説明

クメンからのフェノールの調製方法

クメンヒドロペルオキシド(CHP)を経てクメンからフェノール/アセトンを連続的又は半連続的に製造するための方法であって、(a)立下り管の少なくとも上方部及び/又は下方部がフレアを有するエアリフト反応器でCHPを製造し、(b)直列に接続された2つの熱交換器を含み、またCHP及び新鮮なアセトンの供給部が対であり、各対が各交換器の上流に位置決めされるループ反応器における酸処理によってクメンヒドロペルオキシドを開裂することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クメンからフェノールを調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、フェノールは、クメンから製造することができる。この製造方法には2つの段階がある。第1段階ではクメンをクメンヒドロペルオキシド(CHP)に転化率20〜35質量%で酸化し、第2段階ではこのCHPを酸(一般に硫酸)でフェノールとアセトンとに酸開裂する。第1段階と第2段階との間には一般に濃縮ステップがあり、CHPを70〜90質量%に濃縮する。
【0003】
極度に発熱性であるこの酸開裂反応の終了時に、反応塊を中和し、次にフェノールを蒸留によって回収する。
【0004】
酸化反応とそれに続く酸開裂反応には共に望ましくない二次反応が伴うことから、上記の2つの作業段階を行うためには、この欠点を抑制することができる方法/装置を準備する必要がある。特に、二次反応を経て、副生成物が、例えばジクミルペルオキシド(DCP)及びジメチルベンジルアルコール(DMBA)として製造され、これらは、下流での処理後、選択的にフェノール及びα−メチルスチレンに変換される。α−メチルスチレンは水素化後にクメンとなり、続いてリサイクルすることができる。
【0005】
工業的には、クメンの酸化反応は「エアリフト(air lift)」反応器として知られる特殊な反応器で行われ、この反応器は実質的に円筒状の構造体から成り、その内部には、端部が開放されている第2シリンダが同軸で位置決めされていて、これが反応塊の内部での再循環を可能にしている。この第2シリンダは当業者には「立下り管(downcomer)」の用語で知られる。エアリフト反応器の一例を図1Aに示す。図1Aは反応器の主要な要素を図示したものであり、ガス及び蒸気用のベントに加えて、外方マントル、立下り管並びに反応物及び反応生成物の供給/排出地点が含まれる。
【0006】
反応物、すなわちクメン及び好ましくは空気である酸素含有ガスを連続的に反応器の基部に供給し、また同じく連続的に立下り管を通して内部でリサイクルする。実質的に残留空気及び蒸気から成るガス相は反応器のヘッドから反応生成物と共に排出される。この反応生成物は、考えられ得る副生成物に加えて、実質的にCHP及び未反応のクメンから成る混合物である。
【0007】
CHPの濃縮後、反応生成物を一時的に貯蔵し得て、それから開裂反応に供する。工業規模では、この第2反応は、当業者に「ループ(loop)」反応器として知られる密閉サイクル反応器で起きる。特に、図2に表わされるこの反応器は、酸成分(1)の注入口と、その上流のCHP(2)及びアセトン(3)の注入口とがある管Aから成る。クメンヒドロペルオキシド開裂に由来する2種類の生成物の1つであるアセトンを、方法の総収率を上昇させるために反応モデレータとして導入する。次に、反応混合物を、管束反応器(B)の管に迅速に流し、同時に反応熱を冷却水で除去する。冷却水は、(4)及び(5)を通して供給及び排出され、シェル側部を流れる。反応混合物は管(A)に再度送られ、このサイクルが継続する。製造されたフェノールは、(アセトンと共に)(6)から連続的に排出される。
【0008】
ここで出願人は、最先端技術で知られる方法に代わる、クメンからフェノールを製造する方法を発見した。この新しい方法は、酸化段階に関する限りCHPの選択性を改善するものであり、また管理がより容易であるが、これは例えば、安全性の為のより良好な温度制御が可能になるからである。開裂反応に関する限り、再循環ポンプで処理する量がより少なく、またフェノール及びα−メチルスチレンへの選択性がより高いことから、この方法の管理コストは低い。
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明の目的は、クメンヒドロペルオキシド(CHP)を経てクメンからフェノールを連続的又は半連続的に製造するための方法に関し、この方法は、
(a)エアリフト反応器における酸素含有ガスによるクメンの酸化によってCHPを製造し、この反応器は
(a1)それぞれ反応物を供給するための手段と、反応生成物(実質的にCHP)、蒸気及び未反応ガスを排出するための手段とが設けられた下方及び上方閉鎖要素を備えた円筒状構造体と、
(a2)端部(基部)が開放されている、第1構造体の内部に同軸に配置された第2の実質的に円筒状の構造体(立下り管)と、
(a3)反応器の基部に、第2の実質的に円筒状の構造体を取り巻いて位置する環状ガス分配器と、を含み、
立下り管には少なくとも1つの上方及び/又は下方フレアが設けられているため、このフレアの大きいほうの横断面A1と小さいほうの横断面A2とのA1/A2比は1.1〜2であり、
(b)エアリフト反応器から排出されたCHPを含有する溶液を少なくとも70質量%、好ましくは80〜90質量%に濃縮し、
(c)アセトンの存在下、サイクルに直列に配置された2つの熱交換器で反応熱を回収するループ反応器におけるCHPの酸開裂反応によってフェノールを製造し、
