説明

キートップとその製造方法

【課題】 キートップに対しての虹彩光沢或いは貝殻状光沢をもたらす美感の非規則性、非人為性、偶然性という極めて高級な審美感の要求に応えると共に、金型を用いることなくキートップに虹彩光沢、貝殻光沢を生ぜしめるようにする。
【解決手段】樹脂からなるキートップ母体4の例えば裏面側に、UV照射により半硬化せしめられたUV硬化性樹脂膜8とこの膜8上にスパッタリングにより積層された金属膜10からなる多層膜12を有し、多層膜12のUV硬化性樹脂膜8と金属膜10との界面14がランダムな方向に延びランダムな長さを有する多数の皺を構成するように凸部16が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器類、例えば携帯電話機、PHS、携帯情報端末(PDA等)、携帯オーディオ、家電製品用リモートコントローラ等のキーユニットに用いられるキートップと製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、携帯電話機、PHS、携帯情報端末(PDA等)、携帯オーディオ、家電製品用リモートコントローラ等の電子機器に用いられるキーユニットは、一般に、裏面(下面)或いは天面(表面)に数字その他の文字、記号、絵柄等の表示により加飾された複数のキートップを、キーベースの表面に形成し、そのキーベースを、押し子によって押されてオンするスイッチング素子を構成するメタルドーム及び配線膜が形成された配線基板の表面に配置した構造を有する。
【0003】
そして、キートップの加飾は、キートップを用いた電子機器、例えば携帯電話機の美感、高級感に大きく影響し、売れ行きを大きく左右するので、極めて重要である。
また、電子機器、例えば携帯電話機等のユーザーの審美感が高まり、加飾に対する要求が多様化しており、虹彩色光沢を有する高級感のある美感をもたらす加飾がユーザーから要求されるに至っている。
従って、メーカーもその要求に応える必要があり、各メーカーにより盛んに加飾技術の研究、開発が盛んに行われている。
【0004】
そのため、従来において、樹脂キートップ母体の天面又は裏面に、金型転写により回折格子を形成し、この金型転写による回折格子により虹彩光沢を得る加飾技術が開発され、その技術は例えば特開2002−175738号公報(:特許文献1)等により紹介されている。
その技術によれば、金型転写により回折格子を、同一平面上にほぼ等間隔に例えば同心円状に形成した多数の溝により形成することができる。
【0005】
そして、その回折格子面を介して互いに異なる屈折率を有する透明性のある物質を介在させることにより、虹彩光沢を生ぜしめることができ、虹彩色光沢を有する高級感のある美感をもたらす加飾をキートップに施すというユーザーの要求に応えることが一応はできたのである。
【特許文献1】特開2002−175738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特開2002−175738号公報に記載された上述の従来の技術には、回折格子を成す溝を金型転写により形成するが故に下記の問題があった。
先ず第1に、回折格子を成す溝の形状が金型により形成されるので、多数の溝の形状が例えば同心円状、平行縦線状、平行横線状或いは格子状という規則性のある形状になるので、虹彩光沢をもたらす美感の非規則性、非人為性、偶然性という極めて高級な審美感をもたらすというより高い要求に応えきれないという問題があった。
【0007】
確かに、キートップに虹彩光沢、貝殻光沢をもたらす加飾を施すことはユーザーの期待にある程度は応えたと言える。
しかし、ユーザーの美感、高級感に対する要求は留まるところを知らず、回折格子の形状が例えば同心円状、平行縦線状、平行横線状或いは格子状という規則性があると、それに飽きたらなくなるのが実情である。
【0008】
虹彩光沢、貝殻光沢をもたらす美感の規則性に飽き足らなくなると、非規則性、非人為性、偶然性という極めて高級な審美感を要求する傾向が生じ、そのような高級な要求には、従来の金型を用いた型成形技術は応えられないのが実情である。
【0009】
第2に、繊細微妙な模様の虹彩光沢、貝殻光沢を得るには、金型として微細な凸部或いは凹部を形成することが必要であるが、微細な凸部或いは凹部を形成することは難しく、金型の製造価格が高くなるという問題がある。
