説明

キーレスエントリー装置

【課題】送信アンテナに故障が生じた場合であっても、携帯機の位置判定の精度をできるだけ維持できるようにしたキーレスエントリー装置を提供する。
【解決手段】車両側装置は携帯機からのアンサー信号を認証すると所定の制御を行う車両側制御部を備え、携帯機は車両側装置の複数の送信アンテナから送信される信号の各強度を検出する携帯機制御部を備え、車両側制御部は、複数の送信アンテナについて故障の有無を検出し、故障していない送信アンテナからの信号強度データを用いて、携帯機が所定境界面の内外いずれに位置するかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両側装置と携帯機の間で無線通信を行うことで車両のドアを施錠・解錠するキーレスエントリー装置に関し、特に携帯機が所定境界面内外のいずれにあるかを判定することのできるキーレスエントリー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に設けられた車両側装置と使用者が携帯する携帯機の間で無線通信を行い、車両のドアを施錠・解錠するキーレスエントリー装置が知られている。また近年、携帯機が車両に近づくと、車両側装置と携帯機の間で自動的に通信が行われ、個々の携帯機に固有に設定されているIDの認証がなされれば車両のドアの施錠・解錠動作を行うパッシブ・キーレスエントリー装置も知られている。
【0003】
パッシブ・キーレスエントリー装置においては、携帯機がどの領域にあるかによって動作内容が異なるため、車両を基準とした所定境界面の内外いずれに携帯機が位置しているかを判定することが必要である。
【0004】
このため、車両側に設けられる信号を送信する送信アンテナからの信号強度を携帯機で検出することによって、当該送信アンテナとの距離を算出し、携帯機の位置を判別することが行われている。このように送信アンテナからの距離を信号強度を基に算出し、境界面の内外判定を行うものとしては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−204058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
送信アンテナからの強度データを取得した後、さらに予め測定されたデータ群とのマハラノビス距離を算出して、境界面の内外判定を行うことも知られている。この場合、予め測定しておくデータとしては、境界面の内側に沿って取得した強度データからなる第1データ群と、境界面の外側に沿って取得した強度データからなる第2データ群とがあり、これら各データ群と携帯機で取得した強度データとのマハラノビス距離を算出し、データ群に対するマハラノビス距離の大小によって、携帯機の位置を判定する。
【0007】
実際には、第1データ群と第2データ群を基に、マハラノビス距離を算出するために必要なパラメータを求めておき、このパラメータをメモリなどに記憶しておいて算出に用いている。ここで、送信アンテナの一部に故障があった場合、故障した送信アンテナからの信号強度は、携帯機において異常な値として検出される。この値をそのまま使ってマハラノビス距離を算出すると、判定の精度が悪化するという問題があった。
【0008】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、送信アンテナに故障が生じた場合であっても、携帯機の位置判定の精度をできるだけ維持できるようにしたキーレスエントリー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係るキーレスエントリー装置は、車両に設けられリクエスト信号を送信する複数の送信アンテナに接続される車両側送信部と、アンサー信号を受信する車両側受信部とを備えた車両側装置と、前記リクエスト信号を受信する携帯機受信部と、アンサー信号を送信する携帯機送信部とを備えた携帯機とを有したキーレスエントリー装置において、
前記車両側装置は前記携帯機からのアンサー信号を認証すると所定の制御を行う車両側制御部を備え、前記携帯機は前記車両側装置の複数の送信アンテナから送信される信号の各強度を検出する携帯機制御部を備え、
