説明

クランクシャフトの製造方法及び製造装置

【課題】別途の曲げ加工工程を省略し、併せて加工部分の割れの発生を防止すること。
【解決手段】最初に、軸素材8上の中間部位にフローティングダイ10を保持し、軸素材8の半径方向におけるフローティングダイ10の移動を特定方向SD以外の方向について規制する。次に、軸素材8に軸方向の圧縮荷重を加えることにより、軸素材8を据え込み、フローティングダイ10の特定方向SDへの移動を許容して中間部位を特定方向SDへ座屈させると共に、軸方向及び特定方向SDにおけるフローティングダイ10の移動を案内ブロック4により規定することにより軸素材8の圧縮と座屈の関係を座屈が圧縮に先行しないように規定する。これにより、軸素材8からクランクシャフトを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸素材からクランクシャフトを製造するクランクシャフトの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、例えば、下記の特許文献1乃至4に記載される技術が知られている。特に、特許文献1には、一体型のダイを用いることにより、寸法精度に優れたクランクシャフトを効率的に製造する製造方法及び製造装置が記載されている。この製造方法は、筒状又は棒状の素材(軸素材)の両端をそれぞれ一体型のダイに嵌合させた後、少なくとも一方のダイを素材の軸方向に移動させ、ダイに設けられている第1のパンチにより軸素材の両端面を加圧してダイとともに据え込み加工を行う。一方、クランクシャフトのピン部に対応する軸素材の一部位を軸方向に直交する方向へ第2のパンチにより加圧して曲げ加工を施す。これによりピン部を有するクランクシャフトを製造している。また、この製造装置は、軸素材の軸方向に進退自在な摺動台と、摺動台に設けられ軸素材の端部を嵌合自在な一体型のダイと、ダイに嵌合された軸素材の端面を加圧してダイとともに据込加工を行う第1のパンチと、軸素材を軸方向と直交する方向に加圧して曲げ加工を行う第2のパンチとを備える。この製造装置では、摺動台に設けられた一体型のダイとこのダイに設けられた第1のパンチとにより軸素材に据込加工を施す一方、第2のパンチにより軸素材に曲げ加工を施す。これによりピン部を有するクランクシャフトを精度良く製造している。
【0003】
一方、特許文献4に記載のクランク軸の成形方法では、丸棒状素材の二つのアーム部を、その軸方向に圧縮すると共に、両アーム部の間のピン部を、クロスヘッドに連結されたポンチにより、丸棒状素材の軸直角方向に押し下げてクランクスロー部を成形するようになっている。この成形方法では、ピン部の押し下げだけを所定量行った後に、アーム部の圧縮だけを所定量行い、その後ピン部の押し下げとアーム部の圧縮を同時に行い、最後にアーム部の圧縮だけを所定量行うようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平3−60837号公報
【特許文献2】特開平8−10892号公報
【特許文献3】特開2007−229720号公報
【特許文献4】特開平2003−326332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の技術では、軸素材のピン部に対応する部位を軸方向と直交する方向、すなわち軸素材の半径方向へ曲げ加工するために、第1のパンチとは別の第2のパンチを使用した別途の曲げ加圧工程を設けていたことから、その工程分だけ製造に時間がかかることとなった。また、第2のパンチに加圧力を供給するために、第1のパンチとは別の油圧装置が必要となり、製造装置が大掛かりとなっていた。また、特許文献4に記載の技術でも、ピン部の押し下げだけとアーム部の圧縮を別々に行う工程を含むことから、特許文献1に記載の技術と同様の問題があった。
【0006】
一方、特許文献1及び4に記載の技術では、軸素材を曲げ加工しているので、加工部分に剪断応力による割れが発生する懸念があった。
【0007】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、別途の曲げ加工工程を省略し、併せて加工部分における割れの発生を防止すること可能としたクランクシャフトの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、軸素材からクランクシャフトを製造するクランクシャフトの製造方法であって、軸素材の所定部位における半径方向への変形を特定方向以外の方向につき規制しながら軸素材に軸方向の圧縮荷重を加えることにより、軸素材を据え込み、所定部位を特定方向へ座屈させると共に、軸素材の圧縮と座屈の関係を座屈が圧縮に先行しないように規定することを趣旨とする。
【0009】
上記発明の構成によれば、軸素材に軸方向の圧縮荷重を加えるだけで、軸素材が据え込まれ、所定部位が特定方向へ座屈されて曲げられ、クランクシャフトが製造される。また、軸素材に圧縮荷重を加えるときに、軸素材の圧縮と座屈の関係が座屈が圧縮に先行しないように規定されるので、曲げ加工される所定部位に剪断応力が生じ難くなる。
【0010】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、軸素材からクランクシャフトを製造するクランクシャフトの製造方法であって、軸素材上の所定部位にダイを保持し、軸素材の半径方向におけるダイの移動を特定方向以外の方向につき規制する第1の工程と、軸素材に軸方向の圧縮荷重を加えることにより、軸素材を据え込み、ダイを特定方向へ移動を許容して所定部位を特定方向へ座屈させると共に、特定方向におけるダイの移動を規定することにより前記軸素材の圧縮と座屈の関係を前記座屈が前記圧縮に先行しないように規定する第2の工程とを備えたことを趣旨とする。
【0011】
上記発明の構成によれば、第1の工程では、軸素材上の所定部位に保持されたダイの移動が、軸素材の半径方向における特定方向以外の方向につき規制された状態となる。第2の工程では、軸素材に軸方向の圧縮荷重を加えるだけで、軸素材が据え込まれ、ダイが特定方向へ移動を許容され、所定部位が特定方向へ座屈されて曲げられ、ダイにより成形され、クランクシャフトが製造される。また、軸素材に圧縮荷重を加えるときに、軸素材の圧縮と座屈の関係が座屈が圧縮に先行しないように規定されるので、曲げ加工される所定部位に剪断応力が生じ難くなる。
