説明

クラッドシート及びその製造方法

【課題】耐食性あるいはロウ付け性を有する合金粉末をシート状の基材に対して圧着する場合に、合金粉末を基材に対して確実に固着させる。
【解決手段】ステンレス鋼またはニッケル基合金からなるシート状の基材2に対して、少なくともクロム、シリコン、リンを含むクラッド層3が接合されたクラッドシートの製造方法であって、クラッド層3を形成する工程は、クロム、シリコン、リンのうち少なくともいずれかの物質を成分として含む合金粉末と、ニッケルからなるニッケル粉末とが混合された混合粉末を、上記基材2に対して圧着する圧着工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッドシート及びその製造方法に関するものであり、特に、ステンレス鋼からなるシート状の基材にクラッド層が接合されたクラッドシート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐食性を有するロウ材としては、特許文献1〜4に記載されているような合金粉末が知られている。このようなロウ材は、例えば、EGR(Exhaust Gas Recirculation)システムに用いられるEGRクーラにて金属材同士をロウ付けする材料等として、様々な場所におけるロウ付けに用いられている。
ところで、通常、上記ロウ材は、樹脂を含む接着剤とともに金属材のロウ付けする箇所にのみに塗布等により配置される。接着剤に含まれる樹脂は、炭素成分を含むため、加熱されることによって炭化しロウ付け部に残留することにより接合強度を低下させる。このため、ロウ付けの接合工程(真空熱処理)より前に、樹脂を除去する脱脂処理を行う必要があった。
また、接着剤を用いずにロウ材を配置する方法としては、アモルファスのロウ材シートをロウ付けする箇所に配置する方法もあるが、この場合には、切断加工処理や形状加工処理等のロウ材シートを配置箇所に応じて形状を合わせるための加工工程が必要となる。また、ロウ材シートは、湾曲部等の三次元曲面部に配置することが容易でないため、適用できるロウ付け箇所が限られ、金属材のロウ付け加工に制約が生じる場合がある。
【0003】
一方で、金属粉末をシート状の基材に対して圧着する圧延処理が知られている(特許文献5〜7参照)。このような圧延処理では、接着剤を用いることなく基材に対して金属粉末を付着させることができる。
【特許文献1】特許第3168158号公報
【特許文献2】特許第3017978号公報
【特許文献3】特開2000−218389号公報
【特許文献4】特開2000−218390号公報
【特許文献5】特開2004−25251号公報
【特許文献6】特開2004−82218号公報
【特許文献7】特開2005−186127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような圧延処理を応用することによって、接着剤を用いることなく合金粉末を金属材に圧着させることができれば、ロウ付けの接合工程における脱脂処理を省略したり、ロウ材シートを加工し接合箇所に配置する工程を省略することが可能となり、接合工程を短縮できたり、金属材の加工の自由度が高まる等のメリットが生じる。
しかしながら、耐食性を有するロウ材である上記合金粉末は非常に堅く、圧延ローラによって金属材に対して圧着させようとしても、金属材に対して固着させることが困難であった。この他にも、一般的に合金からなる粉末は非常に堅く、従来の圧延処理によって金属材に対して固着させることが困難であった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、耐食性あるいはロウ付け性を有する合金粉末をシート状の基材(金属材)に対して圧着する場合に、合金粉末を基材に対して確実に圧着させることを目的とする。
また、ロウ付けの接合工程における脱脂処理やロウ材シートの加工処理及び配置が省略可能で、かつ、耐食性及びロウ付け性を兼ね備えたクラッドシートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のクラッドシートの製造方法は、ステンレス鋼またはニッケル基合金からなるシート状の基材に対して、少なくともニッケル、クロム、シリコン、リンを含むクラッド層が接合されたクラッドシートの製造方法であって、前記クラッド層を形成する工程は、クロム、シリコン、リンのうち少なくともいずれかの物質を成分として含む合金粉末と、前記合金粉末を前記基材に対して圧着するためのバインダーとして機能するニッケル粉末とが混合された混合粉末を、前記基材に対して圧着する粉末圧延による圧着工程を有することを特徴とする。
