説明

グアニン交換因子インヒビター及び抗癌剤としてのその使用

本発明は、癌治療を意図する薬物の製造のためのTRIPα由来ペプチドに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グアニン交換因子インヒビター及び抗癌剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチン細胞骨格のリモデリングにより、Rho GTPアーゼは、様々な細胞プロセス、例えば増殖、遊走、細胞接着及び細胞の形状を調節する(Etienne-Manneville及びHall、2002)。それらは、GDP/GTP交換速度を加速させるRhoグアニンヌクレオチド交換因子(RhoGEF)のDblファミリーにより活性化される(Rossmanら、2005)。RhoGEFは、数多くのシグナル伝達ドメインを有する複合タンパク質の大きな(哺乳動物においては70を超えるメンバーの)ファミリーに相当するが、それらは、ほぼ不変に、グアニンヌクレオチド交換を担うDbl相同(DH)ドメインの後に、GEFを原形質膜に標的化させ及び/又はヌクレオチド交換を調節するプレクストリン相同(PH)ドメインを含む機能的タンデムを含む(Chhatriwalaら、2007;Lutzら、2007;Rojasら、2007;Rossmanら、2003;Rossmanら、2005)。Rho GTPアーゼ機能の脱調節(deregulation)は、癌及び転移を含む様々なヒト障害に関連している(Sahai及びMarshall、2002;Toksoz及びMerdek、2002)。事実、Rac1又はRhoA及びCの過剰発現によるRhoGTPアーゼの活性化の増大は、腫瘍の増殖及び転移に関連している。加えて、多くのDblファミリーのRhoGEFは、当該タンパク質のトランケーション(trancation)に多くの場合起因し、制御されないGEF活性及びその後のRho GTPアーゼの異常な活性化をもたらすRho GEFの発癌性に基づいて単離されている(Eva及びAaronson、1985;Katzavら、1989;Mikiら、1993;Whiteheadら、1995;Whiteheadら、1996)。
【0003】
Trioは、RhoGEFファミリーに属し、GTPアーゼRac1/RhoG及びRhoAをそれぞれ活性化する2つのGEFドメイン(GEFD1及びGEFD2)を保有する複合タンパク質であり、したがって、幾つかのRho-GTPアーゼシグナル伝達経路にインビボにおいて関連している可能性がある (Blangyら、2000;Debantら、1996;Bellangerら、1998)。無脊椎動物のTrioオルソログに関する研究により、主にGEFD1ドメインによるRac1の活性化を介するTrioの細胞遊走及び軸索誘導における中心的役割が立証されている(Stevenら、1998;Newsomeら、2000)。Trioノックアウトマウスは、胎生(E15〜出生)致死であり、脳の組織化及び二次的な筋肉形成の欠陥を示し、このことは、これら発達プロセスにおける哺乳動物Trioの主要な役割を示唆する (O'Brienら、2000)。このことと一貫して、本発明者らは、TrioがNGF応答としてのPC12細胞におけるRhoG媒介性神経突起伸長に必要とされること(Estrachら、2002)及びTrioがネトリン(netrin)/DCC誘導性軸索伸長及び軸索誘導中のRac1活性化を担うGEFであること(Briancon-Marjolletら、2008)を示している。最近、Tgatと呼ばれるTrioの発癌性アイソフォームが、成人T細胞白血病患者の細胞から同定されており、これはRhoAに特異的なGEFドメインだけをコードする。Tgatは、ヌードマウスにおいて、主にRhoAの活性化を介して、細胞の形質転換及び腫瘍形成を誘導する(Yoshizukaら、2004)。
【0004】
Rho GTPアーゼ及びそれらのGEFは、したがって、それらの機能を理解するためだけでなく、病理学において抗癌剤を開発するためにも魅力的な阻害標的に相当する。
低分子量Gタンパク質及びそれらを活性化するGEFにより制御されるシグナル伝達経路を阻害しようとするとき、難題は、それらが、ブロックが可能である十分に規定された活性部位を有する単なる酵素ではないことである。むしろ、タンパク質−タンパク質相互作用を標的化しなければならず、インヒビターが結合し得る反応性ポケットの欠失が難題である。このことは、発癌性のRasが20年以上前に発見されていたにも拘らず、なぜ臨床的に妥当なインヒビターが同定されていないのかということを部分的には説明し得る。したがって、グアニンヌクレオチド交換因子を代わりに阻害しようとすることに研究が集中されており、最近の研究によりこのようなインヒビターがうまく同定されたことが報告されている。
例えば、国際出願WO/2003/099778は、Trio GEFD2ドメインを特異的に阻害するペプチドインヒビター及び軸索退縮を変調するためのその使用を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在まで、TrioのGEFD2ドメインに特異的な唯一のインヒビターは記載されているが、該インヒビターは、神経退縮以外の病変を治療するためには用いられてこなかった。
よって、特定のGEFドメインを選択的に阻害する癌治療において用いることができる、新しいインヒビターを提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの目的は、癌治療のための新しいペプチド、或いは前記ペプチドをコードする核酸配列を提供することである。
本発明の別の目的は、Rho-GEFタンパク質を高効率で阻害するペプチドを提供することである。
本発明の別の目的は、Rho-GEFファミリーのメンバー及びそれらの発癌性形態に特異的なインビボインヒビターを提供することである。
本発明の別の目的は、RhoA経路を特異的にブロックする、Rho-GEFファミリーのメンバーに特異的なインビボインヒビターを提供することである。
さらに、本発明の別の目的は、癌治療のための医薬組成物を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、癌治療を意図される医薬の製造のための、以下の配列番号2のアミノ酸配列:
【化1】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、ペプチドの活性に必要なアミノ酸を表し、X9、X13、X14、X16、X17、X18、X20、X21、X22、X23、X24、X25、X26、X27、X32及びX33は、任意のアミノ酸を表す]
を含むか又は該配列からなる1つのペプチド(但し、該ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)、場合によっては少なくとも1つの該ペプチドの使用に関する。
【0008】
本発明によるペプチドは、TrioのRhoA GEF活性及びTrioの発癌性形態、すなわちTgatのRhoA GEF活性を特異的に阻害できる。Tgatは、TrioのRhoA特異的DH2ドメインだけを保持し、結合するPH2ドメインの代わりにTrioにおいては見られない15アミノ酸のユニークなC末端配列を有する。該ペプチドは、TRIPα(配列番号197)の阻害活性と比較して、少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは5倍高い阻害特性を有する。
【0009】
配列番号197のアミノ酸配列からなるペプチドTRIPαは、本発明の対象から除外されている配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを含む。配列番号1は、TRIPαの9位から33位までのアミノ酸により範囲を定められたペプチド配列に相当する。
【0010】
本発明はまた、その必要があるヒトに医薬として有効な量の、以下の配列番号2のアミノ酸配列:
【化2】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、該ペプチドの活性のために必要なアミノ酸を表し、X9、X13、X14、X16、X17、X18、X20、X21、X22、X23、X24、X25、X26、X27、X32及びX33は、任意のアミノ酸を表す]
を含むか又は該配列からなり、TrioのRhoA GEF活性及びTrioの発癌性形態、すなわちTgatのRhoA GEF活性を特異的に阻害でき、TRIPαの阻害活性と比較して、少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは5倍高い阻害特性を有するペプチド(但し、該ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)を投与することを含む癌の治療方法に関する。
【0011】
本発明は、本発明によるペプチドが、Trioの発癌性形態であるTgatを阻害でき、配列番号1のアミノ酸配列により表されるTRIPαの阻害効果に等しいか又はそれより高い阻害効果を有するという本発明者らによりされた予期せぬ観察結果に基づく。
【0012】
本発明によれば、X9、X13、X14、X16、X17、X18、X20、X21、X22、X23、X24、X25、X26、X27、X32及びX33により表されるアミノ酸残基は、「任意のアミノ酸」を表す。これは、X9、X13、X14、X16、X17、X18、X20、X21、X22、X23、X24、X25、X26、X27、X32及びX33が、20種の天然アミノ酸又は当業者に一般に用いられる任意の非天然アミノ酸であり得ることを意味する。
【0013】
本発明による全てのペプチドは、Trio GEFD2ドメインを特異的に阻害できる。このことは、該ペプチドが、TrioのTrioGEFD2ドメインだけを阻害し、Trio GEFD1ドメインの活性に対する影響もGEFタンパク質(例えば、p63RhoGEF、p115RhoGEF、Lbc、Vav又はDbl)に含まれるその他のGEFドメインの活性に対する影響も有しないことを意味する。言い換えれば、本発明によるペプチドは、Trio及びTgatに含まれるRhoA GEFドメイン(GEFD2)だけを阻害する。