前記車両側制御部は、前記複数の送信アンテナについて故障の有無を検出し、故障していない送信アンテナからの信号強度データを用いて、前記携帯機が所定境界面の内外いずれに位置するかを判定することを特徴として構成されている。
【0010】
また、本発明に係るキーレスエントリー装置は、前記車両側制御部は、前記所定境界面の内側に沿った際の前記複数の送信アンテナからの信号強度データからなる第1のデータ群とのマハラノビス距離及び前記所定境界面の外側に沿った際の前記複数の送信アンテナからの信号強度データからなる第2のデータ群とのマハラノビス距離を算出するためのパラメータを記憶する記憶部を備えると共に、該記憶部のパラメータから算出されたマハラノビス距離の小さいデータ群に近似すると判別することで、前記携帯機が所定境界面の内外いずれに位置するかを判定することを特徴として構成されている。
【0011】
さらに、本発明に係るキーレスエントリー装置は、前記車両側制御部は、前記マハラノビス距離を算出する際に、故障が検出された送信アンテナからの信号強度データにかかる項を0とする、または当該信号強度データを用いる部分の計算をスキップすることによって、故障していない送信アンテナからの信号強度データを用いた判定を行うことを特徴として構成されている。
【0012】
さらにまた、本発明に係るキーレスエントリー装置は、車両に設けられリクエスト信号を送信する複数の送信アンテナに接続される車両側送信部と、アンサー信号を受信する車両側受信部とを備えた車両側装置と、前記リクエスト信号を受信する携帯機受信部と、アンサー信号を送信する携帯機送信部とを備えた携帯機とを有したキーレスエントリー装置において、
前記車両側装置は前記携帯機からのアンサー信号を認証すると所定の制御を行う車両側制御部を備え、前記携帯機は前記車両側装置の複数の送信アンテナから送信される信号の各強度を検出する携帯機制御部を備え、
前記車両側制御部は、前記送信アンテナ毎に当該送信アンテナ以外の送信アンテナを用いた判定のためのパラメータを記憶した記憶部を備え、前記複数の送信アンテナについて故障の有無を検出し、故障した送信アンテナがある場合には、当該送信アンテナに対応したパラメータを前記記憶部から読み出し、故障した送信アンテナ以外の送信アンテナからの信号強度データと前記パラメータに基づき、前記携帯機が所定境界面の内外いずれに位置するかを判定することを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るキーレスエントリー装置によれば、車両側制御部は、複数の送信アンテナについて故障の有無を検出し、故障していない送信アンテナからの信号強度データを用いて、携帯機が所定境界面の内外いずれに位置するかを判定することにより、故障した送信アンテナからの信号強度データはマハラノビス距離の算出に用いられないこととなり、送信アンテナが故障した際にも、携帯機の位置判別の精度をほぼ維持することができる。
【0014】
また、本発明に係るキーレスエントリー装置によれば、記憶部のパラメータから算出されたマハラノビス距離の小さいデータ群に近似すると判別することで、携帯機が所定境界面の内外いずれに位置するかを判定することにより、マハラノビス距離を用いて精度の高い位置判別を行うことができる。
【0015】
さらに、本発明に係るキーレスエントリー装置によれば、車両側制御部は、マハラノビス距離を算出する際に、故障が検出された送信アンテナからの信号強度データにかかる項を0とする、または当該信号強度データを用いる部分の計算をスキップすることによって、故障していない送信アンテナからの信号強度データのみを用いた判定を行うことにより、簡易なアルゴリズムで故障した送信アンテナからの信号強度データを除外したマハラノビス距離の算出を行うことができる。
【0016】
