説明

クロメンを化学結合したガラス板

【課題】
感光性と同時に強度的にも満足できるクロメン含有のシラン処理剤、およびこれで表面処理したガラスを提供する。
【解決手段】
ガラス表面に一般式(I)
【化8】


(式中、R、R、Rのうち1〜3個は炭素数1〜5のアルキルオキシ基、残りの2〜0個は炭素数1〜5のアルキル基、Rはアミド結合、エステル結合、エーテル結合から選ばれる1種であり、R、Rは、フェニル基、炭素数1〜5のアルキル基が導入されたアルキルフェニル基、炭素数1〜5のアルキル基、水素原子から選ばれる1種であり、n1は1〜5の整数、n2は0〜5の整数である。)
で表わされるクロメン含有のシラン処理剤及びこれで表面処理したガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの表面処理、より詳しくは、ガラス表面に感光性の被膜を設ける技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図1に示すように、ガラスの表面をシランカップリング剤系の薬剤で処理し、ガラス表面のOH基と結合させ、脱水や脱アルコール反応を起こさせて、架橋を進め、強度の高い被膜を形成させることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
また、シランカップリング剤の典型的な物質であるトリアルコキシシランの合成は、図2に示される。
また、アゾベンゼンを含有したトリエトキシシランを合成し、石英板を処理した例(非特許文献2)、α−ヒドラゾノ−β−ケトエステルを含有したトリエトキシシランを合成し、石英板を処理した例(非特許文献3)が知られている。
しかし、感光性とくに光開始の反応性を付与する観点から、シラン処理剤が研究された例はない。
【非特許文献1】近藤洋文 月刊マテリアルステージvol.1,No.1,p90(2001)
【非特許文献2】Thin Solid Films,219(1992)226-230
【非特許文献3】CHEMISTRY LETTERS,pp.543-546,1992.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ガラス表面に、機能性とくに感光性を付与する観点から、クロメンを導入し、感光性と同時に強度的にも満足できる被膜を形成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するため、クロメン誘導体とエステル化剤を反応させることにより、クロメン誘導体含有の活性エステルを作成し、さらに、アルコキシシランと反応させて、クロメン含有のシラン処理剤を得、これを用いてガラス表面と反応させ、クロメン含有のシラン処理剤で表面処理したガラスを提供するものである。
すなわち、本発明は、ガラス表面に一般式(I)
【化3】

(式中、R、R、Rのうち1〜3個は炭素数1〜5のアルキルオキシ基、残りの2〜0個は炭素数1〜5のアルキル基、Rはアミド結合、エステル結合、エーテル結合から選ばれる1種であり、R、Rは、フェニル基、炭素数1〜5のアルキル基が導入されたアルキルフェニル基、炭素数1〜5のアルキル基、水素原子から選ばれる1種であり、n1は1〜5の整数、n2は0〜5の整数である。)
で表わされるクロメン含有のシラン処理剤で表面処理したガラスである。
また、本発明は、クロメン含有のシラン処理剤が化学式(II)
【化4】

とすることができる。
さらに、本発明は、ガラス板に結合したクロメン含有のシラン処理剤に、光照射し、アミンを付加したクロメン含有のシラン処理剤で表面処理したガラスとすることができる。
クロメン化合物は、光を照射した部分のみにアミンが付加する特性を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のクロメン含有のシラン処理剤で表面処理したガラスは、紫外線を照射すると開環して、開環体はピンク色を呈するので、感光体として有用である。さらに、クロメン化合物は、光を照射した部分のみにアミンが付加する特性を有するので、光を照射した部分のみをアミンと反応させることにより、保存することもでき、記録体としても有用である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いるクロメン含有化合物としては、クロメン構造(ベンゾピラン)を有していれば、どのようなものでも良い。例えば、2,2-ジフェニル-2H-クロメン、2-フェニル-2H-クロメン、2-フェニル-2-メチル-2H-クロメン、2-フェニル-2-エチル-2H-クロメン、2,2-ジメチル-2H-クロメン、2-エチル-2-メチルフェニル-2H-クロメン、2-メチル-2-エチルフェニル-2H-クロメン等を挙げることが出来る。
入手しやすいものとしては、次式(III)で示される
【化5】