【0014】
さらに、Tgat発癌性タンパク質に含まれるTrioのGEFD2ドメインは、本発明によるペプチドの標的でもあり、前記のTgat GEFドメインは、該ペプチドにより阻害される。
【0015】
また、本発明によるペプチドは、TRIPα(配列番号197)又はその活性フラグメント(例えば、配列番号1で定義されるTRIPαのフラグメント9〜33) と比較して、Trio GEFD2及びTgatの両方のGEF活性の阻害効率が増大されている。本発明によるペプチドについて、以下の特性が証明されている。
− 第1に、太字下線付の残基は、ALA-Scanにより測定されるように(実施例の部を参照されたい)、当該ペプチドの阻害活性のために必要である。
− 第2に、その他のアミノ酸における幾つかの変化は、当該ペプチドの阻害効率を著しく向上させることができる。
【0016】
Trio及びTgatのGEFD2ドメインの交換活性に対する本発明によるペプチドの阻害効率並びにそのインビトロ及びインビボ活性の測定は、以後の実施例の部において説明する。
本発明によるペプチドは、人工的な、単離され、精製されたものであり、当該技術において、本発明者らによる特徴決定に先行して記載されていなかった。
【0017】
本発明の別の有利な実施態様は、前記ペプチドが、配列番号3のアミノ酸配列:
【化3】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、ペプチドの活性に必要なアミノ酸を表し、X13、X16、X17、X18、X23、X24、X27及びX32は、任意のアミノ酸を表す]
(但し、該アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)を含むか又は該配列からなり、TrioのRhoA GEF活性及びTrioの発癌性形態、すなわちTgatのRhoA GEF活性を特異的に阻害でき、TRIPαの阻害活性と比較して、少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは5倍高い阻害特性を有する上述の方法又は使用に関する。
【0018】
その他のある有利な実施態様において、本発明は、前記ペプチドが、以下の特徴:
・X13はDである、
・X16はM又はAである、
・X17 はSである、
・X18 はD、G又はAである、
・X23 はGである、
・X24 はAである、
・X27はLである、及び
・X32 はGである
のうち少なくとも1つを有する配列番号3のアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる上述の方法又は使用に関する。
【0019】
本発明によれば、配列番号3のアミノ酸配列を含むか又は該配列からなるペプチドは、例えば、
13がDであり、X16、X17、X18、X23、X24、X27及びX32 が任意のアミノ酸を表す配列番号3のペプチド、又は
13がDであり、X17がSであり、X16、X18、X23、X24、X27及びX32 が任意のアミノ酸を表す配列番号3のペプチド・・・
であり得る。
当業者は、アミノ酸残基X13、X16、X17、X18、X23、X24、X27及びX32 の定義に関する上述の条件を考慮して、本発明による全てのペプチドを容易に再現するであろう。
【0020】
その他のある有利な実施態様において、本発明は、前記ペプチドが、配列番号4〜配列番号51を含む群から選択されるアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる上述の方法又は使用に関する。
例えば、配列番号4〜配列番号51のアミノ酸配列からなるペプチドは、以後に具体的に定義する。
配列番号4のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がTであり、X17がLであり、X18がVであり、X23がSであり、X24がEであり、X27がFであり、X32 がGである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
配列番号5のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がMであり、X17がSであり、X18がVであり、X23がSであり、X24がEであり、X27がFであり、X32 がEである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
配列番号6のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がMであり、X17がLであり、X18がVであり、X23がSであり、X24がEであり、X27がFであり、X32 がEである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
【0021】
配列番号7のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がTであり、X17がSであり、X18がVであり、X23がSであり、X24がEであり、X27がFであり、X32 がEである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
配列番号8のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がMであり、X17がLであり、X18がVであり、X23がGであり、X24がEであり、X27がFであり、X32 がEである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
配列番号9のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がTであり、X17がLであり、X18がDであり、X23がSであり、X24がEであり、X27がLであり、X32 がEである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
配列番号10のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がTであり、X17がLであり、X18がVであり、X23がSであり、X24がEであり、X27がFであり、X32 がGである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
【0022】
配列番号11のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がAであり、X17がLであり、X18がGであり、X23がSであり、X24がEであり、X27がFであり、X32 がGである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
配列番号12のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がTであり、X17がLであり、X18がAであり、X23がSであり、X24がAであり、X27がFであり、X32 がGである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
配列番号13のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がDであり、X16がMであり、X17がLであり、X18がVであり、X23がSであり、X24がEであり、X27がFであり、X32 がEである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
配列番号14のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がAであり、X17がSであり、X18がVであり、X23がSであり、X24がEであり、X27がFであり、X32 がEである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
配列番号15のアミノ酸配列であるペプチドは、X13がNであり、X16がTであり、X17がLであり、X18がDであり、X23がSであり、X24がEであり、X27がFであり、X32 がEである配列番号3のアミノ酸配列に相当する。
【0023】
その他のある有利な実施態様において、本発明は、前記ペプチドが、配列番号4〜配列番号10、配列番号16〜配列番号21、配列番号28〜配列番号34及び配列番号40〜配列番号46を含む群から選択されるアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる上述の使用又は方法に関する。
【0024】
その他のある有利な実施態様において、本発明は、前記ペプチドが、配列番号4〜配列番号6、配列番号16〜配列番号18、配列番号28〜配列番号30及び配列番号40〜配列番号42を含む群から選択されるアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる上述の使用又は方法に関する。
【0025】
配列番号4〜配列番号6、配列番号16〜配列番号18、配列番号28〜配列番号30及び配列番号40〜配列番号42のアミノ酸配列からなる上記に定義されるペプチドには、以下のとおりである:
− 配列番号40のアミノ酸配列からなるペプチドは、32位のグルタミン酸(E)をグリシン(G)で置換されている配列番号197のアミノ酸であるペプチドに相当する、
− 配列番号41のアミノ酸配列からなるペプチドは、16位のスレオニン(T)をメチオニン(M)で置換され、17位のロイシン(L)をセリン(S)で置換されている配列番号197のアミノ酸であるペプチドに相当する、
− 配列番号42のアミノ酸配列からなるペプチドは、17位のロイシン(L)をセリン(S)で置換されている配列番号197のアミノ酸であるペプチドに相当する、
【0026】
