説明

クラウンギア減速機構

【課題】可動クラウンギアに歳差運動を行わせるための曲げ柔性に加えて、軸まわりの回転を伝達するに際しての捩り剛性や許容トルクを、向上させる。
【解決手段】固定クラウンギア2と、可動クラウンギア1と、可動クラウンギア1を押し付ける押付機構と、可動クラウンギア1に連結される出力軸3とを備え、押付機構の回転によって、可動クラウンギア1が歳差運動を行うように設けたクラウンギア減速機構において、出力軸3を、可動クラウンギア1に結合される結合軸部30と、可動クラウンギア1の歳差運動に伴って弾性変形する弾性軸部31と、出力軸部32とを、軸方向aに沿って連続させたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きな減速比を実現する減速機構に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、シンプルな構造でありながら高い減速比と低バックラッシを実現することのできる減速機構として、図11に示す構成のクラウンギア減速機構を提案している。
【0003】
このクラウンギア減速機構は、特許第4511635号公報でも開示しているように、外部部材に固定される固定クラウンギア2と、この固定クラウンギア2との歯数差が1である可動クラウンギア1とを備え、固定クラウンギア2に対して可動クラウンギア1を噛み合わせたものである。そして、軸まわりに回転駆動される押付機構4によって、可動クラウンギア1を固定クラウンギア2側に押し付けている。
【0004】
このとき、可動クラウンギア1と固定クラウンギア2は、互いに噛み合った状態で可動クラウンギア1が固定クラウンギア2に対して僅かに傾き、且つ、噛み合い箇所が傾倒中心線を挟む左右2箇所に分散するように、互いの寸法形状を設定している。
【0005】
可動クラウンギア1は、その内周部から径方向内側へと延設される4本のスポーク40と、これらスポーク40の先端が連結されるハブ50とを有し、可動クラウンギア1の中心に位置するハブ50に対して、細長い棒状の出力軸70の端部を固定させている。つまり、可動クラウンギア1から径方向内側に延長させたスポーク40とハブ50を介して、可動クラウンギア1と、棒状の出力軸70とを、可撓的に連結させている。
【0006】
可動クラウンギア1を押し付ける押付機構4は、入力軸60の先端部に連結されて一体に回転する押付軸5と、この押付軸5から径方向外側に延設される十字状のアーム6と、アーム6の先端部に設けた押圧体7とから成る。この押圧体7は、可動クラウンギア1の背面に押圧力を与えるものであり、転動自在な部材として例えばローラが用いられる。
【0007】
前記構成から成るクラウンギア減速機構においては、モータ等の動力によって押付機構4を回転させることで、可動クラウンギア1が、固定クラウンギア2に対して噛み合う箇所を移動させながら、歳差運動を行う。この歳差運動に伴って各スポーク40を弾性変形させながら、可動クラウンギア1から出力軸70へと、軸まわりの回転が伝達される。これにより、モータ等から押付機構4に入力される回転が、出力軸70を通じて高減速比で出力される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11に示す従来のクラウンギア減速機構においては、可動クラウンギア1と出力軸70とを、径方向内側に延長される薄板状のスポーク40によって連結させている。そのため、可動クラウンギア1に歳差運動を行わせるための曲げ柔性は確保されやすい。しかし、このスポーク40を用いた構造は、軸まわりの回転を伝達するに際しての捩り剛性や許容トルクが確保されにくい構造となる。
【0009】
これに対して、捩り剛性や許容トルクを向上させるには、各スポーク40の幅や厚みを大きくすることや、長さを短くすることも考えられる。しかし、このようにした場合、捩り剛性や許容トルクが向上するものの、曲げ柔性が大幅に低下する。その結果、可動クラウンギア1に歳差運動を行わせるためのエネルギが増大し、起動トルクも増大する。
【0010】
