説明

グアニンヌクレオチド交換因子をコードする遺伝子の発現阻害剤

【課題】 癌細胞の増殖を促進する生体内分子を同定し、その分子メカニズムに基づく抗癌剤の同定方法及び抗癌剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 Rho―GEF遺伝子の発現を阻害する二重鎖ポリヌクレオチド。該二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、Rho―GEF遺伝子の発現阻害方法、Rho―GEFの阻害方法、細胞増殖抑制方法、又は、癌の予防及び/又は治療方法。Rho―GEF遺伝子の発現及び/又はRho―GEFの機能の阻害を指標とする、細胞増殖抑制剤又は抗癌剤の同定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Rhoグアニンヌクレオチド交換因子(Rho Guanine nucleotide Exchange Factor、以下Rho−GEFと称することもある)コードする遺伝子の発現を阻害する二本鎖ポリヌクレオチドに関する。さらに、本発明は、該二本鎖ポリヌクレオチドを形成する一本鎖ポリヌクレオチドに関する。また、本発明は、前記二本鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、Rho−GEF遺伝子の発現阻害方法、Rho−GEFの阻害方法、細胞増殖抑制方法、癌の予防及び/又は治療方法に関する。さらに、本発明は、Rho−GEF遺伝子の発現及び/又はRho−GEFの機能の阻害を指標とする、細胞増殖抑制剤又は抗癌剤の同定方法に関する。また、本発明は、Rho−GEF遺伝子及び/又はRho−GEFを含有する、細胞増殖抑制剤又は抗癌剤の同定用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
Rhoファミリー低分子量GTP結合蛋白質(以下、Rhoファミリー蛋白質と称することもある)の分子スイッチとしての作用に関与する分子の1つがRho−GEFである。Rho−GEFは、Rhoファミリー蛋白質のGDP/GTP交換反応を促進してRhoファミリー蛋白質の活性化を促進する機能を有する。この機能により、Rho−GEFは、Rhoファミリー蛋白質が関与する細胞内情報伝達の制御に重要な役割を担う。以下、GDP/GTP交換反応を促進する機能をGEF活性と称することもある。
【0003】
本発明者らは、ヒト由来のcDNAライブラリーから、あるRho−GEF(以下、hj03796と称することもある)をコードする遺伝子を同定し、hj03796の部分蛋白質がRhoファミリー蛋白質であるCdc42に対してGEF活性を有することを見出した(特許文献1)。さらに、本発明者らは、胃腺癌腫瘍におけるhj03796遺伝子の発現が正常胃組織におけるそれと比べ約5倍に亢進していることを見出した(特許文献1)。
【0004】
しかし、特許文献1は、hj03796の阻害が細胞増殖抑制を誘導することを開示していない。また、特許文献1は、hj03796の阻害化合物が大腸癌又は肺癌に対して予防ないし治療効果を有することも開示していない。
【0005】
【特許文献1】WO 2005/095612号
【特許文献2】特開2004−350607号
【非特許文献1】エルバシ(Elbashir S.M.)ら、「ネイチャー(Nature)」、2001年、第411巻、p.494−498
【非特許文献2】ドン(Dong C.)ら、「アニュアル レビュー オブ イムノロジ−(Annual Review of Immunology)」、2002年、第20巻、p.55−72
【非特許文献3】デビッド(David H.GutMann)ら、「ザ ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲーション(The Journal of Clinical Investigation)」、2006年、第116巻、p.847−852
【非特許文献4】ロナルド(Ronald A.Lubet)ら、「チェスト(CHEST)」、2004年、第125巻、144S−7S
【非特許文献5】べリンスキー(Belinsky,SA)ら、「キャンサー リサーチ(Cancer Research)」、1993年、第53巻、p.410−416
【非特許文献6】バーマ(Verma)ら、「クリニカル キャンサー リサーチ(Clin Cancer Res.)」、2003年、第9巻、p.1291−1300
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、癌細胞の増殖に関与する生体内分子を同定し、その分子メカニズムに基づく抗癌剤とその同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、RNA干渉法を用いて、大腸癌又は肺癌由来の細胞におけるhj03796遺伝子の発現を阻害したところ、該癌細胞の増殖が抑制されることを見出した。さらに、本発明者らは、該癌細胞の増殖抑制が足場非依存的な増殖抑制であることを見出した。
【0008】
本発明者らは、これら知見に基づき本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(21)を提供する。
(1)下記の群より選ばれるいずれか1のRNA;
(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNA、
(ii)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNA、
(iii)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNA、
(iv)配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNA、及び
(v)配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNA。
【0009】
(2)下記の群より選ばれるいずれか1の二重鎖ポリヌクレオチド;
(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、
(ii)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、
(iii)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号6に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、
(iv)配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、及び、
(v)配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号10に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド。
【0010】
(3)オーバーハング配列が2つのデオキシチミジル酸からなる塩基配列である、前記(2)に記載の二重鎖ポリヌクレオチド。
【0011】
(4)以下の工程を含む、細胞増殖抑制剤の同定方法;
(i)被験化合物存在下、hj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能を測定する工程、及び
(ii)(i)で測定されたhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796の発現及び/又はhj03796の機能とを比較する工程。
【0012】
(5)以下の工程を含む、肺癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法;
(i)被験化合物存在下、hj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能を測定する工程、及び
(ii)(i)で測定されたhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能とを比較する工程。
【0013】
(6)以下の工程を含む、肺癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法;
(i)リポフェクション法により被験化合物を肺癌由来の培養細胞に導入する工程、
(ii)(i)の培養細胞に存在するhj03796を測定する工程、及び
(iii)(ii)で測定されたhj03796と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下で培養された肺癌由来の培養細胞に存在するhj03796を比較する工程。
【0014】
(7)さらに、被験化合物を肺癌モデル非ヒト哺乳動物に投与してその病変部位の変化を確認する工程を含む、前記(5)又は前記(6)に記載の肺癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法。
【0015】
(8)以下の工程を含む、大腸癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法;
(i)被験化合物存在下、hj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能を測定する工程、及び
(ii)(i)で測定されたhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能とを比較する工程。
