説明

クラッチディスク

【課題】 クラッチディスクのスプラインボスからの潤滑油の飛散を抑制する。
【解決手段】 クラッチディスクは、スプライン軸が摺動可能に嵌挿されるスプラインボスが開口されたスプラインハブを中央に備える。スプラインハブは、スプラインボスの内周面に環状に形成された油溝と、第1シール溝と、第1の流路とを含む。第1シール溝は、スプラインボスの内周面に環状に形成され、油溝よりもフライホイール側に位置する。第1の流路は、油溝と第1シール溝にそれぞれ開口部を有し、第1シール溝から油溝に油を環流させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のエンジンおよびトランスミッションの間には、エンジンからの動力伝達を断続するクラッチが配置される。機械式の摩擦クラッチは、エンジンのクランクシャフトに直結されたフライホイールと、フライホイールに対して当接・離間するクラッチディスクとを備えている。
【0003】
また、クラッチディスクの中央には、車軸と連結されるスプライン軸を通すためにスプラインボスが開口されている。このスプラインボスの内周面には、軸方向に延長する複数の歯部が形成されるとともに、周方向に延長する環状の油溝が形成されている。この油溝には、スプライン軸の摺動を滑らかにするためにグリスが充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−101026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スプラインボスのグリスが多い場合、クラッチディスクからグリスがはみ出して周囲に飛散することがある。このとき、飛散したグリスがフライホイールとクラッチディスクとの間に付着すると、クラッチの滑りの原因となることがある。
【0006】
上記事情に鑑み、クラッチディスクのスプラインボスからの潤滑油の飛散を抑制する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、スプライン軸が摺動可能に嵌挿されるスプラインボスが開口されたスプラインハブを中央に備えたクラッチディスクである。スプラインハブは、スプラインボスの内周面に環状に形成された油溝と、第1シール溝と、第1の流路とを含む。第1シール溝は、スプラインボスの内周面に環状に形成され、油溝よりもフライホイール側に位置する。第1の流路は、油溝と第1シール溝にそれぞれ開口部を有し、第1シール溝から油溝に油を環流させる。
【0008】
上記のクラッチディスクにおいて、スプラインハブは、第2シール溝と、第2の流路とをさらに含んでいてもよい。第2シール溝は、スプラインボスの内周面に環状に形成され、第1シール溝と油溝を隔てて配置される。第2の流路は、油溝と第2シール溝にそれぞれ開口部を有し、第2シール溝から油溝に油を環流させる。
【発明の効果】
【0009】
スプラインハブの第1の流路によって第1シール溝から油溝に油を環流させることで、クラッチディスクのスプラインボスからの潤滑油の飛散が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一の実施形態における乾燥単板式クラッチの構成例を示す図
【図2】一の実施形態のクラッチディスクの構成例を示す図
【図3】一の実施形態におけるクラッチディスクのスプラインハブの正面図
【図4】図3のスプラインハブの縦断面図
【図5】一の実施形態のスプラインハブにおける油の流れを説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
<一の実施形態の説明>
図1は一の実施形態における乾燥単板式クラッチの構成例を示す図である。クラッチは、フライホイール1と、クラッチディスク2と、プレッシャープレート3と、スプリング4とを有している。
【0012】
フライホイール1は、エンジンのクランクシャフト(不図示)に直結されている。フライホイール1は、クラッチディスク2と一面が対向するように配置される。
【0013】
クラッチディスク2は、フライホイール1に対して当接・離間することで車軸への動力伝達を断続する円板状の部材である。図2は一の実施形態のクラッチディスク2の構成例を示す図である。クラッチディスク2は、スプラインボス8が開口されたスプラインハブ7を中央部に備えている。上記のスプラインボス8には、車軸と連結されるスプライン軸5が摺動可能に嵌挿される。
【0014】
プレッシャープレート3は、クラッチディスク2を隔ててフライホイール1と対向配置されるドーナツ状の部材である。プレッシャープレート3は、スプリング4の圧力を受けてクラッチディスク2をフライホイール1に押しつける役目を果たす。プレッシャープレート3の中央の開口部分には、クラッチディスク2に連結されるスプライン軸5が通る。また、プレッシャープレート3は、ダイヤフラム形のスプリング4と当接している。このスプリング4は、スプライン軸5の途中に設けられたレリーズベアリング6によって押圧される。なお、レリーズベアリング6の周面にはレリーズフォークが取り付けられている。レリーズフォークはクラッチペダルの操作で動作するレリーズシリンダに連結されている(レリーズフォーク、レリーズシリンダ、クラッチペダルの図示は省略する)。
【0015】
ここで、クラッチペダルが踏み込まれていないときには、スプリング4がクラッチディスク2側に変形し、その押圧力によってクラッチディスク2がフライホイール1に押し当てられる。これにより、エンジンの回転がクラッチディスク2を介してスプライン軸5に伝達されることとなる。
