説明

キー感触検査装置、キー感触検査方法、およびそのプログラム

【課題】 高速打鍵した際の空気の流れに起因する減衰力を補正し、動的なクリック率を、ゆっくり打鍵した時の静的なクリック率に変換して品質検査を行う技術を提供する。
【解決手段】
キー感触検査装置に関し、打鍵繰返しの速度に対する押圧力の変化を示す減衰特性を予め求めておき,シェル構造体のストローク変位−荷重特性の繰り返し試験によって求めた動的なクリック率から静的なクリック率を算出し、補正した静的なクリック率に基づいてキー入力デバイスのクリック感を検査することを特徴とする装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キー入力デバイスのキー感触検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などに使用するキーは、メタルドームのようなシェル構造体を有し、操作感を付与するためのクリック感を持っている。キー押下時におけるクリック感は、メタルドームが飛び移り現象と呼ばれる座屈を起こす時の荷重変化によって生まれる。
【0003】
キー押下時に、メタルドームを変形させた時に生じる反力は、ある程度までは荷重に応じて連続的に変形するが、極大荷重P1に達すると飛び移り座屈現象を起こし、回路基板に到達する極小荷重P2まで低下する(図2参照)。
【0004】
従来、キー入力デバイスにおけるクリック感は、η=(P1−P2)/P1で定義されるクリック率ηを用いて評価されることが多く、このクリック率ηが大きくなる程、クリック感が良いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−201249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、クリック感を持つキー入力デバイスの検査工程において、製品が組み立てられた状態で計測される荷重は、キーを押下したときの空気の流れによる減衰力の影響を受け、打鍵速度に応じて変化する。例えば、高速打鍵時の動的なクリック率は、低速打鍵時の静的なクリック率よりも低く計測される。
【0007】
通常、品質管理上は打鍵速度の影響を除外するために静的なクリック率が用いられるが、キー毎にメタルドームの変位と荷重の関係を測定するのは、時間がかかり煩雑である。一方、組立ラインにおいて、組み上がったキー入力デバイスのクリック率検査を自動化する場合は、処理時間の短縮が求められるため動的なクリック率を用いる必要がある。しかし、良品判定において、判定基準としての静的なクリック率に対し、動的なクリック率の方が低い値になるため、不良品の過剰検出が生じてしまう。
【0008】
そこで、本発明では、キー入力デバイスの組立ラインにおけるクリック率検査の精度を向上させるキー感触検査技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の一つの態様は、キー入力デバイスのキー感触検査装置であって、キー押下時におけるシェル構造体が飛び移り座屈現象を起こす極大加重と極小荷重を測定する荷重測定手段と、前記極大荷重と前記極小荷重の差に対する前記極大荷重の比として定義されるクリック率を算出するクリック率算出手段と、打鍵速度に対する前記極大荷重及び前記極小荷重をプロットした荷重曲線からキー押下時に伴う荷重を減衰させる減衰力を同定する減衰力同定手段と、前記荷重曲線から打鍵速度をゼロとしたときの減衰力を推定し、前記打鍵速度ゼロの前記極大荷重と前記極小荷重を使って前記クリック率を補正する補正手段と、補正した前記クリック率の値によって前記キー入力デバイスのクリック感の良否判定を行う良否判定手段と、を有することを特徴とするキー感触検査装置に関する。
【発明の効果】
【0010】
上記発明の一態様によれば、動的クリック率から静的クリック率を求めることができ、品質管理で用いられる静的クリック率と同じ基準で高速検査が可能となり、製品の組立ライン上での自動検査において不良品の過剰検出が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態になるキー入力デバイスのキー感触検査装置の一基本構成を示す図である。
【図2】測定対象となるキー入力デバイスのキー構成例を示す図である。
【図3】押しボタンスイッチにおけるメタルドームの飛び移り座屈現象を説明する図である。
【図4】高速打鍵時におけるクリック率の変化を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態になるクリック率の減衰特性による補正を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態になる減衰特性の補正を説明する図である。
