説明

クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物

【課題】優れた耐熱性や耐焼付き性を維持しつつ、特に省燃費性に優れたクロスヘッド機関用シリンダー潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は、鉱油及び/又は合成油からなる潤滑油基油と、(A)金属系清浄剤と、(B)無灰系分散剤と、(C)硫黄系極圧剤とを含有し、また任意に、(D)有機モリブデン化合物や(E)ジチオリン酸亜鉛の少なくとも1種を含み、且つ組成物の100℃における動粘度が12.6mm2/s以上であり、クロスヘッド型ディーゼル機関用として優れた省燃費性が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
舶用ディーゼルエンジンに使用されるクロスヘッド型ディーゼル機関には、シリンダーとピストン間を潤滑するシリンダー油と、その他の部位の潤滑と冷却とを司るシステム油が使用されている。シリンダー油は、シリンダー及びピストン(ピストンリング)間の潤滑に必要な適正な粘度と、ピストン及びピストンリングの運動が適正に行われるために必要な清浄性を保つ機能が求められる。
この機関は、通常、経済性の点から硫黄含有量が多い高硫黄燃料が使用されるため、燃焼により生成する硫酸等の酸性成分によるシリンダー腐食の問題を抱えている。この問題を防ぐため、シリンダー油には、生成する酸性成分を中和し、腐食を防止する機能も要求される。
【0003】
近年のクロスヘッド型ディーゼル機関は、更なる性能向上、例えば、ボアサイズ70cm以上というシリンダー径の大型化、平均ピストン速度で8m/s以上となるような超ロングストローク化を実現するためのピストンストロークの増大、更には、正味有効圧力(BMEP)1.8MPa以上という燃焼圧力の増大が進められる傾向にある。これら性能向上のための改良は、ピストンやシリンダーの壁温を上昇させる要因となっている。また、燃焼圧力の増大は、硫酸の滴点上昇を招くため、シリンダーの硫酸腐食が発生しやすい状況になる。この硫酸腐食防止のためには、例えば、250℃以上にシリンダーの壁温を上昇させる方法が採られている。また、近年、経済性の点から、シリンダーに注油される潤滑油量も削減傾向にある。
最近では省資源および地球環境問題の観点から、クロスヘッド型ディーゼル機関においても燃費向上要求が高まっている。従来、クロスヘッド型ディーゼル機関の燃費向上は、機関の改良により進められてきた。例えば、低回転機関の採用によるプロペラ効率の向上、静圧過給方式の採用、高効率過給機の採用やロングストローク化が挙げられる。
一方、自動車等の車両においてはエンジンの改良とともに省燃費油が開発され燃費向上に寄与してきた。しかし、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油としては、SAE粘度番手#50(100℃の動粘度16.3〜21.9mm2/s)のオイルが主として用いられ、これまでは省燃費油の使用についての配慮がなされていなかった。
【0004】
従来、舶用ディーゼルエンジン油としては、基油に通常の過塩基性金属系清浄剤を主成分として含有させて摩耗防止性を維持する低コストのものが多かった。しかし、最近になって、サリチレート系、スルホネート系、フェネート系あるいは複合系清浄剤等の様々なタイプの金属系清浄剤を主成分とし、極圧剤や分散剤を含有するものが開発されている(特許文献1〜6)。また、自動車等においては、有機モリブデン化合物等の摩擦調整剤を添加した省燃費油が開発され、燃費向上に寄与してきた。しかし、有機モリブデン化合物等の摩擦調整剤は、金属含有量が0.4質量%を超えるような舶用ディーゼルエンジン油においては、効果を発揮しないものとされてきたため、舶用省燃費油が実用化されるに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−275491号公報
【特許文献2】特表2002−515933号公報
【特許文献3】特表2002−501974号公報
【特許文献4】特表2002−500262号公報
【特許文献5】特開2002−241780号公報
【特許文献6】特開2005−281614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、優れた耐熱性や耐焼付き性を維持しつつ、特に省燃費性に優れたクロスヘッド機関用シリンダー潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、鉱油及び/又は合成油からなる潤滑油基油と、(A)金属系清浄剤と、(B)無灰系分散剤と、(C)硫黄系極圧剤とを含有し、且つ組成物の100℃における動粘度が12.6mm2/s以上であるクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、上記構成を採用するので、優れた省燃費性を発揮するとともに、耐熱性にも優れ、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物として好適である。特に、ボアサイズが70cm以上に大型化され、平均ピストン速度で8m/s以上となるような超ロングストローク、燃焼圧力が正味有効圧力(BMEP)で1.8MPa以上、シリンダー壁温250℃以上となるような条件で運転される2ストロークサイクルディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物として優れた効果を発揮する。また本発明の潤滑油組成物は、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー油以外の各種舶用ディーゼルエンジン油、コジェネレーション用ディーゼルエンジン油としても使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物(以下、単に本発明の組成物という)における潤滑油基油は特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油及び/又は合成油が使用できる。
鉱油としては、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油が例示できる。
【0010】
鉱油の全芳香族分は特に制限はないが、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。全芳香族分は0質量%でも良いが、添加剤の溶解性の点で1質量%以上が好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。基油の全芳香族分が40質量%を越える場合は、酸化安定性が劣る恐れがある。