− 配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号40のアミノ酸配列の9位から33位までのアミノ酸により範囲を定められたフラグメントに相当する、
− 配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号41のアミノ酸配列の9位から33位までのアミノ酸により範囲を定められたフラグメントに相当する、
− 配列番号6のアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号42のアミノ酸配列の9位から33位までのアミノ酸により範囲を定められたフラグメントに相当する、
【0027】
− 配列番号16のアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号40のアミノ酸配列の1位から33位までのアミノ酸により範囲を定められたフラグメントに相当する、
− 配列番号17のアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号41のアミノ酸配列の1位から33位までのアミノ酸により範囲を定められたフラグメントに相当する、
− 配列番号18のアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号42のアミノ酸配列の1位から33位までのアミノ酸により範囲を定められたフラグメントに相当する、
【0028】
− 配列番号28のアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号40のアミノ酸配列の9位から42位までのアミノ酸により範囲を定められたフラグメントに相当する、
− 配列番号29のアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号41のアミノ酸配列の9位から42位までのアミノ酸により範囲を定められたフラグメントに相当する、
− 配列番号30のアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号42のアミノ酸配列の9位から42位までのアミノ酸により範囲を定められたフラグメントに相当する。
【0029】
ある別の好ましい実施態様において、本発明は、前記ペプチドが、チオレドキシンAのフラグメントからなるフランキング部位(flanking part)を含む上記に定義される使用又は方法に関する。
本発明によるペプチドは、Colasら[Colasら 1996, Nature 380, 548-50]及び国際出願番号WO96/02561に開示されるE.コリのチオレドキシンAの活性部位(残基35)に挿入され得る。
E.コリのチオレドキシンAは、高いレベルで産生され得る非常に安定な低分子タンパク質である。チオレドキシンは、Cys-Cys活性ループを含む。ペプチドはここに挿入され、両システインが適切な条件下にジスルフィド結合を形成させることができるので、コンホメーションの拘束を受けることができる。
【0030】
「チオレドキシンのフラグメントからなるフランキング部位」との表現は、N末端側及びC末端側のフランキング部位が、併せて考えると、チオレドキシンの完全配列に相当する(このような場合、上述のアミノ酸配列はチオレドキシンに挿入されている)こと、又はN末端側及びC末端側のフランキング部位自体がチオレドキシンのフラグメントであり、該フラグメントのサイズが有利には約20から約60アミノ酸までであることのいずれかを意味し得る。
【0031】
さらに別の有利な実施態様において、本発明は、前記ペプチドが、配列番号52〜配列番号99から選択されるアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる上述の使用又は方法に関する。
配列番号52〜配列番号99からなるペプチドは、E.コリのチオレドキシンAの35位及び36位のアミノ酸の間に挿入された配列番号4〜配列番号51からなるペプチドにそれぞれ相当する。
【0032】
別の有利な実施態様において、本発明は、前記癌が、T細胞急性白血病を含む白血病、肉腫、肺癌及び乳癌を含む上記に定義される使用又は方法に関する。
上記の癌は全て、例えば遺伝子増幅、転座若しくは転写の脱調節により、Trioタンパク質を異常に発現するか、又は異常な形態にあるTrioタンパク質、例えば「活性化された」変異型Trioを点変異若しくは異常なオルタナティブスプライシングにより発現し、Tgatのような発癌性アイソフォームを生成する細胞の異常な増殖、分化、細胞遊走に関係する。
【0033】
本発明はまた、配列番号3のアミノ酸配列:
【化4】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、ペプチドの活性に必要なアミノ酸を表し、X13、X16、X17、X18、X23、X24、X27及びX32は、任意のアミノ酸を表す]
(但し、該アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)を含むか又は該配列からなり、TrioのRhoA GEF活性及びTrioの発癌性形態、すなわちTgatのRhoA GEF活性を特異的に阻害でき、TRIPαの阻害活性と比較して、少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは5倍高い阻害特性を有する単離されたペプチドに関する。
【0034】
上記のペプチドは新規であり、当業者に公知のタンパク質データベースのいずれにも参照されていなかった。
これらペプチドは、例えば実施例の部に記載されるような当業者に公知の一般的なプロトコルを適合させることにより、優先的には部位特異的突然変異生成により又はPCRベースのランダム突然変異生成により製造することができる。
【0035】
ある有利な実施態様においては、本発明は、前記ペプチドが以下の特徴:
13 はDである、X16はM又はAである、X17はSである、X18はD、G又はAである、X23はGである、X24はAである、X27はLである、X32はGである
のうち少なくとも1つを有する配列番号3のアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる、上記に定義される単離されたペプチドに関する。
【0036】
ある有利な実施態様においては、本発明は、前記ペプチドが配列番号4〜配列番号51を含む群から選択されるアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる、上記に定義される単離されたペプチドに関する。
【0037】
ある有利な実施態様においては、本発明は、前記ペプチドがチオレドキシンAのフラグメントからなるフランキング部位を含む、上記に定義される単離されたペプチドに関する。
【0038】
ある有利な実施態様においては、本発明は、前記ペプチドが配列番号52〜配列番号99から選択されるアミノ酸配列を含むか又は該配列である、上記に定義される単離されたペプチドに関する。
【0039】
以下の表1に、本発明によるペプチド間の対応を改めて一覧とする。
【表1】

【0040】
本発明はまた、上記に定義されるペプチドをコードする核酸配列を含むか又は該配列からなる単離された核酸に関する。
本発明はまた、配列番号3のアミノ酸配列:
【化5】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、ペプチドの活性に必要なアミノ酸を表し、X13、X16、X17、X18、X23、X24、X27及びX32は、任意のアミノ酸を表す]
(但し、該アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)を含むか又は該配列からなり、TrioのRhoA GEF活性及びTrioの発癌性形態、すなわちTgatのRhoA GEF活性を特異的に阻害でき、TRIPα(配列番号197)の阻害活性と比較して、少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは5倍高い阻害特性を有するペプチド、単離されたペプチドをコードする核酸配列を含むか又は該配列からなる単離された核酸に関する。
【0041】
ある有利な実施態様によれば、本発明は、配列番号100〜配列番号196から選択される核酸配列を含むか又は該配列からなる上記に定義される単離された核酸配列に関する。
【0042】
本発明による核酸分子及びそれらによりコードされるそれらの対応するペプチド間の対応を以下の表2に改めて一覧とする。
【表2−1】

【0043】
【表2−2】

【0044】
本発明はまた、上記に定義されるヌクレオチド配列、より好ましくは配列番号3のアミノ酸配列:
【化6】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、ペプチドの活性に必要なアミノ酸を表し、X13、X16、X17、X18、X23、X24、X27及びX32は、任意のアミノ酸を表す]
(但し、該アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)を含むか又は該配列からなり、TrioのRhoA GEF活性及びTrioの発癌性形態、すなわちTgatのRhoA GEF活性を特異的に阻害でき、TRIPα(配列番号197)の阻害活性と比較して、少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは5倍高い阻害特性を有するペプチド、特に単離されたペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換えベクター、特にプラスミド、コスミド、ファージ又はDNAウイルスに関する。
【0045】
ある有利な実施態様において、本発明は、挿入された上記に定義される核酸によりコードされるポリペプチド又はペプチドの宿主細胞における発現に必要な因子を含む上記に定義される組換えベクターに関する。
【0046】
ある有利な実施態様において、本発明は、配列番号3のアミノ酸配列:
【化7】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、ペプチドの活性に必要なアミノ酸を表し、X13、X16、X17、X18、X23、X24、X27及びX32は、任意のアミノ酸を表す]
(但し、該アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)を含むか又は該配列からなり、TrioのRhoA GEF活性及びTrioの発癌性形態、すなわちTgatのRhoA GEF活性を特異的に阻害でき、TRIPα(配列番号197)の阻害活性と比較して、少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは5倍高い阻害特性を有する、ペプチド、単離されたペプチドをコードする核酸配列(この核酸配列は本ベクター中に挿入されている)によりコードされるポリペプチド又はペプチドの宿主細胞における発現に必要な因子を含む上記に定義される組換えベクターに関する。
【0047】
本発明はまた、特にバクテリア、ウイルス、酵母、真菌類、植物又は哺乳動物細胞から選択され、特に上記に定義されるベクターによって、そのゲノムが上記に定義されるヌクレオチド配列を含むように形質転換された宿主細胞に関する。
【0048】
本発明はまた、少なくとも1つの以下の活性成分、少なくとも1つの以下のもの:
・少なくとも1つの上記に定義されるペプチド、好ましくは配列番号3のアミノ酸配列:
【化8】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、ペプチドの活性に必要なアミノ酸を表し、X13、X16、X17、X18、X23、X24、X27及びX32は、任意のアミノ酸を表す]
(但し、該アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)を含むか又は該配列からなり、TrioのRhoA GEF活性及びTrioの発癌性形態、すなわちTgatのRhoA GEF活性を特異的に阻害でき、TRIPα(配列番号1)の阻害活性と比較して、少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは5倍高い阻害特性を有するペプチド
・少なくとも1つの上記に定義される核酸、好ましくは上記のペプチドをコードする核酸、及び
・少なくとも1つの上記に定義される組換えベクター、好ましくは上述のペプチドをコードする上述の核酸分子を含む組換えベクター
又はその医薬的に許容される塩を、医薬的に許容されるビヒクルと組み合わせて含む医薬組成物に関する。
【0049】
活性成分の投薬量は投与経路に依存し、当業者が容易に決定できる。本発明による医薬組成物は、静脈内経路、皮下経路、全身経路により投与され得るか、又は浸潤によって局所的に投与され得るか、又は経口的に投与され得る。
【0050】
本発明は、ある有利な実施態様において、約1μg〜約10mg、好ましくは約700μg〜約80mg、より好ましくは約7〜約40mgの上述のペプチド及び/又は核酸及び/又は組換えベクターを単位用量として含むことを特徴とする上記に定義される医薬組成物に関する。
【0051】
本発明は、ある有利な実施態様において、特に
a. ドキソルビシン、メトトレキサート、ビンブラスチン、ビンクリスチン、クラドリビン、フルオロウラシル、シタラビン、アントラサイクリン、シスプラチン、シクロホスファミド、フルダラビン、ゲムシタビン、アロマターゼインヒビター、イリノテカン、ナベルビン、オキサリプラチン、タキソール及びドセタキセルを含むか若しくはこれらからなる群又は
b. 抗脈管形成剤であるベバシズマブ、ペガプタニブ及びラニビズマブを含むか若しくはこれらからなる群
から選択される少なくとも1つの化学療法剤と併せられる上記に定義される医薬組成物に関する。
【0052】
ある別の実施態様において、本発明は、癌の治療に同時に、別々に又は逐次的に用いられる上記に定義される医薬組成物に関する。
【0053】
本発明において、「癌」とは、良性腫瘍又は悪性腫瘍を指す。
悪性腫瘍は、細胞群が、制御されない成長(通常の限度を超える分裂)、浸潤(隣接する組織への侵入及びその破壊)及び時には転移(体内の他の位置へのリンパ又は血液を介する拡散)を示す疾患のクラスである。これら3つの癌の悪しき特性により、悪性腫瘍は、自己限定性であり浸潤及び転移をしない良性腫瘍と区別される。
本発明による癌は、充実性腫瘍、白血病及びリンパ腫を含む。
【0054】
本発明はまた、癌の治療を意図される医薬の製造のための、上記に定義される組換えベクターの使用に関する。
本発明はまた、癌の治療を意図される医薬の製造のための、上記に定義される単離された核酸の使用に関する。
【0055】
本発明は、以下の図面及び実施例でより深く理解されるが、いかなる場合でも、それらに限定されなければならないということはない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、Trio及びそのスプライス変形体Tgat、及びTgat変異体の概念図を示す。
【図2】図2A及び2Bは、Tgatの形質転換活性が、RhoAに対するGEF活性を必要とすることを示す。‐図2Aは、RhoA活性化アッセイを表す。GFP、GFP-Tgat又はGFP-Tgat L190Eを安定的に発現しているNIH3T3細胞の溶解物を、組換えRBD(RhotekinのRhoA結合ドメイン)を用いるGSTプルダウンに付した。GTP結合RhoA(上段パネル)及びトータルRhoAタンパク質(中段パネル)のレベルを、モノクローナル抗RhoA抗体を用いるウェスタンブロットにより評価した。全てのGEF構築物は、抗GFP抗体を用いるウェスタンブロッティングにより示されるように、同程度のレベルで発現した(下段パネル)。- 図2Bは、少なくとも3回の独立した実験からのRhoA活性化アッセイの定量化を表す。Y軸は、Fold RhoA活性化を表す。「Fold RhoA活性化」は、1に設定されたGFPコントロール中の量と比較したサンプル中のRhoA-GTPの量を意味する。
【図3】図3A及び3Bは、Tgatのエクスビボ形質転換特性を示す。- 図3Aは、GFP、GFP-Tgat、GFP-Tgat L190E又はGFPTrioを安定的に発現しているNIH3T3細胞のフォーカス形成アッセイを表す。- 図3Bは、3回の独立したフォーカス形成アッセイの定量化を表す。Y軸は、%で示されたフォーカス形成を表す。Tgatにより誘導されるフォーカスの数を100%に設定した。エラーバーは、標準偏差を表す。
【図4】図4は、TRIPT16M/L17S(配列番号41)及びTRIP E32G(配列番号40)によるインビトロでのTgat GEF活性の阻害を表す。FRET蛍光交換アッセイは、一定濃度のRhoA(1μM)、等量(0.5μM)のTgat(左パネル)又はTrio DH2(右パネル)、及び100μMまでの漸増濃度のGST-TRIPペプチドを用いて行った。結果を、示されたTRIPインヒビター濃度の関数としてプロットしたkobs値として表した。
【図5】図5は、示されるとおり、Tgat及びTrio DH2に対するTRIPペプチドの見掛けの阻害定数(Kiapp)を示すヒストグラムを表す。値及びエラーバーは、少なくとも3回の独立した実験から算出される。エラーバーは、標準偏差を表す。
【図6】図6A〜6Fは、本発明による最適化された阻害ペプチドであるTRIP T16M/L17S(配列番号41)及びTRIP E32G(配列番号40)の特異性を表す。 図は、1μM GTPアーゼ及び0.5μM GEFを用いて、以下のような種々のGTPアーゼ/RhoGEF系に対するTRIP E32G及びTRIP T16M/L17Sの阻害効果の比較を表す:図6A RhoA/Tgat;図6B RhoA/p63RhoGEF;図6C RhoA/p115RhoGEF;図6D RhoA/Lbc;図6E RhoA/Dbl;図6F RhoG/Trio DH1PH1。 各アッセイにおいて、ペプチドは、GEFに対して40倍モル過剰のインヒビターに相当する20μMの濃度で用いた。全ての蛍光動態アッセイは、1μM mant-GTPを用いて行った。結果を、時間に対する相対蛍光単位(RFU)として表す。GEFの不存在下で行った反応は、GTPアーゼの自発的な交換活性を反映する。 四角形(■)を伴う曲線は、GEF+GSTを用いる実験を表し、三角形(▲)を伴う曲線は、GEF+GST-TRIP E32Gを用いる実験を表し、逆三角形(▼)を伴う曲線は、GEF+GST-TRIP T16M/L17Sを用いる実験を表し、逆菱形(◆)を伴う曲線は、GEFなし+GSTを用いる実験を表す。
【図7】図7A及び7Bは、細胞中でのTRIP E32GによるTgat GEFの阻害を表す。 GFP、GFP-TRIP E32G又はGFP TRIP T16M/L17Sで安定的にトランスフェクトされたNIH3T3-Tgat細胞におけるRhoAの活性化は、図2Aに記載されるようなGST-RBDプルダウンアッセイにより評価した。- 図7Aは、GTP結合及びトータルRhoAタンパク質のレベルを表し、上段の2つのパネルに示される。全てのGFPタグ化タンパク質の発現レベルは、下段のパネルに示される。- 図7Bは、少なくとも3回の独立した実験からのRhoA活性アッセイの定量化を表す。エラーバーは、標準偏差を表す。
【図8】図8は、GST-RBDプルダウンによりアッセイされた、NIH3T3細胞においてDbl(左パネル)又はTgat(右パネル)により誘導されるRhoA活性化に対するGFP-TRIP E32Gの効果を表す。GTP結合及びトータルRhoAタンパク質のレベルを、上段の2つのパネルに示す。Myc-Dbl及び全てのGFPタグ化タンパク質の発現レベルを、下段の2つのパネルに示す。
【図9】図9A及び9Bは、エクスビボにおけるTgatの形質転換活性のTRIP E32G媒介性阻害を表す。- 図9Aは、GST又はGST-TRIP E32Gと一緒に、GFP又はGFP-Tgatを安定的に発現しているNIH3T3細胞のフォーカス形成アッセイを表す。- 図9Bは、3回の独立したフォーカス形成アッセイの定量化を表す。Tgat/GST発現細胞により形成されるフォーカスの数を100%に設定した。
