説明

クロムを含有しない金属表面処理組成物及び表面処理鋼板

【課題】本発明は、伝導性、耐食性、耐アルカリ性及び耐高温耐湿性に優れ、かつクロム成分を含有しないコーティング層を有するクロムを含有しない金属表面処理組成物及び表面処理鋼板に関する。
【解決手段】上記表面処理組成物は、i)耐食性無機物が複合化されたビニル系バインダー樹脂と、ii)耐食性無機物が複合化されたアクリル系バインダー樹脂と、iii)溶媒とを含み、上記ビニル系バインダー樹脂の量は全体固形分の10乃至70重量%で、上記アクリル系バインダー樹脂の量は全体固形分の15乃至75重量%で、上記耐食性無機物は全体固形分の3乃至25重量%で存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝導性、耐食性、耐アルカリ性及び耐高温耐湿性に優れ、またクロム成分を全く含まない金属表面処理組成物及び表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、世界的に環境問題への関心が高まりつつあり、環境汚染物質、即ちCr、Pb、Cd、Hg、PBB、PBDEなどに対する使用規制が強まっている実情である。特に、EUで導入した有害物質使用制限指針(RoHS;Restriction of Hazardous Substances、‘06.7.1施行)、廃家電処理指針(WEEE;Waste from Electrical and Electronic Equipment、2006.7.1施行)、廃車処理指針(ELV;End−of−life Vehicles、2007.1.1施行)、新環境規制管理法(REACH;Registration、Evaluation and Authorization of Chemicals)などが代表的な例であって、これは全世界の全ての企業に環境にやさしい製品の開発、工場内の廃棄物の削減、グリーン調達などの新たな環境管理政策に対する積極的対応を求めている。
【0003】
従来には、自動車材料、家電製品、建築材料などの用度に用いられる亜鉛メッキ鋼板及び亜鉛系合金メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、アルミニウム系合金メッキ鋼板、冷延鋼板、熱延鋼板に耐食性及び塗装密着性などを与えるため表面にクロムを主な成分とするクロメート被膜をコーティングする表面処理法が一般的に施されていた。主なクロメート処理として電解型クロメートと塗布型クロメートがあり、このうち電解型クロメート処理は6価クロムを主成分とし、他に硫酸、リン酸、ホウ酸及びハロゲンなどの各種の陰イオンを添加した処理液を用いて金属板を陰極電解する方法が一般的に実施されている。
【0004】
一方、塗布型クロメート処理は予め6価クロムの一部を3価に還元した溶液に無機コロイド、無機イオンを添加した処理液にし、金属板をその中に沈積したり、処理液を金属板にスプレーする法方が一般に実施されている。
【0005】
このような方法を使用した場合、クロメート処理液に含まれた6価クロムの有毒性により作業環境及び排水処理などにおいて様々な対策を必要とし、上記表面処理金属を使用した自動車、家電、建材製品などのリサイクル及び排気処理においても人体有害性と環境汚染の問題を引き起こしている。
【0006】
従って、各鉄鋼社は6価クロムを含有しないつつも耐食性、耐アルカリ性、伝導性などを始めとする種々の要求特性を満足できるようなクロムを含有しない表面処理鋼板を開発することに力を注いでいる。従来には、鋼板の表面に主にリン酸塩を主成分として組成した金属塩被膜を1次コーティングさせた後、その上部にアクリル及びウレタン樹脂を主成分として組成した樹脂系被膜を2次コーティングして製造する方法、または上記1次被膜と2次被膜を樹脂系被膜に形成させる方法を通してクロムを含有しない表面処理金属鋼板を製造した。
【0007】
しかし、上記製品は金属塩または被膜の厚さによって金属鋼板の電気伝導性と溶接性を低下させる場合が多いため、複写機、プリンター、VCR、コンピューターなどの電子波抑制、内部ノイズ抑制及び加工性確保のための用度には適していないという問題点がある。
【0008】