なお、上記全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、及びピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物が含まれる。
鉱油中の硫黄分は特に制限はないが、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。硫黄分は0質量%でも良いが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。鉱油が硫黄分をある程度含むことにより、添加剤の溶解性を十分に高めることができる。
【0011】
合成油としては、例えば、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン(PAO)又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物が挙げられる。
【0012】
本発明において潤滑油基油は、例えば、1種以上の鉱油、1種以上の合成油、1種以上の鉱油と1種以上の合成油との混合油を使用することができる。
潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃の動粘度は4〜40mm2/sが好ましく、より好ましくは6〜40mm2/s、特に好ましくは8〜35mm2/sである。潤滑油基油の100℃での動粘度が40mm2/sを超える場合は、低温粘度特性が悪化する恐れがある。一方、その動粘度が4mm2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また基油の蒸発損失が大きくなる恐れがある。
【0013】
本発明において潤滑油基油は、100℃での動粘度が4〜17mm2/s未満及び100℃での動粘度が17〜40mm2/sの潤滑油基油を含有することが好ましい。100℃における動粘度が4〜17mm2/s未満の潤滑油基油としては、例えば、SAE10〜40等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられる。その好ましい動粘度は5.6mm2/s以上、より好ましくは9.3mm2/s以上であり、好ましくは14mm2/s以下、より好ましくは12.5mm2/s以下である。また、100℃における動粘度が17〜40mm2/sの潤滑油基油としては、例えば、SAE50、ブライトストック等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられ、その好ましい動粘度は20mm2/s以上、より好ましくは25mm2/s以上であり、好ましくは38mm2/s以下、より好ましくは35mm2/s以下である。
本発明においては、100℃での動粘度が4〜17mm2/s未満の潤滑油基油を主成分、例えば、潤滑油基油全量基準で50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有させ、必要に応じて100℃での動粘度が17〜40mm2/sの潤滑油基油を配合することができる。
【0014】
潤滑油基油の蒸発損失量は、NOACK蒸発量で20質量%以下が好ましく、16質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量が20質量%を超える場合、本発明の組成物における蒸発損失が大きく、粘度増加の原因となる恐れがある。
なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800に準拠して測定される潤滑油の蒸発量を測定したものである。
【0015】
潤滑油基油の粘度指数は特に制限はないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるようにその値は好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上である。粘度指数の上限は特に制限はなく、例えば、ノルマルパラフィン、スラックワックス、GTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油等の粘度指数135〜180程度のもの、コンプレックスエステル系基油、HVI-PAO系基油等の粘度指数150〜250程度のものも使用することができる。添加剤の溶解性や貯蔵安定性の点からは、粘度指数の上限は120以下が好ましく、110以下がより望ましい。
【0016】
本発明の組成物は必須成分として、(A)金属系清浄剤(以下(A)成分ということがある)を含有する。
金属系清浄剤としては、潤滑油用に通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、スルホネート系清浄剤、フェネート系清浄剤、サリチレート系清浄剤、ナフテネート系清浄剤が挙げられる。使用に際しては、単独あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
スルホネート系清浄剤としては、例えば、重量平均分子量1300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸の、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はその(過)塩基性塩を用いることができる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。
アルキル芳香族スルフォン酸としては、例えば、いわゆる石油スルフォン酸や合成スルフォン酸が挙げられる。
ここでいう石油スルフォン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。また合成スルフォン酸としては、例えば、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルフォン化したものが用いられる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルフォン化する際のスルフォン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0018】
フェネート系清浄剤としては、式(1)に示される構造を有する、アルキルフェノールサルファイドのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はその(過)塩基性塩を用いることができる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。
【0019】
【化1】

式(1)中、Rは炭素数6〜21の直鎖または分枝、飽和または不飽和のアルキル基を示し、mは重合度であって1〜10の整数、Sは硫黄元素、xは1〜3の整数を示す。
【0020】