さらにまた、本発明に係るキーレスエントリー装置によれば、車両側制御部は、送信アンテナ毎に当該送信アンテナ以外の送信アンテナを用いた判定のためのパラメータを記憶した記憶部を備え、複数の送信アンテナについて故障の有無を検出し、故障した送信アンテナがある場合には、当該送信アンテナに対応したパラメータを記憶部から読み出し、故障した送信アンテナ以外の送信アンテナからの信号強度データを用いて携帯機が所定境界面の内外いずれに位置するかを判定することにより、故障した送信アンテナからの信号強度データはマハラノビス距離の算出に用いられないこととなり、送信アンテナが故障した際にも、携帯機の位置判別の精度をほぼ維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態におけるキーレスエントリー装置の概要図である。
【図2】キーレスエントリー装置のブロック図である。
【図3】車両に設けられるアンテナの位置及び携帯機位置判別の領域設定を示した図である。
【図4】解錠動作の際のフローチャートである。
【図5】車両側装置と携帯機からの信号のチャート図である。
【図6】携帯機の位置判別のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面に沿って詳細に説明する。図1には、本実施形態におけるキーレスエントリー装置の概要図を示している。本実施形態におけるキーレスエントリー装置は、車両1のドア1aを施錠または解錠するものであり、車両1側には車両側装置2が設けられ、使用者は携帯機3を携帯し、車両側装置2と携帯機3の間で無線通信を行って認証や施錠・解錠の指令等をなすものである。車両側装置2は、車両1の各所に複数の送信アンテナ15を有しており、各送信アンテナ15から携帯機3に対してリクエスト信号が送信される。なお、リクエスト信号は低周波信号からなっている。
【0019】
以下、使用者が車両1に近づいて、ドア1aを解錠する場合について主に説明する。本実施形態では、携帯機3を持った使用者がドア1aを解錠するには、ドア1aのドアノブ1b近傍に設けられたリクエストスイッチ16を押すことを必要としている。リクエストスイッチ16が押されると、車両側装置2と携帯機3との間で認証等の通信が行われ、認証がなされた場合に車両側装置2はドア1aを解錠する。
【0020】
次に、車両側装置2及び携帯機3の構成について説明する。図2にはキーレスエントリー装置のブロック図を示している。この図に示すように、車両側装置2は、携帯機3からのアンサー信号を受信する車両側受信部10と、携帯機3に対してリクエスト信号を送信する車両側送信部11と、アンサー信号を受信した際やリクエストスイッチ16が押された際に各種制御を行う車両側制御部12とを有している。
【0021】
車両側制御部12には、車固有の識別符号であるV−ID(Vhicle−ID)や1台の車両を操作可能な複数の携帯機のIDなど制御に必要な情報を記憶するメモリ13と、上述したリクエストスイッチ16が接続されている。また、車両側制御部12は、各送信アンテナ15について、故障の有無を検出する手段を有している。さらに、車両側受信部10にはアンサー信号を受信するための受信アンテナ14が接続され、車両側送信部11にはリクエスト信号を送信するための複数の送信アンテナ15、15が接続される。複数の送信アンテナ15、15は、それぞれ車両1の内外各所に設けられる。
【0022】
携帯機3は、車両側装置2からのリクエスト信号を受信する携帯機受信部20と、車両側装置2に対してアンサー信号を送信する携帯機送信部21と、リクエスト信号を受信した際に各種制御を行う携帯機制御部22と、自機に設定されているID及びV−ID等を記憶したメモリ24とを有している。また、携帯機受信部20と携帯機送信部21には、リクエスト信号やアンサー信号の送受信を行う互いに直行する方向の指向特性を有する三軸アンテナ23が接続される。
【0023】
携帯機制御部22は、携帯機受信部20で受信する車両側装置2からのリクエスト信号に含まれるウェークアップ信号によって、消費電力が略ゼロの状態であるスリープ状態と受信可能状態が切り替わる間欠受信状態から受信可能状態が継続する通常状態に切り替わる。また、携帯機制御部22は、リクエスト信号に含まれるコマンドに基づいて各種動作を行う。さらに、携帯機制御部22は、三軸アンテナ23によって受信した信号の強度を検出することができる。
【0024】
