説明

クロック発生機能付き装置、基準周波数等設定方法、および基準周波数等調整方法

【課題】クロックに関する設定を簡単に行う。
【解決手段】VCXOと、基準周波数とこの基準周波数のクロックをVCXOに発生させる電圧のレベルである基準レベルとを記憶するメモリと、必要な周波数のクロックを、メモリに記憶されている基準周波数および基準レベルを基準に求められる電圧をVCXOに与えて発生させるD/Aコンバータ制御部およびD/Aコンバータと、を有する装置において、下記の処理を行う。試験時レベルを適宜変化させながら、各試験時レベルに応じた電圧をVCXOに与えて試験用クロックを発生させる。試験用クロックを周波数カウンタに出力する。試験用クロックの周波数と目標周波数との差が所定の範囲内であることが周波数カウンタによって確認できたら、メモリに、この試験用クロックがVCXOによって発生された際の試験時レベルを基準レベルとして記憶させ、この試験用クロックの周波数を基準周波数として記憶させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度なクロックを再現する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精度の高いクロックを提供することは、CPUおよびメモリなどの機器を制御する場合や、複数の通信機器同士で通信を行う場合に、重要である。
【0003】
特許文献1には、無線電話システムの基地局の無線送信を生成するための正確な基準クロックを提供することを目的とする発明が開示されている。
【0004】
特許文献2には、位相誤差信号に応答して回復クロック信号を生成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−311559号公報
【特許文献2】特許第3379959号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に流通しているパーソナルコンピュータまたは通信機器などの機器で用いられる、クロック(クロック信号)を生成するためのVCXO(Voltage Controlled Crystal Oscillator)などの発振器は、個体差がある。よって、同一の調整値(補正値)をすべての機器に与えると、幾つかの機器は、精度の低いクロックを発してしまう。つまり、高精度のクロックを得るためには、個々に調整しなければならない。また、一度調整を行っても、いわゆる経年劣化によって、誤差が大きくなることがある。個々の機器について、クロックの設定または調整を簡単に行えることが、求められている。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、クロックに関する設定または調整を従来よりも簡単に行えるようにすることを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るクロック発生機能付き装置は、発振器と、基準の周波数である第一の周波数と当該第一の周波数のクロックを前記発振器に発生させるために当該発振器に与えるべき電圧のレベルである第一のレベルとを記憶する記憶手段と、通常の運用時において、必要な周波数のクロックを、前記記憶手段に記憶されている前記第一の周波数および前記第一のレベルを基準にして求められる電圧を前記発振器に与えることによって発生させる、通常運用時発振器制御手段と、試験時において、試験用の電圧のレベルである第二のレベルを所定のタイミングで変化させながら、当該各第二のレベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによって試験用のクロックを順次発生させる、試験時発振器制御手段と、前記試験用のクロックを周波数カウンタに出力する試験用クロック出力手段と、前記試験用のクロックの周波数である第二の周波数と目標の周波数である第三の周波数との差が所定の範囲内であることが前記周波数カウンタによって確認できた場合に、前記記憶手段に、当該試験用のクロックが前記発振器によって発生された際の前記第二のレベルを前記第一のレベルとして記憶させ、当該試験用のクロックの前記第二の周波数を前記第一の周波数として記憶させる、基準レベル等書込手段と、を有する。
【0008】
発振器と、
基準の周波数である第一の周波数と当該第一の周波数のクロックを前記発振器に発生させるために当該発振器に与えるべき電圧のレベルである第一のレベルとを記憶する記憶手段と、
通常の運用時において、必要な周波数のクロックを、前記記憶手段に記憶されている前記第一の周波数および前記第一のレベルを基準にして求められる電圧を前記発振器に与えることによって発生させる、通常運用時発振器制御手段と、
所定のタイミングにおいて、所定の電圧のレベルである第二のレベルを変化させながら、当該第二のレベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによってクロックを順次発生させる、試験時発振器制御手段と、
