説明

クランク軸温度検出、監視方法及びその装置

【課題】非接触方式で以って、クランク室内のオイルミストや水蒸気の影響が軽微で高精度且つ応答性が良好なクランク軸温度検出、監視手段を提供する。
【解決手段】クランク軸温度検出、監視手段であって、赤外線カメラでクランク軸の軸線方向に分けた各検出区間のクランク軸画像を撮像し、画像処理して各検出区間のクランク軸温度を検出し、この各検出区間のクランク軸温度検出値と全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を各検出区間毎に算出し、各検出区間毎の温度偏差の算出値と許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジン、ディーゼルエンジン等に適用され、エンジンのクランク軸の温度を検出し、このクランク軸温度検出結果に基づき該クランク軸の温度状態を監視するように構成されたクランク軸温度検出、監視方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランク軸101は、図9に示すように、これの主軸受ジャーナル部やクランクピン軸受部に硬質の異物が噛み込むと、図9のZ部のように、異物噛み込み部の温度が急上昇して、クランク軸101の過大磨耗や軸受との焼き付きを誘発する。
従って、エンジン運転中、クランク軸101の温度を常時監視して急激な温度上昇を迅速に且つ正確に捉えることが要求される。
【0003】
クランク軸の温度を検出し、監視する手段としては、図10に示されるように、エンジン100のクランク室内のブリーズガスをブロア110で吸引してオイルミスト濃度計測器111に送り込み、該オイルミスト濃度計測器111においてオイルミスト濃度を計測して、クランク軸の温度変化を間接的に検知する手段や、主軸受部の温度を計測する手段が提供されている。
尚、赤外線カメラを用いて燃焼室の温度を推定する手段が、特許文献1(特開2005−164453号公報)で開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−164453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クランク軸の温度を検出し、監視する手段としては、クランク軸が回転しているため、前述のように、クランク軸を支持する主軸受部の温度を計測して該主軸受部の温度によってクランク軸の温度を推定する手段、あるいは図9に示されるようにクランク室内のオイルミスト濃度を計測してクランク軸の温度を推定する手段等の、クランク軸の温度を間接的に検知する手段が主として採用されている。
また、回転しているクランク軸の温度を直接検出する手段としては、熱電対とスリップリングを用いる方法等の接触方式が主として採用されているにとどまっており、非接触方式で以って、クランク室内のオイルミストや水蒸気の影響が軽微で、高精度且つ応答性が良好なクランク軸の温度の検出、監視手段の提供が要求されている。
【0006】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、非接触方式で以って、クランク室内のオイルミストや水蒸気の影響が軽微で、高精度且つ応答性が良好なクランク軸温度検出、監視手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる目的を達成するもので、エンジンのクランク軸の温度を検出し、このクランク軸温度検出結果に基づき該クランク軸の温度状態を監視するクランク軸温度検出、監視方法であって、前記クランク軸の軸線方向に複数の検出区間に分け、赤外線カメラで前記各検出区間のクランク軸画像を撮像し、この撮像画像を画像処理して前記各検出区間のクランク軸温度を検出し、この各検出区間のクランク軸温度検出値と、該温度検出値に基づき算出された全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を前記各検出区間毎に算出し、前記各検出区間毎の温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定することを特徴とする。
【0008】