【0012】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、軸素材からクランクシャフトを製造するクランクシャフトの製造装置において、軸素材上に付けられるダイと、軸素材上の所定部位にてダイを保持する保持部材と、軸素材の半径方向における保持部材の移動をダイと共に特定方向以外の方向につき規制する移動規制手段と、軸素材に軸方向の圧縮荷重を加える荷重供給手段と、軸素材の圧縮と座屈の関係を座屈が圧縮に先行しないように規定するために保持部材の変位をダイと共に規定する変位規定手段とを備えたことを趣旨とする。
【0013】
上記発明の構成によれば、軸素材上にダイを付け、軸素材上の所定部位にて保持部材によりダイを保持する。また、軸素材の半径方向における保持部材の移動をダイと共に特定方向以外の方向につき移動規制手段により規制する。この状態で、荷重供給手段により軸素材に軸方向の圧縮荷重を加えるだけで、軸素材が据え込まれ、所定部位が特定方向へ座屈されて曲げられ、ダイにより成形され、クランクシャフトが製造される。また、軸素材に圧縮荷重を加えるときに、軸素材の圧縮と座屈の関係が座屈が圧縮に先行しないように規定されるので、曲げ加工される所定部位に剪断応力が生じ難くなる。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、変位規定手段は、保持部材の変位を所定の経路で案内するために保持部材の外縁に接触可能に設けられた案内面を有する案内部材であることを趣旨とする。
【0015】
上記発明の構成によれば、請求項3に記載の発明の作用に加え、軸素材の圧縮に伴い、保持部材の外縁が案内部材の案内面に接触して案内されることで、保持部材と共にダイが所定の経路で変位し、軸素材の圧縮と座屈の関係が座屈が圧縮に先行しないように規定される。ここで、案内面のプロフィールの異なる案内部材を予め複数用意しておき、それらを入れ替えることで、軸素材の圧縮と座屈の関係が任意に変更可能となる。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、変位規定手段は、保持部材の変位を所定の経路で案内するために保持部材に設けられたカムフォロアと、カムフォロアを案内するカム溝が設けられた案内部材とを含むことを趣旨とする。
【0017】
上記発明の構成によれば、請求項3に記載の発明の作用に加え、軸素材の圧縮に伴い、保持部材のカムフォロアが案内部材のカム溝に沿って案内されることで、保持部材と共にダイが所定の経路で変位し、軸素材の圧縮と座屈の関係が座屈が圧縮に先行しないように規定される。その規定のために、保持部材の変位が、カムフォロアとカム溝との係合によって案内されるので、案内部材との間で保持部材の摺動抵抗が少なくなり、保持部材が摺動抵抗により傾くことがない。ここで、カム溝のプロフィールの異なる案内部材を予め複数用意しておき、それらを入れ替えることで、軸素材の圧縮と座屈の関係が任意に変更可能となる。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、変位規定手段は、保持部材の変位を所定の経路で案内するために保持部材に設けられたカムフォロアと、カムフォロアを軸素材の軸方向に案内するカム溝が設けられた案内部材と、案内部材を軸素材の半径方向に移動させるための移動手段とを含むことと、荷重供給手段の動作に合わせて移動手段の動作を制御する制御手段とを備えたことを趣旨とする。
【0019】
上記発明の構成によれば、請求項3に記載の発明の作用に加え、荷重供給手段による軸素材の圧縮に伴い、保持部材のカムフォロアが案内部材のカム溝に沿って軸素材の軸線方向に移動することで、保持部材がダイと共に同方向へ案内される。このとき、荷重供給手段の動作に合わせて制御手段が移動手段の動作を制御することで、案内部材が軸素材の半径方向へ移動され、保持部材がダイと共に同方向へも移動される。これにより、保持部材と共にダイが所定の経路で変位し、軸素材の圧縮と座屈の関係が座屈が圧縮に先行しないように規定される。カム溝がシンプルな形状となるのでその加工が容易となる。
【0020】
上記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、軸素材に生じる応力を非接触で測定するための応力測定手段を更に備え、制御手段は、測定された応力が所定の最大応力を越えないように荷重供給手段及び移動手段の動作を制御することを趣旨とする。
【0021】
上記発明の構成によれば、請求項6に記載の発明の作用に加え、応力測定手段により測定される軸素材に生じる応力が所定の最大応力を越えないように制御手段が荷重供給手段及び移動手段の動作を制御するので、カムフォロアとカム溝との間で生じる摩擦も最小限に抑えられ、軸素材の所定部位に生じる剪断応力が最小限に抑えられる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載の発明によれば、別途の曲げ加工工程を省略することができ、クランクシャフトの製造サイクルタイムを短縮することができ、併せて曲げ加工部分における割れの発生を防止することができる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、別途の曲げ加工工程を省略することができ、クランクシャフトの製造サイクルタイムを短縮することができ、併せて曲げ加工部分における割れの発生を防止することができる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、別途の曲げ加工工程を省略することができ、クランクシャフトの製造サイクルタイムを短縮することができ、併せて曲げ加工部分における割れの発生を防止することができる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、案内部材の案内面のプロフィールを変えることで、軸素材の圧縮と座屈の関係を適宜変更することができる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、案内部材のカム溝のプロフィールを変えることで、軸素材の圧縮と座屈の関係を適宜変更することができる。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、カム溝の加工が容易となり案内部材の作製が容易となる。また、ダイ及び保持部材の位置ズレを抑えることができ、軸素材の良好な加工精度を保つことができる。
