説明

クラスタ、クラスタ生成装置及び該方法、クラスタ又は分子電気伝導特性測定装置及び該方法、並びに、クラスタ又は分子電気伝導特性演算プログラム及び記録媒体

【課題】本発明は、非接触で電気伝導特性を測定し得るクラスタ、クラスタ生成装置及び方法、並びに、クラスタ又は分子の電気伝導特性測定装置及び方法を提供する。
【解決手段】本発明のクラスタαは、互いに異なる第1乃至第3原子又は分子(原子等)A、B、Cから成り、第2原子等Bが第1原子等Aと第3原子等Cとの間に存在している。クラスタαは、蒸気ビームを断熱膨張させることで生成した初期クラスタに順次に第1乃至第3原子等A、B、Cの蒸気を供給することで生成し得る。そして、クラスタαにX線を照射してクーロン爆発を生じせしめ、これにより生じたイオンを電界Eで加速して2次元ポジションセンサで計測することでクーロン爆発から2次元ポジションセンサに到達するまでの飛行時間と2次元ポジションセンサへの到達位置に基づいてその電気伝導特性を計測する。また、クラスタαに代え分子を用いることでその電気伝導特性も計測できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で電気伝導特性を測定することに好適なクラスタに関する。このようなクラスタを生成するためのクラスタ生成装置及びクラスタ生成方法に関する。そして、このようなクラスタを用いたクラスタの電気伝導特性を測定するためのクラスタ電気伝導特性測定装置及びクラスタ電気伝導特性測定方法に関する。さらに、クラスタのクーロン爆発から生じたイオンの飛行時間及び2次元到達位置からクラスタの電気伝導特性を求めるクラスタ電気伝導特性演算プログラム及び該プログラムを記録した記録媒体に関する。
【0002】
そして、本発明は、分子の電気伝導特性を測定するための分子電気伝導特性測定装置及び分子電気伝導特性測定方法に関する。さらに、分子のクーロン爆発から生じたイオンの飛行時間及び2次元到達位置から分子の電気伝導特性を求める分子電気伝導特性演算プログラム及び該プログラムを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0003】
数個から数万個の原子又は分子(以下、「原子等」と略記する。)が集合した系であってバルク(凝縮相)の性質と異なる性質を備える系は、一般に、クラスタと呼ばれている。クラスタは、それを形成している原子等の数が少ないため、一般のバルク材料では、得ることができなかった物理的及び化学的な特性を有することが近年分かってきた。このため、クラスタは、多くの技術分野でその応用が期待されており、近年、その研究、開発が盛んになりつつある。そのため、クラスタの特性、特に、基本的な物理量である電気伝導特性を測定することが要請されている。
【0004】
このようなクラスタは、例えば、特許文献1に開示のクラスタ生成装置によって生成され得る。図11は、特許文献1に開示のクラスタ生成装置の構成を示す図である。図11において、特許文献1に開示のクラスタ生成装置1000は、共に排気系を接続した試料蒸気発生室1010とクラスタ生成室1030とを備えおり、試料蒸気発生室1010とクラスタ生成室1030とがスキマ1040を介して連結されている。試料蒸気発生室1010は、試料ロッド1014を前進回転自在に支持する前進回転駆動機構1015と、試料ロッド1014の表面へレーザビーム1016を導くためのレーザ照射窓1017と、キャリアガス及び反応ガスを流入させるガス供給系1018とを備えている。このような構成のクラスタ生成装置1000では、まず、集光したレーザビームがレーザ照射窓1017を介して試料ロッド1014に照射され、これにより試料ロッド1014が加熱されて蒸発し、試料蒸気としての高温のプラズマが生成される。一方、このプラズマを冷却するためのキャリアガス、及び、クラスタを生成するための反応性ガスがガス供給系1018から試料蒸気発生室1010に流入される。これら試料蒸気、キャリアガス及び反応性ガスは、試料蒸気発生室1010とクラスタ生成室1030との圧力差により差動排気されることにより、超高速ジェットとなってスキマ1040から噴出する。この噴出の際に、断熱膨張が生じ、これら混合ガスが冷却され、凝縮現象により様々なクラスタが生成される。
【0005】
また、分子材料を集積したバルク材料をデバイスとして利用する際に、単一分子での特性、特に基本的な物理量である電気伝導特性を測定することができれば、バルク材料の特性発現における分子内と分子間の寄与が明らかとなり、より精密な材料特性の予測が可能になると考えられる。
【特許文献1】特開平5−25614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、クラスタや分子の電気伝導特性を測定する測定手法そのものが確立されていないという事情にある。
【0007】
仮に、既存の電気伝導特性を測定する測定装置を利用しようとすれば、クラスタに測定用電極を接触させる必要がある。ところが、クラスタは、例えば数十nmの大きさなので、測定用電極のクラスタへの取り付けに非常な困難が伴う。また、測定用電極がクラスタに較べて非常に大きく、そして、クラスタに接触させて測定するので、測定用電極の影響を受け、測定用電極を含めた系で電気伝導特性を測定していることとなり、クラスタのみの電気伝導特性を測定することが困難である。
【0008】
また、分子も非常に小さいため、単一分子の電気伝導特性測定はクラスターと同様の困難が伴うため、測定に際して別途の手法を考案する必要がある。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、非接触で電気伝導特性を測定することができるクラスタを提供することを目的とする。このようなクラスタを製造するクラスタ生成装置及びクラスタ生成方法を提供することを目的とする。このようなクラスタの電気伝導特性を測定するクラスタ電気伝導特性測定装置及びクラスタ電気伝導特性測定方法を提供することを目的とする。このようなクラスタのクーロン爆発から生じたイオンの飛行時間及び2次元到達位置からクラスタの電気伝導特性を求めるクラスタ電気伝導特性演算プログラム及び該プログラムを記録した記録媒体を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、分子の電気伝導特性を測定する分子電気伝導特性測定装置及び分子電気伝導特性測定方法を提供することを目的とする。分子のクーロン爆発から生じたイオンの飛行時間及び2次元到達位置から分子の電気伝導特性を求める分子電気伝導特性演算プログラム及び該プログラムを記録した記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、種々検討した結果、以下の原理によってクラスタや分子の電気伝導特性を非接触で測定し得ることを見出した。
【0012】
図1は、クラスタの電気伝導特性を測定する測定原理を説明するための図である。図1(A)は、X線照射によるクラスタのクーロン爆発の過程を説明するための図であり、図1(B)は、電気伝導特性測定装置の概念を説明するための図である。
【0013】
まず、第1の原子等Aと第3の原子等Cとの間に、電気伝導特性の測定対象である第2の原子等Bが存在するクラスタαを用意する。次に、第1の原子等Aに吸収されると共に第2及び第3の原子等B、Cには吸収されない波長のX線、例えば硬X線をクラスタαに照射する。特に、第1の原子等Aに吸収されると共に第2及び第3の原子等B、Cには吸収されない波長であって、第1の原子等AのX線吸収端近傍の波長に相当すると共に第2及び第3の原子等B、CのX線吸収端近傍の波長に相当しない波長のX線は、第1の原子A等のみに効率よく吸収されるため、より好ましい。
【0014】
このX線の照射により第1の原子等Aに内殻励起が起こり、オージェ電子を放出する非輻射過程により第1の原子等Aで多数のホール(正孔)が生成され、第1の原子等Aは、選択的に多価イオン化される(図1(A)の左側参照)。なお、図1(A)において、イオン化している原子を網目模様で表示している。このホールは、第1の原子等Aからクラスタα中に拡散して行く(図1(A)の中央参照)。このクラスタα内におけるホールの拡散現象は、後述の実験によって確認されている。このホールがクラスタα内を拡散して行くと、やがて、イオン化された原子等間に働くクーロン斥力がクラスタαの凝縮力より大きくなり、クラスタαは、解離を起こし、種々の価数zを持った原子状のイオンを放出する(図1(A)の右側参照)。この現象は、「クーロン爆発」と呼ばれている。また、本明細書では、このクーロン爆発によって放出されたイオンを「子イオン」と呼称することとする。
【0015】
このクーロン爆発により生じた子イオンを図1(B)に示すように飛行時間型質量分析器を流用して測定し、電界Eによって加速された子イオンにおける、クーロン爆発から2次元ポジションセンサ(2次元位置検出装置)に到達するまでの飛行時間Tと、電界Eの方向(加速方向)に直交する2次元平面内に配置された2次元ポジションセンサにおける子イオンの到達位置(検出位置)X、Yを測定する。なお、添え字jは、子イオンjにおける飛行時間T及び到達位置X、Yであることを示す。添え字jは、以下も同様である。
【0016】
子イオンに働くクーロン斥力は、クーロン爆発直前におけるクラスタαの電荷分布に対応するので、検出した子イオンの飛行時間Tと到達位置X、Yとから子イオンの運動量分布を求め、クラスタα内の電荷拡散距離を求めることで電気伝導特性を求めることができる。
【0017】
以下に、この子イオンの飛行時間T及び到達位置X、Yから電気伝導特性の求め方についてより詳細に説明する。
【0018】
電気伝導度σは、一般に式1で表され、本発明では、nは、ホールの電荷密度であり、eは、素電荷であり、μは、移動度である。
【0019】
【数1】

【0020】
式1にアインシュタインの関係式を用いると、移動度μは、式2で表される。
【0021】
【数2】

【0022】
ここで、Dは、拡散係数であり、kは、ボルツマン定数であり、Tは、絶対温度である。
【0023】
クラスタαにおけるX線を吸収する第1の原子等Aの位置の座標を位置ベクトルrとし、クラスタαのクーロン爆発直前における第2及び第3の原子等B、Cの座標を位置ベクトルrとすると、平均二乗変位l≡<|r−r>は、式3によってこの拡散係数Dと関係付けられる。
【0024】
【数3】

【0025】
ここで、τは、X線の吸収開始からクーロン爆発までに要する時間であり、サブピコ秒の時間スケールである。なお、子イオンが複数検出される場合には、これらの平均を取る。
【0026】
lは、クラスタαの大きさをLとすると、このLと式4の関係にある。
【0027】
【数4】