前記クロックを周波数カウンタに出力するクロック出力手段と、
前記クロックの周波数である第二の周波数と目標の周波数である第三の周波数との差が所定の範囲内であることが前記周波数カウンタによって確認できた場合に、前記記憶手段に、当該クロックが前記発振器によって発生された際の前記第二のレベルを前記第一のレベルとして記憶させ、当該クロックの前記第二の周波数を前記第一の周波数として記憶させる、基準レベル等書込手段と、
を有することを特徴とするクロック発生機能付き装置。
【0009】
好ましくは、前記発振器は、VCXO(Voltage Controlled Crystal Oscillator)であり、前記周波数カウンタは、ルビジウム発振器によって発生されるクロックに基づいて計数を行う装置である。
【0010】
または、前記記憶手段に記憶されている前記第一のレベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによって検査用のクロックを発生させる、検査時発振器制御手段と、前記発振器によって発生された前記検査用のクロックの周波数である第四の周波数を測定する第四の周波数測定手段と、前記記憶手段に記憶されている前記第一の周波数と前記第四の周波数測定手段によって測定された前記第四の周波数との差が所定の範囲に納まっていない場合に、調整用の電圧のレベルである第三のレベルを変化させながら、当該各第三のレベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによって調整用のクロックを順次発生させる、調整時発振器制御手段と、前記発振器によって発生された前記調整用のクロックの周波数である第五の周波数を測定する第五の周波数測定手段と、前記第五の周波数測定手段によって測定された前記調整用のクロックの前記第五の周波数と前記記憶手段に記憶されている前記第一の周波数との差が所定の範囲内である場合に、前記記憶手段に、当該調整用のクロックが前記発振器によって発生された際の前記第五のレベルを前記第一のレベルとして新たに記憶させる、基準レベル更新手段と、を有する。
【0011】
または、前記第二のレベルを外部の装置から入力する第二のレベル入力手段、を有し、前記所定のタイミングは、前記第二のレベル入力手段によって前記第二のレベルが入力されたタイミングである。
【0012】
または、第二のATM(Asynchronous Transfer Mode)装置へATMセルによってデータの送信を行う第一のATM装置に接続されている他の装置からイーサネット(登録商標)を介して、前記ATMセルを含むイーサネットフレームであるデータフレームを受信する、データフレーム受信手段と、前記他の装置が前記第一のATM装置の通信用のクロックの周波数である第六の周波数に基づいて所定の時間間隔で送信した、制御用のイーサネットフレームである制御フレームを、イーサネットを介して受信する、制御フレーム受信手段と、前記制御フレームを受信した時間間隔に基づいて前記第六の周波数を算出する第六の周波数算出手段と、を有し、前記通常運用時発振器制御手段は、前記必要な周波数のクロックとして、前記第六の周波数算出手段によって算出された前記第六の周波数のクロックを前記発振器に発生させ、さらに、前記通常運用時発振器制御手段が前記発振器に発生させた前記第六の周波数のクロックを前記第二のATM装置にATMインタフェースを介して伝達するクロック伝達手段と、受信した前記データフレームをATMセルに変換する変換手段と、前記変換手段によって変換されたATMセルを前記第二のATM装置にATMインタフェースを介して送信するATMセル送信手段と、を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1はA/Eコンバータ装置1およびATM装置5の接続形態の例を示す図、図2はA/Eコンバータ装置1の全体的な構成の例を示す図である
図1において、ATM(Asynchronous Transfer Mode)装置5は、ATMインタフェースを有するATM端末またはATM交換機などの装置であって、ATM網9を介して他のATM装置5との間でATMセルの送受信を行うことによってデータ通信を行う。
【0014】
ATM装置接続システム3は、2台のA/E(ATM-Ethernet)コンバータ装置1によって構成されている。両者は、広域イーサネット4を介して互いに接続されており、イーサネットフレーム(以下、単に「フレーム」と記載する。)の送受信を行うことによってデータ通信を行う。一方のA/Eコンバータ装置1は、2台のATM装置5のうちのいずれか一方のATM装置5と接続されており、他方のA/Eコンバータ装置1は、他方のATM装置5と接続されている。
【0015】
