説明

クラッチ構造

【課題】部品点数を少なく抑えた簡単かつ安価な構成で、摩擦材に対する押圧力の不均衡などの不具合を防止できるクラッチ構造を提供する。
【解決手段】第1回転軸41に固定されたクラッチハウジング21と、第2回転軸42に固定されたクラッチハブ22と、クラッチハウジング21内で軸方向に沿って複数の摩擦材が積層された摩擦係合部23と、摩擦係合部23を押圧するピストン部材26と、クラッチハウジング21のピストン部材26側の端部に固定された係止部材25と、を備えたクラッチ20において、クラッチハウジング21の第1回転軸41側の端部を回転可能に支持する第1ベアリング61と、係止部材25の内径側でクラッチハウジング21の第2回転軸42側の端部を回転可能に支持する第2ベアリング62とを備え、クラッチ20の軸方向の両端を2個のベアリング61,62で支持する構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンなどの駆動源からの駆動力を副駆動輪に配分することで車両の駆動状態を四輪駆動状態と二輪駆動状態とで切り替えるためのクラッチに用いて好適なクラッチ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンなどの駆動源からの駆動力を副駆動輪に配分することで車両の駆動状態を四輪駆動状態と二輪駆動状態とで切り替えるためクラッチ構造として、特許文献1に記載のクラッチ構造がある。特許文献1に記載のクラッチ構造は、同軸上に並べて配置された第1回転軸と第2回転軸との間で回転伝達の有無を切替可能なクラッチ構造であり、第1回転軸に固定されたクラッチハウジングと、クラッチハウジングの内周側で第2回転軸に固定されたクラッチハブとを備えると共に、クラッチハウジング内で該クラッチハウジングに固定された複数の摩擦材とクラッチハブに固定された複数の摩擦材とが軸方向に沿って交互に積層された摩擦係合部と、該摩擦係合部を摩擦材の積層方向に押圧するピストン部材とを備えて構成されている。
【0003】
この特許文献1に記載のクラッチ構造では、クラッチハウジング及びその内部に配置した摩擦材などの構成部材がアッセンブリ化されてクラッチアッセンブリを構成している。そして、このクラッチアッセンブリは、クラッチハウジングの第1回転軸側の端部に設置したベアリングでケーシングに支持されている。その一方で、当該クラッチアッセンブリの第2回転軸側の端部には、ベアリングなど支持用の部材が設置されておらず、クラッチアッセンブリは、軸方向の一方の端部に設置した1個のベアリングによるいわゆる片持ち支持構造になっている。しかしながら、このように軸方向の1箇所に設置したベアリングのみでクラッチアッセンブリを支持する片持ち支持構造では、下記の点が問題であった。
【0004】
クラッチアッセンブリのベアリングによる支持箇所から軸方向へのオーバーハング量が大きいため、クラッチハウジング及びその内部に配置した摩擦材が回転軸の軸方向に対して傾き易い。そのため、ピストン部材が摩擦材を軸方向に沿って真直ぐに押し難く、ピストン押圧力の不均衡によるジャダー(振動)や異音の発生原因となるおそれがある。
【0005】
クラッチアッセンブリのオーバーハング量が大きいため、クラッチアッセンブリの各構成部材の芯出し(中心軸に対する径方向の位置決め)が行い難い。そのため、回転の不均衡(アンバランス)が増大する懸念がある。
【0006】
軸方向の一方の端部に設置した1個のベアリングによるいわゆる片持ち支持構造では、クラッチハウジング及びその内側に設置した摩擦材の軸方向の移動(位置ずれ)を規制するために、ベアリングをサークリップなど別途の固定具で固定する必要がある。これにより、クラッチ構造の部品点数の増加、組立工程の煩雑化につながるおそれがある。
【0007】
クラッチハウジング及びその内側に設置した摩擦材のガタつきを抑制するためには、内部の隙間寸法が小さい特殊な構造のベアリングを使う必要がある。これにより、高価な部品を使用することで、クラッチ構造及びそれを搭載した車両のコスト増につながるおそれがある。
【0008】
クラッチハウジング及びその内側に設置した摩擦材を片持ち支持するベアリングには、高い剛性が要求される。これにより、ベアリングのサイズが大型化し、クラッチ構造の小形化や軽量化の妨げになるおそれがある。
【0009】
また、特許文献1に記載された従来のクラッチ構造では、クラッチアッセンブリの第2回転軸側の端部には、ベアリングなど支持用の部材が設置されていないため、クラッチハウジング内の摩擦材を押圧するアプライカムは、クラッチハブの円筒状の部分にインロー支持されている。しかしながらこの構造では、アプライカムの芯出しが十分に行えないおそれがある。そのため、アプライカムに取り付けたピストン部材が軸方向に対して傾くおそれがあり、その場合、傾いた状態のピストン部材で摩擦材を押圧することになるため、押圧力の不均衡によるジャダーや異音の発生原因となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4227769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単かつ安価な構成で、摩擦材に対する押圧力の不均衡など不具合の発生を防止できるクラッチ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるクラッチ構造は、駆動源(3)からの駆動力が伝達される第1回転軸(41)と、車両の副駆動輪(Wr,Wr)側に繋がる第2回転軸(42)との間に設けられて、駆動源(3)からの駆動力を副駆動輪(Wr,Wr)へ配分することで、車両(1)の駆動状態を四輪駆動状態と二輪駆動状態とで切り替えるためクラッチ構造(20)であって、第1回転軸(41)側に固定されたクラッチハウジング(21)と、クラッチハウジング(21)の内周側で第2回転軸(42)側に固定されたクラッチハブ(22)と、クラッチハウジング(21)内で該クラッチハウジング(21)に固定された複数の摩擦材(23a)と、クラッチハブ(22)に固定された複数の摩擦材(23b)とが軸方向に沿って交互に積層された摩擦係合部(23)と、摩擦係合部(23)を摩擦材(23a,23b)の積層方向に押圧するピストン部材(26)と、クラッチハウジング(21)のピストン部材(26)側の端部に固定されて、クラッチハウジング(21)内の摩擦係合部(23)を係止する係止部材(25)と、を備えると共に、クラッチハウジング(21)の第1回転軸(41)側の端部を回転可能に支持する第1ベアリング(61)と、係止部材(25)を介してクラッチハウジング(21)の第2回転軸(42)側の端部を回転可能に支持する第2ベアリング(62)と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明にかかる上記のクラッチ構造によれば、下記のような作用・効果がある。
【0014】
軸方向の2箇所に配置した第1、第2ベアリングでアッセンブリ化したクラッチ構造(クラッチアッセンブリ)の両端(軸方向の両端)それぞれを支持する構造を採用したことで、クラッチ構造のオーバーハングを無くすことができるか、又はオーバーハング量をごく少量に抑えることが可能となる。これにより、クラッチ構造及びその構成部品が回転軸の軸方向に対して傾くことを防止できるので、ピストン部材で摩擦材を真直ぐに押せるようになり、クラッチ構造にジャダーや異音が発生することを防止できる。
【0015】
2箇所のベアリングでクラッチ構造の両端を支持することにより、クラッチ構造の構成部品の回転アンバランスを小さく抑えることができる。
【0016】
2箇所のベアリングでクラッチ構造の両端を支持することにより、クラッチ構造の軸方向の位置ずれを抑制できるので、ベアリング固定用のサークリップなど別途の部品が不要となる。したがって、クラッチ構造の部品数の削減及び組立工程の簡素化を図ることができる。また、ベアリング固定用のサークリップなどが不要となることで、クラッチ構造の軸方向寸法(全長)を短く抑えることができ、クラッチ構造の小型化、軽量化を図ることができる。
【0017】
2箇所のベアリングでクラッチ構造の両端を支持することにより、各々のベアリングのガタつきを少なく抑えることができるので、ベアリングの端部にシムを設置するなどの簡単な対策でベアリングのガタ調整が容易に行えるようになる。これにより、内部の隙間寸法が調整された特殊な構造のベアリングを使用せずに済むので、クラッチ構造及びそれを搭載した車両の製造コストを低減できる。
【0018】
2箇所のベアリングでクラッチ構造の両端を支持することで、クラッチ構造に必要な剛性を確保できるので、各ベアリングの小型化、軽量化を図ることができる。これにより、クラッチ構造及びそれを備えた駆動力伝達機構の小型化、軽量化を図ることができる。また、クラッチ構造の両端を支持する第1、第2ベアリングとして、互いに同一構成のベアリングを使用できるので、使用する部品の種類を少なく抑えることができ、クラッチ構造の低コスト化を図ることができる。
【0019】
また、本発明にかかる上記のクラッチ構造では、ピストン部材(26)は、係止部材(25)に対して軸方向に相対移動可能に係合していることで、係止部材(25)を介して第2ベアリング(62)に支持されていてよい。
【0020】
この構成によれば、係止部材を介して第2ベアリングにピストン部材を支持することで、ピストン部材の芯出しが容易に行えるようになるので、ピストン部材で摩擦係合部を摩擦材の積層方向に沿って真直ぐに押せるようになる。したがって、クラッチにジャダーや異音が発生することを防止できる。
【0021】
またこの場合、係止部材(25)には、ピストン部材(26)の係合が軸方向に外れることを防止するための外れ防止具(27)を取り付けるとよい。この構成によれば、外れ防止具によって、係止部材に係合しているピストン部材が軸方向に外れることを防止できる。これにより、クラッチハウジング内に設置した摩擦材を含むクラッチ構造の構成部品を一体化できるので、クラッチ構造の構成部品がバラバラになることを防止でき、クラッチ構造の組付性が向上する。
【0022】
また、上記のクラッチ構造では、クラッチハウジング(21)のピストン部材(26)側の端部には、開口部(21a)が設けられており、係止部材(25)は、開口部(21a)を塞ぐ板状部材であり、ピストン部材(26)に設けた突起状の押圧部(26d)が係止部材(25)に設けた貫通孔(25d)を貫通してクラッチハウジング(21)内の摩擦係合部(23)を押圧するように構成してよい。この構成によれば、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、ピストン部材によってクラッチハウジング内の摩擦係合部を押圧することができる。
【0023】
また、上記のクラッチ構造では、クラッチハウジング(21)のピストン部材(26)側の端部には、円形の開口部(21a)が設けられており、係止部材(25)は、円形の開口部(21a)を塞ぐ円形の板状部材であり、係止部材(25)には、開口部(21a)に対する回転防止用の爪部(25f)が形成されており、開口部(21a)には、該爪部(25f)を係合させるための溝部(21f)が形成されており、爪部(25f)は、係止部材(25)のクラッチハウジング(21)と反対側の面に設けられて該係止部材(25)の外径側に突出する突起からなるとよい。この構成によれば、下記のような効果がある。