【0028】
ここで、第3の原子等Cがイオン化して検出されれば、第1の原子等Aから第2の原子等Bを介して第3の原子等Cまでホール(電荷)が移動したことになる。そのため、第2の原子等Bの厚みを変えながら測定を行い、第3の原子等Cが子イオンとして検出される最大のクラスタαの大きさLを求める。この最大のクラスタαの大きさLをLmaxとすると、式5となるので、第3の原子等Cがイオン化される場合における拡散係数Dや移動度μを正確に求めることができ、第2の原子等Bにおける拡散係数Dや移動度μ等の電気伝導特性をより精度よく測定することができる。
【0029】
【数5】

【0030】
このクラスタαのクーロン爆発直前における第2及び第3の原子等B、Cの座標の位置ベクトルrは、z=zに配置された2次元ポジションセンサで検出される子イオンの飛行時間T及び到達位置X、Yから以下のようにして求めることができる。
【0031】
クーロン爆発直後の子イオンjにおける運動量P(x)(0+)、P(y)(0+)、P(z)(0+)は、式6(式6−1、式6−2、式6−3)で表される。
【0032】
【数6】

【0033】
ここで、0+は、クーロン爆発直後の時刻であり、一方、後述の0−は、クーロン爆発直前の時刻である。そして、Mは、子イオンjの質量であり、tは、子イオンjが電界Eによって加速を終了した時刻(後述の実施形態における飛行管62の引き込み電極62dに到達した時刻)である。なお、この加速開始点(実施形態における飛行管62の引き込み電極62dの配置位置)をzの座標原点zとしている。
【0034】
そして、この運動量のz成分P(z)(t)は、式7(式7−1、式7−2)を満たす。
【0035】
【数7】

【0036】
ここで、Qは、子イオンの電荷であり、Eは、クーロン爆発によって生じた子イオンを加速する電界Eである。
【0037】
は、測定結果から求めることができ、Eは、既知であるから、式6及び式7からt及びP(z)(t)を求めることができる。
【0038】
また、時刻tにおける子イオンの運動量P(x)(t)、P(y)(t)、P(z)(t)と位置ベクトルr=(x(t)、y(t)、z(t))との関係は、クーロン爆発直前の運動量をゼロとすると、式8で与えられる。
【0039】
【数8】

【0040】
ここで、ベクトルΦは、系の全ポテンシャルエネルギーであり、式9によって与えられる。
【0041】
【数9】

【0042】
ここで、εは、誘電率である。nは、1回のクーロン爆発で生じる子イオンの個数であり、最終的に求められる移動度μに要求される精度を満たす程度に2次元ポジションセンサの検出精度が充分な場合には、2次元ポジションセンサのヒット数nhitで置き換えることができる。
【0043】
そして、クーロン爆発直前における子イオンjの位置ベクトルr(0−)=(x(0−)、y(0−)、z(0−))を式8及び式9によって近似的に求めるために、クーロン反発が有効に働く時間をtとおくと、式10を満たす。この時間tは、式11に示すように、原子の直径aを用いてjについての平均によって与えられる。
【0044】
【数10】

【0045】
【数11】

【0046】
現実の測定において、子イオンは、ほとんど1価のイオンであるので、式10のQ及びQは、Q=Q=eとおけ、簡単化のために|r(0−)−r(0−)|=aとおくと、式10は、式12に近似することができる。
【0047】
【数12】

【0048】
ここで、式12の両辺をjで和を取ることと分かるように、式12は、クーロン爆発前後で運動量保存則を自動的に満たしている。そして、このことは、{r(0−)}が一次従属であることも意味している。{r(0−)}に関する連立1次方程式が不定となることを避けるため、r(0−)=rとおく。式12を書き直すと、式13となる。
【0049】
【数13】

【0050】
なお、近似の精度を向上させるためには、式13の解{r(0−)}をQ=Q=eとした式10の右辺分母に代入して逐次的に求めればよい。
【0051】
式3における上記時間τは、フェムト秒分光等の他の実験から得ても良いが、子イオンjの飛行時間T及び到達位置X、Yの測定から得られるイオンの初期配置を用いて求めることもできる。上記時間τは、クラスタα中のイオンが初期位置のベクトルRから電荷の移動が不可能となる位置のベクトルRまで移動するのに要する時間と考えることができる。換算質量meffの原子の速度をv(r)、その運動エネルギーをT(r)とすると、初期位置のベクトルRから電荷の移動が不可能となる位置のベクトルRまでに動くのに要する時間t(R)は、式14で表される。
【0052】
【数14】

【0053】
エネルギー保存則から運動エネルギーの増加分は、ポテンシャルエネルギーの減少分に等しいと考えられるため、クーロン爆発初期におけるイオンの配置から運動エネルギーを直接求めることができる。そして、積分の上限値のベクトルRは、ホール(電荷)の移動が事実上終了する距離であり、|R・R|の目安としては、式11のtの間に原子が移動することができる距離を考慮することで見積もることができる。
【0054】
以上により、子イオンの飛行時間T及び到達位置X、Yから拡散係数Dや移動度μ等の電気伝導特性を求めることができる。
【0055】
なお、第1乃至第3の原子等A、B、Cは、X線吸収端の波長が異なれば、任意の原子等でよい。そして、第1及び第3の原子等A、B、Cは、1又は複数個でよいが、第1の原子等Aから第3の原子等Cへの電気伝導を特定することができ、また、測定結果と対応させることができるので、現象をより明瞭に解明することができるから、1個ずつであることが好ましい。
【0056】
また、クラスタα内におけるホールの拡散現象を確認する実験について説明する。図2は、クラスタ内における電荷の移動を示す実験結果の図である。図2(A)は、アルゴン−クリプトンクラスタ(K吸収領域、L吸収領域)のPEPICOスペクトルを示す図であり、図2(B)は、アルゴン原子のPEPICOスペクトルを示す図であり、図2(C)は、14.33keV付近におけるアルゴン及びクリプトンの吸収断面積を示す図である。図2(A)及び(B)の横軸は、ミクロン秒(μsec)単位で示す飛行時間(Time of Flight)であり、その縦軸は、個数/秒(counts/sec)単位で示すPEPICOシグナル(PEPICO signal)である。図2(C)の横軸は、keV単位で示すX線エネルギーであり、その縦軸は、吸収断面積である。
【0057】
実験は、アルゴン(Ar)とクリプトン(Kr)との混合クラスタに、クリプトンにおけるX線吸収端の波長の前後における各波長のX線をそれぞれ照射し、その光電子−光イオン同期(Photoelectron-Photoion-Coincidence、以下、「PEPICO」と略記する。)スペクトルを測定した。このPEPICOスペクトル測定は、所定の真空度の真空雰囲気中で混合クラスタにX線を照射することによりクーロン爆発を生じさせ、このクーロン爆発によって生じた電子を光電子検出器で検出すると共に、クーロン爆発によって生じた子イオンに所定の一定電界を作用させて加速し、この一定電界中を飛行した後(加速後)の子イオンの個数を光イオン検出器で検出する。そして、光電子検出器で電子を検出した時刻と光イオン検出器で子イオンを検出した時刻との差を計測することによって、クーロン爆発から光イオン検出器に到達するまでの子イオンの飛行時間を計測し、子イオンの光イオン検出器に到達した個数とを計測する。
【0058】
クリプトンは、14.33keV(=hν、hはプランク定数、νは周波数)でK吸収端のX線吸収端を持つことから、図2(C)のアルゴンとクリプトンとの吸収断面積の比較に示すように、アルゴン及びクリプトンが吸収しない14.08keVのX線と、クリプトンは吸収するがアルゴンは吸収しない14.50keVのX線とを混合クラスタにそれぞれ照射した。
【0059】
この図2(A)の実験結果に示されているように、X線エネルギーが14.08keVである場合に較べてX線エネルギーが14.50keVである場合では、アルゴンイオンArが著しく増加しており、クリプトンで生成されたホールがアルゴンに拡散していることが分かる。
【0060】
そして、本発明者らは、分子の電気伝導特性を測定するに当たって、所定の分子構造を有した所定の分子に対しては、上述のクラスタの電気伝導特性を測定する手法が適用可能であることを見出した。
【0061】
図3は、X線照射による分子のクーロン爆発の過程を説明するための図である。この所定の分子γは、図3(A)に示すように、互いに異なる第1乃至第3の原子U、V、Wを少なくとも含み、前記第1の原子Uと前記第3の原子Wとの間に少なくとも前記第2の原子Vが存在する分子構造、より詳細には、一方端に第1の原子U又は第1の原子Uを含む基を備え、他方端に第1の原子Uとは異なる第3の原子W又は第3の原子Wを含む基を備え、前記第1の原子U又は第1の原子Uを含む基と前記第3の原子W又は第3の原子Wを含む基との間に、第1及び第3の原子U、Wとは異なる第2の原子V又は第2の原子Vを含む構造体を備えた分子構造を有している。なお、第1および第3の原子U、Wは、必ずしも分子γの末端に位置する必要はない。
【0062】
このような分子γに対して、第1の原子Uに吸収されると共に分子γにおける第1の原子Uを除く残余の原子(もちろん、第2および第3の原子V、Wも含まれる。)には吸収されない波長のX線を照射する。特に、第1の原子Uに吸収されると共に分子γにおける第1の原子Uを除く残余の原子には吸収されない波長であって、第1の原子UのX線吸収端近傍の波長に相当すると共に分子γにおける第1の原子Uを除く残余の原子のX線吸収端近傍の波長に相当しない波長のX線は、第1の原子Uのみに効率よく吸収されるため、より好ましい。
【0063】
このX線の照射により第1の原子Uに内殻励起が起こり、オージェ電子を放出する非輻射過程により第1の原子Uで多数のホール(正孔)が生成され、第1の原子Uは、選択的に多価イオン化される(図3の左側参照)。このホールは、第1の原子Uから分子γ中に拡散して行く(図3の左側及び中央参照)。この分子γ内におけるホールの拡散現象は、後述の実験によって確認されている。このホールが分子γ内を拡散して行くと、やがて、イオン化された原子等間に働くクーロン斥力が分子γの結合力より大きくなり、分子γは、クラスタαの場合と同様に、解離を起こし、種々の価数zを持った原子状のイオンを放出する(図3の右側参照)。
【0064】
このクーロン爆発により生じた子イオンを、クラスタαの場合と同様に、図1(B)に示すように飛行時間型質量分析器を流用して測定し、電界Eによって加速された子イオンにおける、クーロン爆発から2次元ポジションセンサ(2次元位置検出装置)に到達するまでの飛行時間Tと、電界Eの方向(加速方向)に直交する2次元平面内に配置された2次元ポジションセンサにおける子イオンの到達位置(検出位置)X、Yを測定する。
【0065】
以下、第1ないし第3の原子U、V、Wを上述のクラスタαにおける第1ないし第3の原子等A、B、Cとそれぞれみなすことによって、上述したクラスタαの電気伝導特性を求める手法と同様の手法により、分子γの電気伝導特性を求めることができる。
【0066】
また、分子γ内におけるホールの拡散現象を確認する実験について説明する。図4は、分子内における電荷の移動を示す実験結果の図である。図4(A)は、pブロモフェノールの実験結果を示し、図4(B)は、pブロモフェニールフェノールの実験結果を示す。図4(A)および(B)の横軸は、単位電荷当たりの原子質量を示し、その縦軸は、密度(個数)を示す。また図4(A)および(B)には、単位電荷当たりの原子質量が4乃至12である範囲において、横軸および縦軸をそれぞれ拡大した拡大図も略右上にそれぞれ示されている。
【0067】
実験は、分子γとしてpブロモフェノールおよびpブロモフェニールフェノールのそれぞれについて行った。実験は、分子γ(pブロモフェノールの分子γまたはpブロモフェニールフェノール)に、臭素(Br)におけるX線吸収端の波長の前後における波長のX線を、所定の真空度の真空雰囲気中で照射することによりクーロン爆発を生じさせ、クーロン爆発によって生じた子イオンの個数を光イオン検出器で検出した。
【0068】
pブロモフェノールは、下記に示すように、フェノールのパラ位置の水素がブロム基に置換した分子構造を有し、臭素(Br)、水素(H)、炭素(C)及び酸素(O)の各元素から構成されている。そして、pブロモフェニールフェノールは、下記に示すように、フェノールのパラ位置の水素がブロモフェニール基に置換した分子構造を有し、臭素、炭素、水素及び酸素の各元素から構成されている。
【0069】
【化1】