【0007】
このような特徴を有する本発明のクラッドシートの製造方法によれば、クロム、シリコン、リンのうち少なくともいずれかの物質を成分として含む合金粉末と、ニッケルからなるニッケル粉末との混合粉末が、基材に対して圧着される。
クロムは、クラッドシートの耐食性を向上させるのに有効であり、シリコン及びリンはロウ付け性を向上させるのに有効である。このようなクロム、シリコン、リンのうち少なくともいずれかの物質を成分として含む合金粉末は、すなわち耐食性あるいはロウ付け性を有する合金粉末である。この合金粉末は延性が低いため、延性の高いニッケル粉末と混合し、ニッケル粉末をバインダーとして基材に対して圧着される。
なお、本発明において、少なくともクロム、シリコン、リンを含むクラッド層とは、クロム、シリコン、リンのいずれかあるいは複数を成分として含む合金相を有するものや、クロム、シリコン、リン単体の金属相を有するものを含むものである。
【0008】
また、本発明のクラッドシートの製造方法においては、上記混合粉末に上記ニッケル粉末が10重量%以上含まれているという構成を採用することができる。
【0009】
また、本発明のクラッドシートの製造方法においては、上記ニッケル粉末形状が、複数の突起を有するという構成を採用することができる。
【0010】
また、本発明のクラッドシートの製造方法においては、前記混合粉末の総和の組成比率は、クロムが13〜18重量%、シリコンが3〜4重量%、リンが4〜7重量%であり、残りがニッケル及び微量の不可避不純物であるという構成を採用することができる。
【0011】
また、本発明のクラッドシートの製造方法において、前記クラッド層を形成する工程では、上記圧着工程後にクラッドシートを加熱する加熱工程を有し、クラッド層を構成する圧着相のうち、溶融温度の低い金属粉を溶融させ、基材に対し該クラッド層を形成させるという構成を採用することができる。
また、上記構成を採用する場合には、本発明のクラッドシートの製造方法においては、上記合金粉末として、少なくともBNi−7のような融点が900℃以下の組成粉末を用いるという構成を採用することができる。
例えば、900℃でBNi−7粉末を溶融させ、クラッド層が形成されたクラッドシートでは、ニッケル相が存在しているため、延性を有しており、プレス成形等の塑性加工を容易に行うことができる。プレス成形等により3次元的に成形されたクラッドシートを用い、1000℃程度の温度でロウ付け処理を行うと、前記合粉末の総和の組成比率がクラッド層を構成する合金相の平均組成比率に近づき、耐食性が向上する効果を有する。
【0012】
次に、本発明のクラッドシートは、ステンレス鋼からなるシート状の基材と、該基材のいずれかの面あるいは両面全体に融着されるとともにニッケル、クロム、シリコン、リンを含む合金相及びニッケル相を有するクラッド層とを備えることを特徴とする。
【0013】
このような特徴を有する本発明のクラッドシートによれば、基材に対し、ニッケル、クロム、シリコン、リンのうち少なくともいずれかの物質を成分として含む金属相及びニッケル相を有する2種以上の金属相から構成されるクラッド層が融着し接合されているため、樹脂のような炭素成分を含んだ接着剤を用いる必要がない。
クロムは、クラッドシートの耐食性を向上させるのに有効な物質である。また、シリコン及びリンは融点を下げロウ付け性を向上させるのに有効な物質である。このためニッケル、クロム、シリコン、リンを含む合金相を有するクラッド層は、耐食性あるいはロウ付け性を有する。一方、ニッケル相は、延性の高い純金属であるニッケルからなる金属相である。このため、ニッケル相を有するクラッド層は、加工性に優れている。
【0014】
また、本発明のクラッドシートにおいては、前記金属相は、組成の異なる2種以上の金属相から成るという構成を採用することができる。