【0016】
(9)以下の工程を含む、大腸癌の予防及び/又は治療剤の同定方法;
(i)リポフェクション法により被験化合物を大腸癌由来の培養細胞に導入する工程、
(ii)(i)の培養細胞に存在するhj03796を測定する工程、及び
(iii)(ii)で測定されたhj03796と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下で培養された大腸癌由来の培養細胞に存在するhj03796を比較する工程。
【0017】
(10)さらに、被験化合物を大腸癌モデル非ヒト哺乳動物に投与してその病変部位の変化を確認する工程を含む、前記(8)又は前記(9)に記載の大腸癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法。
【0018】
(11)前記(2)又は(3)に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有する、hj03796をコードするポリヌクレオチドの発現阻害剤。
【0019】
(12)前記(2)又は(3)に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有する、hj03796の阻害剤。
【0020】
(13)前記(2)又は(3)に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有する、細胞増殖抑制剤。
【0021】
(14)前記(2)又は(3)に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有する、癌の予防及び/又は治療剤。
【0022】
(15)前記(2)又は(3)に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、hj03796をコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する方法。
【0023】
(16)前記(2)又は(3)に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、hj03796を阻害する方法。
【0024】
(17)前記(2)又は(3)に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、細胞増殖の抑制方法。
【0025】
(18)前記(2)又は(3)に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、癌の予防及び/又は治療方法。
【0026】
(19)hj03796をコードするポリヌクレオチド及び/又はhj03796を含有する、細胞増殖抑制剤の同定用試薬キット
(20)hj03796をコードするポリヌクレオチド及び/又はhj03796を含有する、肺癌の予防及び/又は治療剤の同定用試薬キット。
【0027】
(21)hj03796をコードするポリヌクレオチド及び/又はhj03796を含有する、大腸癌の予防及び/又は治療剤の同定用試薬キット。
【発明の効果】
【0028】
本発明はhj03796が、大腸癌又は肺癌由来の癌細胞の足場非依存的な増殖に関与するという新しい知見に基づくものであり、この新しいメカニズムに基づく抗癌剤とその同定方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0030】
本発明はhj03796の阻害化合物を提供する。hj03796の阻害化合物をhj03796の阻害剤と称することもある。
【0031】
本発明者らは、A549(ヒト肺癌由来の細胞株)又はHCT116(ヒト大腸癌由来の細胞株)に対して5種類の二重鎖ポリヌクレオチドを導入することにより、hj03796遺伝子の発現が阻害されることを見出した。具体的には、本発明者らは、本願実施例に記載の5種類の二重鎖ポリヌクレオチド(本願明細書において、hj―1、hj―2、hj―3、hj―4及びhj―5と称される)が導入されたA549又は又はHCT116の細胞溶解液に含まれるhj03796量が、陰性対照化合物を導入したA549又は化合物を導入しないA549にそれぞれ含まれるhj03796量と比較して低減していることを見出した。これら5種類の二重鎖ポリヌクレオチドはRNA干渉法に基づき設計された二重鎖ポリヌクレオチドであることから、発明者は、これら5種類の二重鎖ポリヌクレオチドはRNA干渉によりhj03796遺伝子の発現を阻害すると考えている。すなわち、発明者は、これら5種類の二重鎖ポリヌクレオチドはhj03796遺伝子に対するshort interfering RNA(以下、siRNAと称することもある)であると考えている。
【0032】
従って、hj―1、hj―2、hj―3、hj―4及びhj―5はいずれもhj03796遺伝子の発現阻害化合物である。hj03796遺伝子の発現阻害化合物をhj03796遺伝子の発現阻害剤と称することもある。ある遺伝子の発現阻害は、その遺伝子の遺伝子産物の産生を阻害し、その低減を誘導する。従ってhj03796遺伝子の発現阻害化合物は、hj03796の阻害化合物である。すなわち、hj―1、hj―2、hj―3、hj―4及びhj―5はいずれもhj03796の阻害化合物である。
【0033】
hj03796の阻害とは、結果としてhj03796の機能を阻害することを意味する。hj03796の阻害の具体的態様として、hj03796遺伝子の発現阻害、hj03796の活性阻害、hj03796の分解、hj03796の変性が例示される。
hj03796遺伝子の発現とは、hj03796をコードするDNAがmRNAに転写され、遺伝子産物であるhj03796が生成する一連の反応を意味する。従ってhj03796遺伝子の発現阻害とは、この反応の全部又は一部を阻害することを意味する。hj03796遺伝子の発現阻害は、例えば、リボザイム法、アンチセンス法又はRNA干渉法を用いて実施できる。RNA干渉法は、リボザイム法やアンチセンス法と比べて低濃度、及び高確率で特異的に目的遺伝子の発現を阻害することができる有用な方法であることから、hj03796遺伝子の発現阻害方法としてRNA干渉法を好ましく例示できる。
【0034】
本発明者らは、hj03796のDH/PHドメイン部分を含む蛋白質がRhoファミリー蛋白質であるCdc42に対してGEF活性を有することを見出した(特許文献1)。本発明者らは、hj03796の全長蛋白質も、Rhoファミリー蛋白質(例えば、Cdc42)に対してGEF活性を有していると考えている。従ってhj03796の活性として、Rhoファミリー蛋白質(例えば、Cdc42)に対するGEF活性を例示できる。
【0035】
hj03796の分解として、hj03796分子内に存在するペプチド結合の加水分解を例示できる。
【0036】
hj03796の阻害化合物は、結果としてhj03796の機能を阻害する化合物である限りにおいて特に限定されず、例えば、hj03796遺伝子の発現阻害化合物、hj03796の活性阻害化合物、hj03796の分解化合物であり得る。
【0037】
hj03796遺伝子の発現阻害化合物として、例えばhj03796遺伝子の発現を阻害するアンチセンスRNA、hj03796遺伝子の発現を阻害するshort heapin RNA(以下、shRNAと称することもある)、hj03796遺伝子の発現を阻害するsiRNAを例示できる。例えば、hj03796遺伝子の発現阻害化合物として、次の(1)〜(5)のいずれか1の二重鎖ポリヌクレオチドを例示できる。(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、(2)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、(3)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号6に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、(4)配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、及び、(5)配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号10に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド。(本願実施例)。
【0038】
オーバーハング配列は、その作用の1つとして、RNAをヌクレアーゼから保護する作用を有する。オーバーハング配列は、前記二重鎖ポリヌクレオチドのRNA干渉効果を阻害しない限りにおいて特に制限されず、好ましくは1個ないし10個、より好ましくは1個ないし4個、さらに好ましくは2個のヌクレオチドからなるものをいずれも用いることができる。具体的には、デオキシチミジル酸からなる配列(例えばTT)、ウリジル酸からなる配列(例えばUU)、デオキシチミジル酸に続いて任意のヌクレオチドが結合した配列(例えばTN)といった配列を例示できる。合成を安価に行えることおよびヌクレアーゼ耐性がより強いことから、より好ましくは、2つのデオキシチミジル酸からなる配列をオーバーハング配列として使用する(hj―1、hj―2、hj―3、hj―4及びhj―5)。オーバーハング配列は、目的のRNAの3'末端のリボース3'水酸基部位に、ジエステル結合によって結合させる。
【0039】
