説明

クラッド管の製造方法

【課題】クラッド管の有利な製造方法を提供すること、また、外皮材の接合部における健全性を高め、耐食性や強度を向上せしめた、皮材の厚さが均一なクラッド管を安定して得ること。
【解決手段】円筒状の芯材2の外周面に、芯材2とは材質の異なる板材を円筒状に曲げ加工して得られた、軸方向に延びる突合せ部6の存在によって不連続円筒形状を呈する筒状外皮材4を被せ、かかる突合せ部6に沿って、摩擦撹拌接合することによって、複合ビレット10を製作した後、その得られた複合ビレット10をマンドレル押出しすることにより、異なる材質からなる層として、芯材2の押出層にて構成される筒状コア層と外被材4の押出層にて構成される筒状外皮層とが一体的に積層、形成された、目的とする外径を有するクラッド管を形成せしめるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッド管の製造方法に係り、特に、円筒状の芯材と、その外周面を覆うように配された、該芯材とは異なる材質の筒状の外皮材とからなる中空の複合ビレットを、マンドレル押出しすることにより、異なる材質からなる層が径方向に圧着、積層されて、一体化せしめられてなるクラッド管、中でも、自動車用熱交換器の配管等に好適に用いられ得るアルミニウム合金製のクラッド管を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種のクラッド管は、その外面や内面を異なる材質として、管強度を確保しつつ、それぞれの特徴を発揮せしめることにより、その使用環境下における耐久性等の性能向上等を図るべく、外皮層と芯材層からなる二層構造において、また外皮層と芯材層と内皮層からなる三層構造において、開発されてきており、例えば、その一つの用途である自動車の熱交換器用配管においては、芯材として、配管の強度等の観点から、A3004等のアルミニウム合金材料が用いられる一方、皮材として、耐食性に優れるA1050等の純アルミニウム系のアルミニウム材料が、用いられて来ている。
【0003】
ところで、そのようなクラッド管の製造には、その最も単純な手法として、外径の異なる複数の素管を互いに同軸的に嵌め込み、径方向に重ね合わせた構造の複合管とする方法の採用が考えられるが、そのような方法にあっては、嵌め込まれた素管間に、必然的にクリアランスが存在することとなり、一体的な積層構造のクラッド管を形成することが期待され得ないところから、特許文献1〜3においては、大径の外側ビレット筒体に、小径の内側ビレット筒体を、同心的に嵌め込んでなる複合ビレットを作製し、そしてそれを熱間押出法にて押出成形することにより、目的とするクラッド管を製造することが、明らかにされている。
【0004】
しかしながら、そのような複合ビレットを用いたクラッド管の製造においては、かかる複合ビレットをそれぞれ構成する外側ビレット筒体や内側ビレット筒体が、何れも、鋳造品を用いて、それを必要に応じて鍛造成形した後、機械加工により孔明けして、作製されるものであるところから、工数が多く且つ材料歩留りが低いことに加えて、その作業が複雑で面倒であって、その製作コストが増大するという問題が内在している。また、そのような複合ビレットの作製方法に代えて、それぞれのビレット筒体部分を順次遠心鋳造によって形成し、目的とする複合ビレットを形成する手法も明らかにされているが(特許文献3)、この手法にあっても、その作業は複雑で、面倒なものであって、複合ビレットの作製方法として、実用的なものではなかったのである。更に、それら外側ビレット筒体と内側ビレット筒体とを嵌合して得られる複合ビレットに対して、熱間等方加圧(HIP)を施して、それらビレット筒体の接触面間に冶金に結合を生じさせることも明らかにされているが(特許文献2)、その場合には、HIPのための大型の装置が必要となり、これによっても、製作コストが上昇することとなっている。
【0005】