【0024】
爪部が係止部材の表面(クラッチハウジングと反対側の面)側にあるため、係止部材をクラッチハウジングの開口部に圧入などで取り付ける際に、爪部を目視しながら取り付けることができるので、爪部の位置合わせが行い易い。したがって、係止部材の取付時に溝部に対する爪部の位置合わせ(位相決め)を行う作業性が向上する。
【0025】
係止部材の開口部側の突き当て端面(裏面)に爪部が無いため、係止部材の加工性が向上する。すなわち、旋盤などで係止部材の突き当て端面(裏面)を加工する際、爪部を避けて加工する必要がなく、加工が容易になる。また、旋盤で係止部材の突き当て端面と圧入面(外径側の端面)との同時加工が可能となるので、加工のサイクルタイムを削減でき、係止部材の加工性が向上する。また、複雑な加工が不要となることで、係止部材の振れ精度が出し易くなり、係止部材をクラッチハウジングの開口部に取り付けた後の回転バランスを良好にできる。これにより、クラッチ構造を含む駆動力伝達機構の駆動力伝達性能が向上する。
なお、上記で括弧内に記した参照符号は、後述する実施形態における対応する構成要素に付した符号を参考のために例示したものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかるクラッチ構造によれば、簡単かつ安価な構成で、摩擦材に対する押圧力の不均衡など不具合の発生を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態にかかるクラッチ(クラッチ構造)を備えた車両の概略構成図である。
【図2】クラッチを含む車両の駆動力伝達機構を示す側断面図である。
【図3】クラッチの詳細な構成を示す部分拡大断面図である。
【図4】(a)は、エンドキャップの正面図(軸方向の後側から見た図)であり、(b)は、(a)のZ−Z断面を示す図である。
【図5】プレッシャーピストンを背面側から見た斜視図である。
【図6】エンドキャップの貫通孔とプレッシャーピストンの押圧部を示す図で、図3のX部分の拡大図である。
【図7】エンドキャップの爪部を示す部分拡大図であり、(a)は、正面図、(b)は、(a)のY−Y断面を示す図である。
【図8】クラッチハウジングの開口部の一部を軸方向から見た部分拡大図である。
【図9】シリンダハウジングと後ケーシングの間に設置した油路パイプを示す図で、図3のP部分の拡大図である。
【図10】駆動力伝達機構を組み立てる際に、アッセンブリ化したクラッチを第2回転軸側に組み付ける工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るクラッチ構造を備えた車両の全体構成例を示す概略図である。同図に示す車両1は、四輪駆動車両であって、該車両1の前部に横置きに搭載したエンジン(駆動源)3と、エンジン3と一体に設置された自動変速機4と、エンジン3からの駆動力を前輪Wf,Wf及び後輪Wr,Wrに伝達するための駆動力伝達機構2とを備えている。
【0029】
エンジン3の出力軸(図示せず)は、自動変速機4、フロントディファレンシャル(以下「フロントデフ」という)5、左右のフロントドライブシャフト6,6を介して、主駆動輪である左右の前輪Wf,Wfに連結されている。さらに、エンジン3の出力軸は、自動変速機4、フロントデフ5、プロペラシャフト7、リアデファレンシャルユニット(以下「リアデフユニット」という)8、左右のリアドライブシャフト9,9を介して副駆動輪である左右の後輪Wr,Wrに連結されている。
【0030】
リアデフユニット8には、左右のリアドライブシャフト9,9に駆動力を配分するためのリアデファレンシャル(以下、「リアデフ」という。)11と、プロペラシャフト7からリアデフ11への駆動力伝達経路を接続・切断するための前後トルク配分用クラッチ20とが設けられている。前後トルク配分用クラッチ20は、油圧式の湿式クラッチであり、駆動力伝達機構2において後輪Wr,Wrに配分する駆動力を制御するための駆動力配分装置である。本実施形態の車両1では、図示しない制御手段によって、前後トルク配分用クラッチ20で後輪Wr,Wrに配分する駆動力を制御する。これにより、前輪Wf,Wfを主駆動輪とし、後輪Wr,Wrを副駆動輪とする駆動制御を行うようになっている。
【0031】
すなわち、前後トルク配分用クラッチ20が解除(切断)されているときには、プロペラシャフト7の回転がリアデフ11側に伝達されず、エンジン3のトルクがすべて前輪Wf,Wfに伝達されることで、前輪駆動(2WD)状態となる。一方、前後トルク配分用クラッチ20が接続されているときには、プロペラシャフト7の回転がリアデフ11側に伝達されることで、エンジン3のトルクが前輪Wf,Wfと後輪Wr,Wrの両方に配分されて四輪駆動(4WD)状態となる。なお、前後トルク配分用クラッチ20は、本発明にかかるクラッチ構造を適用したクラッチである。
【0032】