本発明は、本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドのいずれか1を形成するポリヌクレオチドを包含する。本発明に係るポリヌクレオチドとして、配列表の配列番号1〜10のいずれか1に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドが例示される。
【0040】
本発明に係るポリヌクレオチドの特徴の1つは、該ポリヌクレオチドと、該ポリヌクレオチドに含まれるRNAの相補的な塩基配列からなるRNAにそのRNAの3'末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとをハイブリダイゼーションさせて得られる二重鎖ポリヌクレオチドがhj03796遺伝子に対しRNA干渉効果を有する点である。
【0041】
本発明は、本発明に係るポリヌクレオチドに含まれるRNAを包含する。本発明に係るRNAとして、配列表の配列番号1〜10のいずれか1に記載の塩基配列で表されるRNAが例示される。
【0042】
本発明に係るRNAの特徴の1つは、本発明に係るRNAにそのRNAの3'末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、該RNAの相補的な塩基配列からなるRNAにそのRNAの3'末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとをハイブリダイゼーションさせて得られる二重鎖ポリヌクレオチドがhj03796遺伝子に対しRNA干渉効果を有する点である。
【0043】
本発明に係るポリヌクレオチドおよびRNAは、自体公知の製法に従って、例えば市販のDNA/RNA合成装置により合成され得る。
【0044】
本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドは、本発明に係るポリヌクレオチドと、該ポリヌクレオチドに含まれるRNAの相補的な塩基配列からなるRNAにそのRNAの3'末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとをハイブリダイゼーションさせて得られる。ハイブリダイゼーションは、これら2つのポリヌクレオチドを慣用の方法でアニーリングすることにより実施可能である(特許文献2)。例えば、センス鎖のポリヌクレオチド溶液とアンチセンス鎖のポリヌクレオチド溶液を混合して、得られた溶液に5×アニ−リングバッファー(500mM 酢酸カリウム、150mM HEPES−KOH pH7.4、10mM 酢酸マグネシウム)を添加し、得られた溶液を95℃で1分間および75℃で1分間熱処理しさらに60分間かけて徐々に37℃でまで冷却することによりハイブリダイゼーションを実施し得る。
【0045】
ある二重鎖ポリヌクレオチドのhj03796遺伝子に対するRNA干渉効果は、該二重鎖ポリヌクレオチドが自体公知の方法により導入された哺乳動物細胞に含まれるhj03796遺伝子の遺伝子産物を、自体公知の測定方法、例えば、ウェスタンブロット法に従って測定することにより確認され得る(本願実施例)。例えば、ある二重鎖ポリヌクレオチドが導入された細胞の細胞溶解液に含まれるhj03796が、化合物を導入しない細胞の細胞溶解液に含まれるhj03796と比べ量的に低減又は消失している場合には、該二重鎖ポリヌクレオチドはhj03796遺伝子に対するRNA干渉効果を有すると判定可能である。
【0046】
以上のことから、本発明は、本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、hj03796遺伝子の発現阻害方法、hj03796の阻害方法を提供する。これらの方法はいずれも、in vitroの方法でよく、あるいはin vivoの方法でもよい。
【0047】
さらに、本発明は、hj03796の阻害を指標とする細胞増殖抑制剤の同定方法、hj03796の阻害を指標とする癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法を提供する。両方法ともに、被験化合物のhj03796に対する阻害の有無及び/又はその程度を指標とする点で共通する。
【0048】
本発明者らは、5種類の二重鎖ポリヌクレオチドそれぞれ(hj―1、hj―2、hj―3、hj―4及びhj―5)を3種類の細胞株それぞれ(HCT116、HEK293、A549)に導入し、導入から4日後の該細胞株内に存在するhj03796を測定した。その結果、これら全ての二重鎖ポリヌクレオチドは、これら各細胞株の細胞増殖を抑制することを見出した(本願実施例)。
【0049】
前述のように、発明者は、これら5種類の二重鎖ポリヌクレオチドはhj03796遺伝子の発現阻害化合物であると考える。hj03796のDH/PHドメイン部分蛋白質が作用するCdc42はRhoファミリー蛋白質である。Rhoファミリー蛋白質は細胞内伝達の制御を介して様々な細胞機能(例えば、細胞骨格の再構成、細胞接着など)に関与することが知られている(特許文献1)。Cdc42はc−JunN末端キナーゼシグナル伝達経路を活性化し得る(特許文献1)。c−JunN末端キナーゼ(JNK)は、細胞増殖や細胞死または免疫炎症応答に関与することが知られている(非特許文献2)。以上のことから、本発明者らは、hj03796遺伝子の発現阻害により、hj03796が作用するRhoファミリー蛋白質が阻害され、その結果として、細胞増殖が抑制されると考えている。
【0050】
すなわち、本発明者らは、hj03796阻害化合物は細胞増殖を抑制すると考える。
【0051】
本発明者らは、5種類の二重鎖ポリヌクレオチド(hj―1、hj―2、hj―3、hj―4及びhj―5)を導入したA549を低付着性プレート又は通常付着性のプレート上で培養した(本願実施例)。低付着性プレートで培養された細胞の増殖は足場非依存的な細胞増殖であることが知られている。
【0052】
発明者は、これら二重鎖ポリヌクレオチドを導入したA549を通常付着性プレート上で培養した場合のそのA549の細胞増殖は、陰性対照化合物を導入した場合又は化合物を導入しないA549を通常付着性プレート上で培養した場合のそのA549の細胞増殖と比較して抑制されていることを明らかにした(本願実施例、図8)。しかし、これら二重鎖ポリヌクレオチドを導入したA549を通常付着性プレート上で培養した場合のそのA549は、ゆっくりではあるが経時的(導入後1日、2日、4日)に増殖した(本願実施例、図8)。一方、これら5種類の二重鎖ポリヌクレオチドを導入したA549を低付着性プレート上で培養した場合のそのA549については、そのような経時的な増殖が認められなかった(本願実施例、図7)。
【0053】
さらに、これら5種類の二重鎖ポリヌクレオチドを導入したA549を低付着性プレートプレート上培養した場合のそのA549の細胞増殖は、細胞接着に関与するβ―catenin遺伝子に対するRNA干渉効果を有する陽性対照化合物を導入したA549を低付着性プレート上で培養した場合のそのA549の細胞増殖と比較して、より強く抑制されていることが明らかとなった(本願実施例)。
【0054】
以上のことから、発明者らは、hj03796遺伝子の発現阻害化合物は特に足場非依存的な細胞増殖を抑制し得ると考える。本発明者らは、いかなる理論に拘泥するわけではないが、例えばhj03796遺伝子の発現を阻害することにより、細胞接着やその運動に関与するRhoファミリー蛋白質に対するhj03796のGEF活性が減弱され、その結果、足場非依存的な細胞増殖の抑制が誘導されるものと考えている。
【0055】
本発明者らは、hj03796遺伝子の発現が胃腫瘍において亢進していることを見出した(特許文献1)。さらに、本発明者らは、5種類の二重鎖ポリヌクレオチド(hj―1、hj―2、hj―3、hj―4及びhj―5)が大腸癌又は肺癌由来の細胞株(HCT−116、A549)に対して、細胞増殖抑制活性を示すことを見出した(本願実施例)。
【0056】
以上のことから、発明者らは、hj03796遺伝子の発現阻害化合物は抗癌活性を有すると考える。ある遺伝子の発現阻害は、その遺伝子の遺伝子産物の産生を阻害し、その低減を誘導する。従って、発明者らは、hj03796阻害化合物も抗癌活性を有すると考える。前述のように、hj03796遺伝子の発現阻害化合物は、大腸癌又は肺癌由来の細胞に対する増殖抑制活性を示す。従って、本発明に係る癌の治療及び/又は予防剤の有効成分の同定方法として、大腸癌又は肺癌の治療及び/又は予防剤の有効成分の同定方法を好ましく例示できる。
【0057】
hj03796の阻害を指標とするとは、被験化合物によるhj03796阻害の有無及び/又はその程度を同定の基準とすることを意味する。例えば、1)被験化合物がhj03796を阻害する場合、2)被験化合物によるhj03796阻害が陰性対照化合物によるhj03796阻害と比較して同等又はより強い場合、及び/又は、3)被験化合物によるhj03796阻害が陽性対照化合物によるhj03796阻害と比較して同等又はより強い場合、被験化合物を細胞増殖抑制剤あるいは癌の予防及び/又は治療剤の有効成分と同定できる(本願実施例)。
【0058】
hj03796とは、DH/PHドメイン(配列表の配列番号18に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質)と一定以上(例えば、70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%)の相同性を有し、かつ、Rhoファミリー蛋白質(例えば、Cdc42)に対してGEF活性を示す蛋白質を意味する(特許文献1)。
【0059】