また、上記構成を採用する場合には、前記金属のうち1種は、前記ニッケル相よりも溶融温度が低く、例えば溶融温度が1150℃以下であるという構成を採用することができる。
【0015】
また、本発明のクラッドシートにおいては、前記クラッド層の全体の組成比率は、クロムが13〜18重量%、シリコンが3〜4重量%、リンが4〜7重量%であり、残りがニッケル及び不可避不純物であるという構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のクラッドシートの製造方法によれば、クロム、シリコン、リンのうち少なくともいずれかの物質を成分として含む合金粉末と、延性の高い純金属であるニッケルからなる金属粉末であるニッケル粉末との混合粉末が、基材に対して圧着される。このため、ニッケル粉末がバインダーとして機能し、合金粉末が基材に対して確実に固着される。
よって、本発明のクラッドシートの製造方法によれば、耐食性あるいはロウ付け性を有する合金粉末をシート状の基材に対して圧着する場合に、合金粉末を基材に対して確実に固着させることが可能となる。
【0017】
また、本発明のクラッドシートによれば、このような特徴を有する本発明のクラッドシートによれば、基材にニッケル、クロム、シリコン、リンを含む合金相及びニッケル相を有するクラッド層が融着、すなわち接着剤を用いずに接合されている。
つまり、本発明のクラッドシートは、耐食性及びロウ付け性を兼ね備えており、ロウ付けの接合工程における脱脂処理及びロウ付けシートを加工して配置する処理を省略することができる。
また、クラッド層が、延性の高いニッケル相を含んでいるため、ニッケル相を含まない場合と比較してクラッドシートの加工の自由度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係るクラッドシート及びその製造方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
図1は、本実施形態のクラッドシート1の斜視図である。また、図2は、本実施形態のクラッドシート1の拡大断面図である。この図に示すように、本実施形態のクラッドシート1は、基材となるシート状の金属板2と、該基材の両面全体に圧着されるクラッド層3とによって構成されている。
【0020】
金属板2は、SUS(ステンレス鋼)によって形成されており、好適にはSUS304、SUS316、SUS410あるいはSUS444によって形成される。また、クラッド層3は、ニッケル、クロム、シリコン、リンを含む合金相Y1と、ニッケル相Y2と、BNi−7(JIS規格:Z3265)が溶融した後に固化した合金相Y3(溶融温度が最も低い相)とから構成されている。
なお、クラッド層3には、ニッケル、クロム、シリコン、リンの他、不可避不純物(不図示)が含まれている。
【0021】
合金相Y1は、クロム、シリコン及びリンを成分として含み、かつ、残部がニッケルによって形成された合金粉末が部分的に溶融することによって形成される相である。
クロムは、クラッドシート1の耐食性を向上させるのに有効な物質である。また、シリコン及びリンは、クラッドシート1のロウ付け性を向上させるのに有効な物質である。このようなクロム、シリコン、リンを成分として含む合金相Y1がクラッド層3に存在することによって、本実施形態のクラッドシート1は、耐食性及びロウ付け性を兼ね備えたものとなる。
【0022】
ニッケル相Y2は、延性の高い純金属であるニッケルからなる金属粉末の一部が溶融されることによって形成される相である。このような延性の高い純金属であるニッケルからなる相がクラッド層3に存在することによって、本実施形態のクラッドシート1は、プレスや曲げ等の加工の自由度が高いものとなる。
【0023】
合金相Y3は、上述のように、BNi−7が溶融することによって形成されるものであり、合金相Y1、ニッケル相Y2の間に充填されている。そして、合金相Y3の融点は、合金相Y1及びニッケル相Y2と比較して最も低く、1150°以下であることが好ましい。このような合金相Y3が溶融されることによって、基材である金属板2とクラッド層3とが融着されている。すなわち、本実施形態のクラッドシート1においては、金属板2とクラッド層3とが接着剤を必要とすることなく接合されている。