【0028】
請求項7に記載の発明によれば、請求項6に記載の発明の効果に加え、軸素材の座屈部分に、安定して割れが生じないようにクランクシャフトを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
[第1実施形態]
以下、本発明におけるクランクシャフトの製造方法及び製造装置を具体化した第1実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
図1に、クランクシャフトの製造装置1を縦断面図により示す。図2に、この製造装置1を図1のA−A線断面図(横断面図)により示す。この製造装置1は、土台となる固定治具2と、固定治具2の上に固定された案内治具3と、案内治具3の内側に固定された案内ブロック4と、案内治具3の内側に配置されるフローティング治具5とを備える。
【0031】
固定治具2は、中央に固定ダイ6を含む。固定ダイ6の上面には、凹部6aが形成される。案内治具3は平面視でU字形をなす。固定ダイ6に対向して押しダイ7が上下動可能に設けられる。押しダイ7の下面には、凹部7aが形成される。案内ブロック4は、その内側に傾斜した平坦な案内面4aを有する。図1に示すように、この製造装置1は、軸素材8の上下両端部を固定ダイ6の凹部6aと押しダイ7の凹部7aにそれぞれ嵌め入れることにより、軸素材8を固定ダイ6と押しダイ7との間に垂直に支持するようになっている。押しダイ7は、油圧シリンダを含む所定の油圧装置に装着されて支持され、上下に往復駆動されるようになっている。この実施形態では、固定ダイ6を含む固定治具2、押しダイ7及び油圧装置により、本発明の荷重供給手段が構成される。
【0032】
フローティング治具5は、保持部材9と、保持部材9のほぼ中央に位置するフローティングダイ10とを含む。保持部材9は、平面視で半円と四角を結合させた形状をなしている。フローティングダイ10は、断面が逆台形をなし、その外周がテーパ面となっている。フローティングダイ10の中央には、軸素材8を嵌める孔10aが形成される。保持部材9の中央には、フローティングダイ10の外周のテーパ面に整合したテーパ孔9aが形成される。図1に示すように、フローティング治具5は、軸素材8上の中間部位に保持される。ここで、フローティングダイ10を軸素材8上の中間部位に付けた状態で、保持部材9のテーパ孔9aにフローティングダイ10の外周面を圧入するかたちでフローティングダイ10の外周に保持部材9を圧着する。これにより、フローティングダイ10が保持部材9により締め付けられて軸素材8上の中間部位に保持される。軸素材8の中間部位が本発明の所定部位に相当する。図1に示すように、この実施形態では、軸素材8をフローティング治具5と共に製造装置1にセッティングすることで、フローティング治具5が固定治具2と押しダイ7との中間位置に保持される。この状態で、図1に示すように、保持部材9の一端部、すなわち四角部分の上辺9bが、案内ブロック4の案内面4aに接して設けられる。この実施形態で、案内ブロック4は、本発明の変位規定手段に相当する。
【0033】
図1,2に示すように、案内治具3には、3本のボルト11A〜11Cが、軸素材8を中心に半径方向に配置され、案内治具3を貫通するように設けられる。3本のボルト11A〜11Cの先端は、フローティング治具5を構成する保持部材9の外周に接触可能に設けられる。図2に示すように、3本のボルト11A〜11Cのうち、2本のボルト11A,11Bは、軸素材8を挟んで互いに対向する位置にて先端を軸素材8の中心へ向けて配置される。残りの1本のボルト11Cは、2本のボルト11A,11Bの間にて先端を軸素材8の中心へ向けて配置される。この実施形態で、残りの1本のボルト11Cの位置に対し軸素材8を挟んだ反対側の方向(図2の右方向)、すなわち保持部材9の上辺9bが位置する方向が、特定方向SDとなっている。この実施形態で、案内治具3と3本のボルト11A〜11Cは、軸素材8の半径方向におけるフローティング治具5の移動を特定方向SD以外の方向について規制する本発明の移動規制手段を構成する。
【0034】
ここで、フローティングダイ10について詳しく説明する。図3に、フローティングダイ10を平面図により示す。図4に、フローティングダイ10を図3のB−B線断面図により示す。図5に、フローティングダイ10を2つの分割片12,13に分解して平面図により示す。図6に、フローティングダイ10を2つの分割片12,13に分解して断面図により示す。図7に、一方の分割片12を図5の矢印C方向から見た正面図により示す。図8に、他方の分割片13を図5の矢印D方向から見た正面図により示す。図3〜図6に示すように、フローティングダイ10は、2つの分割片12,13により2分割可能に構成される。フローティングダイ10の上面側には、中央の孔10aを中心にU字形の凹み10bが設けられる。この凹み10bは、第1分割片12(図面左側)では、その外周縁にて開放され、第2分割片13(図面右側)では、外周縁にて開放されず、孔10aに沿った円弧状をなしている。フローティングダイ10の下面側にも上面側と同じ凹み10bが設けられる。後述するように、この凹み10bは、軸素材8が座屈されるときに、軸素材8の一部を受け入れて軸素材8を所定形状に成形するようになっている。
【0035】
ここで、上記した製造装置1を使用して行うクランクシャフトの製造方法について説明する。図9に、この製造方法をフローチャートにより示す。図10〜図13に、この製造方法の各工程等を製造装置1の縦断面図により示す。以下に、図9のフローチャートに付された各番号に従って順次説明する。
【0036】
(1)セッティング工程では、図10に示すように、軸素材8の中間部位にフローティングダイ10を付け、そのダイ10の外周に保持部材9を圧着する。また、軸素材8の上下両端部をそれぞれ固定ダイ6の凹部6aと押しダイ7の凹部7aに嵌め入れて組み付ける。これにより、図11に示すように、フローティング治具5を中間部位に保持した軸素材8を、固定治具2と押しダイ7との間にて垂直に支持する。このセッティング完了状態では、軸素材8上の中間部位にてフローティング治具5が保持され、軸素材8の半径方向におけるフローティング治具5の移動が特定方向SD以外の方向について規制される。また、フローティング治具5の一部、すなわち保持部材9の一端上辺9bが案内ブロック4の案内面4aに接して配置される。