hj03796として、配列表の配列番号12、14および16のいずれか1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質が例示できる。配列表の配列番号14に記載のアミノ酸配列は、配列表の配列番号12に記載のアミノ酸配列の第90番目のリジン(Lys)から第454番目のロイシン(Leu)までからなるアミノ酸配列である。配列表の配列番号16に記載のアミノ酸配列は、配列表の配列番号14に記載のアミノ酸配列のN末端にメチオニン(Met)が付加されたアミノ酸配列である。これら例示された3種類のhj03796は、いずれも、DH/PH相同ドメイン(配列表の配列番号18に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質)を有する点で共通する。
【0060】
hj03796をコードするポリヌクレオチドとして、配列表の配列番号11、13および15のいずれか1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドがコードする蛋白質が例示される。配列表の配列番号11に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドがコードする蛋白質として、配列表の配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を例示できる。配列表の配列番号13に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドがコードする蛋白質として、配列表の配列番号14に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を例示できる。配列表の配列番号15に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドがコードする蛋白質として、配列表の配列番号16に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を例示できる。
【0061】
hj03796及びその遺伝子の由来生物種は、特に制限されず、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ブタ、ウシ等が挙げられ、好ましく、ヒトを例示できる。hj03796及びその遺伝子は、天然に存在する野生型の蛋白質又はその遺伝子のみならず、hj03796及びその遺伝子の機能が認められる限り、変異蛋白質や相同蛋白質又はそれらの遺伝子であってもよい。hj03796の機能として、例えば、Rhoファミリー蛋白質(例えば、Cdc42)に対するGEF活性、Rhoファミリー蛋白質(例えば、Cdc42)に対する結合活性が例示される。
【0062】
このような変異蛋白質や相同蛋白質は、一般的には、野生型の蛋白質のアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸の欠乏、置換、付加及び/又は挿入等の変異を有するアミノ酸配列、あるいは、野生型の蛋白質のアミノ酸配列と一定以上(例えば、70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは95%以上)の相同性を有するアミノ酸配列で表される。このような変異蛋白質や相同蛋白質又はそれらの遺伝子を取得する方法は既知であり、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(Sambrookら編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリ・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1989年)等に記載された方法又はそれに準ずる方法により適宜実施可能である。
【0063】
さらに、hj03796は、hj03796の機能が認められる限りにおいて、その構成アミノ基又はカルボキシル基等を改変することもできる。例えばhj03796の機能が認められる限りにおいて、タグペプチド(例えば、GST−tag, His−tag, Myc−tag, HA−tag, FLAG−tag)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート)及びビオチンなどを単独又は組合せてhj03796を化学修飾することも可能である。これらの化学修飾によりhj03796の精製や検出などが容易になる場合がある。
【0064】
細胞増殖抑制剤における細胞は、特に限定されず、例えば、初代培養、樹立細胞株、生体を構成する各種の細胞(組織細胞、リンパ球など)を例示できるが、好ましくは癌細胞、さらに好ましくはヒト癌細胞を例示できる。ヒト癌細胞として、例えば、ヒト大腸癌細胞、ヒト肺癌細胞を例示できる。このような細胞として、例えば、A549やHCT116を例示できる(本願実施例)。
【0065】
本発明者らは、5種類の二重鎖ポリヌクレオチド(hj―1、hj―2、hj―3、hj―4及びhj―5)それぞれをA549に導入した結果、いずれの二重鎖ポリヌクレオチドを導入した場合においてもA549におけるhj03796量が低減し、かつ、A549の増殖が足場非依存的に抑制されることを見出した(本願実施例)。癌細胞は正常細胞と異なり足場非依存下でも増殖が可能である。
【0066】
以上のことから、細胞増殖抑制剤として、特に好ましくヒト肺癌細胞の増殖抑制剤を例示できる。
【0067】
抗癌活性を有する化合物は、癌細胞の細胞増殖を抑制する化合物のみならず、癌細胞に対する殺細胞効果を有する化合物、哺乳動物(ヒトを含む)に投与可能な抗癌剤の有効成分など、細胞又は組織レベルにおいて、抗癌活性を示すあらゆる化合物を含む。
【0068】
本発明に係る同定方法の1つの具体的態様として、例えば、(1)被験化合物存在下、hj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能を測定する工程、及び、(2)(1)で測定したhj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能とを比較する工程を含む同定方法を例示できる。
【0069】
各工程について、具体的に説明する。
【0070】
まず、(1)被験化合物存在下、hj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能を測定する。
【0071】
(1)の工程は、hj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能を測定可能な試験系で実行される。hj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能を測定可能な試験系は、in vitroの試験系でよく、あるいはin vivoの試験系でもよい。
【0072】
本発明に係る同定方法で用いる被験化合物(test compound)は特に制限されない。被験化合物は、合成化合物でもよく、天然物抽出物中に存在する化合物であってもよい。被験化合物として、例えば、合成化合物、天然化合物、植物抽出物、動物抽出物、発酵生産物、市販の試薬、化合物ライブラリーから選抜された化合物などが挙げられる。被験化合物の分子種も特に制限されず、例えば、低分子化合物、ペプチド、蛋白質、糖、核酸等を例示できる。核酸として、例えば、アンチセンスRNA、shRNA、siRNAを例示できる。
【0073】
本発明に係る同定方法で用いる陰性対照化合物は、hj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能を阻害しない或いは微弱に阻害する化合物である限りにおいて特に制限されず、例えば、scramble siRNAが例示される(本願実施例)。
hj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能を測定可能なin vitroの試験系について説明する。
【0074】
hj03796遺伝子の発現を測定可能なin vitroの試験系として、in vitro転写/翻訳試験系、in vitro翻訳試験系を例示できる。in vitro転写/翻訳試験系として、転写及び翻訳を望む遺伝子(cDNA等)を挿入した組換えベクターを、ウサギ網状赤血球抽出液又は小麦胚芽抽出液に添加することにより、該遺伝子の転写と翻訳反応が行われる試験系を例示できる。in vitro翻訳試験系として、翻訳を望む遺伝子の転写産物を、ウサギ網状赤血球抽出液又は小麦胚芽抽出液に添加することにより、該遺伝子がコードする蛋白質の合成反応が行われる試験系を例示できる。これらの試験を実施するための試薬が市販されている(TNT T7 Quick Coupled Transcription/Translation System;プロメガ社製)。
【0075】
hj03796遺伝子の発現の測定は、hj03796遺伝子の転写産物(hj03796遺伝子のメッセンジャーRNA)の測定でもよく、該hj03796遺伝子の転写産物から翻訳されてなるhj03796の測定としてもよく、またその組合せでもよい。
hj03796遺伝子の転写産物は、逆転写ポリメラーゼ鎖伸長反応法(RT−PCR法)やノーザンブロット法により測定可能である。定量性の観点から、hj03796遺伝子の発現量の測定方法として、好ましくRT−PCR法を、より好ましくリアルタイムRT−PCR法を例示できる。
【0076】
hj03796は、例えば、免疫沈降法やウェスタンブロット法などにより測定され得る。
【0077】