【0070】
【化2】

【0071】
これらpブロモフェノール及びpブロモフェニールフェノールは、臭素、炭素、水素及び酸素の各元素から構成されていることから、臭素は吸収するが水素、炭素及び酸素は吸収しない13.5keVのX線が分子γに照射された。
【0072】
この図4(A)の実験結果に示されているように、pブロモフェノールにX線を照射した場合には、単位電荷当たりの原子質量が8のところにO2+のピークが存在するが(図4(A)の拡大図参照)、pブロモフェニールフェノールにX線を照射した場合には、単位電荷当たりの原子質量が8のところにO2+のピークが存在しない(図4(B)の拡大図参照)。従って、pブロモフェノールの場合では、臭素の内殻励起で生じたホールが水酸基まで多数拡散し、水酸基の酸素がO2+となって検出されたと考えられ、一方、pブロモフェニールフェノールの場合では、臭素の内殻励起で生じたホールが水酸基まで拡散できるのは高々、1個であるため、水酸基がそのまま検出されたと考えられる。これは、pブロモフェニールフェノールは、ブロム基と水酸基との間に、pブロモフェノールの場合よりも1個多く、ベンゼン環が2個あるため、臭素の内殻励起で生じたホールが水酸基まで十分に拡散できなかったものと考えられる。
【0073】
このようにX線の照射によってブロム基に生じたホールが分子γ内を拡散していることが分かる。そして、この結果からベンゼン環に対するホールの透過特性を見積もることもできる。
【0074】
なお、図4において、C2+のピークがダブルピークになっており、X線の照射によって分子γにクーロン爆発が生じたことを示している。
【0075】
本発明者らは、上記目的を達成するために、上述の原理に基づき以下の発明を為すに至った。
【0076】
本発明に係る一態様では、互いに異なる第1乃至第3の原子又は分子から成るクラスタであって、前記第2の原子又は分子が前記第1の原子又は分子と前記第3の原子又は分子との間に存在していることを特徴とする。このクラスタは、第1乃至第3の原子等A、B、Cが全て原子であっても、第1乃至第3の原子等A、B、Cが全て分子であっても、例えば第1及び第3の原子等A、Cが原子であって第2の原子等Bが分子であるように、第1乃至第3の原子等A、B、Cが原子及び分子の混在であってもよく、この意味で上記「又は」を用いている。
【0077】
この構成によれば、第2の原子又は分子が第1の原子又は分子と第3の原子又は分子との間に存在しているので、上述したように非接触でクラスタの電気伝導特性が測定され得る。
【0078】
本発明の他の一態様に係る、上述のクラスタを生成するクラスタ生成装置は、原子又は分子の蒸気ビームを生成する蒸気ビーム生成部と、前記蒸気ビームを断熱膨張させることにより初期クラスタを生成する初期クラスタ生成部と、前記初期クラスタを構成する原子又は分子よりも沸点の高い互いに異なる第1乃至第3の原子又は分子の蒸気を前記初期クラスタに順に供給する第1乃至第3蒸気供給部とを備えることを特徴とする。
【0079】
本発明の他の一態様に係る、上述のクラスタを生成するクラスタ生成方法は、原子又は分子の蒸気ビームを生成する第1工程と、前記蒸気ビームを断熱膨張させることにより初期クラスタを生成する第2工程と、前記初期クラスタを構成する原子又は分子よりも沸点の高い互いに異なる第1乃至第3の原子又は分子の蒸気を前記初期クラスタに順に供給する第3工程とを備えることを特徴とする。
【0080】
この構成によれば、蒸気ビーム生成部で初期クラスタを構成する原子又は分子の蒸気ビームが生成され、初期クラスタ生成部でこの蒸気ビームを断熱膨張させることによりジェット法で初期クラスタが生成され得る。そして、第1乃至第3蒸気供給部で初期クラスタを構成する原子又は分子よりも沸点の高い互いに異なる第1乃至第3の原子又は分子の蒸気を初期クラスタに順に供給することによりピックアップ法で上述のクラスタが生成され得る。
【0081】
本発明の他の一態様に係る、上述のクラスタを用いてクラスタの電気伝導特性を測定するクラスタ電気伝導特性測定装置は、上述のクラスタに前記第1の原子又は分子に吸収されると共に前記第2及び第3の原子又は分子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、前記クーロン爆発により前記クラスタから生じた電子を検出する電子検出部と、前記クーロン爆発により前記クラスタから生じたイオンを加速するイオン加速部と、前記イオン加速部で加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出するイオン位置検出部と、前記電子検出器の検出信号及び前記イオン位置検出部の位置検出信号に基づいて前記クラスタの電気伝導特性を求める処理部とを備えることを特徴とする。
【0082】
そして、上述のクラスタ電気伝導特性測定装置において、前記処理部は、前記電子検出部から検出信号を得た時刻から前記イオン位置検出部から位置検出信号を得た時刻までの時間を、前記イオンが前記クーロン爆発から前記イオン位置検出部に到達するまでの飛行時間として求め、求めた前記飛行時間と前記位置検出信号の到達位置とからイオンの運動量分布を求め、求めた前記運動量分布からクラスタ内の電荷拡散距離を求めることで電気伝導特性を求めることを特徴とする。
【0083】
本発明の他の一態様に係る、上述のクラスタを用いてクラスタの電気伝導特性を測定するクラスタ電気伝導特性測定方法は、上述のクラスタに前記第1の原子又は分子に吸収されると共に前記第2及び第3の原子又は分子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせる第1工程と、前記クーロン爆発により前記クラスタから生じた電子を検出する第2工程と、前記クーロン爆発により前記クラスタから生じたイオンを加速する第3工程と、加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出する第4工程と、前記第1工程の検出信号及び前記第4工程の位置検出信号に基づいて前記クラスタの電気伝導特性を求める第5工程とを備えることを特徴とする。
【0084】
この構成によれば、上述のクラスタに第1の原子又は分子に吸収されると共に第2及び第3の原子又は分子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、電子検出部でこのクーロン爆発によりクラスタから生じた電子を検出する。また、イオン加速部でこのクーロン爆発によりクラスタから生じたイオンを加速し、イオン位置検出部でこの加速したイオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出する。そして、処理部で電子検出器の検出信号及びイオン位置検出部の位置検出信号に基づいてクラスタの電気伝導特性を求める。
【0085】
本発明の他の一態様に係る、上述のクラスタに前記第1の原子又は分子に吸収されると共に前記第2及び第3の原子又は分子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、前記クーロン爆発により前記クラスタから生じた電子を検出し、前記クーロン爆発により前記クラスタから生じたイオンを加速し、加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出し、前記電子の検出を示す検出信号及び前記イオンの検出位置を示す位置検出信号に基づいて前記電子の検出から前記イオンの検出までの時間をイオンの飛行時間として求め、前記飛行時間及び前記位置検出信号に基づいて前記クラスタの電気伝導特性を求める、コンピュータに実行させるクラスタ電気伝導特性演算プログラムにおいて、前記飛行時間及び前記2次元平面内の位置に基づいて前記クーロン爆発直後における前記イオンの運動量を求めるステップと、前記ステップで求めた運動量に基づいて前記イオンの前記クラスタにおける初期配置を求めるステップと、前記ステップで求めた前記イオンの初期配置に基づいて前記X線の吸収開始からクーロン爆発までに要する時間を求めるステップと、前記第3の原子又は分子がイオンとして検出される場合の前記クラスタの大きさに基づいて電荷の拡散距離を求め、前記ステップで求めた時間に基づいてホールの拡散係数を求めるステップと、前記ステップで求めたホールの拡散係数に基づいて、電気伝導特性を表す前記ホールの移動度を求めるステップとを備えることを特徴とする。
【0086】
本発明の他の一態様では、上述のクラスタ電気伝導特性演算プログラムを記録したコンピュータに読み取り可能な記録媒体である。
【0087】
この構成によれば、上述のクラスタのクーロン爆発から生じたイオンの飛行時間及び2次元到達位置からクラスタの電気伝導特性を求めることができ、このようなクラスタ電気伝導特性演算プログラムが記録媒体によって提供され得る。
【0088】
本発明の他の一態様に係る分子電気伝導特性測定装置は、互いに異なる第1乃至第3の原子を少なくとも含み、前記第1の原子と前記第3の原子との間に少なくとも前記第2の原子が存在する分子構造を有する分子に、前記第1の原子に吸収されると共に前記分子における前記第1の原子を除く残余の原子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、前記クーロン爆発により前記分子から生じた電子を検出する電子検出部と、前記クーロン爆発により前記分子から生じたイオンを加速するイオン加速部と、前記イオン加速部で加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出するイオン位置検出部と、前記電子検出器の検出信号及び前記イオン位置検出部の位置検出信号に基づいて前記分子の電気伝導特性を求める処理部とを備えることを特徴とする。
【0089】
そして、上述の分子電気伝導特性測定装置において、前記処理部は、前記電子検出部から検出信号を得た時刻から前記イオン位置検出部から位置検出信号を得た時刻までの時間を、前記イオンが前記クーロン爆発から前記イオン位置検出部に到達するまでの飛行時間として求め、求めた前記飛行時間と前記位置検出信号の到達位置とからイオンの運動量分布を求め、求めた前記運動量分布から分子内の電荷拡散距離を求めることで電気伝導特性を求めることを特徴とする。
【0090】