なお、BNi−7は、周知のように、JIS規格(Z3265;ニッケルロウ)で規定されている13〜15重量%程度のクロムと9.7〜10.5重量%程度のリンを含むニッケル基合金である。
【0024】
このように、クラッド層3は、クロム、シリコン及びリンを成分として含み、かつ、残部がニッケルによって形成された合金粉末が部分的に溶融することによって形成される合金相Y1と、BNi−7(合金)が溶融することによって形成される合金相Y3とを備えている。すなわち、クラッド層3は、組成の異なる2つの合金相を備えている。
【0025】
また、クラッド層3全体を平均化して得られるクラッド層3の組成比率は、クロムが13重量%、シリコンが4重量%、リンが6重量%で、残部がニッケル及び不可避不純物となっている。
【0026】
このように構成された本実施形態のクラッドシート1は、クラッド層3に13重量%のクロムが含まれている。そして、クラッド層3が金属板2の両面全体に形成されている。このため、クラッド層3が耐食性を発揮し、クラッドシート1そのものが腐食することを防止する。
また、本実施形態のクラッドシート1は、クラッド層3に4重量%のシリコンと、6量%のリンが含まれている。このため、クラッド層3は、十分なロウ材強度を有するとともに低温でのロウ付けが可能なものとなっている。すなわち、クラッド層3は、優れたロウ付け性を有している。
つまり、本実施形態のクラッドシート1は、耐食性及びロウ付け性を兼ね備えたものである。よって、別途ロウ材シート等を配置する必要はなく、ロウ付けシートを加工して配置する処理を省略することができる。
【0027】
さらに、本実施形態のクラッドシート1においては、延性の高いニッケル相Y2がクラッド層3に存在している。このため、本実施形態のクラッド層3は、例えば、上述のニッケル、クロム、シリコン、リン及び不可避不純物が同一の組成比率にて均一に混ぜ合わされたクラッド層と比較して軟化される。このため、本実施形態のクラッドシート1は、加工の自由度が高いものとなる。
【0028】
また、本実施形態のクラッドシート1においては、クラッド層3が基材となる金属板2に対して融着されている。すなわち、接着剤を用いることなく金属板2とクラッド層3とが接合されている。
このため、本実施形態のクラッドシート1をロウ付けする際の接合工程において脱脂処理を省略することができる。
【0029】
また、本実施形態のクラッドシート1においては、上述のように、クラッド層3が金属板2の両面全体に形成されている。このため、クラッドシート1全体が耐食性を備えたものとなっている。従来は、金属板のロウ付け箇所のみにロウ材が付着形成あるいはロウ材シートが配置されるため、ロウ材が付着形成されていない部分あるいはロウ材シートが配置されていない部分の耐食性を確保するために、金属板自体の厚みを厚くしていた。これに対して本実施形態のクラッドシート1は全体が耐食性を有しているため、金属板自体の厚みを抑えることができる。よって、例えば、クラッドシート1を用いて製造される装置等を小型かつ軽量化することができる。
【0030】
次に、クラッドシート1の製造方法について説明する。
【0031】
図4は、クラッドシート1の製造装置の概略構成を示した模式図である。この図に示すように、製造装置は、圧延ローラ10A,10B、ベルトフィーダ20A,20B及び加熱炉30備えている。
【0032】
圧延ローラ10A,10Bは、互いの周面が所定間隔を隔てて平行対峙するように配置されており、その間に上記金属板2が上方から下方に向けて介挿されるようになっている。
ベルトフィーダ20A,20Bは、圧延ローラ10A,10Bの上方に設置されている。ベルトフィーダ20Aは、圧延ローラ10Aの上方に設置されており、圧延ローラ10Aの周面上に混合粉末Fを供給するものである。また、ベルトフィーダ20Bは、圧延ローラ10Bの上方に設置されており、圧延ローラ10Bの周面上に混合粉末Fを供給するものである。
加熱炉30は、圧延ローラ10A,10Bの下方に設置されており、圧延ローラ10A,10Bから送出された金属板2を、後述するBNi−7粉末の融点近傍の温度で加熱するものである。
【0033】