図3には、車両1における受信アンテナ14及び送信アンテナ15の配置について表した模式的な平面図を示している。図3において示す車両1のラインは、車体面を模式的に表している。受信アンテナ14は、車両1内に1か所設けられており、一方で送信アンテナ15は、送信アンテナ15a〜15fまで車両1の車室内外に複数設けられている。本実施形態においては、送信アンテナ15a〜15cまでの3つが車両1の車室の内側において前後方向に設けられ、送信アンテナ15d〜15fまでの3つが車両1の車室内の外側に設けられている。
【0025】
本実施形態では、携帯機3が車両1の内外いずれに位置しているかを判定する。そのために、携帯機3において各送信アンテナ15a〜15fからの信号強度を測定し、その信号強度データと予め測定された境界面の内側に沿った内側データ群及び境界面の外側に沿った外側データ群とのマハラノビス距離を算出し、マハラノビス距離の近いデータ群側に携帯機3が位置すると判断する。
【0026】
車両側装置2のメモリ13には、携帯機3の認証に必要なIDと、携帯機3の位置を判別するためのデータとが記憶されている。携帯機3の位置を判別するためのデータは、車両1の内側と外側のそれぞれについて、各送信アンテナ15からの電波の強度と送信アンテナ15の識別符号を関連付けたデータを多数有した内側データ群と外側データ群から算出されるもので、実際に測定された信号強度データについてマハラノビス距離を算出するためのパラメータ値である。
【0027】
内側データ群の各データは、車両1内の車体近傍における各送信アンテナ15からの電波強度のうち、強度の大きいものから4つについて、どの送信アンテナ15であるかの識別情報とそれに対応する電波強度とを有している。このようなデータを、あらかじめ車両1の内側の略全周に渡って取得し内側データ群を構成する。外側データ群についても、車両1外の車体近傍の略全周に渡って、内側データ群と同様にあらかじめデータを取得し、これを構成する。
【0028】
これらのデータの取得は、製品の開発時に、携帯機3あるいは強度測定装置を用いて実際の車両1について行う。または、製造ラインにおいてデータの取得を行うこともできる。また、内側データ群と外側データ群からマハラノビス距離を算出するためのパラメータを算出し、メモリ13に記憶させておく。
【0029】
携帯機3の位置を判別する際には、各送信アンテナ15から所定の時間間隔をおいて連続的に信号を送信し、携帯機3は各送信アンテナ15から送信される信号の受信タイミングによって、どのアンテナに対する信号強度データかを識別すると共に信号強度データを測定する。そして該情報を含む信号を車両側に送信する。車両側では強度の大きいものから4つのデータを用いて、携帯機3の位置を特定し、メモリ13に記憶されたパラメータを用いて内側データ群とのマハラノビス距離及び外側データ群とのマハラノビス距離をそれぞれ算出し、マハラノビス距離の小さい方、すなわちどちらの集合により近似しているかを判断して、そちら側に携帯機3が位置しているものと判別する。
【0030】
マハラノビス距離(D)の算出式は、送信アンテナ15の番号をi,j、送信アンテナ15の本数をk、予め取得したデータ群から算出される相関係数行列の逆行列をA、行列Aの各要素をaij、携帯機3で取得したデータにおける番号i,jの送信アンテナ15との距離データをLi,Lj、マハラノビスの基準空間における番号i,jの送信アンテナ15の距離データの平均値をmi, mj、基準空間における番号i,jの送信アンテナ15の距離データの標準偏差をσi, σjとすると、下記のように表される。なお、これらのうちメモリ13に記憶されるパラメータを構成するのは、aij、mi, mj、及びσi, σjであり、Li,Ljが実際に携帯機3で測定された強度データである。
【0031】
【数1】

【0032】
次に、キーレスエントリー装置の動作について説明する。図4には、ドアを解錠する際の動作についてのフローチャートを示している。また、図5には、図4のフローにおいて車両側装置2と携帯機3からそれぞれ送信される信号のチャート図を示している。本実施形態のキーレスエントリー装置は、車両1に設けられたリクエストスイッチ16が押されることで、車両側装置2と携帯機3との間で無線通信がなされ、ドアの解錠がされるものである。したがって、まず使用者が車両1のリクエストスイッチ16を押すことでフローが開始する(S1)。