また、最近は殆どの家電メーカーが伝導性に優れたクロムを含有しない表面処理鋼板を要求することによって、上記樹脂系被膜を1次のみコーティングする方法でクロムを含有しないコーティング鋼板を開発している。
【0009】
しかし、樹脂系表面処理組成物の組成が特に優れていない限り耐食性などの品質特性が従来のクロム処理またはリン酸塩下地コーティング鋼板に比べて大きく低下する問題点がある。しかし最近、海外及び韓国内の主な家電メーカーはクロムを含有しない表面処理鋼板の場合、自社の環境にやさしい製品を開発するための方案として素材に対する独自の品質規格を成立し、品質認証を獲得した製品のみ購入している。
【0010】
従来には6価クロムを全く含まないつつも伝導性を考慮したコーティング処理法としてポリアニリンを金属板上にコーティングする方法が日本特許公開平8−92479号公報、日本特許公開平8−500770号公報に開示されている。しかし、剛直性が高く密着性の低いポリアニリンが金属と樹脂被膜との間に存在するため、ポリアニリンと金属の界面及びポリアニリンと樹脂の界面で被膜が容易に剥離されることが出来る。そのため、鋼板に意匠性、さらに耐食性及びその他の機能を与えるために上部に塗装する場合に問題がある。密着性の低い被膜は一般的に耐食性が低いものと知られている。また、溶液安定性が低いため沈殿物が多く発生し、悪臭が発生して全体的に作業環境の阻害などの作業性が落ちる問題点もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、樹脂系被膜を1回コーティングするだけで伝導性、耐食性、耐アルカリ性、耐高温耐湿性に優れたクロムを含有しないコーティング層を提供することができる金属表面処理組成物を提供するためのものである。
本発明の他の目的は、上記金属鋼板の表面処理組成物がコーティングされた金属鋼板を提供するためのものである。
本発明の目的は、以上に述べた目的に制限されず、言及していない他の目的は下記の記載から当業者は明確に理解できると思われる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成すべく、本発明は、i)耐食性無機物が複合化されたビニル系バインダー樹脂と、ii)耐食性無機物が複合化されたアクリル系バインダー樹脂と、iii)溶媒とを含み、上記ビニル系バインダー樹脂の量は全体固形分の10乃至70重量%で、上記アクリル系バインダー樹脂の量は全体固形分の15乃至75重量%で、上記耐食性無機物は全体固形分の3乃至25重量%で存在する金属の表面処理組成物を提供する。
また、本発明は、上記表面処理組成物で表面処理された鋼板を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0014】
本発明では、従来のクロメート処理に代えてクロム成分を全く使用しないつつも樹脂系被膜を1回のみコーティングする場合にも耐食性と伝導性に優れた金属鋼板を製造することができる表面処理組成物に関する。上記表面処理組成物は高耐食性、有・無機複合化されたバインダー樹脂と溶媒からなる水溶性または水分散性クロムを含有しない組成物である。
【0015】
上記耐食性無機物が複合化されたバインダー樹脂は、高分子化反応時にモノマーに耐食性無機物を添加してこれら耐食性無機物が高分子の有機官能基と反応して高分子に均一に導入されるようにして製造されたものである。
【0016】
上記耐食性無機物としては、1B族元素、2A族元素、2B族元素、3B族元素、4A族元素、4B族元素、5A族元素、5B族元素、6A族元素及び8族元素が用いられることができ、特に、Si、Ti、Al、Mg、Zr、Mo、P、W、V、Ni、Ag、Au、Cuまたはこのうち2以上の混合物が好ましく使用されることができ、このうちSi、Si−P、Si−TiまたはSi−Alを主成分として含むことがさらに好ましい。
【0017】
上記耐食性無機物が複合化されたバインダー樹脂は、バインダー樹脂を製造するためのモノマーの重合反応時に耐食性無機物の前駆体を共に反応させて耐食性無機物がバインダー樹脂の官能基(例えば、OCOCH、Cl、OHなど)と反応するようにする。この際、反応触媒を添加し熱を加えて反応を促進させることが出来る。