一方、近年、摩擦熱を利用した固相接合方法の一つとして、摩擦撹拌接合法が、注目を受けており、板状材料の突合せ部や重ね合せ部の接合のみならず、パイプ状やロッド状を呈する材料の接合に際しても、その採用が検討されている。この摩擦撹拌接合法は、回転工具のロッド状のプローブを、接合されるべき材料の突合せ部等に、回転しつつ挿入することにより、摩擦熱を発生せしめて、材料を塑性流動させ、目的とする材料の接合を行うようにすることを、その原理とするものであって、材料を溶かすことなく接合する技術であるところから、アーク溶接の如き、ブローホールや高温割れ、アンダーカット等の欠陥が生じないという特徴を有していることが、認められている。そして、このような摩擦撹拌接合法を用いて、クラッド材を製造する一つの手法が、特許文献4に明らかにされているが、そこでは、単に、板状の金属板材を重ね合わせて、その重ね合せ面の一方の側から回転工具のプローブを挿し込み、摩擦撹拌接合するようにした手法を採用しているに過ぎないものであって、中空管状のクラッド管を、摩擦撹拌接合法を利用して、有利に製造する具体的手法については、何等明らかにしてはいない。
【0006】
【特許文献1】特開平2−258903号公報
【特許文献2】特表2005−506200号公報
【特許文献3】米国特許第5558150号明細書
【特許文献4】特開2005−205449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、クラッド管の有利な製造方法を提供することにあり、また、他の課題とするところは、外皮材の接合部における健全性を高め、耐食性や強度等の特性を向上せしめた、皮材の厚さが均一なクラッド管を安定して得ることの出来る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、上記した課題を解決するために、異なる材質からなる層が径方向に圧着、積層されて、一体化せしめられてなる構造を有するクラッド管を製造する方法にして、円筒状の芯材の外周面に、該芯材とは材質の異なる所定の板材を円筒状に曲げ加工して得られた、軸方向に延びる突合せ部の存在によって不連続円筒形状を呈する筒状外皮材を被せ、かかる突合せ部を、該突合せ部に沿って、摩擦撹拌接合することによって、中空の複合ビレットを製作した後、その得られた複合ビレットをマンドレル押出しすることにより、前記異なる材質からなる層として、前記円筒状芯材の押出層にて構成される筒状コア層と前記筒状外皮材の押出層にて構成される筒状外皮層とが一体的に形成された、目的とする外径を有するクラッド管を形成せしめることを特徴とするクラッド管の製造方法を、その要旨とするものである。
【0009】
なお、かかる本発明に従うクラッド管の製造方法の望ましい態様の一つによれば、前記摩擦撹拌接合操作によって前記突合せ部に形成される摩擦撹拌接合部の深さ(d)が、前記筒状外皮層を与える板材の厚さ(t)に対して、1.0t以上、1.5t以下となるように、かかる摩擦撹拌接合操作が実施されることとなる。これにより、外皮材(筒状加工材)を芯材に対して効果的に固定せしめ得て、それらの間のズレを有利に防止することが出来るのである。
【0010】
また、本発明に従うクラッド管の製造方法の望ましい態様の他の一つによれば、前記複合ビレットが、それを構成する前記円筒状の芯材の内周面に接するように配された、前記クラッド管の最内層を与えるパイプ状内皮材を有していると共に、それら円筒状芯材とパイプ状内皮材との接触面が、該複合ビレットの押出頭部側の軸方向端面において周方向に連続的に若しくはスポット的に摩擦撹拌接合せしめられている構成が採用され、これによって、クラッド管が三層構造とされて、その内面の特性が、内皮材の選択によって有利に向上せしめられ得ることとなるのである。
【0011】
さらに、本発明の他の望ましい態様によれば、前記複合ビレットの押出頭部側において、前記円筒状芯材よりも前記筒状外皮材が軸方向外方に突出させられて、段差部が形成されている一方、かかる段差部に、該筒状外皮材と同質材のドーナツ板が嵌め込まれて、該ドーナツ板と該筒状外皮材との間の接触面が、周方向に連続的に若しくはスポット的に摩擦撹拌接合されている構成が、採用される。このように、芯材と外皮材とを含んで構成される複合ビレットの頭部に、外皮材を与える筒状加工材と同材質のドーナツ板が固定されていることによって、マンドレル押出しして得られるクラッド管において、その押出し初期における外皮材の厚さの均一化がより迅速に為され得ることとなるのであり、以て、そのようなクラッド管における押出し初期の部位に対する切除部分の効果的な低減を図ることが、可能となる。
【0012】
