説明

クリーニング装置および印刷装置

【課題】インクを吐出して印刷を行う印刷装置の印刷ヘッドの定期クリーニングが、どのような動作環境下においても、印刷処理の待ち時間が生じない最適なタイミングを見計らって開始することができるクリーニング装置および該クリーニング装置を備えた印刷装置を提供する。
【解決手段】定期クリーニングの開始トリガが発生したときに、音センサ24が検出するインクジェットプリンタ(印刷装置)1の動作環境の音が、レシート等の印刷音や支払い待ちの購買客が発する音等で大きく、インクジェットプリンタ1の動作環境が静かな状態でなければ、、動作環境音判定部210の判定結果に基づき、クリーニング制御部208により、動作環境が静かな状態になるまで定期クリーニングの開始トリガを留保して定期クリーニングの開始を最適なタイミングまでずらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して印刷を行う印刷装置の印刷ヘッドをクリーニングするクリーニング装置および印刷装置に関し、詳しくは、印刷装置に自律的に発生する定期クリーニングの開始タイミングの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンビニエンスストア等のPOSシステムのレシートプリンタには、インクジェットプリンタを使用したものがある。
【0003】
ところで、インクジェットプリンタは、インクカートリッジのインクを印刷ヘッドからレーシート用紙等に吐出することにより所要の印刷を行うように構成される。このようなインクジェットプリンタでは、印刷ヘッドのノズルに残留したインクの粘度が高くなるのを防止したり(増粘防止)、ノズルから印刷ヘッド内部に気泡が入り込むのを防止するため、自律的な定期的クリーニングを実行し、印刷ヘッドのノズルからインクを吸引して印刷ヘッドをクリーニングすることで、常に適正な印刷が行えるようになっている。
【0004】
また、印刷ヘッドのノズル形成面は用紙に対して微小間隔で対峙しているため、このノズル形成面には紙粉やインクなどが付着し易い。ノズル形成面に紙粉、インクなどが付着すると、ノズルが目詰まりしたり、用紙にインクが付着して汚れるなどの弊害が生じるおそれがある。そこで、前記定期クリーニングは、弾性吸収板によってノズル形成面に付着した異物を拭き取り、常に適正な印刷動作を行うことができるようにすることも目的として行われる。
【0005】
そして、定期クリーニングは、一般に、前回のクリーニングから一定時間が経過したときに自律的に実行される。そのため、インクジェットプリンタを使用したレシートプリンタ等においては、商品の購買客等に渡すレシート等の印刷処理中に定期クリーニングの開始タイミングが到来する事態が発生し得る。このような場合、印刷処理を優先してクリーニングを後で実行するか、印刷処理を一時中断してクリーニングを優先するかしなければならないが、クリーニングを優先して購買客等を待たすことは、コンビニエンスストア等においては、サービス面等から好ましくない。一方、印刷処理を優先して定期クリーニングを後回しにし、クリーニングを長期間実施しなければレシート等の印刷品質が低下するおそれがある。
【0006】
なお、印刷処理中に定期クリーニングの開始タイミングが到来する事態は、オフィスや家庭で使用されるインクジェットプリンタは勿論、連続印刷が行なわれる画像記録装置としてのインクジェットプリンタについても同様に発生し得る(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
そして、前記特許文献1には、画像記録装置としてのインクジェットプリンタにおいて、印刷処理中に印刷ヘッドの定期クリーニングの開始タイミングが到来すると、残りの印刷枚数等を考慮した区切りのよいタイミングで印刷処理を一時中断してクリーニングを実行し、作業性の向上と、印刷品質の劣化防止を図ることが記載されているが、この場合は、印刷処理の中断が生じる。
【0008】
そこで、前記レシートプリンタ等のインクジェットプリンタを使用したこの種の印刷装置において、印刷動作の過去の実績から印刷処理量が一定以下になる低印刷時間帯を抽出し、その低印刷時間帯に定期クリーニングを行うことにより、印刷処理と定期クリーニングとが重ならないようにして印刷装置の動作環境に応じた適切なタイミングで定期クリーニングを実行することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2008−68438号公報(段落[0002]−[0014]、[0033]−[0072]、図4A−図7等)