【図10】図10A及び10Bは、インビボにおけるTgatの形質転換活性のTRIP E32Gによる阻害を表す。- 図10Aは、Balb/cヌードマウスにおける腫瘍形成を表す。GFP-Tgat/GST又はGFP-Tgat/GST TRIP E32Gを安定的に発現しているNIH3T3細胞を、Balb/cヌードマウスの脇腹に皮下注入し、腫瘍の体積を毎週測定した。グラフは、3回独立して行われたアッセイの代表例である。- 図10Bは、実験後の腫瘍の重量を(グラムで)表す。移植後10週のマウスを安楽死させ、腫瘍を切除し、重量を測定し、平均腫瘍重量をグラフにプロットした。(*)各マウスについてサンプルをマッチさせて対応のあるスチューデントt検定を行ったところ、P値は0,019であった。エラーバーは、全てのグラフにおいて標準偏差を表す。
【実施例】
【0057】
実施例
実施例1:TRIPα由来ペプチドは、発癌性のRhoGEFを標的化する。
Rho GTPアーゼ及びそれらのGEFは、それらの機能を理解するためだけでなく、病理学においても魅力的な阻害標的に相当し、それらの機能を阻害するためのストラテジは活発に探索されている(Bosら、2007)。RhoGEFを阻害しようとするときの主要な問題は、関連するタンパク質の複雑で大きなファミリーの範囲内で高度の特異性を達成すること、及びまだ詳細に特徴付けられていないタンパク質−タンパク質相互作用を標的化することである。今日までに、数例のストラテジだけが首尾よく考案されており、Rho GTPアーゼのそれらの同族(cognate)のGEFによる活性化をブロックする化合物及びペプチドRhoGEFインヒビターの発見に繋がっている(Blangyら、2006;Gaoら、2004;Schmidtら、2002)。本発明者らは、このようなストラテジとして、最初のRhoGEFインヒビターの本発明者らによる発見を可能にしたペプチドアプタマースクリーニングを以前に記載した(Schmidtら、2002)。ペプチドアプタマーは、そのタンパク質標的に高い親和性で結合する、バクテリアチオレドキシン(TrxA)骨格(scaffold)により拘束される短鎖ペプチドである(Baines及びColas、2006;Hoppe-Seylerら、2004)。
この技術は、当初は、細胞周期制御又は細胞の生存に主に関与する様々な細胞内標的に対するインヒビターの発見に使用されている(Butzら、2000;Colasら、1996;Crnkovic-Mertensら、2003;Fabbrizioら、1999;Martelら、2006;Nouvionら、2007)。ペプチドアプタマーは、主にその単純な設計及び高度の結合特異性(これにより、機能的ファミリーの範囲内で密接に関連するタンパク質同士の識別が可能になる)のために、その他のクラスの阻害分子に対して興味深い利点を呈する。しかし、最も注目すべきは、これらの高度コンビナトリアルタンパク質は、生存細胞内で機能し、複雑な調節ネットワークにおけるタンパク質の機能の研究を可能とするようにスクリーニング及び設計されることである(Bickleら、2006)。このアプタマースクリーニングストラテジを用いて本発明者らが単離したRhoGEFインヒビターは、TRIPα(Trio阻害ペプチドα)と呼ばれ、RhoGEF TrioのDH2-PH2タンデムを特異的に標的化し、インビトロ及びインタクト(intact)な細胞の両方においてRhoAの活性化を阻害し、PC12細胞においてTrio DH2-PH2により誘導される神経突起退縮表現型を逆転させる(Schmidtら、2002)。最も興味深いのは、TRIPαは当初はTrxA骨格を用いて選択されたが、リニアペプチドとして同程度に活性のままであったことである(Schmidtら、2002)。最近同定された発癌性RhoGEF Tgatは、このようなペプチドインヒビターに対する標的の興味深い新規な候補である。事実、Tgatは、成人T細胞白血病(ATL)患者の細胞から、発癌能力を有する遺伝子として同定され、trio遺伝子の選択的スプライシングから発生する(それゆえ、その名称はTrio-related transforming Gene in ATL Tumor cellsからTgat)(Yoshizukaら、2004)。Tgatは、TrioのRhoA特異的DH2ドメインだけを保持し、結合しているPH2ドメインの代わりに、15アミノ酸のユニークなC末端配列を有する。Tgatは、ヌードマウスにおける細胞の形質転換及び腫瘍形成を誘導し(Yoshizukaら、2004)、RECKタンパク質を介してマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)を刺激することにより(Moriら、2007)、及びATLを含む腫瘍形成に決定的な役割を果たす転写因子NF-κBを活性化することにより(Yamadaら、2007)、腫瘍浸潤を亢進すると提唱されている。
【0058】
この背景から、RhoGEF Tgatに対するペプチドインヒビターを設計することは、病理学的観点から非常に意欲をそそる。この研究において、本発明者らは、TRIPαペプチドに基づいて最適化されたペプチドを同定するためのスクリーニングを考案した。このスクリーニングにより、本発明者らは、高度に特異的な様式でGEF活性をインビトロで標的化するTgatインヒビターとして活性である新規なペプチドを同定することができた。さらに、該ペプチドは、最も注目すべきことにはヌードマウスにおけるフォーカス形成及び腫瘍の発達を低減させることにより、インビボにおけるその発癌特性を強く低減させる。ペプチド最適化ストラテジによって、Tgat発癌遺伝子の最初のインヒビターが同定され、アプタマーが、極めて高い(exquisite)特異性をもってRhoGEFの機能をインビボで妨害するのに用いることができると証明される。
【0059】
結果
DHドメインのGEF活性は、Tgat誘導性形質転換に必要とされる。
Tgat発癌活性を標的化するインヒビターを設計するために、本発明者らは、まず、TgatのGEF活性が形質転換に関与するかどうかを確認した。そのために、本発明者らは、Tgat L190Eと呼ばれる、DHドメインに点変異(Trio DH2-PH2中の等価の変異は、RhoAに対するその交換活性を消失させることが知られている)を有するTgat変異型を設計した(図1)(Bellangerら、2003)。本発明者らは、同程度のレベルのGFP又はGFPタグ化Tgat若しくはTgat L190Eを安定的に発現しているNIH3T3細胞株を樹立し(図2A、下段パネル)、これら構築物のRhoAを活性化する能力及び形質転換を誘導する能力を解析した。本発明者らは、インタクトな細胞におけるRhoA活性化を、RhoA-GTPのプルダウンによって、そのエフェクターである、GSTに融合したRhotekinのRhoA結合ドメイン(RBD)を用いて測定した(図2A〜B)。Tgatは、RhoA活性化を強く(コントロールに対して8倍)刺激したが、GEFを損傷する変異は、細胞中のRhoA-GTP形成を完全に消失させた。本発明者らは、次いで、種々のTgat構築物の発癌特性を、種々の細胞株においてフォーカスの形成を評点することにより試験した(図3A〜B)。Tgatを発現している細胞は非常に多くのフォーカスを形成したが、Tgat L190Eを発現している細胞では培養3週間後にもフォーカスが現れず、DHドメインのGEF活性がTgatの形質転換能力に必須とされることを示している。さらに、完全長Trioを安定的に発現しているNIH3T3細胞ではフォーカスが全く現れず、形質転換能力がTrioに固有ではなく、発癌性アイソフォームであるTgatだけに固有であることを示している(図3A〜B)。
【0060】
Tgatインヒビターを同定するためのストラテジ。
TgatのGEF活性が形質転換に必須であるので、この生化学的活性をブロックする分子は、その形質転換能力を阻害することもできる。本発明者らは、TrioのRhoA特異的DH2-PH2タンデムを標的化するペプチドアプタマーであるTRIPαを以前に同定した(Schmidtら、2002)。TgatがTrioのDH2ドメインを有するので、本発明者らは、Tgat活性がTRIPαによっても阻害されるかどうかについて試験した。しかしながら、そして非常に驚くべきことに、インビトロでの[3H]-GDP解離阻害アッセイにおいて試験したとき、TRIPαは、弱いTgatインヒビター(Kiapp=89±33μM;下記参照)にすぎなかった。
【0061】
よって、本発明者らは、Ala-Scan解析を用いて阻害に必須のアミノ酸をまず決定することにより、TRIPαの阻害効率を最適化することに努めた。
TRIPαの活性コアの各残基(アミノ酸9〜36;Schmidtら、2002)を、セリンに変えられたシステインを除いて、アラニンに変異させた。全てのTRIPα変異型について、次いで、[3H]-GDP解離アッセイにおいて、Trio DH2-PH2に対するそれらの阻害活性を試験した。この解析により、阻害を損失するのに単一の変異で十分なTRIPαの2つの必須領域(アミノ酸9〜20及び28〜33)をマッピングした(表3参照)。
【0062】
【表3】

【0063】
しかしながら、どの変異型も、Trio DH2-PH2に対してより強い阻害を示さず、Tgatについてはさらなる調査を行わなかった。
本発明者らは、次いで、GEFドメインにより強く結合するペプチドはまた、活性の阻害により優れていると推測した。よって、本発明者らは、TRIPα由来のペプチドアプタマーのライブラリをランダム突然変異生成によって作製し、本発明者らは、このライブラリを酵母ツーハイブリッドアッセイにおいてGEF結合についてスクリーニングした。本発明者らは、相互作用検出の閾値を3-アミノトリアゾール(3-AT)薬剤の濃度により変調することができる系を選択した(Sardetら、1995)。Tgatは酵母に毒性であるので、本発明者らは、Trio DH2-PH2を用いて、このTRIP様ペプチドライブラリをスクリーニングした。35の独立したクローンが、TRIPαとの相互作用がもはや検出されない3-AT濃度(80〜120mM)でTrio DH2-PH2に結合した。これらクローンを、次いでGST融合物として作製し、[3H]-GDP解離アッセイを用いて、それらによるTrio DH2-PH2の阻害を解析した。