図2は、前後トルク配分用クラッチ(以下、単に「クラッチ」という。)20を含む駆動力伝達機構2を示す側断面図である。また、図3は、クラッチ20の詳細な構成を示す部分拡大断面図である。なお、以下の説明では、図2に矢印で示したように、駆動力伝達機構2を搭載した車両1の前後方向である図2の左右方向をそれぞれ前、後という。また、軸方向というときは、後述する第1、第2回転軸41,42の軸方向を示すものとする。図2に示す駆動力伝達機構2は、プロペラシャフト7(図1参照)に繋がる第1回転軸41と、第1回転軸41と同軸上に並べて配設された第2回転軸42と、第1回転軸41と第2回転軸42とを係脱自在に連結するためのクラッチ20とを備えている。また、第2回転軸42の後端部に一体形成された終減速ドライブピニオン44と、終減速ドライブピニオン44に噛合する終減速ドリブンギヤ45と、終減速ドリブンギヤ45内に配設された後輪用のディファレンシャル機構46とが設けられている。また、駆動力伝達機構2は、第1回転軸41を収容する前ケーシング51と、前ケーシング51の後端に接続されてクラッチ20を収容する中ケーシング52と、中ケーシング52の後端と後述するシリンダハウジング31の後端とに接続されて第2回転軸42を収容する後ケーシング53とを備えている。
【0033】
図3に示すように、クラッチ20は、第1回転軸41の後端に結合された略円筒状のクラッチハウジング21と、クラッチハウジング21の内周側で第2回転軸42の前端にスプライン結合されたクラッチハブ22と、クラッチハウジング21内で軸方向に沿って複数を交互に積層した摩擦材である圧力プレート23a及び摩擦プレート23bを備えている。圧力プレート23aは、外周端がクラッチハウジング21に係止されており、摩擦プレート23bは、内周端がクラッチハブ22に係止されている。これら複数の圧力プレート23aおよび摩擦プレート23bによって摩擦係合部23が構成されている。圧力プレート23aと摩擦プレート23bの積層方向における後側の端部には、エンドプレート24が設置されている。
【0034】
クラッチハウジング21は、軸方向における後側の端部に開口部21aを有しており、該開口部21aには、クラッチハウジング21内の摩擦係合部23を係止するためのエンドキャップ(係止部材)25が取り付けられている。また、エンドキャップ25の後側かつ外径側には、摩擦係合部23を押圧するためのプレッシャーピストン(ピストン部材)26が設置されている。図4(a)は、エンドキャップ25の正面図(軸方向の後側から見た図)であり、同図(b)は、(a)のZ−Z断面を示す図である。また、図5は、プレッシャーピストン26を背面側から見た斜視図である。
【0035】
エンドキャップ25は、略円形板状の本体部25aと、該本体部25aの中心部に設けた略円形の開口25bと、該開口25bの周囲を囲むように本体部25aから軸方向の後側に突出する円筒状のフランジ部25cとを備えている。このエンドキャップ25によって、図3に示すように、摩擦係合部23を構成する複数の圧力プレート23a及び摩擦プレート23bがクラッチハウジング21内に係止されている。
【0036】
エンドキャップ25の外径側に設置されたプレッシャーピストン26は、中心部に略円形の貫通孔26bを有する略円形の板状部材である。このプレッシャーピストン26は、エンドキャップ25のフランジ部25cの外径側にインロー支持されている。これにより、プレッシャーピストン26は、エンドキャップ25に対して、該エンドキャップ25と一体に回転し、かつ軸方向にのみ相対移動可能な状態で係合している。
【0037】
また、エンドキャップ25のフランジ部25cには、サークリップ27が取り付けられている。サークリップ27は、フランジ部25cの後端部近傍に設置されている。このサークリップ27によって、フランジ部25cの外径側で軸方向に移動するプレッシャーピストン26の抜け止めがなされている。
【0038】
また、図5に示すように、プレッシャーピストン26の背面には、軸方向に突出する円柱突起状の押圧部26dが形成されている。一方、図4に示すように、エンドキャップ25の本体部25aにおける押圧部26dに対応する位置には、円形の貫通孔25dが形成されている。上記の押圧部26d及び貫通孔25dは、プレッシャーピストン26とエンドキャップ25の円周方向に沿って等間隔で複数個が設けられている。
【0039】
図6は、エンドキャップ25の貫通孔25dとプレッシャーピストン26の押圧部26dを示す図で、図3のX部分の拡大図である。図3及び図6に示すように、プレッシャーピストン26の押圧部26dがエンドキャップ25の貫通孔25dを貫通してクラッチハウジング21内に突出しており、該押圧部26dの先端がエンドプレート24に当接するようになっている。
【0040】
一方、エンドキャップ25及びプレッシャーピストン26の後側には、シリンダハウジング31が設置されている。シリンダハウジング31には、その中心部に略円形の開口部31dが設けられており、該開口部31dの前方の端部には、軸方向に沿って前側に突出する円筒状のフランジ部31cが形成されている。フランジ部31cの外径側には、シリンダピストン33が設置されている。シリンダピストン33とプレッシャーピストン26との間には、スラストニードルベアリング29が介在しており、シリンダピストン33とプレッシャーピストン26は、相対回転可能かつ軸方向に一体に移動可能になっている。シリンダハウジング31内のシリンダピストン33との隙間には、作動油による油圧を発生させるための油室(シリンダ室)35が画成されている。シリンダピストン33は、シリンダハウジング31に対して軸方向に沿って相対移動可能に設置されており、その外周とシリンダハウジング31との間には、油室35を密封するためのシール部材34が設置されている。
【0041】
また、図2に示すように、シリンダハウジング31の油室35には、モータ57によって駆動されるオイルポンプ(電動オイルポンプ)からの作動油が導入される油路37が連通している。また、油路37には、作動油の油圧を検出するための油圧センサ36が設置されている。