また、A/Eコンバータ装置1は、ATMセルをフレームに変換する機能、イーサネットフレームをATMセルに変換する機能、および一方のATM装置5のデータ通信用のクロックを他方のATM装置5のデータ通信用のクロックに同期(従属同期)させるための機能などを備えている。これらの構成によって、ATM装置接続システム3は、2台のATM装置5の間のデータ通信を、従来のATM網9の代わりに広域イーサネット4を介して行うことができるようにする。
【0016】
A/Eコンバータ装置1は、図2に示すように、FPGA(Field Programmable Gate Array)1a、DSP(Digital Signal Processor)1b、D/A(Digital to Analog)コンバータ1c、VCXO(Voltage Controlled Crystal Oscillator)1d、NIC(Network Interface Card)1e、RS−232C端子1f、クロック測定端子1g、CPU(Central Processing Unit)1h、RAM(Random Access Memory)1j、ROM(Read Only Memory)1k、フレーム送信制御部1m、セル抽出部1n、ATMスイッチ1p、および不揮発性メモリ1qなどによって構成される。
【0017】
以下、各ATM装置5を、それぞれ「ATM装置51」、「ATM装置52」、…と区別して記載することがある。また、ATMインタフェースを介してATM装置51と接続されているA/Eコンバータ装置1を「A/Eコンバータ装置11」と記載し、同様に、ATM装置52と接続されているA/Eコンバータ装置1を「A/Eコンバータ装置12」と記載することがある。
【0018】
〔ATM−Ether−ATM通信の仕組み〕
図3はATM−Ether−ATM通信の仕組みを説明するための図である。
【0019】
どのような仕組みで、ATM装置接続システム3つまり2台のA/Eコンバータ装置1によって2台のATM装置5同士がATM網9の代わりに広域イーサネット4を介して通信を行うのかは、下記の公知技術文献1〜3に詳細に記載されている。本実施形態においても、公知技術文献1〜3に記載される仕組みが用いられる。
〔公知技術文献1〕「ATM装置間通信支援システム、データ送信支援装置、データ送信方法、およびコンピュータプログラム」、特開2006−148822号公報、平成18年6月8日公開
〔公知技術文献2〕「コンバータ装置及び通信制御方法」、特開2006−211457号公報、2006年8月10日公開
〔公知技術文献3〕「異種網間接続装置」、特開2007−166413号公報、2007年6月28日
ここで、ATM装置51からATM装置52へATMセルによってデータを送信する際に、各装置がどのように機能するのかを、特に本発明との関連性の高い部分を抜粋して、図3を参照しながら説明する。
【0020】
図3において、A/Eコンバータ装置11のATMスイッチ1pは、ATM装置52に宛てたATMセル70をATM装置51から受信する。このATMセル70は、広域イーサネット4およびA/Eコンバータ装置12を介してATM装置52に送信される。つまり、A/Eコンバータ装置11は、ATMセル70を中継するための装置でもある。また、A/Eコンバータ装置11は、ATMスイッチ1pなどを介してATM装置51に接続されているので、ATM装置51と通信を行うことによってATM装置51のデータ通信用のクロックである送信側クロック周波数の情報を取得する。
【0021】
A/Eコンバータ装置11のフレーム送信制御部1mは、ATMセル70を受信すると、イーサネットのプロトコルに対応したフレームであるデータフレームFRDにATMセル70を変換する。そして、データフレームFRDを、NIC1eおよび広域イーサネット4などを介してA/Eコンバータ装置12に送信する。
【0022】
さらに、フレーム送信制御部1mは、その送信側クロック周波数に基づいて、広域イーサネット4のプロトコルに対応した制御用のフレームである制御フレームFRSを、A/Eコンバータ装置12にNIC1eおよび広域イーサネット4などを介して所定の時間間隔で送信する。
【0023】
A/Eコンバータ装置12において、NIC1eがA/Eコンバータ装置11から制御フレームFRSを次々に受信すると、DSP1bは、これらの制御フレームFRSを受信した時間間隔に基づいて送信側クロック周波数と同じ周波数のクロックを算出し、そのクロックがVCXO1dから発生(再現)されるようにD/Aコンバータ1cを制御する。そして、ATMスイッチ1pは、再現されたクロックをATM装置52に伝達する。
【0024】
また、NIC1eがデータフレームFRDを受信すると、セル抽出部1nは、そのデータフレームFRDからATMセル70を抽出する。そして、ATMスイッチ1pは、そのATMセル70をATM装置52に送信する。
【0025】
〔高精度クロックの実現〕
ところで、ATM装置51からATM装置52へのデータの送信の信頼性を高めるには、A/Eコンバータ装置12が再現するクロックの精度を一定以上に(高精度に)保つ必要がある。同様に、反対方向の通信の信頼性を高めるには、A/Eコンバータ装置11が再現するクロックの精度を一定以上に保つ必要がある。そこで、A/Eコンバータ装置1には、高精度のクロックを再現するための仕組みが備わっている。以下、この仕組みについて、詳細に説明する。
