ギアシフト装置
【課題】高い加工精度が要求されることのない自動変速機用ギアシフト装置を提供する。
【解決手段】変速機に設けられた噛合機構のスリーブと係合するシフトフォークに接続される複数のシフトレール2と、シフトレール2を押圧可能なシフトフィンガ3と、シフトフィンガ3をセレクト方向及びシフト方向に移動自在な移動機構4とを備えるギアシフト装置1において、各シフトレール2には、シフトフィンガ3と当接するための互いに対向した一対の当接面2bが設けられ、各シフトレール2は、シフトフィンガ3のみによってシフト方向へ移動され、一対の当接面2bの間隔は、複数のシフトレール2が互いに異なる方向に移動している場合でもシフトフィンガ3がセレクト方向に移動自在となるように設定される。
【解決手段】変速機に設けられた噛合機構のスリーブと係合するシフトフォークに接続される複数のシフトレール2と、シフトレール2を押圧可能なシフトフィンガ3と、シフトフィンガ3をセレクト方向及びシフト方向に移動自在な移動機構4とを備えるギアシフト装置1において、各シフトレール2には、シフトフィンガ3と当接するための互いに対向した一対の当接面2bが設けられ、各シフトレール2は、シフトフィンガ3のみによってシフト方向へ移動され、一対の当接面2bの間隔は、複数のシフトレール2が互いに異なる方向に移動している場合でもシフトフィンガ3がセレクト方向に移動自在となるように設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機に設けられた複数の噛合機構を作動させるギアシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機に設けられた複数の同期噛合機構のスリーブを作動させるギアシフト装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このギアシフト装置は、スリーブの外周面に係合するシフトフォークを有する複数のシフトレールと、シフトフィンガを有するシフトシャフトと、シフトシャフトを回転させるシフト用電動機と、シフトシャフトを軸方向に移動させるセレクト用動力源とを備える。
【0003】
シフトレールには、シフトシャフト側に向かって延びる突片が設けられている。この突片には、シフトシャフトが挿通される切欠孔が設けられている。この切欠孔は、シフトフィンガを切欠孔内に位置させた状態で、シフトシャフトを回転させたときにシフトフィンガが切欠孔の側縁に当接するように構成された第1当接部(第1の部分領域)を備えている。シフトフィンガが第1当接部を押圧することにより、シフトレールを介して同期噛合機構のスリーブがシフト方向に移動し、変速機の対応するギヤと同期噛合機構が設けられた変速機内のシャフトとが連結される。
【0004】
シフトシャフトには、シフトフィンガに対して周方向に90°位相を変えると共に軸方向に位置をずらして突出させた一対のカムが設けられている。又、シフトレールに設けられた突片の切欠孔には、第2当接部(第2の部分領域)が設けられている。この第2当接部は、シフトフィンガが「フィンガのニュートラル位置」から回転されて一のシフトレールの突片を第1当接部で押圧するときに、変速機内で連結されているギヤとシャフトとに対応する他のシフトレールに設けられた突片の切欠孔の側縁に当接して、この連結されていたシフトレールを「レールのニュートラル位置」に戻すように構成されている。
【0005】
このように構成することにより、1つのシフトレールをシフトフィンガで押圧すると同時に、他のシフトレールをカムによって「レールのニュートラル位置」に戻すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−518918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のギアシフト装置では、シフトフィンガが当接する第1当接部と、シフトフィンガが第1当接部に当接するときに、他のシフトレールの第2当接部とカムとが接触することにより、他のシフトレールがニュートラル位置に戻るように、切欠孔を形成する必要があり、この切欠孔を形成するには高い加工精度が要求される。このため、変速機用ギアシフト装置の製造コストが嵩むという問題がある。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、高い加工精度が要求されることのない自動変速機用ギアシフト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、変速機に設けられた複数の噛合機構のスリーブと夫々係合するシフトフォークに接続される複数のシフトレールと、該シフトレールをシフト方向に押圧可能なシフトフィンガと、該シフトフィンガをセレクト方向及びシフト方向に移動自在な移動機構とを備えるギアシフト装置において、前記各シフトレールには、前記シフトフィンガと当接するための互いに対向した一対の当接面が設けられ、前記各シフトレールは、前記シフトフィンガのみによってシフト方向へ移動され、前記シフトレールの一対の当接面が設けられた当接部分は、前記複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合でも、前記シフトフィンガが前記セレクト方向に移動自在となるように構成されることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、従来のように一対のカムを備えていないため、従来の第2当接部を形成する必要がない。又、シフトフィンガが当接する当接部(従来の第1当接部に相当)も第2当接部との関係を考慮して設計する必要がない。従って、シフトレールの当接面に高い加工精度が要求されず、ギアシフト装置の製造コストを低廉に抑えることができる。
【0011】
尚、本発明において、シフト方向とは各シフトレールが移動可能な方向、セレクト方向とはシフトフィンガが異なるシフトレールの当接部の間に位置するように移動するときの方向と定義する。
【0012】
ここで、従来品では、一のシフトレールを「レールのニュートラル位置」から変速機のギアとシャフトとを連結する連結位置に移動させるときには、他のシフトレールは一対のカムによって「レールのニュートラル位置」に戻される。しかしながら、本願発明は、一対のカムを有しないため、一のシフトレールを連結位置に移動させても他のシフトレールは「レールのニュートラル位置」に戻らない。
【0013】
従って、各シフトレールに設けられた一対の当接面の間隔によっては、例えば、デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)に用いられる場合において、隣り合うシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合、この隣り合うシフトレール間でシフトフィンガをセレクト方向に移動できなくなる虞がある。
【0014】
本願発明においては、シフトレールの一対の当接面のが設けられた当接部分を、複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合でも、シフトフィンガがセレクト方向に移動自在となるように構成しているため、互いに異なる方向に移動しているシフトレールの間をシフトフィンガがセレクト方向に移動することができ、シフトフィンガのセレクト方向への移動がシフトレールで阻害されることを防止できる。
【0015】
[2]本発明のシフトレールの当接部分の第1態様としては、一対の当接面がシフト方向に等間隔で複数設けられた、櫛型形状とすることもできる。これによれば、シフトフィンガが当接面に接触するまでのシフト方向のクリアランスを小さく設定できるため、迅速にシフトレールを移動させることができる。
【0016】
[3]また、本発明のシフトレールの当接部分の第2態様としては、一対の当接面の間隔を、複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合でもシフトフィンガが「フィンガのニュートラル位置」でセレクト方向に移動自在となるように設定させることもできる。一対の当接面の間隔が広くなるため、第1態様の場合と比較するとシフトレールを移動させるために多少時間を要することとなるが、上述のように構成しても、複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合であっても、シフトフィンガを「フィンガのニュートラル位置」でセレクト方向に移動させることができ、シフトフィンガのセレクト方向への移動がシフトレールで阻害されることを防止できる。
【0017】
[4]ところで、従来の移動機構は、シフト方向用の動力源と、セレクト方向用の動力源の2つの動力源を備えている。しかしながら、2つの動力源を備えているため、移動機構の大型化が避けられず、ギアシフト装置も大型となる。
【0018】
この場合、移動機構を、周面にネジ溝を有するネジシャフトと、ネジシャフトに螺合するナットと、ナットの回転を解除可能に阻止する回転阻止機構と、ネジシャフトを回転させるシャフト回転機構と、ナットとネジシャフトとを一体に回転するように解除自在に連結させる連結機構とで構成し、シフトフィンガをナットの外周に設ければ、回転阻止機構によりナットの回転を阻止すると共に連結機構によるナットとネジシャフトとの連結を解除した状態とすることにより、シャフト回転機構によりネジシャフトを回転させれば、シフトフィンガを備えるナットをシフト方向に移動させることができる。
【0019】
又、回転阻止機構によるナットの回転阻止を解除すると共に、連結機構によりナットとネジシャフトとを連結した状態とすることにより、シャフト回転機構によりネジシャフトを回転させれば、シフトフィンガを備えるナットをセレクト方向に移動させることができる。
【0020】
従って、シャフト回転機構の1つの動力源だけでシフト方向及びセレクト方向にシフトフィンガを移動させることができ、移動機構の小型化、即ち、ギアシフト装置の小型化を図ることができる。
【0021】
[5]ところで、上述したように、1つの動力源でシフト方向及びセレクト方向に移動できるように構成した場合、変速機のギアとシャフトとが連結されたときに、噛合機構のスリーブ、シフトフォーク、シフトレールを介して、シフトフィンガの軸方向への移動が阻止される。このとき、意図せずにシフトフィンガとナットとがネジシャフトと共に回転してしまい、シフトフィンガがセレクト方向に移動してしまう虞がある。
【0022】
この場合、ナットに突部を設け、ネジシャフトを回転自在に軸支するハウジング又はこれに連なる固定部材に、ナットの回転又は移動に伴って回転又は移動する突部の動きに対応させて、H状切欠部を設け、このH状切欠部を、少なくともシフトレールの移動により、変速機のギヤとシャフトとが連結されたときに、突部の回転方向の動きを阻止するように構成することが好ましい。
【0023】
かかる構成によれば、変速機のギヤとシャフトとが連結されたときには、突部とH状切欠部とで、シフトフィンガとナットとが意図せずにネジシャフトと一緒に回転することが阻止されて、シフトフィンガのセレクト方向への意図しない移動を防止できる。
【0024】
[6]本発明の連結機構の具体的態様としては、例えば、ナットを、ナット本体と、ナット本体の外周に設けられたフランジ部と、フランジ部に穿設された軸方向に貫通する貫通孔と、貫通孔に挿通されるアームと、アームの一方の端部に連結されると共にネジシャフトと相対回転可能に配置されたアームホルダとで構成し、連結機構を、アームホルダと、ネジシャフトと一体に回転するロータとを解除自在に連結させる電磁クラッチで構成することができる。
【0025】
かかる構成によれば、電磁クラッチでロータとアームホルダとを連結させることにより、ナット本体は、アームホルダ、アーム、フランジ部を介して、ネジシャフトと一体に回転することができる。又、電磁クラッチで、ロータとアームホルダとの連結を解除することにより、アームホルダは、ネジシャフトと相対回転自在に配置されているため、ナット本体もネジシャフトと相対回転自在な状態となる。
【0026】
[7]本発明においては、複数のシフトレールの間には、シフト方向への移動が阻止されると共にシフトレールの間の間隔方向に移動自在な係合体が配置され、各シフトレールには、係合体に対応する係合穴が形成され、一のシフトレールがシフト方向に移動するときに、係合体が一のシフトレールの係合穴により対応する他のシフトレールの係合穴に向かって押し出されて対応する他のシフトレールの係合穴と係合することにより、他のシフトレールのシフト方向への移動が阻止されるように構成することが好ましい。
【0027】
かかる構成によれば、例えば、DCTの偶数段同士又は奇数段同士のギアのように、同時に選択されると変速機が損傷する虞のあるギヤ同士が、同時に選択されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態のギアシフト装置を示す説明図。
【図2】第1実施形態のシフトレール及びナットを示す説明図。
【図3】第1実施形態のネジシャフト及びナット、回転阻止機構を示す斜視図。
【図4】第1実施形態のシフトレールの当接面間の間隔を示す説明図。
【図5】第1実施形態の回転阻止機構を示す説明図。
【図6】第1実施形態のシフトフィンガをセレクト方向に移動させた状態を示す説明図。
【図7】第1実施形態のH状切欠部を示す展開図。
【図8】第1実施形態の係合体及び係合穴を示す説明図。
【図9】第1実施形態のシフトフィンガの作動例を示す説明図。
【図10】本発明の第2実施形態のギアシフト装置を示す説明図。
【図11】本発明の第3実施形態のギアシフト装置を一部断面で示す説明図。
【図12】第3実施形態のギアシフト装置を図11の上方側から一部断面で示す説明図。
【図13】第3実施形態のギアシフト装置をネジシャフトの軸方向から示す説明図。
【図14】第3実施形態のギアシフト装置のナットを示す説明図。
【図15】第3実施形態のシフトレールの当接部分を示す説明図。
【図16】第3実施形態のギアシフト装置で、初期状態のニュートラルから2速まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図17】第3実施形態のギアシフト装置で、2速から4速まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図18】第3実施形態のギアシフト装置で、5速から7速まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図19】第3実施形態のギアシフト装置で、7速から5速まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図20】第3実施形態のギアシフト装置で、5速から3速まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図21】第3実施形態のギアシフト装置で、3速から後進段まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図22】第3実施形態のギアシフト装置で、6速段及び5速段を飛び越えて7速段から4速段に移行するときのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図23】第3実施形態のギアシフト装置で、5速段及び4速段を飛び越えて6速段から3速段に移行するときのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図24】第3実施形態のギアシフト装置で、4速段及び3速段を飛び越えて5速段から2速段に移行するときのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1実施形態]