hj03796の機能を測定可能な試験系として、in vitroにおけるhj03796とその基質であるRhoファミリー蛋白質との酵素反応系を例示できる。すなわち、hj03796の機能を測定可能な試験系として、hj03796のRhoファミリー蛋白質に対するGEF活性を測定可能な試験系を例示できる。
【0078】
hj03796のGEF活性は、例えば、Rhoファミリー蛋白質とhj03796を含む適当な緩衝液を調製し、hj03796によるRhoファミリー蛋白質のGDP/GTP交換反応を行わせた後、活性化されたRhoファミリー蛋白質の増加又は発生を検出することにより測定可能である。活性化されたRhoファミリー蛋白質は、エフェクター分子を用いて定量され得る。ここでのエフェクター分子は、活性化されたRhoファミリー蛋白質には結合するが、活性化されていないRhoファミリー蛋白質には結合しないか弱く結合するエフェクター分子であることが好ましい。具体的には、エフェクター分子の活性化されたRhoファミリー蛋白質との結合部位を含む蛋白質にGST−tagを付加した蛋白質と、活性化されたRhoファミリー蛋白質との結合をプルダウン法により検出し、さらに活性化されたRhoファミリー蛋白質を電気泳動法およびウェスタンブロット法により測定する。Rhoファミリー蛋白質によって、活性化された該蛋白質と結合するエフェクター分子は異なる。従って、用いるRhoファミリー蛋白質の種類によって適当なエフェクター分子を選択して用いる。例えば、活性化されたCdc42は、そのエフェクター分子であるPAK−1に結合することが知られている(特許文献1)。
【0079】
次に、hj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能を測定可能なin vivoの試験系について説明する。
【0080】
in vivoの試験系として、培養細胞の試験系を好ましく例示できる。培養細胞の細胞内の転写/翻訳システムにより、該細胞内において、hj03796遺伝子が転写/翻訳され、結果として、hj03796が合成される。
【0081】
本試験系における培養細胞はhj03796遺伝子を発現する限りにおいて特に制限されず、初代培養、細胞株のいずれでもよい。培養細胞の由来生物種は特に限定されないが、ヒトを含む哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることがより好ましい。細胞内におけるhj03796遺伝子発現の有無は、例えばhj03796特異的な抗体を用いたウェスタンブロット方法により確認できる。また、本発明に係る同定方法で用いるhj03796遺伝子を発現する細胞は、hj03796遺伝子を導入して形質転換させた細胞であってもよい。あるいはhj03796をコードする遺伝子とRhoファミリー蛋白質をコードする遺伝子を共導入して形質転換させた細胞であってもよい。hj03796遺伝子の導入による形質転換は、例えばhj03796遺伝子を含有する組換えベクターを慣用の遺伝子工学的手法で細胞にトランスフェクションすることで実施できる。hj03796をコードする遺伝子とRhoファミリー蛋白質をコードする遺伝子の共導入による形質転換は、hj03796をコードする遺伝子を含む組換えベクターとRhoファミリー蛋白質をコードする遺伝子を含む組換えベクターを慣用の遺伝子工学的手法で細胞にトランスフェクションすることで実施できる。hj03796遺伝子を発現する細胞として、肺癌由来細胞、大腸癌由来細胞、腎臓由来細胞を例示できる。このような細胞として、例えば、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HCT116細胞(ヒト大腸癌由来)、A549細胞(ヒト肺腺癌由来)をより好ましく例示できる。
【0082】
本発明に係る同定方法で用いる細胞の培養は、用いる細胞に応じた各種培養条件(培地の組成、培養時間、培養温度、培養プレートなど)に従って適宜に実施することができる。本発明者らは、5種類の二重鎖ポリヌクレオチド(hj―1、hj―2、hj―3、hj―4及びhj―5)をA549又はHCT116に導入した結果、その細胞増殖が抑制されることを見出した(本願実施例)。A549又はHCT116はいずれもヒト癌由来の細胞株である。癌細胞は、正常細胞とは異なり、足場非存在下においても増殖が可能である。低付着性プレートで培養された細胞の増殖は足場非依存的な細胞増殖であることが知られている。以上のことから、本発明に係る同定方法で用いる細胞を培養するためのプレートは、低付着性培養プレートであることが好ましい。
【0083】
(1)の工程では、前記の試験系に被験化合物を混在させ、hj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能を測定する。
【0084】
例えば、in vitroにおけるhj03796とRhoファミリー蛋白質との酵素反応系に被験化合物を混在させる場合には、該酵素反応の前に該酵素反応溶液に被験化合物を添加してもよく、あるいは該酵素反応中に酵素反応溶液に被験化合物を添加してもよい。
【0085】
培養細胞の試験系に被験化合物を混在させる場合には、該細胞内に被験化合物を導入してもよく、該細胞の培養上清に添加してもよい。これらの導入又は添加は、該細胞の培養からhj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能の測定までの過程のいずれの時であってもよい。被験化合物が核酸の場合には、該細胞に導入することが好ましい。被験化合物が核酸の場合、自体公知の遺伝子導入方法(リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法など)により、好ましくは、リポフェクション法により被験化合物を培養細胞に導入することができる。
【0086】
さらに、(2)(1)で測定したhj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能と被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能とを比較する。このような比較として、(a)(1)で測定したhj03796遺伝子の発現量と被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796遺伝子の発現量との比較、(b)(1)で測定したhj03796の機能と被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796の機能との比較、又は(a)及び(b)の両方の比較を例示できる。比較の結果、(1)で測定したhj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能が、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796遺伝子の発現及び/又はhj03796の機能を下回る(hj03796遺伝子の発現量とhj03796の機能が共に下回る、又は、hj03796遺伝子の発現量とhj03796の機能のいずれかが下回る)場合には、被験化合物はhj03796を阻害すると判定できる。
【0087】
例えば、被験化合物存在下におけるhj03796遺伝子の発現が被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796遺伝子の発現と比べ低減又は消滅している場合、被験化合物存在下におけるhj03796量が被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796量と比べ低減又は消滅している場合、被験化合物存在下におけるhj03796の機能が被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796の機能と比べ低減又は消滅している場合、被験化合物存在下における活性化されたRhoファミリー蛋白質の量が被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下における活性化されたRhoファミリー蛋白質の量と比べ低減又は消滅している場合、及び、被験化合物存在下における活性化されていないRhoファミリー蛋白質量が被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下における活性化されていないRhoファミリー蛋白質量と比べ発生又は増加している場合の少なくともいずれかの場合には、被験化合物はhj03796を阻害すると判定され得る。
【0088】
本発明に係る癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法において、さらに、in
vivoの癌モデル動物を用いて、被験化合物が癌の予防及び/又は治療剤の有効成分であることを確認する工程を含んでいてもよい。癌モデル動物として、好ましく癌非ヒト哺乳動物、より好ましく,癌マウス又は癌ラットを例示可能である。癌種は特に制限されないが、癌モデル動物として、肺癌モデル動物又は大腸癌モデル動物を例示できる。
【0089】
一般的には、癌モデル動物は、マウスやラットなどの非ヒト哺乳動物に対して、腫瘍細胞を移植する又は発癌物質を投与すること等により製造され得る(非特許文献3)。肺癌モデル動物として、例えば、A/Jマウスが利用されている(非特許文献4)。前臨床試験における大腸癌の治療剤のスクリーニングを実施する際、A/Jマウスが利用されていることも報告されている(非特許文献5)。
【0090】