また、かかるクランク軸温度検出、監視方法に用いる装置の発明は、クランク軸の軸線方向に区分された複数の検出区間のクランク軸画像を撮像する赤外線カメラと、該赤外線カメラから入力される前記撮像画像を画像処理して前記各検出区間のクランク軸温度を検出し、この各検出区間のクランク軸温度検出値と該温度検出値に基づき算出された全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を前記各検出区間毎に算出し、前記各検出区間毎の温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定する演算装置とをそなえたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、エンジンのクランク軸の温度を検出し、このクランク軸温度検出結果に基づき該クランク軸の温度状態を監視するクランク軸温度検出、監視方法であって、前記クランク軸の軸線方向に複数の検出区間に分け、ファイバスコープを各検出区間に対応して配置するとともに各ファイバスコープに赤外線カメラを接続し、前記各ファイバスコープを通して前記赤外線カメラにより前記各検出区間のクランク軸画像を撮像し、この撮像画像を画像処理して前記各検出区間のクランク軸温度を検出し、前記各検出区間のクランク軸温度検出値と、該温度検出値に基づき算出された全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を前記各検出区間毎に算出し、前記各検出区間毎の温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定することを特徴とする。
【0010】
また、かかるクランク軸温度検出、監視方法に用いる装置の発明は、前記クランク軸の軸線方向に区分された複数の検出区間に対応してファイバスコープを設置するとともに、前記赤外線カメラを前記検出区間と同数設けて各赤外線カメラを前記各ファイバスコープに接続し、前記各ファイバスコープを通して前記赤外線カメラにより前記各検出区間のクランク軸画像を撮像してこの撮像信号を前記演算装置に伝送するように構成する。
【0011】
また、本発明は、エンジンのクランク軸の温度を検出し、このクランク軸温度検出結果に基づき該クランク軸の温度状態を監視するクランク軸温度検出、監視方法であって、前記クランク軸の軸線方向に複数の検出区間に分け、ファイバー式放射温度計を各検出区間に対応して配置して該ファイバー式放射温度計により前記各検出区間のクランク軸温度を検出し、各検出区間のクランク軸温度検出値と、該温度検出値に基づき算出された全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を前記各検出区間毎に算出し、前記各検出区間毎の温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定することを特徴とする。
【0012】
また、かかるクランク軸温度検出、監視方法に用いる装置の発明は、クランク軸の軸線方向に区分された複数の検出区間に対応して設置されて各検出区間のクランク軸温度を検出するファイバー式放射温度計と、該ファイバー式放射温度計から入力される前記各検出区間のクランク軸温度検出値と該温度検出値に基づき算出された全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を前記各検出区間毎に算出し、前記各検出区間毎の温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定する演算装置とをそなえたことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明において、具体的には次のように構成するのが好ましい。
(1)多シリンダエンジンにおいて、前記複数の検出区間をクランクスロー毎に設定する。
(2)前記各検出区間のクランク軸温度検出値を画像表示装置に画像として表示するとともに、前記クランク軸温度検出値の時間変化を該画像表示装置に表示する。
(3)前記クランク軸温度の異常判定にあたり、前記許容温度偏差として第1の許容温度偏差と該第1の許容温度偏差よりも大きい偏差値の第2の許容温度偏差との2つの許容温度偏差を設定し、当該検出区間の温度偏差が前記第1の許容温度偏差を超えたときクランク軸温度異常の警報を発信し、当該検出区間の温度偏差が前記第2の許容温度偏差を超えたときエンジンを停止する。
(4)前記クランク軸が収容されるクランク室内におけるオイルミスト濃度を検出し、前記赤外線カメラによる前記クランク軸の温度検出値を、前記オイルミスト濃度の検出値に基づく補正を行い、前記オイルミスト濃度による補正後の各検出区間の温度検出値を用いて前記許容温度偏差と比較する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、好ましくは多シリンダエンジンのクランクスロー毎に複数の検出区間に分け、赤外線カメラで前記各検出区間のクランク軸画像を撮像してこれを画像処理して各検出区間のクランク軸温度を検出し、この各検出区間のクランク軸温度検出値と、全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を各検出区間毎に算出し、この温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定するように構成し、あるいはファイバー式放射温度計を前記各検出区間に対応して配置して該ファイバー式放射温度計により