【特許文献2】特開2007−98706号公報(段落[0013]−[0015]、[0042]−[0064]、図4−図10等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献2に記載のように過去の実績に基づいて抽出された低印刷時間帯に定期クリーニングを行うようにしたとしても、コンビニエンスストア等の不定期にレシート等の印刷処理が発生する動作環境下においては、前記低印刷時間帯であってもレシート等の印刷処理が必要になる事態が必ず発生し得る。このとき、定期クリーニングを実行していると、クリーニングが終わるまで購買客等を待たせてしまう問題があり、とくに24時間営業のコンビニエンスストア等のように終日に亘り不定期にレシート等の印刷処理が発生する動作環境下のこの種の印刷装置においては、その解決が重要な課題となっている。
【0011】
この発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、どのような動作環境下においても、印刷処理の待ち時間が生じない最適なタイミングを見計らって定期クリーニングを開始することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のクリーニング装置は、上記目的を達成するため、インクを吐出して印刷を行う印刷装置の印刷ヘッドを定期クリーニングの開始トリガに応じてクリーニングするクリーニング装置において、前記印刷装置の動作環境の音を検出する音センサと、前記音センサの検出音と閾値との比較に基づき前記動作環境が静かな状態か否かを判定する判定手段と、前記定期クリーニングの開始トリガが発生したときに、前記判定手段の判定結果に基づき、前記動作環境が静かな状態になるまで前記開始トリガを留保して前記定期クリーニングの開始をずらす制御手段とを備えることを特徴としている。
【0013】
この場合、印刷装置のレシート等の印刷中等には、その印刷音や支払いを待つ購買客の動作音や声等により、印刷装置の動作環境の音(騒音)が大きくなることに着目し、定期クリーニングの開始トリガが発生したときに、音センサが検出する印刷装置の動作環境の音が、レシート等の印刷音や支払い待ちの購買客が発する音等で大きく、印刷装置の動作環境が静かな状態でなければ、音センサの検出音と閾値との比較に基づく判定手段の判定結果に基づき、制御手段により、動作環境が静かな状態になるまで前記開始トリガを留保して定期クリーニングの開始をずらすことができる。したがって、時間帯等にかかわらず、実際にレシート等の印刷が行われておらず、しかも、支払い待ちの購買客等もいないときに定期クリーニングを行なうことができ、どのような動作環境下においても、印刷処理の待ち時間が生じない最適なタイミングを見計らって定期クリーニングを開始することができる。
【0014】
また、この発明のクリーニング装置の前記判定手段は、前記印刷装置の印刷ジョブの発生から印刷の実行により印刷機構が動作する直前までの印刷直前の前記動作環境の音の終日の最小値と、終日の前記動作環境の音の最小値との間に設定された閾値を保持し、前記開始トリガの発生により前記音センサの検出音と前記閾値とを比較して前記動作環境が静かか否かを判断することが好ましい。
【0015】
この場合、前期閾値を、印刷ジョブが発生してから印刷機構が動作する直前までの印刷直前の動作環境の音、すなわち印刷音を除く支払い待ちの購買客等の動作音や声等の最小値より大きくすると、定期クリーニングが支払い待ちの顧客等に対するレシート等の印刷処理と重なるおそれがあり、また、前記閾値を、終日の動作環境の音の最小値以下に設定すると、どんなに静かであっても定期クリーニングが行なわれないおそれがあるが、前記閾値をそれらの音の間の大きさに設定し、音センサの検出音と前記閾値とを比較することにより、上記のいずれのおそれも発生しないようにして動作環境が静かか否かを精度よく判定することができ、印刷処理の待ち時間が生じない最適なタイミングを見計らって定期クリーニングを開始することができる具体的な構成を提供することができる。