癌モデル動物に被験化合物を投与して、その病変部位の変化を確認することにより、被験化合物が癌の予防及び/又は治療剤の有効成分であることを確認することができる。例えば、癌モデル動物に被験化合物を経口投与又は非経口投与し、該モデル動物における癌病変部位の縮小若しくは消滅又は癌進行の抑制などの治療効果を確認できた場合には、被験化合物が癌の予防及び/又は治療剤の有効成分であると確認することが可能である。
【0091】
前述のように、本発明者らは、hj03796阻害化合物が細胞増殖を抑制すると考える。さらに、本発明者らは、hj03796阻害化合物も抗癌活性を有すると考える。従って、本発明は、hj03796阻害化合物を含有する、細胞増殖抑制剤、癌の予防及び/又は治療剤を提供する。本発明は、hj03796阻害化合物を用いることを特徴とする、細胞増殖抑制方法、癌の予防及び/又は治療方法を提供する。本発明に係る細胞増殖抑制方法は、in vitroの細胞増殖抑制方法でもよく、in vivoの細胞増殖抑制方法でもよい。
【0092】
本発明に係る癌の予防及び/又は治療剤が適用可能な癌の種類は特に限定されない。具体的には、本発明に係る癌の予防及び/又は治療剤は、固形腫瘍又は非固形腫瘍のいずれにも適用可能であり、hj03796遺伝子の発現が認められるあらゆる種類の癌に適用可能である。例えば、胃癌 、食道癌 、大腸癌 、小腸癌 、十二指腸癌 、肺癌 、肝臓癌 、胆嚢癌 、膵臓癌 、腎臓癌 、膀胱癌 、口腔癌 、骨癌 、皮膚癌 、乳癌 、子宮癌 、前立腺癌 、脳腫瘍、神経芽腫等の固形腫瘍、あるいは白血病や悪性リンパ腫等の非固形腫瘍等を挙げることができる。
【0093】
本発明者らは、5種類の二重鎖ポリヌクレオチド(hj―1、hj―2、hj―3、hj―4及びhj―5)をA549又はHCT116に導入した結果、その細胞増殖が抑制されることを見出した(本願実施例)。従って、本発明に係る癌の予防及び/又は治療剤が適用可能な癌種として、肺癌又は大腸癌を好ましく例示できる。
【0094】
本発明に係る細胞増殖抑制剤および本発明に係る癌の予防及び/又は治療剤の有効成分はいずれも、適当な医薬担体と組合せて癌の予防及び/又は治療剤として用いられる。製剤化にあたっては、その剤形に応じて適切な製剤用添加物を用いることができる。
【0095】
このような製剤用添加物として、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤等を用いることができる。
【0096】
投与経路は、全身投与であってもよく、局所投与であってもよい。投与経路は、疾患や症状に応じて選択する。例えば、静脈投与、動脈投与、皮下、皮内、又は筋肉内投与を選択することができる。腫瘍患部に直接に抗癌剤を投与してもよい。
【0097】
必要な容量範囲は、有効成分の有効性、疾患、患者の症状、投与経路、及び担当医師の判断等によるが、一般的には、患者の体重1kgあたり0.1乃至100μg程度である。
【0098】
経口投与に適する製剤の例として、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤を挙げることができる。非経口投与に適する製剤の例として、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリ−ム剤、貼付剤を例示できる。
【0099】
さらに、本発明はhj03796及び/又はhj03796をコードする遺伝子を含有する、上記同定方法用試薬キットを提供する。
【0100】
本試薬キットには、上記同定方法に用いられるマーカー物質、緩衝液、塩、安定化剤、防腐剤などが含まれていてもよい。製剤化にあたっては、使用する各物質それぞれに応じた製剤化手段を導入すればよい。
【0101】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【実施例1】
【0102】
(hj03796遺伝子の発現阻害化合物の合成)
細胞内のhj03796遺伝子発現が該細胞増殖に与える影響を評価するために、まずhj03796遺伝子の発現阻害化合物を合成した。
【0103】
具体的には、RNA干渉によりhj03796遺伝子発現を阻害すると考えられる以下に示す1)〜5)の二重鎖ポリヌクレオチド(siRNA)を合成(B−Bridge社に委託)した。
【0104】
1)hj―1
5´- CCAAGACAGUGGAGGAGAAdTdT 3´ (dTdTを除く部分配列:配列番号1)
3´ dTdTGGUUCUGUCACCUCCUCUU - 5´ (dTdTを除く部分配列:配列番号2)
2)hj―2
5´- CGAGAAAGCCCGAGCAGCAdTdT 3´ (dTdTを除く部分配列:配列番号3)
3´ dTdTGCUCUUUCGGGCUCGUCGU - 5´ (dTdTを除く部分配列:配列番号4)
3)hj―3
5´- CAGAAGUCCUGGAGACACAdTdT 3´ (dTdTを除く部分配列:配列番号5)
3´ dTdTGUCUUCAGGACCUCUGUGU - 5´ (dTdTを除く部分配列:配列番号6)
4)hj―4
5´- CCAAAGGACUGGUAAGAAAdTdT 3´ (dTdTを除く部分配列:配列番号7)
3´ dTdTGGUUUCCUGACCAUUCUUU - 5´ (dTdTを除く部分配列:配列番号8)
5)hj―5
5´- GUGAGAAACCUUAGAGAGAdTdT 3´ (dTdTを除く部分配列:配列番号9)
3´ dTdTCACUCUUUGGAAUCUCUCU - 5´ (dTdTを除く部分配列:配列番号10)
また、対照の陰性化合物として、6)の二重鎖ポリヌクレオチド(siRNA)を合成(Dharmacon社に委託)した。scramble siRNAは、哺乳動物の細胞には存在しない配列を二本鎖にしたRNAであって、植物の葉緑体遺伝子の中にある配列から選出された。
【0105】
6)scramble siRNA
5´- GCGCGCUUUGUAGGAUUCGdTdT 3´
3´ dTdTCGCGCGAAACAUCCUAAGC - 5´
次に、hj―1〜5がhj03796遺伝子発現に与える影響を評価する為に、これらの二重鎖ポリヌクレオチドそれぞれをA549(ヒト肺癌由来細胞株)又はHCT116(ヒト大腸癌由来の細胞株)に導入し、その導入後、該細胞内におけるhj03796を検出した。
【0106】
前日に24well plateへ2.5 x 104 cells/wellで播種したA549又はHCT116に、導入試薬であるLipofectamine2000とともに20 pmol/wellの上記6種類の二重鎖ポリヌクレオチドそれぞれを導入した。二重鎖ポリヌクレオチドを導入後2日目にA549又はHCT116を回収し、凍結させた。凍結サンプルを融解後、Lysis buffer(2M Thiourea, 7M Urea, 4%(w/v) CHAPS, 30mM Tris-HCl(pH8.5))にてA549又はHCT116の細胞溶解液を調製した。細胞溶解液の総蛋白質濃度を測定後、総蛋白質量を一定にした細胞溶解液をSDS-PAGE装置に供与し、western blot法を実施した。hj03796の検出量を向上させるため、Can Get Signal(TOYOBO社)の溶液を用いて抗体反応を実施した。検出試薬として、ECL plus(Amersham社製)を使用した。HCT116を用いた実験において、Survivinに対してRNA干渉作用を有する二重鎖ポリヌクレオチドを用いた。
【0107】
hj―1〜5それぞれを導入したHCT116において、scramble siRNAをHCT116に導入した場合と比べて、hj03796遺伝子の発現抑制が確認された(図3)。さらに、hj―1〜5それぞれを導入したA549において、mock又はscramble siRNAをA549に導入した場合と比較すると、hj03796遺伝子の発現抑制が確認された(図4)。hj―1〜5の全二重鎖ポリヌクレオチドはhj03796遺伝子の発現抑制効果を有することが明らかとなった。
【0108】
すなわち、hj―1〜5はhj03796遺伝子の発現阻害化合物であることが明らかとなった。
【0109】
(hj03796遺伝子を阻害する二重鎖ポリヌクレオチドが細胞増殖に与える影響の検討)
hj―1〜5はhj03796遺伝子発現を阻害する二重鎖ポリヌクレオチドであることが確認されたため、これらの二重鎖ポリヌクレオチドが細胞増殖に与える影響を3種類の細胞株を用いて検討した。3種類の細胞株は、A549(ヒト肺癌由来細胞株)、HCT116(ヒト大腸癌由来細胞株)、HEK293(ヒト胎児腎臓由来細胞株)である。
【0110】
前日に24well plateへ以下の播種数で播種した各細胞株に、導入試薬であるLipofectamine2000とともに20 pmol/wellの上記6種類の二重鎖ポリヌクレオチドそれぞれを導入した。siRNAによる細胞の表現型の変化を確認するため、導入1日、2日と4日後にTetraColor Oneキットによって細胞増殖を数値化した。
細胞播種数
HEK293: 2.5 x 104 cells/well
HCT116: 5.0 x 104 cells/well
A549: 2.5 x 104 cells/well
各二重鎖ポリヌクレオチドの導入による細胞増殖抑制効果の結果を図1と図2に示す。導入2日後ではhj−1〜5によるHEK293、HCT116およびA549の増殖抑制が確認された。また、導入4日後においても、hj−1〜5全ての二本鎖ポリヌクレオチドは、HEK293、HCT116およびA549の細胞増殖を抑制することを確認した。
【0111】
以上の結果から、hj―1〜5全ての二重鎖ポリヌクレオチドはhj03796遺伝子の発現を阻害することにより、細胞増殖が抑制すると考えられる。
【実施例2】
【0112】
(hj03796遺伝子の発現阻害による足場非依存的増殖抑制効果の検討)