【0026】
図4はA/Eコンバータ装置1における高精度クロックの再現のための構成の例を示す図である。
【0027】
図4に示すように、A/Eコンバータ装置1の構成要素のうち、高精度クロックの再現のために、主に、FPGA1a、DSP1b、D/Aコンバータ1c、VCXO1d、NIC1e、RS−232C端子1f、クロック測定端子1gおよび不揮発性メモリ1qなどが用いられる。FPGA1aは、レジスタ1a1および測定用クロック周波数変換部1a2などによって構成される。DSP1bは、D/Aコンバータ制御部1b1、測定部1b2、および補正部1b3などによって構成される。
【0028】
不揮発性メモリ1qには、後に順次説明するD/Aコンバータ制御部1b1および測定部1b2が行う処理のためのDSPプログラム2が記憶されている。つまり、D/Aコンバータ制御部1b1、測定部1b2、および補正部1b3は、DSPプログラム2をプロセッサで実行することによって実現される。もちろん、回路のみによって構成してもよい。なお、この不揮発性メモリ1qをDSP1bの中に構成することも可能である。
【0029】
なお、A/Eコンバータ装置1には、これ以外の機能のためのハードウェアおよびソフトウェアも備わっているが、これについては説明を省略する。
【0030】
A/Eコンバータ装置1には、NIC1eまたはRS−232C端子1fを介してコンソール21を接続することができる。さらに、A/Eコンバータ装置1には、クロック測定端子1gを介して周波数カウンタ22を接続することができる。コンソール21として、パーソナルコンピュータなどが用いられる。周波数カウンタ22には、ルビジウム発振器23が接続可能である。ルビジウム発振器を内蔵した周波数カウンタ22を用いてもよい。
【0031】
〔A/Eコンバータ装置1におけるクロックの再現の基本的な仕組み〕
DSP1bのD/Aコンバータ制御部1b1は、16ビットのシリアルデジタルデータであるデジタル制御値HをD/Aコンバータ1cに出力することによって、D/Aコンバータ1cから出力されるアナログの電圧情報(電圧値)の大きさを制御する。D/Aコンバータ1cは、D/Aコンバータ制御部1b1から入力したデジタル制御値Hをアナログの電圧値Vに変換し、VCXO1dに出力する。VCXO1dには、その電圧値Vに電圧が印加される。これにより、デジタル制御値H応じた周波数のクロックSがVCXO1dから発せられ、ATM−PHYに出力される。
【0032】
このように、VCXO1dが発するクロックSの周波数は、DSP1bが出力するデジタル制御値Hによって決まる。
【0033】
DSP1bは、どんな値のデジタル制御値Hを出力したときにどんな周波数のクロックSが発せられるか、という基準を記憶している。すなわち、ある特定の周波数である基準周波数FkのクロックSを発するためのデジタル制御値Hである基準デジタル制御値Hkが予め特定されている。不揮発性メモリ1qには、この基準周波数Fkおよび基準デジタル制御値Hkが記憶されている。そして、D/Aコンバータ制御部1b1は、この基準周波数Fkおよび基準デジタル制御値Hkに基づいて(両者を基準として)、要求される周波数のクロックSに最適なデジタル制御値Hを決定し、D/Aコンバータ1cに出力する。
【0034】
しかし、基準周波数Fkを得るための本来のデジタル制御値Hの値と基準デジタル制御値Hkとの差が大きいと、要求された通りの周波数のクロックSを精度よく得ることができない。
【0035】
そこで、クロックSの精度を高めるために、例えばA/Eコンバータ装置1を出荷する前に、図5に示すような手順で、試験および調整を行う。
【0036】
〔出荷前の試験および調整〕
図5は出荷時の試験および調整の手順の例を説明するためのフローチャートである。
【0037】
試験の担当者は、コンソール21および周波数カウンタ22をA/Eコンバータ装置1に接続しておき、出荷モードの状態でA/Eコンバータ装置1の電源をオンにする。すると、A/Eコンバータ装置1が起動し、DSP1bが出荷モードに設定される(図5の#101)。そして、コンソール21からの16ビットのクロック調整値DJの入力を待つ。
【0038】
担当者は、コンソール21を操作してクロック調整値DJをA/Eコンバータ装置1に入力する。この際に、担当者は、目標の周波数を予め決めておき、その周波数にできるだけ近い周波数のクロックSがVCXO1dから発せられるような値のクロック調整値DJを入力する。例えば、前述の基準周波数Fkと同じ値の周波数を目標とするならば、前述の基準デジタル制御値Hkと同じ値またはそれに近い値のクロック調整値DJを入力すればよい。入力されたクロック調整値DJは、レジスタ1a1に記憶される(#102)。
【0039】