【0018】
上記耐食性無機物は、塩、酸化物または水素化物形態の耐食性無機物を含有する前駆体としてバインダー樹脂重合時に高分子鎖に導入されることが出来る。これら無機物の前駆体は粉末型、エマルジョン型または溶液型でバインダー樹脂を製造するためのモノマーに添加されることが出来る。
【0019】
上記前駆体の好ましい例としてシリカ、シリケート、チタニア、チタネート、アルミナ、アルミネート、ジルコニア、ジルコネート、マグネシア、モリブデート、ホスフェートなどが好ましく使用されることができ、タングステン、バナジウム、ニッケル、銀、金、銅などの塩、酸化物または水素化物も使用されることが出来る。これら耐食性無機物は無機物単独の化合物の混合物が同時または順次に使用されることもでき、これら無機物を2以上含む化合物が使用されることも出来る。
【0020】
本発明の表面処理組成物において上記ビニル系バインダー樹脂の固形分濃度は、表面処理組成物全体の固形分に対して10乃至70重量%である。上記ビニル系樹脂は耐水性、耐薬品性、耐酸性及び耐塩水性が強く塗膜が強いため工業用紙や生地の防水加工、鋼板やアルミニウム板などに塗装して面の擦り傷などを防ぐことに使われたり、滑らかな触感効果や防音効果がある。
【0021】
上記ビニル系バインダー樹脂の固形分含量が10重量%未満であると腐食イオンの浸透に対するビニル樹脂の耐塩水性及び耐薬品性が発揮されず耐アルカリ性が低下して、pH13以上のアルカリ溶液で50℃5分間脱脂を行う場合、樹脂被膜が剥離される致命的問題があり、70重量%を超過すると耐高温耐湿性が低下して深刻な黒変現象が発生する問題がある。
【0022】
上記ビニル系バインダー樹脂として、これに限定はされないが、ビニルアセテート、ビニルアルコール及びビニルクロライドで構成されるグループから選択された少なくとも一種のビニル単量体からなるものを使用することが出来る。
【0023】
本発明では、耐高温耐湿性と耐寒性を補強するためアクリル系バインダー樹脂を混合して使用する。上記アクリル系バインダー樹脂としては、これに限定はされないが、例えば、n−ブチルアクリレート、メチルメタクリレート及びn−ブチルメタクリレートで構成されるグループから選択された少なくとも1種のアクリル単量体からなるものを使用することが出来る。アクリル系バインダー樹脂の固形分濃度は、表面処理組成物全体の固形分に対して15乃至75重量%である。上記アクリル系バインダー樹脂の固形分濃度は、15重量%未満であると耐高温耐湿性が低下する問題があり、75重量%を超過すると耐アルカリ性が低下する問題がある。
【0024】
バインダー樹脂に置換結合された耐食性無機物の固形分含量は、表面処理組成物全体の固形分を基準に3乃至25重量%である。上記耐食性無機物の含量が3重量%未満であると耐食性が低下して添加効果が殆ど無く、25重量%を超過する場合は濃度が飽和して沈殿物が多量発生し、溶液安定性が低下して耐食性、耐アルカリ性及び耐高温耐湿性が減少する問題が生じる。
【0025】
上記耐食性無機物が複合化されたビニル系バインダー樹脂において耐食性無機物は、ビニル系バインダー樹脂100重量部に対して5乃至23重量部に結合されていることが好ましい。また、上記耐食性無機物が複合化されたアクリル系バインダー樹脂において、耐食性無機物がアクリル系バインダー樹脂100重量部に対して5乃至23重量部で結合されていることが好ましい。
【0026】
上記それぞれのバインダー樹脂に複合化され結合されている耐食性無機物の量が5重量部未満であると、置換結合の効果が無いため耐食性の改善効果が少なく、23重量部を超過すると耐食添加剤が飽和して溶液安定性が低下する問題がある。
【0027】
表面処理組成物で固形分を除いた成分は溶媒であり、上記溶媒としては水または水とアルコールの混合溶媒を使用することができ、特にコーティング組成物の濡れ性、分散性などの特性を高めるために別途のアルコール類溶媒、酸性系またはアルカリ系水溶液のうち少なくとも1種以上がさらに添加されることが出来る。
【0028】