線維芽細胞などの正常付着細胞は、足場となる細胞外基質に接着することにより生存ならびに細胞分裂が可能となる。一方、癌細胞は、正常細胞とは異なり、足場非存在下においても増殖が可能である。
そこで、hj―1〜5のhj03796遺伝子の発現阻害による細胞増殖抑制が、癌細胞の特徴の1つである足場非依存的増殖の抑制であるか否かについて検討した。
【0113】
前日に6well plateへ8 x 104 cells/wellで播種したA549に、導入試薬であるLipofectamine2000とともに80 pmol/wellの5種類のhj―1〜5それぞれを導入した。足場非依存的増殖抑制のポジティブコントロールとして細胞の接着に関与するβ-cateninに対するsiRNA(b-cat-5;非特許文献6に基づき設計された下記7)に記載のsiRNA;DHRMACON社製)を導入した。導入6-9時間後にHydroCell(12 well plate, CellSeed社製)またはnormal plate(12 well)に播種し、1、2、4日後にTetraColor Oneキットによって細胞増殖を数値化し、足場非依存的な増殖の確認を実施した。なお、HydroCellは超親水性のポリマーがコーティングされており、付着性細胞が接着できない培養プレートである。足場非依存的増殖を確認するには、従来法として軟寒天法があるが、軟寒天法は操作が煩雑であり、しかも細胞数を測定する際、軟寒天に覆われているため、コロニー数を判定するのも困難である。一方、HydroCellによる培養は、通常の培養法で培養可能であり、軟寒天法を反映すると考えられているため、軟寒天法に替わる足場非依存的増殖試験と位置付けている。
【0114】
7)β-cateninに対するsiRNA(b-cat-5)
5'- AGCUGAUAUUGAUGGACAGdTdT -3'
3'- dTdTUCGACUAUAACUACCUGUC -5'
hj―1〜5の各二重鎖ポリヌクレオチドによりA549の増殖が抑制されていることが確認された(図7)。その増殖抑制はβ-cateninに対するsiRNAによる増殖抑制よりも効果が高かった。コントロールであるmockとscramble siRNAでは足場非依存的にも増殖していることからも、HydroCellでの培養による増殖抑制ではなく、siRNA導入による現象であることが示唆された。また、normal plateにおいてhj03796遺伝子に対するsiRNAを導入した細胞は、増殖速度は遅いものの、経時的に増殖していることが確認された(図8)。
低分子G蛋白質であるRhoファミリー蛋白質は、接着、細胞運動、遺伝子発現等に関与している。Rhoファミリー蛋白質の活性化はRho−GEFにより制御されている。細胞の足場依存的な増殖は、その接着に関与していることから、hj03796遺伝子に対するsiRNAの導入によってhj03796レベルが減少した結果、Rhoファミリー蛋白質の活性化が低下し、足場非依存的な増殖が抑制されたかもしれない。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、hj03796遺伝子の発現を阻害する二重鎖ポリヌクレオチドを提供できる。本二重鎖ポリヌクレオチドを利用して、hj03796遺伝子の発現の阻害、hj03796の阻害又は細胞増殖の抑制を実施できる。また、本発明によれば、hj03796の阻害を指標とする、細胞増殖抑制剤又は癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法を提供できる。本二重鎖ポリヌクレオチド、本同定方法により同定された細胞増殖抑制剤或いは癌の予防及び/又は治療剤の有効成分を利用して、癌の治療及び/又は予防を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】hj03796遺伝子の発現阻害化合物(hj−1〜5)それぞれを3種類の細胞株(A549(図上部)、HCT116(図中央)、HEK293(図下部))それぞれに導入した後2日目の該細胞の増殖を示す。各図の横軸は導入した化合物(scramble siRNA、hj−1〜5)を表し、図の縦軸は各化合物を導入した後2日目の各細胞の増殖度合いを表す。増殖度合いはscramble siRNAが導入された各細胞の増殖に対する比で表される。
【図2】hj03796遺伝子の発現阻害化合物(hj−1〜5)それぞれを3種類の細胞株(A549(図上部)、HCT116(図中央)、HEK293(図下部))それぞれに導入した後4日目の該細胞の増殖を示す。図の横軸は導入した化合物(scramble siRNA、hj−1〜5)を表し、図の縦軸は各化合物を導入した後4日目の各細胞の増殖度合いを表す。増殖度合いはscramble siRNAが導入された各細胞の増殖に対する比で表される。
【図3】5種類の二重鎖ポリヌクレオチド(hj−1〜5)のhj03796遺伝子発現阻害効果を示す。5種類の該二重鎖ポリヌクレオチドそれぞれをHC116に導入した後4日目の該細胞の細胞溶解液サンプルをSDS−PAGEに供与し、ウェスタンブロット法でhj03796を測定した。Scramble,Survivinはそれぞれ陰性対照化合物(Scramble siRNA)又はSurvivin遺伝子の発現阻害化合物を導入したHCT116の細胞溶解液サンプルをSDS−PAGEに供与し、ウェスタンブロット法でhj03796を測定した結果を示す。また、hj03796Plasmidは、hj03796をコードする遺伝子を含有する組替えベクターを導入したHEK293の細胞溶解液サンプルをSDS−PAGEに供与し、ウェスタンブロット法でhj03796を測定した結果を示す。矢頭はhj03796のバンド位置を示す。
【図4】5種類の二重鎖ポリヌクレオチド(hj−1〜5)のhj03796遺伝子発現阻害効果を示す。5種類の該二重鎖ポリヌクレオチドそれぞれをA549に導入した後4日目の該細胞の細胞溶解液サンプルをSDS−PAGEに供与し、ウェスタンブロット法でhj03796を測定した。Mock、Scrambleはそれぞれ二重鎖ポリヌクレオチドを導入しないあるいは陰性対照化合物(Scramble siRNA)を導入したA549の細胞溶解液サンプルをSDS−PAGEに供与し、ウェスタンブロット法でhj03796を測定した結果を示す。hj03796Plasmidは、hj03796をコードする遺伝子を含有する組替えベクターを導入したHEK293の細胞溶解液サンプルをSDS−PAGEに供与し、ウェスタンブロット法でhj03796を測定した結果を示す。矢頭はhj03796のバンド位置を示す。
【図5】低付着性培養プレートであるHydroCell上で陰性対照化合物(Scramble siRNA)を導入したA549を培養した場合の該A549の形態を示す。
【図6】通常プレートであるNormalPlate上で陰性対照化合物(Scramble siRNA)を導入したA549を培養した場合の該A549の形態を示す。
【図7】hj03796遺伝子の発現阻害化合物(hj−1〜5)それぞれが足場非依存的な細胞増殖に与える影響を示す。各化合物をA549に導入し、導入6−9時間後に低付着性培養プレートであるHydroCell上に該A549を播種し、播種後1、2又は4日後の該A549の細胞増殖を数値化した。Mock、Scrambleはそれぞれ二重鎖ポリヌクレオチドを導入しないあるいは陰性対照化合物(Scramble siRNA)を導入したA549の細胞増殖を示す。b−cat−5は陽性対照化合物(β-catenin遺伝子の発現阻害化合物)を導入したA549の細胞増殖を示す。
【図8】hj03796遺伝子の発現阻害化合物(hj−1〜5)それぞれが細胞増殖に与える影響を示す。各化合物をA549に導入し、導入6−9時間後に通常プレート上に該A549を播種し、播種後1、2又は4日後の該A549の細胞増殖を数値化した。Mock、Scrambleはそれぞれ二重鎖ポリヌクレオチドを導入しないあるいは陰性対照化合物(Scramble siRNA)を導入したA549の細胞増殖を示すb−cat−5は陽性対照化合物(β-catenin遺伝子の発現阻害化合物)を導入したA549の細胞増殖を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0117】
配列番号1:hj―1と称した二重鎖ポリヌクレオチドのセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号2:hj―1と称した二重鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号3:hj―2と称した二重鎖ポリヌクレオチドのセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号4:hj―2と称した二重鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号5:hj―3と称した二重鎖ポリヌクレオチドのセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号6:hj―3と称した二重鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号7:hj―4称した二重鎖ポリヌクレオチドのセンス鎖(ただしdTdTを除く)の配列。