【0016】
さらに、前記閾値は、前記印刷直前期間の前記動作環境の音の最小値および、終日の前記動作環境の音の最小値の決定のくり返しに基づく学習処理により更新されることが好ましい。
【0017】
この場合、前記閾値が動作環境の音の変化を学習して一層最適な値に更新され、印刷処理の待ち時間が生じない一層最適なタイミングで定期クリーニングを開始することができる。
【0018】
そして、前記印刷装置は、POSシステムのホストコンピュータに接続されたレシートプリンタであることが、実用的で好ましい。
【0019】
つぎに、この発明の印刷装置は、上記構成のクリーニング装置を備えることにより、どのような動作環境下においても、印刷処理の待ち時間が生じない最適なタイミングを見計らって定期クリーニングを開始することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の一実施形態について、図1ないし図7を参照して詳述する。
【0021】
(全体構成)
図1は本実施形態のPOSシステムの本発明にかかる部分の概略の構成を示し、このPOSシステムにおいては、例えば24時間営業のコンビニエンスストアの内部又は外部の事務所等に設置されたホストコンピュータ300と、コンビニエンスストア内の店内カウンタに設けられたレシートプリンタとしてのインクジェットプリンタ1が有線又は無線で接続され、インクジェットプリンタ1は後述する定期クリーニング等の例外的な期間を除いて常時印刷可能な状態であり、商品のバーコードの読み取り等に基づきホストコンピュータ300から印刷データ等が与えられてレシートやクーポンを不定期に印刷し、印刷されたレシートやクーポンは店員(従業員)が支払いを済ませた購買客等に渡す。
【0022】
本発明の印刷措置としてのインクジェットプリンタ1は後述する本発明のクリーニング装置を備える。図2はインクジェットプリンタ1を正面側から見た斜視図である。図3はインクジェットプリンタ1の本体装置14内の要部を背面側からみた斜視図である。
【0023】
それらの図面に示すように、インクジェットプリンタ1は、インクを吐出する印刷ヘッド2と、印刷ヘッド2が搭載されたキャリッジ3と、キャリッジ3を図2の矢印線Aで示す走査方向に移動させる移動機構4と、印刷ヘッド2にインクを供給するインク供給機構5とを備える。さらに、インクジェットプリンタ1の本体装置14は、背面や側面等の適当な位置(図1では背面の適当な位置)には動作環境(コンビニエンスストア内)の音を検出する本発明の音センサ24の収容部14aを備える。音センサ24はコンビニエンスストア内の音(騒音)を検出するセンサであり、簡易的には小型のマイクロホンからなるが、どのような構成であってもよい。
【0024】
印刷ヘッド2は、図2、図3に示すようにインクを吐出する複数のノズル6が形成された長方形のノズル形成面7を備える。ノズル形成面7は、キャリッジ3に形成された矩形の開口8から露出している。キャリッジ3を左右に移動させる移動機構4は、ガイド軸9と、駆動側プーリ10および従動側プーリ11の間に架け渡されたタイミングベルト12と、駆動側プーリ10を回転駆動するキャリッジモータ13とを備える。キャリッジ3の下面部はガイド軸9に対して摺動自在に支持されていると共に、タイミングベルト12に連結されている。従って、キャリッジモータ13によってタイミングベルト12を回転移動させると、キャリッジ3はガイド軸9に沿って図2の走査方向Aに移動する。
【0025】
このように走査方向Aにキャリッジ3を移動させると共にロール状に巻回された用紙Pを搬送しながら、インク供給機構5から供給されたインクを印刷ヘッド2のノズル6から用紙Pに吐出して印刷を行う。すなわち、ノズル形成面7に対峙する位置に用紙Pが搬送され、吐出したインク液滴により用紙Pの表面に金額等の印刷が行われる。インク供給機構5は、インクジェットプリンタ1の装置本体14に形成されたインクカートリッジ装着部15に着脱可能に装着されたインクカートリッジ16と、キャリッジ3に搭載された圧力減衰器17と、インクカートリッジ16と圧力減衰器17との間を接続したインク供給管18を有している。
【0026】