式(1)におけるアルキル基の炭素数は、好ましくは9〜18、より好ましくは9〜15である。炭素数が6未満では基油に対する溶解性に劣るおそれがあり、炭素数が21を超える場合は製造が困難で、また耐熱性に劣るおそれがある。
フェネート系金属清浄剤の中では、式(1)に示される重合度mが4以上、特にmが4〜5のアルキルフェノールサルファイド金属塩を含有するものが、耐熱性が優れるため好ましい。
【0021】
サリチレート系清浄剤としては、例えば、炭素数1〜19の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属、アルカリ土類金属サリチレート又はその(過)塩基性塩、炭素数20〜40の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属、アルカリ土類金属サリチレート又はその(過)塩基性塩、炭素数1〜40の炭化水素基を2つ又はそれ以上有するアルカリ金属、アルカリ土類金属サリチレート又はその(過)塩基性塩が挙げられる。これら炭化水素基は同一でも異なっていても良い。これらの中では、低温流動性に優れる点で、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属、アルカリ土類金属サリチレート又はその(過)塩基性塩を用いることが望ましい。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0022】
(A)成分の塩基価は、50〜500mgKOH/gの範囲が好ましく、100〜450mgKOH/gの範囲がより好ましく、120〜400mgKOH/gの範囲が更に好ましい。塩基価が50mgKOH/g未満の場合は、腐食摩耗が増大するおそれがあり、500mgKOH/gを超える場合は溶解性に問題を生ずるおそれがある。
【0023】
(A)成分の金属比は特に制限はないが、下限は1以上、好ましくは2以上、特に好ましくは2.5以上、上限は好ましくは20以下、より好ましくは19以下、特に好ましくは18以下のものを使用することが望ましい。なお、ここでいう金属比とは、(A)成分における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表される。また、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルホン酸基、フェノール基、サリチル酸基等を意味する。
【0024】
本発明の組成物において、(A)成分は単独で用いることもできるが、2種以上を併用することもできる。併用する場合、特に、(1)過塩基性Caフェネート/過塩基性Caスルホネート、(2)過塩基性Caフェネート/過塩基性Caサリシレート、(3)過塩基性Caフェネート/過塩基性Caスルホネート/過塩基性Caサリシレート、のいずれかの組み合わせが好ましい。
【0025】
本発明の組成物において、(A)成分の含有割合は、組成物全量基準で、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは6〜25質量%、特に好ましくは8〜20質量%である。含有割合が3質量%未満の場合は必要とする清浄性および酸中和性が得られないおそれがあり、30質量%を超える場合は過剰な金属成分がピストンに堆積するおそれがある。
【0026】
本発明の組成物において、(A)成分に基づく金属分の含有割合は、組成物全量基準で、好ましくは0.7〜3.6質量%、より好ましくは1.0〜2.9質量%、特に好ましくは1.4〜2.7質量%である。含有割合が0.7質量%未満の場合は必要とする清浄性および酸中和性が得られないおそれがあり、3.6質量%を超える場合はピストントップランドに過剰の灰分が堆積してライナーのボアポリッシングやスカッフィングが発生するおそれがある。
【0027】
本発明の組成物は、必須成分として(B)無灰分散剤(以下(B)成分ということがある)を含有する。
(B)成分としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400、好ましくは60〜350の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、マンニッヒ系分散剤、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
前記含窒素化合物又はその誘導体のアルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合、潤滑油基油に対する溶解性が低下するおそれがあり、一方、400を超える場合は、本発明の組成物の低温流動性が悪化するおそれがある。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよく、好ましくは、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基が挙げられる。
【0028】
(B)成分としては、例えば、以下の(B−1)成分〜(B−3)成分から選択される1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
(B−1)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体、
(B−2)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体、
(B−3)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
【0029】
(B−1)成分としては、式(2)又は(3)で示される化合物が例示できる。
【化2】

【0030】
式(2)中、R20は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、hは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。一方、式(3)中、R21及びR22は、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、特に好ましくはポリブテニル基である。またiは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
【0031】
(B−1)成分には、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(2)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(3)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが含まれるが、本発明の組成物には、それらのいずれも、あるいはこれらの混合物が含まれていても良い。