ベルトフィーダ20A,20Bから圧延ローラ10A,10Bに供給される混合粉末Fは、合金粉末F1とニッケル粉末F2とシリコン粉末F3と、BNi−7粉末F4とが混合されたものである。
【0034】
合金粉末F1は、クロムを29重量%、シリコンを4重量%及びリンを6重量%成分として含み、かつ、残部がニッケルによって形成されている。この合金粉末F1は、延性の低い金属粉末であり、例えばガスアトマイズ法によって形成されたものである。この合金粉末F1には、上述のようにクロム、シリコン、リンが成分として含まれている。
【0035】
ニッケル粉末F2は、延性の高い純金属であるニッケルからなる金属粉末であり、合金粉末F1を金属板2に対して圧着させるためのバインダーとて機能するものである。ニッケル粉末F2は、図3に示すように、例えば、複数の突起を有したカーボニルNi粉が好ましい。このような形状のニッケル粉末F2を用いることによって、突起部分によりニッケル粉末F2と合金粉末F1との接着性が向上し、より強固に合金粉末F1を金属板2に対して圧着させることができる。このようなニッケル粉末F2は、混合粉末Fに10重量%以上含まれている。
【0036】
シリコン粉末F3は、シリコンからなる金属粉末で、クラッド層3の成分比率を調整するため、すなわちクラッド層3に含まれるシリコンを増加させるために加えられるものである。
【0037】
なお、混合粉末の総和の組成比率は、上述したクラッド層3全体の組成比率と同一であり、クロムが13重量%、シリコンが4重量%、リンが6重量%で、残部がニッケル及び不可避不純物となっている。
【0038】
そして、上述のように構成された製造装置において、混合粉末Fは、ベルトフィーダ20A,20Bから各圧延ローラ10A,10Bの周面上に供給される。各圧延ローラ10A,10Bの周面上に供給された混合粉末Fは、圧延ローラ10A,10Bのさらなる回転によって金属板2の各面に圧延(圧着)される。すなわち、圧延ローラ10A,10Bによって、混合粉末Fを金属板2に対して圧着する圧着工程が行われる。
ここで、本実施形態においては、混合粉末Fにニッケル粉末F2が含まれている。このため、圧延ローラ10A,10Bによって圧延されることによってニッケル粉末F2が変形して、合金粉末F1を金属板2に対して固着するためのバインダーとして機能する。よって、従来のように樹脂が含まれた接着剤を用いることなく、クロム、シリコン及びリンを成分として含む合金粉末F1を金属板2に対して圧着することができる。
【0039】
続いて、両面全体に混合粉末Fが圧着された金属板2は、加熱炉30においてBNi−7粉末F4の融点近傍の温度にて加熱される。この加熱によって、融点の最も低いBNi−7粉末F4が溶融する。
なお、BNi−7粉末が溶融されることによって合金粉末F1、ニッケル粉末F2は部分的に溶融する。またシリコン粉末F3はBNi−7粉末の溶融に伴って溶融する。このように各粉末F1〜F4が溶融された後、冷却することによって、図2に示すように、合金相Y1、ニッケル相Y2及び合金相Y3を有するクラッド層3が形成される。
なお、クラッドシート1はロウ付けの際に再加熱(真空熱処理)され、複数の金属相から構成されているクラッド層は均一化される方向に進む。
【0040】
以上の工程によって、図1及び図2において示した、本実施形態のクラッドシート1が製造される。
このような本実施形態のクラッドシート1の製造方法によれば、耐食性及びロウ付け性を発揮する合金粉末F1と、延性して接着性を発揮するニッケル粉末F2とが混合された混合粉末Fが金属板2に対して圧着される。したがって、耐食性及びロウ付け性を有する合金粉末F1を金属板2に対して圧着する場合に、合金粉末F1を金属板2に対して確実に固着させることが可能となる。
【0041】
また、本実施形態のクラッドシート1の製造方法においては、混合粉末Fにニッケル粉末F2が10重量%以上含まれている。このような場合には、合金粉末F1が金属板2に対して良好に固着する。このため、本実施形態のクラッドシート1の製造方法によれば、合金粉末F1を良好に金属板2に対して固着させることができる。
【0042】