【0033】
リクエストスイッチ16が押されると、車両側制御部12は車両側送信部11にリクエスト信号LF1を送信させる(S2)。図7に示すように、リクエスト信号LF1は、ウェークアップ信号を含む信号Aと、コマンド信号CMDとからなっている。コマンド信号CMDには、車固有の識別符号であるV−ID(Vhicle−ID)の情報が含まれている。
【0034】
携帯機3は、携帯機受信部20でリクエスト信号LF1を受信すると、携帯機制御部22がウェークアップ信号により間欠受信状態から連続受信状態となり、リクエスト信号LF1に含まれるV−IDが、自機が保持するV−IDと一致するか否かを判定する。ここでV−IDが一致しなければ、そこでフローは終了する。V−IDが一致すれば、携帯機制御部22は携帯機送信部21にアンサー信号RF1を送信させる(S5)。
【0035】
車両側受信部10がアンサー信号RF1を受信すると(S6)、車両側制御部12は車両側送信部11に位置確認信号LF2を送信させる。位置確認信号LF2は、図7に示すようにリクエスト信号LF1と同様にウェークアップ信号を含むと共に、携帯機のIDを含む信号Aと、コマンド信号CMDを含む信号及び各送信アンテナ15a〜15fから順に送信される複数のRssi測定用信号とからなっている。
【0036】
各送信アンテナ15a〜15fから送信されるRssi測定用信号は、図5に示すように所定強度を有し所定時間に渡って継続するパルス状の信号であり、携帯機3側で受信強度を測定するために用いられる。各Rssi測定用信号は、携帯機からのRF1信号を受信後に所定の時間経過して後、車両側送信部11によって各送信アンテナ15a〜15fから所定の順序かつ所定の時間間隔で送信される。
【0037】
携帯機3は、車両側でRF1の信号受信からどのタイミングでどのアンテナからの信号が送信されるかの情報を記憶しており、また、RF1の信号を受信した時間からタイマーを起動させて受信時間を測定する。そして、両者を比較することでどの送信アンテナ15からのRssi測定用信号であるかを識別することができる。また、各送信アンテナ15a〜15fから送信される信号の時間間隔は、十分に短く設定されている。したがって、全ての各送信アンテナ15a〜15fから送信されるのに必要な1周期の間において、人によって携帯される或いは置かれた携帯機3の位置は大きく移動しないと見なせる。携帯機が移動している場合、厳密には、一定の位置での信号強度データではないが、このように十分短い時間間隔としているので取得したデータは携帯機の所定位置における信号強度データと見なせる。なお、1周期が十分に早い場合には必ずしも1つの周期におけるデータとせず、次の周期との平均値等しても良い。
【0038】
各送信アンテナ15a〜15fから送信されたRssi測定用信号を含む位置確認信号LF2は、携帯機3の携帯機受信部20によって受信される(S8)。携帯機制御部22は、上述のように各Rssi測定用信号の強度を三軸アンテナ23で測定し、その三軸アンテナ23から求めた各送信アンテナ毎の信号強度データの情報をアンサー信号RF2として車両側装置2に送信する(S9)。またこの際、アンサー信号RF2には、個々の携帯機に一義的に設定されているIDであるHU−IDも含めて送信される。なお、信号の強度測定は、車両1側からRssi測定用信号を送信して、携帯機3側でその強度を測定するものには限られず、車両1側から送信されるリクエスト信号そのものの強度を測定するものであってもよい。
【0039】
車両側装置2の車両側送信部11は、携帯機3からのアンサー信号RF2を受信する(S10)。アンサー信号RF2を受信したら、車両側制御部12はそれに含まれるHU−IDについて、車両に登録されたものと一致するか否かを判別する(S11)。ここでHU−IDが車両に登録されたものと一致しない場合には、そこでフローを終了する。一方、HU−IDが車両に登録されたものと一致する場合には、次に携帯機3が車両1の内外いずれに位置するかを判定する(S12)。
【0040】