加えて、かかる本発明の他の望ましい態様の別の一つによれば、前記複合ビレットが、それを構成する前記円筒状の芯材の内周面に接するように配された、前記クラッド管の最内層を与えるパイプ状内皮材を有していると共に、該パイプ状内皮材が前記筒状外皮材と同様に軸方向外方に突出せしめられて、それら筒状外皮材とパイプ状内皮材の突出部位間に、円環形状を呈する収容凹所が、前記円筒状芯材の押出頭部側の端面に位置するように形成される一方、かかる収容凹所に、前記ドーナツ板が嵌め込まれて、該ドーナツ板と該筒状外皮材との間及び該ドーナツ板と該パイプ状内皮材との間の接触面が、それぞれ、周方向に連続的に若しくはスポット的に摩擦撹拌接合されている構成が、採用される。これによって、外皮材層、芯材層、内皮材層の三層構造からなるクラッド管が、押出し初期から有利に形成され得るのである。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従うクラッド管の製造方法によれば、マンドレル押出しに供される複合ビレットを構成する筒状外皮材が、圧延等によって容易に製造され得る所定の板材を用い、それを円筒状に曲げ加工することにより、簡単に得られることとなり、そして、その突合せ部を摩擦撹拌接合することによって、一体の筒状外皮材と為し得るところから、従来の如き鋳造品に機械加工を施して、その内外径を目的とするサイズに調節することにより、目的とする外皮材(外側ビレット筒体)を得る場合に比して、その製造工程は、極めて簡単となるのであって、これにより、製造コスト的にも、その低減を有利に図り得ることとなる。
【0014】
そして、本発明にあっては、そのような筒状外皮材の突合せ部が、摩擦撹拌接合にて接合されて、円筒状芯材の外周面に一体的な円筒体として有利に形成されるものであって、例えば、接合手段の一つとしてよく知られているMIG溶接やTIG溶接の如きアーク溶接を採用する場合とは異なり、接合部における割れの発生や歪みの出現がなく、またブローホールや融合不良等の問題の発生が悉く回避され得ることに加えて、アンダーフィルやアンダーカット等の欠陥の発生も惹起されることがないところから、そのような複合ビレットをマンドレル押出しして得られるクラッド管にあっては、その外皮層の厚さのばらつきの抑制乃至は防止が、効果的に図られ得、更には、接合部の健全化による強度等の特性の向上をも有利に達成され得るのである。
【0015】
しかも、そのようなクラッド管の筒状外皮層を与える板材を曲げ加工して得られた筒状外皮材の突合せ部を摩擦撹拌接合して形成される接合部は、最大0.5%程度まで縮むものであるところから、接合前に、筒状外皮材と芯材との間に或る程度のクリアランスが存在していても、摩擦撹拌接合により、かかる筒状外皮材が接合されて、一体の円筒体とされた後には、それら外皮材(円筒体)と芯材とが密着して、寸法精度の良い複合ビレットを得ることが出来ることとなるのである。
【0016】
また、本発明によれば、筒状外皮材の突合せ部を摩擦撹拌接合すべく、そこに、回転工具のプローブを挿し込み、その高速回転によって摩擦発熱させて、そこに摩擦撹拌領域を形成しても、アーク溶接のように、上下の材料の撹拌が行われることは殆どないところから、外皮表面まで芯材の成分が達することはなく、そのために、芯材成分が接合部の表面に存在することによって惹起される耐食性等の物性の低下の問題も解消され、優れた耐食性等の物性を有するものと為し得ると共に、溶加材も不要となるために、そのような溶加材の成分の混入の心配も全く顧慮する必要もなくなったのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0018】
ここにおいて、異なる材質からなる層が径方向に圧着、積層されて、一体化せしめられてなる構造を有するクラッド管を製造するに際して、本発明にあっては、先ず、図1〜図2に例示の如き複合ビレット10が、製作されることとなるのである。
【0019】
すなわち、それらの図において、円筒状の芯材2を準備すると共に、かかる芯材2とは材質の異なる所定の板材を、通常の圧延材料等を用いて、従来と同様にして、その対向する両端部を突き合わせるようにして円筒状に曲げ加工することにより、突合せ部6が軸方向に延びる不連続円筒形状を呈する筒状外皮材4が、準備される。ここで、それら芯材2や外皮材4は、何れも、共に押出し加工の可能な材質からなるものであって、目的とするクラッド管の目的や用途等に応じて、各種金属材質の組合せが採用されることとなるが、一般に、同一の金属系、例えば、アルミニウム系で、その合金成分の異なるものの組合せが好適に採用され、また、それら芯材2や外皮材4のサイズや厚さ(壁厚)にあっても、後述する押出し加工によって、目的とするクラッド管を与え得るサイズや厚さが、適宜に選定されることとなる。