D/Aコンバータ制御部1b1は、不揮発性メモリ1qに記憶されているDSPプログラム2を実行することによって、レジスタ1a1に記憶されているクロック調整値DJを呼び出す(#103)。そして、このクロック調整値DJをデジタル制御値Hとして用いて、D/Aコンバータ1cを制御する(#104)。すると、上述の仕組みによって、VCXO1dは、クロック調整値DJに応じた周波数のクロックSを発する(#105)。以下、試験時の(つまり、クロック調整値DJに応じた)クロックSを「クロックSt」と記載する。
【0040】
クロックStは、測定用クロック周波数変換部1a2およびクロック測定端子1gを介して周波数カウンタ22に出力される。なお、DSP1bにもフィードバックされ、測定部1b2によって周波数が測定される(#106)。
【0041】
基準クロックのクロックSRをルビジウム発振器23から発し、周波数カウンタ22に入力する(#107)。周波数カウンタ22は、A/Eコンバータ装置1から入力したクロックStの周波数およびルビジウム発振器23から入力したクロックSRの周波数をそれぞれカウント(計数)し、それぞれの周波数の数値を表示する(#108)。または、クロックStの波形とクロックSRの波形とを上下に並べてまたは重ねて表示してもよい。
【0042】
ところで、一般に、ルビジウム発振器が発振するクロックの周波数の誤差は、0.1ppb(parts per billion)程度である。0.05ppbクラスのルビジウム発振器も存在する。
【0043】
よって、担当者は、表示されたクロックStおよびクロックSRそれぞれの情報を比較することによって、クロックStの周波数と目標の周波数との差異を、1ppb単位で特定することができる。目標の周波数を、クロックSRの周波数と同一にし、または、クロックSRの周波数のN倍または1/N倍(ただし、Nは自然数)にすれば、比較が容易である。
【0044】
担当者は、両方の情報同士を比較し、クロックStの周波数と目標の周波数との差異が所定の範囲内(例えば、−50〜+50ppbの範囲内)になっているか否かを確認する。所定の範囲に納まっていない場合は(#109でNo)、別の値をクロック調整値DJとして入力し直す。例えば、+50ppbを超える場合は(#110でYes)、クロック調整値DJを小さくし(#111)、−50ppb未満である場合は(#110でNo)、クロック調整値DJを大きくする(#112)。
【0045】
すると、古いクロック調整値DJが新たなクロック調整値DJに書き換えられ、新たなクロック調整値DJに対応する周波数のクロックStがVCXO1dから発せられる。担当者は、再度、両方の情報同士を比較し、クロックStの周波数と目標の周波数との差異が所定の範囲内になっているか否かを確認する。以下、所定の範囲になるまで、クロック調整値DJの値を変えながら比較および確認の作業を繰り返す。
【0046】
そして、所定の範囲内に納まったら(#109でYes)、担当者は、コンソール21を操作して設定のコマンドをA/Eコンバータ装置1に入力する(#113)。
【0047】
すると、A/Eコンバータ装置1のVCXO1dは、DSP1bに現在フィードバックされ測定部1b2によって測定された周波数を基準周波数Fkとして不揮発性メモリ1qに記憶させるとともに、レジスタ1a1に現在記憶されているクロック調整値DJを基準デジタル制御値Hkとして不揮発性メモリ1qに記憶させる(#114)。これにより、試験および調整の処理が完了する。これらの処理の完了後、コンソール21および周波数カウンタ22をA/Eコンバータ装置1から外しておく。
【0048】
その後、出荷され運用が開始されたA/Eコンバータ装置1は、不揮発性メモリ1qに記憶されている基準デジタル制御値Hkおよび基準周波数Fkを基準に、要求された周波数のクロックSがVCXO1dから出力されるように、デジタル制御値Hの値を決定し、D/Aコンバータ1cに出力する。前に説明した送信側クロック周波数と同じ周波数のクロックも、基準デジタル制御値Hkおよび基準周波数Fkに基づいて得られる。
【0049】
〔経年劣化による誤差の補正のための処理〕
図6は経年劣化による誤差の補正の処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【0050】
出荷前の試験および調整によって高精度なクロックSを実現する好適な組合せの基準周波数Fkおよび基準デジタル制御値Hkを設定できても、年月を経ると、VCXO1dが期待通りの精度のクロックSを発することができなくなることがある。つまり、経年劣化による誤差を生じることがある。
【0051】
そこで、A/Eコンバータ装置1は、図6に示すような手順で、経年劣化による誤差を補正する処理を行う。
【0052】
A/Eコンバータ装置1において、電源がオンになると(図6の#121)、D/Aコンバータ制御部1b1は基準デジタル制御値Hkを不揮発性メモリ1qから呼び出し(#122)、これをデジタル制御値HとしてD/Aコンバータ1cを制御する(#123)。すると、基準デジタル制御値Hkに対応するクロックSがVCXO1dから発せられる。このクロックSは、DSP1bにフィードバックされ、測定部1b2によって周波数が測定される(#124)。理想的には、この周波数は、基準周波数Fkと一致するはずである。