本来、金型は一般に高価であるが、形成すべき凸部或いは凹部が微細であればある程より極めて高価となり、キートップの加飾として必要な微細さを得るために必要となる金型は必然的に極めて高価なものとならざるを得ず、キートップ自体の低価格化を制約する要因となる。
【0010】
第3に、微細な凸部或いは凹部を有する金型は、メンテナンスコストが高いという問題を有する。
というのは、本来、金型は使用する程、目づまり、欠けが生じるので、メンテナンスが必要であるが、凸部或いは凹部が微細になる程、目づまり、欠けが頻繁に生じ、メンテナンスに要するコストが無視できなくなるほど顕著に高くなり、金型全体を交換する必要のある故障の発生頻度も高くなるからである。
【0011】
本発明は、このような問題を解決すべく為されたものであり、第1に、キートップに対しての虹彩光沢或いは貝殻状光沢をもたらす美感の非規則性、非人為性、偶然性という極めて高級な審美感のが欲しいというユーザーの要求に応えることを目的とし、第2に、金型を用いることなくキートップに虹彩光沢を生ぜしめるようにし、以て、キートップ自身やキートップを用いた機器の低価格化に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1のキートップは、樹脂からなるキートップ母体の裏面側又は天面側に、半硬化せしめられた樹脂膜とこの性樹脂膜上にスパッタリングにより積層された金属膜からなる多層膜を少なくとも有し、上記多層膜の樹脂膜と金属膜との界面がランダムな方向に延びランダムな長さを有する多数の皺を構成するように凸部或いは凹部を有することを特徴とする。
【0013】
請求項2のキートップの製造方法は、樹脂からなるキートップ母体の裏面側又は天面側に、樹脂膜を塗布する工程と、この樹脂膜を半硬化状態にする工程と、半硬化状態の上記樹脂膜上に金属をスパッタリングすることにより金属膜を形成すると共に、真空プロセスにおけるスパッタリングにより発生する熱によって上記樹脂膜を収縮せしめてこの膜とスパッタリングにより形成される金属膜自身との界面がランダムな方向に延びランダムな長さを有する多数の皺を構成するように凸部或いは凹部を有するようにするスパッタリング工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1のキートップによれば、キートップ母体の裏面側又は天面側に、半硬化せしめられた樹脂膜とこの樹脂膜上にスパッタリングにより積層された金属膜からなる多層膜を少なくとも有し、その樹脂膜と金属膜との界面がランダムな方向に延びランダムな長さを有する多数の皺を構成するように凸部或いは凹部を有するので、その凸部或いは凹部が回折格子を成し、光の干渉により虹彩光沢或いは貝殻状光沢が生じる。
【0015】
そして、回折格子を成す凸部或いは凹部からなる皺は、コーティングされた樹脂膜に対する半硬化処理後に金属をスパッタリングすることにより金属膜を形成する際に、真空プロセスにおけるスパッタリングによる熱で半硬化樹脂膜が自ずと収縮することにより生じるので、金型を用いることなく回折格子を成す凸部或いは凹部からなる皺を形成することができる。
従って、先ず、金型を用いることによって生じる、金型が高価であり且つメンテナンスコストが高くなるという問題を回避することができる。
【0016】
即ち、キートップの加飾のために樹脂膜の表面上に金属膜を積層するという技術において、金属膜の積層前に樹脂膜に対して施す硬化のための処理を適宜不完全に制御すると、充分に硬化せず(つまり半硬化状態になり)、その状態で金属膜を形成すると、製品に虹彩光沢或いは貝殻状光沢が生じることが本願発明者により発見された。
更に、本願発明者がその原因を追及したところ、半硬化状態の樹脂膜に対して金属膜を形成すると、適度な真空状態において、スパッタリングによる衝撃により半硬化状態の樹脂膜が発熱し、その熱によりこの膜が収縮し、収縮が生じる状態で金属膜の生成が進行するので、自然に樹脂膜の表面に凸部或いは凹部が生じ、それが皺からなる回折格子となり、その格子により虹彩光沢、貝殻光沢をもたらすことが判明した。
【0017】