本発明の他の一態様に係る分子電気伝導特性測定方法は、互いに異なる第1乃至第3の原子を少なくとも含み、前記第1の原子と前記第3の原子との間に少なくとも前記第2の原子が存在する分子構造を有する分子に、前記第1の原子に吸収されると共に前記分子における前記第1の原子を除く残余の原子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせる第1工程と、前記クーロン爆発により前記分子から生じた電子を検出する第2工程と、前記クーロン爆発により前記分子から生じたイオンを加速する第3工程と、前記イオン加速部で加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出する第4工程と、前記電子検出器の検出信号及び前記イオン位置検出部の位置検出信号に基づいて前記分子の電気伝導特性を求める第5工程とを備えることを特徴とする。
【0091】
この構成によれば、上述の所定の分子に対して、前記第1の原子に吸収されると共に前記分子における前記第1の原子を除く残余の原子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、電子検出部でこのクーロン爆発により分子から生じた電子を検出する。また、イオン加速部でこのクーロン爆発により分子から生じたイオンを加速し、イオン位置検出部でこの加速したイオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出する。そして、処理部で電子検出器の検出信号及びイオン位置検出部の位置検出信号に基づいて分子の電気伝導特性を求める。
【0092】
本発明の他の一態様に係る、互いに異なる第1乃至第3の原子を少なくとも含み、前記第1の原子と前記第3の原子との間に少なくとも前記第2の原子が存在する分子構造を有する分子に、前記第1の原子に吸収されると共に前記分子における前記第1の原子を除く残余の原子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、前記クーロン爆発により前記分子から生じた電子を検出し、前記クーロン爆発により前記分子から生じたイオンを加速し、前記イオン加速部で加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出し、前記電子検出器の検出信号及び前記イオン位置検出部の位置検出信号に基づいて前記電子の検出から前記イオンの検出までの時間をイオンの飛行時間として求め、前記飛行時間及び前記位置検出信号に基づいて前記分子の電気伝導特性を求める、コンピュータに実行させる分子電気伝導特性演算プログラムにおいて、前記飛行時間及び前記2次元平面内の位置に基づいて前記クーロン爆発直後における前記イオンの運動量を求めるステップと、前記ステップで求めた運動量に基づいて前記イオンの前記分子における初期配置を求めるステップと、前記ステップで求めた前記イオンの初期配置に基づいて前記X線の吸収開始からクーロン爆発までに要する時間を求めるステップと、前記第3の原子がイオンとして検出される場合の前記分子の大きさに基づいて電荷の拡散距離を求め、前記ステップで求めた時間に基づいてホールの拡散係数を求めるステップと、前記ステップで求めたホールの拡散係数に基づいて、電気伝導特性を表す前記ホールの移動度を求めるステップとを備えることを特徴とする。
【0093】
本発明の他の一態様では、上述の分子電気伝導特性演算プログラムを記録したコンピュータに読み取り可能な記録媒体である。
【0094】
この構成によれば、上述の分子のクーロン爆発から生じたイオンの飛行時間及び2次元到達位置から分子の電気伝導特性を求めることができ、このような分子電気伝導特性演算プログラムが記録媒体によって提供され得る。
【発明の効果】
【0095】
上記構成のクラスタは、非接触で電気伝導特性の測定を可能とすることができる。上記構成のクラスタ生成装置及びクラスタ生成方法は、この上記構成のクラスタを生成することができる。上記構成のクラスタ電気伝導特性測定装置及びクラスタ電気伝導特性測定方法は、上記構成のクラスタを用いることによって、非接触で電気伝導特性を測定することができる。上記構成のクラスタ電気伝導特性演算プログラムは、上記構成のクラスタをクーロン爆発させることによって得られた子イオンの飛行時間及び2次元到達位置から電気伝導特性を演算することができ、このようなクラスタ電気伝導特性演算プログラムが記録媒体で提供され得る。
【0096】
また、上記構成の分子電気伝導特性測定装置及び分子電気伝導特性測定方法は、上述の所定の分子に対して、非接触で電気伝導特性を測定することができる。上記構成の分子電気伝導特性演算プログラムは、上述の所定の分子をクーロン爆発させることによって得られた子イオンの飛行時間及び2次元到達位置から電気伝導特性を演算することができ、このような分子電気伝導特性演算プログラムが記録媒体で提供され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0097】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
(第1の実施形態の構成)
図5は、第1の実施形態に係るクラスタ電気伝導特性測定システムの構成を示す一部断面図である。図6は、実施形態に係る飛行時間型2次元イオン検出装置の構成を示す一部断面図である。図7は、実施形態に係る制御情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【0098】
図5において、クラスタ電気伝導特性測定システム1は、クラスタを生成するクラスタ生成装置2と、クラスタの電気伝導特性を測定するクラスタ電気伝導特性測定装置3とを備えて構成される。
【0099】
クラスタ生成装置2は、初期クラスタの原材料を供給するための初期クラスタ原材料供給室10と、初期クラスタに基づいて目的クラスタを生成するクラスタ生成室30とを備えて構成されており、初期クラスタ原材料供給室10とクラスタ生成室30とがスキマ20を介して連結されている。スキマ20は、中心に所定の開口径の開口を備えた、所定の開き角で、初期クラスタ原材料供給室10からクラスタ生成室30の方向に向けて徐々に径が大きくなるコーン形状(円錐形状)をしたコリメータである。スキマ20の開口径及び開き角は、生成すべき目的クラスタに応じて適宜設定されるが、例えば本実施形態ではそれぞれ約1mm及び約60度である。スキマ20は、後述のスキマ40も同様に、ビームの擾乱を抑制するために、先端が鋭く加工されている。
【0100】
初期クラスタは、電気伝導特性の測定対象である本発明に係る目的クラスタを生成するための核(基礎)となるクラスタである。
【0101】
初期クラスタ原材料供給室10は、初期クラスタ蒸気ビーム生成部11と、冷却源12と、真空ポンプ13とを備えた真空チャンバで構成されている。
【0102】
初期クラスタ蒸気ビーム生成部11は、蒸気ビーム生成部の一例であり、初期クラスタを構成する原子等の蒸気ビームを生成する装置である。初期クラスタ蒸気ビーム生成部11は、例えば、本実施形態では、初期クラスタの原材料のガス(気体)を貯留するガス溜11を備えて構成されている。ガス溜11は、例えば、本実施形態では、外形略直方体であって内部に所定の内容積を持った略円筒形状の空間を有した金属製容器であり、この略円筒形状空間の一方面には、初期クラスタの原材料のガスをこの空間に流入させるためのガス供給開口部11aが穿設されており、この一方面に対向する他方面には、この空間から蒸気ビームを噴出させるための所定寸法の直径を持つ略円筒形状をしたノズルとしての貫通孔11bが穿設されている。ガス供給開口部11aには、初期クラスタの原材料のガスを導入する配管14が接続されており、配管14には、配管14によって導入される初期クラスタの原材料のガスにおける流量を制御する流量調整バルブ15が配設されている。このように本実施形態では、初期クラスタの原材料がガス状態で流量調整バルブ15によって流量制御されながらガス溜11に導入されるように構成されている。ガス溜11は、例えば、本実施形態では、内径約10mm、長さ約10mmの略円筒形状であり、その貫通孔11bの直径が約5μmである。
【0103】
冷却源12は、初期クラスタを構成する原子等の蒸気ビームが所定の温度となるように、初期クラスタの原材料を冷却する装置である。冷却源12は、例えば、本実施形態では、金属筐体内に配設された冷却配管内を不図示の配管によって外部から流入された液体ヘリウムが循環することによって冷却するヘリウム冷却装置であり、その冷却部がガス溜11の外面に接するように配置されてガス溜11を冷却することで、初期クラスタの原材料を冷却するようになっている。
【0104】
これら初期クラスタ蒸気ビーム生成部11及び冷却源12は、初期クラスタ原材料供給室10内に収納されており、初期クラスタ蒸気ビーム生成部11で生成された蒸気ビームがスキマ20から噴出されるように、より具体的には本実施形態ではガス溜11の貫通孔11bの中心軸とスキマ20の中心軸とが一致するように、配置されている。
【0105】
真空ポンプ13は、初期クラスタ原材料供給室10と連通されており、排気して初期クラスタ原材料供給室10内を減圧し、初期クラスタ原材料供給室10内を所定気圧の真空状態(所定の真空度)とする装置である。真空ポンプ13は、例えば、本実施形態は、高真空に引くために、ターボ分子ポンプが用いられており、後述の真空ポンプ32、54、64も同様である。
【0106】
クラスタ生成室30は、第1乃至第3目的クラスタ蒸気生成部31−1〜31−3と、真空ポンプ32とを備えた真空チャンバで構成されている。
【0107】
第1乃至第3目的クラスタ蒸気生成部31−1〜31−3は、第1乃至第3蒸気供給部の一例であり、目的クラスタを構成する原子等の蒸気を生成しこの生成した蒸気を初期クラスタに供給するための装置である。第1乃至第3目的クラスタ蒸気生成部31−1〜31−3は、それぞれ生成した第1乃至第3の原子等の各蒸気を順に初期クラスタに供給することができるように、第1乃至第3目的クラスタ蒸気生成部31−1〜31−3における蒸気を吐出する第1乃至第3吐出口31a−1〜31a−3が初期クラスタの飛行経路FPに臨むようにクラスタ生成室30にそれぞれ配設されている。第1乃至第3目的クラスタ蒸気生成部31−1〜31−3は、目的クラスタの原材料を坩堝に入れ坩堝を抵抗加熱することによって蒸気を生成する抵抗加熱蒸発源や、目的クラスタの原材料を坩堝に入れ電子ビームを原材料に照射することによって蒸気を生成する電子ビーム蒸発源や、真空中で一対の電極間に高電圧を印加することにより放電を起こしてこの放電により生じた正イオンを目的クラスタの原材料に衝突させることによって蒸気を生成するスパッタ蒸発源等の任意の蒸発源を利用することができるが、例えば、本実施形態では、例えばアルカリ金属やアルミニウム(Al)等の比較的低融点の原材料から、例えばタングステン(W)やモリブデン(Mo)等の比較的高融点の原材料まで、蒸気を生成することができるように、磁石により磁界を組み込んだマグネトロンスパッタ装置(Angstrom Science社製、ONYX−1型)を用いている。