インクカートリッジ16は、硬質のケース19の内部に可撓性のインク収容部20が収納された構成となっている。このインク収容部20に形成されたインク取出し口21にはインク供給管18の一端部に取り付けられたインク供給針22が接続されている。インク供給管18の他方の端部23は圧力減衰器17に接続されている。従って、インクカートリッジ16のインク収納部20に貯留されたインクはインク供給管18を介して圧力減衰器17に供給され、そこから印刷ヘッド2に送られる。このようにして印刷ヘッド2に供給されたインクがノズル6から吐出される。
【0027】
ここで、図3中にCで示すキャリッジ3のホームポジションに対峙する位置には、クリーニングユニット(本発明の「クリーニング装置」の機構部)100が配置されている。このクリーニングユニット100は、印刷ヘッド2のクリーニング処理を行うためのヘッド回復機構として、ヘッド拭取機構101とインク吸引機構104とを備える。
【0028】
(インク吸引機構)
インク吸引機構104は、印刷ヘッド2がホームポジションCに移動したときに印刷ヘッド2のノズル形成面7を覆うキャップ105を備える。キャップ105は、キャリッジ3が記録領域Bを移動している間はユニットケース106の側に退避した位置にある。キャリッジ3がホームポジションCまで移動すると、キャップ105はユニットケース106から前方に突出した位置に切り替わり、印刷ヘッド2のノズル形成面7を覆った状態になる。
【0029】
このキャップ105の内側は、ユニットケース106に取り付けられたモータ107によって作動するポンプ108で減圧される。従って、キャップ105がノズル形成面7に被された状態のままポンプ108を作動させることにより。ノズル6からインクを吸引排出するインク吸引処理(クリーニング)を行うことができる。その結果、印刷ヘッド2の内部の気泡や粘度の高まったインクを除去することができるので、印刷ヘッド2の内部のインクを適切な状態に回復させることができる。
【0030】
(ヘッド拭取機構)
図2に示すように、ヘッド拭取機構101は、弾性変形可能なブレード102と、ブレード102を保持するブレード保持部材103とを備える。ブレード保持部材103は、ユニットケース106内に配置された歯車列等の伝達機構(図示省略)を介して、ユニットケース106に取り付けられたモータ107によって移動可能であり、ユニットケース106内に退避した状態、およびユニットケース106から突出した状態に切り換わる。ブレード102がユニットケース106から突出した状態になると、キャリッジ3が印刷領域BからホームポジションCに移動したときにブレード102の先端部分がノズル形成面7に接触して、これらに付着したインクや紙粉等が拭き取られる。
【0031】
(駆動制御系)
インクジェットプリンタ1における印刷ヘッド2の印刷動作、用紙Pの搬送機構(図示省略)の動作、およびインク吸引機構104、ヘッド拭取機構101などの動作部分の駆動制御は、マイクロコンピュータを中心として構成される駆動制御装置(本発明のクリーニング装置の回路部を形成する)200により行われる。
【0032】
すなわち、駆動制御装置200は、ROM(図示省略)に予め格納されている制御プログラムに従って、RAM(図示省略)内の作業領域等を用いてインクジェットプリンタ1の各部分の駆動を制御する。
【0033】
図4は前記駆動制御系の機能を示すブロック図であり、前記駆動制御系は印刷制御機能、搬送制御機能、印刷ヘッド2のクリーニングを行うクリーニングユニット100の起動および駆動制御機能を有する。なお、特に断りのない限り、本実施形態でいう印刷ヘッド2のクリーニングとは、インク吸引機構104により行われるノズル6からのインク吸引動作と、ヘッド拭取機構101によって行われるノズル形成面7に付着したインクや紙粉の拭取動作のいずれか一方、もしくはこれらを組み合わせた処理であり、定期クリーニングとは、一定期間ごとに発生するクリーニングの開始トリガに基づいて自律的に実行されるクリーニングである。
【0034】
図4に示す印刷駆動制御部201はドライバ202を介して、キャリッジモータ13、印刷ヘッド2を駆動制御し、所望の印刷を用紙Pに対して行う。搬送制御部203は、この印刷動作に連動して、ドライバ204を介して搬送モータなどの用紙搬送機構205を駆動制御する。
【0035】