リクエスト信号LF1の送受信時においては、当該リクエスト信号LF1を送信してから各携帯機3毎に異なる時間の後にアンサー信号RF1を送信し、この時間を測定することによって複数の携帯機3のうちどれから応答があるかによって迅速かつ簡易に携帯機3を特定する。リクエスト信号LF2の送受信時には、リクエスト信号LF1において検出した携帯機3に対して最初により情報量の大きい携帯機の個別IDを用いた正確な認証と位置の確認を行う。そして、認証ができなかった場合にはそれぞれの携帯機3に対して同様の動作を行う。なお、リクエスト信号LF1での携帯機3の特定を省略して、ここの携帯機3の認証のみを行う、あるいは個々の携帯機3の認証をRssi測定信号の送信の後に行うようにすることもできる。
【0041】
携帯機3の位置判定は、以下のフローに沿ってなされる。図6には、携帯機3の位置判定のフローチャートを示している。まず車両側制御部12は、携帯機3から送信されたアンサー信号RF2に含まれるデータから、強度と該強度がどの送信アンテナ15から送信された信号であるかを特定する(S12−1)。
【0042】
次に、車両側制御部12は、各送信アンテナ15に故障が生じているか否かを検出する(S12−2)。いずれの送信アンテナ15にも故障が生じていない場合には、携帯機3からの信号強度データを全てそのまま用いてマハラノビス距離を算出する。一方、いずれかの送信アンテナ15に故障が生じている場合には、以下のような処理を行う。
【0043】
車両側制御部12は、まず送信アンテナ15aが故障しているか否かを判断し(S12−3)、故障している場合には、上述の(1)式において、番号1の送信アンテナ15aにかかる項を0としてマハラノビス距離の算出を行う。(1)式において(Li−mi)/σiの項をXiとし、(Lj−mj)/σjの項をXjとすると、(1)式は以下のように表される。
【0044】
【数2】

【0045】
番号1の送信アンテナ15aが故障していた場合には、X1の値を0にセットする(S12−4)。以下、他の送信アンテナ15について、順次故障の有無を判断する。送信アンテナ15aが故障していない場合には、送信アンテナ15bが故障しているか否かを判断し(S12−5)、故障している場合には、(1)式中のX2の値を0にセットする(S12−6)。送信アンテナ15bが故障していない場合には、次いで送信アンテナ15cが故障しているか否かを判断し(S12−7)、故障している場合には、(1)式中のX3の値を0にセットする(S12−8)。送信アンテナ15cが故障していない場合には、次いで送信アンテナ15dが故障しているか否かを判断し(S12−9)、故障している場合には、(1)式中のX4の値を0にセットする(S12−10)。送信アンテナ15dが故障していない場合には、次いで送信アンテナ15eが故障しているか否かを判断し(S12−11)、故障している場合には、(1)式中のX5の値を0にセットする(S12−12)。送信アンテナ15eが故障していない場合には、送信アンテナ15fが故障していることとなるので、(1)式中のX6の値を0にセットする(S12−13)。
【0046】
このように、Xi及びXjは、送信アンテナ15に故障がない場合には、次のステップで通常通り計算がなされてマハラノビス距離の算出に用いられるが、送信アンテナ15のいずれかに故障がある場合には、当該送信アンテナ15からの信号強度データにかかる部分が0にセットされてマハラノビス距離の算出に用いられる。
【0047】
次に、メモリ13からパラメータが読み込まれて、マハラノビス距離の算出が行われる(S12−14)。マハラノビス距離は、携帯機3で取得された信号強度データと第1データ群とのマハラノビス距離と、携帯機3で取得された信号強度データと第2データ群とのマハラノビス距離が、それぞれ算出される。
【0048】
マハラノビス距離を算出したら、車両側制御部12は携帯機3から得た信号強度データからのマハラノビス距離が、内側データ群よりも外側データ群に近いか否かを判別する(S12−15)。外側データ群に近い場合、車両側制御部12は携帯機3が車外に位置すると判定し(S12−16)、位置判定のフローを終了する。外側データ群よりも内側データ群に近い場合は、車両側制御部12は携帯機3が車内に位置すると判定し(S12−17)、位置判定のフローを終了する。