このように、図11に示すようなクラウンギア減速機構において、可動クラウンギア1の歳差運動を行わせるための曲げ柔性と、捩り剛性や許容トルクとは、トレードオフの関係にあり、これらを共に向上させることが容易でなかった。
【0011】
本発明は前記問題点に鑑みて発明したものであって、可動クラウンギアに歳差運動を行わせるための曲げ柔性に加えて、軸まわりの回転を伝達するに際しての捩り剛性や許容トルクを向上させることを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、前記課題を解決するために、本発明を、下記構成を具備したクラウンギア減速機構とする。
【0013】
本発明は、固定クラウンギアと、前記固定クラウンギアとの歯数差が1である可動クラウンギアと、前記固定クラウンギアに対して前記可動クラウンギアを分散された2箇所で噛み合うように傾けて押し付ける押付機構と、可動クラウンギアに可撓的に連結される出力軸とを備え、前記押付機構の回転によって、前記固定クラウンギアに対して噛み合う箇所を移動させながら前記可動クラウンギアが歳差運動を行うように設けたクラウンギア減速機構において、前記出力軸は、前記可動クラウンギアの内周側に結合される結合軸部と、前記可動クラウンギアの歳差運動に伴って弾性変形する弾性軸部と、出力軸部とを、軸方向に沿って連続させたものであり、前記弾性軸部は、周縁が円形状の弾性ディスクから成り、噛み合わされた前記固定クラウンギアと前記可動クラウンギアの内側に生じるスペース内に、前記弾性ディスクが配され、前記スペース内から少なくとも前記出力軸部の端部が出力側に突出するように設けたことを特徴とする。
【0014】
また、前記出力軸は、所定の軸部材を用いて形成したものであり、前記軸部材に、前記軸方向に距離を空けて複数のスリットを加工し、前記軸方向に並設される前記スリット間に、前記弾性ディスクを形成することが好ましい。
【0015】
さらに、前記軸部材は、前記弾性ディスクに加えて、前記結合軸部と前記出力軸部を一体に形成するものであることが好ましい。
【0016】
さらに、前記軸部材は、前記軸方向に貫通した筒型の部材であり、前記スリットを加工することで、前記結合軸部と前記弾性ディスクと前記出力軸部とを、共に筒型に一体形成することも好ましい。
【0017】
また、前記出力軸は、前記結合軸部と前記弾性ディスクと出力軸部とをそれぞれ別体に設け、これらを前記軸方向に沿って連結させたものであることも好ましい。
【0018】
また、前記弾性軸部は、前記弾性ディスクを前記軸方向に沿って複数連結させたものであることも好ましい。
【0019】
さらに、前記弾性軸部は、前記弾性ディスクよりも前記軸方向に厚く形成した連結ディスクを有し、前記連結ディスクを介して前記弾性ディスクを複数連結させたものであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1のクラウンギア減速機構の要部を示す分解斜視図である。
【図2】同上のクラウンギア減速機構の要部を示す組立斜視図である。
【図3】同上のクラウンギア減速機構の弾性軸部の側面図である。
【図4】本発明の実施形態2のクラウンギア減速機構が備える出力軸を示す斜視図である。
【図5】同上の出力軸を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態3のクラウンギア減速機構の出力軸を示す分解斜視図である。
【図7】同上の出力軸を示す組立斜視図である。
【図8】本発明の実施形態4のクラウンギア減速機構の要部を示す分解斜視図である。
【図9】同上の要部を示す破断斜視図である。
【図10】本発明の実施形態5のクラウンギア減速機構が備える出力軸を示す斜視図である。
【図11】クラウンギア減速機構の従来例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を、添付図面に示す実施形態1〜5に基づいて説明する。
【0022】
図1〜図3には、本発明の実施形態1のクラウンギア減速機構の特徴部分を示している。なお、本実施形態のクラウンギア減速機構の基本的な構成は、図11に示す従来のクラウンギア減速機構と同様であり、その具体的な構成は特許文献1等にも開示されている。したがって、以下においては、従来のクラウンギア減速機構と同様の構成については詳細な説明を省略し、本実施形態の特徴的な構成について詳述する。