【0042】
上記構成により、モータ57の駆動によるオイルポンプの運転でシリンダハウジング31内の油室35に作動油が導入されると、油室35から圧力を受けたシリンダピストン33が軸方向に沿って前側に移動することで、プレッシャーピストン26が同方向に移動する。これにより、プレッシャーピストン26の押圧部26dで摩擦係合部23の端部にあるエンドプレート24が押圧されて、圧力プレート23aおよび摩擦プレート23bが互いに係合することでクラッチ20が締結されるようになっている。
【0043】
図2に示すように、上記構成のクラッチ20は、前側の端部が第1ベアリング61によって回転自在に支持されており、後側の端部が第2ベアリング62によって回転自在に支持されている。第1ベアリング61は、第1回転軸41の外周側に設置されてクラッチハウジング21の前側の端部(第1回転軸41側の端部)を回転自在に支持している。第2ベアリング62は、エンドキャップ25の内周側でシリンダハウジング31との間に設置されている。これにより、エンドキャップ25をシリンダハウジング31に対して回転自在に支持している。すなわち、エンドキャップ25のフランジ部25cとシリンダハウジング31のフランジ部31cとは、軸方向の同位置で外径側と内径側とに配置されており、第2ベアリング62は、これらフランジ部25cとフランジ部31cの径方向の隙間に介在している。またこの構成によって、プレッシャーピストン26は、エンドキャップ25を介して第2ベアリング62に支持されている。
【0044】
また、第2ベアリング62とシリンダハウジング31との軸方向の隙間には、第2ベアリング62の軸方向のガタつきを調整するためのシム28が設置されている。本実施形態では、このシム28によって第2ベアリング62の軸方向のガタを調整するようにしたことで、第2ベアリング62を固定するためのサークリップなど固定用の部品を別途に設けずに済む。
【0045】
次に、クラッチハウジング21の開口部21aに取り付けたエンドキャップ25の詳細な構成について説明する。図4に示すように、エンドキャップ25には、クラッチハウジング21に対する回転防止用の爪部25fが形成されている。図7は、エンドキャップ25の爪部25fを示す部分拡大図であり、(a)は、正面図、(b)は、(a)のY−Y断面を示す図である。また、図8は、クラッチハウジング21の開口部21aの一部を軸方向から見た部分拡大図である。エンドキャップ25は、クラッチハウジング21の後端部に設けた円形の開口部21aを塞ぐ円形の板状部材である。そして、図7に示すように、エンドキャップ25の爪部25fは、エンドキャップ25の表面(クラッチハウジング21と反対側の面)に設けられて外径側に突出する小突起からなる。一方、クラッチハウジング21の開口部21aの内周面には、爪部25fを係合させるための溝部21fが形成されている。溝部21fは、爪部25fに対応する位置を含む円周上の複数箇所に等間隔に設けられている。クラッチハウジング21の開口部21aに設けた溝部21fのいずれかにエンドキャップ25の爪部25fを位置合わせして圧入する。これにより、エンドキャップ25が回り止めされた状態でクラッチハウジング21の開口部21aに固定される。
【0046】
ここで、従来構造のエンドキャップでは、爪部をエンドキャップの裏面(クラッチハウジング21側の面)に配置していた。そして、クラッチハウジングの溝部の外径寸法と、エンドキャップの爪部の外径寸法と、エンドキャップの外径寸法(爪部以外の部分の外径寸法)との関係は、下記のようになっていた。
エンドキャップの外径寸法>クラッチハウジングの溝部の外径寸法>エンドキャップの爪部の外径寸法
ところが、このような従来構造のエンドキャップでは、下記の課題があった。
【0047】
爪部がエンドキャップの裏面側にあると、エンドキャップをクラッチハウジングの開口部に圧入する際に爪部の位置を目視で確認できず、溝部に対する爪部の位置合わせが行い難い。
【0048】
爪部がエンドキャップの裏面(クラッチハウジングの開口部に対する突き当て端面)側に有るため、エンドキャップの加工性が悪い。すなわち、旋盤でエンドキャップの裏面を加工する際、爪部を避けて加工する必要があり、加工工程が煩雑化する。また、そのような複雑な加工工程が必要であるため、エンドキャップの振れ精度が出し難く、エンドキャップをクラッチハウジングの開口部に圧入した後の回転バランスが悪化するおそれがある。
【0049】
クラッチハウジングにおける爪部を嵌合させる溝部を設けた部分の外径寸法が、その前側の部分(クラッチハウジングの内部側の部分)の外径寸法よりも大きくなってしまう。そのため、クラッチハウジングの成形性(プレス加工による成形性)が悪い。
【0050】
これに対して、本実施形態のクラッチ20では、図7に示すように、爪部25fをエンドキャップ25の表面(クラッチハウジング21と反対側の面)に配置している。そして、クラッチハウジング21の溝部21fの外径寸法と、エンドキャップ25の爪部25fの外径寸法と、エンドキャップ25の外径寸法(爪部25f以外の部分の外形寸法)との関係は、下記のようになっている。
クラッチハウジング21の溝部21fの外径寸法>エンドキャップ25の爪部25fの外径寸法>エンドキャップ25の外径寸法
このようなエンドキャップ25を備えた本実施形態のクラッチ20では、下記のような作用・効果がある。
【0051】