【0020】
そして、図1に示される円筒状の芯材2と筒状外皮材4とは、かかる芯材2の外周面に筒状外皮材4を被せるようにして、組み付けられた後、換言すれば、筒状外皮材4の内孔内に芯材2を挿入、位置せしめた状態において、図2(a)に示される如く、筒状外皮材4の突合せ部6に対して、公知の摩擦撹拌接合操作が実施されるのである。この摩擦撹拌接合操作は、よく知られているように、軸心回りに高速回転せしめられる回転工具8を用い、その先端部に同軸的に設けられたロッド状のプローブ8aを回転させつつ、筒状外皮材4の突合せ部6に挿し込み、かかるプローブ8aと共に、回転工具8本体の先端面となるショルダ面の当接によって、筒状外皮材4の突合せ部6周辺部位を摩擦発熱させて、材料を塑性流動せしめ、摩擦撹拌領域12を形成して、かかる筒状外皮材4の突合せ部6の接合を実現するのである。なお、このような摩擦撹拌接合操作に際しては、図2(a)には図示されていないが、適当な拘束治具により、筒状外皮材4が、従来と同様に位置固定に拘束されて、その接合操作が進行せしめられるようになっている。
【0021】
また、かかる摩擦撹拌接合操作が、筒状外皮材4の突合せ部6に沿って実施されることにより、筒状外皮材4における突合せ部6が、その略全長に亘って接合せしめられることとなるのであり、これによって、一体的な円筒体の外皮材(4)として、円筒状の芯材2の外周面上に、形成されてなる複合ビレット10が、得られることとなるのである。即ち、そのような複合ビレット10は、図2(b)に、その横断面が示されているように、筒状外皮材4の突合せ部6を含む領域に前記した回転工具8を用いた摩擦撹拌接合操作によって形成される摩擦撹拌領域12が、接合部となって、不連続円筒形状を呈する筒状外皮材4が一体的な円筒体形状として構成されることとなるのであり、以て、二重の円筒体構造の複合ビレット10が、得られるのである。
【0022】
しかも、そのような摩擦撹拌接合操作によって接合された筒状外皮材4は、その接合部(12)において、周方向に縮み、従って径方向においても、縮むようになるところから、摩擦撹拌接合操作開始前に芯材2と外皮材4との間にクリアランスが存在していても、そのような接合操作の後においては、芯材2と外皮材4とが密着するようになって、それら芯材2と外皮材4との一体化がより高められた複合ビレット10が、得られることとなるのである。
【0023】
また、かかる摩擦撹拌接合操作においては、回転工具8のプローブ8aの先端部が、芯材2に達するように挿し込まれて、摩擦撹拌接合操作が実施されることが望ましく、これによって、有利には、摩擦撹拌領域12にて与えられる摩擦撹拌接合部の深さ(d)が、筒状外皮材4を構成する板材の厚さ(t)に対して、1.0t以上、1.5t以下となるように、摩擦撹拌接合操作を行うようにすることによって、それら芯材2と外皮材4とのより一層有効な一体化が行われることとなる。なお、回転工具8におけるプローブ8aの先端部を、芯材2に余りにも深く挿し込み過ぎて、摩擦撹拌接合部(12)の深さ(d)が、板材の厚さ(t)の1.5倍を越えるようになると、芯材2の材質が、摩擦撹拌接合部(12)の表面に現われて、クラッド管の耐食性の低下等の問題を惹起する恐れが生じるようになる。
【0024】
かくして、複合ビレット10は、それを構成する筒状外皮材4として、従来の如き鋳造材ではなく、単なる圧延材等からなる板材を用いて、それを曲げ加工し、そして摩擦撹拌接合したものを使用することにより、製造されることとなるところから、少なくとも面倒な機械加工が必要でなくなり、従って、そのような筒状外皮材4の製造が容易となる他、材料歩留りも効果的に向上され得て、製造コストも有利に低減され得るのである。しかも、摩擦撹拌接合によって、芯材2と筒状外皮材4とが有利に一体化された複合ビレット10として形成されることとなるところから、そのような複合ビレット10には、何等の加工を施すことなく、そのまま、マンドレル押出し操作に供することが出来る特徴がある。
【0025】