【0053】
測定は、所定の時間(例えば、30秒)、続ける。補正部1b3は、測定結果に基づいて、次のように基準デジタル制御値Hkの補正を行う。
【0054】
補正部1b3は、その所定の時間ずっと、測定された周波数と現在の基準周波数Fkとの差分が、所定の範囲を有する制御ウィンドウの中に入っているか否かを、判別する(#125)。
【0055】
なお、この所定の範囲は、いわゆるコンフィグ設定などによって、予め任意に決めておくことができる。例えば、「−50ppb〜+50ppb」、「−100ppb〜+1000ppb」、および「−1ppm〜+1ppm」の選択肢の中からユーザが選択的に決めることができる。制御ウィンドウのデータは、予め不揮発性メモリ1qに記憶させておけばよい。また、所定の時間も、「30秒」、「1分」、「10分」、「20分」などの選択肢の中からユーザが選択的に決められるようにしてもよい。
【0056】
補正部1b3は、その差分が制御ウィンドウに入っている場合は(#126でYes)、補正を要するほどの経年劣化は起こっていないと判別し、補正を行わない。
【0057】
一方、その差分が制御ウィンドウに入っていない場合は(#126でNo)、基準デジタル制御値Hkの補正を例えば次のように行う。その差分がプラスである場合は(#127でYes)、基準デジタル制御値Hkを小さくする補正を行う(#128)。マイナスである場合は(#127でNo)、基準デジタル制御値Hkを大きくする補正を行う(#128)。補正後の基準デジタル制御値Hkに基づいて、再度、ステップ#123〜#125の処理を行う。そして、差分が制御ウィンドウに入るまで、基準デジタル制御値Hkの補正を繰り返す。
【0058】
本実施形態によると、高価な周波数カウンタ22およびルビジウム発振器23を複数台のA/Eコンバータ装置1で共用することができる。よって、従来よりも低コストで簡単にクロックの設定を行うことができる。また、運用開始後は、周波数カウンタ22およびルビジウム発振器23がなくても、A/Eコンバータ装置1は自ら調整(補正)の処理を行う。よって、従来よりも簡単にクロックのメンテナンスを行うことができる。
【0059】
本実施形態では、図6で説明したように、経年劣化による誤差の補正の処理を、A/Eコンバータ装置1の電源をオンにした際に行ったが、A/Eコンバータ装置1の運用中に、常時または定期的に、行ってもよい。
【0060】
本実施形態では、A/Eコンバータ装置1のVCXO1dの基準値(基準デジタル制御値Hk)の初期設定および補正を行う場合を例に説明したが、本発明は、他の方式の発振器の基準値の初期設定および補正を行う場合にも適用可能である。
【0061】
その他、A/Eコンバータ装置1の全体または各部の構成、処理内容、処理順序、ネットワークの構成などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】A/Eコンバータ装置およびATM装置の接続形態の例を示す図である。
【図2】A/Eコンバータ装置の全体的な構成の例を示す図である。
【図3】ATM−Ether−ATM通信の仕組みを説明するための図である。
【図4】A/Eコンバータ装置1における高精度クロックの再現のための構成の例を示す図である。
【図5】出荷時の試験および調整の手順の例を説明するためのフローチャートである。
【図6】経年劣化による誤差の補正の処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0063】
1 A/Eコンバータ装置(クロック発生機能付き装置)
1b DSP
1b1 D/Aコンバータ制御部
1b2 測定部
1b3 補正部
1c D/Aコンバータ
1d VCXO
1m フレーム送信制御部
1n セル抽出部
1p ATMスイッチ
1q 不揮発性メモリ
22 周波数カウンタ
23 ルビジウム発振器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振器と、
基準の周波数である第一の周波数と当該第一の周波数のクロックを前記発振器に発生させるために当該発振器に与えるべき電圧のレベルである第一のレベルとを記憶する記憶手段と、
通常の運用時において、必要な周波数のクロックを、前記記憶手段に記憶されている前記第一の周波数および前記第一のレベルを基準にして求められる電圧を前記発振器に与えることによって発生させる、通常運用時発振器制御手段と、
所定のタイミングにおいて、所定の電圧のレベルである第二のレベルを変化させながら、当該第二のレベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによってクロックを順次発生させる、試験時発振器制御手段と、
前記クロックを周波数カウンタに出力するクロック出力手段と、