【0049】
車両側制御部12は、携帯機3が車内にあるか、車外にあるかによってその後、異なる制御を行う(S13)。携帯機3の位置が車内にあると判別した場合には、そのままフローを終了する。リクエストスイッチ16を押してドアを解錠させる際には、携帯機3は車外にあるはずであって、使用者と共に携帯機3が車内にある場合にドアを解錠させると、携帯機3を持っていない人でもリクエストスイッチ16を押してドアを解錠させることができてしまう。これを防ぐために、携帯機3が車内にある場合には、ドアを解錠しないようにしている。一方、携帯機3の位置が車外にあると判別した場合には、ドアの施錠装置(図示しない)に対して解錠の指令信号を出力し、ドアを解錠する(S14)。
【0050】
ここではリクエストスイッチ16を押してドアを解錠する動作について示したが、ドアを施錠する動作についても同様に携帯機3の位置判別を行って、その結果に応じた制御を行うことができる。また、ドアの施錠・解錠動作に限らず、携帯機3の位置に応じてエンジンを起動させるなどの動作についても、同様に携帯機3の位置判別を行って、その結果に応じて動作させることができる。
【0051】
このように、送信アンテナ15の故障の有無を検出し、故障した送信アンテナ15からの信号強度はマハラノビス距離の算出に用いないようにすることで、送信アンテナ15が故障した際にも、携帯機3の位置判別の精度をほぼ維持することができる。
【0052】
本実施形態では、故障した送信アンテナ15がある場合に、マハラノビス距離の算出式中、当該送信アンテナ15からの信号強度にかかる項を0にセットして計算を行うようにしたが、当該送信アンテナ15からの信号強度にかかる項の計算をスキップするアルゴリズムとしてもよい。
【0053】
送信アンテナ15に故障が生じた場合に、携帯機3の位置判別の精度をほぼ維持する手法としては、別の形態を採用することもできる。この形態においては、車両側制御部12のメモリ13に記憶させるパラメータを、送信アンテナ15の故障パターン毎に設定する。
【0054】
まず、パラメータを算出するためのデータとしては、前形態と同様に全ての送信アンテナ15の信号強度データからなる内側データ群と外側データ群を取得する。そして、全ての信号強度データから故障なしの場合のパラメータを算出し、番号1の送信アンテナ15aからの信号強度データ以外の信号強度データから番号1の送信アンテナ15aが故障した場合のパラメータを算出し、番号2の送信アンテナ15bからの信号強度データ以外の信号強度データから番号2の送信アンテナ15bが故障した場合のパラメータを算出し、以下同様に各番号の送信アンテナ15からの信号強度データ以外の信号強度データから当該番号の送信アンテナ15が故障した場合のパラメータをそれぞれ算出する。これらのパラメータは、全て車両側装置2のメモリ13に記憶しておく。
【0055】
携帯機3の位置を判別する際には、図6の場合と同様に送信アンテナ15の故障の有無を車両側制御部12で検出し、故障がない場合には前述の故障なしの場合のパラメータを用いてマハラノビス距離を算出する。一方、故障がある場合には、故障した送信アンテナ15に対応するパラメータを用いて、当該故障した送信アンテナ15以外の送信アンテナ15からの信号強度データのみでマハラノビス距離を算出する。
【0056】
このように、送信アンテナ15の故障のパターン毎に、故障した送信アンテナ15以外の送信アンテナからの信号強度データを基にしたパラメータをそれぞれ算出しておき、送信アンテナ15のいずれかの故障が検出された場合には、当該送信アンテナ15に対応するパラメータを読み出すと共に、故障していない送信アンテナ15からの信号強度データのみでマハラノビス距離を算出し、携帯機3の位置判別を行うことによっても、送信アンテナ15に故障が生じた場合に位置判定の精度をできるだけ維持することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用はこれら実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。これまで説明した実施形態では、図3に示すように送信アンテナ15を車両1内外にそれぞれ3つずつ設けているが、送信アンテナ15の数と配置はこれに限られない。なお、送信アンテナ15は多くあった方がより精度よく位置を判別することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 車両