次いで、かくして得られた複合ビレット10には、従来からよく知られている、フローティング・マンドレル法やフィックス・マンドレル法によるマンドレル押出しが実施されて、目的とする外径を有するクラッド管が形成せしめられることとなるのであるが、そのようなマンドレル押出しの一例が、図3に示されている。即ち、図3は、フローティング・マンドレル法によるマンドレル押出しの一例を示しており、そこにおいて、複合ビレット10は、図3(a)に示されるように、ダイ14を配置したコンテナ16のコンテナ孔内に収容された後、後方に配置されたマンドレル18が、複合ビレット10の内孔10a内に挿し込まれる一方、複合ビレット10の後端となる押出し尾部に押し盤20を当接して、ステム22にて押圧せしめることにより、図3(b)に示される如く、ダイ14の成形開口を通じて押し出され、以て、円筒状芯材2の押出層にて構成される筒状コア層24と筒状外皮材4の押出層にて構成される筒状外皮層26とが一体的に密着、積層されてなる構造のクラッド管26が、形成されるのである。
【0026】
従って、かかるマンドレル押出しにより得られたクラッド管28は、図4に、その横断面が示されている如く、円筒状芯材2の押出層にて構成される筒状コア層24と筒状外皮材4の押出層にて構成される筒状外皮層26にて構成される、異なる材質からなる二つの層が径方向に一体的に圧着、積層されてなる構造を有していると共に、押出しに供される複合ビレット10における筒状外皮材4の接合部(12)には、アンダーフィルやアンダーカット等の部位が存在せず、また、アーク溶接等にて惹起せしめられる如き大きな凹凸部も存在するものではないところから、得られる押出し製品たるクラッド管28においては、その筒状外皮層26の厚さが有利に均一化されることとなるのであり、そして、そのような構成層の厚さが均一なクラッド管28を安定して得ることが出来るのである。
【0027】
また、かかる複合ビレット10における筒状外皮材4の接合部(12)には、その表面まで芯材2の成分が現出するようなことがなく、また、アーク溶接にて用いられている如き溶加材の成分の混入の心配もないところから、そのような複合ビレット10からマンドレル押出しして得られるクラッド管28にあっても、その筒状外皮層26における接合部(12)相当部位の表面にも、芯材成分や溶加材成分が現われ出るようなことがないのであり、それ故に、それら芯材成分、溶加材成分の混入、そして現出によって惹起される如き物性の低下、例えば、耐食性の低下等の問題が惹起されるようなことも、有利に回避され得ることとなるのである。
【0028】
ところで、本発明に従って、マンドレル押出しされる複合ビレットとしては、上例の如き複合ビレット10の他に、図5に示されるような、三層構造の複合ビレット30の採用も、可能である。即ち、この複合ビレット30においては、円筒状の芯材2の外周面には、前例と同様に、筒状外皮材4の突合せ部6が摩擦撹拌接合されて、芯材2と外皮材4とが一体的に構成されている一方、芯材2の内周面に接するように、パイプ状の内皮材32が挿入、配置されていると共に、それら芯材2と内皮材32との接触面が、複合ビレット30の押出頭部側、即ち、図3において、ダイ14に当接せしめられる側の軸方向端面部位において、周方向に連続的に摩擦撹拌接合せしめられて、複合ビレット30の軸方向端面において、円形の接合部34が形成されており、これによって、芯材2と内皮材32とが一体的に結合されてなる構造となっている。なお、ここで、内皮材32の材質としては、その内孔内を流通せしめられる流体の種類によって、芯材2とは異なる金属材質が、適宜に選定されることとなるが、一般に、外皮材4と同様な材質が、好適に採用されることとなる。
【0029】
また、そのような複合ビレット30における芯材2と内皮材32との接触面を、押出頭部側の軸方向端面において、摩擦撹拌接合するには、前例と同様な回転工具8を用い、その先端のプローブ8aを、軸方向端面からその接触部位に挿し込み、そして、その接触面が周方向に延びる方向に沿って、移動させることにより、周方向に連続して接合部34が形成され得るのである。尤も、この芯材2と内皮材32との接触面の、軸方向端面における接合は、例示の如く、その全周に亘って行い、円形状の接合部34を形成せしめる場合の他、周方向に断続的に接合部を形成したり、所定間隔を隔てて、点接合部を設ける等の、スポット的な摩擦撹拌接合操作の採用も、可能である。