【0023】
図1、図2には、固定クラウンギア2と、この固定クラウンギア2との歯数差を1に設けた可動クラウンギア1と、可動クラウンギア1に対して可撓的に連結される出力軸3とを示している。
【0024】
出力軸3は、軸方向aに貫通する無底円筒状の軸部材8を用い、この軸部材8に対してワイヤ放電加工機などで複数のスリット9を形成したものである。円筒状の軸部材8から成る出力軸3は、これら複数のスリット9を介して、円筒状の結合軸部30と、円筒状(リング状)の弾性ディスク10を有する弾性軸部31と、円筒状の出力軸部32とに、区分される。即ち、この出力軸3は、共に円筒状である結合軸部30、弾性軸部31及び出力軸部32を、軸方向aに沿ってこの順で入力側から出力側へと連続するように、一体形成したものである。
【0025】
前記の結合軸部30は、可動クラウンギア1の内周側に固着され、可動クラウンギア1と一体に歳差運動を行うパーツである。可動クラウンギア1の入力側(図中右側)端部には、径方向内側に突出したリブ25を全周にわたって設けており、このリブ25に結合軸部30の端面を当てた状態で、結合軸部30と可動クラウンギア1を接着やレーザ溶接などで固定させる。
【0026】
前記の弾性軸部31は、可動クラウンギア1の歳差運動に伴って弾性変形するパーツであり、軸方向aに距離を空けて並設されるスリット9間に、軸方向aの厚みtを有する弾性ディスク10を一枚形成している(図3参照)。弾性ディスク10は、円形状の周縁を有した中空状のディスクであり、可動クラウンギア1の傾きに伴って弾性変形を生じる。弾性ディスク10の厚みtは、極力小さく形成することが好ましい。
【0027】
スリット9は、弾性ディスク10を挟む入力側の部分に2箇所、同じく弾性ディスク10を挟む出力側の位置に2箇所の、都合4箇所に設けている。各スリット9の寸法形状は同一であり、図3にも示すように、入力側と出力側の部分では、連結部11となる幅wを残したうえで、一対のスリット9をそれぞれ円弧状に形成している。入力側の連結部11は、結合軸部30と弾性ディスク10を繋ぐ部分であり、軸部材8の中心軸Cを挟んで向かい合う位置に、一対形成される。また、出力側の連結部11は、弾性ディスク10と出力軸部32を繋ぐ部分であり、同じく中心軸Cを挟んで向かい合う位置に一対形成しているが、入力側の一対の連結部11とは約180°だけ位置を周方向にずらしている。
【0028】
前記の出力軸部32は、可動クラウンギア1から軸まわりの回転が伝達されるパーツであり、結合軸部30や弾性軸部31(弾性ディスク10)と内外径が同一の筒型軸として形成される。中空である出力軸部32は、その外径を固定クラウンギア2の内径よりも僅かに小さく設けたものであり、外部部材に固定される固定クラウンギア2の内側にて、中心軸Cまわりに回転駆動される。
【0029】
以上のように、本実施形態の出力軸3は、軸方向aに連続する前記3パーツから成る。そして、出力軸3のうち少なくとも出力軸部32の端側の部分を、固定クラウンギア2内から出力側に突出させ、この出力軸部32を通じて軸まわりの回転が出力されるように設けている。
【0030】
本実施形態のクラウンギア減速機構によれば、固定クラウンギア2に可動クラウンギア1を噛み合わせた状態で生じる限られたスペース内において、弾性軸部31を成す弾性ディスク10の外径を、極力大きく(例えば、固定クラウンギア2や可動クラウンギア1の内径と略同一となる程度に)設けることができる。そのため、変形可能な領域も極力大きくとることができ、歳差運動を可能にするための曲げ柔性が確保されやすいものとなっている。
【0031】
また、本実施形態のクラウンギア減速機構では、このように弾性ディスク10の外径を極力大きく設け、この弾性ディスク10から軸方向aに沿って一連に形成される出力軸部32の外径も極力大きく設けることができるので、捩り剛性や許容トルクも高水準で確保される。
【0032】