2,2-ジフェニル-2H-クロメンがある。
また、本発明で用いられるアルコキシシランと反応する化合物としては、例えば、5-(2-(p-ニトロフェノキシカルボニル)エチル) -2,2-ジフェニル-2H-クロメン、8-(3-(p-ニトロフェノキシカルボニル) プロピル)-2-フェニル-2-メチル-2H-クロメン、6-(2-(ペンタクロロフェノキシカルボニル)エチル) -2,2-ジフェニル-2H-クロメン、7-(ペンタクロロフェノキシカルボキニルメチル)-2-フェニル-2H-クロメン、6-(3-カルボキシプロピル)-2,2-ジメチル-2H-クロメンN-ヒドロキシスクシンイミドエステル、7-(4-カルボキシブチル)-2-フェニル-2-プロピル-2H-クロメンN-ヒドロキシスクシンイミドエステル等を挙げることが出来る。
好適には、式(III)のクロメン化合物のカルボン酸とp-ニトロフェノールを反応させて、次式(IV)で示される

【化6】

6-(2-(p-ニトロフェノキシカルボニル)エチル) -2,2-ジフェニル-2H-クロメンを得る。
さらに、本発明ではアルコキシシラン化合物を反応させる。本発明で用いることが出来るアルコキシシラン化合物としては、例えば、5-アミノペンチルトリメトキシシラン、4-アミノブチルエチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン、2-アミノエチルメチルエチルプロピルオキシシラン
等を挙げることが出来る。
好適には、式(IV)の6-(2-(p-ニトロフェノキシカルボニル)エチル) -2,2-ジフェニル-2H-クロメンと、3-アミノプロピルトリエトキシシランを反応させて、次式(II)で示される
【化7】