CHP及びアセトンの供給部(feedings)は対であり、各対は各交換器の上流に位置決めされることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】エアリフト反応器の一例を示す図。
【図1B】本発明のエアリフト反応器の一例を示す図。
【図2】反応器の一例を示す図。
【図3】本発明のCHPの開裂反応に使用されるシステムを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、図1Bにその概略図を示すエアリフト反応器(従来の同等のデバイスと比較すると革新的な要素(フレア)が明白である)に、場合によっては酸素を富化した(例えば、最高50体積%)空気を供給する。あるいは、安全上の理由により酸素濃度を低下させた空気(例えば、10〜20体積%)で動作させることが可能である。クメンの酸化反応は、温度50〜150℃及び圧力0.1〜0.8MPaで起きる。
【0012】
空気は、複数の孔を備えた環状分配器によって供給される。分配器は反応器の基部に位置決めされ、また供給された空気の、泡の形態でのマントルの壁に接触しての上方向への流動を可能にする。この空気が反応器のヘッドに到達すると、空気の一部は外部に排出され、残りは液体に取り込まれることからリサイクルされて立下り管内へと下降する。この再循環運動は、再循環している量(体積)と反応器から外に出る量(体積)との比として定義される立下り管内の空気のリサイクル比を0.3より高く(好ましくは0.4〜0.7)することを可能にする立下り管のフレアによって大きく促進され、この結果、酸化の選択性が上昇する。
【0013】
立下り管は、実質的に、反応器の内側に同軸に位置決めされた管又は円筒状要素であり、その端部(基部)は開放されていることから、反応器の中心部での環状の下降運動及び反応器の立上り管に沿った上昇運動を伴った反応物系、特には空気の再循環が可能になる。
【0014】
立下り管のフレアは、円筒状要素の上方部及び/又は下方部に位置決めされ得る。どちらの場合でも、フレアは一方の基部から始まり、円筒状要素の対応するもう一方の基部で終了し得もする。しかしながら、フレアが、管の長さの約半分の位置から始まることが好ましく、例えば、フレアが、一方若しくは両方の基部又は端部から始まって管の長さの10〜40%を占めることが好ましい。どちらの場合においても、用語「フレア(flaring)」とは、管又は円筒状要素又は立下り管の一部の、上方及び/又は下方基部に向かっての広がりのことである。
【0015】
本発明の好ましい実施形態に従って、円筒状リングを立下り管の上方及び/又は下方フレアの最上部に連結することが可能であり、その高さは反応器の寸法に左右されるが、例えば5〜100cmになり得る。
【0016】
本発明の更なる実施形態に従って、クメンの酸化反応器の外方マントルは、再開し、また立下り管のフレアに実質的に対応する同様の上向き及び/又は下向きフレアも含み得る。
【0017】
最後に、クメンの酸化反応は好ましくは塩基性化合物の存在下で行われる。塩基性化合物の例はアミン、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)又はアルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)のヒドロキシド及びカーボネートであり、単独で又は互いに混合して使用される。ヒドロキシド及びカーボネートは一般に水性溶液/分散液として供給され得て、その流量は、塩基金属の量が供給されるクメン1トンあたり0.1〜10、好ましくは0.5〜8g当量となるようなものである。同濃度がアミンにも有効である。
【0018】
製造されたCHPはエアリフト反応器から連続的に排出され、濃縮後、開裂反応に送る前に貯蔵され得る(半連続工程)。
【0019】
70質量%より高い値までのCHPの濃縮は、特殊な装置における蒸発/蒸留によって起きる。濃縮物はフェノール(及び副生成物としてのアセトン)製造セクションに送られる。
【0020】
酸開裂反応は更なるアセトン及び酸(好ましくは硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸)の存在下で起きる。酸開裂反応の副生成物でもあるアセトンは希釈目的で使用され、酸は、CHPのフェノールとアセトンへの極度に発熱性の酸開裂を促進する触媒である。酸は、1ステップでサイクルに供給される。
【0021】
反応媒体中の酸の濃度は80〜250ppm、好ましくは110〜180ppmであり、より好ましくは150ppmである。
【0022】
CHPの酸開裂反応は極度に発熱性であることから、反応熱を迅速に除去しなくてはならない。これを理由として、反応システムは、外部から冷却する2つの管束式交換器を含む。各管束は例えば円筒状の容器内に位置し、この容器には冷却流体(例えば、水)が供給され、冷却水の供給及び排出は連続的な流れで行われる。冷却液は、実質的に、管束によって占拠されていない交換器の自由な空間を占める。
【0023】
サイクル状に配置された2つの交換器は互いに接続されているため、一方の出口がもう一方の供給口となり、その反対にもなる。
【0024】
CHP及びアセトンの供給部は、各熱交換器の上流に対で位置決めされる。特に、第1供給部対により、0〜100%、好ましくは30〜70%、より好ましくは50%のCHP及び/又はアセトンを供給し、それに対応して第2供給部対から100〜0%、好ましくは70〜30%、より好ましくは50%のCHP及び/又はアセトンを供給する。
【0025】