【0064】
表4は、TRIPαよりも強いインヒビターである11種のペプチドを表す。特に、本発明によるペプチドは、TRIPαと比較して、活性が約3倍から約6倍までに増大されている。阻害効率は、表3に記載されるように、Trio DH2-PH2について測定し、TRIPαと比較した。
【0065】
それらの配列の解析により、それらがペプチド当たり1つ〜4つの変異を含むこと、及び一貫して、それら変異のほとんどがTRIPαの阻害特性に決定的であるとして同定された2つの領域内にあることが明らかとなった。
【0066】
【表4】

【0067】
本発明者らは、次いで、Trio DH2-PH2に対して最も強い阻害を示す2つのTRIP様ペプチドであるTRIP E32G及びTRIP T16M/L17SのTgatに対する阻害活性を解析した(表4)。いずれのペプチドも、蛍光動態アッセイにおいて用量依存的様式でTgat GEF活性を阻害したが、GST単独(データ示さず)又はGST-TRIPαは、同一の濃度で効果を有しなかった(図4)。したがって、Tgatに対するTRIPαの見掛けの阻害定数(Kiapp)は、89±33μMであり、TRIP E32Gについて7.4±5μMに、TRIP T16M/L17Sについて5.1±4μMに減少した(図5)。これらのデータは、TRIP E32G及びTRIP T16M/L17Sが両方とも、Tgatの交換活性を阻害することについて、TRIPαよりも約15倍効率的であることを示す。興味深いことに、最適化されたペプチドは、それらの類似したKiappによって示されるように、Tgat及びTrio DH2に対して同程度に効率的であった(図4及び5)。このことは、TgatのユニークなC末端延長が、最適化されたペプチドの阻害機序に関与しないことを示唆し、この配列がGEF活性とインビトロで妨害しないという事実(データ示さず)と一貫する。
類似の結果が、変異型TRIP T16Mで得られた。
【0068】
TRIPペプチドによる阻害は、Tgatに特異的である。
本発明者らは、次いで、最適化されたTRIPペプチドの特異性を、その他の関連あるRhoGEFに対するそれらの阻害特性を試験することにより解析した。本発明者らは、TRIPαが、RhoA特異的GEFであるp115RhoGEF、Lbc、p63RhoGEFに対しても、Dblに対しても活性でないことを以前に示している(Schmidtら、2002及び非公開の結果)。同様に、mant-GTP蛍光動態をTgatが完全に阻害される濃度で試験したとき、TRIP E32G及びTRIP T16M/L17Sは、これら密接に関連するRhoGEF/Rho-GTPアーゼタンデムであるp115RhoGEF/RhoA、Lbc/RhoA、Dbl/RhoAの交換活性に対して、及び非常に密接なTrio関連p63RhoGEF/RhoA (DH-PHモジュール内で70%同一)又はTrio DH1-PH1/RhoG (Tgatと40%同一)の交換活性に対してでさえも効果を有しなかった(図6)。合わせると、これらのデータは、最適化されたTRIPペプチドがTgat及びTrio DH2に高度に特異的であることを示す。
【0069】
TRIP E32Gは、Tgatの形質転換活性をインビボで阻害する。
本発明者らは、次いで、それらのTRIP様ペプチドが、インタクトな細胞におけるTgat媒介性RhoA活性化を阻害するかどうか解析した。この目的のために、Tgatを安定的に発現しているNIH3T3細胞をGFPタグ化TRIP様ペプチド又はGFP単独を用いてトランスフェクトし、RhoA活性化レベルをGST-RBDプルダウンアッセイにより評価した。TRIP E32G及びTRIP T16M/L17Sは、TgatのインビトロGEF活性を類似の程度に阻害したが、TRIP E32Gは、細胞中におけるRhoAのTgat媒介性活性化を阻害することについて、TRIP T16M/L17Sよりも効率的であった(図7A〜B)。これらのデータは、インビトロにおけるグアニンヌクレオチド交換に対する効果に加えて、TRIP E32Gが、インタクトな細胞においてもTgat GEF活性を阻害することを示す。Tgat/DH2に対する前記ペプチドのインビボにおける極めて高い特異性を確認するために、本発明者らは、GST-RBDプルダウンアッセイにより、TRIP E32Gが、インタクトな細胞における発癌性Dbl媒介性RhoA活性化を阻害できるかどうかを解析した。図8は、Tgat活性に対する効果とは対照的に、TRIP E32GがDblによるRhoA活性化を阻害できなかったことを示しており、Tgatに対するTRIP E32Gのインビトロにおける特異性が確認される。本発明者らは、次いで、TRIP E32GがTgat誘導性形質転換を阻害できるかどうか調査した。そのために、本発明者らは、Tgat発現NIH3T3細胞においてGST又はGST-TRIP E32Gを安定的に発現させ、それらの形質転換能力について特徴決定した。3週間の培養後、Tgat発現細胞において現れるフォーカスは、TRIP E32Gを共発現させるときに極度に減少した(図9A〜B)。この減少は、細胞増殖又はアポトーシスに対するTRIP E32Gの非特異的な効果によるものではない(データ示さず)。これらデータは、したがって、TRIP E32Gを用いてTgat GEF活性を標的化することが、Tgatの形質転換活性を損失させるのに十分であることを示す。インビボにおいてTgatの形質転換活性に対するTRIP E32Gの阻害効果をさらに確認するために、本発明者らは、Tgat、又はTgat及びTRIP E32Gのいずれかを発現しているNIH3T3細胞をBalb/cヌードマウスの皮下に植え付け、腫瘍形成に対するそれらの効果を解析した。12匹のマウスのうち10匹において、Tgat形質転換細胞は(マウスに)腫瘍を生じさせた。注目すべきは、TRIP E32GがTgatと共発現されたときには7匹しか腫瘍を有さず、腫瘍形成が約3週間遅れることを本発明者らが観察したことである(図10A)。さらに、腫瘍形成は消失しなかったとしても、腫瘍の重量は、TRIP E32Gが発現されたときに著しく減少した(図10B)。合わせると、これらデータは、TRIP E32Gの発現が細胞中におけるTgat形質転換活性を強く減少させ、最もあり得ることとしてはRhoAのTgat媒介性GTP装荷(loading)を阻害することにより、ヌードマウスにおける腫瘍形成に影響を与えることを示す。
【0070】
解釈
RhoGEFの新規なインヒビターとしてのペプチドアプタマー
癌を含む多くのヒト障害における脱調節のために、Rho GTPアーゼ及びそれらを活性化するGEFは、阻害のための魅力的な標的に相当する。ヒトにおいて、Rho GTPアーゼがたった20種しかないのに対してRhoGEFは70種以上あり、シグナル伝達特異性は、決められたタイミング及び位置でGTPアーゼを活性化するGEFによりほぼ決定されるようである。RhoGEFインヒビターは、したがって、新たに持ち上がってきた研究分野に相当する。ここに、本発明者らは、ATL疾患における標的としての可能性があるRhoGEF Tgatを阻害するためのペプチドアプタマースクリーニングストラテジを開発した。TgatはユニークなC末端配列に加えRhoA特異的DH2ドメインを含む、RhoGEF Trioのアイソフォームであるので、本発明者らは、そのスクリーニングの基礎を、本発明者らが以前に同定したTrioインヒビターであるTRIPα(TrioのDH2-PH2ドメインを標的化する、記載された最初のペプチドRhoGEFインヒビター(Schmidtら、2002))に据えた。興味深いことに、TgatがTrio DH2ドメインを保有するという事実にも拘らず、元のTRIPαインヒビターは、Tgatを阻害することについてむしろ効果がなかった。このことは、TrioのPH2ドメインが、TRIPαの作用機序に関与すること、及びC末端延長によるその置換えが、TgatのGEF活性を阻害するTRIPαの能力を減少させることを示唆する。
【0071】
本発明者らは、ペプチドアプタマースクリーニングアプローチを用いて選択されたGEFインヒビターは構造−活性関係の解析及び最適化がたやすく容易であることを本明細書中で示している。TRIPαの活性コアに位置する28残基のうち、アラニンスキャニングにより、触媒活性に決定的である2つの領域(残基9〜20及び28〜33)中の9残基をマッピングしたが、6つは並みの効果を有し、残りは効果を有しなかった。本発明者らはまた、ペプチドアプタマーの最適化が、相互作用の強度に基づく選択スクリーニングと組み合わせたランダム突然変異生成により達成できることを示している。単離されたクローンの少なくとも3分の1がより強い阻害を生じたので、スクリーニングの合理性が確認された。2つの選択されたペプチドであるTRIP E32G及びTRIP T16M/L17Sは、TRIPαよりも15倍効率的であり、低マイクロモル範囲の濃度でTgat GEF活性を阻害した。興味深いことに、これらクローンにおいて見出された変異はまた、Ala-scanにより同定された2つの重要な領域内に含まれる。さらに、このアプローチにより、本発明者らは、TRIPαをTgatインヒビターに変化させることができた。これは、わずか1つの変異E32Gで達成できた。これら種々のアミノ酸が、GEFへの結合及び/又は交換反応の阻害に重要であるかどうかは、まだわからないままである。本発明者らのスクリーニング及び最適化方法は、阻害機序に関係なく(このことは、タンパク質−タンパク質相互作用のインヒビターの発見に大いに有利である)有効であることが強調されるべきである。元のスクリーニングを行う方法、すなわちGTPアーゼの不存在下にGEFを囮(bait)として用いるツーハイブリッドスクリーニングにより、このペプチドの標的がGTPアーゼよりもむしろGEF自体であることを強く示唆する。このことは、このペプチドが、[3H]-GDP装荷(loaded)RhoAを用いてRhoAからの自発的なGDPの放出を阻害しないという事実(データ示さず)によって、及びRhoAに対するその他のGEF活性が阻害されないことを示す、インビトロ及びインタクトな細胞におけるそれらの特異性のデータ(図6〜8)によって強固なものとなる。
