ側から直線状に延びる第1部分と、該第1部分の反キートップ側の端部に一端が接続されるとともに該第1部分とは異なる方向に延びる第2部分とを有し、前記第1部分は、前記キートップが下限位置まで押下されたときに、前記ベースの上面に配置された前記スイッチ機構のメンブレンスイッチシートの面に対して平行に延びるように構成され、前記キートップが下限位置まで押下されたときに、前記第2部分の反キートップ側端部が、前記キートップの昇降方向について前記第1部分の反キートップ側端部から最大前記メンブレンスイッチシートの厚み分だけ下向きに変位する、キースイッチ装置。
【請求項2】
前記キートップが下限位置まで押下されたときに、前記第2部分の反キートップ側端部が、前記キートップの昇降方向について前記第1部分の反キートップ側端部から前記メンブレンスイッチシートの厚みに等しい距離だけ下向きに変位する、請求項1に記載のキースイッチ装置。
【請求項3】
前記メンブレンスイッチシートは、前記キートップが下限位置に位置したときに、前記スタビライザー部材が前記メンブレンスイッチシートに干渉しないように形成された逃がし穴を有する、請求項1又は2に記載のキースイッチ装置。
【請求項4】
前記メンブレンスイッチシートは、前記キートップが下限位置に位置したときに、前記キートップに形成され前記スタビライザー部材を回動可能に支持するスタビライザー軸支部が前記メンブレンスイッチシートに干渉しないように形成された逃がし穴をさらに有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のキースイッチ装置。
【請求項5】
前記ベースは、前記スタビライザー部材の前記第2部分の他端に接続されたベース側係合部分が前記ベースに対して回動可能かつ摺動可能となるように該ベース側係合部分に係合するスタビライザー係合部を有し、該スタビライザー係合部は前記ベースを構成する金属板の絞り加工により、前記ベースの上面側に凸となりかつ少なくとも前記ベースに対する前記ベース側係合部分の摺動範囲内において、前記ベースの上面と平行かつ平坦な部分を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のキースイッチ装置。
【請求項6】
前記ベースは、前記スタビライザー部材の前記第2部分の他端に接続されたベース側係合部分が前記ベースに対して回動可能かつ摺動可能となるように該ベース側係合部分に係合するスタビライザー係合部を有し、該スタビライザー係合部は前記ベースを構成する金属板の切断及び曲げ加工により、前記ベースの上面側に凸となりかつ少なくとも前記ベースに対する前記ベース側係合部分の摺動範囲内において、前記ベースの上面と平行かつ平坦な部分を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のキースイッチ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のキースイッチ装置を複数備えたキーボード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−186082(P2012−186082A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49365(P2011−49365)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【Fターム(参考)】