図3は、本発明によるCHPの開裂反応のための反応システムの説明図である。このシステムは、U管(80)及びポンプを含むシステム(70)で互いに接続された2つの管束式熱交換器A1、B1を含み、このU管(80)とシステム(70)とが管束の管から出た反応流(例えば、A1内の反応流)の連続的な再循環を可能にするため、反応流は続く管束(B1)に進入する。2つの管束は円筒状の容器内に収容され、この中を冷却水が循環する。冷却水は、(40)、(50)及び(41)、(51)からそれぞれ供給及び排出される。
【0026】
酸(10)の全て並びにCHP(11)及びアセトン(12)の一部の供給部がそれぞれシステム(70)の管に存在する。CHP及びアセトンの残りの第2供給分は、(20)及び(30)からそれぞれループ反応器に供給される。
【0027】
反応物の混合物は、再循環ポンプの使用によりループ反応器内を連続的に循環する。アセトン溶液の場合はフェノールである反応生成物は、流出口(60)から連続的に排出される。
【0028】
本発明によるループ反応器の代替の実施形態に従って、酸を、特には2つの部分供給部の一方においてアセトンで予備希釈し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クメンヒドロペルオキシド(CHP)を経てクメンからフェノールを連続的又は半連続的に製造するための方法であって、
(a)エアリフト反応器における酸素含有ガスによるクメンの酸化によってCHPを製造する工程であって、前記反応器は、
(a1)それぞれ反応物を供給するための手段と、反応生成物(実質的にCHP)、蒸気及び未反応ガスを排出するための手段とが設けられた下方及び上方閉鎖要素を備えた円筒状構造体と、
(a2)端部(基部)が開放されている、前記第1構造体の内部に同軸に配置された第2の実質的に円筒状の構造体(立下り管)と、
(a3)前記反応器の基部に、前記第2の実質的に円筒状の構造体を取り巻いて位置する環状ガス分配器と、
を含み、前記CHPの製造が、前記立下り管に上方及び/又は下方フレアが設けられ、これにより、前記フレアの大きいほうの横断面A1と、小さいほうの横断面A2とのA1/A2比が1.1〜2で構成されていることを特徴とする工程、
(b)前記エアリフト反応器から排出されたCHPを含有する溶液を少なくとも70質量%に濃縮する工程、
(c)アセトンの存在下、サイクルに直列に配置された2つの熱交換器で反応熱を回収するループ反応器におけるCHPの酸開裂反応によってフェノールを製造する工程、
を有し、前記フェノールの製造が、CHP及びアセトンの供給部が対であり、各対が各交換器の上流に位置決めされることを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記エアリフト反応器に、場合によっては最高50体積%にまで酸素を富化した空気を供給する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エアリフト反応器に、10〜20体積%の低下させた酸素濃度で空気を供給する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記クメンの酸化反応は、温度50〜150℃及び圧力0.1〜0.8MPaで起きる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
高さが5〜100cmの円筒状リングを、前記立下り管の上方及び/又は下方フレアの最上部に連結する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記クメンの酸化反応器の外方シェルは、前記立下り管のフレアに実質的に対応する同様の上向き及び/又は下向きフレアを含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
再循環している量と反応器から外に出る量との比として定義される前記立下り管内の空気のリサイクル比は0.3より高い、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記クメンの酸化反応は、アミン並びにアルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシド及びカーボネートから選択される塩基性化合物の存在下で行われる、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシド及びカーボネートが水性溶液/分散液として供給され、その流量が、塩基金属の量が供給されるクメン1トンあたり0.1〜10グラム当量となるようなものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記CHPを、蒸発/蒸留によって80〜90質量%の値にまで濃縮する、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記酸開裂反応は、アセトン及び硫酸、リン酸又は硝酸から選択される酸の存在下で起きる、請求項1から10のいずれかに記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−510190(P2013−510190A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538424(P2012−538424)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/IB2010/002778
【国際公開番号】WO2011/055206
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512115977)ヴェルサリス ソシエタ ペル アチオニ (5)
【Fターム(参考)】