説明

キーレスエントリ装置

【課題】車内に設けられたネットワークを介して複数の車載制御装置が多重通信を行う電子制御システムを搭載した車両において、施解錠時の時間遅延を抑えたキーレスエントリ装置を提供する。
【解決手段】 キーレスエントリ装置の施解錠指令出力部とドアロックアクチュエータ9との間に、施解錠指令出力部が施錠指令または解錠指令を出力したときドアロックアクチュエータ9にドアの施錠信号または解錠信号を先行して出力するドアロックアクチュエータ駆動部30を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキーレスエントリ装置に係り、特に複数の車載制御装置が車内に設けられたネットワークを介して多重通信を行う車両に好適なキーレスエントリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両に搭載された電子制御システムによって車両の運転席から当該車両における運転席のドアロックの他、車両の全ドアをロックしたりウィンドウを開閉制御したりする一括制御が行われている。
また電子技術の発展に伴い、車両の施解錠機構にも無線によってID認証確認後、自動施解錠を行う無線式自動暗号照合キー装置(以下、KOS;Keyless Operation Systemまたはスマートエントリシステムと称することがある)が市場に出現してきている。
【0003】
この種のキーレスエントリ装置は、車両のユーザが所持する携帯機および車両に搭載されたKOSにそれぞれに車両のユーザ情報(所有者ID)が予め保持され、携帯機とKOSとの間で無線通信によって所有者IDのチェック(認証)が行われる。そして、該車両のユーザであることが認証できたときKOS車載機は、ユーザから出される施錠または解錠の指令を受け付けるようになっている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
ところで現在の車両には、電子制御システムとして例えば図4に示すように、所定のデータを伝送するネットワーク1が車両内に設けられて、このネットワーク1に複数の制御装置(ECU)が接続されて相互に情報を伝達しながら該車両の監視・制御を行うようになっている。ちなみに図4に示す複数の制御装置は、車載されたエンジンおよびA/T(オートマチックトランスミッション)の制御を司るエンジン・AT統合ECU2、4WDの駆動制御を司る4WD ECU3、走行時の安定性を高める制御を行うASC ECU4、ステアリングの操舵状態を検出するハンドル角センサ5、車両のキーレスエントリ操作への応答、ヘッドライトの自動消灯機能、パワーウインドーのセーフティ機構、減光式ルームランプ、キー抜き忘れ防止機構などを集中制御するETACS6、運転者に車両の状態を表示するメータの制御を司るメータECU7、車両のドアに設けられたドアロックの制御を司るドアロックECU8およびキーレスエントリの制御を司るKOS車載機ECU10等が設けられている。これらの各ECUは、例えばCAN(Controller Area Network)のプロトコルが適用されて、ネットワーク1を介して相互通信を行うようになっている。
【0005】
尚、図4には図示しなかったがその他のECU(例えば、エアコンの制御を司るエアコンECU等)もネットワーク1に接続されて車両の電子制御システムを構成している(例えば、特許文献2を参照)。この種の電子制御システムは、ネットワーク1に各ECUがデータを出力する際、送信順番待ちによって最大数10msの遅延が発生することがある。
【特許文献1】特開平8−21136号公報
【特許文献2】国際公開第WO02/089419号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述したキーレスエントリ装置は、無線式自動照合キー装置の暗号認証に100ms〜150msの時間がかかることがある。そして、暗号認証がなされた後、ドアロックロックを施解錠するドアロックアクチュエータに施錠指令または解錠指令を出力して、ドアロックが施錠/解錠されるまでには、更にネットワーク1の伝送遅延時間およびドアロックアクチュエータの作動遅れ時間が加わる。これらの遅延時間が加わることによってドアロックの完全解錠前にユーザがドアを開ける操作を行う所謂、引っ掛かり等の不具合が生じることが懸念される。