爪部25fがエンドキャップ25の表面(クラッチハウジング21と反対側の面)にあるため、エンドキャップ25をクラッチハウジング21の開口部21aに圧入する際に爪部25fを目視しながら圧入でき、爪部25fの位置合わせが行い易い。したがって、エンドキャップ25の圧入時に爪部25fの位相決めを行う作業の効率が向上する。
【0052】
エンドキャップ25の裏面(クラッチハウジング21の開口部21aに対する突き当て端面)に爪部25fが無いため、エンドキャップ25の加工性が向上する。すなわち、旋盤でエンドキャップ25の裏面を加工する際、爪部25fを避けて加工する必要がなく、加工が容易になる。また、旋盤でエンドキャップ25の裏面(突き当て端面)と外径側の端面(圧入面)との同時加工が可能となるので、加工のサイクルタイムを削減でき、エンドキャップ25の加工性が向上する。また、複雑な加工が不要となることで、エンドキャップ25の振れ精度が出し易くなり、エンドキャップ25をクラッチハウジング21の開口部21aに圧入した後の回転バランスを良好できる。これにより、クラッチ20を含む駆動力伝達機構2の駆動力伝達性能が向上する。
【0053】
クラッチハウジング21における溝部21fを設けた部分の外径寸法をその前側の部分の外径寸法と同一にすることができるので、クラッチハウジング21の成形性(プレス加工による成形性)が良好になる。これにより、クラッチ20の製造コストを低減できる。また、クラッチハウジング21の小型化(小径化)を図ることができる。
【0054】
次に、シリンダハウジング31内の油室35に連通する油路37の構造について説明する。図9は、図3のY部分の部分拡大図である。本実施形態の駆動力伝達機構2では、シリンダハウジング31内の油室35に連通する油路37は、シリンダハウジング31と後ケーシング53の軸方向の合わせ面31a,53aを貫通して、シリンダハウジング31と後ケーシング53に跨って延びている。そして、この油路37におけるシリンダハウジング31と後ケーシング53の合わせ面31a,53aの部分には、シリンダハウジング31側と後ケーシング53側の油路37を連通するためのパイプ部材38が設置されている。パイプ部材38は、軸方向に貫通する油路穴38aを有する略円筒状の部材で、両端がそれぞれシリンダハウジング31の合わせ面31aに設けた溝部31bと後ケーシング53の合わせ面53aに設けた溝部53bとに差し込まれて設置されている。また、パイプ部材38の外径側には、Oリング(シール部材)39が設置されている。Oリング39は、シリンダハウジング31の合わせ面31aと後ケーシング53の合わせ面53aとの間に介在しており、パイプ部材38の外周におけるシリンダハウジング31と後ケーシング53の隙間をシールしている。
【0055】
パイプ部材38は、上記のように油路37を連通するための油路穴用の部材としての機能を有していることに加えて、シリンダハウジング31と後ケーシング53を接合する際に、シリンダハウジング31の合わせ面31aと後ケーシング53の合わせ面53aとの位置決めを行うための位置決め部材としての機能も有している。すなわち、パイプ部材38は、シリンダハウジング31と後ケーシング53を接合する前に、その一端が予め後ケーシング53の溝部53bに差し込まれた状態で取り付けられることで、他端が後ケーシング53の合わせ面53aから突出している。その状態で、シリンダハウジング31の合わせ面31aと後ケーシング53の合わせ面53aとを接合する。この際、後ケーシング53の合わせ面53aから突出しているパイプ部材38の他端がシリンダハウジング31の溝部31bに嵌合することで、シリンダハウジング31の合わせ面31aと後ケーシング53の合わせ面53aの位置合わせが行われる。
【0056】
従来の油路構造では、油路穴用のパイプ部材と位置決め用のノックピンとを別々の部材として設けていたため、その分、駆動力伝達機構の部品点数が多くなり、小型化、軽量化の妨げになっていた。これに対して、本実施形態の駆動力伝達機構2では、上記のように、シリンダハウジング31と後ケーシング53に跨る油路37に設置したパイプ部材38は、シリンダハウジング31と後ケーシング53の間で油路37を連通する油路穴用パイプとしての機能と、シリンダハウジング31と後ケーシング53の位置合わせを行うためのノックピンとしての機能とを兼ね備えている。このようなパイプ部材38を用いたことで、油路穴用パイプとノックピンを兼用できるので、駆動力伝達機構2の部品点数を少なく抑えることができ、構成の簡素化及び軽量化を図ることができる。また、パイプ部材38として、比較的廉価であり、かつ市場流通量が多く汎用性の高い部品を用いることができる。また、Oリング39の組付時にパイプ部材38がOリング39のガイドとして機能することで、Oリング39の組付作業性が向上する。
【0057】
次に、上記構成のクラッチ20を含む駆動力伝達機構2の組立手順について説明する。図10は、駆動力伝達機構2を組み立てる際に、アッセンブリ化したクラッチ20(クラッチアッセンブリ)を第2回転軸42側に組み付ける工程を説明するための図である。駆動力伝達機構2を組み立てる際には、まず、クラッチ20の構成部品を予め別工程で組み立てておく。図3を参照してこの工程を説明すると、第1回転軸42に結合したクラッチハウジング21と、第2回転軸42に結合したクラッチハブ22との間に圧力プレート23aと摩擦プレート23bを交互に積層し、それらの後端にエンドプレート24を設置する。その状態でクラッチハウジング21の開口部21aにエンドキャップ25を圧入する。さらに、エンドキャップ25のフランジ部25cの外周側にプレッシャーピストン26を取り付ける。これにより、プレッシャーピストン26の押圧部26dがエンドキャップ25の貫通孔25dから摩擦係合部23側に突出した状態になる。