前記クロックの周波数である第二の周波数と目標の周波数である第三の周波数との差が所定の範囲内であることが前記周波数カウンタによって確認できた場合に、前記記憶手段に、当該クロックが前記発振器によって発生された際の前記第二のレベルを前記第一のレベルとして記憶させ、当該クロックの前記第二の周波数を前記第一の周波数として記憶させる、基準レベル等書込手段と、
を有することを特徴とするクロック発生機能付き装置。
【請求項2】
前記発振器は、VCXO(Voltage Controlled Crystal Oscillator)であり、
前記周波数カウンタは、ルビジウム発振器によって発生されるクロックに基づいて計数を行う装置である、
請求項1記載のクロック発生機能付き装置。
【請求項3】
前記記憶手段に記憶されている前記第一のレベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによって検査用のクロックを発生させる、検査時発振器制御手段と、
前記発振器によって発生された前記検査用のクロックの周波数である第四の周波数を測定する第四の周波数測定手段と、
前記記憶手段に記憶されている前記第一の周波数と前記第四の周波数測定手段によって測定された前記第四の周波数との差が所定の範囲に納まっていない場合に、調整用の電圧のレベルである第三のレベルを変化させながら、当該各第三のレベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによって調整用のクロックを順次発生させる、調整時発振器制御手段と、
前記発振器によって発生された前記調整用のクロックの周波数である第五の周波数を測定する第五の周波数測定手段と、
前記第五の周波数測定手段によって測定された前記調整用のクロックの前記第五の周波数と前記記憶手段に記憶されている前記第一の周波数との差が所定の範囲内である場合に、前記記憶手段に、当該調整用のクロックが前記発振器によって発生された際の前記第五のレベルを前記第一のレベルとして新たに記憶させる、基準レベル更新手段と、を有する、
請求項1または請求項2記載のクロック発生機能付き装置。
【請求項4】
前記第二のレベルを外部の装置から入力する第二のレベル入力手段、を有し、
前記所定のタイミングは、前記第二のレベル入力手段によって前記第二のレベルが入力されたタイミングである、
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のクロック発生機能付き装置。
【請求項5】
第二のATM(Asynchronous Transfer Mode)装置へATMセルによってデータの送信を行う第一のATM装置に接続されている他の装置からイーサネットを介して、前記ATMセルを含むイーサネットフレームであるデータフレームを受信する、データフレーム受信手段と、
前記他の装置が前記第一のATM装置の通信用のクロックの周波数である第六の周波数に基づいて所定の時間間隔で送信した、制御用のイーサネットフレームである制御フレームを、イーサネットを介して受信する、制御フレーム受信手段と、
前記制御フレームを受信した時間間隔に基づいて前記第六の周波数を算出する第六の周波数算出手段と、を有し、
前記通常運用時発振器制御手段は、前記必要な周波数のクロックとして、前記第六の周波数算出手段によって算出された前記第六の周波数のクロックを前記発振器に発生させ、
さらに、
前記通常運用時発振器制御手段が前記発振器に発生させた前記第六の周波数のクロックを前記第二のATM装置にATMインタフェースを介して伝達するクロック伝達手段と、
受信した前記データフレームをATMセルに変換する変換手段と、
前記変換手段によって変換されたATMセルを前記第二のATM装置にATMインタフェースを介して送信するATMセル送信手段と、を有する、
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のクロック発生機能付き装置。
【請求項6】
発振器と、
基準の周波数である第一の周波数と当該第一の周波数のクロックを前記発振器に発生させるために当該発振器に与えるべき電圧のレベルである第一のレベルとを記憶する記憶手段と、
通常の運用時において、必要な周波数のクロックを、前記記憶手段に記憶されている前記第一の周波数および前記第一のレベルを基準にして求められる電圧を前記発振器に与えることによって発生させる、通常運用時発振器制御手段と、
前記記憶手段に記憶されている前記第一のレベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによって検査用のクロックを発生させる、検査時発振器制御手段と、
前記発振器によって発生された前記検査用のクロックの周波数である第二の周波数を測定する第二の周波数測定手段と、