またユーザは、このような遅延時間があるためキーレスエントリ装置の反応が遅いと感じるという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、その目的は、車内に設けられたネットワークを介して複数の車載制御装置が多重通信を行う電子制御システムを搭載した車両において、施解錠時の時間遅延を抑えたキーレスエントリ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成すべく本発明のキーレスエントリ装置は、車両に搭載されて所定のデータを伝送するネットワークと、上記車両に搭載されて該車両のユーザが所持する携帯機との間で無線通信を行って所定の情報を交換する無線部と、前記携帯機が送出した上記車両の所有者情報と予め保持された該車両の所有者情報とが一致したとき、ドアロックの施錠または解錠の要求を受けて上記ネットワークに該ドアロックの施錠指令または解錠指令を出力する施解錠指令出力部と、この施解錠指令出力部が前記ネットワークに送出した前記ドアロックの施錠指示または解錠指示を受けて前記ドアロックを施錠または解錠するドアロックアクチュエータに施錠信号または解錠信号を出力するドアロック制御部と
を備えたキーレスエントリ装置であって、
前記施解錠指令出力部と前記ドアロックアクチュエータとの間に介挿されて、該施解錠指令出力部が施錠指令または解錠指令を出力したとき、前記ドアロックアクチュエータに該ドアの施錠信号または解錠信号を先行して出力するドアロックアクチュエータ駆動部を備えることを特徴としている。
【0009】
したがって上述のキーレスエントリ装置は、施解錠指令出力部によるユーザ認証が完了すると、ドアロック制御部の施解錠指令に先立って直ちにドアロックアクチュエータ駆動部を駆動して施解錠する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のキーレスエントリ装置によれば、複数の制御装置がネットワークを介して多重伝送を行う電子制御システムが搭載された車両であっても、施解錠指令出力部と前記ドアロックアクチュエータとの間にドアロックアクチュエータ駆動部を介挿しているので、施解錠指令出力部が施錠指令または解錠指令を出力したとき、ドアロックアクチュエータにドアロックの施錠信号または解錠信号を先行して出力することができ、施解錠時にかかる時間遅れを抑えることができる。
【0011】
この時間遅延は、ネットワークに接続された制御装置が多いほど効果的であり、また、ネットワーク上で伝送されるデータ量の大小によらず常に一定な遅延時間、ネットワークに伝送されるデータ遅延の揺らぎの影響を受けることがない等の実用上多大なる効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るキーレスエントリ装置について添付図面を参照しながら説明する。尚、図1〜図3は発明を実施する形態の一例であって、図中、図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わし、基本的な構成は図に示す従来のものと同様である。また、図1は、図4に示した従来の車両における電子制御システムと同様な箇所を除いて本発明の特徴を示すべくネットワーク1、車両のドアに設けられたドアロックの制御を司るドアロックECU8および後述する車両のユーザが所持する携帯機20と無線通信を行ってキーレスエントリの制御を実行するKOS車載機ECU10を取り出して描いたものである。したがって、図1には図示していないがネットワーク1には、前述した背景技術で説明した各種のECUが接続されている。
【0013】
KOS車載機ECU10は、後述する車両のユーザが所持する携帯機20から送信周波数f1(専らUHF帯の周波数)で送出された情報を受信するKOS車載機受信部10aおよび携帯機20に対して情報を送信周波数f2(専らLF帯の周波数)で送信するKOS車載機送信部10bおよびこれら受信部10a並びに送信部10bの作動を制御すると共に、車両のユーザ情報を保持し、KOS車載機受信部10aから受け取った携帯機20から送出されたユーザ情報と予め保持したユーザ情報とを比較してユーザ認証を行うKOS車載機制御部10cを備える。このように構成されたKOS車載機EOS10は、ネットワーク1に接続されて、認証結果をこのネットワーク1に接続された各ECUに伝送する。
【0014】
一方、ユーザが所持する携帯機20は、KOS車載機ECU10から送信された情報を受信する携帯機受信部20a、KOS車載機ECU10に対してユーザID情報等を送出する携帯機送信部20bおよびこれら携帯機受信部20a並びに携帯機送信部20bの作動を制御すると共に、車両のユーザ情報(ユーザID)を保持する携帯機制御部20cを備えている。
【0015】
また車両のドアに設けられたドアロックの制御を司るドアロックECU8は、後述するドアロックアクチュエータ駆動部30を介してドアに設けられたドアロックを施錠/解錠するドアロックアクチュエータ9にドアロックECU解錠信号およびドアロックECU施錠信号を与えるようになっている。
概略的には上述したように構成された本発明のキーレスエントリ装置が特徴とするところは、ドアロックECU8とドアロックアクチュエータ9との間にドアロックECU8が出力するドアロックECU解錠信号およびドアロックECU施錠信号に先行してドアロックを施錠/解錠する信号をドアロックアクチュエータ9に与えるドアロックアクチュエータ駆動部30を備えた点にある。