図1から図9を参照して、本発明のギアシフト装置の第1実施形態を説明する。図1〜3に示す第1実施形態のギアシフト装置1は、複数の同期噛合機構(シンクロメッシュ機構)を備える自動変速機に用いられるものであり、図示省略した同期噛合機構(シンクロメッシュ機構)のスリーブと係合するシフトフォーク2aに接続される複数(第1実施形態では5つ)のシフトレール2と、シフトレール2をシフト方向へ押圧可能なシフトフィンガ3と、シフトフィンガ3をセレクト方向及びシフト方向に移動自在な移動機構4とを備える。
【0030】
シフトレール2のシフト方向両端部には、先端が円錐状の円柱状体2dが設けられている。この円柱状体2dは変速機ケース等に形成されたレール孔11に摺動自在に挿入され、これにより、シフトレール2がシフト方向に移動自在に支持されている。
【0031】
シフトレール2には、シフトフィンガ3がシフト方向で当接するための、互いに対向した一対の当接面2bが設けられている。一対の当接面2b間の間隔は、図4に破線及び一点鎖線で示すように、他のシフトレール2が互いに異なる方向に移動した状態であっても、「フィンガのニュートラル位置」に位置したシフトフィンガ2がセレクト方向に移動できるように設定されている。
【0032】
移動機構4は、周面にネジ溝を有するネジシャフト5と、ネジシャフト5に螺合するナット本体6と、動力源としての電動機7とを備える。ナット本体6の外周面には、径方向外方に張り出すフランジ部61が設けられている。フランジ部61には、軸方向に貫通する2つの貫通孔61aが設けられている。シフトフィンガ3はフランジ部61の外周面に設けられている。
【0033】
ネジシャフト5の一端には歯車5aが設けられている。歯車5aは、電動機7の回転軸に設けられたピニオン7aと噛合している。ネジシャフト5は、ピニオン7a及び歯車5aを介して電動機7で回転される。第1実施形態においては、電動機7とピニオン7aと歯車5aとでシャフト回転機構が構成される。
【0034】
ネジシャフト5の歯車5aが設けられた側の一端部には、周面にネジ溝が形成されていない平滑面とされた平滑部分が形成されている。即ち、平滑部分はネジ溝が形成された部分と歯車5aとの間に位置している。このネジシャフト5の平滑部分には、ネジシャフト5に対して同心且つ相対回転可能に配置されたアームホルダ8が設けられている。アームホルダ8には、ナット本体6のフランジ部61に設けられた貫通孔61aに夫々挿通される2本のアーム81が延設されている。第1実施形態では、ナット本体6とアームホルダ8とアーム81,81とで本発明のナットが構成されている。尚、図1、図4、図10においては、説明の便宜上アーム81の位相を90°変えて示している。
【0035】
又、アームホルダ8と歯車5aとの間に位置させて、連結機構としての電磁クラッチ9が設けられている。電磁クラッチ9は、ハウジング41に固定された固定子91と、ネジシャフト5の平滑部分に連結された回転子92と、アームホルダ8に板状バネ93aを介して連結された接触子93とを備える。回転子92と接触子93との間には、微小の隙間(0.1mm程度)が形成されている。
【0036】
固定子91に設けられたコイルに電流を流すと、コイルによる磁界の影響で接触子93が板状バネ93aの弾性力に抗して回転子92側に引き寄せられ、回転子92と接触する。これにより、電磁クラッチ9と、アームホルダ8と、アーム8とを介して、ネジシャフト5とナット本体6とが一体的に回転する状態となる。
【0037】
固定子91に設けられたコイルへの通電を遮断すると、回転子92と接触子93との間には、板状バネ93aの復元力によって再び微小の隙間ができ、ネジシャフト5とナット本体6とは互いに相対回転可能な状態となる。
【0038】
図3及び図5に示すように、アームホルダ8の外周面には、周方向に間隔を存して5つ(シフトレール2の数と同数)の溝部82が形成されている。ハウジング41には、溝部82のうち何れか1つと係合するボールプランジャ10が設けられている。この溝部82とボールプランジャ10とは、電磁クラッチ9が非通電状態で開放状態にあるときには係合状態を維持し、電磁クラッチ9が通電状態で係合状態であるときには係合が解除される開放状態となるように設定されている。
【0039】
これにより、電磁クラッチ9を通電状態とすることにより、ナット本体6に設けられたシフトフィンガ3がセレクト方向に移動することができ、電磁クラッチ9を非通電状態とすることにより、ナット本体6が、アーム81及びアームホルダ8を介して溝部82及びボールプランジャ10によりハウジング41に固定されて、ネジシャフト5の回転によりシフト方向に移動することができる。第1実施形態では、溝部82及びボールプランジャ10が本発明の回転阻止機構に該当する。
【0040】
図6では、電磁クラッチ9を通電させて、電動機7でネジシャフト5を回転させることにより、シフトフィンガ3をセレクト方向に移動させた状態を示しており、図6(a)は、第1シフトレール21の両当接面2b間にシフトフィンガ3が位置する状態、図6(b)は、第2シフトレール22の両当接面2b間にシフトフィンガ3が位置する状態、図6(c)は、第3シフトレール23の両当接面2b間にシフトフィンガ3が位置する状態、図6(d)は、第4シフトレール24の両当接面2b間にシフトフィンガ3が位置する状態、図6(e)は、第5シフトレール25の両当接面2b間にシフトフィンガ3が位置する状態を示している。
【0041】
ハウジング41の内周面には、シフトフィンガ3の突出方向とは反対の方向側に位置させてH状切欠部41aが設けられている。又、ナット本体6のフランジ部61の外周面には、シフトフィンガ3が設けられた部分とは反対側の部分に位置させて、径方向外方に突出しH状切欠部41a内に位置する突部62が形成されている。図7はH状切欠部41aを展開して示している。
【0042】
H状切欠部41aは、シフトフィンガ3のシフト方向及びセレクト方向への移動に対応して移動する突部62の軌跡に対応して形成されており、シフトフィンガ3がシフト方向に移動してシフトレール2を移動させて同期噛合機構のスリーブを移動させ変速機のギアとシャフトとが連結されたときには、シフトフィンガ3のセレクト方向への移動を阻止するように構成されている。
【0043】
これにより、変速機のギアとシャフトとが連結されて、シフトレール2がシフト方向へ移動できなくなったときに、シフトフィンガ3がシフトレール2の反力を受けて、ナット本体6がネジシャフト5と一体に回転しようとする力が生じるが、シフトフィンガ3のセレクト方向への移動はH状切欠部41aにより阻止される。
【0044】
各シフトレール2の間には、図8に示すように、係合体としての係合ボール26が図外の変速機ケース等に連結・固定された保持部材26aで保持されている。各シフトレール2には、係合ボール26に対応させて係合穴2cが形成されている。一のシフトレール2がシフト方向に移動すると、移動したシフトレール2の係合穴2cの縁部分で係合ボール26が隣接するシフトレール2側に押し出され、係合ボール26が隣接するシフトレール2の係合穴2cに係合する。
【0045】
これにより、例えば、デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)の偶数段同士又は奇数段同士のギアのように、同時に選択されると変速機が破損する虞のあるギヤ同士が同時に選択されないように、同時にシフト方向に移動してはならないシフトレール2同士が同時にシフト方向へ移動した状態となることを防止することができる。
【0046】
尚、変速機がDCTの場合には、奇数段と偶数段とが同時にシフト方向へ移動している状態とする必要があるため、奇数段用のシフトレール2と偶数段用のシフトレール2とが隣接している個所には、係合ボール26は設けない。変速機がオートマチック・マニュアル・トランスミッション(AMT)の場合には、全てのシフトレール2の間に、係合ボール26が設けられる。
【0047】
次に図9を参照して、車両が2速段から4速段へアップシフトしていく場合におけるギアシフト装置の作動を説明する。尚、図9の車両は、変速機としてDCTが用いられている。
【0048】
図9(a)は、車両が2速段で走行中であり、且つ3速段のギアが3速段及び7速段用の同期噛合機構(図示省略)によって変速機のシャフトと連結された状態である「3速インギア」状態であることを示している。このとき、シフトフィンガ3は、2速段及び6速段用の同期噛合機構に対応する第5シフトレール25の「フィンガのニュートラル位置」に位置しており、迅速に2速段及び6速段用の同期噛合機構に対応する第5シフトレール25をシフト方向の6速段側に押圧して「レールのニュートラル位置」に戻せるように準備させている。
【0049】
図9(a)の状態から、トランスミッション・コントロール・ユニット(TCU)等の図示省略した制御機構が、車両の走行速度等の車両情報に基づき、2速段から3速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図9(b)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて3速段での走行状態とする。
【0050】
図9(b)の状態から、制御機構(図示省略)が、車両情報に基づき、3速段から4速段へのアップシフトが予測されると判断した場合(「4速インギヤ指令」)には、まず、図9(c)に示すように、電磁クラッチ9を通電オフとして、ネジシャフト5を回転させることにより、シフトフィンガ3をシフト方向6速段側に移動させ、2速段及び6速段用の第5シフトレール25を「レールのニュートラル位置」に戻す。
【0051】
そして、図9(d)に示すように、電磁クラッチ9を通電オンとして、シフトフィンガ3をセレクト方向に移動させ、シフトフィンガ3を4速段及び後進段用の第4シフトレール24に対応する位置まで移動させた後、電磁クラッチ9を通電オフとして、シフトフィンガ3をシフト方向4速段側に移動させることにより、4速段及び後進段用シフトレール24をシフト方向4速段側に移動させる。これにより、変速機の4速段ギアと偶数段用のシャフトとが4速段及び後進段用の同期噛合機構により連結された状態となる。
【0052】
そして、図9(e)に示すように、電磁クラッチ9を通電オフとしたまま、シフトフィンガ3を「フィンガのニュートラル位置」に戻し、電磁クラッチ9を通電オンとして、シフトフィンガ3をセレクト方向に移動させて3速段及び7速段用の第2シフトレール22の「フィンガのニュートラル位置」に位置させ、3速段のギヤを迅速に開放できるように待機させておく。
【0053】
第1実施形態のギアシフト装置1では、各シフトレール2の一対の当接面2bの間隔が、シフトレール2が異なる方向に移動している場合においても「フィンガのニュートラル位置」に位置するシフトフィンガ3がセレクト方向に移動できるように設定されているため、シフトフィンガ3をスムーズにセレクト方向に移動させることができる。
【0054】
制御機構(図示省略)が車両情報に基づき3速段から4速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図9(f)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて4速段での走行状態とする。
【0055】
尚、図7に示す「L」,「2」,「3」,「4」,「5」,「6」,「7」,「R」,「N」,「P」は、図9に対応させたものであり、例えば、図9(d)に示すようにシフトフィンガ3が4速段及び後進段用の第4シフトレール24をシフト方向4速段側に移動させたときには、突部62が図7の「4」で示された個所に位置することを示している。
【0056】
第1実施形態のギアシフト装置1によれば、従来のギアシフト装置のように一対のカムを備えていないため、従来の第2当接部を形成する必要がない。又、シフトフィンガ3が当接する当接面2b,2b(従来の第1当接部に相当)も第2当接部との関係を考慮して設計する必要がない。従って、シフトレール2の当接面2b,2bに高い加工精度が要求されず、ギアシフト装置1の製造コストを低廉に抑えることができる。
【0057】
又、第1実施形態のギアシフト装置1によれば、電磁クラッチ9の切り換えにより、1つの電動機7だけでシフト方向及びセレクト方向へシフトフィンガ3を移動させることができる。従って、シフト方向用と、セレクト方向用の2つ電動機を必要とするものと比較して、ギアシフト装置1の小型化を図ることができる。
【0058】
尚、第1実施形態のギアシフト装置1では、突部62をシフトフィンガ3とは別に設けているが、シフトフィンガ3に突部の機能を兼ね備えさせてもよい。この場合、シフトフィンガ3が突出する移動機構4のハウジング41の開口部の開口形状を、第1実施形態のH状切欠部41aに対応させることにより、シフトフィンガ3とハウジング41の開口部とで、突部とH状切欠部の役割を果たすことができる。このときには、シフトフィンガ3が本発明の突部、ハウジング41の開口部が本発明のH状切欠部に該当する。
【0059】
[第2実施形態]
次に図10を参照して、本発明の第2実施形態のギアシフト装置1’を説明する。第2実施形態のギアシフト装置1’は、第1実施形態のものと異なり、2つの電動機71,72を備える。電動機71は、シフト用の電動機であり、ネジシャフト5の一端部に固定された歯車51を、ピニオン71a、アイドルギア71bを介して回転させる。
【0060】
アームホルダ8には、歯車83が同心に固定されている。この歯車83は、セレクト用電動機72に設けられたピニオン72aに、アイドルギア72bを介して噛合している。セレクト用電動機72を回転させると、ピニオン72a、アイドルギア72b、歯車83、アームホルダ8、アーム81、ナット本体6を介して、シフトフィンガ3がセレクト方向に移動する。このとき、ナット本体6がシフト方向に移動しないように、シフト用電動機71を、セレクト用電動機72と同期回転させている。
【0061】
第2実施形態のギアシフト装置1’では、第1実施形態のような連結機構たる電磁クラッチ9や、回転阻止機構たるボールプランジャ10及び溝部82は設けられていない。第2実施形態においては、セレクト用電動機72が回転防止機構として機能する。他の構成は、全て第1実施形態のものと同一に構成される。
【0062】
第2実施形態のギアシフト装置1’によっても、第1実施形態のものと同様に、シフトレール2の当接面2b,2bに高い加工精度が要求されず、ギアシフト装置1の製造コストを低廉に抑えることができる。
【0063】
[第3実施形態]
次に、図11から図22を参照して、本発明のギアシフト装置の第3実施形態を説明する。なお、第1及び第2実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。図11〜図13に示すように、ギアシフト装置1”は、第2実施形態のギアシフト装置1’と同様に、2つの電動機71,72を備える。電動機71は、シフト用の電動機であり、ネジシャフト5の一端部に接続されている。
【0064】
また、第1及び第2実施形態とは異なり、第3実施形態のギアシフト装置1”は、アームホルダ8を備えておらず、アーム81はハウジング41に固定されている。
【0065】
第3実施形態のナットは、ナット本体6と、ナット本体6に外嵌されるリング部材63とで構成される。シフトフィンガ3は、リング部材63の外周面に設けられる。ナット本体6の軸方向両端部には、リング部材63がナット本体6に対して軸方向に移動することを規制すべくしてリング部材63を軸方向で挟み込むように張出部64が設けられている。