【図7】本発明の実施の形態になる補正された減衰曲線と実測値の関係を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態になる減衰特性の同定処理フローを示す図である。
【図9】本発明の実施の形態になる補正されたクリック率によってキー感触を検査する検査処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、キー入力デバイスのキー感触検査装置の一基本構成を示す。キー感触検査装置1は、CPU(Central Processing Unit )3、メモリ4、および検査処理部10を有するコンピュータである。
【0014】
また、検査処理部10は、荷重測定手段11、クリック率算出手段12、減衰力同定手段13、補正手段14、および良否判定手段15を有する。
【0015】
荷重測定手段11は、キー入力デバイス2の各押しボタンスイッチのキートップが押下されたときに、シェル構造体(メタルドーム)が飛び移り座屈現象を起こす極大加重P1と極小荷重P2を力センサによって測定する。測定された極大加重P1と極小荷重P2の値は、記憶部20に格納される。また、クリック率算出手段12は、測定荷重P1、P2から(P1−P2)/P1として定義されるクリック率を算出する。
【0016】
さらに、減衰力同定手段13は、シェル構造体においてキーの打鍵速度に応じて発生する空気の流れ及び粘着シート部材の熱膨張に対する荷重の減衰力を同定し、補正手段14は、打鍵速度ゼロのときの荷重P1、P2についての減衰力を推定し、その打鍵速度ゼロの荷重を使ってクリック率を補正する。
【0017】
そして、良否判定手段15が、補正された前記クリック率の値によって前記キー入力デバイスのクリック感の良否判定を行う構成となっている。
【0018】
図2は、測定対象とするキー入力デバイスのキー構成例を示す。図2(a)は、キー入力デバイスの構成(上面図)を示し、図2(b)は、一つのキー部分の構成(断面図)を示している。
【0019】
複数ある個々のキーは、電極301を備えた回路基板300上にメタルドーム(シェル構造体)100の両端部が接触し、メタルドーム100の上面に粘着シート部材200が貼り付けられている。キー入力デバイスは、複数のキー部分を覆うように、粘着シート部材200が取り付けられ、その粘着シート部材200には、直交する複数のシート溝201が設けられている。キー押下時にメタルドームに発生する空気は、シート溝201を介して外に流れる構造となっている。
【0020】
図3は、押しボタンスイッチにおけるメタルドームの飛び移り座屈現象を説明する図である。図3(a)は、キーにおける押下時の荷重の測定系を示し、図3(b)は、メタルドームの変位と反力の関係を示している。
【0021】
図3(a)に示すように、回路基板に対しメタルドームを押下したときの荷重に対するメタルドームからの反力Fが力センサによって測定され、メタルドームの変位分としてのストロークXに対する反力(荷重)Fとの関係が図3(b)のように得られる。
【0022】
反力Fは、ある程度まで荷重に応じて連続的に変形し、P1(極大荷重)に達すると座屈が開始して飛び移り現象を起こし、回路基板に到達するP2(極小荷重)まで低下する。このときのP1,P2を用いて、押しボタンスイッチのキー感触を評価する指標としてクリック率η=(P1−P2)/P1が定義される。
【0023】
図4は、高速打鍵時におけるクリック率の変化を示す。キー入力デバイス2を高速で打鍵すると、図4(a)に示す(1)の静的な荷重曲線におけるP1、P2は、図4(b)の打鍵速度(v)に対する荷重(F)のプロットに見られるように、P1’、P2’へとシフトし、図4(a)の(2)のような荷重曲線となる。したがって、動的なクリック率η=(P1’−P2’)/P1’は、静的なクリック率η=(P1−P2)/P1よりも低くなる。
【0024】
従来、品質基準は静的なクリック率の値を適用していたため、キー入力デバイスのクリック率の良否判定において不良品の過剰検出が発生する傾向にあった。
【0025】
図5は、クリック率の減衰特性による補正を示す。図5(a)は、打鍵速度vに対するキー押下の荷重を示し、図5(b)は、極大荷重P1を例に、キー入力デバイスとしての個体A、Bの打鍵速度vに対するキー押下の荷重を示している。減衰特性は、粘着シート溝による流路の減衰特性と膨張の影響で決まり個体差は小さいが、静荷重については個体差がある。
【0026】
したがって、あるキー入力デバイスの個体について打鍵速度と荷重の関係を計測し、減衰特性を同定し、別の個体でも減衰特性は同じとして、動荷重P1’、P2’より静荷重P1、P2を推定して静的なクリック率に換算することが、キー感触の検査では評価精度を向上させることとなる。