【0037】
(2)加圧工程では、図12に示すように、押しダイ7を油圧装置により下方へ加圧する。これにより、軸素材8に軸方向の圧縮荷重を加え、図13に示すように、軸素材8を据え込み、フローティング治具5の特定方向SDへの移動を許容して、軸素材8の中間部位を特定方向SDへ座屈させると共に、軸素材8の圧縮と座屈の関係を座屈が圧縮に先行しないようにフローティング治具5の変位を案内ブロック4により規定する。このとき、押しダイ7が下降する過程で、押しダイ7の油圧装置等との干渉を避けるために、各ボルト11A〜11Cを案内治具3の外方向へ後退させる。図13に示すように、最終的には、フローティング治具5は、図11,12に示す初期状態から特定方向SD(図13の右方向)へ移動し、固定治具2と押しダイ7との間で押し挟まれる。このとき、軸素材8は、固定ダイ6、押しダイ7及びフローティングダイ10の間で所定形状に成形される。
【0038】
(3)離型工程では、押しダイ7を上昇させ、押しダイ7と固定治具2との間からクランクシャフトの成形品を取り外すと共に、その成形品からフローティング治具5を取り外す。これにより、図14に示すように、軸部14aとピン部14bを有するクランクシャフト14が得られる。
【0039】
ここで、上記した一連の製造方法を、図15(A)〜(D)に示す概念図を参照して詳しく説明する。この実施形態の製造方法では、軸素材8からクランクシャフト14を製造するために、先ず図15(A)に示すように、軸素材8の所定部位(この実施形態では中間部位)にフローティング治具5を装着する。そして、軸素材8の所定部位における半径方向への変形を特定方向SD(図面右方向)以外の方向について規制しながら、押しダイ7により軸素材8に軸方向の圧縮荷重を加える。これにより、先ず、図15(B)に示すように、軸素材8の所定部位(中間部位)を特定方向SDへ座屈を開始させ、その後、図15(C)に示すように、軸素材8を据え込むと共に、軸素材8の所定部位(中間部位)を更に特定方向SDへ座屈させて、図15(D)に示すように、軸素材8の座屈と据え込みを完了する。このとき、フローティング治具5の保持部材9の一端を、案内ブロック4の案内面4aに摺接させながらフローティング治具5の変位を規定することにより、軸素材8の圧縮と座屈の関係を座屈が圧縮に先行しないように規定する。すなわち、この製造方法では、軸素材8の圧縮と座屈の関係を座屈が圧縮に先行しないように規定しながら、軸素材8に軸方向の圧縮荷重を加えることにより、軸素材8の所定部位(中間部位)を特定方向SDへ座屈させながら据え込む。このように軸素材8を中間部位で座屈させるためには、図15(A)に示すように、軸素材8の長さを「L1」、直径を「D1」とすると、「L1/D1>2.5」という条件が必要になることが確認されている。ここで、図15(A)〜(D)に示すように、押しダイ7が下降するのに伴い、軸素材8が中間部位にて座屈し、その中間部位が偏心することが分かる。この押しダイ7の下降量Ldは、軸素材8の圧縮量に相当し、軸素材8の偏心量LPは、軸素材8の座屈量に相当する。従って、この実施形態では、上記した下降量Ldと偏心量LPとの関係、すなわち軸素材8の圧縮と座屈の関係を、案内ブロック4により規定するようになっている。
【0040】
この実施形態では、図16に示すように、上記した案内ブロック4とは別に、プロフィールの異なる案内面4bを有する案内ブロック4Aが予め用意されており、この別の案内ブロック4Aを上記した案内ブロック4と入れ替え可能となっている。この別の案内ブロック4Aの案内面4bは凸曲面をなす。これら二つの案内ブロック4,4Aを相互に入れ替えることで、軸素材8の圧縮と座屈の関係が任意に変更可能となっている。
【0041】
以上説明したこの実施形態におけるクランクシャフトの製造方法及び製造装置によれば、セッティング工程で、軸素材8上の中間部位に保持されたフローティングダイ10及び保持部材9の移動、すなわちフローティング治具5の移動が、軸素材8の半径方向における特定方向SD以外の方向について規制される。この規制状態において、加圧工程で、軸素材8に軸方向の圧縮荷重を加えるだけで、軸素材8が据え込まれ、特定方向SDへのフローティング治具5の移動が許容され、軸素材8が中間部位にて特定方向SDへ座屈されて曲げられ、フローティングダイ10により成形され、クランクシャフト14が製造される。このため、軸素材8からクランクシャフト14を製造するために、従来例とは異なり、別途の曲げ加工工程を省略することができる。この結果、曲げ加工工程を省略した分だけクランクシャフト14の製造サイクルタイムを短縮することができる。
【0042】
また、この実施形態では、軸素材8に圧縮荷重を加えるときに、軸素材8の圧縮と座屈の関係が座屈が圧縮に先行しないように規定されるので、据え込みと座屈が行われる軸素材8の中間部位に剪断応力が生じ難くなる。このため、軸素材8の中間部位に引張応力が過度に働くことを抑制することができ、曲げ加工される中間部位に剪断応力による割れが発生することを未然に防止することができる。
【0043】
ここで、図17に、クランクシャフト14を製造する際のフローティング治具5の挙動を、そのフローティング治具5の固定治具2からの垂直位置Yと水平移動量Xとの関係によりグラフに示す。この垂直位置Yの変化は、上記した押しダイ7の下降量Ldと軸素材8の圧縮量に相当し、水平移動量は、上記した軸素材8の偏心量LPと座屈量に相当する。従って、図17のグラフは、軸素材8の圧縮と座屈の関係を示している。図17において、太い実線(直線)は、案内ブロック4を使用した場合のフローティング治具5の挙動を示し、細い実線(曲線)は、案内ブロック4を使用しない場合のフローティング治具5の挙動を比較例として示す。太い実線で示す本実施形態(A)では、フローティング治具5は、垂直位置Yの変化に対して水平移動量Xが一定割合で変化することが分かる。このことは、軸素材8の圧縮と座屈の関係が、圧縮の変化に対して座屈の変化が一定となることを意味する。このような理由から、軸素材8の中間部位に無理な剪断応力がかからず、その部位で割れの発生を防止することができる。これに対し、細い実線(曲線)で示す比較例では、最初は垂直位置Yの変化が水平移動量Xの変化に対して先行し、途中で水平移動量Xの変化が垂直位置Yの変化に先行する。このことは、軸素材8の圧縮と座屈の関係が、途中で座屈が圧縮に先行することを意味する。従って、この比較例の場合、軸素材の中間部位には、割れにつながる無理な剪断応力がかかるおそれがある。