各検出区間のクランク軸温度を検出し、この各検出区間のクランク軸温度検出値と、全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を各検出区間毎に算出し、この温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定するように構成したので、赤外線カメラによる撮像の画像処理によって、あるいはファイバー式放射温度計によって、クランク軸温度を、エンジンの運転中に非接触で直接に検出することができて、従来技術のような、クランク室内におけるオイルミスト濃度の検出値に基づきクランク軸温度を間接的に検知する手段に比べて、時間遅れが無く高い応答性で且つ高精度でクランク軸温度を検出することができる。
【0015】
そして、前記のように高精度で以って検出された各検出区間におけるクランク軸温度と、かかる複数の検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を、クランク軸温度の異常上昇の判定要素に用いて、該温度偏差の許容値(許容温度偏差)と比較してクランク軸温度の異常の有無を判定するので、クランク室内のオイルミストや水蒸気等の外乱の影響が抑制されて、精度良くクランク軸温度の異常の有無を判定できる。これにより、クランク軸の検出区間毎に、クランク軸温度の異常の有無の検知を、タイムラグを伴うことなく時々刻々行うことができて、エンジン運転中、クランク軸温度状態を高精度で監視することができる。
【0016】
また、クランク軸温度の異常判定にあたり、許容温度偏差として第1の許容温度偏差とこれよりも大きい偏差値の第2の許容温度偏差との2つの許容温度偏差を設定し、当該検出区間の温度偏差が前記第1の許容温度偏差を超えたときクランク軸温度異常の警報を発信し、当該検出区間の温度偏差が前記第2の許容温度偏差を超えたときエンジンを停止するように構成すれば、クランク軸温度の平均温度からの温度偏差の異常を軽度と重度との2段階で検知できることとなって、エンジン停止に移行する第2の許容温度偏差になる前の段階で、前記温度偏差が前記第1の許容温度偏差を超えたときに警報を発信し、かかる警報によって当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を、軽度の段階で早期に検知してクランク軸温度上昇への対処を施行できることとなって、クランク軸の過大磨耗や焼き付きへの移行を確実に防止できる。
【0017】
また、前記各検出区間のクランク軸温度検出値を画像表示装置に画像として表示するとともに、前記クランク軸温度検出値の時間変化を該画像表示装置に表示するように構成すれば、画像表示装置にリアルタイムで表示されるクランク軸温度検出値の時間変化から、温度上昇度が異常状態にあるか、あるいは異常状態に近い検出区間を一目で検知することができて、クランク軸温度上昇の防止処置を早期に行うことができる。
【0018】
また、クランク室内におけるオイルミスト濃度を検出し、赤外線カメラによるクランク軸の温度検出値を、前記オイルミスト濃度の検出値に基づく補正を行い、オイルミスト濃度による補正後の各検出区間の温度検出値を用いて許容温度偏差と比較するように構成すれば、クランク室内におけるオイルミストの影響を除去したクランク軸の温度検出値を得ることができて、クランク軸温度状態の判定精度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の第1実施例に係るガスエンジンのクランク軸温度検出、監視装置の全体構成図、図2は該第1実施例におけるクランク軸温度検出及び異常判定のフローチャート、図3は該第1実施例における表示装置の構成図である。
図1において、符号100で示されるエンジン(ガスエンジン)は、燃料ガス管からガス量調整弁を通して供給された燃料ガスと過給機から供給された圧縮空気とをガスミキサーで混合し、この混合気を吸気ポート及び吸気弁を通して燃焼室に供給し、該燃焼室において着火燃焼させ発生する仕事により、ピストンを介してクランク軸101を回転駆動するように構成されている。該クランク軸101の後端にはフライホイール102が連結されている。
【0021】
前記フライホイール102の外周には円周方向に沿って回転パルス発生用の複数の歯が形成され、該フライホイール102の外周に近接して設置されたフライホイールTDCピックアップを構成する回転パルス検出器2によって、エンジン100の各シリンダつまり各クランクスロー#1〜#5(この場合は5シリンダ)のTDC(上死点)の位置を検出する。
また、符号1で示される赤外線カメラは、前記クランク軸101のクランクスロー#1〜#5の検出区間におけるクランク軸表面の画像を撮像する。そして、前記回転パルス検出器2からの各クランクスロー#1〜#5のTDC位置の検出信号及び赤外線カメラ1からのクランク軸表面画像の撮像信号は、画像処理機能をそなえた演算装置3に入力され、該演算装置3においては、前記各クランクスローのTDC位置の検出信号及びクランク軸表面画像の撮像信号に基づき次のような処理、演算を行う。