そこで、本願発明者は、金属膜をスパッタリングにより形成する前に行う樹脂膜(例えばUV硬化性樹脂膜)の塗布後にその効果処理を敢えて少なめに行って樹脂膜を完全な硬化状態ではなく、不充分な硬化状態、即ち、半硬化状態にし、その半硬化状態の樹脂膜上に金属膜を形成して敢えて樹脂膜と金属膜の界面に皺を生ぜしめて虹彩光沢或いは貝殻状光沢を得るようにすることを案出したのであり、それにより本発明が産まれたのである。
従って、金型を用いることなく、虹彩光沢或いは貝殻状光沢のある加飾を為し得るのである。
【0018】
また、金型を用いることなく、半硬化処理後に金属をスパッタリングすることにより金属膜を形成する際に、真空プロセスにおけるスパッタリングによる熱で半硬化樹脂膜が自ずと収縮することにより回折格子を成す凸部或いは凹部からなる多数の皺を形成するので、その皺の長さ及び向きをランダムにすることができる。
従って、従来の金型を用いた場合において生じる、回折格子が同心円状、平行縦線状、平行横線状或いは格子状になり、規則性があるので、それに飽きたらず、もっと高級な審美感が得られるようにして欲しいという要望に応えることが難しいという問題を、請求項1のキートップによれば回避することができる。
【0019】
即ち、請求項1のキートップによれば、皺の長さ及び向きをランダムにすることができるので、虹彩光沢或いは貝殻状光沢をもたらす美感に、更に非規則性、非人為性、偶然性という極めて高級な審美感をもたらす魅力を付加することができるのである。
ちなみに、虹彩光沢は、樹脂膜塗布の半硬化状態を制御することで、その度合いを任意に調整することが可能であることが発明者により確認されている。
【0020】
請求項2のキートップの製造方法によれば、樹脂膜の塗布後にこの膜を半硬化状態にし、樹脂膜上に金属膜を形成するので、そのスパッタリングにより発生する熱によって上記樹脂膜を収縮せしめてこの膜とスパッタリングにより形成される金属膜自身との界面がランダムな方向に延びランダムな長さを有する多数の皺を構成するように凸部或いは凹部を形成するので、金型を用いることなく長さ及び向きがランダムな皺のある樹脂膜及び金属膜からなる多層膜を形成することができ、延いては請求項1のキートップを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、基本的に、キートップ母体に、半硬化せしめられた樹脂膜とこの樹脂膜上にスパッタリングにより積層された金属膜からなる多層膜を形成するものであり、この多層膜はキートップ母体の裏面側に形成しても良いし、天面側に形成しても良い。
即ち、本発明は裏面加飾型のキートップと、天面加飾型のキートップのいずれに対しても適用することができる。
【0022】
本発明を裏面加飾型のキートップに適用する場合には、次のようにキートップを製造するのが最適である。
先ず、例えばポリカーボネートPCからなる例えば略直方体形状のキートップ母体の裏面に透明な樹脂膜を形成し、その樹脂膜の裏面にUV硬化性樹脂膜(アンダーコート膜)を塗布形成し、そのUV硬化性樹脂膜にUV照射して半硬化状態にし、その半硬化状態のUV硬化性樹脂膜の裏面に例えばアルミニウム或いは銀等の反射性の高い金属をスパッタリングすることにより金属膜(金属薄膜)を形成する。
【0023】
次いで、その金属膜の裏面に樹脂からなるミドルコート膜を塗布し、キートップの裏面から例えばレーザビームにより適宜の深さ(例えば10〜25μm)、例えば上記ミドルコート膜、金属膜及びUV硬化性樹脂膜を貫通する程度の深さの表示を成す凹部を刻設(各層を部分的に除去)する。表示には例えばアルファベット、数字等の文字或いは記号、絵等の種類がある。
その後、上記ミドルコート膜の裏面に文字を成す有色透明(例えば黒、その他の色)の樹脂塗料を上記表示を成す凹部を埋めるように印刷して表示着色用膜を形成し、しかる後、その表示着色用膜の裏面に、キートップ母体の裏面の各膜を押さえる押さえ樹脂膜を塗布形成する。
尚、表示に色をつけない場合には、表示着色用膜は不要であり、凹部刻設後押さえ樹脂膜を上記ミドルコート膜の裏面にその凹部を埋めるように印刷すれば良く、表示着色用の樹脂膜に押さえ樹脂膜の機能を兼ねさせることも可能である。
【0024】
また、天面加飾型のキートップに適用する場合には、次のようにキートップを製造するのが最適である。