即ち、前記3パーツから成る出力軸3を具備する本実施形態のクラウンギア減速機構においては、可動クラウンギア1に歳差運動を行わせるための曲げ柔性に加えて、軸まわりの回転を伝達するに際しての捩り剛性や許容トルクについても、高い水準で実現することができる。しかも、これを実現するための構造もコンパクトであり、機構全体の小型化や軽量化も達成される。
【0033】
なお、出力軸3の材質(即ち、軸部材8の材質)としては、鋼材やプラスチックを用いることが好ましい。また、出力軸3の寸法については、例えば軸部材8として外径が4mm、内径が2.6mm程度の小型の筒部材を用い、これに0.3mm程度の幅でスリット9を設ける。スリット9間の幅wは、これを大きく設けるほど連結部11の強度が向上し、その一方で、歳差運動のための曲げ柔性は低下するという傾向がある。前記条件下でwの値を変えながらFEM解析を行ったところ、連結部11の強度は、その周方向の幅wを弾性ディスク10の厚みtの4倍程度に設定することで十分に保たれることが分かった。
【0034】
図4、図5には、本発明の実施形態2のクラウンギア減速機構の特徴部分を示している。なお、本実施形態の構成のうち、前述した実施形態1と同様の構成については詳細な説明を省略し、本実施形態の特徴的な構成について以下に詳述する。
【0035】
本実施形態においては、出力軸3を形成するための軸部材8として、円筒形の中空部分12と、円柱形の中実部分13とを、軸方向aに沿って連続させた部材を用いている。中実部分13は、中空部分12よりも外径が小さくなるように設けている。
【0036】
そして、本実施形態では、実施形態1と同様のスリット9を、中空部分12に設けている。これにより、中空の弾性ディスク10から成る弾性軸部31と、同じく中空の結合軸部30とを、中空部分12において一体物として形成している。この軸部材8においては、中空部分12から段差を介して連続する中実部分13が、弾性ディスク10や結合軸部30よりも小径に設けた中実の出力軸部32となる。
【0037】
図6、図7には、本発明の実施形態3のクラウンギア減速機構の特徴部分である出力軸3を示している。なお、本実施形態の構成のうち、前述した実施形態1と同様の構成については詳細な説明を省略し、本実施形態の特徴的な構成について以下に詳述する。
【0038】
本実施形態においては、出力軸3を形成する結合軸部30、弾性ディスク10から成る弾性軸部31、出力軸部32の3パーツを、それぞれ別体で設けている。結合軸部30は、円筒状に形成され、出力側をむく端面の一部を盛り上げる形で、一対の連結部14を突設している。各連結部14の頂面には、ネジ孔15を形成している。
【0039】
弾性ディスク10は、結合軸部30と同一の外径を有する円筒状(リング状)の部材であり、周方向に等間隔をあけた4箇所に、固定孔16を貫通形成している。
【0040】
出力軸部32は、結合軸部30や弾性ディスク10と同一の外径を有する円筒状の部材であり、入力側をむく端面の一部を盛り上げる形で、結合軸部30の連結部14と同様の連結部17を、一対突設している。各連結部17の頂面には、ネジ孔18を形成している。
【0041】
これら別体として用意した結合軸部30、弾性ディスク10及び出力軸部32を、ネジ具(図示せず)を用いて軸方向aに連結固定させる。結合軸部30と弾性ディスク10の固定は、弾性ディスク10の固定孔16を通じて、結合軸部30のネジ孔15内にネジ具を締結させることにより行う。出力軸部32と弾性ディスク10の固定も同様に、弾性ディスク10の固定孔16を通じて、出力軸部32のネジ孔18内にネジ具を締結させることにより行う。
【0042】
3パーツを組み合わせて形成した出力軸3は、スリット状の空隙19を介して結合軸部30、弾性ディスク10及び出力軸部32が円筒状に連結されたものとなり、実施形態1の場合と同様に、可動クラウンギア1の歳差運動のための曲げ柔性に加えて、捻り剛性や許容トルクも向上する。
【0043】
なお、各部材30,10,32間の固定は、本実施形態のようにネジ等の締結具を用いてもよいし、レーザ溶着により行ってもよい。また、各部材30,10,32はいずれも中空(円柱状)であるが、中実の形状(円柱状)としてもよい。更に、各部材30,10,32の外径を互いに相違させてもよい。