【0022】
即ち、図2に示されるクランク軸温度検出及び異常判定のフローチャートにおいて、前記回転パルス検出器2からのTDC位置の検出信号が検知されると(ステップ(1))、爆発気筒順つまり爆発気筒のクランクスロー順に前記赤外線カメラ1からのクランク軸表面画像の撮像画像を取り込む(ステップ(2))。
ついで、画像処理域つまり前記クランクスロー#1〜#5の検出区間のおそれぞれにおける撮像画像を画像処理して、検出区間である各クランクスロー#1〜#5のクランク軸温度の一定時間内(たとえば1サイクル中)における平均クランク軸温度Tを算出する(ステップ(3))。
【0023】
次いで、前記平均クランク軸温度Tの前記各クランクスロー#1〜#5全体を通してのクランク軸温度平均値Tmを算出する。この場合、各クランクスロー#1〜#5における平均クランク軸温度Tの最大値及び最小値を除去し、中間の平均クランク軸温度Tを用いて、極端な温度値を除外する(ステップ(4))。
次いで、各クランクスロー#1〜#5つまり画像処理域Sのそれぞれの平均クランク軸温度Tと前記クランク軸温度全体平均値Tmとの温度偏差ΔT=T−Tmを算出する。
そして、前記温度偏差の算出値ΔTと、予め設定された許容温度偏差の第1の閾値即ち第1の許容温度偏差T1とを比較する(ステップ(5))。
そして前記温度偏差の算出値ΔTが許容温度偏差の第1の閾値T1以上(ΔT≧T1)のときは、当該クランクスローにおけるクランク軸温度異常の警報(アラーム)を発信する(ステップ(6))。
【0024】
次いで、前記温度偏差の算出値ΔTが許容温度偏差の第1の閾値T1以上(ΔT≧T1)のときは、つづいてあるいは一定時間をおいて、前記と同様にクランクスローにおける平均クランク軸温度Tとクランク軸温度全体平均値Tmとの温度偏差ΔT=T−Tmを算出し、前記温度偏差の算出値ΔTと、予め設定された許容温度偏差の第2の閾値即ち第1の許容温度偏差T1よりも大きい温度偏差値の閾値T2とを比較する(ステップ(7))。
そして前記温度偏差の算出値ΔTが許容温度偏差の第2の閾値T2以上(ΔT≧T2)に達したときは、当該クランクスローにおけるクランク軸温度がクランク軸101の過大磨耗や焼き付き発生の可能性を含んでいるものと判定して、エンジン緊急停止の信号を発信する(ステップ(8))。
【0025】
このように構成すれば、クランク軸温度のクランク軸温度全体平均値Tmからの温度偏差ΔTの異常を軽度の異常と重度の異常との2段階で検知できることとなって、エンジン停止に移行する第2の許容温度偏差の閾値T2になる前の段階で、前記温度偏差ΔTが第1の許容温度偏差の閾値T1を超えたときに警報を発信し、かかる警報によって当該クランクスローにおけるクランク軸温度の異常を軽度の段階で早期に検知して、クランク軸温度上昇への対処を施行できることとなって、クランク軸101の過大磨耗や焼き付きへの移行を確実に防止できる。
【0026】
また、かかる第1実施例において、前記回転パルス検出器2からのTDC位置の検出信号を検知し、爆発気筒順に赤外線カメラ1からのクランク軸表面画像の撮像画像を取り込み(ステップ(2))の後、図10と同様なオイルミスト濃度計測器111でクランク室内におけるオイルミスト濃度を検出し、赤外線カメラ1による撮像画像を、前記オイルミスト濃度の検出値に基づく補正を行い、該オイルミスト濃度による補正後の撮像画像を画像処理してから(ステップ(2a))、ステップ(3)のように、各クランクスロー#1〜#5のクランク軸温度の一定時間内(たとえば1サイクル中)における平均クランク軸温度Tを算出する。
このようにすることにより、クランク室内におけるオイルミストの影響を除去したクランク軸の温度検出値を得ることができて、クランク軸温度状態の判定精度を向上できる。
【0027】
以上のような、クランク軸温度検出値及び異常の有無の判定結果は、図3に示されるように、前記演算装置3に設けられた表示装置35の表示パネル3aに、クランクスロー#1〜#5に対応してS1,S2,S3,S4,S5のように表示される。これにより、クランク軸の温度状態を定量的にかつ目視検知を併用して監視することができる。
また、前記表示装置35の温度トレンド表示部40には、クランク軸温度検出値の時間変化を表示する。これにより、前記温度トレンド表示部40にリアルタイムで表示されるクランク軸温度検出値の時間変化から、クランク軸101の温度上昇度が異常状態にあるか、あるいは異常状態に近いクランクスローを一目で検知することができて、クランク軸温度上昇の防止処置を早期に行うことができる。
【実施例2】
【0028】
図4は本発明の第2実施例に係るガスエンジンのクランク軸温度検出、監視装置の全体構成図、図5は該第2実施例におけるクランク軸温度検出及び異常判定のフローチャート、図6は該第1実施例における表示装置の構成図である。