【0030】
そして、このような複合ビレット30を用いてマンドレル押出しすることにより、図4に示される筒状コア層24の内周面に一体的に圧着、積層されてなる、内皮材32の押出層からなる最内層が形成されて、径方向に異なる材質の三つの層が形成されたクラッド管が、それぞれ均一な層厚さにおいて、安定して得られることとなるのである。
【0031】
また、本発明にあっては、複合ビレットの押出頭部側の端部に、筒状外皮材と同材質のドーナツ板を配設することも、有利に採用され得るところであり、その一例が、図6に示されている。そこにおいて、筒状外皮材4は、形成される複合ビレット40の押出頭部側の端部において、円筒状芯材2よりも軸方向外方に突出せしめられて、そこに、段差部36が形成されている。そして、この段差部36に、筒状外皮材4と同材質のドーナツ板38が嵌め込まれると共に、かかるドーナツ板38と筒状外皮材4との間の接触面が、押出頭部側の端面に位置する部位において、前記した内皮材の接合の場合と同様に摩擦撹拌接合によって、周方向に連続的に若しくはスポット的に摩擦撹拌接合されて、ここでは、周方向に連続した円環状の接合部42が形成されて、それらドーナツ板38と外皮材4とが一体的に接合せしめられている。なお、かかる段差部36の高さ(深さ)は、ドーナツ板38の厚さと略等しくされており、また筒状外皮材4筒壁厚と略同一とされている。
【0032】
さらに、かかるドーナツ板は、図5に示される如き三層構造とされた複合ビレットに対しても、配設され得るところであり、その場合にあっては、例えば、図7に示されるように、ドーナツ板44が、複合ビレット50の押出頭部側に配設されて、一体的に外皮材4と内皮材32に接合せしめられることとなる。具体的には、外皮材4と内皮材32とが、複合ビレット50の押出頭部側において、円筒状芯材2の端面よりも、軸方向外方にそれぞれ突出せしめられて、それら外皮材4と内皮材32の突出部位間に、円環形状を呈する収容凹所が形成される一方、この収容凹所内に、ドーナツ板44が嵌め込まれて、それぞれの接触面、即ちドーナツ板44と外皮材4との間及びドーナツ板44と内皮材32との間の接触面が、それぞれ、ここでは、周方向に所定の間隔を隔てて、スポット的に摩擦撹拌接合されて、二種類の接合部46,48がそれぞれ形成されることによって、外皮材4とドーナツ板44と内皮材32との一体的な接合が行われて、複合ビレット50が構成されているのである。
【0033】
そして、このようなドーナツ板38,44を一体的に接合せしめてなる複合ビレット40,50にあっては、それをマンドレル押出しして、目的とするクラッド管を製造する際に、そのようなドーナツ板38,44が、押し出されるクラッド管(28)における筒状外皮層(26)を構成するようになるところから、その押出し初期から、目的とする外皮層(26)厚さを有するクラッド管(28)を有利に得ることが出来るため、クラッド管(28)の初期押出部位の切削部分の低減を効果的に図り得ることとなるのである。
【0034】
なお、それらドーナツ板38,44の配設構造としては、例示の構造の他、芯材2と外皮材4の軸方向端面、更にはそれらと共に、内皮材32の軸方向端面を面一として、それらの端面を覆うように、ドーナツ板を配設せしめる構造も採用可能であり、その場合にあっては、ドーナツ板と外皮材の接触面は、複合ビレットの周方向に現われることとなるところから、それらを接合するための摩擦撹拌接合操作は、複合ビレットの周方向に実施されることとなる。また、三層構造の複合ビレットにおいて、内皮材のみを芯材の軸方向端面と面一にして、図6に示されるような構造において、ドーナツ板を嵌め込むようにした構造も採用可能である。
【0035】
以上、本発明の幾つかの実施形態について詳述して来たが、それらは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものでないことが、理解されるべきである。
【0036】
例えば、本発明に従って複合ビレットを製作するに際して、筒状外皮材4の突合せ部6を接合せしめるための摩擦撹拌接合操作としては、公知の各種の回転工具を用いて実施することが出来るのであって、例示の如き、回転工具の本体にプローブが一体形成されてなるものの他、回転工具の本体とプローブとが軸方向に独立して移動可能とされた複動式構造のものであっても、同様に用いることが可能であり、更に、摩擦撹拌接合手法にあっても、公知の各種の接合方式が、何れも採用可能である。
