説明

クラッチ摩耗粉強制排出構造

【課題】クラッチ装置の回転摩擦部に発生する摩耗粉を効果的に外部に排出できるようにする。
【解決手段】フライホイール2のクラッチディスクが当接する位置より内側に吸引口10を穿設し、かつ、フライホイール2の前面における吸引口10のフライホイール回転方向前側に、前方に突出する土手部11を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置の回転摩擦部に発生する摩耗粉を効果的に外部に排出するようにしたクラッチ摩耗粉強制排出構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車における前方のエンジンと後方の変速機との間に設けられるクラッチ装置は、例えば特許文献1の構成を表わす図8に示す如く、クランクシャフト1に取付けたフライホイール2の後面にクラッチディスク3を対向させ、該クラッチディスク3を前記クランクシャフト1と同一軸線上に設けたインプットシャフト9の軸線に沿って移動するように支持し、前記クラッチディスク3をプレッシャープレート4により前記フライホイール2の後面に押圧するようにしている。上記クラッチ装置はフライホイールハウジング5とクラッチハウジング6で包囲されており、クラッチハウジング6の上部には給気口7が設けられ、またフライホイールハウジング5の下部には排気口8が設けられて前記ハウジング5,6内部は空冷されるようになっている。
【0003】
上記したクラッチ装置においては、クラッチディスク3をプレッシャープレート4によってフライホイール2に押付けるために、この回転摩擦部に摩耗粉が発生する問題があり、この摩耗粉は速やかに外部に排出する必要がある。
【0004】
この問題に対処するために、特許文献2では、前記フライホイールのクラッチディスクが当接する位置より内側に、フライホイールを前後に貫通する吸引口を穿設している。この吸引口は、フライホイールの内側面から外側面に向かい広がる傾斜角度で形成している。
【特許文献1】特開平07−071477号公報
【特許文献2】特開平06−050390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に示すようにフライホイールに単に吸引口を設けたのみでは、クラッチディスクの回転摩擦部で発生した摩耗粉を効果的に吸引して外部に排出することはできなかった。即ち、フライホイールに傾斜した吸引口を設けても、この吸引口では有効な負圧を発生させることが困難であり、よって、摩耗粉を有効に排出させることができないという問題を有していた。
【0006】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになしたもので、クラッチ装置の回転摩擦部に発生する摩耗粉を効果的に外部に排出できるようにしたクラッチ摩耗粉強制排出構造に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、クランクシャフトに取付けたフライホイールの後面にクラッチディスクを対向させ、該クラッチディスクを前記クランクシャフトと同一軸線上に設けたインプットシャフトの軸線に沿って移動するように支持し、前記クラッチディスクをプレッシャープレートにより前記フライホイールの後面に押圧するクラッチ装置において、前記フライホイールのクラッチディスクが当接する位置より内側に吸引口を穿設し、かつ、前記フライホイールの前面における前記吸引口のフライホイール回転方向前側に、前方に突出する土手部を設けたことを特徴とするクラッチ摩耗粉強制排出構造、に係るものである。
【0008】
上記手段において、前記土手部は前記吸引口の回転方向前側に沿って略円弧状に設けることは好ましい。
【0009】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0010】
本発明のクラッチ摩耗粉強制排出構造においては、フライホイールに吸引口を設け、かつ、フライホイールの前面におけるフライホイール回転方向前側に、前方に突出する土手部を設けたので、エンジンの回転によってフライホイールが回転すると、土手部を乗り越える空気の流速が高まり、圧力差が生じることにより土手部直後に負圧が生じて吸引口の空気が吸引され、これによってフライホイールとクラッチディスクとの間の摩耗粉が外部に排出される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクラッチ摩耗粉強制排出構造によれば、フライホイールの回転により、フライホイールの前面における吸引口のフライホイール回転方向前側に設けた土手部の直後に負圧が生じるため、吸引口を介してフライホイールとクラッチディスクとの間の摩耗粉が吸引されて強制的に外部に排出される優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1〜図5は前記図8のクラッチ装置に適用した本発明の形態の一例を示すもので、図1はクラッチ装置の全体切断側面図、図2は図1のクラッチ装置におけるフライホイールの正面図、図3は図2のフライホイールの切断側面図、図4は図2の土手部の正面図、図5は図4のV−V方向矢視図である。
【0014】