(B−1)成分であるコハク酸イミドの製法は特に制限はなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。
ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンが例示できる。
【0032】
(B−2)成分としては、式(4)で表される化合物が例示できる。
【化3】

式(4)中、R23は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、jは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0033】
(B−2)成分であるベンジルアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させる方法が挙げられる。
【0034】
(B−3)成分としては、式(5)で表される化合物が例示できる。
24−NH−(CH2CH2NH)k−H (5)
式(5)中、R24は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、kは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
(B−3)成分であるポリアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させる方法が挙げられる。
【0035】
(B)成分として例示した含窒素化合物の誘導体としては、例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30の、脂肪酸等のモノカルボン酸やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸若しくはこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる含酸素有機化合物による変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物にリン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるリン酸変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物、特にビスタイプのアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物は、上述の(A)成分と併用することで耐熱性を更に向上させることができる。
【0036】
本発明の組成物における(B)成分の含有割合は、組成物全量基準で、窒素量として、通常0.005〜0.4質量%、好ましくは0.01〜0.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.1質量%、特に好ましくは0.02〜0.05質量%である。また、(B)成分として、ホウ素含有無灰分散剤を使用する場合、そのホウ素含有量と窒素含有量との質量比(B/N比)は特に制限はないが、好ましくは0.5〜1、より好ましくは0.7〜0.9である。B/N比が高いほど摩耗防止性、耐焼付き性を向上させ易いが、1を超える場合は、安定性に懸念がある。また、ホウ素含有無灰分散剤を使用する場合、その含有割合は特に制限はないが、組成物全量基準で、ホウ素量として、好ましくは0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.005〜0.05質量%、特に好ましくは0.01〜0.04質量%である。
【0037】
本発明の組成物において(B)成分は、ホウ素含有量が0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、特に好ましくは1.8質量%のホウ素含有無灰分散剤、特に、ビスタイプのホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤を含有させることが最も望ましい。
なお、ここでいうホウ素含有量が0.5質量%以上のホウ素含有無灰分散剤は、10〜90質量%、好ましくは30〜70質量%の、例えば、鉱油、合成油等の希釈油を含んでいても良く、そのホウ素含有量は、通常、希釈油を含んだ状態でのホウ素含有量を意味する。
【0038】
本発明の組成物は、必須成分として(C)硫黄系極圧剤(以下(C)成分ということがある)を含有する。
(C)成分としては、例えば、ジヒドロカルビルポリサルファイド、硫化脂肪酸、硫化オレフィン、硫化エステル、硫化油脂、硫化鉱油、チアゾール化合物、チアジアゾール化合物、アルキルチオカーバメート化合物が好ましく挙げられる。
上記ジヒドロカルビルポリサルファイドは、一般的にポリサルファイドまたは硫化オレフィンと呼ばれる硫黄系化合物であり、具体的には式(6)で表される化合物を意味する。
1−Sh−R2 (6)
式中、R1及びR2は個別に、炭素数3〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリール基あるいは炭素数6〜20のアリールアルキル基を表し、hは2〜6、好ましくは2〜5の整数を表す。
これらの中でも、式(6)中のR1及びR2としては、プロピレン、1−ブテン又はイソブチレンから誘導される炭素数3〜18のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、アルキルアリール基あるいはアリールアルキル基であることが好ましい。
【0039】
上記硫化脂肪酸としては、例えば、硫化オレイン酸が挙げられる。
上記硫化オレフィンとしては、例えば、式(7)で表される化合物が挙げられる。
3−Sy−R4 (7)
式中、R3は炭素数2〜15のアルケニル基、R4は炭素数2〜15のアルキル基又はアルケニル基を示し、yは1〜8の整数を示す。
硫化オレフィンは、炭素数2〜15のオレフィン又はその2〜4量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られる。該オレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンが好ましく挙げられる。
【0040】
上記硫化エステルとしては、例えば、牛脂、豚脂、魚脂、菜種油、大豆油等の動植物油脂;不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸又は上記動植物油脂から抽出された脂肪酸類などを含む)と、各種アルコールとを反応させて得られる不飽和脂肪酸エステル又はこれらの2種以上の混合物を任意の方法で硫化することにより得られるものが挙げられる。
より具体的には、例えば、硫化オレイン酸メチル、硫化米ぬか脂肪酸オクチル又はこれらの混合物が挙げられる。