【0016】
このドアロックアクチュエータ駆動部30は、上述したユーザが所持する携帯機20によって送出されたユーザID(所有者情報)とKOS車載機制御部10cが予め保持した車両のユーザを表す所有者情報とが一致したとき、KOS車載機制御部10cが解錠または施錠の指令をドアロックアクチュエータ駆動部30に直接出力してドアロックアクチュエータ9施錠駆動または解錠駆動する。
【0017】
このドアロックアクチュエータ駆動部30は、ドアロックECU8またはKOS車載機制御部10cからそれぞれ出力されるドアロックECU施錠信号またはKOS車載機施錠信号のいずれかが有効になったとき、ドアロックアクチュエータ9に施錠信号を出力する施錠信号生成部31と、ドアロックECU解錠信号またはKOS車載機解錠信号のいずれかが有効になったとき、ドアロックアクチュエータ9に解錠信号を出力する解錠信号生成部32を備えている。
【0018】
具体的にドアロックアクチュエータ9に解錠信号を出力する解錠信号生成部32についてその原理的構成図を示す図2のシーケンス図およびその作動を示した図3のタイミングチャートを用いてより詳細に説明する。
さて、図2においてPおよびNは、それぞれ電源ラインの正極側および負極(接地極)側を示している。Pラインには、メーク接点D−ECUが接続されている。このメーク接点D−ECUは、ドアロックECU8が出力するドアロックECU解錠信号によってメーク(閉路)される。この接点D−ECUがメークされると接点D−ECUの他端とNラインとの間に介挿されたリレーXが励磁されて、接点Xが作動する。
【0019】
次にPラインには、メーク接点KOSが接続されている。このメーク接点KOSは、KOS車載機制御部10cが出力するKOS車載機施錠信号によって閉じられる。接点KOSが閉じられると接点KOSの他端とNラインとの間に介挿されたリレーYが励磁されて接点Yが作動する。この接点KOSとコイルYとの間には更にブレーク接点Xが介挿されて、解錠信号生成部32の解錠信号入力部32aを構成する。
【0020】
またコイルXおよびコイルYが励磁されたとき、それぞれ閉じられるメーク接点Xおよび接点Yがそれぞれ並列に接続されて解錠信号生成部32の解錠信号出力部32bを構成し、この一端がPラインに、他端にはNラインとの間に介挿されるリレーRELが接続されている。このリレーRELは、励磁されることによってメーク接点RELが閉路し、図示しないドアロックアクチュエータを駆動し、ドアロックを解錠する役割を担っている。
【0021】
尚、図2において破線で囲まれた解錠信号生成部32(解錠信号入力部32aおよび解錠信号出力部32b)が新たに追加した本発明を特徴付ける回路であって、それ以外の回路は、従来のドアロックアクチュエータに指令を出す回路そのものである。
さて、前述したKOS車載機制御部10cは、ドア解除指示が入力されたとき、ユーザが所持する携帯機20が送出したユーザID(所有者情報)とKOS車載機制御部10cが予め保持した車両のユーザを表す所有者情報とが一致するかを判定する。この判定に要する時間をT1とする。そしてKOS車載機制御部10cは、判定の結果、車両の所有者であると判定したときネットワーク1にドアロック解錠指令を送出すると共に、解錠信号入力部32aの接点KOSを閉じる。そして解錠信号入力部32aの閉じているブレーク接点Xを介してリレーYが励磁されて解錠信号出力部32bのメーク接点Yが閉じる。するとリレーRELが励磁されて、接点RELが閉じ、ドアロック解錠信号がドアロックアクチュエータに与えられてドアロックを解錠する。
【0022】
次いで、ドアロックECU8は、ネットワーク1を介してKOS車載機制御部10cから出力されたドアロック解錠指令を受けて接点D−ECUを閉じてリレーXを励磁する。すると引き続きリレーRELを励磁し続けて接点RELが閉じ続けると共に、解錠信号入力部32aのブレーク接点Xを開いてリレーYの励磁を止める。すると解錠信号出力部32bの接点Yは開く。
【0023】
その後、ユーザからのドアロック解錠指令入力がなくなると接点KOSが開くと共に、ドアロックECU8が駆動していた接点D−ECUを開いてリレーXの励磁を解除する。このとき、解錠信号出力部32bの接点Xが開くのでリレーRELの励磁が解除されて接点RELが閉じて、一連のドアロック解錠動作が終了する。
ちなみに、従来のキーレスエントリ装置においてドアロックアクチュエータ9に解錠信号を出すまで、つまりドアロック解錠指示入力があってから接点RELが閉じるまで時間をT3とすれば、本発明のキーレスエントリ装置は、ドアロックECU8が出力する解錠信号に先立ってKOS車載機制御部10cが直接リレーRELを駆動しているので、[T3−T1=T2]だけ早くドアロック解錠指令を出力することができる。