【0044】
更に、この実施形態では、プロフィールの異なる案内面4a,4bを有する2つの案内ブロック4,4Aを相互に入れ替えることができる。このため、案内ブロック4,4Aを入れ替えることで、クランクシャフトを製造するときの軸素材8の圧縮と座屈の関係を、必要に応じて任意に変更することができる。換言すれば、案内ブロック4,4Aの案内面4a,4bのプロフィールを変えることで、軸素材8の圧縮と座屈の関係を適宜変更することができる。図17に、別の案内ブロック4Aを使用した場合のフローティング治具5の挙動を破線(曲線)により示す。図16に示すように、別の案内ブロック4Aの案内面4bは凸曲面をなすことから、図17に破線で示すように、フローティング治具5は、垂直位置Yの変化に対して水平移動量Xの変化が先行しないように変位することが分かる。このことは、軸素材8の圧縮と座屈の関係が、座屈が圧縮に先行しないことを意味する。従って、この場合も、曲げ加工される軸素材8の中間部位に無理な剪断応力がかからず、その部位で割れの発生を未然に防止することができる。
【0045】
加えて、この実施形態の製造装置1によれば、軸素材8上の中間部位にフローティングダイ10を装着し、そのフローティングダイ10を保持部材9により保持することで、軸素材8の中間部位にフローティング治具5を保持する。そして、軸素材8の半径方向におけるフローティング治具5の移動を、特定方向SD以外の方向について3本のボルト11A〜11Cにより規制する。この規制状態で、押しダイ7により軸素材8に軸方向の圧縮荷重を加えるだけで、軸素材8の中間部位を特定方向SDへ座屈させてクランクシャフト14を製造している。つまり、この製造装置1によれば、中間部位を特定方向SDへ曲げるために別途の曲げ加工工程を設けることなくクランクシャフト14を製造している。このため、曲げ加工工程のためのパンチや油圧装置等の設備を省略することができ、これによって製造装置1を簡易化及び小型化することができる。
【0046】
この実施形態では、フローティング治具5は、2分割可能なフローティングダイ10と、そのフローティングダイ10の外周に圧着される保持部材9とから構成される。このフローティング治具5を軸素材8上に保持するには、2分割可能なフローティングダイ10を軸素材8上に被せ付け、そのダイ10の外周に保持部材9を圧着すればよい。ここで、保持部材9は、そのテーパ孔9aとフローティングダイ10の外周テーパ面との関係により容易にフローティングダイ10に装着することができる。また、フローティング治具5を軸素材8上から取り外すには、保持部材9をフローティングダイ10から外し、フローティングダイ10を二つに分解すればよい。ここでも、保持部材9は、そのテーパ孔9aとフローティングダイ10の外周テーパ面との関係により容易にフローティングダイ10から外すことができる。このため、軸素材8へのフローティングダイ10の着脱を容易にすることができる。また、軸素材8の座屈方向を規制するために、案内治具3に3本のボルト11A〜11Cを設けるだけなので、比較的簡単な構成で座屈方向を規制することができる。
【0047】
[第2実施形態]
次に、本発明におけるクランクシャフトの製造方法及び製造装置を具体化した第2実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0048】
なお、以下の説明において、前記第1実施形態と同等の構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、以下には異なった点を中心に説明する。
【0049】
図18に、この実施形態のクランクシャフトの製造装置21を平面図により示す。図19に、この製造装置21を側面図により示す。図20に、この製造装置21を図18のE−E線断面図(縦断面図)により示す。この製造装置21は、軸素材8の圧縮と座屈の関係を規定するための変位規定手段の点で第1実施形態と構成が異なる。すなわち、この実施形態では、フローティング治具26の変位を所定の経路で案内するために、第1実施形態とは異なり案内ブロック4,4Aを使わずに、カムフォロア22とカム溝23を使用している。この製造装置21は、土台となる固定治具24と、その固定治具24を内包するように組み付けられた案内治具25と、案内治具25の内側にて移動可能に配置されたフローティング治具26と、固定治具24に設けられた固定ダイ6に対向して上下動可能に設けられた押しダイ7とを備える。
【0050】
案内治具25は、平面視でチャネル形状をなし、平面視で四角形状をなす固定治具24の外周3側面に外接するように配置される。この案内治具25は、図18〜20において右側に開放した形状をなしている。案内治具25は、背板部25aと、その背板部25aの両端から延びる一対の側板部25bとを含む。各側板部25bには、それぞれ湾曲したカム溝23が互いに平行に形成される。
【0051】
フローティング治具26は、平面視で略四角形状をなし、案内治具25の内壁に沿って移動可能に配置される。このフローティング治具26の中央には、第1実施形態と同様に、軸素材8に保持されたフローティングダイ10が装着される。フローティング治具26は、フローティングダイ10と、そのダイ10を保持する保持部材27とから構成される。保持部材27は、平面視で四角形状をなし、その両側にカムフォロア22が回転可能に設けられる。各カムフォロア22は、対応するカム溝23に嵌め入れられ、そのカム溝23に沿って移動可能となっている。この実施形態で、本発明の変位規定手段は、フローティング治具26の変位を所定の経路で案内するために保持部材27に設けられたカムフォロア22と、そのカムフォロア22を案内するカム溝23が設けられた案内部材としての案内治具25とを含んで構成される。
【0052】
固定治具24の上には、固定ダイ6を中心にして合計4本の案内ピン28が互いに平行かつ垂直に固定される。保持部材27には、各案内ピン28に対応する4つの案内溝27aが互いに平行に形成される。従って、フローティング治具26は、各案内ピン28と各案内溝27aとの係合により水平に保持されながら案内治具25の内壁に沿って移動可能となっている。
【0053】