この第2実施例においては、図4に示すように、ファイバスコープ30を各クランクスロー(検出区間)#1〜#5に対応して配置するとともに、各ファイバスコープ30に赤外線カメラ31を接続し、前記各ファイバスコープ30を通して前記各赤外線カメラ31により前記各クランクスロー#1〜#5のクランク軸画像を撮像して前記演算装置3に入力している。
該演算装置3における演算処理は、前記第1実施例と同様であり、またその他の構成についても前記第1実施例と同様で、第1実施例と同一の部材は同一の符号で示す。
【0029】
従って、図5に示されるクランク軸温度検出及び異常判定のフローチャートについては、爆発気筒順つまり爆発気筒のクランクスロー順に、前記各クランクスロー#1〜#5に設置した赤外線カメラ31にファイバスコープ30を介してクランク軸表面画像の撮像画像を取り込む(ステップ(2a))以外は、図2に示される第1実施例の処理フローと同様である。
また、クランク軸温度検出値及び異常の有無の判定結果は、図6に示されるように、前記演算装置3に設けられた表示装置35に、クランクスロー#1〜#5に対応してT1,T2,T3,T4,T5のように表示される。この実施例では、赤外線カメラ31から各クランクスロー#1〜#5までの距離が同一であるので、前記クランク軸温度検出値及び異常の有無の判定結果の画像T1,T2,T3,T4,T5が各クランクスローで同一サイズとなり、目視性が良好となる。
また、前記表示装置35の温度トレンド表示部40には、前記第1実施例と同様に、クランク軸温度検出値の時間変化が表示される。
【0030】
かかる第2実施例によれば、赤外線カメラ31から各クランクスロー#1〜#5までの距離が同一であるので、前記第1実施例のように赤外線カメラ1が1個の場合よりも、クランク軸温度の検出精度が高くなる。
【実施例3】
【0031】
図7は本発明の第3実施例に係るガスエンジンのクランク軸温度検出、監視装置の全体構成図、図8は該第3実施例におけるクランク軸温度検出及び異常判定のフローチャートである。
この第3実施例においては、図7に示すように、ファイバー式放射温度計21を各クランクスロー(検出区間)#1〜#5に対応して設置して、該ファイバー式放射温度計21により前記各クランクスロー#1〜#5のクランク軸温度を検出して、前記演算装置3に入力している。
該演算装置3における演算処理は、前記第1実施例と同様であり、またその他の構成についても前記第1実施例と同様で、第1実施例と同一の部材は同一の符号で示す。
【0032】
従って、図5に示されるクランク軸温度検出及び異常判定のフローチャートについては、爆発気筒順つまり爆発気筒のクランクスロー順に、前記各クランクスロー#1〜#5に設置したファイバー式放射温度計21からのクランク軸温度検出値を画像処理を行うことなく直接取り込む(ステップ(2b))。
そして、温度ファイバー式放射温度計21からの各クランクスロー#1〜#5のクランク軸温度検出値と各クランクスロー#1〜#5全体を通してのクランク軸温度平均値Tmとの差を温度偏差ΔTとしている。
その他の処理は、図2に示される第1実施例の処理フローと同様である。
この実施例においては、各クランクスロー#1〜#5に設置したファイバー式放射温度計21からのクランク軸温度検出値を直接取り込むので、前記第1実施例及び第2実施例で行うような画像処理が不要となり、クランク軸温度の検出が簡単になる。
【0033】
以上の第1〜第3実施例によれば、エンジンのクランクスロー#1〜#5毎に、赤外線カメラ1あるいは31で前記各クランクスロー#1〜#5のクランク軸画像を撮像してこれを画像処理して各クランクスロー#1〜#5のクランク軸温度を検出し、この各クランクスロー#1〜#5のクランク軸温度検出値と、全クランクスローのクランク軸平均温度との温度偏差ΔTを各クランクスロー#1〜#5毎に算出し、この温度偏差の算出値ΔTと予め設定された許容温度偏差(閾値T1あるいはT2)とを比較して、当該クランクスローの温度偏差ΔTが前記許容温度偏差T1あるいはT2を超えたとき当該クランクスローにおけるクランク軸温度の異常を判定するように構成し(第1〜第2実施例)、あるいはファイバー式放射温度計21を前記各クランクスロー#1〜#5に設置して各クランクスローにおけるクランク軸温度を検出し、この各クランクスローのクランク軸温度検出値と、全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差ΔTを各クランクスロー毎に算出し、この温度偏差ΔTの算出値と予め設定された許容温度偏差(閾値T1あるいはT2)とを比較して、当該クランクスローの温度偏差ΔTが前記許容温度偏差T1あるいはT2を超えたとき当該クランクスローにおけるクランク軸温度の異常を判定するように構成したので(第3実施例)、赤外線カメラ1あるいは31による撮像の画像処理によって、あるいはファイバー式放射温度計21によって、クランク軸温度を、エンジンの運転中に非接触で直接に検出することができて、従来技術のような、クランク室内におけるオイルミスト濃度や水蒸気濃度の検出値に基づきクランク軸温度を間接的に検知する手段に比べて、時間遅れが無く高い応答性で且つ高精度でクランク軸温度を検出することができる。