【0066】
また、リング部材63には、シフトフィンガ3のセレクト方向への移動量に対応させた扇状の外歯部63aが設けられている。外歯部63aには、ネジシャフト5と平行に配置されたアイドルシャフト72cに固定されたアイドルピニオン72dが噛合している。アイドルシャフト72cは、ハウジング41に回転自在に軸支されている。また、アイドルシャフト72cには、アイドルギア72bが固定されており、アイドルギア72bには、セレクタ用電動機72のピニオン72aが噛合している。
【0067】
張出部64には、アーム81と軸方向に移動自在に嵌合する嵌合部64aが設けられている。このように、アーム81と嵌合部64aとが嵌合することにより、ナット本体6の回転が阻止され、シフト用電動機71が回転すると、ネジシャフト5が回転し、ナット本体6は、アーム81に沿って軸方向に移動する。
【0068】
また、ネジシャフト5が回転してもセレクト用電動機72が回転しない限り、アイドルギア72b、アイドルシャフト72c、アイドルピニオン72d外歯部63aを介してリング部材63の回転も阻止される。逆に、セレクト用電動機72を回転させると、アイドルギア72b、アイドルシャフト72c、アイドルピニオン72d外歯部63aを介してリング部材63が回転し、シフトフィンガ3がセレクト方向に移動する。
【0069】
第1から第5の各シフトレール21〜25には、一対の当接面2bを備える凹部2eがシフト方向に沿って等間隔に5つ設けられている。
【0070】
次に、図16から図22を参照して、各シフトレール21〜25の作動を説明する。図16(a)に示すように、初期状態では、全てのシフトレール21〜25がニュートラルに位置しており、シフトフィンガ3は、第1シフトレール21の中央の凹部21cに位置している。このときに、運転者がシフトレバーを走行レンジに移動させると、制御機構は、図16(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第1シフトレール21を1速側(L側、図面左側)に移動させて、1速インギア状態とする。
【0071】
制御機構が、車両情報に基づいて、1速段から2速段へのアップシフトを予測した場合には、図16(c)を参照して、まず、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第2から第4のシフトレール22〜24の左側から2番目の凹部22b,23b,24bを夫々通して、第5シフトレール25の6速側(図面左側)から2番目の凹部25bに移動させる。
【0072】
そして、制御機構は、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第5シフトレール25を2速側(図面右側)に移動させて、2速インギア状態とする。そして、車両が1速段で走行中の間は、2速段にアップシフトした後に素早く第1シフトレール21をニュートラルの位置に戻して3速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図16(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第2から第4のシフトレール22〜24の中央の凹部22c,23c,24cを通して、第1シフトレール21の図面右側(N側)から2番目の凹部21dに移動させて待機する。
【0073】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、2速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図16(e)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、2速段での走行状態とする。
【0074】
制御機構が、車両情報に基いて、2速段から3速段へのアップシフトを予測した場合には、まず、図16(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第1シフトレール21をニュートラルの位置に移動させる。そして、図16(g)に示すように、シフトフィンガ3を、セレクト用電動機72を回転させて、第2シフトレール22の3速段側(図面右側)から2番目の凹部22dに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第2シフトレール22を3速側(図面右側)に移動させて、3速インギア状態とする。
【0075】
そして、3速段にアップシフトした後に素早く第5シフトレール25をニュートラルの位置に戻して4速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図16(h)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3から第4のシフトレール23〜24の図面右側から1番目の凹部23e,24eを通して、第5シフトレール25の2速段側(図面右側)から2番目の凹部25dに移動させて待機する。
【0076】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、3速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図17(a)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、3速段での走行状態とする。
【0077】
制御機構が、車両情報に基いて、3速段から4速段へのアップシフトを予測した場合には、まず、図17(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を2速段側(図面右側)に移動させ、第5シフトレール25をニュートラルの位置に移動させる。そして、図17(c)に示すように、シフトフィンガ3を、セレクト用電動機72を回転させて、第4シフトレール24の後進段側(図面右側)から2番目の凹部24dに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第4シフトレール24を4速段側(図面左側)に移動させて、4速インギア状態とする。
【0078】
そして、車両が3速段で走行中の間は、4速段にアップシフトした後に素早く第5シフトレール25をニュートラルの位置に戻して4速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図17(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3シフトレール23の中央の凹部23cを通して、第2シフトレール22の7速段側(図面左側)から2番目の凹部22bに移動させて待機する。
【0079】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、4速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図17(e)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、4速段での走行状態とする。
【0080】
制御機構が、車両情報に基いて、4速段から5速段へのアップシフトを予測した場合には、まず、図17(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を3速段側(図面右側)に移動させ、第2シフトレール22をニュートラルの位置に移動させる。そして、図17(g)に示すように、シフトフィンガ3を、セレクト用電動機72を回転させて、第3シフトレール23の5速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第3シフトレール23を5速段側(図面左側)に移動させて、5速インギア状態とする。
【0081】
そして、制御機構は、5速段にアップシフトした後に素早く第4シフトレール24をニュートラルの位置に戻して6速インギア状態に移行できるように、図17(h)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から2番目の凹部24bに移動させて待機する。
【0082】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、5速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図18(a)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、5速段での走行状態とする。
【0083】
制御機構が、車両情報に基いて、5速段から6速段へのアップシフトを予測した場合には、まず、図18(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を後進段側(図面右側)に移動させ、第4シフトレール24をニュートラルの位置に移動させる。そして、図18(c)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第5シフトレール25の6速段側(図面左側)から2番目の凹部25bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第5シフトレール25を6速段側(図面左側)に移動させて、6速インギア状態とする。
【0084】
そして、制御機構は、6速段にアップシフトした後に素早く第3シフトレール23をニュートラルの位置に戻して7速インギア状態に移行できるように、図18(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から1番目の凹部24bを通して、第3シフトレール23の5速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させて待機する。
【0085】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、6速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図18(e)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、6速段での走行状態とする。
【0086】
制御機構が、車両情報に基いて、6速段から7速段へのアップシフトを予測した場合には、まず、図18(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第3シフトレール23をニュートラルの位置に移動させる。そして、図18(g)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第2シフトレール22の7速段側(図面左側)から2番目の凹部22bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第2シフトレール22を7速段側(図面左側)に移動させて、7速インギア状態とする。
【0087】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、7速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図18(h)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、7速段での走行状態とする。
【0088】
車両が7速段で走行しているときに、制御機構が、車両情報に基づき、6速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図19(a)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、6速段での走行状態とする。
【0089】
6速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、6速段から5速段へのダウンシフトを予測した場合には、まず、図19(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を3速段側(図面右側)に移動させ、第2シフトレール22をニュートラルの位置に移動させる。そして、図19(c)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第3シフトレール23の5速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第3シフトレール23を5速側(図面左側)に移動させて、5速インギア状態とする。
【0090】
そして、5速段にダウンシフトした後に素早く第5シフトレール25をニュートラルの位置に戻して4速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図19(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第4シフトレール24の図面左側から1番目の凹部24aを通して、第5シフトレール25の6速段側(図面左側)から2番目の凹部25bに移動させて待機する。
【0091】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、5速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図19(e)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、5速段での走行状態とする。
【0092】
5速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、5速段から4速段へのダウンシフトを予測した場合には、まず、図19(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を2速段側(図面右側)に移動させ、第5シフトレール25をニュートラルの位置に移動させる。そして、図19(g)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から2番目の凹部24bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第4シフトレール24を4速側(図面左側)に移動させて、4速インギア状態とする。
【0093】
そして、4速段にダウンシフトした後に素早く第3シフトレール23をニュートラルの位置に戻して3速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図19(h)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3シフトレール23の5速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させて待機する。
【0094】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、4速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図20(a)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、4速段での走行状態とする。
【0095】