また、本実施形態のクラッドシート1の製造方法においては、ニッケル粉末F2が例えば、複数の突起を有したカーボニルNi粉であるため、突起部分によりニッケル粉末F2と合金粉末F1との接着性が向上し、より強固に合金粉末F1を金属板2に対して固着させることができる。このように、より強固に合金粉末F1を金属板2に対して固着させることによって、混合粉末Fが金属板2から剥離することをより抑制することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態のクラッドシート1の製造方法においては、BNi−7粉末F4を溶融することによってクラッド層3を形成している。このBNi−7粉末は、融点(900℃程度)が低い。このため、加熱温度を900℃程度に抑えることができ、クロムやシリコンや酸化してしまうことを抑制することができる。
【0044】
そして、このようなクラッドシートの製造方法では、溶融温度の低い粉末(BNi−7粉末F4)のみを溶かしてクラッド層を形成したため、クラッド層には、ニッケル相が分散して存在した状態となっている。その結果、本実施形態のクラッドシートの製造方法にて製造されたクラッドシート1は、クラッド層が延性を有し、プレス成形や曲げ成形等の塑性加工を行うことができ、クラッド層の剥離または脱落が無い状態で、3次元形状等の複雑な形状に成形することができる。
また、製造方法によって製造された本実施形態のクラッドシート1は、ロウ付け時に再加熱されることにより、クラッド層の組成の不均一状態(ニッケル相が分散しており、組成は均一ではない)が解消され、組成が均一化されることにより、ニッケル相の存在比率は減少し、合金化が進行して耐食性が向上する。また、ニッケル相の存在比率が減少することにより、延性は低下するが強度が向上するという特徴をもつ。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係るクラッドシート及びその製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態においては、クラッド層3及び混合粉末Fにおける組成比率が、クロムが13重量%、シリコンが4重量%、リンが6重量%で、残部がニッケルであるとして説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、クロムについては、クラッド層3及び混合粉末Fに13〜18重量%含まれていれば、クラッド層3が特に良好な耐食性を発揮する。また、シリコンについては、クラッド層3及び混合粉末Fに3〜4重量%、リンについては、クラッド層3及び混合粉末Fに4〜7重量%含まれていれば、クラッド層3が特に良好なロウ付け性を発揮する。このため、上記範囲内に各成分が収まるように組成を変化させるのは任意である。一例としては、混合粉末Fを、20重量%の合金粉末F1と、30重量%のニッケル粉末F2と、シリコン粉末F3と、40重量%のBNi−7粉末F4と、7重量%のクロム粉末とによって構成することもできる。この場合には、クラッド層3及び混合粉末Fの組成比率は、クロムが19重量%、シリコンが5重量%、リンが5重量%で、残部がニッケルとなる。そして、このような場合であっても、上記実施形態のクラッドシート1及びその製造方法と同様の効果を奏することができる。
また、上記実施形態においては、3種の粉末を混合することによって混合粉末Fとした。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば2種の粉末を混合して混合粉末として用いても良い。このような場合には、ニッケル粉末と、溶融温度が1150℃以下の金属粉末(例えば、溶融温度900℃以下のBNi−7粉末)とを混合することによって、所定の組成比率の混合粉末とする。
なお、上記実施形態では、混合粉末Fに含まれる粉末のうち最も融点が低いものはBNi−7粉末F4であったため、加熱炉30における加熱温度をBNi−7粉末F4の融点に合わせた。しかしながら、混合粉末がさらに融点の低い粉末を含んでいる場合には、加熱炉30における加熱温度は、最も融点が低い粉末に合わせる。
【0047】
また、上記実施形態においては、金属板2の両面にクラッド層3が形成されているものとして説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、金属板2のいずれか片面にのみクラッド層3が形成されていても良い。