上記アルコール類溶媒としてはエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロールなどを使用することが出来る。この際に添加されるアルコール類溶媒は、全体組成物に対して1乃至35重量%で使用されることが好ましい。上記アルコール類溶媒は1重量%未満の場合、溶液の安定性、分散性、濡れ性などが低下し、35重量%を超過する場合には匂いと揮発性が深刻で操業性に悪い。
【0029】
上記酸性系水溶液としては塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、アセト酸、カルボン酸水溶液などを使用することができ、上記アルカリ系水溶液としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化アンモニウム水溶液などがある。
【0030】
酸性系またはアルカリ系水溶液は、全体組成物に対して0.2乃至5重量%使用することが出来る。また酸性系またはアルカリ系水溶液が0.2重量%未満の場合にはコーティング密着性が低下し、5重量%を超過する場合には素地金属の腐食が発生したり、匂いを多く発生することができる。
【0031】
上記バインダー樹脂は、耐食性無機物の粒子がバインダー樹脂の有機官能基に均一に置換及び分散されているため樹脂溶液の安定性に優れ、防食コーティング層の耐食性、伝導性、耐アルカリ性、耐高温耐湿性などがさらに向上する効果を奏する。
【0032】
図1は、本発明の表面処理組成物をコーティングして製造されたコーティング膜の結合状態を図式的に示した図面である。図1において、Xはバインダーを製造するためのモノマーの官能基(例えばOCOCH、Cl、OHなど)で、Yは耐食性無機物である。本発明の表面処理組成物は、アクリル系バインダー樹脂及びビニル系バインダー樹脂に耐食性無機物が図1に図示したように複合化されているため、被膜形成時に耐食性無機物が緻密な樹脂構成の間に均一に分布し、従って上記組成物で製造されたコーティング層は改善された耐食性を示す。
【0033】
本発明の表面処理組成物を金属鋼板上にコーティングした後、乾燥機などにより硬化すると図1に図示された通り緻密な構造のコーティング層を形成する。本発明の表面処理組成物で形成されたコーティング層の付着量は500乃至1,500g/mであり、乾燥温度(PMT、Pick Metal Temperature)は通常の樹脂系表面処理液の乾燥温度と類似な120℃乃至200℃であるものと表れ、この際乾燥温度が高いほど樹脂被膜の耐食性が向上する傾向を示すが120℃以上であれば要される品質を満足するには問題ない。コーティング層の付着量が500g/m未満であると耐食性が不十分で、1,500g/mを超過すると伝導性が衰える。
【0034】
本発明の表面処理組成物にバインダー樹脂として、耐食性無機物が複合化された水溶性樹脂であれば制限無く使用可能である。さらに、上記耐食性無機物が複合化された水溶性樹脂に通常の表面処理液に多く使われているアクリル、ウレタン、エポキシ、アルキド、スチレン/ブタジエン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの耐食性無機物が複合化されない樹脂を単独或いは2種以上の混合物で追加して混合することができる。
【0035】
上記耐食性無機物が複合化されない樹脂をさらに使用する場合、使用量は全体組成物の固形分を基準に50重量%以下に使用することが好ましく、5乃至40重量%に使用することがさらに好ましく、5乃至25重量%に使用することがさらに好ましい。
【0036】
上記バインダー樹脂を50重量%を超過して使用する場合には、組成物の耐食性、溶液安定性、耐アルカリ性、耐高温耐湿性、伝導性、耐熱性、縞状及び点状マークなどの特性のうち一つ以上の品質特性が劣化する問題がある。
【0037】
さらに、バインダー樹脂に複合化された耐食性無機物は、表面処理組成物に別途に添加されることも出来る。耐食性無機物添加剤は無機物前駆体、即ち塩、酸化物または水素化物で添加されることができ、粉末型、エマルジョン型または溶液型の形態で添加されることが出来る。
【0038】
耐食性無機物が別途に添加される場合、添加量は組成物の固形分を基準に10重量%以下であることが好ましく、1乃至4重量%であることがさらに好ましい。耐食性無機物の添加量が10重量%を超過する場合には溶液安定性を阻害して好ましくない。