【0024】
尚、上述した説明は解錠信号生成部32についての説明であるが、施錠信号生成部31も同様であるので説明を省略する。つまり、上述した解錠信号生成部32を施錠信号生成部31に、ドアロック解錠指令をドアロック施錠指令に、解錠信号入力部32aを施錠信号入力部に、解錠信号出力部32bを施錠信号出力部にそれぞれ読み替えればよく、施錠動作も上述した解錠動作と同様に行われる。
【0025】
かくして本発明のキーレスエントリ装置によれば、複数の制御装置(ECU)がネットワーク1を介して接続されて、互いに多重伝送を行う電子制御システムが搭載された車両であっても、ドアロックECU8とドアロックアクチュエータ9との間にドアロックアクチュエータ駆動部30を介挿し、ドアロックアECU8の施錠指令または解錠指令に先立って、KOS車載機ECU10がドアロックECU8の施錠指令または解錠指令を出力するので、ドアロックの施解錠にかかる時間遅れを抑えることができる。このためユーザは、制御遅れを感じることがなくドアロックの施解錠を行うことができる。
【0026】
また、本発明のキーレスエントリ装置は、例えばドアロックECU8とドアロックアクチュエータ9とがコネクタで接続されている場合、このコネクタに本発明のドアロックアクチュエータ駆動部30を介挿すればよいので、既存の車両への適用も容易である。
特に本発明のキーレスエントリ装置は、車両に搭載されたネットワーク1に接続される制御装置(ECU)が多いほど効果的であり、また、ネットワーク上で伝送されるデータ量の大小によらず常に一定な遅延時間、ネットワークに伝送されるデータ遅延の揺らぎの影響を受けることがない等の実用上多大なる効果を奏する。
【0027】
尚、上述の実施例では、KOS車載機の制御信号によって先行して制御を行なうドアロックアクチュエータ駆動部に、リレーシーケンスを利用した回路で説明したが、本発明のキーレスエントリ装置は、その他、トランジスタやダイオード等の半導体素子を用いたシーケンス回路、所謂無接点シーケンス回路で構成してもよい。この場合、接点切り替えに要する時間が機械式リレーと異なり短時間で終了するため、制御切替時の連続性を維持する点からも好ましい。
【0028】
また、本発明のキーレスエントリ装置は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係るキーレスエントリ装置の主要部を示す概略ブロック図である。
【図2】図1に示すドアロックアクチュエータを駆動する駆動回路の作動を示すシーケンス図である。
【図3】図2に示すシーケンス図の作動を示すタイミングチャートである。
【図4】車両に搭載される複数の制御装置(ECU)からなる電子制御システムの一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ネットワーク
8 ドアロックECU
9 ドアロックアクチュエータ
10 KOS車載機ECU
10a KOS車載機受信部
10b KOS車載機送信部
10c KOS車載機制御部
20 携帯機
20a 携帯機受信部
20b 携帯機送信部
20c 携帯機制御部
30 ドアロックアクチュエータ駆動部
31 施錠信号生成部
32 解錠信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて所定のデータを伝送するネットワークと、
上記車両に搭載されて該車両のユーザが所持する携帯機との間で無線通信を行って所定の情報を交換する無線部と、
前記携帯機が送出した上記車両の所有者情報と予め保持された該車両の所有者情報とが一致したとき、ドアロックの施錠または解錠の要求を受けて上記ネットワークに該ドアロックの施錠指令または解錠指令を出力する施解錠指令出力部と、
この施解錠指令出力部が前記ネットワークに送出した前記ドアロックの施錠指示または解錠指示を受けて前記ドアロックを施錠または解錠するドアロックアクチュエータに施錠信号または解錠信号を出力するドアロック制御部と
を備えたキーレスエントリ装置であって、
前記施解錠指令出力部と前記ドアロックアクチュエータとの間に介挿されて、該施解錠指令出力部が施錠指令または解錠指令を出力したとき、前記ドアロックアクチュエータに該ドアの施錠信号または解錠信号を先行して出力するドアロックアクチュエータ駆動部を備えることを特徴とするキーレスエントリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−2561(P2007−2561A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184839(P2005−184839)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】