従って、この実施形態におけるクランクシャフトの製造方法及び製造装置によれば、第1実施形態と同様に、軸素材8上に保持されたフローティング治具26の移動が、案内治具25により、軸素材8の半径方向における特定方向SD以外の方向について規制される。この規制状態にて、押しダイ7により軸素材8に軸方向の圧縮荷重を加えるだけで、軸素材8が据え込まれ、特定方向SDへのフローティング治具26の移動が許容され、軸素材8が中間部位にて特定方向SDへ座屈されて曲げられてクランクシャフト14(図14参照)が製造される。このため、軸素材8からクランクシャフト14を製造するために、従来例とは異なり、別途の曲げ加工工程を省略することができる。この結果、曲げ加工工程を省略した分だけクランクシャフト14の製造サイクルタイムを短縮することができる。
【0054】
加えて、この実施形態では、第1実施形態と異なり、押しダイ7による軸素材8の圧縮に伴い、保持部材27のカムフォロア22が案内治具25の湾曲したカム溝23に沿って案内される。これにより、保持部材27と共にフローティングダイ10が、すなわちフローティング治具26が、水平状態を保ったまま、湾曲したカム溝23により規定される経路に沿って変位し、軸素材8の圧縮と座屈の関係が座屈が圧縮に先行しないように規定される。このときのフローティング治具26の挙動は、図17に破線の曲線に示す挙動に準ずる。このため、軸素材8の中間部位に剪断応力が生じ難くなり、軸素材8の中間部位に剪断応力による割れが発生することを未然に防止することができる。
【0055】
この実施形態では、軸素材8の圧縮と座屈の関係を規定するために、第1実施形態とは異なり、保持部材27の変位が、カムフォロア22とカム溝23との係合によって案内される。このため、案内治具25との間で保持部材27の摺動抵抗が少なくなり、保持部材27が摺動抵抗により傾くことがない。また、カムフォロア22とカム溝23との間の摺動抵抗も少ない。このため、クランクシャフト製造のために軸素材8に与えられるべき成形荷重を低減することができる。
【0056】
また、この実施形態では、カム溝23のプロフィールの異なる案内治具25を予め複数用意しておき、それらを必要に応じて相互に入れ替えて使用することで、軸素材8の圧縮と座屈の関係を必要に応じて任意に変更することができる。換言すれば、案内治具24のカム溝23のプロフィールを変えることで、軸素材8の圧縮と座屈の関係を適宜変更することができる。
【0057】
[第3実施形態]
次に、本発明におけるクランクシャフトの製造方法及び製造装置を具体化した第3実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0058】
図21に、この実施形態のクランクシャフトの製造装置31を平面図により示す。図22に、この製造装置31を側面図により示す。図23に、この製造装置31を図21のC−C線断面図(縦断面図)により示す。この製造装置31は、案内治具25を水平方向へ移動可能とし、案内治具25の側板部25bに垂直方向に真っ直ぐに延びるカム溝32を形成し、押しダイ7と案内治具25をそれぞれサーボモータ33,34により駆動可能とした点で第2実施形態と構成が異なる。
【0059】
この実施形態で、製造装置31は、図22,23に示すようにハウジングの上壁35と底壁36との間の空間37の中に配置される。固定治具24は、底壁36上に固定される。案内治具25は、上壁35と底壁36との間にて、複数のローラ38を介して水平方向へスライド可能に設けられる。第1サーボモータ33は、押しダイ7を上下駆動させるように設けられる。第2サーボモータ34は、案内治具25を水平駆動させるように設けられる。この実施形態で、第1サーボモータ33は、押しダイ7と共に本発明の荷重供給手段を構成し、第2サーボモータ34は、本発明の移動手段に相当する。
【0060】
図24に、この製造装置31の電気的構成をブロック図により示す。製造装置31は、コントローラ39を備え、このコントローラ39には第1サーボモータ33及び第2サーボモータ34が接続される。そして、コントローラ39は、押しダイ7の動作に合わせて案内治具25を動作させるために第1サーボモータ33及び第2サーボモータ34を制御するようになっている。この実施形態では、軸素材8の圧縮と座屈の関係を座屈が圧縮に先行しないように規定するために、コントローラ39は、各サーボモータ33,34を同時に制御するようになっている。この制御により、押しダイ7の垂直位置と案内治具26の水平移動量を同時に制御し、これによってフローティング治具26の挙動、すなわち垂直位置Y及び水平移動量Xを制御するようになっている。この実施形態で、コントローラ39は、本発明の制御手段に相当する。図25に、コントローラ39が制御するフローティング治具26の挙動につき、その垂直位置Yと水平移動量Xの関係をグラフに示す。このグラフに示す曲線のプロフィールにより、軸素材8の圧縮と座屈の関係が規定される。図25に示す曲線は、垂直位置を「Y」、水平移動量を「X」とすると、次式(1)によって表される。
Y=aX4+bX3+cX2+dX+e ・・・(1)
【0061】
従って、この実施形態の製造装置31によれば、第1サーボモータ33により押しダイ7が下降され、軸素材8が圧縮されるのに伴い、カムフォロア22が案内治具25のカム溝32に沿って軸素材8の軸線方向に沿って、すなわち垂直方向に案内されることにより、フローティング治具26が垂直方向へ移動される。このとき、コントローラ39が、押しダイ7の動作に合わせて第2サーボモータ34を制御することにより、案内治具26が軸素材8の半径方向、すなわち水平方向へ移動され、フローティング治具26が水平方向へも移動される。これにより、フローティング治具26が所定の経路で変位し、軸素材8の圧縮と座屈の関係が座屈が圧縮に先行しないように規定される。従って、据え込みと座屈が行われる軸素材8の中間部位に剪断応力が生じ難くなる。この結果、曲げ加工される中間部位に剪断応力による割れが発生することを未然に防止することができる。
【0062】
また、この実施形態では、案内治具25に設けられるカム溝32が垂直方向に真っ直ぐに延びるシンプルな形状であることから、カム溝32の加工が容易となり、第2実施形態と比べて案内治具25の作製が容易となる。また、この実施形態では、真っ直ぐに延びるカム溝32に沿ってカムフォロア22を案内させればよいので、カム溝32とカムフォロア22の摩耗が少なくなる。このため、カム溝32及びカムフォロア22の摩耗によるフローティング治具26の位置ズレを抑えることができ、この意味で軸素材8の良好な加工精度を保つことができる。