先ず、例えばポリカーボネートPCからなる例えば略直方体形状のキートップ母体の天面及び周りの例えば四側面(底面以外の全ての面)に透明な樹脂膜を形成し、その樹脂膜の天面及び各側面にUV硬化性樹脂膜(アンダーコート膜)を塗布形成し、そのUV硬化性樹脂膜にUV照射して半硬化状態にし、その半硬化状態のUV硬化性樹脂膜の天面及び各側面にスパッタリングによって反射性の高い金属を積層して金属膜(金属薄膜)を形成する。
【0025】
次に、その金属膜の天面及び各側面に樹脂からなるミドルコート膜を塗布し、キートップの天面から例えばレーザビームにより上記ミドルコート膜、金属膜及びUV硬化性樹脂膜、或いは更には樹脂膜を貫通する程度の深さの表示を成す凹部を刻設(各層をアルファベット、数字等の文字或いは記号、絵等の形状に部分的に除去)する。
その後、そのミドルコート膜の天面及び各側面にオーバーコート膜を形成してキートップ母体の天面及び各側面の各膜を押さえると共にキートップに耐摩耗性を付与する。
このようにすれば、無色の表示の天面型キートップを得ることができる。
【0026】
尚、この天面加飾型のキートップの表示を有色にする場合には、上記キートップ母体の天面及び各側面に直接形成する上記透明な樹脂膜として有色透明のものを用いるか、或いは、キートップ母体の裏面に、別途、表示色を成す表示着色用樹脂膜を形成する。
透明樹脂は有色にすることは、欲する色の顔料を加えるか、染料を加えることにより容易に為し得る。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明を図示実施例に基いて詳細に説明する。
図1は本発明キートップ第1の実施例2を示すもので、(A)は縦断面図、(B)は樹脂膜を形成しその後金属膜(厚さ約80nm)を形成した後その金属膜形成面を光学顕微鏡で撮影した写真を筆写した裏面図である。
同図において、4はキートップの母体であり、例えば直方体形状或いはそれに適宜バリエーションを加えた形状を有し、例えばポリカーボネート(PC)等の樹脂からなる。
6はそのキートップ母体4の裏面に印刷により形成された透明性のある樹脂膜(厚さ例えば5〜10μm)である。この樹脂膜は無色透明であっても良いが、例えば顔料、或いは染料等を添加する等して着色して有色透明にしても良い。これにより、キートップの表示の背景色を任意に設定することができる。
【0028】
8は上記樹脂膜6の裏面に形成されたUV硬化性を有する樹脂膜(アンダーコート膜)で、厚さは例えば5〜10μm程度である。このUV硬化性樹脂膜8はUV照射により硬化するが、本発明においては充分なUV照射ではなく、不充分なUV照射により半硬化状態にすることが不可欠である。
不充分なUV照射の態様には、UV照射の積算光量を充分な硬化に必要な値よりも適宜少なくする態様と、UV照射光線の照度(UV照度)を充分な硬化に必要な値よりも適宜少なくする態様とがあり、そのいずれか一方又は両方の態様でUV硬化性樹脂膜を半硬化状態にすることができる。
【0029】
10は上記UV硬化性樹脂膜(アンダーコート膜)8の裏面に形成された例えばアルミニウムからなる金属膜(厚さ例えば600〜1000オングストローム)であり、上記UV硬化性樹脂膜8とで虹彩光沢或いは貝殻状光沢を得るに必要な多層膜12を構成する。
本発明は、既に述べたことから明らかなように、UV硬化性樹脂膜と金属膜との界面がランダムな方向に延びランダムな長さを有する多数の皺を構成するように凸部(或いは凹部)を形成するものであり、その皺の形成には、第1に、上述したようにUV硬化性樹脂膜を半硬化状態になるように適宜不充分なUV照射を行うことが必要であるが、第2に金属膜を形成するための適度な真空状態とスパッタリングによりUV硬化性樹脂膜が加熱されて収縮するようにすることも必要であり、いずれが欠けても皺を形成することはできない。
【0030】
そして、皺のでき方を左右するのは、上述したように、UV照射においてはUV照射の積算光量と、UV照度であるが、スパッタリング工程においても皺のでき方を左右するパラメータがあり、第1のパラメータはスパッタリングの時間、第2のパラメータは熱であり、エネルギーの強さで決まる。因みに、スパッタリング工程は特に加熱することなく行うのが普通である。しかし、スパッタリングによる衝撃によりUV硬化性樹脂膜は発熱し、その発熱量はスパッタリングのエネルギーの強さにより左右される。