【0039】
また、本発明の表面処理組成物は、ウェット剤、架橋剤、硬化剤、潤滑剤、消泡剤などの添加剤を1種以上さらに含むことが出来る。上記ウェット剤は縞状及び密着性に、架橋剤と硬化剤は耐食性及び耐アルカリ性に、潤滑剤は摩擦係数及び加工性に、消泡剤は作業性を向上させる効果がある。これら添加剤は、組成物の固形分を基準に5乃至15重量%の量で使用されることが好ましい。添加剤の含量が5重量%未満であると耐食性、耐アルカリ性などの添加剤の使用効果が表れず、15重量%を超過すると効果が飽和してそれ以上の添加は無意味であるだけでなく溶液安定性を減少させる問題がある。
【0040】
上記ウェット剤としては脱凝集型湿潤分散剤、高分子型湿潤分散剤などがあり、これらの好ましい例としてEFCA社とTego社などで市販する湿潤分散剤などがあり、EFCA3580(EFCA社)、BW−W500(Buhmwoo化学)またはWET500(EFCA社)がある。
【0041】
上記架橋剤としてはビニルシラン、アクリルシラン、エポキシシラン、クロロシラン、アルコキシシラン、シラザンまたはシリル化剤などが使用可能である。上記潤滑剤としてはシリコンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、アマイドワックス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ワックス、パラフィンワックスなどがある。
【0042】
上記硬化剤としてはポリアミン系、ポリアマイド系または酸無水物系硬化剤を使用することが出来る。上記消泡剤としてはオイル型、変性油型、溶液型、粉末型、エマルジョン型のシリコン消泡剤を使用することが出来る。
【0043】
また、本発明の適用可能な金属板としては、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛ニッケル メッキ鋼板、亜鉛鉄メッキ鋼板、亜鉛チタンメッキ鋼板、亜鉛マグネシウムメッキ鋼板、亜鉛マンガンメッキ鋼板、亜鉛アルミニウムメッキ鋼板などの亜鉛系電気メッキ鋼板、溶融メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、またこれらメッキ層に異種金属または不純物として、例えば、コバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、錫、銅またはこれらの混合物などを含有したメッキ鋼板、またこれらメッキ層にシリカ、アルミナなどの無機物を分散させたメッキ鋼板、またはシリコン、銅、マグネシウム、鉄、マンガン、チタン、亜鉛またはこれらの混合物などを添加したアルミニウム合金板、または冷延鋼板、熱延鋼板などである。また、以上のメッキのうち2種類以上を順次に処理した多層メッキ板にも適用可能である。
【0044】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。
1.表面処理組成物の製造
(実施例1−19)
ビニルモノマーとしてビニルアセテートとビニルアルコールを同一重量比に使用してビニル系バインダー樹脂を製造した。上記、ビニル系バインダー樹脂の製造時、上記ビニルモノマーに下記の表1の耐食性無機物の前駆体を添加して耐食性無機物でSiが単独で複合化されるか、或いはSi、Ti、Al、Mg及びPが複合化されたビニル系バインダー樹脂を製造した。アクリルモノマーとしてn−ブチルアクリレートを使用してアクリル系バインダー樹脂を製造した。上記アクリル系バインダー樹脂の製造時、上記アクリルモノマーに下記の表1の耐食性無機物の前駆体を添加して耐食性無機物としてSiが単独で複合化されるか、或いはSi、Ti、Al、Mg、Pが複合化されたアクリル系バインダー樹脂を製造した。
【0045】