【0108】
真空ポンプ32は、クラスタ生成室30と連通されており、排気してクラスタ生成室30内を減圧し、クラスタ生成室30内を所定気圧の真空状態(所定の真空度)とする装置である。
【0109】
クラスタ電気伝導特性測定装置3は、測定室50と、制御情報処理装置55とを備えて構成されている。クラスタ電気伝導特性測定装置3の測定室50とクラスタ生成装置2のクラスタ生成室30とは、スキマ40を介して連結されている。スキマ40は、中心に所定の開口径の開口を備えた、所定の開き角でクラスタ生成室30から測定室50の方向に向けて徐々に径が大きくなるコーン形状(円錐形状)をしたコリメータであり、その中心軸がスキマ20の中心軸に一致するように配置される。スキマ40の開口径及び開き角は、測定すべき目的クラスタに応じて適宜設定されるが、例えば本実施形態ではそれぞれ約2mm及び約40度である。
【0110】
測定室50は、所定の真空度の真空雰囲気中で目的クラスタにX線を照射することによりクーロン爆発を生じさせ、このクーロン爆発によって生じた電子を検出すると共に、クーロン爆発によって生じた子イオンに所定の一定電界を作用させて加速させ、この一定電界中を飛行した後の子イオンを電界の方向(加速方向)と直交する2次元平面におけるその到達位置を含めて検出するものであり、例えば、本実施形態では、電子検出装置51と、飛行時間型2次元イオン検出装置52と、X線導入用窓53と、真空ポンプ54とを備えた真空チャンバで構成されている。
【0111】
真空ポンプ54は、測定室50と連通されており、排気して測定室50内を減圧し、測定室50内を所定気圧の真空状態(所定の真空度)とする装置である。
【0112】
X線導入用窓53は、外部から測定室50内にX線を導入するためのベリリウム窓であり、スキマ40を通過してクラスタ生成室30から測定室50に飛来してきた目的クラスタにX線を照射することができる位置に測定室50に配設されている。
【0113】
電子検出装置51は、電子検出部の一例であり、X線が照射されることによりクーロン爆発を起こした目的クラスタから生じた電子を検出し検出信号を制御情報処理装置55に出力する装置である。電子検出装置51は、例えば本実施形態では、2次電子倍増管チャンネルトロン(Galileo社製、4823G)が用いられており、検出した荷電粒子に対して10〜10程度の増幅率を備え、単一の電子の検出が可能である。この2次電子倍増管チャンネルトロンは、電子を引き込むべく、荷電粒子の引き込み面(前面電極)が+200Vの電位に保持されている。
【0114】
飛行時間型2次元イオン検出装置52は、X線が照射されることによりクーロン爆発を起こした目的クラスタから生じた子イオンに所定の一定電界を作用させて加速させ、この一定電界中を飛行した後の子イオンを電界の方向(加速方向)と直交する2次元平面における到達位置を含めて検出しその位置検出信号を制御情報処理装置55に出力する装置である。
【0115】
より具体的には、飛行時間型2次元イオン検出装置52は、図6に示すように、真空チャンバである検出器容器61と、飛行管62と、2次元位置検出器63と、真空ポンプ64とを備えて構成されている。
【0116】
真空ポンプ64は、検出器容器61と連通されており、排気して検出器容器61内を減圧し、検出器容器61内を所定気圧の真空状態(所定の真空度)とする装置である。
【0117】
飛行管62は、イオン加速部の一例であり、X線が照射されることによりクーロン爆発を起こした目的クラスタから生じた子イオンを補足し、子イオンを所定強度の電界Eで加速させる部材である。飛行管62は、所定の長さの略円筒形状であり、その長尺方向の両端面には、飛行管62の内部を電界0に保持すべく、同電位にされた一対のメッシュリング62a−1、62a−2が取り付けられている。飛行管62の長さは、例えば本実施形態では215mmである。メッシュリング62a−1、62a−2は、子イオンが通過することができるように、金属製の格子状となっている。飛行管62は、メッシュリング62a−1が取り付けられている端部外周、及び、中央よりメッシュリング62a−2が取り付けられている端部に寄った位置の外周にそれぞれ環装された一対のリング形状の固定リング62b−1、62b−2によって、飛行管62の外径よりやや大径の略円筒形状の飛行管カバー62cに固定されており、飛行管カバー62cに覆われている。飛行管62は、この飛行管カバー62cによって検出器容器61に取り付けられている。そして、固定リング62b−1は、飛行管62におけるメッシュリング62a−1が取り付けられている端部端面よりも外側に端面があり、メッシュリング62a−1が取り付けられている端部端面に対向するように、引き込み電極62dが固定リング62b−1のこの端面に取り付けられている。固定リング62b−1は、引き込み電極62dを支持する支持部材を兼ねている。検出器容器61、飛行管62、メッシュリング62a−1、62a−2、飛行管カバー62c及び引き込み電極62dは、導電材料の金属や合金、例えばステンレス鋼で形成されており、固定リング62b−1、62b−2は、絶縁材料、例えば商品名「テフロン(登録商標)」で形成されている。検出器容器61は、接地されており、これに対し、引き込み電極62d及びメッシュリング62a−1、62a−2は、不図示の配線によって所定の電位にされている。例えば、本実施形態では、引き込み電極62dは、プラス(正)電荷の子イオンを引き込むために−200Vにされており、メッシュリング62a−1、62a−2は、引き込んだプラス(正)電荷の子イオンを加速するために−2kVにされている。一方、電子検出装置51の前面電極は、上記のように、電子を引き込むために+200Vにされている。これにより、電子検出装置51の前面電極と飛行時間型2次元イオン検出装置52における飛行管62の電極62dとの間に引き込み電界Einが形成され、そして、この電極62dとメッシュリング62a−1との間に加速電界Eaccが形成される。また、飛行管62の内部は、メッシュリング62a−1とメッシュリング62a−2とによって電界が0に保持されている。
【0118】
2次元位置検出器63は、イオン位置検出部の一例であり、飛行管62におけるメッシュリング62a−2が取り付けられている端部端面に対向するように、そして、加速電界Eaccの方向(加速方向)に直交する2次元平面内にその検出面63aが配置されるように、検出器容器61に配設されており、飛行管62で加速され飛行管62内を飛行して来た子イオンを検出すると共にその到達位置を検出し検出結果を制御情報処理装置55に出力する2次元ポジションセンサであり、例えば、本実施形態では、2次元ディレイライン検出器(例えば、Roentdek社製、DLD40)が用いられている。
【0119】
これら電子検出装置51及び飛行時間型2次元イオン検出装置52は、目的クラスタのクーロン爆発により生じた電子及び子イオンをそれぞれ補足することができるように、図2に×印で示す目的クラスタにX線が照射される位置を挟んで互いに対向するように測定室50に配設されている。そして、飛行管62は、いわゆるウィレイ−マクラーレン(Wiley-Mclaren)型の飛行時間型質量分析器を構成しており、引き込み電極62dとメッシュリング62a−1との間に形成される電界、及び、メッシュリング62a−1とメッシュリング62a−2との間に形成される電界は、それぞれ、イオンの空間的な広がりによって生じる飛行時間の誤差を低減するための収束条件を満たしている。特に、本飛行時間型2次元イオン検出装置52では、散乱X線が電極に照射されることに起因するノイズを低減するために、電子検出装置51の前面電極と飛行時間型2次元イオン検出装置52の引き込み電極62dとの間隔が約20mmと広くなっており、図2に×印で示すその中間位置でX線が照射される。
【0120】
制御情報処理装置55は、処理部の一例であり、電子検出装置51の検出信号及び飛行時間型2次元イオン検出装置52の位置検出信号に基づいて目的クラスタの電気伝導特性を求めるものであり、例えば、図7に示すように、中央処理部551と、インタフェース部552と、入力部553と、出力部554と、記憶部555と、バス556とを備えて構成される。
【0121】
中央処理部551は、例えば、マイクロプロセッサ及びその周辺回路等を備えて構成され、電気伝導特性演算部5511を機能的に備え、制御情報処理装置55の各部を当該機能に応じて制御するものである。
【0122】
電気伝導特性演算部5511は、電子検出装置51の検出信号及び飛行時間型2次元イオン検出装置52の位置検出信号に基づいて目的クラスタの電気伝導特性を求めるものであり、より具体的には、電子検出装置51で電子を検出した時刻を時間原点に飛行時間型2次元イオン検出装置52で子イオンの飛行時間を計測し、この計測した子イオンの飛行時間と、飛行時間型2次元イオン検出装置52で検出した子イオンの到達位置とから子イオンの運動量分布を求めて目的クラスタ内の電荷拡散距離を求めることによって電気伝導特性を求めるものである。
【0123】
インタフェース部552は、電子検出装置51及び飛行時間型2次元イオン検出装置52等に接続され、これら電子検出装置51及び飛行時間型2次元イオン検出装置52等から検出信号を受信するためのインタフェース回路であり、この受信した検出信号を中央処理部551が処理可能な形式のデータに変換する。
【0124】
入力部553は、電気伝導特性の演算開始を指示する演算開始コマンド等の各種コマンドや各種データ等を制御情報処理装置55に入力する機器であり、例えば、キーボードやマウス等である。出力部554は、入力部553から入力されたコマンドやデータ等を出力する機器であり、例えばCRTディスプレイ、LCD、有機ELディスプレイ又はプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印字装置等である。
【0125】
記憶部555は、電子検出装置51の検出信号及び飛行時間型2次元イオン検出装置52の位置検出信号に基づいて目的クラスタの電気伝導特性を求める電気伝導特性演算プログラム等の各種プログラム、及び、各種プログラムの実行に必要なデータやその実行中に生じるデータ等の各種データを記憶するものである。記憶部555は、例えば、中央処理部551の所謂ワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等の揮発性の記憶素子、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性の記憶素子、及び、比較的容量の大きいデータを記憶するハードディスク等を備えて構成される。
【0126】