2 車両側装置
3 携帯機
10 車両側受信部
11 車両側送信部
12 車両側制御部
13 メモリ
14 受信アンテナ
15 送信アンテナ
16 リクエストスイッチ
20 携帯機受信部
21 携帯機送信部
22 携帯機制御部
23 三軸アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられリクエスト信号を送信する複数の送信アンテナに接続される車両側送信部と、アンサー信号を受信する車両側受信部とを備えた車両側装置と、前記リクエスト信号を受信する携帯機受信部と、アンサー信号を送信する携帯機送信部とを備えた携帯機とを有したキーレスエントリー装置において、
前記車両側装置は前記携帯機からのアンサー信号を認証すると所定の制御を行う車両側制御部を備え、前記携帯機は前記車両側装置の複数の送信アンテナから送信される信号の各強度を検出する携帯機制御部を備え、
前記車両側制御部は、前記複数の送信アンテナについて故障の有無を検出し、故障していない送信アンテナからの信号強度データを用いて、前記携帯機が所定境界面の内外いずれに位置するかを判定することを特徴とするキーレスエントリー装置。
【請求項2】
前記車両側制御部は、前記所定境界面の内側に沿った際の前記複数の送信アンテナからの信号強度データからなる第1のデータ群とのマハラノビス距離と、前記所定境界面の外側に沿った際の前記複数の送信アンテナからの信号強度データからなる第2のデータ群とのマハラノビス距離とを算出するためのパラメータを記憶する記憶部を備えると共に、該記憶部のパラメータから算出されたマハラノビス距離の小さいデータ群に近似すると判別することで、前記携帯機が所定境界面の内外いずれに位置するかを判定することを特徴とする請求項1記載のキーレスエントリー装置。
【請求項3】
前記車両側制御部は、前記マハラノビス距離を算出する際に、故障が検出された送信アンテナからの信号強度データにかかる項を0とする、または当該信号強度データを用いる部分の計算をスキップすることによって、故障していない送信アンテナからの信号強度データを用いた判定を行うことを特徴とする請求項2記載のキーレスエントリー装置。
【請求項4】
車両に設けられリクエスト信号を送信する複数の送信アンテナに接続される車両側送信部と、アンサー信号を受信する車両側受信部とを備えた車両側装置と、前記リクエスト信号を受信する携帯機受信部と、アンサー信号を送信する携帯機送信部とを備えた携帯機とを有したキーレスエントリー装置において、
前記車両側装置は前記携帯機からのアンサー信号を認証すると所定の制御を行う車両側制御部を備え、前記携帯機は前記車両側装置の複数の送信アンテナから送信される信号の各強度を検出する携帯機制御部を備え、
前記車両側制御部は、前記送信アンテナ毎に当該送信アンテナ以外の送信アンテナを用いた判定のためのパラメータを記憶した記憶部を備え、前記複数の送信アンテナについて故障の有無を検出し、故障した送信アンテナがある場合には、当該送信アンテナに対応したパラメータを前記記憶部から読み出し、故障した送信アンテナ以外の送信アンテナからの信号強度データと前記パラメータに基づき、前記携帯機が所定境界面の内外いずれに位置するかを判定することを特徴とするキーレスエントリー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−189986(P2010−189986A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37616(P2009−37616)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】