【0034】
そして、前記のように高精度で以って検出された各クランクスローにおけるクランク軸温度と、かかる複数のクランクスローのクランク軸平均温度との温度偏差ΔTを、クランク軸温度の異常上昇の判定要素に用いて、該温度偏差ΔTの許容値(許容温度偏差)と比較してクランク軸温度の異常の有無を判定するので、クランク室内のオイルミストや水蒸気等の外乱の影響が抑制されて、精度良くクランク軸温度の異常の有無を判定できる。
これにより、クランク軸101のクランクスロー毎に、クランク軸温度の異常の有無の検知をタイムラグを伴うことなく時々刻々行うことができて、エンジン運転中、クランク軸温度状態を高精度で監視することができる。
【0035】
尚、以上の実施例は、ガスエンジンのクランク軸について示したが、本発明はこれに限定されることなく、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等、あらゆるエンジンのクランク軸に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、非接触方式で以って、クランク室内のオイルミストや水蒸気の影響が軽微で高精度且つ応答性が良好なクランク軸温度検出、監視手段を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施例に係るガスエンジンのクランク軸温度検出、監視装置の全体構成図である。
【図2】前記第1実施例におけるクランク軸温度検出及び異常判定のフローチャートである。
【図3】前記第1実施例における表示装置の構成図である。
【図4】本発明の第2実施例に係るガスエンジンのクランク軸温度検出、監視装置の全体構成図である。
【図5】前記第2実施例におけるクランク軸温度検出及び異常判定のフローチャートである。
【図6】前記第2実施例における表示装置の構成図である。
【図7】本発明の第3実施例に係るガスエンジンのクランク軸温度検出、監視装置の全体構成図である。
【図8】前記第2実施例におけるクランク軸温度検出及び異常判定のフローチャートである。
【図9】エンジン用クランク軸の温度分布の説明図である。
【図10】従来技術に係るクランク軸の温度検知手段の一例を示す系統図である。
【符号の説明】
【0038】
1,31 赤外線カメラ
2 回転パルス検出器
3 演算装置
21 ファイバー式放射温度計
30 ファイバスコープ
35 表示装置
40 温度トレンド表示部
100 エンジン(ガスエンジン)
101 クランク軸
102 フライホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランク軸の温度を検出し、このクランク軸温度検出結果に基づき該クランク軸の温度状態を監視するクランク軸温度検出、監視方法であって、前記クランク軸の軸線方向に複数の検出区間に分け、赤外線カメラで前記各検出区間のクランク軸画像を撮像し、この撮像画像を画像処理して前記各検出区間のクランク軸温度を検出し、この各検出区間のクランク軸温度検出値と、該温度検出値に基づき算出された全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を前記各検出区間毎に算出し、前記各検出区間毎の温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定することを特徴とするクランク軸温度検出、監視方法。
【請求項2】
エンジンのクランク軸の温度を検出し、このクランク軸温度検出結果に基づき該クランク軸の温度状態を監視するクランク軸温度検出、監視方法であって、前記クランク軸の軸線方向に複数の検出区間に分け、ファイバスコープを各検出区間に対応して配置するとともに各ファイバスコープに赤外線カメラを接続し、前記各ファイバスコープを通して前記赤外線カメラにより前記各検出区間のクランク軸画像を撮像し、この撮像画像を画像処理して前記各検出区間のクランク軸温度を検出し、前記各検出区間のクランク軸温度検出値と、該温度検出値に基づき算出された全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を前記各検出区間毎に算出し、前記各検出区間毎の温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定することを特徴とするクランク軸温度検出、監視方法。
【請求項3】