【0063】
[第4実施形態]
次に、本発明におけるクランクシャフトの製造方法及び製造装置を具体化した第4実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0064】
図26に、赤外線カメラ41による軸素材8の応力測定の方法を概念図により示す。図27に、この実施形態の製造装置の電気的構成をブロック図により示す。この実施形態では、図26に示すように、クランクシャフト製造時に軸素材8に生じる応力を赤外線カメラ41により非接触で測定し、その測定結果を第1及び第2のサーボモータ33,34の制御に反映させる点で第3実施形態と構成が異なる。
【0065】
すなわち、図27に示すように、コントローラ39には、第1及び第2のサーボモータ33,34の他に赤外線カメラ41が接続される。図26に示すように、赤外線カメラ41は、クランクシャフト製造過程において軸素材8の表面の応力分布を非接触で測定する。コントローラ39は、その測定された応力が所定の最大応力を越えないように各サーボモータ33,34を制御するようになっている。この実施形態で、赤外線カメラ41は、本発明の応力測定手段に相当する。
【0066】
ここで、クランクシャフト製造過程において軸素材8に生じる割れ等の破壊は、最大応力σmaxを歪みで積分した値が指標となり、次式(2)により表される。次式(2)で、「dε」は、相当歪増分を意味する。
Df=∫σmax dε ・・・(2)
このため、クランクシャフト製造完了後における最大応力σmaxのみならず、歪みが変化する製造途中における最大主応力σを基準値内に抑えることが重要となる。そこで、この実施形態では、第3実施形態で説明した、図25に示すような最適プロフィールに従って各サーボモータ33,34を制御すると共に、その時に発生する最大主応力σを数値解析(CAE)により算出する。その結果得られる、垂直位置Yと最大主応力σとの関係を応力クライテリア曲線として定義する。図28には、この応力クライテリア曲線をグラフに示す。図28において、応力クライテリア曲線より下側の領域の最大主応力σが、許容値となる。そこで、最大主応力σの許容値と、赤外線カメラ41により実測される最大応力σmaxとの相関を確認する。図29に、この最大主応力σと最大応力σmaxとの相関をグラフに示す。このグラフから得られる直線の傾きを相関係数Rとして算出する。そして、この実施形態では、相関係数R、最大応力σ及び最大主応力σmaxに基づいて押しダイ7の垂直速度Vsと案内治具25の水平速度Veを制御するために、コントローラ39が第1及び第2のサーボモータ33,34を制御するようになっている。
【0067】
図30に、コントローラ39が実行する制御プログラムをフローチャートにより示す。クランクシャフトの製造に際して、最初にコントローラ39は、ステップ100で、垂直速度Vsを初期垂直速度Vsiに設定すると共に、水平速度Veを初期水平速度Veiに設定する。これにより、コントローラ39は、第1サーボモータ33を初期垂直速度Vsiに基づき制御すると共に、第2サーボモータ34を初期水平速度Veiに基づき制御する。これによりフローティング治具26を初期垂直速度Vsi及び初期水平速度Veiに基づいて移動させる。
【0068】
次に、ステップ110で、コントローラ39は、赤外線カメラ41の測定による最大主応力σmaxを読み込む。そして、ステップ120で、コントローラ39は、読み込まれた最大主応力σmaxと相関係数Rとの乗算値が、クライテリアとなる最大応力σよりも大きいか否かを判断する。
【0069】
ステップ120の判断結果が肯定となる場合、コントローラ39は、ステップ130にて、垂直速度Vsを増加させて第1サーボモータ33を制御する。これにより、フローティング治具26を垂直速度Vsを増加させる。一方、ステップ120の判断結果が否定となる場合は、コントローラ39は、ステップ140にて、水平速度Veを低減させて第2サーボモータ34を制御する。これにより、フローティング治具26の水平速度Veを低減させる。
【0070】
その後、ステップ130又はステップ140から移行してステップ150で、コントローラ39は、フローティング治具26の垂直位置Yが最大値Smaxであり、かつ、水平移動量Xが最大値Emaxであるかを判断する。この判断結果が否定となる場合、コントローラ39はステップ120からの処理を繰り返す。この判断結果が肯定となる場合、コントローラ39はその後の処理を終了する。
【0071】
上記のようにコントローラ39は、各サーボモータ33,34を制御することにより、押しダイ7の垂直速度Vsと案内治具25の水平速度Veを、最大主応力σmax、すなわち応力の実測値に基づいてフィードバック制御する。
【0072】
以上、この実施形態の製造装置によれば、赤外線カメラ41により実測された軸素材8に生じる最大主応力σmaxが所定の最大応力σを越えないように、コントローラ39により各サーボモータ33,34が制御される。従って、軸素材8の応力に影響を与えるような摩擦がカムフォロア22とカム溝32との間に多少生じたり、押しダイ7及び固定ダイ6に対する軸素材8の固定精度が多少低下したりしても、各サーボモータ33,34の出力を加減することでフローティング治具26の垂直速度Vsと水平速度Veを適度に加減することができ、軸素材8の中間部位に生じる剪断応力を調整によって最小限に抑えることができる。このため、軸素材8の座屈部分に、安定して割れが生じないようにクランクシャフト14を製造することができる。この実施形態におけるその他の作用効果は、第3実施形態のそれと同じである。
【0073】
なお、この発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することもできる。
【0074】
例えば、前記各実施形態で具体化した、本発明に係る保持部材、移動規制手段、荷重供給手段、変位規定手段、移動手段、制御手段及び応力測定手段の構成は、それぞれ一例であり、各実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1実施形態に係り、クランクシャフトの製造装置を示す縦断面図。
【図2】同じく、この製造装置を示す図1のA−A線断面図(横断面図)。
【図3】同じく、フローティングダイを示す平面図。
【図4】同じく、フローティングダイを示す図3のB−B線断面図。
【図5】同じく、フローティングダイを2つの分割片に分解して示す平面図。