そして、第3のパラメータはスパッタリングの電力である。スパッタリングの電力は膜成長レートを左右するが、皺のでき方を左右するパラメータともなるのである。
【0031】
尚、皺の好適な形成を成し遂げることができたUV照射及びスパッタリングの条件の一例は下記の通りである。
UV硬化性樹脂膜(アンダーコート膜)8としてVB2979U42[硬化剤なし(藤倉化成社製)]を用い、スピンドルライン0.3KW設定(84mj、14W/cm2)でUV照射を行う。
そして、金属膜はアルミニウムの例えば6sec(秒)のスパッタリングにより形成する。
しかし、好適な条件は、使用する設備、膜の材料等により異なり、上述した例だけが好適であるというわけではなく、飽くまで一例である。
【0032】
図1(B)に示すように、皺を成す凸部16、16、・・・はその長さ、延びる方向、形状がランダムになる。
なぜならば、金型を用いた型成形により凸部を形成するのではなく、半硬化状態のUV硬化性樹脂膜8上に金属膜10を形成するときのスパッタリングによる衝撃で発生する熱によりUV硬化性樹脂膜8が収縮することにより凸部16、16、・・・を形成させるので、各凸部16、16、・・・の長さ及び向きが偶然性により決定されるからである。
【0033】
18は透明性を有する樹脂からなるミドルコート膜(厚さ例えば5〜10μm程度)で、上記金属膜8の裏面に塗布形成されている。
20はキートップ母体2の裏面側から例えばレーザビームにより刻設することにより各膜を構成する樹脂膜及び金属膜を部分的に除去して形成された表示用凹部で、例えば上記ミドルコート膜18、金属膜10及びUV硬化性樹脂膜8を貫通する程度の深さ(例えば10〜20μm)を有し、例えばアルファベット、数字等の文字或いは記号、絵等のパターンを有し、表示を成す。
【0034】
22は表示用着色膜(厚さ例えば5〜10μm程度)で、上記ミドルコート膜18の裏面に上記表示用凹部20を完全に埋めるように塗布形成されている。これにより表示が表示用着色膜22の色になる。
24は表示用着色膜22の裏面に形成された押さえ樹脂膜(厚さ5〜10μm程度)である。
尚、表示を特に着色しない場合には、表示用着色膜22は形成する必要がなく、押さえ樹脂膜24をミドルコート膜18の裏面に上記表示用凹部20を完全に埋めるように塗布形成すればよい。尚、この表示を着色しないキートップは図3により図示し、後述する。
【0035】
図2(A)〜(F)は図1に示したキートップの製造方法を一つのキートップについてキートップ保持治具を捨象して工程順に示す縦断面図である。
(A)キートップ母体4、4、・・・(図2では一つのキートップ母体4についてのみ図示する)を図示しない治具にて裏面が上側を向く向きで整列し、これらの裏面に樹脂膜6を印刷により形成する。図2(A)は樹脂膜6の形成後の状態を示す。
【0036】
(B)次に、樹脂膜6の上向きの裏面上にUV硬化性樹脂膜8を塗布し、その後、このUV硬化性樹脂膜8に対してUV照射をして上述したように半硬化状態にする。図2(B)はUV照射時の状態を示す。
(C)次に、半硬化状態のUV硬化性樹脂膜8の上向きの裏面上に、例えばアルミニウム或いは銀等の金属をスパッタリングすることにより金属膜10を形成する。図2(C)はこのスパッタリング時の状態を示す。
尚、上述したように、UV硬化性樹脂膜8と金属膜10との界面14にランダムな方向に延びランダムな長さを有する多数の皺を構成する凸部16、16、・・・が形成されることは前述の通りである。また上記多数の皺の形状は、金属スパッタリング膜が薄いために、金属スパッタリング膜10の上記界面14と反対側の面まで転写される。
【0037】
(D)次に、金属膜10の上向きの裏面上にミドルコート膜18を形成する。図2(D)はそのミドルコート膜18形成後の状態を示す。
(E)次に、ミドルコート膜18、金属膜10及びUV硬化性樹脂膜8に対して裏面側からレーザビーム加工により表示用凹部20を刻設する。図2(E)は表示用凹部20形成後の状態を示す。
(F)次に、表示用着色膜22をミドルコート膜18の上向きの裏面上に、上記表示用凹部20を埋めるように塗布形成し、その後、押さえ樹脂膜24を形成する。図2(F)は押さえ樹脂膜24形成後の状態を示す。
これにより図1に示すキートップ2が完成する。
【0038】
図3は図1に示した実施例2の変形例2aを示す縦断面図である。