【0016】
一方、クラッチペダルが踏み込まれたときには、スプリング4がレリーズベアリング6側に変形し、スプリング4による押圧が解除されることでクラッチディスク2がフライホイール1から離間する。これにより、エンジンから車軸への動力伝達が遮断される。
【0017】
また、図3は、一の実施形態におけるクラッチディスク2のスプラインハブ7の正面図である。図4は、図3のスプラインハブ7の縦断面図である。
【0018】
スプラインハブ7のスプラインボス8内周面には、スプライン軸5のキー溝に合わせて、軸方向に延長する複数の歯部8aが形成されている。また、スプラインハブ7のスプラインボス8内周面には、周方向に延長する環状の油溝9が2本並列に形成されている。上記の2本の油溝9には、スプライン軸5の摺動を滑らかにするためのグリスがそれぞれ充填される。
【0019】
さらに、スプラインハブ7のスプラインボス8内周面において、油溝9のフライホイール側(図4の左側)には、周方向に延長する環状の第1シール溝10が形成されている。同様に、油溝9のプレッシャープレート側(図4の右側)には、周方向に延長する環状の第2シール溝11が形成されている。この第2シール溝11は、油溝9を隔てて第1シール溝10の反対側に配置されている。第1シール溝10および第2シール溝11は、スプラインボス8の外側にグリスの漏れを防ぐために設けられている。
【0020】
また、スプラインボス8の歯部8aに挟まれた溝部分には、スプラインハブ7の中を通って油溝9と各シール溝(10,11)とをそれぞれ接続する流路12が形成されている。上記の流路12は、スプラインハブの周方向に等間隔をおいて5つ形成されており、各々の流路12は、スプラインハブ7の軸方向に沿って延長している。
【0021】
具体的には、1つの流路12は、2つの油溝9と、第1シール溝10と、第2シール溝11との4箇所に、スプラインハブ7の内周側から外周側に向けてそれぞれ斜めに穴を開けることで形成されている。そして、上記の流路12は、スプラインハブ7の奥で4つの穴が1点に合流するように形成されている。
【0022】
以下、図5を参照しつつ、一の実施形態での作用効果を述べる。クラッチディスク2では、スプライン軸5の摺動に伴って、油溝9からスプラインハブ7の軸方向にグリスが流動する。一の実施形態では、油溝9よりも外側に第1シール溝10および第2シール溝11を設けているので、油溝9から流動したグリスは第1シール溝10および第2シール溝11で貯留される。そして、一の実施形態では、スプラインハブ7に穴を開けて油溝9と第1シール溝10および第2シール溝11とを接続する流路12を形成しているので、第1シール溝10および第2シール溝11に貯まったグリスは、上記の流路12を経て再び油溝9に環流される。
【0023】
そのため、一の実施形態の構成によれば、油溝9にグリスを過剰に充填した場合でも、第1シール溝10および第2シール溝11からグリスが油溝9に環流されるので、クラッチディスク2からグリスがはみ出しにくくなる。これにより、クラッチディスク2からはみだしたグリスが周囲に飛散するおそれも低減し、はみだしたグリスによるクラッチの滑りも抑制できる。
【0024】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲が、その精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図する。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずであり、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物によることも可能である。
【符号の説明】
【0025】
1…フライホイール、2…クラッチディスク、3…プレッシャープレート、4…スプリング、5…スプライン軸、6…レリーズベアリング、7…スプラインハブ、8…スプラインボス、9…油溝、10…第1シール溝、11…第2シール溝、12…流路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプライン軸が摺動可能に嵌挿されるスプラインボスが開口されたスプラインハブを中央に備えたクラッチディスクであって、
前記スプラインハブは、
前記スプラインボスの内周面に環状に形成された油溝と、
前記スプラインボスの内周面に環状に形成され、前記油溝よりもフライホイール側に位置する第1シール溝と、
前記油溝と前記第1シール溝にそれぞれ開口部を有し、前記第1シール溝から前記油溝に油を環流させる第1の流路と、を含むクラッチディスク。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッチディスクにおいて、
前記スプラインハブは、
前記スプラインボスの内周面に環状に形成され、前記第1シール溝と前記油溝を隔てて配置された第2シール溝と、
前記油溝と前記第2シール溝にそれぞれ開口部を有し、前記第2シール溝から前記油溝に油を環流させる第2の流路と、をさらに含むクラッチディスク。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127473(P2012−127473A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281826(P2010−281826)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】