【0048】
また、上記実施形態において、製造装置は、ベルトフィーダ20A,20Bを用いて混合粉末Fを圧延ローラ10A,10Bに供給した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、混合粉末Fを圧延ローラ10A,10Bに定量供給できるものであれば良い。例えば、ベルトフィーダ20A,20Bの替わりに、スクリューフィーダやロールフィーダを用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態のクラッドシートの斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態のクラッドシートの拡大断面図である。
【図3】ニッケル粉末の形状を説明するための模式図である。
【図4】本発明の一実施形態のクラッドシートを製造するための製造装置の概略構成を示した模式図である。
【符号の説明】
【0050】
1……クラッドシート、2……金属板(基材)、3……クラッド層、F……混合粉末、F1……合金粉末、F2……ニッケル粉末、F3……シリコン粉末、F4……BNi−7粉末、Y1……合金相、Y2……ニッケル相、Y3……合金相(溶融温度が最も低い相)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼またはニッケル基合金からなるシート状の基材に対して、少なくともニッケル、クロム、シリコン、リンを含むクラッド層が接合されたクラッドシートの製造方法であって、
前記クラッド層を形成する工程は、クロム、シリコン、リンのうち少なくともいずれかの物質を成分として含む合金粉末と、前記合金粉末を前記基材に対して圧着するためのバインダーとして機能するニッケル粉末とが混合された混合粉末を、前記基材に対して圧着する圧着工程を有することを特徴とするクラッドシートの製造方法。
【請求項2】
前記混合粉末に前記ニッケル粉末が10重量%以上含まれていることを特徴とする請求項1記載のクラッドシートの製造方法。
【請求項3】
前記ニッケル粉末形状は、複数の突起を有することを特徴とする請求項1または2記載のクラッドシートの製造方法。
【請求項4】
前記混合粉末の総和の組成比率は、クロムが13〜18重量%、シリコンが3〜4重量%、リンが4〜7重量%であり、残りがニッケル及び不可避不純物であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のクラッドシートの製造方法。
【請求項5】
前記クラッド層を形成する工程は、前記圧着工程後にクラッドシートを加熱する加熱工程を有することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のクラッドシートの製造方法。
【請求項6】
前記合金粉末として、少なくともBNi−7相当組成粉末を用いることを特徴とする請求項5記載のクラッドシートの製造方法。
【請求項7】
ステンレス鋼またはニッケル基合金からなるシート状の基材と、
該基材のいずれかの面あるいは両面全体に融着されるとともにニッケル、クロム、シリコン、リンのうち少なくともいずれかの物質を成分として含む合金相及びニッケル相を有するクラッド層と
を備えることを特徴とするクラッドシート。
【請求項8】
前記合金相は、組成の異なる2種以上の金属相から成ることを特徴とする請求項7記載のクラッドシート。
【請求項9】
前記金属相のうちの1種は、前記ニッケル相よりも溶融温度が低いことを特徴とする請求項8記載のクラッドシート。
【請求項10】
前記クラッド層の全体の組成比率は、クロムが13〜18重量%、シリコンが3〜4重量%、リンが4〜7重量%であり、残りがニッケル及び不可避不純物であることを特徴とする請求項7〜9いずれかに記載のクラッドシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−272763(P2008−272763A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115490(P2007−115490)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】