4速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、4速段から3速段へのダウンシフトを予測した場合には、まず、図20(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第3シフトレール23をニュートラルの位置に移動させる。そして、図20(c)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第2シフトレール22の7速段側(図面左側)から2番目の凹部22bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第2シフトレール22を3速側(図面右側)に移動させて、3速インギア状態とする。
【0096】
そして、3速段にダウンシフトした後に素早く第4シフトレール24をニュートラルの位置に戻して2速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図20(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3シフトレール23の中央の凹部23cを通して、第4シフトレール24の後進段側(図面右側)から2番目の凹部24dに移動させて待機する。
【0097】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、3速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図20(e)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、3速段での走行状態とする。
【0098】
3速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、3速段から2速段へのダウンシフトを予測した場合には、まず、図20(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第4シフトレール24をニュートラルの位置に移動させる。そして、図20(g)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第5シフトレール25の2速段側(図面右側)から2番目の凹部25dに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第5シフトレール25を2速段側(図面右側)に移動させて、2速インギア状態とする。
【0099】
そして、2速段にダウンシフトした後に素早く第2シフトレール22をニュートラルの位置に戻して1速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図20(h)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3及び第4のシフトレール23,24の図面右側から1番目の凹部23e,24eを夫々通して、第2シフトレール22の3速段側(図面右側)から2番目の凹部23dに移動させて待機する。
【0100】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、2速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図21(a)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、2速段での走行状態とする。
【0101】
2速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、2速段から1速段へのダウンシフトを予測した場合には、まず、図21(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面左側に移動させ、第2シフトレール22をニュートラルの位置に移動させる。そして、図21(c)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第1シフトレール21の図面右側から2番目の凹部21dに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第1シフトレール21を1速段側(L側、図面左側)に移動させて、1速インギア状態とする。
【0102】
そして、1速段にダウンシフトした後に素早く第5シフトレール25をニュートラルの位置に戻せるように、制御機構は、図21(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第2から第4のシフトレール23,24の中央の凹部22c,23c,24cを夫々通して、第5シフトレール25の6速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させて待機する。
【0103】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、1速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図21(e)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、1速段での走行状態とする。
【0104】
1速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、1速段から2速段へのアップシフトを予測していない場合には、図21(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面左側に移動させ、第5シフトレール25をニュートラルの位置に移動させてもよい。これにより、運転者の操作によりシフトレバーが走行レンジから後進レンジに移行したときに、素早く後進段インギア状態とすることができる。
【0105】
そして、運転者の操作によりシフトレバーが走行レンジから後進レンジに移行したときには、図21(g)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から2番目の凹部24bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第4シフトレール24を後進段側(R側、図面右側)に移動させて、後進段インギア状態とし、いつでも後進段での走行が可能な状態とする。
【0106】
次に、図22から図24を参照して、「2速段飛ばしのダウンシフト」を実行する場合の制御機構の作動について説明する。
【0107】
図18(h)に示したように、車両が7速段で走行しているときに、制御機構が、急減速等の車両情報に基いて、7速段から4速段への「2段飛ばしのダウンシフト」を行う必要があると判断した場合には、まず、図22(a)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3及び第4のシフトレール23,24の図面左側から1番目の凹部23a,24aを通して、第5シフトレール25の6速段側(図面左側)から2番目の凹部25bに移動させる。そして、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第5シフトレール25をニュートラルの位置に移動させる。
【0108】
そして、図22(b)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から2番目の凹部24bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第4シフトレール24を4速段側(図面左側)に移動させて、4速インギア状態とする。そして、図22(c)に示すように、制御機構は、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、4速段での走行状態とする。
【0109】
図19(d)に示したように、車両が6速段で走行しているときに、制御機構が、急減速等の車両情報に基いて、6速段から3速段への「2段飛ばしのダウンシフト」を行う必要があると判断した場合には、まず、図23(a)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から1番目の凹部24aを通して、第3シフトレール23の5速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させる。そして、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第3シフトレール23をニュートラルの位置に移動させる。
【0110】
そして、図23(b)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第2シフトレール22の7速段側(図面左側)から2番目の凹部22bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第2シフトレール22を3速段側(図面右側)に移動させて、3速インギア状態とする。そして、図23(c)に示すように、制御機構は、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、3速段での走行状態とする。
【0111】
図19(h)に示したように、車両が5速段で走行しているときに、制御機構が、急減速等の車両情報に基いて、5速段から2速段への「2段飛ばしのダウンシフト」を行う必要があると判断した場合には、まず、図24(a)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から2番目の凹部24bに移動させる。そして、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第4シフトレール24をニュートラルの位置に移動させる。
【0112】
そして、図24(b)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第5シフトレール25の6速段側(図面左側)から2番目の凹部25bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第5シフトレール25を2速段側(図面右側)に移動させて、2速インギア状態とする。そして、図24(c)に示すように、制御機構は、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、2速段での走行状態とする。
【0113】
第3実施形態のギアシフト装置1”によれば、シフトレール2の当接部分に設けられた一対の当接面を備える凹部2eがシフト方向に等間隔で複数設けられた、櫛型形状となっているため、シフトフィンガ3が当接面に接触するまでのシフト方向のクリアランスを小さく設定できる。このため、本実施形態のギアシフト装置1”によれば、迅速にシフトレール2を移動させることができる。
【符号の説明】
【0114】
1,1’,1”…ギアシフト装置、2…シフトレール、2a…シフトフォーク、2b…当接面、2c…係合穴、2d…円柱状体、2e…凹部、21…第1シフトレール、21c…中央の凹部、22…第2シフトレール、23…第3シフトレール、24…第4シフトレール、25…第5シフトレール、26…係合ボール(係合体)、26a…保持部材、3…シフトフィンガ、4…移動機構、41…ハウジング、41a…H状切欠部、5…ネジシャフト、5a…歯車、51…歯車、6…ナット本体、61…フランジ部、61a…貫通孔、62…突部、63…リング部材、63a…外歯部、64…張出部、64a…嵌合部、7…電動機(動力源)、71…シフト用電動機(シフト用動力源)、71a…ピニオン、71b…アイドルギア、72…セレクト用電動機(セレクト用動力源)、72a…ピニオン、72b…アイドルギア、72c…アイドルシャフト、72d…アイドルピニオン、8…アームホルダ、81…アーム、82…溝部、83…歯車、9…電磁クラッチ(連結機構)、91…固定子、92…回転子、93…接触子、93a…板状バネ、10…ボールプランジャ、11…レール孔。
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機に設けられた複数の噛合機構を作動させるギアシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機に設けられた複数の同期噛合機構のスリーブを作動させるギアシフト装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このギアシフト装置は、スリーブの外周面に係合するシフトフォークを有する複数のシフトレールと、シフトフィンガを有するシフトシャフトと、シフトシャフトを回転させるシフト用電動機と、シフトシャフトを軸方向に移動させるセレクト用動力源とを備える。
【0003】
シフトレールには、シフトシャフト側に向かって延びる突片が設けられている。この突片には、シフトシャフトが挿通される切欠孔が設けられている。この切欠孔は、シフトフィンガを切欠孔内に位置させた状態で、シフトシャフトを回転させたときにシフトフィンガが切欠孔の側縁に当接するように構成された第1当接部(第1の部分領域)を備えている。シフトフィンガが第1当接部を押圧することにより、シフトレールを介して同期噛合機構のスリーブがシフト方向に移動し、変速機の対応するギヤと同期噛合機構が設けられた変速機内のシャフトとが連結される。
【0004】
シフトシャフトには、シフトフィンガに対して周方向に90°位相を変えると共に軸方向に位置をずらして突出させた一対のカムが設けられている。又、シフトレールに設けられた突片の切欠孔には、第2当接部(第2の部分領域)が設けられている。この第2当接部は、シフトフィンガが「フィンガのニュートラル位置」から回転されて一のシフトレールの突片を第1当接部で押圧するときに、変速機内で連結されているギヤとシャフトとに対応する他のシフトレールに設けられた突片の切欠孔の側縁に当接して、この連結されていたシフトレールを「レールのニュートラル位置」に戻すように構成されている。
【0005】
このように構成することにより、1つのシフトレールをシフトフィンガで押圧すると同時に、他のシフトレールをカムによって「レールのニュートラル位置」に戻すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−518918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のギアシフト装置では、シフトフィンガが当接する第1当接部と、シフトフィンガが第1当接部に当接するときに、他のシフトレールの第2当接部とカムとが接触することにより、他のシフトレールがニュートラル位置に戻るように、切欠孔を形成する必要があり、この切欠孔を形成するには高い加工精度が要求される。このため、変速機用ギアシフト装置の製造コストが嵩むという問題がある。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、高い加工精度が要求されることのない自動変速機用ギアシフト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、変速機に設けられた複数の噛合機構のスリーブと夫々係合するシフトフォークに接続される複数のシフトレールと、該シフトレールをシフト方向に押圧可能なシフトフィンガと、該シフトフィンガをセレクト方向及びシフト方向に移動自在な移動機構とを備えるギアシフト装置において、前記各シフトレールには、前記シフトフィンガと当接するための互いに対向した一対の当接面が設けられ、前記各シフトレールは、前記シフトフィンガのみによってシフト方向へ移動され、前記シフトレールの一対の当接面が設けられた当接部分は、前記複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合でも、前記シフトフィンガが前記セレクト方向に移動自在となるように構成されることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、従来のように一対のカムを備えていないため、従来の第2当接部を形成する必要がない。又、シフトフィンガが当接する当接部(従来の第1当接部に相当)も第2当接部との関係を考慮して設計する必要がない。従って、シフトレールの当接面に高い加工精度が要求されず、ギアシフト装置の製造コストを低廉に抑えることができる。