【0044】
図8、図9には、本発明の実施形態4のクラウンギア減速機構の特徴部分である出力軸3及び可動クラウンギア1を示している。なお、本実施形態の構成のうち、前述した実施形態1や実施形態3と同様の構成については詳細な説明を省略し、本実施形態の特徴的な構成について以下に詳述する。
【0045】
本実施形態は、前述した実施形態3と同様に、出力軸3を形成する結合軸部30、弾性ディスク10及び出力軸部32をまずは別体として設け、これらを軸方向aに沿って連結固定させるものであるが、結合軸部30は可動クラウンギア1側に一体形成しているという点において、実施形態3とは相違している。これによれば、部品点数が削減されるという利点や、強度が向上するという利点がある。
【0046】
図10には、本発明の実施形態5のクラウンギア減速機構の特徴部分である出力軸3を示している。なお、本実施形態の構成のうち、前述した実施形態1と同様の構成については詳細な説明を省略し、本実施形態の特徴的な構成について以下に詳述する。
【0047】
本実施形態の弾性軸部31においては、2つの弾性ディスク10が軸方向aに沿って連結されるように、筒型の軸部材8に多数のスリット9を形成している。具体的には、実施形態1と同様の弾性ディスク10を形成するスリット9の組み合わせを一箇所に形成し、さらに、弾性ディスク10の厚みtよりも十分に大きな厚みT分の距離を軸方向aに空けたうえで、もう一箇所にも形成している。この厚みTの部分が、弾性ディスク10間に設けた連結ディスク20となる。
【0048】
即ち、本実施形態の弾性軸部31は、弾性ディスク10よりも軸方向aに厚く設けた連結ディスク20を有し、この連結ディスク20を挟んで入力側と出力側の両方に、スリット9を介して弾性ディスク10を連結させている。
【0049】
連結ディスク20と両側の弾性ディスク10とは、いずれも実施形態1と同様の一対の連結部11によって連結される。また、出力側の弾性ディスク10と出力軸部32との間も、同様の連結部11によって連結され、入力側の弾性ディスク10と結合軸部30との間も、やはり同様の連結部11によって連結される。
【0050】
クラウンギア減速機構では、出力軸3の軸方向aの一部分を成す弾性軸部31が、弾性変形領域内で変形することが要求される。そのため、弾性ディスク10の形状や材質など各種条件により、1枚の弾性ディスク10ではその変形が弾性変形領域外となるような場合には、本実施形態のように、弾性ディスク10を複数連結させる。これにより、捩り剛性は多少犠牲になるが、各弾性ディスク10の変形を弾性変形領域内に収めることが可能となる。
【0051】
例えば、軸部材8の材質を鋼、外径4mm、内径2.6mmとし、減速比が50となるように設けた条件下にいて、t=0.04mmならば、歳差運動のためには2枚の弾性ディスク10が必要となる。また、t=0.1mmならば、歳差運動のためには3枚の弾性ディスク10が必要となる。
【0052】
そして、このように弾性ディスク10を複数設けるに際しては、隣接する弾性ディスク10間に連結ディスク20を介在させることで、捩り剛性の低下が抑えられる。FEMにより計算した結果では、弾性ディスク10間にある連結ディスク20の厚みTを、弾性ディスク10の厚みtの5倍程度に設けることが、曲げ柔性に加えて、捩り剛性や許容トルクを高水準に保つために好ましいことが分かっている。
【0053】
本実施形態では、実施形態1の出力軸3において弾性ディスク10を増加させた場合を示しているが、他の実施形態においても弾性ディスク10を増加させることができる。その場合には、弾性ディスク10間にこれよりも厚い連結ディスク20を設けることが好ましい。
【0054】
以上説明したように、実施形態1〜5のクラウンギア減速機構は、固定クラウンギア2と、固定クラウンギア2との歯数差が1である可動クラウンギア1と、固定クラウンギア2に対して可動クラウンギア1を2箇所で噛み合うように傾けて押し付ける押付機構4と、可動クラウンギア1に可撓的に連結される出力軸3とを備え、押付機構4の回転によって、固定クラウンギア2に対して噛み合う箇所を移動させながら可動クラウンギア1が歳差運動を行うように設けたクラウンギア減速機構である。そして、出力軸3は、可動クラウンギア1に結合される結合軸部30と、可動クラウンギア1の歳差運動に伴って弾性変形する弾性軸部31と、出力軸部32とを、軸方向aに沿って連続させたものである。