ビニル系樹脂とアクリル系樹脂及び無機物前駆体の使用量は、固形分を基準に下記の表1に記載された通りである。表1において添加剤としては組成物を基準にカルボキシ系ウェット剤BW−W500(Buhmwoo化学)0.5重量%、シラン系架橋剤BW−C500(Buhmwoo化学)1.2重量%、アミン系硬化剤BW−H500(Buhmwoo化学)2.5重量%及びポリエチレン系潤滑剤BW−L500(Buhmwoo化学)1.5重量%をそれぞれバルク状態で添加した。上記の全ての添加剤の固形分含量は、組成物の固形分を基準に7重量%であった。それぞれの表面処理組成物において、ビニル樹脂、アクリル樹脂、耐食性無機物及びその他の添加剤の量は、組成物の固形分含量を基準に下記の表1に示した量になるよう配合した。なお、固形分を除いた残りの主成分は水で、水を使用して表面処理組成物の固形分濃度が15重量%になるようにし、総組成物に対してアルコール類溶媒としてエタノール約5重量%と酸性系水溶液として硝酸約0.5重量%を添加した。
【0046】
(比較例1−7)
耐食性無機物が複合化されたビニル系樹脂とアクリル系樹脂の使用量を、表1に記載された通り含量を変更させたことを除いては、上記実施例と同一な方法で表面処理組成物を製造した。
【0047】
(比較例8及び9)
耐食性無機物でシリケート、チタネート、アルミネート、マグネシア及びホスフェート化合物をバインダー樹脂に複合化させず添加剤と共に表面処理組成物に表1に記載された組成で添加したことを除いては上記実施例と同一な方法で表面処理組成物を製造した。
【0048】
2.コーティング鋼板の製造
1)試片:表面処理組成物を塗布するための素材鋼板として実施例1乃至17、比較例1乃至8は付着量が片面基準20g/mの電気亜鉛メッキ鋼板(EG)を使用し、比較例9及び実施例18は上記電気亜鉛メッキ鋼板にリン酸塩下地処理が施された(株)ポスコの製品を使用した。また、実施例19は付着量が片面基準60g/mの溶融亜鉛メッキ鋼板(GI)を使用した。
2)塗布方法:実施例1乃至19及び比較例1乃至9の表面処理組成物を連続Roll Coating Simulatorを使用して金属板の片面に塗布してPMT(Pick Metal Temperature)150℃で乾燥した。乾燥後の樹脂被膜の厚さは約1.0μmであった。
【0049】
3.性能評価方法
(1)伝導性:樹脂被膜がコーティングされた試片の表面を表面抵抗測定機(Loresta−GP)で測定し、次の基準により評価した。
○:表面抵抗1mΩ以下
△:表面抵抗10Ω以下
X:表面抵抗10Ω以上で伝導性または溶接性が極めて不良な状態
(2)耐食性:試片(平板)をJISZ2371に基づいた塩水噴霧試験を120時間行って発錆の程度を次の基準により評価した。
○:白錆5%以下
△:白錆5%以上20%未満
X:白錆20%以上
(3)耐アルカリ性:50℃のアルカリ溶液(finecleaner L4460、pH13)に5分間沈積して水洗いを行った後、樹脂コーティング層の剥離程度を肉眼で観察して次の基準により評価した。
○:剥離無し
△:剥離5%以下発生
X:剥離5%以上発生で耐アルカリ性が極めて不良な状態
(4)耐高温耐湿性:抗温抗湿試験機(温度60℃、湿度95%)で48時間維持させた後、試験前後の色差を測定して、次の基準により評価した。
○:△E≦1
△:△E≦2
X:△E≧2で耐高温耐湿性が極めて不良な状態
(5)コーティング層の構造:同一組成を有する上記実施例5と比較例8の表面処理組成物をそれぞれ電気亜鉛メッキ鋼板の表面にコーティングした後、そのコーティング層の表面の構造を原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscopy)で比較した。
(6)耐熱性:各温度(100℃、150℃、200℃、250℃)に設定されたオーブンの中に試片をそれぞれ1時間維持させた後自然冷却した。上記耐食性の評価方法の条件として上記各試片に対する塩水噴霧試験を行い発錆の程度で比較した。
【0050】
4.評価結果
上記条件で金属表面処理組成物の性能を評価して表1に表した。
【0051】
【表1】

【0052】
(1)ビニル樹脂製造時のビニルモノマーとしてはビニルアセテートとビニルアルコールを同一量使用。
(2)アクリル樹脂製造時のアクリルモノマーとしてn−ブチルアクリレート使用。
(3)比較例1、実施例6及び実施例11では耐食性無機物はシリケートを使用して提供される。