配列番号8:hj―4と称した二重鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号9:hj―5と称した二重鎖ポリヌクレオチドのセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号10:hj―5と称した二重鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号11:グアニンヌクレオチド交換因子として機能する蛋白質(配列番号12)をコードするポリヌクレオチド。
配列番号12:グアニンヌクレオチド交換因子として機能する蛋白質。
配列番号13:配列番号11の第581番目から第1675番目までのヌクレオチドからなる部分配列であって、Dbl相同ドメインおよびプレックストリン相同ドメインをコードする領域を含むポリヌクレオチドであり、ここで該ポリヌクレオチドは配列番号14に記載のアミノ酸配列をコードする。
配列番号14:配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列の第90番目のリジン(Lys)から第454番目のロイシン(Leu)までからなるアミノ酸配列。
配列番号15:5´末端にコザックコンセンサス配列とメチオニンに対応するコドンとを有し、それに続いて、配列番号11の第581番目から第1675番目までのヌクレオチドからなる部分配列であって、Dbl相同ドメインおよびプレックストリン相同ドメインをコードする領域を含むポリヌクレオチドであり、ここで該ポリヌクレオチドは配列番号16に記載のアミノ酸配列をコードする。
配列番号16:配列表の配列番号14に記載のアミノ酸配列のN末端にメチオニン(Met)が付加されたアミノ酸配列。
配列番号17:Dbl相同ドメインおよびプレックストリン相同ドメインをコードするポリヌクレオチド。
配列番号18:Dbl相同ドメインおよびプレックストリン相同ドメイン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の群より選ばれるいずれか1のRNA;
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNA、
(2)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNA、
(3)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNA、
(4)配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNA、及び
(5)配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNA。
【請求項2】
下記の群より選ばれるいずれか1の二重鎖ポリヌクレオチド;
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、
(2)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、
(3)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号6に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、
(4)配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド、及び、
(5)配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号10に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端にオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドとからなる二重鎖ポリヌクレオチド。
【請求項3】
オーバーハング配列が2つのデオキシチミジル酸からなる塩基配列である、請求項2に記載の二重鎖ポリヌクレオチド。
【請求項4】
以下の工程を含む、細胞増殖抑制剤の同定方法;
(1)被験化合物存在下、hj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能を測定する工程、及び
(2)(1)で測定されたhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能とを比較する工程。
【請求項5】
以下の工程を含む、肺癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法;
(1)被験化合物存在下、hj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能を測定する工程、及び
(2)(1)で測定されたhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能とを比較する工程。
【請求項6】
以下の工程を含む、肺癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法;
(1)リポフェクション法により被験化合物を肺癌由来の培養細胞に導入する工程、
(2)(1)の培養細胞に存在するhj03796を測定する工程、及び
(3)(2)で測定されたhj03796と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下で培養された肺癌由来の培養細胞に存在するhj03796を比較する工程。
【請求項7】
さらに、被験化合物を肺癌モデル非ヒト哺乳動物に投与してその病変部位の変化を確認する工程を含む、請求項5又は6に記載の肺癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法。
【請求項8】
以下の工程を含む、大腸癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法;
(1)被験化合物存在下、hj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能を測定する工程、及び
(2)(1)で測定されたhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下におけるhj03796をコードするポリヌクレオチドの発現及び/又はhj03796の機能とを比較する工程。
【請求項9】
以下の工程を含む、大腸癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法;
(1)リポフェクション法により被験化合物を大腸癌由来の培養細胞に導入する工程、
(2)(1)の培養細胞に存在するhj03796を測定する工程、及び
(3)(2)で測定されたhj03796と、被験化合物非存在下若しくは陰性対照化合物存在下で培養された大腸癌由来の培養細胞に存在するhj03796を比較する工程。
【請求項10】
さらに、被験化合物を大腸癌モデル非ヒト哺乳動物に投与してその病変部位の変化を確認する工程を含む、請求項8又は9に記載の大腸癌の予防及び/又は治療剤の有効成分の同定方法。
【請求項11】
請求項2又は3に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有する、hj03796をコードするポリヌクレオチドの発現阻害剤。
【請求項12】
請求項2又は3に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有する、hj03796の阻害剤。
【請求項13】
請求項2又は3に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有する、細胞増殖抑制剤。
【請求項14】
請求項2又は3に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有する、癌の予防及び/又は治療剤。
【請求項15】
請求項2又は3に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、hj03796をコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する方法。
【請求項16】
請求項2又は3に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、hj03796を阻害する方法。
【請求項17】
請求項2又は3に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、細胞増殖の抑制方法。
【請求項18】
請求項2又は3に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、癌の予防及び/又は治療方法。
【請求項19】
hj03796をコードするポリヌクレオチド及び/又はhj03796を含有する、細胞増殖抑制剤の同定用試薬キット。
【請求項20】
hj03796をコードするポリヌクレオチド及び/又はhj03796を含有する、肺癌の予防及び/又は治療剤の同定用試薬キット。
【請求項21】
hj03796をコードするポリヌクレオチド及び/又はhj03796を含有する、大腸癌の予防及び/又は治療剤の同定用試薬キット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−22811(P2008−22811A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201451(P2006−201451)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】