【0072】
ペプチドアプタマーは、インビボで機能的である。
本発明者らのスクリーニング方法により、TRIP E32Gが、インビトロでTgat GEF活性を阻害することについて効果的及び特異的であるだけでなく、インビボにおけるTgat誘導性細胞の形質転換及び腫瘍形成をもブロックすることが証明されている。このことは、インビボで機能的であるペプチドRhoGEFインヒビターの最初の例であり、アプタマーを、インビボにおいてGEFの機能を攪乱させる活性ペプチドとして用いることができることを証明する。この関係において、効率的なインビボ送達は、ペプチドを用いて作業するときの重要な問題である。この問題を回避するためには、最近開発された細胞貫通ペプチドの使用がTRIP E32Gの良好な送達手段に相当し、白血病誘発におけるTgatの寄与を調査するための魅力的なストラテジであり得る。事実、現在まで、ATL白血病誘発におけるTgatの発生は知られていないが、RhoAの活性化及び形質転換に対してTgatが強力な効果を有することを考えれば、本発明者らは、Tgatが、RhoA媒介性増殖及び/又は転移に寄与することにより、ATLの進行に関与しているという仮説を立てることができる。本発明者らのTRIPペプチドシリーズは、Tgatの細胞における役割を明らかにするための有用なツールであることが本明細書中で判明する。
【0073】
ペプチドアプタマー 対 その他のGEFインヒビタースクリーニングストラテジ
本発明者らのペプチドアプタマースクリーニングアプローチの他に、Rho GTPアーゼ/GEFタンデムの化学インヒビター、並びにその他の低分子量Gタンパク質、例えばArfファミリー及びそれらを活性化するGEF化学インヒビターを発見するためのその他のストラテジが最近考案されている(Blangyら、2006;Desireら、2005;Gaoら、2004;Mayerら、2001;Shutesら、2007;Viaudら、2007)。例えば、コンピュータ支援仮想スクリーニングにより、Rac1/Tiam1複合体の構造‐機能の情報に基づいて、NSC23766化合物が同定された。この強力な分子は、インビトロ及びインビボにおいてRac1が誘導する事象を特異的に阻害するが、標的化される関連あるRhoGEFとしては、少なくともTiam1及びTrio DH1-PH1を含む(Gaoら、2004)。インシリコ(in silico)スクリーニングにより、ARNO/Arf1の接触(interface)をインビトロで特異的に阻害し、細胞中において活性であるLM11化合物も生成した(Viaudら、2007)。それらの膜透過性を考えれば、NSC23766及びLM11は両方とも、インビボにおいて容易に適用されるという利点を有する。酵母における交換アッセイ(Yeast Exchange Assay)は、Trio DH1-PH1特異的NPPD化合物及びそのアナログ(Blangyら、2006)の同定を可能にする別のスクリーニング方法である。ペプチドアプタマースクリーニングのように、このストラテジは、仮想スクリーニングに対して、細胞中で直接的にインヒビターを同定し、標的化される相互作用部位による偏りがないという利点を有する。最後に、インビトロRNAアプタマースクリーニングにより、サイトヘシン/Arf1タンデムのインヒビターとしてRNAアプタマーであるM69を選択した(Mayerら、2001)。ペプチドアプタマーのように、これらRNAアプタマーは、高度にコンビナトリアルであり、容易にスクリーニングされるが、薬物候補としてのそれらの応用は、インビボ送達が困難であるために、制限されたままである。この問題を回避するために、小分子ライブラリが、標的からRNAアプタマーをはずして置き換わって阻害活性を再現する化合物についてスクリーニングされる、RNAアプタマー置換(displacement)は、非常に優れた方法に相当する(Hafnerら、2006)。
【0074】
本発明者らの研究は、インビボスクリーニング方法及び入手可能な高度にコンビナトリアルなライブラリのために、ペプチドアプタマースクリーニングが、多様な種々のタンパク質に適用できる、インヒビター同定のための妥当なストラテジに相当し、強力な親和性のインヒビターを生じることを示す。このことは、Tgat癌遺伝子をインビトロ及びインビボで標的化する高度に特異的なペプチドRho GEFインヒビターの同定により本明細書中で説明される。
【0075】
実験手順
DNA構築物
Tgat(アミノ酸1〜255)は、Trio DH2ドメイン(アミノ酸1〜240に対応する残基1862〜2101)に、Tgatの特定C末端(15アミノ酸)をコードする二量体化されたオリゴヌクレオチドをライゲーションすることにより設計した。このオリゴヌクレオチド配列は、請求により入手可能である。Tgat L190E変異型は、製造業者の取扱説明書に従って、Quick Change部位特異的突然変異生成キット(Stratagene Inc.)を用いて得られた。安定なNIH3T3細胞株を作製するために、GFPタグ化Tgat、Tgat L190E及び完全長Trioをピューロマイシン耐性レトロウイルスベクターpBabePuroにクローニングした。GSTタグ化TRIPペプチドをG418耐性レトロウイルスベクターpLXSNにクローニングした。一過的なトランスフェクションのために、Tgat及びTRIPペプチドの両方をpEGFPベクター(Clontech Inc.)にクローニングした。Myc-Dblは、Michael Olson氏(Beatson Institute for Cancer Research, Glasgow)の御厚意により寄贈を受けた。インビトロGEFアッセイのために、Tgat(アミノ酸1〜255)を、改変pMAL C2Xベクター(New England Biolabs Inc.)にクローニングすることにより、マルトース結合タンパク質(MBP)に融合させた。TRIPペプチドを、pGEX-5X2ベクター(GE Healthcare Inc.)にクローニングすることにより、GSTに融合させた。全ての構築物をシーケンシングにより検証した。
【0076】
組換えタンパク質-Tgatの発現及び精製
E.コリにおけるMBP-Tgat及びMBP-DH2の発現は、0.1mMのイソプロピルチオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて24時間16℃で誘導した。(50mMのTris pH7.5、1mMのEDTA、2mMのMgCl2、1mMのDTT中で)細胞溶解後、懸濁液を10,000gで20分間、次いで400,000gで1時間30分間遠心分離した。上清を、溶解バッファーで平衡化したQ-Sepharose fast flowカラム(GE Healthcare)にアプライした。タンパク質を、50mMのTris pH 7.5中の0〜250mMのNaClの線形勾配で溶出させた。タンパク質を含む画分を2MのNaCl濃度に調整し、Phenyl sepharose Fast flow High Sub (GE Healthcare Inc.)にロードした。タンパク質を、50mMのTris pH7.5中の2〜0M NaClの線形勾配で溶出した。精製されたタンパク質を、Vivaspin濃縮器(Vivascience AG Inc.)で18mg/mLに濃縮した。
【0077】
その他のタンパク質
組換えGST-Trio DH2-PH2、GST-Trio DH1-PH1、GST-Dbl (DH-PHドメイン)、GST-Lbc (DH-PH)、GST-p63RhoGEF (DHドメイン)及びGST-RhoGは、上記のようにして精製した(Schmidtら、2002;Souchetら、2002)。バキュロウイルス系を用いるGST-p115RhoGEFの発現及び精製は、他の箇所に記載する。
【0078】
GSTペプチド
GST-TRIPペプチドは、溶解バッファーで平衡化されたGSTrap Fast Flowカラム(GE Healthcare Inc.)にロードする前に、細胞溶解物を上記のようにして遠心分離したことを除いては、記載されるようにして(Schmidtら、2002)精製した。ペプチドは、50mMのTris pH 7.5中の還元されたグルタチオン(10mM)を用いて溶出し、Vivaspin濃縮器で約5〜10mg/mLに濃縮した。
【0079】
TRIPαの最適化 − TRIPαのアラニンスキャニング
TRIPαの活性コアの全てのアミノ酸(アミノ酸9〜36)は、アミノ酸ごとに、GST-TRIPαの部位特異的突然変異生成によりアラニン(又はシステイン残基についてはセリン)に変異させた。各TRIPα変異型について、[3H]-GDP解離アッセイにおいてDH2-PH2に対するその阻害活性を試験した。
【0080】
TRIPα様ペプチドのツーハイブリッドスクリーニング
TRIPαに由来するアプタマーライブラリは、酵母ツーハイブリッドベクターpPC86に挿入されたTRIPαのPCRベースのランダム突然変異生成により作製した。統計的に代表となる数のクローンのシーケンシングにより、〜3変異/クローンの変異率がもたらされた。6×105の独立したクローンを、相互作用するものについて、(pPC97ベクター中の)Trio DH2-PH2を囮として用いて、MAV103酵母株において、高濃度の3-AT (3-アミノ-トリアゾール、Sigma)(80〜120mM)下でスクリーニングした。選択されたペプチドを、次いでGST融合体として産生し、それらのTrio DH2-PH2阻害を、[3H]-GDP解離アッセイを用いて解析した。
【0081】
ヌクレオチド交換速度アッセイ