上記硫化油脂は、硫黄や硫黄含有化合物と、ラード油、鯨油、植物油、魚油等の油脂とを反応させて得られるものであり、例えば、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油が挙げられる。
上記硫化鉱油とは、鉱油に単体硫黄を溶解させたものをいう。
【0041】
上記チアゾール化合物としては、例えば、式(8)又は(9)で表される化合物が好ましく挙げられ、特に、式(9)で表されるベンゾチアゾール化合物が好ましい。
【化4】

式(8)及び(9)中、R6及びR7はそれぞれ水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基を表し、R8は炭素数1〜4のアルキル基を表す。e、f及gはそれぞれ個別に0〜3の整数を示す。
6及びR7で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、又はアリールアルキル基が挙げられる。
【0042】
上記チアジアゾール化合物としては、例えば、式(10)で表される2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール等の1,3,4−チアジアゾール化合物が挙げられる。
【化5】

式(10)中、R21、R22は個別に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、c及びdは個別に0〜8の整数を示す。
【0043】
上記アルキルチオカーバメート化合物としては、例えば、式(11)で示される化合物が挙げられる。
【化6】

式(11)中、R31、R32、R33及びR34は個別に、炭素数1〜20のアルキル基を示し、R35は炭素数1〜10のアルキル基を示す。
式(11)で示される化合物としては、例えば、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)、メチレンビス(ジ(2−エチルヘキシル)ジチオカーバメート)が好ましく挙げられる。
【0044】
本発明の組成物において(C)成分を含有させる場合の含有割合は、組成物全量基準で、硫黄分として、通常0.01〜0.20質量%、好ましくは0.02〜0.15質量%、より好ましくは0.03〜0.10質量%である。含有割合が0.01質量%未満では十分な摩擦低減効果が得られないおそれがあり、0.20質量%を超える場合は清浄性が悪化し、腐食摩耗が発生するおそれがある。
【0045】
本発明の組成物は、(D)有機モリブデン化合物(以下、(D)成分ということがある)を含有することが好ましい。(D)成分としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物;モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン;オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸;これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩;二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン;硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル)あるいはその他の有機化合物との錯体;あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物と、アルケニルコハク酸イミドとの錯体を挙げることができる。
【0046】
(D)成分としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることもできる。硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩が挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩又はアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0047】
本発明の組成物において(D)成分を含有させる場合の含有割合は、組成物全量基準で、モリブデン元素換算量として、通常0.02〜0.12質量%、好ましくは0.04〜0.10質量%、さらに好ましくは0.05〜0.08質量%である。モリブデン元素換算量としての含有割合が0.02質量%未満では、十分な省燃費効果が得られないおそれがあり、0.08質量%を超える場合には本発明の組成物中での溶解性に問題を生ずるおそれがある。
【0048】
本発明の組成物は、摩耗防止剤として、(E)ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)(以下、(E)成分ということがある)を含有することが好ましい。
(E)成分としては、例えば、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジヘプチルジチオリン酸亜鉛、又はジオクチルジチオリン酸亜鉛等の炭素数3〜18、好ましくは炭素数3〜10の直鎖状若しくは分枝状(第1級、第2級又は第3級、好ましくは第1級又は第2級)アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛;ジフェニルジチオリン酸亜鉛、又はジトリルジチオリン酸亜鉛等の炭素数6〜18、好ましくは炭素数6〜10のアリール基若しくはアルキルアリール基を有するジ((アルキル)アリール)ジチオリン酸亜鉛、又はこれら2種以上の混合物が挙げられる。
【0049】
本発明の組成物において(E)成分の含有割合は、組成物全量基準で、リン元素換算量で、通常0.15質量%以下であり、好ましくは、0.10質量%以下、さらに好ましくは、0.08質量%以下、最も好ましくは、0.05質量%以下である。(E)成分の含有割合が0.15質量%を超える場合には、(E)成分の分解物が金属腐食を発生させたり金属系清浄剤を消耗させ清浄性を悪化させるおそれがある。
【0050】
本発明の組成物は、上記構成に加え、その性能を更に向上させるため又は他に要求される性能を付加するために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤をさらに含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、無灰摩擦調整剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、又は着色剤が挙げられる。
【0051】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤;銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。これらを含有させる場合の割合は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