図4のクリーニングユニット制御部206はクリーニング制御部208からの定期クリーニング等のクリーニングの開始トリガ(起動信号)によって起動され、ドライバ207を介して、吸引モータ107などから構成されるインク吸引機構104による印刷ヘッド2のクリーニングの駆動制御を行う。このクリーニングユニット制御部206は、印刷ヘッド2のクリーニングを行う際、キャリッジ3などを駆動して印刷ヘッド2を所定の位置に移動すると共に、クリーニングユニット100を駆動制御して、所定のインク吸引動作およびヘッド拭取動作を実行する。
【0036】
本発明の制御手段を形成するクリーニング制御部208は、計時部209の時刻信号やメンテナンスタイマ211の定期クリーニングの開始トリガ、動作環境音判定部210の判定結果が入力され、音センサ24の検出音が入力される動作環境音判定部210からの判定情報に基づき、動作環境が静かな状態になるまで定期クリーニングの開始トリガを留保し、動作環境が静かな状態になるまで定期クリーニングの開始トリガのクリーニングユニット制御部206への出力を遅らせる。
【0037】
(音センサ24の検出音)
音センサ24は、インクジェットプリンタ1の電源がオンしている限り動作し、通常はインクジェットプリンタ1の動作環境の音、具体的にはコンビニエンスストアの店内の音を終日(24時間)検出する。この検出音にはインクジェットプリンタ1の印刷音(機械的な動作音)や店員、購買客の発する音などが含まれるが、インクジェットプリンタ1の印刷実行直前には印刷音を除く店員や購買客の話し声等のその時点の検出音になり、一般に、支払いを待つ購買客が多くなる程大きくなる。一方、深夜や早朝等の購買客が無く、インクジェットプリンタ1が印刷もしていないときには検出音が最も小さくなる。
【0038】
そして、音センサ24の終日の検出音は例えば図5に示すように変化し、同図から、深夜や早朝等であっても、購買客が入店して印刷音や話し声がすると、検出音が大きくなることが分かる。なお、インクジェットプリンタ1の印刷音は、ホストコンピュータ300から印刷デーが与えられて印刷ジョブが発生し、それに基づいてインクジェットプリンタ1が実際に印刷を実行するときの印刷機構の動作音(機械音)である。
【0039】
(動作環境音判定部210の処理)
・閾値の設定
そして、音センサ24の検出音がインクジェットプリンタ1の印刷音や支払い待ちの購買客の動作音や声等によって大きくなることから、音センサ24の検出音と適当な大きさの閾値(デシベル値)との大小を比較して動作環境が静かか否かを判断すると、この判断に基づき、時間帯等にかかわらず、インクジェットプリンタ1の印刷中や支払い待ちの購買客がいる静かでないときには定期クリーニングの開始を留保し、インクジェットプリンタ1が印刷を終了して印刷待ちの購買客もなくなり、動作環境が静かになるまで定期クリーニングの開始をずらすことができる。
【0040】
定期クリーニングの開始を留保するか否かの基準(換言すれば、動作環境の静けさの判断基準)となる前記閾値は、インクジェットプリンタ1の動作環境の終日の音を収集して設定することができるが、このとき、前記閾値を、図5に示す終日の最小の検出音α以下に設定すると、それより大きな検出音が得られるときには定期クリーニングが行なえないので、定期クリーニングが全く行なわれないおそれがある。
【0041】
一方、支払い待ちの購買客等が存在するか否かは、インクジェットプリンタ1の印刷音を排除した周囲環境音が支払い待ちの購買客の動作音や声等によって大きくなっているか否かから判断することができる。そして、インクジェットプリンタ1の印刷ジョブの発生から印刷の実行により印刷機構が動作する直前までの検出音が支払い待ちの購買客の動作音や声等の最新の検出音となることから、前記閾値を、図5に示すインクジェットプリンタ1の印刷ジョブの発生から印刷の実行により印刷機構が動作する直前までの検出音の終日の最小値β以上に設定することが考えられるが、この場合は、何らかの原因で環境雑音が低くなってインクジェットプリンタ1の印刷音が小さく検出されるようなときに、印刷中に定期クリーニングを実行する事態を招来する。なお、例えば図5の12時の近傍の時間軸を伸長すると、図6に示すようになる。
【0042】