そして、これら中央処理部551、インタフェース部552、入力部553、出力部554及び記憶部555は、データを相互に交換することができるようにバス556でそれぞれ接続される。
【0127】
このような構成の制御情報処理装置55は、例えばディスクトップ型やノート型のパーソナルコンピュータによって構成可能である。
【0128】
なお、必要に応じて制御情報処理装置55は、破線で示すように、外部記憶部557をさらに備えてもよい。外部記憶部557は、例えば、フレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD−R(Compact Disc Recordable)及びDVD−R(Digital Versatile DiscRecordable)等の記録媒体との間でデータを読み込み及び/又は書き込みを行う装置であり、例えば、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、CD−Rドライブ及びDVD−Rドライブ等である。ここで、電気伝導特性演算プログラムが格納されていない場合には、これを記録した記録媒体から外部記憶部557を介して記憶部555に電気伝導特性演算プログラムがインストールされるように構成されてもよく、また、この電気伝導特性演算プログラムを管理するサーバ(不図示)からネットワーク(不図示)を介して電気伝導特性演算プログラムがダウンロードされるように構成されてもよい。
【0129】
次に、本実施形態の動作について説明する。
(第1の実施形態の動作)
このような構成のクラスタ電気伝導特性測定システム1では、クラスタ生成装置2で目的クラスタが生成され、この生成された目的クラスタの電気伝導特性がクラスタ電気伝導特性測定装置3で測定される。以下に、クラスタ生成装置2の動作及びクラスタ電気伝導特性測定装置3の動作を順に説明する。
【0130】
まず、クラスタ生成装置2における真空ポンプ13、32及びクラスタ電気伝導特性測定装置3における真空ポンプ54、64をそれぞれ稼働し、初期クラスタ原材料供給室10、クラスタ生成室30、測定室50及び検出器容器61を所定の真空度となるまでそれぞれ排気する。所定の真空度は、例えば、本実施形態では、例えば、初期クラスタ原材料供給室が約10−2Paであり、クラスタ生成室30が約10−4Paであり、測定室50及び検出器容器61が約10−5〜10−6Paである。このように初期クラスタ原材料供給室10、クラスタ生成室30及び測定室50の順に段階的に高い真空度(低いガス圧)に維持され、真空度に勾配が設けられている。
【0131】
次に、流量調整バルブ15により流量を調整しながら、配管14を通して、初期クラスタの原材料のガスを初期クラスタ蒸気ビーム生成部(ガス溜)11に導入する。
【0132】
図8は、目的クラスタの生成過程を説明するための模式図である。○は、初期クラスタを構成する原子等を示し、●は、第1の原子等Aを示し、図中右上から左下に流れる斜線で塗りつぶされた○は、第2の原子等Bを示し、そして、図中左上から右下に流れる斜線で塗りつぶされた○は、第3の原子等Cを示す。
【0133】
図8において、初期クラスタ蒸気ビーム生成部(ガス溜)11に導入された初期クラスタβの原材料のガスは、冷却源12によって所定の温度に冷却され、初期クラスタ蒸気ビーム生成部(ガス溜)11と初期クラスタ原材料供給室10とのガス圧差により、初期クラスタβを構成する原子等の蒸気ビームとなって初期クラスタ蒸気ビーム生成部(ガス溜)11の貫通孔11bから噴出される。この蒸気ビームは、スキマ20によってそのビーム中心が切り出され、初期クラスタ原材料供給室10とクラスタ生成室30とのガス圧差によりスキマ20からクラスタ生成室30に超音速ジェットとなって噴出される。この噴出の際に、断熱膨張が生じ、冷却され、凝縮現象により、初期クラスタβが生成される(図8(A))。このように初期クラスタβが生成されるので、その前後に真空度の勾配が設けられているスキマ20が初期クラスタ生成部の一例に相当する。
【0134】
この生成された初期クラスタβは、クラスタ生成室30と測定室50とのガス圧差により、スキマ20からスキマ40へ飛行する。
【0135】
次に、第1乃至第3目的クラスタ蒸気生成部31−1〜31−3を同時に駆動し、目的クラスタαを構成する第1乃至第3の原子等A、B、Cの蒸気をそれぞれ生成し、スキマ20からスキマ40へ飛行中の初期クラスタβ、β’、β”に、第1乃至第3の原子等A、B、Cの蒸気を供給する。
【0136】
スキマ20からスキマ40へ飛行中の初期クラスタβは、まず、第1目的クラスタ蒸気生成部31−1から第1の原子等Aの蒸気が供給され、第1の原子等Aをピックアップする(取り込む)(図8(B))。次に、この第1の原子等Aを取り込んだ初期クラスタβ’は、第2目的クラスタ蒸気生成部31−2から第2の原子等Bの蒸気が供給され、第2の原子等Bをピックアップする(図8(C))。そして、この第1及び第2の原子等A、Bを取り込んだ初期クラスタβ”は、第3目的クラスタ蒸気生成部31−3から第3の原子等Cの蒸気が供給され、第3の原子等Cをピックアップする(図8(D))。この初期クラスタβ、β’、β”が第1乃至第3の原子等A、B、Cを取り込む際に、凝集熱により初期クラスタβを構成する物質が徐々に初期クラスタβ、β’、β”から離脱し、目的クラスタαが生成される。このため、初期クラスタβを構成する原子等は、第1乃至第3の原子等A、B、Cよりも低沸点の材料が選択される。即ち、第1乃至第3の原子等A、B、Cは、初期クラスタβを構成する原子等よりも沸点が高い。初期クラスタβを構成する原子等は、例えば本実施形態では、ヘリウム(He)が用いられる。また、極めて低温のヘリウム初期クラスタβを用いることで、第1乃至第3の原子等A、B、Cを初期クラスタβ、β’、β”がピックアップしても、ピックアップされた第1乃至第3の原子等A、B、Cが初期クラスタβ、β’、β”内で熱拡散することが抑制され、ピックアップした順に積層される。
【0137】
このように生成された目的クラスタαは、第2の原子等Bが第1の原子等Aと第3の原子等Cとの間に存在する構造をしている。特に、本実施形態のクラスタ生成装置2によって生成された目的クラスタαは、第1の原子等Aの周囲に第2の原子等Bが存在し、第2の原子等Bの外周上に第3の原子等Cが存在する構造をしている。
【0138】
初期クラスタβの大きさは、初期クラスタ原材料供給室10とクラスタ生成室30とのガス圧差と初期クラスタβを構成する原子等の蒸気ビームの温度とに依存し、初期クラスタβは、ガス圧差を大きくすると大きくなり、蒸気ビームの温度を下げると大きくなる。ガス圧差は、真空ポンプ13、32の駆動を制御することによって調整され、蒸気ビームの温度は、冷却源12の駆動を制御することによって調整される。
【0139】
目的クラスタαの大きさは、第1乃至第3目的クラスタ蒸気生成部31−1〜31−3による第1乃至第3の原子等A、B、Cの供給量に依存し、目的クラスタαは、供給量を多くすると大きくなる。第1乃至第3の原子等A、B、Cの供給量は、それぞれ第1乃至第3目的クラスタ蒸気生成部31−1〜31−3の駆動を制御することによって調整される。そして、目的クラスタαにおける第1乃至第3の原子等A、B、Cの組成比は、第1乃至第3目的クラスタ蒸気生成部31−1〜31−3による第1乃至第3の原子等A、B、Cの供給量比率によって調整される。
【0140】
このように動作することにより、クラスタ生成装置2は、クラスタの電気伝導特性を非接触で測定するために好適なクラスタ(目的クラスタα)を生成することができる。そして、このクラスタの大きさ及びクラスタを構成する第1乃至第3の原子等A、B、Cの組成比を制御することができる。
【0141】
こうして生成された目的クラスタαのビームは、スキマ40によってそのビーム中心が切り出され、測定室50内に噴出される。測定室50内に噴出した目的クラスタαのビームは、X線導入用窓53を介して測定室50内に導かれたX線に図2に示す×印の位置で照射される。X線は、例えば、SPring8のBL10XUアンジュレータビームラインから得られる高輝度で高分解能な硬X線が用いられる。X線の波長は、第1乃至第3の原子等A、B、CのX線吸収端の波長に基づいて決定され、第1の原子等Aは、吸収するが、第2及び第3の原子等B、Cは、吸収しない波長に決定される。特に、第1の原子等Aに吸収されると共に第2及び第3の原子等B、Cには吸収されない波長であって、第1の原子等AのX線吸収端近傍の波長に相当すると共に第2及び第3の原子等B、CのX線吸収端近傍の波長に相当しない波長のX線は、第1の原子等のみに効率よく吸収されるため、より好ましい。
【0142】
X線が照射されると、上述したように、目的クラスタαは、クーロン爆発を起こし、このクーロン爆発によって生成された電子は、電子検出装置51に引き込まれ、検出される。一方、このクーロン爆発によって生成された子イオンは、飛行時間型2次元イオン検出装置52に引き込まれる。
【0143】
電子検出装置51は、電子を検出すると検出信号を制御情報処理装置55に出力する。飛行時間型2次元イオン検出装置52は、子イオンを検出すると位置検出信号を制御情報処理装置55に出力する。制御情報処理装置55の中央処理部551は、電子検出装置51から検出信号を受信し、飛行時間型2次元イオン検出装置52から位置検出信号を受信すると、電子検出装置51からの検出信号を計時開始信号とし、飛行時間型2次元イオン検出装置52からの位置検出信号を計時終了信号として、これら2つの信号間の時間差を測定する。即ち、この電子が電子検出装置51に到達した時刻を時間の原点(基準)に子イオンjの飛行時間Tを計測する。目的クラスタαのクーロン爆発からこれにより生じた電子が電子検出装置51に到達するまでの時間は、ナノ秒のオーダであり、一方、目的クラスタのクーロン爆発からこれにより生じた子イオンが飛行時間型2次元イオン検出装置52の2次元位置検出器63に到達するまでの時間は、マイクロ秒のオーダであるので、本電気伝導特性の測定において電子が電子検出装置51に到達する時間は、無視することができる。
【0144】
図9は、実施形態に係る飛行時間及び到達位置に基づいて電気伝導特性を演算する演算方法を示すフローチャートである。
【0145】
図9において、こうして子イオンの飛行時間Tと到達位置(検出位置)X、Yとが測定されると、制御情報処理装置55における中央処理部551の電気伝導特性演算部5511は、まず、クーロン爆発直後の子イオンjにおける運動量P(x)(0+)、P(y)(0+)、P(z)(0+)を上記式6を用いて演算する(S11)。
【0146】