前記記憶手段に記憶されている前記第一の周波数と前記第二の周波数測定手段によって測定された前記第二の周波数との差が所定の範囲に納まっていない場合に、調整用の電圧のレベルである第二のレベルを変化させながら、当該各第二のレベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによって調整用のクロックを順次発生させる、調整時発振器制御手段と、
前記発振器によって発生された前記調整用のクロックの周波数である第三の周波数を測定する第三の周波数測定手段と、
前記第三の周波数測定手段によって測定された前記調整用のクロックの前記第三の周波数と前記記憶手段に記憶されている前記第一の周波数との差が所定の範囲内である場合に、前記記憶手段に、当該調整用のクロックが前記発振器によって発生された際の前記第二のレベルを前記第一のレベルとして新たに記憶させる、基準レベル更新手段と、
を有することを特徴とするクロック発生機能付き装置。
【請求項7】
前記検査時発振器制御手段は、電源がオンになったときに前記検査用のクロックを発生させる、
請求項6記載のクロック発生機能付き装置。
【請求項8】
発振器と、基準の周波数である基準周波数と当該基準周波数のクロックを前記発振器に発生させるために当該発振器に与えるべき電圧のレベルである基準電圧レベルとを記憶する記憶手段と、通常の運用時には、必要な周波数のクロックを、前記記憶手段に記憶されている前記基準周波数および前記基準電圧レベルを基準にして求められる電圧を前記発振器に与えることによって発生させる発振器制御手段と、を有するクロック発生機能付き装置において、前記基準周波数および前記基準電圧レベルを設定する基準周波数等設定方法であって、
試験用の電圧のレベルである試験時電圧レベルを所定のタイミングで変化させながら、当該各試験時電圧レベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによって試験用のクロックを順次発生させ、
前記試験用のクロックを周波数カウンタに出力し、
前記試験用のクロックの周波数である試験時周波数と目標の周波数である目標周波数との差が所定の範囲内であることが前記周波数カウンタによって確認できた場合に、前記記憶手段に、当該試験用のクロックが前記発振器によって発生された際の前記試験時電圧レベルを前記基準電圧レベルとして記憶させ、当該試験用のクロックの前記試験時周波数を前記基準周波数として記憶させる、
ことを特徴とする基準周波数等設定方法。
【請求項9】
前記発振器は、VCXO(Voltage Controlled Crystal Oscillator)であり、
前記周波数カウンタとして、ルビジウム発振器によって発生されるクロックに基づいて計数を行う周波数カウンタを用いる、
請求項8記載の基準周波数等設定方法。
【請求項10】
発振器と、基準の周波数である基準周波数と当該基準周波数のクロックを前記発振器に発生させるために当該発振器に与えるべき電圧のレベルである基準電圧レベルとを記憶する記憶手段と、通常の運用時には、必要な周波数のクロックを、前記記憶手段に記憶されている前記基準周波数および前記基準電圧レベルを基準にして求められる電圧を前記発振器に与えることによって発生させる発振器制御手段と、クロックの周波数を測定する測定手段と、を有するクロック発生機能付き装置において、前記基準周波数および前記基準電圧レベルを調整する基準周波数等調整方法であって、
前記記憶手段に記憶されている前記基準電圧レベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによって検査用のクロックを発生させ、
前記発振器によって発生された前記検査用のクロックの周波数である検査時周波数を前記測定手段に測定させ、
前記記憶手段に記憶されている前記基準周波数と前記測定手段によって測定された前記検査時周波数との差が所定の範囲に納まっていない場合に、調整用の電圧のレベルである調整時電圧レベルを変化させながら、当該各調整時電圧レベルに応じた電圧を前記発振器に与えることによって調整用のクロックを順次発生させ、
前記発振器によって発生された前記調整用のクロックの周波数である調整時周波数を前記測定手段に測定させ、
前記測定手段によって測定された前記調整用のクロックの前記調整時周波数と前記記憶手段に記憶されている前記基準周波数との差が所定の範囲内である場合に、前記記憶手段に、当該調整用のクロックが前記発振器によって発生された際の前記調整時電圧レベルを前記基準電圧レベルとして新たに記憶させる、
ことを特徴とする基準周波数等調整方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−246744(P2009−246744A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91805(P2008−91805)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ETHERNET
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】