(4)比較例2乃至9、実施例1乃至5、実施例7乃至10及び実施例12乃至19では、ビニル樹脂及びアクリル樹脂に対する耐食性無機物は、シリケート:チタネート:アルミネート:マグネシア:ホスフェートが80:8:5:4:3の重量比で混合された混合物を使用して提供される。
【0053】
ここで、A〜Dは、それぞれ、ビニル(wt%)、アクリル(wt%)、耐食無機物(wt%)、その他の添加材固形分(wt%)を示し、E〜Iは、それぞれ伝導性、耐食性、アルカリ耐性、耐高温耐湿性、表面外観・溶液安定性を示す。
【0054】
上記の表1に記載された通り、本発明の組成範囲にある実施例1乃至19の表面処理組成物は、耐食性無機物を添加剤と共に投入した比較例8と9に比べて優れた特性を示し、本発明の組成範囲を外れる比較例1乃至7は劣化した特性を示した。
【0055】
実施例5と比較例8の試片(平板)の耐熱性を評価するため、JISZ2371に基づいた塩水噴霧試験を100度、150度、200度及び250度の温度で72時間行った。その結果を図2a及び図2bに図示した。図2a及び図2bに図示された通り、本発明による実施例5は各温度で非常に優れた耐熱性を表し樹脂被膜の品質特性が維持され塩水噴霧試験の実施後にも優れた耐食性を維持しているが、比較例8は高温雰囲気に対する耐熱性が弱いため樹脂被膜の品質特性が劣化して塩水噴霧試験後に白錆または赤錆が発生したことを確認した。
【0056】
上記実施例5と比較例8の表面処理組成物をそれぞれ電気亜鉛メッキ鋼板の表面にコーティングした後、原子間力顕微鏡でそのコーティング層表面の構造を観察した結果を図3aと図3bに図示した。図3aと図3bから分かるように、本発明の表面処理組成物をコーティングした鋼板の表面は、均一かつ美麗なコーティング層を形成することが分かる。これに対して比較例8の鋼板は耐食無機粒子が比較的不均一に分布していることが確認できる。
【0057】
本発明のクロムを含有しない金属表面処理組成物及び表面処理鋼板は、従来のリン酸塩下地表面処理金属鋼板と等しいかそれ以上の耐食性、耐アルカリ性及び耐高温耐湿性を有しつつ、伝導性に非常に優れた環境にやさしい表面処理金属鋼板を製作することにより、適切な品質規格を獲得及び販売できる効果がある。かつ優れた品質確保による販売量の増大により経済的利益の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の表面処理組成物をコーティングして製造されたコーティング膜の形成過程を図式的に示した図面である。
【図2】実施例5(図2A)と比較例8(図2B)の表面処理組成物をそれぞれ電気亜鉛メッキ鋼板の表面にコーティングして製造されたコーティング鋼板の耐熱性の評価結果を示した図面である。
【図3】実施例5(図3A)と比較例8(図3B)の表面処理組成物をそれぞれ電気亜鉛メッキ鋼板の表面にコーティングした後、原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscopy)でそのコーティング層の表面の構造を観察した結果を図示した図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)耐食性無機物が複合化されたビニル系バインダー樹脂と、ii)耐食性無機物が複合化されたアクリル系バインダー樹脂と、iii)溶媒とを含み、
前記ビニル系バインダー樹脂の量は全体固形分の10乃至70重量%で、前記アクリル系バインダー樹脂の量は全体固形分の15乃至75重量%で、前記耐食性無機物は全体固形分の3乃至25重量%で存在することを特徴とする金属の表面処理組成物。
【請求項2】
前記耐食性無機物は、1B族元素、2A族元素、2B族元素、3B族元素、4A族元素、4B族元素、5A族元素、5B族元素、6A族元素、8族元素及びこれらの混合物からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1に記載の金属の表面処理組成物。
【請求項3】
前記耐食性無機物が、Si、Ti、Al、Mg、Zr、Mo、P、W、V、Ni、Ag、Au、Cu及びこれらの混合物からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1に記載の金属の表面処理組成物。