6-(2-(3-(トリエトキシシリル)プロピルアミノカルボニル)エチル) -2,2-ジフェニル-2H-クロメンを得ることが出来る。
ここで、示したのは、一例であり、同様な反応により、種々のクロメン含有のシラン処理剤を得ることが出来る。
【0008】
本発明で用いるガラスは、アルコキシシランと反応できる通常のものなら何でも良く、市販されているガラスが適用できる。とくに石英ガラスが好ましく用いられる。
本発明では、シランカプラーとクロメンの活性エステルとを反応させて、それを用いて石英板の表面にクロメン誘導体を結合させることができる。
石英板に結合したクロメン誘導体に紫外光を照射すると活性なカルボニル誘導体を生成する。
アミン溶液中でクロメン誘導体を結合した石英板に紫外光を照射すると、アミンが付加する。又は、クロメン誘導体を結合した石英板を紫外光照射後、アミン溶液に浸漬するとアミンが付加する。
本発明で用いる光照射時あるいは光照射後に付加するアミンとしては、脂肪族の第1級及び第2級のアルキルアミン又は芳香族アミンがある。
【実施例1】
【0009】
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ジフェニルクロメンを化学的に結合した石英板の調製
アミノプロピルトリエトキシシラン24 mg(0.1ミリモル)と6-(2-(p-ニトロフェノキシカルボニル)エチル) -2,2-ジフェニル-2H-クロメン104 mg(0.2ミリモル)のジクロロメタン0.5 ml溶液を、室温で22時間攪拌して、ジフェニルクロメン残基を有するトリエトキシシランを合成した。
それにエチルアルコール8 ml を加えた。
サンプルビンに上記溶液4mlをとり、アルカリ洗浄石英板(9x25mm)を2枚いれ、室温で30分または1時間浸漬した。
石英板を溶液から取り出し、30分室温で乾燥した後、電気炉中で120度に1時間加熱した。
ジクロロメタン中で10分間超音波洗浄してジフェニルクロメンを化学的に結合した石英板を得た。
【0010】
(確認)
ジフェニルクロメンが石英板に結合していることは溶液中のジフェニルクロメンと類似の紫外可視吸収スペクトルを275 nm、320 nm付近に示すことより確認した。
ジフェニルクロメンのジオキサン溶液の310nmのモル吸光係数は3900M-1cm-1であるので、それを元に計算すると、シラン処理剤溶液浸漬30分の板は310nmの吸光度が 0.003であるので、石英板の片面に100Åあたり2.4ヶのクロメン誘導体がついている計算になる。
シラン処理剤溶液浸漬1時間の板では310nmの吸光度が 0.004であるので、石英板の片面に100Åあたり3.2ヶのクロメン誘導体がついている計算になる。
【0011】
(クロメンを化学的に結合した石英板の光反応挙動)
クロメンを化学的に結合した石英板に313nm光を10秒照射すると260 nm 〜 600 nm に開環体の幅広の紫外可視吸収スペクトルが現れる。
クロメンを化学的に結合した石英板にアミノアントラキノンのジクロロメタン溶液(6.5mg / 5ml)中で313nm光を120秒照射した後、ジクロロメタン中で3分間超音波洗浄した後、アミノアントラキノンの紫外可視吸収(吸収帯 450 〜 550nm)が検出され、付加が確認できた。
クロメンを化学的に結合した石英板に313nm光を20秒照射後直ちにアミノアントラキノンのジクロロメタン溶液(50mg / 5ml)に1分間浸漬した後、ジクロロメタン中で3回洗浄し、ジクロロメタン中で3分間超音波洗浄した後、アミノアントラキノンの紫外可視吸収(吸収帯 450 〜 550nm)が検出され、付加が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明のクロメン含有のシラン処理剤で表面処理したガラスは、感光性があり、感光した部分を保存することが出来るため、記録材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来のガラス表面の処理方法
【図2】従来のアルコキシシランの製造方法
【図3】本発明のガラス表面の処理方法の一例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R、R、Rのうち1〜3個は炭素数1〜5のアルキルオキシ基、残りの2〜0個は炭素数1〜5のアルキル基、Rはアミド結合、エステル結合、エーテル結合から選ばれる1種であり、R、Rは、フェニル基、炭素数1〜5のアルキル基が導入されたアルキルフェニル基、炭素数1〜5のアルキル基、水素原子から選ばれる1種であり、n1は1〜5の整数、n2は0〜5の整数である。)
で表わされるクロメン含有のシラン処理剤。
【請求項2】
ガラス表面に一般式(I)
【化1】

(式中、R、R、Rのうち1〜3個は炭素数1〜5のアルキルオキシ基、残りの2〜0個は炭素数1〜5のアルキル基、Rはアミド結合、エステル結合、エーテル結合から選ばれる1種であり、R、Rは、フェニル基、炭素数1〜5のアルキル基が導入されたアルキルフェニル基、炭素数1〜5のアルキル基、水素原子から選ばれる1種であり、n1は1〜5の整数、n2は0〜5の整数である。)で表わされるクロメン含有のシラン処理剤で表面処理したガラス。
【請求項3】
クロメン含有のシラン処理剤が化学式(II)
【化2】

である請求項1に記載したクロメン含有のシラン処理剤。
【請求項4】
クロメン含有のシラン処理剤が化学式(II)
【化2】

である請求項2に記載したクロメン含有のシラン処理剤で表面処理したガラス。
【請求項5】
ガラス板に結合したクロメン含有のシラン処理剤に、光照射し、アミンを付加した請求項2又は請求項4に記載したクロメン含有のシラン処理剤で表面処理したガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−248836(P2006−248836A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66592(P2005−66592)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】