【0027】
図6は、キー押下時における荷重の減衰特性の補正を示す。図6では、極大荷重P1を例として示している。荷重の減衰要因としては、主に、キー押下時に打鍵速度vに応じて発生する空気の流れによる減衰力分(avα(aは係数、α<1)として表され、グラフでは点線で示している)と、粘着シート部材の膨張による圧力低下の減衰力分(bv(b<0)として表され、グラフでは細い実践で示している)とがある。
【0028】
図6に示すように、打鍵速度vに対する動荷重は、vが大きくなるにしたがってこれらの減衰力分だけ静荷重より大きい値となる。したがって、静荷重は、品質管理で用いられる静的なクリック率と同じ基準で検査可能とするように、これらの減衰力分を補正した減衰曲線(太い実線)を用いて、静的荷重を求めてクリック率を補正する必要がある。
【0029】
この減衰曲線を推定して打鍵速度vがゼロとなるP1(0)の点を求める。また、同様に、極小荷重P2についてP2(0)を求め、これらP1(0)、P2(0)を静荷重としてクリック率の算出に適用する。
【0030】
なお、打鍵速度vがゼロとなるときの静荷重P1(0)、P2(0)は、以下のような式で表わせる。
【0031】
【数1】

図7は、補正された減衰曲線と実測値の関係を示したものである。図中、●印は、実機による実測値を示し、実線は、打鍵速度vに対する動荷重の式2による理論値を示している。打鍵速度vに対する動荷重の理論式は、以下の式2のようになる。
【0032】
【数2】

式2において、α、a、bは、計測対象のキー入力デバイスの個体毎に求められる。その測定結果は、式3に示すような行列式として近似する。なお、nは、測定点数であり、M-1は、一般化逆行列を示している。
【0033】
【数3】

そして、以下に示す式4を使い、α=0〜1の間で誤差の二乗和eを最小化するαを数値計算で求める。このように計算した結果、ある実機の例では、FO =171.6gf、α=0.5、a=14.65、b=−3.0として算出された。
【数4】

【0034】
図8は、減衰特性の同定処理フローを示す。まず、ステップS11において、キー感触検査装置1の測定対象とするキー入力デバイス2に、標準端末(個体)をセットする。
【0035】
つぎに、ステップS12において、荷重測定手段11は、個体に備わる複数のキーから測定対象キーを選定し、ステップS13において、打鍵速度を変更し、ステップS14において、キー押下時の荷重を測定し、メタルドームが飛び移り座屈現象を起こすときの極大荷重P1と極小荷重P2のデータを収集し、記憶部20に保存する。
【0036】
また、ステップS15において、予め予定した全打鍵速度vについてのデータが収集されたかを判定する。全速度についてのデータ収集が完了していなければ、ステップS13以降の処理を繰り返す。全打鍵速度vについてのデータ収集が完了していれば、ステップS16において、全キーについての測定が完了したかを判定し、完了していなければ、ステップS12に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0037】
全キーについてのデータ収集が完了していれば、ステップS17において、減衰力同定手段13は、記憶部20に保存されたP1、P2を使用して、打鍵速度に対するキーの動荷重から打鍵速度ゼロのときの静荷重を推定するキー押下時の空気の流れによる減衰力と粘着シートの膨張による圧力低下が重畳された減衰曲線を同定する。
【0038】
そして、ステップS18において、同定の結果、決定された式1における係数α、a、bを記憶部20に保存する。
【0039】
図9は、補正されたクリック率によってキー感触を検査する検査処理フローを示す。
【0040】
まず、ステップS21において、キー感触検査装置1の測定対象とするキー入力デバイス2として、量産端末をセットする。
【0041】
つぎに、ステップS22において、荷重測定手段11は、打鍵速度をある値Vに設定する。ステップS23において、測定対象のキーを選定し、ステップS24において、メタルドームが飛び移り座屈現象を起こすときの極大荷重P1と極小荷重P2を測定する。
【0042】
ステップS25において、全キーについての測定が完了したかを判定し、完了していなければ、ステップS23に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0043】
全キーについてのデータ収集が完了していれば、ステップS26において、補正手段14は、記憶部20に保存された減衰推定式を使って、端末個体毎に打鍵速度ゼロのときのP1、P2の荷重をP1(0)=P1(V)−f1(V)、P2(0)=P2(V)−f2(V)として補正し、静的なクリック率を算出する。
【0044】