【0058】
この状態で、エンドキャップ25のフランジ部25cに、サークリップ27を取り付ける。一方、エンドキャップ25のフランジ部25cの内径側に第2ベアリング62を圧入して取り付ける。ここまでの工程で、構成部品が一体に組み立てられたクラッチ20(クラッチアセンブリ)が完成する。
【0059】
さらに、組み立てたクラッチ20を中ケーシング52内に組み付ける。これには、第1回転軸41と中ケーシング52との間に第1ベアリング61を介在させた状態で組み付ける。その後、前ケーシング51と、クラッチ20を内部に設置した中ケーシング52とを一体に組み付ける。そして、図10に示すように、前ケーシング51及び中ケーシング52と第1回転軸41及びクラッチ20を一体に組み付けた部品を、軸方向を鉛直方向に設置した後ケーシング53内の第2回転軸42側に組み付ける。この際、第2ベアリング62は、予めクラッチ20側に一体に組み付けられているため、この工程でクラッチ20と共に第2回転軸42側に組み付けられる。その後、中ケーシング52と後ケーシング53を接合して、駆動力伝達機構2の組み立てが完了する。
【0060】
本実施形態のクラッチ20では、軸方向の両端を支持する第1、第2ベアリング61,62をクラッチ20側(クラッチアッセンブリ側)に取り付けたことで、第1、第2ベアリング61,62を含めたクラッチ20を一体化(カセット化)している。これにより、駆動力伝達機構2を組み立てる際のクラッチ20の組付作業性が向上する。また、クラッチ20の芯出し(第1回転軸41及び第2回転軸42に対する位置合わせ)が容易に行えるようになる。
【0061】
また、本実施形態のクラッチ20では、エンドキャップ25のフランジ部25cにプレッシャーピストン26の抜止用のサークリップ27を取り付けていることで、クラッチハウジング内の圧力プレート23a及び摩擦プレート23bからなる摩擦係合部23などクラッチ20(クラッチアッセンブリ)の構成部品が一体化されている。これにより、駆動力伝達機構2を組み立てる際にクラッチ20の構成部品がバラバラになることを防止できるので、駆動力伝達機構2の組立性が向上する。
【0062】
以上説明したように、本実施形態のクラッチ20は、第1回転軸41の外周側に設置されてクラッチハウジング21の第1回転軸41側の端部を回転可能に支持する第1ベアリング61と、エンドキャップ25の内周側でシリンダハウジング31との間に設置されてクラッチハウジング21の第2回転軸42側の端部を回転可能に支持する第2ベアリング62とを備えている。これにより、下記のような作用・効果を奏することができる。
【0063】
軸方向の2箇所に配置した第1、第2ベアリング61,62でクラッチ20の軸方向の両端それぞれを支持する構造を採用したことで、クラッチ20の構成部品のオーバーハングを無くすことができる。これにより、クラッチ20及びその構成部品が軸方向に対して傾くことを防止できるので、プレッシャーピストン26で摩擦係合部23を真直ぐに押せるようになり、クラッチ20にジャダーや異音が発生することを防止できる。
【0064】
軸方向の2箇所に配置したベアリング61,62でクラッチ20の両端を支持することにより、クラッチ20の構成部品の回転アンバランスを小さく抑えることができる。
【0065】
2箇所のベアリング61,62でクラッチ20の両端を支持することにより、クラッチ20及びその構成部品の軸方向の位置ずれを抑制できるので、ベアリング固定用のサークリップなどの部材が不要となる。したがって、部品数の削減及び組立工程の簡素化を図ることができる。また、ベアリング固定用のサークリップなどの部材が不要となることで、クラッチ20の軸方向寸法(全長)を短く抑えることができ、クラッチ20の小型化、軽量化を図ることができる。
【0066】
2箇所のベアリング61,62でクラッチ20の両端を支持することにより、各々のベアリング61,62のガタつきを少なく抑えることができる。したがって、ベアリング61,62の端部にシム28を設置するなどの簡単な対策のみで、ベアリング61,62のガタ調整が容易に行えるようになる。これにより、内部の隙間寸法が調整された特殊構造のベアリングを使用せずに済むので、クラッチ20及びそれを搭載した車両の製造コストを低減できる。
【0067】
2箇所のベアリング61,62でクラッチ20の両端を支持することで、クラッチ20に必要な剛性を確保できるので、各ベアリング61,62の小型化、軽量化を図ることができる。これにより、クラッチ20及び駆動力伝達機構2の小型化、軽量化を図ることができる。また、クラッチ20の両端を支持する第1、第2ベアリング61,62として、互いに同一構成のベアリングを使用できるので、使用する部品の種類を少なく抑えることができ、クラッチ20の低コスト化を図ることができる。
【0068】
エンドキャップ25にプレッシャーピストン26の抜け止め用のサークリップ27を取り付けたことで、アッセンブリ化したクラッチ20の構成部品を確実に一体化できる。これにより、クラッチ20の組付作業を行う際にクラッチ20の構成部品がバラバラになることを防止できるので、クラッチ20及び駆動力伝達機構2の組立作業性が向上する。
【0069】
第1、第2ベアリング61,62を予めアッセンブリ化したクラッチ20に組み付けておくようにしたことで、第1、第2ベアリング61,62を含めたクラッチ20の一体化(パック化)が可能となる。これにより、クラッチ20の各構成部品の芯出しが容易に行えるようになる。
【0070】