【図6】同じく、フローティングダイを2つの分割片に分解して示す断面図。
【図7】同じく、一方の分割片を図5の矢印C方向から見た正面図。
【図8】同じく、他方の分割片を図5の矢印D方向から見た正面図。
【図9】同じく、製造方法を示すフローチャート。
【図10】同じく、セッティング工程の製造装置を分解して示す縦断面図。
【図11】同じく、セッティング工程の製造装置を示す縦断面図。
【図12】同じく、加圧工程の製造装置を示す縦断面図。
【図13】同じく、加圧工程の製造装置を示す縦断面図。
【図14】同じく、製造後のクランクシャフトを概略的に示す正面図。
【図15】(A)〜(D)は、クランクシャフトの製造方法を示す概念図。
【図16】同じく、クランクシャフトの製造装置を示す縦断面図。
【図17】同じく、クランクシャフト製造時のフローティング治具の挙動を示すグラフ。
【図18】第2実施形態に係り、クランクシャフトの製造装置を示す平面図。
【図19】同じく、製造装置を示す側面図。
【図20】同じく、製造装置を示す図18のE−E線断面図(縦断面図)。
【図21】第3実施形態に係り、クランクシャフトの製造装置を示す平面図。
【図22】同じく、製造装置を示す側面図。
【図23】同じく、製造装置を示す図21のF−F線断面図(縦断面図)。
【図24】同じく、製造装置の電気的構成を示すブロック図。
【図25】同じく、コントローラが制御するフローティング治具の挙動を示すグラフ。
【図26】第4実施形態に係り、赤外線カメラによる軸素材の応力測定を示す概念図。
【図27】同じく、製造装置の電気的構成を示すブロック図。
【図28】同じく、応力クライテリア曲線を示すグラフ。
【図29】同じく、最大主応力σと最大応力σmaxとの相関を示すグラフ。
【図30】同じく、コントローラが実行する制御プログラムを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0076】
1 製造装置
2 固定治具(荷重供給手段)
3 案内治具(移動規制手段)
4 案内ブロック(変位規定手段)
4A 別の案内ブロック(変位規定手段)
4a 案内面
4b 案内面
5 フローティング治具
6 固定ダイ
7 押しダイ(荷重供給手段)
8 軸素材
9 保持部材
10 フローティングダイ
11A〜11C ボルト(移動規制手段)
14 クランクシャフト
21 製造装置
22 カムフォロア
23 カム溝
24 固定治具(荷重供給手段)
25 案内治具(移動規制手段)
26 フローティング治具
27 保持部材
31 製造装置
32 カム溝
33 第1サーボモータ(荷重供給手段)
34 第2サーボモータ(移動手段)
39 コントローラ(制御手段)
41 赤外線カメラ(応力測定手段)
SD 特定方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸素材からクランクシャフトを製造するクランクシャフトの製造方法であって、
前記軸素材の所定部位における半径方向への変形を特定方向以外の方向につき規制しながら前記軸素材に軸方向の圧縮荷重を加えることにより、前記軸素材を据え込み、前記所定部位を前記特定方向へ座屈させると共に、前記軸素材の圧縮と座屈の関係を前記座屈が前記圧縮に先行しないように規定することを特徴とするクランクシャフトの製造方法。
【請求項2】
軸素材からクランクシャフトを製造するクランクシャフトの製造方法であって、
前記軸素材上の所定部位にダイを保持し、前記軸素材の半径方向における前記ダイの移動を特定方向以外の方向につき規制する第1の工程と、
前記軸素材に前記軸方向の圧縮荷重を加えることにより、前記軸素材を据え込み、前記ダイを前記特定方向へ移動を許容して前記所定部位を前記特定方向へ座屈させると共に、前記軸方向及び前記特定方向における前記ダイの移動を規定することにより前記軸素材の圧縮と座屈の関係を前記座屈が前記圧縮に先行しないように規定する第2の工程と
を備えたことを特徴とするクランクシャフトの製造方法。
【請求項3】
軸素材からクランクシャフトを製造するクランクシャフトの製造装置において、
前記軸素材上に付けられるダイと、
前記軸素材上の所定部位にて前記ダイを保持する保持部材と、
前記軸素材の半径方向における前記保持部材の移動を前記ダイと共に特定方向以外の方向につき規制する移動規制手段と、
前記軸素材に前記軸方向の圧縮荷重を加える荷重供給手段と、
前記軸素材の圧縮と座屈の関係を前記座屈が前記圧縮に先行しないように規定するために前記保持部材の変位を前記ダイと共に規定する変位規定手段と
を備えたことを特徴とするクランクシャフトの製造装置。
【請求項4】
前記変位規定手段は、前記保持部材の変位を所定の経路で案内するために前記保持部材の外縁に接触可能に設けられた案内面を有する案内部材であることを特徴とする請求項3に記載のクランクシャフトの製造装置。
【請求項5】
前記変位規定手段は、前記保持部材の変位を所定の経路で案内するために前記保持部材に設けられたカムフォロアと、前記カムフォロアを案内するカム溝が設けられた案内部材とを含むことを特徴とする請求項3に記載のクランクシャフトの製造装置。
【請求項6】
前記変位規定手段は、前記保持部材の変位を所定の経路で案内するために前記保持部材に設けられたカムフォロアと、前記カムフォロアを前記軸素材の前記軸方向に案内するカム溝が設けられた案内部材と、前記案内部材を前記軸素材の前記半径方向に移動させるための移動手段とを含むことと、
前記荷重供給手段の動作に合わせて前記移動手段の動作を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする請求項3に記載のクランクシャフトの製造装置。
【請求項7】
前記軸素材に生じる応力を非接触で測定するための応力測定手段を更に備え、前記制御手段は、前記測定された応力が所定の最大応力を越えないように前記荷重供給手段及び前記移動手段の動作を制御することを特徴とする請求項6に記載のクランクシャフトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2010−5626(P2010−5626A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164124(P2008−164124)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】