【0037】
また、本発明において採用されるマンドレル押出しにおいても、例示のフローティング・マンドレル法の他、フィックス・マンドレル法も採用可能であり、更には、その他公知のマンドレル押出し法によって、本発明に従う複合ビレットを押出し、目的とするクラッド管を得ることが可能である。
【0038】
さらに、円筒状の芯材2の外周面に、筒状外皮材4を被せる方法としても、筒状外皮材4を別途作製しておき、その作製された筒状外皮材4内に芯材2を挿入、配置せしめる方法の他、芯材2の存在下、そのような外皮材4を与える板材を円筒状に曲げ加工して、最終的に、円筒状の芯材2の周りに、筒状外皮材4が配設されてなる構造とした後、所定の摩擦撹拌接合操作が実施されるようにすることも、可能である。
【0039】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、また、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものではないことが、理解されるべきである。
【0041】
先ず、芯材(2)として、外径:234mm、内径:80mmに切削加工した円筒状のアルミニウム合金(A3004)鋳造材を準備すると共に、厚さ:10mmのアルミニウム(A1050)圧延板を曲げ加工して、外径:255m、内径:235mmの不連続円筒形状の管体を、筒状外皮材(4)として準備した。
【0042】
次いで、それら準備された芯材(2)に外皮材(4)を被せて、その突合せ部(6)を軸方向に沿って全長に亘って摩擦撹拌接合した。この摩擦撹拌接合操作は、押出頭部側から尾部方向に行った。また、そこで用いられた回転工具(8)の本体部(ショルダ)は、外径:18mmとされ、プローブは、外径:5mm×長さ:12mmとされ、回転数:2000rpm、接合速度:500mm/minとして、接合操作を実施した。また、接合部(12)の全長において、突合せ部(6)から25mmの位置を、拘束治具にて、外皮材(4)の上から芯材(2)に押し付けるように、拘束固定せしめて、接合を行った。
【0043】
その後、芯材(2)の内周面に接するように、アルミニウム合金(A3004)製の押出パイプ(外径:79.5mm、内径:65.5mm)を接するようにして嵌め込んだ後、図7に示されるように、ドーナツ板(44)を押出頭部側の端部に嵌め込み、それぞれの接触面、即ち、外皮材4とドーナツ板(44)との接触面及びドーナツ板(44)と内皮材(32)との接触面を、押出頭部側端面部位において、周方向に連続した円形の接合部が形成されるように、摩擦撹拌接合操作にて線接合を行った。なお、そこで用いた回転工具及び接合条件は、外皮材(4)の突合せ部(6)の場合と同様とした。
【0044】
かくして得られた複合ビレット(50)を500℃に加熱した後、図3に示されるように、コンテナ(16)内に収容して、押出速度:5m/minにて、マンドレル押出しすることにより、外皮層及び内皮層の厚さの均一なクラッド管を得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明において用いられる複合ビレットを構成する、芯材と外皮材の一例を明らかにする斜視説明図である。
【図2】本発明において用いられる複合ビレットについて、明らかにするものであって、(a)は、芯材に被せられた外皮材の突合せ部を、回転工具にて摩擦撹拌接合する工程を示す、軸方向から見た説明図であり、(b)は、そのような摩擦撹拌接合操作にて接合して得られた複合ビレットの横断面説明図である。
【図3】本発明に従って、複合ビレットをマンドレル押出しする工程を示す説明図であって、(a)は、マンドレル押出装置のコンテナ内に複合ビレットを収容した状態を示す断面説明図であり、(b)は、そのような複合ビレットを、マンドレル押出ししている状態を示す断面説明図である。
【図4】図3においてマンドレル押出しして得られた、二層構造のクラッド管の横断面を示す説明図である。
【図5】本発明において用いられる複合ビレットの他の一つについての説明図であって、(a)は、摩擦撹拌接合前の状態を示す、押出頭部側に位置する組付体の軸方向端面の正面説明図であり、(b)は、そのような組付体に摩擦撹拌接合操作を施して得られた複合ビレットの押出頭部側の軸方向端面を示す説明図である。