また、本実施形態のクラッチ20では、プレッシャーピストン26は、エンドキャップ25に対して軸方向にのみ相対移動可能に係合していることで、エンドキャップ25を介して第2ベアリング62に支持されている。この構成により、プレッシャーピストン26の芯出しが容易かつ確実に行われるので、プレッシャーピストン26で摩擦係合部23を摩擦材23a,23bの積層方向(軸方向)に沿って真直ぐに押せるようになる。したがって、クラッチ20にジャダーや異音が発生することを防止できる。
【0071】
また、本実施形態のクラッチ20では、エンドキャップ25は、クラッチハウジング21の開口部21aを塞ぐ板状の部材であり、プレッシャーピストン26に設けた突起状の押圧部26dがエンドキャップ25に設けた貫通孔25dを貫通してクラッチハウジング21内の摩擦係合部23を押圧するようになっている。したがって、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、エンドキャップ25に支持されたプレッシャーピストン26でクラッチハウジング21内の摩擦係合部23を押圧することができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 車両
2 駆動力伝達機構
3 エンジン(駆動源)
20 前後トルク配分用クラッチ(クラッチ)
21 クラッチハウジング
21a 開口部
21f 溝部
22 クラッチハブ
23 摩擦係合部
23a 圧力プレート(摩擦材)
23b 摩擦プレート(摩擦材)
24 エンドプレート
25 エンドキャップ(係止部材)
25d 貫通孔
25f 爪部
26 プレッシャーピストン(ピストン部材)
26d 押圧部
27 サークリップ(外れ防止具)
28 シム
31 シリンダハウジング
33 シリンダピストン
35 油室(ピストン室)
37 油路
38 パイプ部材
38a 油路穴
39 Oリング
41 第1回転軸
42 第2回転軸
44 終減速ドライブピニオン
45 終減速ドリブンギヤ
46 ディファレンシャル機構
53 後ケーシング
53a 合わせ面
53b 溝部
57 モータ
61 第1ベアリング
62 第2ベアリング
Wf,Wf 前輪(主駆動輪)
Wr,Wr 後輪(副駆動輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの駆動力が伝達される第1回転軸と、車両の副駆動輪側に繋がる第2回転軸との間に設けられて、前記駆動源からの駆動力を前記副駆動輪へ配分することで、車両の駆動状態を四輪駆動状態と二輪駆動状態とで切り替えるためクラッチ構造であって、
前記第1回転軸側に固定されたクラッチハウジングと、
前記クラッチハウジングの内周側で前記第2回転軸側に固定されたクラッチハブと、
前記クラッチハウジング内で該クラッチハウジングに固定された複数の摩擦材と、前記クラッチハブに固定された複数の摩擦材とが軸方向に沿って交互に積層された摩擦係合部と、
前記摩擦係合部を前記摩擦材の積層方向に押圧するピストン部材と、
前記クラッチハウジングの前記ピストン部材側の端部に固定されて、前記クラッチハウジング内の前記摩擦係合部を係止する係止部材と、を備えると共に、
前記クラッチハウジングの前記第1回転軸側の端部を回転可能に支持する第1ベアリングと、
前記係止部材を介して前記クラッチハウジングの前記第2回転軸側の端部を回転可能に支持する第2ベアリングと、を備える
ことを特徴とするクラッチ構造。
【請求項2】
前記ピストン部材は、前記係止部材に対して軸方向に相対移動可能に係合していることで、前記係止部材を介して前記第2ベアリングに支持されている
ことを特徴とする請求項1に記載のクラッチ構造。
【請求項3】
前記係止部材には、前記ピストン部材の係合が軸方向に外れることを防止するための外れ防止具が取り付けられている
ことを特徴とする請求項2に記載のクラッチ構造。
【請求項4】
前記クラッチハウジングの前記ピストン部材側の端部には、開口部が設けられており、
前記係止部材は、前記開口部を塞ぐ板状部材であり、
前記ピストン部材に設けた突起状の押圧部が前記係止部材に設けた貫通孔を貫通して前記クラッチハウジング内の前記摩擦係合部を押圧するように構成した
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のクラッチ構造。
【請求項5】
前記クラッチハウジングの前記ピストン部材側の端部には、円形の開口部が設けられており、
前記係止部材は、前記円形の開口部を塞ぐ円形の板状部材であり、
前記係止部材には、前記開口部に対する相対回転を防止するための爪部が形成されており、
前記開口部には、該爪部を係合させるための溝部が形成されており、
前記爪部は、前記係止部材の前記クラッチハウジングと反対側の面に設けられて該係止部材の外径側に突出する突起からなる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のクラッチ構造。
【請求項6】
前記ピストン部材に設けた突起状の押圧部が前記係止部材に設けた貫通孔を貫通して前記クラッチハウジング内の前記摩擦係合部を押圧するように構成した
ことを特徴とする請求項5に記載のクラッチ構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−219975(P2012−219975A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89127(P2011−89127)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】