本変形例2aは、図1に示した実施例2とは、表示用着色膜22を形成せず、表示用凹部20が刻設されたミドルコート膜18の裏面にその表示用凹部20を埋めるように押さえ樹脂膜24を形成するという点では異なるが、それ以外の点では共通する。
【0039】
このように、表示を着色しない場合には、キートップ2aの構成は図3に示す通りで良い。
従って、表示用凹部20の刻設後には、表示用着色膜22を塗布する工程ではなく、押さえ樹脂膜24を形成する工程を行えばよいことになる。
【実施例2】
【0040】
図4は本発明キートップの第2の実施例2bを示す縦断面図である。本実施例は本発明を天面加飾型のキートップに適用したものであり、図1に示す裏面加飾型のキートップ1とは天面加飾型であるが故に生じる相違を有するが、それ以外の点では共通する。特に、UV硬化性樹脂膜8と金属膜10からなる多層膜12のその界面14の皺を成す凸部16の形成に関しても図1に示す裏面加飾型のキートップ1とは共通する。
図4において、4はキートップの母体、6aはそのキートップ母体4の裏面を除く天面及び側面に塗装により形成された透明性のある樹脂膜で、本実施例においては表示を有色にするために、例えば顔料、或いは染料等を添加する等して着色して有色透明にされている。
【0041】
8は上記樹脂膜6aの裏面に形成されたUV硬化性樹脂膜(アンダーコート膜)で、UV照射により硬化するが、本実施例においても充分なUV照射ではなく、不充分なUV照射により半硬化状態にすることが不可欠であることを含め、皺の形成に関しては図1に示す実施例の場合と異なるところはない。
10は上記UV硬化性樹脂膜(アンダーコート膜)8の上に形成された例えばアルミニウムからなる金属膜(厚さ例えば600〜1000オングストローム)であり、上記UV硬化性樹脂膜8と下述するミドルコート膜18とで虹彩光沢或いは貝殻状光沢を得るに必要な多層膜12を構成する。
キートップ2bにおいては、金属膜10とミドルコート膜18との界面で光が反射して虹彩光沢或いは貝殻状光沢が得られるとことが前記キートップ2と異なる点である。UV硬化性樹脂膜(アンダーコート膜)8の凸部16は金属膜10を介して、金属膜10とミドルコート膜18との界面に転写されている。
【0042】
そして、皺の好適な形成をするためにUV照射の条件が重要になるのみならず、スパッタリングの条件も重要であること、図1の実施例2の場合と異なるところはない。
20はキートップ母体2の天面側から例えばレーザビームにより刻設(各塗膜及び金属膜を部分的に除去)することにより形成された表示用凹部で、例えば上記ミドルコート膜18、金属膜10及びUV硬化性樹脂膜8を貫通する程度の深さを有し、文字或いは記号、絵等のパターンを有し、表示を成す。
【0043】
26は樹脂膜(トップコート膜)で、厚さが例えば5〜10μm程度あり、上記ミドルコート膜18の裏面に上記表示用凹部20を完全に埋めるように塗布形成され、その下の各層を磨耗から保護する役割を有する。
表示用凹部20からなる表示は、上記有色透明の樹脂膜6aの色により着色される。
【0044】
図5(A)〜(D)は図4に示したキートップ2bの製造方法を一つのキートップについてキートップ保持治具を捨象して工程順に示す縦断面図ある。
(A)キートップ母体4を、例えば、図示しない治具にて天面が上側を向く向きで整列させ、キートップ母体4の天面及び各側面に有色透明の樹脂膜6aを塗装により形成し、次に、樹脂膜6aの天面及び各側面上にUV硬化性樹脂膜8を塗布し、その後、このUV硬化性樹脂膜8に対してUV照射をして上述したように半硬化状態にする。図5(A)はUV照射時の状態を示す。
【0045】
(B)次に、半硬化状態のUV硬化性樹脂膜8の上に、例えばアルミニウム或いは銀等の金属をスパッタリングすることにより金属膜10を形成する。図5(B)はこのスパッタリング時の状態を示す。
尚、上述したように、UV硬化性樹脂膜8と金属膜10との界面14及び金属膜10上記界面とは反対側の面(表面)にランダムな方向に延びランダムな長さを有する多数の皺を構成する凸部16、16、・・・が形成されることは図1、図2に示した実施例の場合と同じである。
【0046】
(C)次に、金属膜10の天面及び各側面上にミドルコート膜18を形成し、その後、ミドルコート膜18、金属膜10及びUV硬化性樹脂膜8に対して天面側からレーザビーム加工により表示用凹部20を刻設する。図2(C)は表示用凹部20形成後の状態を示す。