【0011】
尚、本発明において、シフト方向とは各シフトレールが移動可能な方向、セレクト方向とはシフトフィンガが異なるシフトレールの当接部の間に位置するように移動するときの方向と定義する。
【0012】
ここで、従来品では、一のシフトレールを「レールのニュートラル位置」から変速機のギアとシャフトとを連結する連結位置に移動させるときには、他のシフトレールは一対のカムによって「レールのニュートラル位置」に戻される。しかしながら、本願発明は、一対のカムを有しないため、一のシフトレールを連結位置に移動させても他のシフトレールは「レールのニュートラル位置」に戻らない。
【0013】
従って、各シフトレールに設けられた一対の当接面の間隔によっては、例えば、デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)に用いられる場合において、隣り合うシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合、この隣り合うシフトレール間でシフトフィンガをセレクト方向に移動できなくなる虞がある。
【0014】
本願発明においては、シフトレールの一対の当接面のが設けられた当接部分を、複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合でも、シフトフィンガがセレクト方向に移動自在となるように構成しているため、互いに異なる方向に移動しているシフトレールの間をシフトフィンガがセレクト方向に移動することができ、シフトフィンガのセレクト方向への移動がシフトレールで阻害されることを防止できる。
【0015】
[2]本発明のシフトレールの当接部分の第1態様としては、一対の当接面がシフト方向に等間隔で複数設けられた、櫛型形状とすることもできる。これによれば、シフトフィンガが当接面に接触するまでのシフト方向のクリアランスを小さく設定できるため、迅速にシフトレールを移動させることができる。
【0016】
[3]また、本発明のシフトレールの当接部分の第2態様としては、一対の当接面の間隔を、複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合でもシフトフィンガが「フィンガのニュートラル位置」でセレクト方向に移動自在となるように設定させることもできる。一対の当接面の間隔が広くなるため、第1態様の場合と比較するとシフトレールを移動させるために多少時間を要することとなるが、上述のように構成しても、複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合であっても、シフトフィンガを「フィンガのニュートラル位置」でセレクト方向に移動させることができ、シフトフィンガのセレクト方向への移動がシフトレールで阻害されることを防止できる。
【0017】
[4]ところで、従来の移動機構は、シフト方向用の動力源と、セレクト方向用の動力源の2つの動力源を備えている。しかしながら、2つの動力源を備えているため、移動機構の大型化が避けられず、ギアシフト装置も大型となる。
【0018】
この場合、移動機構を、周面にネジ溝を有するネジシャフトと、ネジシャフトに螺合するナットと、ナットの回転を解除可能に阻止する回転阻止機構と、ネジシャフトを回転させるシャフト回転機構と、ナットとネジシャフトとを一体に回転するように解除自在に連結させる連結機構とで構成し、シフトフィンガをナットの外周に設ければ、回転阻止機構によりナットの回転を阻止すると共に連結機構によるナットとネジシャフトとの連結を解除した状態とすることにより、シャフト回転機構によりネジシャフトを回転させれば、シフトフィンガを備えるナットをシフト方向に移動させることができる。
【0019】
又、回転阻止機構によるナットの回転阻止を解除すると共に、連結機構によりナットとネジシャフトとを連結した状態とすることにより、シャフト回転機構によりネジシャフトを回転させれば、シフトフィンガを備えるナットをセレクト方向に移動させることができる。
【0020】
従って、シャフト回転機構の1つの動力源だけでシフト方向及びセレクト方向にシフトフィンガを移動させることができ、移動機構の小型化、即ち、ギアシフト装置の小型化を図ることができる。
【0021】
[5]ところで、上述したように、1つの動力源でシフト方向及びセレクト方向に移動できるように構成した場合、変速機のギアとシャフトとが連結されたときに、噛合機構のスリーブ、シフトフォーク、シフトレールを介して、シフトフィンガの軸方向への移動が阻止される。このとき、意図せずにシフトフィンガとナットとがネジシャフトと共に回転してしまい、シフトフィンガがセレクト方向に移動してしまう虞がある。
【0022】
この場合、ナットに突部を設け、ネジシャフトを回転自在に軸支するハウジング又はこれに連なる固定部材に、ナットの回転又は移動に伴って回転又は移動する突部の動きに対応させて、H状切欠部を設け、このH状切欠部を、少なくともシフトレールの移動により、変速機のギヤとシャフトとが連結されたときに、突部の回転方向の動きを阻止するように構成することが好ましい。
【0023】
かかる構成によれば、変速機のギヤとシャフトとが連結されたときには、突部とH状切欠部とで、シフトフィンガとナットとが意図せずにネジシャフトと一緒に回転することが阻止されて、シフトフィンガのセレクト方向への意図しない移動を防止できる。
【0024】
[6]本発明の連結機構の具体的態様としては、例えば、ナットを、ナット本体と、ナット本体の外周に設けられたフランジ部と、フランジ部に穿設された軸方向に貫通する貫通孔と、貫通孔に挿通されるアームと、アームの一方の端部に連結されると共にネジシャフトと相対回転可能に配置されたアームホルダとで構成し、連結機構を、アームホルダと、ネジシャフトと一体に回転するロータとを解除自在に連結させる電磁クラッチで構成することができる。
【0025】
かかる構成によれば、電磁クラッチでロータとアームホルダとを連結させることにより、ナット本体は、アームホルダ、アーム、フランジ部を介して、ネジシャフトと一体に回転することができる。又、電磁クラッチで、ロータとアームホルダとの連結を解除することにより、アームホルダは、ネジシャフトと相対回転自在に配置されているため、ナット本体もネジシャフトと相対回転自在な状態となる。
【0026】
[7]本発明においては、複数のシフトレールの間には、シフト方向への移動が阻止されると共にシフトレールの間の間隔方向に移動自在な係合体が配置され、各シフトレールには、係合体に対応する係合穴が形成され、一のシフトレールがシフト方向に移動するときに、係合体が一のシフトレールの係合穴により対応する他のシフトレールの係合穴に向かって押し出されて対応する他のシフトレールの係合穴と係合することにより、他のシフトレールのシフト方向への移動が阻止されるように構成することが好ましい。
【0027】
かかる構成によれば、例えば、DCTの偶数段同士又は奇数段同士のギアのように、同時に選択されると変速機が損傷する虞のあるギヤ同士が、同時に選択されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態のギアシフト装置を示す説明図。
【図2】第1実施形態のシフトレール及びナットを示す説明図。
【図3】第1実施形態のネジシャフト及びナット、回転阻止機構を示す斜視図。
【図4】第1実施形態のシフトレールの当接面間の間隔を示す説明図。
【図5】第1実施形態の回転阻止機構を示す説明図。
【図6】第1実施形態のシフトフィンガをセレクト方向に移動させた状態を示す説明図。
【図7】第1実施形態のH状切欠部を示す展開図。
【図8】第1実施形態の係合体及び係合穴を示す説明図。
【図9】第1実施形態のシフトフィンガの作動例を示す説明図。
【図10】本発明の第2実施形態のギアシフト装置を示す説明図。
【図11】本発明の第3実施形態のギアシフト装置を一部断面で示す説明図。
【図12】第3実施形態のギアシフト装置を図11の上方側から一部断面で示す説明図。
【図13】第3実施形態のギアシフト装置をネジシャフトの軸方向から示す説明図。
【図14】第3実施形態のギアシフト装置のナットを示す説明図。
【図15】第3実施形態のシフトレールの当接部分を示す説明図。
【図16】第3実施形態のギアシフト装置で、初期状態のニュートラルから2速まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図17】第3実施形態のギアシフト装置で、2速から4速まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図18】第3実施形態のギアシフト装置で、5速から7速まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図19】第3実施形態のギアシフト装置で、7速から5速まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図20】第3実施形態のギアシフト装置で、5速から3速まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図21】第3実施形態のギアシフト装置で、3速から後進段まで移行するまでのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図22】第3実施形態のギアシフト装置で、6速段及び5速段を飛び越えて7速段から4速段に移行するときのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図23】第3実施形態のギアシフト装置で、5速段及び4速段を飛び越えて6速段から3速段に移行するときのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【図24】第3実施形態のギアシフト装置で、4速段及び3速段を飛び越えて5速段から2速段に移行するときのシフトフィンガの作動を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1実施形態]
図1から図9を参照して、本発明のギアシフト装置の第1実施形態を説明する。図1〜3に示す第1実施形態のギアシフト装置1は、複数の同期噛合機構(シンクロメッシュ機構)を備える自動変速機に用いられるものであり、図示省略した同期噛合機構(シンクロメッシュ機構)のスリーブと係合するシフトフォーク2aに接続される複数(第1実施形態では5つ)のシフトレール2と、シフトレール2をシフト方向へ押圧可能なシフトフィンガ3と、シフトフィンガ3をセレクト方向及びシフト方向に移動自在な移動機構4とを備える。
【0030】
シフトレール2のシフト方向両端部には、先端が円錐状の円柱状体2dが設けられている。この円柱状体2dは変速機ケース等に形成されたレール孔11に摺動自在に挿入され、これにより、シフトレール2がシフト方向に移動自在に支持されている。
【0031】
シフトレール2には、シフトフィンガ3がシフト方向で当接するための、互いに対向した一対の当接面2bが設けられている。一対の当接面2b間の間隔は、図4に破線及び一点鎖線で示すように、他のシフトレール2が互いに異なる方向に移動した状態であっても、「フィンガのニュートラル位置」に位置したシフトフィンガ2がセレクト方向に移動できるように設定されている。
【0032】
移動機構4は、周面にネジ溝を有するネジシャフト5と、ネジシャフト5に螺合するナット本体6と、動力源としての電動機7とを備える。ナット本体6の外周面には、径方向外方に張り出すフランジ部61が設けられている。フランジ部61には、軸方向に貫通する2つの貫通孔61aが設けられている。シフトフィンガ3はフランジ部61の外周面に設けられている。
【0033】
ネジシャフト5の一端には歯車5aが設けられている。歯車5aは、電動機7の回転軸に設けられたピニオン7aと噛合している。ネジシャフト5は、ピニオン7a及び歯車5aを介して電動機7で回転される。第1実施形態においては、電動機7とピニオン7aと歯車5aとでシャフト回転機構が構成される。
【0034】
ネジシャフト5の歯車5aが設けられた側の一端部には、周面にネジ溝が形成されていない平滑面とされた平滑部分が形成されている。即ち、平滑部分はネジ溝が形成された部分と歯車5aとの間に位置している。このネジシャフト5の平滑部分には、ネジシャフト5に対して同心且つ相対回転可能に配置されたアームホルダ8が設けられている。アームホルダ8には、ナット本体6のフランジ部61に設けられた貫通孔61aに夫々挿通される2本のアーム81が延設されている。第1実施形態では、ナット本体6とアームホルダ8とアーム81,81とで本発明のナットが構成されている。尚、図1、図4、図10においては、説明の便宜上アーム81の位相を90°変えて示している。
【0035】
又、アームホルダ8と歯車5aとの間に位置させて、連結機構としての電磁クラッチ9が設けられている。電磁クラッチ9は、ハウジング41に固定された固定子91と、ネジシャフト5の平滑部分に連結された回転子92と、アームホルダ8に板状バネ93aを介して連結された接触子93とを備える。回転子92と接触子93との間には、微小の隙間(0.1mm程度)が形成されている。
【0036】
固定子91に設けられたコイルに電流を流すと、コイルによる磁界の影響で接触子93が板状バネ93aの弾性力に抗して回転子92側に引き寄せられ、回転子92と接触する。これにより、電磁クラッチ9と、アームホルダ8と、アーム8とを介して、ネジシャフト5とナット本体6とが一体的に回転する状態となる。
【0037】
固定子91に設けられたコイルへの通電を遮断すると、回転子92と接触子93との間には、板状バネ93aの復元力によって再び微小の隙間ができ、ネジシャフト5とナット本体6とは互いに相対回転可能な状態となる。
【0038】
図3及び図5に示すように、アームホルダ8の外周面には、周方向に間隔を存して5つ(シフトレール2の数と同数)の溝部82が形成されている。ハウジング41には、溝部82のうち何れか1つと係合するボールプランジャ10が設けられている。この溝部82とボールプランジャ10とは、電磁クラッチ9が非通電状態で開放状態にあるときには係合状態を維持し、電磁クラッチ9が通電状態で係合状態であるときには係合が解除される開放状態となるように設定されている。
【0039】
これにより、電磁クラッチ9を通電状態とすることにより、ナット本体6に設けられたシフトフィンガ3がセレクト方向に移動することができ、電磁クラッチ9を非通電状態とすることにより、ナット本体6が、アーム81及びアームホルダ8を介して溝部82及びボールプランジャ10によりハウジング41に固定されて、ネジシャフト5の回転によりシフト方向に移動することができる。第1実施形態では、溝部82及びボールプランジャ10が本発明の回転阻止機構に該当する。
【0040】