図1〜図3に示す如く、図8と同様の構成を有するクラッチ装置において、フライホイール2におけるクラッチディスク3が当接する位置よりも内側位置に、フライホイール2をクランクシャフト1と平行に貫通する吸引口10を穿設する。この吸引口10は、周速が大きい場所に設けることが好ましく、従って前記クラッチディスク3が当接する位置に最も近い位置に設けている。前記吸引口10は複数個等間隔で設けることができるが、フライホイール2の強度に影響を及ぼさない数で設ける。また、吸引口10は任意の口径とすることができるが、フライホイール2の強度に影響を及ぼさない範囲で大きい口径とすることが好ましい。
【0015】
前記フライホイール2の前面(図1の左側面)における前記吸引口10のフライホイール回転方向前側には、前方(クランクシャフト1側)に突出した土手部11を設ける。
【0016】
前記土手部11は、図4に示す如く、前記吸引口10におけるフライホイール2の回転方向前側に沿って略円弧状に設けられる。この土手部11は、フライホイール2の回転方向前側から後側に向かって高くなるように流線形に突出し、吸引口10の略半周の位置が終端となっている。
【0017】
前記フライホイール2とフライホイールハウジング5との間の間隙は比較的狭い場合が多い。ここで、前記土手部11はフライホイールハウジング5と干渉しない範囲でできるだけ高く形成する。
【0018】
また、吸引口10は特許文献2に示すように傾斜して形成することもできるが、図1に示すように吸引口10はクランクシャフト1と平行に設けることが好ましい。即ち、吸引口10を傾斜して設けても有効な吸引効果が得られないこと、フライホイール2に吸引口10を傾斜して設ける場合の孔開け加工は面倒であること、及びフライホイール2を鋳造で製造する場合には傾斜した吸引口10の形成は面倒であることから、吸引口10はクランクシャフト1と平行に設けるのが良い。
【0019】
図6、図7は、本発明の他の形態を示したもので、前記フライホイール2の前面における前記吸引口10のフライホイール回転方向前側に土手部11を設けた構成において、前記吸引口10のフライホイール回転方向後側に、凹溝12を設けている。このように吸引口10のフライホイール回転方向後側に凹溝12を設けると、フライホイール2とフライホイールハウジング5との間の間隙が狭い場合にも、実質的に土手部11の高さを高く保持して、土手部11により吸引口10に対する負圧を有効に生じさせることができる。
【0020】
次に、上記図示例の作動を説明する。
【0021】
図1〜図7に示すように、フライホイール2に、該フライホイール2を前後に貫通する吸引口10を設け、かつ、フライホイール2の前面におけるフライホイール回転方向前側に、前方(クランクシャフト1側)に突出する土手部11を設けたので、エンジンの回転によってフライホイール2が回転すると、土手部11を乗り越えた空気の流速が高まり、これにより圧力差が生じて土手部11の直後に負圧が発生し、この負圧によって吸引口10の空気が吸い出されることにより、フライホイール2とクラッチディスク3との間の摩耗粉は強制的に吸い出されて外部に排出される。フライホイール2の外部に排出された摩耗粉は、図1に破線で示すようにフライホイール2とフライホイールハウジング5の間を通って排気口8に導かれ、排気口8から外部に排出される。
【0022】
なお、本発明は上記形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施する形態の一例としてのクラッチ装置の全体切断側面図である。
【図2】図1のクラッチ装置におけるフライホイールの正面図である。
【図3】図2のフライホイールの切断側面図である。
【図4】図2の土手部の正面図である。
【図5】図4のV−V方向矢視図である。
【図6】本発明の他の形態を示した正面図である。
【図7】図6のVII−VII方向矢視図である。
【図8】従来のクラッチ装置の一例を示す全体切断側面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 クランクシャフト
2 フライホイール
3 クラッチディスク
4 プレッシャープレート
9 インプットシャフト
10 吸引口
11 土手部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトに取付けたフライホイールの後面にクラッチディスクを対向させ、該クラッチディスクを前記クランクシャフトと同一軸線上に設けたインプットシャフトの軸線に沿って移動するように支持し、前記クラッチディスクをプレッシャープレートにより前記フライホイールの後面に押圧するクラッチ装置において、前記フライホイールのクラッチディスクが当接する位置より内側に吸引口を穿設し、かつ、前記フライホイールの前面における前記吸引口のフライホイール回転方向前側に、前方に突出する土手部を設けたことを特徴とするクラッチ摩耗粉強制排出構造。
【請求項2】
前記土手部は前記吸引口の回転方向前側に沿って略円弧状に設けることを特徴とする請求項1記載のクラッチ摩耗粉強制排出構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−275085(P2006−275085A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91612(P2005−91612)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】