【0055】
これにより、固定クラウンギア2に可動クラウンギア1を噛み合わせたときにこれらの内側に生じる限られたスペース内に、大径に設けた弾性軸部31を配することが可能となる。そのため、変形可能な領域を極力大きくとることが可能となり、歳差運動を実現するための曲げ柔性が確保されやすいものとなる。さらに、この弾性軸部31や出力軸部32を限られたスペース内で大径に設けることが可能になることから、捩り剛性や許容トルクも確保されやすいものとなる。つまり、これらシンプルな構成によって、可動クラウンギア1に歳差運動を行わせるための曲げ柔性に加えて、軸まわりの回転を伝達するに際しての捩り剛性や許容トルクを、向上させることができる。
【0056】
また、実施形態1〜5のクラウンギア減速機構において、弾性軸部31は、円形状の弾性ディスク10から成る。
【0057】
このような弾性ディスク10を用いて弾性軸部31を形成したことで、可動クラウンギア1に歳差運動を行わせるための曲げ柔性に加えて、軸まわりの回転を伝達するに際しての捩り剛性や許容トルクを、より向上させることができる。
【0058】
また、実施形態1,2,5のクラウンギア減速機構において、出力軸3は、所定の軸部材8を用いて形成したものであり、軸部材8に、軸方向aに距離を空けて複数のスリット9を加工し、軸方向aに並設されるスリット9間に、弾性ディスク10を形成している。
【0059】
これにより、軸部材8にスリット9を加工するという工程によって、弾性ディスク10を形成することが可能となり、特に小型のクラウンギア減速機構を構成する際に有利となる。
【0060】
さらに、実施形態1,2,5のクラウンギア減速機構において、軸部材8は、弾性ディスク10に加えて、結合軸部30と出力軸部31を一体に形成するものである。
【0061】
これにより、軸部材8にスリット9を加工するという工程によって、弾性ディスク10を結合軸部30及び出力軸部32と一体に形成することが可能となり、特に小型のクラウンギア減速機構を構成する際に有利となる。
【0062】
また、実施形態1,5のクラウンギア減速機構において、軸部材8は、軸方向aに貫通した筒型の部材であり、スリット9を加工することで、結合軸部30と弾性ディスク10と出力軸部32とを、共に筒型に一体形成している。
【0063】
これにより、筒型の軸部材8にスリット9を加工するという工程によって、結合軸部30と弾性ディスク10と出力軸部32とを、共に中空形状に形成することができる。そのため、出力軸3全体が中空となり、機構全体がより軽量化される。加えて、この出力軸3に可動クラウンギア1と固定クラウンギア2を組み合わせた機構全体を、中央に大きなスペースを有する筒型の機構として提供することができる。ここで、押付機構4やこれを回転させるためのモータも筒型に形成すれば、パイプ型のアクチュエータを提供することも可能となる。
【0064】
また、実施形態3,4のクラウンギア減速機構において、出力軸3は、結合軸部30と弾性ディスク10と出力軸部32とをそれぞれ別体に設け、これらを軸方向aに沿って連結させたものである。
【0065】
これにより、結合軸部30、弾性ディスク10及び出力軸部32の材質として、それぞれに最適なものを選ぶことができる。また、弾性ディスク10を均一の厚みで形成することが容易となる。
【0066】
また、実施形態5のクラウンギア減速機構において、弾性軸部31は、弾性ディスク10を軸方向aに沿って複数連結させたものである。
【0067】
1枚の弾性ディスク10ではその変形が弾性変形領域外となるような場合であっても、このように弾性ディスク10を複数連結させて弾性軸部31を構成することにより、各弾性ディスク10の変形を弾性変形領域内に収めることが可能となる。
【0068】