エンジンのクランク軸の温度を検出し、このクランク軸温度検出結果に基づき該クランク軸の温度状態を監視するクランク軸温度検出、監視方法であって、前記クランク軸の軸線方向に複数の検出区間に分け、ファイバー式放射温度計を各検出区間に対応して配置して該ファイバー式放射温度計により前記各検出区間のクランク軸温度を検出し、各検出区間のクランク軸温度検出値と、該温度検出値に基づき算出された全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を前記各検出区間毎に算出し、前記各検出区間毎の温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定することを特徴とするクランク軸温度検出、監視方法。
【請求項4】
多シリンダエンジンにおいて、前記複数の検出区間をクランクスロー毎に設定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクランク軸温度検出、監視方法。
【請求項5】
前記各検出区間のクランク軸温度検出値を画像表示装置に画像として表示するとともに、前記クランク軸温度検出値の時間変化を該画像表示装置に表示することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクランク軸温度検出、監視方法。
【請求項6】
前記クランク軸温度の異常判定にあたり、前記許容温度偏差として第1の許容温度偏差と該第1の許容温度偏差よりも大きい偏差値の第2の許容温度偏差との2つの許容温度偏差を設定し、当該検出区間の温度偏差が前記第1の許容温度偏差を超えたときクランク軸温度異常の警報を発信し、当該検出区間の温度偏差が前記第2の許容温度偏差を超えたときエンジンを停止することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクランク軸温度検出、監視方法。
【請求項7】
前記クランク軸が収容されるクランク室内におけるオイルミスト濃度を検出し、前記赤外線カメラによる前記クランク軸の温度検出値を、前記オイルミスト濃度の検出値に基づく補正を行い、前記オイルミスト濃度による補正後の各検出区間の温度検出値を用いて前記許容温度偏差と比較することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクランク軸温度検出、監視方法。
【請求項8】
エンジンのクランク軸の温度を検出し、このクランク軸温度検出結果に基づき該クランク軸の温度状態を監視するように構成されたクランク軸温度検出、監視装置において、前記クランク軸の軸線方向に区分された複数の検出区間のクランク軸画像を撮像する赤外線カメラと、該赤外線カメラから入力される前記撮像画像を画像処理して前記各検出区間のクランク軸温度を検出し、この各検出区間のクランク軸温度検出値と該温度検出値に基づき算出された全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を前記各検出区間毎に算出し、前記各検出区間毎の温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定する演算装置とをそなえたことを特徴とするクランク軸温度検出、監視装置。
【請求項9】
前記クランク軸の軸線方向に区分された複数の検出区間に対応してファイバスコープを設置するとともに、前記赤外線カメラを前記検出区間と同数設けて各赤外線カメラを前記各ファイバスコープに接続し、前記各ファイバスコープを通して前記赤外線カメラにより前記各検出区間のクランク軸画像を撮像してこの撮像信号を前記演算装置に伝送するように構成したことを特徴とする請求項8記載のクランク軸温度検出、監視装置。
【請求項10】
エンジンのクランク軸の温度を検出し、このクランク軸温度検出結果に基づき該クランク軸の温度状態を監視するように構成されたクランク軸温度検出、監視装置において、前記クランク軸の軸線方向に区分された複数の検出区間に対応して設置されて各検出区間のクランク軸温度を検出するファイバー式放射温度計と、該ファイバー式放射温度計から入力される前記各検出区間のクランク軸温度検出値と該温度検出値に基づき算出された全検出区間のクランク軸平均温度との温度偏差を前記各検出区間毎に算出し、前記各検出区間毎の温度偏差の算出値と予め設定された許容温度偏差とを比較して、当該検出区間の温度偏差が前記許容温度偏差を超えたとき当該検出区間におけるクランク軸温度の異常を判定する演算装置とをそなえたことを特徴とするクランク軸温度検出、監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−209168(P2008−209168A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44753(P2007−44753)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】