そこで、不揮発性メモリ212と共に本発明の判定手段を形成する動作環境音判定部210は、音センサ24の終日の検出音の微小時間間隔のサンプリングデータを、インクジェットプリンタ1の印刷実行時間等の情報と共に例えば不揮発性メモリ212に書き込んで収集し、設定された時刻に、前回(例えば前日)の終日の収集結果から、その日の全検出音の最小値αを下限値として検出し、その日の印刷直前の最小値βを上限値として検出し、例えば、重み付け平均の演算(A×α+B×β)/2から、下限値(最小値α)と上限値(最小値β)との間の適当な大きさの閾値Rを求め、EEPROM、フラッシュメモリ等の書き換え自在の不揮発性メモリ212に書き込んで保持し、動作環境の静けさの判断基準として適当な閾値Rを設定する。このようにすると、定期クリーニングは必ず実行され、かつ、定期クリーニングが印刷処理と重なる事態は確実に回避できる。なお、前記演算の式中のA、Bは予定された重み付けの係数である。
【0043】
ところで、閾値Rは最初に一回設定するだけでもよいが、信頼性等を向上するため、毎日、毎月等の単位で定期的に更新することが望ましく、さらには、その更新は、今回求めた最新の閾値に完全に置き換えて行なってもよいが、例えば、不揮発性メモリ212の現在の閾値Rと、今回求めた最新の閾値Rとに基づき、(C×現在のR+D×最新のR)/2の演算から、前回の閾値Rを考慮し、学習的に更新して設定することが好ましい。なお、閾値Rの更新は購買客が少ない深夜や早朝の設定した時刻に実行することが好ましい。また、前記演算の式中のC、Dは設定された重み付けの係数である。
【0044】
・判定の処理
上記のように設定された閾値Rに基づき、動作環境音判定部210はメンテナンスタイマ211から定期クリーニングの開始トリガが出力されると、音センサ24の最新の検出音と不揮発性メモリ212に保持されている閾値Rとの大きさの比較を、判定結果が後述する留保解除レベルに反転するまでくり返し、音センサ24の最新の検出音が閾値Rより小さくなると留保維持レベルから留保解除レベルに反転する判定結果をクリーニング制御部208に出力する。
【0045】
(クリーニング制御部208の処理)
つぎに、クリーニング制御部208の定期クリーニングの制御処理を図7のフローチャートを参照して説明する。
【0046】
クリーニング制御部208は、メンテナンスタイマ211から定期クリーニングの開始トリガが入力されると、このトリガをレジスタ等に保持してその出力を留保する(図7のステップS1、S2)。そして、動作環境音判定部210の判定結果が留保維持レベルから留保解除レベルに反転してインクジェットプリンタ1の動作環境が静かになるのを待ち(図7ステップS2、S3)、インクジェットプリンタ1がレシート等を印刷していたりり、支払い待ちの購買客がいたりして、音センサ24の検出音が大きい時には定期クリーニングを開始しないようにする。
【0047】
そして、インクジェットプリンタ1の動作環境が静かになり、インクジェットプリンタ1の印刷が終了して支払い待ちの購買客もいない状態になると、動作環境音判定部210の判定結果が留保維持レベルから留保解除レベルに反転することにより、定期クリーニングの開始トリガの留保を解除してこの開始トリガをクリーニングユニット制御部206に出力し、クリーニングユニット制御部206を起動する(図7のステップS3、S4)。
【0048】
(クリーニングユニット制御部206の処理)
定期クリーニングの開始トリガにより起動されたクリーニングユニット制御部206は、上述したようにドライバ207を介してクリーニングユニット100を駆動制御し、印刷ヘッド2の所定のインク吸引動作およびヘッド拭取動作を実行し、印刷ヘッド2を定期クリーニングする。
【0049】
なお、音センサ24、クリーニングユニット100、クリーニングユニット制御部206、ドライバ207、クリーニング制御部208、計時部209、動作環境音判定部210、メンテナンスタイマ211、不揮発性メモリ212により、印刷ヘッド2のクリーニング装置が形成されている。
【0050】