図6では、電磁クラッチ9を通電させて、電動機7でネジシャフト5を回転させることにより、シフトフィンガ3をセレクト方向に移動させた状態を示しており、図6(a)は、第1シフトレール21の両当接面2b間にシフトフィンガ3が位置する状態、図6(b)は、第2シフトレール22の両当接面2b間にシフトフィンガ3が位置する状態、図6(c)は、第3シフトレール23の両当接面2b間にシフトフィンガ3が位置する状態、図6(d)は、第4シフトレール24の両当接面2b間にシフトフィンガ3が位置する状態、図6(e)は、第5シフトレール25の両当接面2b間にシフトフィンガ3が位置する状態を示している。
【0041】
ハウジング41の内周面には、シフトフィンガ3の突出方向とは反対の方向側に位置させてH状切欠部41aが設けられている。又、ナット本体6のフランジ部61の外周面には、シフトフィンガ3が設けられた部分とは反対側の部分に位置させて、径方向外方に突出しH状切欠部41a内に位置する突部62が形成されている。図7はH状切欠部41aを展開して示している。
【0042】
H状切欠部41aは、シフトフィンガ3のシフト方向及びセレクト方向への移動に対応して移動する突部62の軌跡に対応して形成されており、シフトフィンガ3がシフト方向に移動してシフトレール2を移動させて同期噛合機構のスリーブを移動させ変速機のギアとシャフトとが連結されたときには、シフトフィンガ3のセレクト方向への移動を阻止するように構成されている。
【0043】
これにより、変速機のギアとシャフトとが連結されて、シフトレール2がシフト方向へ移動できなくなったときに、シフトフィンガ3がシフトレール2の反力を受けて、ナット本体6がネジシャフト5と一体に回転しようとする力が生じるが、シフトフィンガ3のセレクト方向への移動はH状切欠部41aにより阻止される。
【0044】
各シフトレール2の間には、図8に示すように、係合体としての係合ボール26が図外の変速機ケース等に連結・固定された保持部材26aで保持されている。各シフトレール2には、係合ボール26に対応させて係合穴2cが形成されている。一のシフトレール2がシフト方向に移動すると、移動したシフトレール2の係合穴2cの縁部分で係合ボール26が隣接するシフトレール2側に押し出され、係合ボール26が隣接するシフトレール2の係合穴2cに係合する。
【0045】
これにより、例えば、デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)の偶数段同士又は奇数段同士のギアのように、同時に選択されると変速機が破損する虞のあるギヤ同士が同時に選択されないように、同時にシフト方向に移動してはならないシフトレール2同士が同時にシフト方向へ移動した状態となることを防止することができる。
【0046】
尚、変速機がDCTの場合には、奇数段と偶数段とが同時にシフト方向へ移動している状態とする必要があるため、奇数段用のシフトレール2と偶数段用のシフトレール2とが隣接している個所には、係合ボール26は設けない。変速機がオートマチック・マニュアル・トランスミッション(AMT)の場合には、全てのシフトレール2の間に、係合ボール26が設けられる。
【0047】
次に図9を参照して、車両が2速段から4速段へアップシフトしていく場合におけるギアシフト装置の作動を説明する。尚、図9の車両は、変速機としてDCTが用いられている。
【0048】
図9(a)は、車両が2速段で走行中であり、且つ3速段のギアが3速段及び7速段用の同期噛合機構(図示省略)によって変速機のシャフトと連結された状態である「3速インギア」状態であることを示している。このとき、シフトフィンガ3は、2速段及び6速段用の同期噛合機構に対応する第5シフトレール25の「フィンガのニュートラル位置」に位置しており、迅速に2速段及び6速段用の同期噛合機構に対応する第5シフトレール25をシフト方向の6速段側に押圧して「レールのニュートラル位置」に戻せるように準備させている。
【0049】
図9(a)の状態から、トランスミッション・コントロール・ユニット(TCU)等の図示省略した制御機構が、車両の走行速度等の車両情報に基づき、2速段から3速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図9(b)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて3速段での走行状態とする。
【0050】
図9(b)の状態から、制御機構(図示省略)が、車両情報に基づき、3速段から4速段へのアップシフトが予測されると判断した場合(「4速インギヤ指令」)には、まず、図9(c)に示すように、電磁クラッチ9を通電オフとして、ネジシャフト5を回転させることにより、シフトフィンガ3をシフト方向6速段側に移動させ、2速段及び6速段用の第5シフトレール25を「レールのニュートラル位置」に戻す。
【0051】
そして、図9(d)に示すように、電磁クラッチ9を通電オンとして、シフトフィンガ3をセレクト方向に移動させ、シフトフィンガ3を4速段及び後進段用の第4シフトレール24に対応する位置まで移動させた後、電磁クラッチ9を通電オフとして、シフトフィンガ3をシフト方向4速段側に移動させることにより、4速段及び後進段用シフトレール24をシフト方向4速段側に移動させる。これにより、変速機の4速段ギアと偶数段用のシャフトとが4速段及び後進段用の同期噛合機構により連結された状態となる。
【0052】
そして、図9(e)に示すように、電磁クラッチ9を通電オフとしたまま、シフトフィンガ3を「フィンガのニュートラル位置」に戻し、電磁クラッチ9を通電オンとして、シフトフィンガ3をセレクト方向に移動させて3速段及び7速段用の第2シフトレール22の「フィンガのニュートラル位置」に位置させ、3速段のギヤを迅速に開放できるように待機させておく。
【0053】
第1実施形態のギアシフト装置1では、各シフトレール2の一対の当接面2bの間隔が、シフトレール2が異なる方向に移動している場合においても「フィンガのニュートラル位置」に位置するシフトフィンガ3がセレクト方向に移動できるように設定されているため、シフトフィンガ3をスムーズにセレクト方向に移動させることができる。
【0054】
制御機構(図示省略)が車両情報に基づき3速段から4速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図9(f)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて4速段での走行状態とする。
【0055】
尚、図7に示す「L」,「2」,「3」,「4」,「5」,「6」,「7」,「R」,「N」,「P」は、図9に対応させたものであり、例えば、図9(d)に示すようにシフトフィンガ3が4速段及び後進段用の第4シフトレール24をシフト方向4速段側に移動させたときには、突部62が図7の「4」で示された個所に位置することを示している。
【0056】
第1実施形態のギアシフト装置1によれば、従来のギアシフト装置のように一対のカムを備えていないため、従来の第2当接部を形成する必要がない。又、シフトフィンガ3が当接する当接面2b,2b(従来の第1当接部に相当)も第2当接部との関係を考慮して設計する必要がない。従って、シフトレール2の当接面2b,2bに高い加工精度が要求されず、ギアシフト装置1の製造コストを低廉に抑えることができる。
【0057】
又、第1実施形態のギアシフト装置1によれば、電磁クラッチ9の切り換えにより、1つの電動機7だけでシフト方向及びセレクト方向へシフトフィンガ3を移動させることができる。従って、シフト方向用と、セレクト方向用の2つ電動機を必要とするものと比較して、ギアシフト装置1の小型化を図ることができる。
【0058】
尚、第1実施形態のギアシフト装置1では、突部62をシフトフィンガ3とは別に設けているが、シフトフィンガ3に突部の機能を兼ね備えさせてもよい。この場合、シフトフィンガ3が突出する移動機構4のハウジング41の開口部の開口形状を、第1実施形態のH状切欠部41aに対応させることにより、シフトフィンガ3とハウジング41の開口部とで、突部とH状切欠部の役割を果たすことができる。このときには、シフトフィンガ3が本発明の突部、ハウジング41の開口部が本発明のH状切欠部に該当する。
【0059】
[第2実施形態]
次に図10を参照して、本発明の第2実施形態のギアシフト装置1’を説明する。第2実施形態のギアシフト装置1’は、第1実施形態のものと異なり、2つの電動機71,72を備える。電動機71は、シフト用の電動機であり、ネジシャフト5の一端部に固定された歯車51を、ピニオン71a、アイドルギア71bを介して回転させる。
【0060】
アームホルダ8には、歯車83が同心に固定されている。この歯車83は、セレクト用電動機72に設けられたピニオン72aに、アイドルギア72bを介して噛合している。セレクト用電動機72を回転させると、ピニオン72a、アイドルギア72b、歯車83、アームホルダ8、アーム81、ナット本体6を介して、シフトフィンガ3がセレクト方向に移動する。このとき、ナット本体6がシフト方向に移動しないように、シフト用電動機71を、セレクト用電動機72と同期回転させている。
【0061】
第2実施形態のギアシフト装置1’では、第1実施形態のような連結機構たる電磁クラッチ9や、回転阻止機構たるボールプランジャ10及び溝部82は設けられていない。第2実施形態においては、セレクト用電動機72が回転防止機構として機能する。他の構成は、全て第1実施形態のものと同一に構成される。
【0062】
第2実施形態のギアシフト装置1’によっても、第1実施形態のものと同様に、シフトレール2の当接面2b,2bに高い加工精度が要求されず、ギアシフト装置1の製造コストを低廉に抑えることができる。
【0063】
[第3実施形態]
次に、図11から図22を参照して、本発明のギアシフト装置の第3実施形態を説明する。なお、第1及び第2実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。図11〜図13に示すように、ギアシフト装置1”は、第2実施形態のギアシフト装置1’と同様に、2つの電動機71,72を備える。電動機71は、シフト用の電動機であり、ネジシャフト5の一端部に接続されている。
【0064】
また、第1及び第2実施形態とは異なり、第3実施形態のギアシフト装置1”は、アームホルダ8を備えておらず、アーム81はハウジング41に固定されている。
【0065】
第3実施形態のナットは、ナット本体6と、ナット本体6に外嵌されるリング部材63とで構成される。シフトフィンガ3は、リング部材63の外周面に設けられる。ナット本体6の軸方向両端部には、リング部材63がナット本体6に対して軸方向に移動することを規制すべくしてリング部材63を軸方向で挟み込むように張出部64が設けられている。
【0066】
また、リング部材63には、シフトフィンガ3のセレクト方向への移動量に対応させた扇状の外歯部63aが設けられている。外歯部63aには、ネジシャフト5と平行に配置されたアイドルシャフト72cに固定されたアイドルピニオン72dが噛合している。アイドルシャフト72cは、ハウジング41に回転自在に軸支されている。また、アイドルシャフト72cには、アイドルギア72bが固定されており、アイドルギア72bには、セレクタ用電動機72のピニオン72aが噛合している。
【0067】
張出部64には、アーム81と軸方向に移動自在に嵌合する嵌合部64aが設けられている。このように、アーム81と嵌合部64aとが嵌合することにより、ナット本体6の回転が阻止され、シフト用電動機71が回転すると、ネジシャフト5が回転し、ナット本体6は、アーム81に沿って軸方向に移動する。
【0068】
また、ネジシャフト5が回転してもセレクト用電動機72が回転しない限り、アイドルギア72b、アイドルシャフト72c、アイドルピニオン72d外歯部63aを介してリング部材63の回転も阻止される。逆に、セレクト用電動機72を回転させると、アイドルギア72b、アイドルシャフト72c、アイドルピニオン72d外歯部63aを介してリング部材63が回転し、シフトフィンガ3がセレクト方向に移動する。
【0069】
第1から第5の各シフトレール21〜25には、一対の当接面2bを備える凹部2eがシフト方向に沿って等間隔に5つ設けられている。
【0070】
次に、図16から図22を参照して、各シフトレール21〜25の作動を説明する。図16(a)に示すように、初期状態では、全てのシフトレール21〜25がニュートラルに位置しており、シフトフィンガ3は、第1シフトレール21の中央の凹部21cに位置している。このときに、運転者がシフトレバーを走行レンジに移動させると、制御機構は、図16(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第1シフトレール21を1速側(L側、図面左側)に移動させて、1速インギア状態とする。
【0071】
制御機構が、車両情報に基づいて、1速段から2速段へのアップシフトを予測した場合には、図16(c)を参照して、まず、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第2から第4のシフトレール22〜24の左側から2番目の凹部22b,23b,24bを夫々通して、第5シフトレール25の6速側(図面左側)から2番目の凹部25bに移動させる。
【0072】
そして、制御機構は、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第5シフトレール25を2速側(図面右側)に移動させて、2速インギア状態とする。そして、車両が1速段で走行中の間は、2速段にアップシフトした後に素早く第1シフトレール21をニュートラルの位置に戻して3速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図16(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第2から第4のシフトレール22〜24の中央の凹部22c,23c,24cを通して、第1シフトレール21の図面右側(N側)から2番目の凹部21dに移動させて待機する。
【0073】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、2速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図16(e)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、2速段での走行状態とする。
【0074】
制御機構が、車両情報に基いて、2速段から3速段へのアップシフトを予測した場合には、まず、図16(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第1シフトレール21をニュートラルの位置に移動させる。そして、図16(g)に示すように、シフトフィンガ3を、セレクト用電動機72を回転させて、第2シフトレール22の3速段側(図面右側)から2番目の凹部22dに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第2シフトレール22を3速側(図面右側)に移動させて、3速インギア状態とする。
【0075】
そして、3速段にアップシフトした後に素早く第5シフトレール25をニュートラルの位置に戻して4速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図16(h)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3から第4のシフトレール23〜24の図面右側から1番目の凹部23e,24eを通して、第5シフトレール25の2速段側(図面右側)から2番目の凹部25dに移動させて待機する。