また、実施形態5のクラウンギア減速機構において、弾性軸部31は、弾性ディスク10よりも軸方向aに厚く形成した連結ディスク20を有し、連結ディスク20を介して弾性ディスク10同士を連結させたものである。
【0069】
弾性ディスク10を複数設けた場合に出力軸3全体の捩り剛性は低下するが、このような連結ディスク20を弾性ディスク10間に介在させることにより、その低下の度合いを抑えることができる。
【0070】
以上、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものでない。例えば、弾性軸部31に必要な弾性を与えるための構造も、実施形態1,2,5のようなスリット型や、実施形態3,4のようなディスク型に限らず、ベローズ型に設けることも考えられる。その他の構成についても、本発明の意図する範囲内であれば、適宜の設計変更を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定クラウンギアと、前記固定クラウンギアとの歯数差が1である可動クラウンギアと、前記固定クラウンギアに対して前記可動クラウンギアを分散された2箇所で噛み合うように傾けて押し付ける押付機構と、可動クラウンギアに可撓的に連結される出力軸とを備え、前記押付機構の回転によって、前記固定クラウンギアに対して噛み合う箇所を移動させながら前記可動クラウンギアが歳差運動を行うように設けたクラウンギア減速機構において、
前記出力軸は、前記可動クラウンギアの内周側に結合される結合軸部と、前記可動クラウンギアの歳差運動に伴って弾性変形する弾性軸部と、出力軸部とを、軸方向に沿って連続させたものであり、
前記弾性軸部は、周縁が円形状の弾性ディスクから成り、
噛み合わされた前記固定クラウンギアと前記可動クラウンギアの内側に生じるスペース内に、前記弾性ディスクが配され、前記スペース内から少なくとも前記出力軸部の端部が出力側に突出するように設けたことを特徴とするクラウンギア減速機構。
【請求項2】
前記出力軸は、所定の軸部材を用いて形成したものであり、前記軸部材に、前記軸方向に距離を空けて複数のスリットを加工し、前記軸方向に並設される前記スリット間に、前記弾性ディスクを形成したことを特徴とする請求項1に記載のクラウンギア減速機構。
【請求項3】
前記軸部材は、前記弾性ディスクに加えて、前記結合軸部と前記出力軸部を一体に形成するものであることを特徴とする請求項2に記載のクラウンギア減速機構。
【請求項4】
前記軸部材は、前記軸方向に貫通した筒型の部材であり、前記スリットを加工することで、前記結合軸部と前記弾性ディスクと前記出力軸部とを、共に筒型に一体形成したことを特徴とする請求項3に記載のクラウンギア減速機構。
【請求項5】
前記出力軸は、前記結合軸部と前記弾性ディスクと出力軸部とをそれぞれ別体に設け、これらを前記軸方向に沿って連結させたものであることを特徴とする請求項1に記載のクラウンギア減速機構。
【請求項6】
前記弾性軸部は、前記弾性ディスクを前記軸方向に沿って複数連結させたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のクラウンギア減速機構。
【請求項7】
前記弾性軸部は、前記弾性ディスクよりも前記軸方向に厚く形成した連結ディスクを有し、前記連結ディスクを介して前記弾性ディスク同士を連結させたものであることを特徴とする請求項6に記載のクラウンギア減速機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−237443(P2012−237443A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−39572(P2012−39572)
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【分割の表示】特願2012−510827(P2012−510827)の分割
【原出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(505089614)国立大学法人福島大学 (34)
【Fターム(参考)】