したがって、本実施形態の場合、定期クリーニングの開始トリガが発生したときに、音センサ24の検出音がレシート等の印刷音や支払い待ちの購買客の動作音や声等で大きく、インクジェットプリンタ1の動作環境(コンビニエンスストアの店内)内が静かでなければ、クリーニング制御部208により、インクジェットプリンタ1の動作環境が静かな状態になるまで前記開始トリガを留保して定期クリーニングの開始をずらすことができる。そのため、時間帯等にかかわらず、実際にレシート等の印刷が行われておらず、しかも、支払い待ちの購買客等もいない最適なタイミングを確実に見計らって定期クリーニングを行うようにすることができ、特に24時間営業のコンビニエンスストア等において、定期クリーニングによるサービスの低下等を招来することがない、新規なクリーニング装置を備えたインクジェットプリンタ構成のレシートプリンタを提供することができる。
【0051】
そして、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、音センサ24は本体装置14と別体であって有線、無線で本体装置14の駆動制御装置200に検出音のデータを送る構成であってもよい。この場合は、集音に好都合な位置に音センサ24を取付けることができる等の効果がある。また、閾値Rの設定手法や演算手法は、前記実施形態に限るものではない。
【0052】
そして、本発明は、POSシステムのレシートプリンタおよびそのクリーニング装置だけでなく、種々の情報管理システムの種々の用途のインクジェットプリンタおよびそのクリーニング装置に適用できるのは勿論であり、さらには、業務用や家庭用の種々のインクジェットプリンタおよびそのクリーニング装置にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明が適用される一実施形態のPOSシステムの説明図。
【図2】図1のインクジェットプリンタの斜視図。
【図3】図1のインクジェットプリンタの要部の斜視図。
【図4】図1のインクジェットプリンタの機能を説明するブロック図。
【図5】図1の音センサの検出音の終日の大きさの変化例の説明図。
【図6】図1の音センサの印刷時の検出音の変化例の説明図。
【図7】図4のクリーニング制御部の動作説明用のフローチャート。
【符号の説明】
【0054】
1…インクジェットプリンタ(印刷装置)、2…印刷ヘッド、24…音センサ、100…クリーニングユニット、200…駆動制御装置、208…クリーニング制御部、210…動作環境音判定部、R…閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出して印刷を行う印刷装置の印刷ヘッドを定期クリーニングの開始トリガに応じてクリーニングするクリーニング装置において、
前記印刷装置の動作環境の音を検出する音センサと、
前記音センサの検出音と閾値との比較に基づき前記動作環境が静かな状態か否かを判定する判定手段と、
前記定期クリーニングの開始トリガが発生したときに、前記判定手段の判定結果に基づき、前記動作環境が静かな状態になるまで前記開始トリガを留保して前記定期クリーニングの開始をずらす制御手段とを備えたクリーニング装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記印刷装置の印刷ジョブの発生から印刷の実行により印刷機構が動作する直前までの印刷直前の前記動作環境の音の終日の最小値と、終日の前記動作環境の音の最小値との間に設定された閾値を保持し、前記開始トリガの発生により前記音センサの検出音と前記閾値とを比較して前記動作環境が静かか否かを判断する請求項1に記載のクリーニング装置。
【請求項3】
前記閾値は、前記印刷直前期間の前記動作環境の音の最小値および、終日の前記動作環境の音の最小値の決定のくり返しに基づく学習処理により更新される請求項2に記載のクリーニング装置。
【請求項4】
前記印刷装置は、POSシステムのホストコンピュータに接続されたレシートプリンタである請求項1〜3のいずれかに記載のクリーニング装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のクリーニング装置を備えた印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−120248(P2010−120248A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295681(P2008−295681)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】