【0076】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、3速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図17(a)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、3速段での走行状態とする。
【0077】
制御機構が、車両情報に基いて、3速段から4速段へのアップシフトを予測した場合には、まず、図17(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を2速段側(図面右側)に移動させ、第5シフトレール25をニュートラルの位置に移動させる。そして、図17(c)に示すように、シフトフィンガ3を、セレクト用電動機72を回転させて、第4シフトレール24の後進段側(図面右側)から2番目の凹部24dに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第4シフトレール24を4速段側(図面左側)に移動させて、4速インギア状態とする。
【0078】
そして、車両が3速段で走行中の間は、4速段にアップシフトした後に素早く第5シフトレール25をニュートラルの位置に戻して4速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図17(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3シフトレール23の中央の凹部23cを通して、第2シフトレール22の7速段側(図面左側)から2番目の凹部22bに移動させて待機する。
【0079】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、4速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図17(e)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、4速段での走行状態とする。
【0080】
制御機構が、車両情報に基いて、4速段から5速段へのアップシフトを予測した場合には、まず、図17(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を3速段側(図面右側)に移動させ、第2シフトレール22をニュートラルの位置に移動させる。そして、図17(g)に示すように、シフトフィンガ3を、セレクト用電動機72を回転させて、第3シフトレール23の5速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第3シフトレール23を5速段側(図面左側)に移動させて、5速インギア状態とする。
【0081】
そして、制御機構は、5速段にアップシフトした後に素早く第4シフトレール24をニュートラルの位置に戻して6速インギア状態に移行できるように、図17(h)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から2番目の凹部24bに移動させて待機する。
【0082】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、5速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図18(a)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、5速段での走行状態とする。
【0083】
制御機構が、車両情報に基いて、5速段から6速段へのアップシフトを予測した場合には、まず、図18(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を後進段側(図面右側)に移動させ、第4シフトレール24をニュートラルの位置に移動させる。そして、図18(c)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第5シフトレール25の6速段側(図面左側)から2番目の凹部25bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第5シフトレール25を6速段側(図面左側)に移動させて、6速インギア状態とする。
【0084】
そして、制御機構は、6速段にアップシフトした後に素早く第3シフトレール23をニュートラルの位置に戻して7速インギア状態に移行できるように、図18(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から1番目の凹部24bを通して、第3シフトレール23の5速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させて待機する。
【0085】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、6速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図18(e)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、6速段での走行状態とする。
【0086】
制御機構が、車両情報に基いて、6速段から7速段へのアップシフトを予測した場合には、まず、図18(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第3シフトレール23をニュートラルの位置に移動させる。そして、図18(g)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第2シフトレール22の7速段側(図面左側)から2番目の凹部22bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第2シフトレール22を7速段側(図面左側)に移動させて、7速インギア状態とする。
【0087】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、7速段へのアップシフトを行う必要があると判断した場合には、図18(h)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、7速段での走行状態とする。
【0088】
車両が7速段で走行しているときに、制御機構が、車両情報に基づき、6速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図19(a)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、6速段での走行状態とする。
【0089】
6速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、6速段から5速段へのダウンシフトを予測した場合には、まず、図19(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を3速段側(図面右側)に移動させ、第2シフトレール22をニュートラルの位置に移動させる。そして、図19(c)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第3シフトレール23の5速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第3シフトレール23を5速側(図面左側)に移動させて、5速インギア状態とする。
【0090】
そして、5速段にダウンシフトした後に素早く第5シフトレール25をニュートラルの位置に戻して4速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図19(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第4シフトレール24の図面左側から1番目の凹部24aを通して、第5シフトレール25の6速段側(図面左側)から2番目の凹部25bに移動させて待機する。
【0091】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、5速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図19(e)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、5速段での走行状態とする。
【0092】
5速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、5速段から4速段へのダウンシフトを予測した場合には、まず、図19(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を2速段側(図面右側)に移動させ、第5シフトレール25をニュートラルの位置に移動させる。そして、図19(g)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から2番目の凹部24bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第4シフトレール24を4速側(図面左側)に移動させて、4速インギア状態とする。
【0093】
そして、4速段にダウンシフトした後に素早く第3シフトレール23をニュートラルの位置に戻して3速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図19(h)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3シフトレール23の5速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させて待機する。
【0094】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、4速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図20(a)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、4速段での走行状態とする。
【0095】
4速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、4速段から3速段へのダウンシフトを予測した場合には、まず、図20(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第3シフトレール23をニュートラルの位置に移動させる。そして、図20(c)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第2シフトレール22の7速段側(図面左側)から2番目の凹部22bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第2シフトレール22を3速側(図面右側)に移動させて、3速インギア状態とする。
【0096】
そして、3速段にダウンシフトした後に素早く第4シフトレール24をニュートラルの位置に戻して2速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図20(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3シフトレール23の中央の凹部23cを通して、第4シフトレール24の後進段側(図面右側)から2番目の凹部24dに移動させて待機する。
【0097】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、3速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図20(e)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、3速段での走行状態とする。
【0098】
3速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、3速段から2速段へのダウンシフトを予測した場合には、まず、図20(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第4シフトレール24をニュートラルの位置に移動させる。そして、図20(g)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第5シフトレール25の2速段側(図面右側)から2番目の凹部25dに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第5シフトレール25を2速段側(図面右側)に移動させて、2速インギア状態とする。
【0099】
そして、2速段にダウンシフトした後に素早く第2シフトレール22をニュートラルの位置に戻して1速インギア状態に移行できるように、制御機構は、図20(h)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3及び第4のシフトレール23,24の図面右側から1番目の凹部23e,24eを夫々通して、第2シフトレール22の3速段側(図面右側)から2番目の凹部23dに移動させて待機する。
【0100】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、2速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図21(a)に示すように、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、2速段での走行状態とする。
【0101】
2速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、2速段から1速段へのダウンシフトを予測した場合には、まず、図21(b)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面左側に移動させ、第2シフトレール22をニュートラルの位置に移動させる。そして、図21(c)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第1シフトレール21の図面右側から2番目の凹部21dに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第1シフトレール21を1速段側(L側、図面左側)に移動させて、1速インギア状態とする。
【0102】
そして、1速段にダウンシフトした後に素早く第5シフトレール25をニュートラルの位置に戻せるように、制御機構は、図21(d)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第2から第4のシフトレール23,24の中央の凹部22c,23c,24cを夫々通して、第5シフトレール25の6速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させて待機する。
【0103】
そして、制御機構が、車両情報に基づき、1速段へのダウンシフトを行う必要があると判断した場合には、図21(e)に示すように、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、1速段での走行状態とする。