【請求項4】
前記耐食性無機物が複合化されたビニル系バインダー樹脂は、ビニル系バインダー樹脂100重量部に対して5乃至23重量部の耐食性無機物を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の金属の表面処理組成物。
【請求項5】
前記耐食性無機物が複合化されたアクリル系バインダー樹脂は、アクリル系バインダー樹脂100重量部に対して5乃至23重量部の耐食性無機物を含むものであることを特徴とする請求項1に記載のる金属の表面処理組成物。
【請求項6】
前記組成物は、耐食性無機物が複合化されないアクリル、ウレタン、エポキシ、アルキド、スチレン/ブタジエン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル及びこれらの混合物からなる群から選択された少なくとも一つの耐食性無機物が複合化されていない樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の金属の表面処理組成物。
【請求項7】
前記耐食性無機物が複合化されていない樹脂は、全体組成物の固形分を基準に50重量%以下に使用することを特徴とする請求項6に記載の金属表面処理組成物。
【請求項8】
前記耐食性無機物が組成物の固形分を基準に10重量%以下にさらに含まれることを特徴とする請求項1に記載の金属表面処理組成物。
【請求項9】
前記表面処理組成物は、ウェット剤、架橋剤、硬化剤、潤滑剤、消泡剤及びこれらの混合物からなる群から選択された添加剤を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の金属の表面処理組成物。
【請求項10】
前記架橋剤は、ビニルシラン、アクリルシラン、エポキシシラン、クロロシラン、アルコキシシラン、シラザン及びシリル化剤からなる群から選択された少なくとも一つであることを特徴とする請求項9に記載の金属の表面処理組成物。
【請求項11】
前記潤滑剤は、シリコンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、アマイドワックス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ワックス及びパラフィンワックスからなる群から選択された少なくとも一つであることを特徴とする請求項9に記載の金属の表面処理組成物。
【請求項12】
請求項1乃至11のうち何れか1項に記載の表面処理組成物で表面処理された金属鋼板。
【請求項13】
前記鋼板は、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛系電気メッキ鋼板、溶融メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、メッキ層にコバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、錫、銅またはこれらの混合物を含有したメッキ鋼板、メッキ層にシリカ、アルミナまたはこれらの混合物を分散させたメッキ鋼板、及びシリコン、銅、マグネシウム、鉄、マンガン、チタン、亜鉛またはこれらの混合物を添加したアルミニウム合金板、冷延鋼板、及び熱延鋼板からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項12に記載の金属鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−525567(P2008−525567A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548085(P2007−548085)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/KR2005/004471
【国際公開番号】WO2006/068438
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(502258417)ポスコ (73)
【Fターム(参考)】