ステップS27において、良否判定手段15は、補正されたクリック率が良品とする閾値を満足するかを判定する。所定の閾値以上であれば、良品と判定し(ステップS28)、閾値以下であれば、不良品と判定する(ステップS29)。
【0045】
以上の本発明によって、動的クリック率から静的クリック率を求める事が可能になる。これにより、品質管理で用いられる静的クリック率と、ラインでの高速検査の結果の整合性が取れるため、不良品の過剰検出の問題が解消される。また、動的クリック率の基準を製品の統計データから取得する必要が無くなるため、運用コストや製品切り替え時の作業の低減が可能となる。
【0046】
さらに、物理モデルを特定して減衰パラメータを同定するため、多項式近似した場合と比較して近似曲線が振動的にならず、計算が安定する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
携帯電話やPDAなどクリック感を有するキー入力デバイスの検査システム。
【符号の説明】
【0048】
1 キー感触検査装置
2 キー入力デバイス
3 CPU
4 メモリ
10 検査処理部
11 荷重測定手段
12 クリック率算出手段
13 減衰力同定手段
14 補正手段
15 良否判定手段
20 記憶部
100 メタルドーム
200 粘着シート部材
201 シート溝
300 回路基板
301 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キー入力デバイスのキー感触検査装置であって、
キー押下時におけるシェル構造体が飛び移り座屈現象を起こす極大加重と極小荷重を測定する荷重測定手段と、
前記極大荷重と前記極小荷重の差に対する前記極大荷重の比として定義されるクリック率を算出するクリック率算出手段と、
打鍵速度に対する前記極大荷重及び前記極小荷重をプロットした荷重曲線からキー押下時に伴う荷重を減衰させる減衰力を同定する減衰力同定手段と、
前記荷重曲線から打鍵速度をゼロとしたときの減衰力を推定し、前記打鍵速度ゼロの前記極大荷重と前記極小荷重を使って前記クリック率を補正する補正手段と、
補正した前記クリック率の値によって前記キー入力デバイスのクリック感の良否判定を行う良否判定手段と、
を有することを特徴とするキー感触検査装置。
【請求項2】
前記荷重の減衰力は、キー押下時に前記シェル構造体と前記シェル構造体を粘着シート部材と回路基板の間に挟み込んで固定するキー構造の粘着シート部材のシート溝で形成される空気流通路における空気の流れによる減衰力と、前記粘着シート部材の熱膨張による減衰力を含むことを特徴とする請求項1に記載のキー感触検査装置。
【請求項3】
キー入力デバイスのキー感触検査方法であって、
キー押下時におけるシェル構造体が飛び移り座屈現象を起こす極大加重と極小荷重を測定する荷重測定ステップと、
前記極大荷重と前記極小荷重の差に対する前記極大荷重の比として定義されるクリック率を算出するクリック率算出ステップと、
打鍵速度に対する前記極大荷重及び前記極小荷重をプロットした荷重曲線からキー押下時に伴う荷重を減衰させる減衰力を同定する減衰力同定ステップと、
前記荷重曲線から打鍵速度をゼロとしたときの減衰力を推定し、前記打鍵速度ゼロの前記極大荷重と前記極小荷重を使って前記クリック率を補正する補正ステップと、
補正した前記クリック率の値によって前記キー入力デバイスのクリック感の良否判定を行う良否判定ステップと、
を有することを特徴とするキー感触検査方法。
【請求項4】
キー入力デバイスのキー感触検査装置に適用されるプログラムであって、
コンピュータに、
キー押下時における前記シェル構造体が飛び移り座屈現象を起こす極大加重と極小荷重を測定する荷重測定ステップと、
前記極大荷重と前記極小荷重の差に対する前記極大荷重の比として定義されるクリック率を算出するクリック率算出ステップと、
打鍵速度に対する前記極大荷重及び前記極小荷重をプロットした荷重曲線からキー押下時に伴う荷重を減衰させる減衰力を同定する減衰力同定ステップと、
前記荷重曲線から打鍵速度をゼロとしたときの減衰力を推定し、前記打鍵速度ゼロの前記極大荷重と前記極小荷重を使って前記クリック率を補正する補正ステップと、
補正した前記クリック率の値によって前記キー入力デバイスのクリック感の良否判定を行う良否判定ステップと、
を実行させるキー感触検査装置のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−209772(P2011−209772A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73812(P2010−73812)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】