【0104】
1速段で走行中に、制御機構が、車両情報に基いて、1速段から2速段へのアップシフトを予測していない場合には、図21(f)に示すように、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面左側に移動させ、第5シフトレール25をニュートラルの位置に移動させてもよい。これにより、運転者の操作によりシフトレバーが走行レンジから後進レンジに移行したときに、素早く後進段インギア状態とすることができる。
【0105】
そして、運転者の操作によりシフトレバーが走行レンジから後進レンジに移行したときには、図21(g)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から2番目の凹部24bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第4シフトレール24を後進段側(R側、図面右側)に移動させて、後進段インギア状態とし、いつでも後進段での走行が可能な状態とする。
【0106】
次に、図22から図24を参照して、「2速段飛ばしのダウンシフト」を実行する場合の制御機構の作動について説明する。
【0107】
図18(h)に示したように、車両が7速段で走行しているときに、制御機構が、急減速等の車両情報に基いて、7速段から4速段への「2段飛ばしのダウンシフト」を行う必要があると判断した場合には、まず、図22(a)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第3及び第4のシフトレール23,24の図面左側から1番目の凹部23a,24aを通して、第5シフトレール25の6速段側(図面左側)から2番目の凹部25bに移動させる。そして、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第5シフトレール25をニュートラルの位置に移動させる。
【0108】
そして、図22(b)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から2番目の凹部24bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第4シフトレール24を4速段側(図面左側)に移動させて、4速インギア状態とする。そして、図22(c)に示すように、制御機構は、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、4速段での走行状態とする。
【0109】
図19(d)に示したように、車両が6速段で走行しているときに、制御機構が、急減速等の車両情報に基いて、6速段から3速段への「2段飛ばしのダウンシフト」を行う必要があると判断した場合には、まず、図23(a)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を、第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から1番目の凹部24aを通して、第3シフトレール23の5速段側(図面左側)から2番目の凹部23bに移動させる。そして、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第3シフトレール23をニュートラルの位置に移動させる。
【0110】
そして、図23(b)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第2シフトレール22の7速段側(図面左側)から2番目の凹部22bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第2シフトレール22を3速段側(図面右側)に移動させて、3速インギア状態とする。そして、図23(c)に示すように、制御機構は、変速機の偶数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の奇数段用のクラッチを締結させて、3速段での走行状態とする。
【0111】
図19(h)に示したように、車両が5速段で走行しているときに、制御機構が、急減速等の車両情報に基いて、5速段から2速段への「2段飛ばしのダウンシフト」を行う必要があると判断した場合には、まず、図24(a)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第4シフトレール24の4速段側(図面左側)から2番目の凹部24bに移動させる。そして、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3を図面右側に移動させ、第4シフトレール24をニュートラルの位置に移動させる。
【0112】
そして、図24(b)に示すように、セレクト用電動機72を回転させて、シフトフィンガ3を第5シフトレール25の6速段側(図面左側)から2番目の凹部25bに移動させ、シフト用電動機71を回転させて、シフトフィンガ3で第5シフトレール25を2速段側(図面右側)に移動させて、2速インギア状態とする。そして、図24(c)に示すように、制御機構は、変速機の奇数段用のクラッチを開放すると共に、変速機の偶数段用のクラッチを締結させて、2速段での走行状態とする。
【0113】
第3実施形態のギアシフト装置1”によれば、シフトレール2の当接部分に設けられた一対の当接面を備える凹部2eがシフト方向に等間隔で複数設けられた、櫛型形状となっているため、シフトフィンガ3が当接面に接触するまでのシフト方向のクリアランスを小さく設定できる。このため、本実施形態のギアシフト装置1”によれば、迅速にシフトレール2を移動させることができる。
【符号の説明】
【0114】
1,1’,1”…ギアシフト装置、2…シフトレール、2a…シフトフォーク、2b…当接面、2c…係合穴、2d…円柱状体、2e…凹部、21…第1シフトレール、21c…中央の凹部、22…第2シフトレール、23…第3シフトレール、24…第4シフトレール、25…第5シフトレール、26…係合ボール(係合体)、26a…保持部材、3…シフトフィンガ、4…移動機構、41…ハウジング、41a…H状切欠部、5…ネジシャフト、5a…歯車、51…歯車、6…ナット本体、61…フランジ部、61a…貫通孔、62…突部、63…リング部材、63a…外歯部、64…張出部、64a…嵌合部、7…電動機(動力源)、71…シフト用電動機(シフト用動力源)、71a…ピニオン、71b…アイドルギア、72…セレクト用電動機(セレクト用動力源)、72a…ピニオン、72b…アイドルギア、72c…アイドルシャフト、72d…アイドルピニオン、8…アームホルダ、81…アーム、82…溝部、83…歯車、9…電磁クラッチ(連結機構)、91…固定子、92…回転子、93…接触子、93a…板状バネ、10…ボールプランジャ、11…レール孔。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機に設けられた複数の噛合機構のスリーブと夫々係合するシフトフォークに接続される複数のシフトレールと、該シフトレールをシフト方向に押圧可能なシフトフィンガと、該シフトフィンガをセレクト方向及びシフト方向に移動自在な移動機構とを備えるギアシフト装置において、
前記各シフトレールには、前記シフトフィンガと当接するための互いに対向した一対の当接面が設けられ、
前記各シフトレールは、前記シフトフィンガのみによってシフト方向へ移動され、
前記シフトレールの一対の当接面が設けられた当接部分は、前記複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合でも、前記シフトフィンガが前記セレクト方向に移動自在となるように構成されることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項2】
請求項1記載のギアシフト装置において、
前記当接部分には、前記一対の当接面がシフト方向に等間隔で複数設けられることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項3】
請求項1記載のギアシフト装置において、
前記一対の当接面の間隔は、前記複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合でも前記シフトフィンガが「フィンガのニュートラル位置」で前記セレクト方向に移動自在となるように設定されることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載のギアシフト装置において、
前記移動機構は、周面にネジ溝を有するネジシャフトと、該ネジシャフトに螺合するナットと、該ナットの回転を解除可能に阻止する回転阻止機構と、前記ネジシャフトを回転させるシャフト回転機構と、前記ナットと前記ネジシャフトとを一体に回転するように連結させる連結機構とを備え、
前記シフトフィンガは、前記ナットの外周に設けられることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項5】
請求項4記載のギアシフト装置において、
前記ナットには突部が設けられ、
前記ネジシャフトを回転自在に軸支するハウジング又はこれに連なる固定部材に、前記ナットの回転又は移動に伴って回転又は移動する前記突部の動きに対応させて、H状切欠部が設けられ、
該H状切欠部は、少なくとも前記シフトレールの移動により、変速機のギヤとシャフトとが連結されたときに、前記突部の回転方向の動きを阻止することを特徴とするギアシフト装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載のギアシフト装置において、
前記ナットは、
ナット本体と、該ナット本体の外周に設けられたフランジ部と、該フランジ部に穿設された軸方向に貫通する貫通孔と、該貫通孔に挿通されるアームと、該アームの一方の端部に連結されると共に前記ネジシャフトと相対回転可能に配置されたアームホルダとを備え、
前記連結機構は、前記アームホルダと、前記ネジシャフトと一体に回転するロータとを解除自在に連結させる電磁クラッチで構成されることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか1項に記載のギアシフト装置において、
前記複数のシフトレールの間には、シフト方向への移動が阻止されると共にシフトレールの間の間隔方向に移動自在な係合体が配置され、前記各シフトレールには、該係合体に対応する係合穴が形成され、一のシフトレールが前記シフト方向に移動するときに、前記係合体が該一のシフトレールの係合穴により対応する他のシフトレールの係合穴に向かって押し出されて対応する他のシフトレールの係合穴と係合することにより、該他のシフトレールのシフト方向への移動が阻止されることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項1】
変速機に設けられた複数の噛合機構のスリーブと夫々係合するシフトフォークに接続される複数のシフトレールと、該シフトレールをシフト方向に押圧可能なシフトフィンガと、該シフトフィンガをセレクト方向及びシフト方向に移動自在な移動機構とを備えるギアシフト装置において、
前記各シフトレールには、前記シフトフィンガと当接するための互いに対向した一対の当接面が設けられ、
前記各シフトレールは、前記シフトフィンガのみによってシフト方向へ移動され、
前記シフトレールの一対の当接面が設けられた当接部分は、前記複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合でも、前記シフトフィンガが前記セレクト方向に移動自在となるように構成されることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項2】
請求項1記載のギアシフト装置において、
前記当接部分には、前記一対の当接面がシフト方向に等間隔で複数設けられることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項3】
請求項1記載のギアシフト装置において、
前記一対の当接面の間隔は、前記複数のシフトレールが互いに異なる方向に移動している場合でも前記シフトフィンガが「フィンガのニュートラル位置」で前記セレクト方向に移動自在となるように設定されることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載のギアシフト装置において、
前記移動機構は、周面にネジ溝を有するネジシャフトと、該ネジシャフトに螺合するナットと、該ナットの回転を解除可能に阻止する回転阻止機構と、前記ネジシャフトを回転させるシャフト回転機構と、前記ナットと前記ネジシャフトとを一体に回転するように連結させる連結機構とを備え、
前記シフトフィンガは、前記ナットの外周に設けられることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項5】
請求項4記載のギアシフト装置において、
前記ナットには突部が設けられ、
前記ネジシャフトを回転自在に軸支するハウジング又はこれに連なる固定部材に、前記ナットの回転又は移動に伴って回転又は移動する前記突部の動きに対応させて、H状切欠部が設けられ、
該H状切欠部は、少なくとも前記シフトレールの移動により、変速機のギヤとシャフトとが連結されたときに、前記突部の回転方向の動きを阻止することを特徴とするギアシフト装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載のギアシフト装置において、
前記ナットは、
ナット本体と、該ナット本体の外周に設けられたフランジ部と、該フランジ部に穿設された軸方向に貫通する貫通孔と、該貫通孔に挿通されるアームと、該アームの一方の端部に連結されると共に前記ネジシャフトと相対回転可能に配置されたアームホルダとを備え、
前記連結機構は、前記アームホルダと、前記ネジシャフトと一体に回転するロータとを解除自在に連結させる電磁クラッチで構成されることを特徴とするギアシフト装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか1項に記載のギアシフト装置において、
前記複数のシフトレールの間には、シフト方向への移動が阻止されると共にシフトレールの間の間隔方向に移動自在な係合体が配置され、前記各シフトレールには、該係合体に対応する係合穴が形成され、一のシフトレールが前記シフト方向に移動するときに、前記係合体が該一のシフトレールの係合穴により対応する他のシフトレールの係合穴に向かって押し出されて対応する他のシフトレールの係合穴と係合することにより、該他のシフトレールのシフト方向への移動が阻止されることを特徴とするギアシフト装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
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【図10】
【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2012−233571(P2012−233571A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−11222(P2012−11222)
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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