次に、電気伝導特性演算部5511は、この求めた運動量P(x)(0)、P(y)(0)、P(z)(0)と上記式10を用いて、クラスタαにおけるイオンjの初期配置x(0)、y(0)、z(0))を求める(S12)。
【0147】
次に、電気伝導特性演算部5511は、イオンjの初期配置x(0)、y(0)、z(0))と上記式14を用いて、X線の吸収開始からクーロン爆発までに要する時間τを求める(S13)。
【0148】
次に、電気伝導特性演算部5511は、上記式5からホール(電荷)の拡散距離を求め、上記時間τと上記式8を用いてホールの拡散係数Dを求める(S14)。
【0149】
次に、電気伝導特性演算部5511は、アインシュタインの関係式、上記式2を用いて移動度μを求める(S15)。
【0150】
そして、電気伝導特性演算部5511は、この求めた移動度μを電気伝導特性として出力に554に出力する(S16)。また、電気伝導特性演算部5511は、拡散係数Dを出力部554に出力するように構成してもよい。
【0151】
このように動作することにより、クラスタ電気伝導特性測定装置3は、非接触でクラスタαの電気伝導特性を精度よく測定することができる。
【0152】
なお、互いに異なる第1及び第2の原子等から成るクラスタであって第2の原子等が第1の原子等を包み込んでいるクラスタに、第1の原子等は吸収するが第2の原子等には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、第2の原子等の電気伝導特性を測定する場合には、本発明のクラスタと同様に測定を行って、上記処理S14において、上記式5から電荷の拡散距離を求め上記時間τと上記式8を用いてホールの拡散係数Dを求める代わりに、初期配置x(0)、y(0)、z(0))から電荷の拡散距離を推定し、上記時間τと上記式3を用いてホールの拡散係数Dを求めればよい。
【0153】
次に、別の実施形態について説明する。
(第2の実施形態の構成)
第1の実施形態では、クラスタαの電気伝導特性が測定されたが、第2の実施形態では、所定の分子構造を備えた所定の分子γの電気伝導特性が測定される。
【0154】
図10は、第2の実施形態に係る分子電気伝導特性測定システムの構成を示す一部断面図である。図10(A)は、上面図であり、図10(B)は、側面図である。
【0155】
図10において、分子電気伝導特性測定システム7は、分子の蒸気ビームを生成する分子蒸気ビーム生成装置8と、分子の電気伝導特性を測定する分子電気伝導特性測定装置9とを備えて構成される。
【0156】
分子蒸気ビーム生成装置8は、上述した所定の分子構造を備えた所定の分子γの蒸気ビームMBを生成する分子蒸気ビーム生成室80を備えて構成されている。分子蒸気ビーム生成室80は、試料容器81と、真空ポンプ82とを備えた真空チャンバで構成されている。
【0157】
試料容器81は、分子γの原材料の液体乃至固体の試料を収容すると共に分子γの蒸気ビームMBを生成するための容器であり、分子蒸気ビーム生成室80に収納されている。試料容器81は、例えば、本実施形態では、外形略直方体であって内部に所定の内容積を持った略円筒形状の空間を有した金属製容器であり、その一面には、この空間から蒸気ビームMBを噴出させるための所定寸法の直径を持つ略円筒形状をしたノズルとしての貫通孔81aが穿設されている。そして、試料容器81の外面には、試料容器81を加熱する図略の加熱部が設けられており、試料容器81は、加熱部により加熱されることによって試料容器81内の固体試料が加熱され、分子γの蒸気が生成されるようになっている。加熱部は、例えば、試料容器81の外周に環巻きされた例えばニクロム線等の電熱線を備えて構成される。試料容器81は、例えば、本実施形態では、内径約27mm、長さ約90mmの略円筒形状であり、その貫通孔11aの直径が約600μmである。
【0158】
真空ポンプ82は、分子蒸気ビーム生成室80と連通されており、排気して分子蒸気ビーム生成室80内を減圧し、分子蒸気ビーム生成室80内を所定気圧の真空状態(所定の真空度)とする装置である。真空ポンプ82は、上述の真空ポンプ13、32、54、64と同様に、例えば、高真空に引くために、ターボ分子ポンプが用いられている。
【0159】
分子電気伝導特性測定装置9は、第1の実施形態におけるクラスタ電気伝導特性測定装置3と同様に構成されており、測定室50と、制御情報処理装置55とを備えて構成されている。分子電気伝導特性測定装置9の測定室50と分子蒸気ビーム生成装置8の分子蒸気ビーム生成室80とは、スキマ40を介して連結されている。そして、試料容器81の貫通孔81aから噴出した分子γの蒸気ビームMBがスキマ40から噴出されるように、試料容器81の貫通孔81aの中心軸とスキマ40の中心軸とが一致するように、配置されている。分子電気伝導特性測定装置9は、目的クラスタαの代わりに分子γの分子蒸気ビームMBが用いられる点を除き、第1の実施形態におけるクラスタ電気伝導特性測定装置3と同様に構成されているため、その説明を省略する。
【0160】
次に、本実施形態の動作について説明する。
(第2の実施形態の動作)
このような構成の分子電気伝導特性測定システム7では、分子蒸気ビーム生成装置8で分子γの蒸気ビームMBが生成され、この生成された分子γの電気伝導特性が分子電気伝導特性測定装置9で測定される。以下に、分子蒸気ビーム生成装置8の動作及び分子電気伝導特性測定装置9の動作を順に説明する。
【0161】
まず、分子蒸気ビーム生成装置8における真空ポンプ82及び分子電気伝導特性測定装置9における真空ポンプ54、64をそれぞれ稼働し、分子蒸気ビーム生成室80、測定室50及び検出器容器61を所定の真空度となるまでそれぞれ排気する。所定の真空度は、例えば、本実施形態では、例えば、分子蒸気ビーム生成室が約10−3Torrであり、測定室50及び検出器容器61が約10−5〜10−6Torrである。このように分子蒸気ビーム生成室80及び測定室50の順に段階的に高い真空度(低いガス圧)に維持され、真空度に勾配が設けられている。
【0162】
次に、試料容器81が図略の加熱部によって加熱され、試料容器81内の液体乃至固体の試料が加熱される。この加熱によって試料が気化し、分子γの蒸気が生成される。そして、分子蒸気ビーム生成室80と測定室50とのガス圧差により、分子γが蒸気ビームMBとなって試料容器81の貫通孔81aから噴出される。この分子γの蒸気ビームMBは、スキマ40によってそのビーム中心が切り出され、スキマ40から測定室50に噴出される。
【0163】
この分子γの蒸気ビームMBは、X線導入用窓53を介して測定室50内に導かれたX線に図10に示す×印の位置で照射される。X線は、例えば、SPring8のBL10XUアンジュレータビームラインから得られる高輝度で高分解能な硬X線が用いられる。
X線の波長は、第1の原子U及び分子γにおける第1の原子Uを除く残余の原子(第2及び第3の原子V、Wも含まれる。)のX線吸収端の波長に基づいて決定され、第1の原子Uは、吸収するが、分子γにおける第1の原子Uを除く残余の原子は、吸収しない波長に決定される。特に、第1の原子Uに吸収されると共に分子γにおける第1の原子Uを除く残余の原子には吸収されない波長であって、第1の原子UのX線吸収端近傍の波長に相当すると共に分子γにおける第1の原子Uを除く残余の原子のX線吸収端近傍の波長に相当しない波長のX線は、第1の原子Uのみに効率よく吸収されるため、より好ましい。
【0164】
X線が照射されると、上述したように、分子γは、クーロン爆発を起こし、このクーロン爆発によって生成された電子は、第1の実施形態と同様に、電子検出装置51に引き込まれ、検出される。一方、このクーロン爆発によって生成された子イオンは、第1の実施形態と同様に、飛行時間型2次元イオン検出装置52に引き込まれる。
【0165】
電子検出装置51は、電子を検出すると検出信号を制御情報処理装置55に出力する。飛行時間型2次元イオン検出装置52は、子イオンを検出すると位置検出信号を制御情報処理装置55に出力する。制御情報処理装置55の中央処理部551は、電子検出装置51から検出信号を受信し、飛行時間型2次元イオン検出装置52から位置検出信号を受信すると、電子検出装置51からの検出信号を計時開始信号とし、飛行時間型2次元イオン検出装置52からの位置検出信号を計時終了信号として、これら2つの信号間の時間差を測定する。即ち、この電子が電子検出装置51に到達した時刻を時間の原点(基準)に子イオンjの飛行時間Tを計測する。分子γのクーロン爆発からこれにより生じた電子が電子検出装置51に到達するまでの時間は、ナノ秒のオーダであり、一方、分子γのクーロン爆発からこれにより生じた子イオンが飛行時間型2次元イオン検出装置52の2次元位置検出器63に到達するまでの時間は、マイクロ秒のオーダであるので、本電気伝導特性の測定において電子が電子検出装置51に到達する時間は、無視することができる。
【0166】
こうして子イオンの飛行時間Tと到達位置(検出位置)X、Yとが測定されると、制御情報処理装置55における中央処理部551の電気伝導特性演算部5511は、図9に示す処理手順と同様の処理手順によって、子イオンの飛行時間Tと到達位置(検出位置)X、Yとに基づいて、例えば移動度μや拡散係数Dなどを分子γの電気伝導特性として求める。
【0167】
このように動作することにより、分子電気伝導特性測定装置9は、非接触で分子γの電気伝導特性を精度よく測定することができる。
【0168】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。従って、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】クラスタの電気伝導特性を測定する測定原理を説明するための図である。
【図2】クラスタ内における電荷の移動を示す実験結果の図である。
【図3】X線照射による分子のクーロン爆発の過程を説明するための図である。
【図4】分子内における電荷の移動を示す実験結果の図である。
【図5】第1の実施形態に係るクラスタ電気伝導特性測定システムの構成を示す一部断面図である。
【図6】実施形態に係る飛行時間型2次元質量分析装置の構成を示す一部断面図である。
【図7】実施形態に係る制御情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【図8】目的クラスタの生成過程を説明するための模式図である。
【図9】実施形態に係る飛行時間及び到達位置に基づいて電気伝導特性を演算する演算方法を示すフローチャートである。
【図10】第2の実施形態に係る分子電気伝導特性測定システムの構成を示す一部断面図である。
【図11】特許文献1に開示のクラスタ生成装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0170】