【図6】本発明において用いられる複合ビレットの別の形態を示す説明図であって、(a)は、芯材の軸方向端部にドーナツ板を嵌め込む形態を示す斜視説明図であり、(b)は、そのようなドーナツ板を嵌め込んでなる組付体に対して、摩擦撹拌接合操作を施して得られた、複合ビレットの押出頭部側の軸方向端面を示す正面説明図である。
【図7】本発明において用いられる複合ビレットの更に他の例を示す、図6(b)に相当する説明図である。
【符号の説明】
【0046】
2 芯材 4 外皮材
6 突合せ部 8 回転工具
8a プローブ 10,30,40,50 複合ビレット
10a 内孔 12,34,42,46,48 接合部
14 ダイ 16 コンテナ
18 マンドレル 20 押し盤
22 ステム 24 筒状コア層
26 筒状外皮層 28 クラッド管
32 内皮材 36 段差部
38,44 ドーナツ板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる材質からなる層が径方向に圧着、積層されて、一体化せしめられてなる構造を有するクラッド管を製造する方法にして、
円筒状の芯材の外周面に、該芯材とは材質の異なる所定の板材を円筒状に曲げ加工して得られた、軸方向に延びる突合せ部の存在によって不連続円筒形状を呈する筒状外皮材を被せ、かかる突合せ部を、該突合せ部に沿って、摩擦撹拌接合することによって、中空の複合ビレットを製作した後、その得られた複合ビレットをマンドレル押出しすることにより、前記異なる材質からなる層として、前記円筒状芯材の押出層にて構成される筒状コア層と前記筒状外皮材の押出層にて構成される筒状外皮層とが一体的に形成された、目的とする外径を有するクラッド管を形成せしめることを特徴とするクラッド管の製造方法。
【請求項2】
前記摩擦撹拌接合操作によって前記突合せ部に形成される摩擦撹拌接合部の深さ(d)が、前記筒状外皮層を与える板材の厚さ(t)に対して、1.0t以上、1.5t以下となるように、かかる摩擦撹拌接合操作が実施されることを特徴とする請求項1に記載のクラッド管の製造方法。
【請求項3】
前記複合ビレットが、それを構成する前記円筒状の芯材の内周面に接するように配された、前記クラッド管の最内層を与えるパイプ状内皮材を有していると共に、それら円筒状芯材とパイプ状内皮材との接触面が、該複合ビレットの押出頭部側の軸方向端面において周方向に連続的に若しくはスポット的に摩擦撹拌接合せしめられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクラッド管の製造方法。
【請求項4】
前記複合ビレットの押出頭部側において、前記円筒状芯材よりも前記筒状外皮材が軸方向外方に突出させられて、段差部が形成されている一方、かかる段差部に、該筒状外皮材と同質材のドーナツ板が嵌め込まれて、該ドーナツ板と該筒状外皮材との間の接触面が、周方向に連続的に若しくはスポット的に摩擦撹拌接合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載のクラッド管の製造方法。
【請求項5】
前記複合ビレットが、それを構成する前記円筒状の芯材の内周面に接するように配された、前記クラッド管の最内層を与えるパイプ状内皮材を有していると共に、該パイプ状内皮材が前記筒状外皮材と同様に軸方向外方に突出せしめられて、それら筒状外皮材とパイプ状内皮材の突出部位間に、円環形状を呈する収容凹所が、前記円筒状芯材の押出頭部側の端面に位置するように形成される一方、かかる収容凹所に、前記ドーナツ板が嵌め込まれて、該ドーナツ板と該筒状外皮材との間及び該ドーナツ板と該パイプ状内皮材との間の接触面が、それぞれ、周方向に連続的に若しくはスポット的に摩擦撹拌接合されていることを特徴とする請求項4に記載のクラッド管の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−313541(P2007−313541A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146128(P2006−146128)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】