(D)次に、押さえ樹脂膜(トップコート膜)26をミドルコート膜18の天面及び各側面上に、上記表示用凹部20を埋めるように塗布形成する。図5(D)は押さえ樹脂膜26形成後の状態を示す。
これにより図4に示すキートップ2bが完成する。
【0047】
図6は図4に示すキートップの変形例2cを示す縦断面図である。
本変形例2cは、図4に示すキートップ2bとは、キートップ母体4の天面及び各側面上に直接形成する樹脂膜として有色透明ではなく、無色透明の樹脂膜6を形成し、キートップ母体4の裏面に有色透明の着色樹脂膜28を形成し、上記表示用凹部20による表示がその着色樹脂膜28により着色されるようにした点で異なる。
しかし、それ以外の点では、本変形例2cと図4に示すキートップ2bとは共通する。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、電子機器類、例えば携帯電話機、PHS、携帯情報端末(PDA等)、携帯オーディオ、家電製品用リモートコントローラ等のキーユニットに用いられるキートップとその製造方法に利用可能性があり、更に、キーマットに限定されるものではなく、筐体等のケースの加飾にも転用でき、利用可能性は広い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明キートップの第1の実施例を示すもので、(A)は縦断面図、(B)は樹脂膜を形成しその後金属膜(厚さ約80nm)を形成した後その金属膜形成面を光学顕微鏡で撮影した写真を筆写した裏面図である。
【図2】(A)〜(F)は図1に示したキートップの製造方法を一つのキートップについてキートップ保持治具を捨象して工程順に示す縦断面図ある。
【図3】図1に示した実施例の変形例を示す縦断面図である。
【図4】本発明キートップの第2の実施例を示す縦断面図である。
【図5】(A)〜(D)は図4に示したキートップの製造方法を一つのキートップについてキートップ保持治具を捨象して工程順に示す縦断面図ある。
【図6】図4に示すキートップの変形例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0050】
2、2a、2b、2c・・・キートップ、4・・・キートップ母体、
6、6a・・・樹脂膜、8・・・樹脂膜(アンダーコート膜)、
10・・・金属膜、12・・・積層膜、14・・・界面、
16・・・皺を成す凸部、18・・・ミドルコート膜、
20・・・表示用凹部、22・・・表示用着色膜、
24・・・樹脂膜、26・・・樹脂膜(トップコート膜)、
28・・・着色樹脂膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなるキートップ母体の裏面側又は天面側に、半硬化せしめられた樹脂膜とこの樹脂膜上にスパッタリングにより積層された金属膜からなる多層膜を少なくとも有し、
上記多層膜の樹脂膜と金属膜との界面がランダムな方向に延びランダムな長さを有する多数の皺を構成するように凸部或いは凹部を有する
ことを特徴とするキートップ。
【請求項2】
樹脂からなるキートップ母体の裏面側又は天面側に、樹脂膜を塗布する工程と、
上記樹脂膜を半硬化状態にする工程と、
半硬化状態の上記樹脂膜上に金属をスパッタリングすることにより金属膜を形成すると共に、真空プロセスにおけるスパッタリングにより発生する熱によって上記樹脂膜を収縮せしめてこの膜とスパッタリングにより形成される金属膜自身との界面がランダムな方向に延びランダムな長さを有する多数の皺を構成するように凸部或いは凹部を有するようにするスパッタリング工程と、
を少なくとも有することを特徴とするキートップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−295353(P2009−295353A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146292(P2008−146292)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(390001487)サンアロー株式会社 (58)
【Fターム(参考)】