1 クラスタ電気伝導特性測定システム
2 クラスタ生成装置
3 クラスタ電気伝導特性測定装置
7 分子電気伝導特性測定システム
8 分子蒸気ビーム生成装置
9 分子電気伝導特性測定装置
10 初期クラスタ原材料供給室
11 初期クラスタ蒸気ビーム生成部(ガス溜)
11a ガス供給開口部
11b、81a 貫通孔
12 冷却源
13、32、54、64、82 真空ポンプ
14 配管
15 流量調整バルブ
20、40 スキマ10
30 クラスタ生成室
31 目的クラスタ蒸気生成部
50 測定室
51 電子検出装置51
52 飛行時間型2次元イオン検出装置
53 X線導入用窓
55 制御情報処理装置
62 飛行管
62a メッシュリング
63 2次元位置検出器
80 分子蒸気ビーム生成室
81 試料容器
551 中央処理部
5511 電気伝導特性演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる第1乃至第3の原子又は分子から成るクラスタであって、
前記第2の原子又は分子が前記第1の原子又は分子と前記第3の原子又は分子との間に存在していること
を特徴とするクラスタ。
【請求項2】
原子又は分子の蒸気ビームを生成する蒸気ビーム生成部と、
前記蒸気ビームを断熱膨張させることにより初期クラスタを生成する初期クラスタ生成部と、
前記初期クラスタを構成する原子又は分子よりも沸点の高い互いに異なる第1乃至第3の原子又は分子の蒸気を前記初期クラスタに順に供給する第1乃至第3蒸気供給部とを備えること
を特徴とする請求項1に記載のクラスタを生成するクラスタ生成装置。
【請求項3】
原子又は分子の蒸気ビームを生成する第1工程と、
前記蒸気ビームを断熱膨張させることにより初期クラスタを生成する第2工程と、
前記初期クラスタを構成する原子又は分子よりも沸点の高い互いに異なる第1乃至第3の原子又は分子の蒸気を前記初期クラスタに順に供給する第3工程とを備えること
を特徴とする請求項1に記載のクラスタを生成するクラスタ生成方法。
【請求項4】
請求項1に記載のクラスタに前記第1の原子又は分子に吸収されると共に前記第2及び第3の原子又は分子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、前記クーロン爆発により前記クラスタから生じた電子を検出する電子検出部と、
前記クーロン爆発により前記クラスタから生じたイオンを加速するイオン加速部と、
前記イオン加速部で加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出するイオン位置検出部と、
前記電子検出器の検出信号及び前記イオン位置検出部の位置検出信号に基づいて前記クラスタの電気伝導特性を求める処理部とを備えること
を特徴とするクラスタ電気伝導特性測定装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記電子検出部から検出信号を得た時刻から前記イオン位置検出部から位置検出信号を得た時刻までの時間を、前記イオンが前記クーロン爆発から前記イオン位置検出部に到達するまでの飛行時間として求め、求めた前記飛行時間と前記位置検出信号の到達位置とからイオンの運動量分布を求め、求めた前記運動量分布からクラスタ内の電荷拡散距離を求めることで電気伝導特性を求めること
を特徴とする請求項4に記載のクラスタ電気伝導特性測定装置。
【請求項6】
請求項1に記載のクラスタに前記第1の原子又は分子に吸収されると共に前記第2及び第3の原子又は分子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせる第1工程と、
前記クーロン爆発により前記クラスタから生じた電子を検出する第2工程と、
前記クーロン爆発により前記クラスタから生じたイオンを加速する第3工程と、
加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出する第4工程と、
前記第1工程の検出信号及び前記第4工程の位置検出信号に基づいて前記クラスタの電気伝導特性を求める第5工程とを備えること
を特徴とするクラスタ電気伝導特性測定方法。
【請求項7】
請求項1に記載のクラスタに前記第1の原子又は分子に吸収されると共に前記第2及び第3の原子又は分子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、前記クーロン爆発により前記クラスタから生じた電子を検出し、前記クーロン爆発により前記クラスタから生じたイオンを加速し、加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出し、前記電子の検出を示す検出信号及び前記イオンの検出位置を示す位置検出信号に基づいて前記電子の検出から前記イオンの検出までの時間をイオンの飛行時間として求め、前記飛行時間及び前記位置検出信号に基づいて前記クラスタの電気伝導特性を求める、コンピュータに実行させるクラスタ電気伝導特性演算プログラムにおいて、
前記飛行時間及び前記2次元平面内の位置に基づいて前記クーロン爆発直後における前記イオンの運動量を求めるステップと、
前記ステップで求めた運動量に基づいて前記イオンの前記クラスタにおける初期配置を求めるステップと、
前記ステップで求めた前記イオンの初期配置に基づいて前記X線の吸収開始からクーロン爆発までに要する時間を求めるステップと、
前記第3の原子又は分子がイオンとして検出される場合の前記クラスタの大きさに基づいて電荷の拡散距離を求め、前記ステップで求めた時間に基づいてホールの拡散係数を求めるステップと、
前記ステップで求めたホールの拡散係数に基づいて、電気伝導特性を表す前記ホールの移動度を求めるステップとを備えること
を特徴とするクラスタ電気伝導特性演算プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のクラスタ電気伝導特性演算プログラムを記録したコンピュータに読み取り可能な記録媒体。
【請求項9】
互いに異なる第1乃至第3の原子を少なくとも含み、前記第1の原子と前記第3の原子との間に少なくとも前記第2の原子が存在する分子構造を有する分子に前記第1の原子に吸収されると共に前記分子における前記第1の原子を除く残余の原子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、前記クーロン爆発により前記分子から生じた電子を検出する電子検出部と、
前記クーロン爆発により前記分子から生じたイオンを加速するイオン加速部と、
前記イオン加速部で加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出するイオン位置検出部と、
前記電子検出器の検出信号及び前記イオン位置検出部の位置検出信号に基づいて前記分子の電気伝導特性を求める処理部とを備えること
を特徴とする分子電気伝導特性測定装置。
【請求項10】
前記処理部は、前記電子検出部から検出信号を得た時刻から前記イオン位置検出部から位置検出信号を得た時刻までの時間を、前記イオンが前記クーロン爆発から前記イオン位置検出部に到達するまでの飛行時間として求め、求めた前記飛行時間と前記位置検出信号の到達位置とからイオンの運動量分布を求め、求めた前記運動量分布から分子内の電荷拡散距離を求めることで電気伝導特性を求めること
を特徴とする請求項9に記載の分子電気伝導特性測定装置。
【請求項11】
互いに異なる第1乃至第3の原子を少なくとも含み、前記第1の原子と前記第3の原子との間に少なくとも前記第2の原子が存在する分子構造を有する分子に、前記第1の原子に吸収されると共に前記分子における前記第1の原子を除く残余の原子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせる第1工程と、
前記クーロン爆発により前記分子から生じた電子を検出する第2工程と、
前記クーロン爆発により前記分子から生じたイオンを加速する第3工程と、
前記イオン加速部で加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出する第4工程と、
前記電子検出器の検出信号及び前記イオン位置検出部の位置検出信号に基づいて前記分子の電気伝導特性を求める第5工程とを備えること
を特徴とする分子電気伝導特性測定方法。
【請求項12】
互いに異なる第1乃至第3の原子を少なくとも含み、前記第1の原子と前記第3の原子との間に少なくとも前記第2の原子が存在する分子構造を有する分子に、前記第1の原子に吸収されると共に前記分子における前記第1の原子を除く残余の原子には吸収されない波長のX線を照射することによってクーロン爆発を生じさせ、前記クーロン爆発により前記分子から生じた電子を検出し、前記クーロン爆発により前記分子から生じたイオンを加速し、前記イオン加速部で加速した前記イオンを検出すると共に加速方向に直交する2次元平面内の位置を検出し、前記電子検出器の検出信号及び前記イオン位置検出部の位置検出信号に基づいて前記電子の検出から前記イオンの検出までの時間をイオンの飛行時間として求め、前記飛行時間及び前記位置検出信号に基づいて前記分子の電気伝導特性を求める、コンピュータに実行させる分子電気伝導特性演算プログラムにおいて、
前記飛行時間及び前記2次元平面内の位置に基づいて前記クーロン爆発直後における前記イオンの運動量を求めるステップと、
前記ステップで求めた運動量に基づいて前記イオンの前記分子における初期配置を求めるステップと、
前記ステップで求めた前記イオンの初期配置に基づいて前記X線の吸収開始からクーロン爆発までに要する時間を求めるステップと、
前記第3の原子がイオンとして検出される場合の前記分子の大きさに基づいて電荷の拡散距離を求め、前記ステップで求めた時間に基づいてホールの拡散係数を求めるステップと、
前記ステップで求めたホールの拡散係数に基づいて、電気伝導特性を表す前記ホールの移動度を求めるステップとを備えること
を特徴とする分子電気伝導特性演算プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載の分子電気伝導特性演算プログラムを記録したコンピュータに読み取り可能な記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−248456(P2007−248456A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31647(P2007−31647)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】