無灰摩擦調整剤としては、例えば、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系が挙げられる。これらを含有させる場合の割合は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
【0052】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステルが挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤が挙げられる。
【0053】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリルが挙げられる。
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が0.1〜100mm2/s未満のシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体等が挙げられる。
【0054】
これらの添加剤を本発明の組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ通常0.005〜5質量%、金属不活性化剤では通常0.005〜1質量%、消泡剤では通常0.0005〜1質量%の範囲から選ばれる。
【0055】
本発明の組成物の100℃における動粘度は、12.6mm2/s以上であることが必要であり、好ましくは13.0〜25mm2/s、より好ましくは14.0〜22mm2/sである。100℃における動粘度が12.6mm2/sを下回る場合は潤滑性が不足するおそれがあり、25mm2/sを超える場合は、十分な省燃費効果が得られないおそれがある。
ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D-445に規定される100℃での動粘度を意味する。
【0056】
本発明の組成物の100℃における高温高せん断粘度(HTHS粘度)は、通常16mPa・sを超え、好ましくは17mPa・s以上である。
ここでいう100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される、温度100℃、せん断速度106-1において測定される高温高せん断粘度を意味する。
【0057】
本発明の組成物の塩基価(TBN)は特に制限はないが、アスファルテンを含有する高硫黄燃料を使用する場合に対しても優れた高温清浄性と酸中和性能を付加するために、好ましくは20〜100mgKOH/g、より好ましくは30〜90mgKOH/g、さらに好ましくは40〜80mgKOH/gである。塩基価が20mgKOH/g未満の場合は酸中和性及び清浄性が不足するおそれがあり、100mgKOH/gを超える場合は、ピストントップランドに過剰の灰分が堆積してライナーのボアポリッシングやスカッフィングを発生するおそれがある。
ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0058】
本発明の組成物において硫酸灰分量は特に制限はないが、下限は好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、上限は好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
ここでいう硫酸灰分とは、JIS K2272の5.「硫酸灰分の試験方法」に規定される方法により測定される値を意味し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0060】
実施例1〜3及び比較例1〜4
表1に示す組成の本発明における潤滑油組成物(実施例1〜3)、比較用の潤滑油組成物(比較例1〜4)をそれぞれ調製した。得られた組成物について、直噴4サイクル単気筒ディーゼルエンジンを用いた以下に示す燃費試験を実施した。結果は燃料消費率および比較例1を基準とした燃費向上率として表1に示す。
なお、ここで使用した基油は、グループI(硫黄分0.03質量%以上、飽和分90質量%未満、粘度指数80〜120)に属するSAE20、SAE30であり、組成物の塩基価が約40mgKOH/g又は70mgKOH/gになるよう金属系清浄剤を添加した。
表1において、
(A-1)過塩基性Caフェネート:塩基価 250mgKOH/g、Ca含量 9.3質量%、硫黄含量 3.5質量%、金属比 3.6、
(A-2)過塩基性Caスルホネート:塩基価 400mgKOH/g、Ca含量 15.5質量%、硫黄含量 1.2質量%、金属比 17.1、
(B)コハク酸イミド:ホウ素変性ビスタイプ、N含量 2.0質量%、B含量 0.5質量%、ポリブテニル基MW 1000、
(E)ZnDTP:第1級アルキル(2−エチルヘキシル)、リン含量 7.4質量%、亜鉛含量 8.9質量%である。
【0061】
(燃費試験方法)
燃料:市販軽油
エンジン:RICARDO WD300RFO
直噴4サイクル単気筒ディーゼルエンジン、排気量 2,176L
口径135mm、ストローク152mm
潤滑油系は2系統に分かれている
プライマリー:リング/ライナ、コンロッド、ロッカーアーム部を潤滑
セカンダリー:クランクシャフト、バランサーギア、ポンプ部を潤滑
供試油はプライマリー潤滑系統に供給。
試験条件
回転数:1,200rpm、出力:39.2kW、平均有効圧力:1.80MPa
【0062】
【表1】

【0063】
表1から明らかなとおり、硫黄系極圧剤を含有する組成物(実施例1〜3)の省燃費性は比較例に比べて優れている。また硫黄系極圧剤に加えて、有機モリブデン化合物を併用すると更に省燃費性が向上する(実施例1と実施例2〜3の比較)。一方、有機モリブデン化合物を単独で添加した場合には省燃費効果が小さい(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油及び/又は合成油からなる潤滑油基油と、(A)金属系清浄剤と、(B)無灰系分散剤と、(C)硫黄系極圧剤とを含有し、且つ組成物の100℃における動粘度が12.6mm2/s以上であるクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物。
【請求項2】
(D)有機モリブデン化合物を含む請求項1記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物。

【公開番号】特開2010−174091(P2010−174091A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16578(P2009−16578)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】