Tgatの交換比速度は、蛍光に基づく動態アッセイで、記載されるようにして(Oleksyら、2004)精製した6His-RhoA構築物(Dr Derewenda, Charlottesville University, Virginiaによる寄贈品)を用いて測定した。交換活性は、記載されるようにして(Zeehら、2006)、GTPアーゼトリプトファン(λex=292nm)とmant-GTP(λem=440nm)のメチルアントラニロイル基との間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により追跡した。全ての蛍光測定は、CARY Eclipse蛍光光度計(Varian)を用いて行った。各々のkobs測定について、RhoA(1μM)及びTgat(又はTrio DH2)は、700μLの反応バッファー(50mM Tris pH 7.5、50mM NaCl、2mM MgCl2、1mM DTT)中で、25℃で3分間プレインキュベートした。交換反応は、10μM mant-GTPにより開始し、プラトーに達するまで10分間測定した。Kobsは、Kaleidagraphソフトウェアを用いて、FRET蛍光の変化を指数関数にフィットさせることにより算出した。交換比活性は、一連のGEF濃度(0、0.2、0.3、0.4、0.5及び1μM)について測定したkobs値の線形回帰により算出した。
【0082】
ヌクレオチド交換阻害アッセイ
放射活性[3H]-GDP解離アッセイは、記載されるようにして(Schmidtら、2002)行った。簡潔には、0.15μMのGST-Trio DH2-PH2を3μMのGST-TRIPインヒビターと15分間プレインキュベートした。反応は、0.4μMの[3H]-GDP-装荷RhoA及び1mM GTPの添加により開始し、反応混合物を25℃における0分及び15分間のインキュベーション後に濾過した。阻害効率は、15及び0分における[3H]-GDP-結合RhoA間の比として表される。TRIP様ペプチドの見掛けの阻害定数(Kiapp)は、上記の蛍光ヌクレオチド交換アッセイを用いて、ペプチド濃度を増大させながら得られたkobs値から測定した。Kiappは、記載されるように(Zeehら、2006)、インヒビター濃度の関数としてのkobs値の双曲線へのフィットから算出した。TRIP様ペプチドの特異性は、mant-GTP蛍光動態(λex=360nm、λem=460nm)を用いて、FLX800蛍光マイクロプレートリーダー(BioTek Instruments)で測定した。0.5μM Tgat、p63RhoGEF、Lbc、及びp115RhoGEF、又は0.1μM Dbl及びTrio DH1-PH1は、25℃で5分間、20μM GST、GST-TRIPE32G又はTRIPT16M/L17S及び1μM mant-GTPの存在下でプレインキュベートした。交換反応は、1μM RhoA又はRhoGの添加により開始し、10分間モニタリングした。
【0083】
細胞株、トランスフェクション及びフォーカス形成アッセイ
NIH3T3細胞は、以前に記載されたようにして(Sirventら、2007)維持した。一過的なトランスフェクション実験は、Jet PEI試薬を用いて、製造業者(QBiogene Inc.)のプロトコルに従って行った。GFP-Tgat、GFP-TgatL190E又はGFP-Trioを、GST-TRIPペプチドを伴って又は伴わないで安定的に発現するNIH3T3細胞株を以下のようにして作製した。記載されたレトロウイルス構築物を、リポフェクタミン試薬(Invitrogen Inc.)を用いて、BOSCパッケージング細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、レトロウイルスを含む上清を回収し、これを用いてNIH3T3細胞を感染させた。感染した細胞を、6μg/mLのピューロマイシン及び/又は1mg/mLのG418を用いて選択し、安定なトランスフェクタントを選択後に貯留した。種々の細胞株におけるTgat又はTRIP mRNAレベルをRTPCRにより、及びタンパク質発現レベルをポリクローナル抗GFP抗体(Torrey Pines Laboratories)を用いるウェスタンブロット解析によりモニタリングした。フォーカス形成アッセイを、記載されたような安定なNIH3T3細胞株を用いて行い、5×104細胞を6ウェルプレートに播種し、10% FBS中で15〜21日間維持した。培地は、2日毎に新しいものに取り換えた。クリスタルバイオレット(1%)を用いて染色後、プレートを写真撮影し、Metamorphソフトウェアを用いて、フォーカスを数えた。全ての実験は、3連(in triplicate)で行った。
【0084】
細胞におけるRhoA活性化アッセイ
GTP結合RhoAのレベルを、記載されるような(Schmidtら、2002)GSTプルダウンアッセイにより測定した。簡潔には、細胞溶解物を、RhoA特異的エフェクターであるRhotekinの組換えRho結合ドメイン(RBD)(Cytoskeleton Inc.)でコーティングしたグルタチオンビーズと共にインキュベートした。サンプル中のトータル又はGTP結合RhoAを、モノクローナル抗RhoA抗体(Santa-Cruz Biotechnology Inc.)を用いて、ウェスタンブロット解析により明らかにした。
【0085】
マウス及び異種移植
雌性Balb/c nu/nuマウスは、Charles River Franceから購入し、6〜8週齢で用いた。各細胞株の2×106細胞を、12匹のBalb/c nu/nuマウスの両側に皮下移植(肢の左側面にTgat及び右側面にTgat+TRIPE32G)した。腫瘍の外観は、毎週目視で評点した。移植から10週後、マウスを安楽死させ、腫瘍を摘出し、秤量した。腫瘍におけるmRNA及びタンパク質のレベルは、RT-PCR及びウェスタンブロットにより確認した(データ示さず)。
【0086】
実施例2:ヒトの癌におけるTrioの増幅の標的化
Trio遺伝子は、膠芽腫、乳癌、柔組織肉腫、膀胱癌、子宮癌腫、口腔内扁平上皮癌及び肺癌を含む多様なヒトの癌において増幅されることが見出されている(Adamowiczら、2006;Baldwinら、2005;Calaf及びRoy、2007a, b;Coeら、2005;Garnisら、2005;Klothら、2007;Laneら、2008;Mhawech-Faucegliaら、2006;Ngら、2007;Salhiaら、2008;Zhengら、2004)。これら様々なタイプの癌の遺伝学的性質を特徴付けることを目的としたCGHアレイの研究により、染色体5p及びtrio遺伝子の増幅が明らかにされ、この増幅は、多くの事例において、その転写産物の増大に相関した。さらに、例えば膀胱癌において、Trioの増幅は、浸潤性腫瘍表現型、高い腫瘍グレード及び急速な腫瘍細胞増殖と強く関連していた。膠芽腫又は乳癌のようなその他の事例においては、Trioの過剰発現は、芳しくない予後及び芳しくない患者生存率と関連していた。このことは、最もあり得ることとしてはRho GTPアーゼシグナル伝達の活性化による、これら癌の進行性表現型へのTrioの関与の可能性を示している。さらに、発癌性Trioアイソフォームである(TrioのRhoA活性化GEF2ドメインのみを有する)Tgatは、急性T細胞白血病(ATL)患者において同定されている。
【0087】
よって、Trioは、薬物の設計のための魅力的な標的として出現し、高い特異性をもって細胞活性を操作する本発明のTRIPペプチドは、したがって、並外れた治療上の潜在能力を有する。
【0088】
この関係において、本発明者らは、腫瘍由来細胞株の増殖/運動/浸潤特性におけるTrio及び/又はその発癌性アイソフォームTgatの寄与を解析し、これらの表現型を阻害するTRIPペプチドの阻害能力を評価している。
【0089】
A. Trioが過剰発現される様々なタイプの癌に起源を有する入手可能な腫瘍由来細胞株を用いて、本発明者らは、まず、高レベルのTrioタンパク質がその標的であるGTPアーゼ、Rac1及びRhoAの過剰活性化に相関するかどうか解析した。そのために、本発明者らは、以前に記載されたような(Bouquierら、2009)Rho活性化プルダウンアッセイを(限定されないが)以下の細胞株について行った。
【0090】
Trioの増幅を示す膀胱腫瘍細胞株:5-HTB、RT11-D21、RT112及びCRL-7930(Trio増幅のないその他の膀胱細胞株(3-HTB、4-HTB)と比較した)。
Trioの上方調節を示す子宮扁平上皮癌腫:CasKi、SiHa、HeLa(Trio増幅のない細胞株(CSCCI、CSCC7、CC8、CC10A、CC10B、CCII-及びCCII+)と比較した)。
小細胞肺癌腫SCLC細胞株:NCI-H187、NCI-H378、NCI-H889、NCI-H1184、NCI-H1607、NCI-H1672、NCI-H1963、NCI-H2141、NCI-H2171、NCI-H2195、NCI-H2227、HCC33、NCI-H82、NCI-H289及びNCI-H526。
乳癌細胞株:MCF7、MDA-435及びSKBR3。
【0091】
B. RhoA活性化が亢進している細胞株において、本発明者らは、基底レベルのRhoA活性化を示す細胞株と比較して、増殖、運動及び浸潤特性を評価した。これらの実験は、細胞成長及びフォーカス形成アッセイ、足場非依存性成長アッセイ及び創傷治癒アッセイ並びにボイデンチャンバー内での細胞浸潤アッセイ(実施例5を参照)により行われた。
【0092】
C. Trio増幅、RhoA活性化及び(B)において解析される1又はそれより多い表現型を示す細胞株において、本発明者らは、TRIPE32Gペプチドを用いてTrioを直接的に標的化した。細胞株は、GFPタグ化TRIPE32G プラスミドでトランスフェクトされているか又はレトロウイルスベクターで感染されている((Bouquierら、2009)を参照)。本発明者らは、RhoA活性化、増殖性、運動性及び浸潤性に対するTrio阻害の効果を、上述のアッセイを用いて評価した。成功するときには、様々なタイプの癌のマウスモデルを用いて、インビボアッセイが達成される。例えば、浸潤を評価するために、本発明者らは、肺コロニー形成マウスモデルを用いた。ここでは、TRIPE32Gを安定的に発現している乳癌細胞株(Forozanら、2000)(又はコントロールプラスミド)がマウスの尾部に注入され、肺転移の数/サイズが3週後に測定される(実施例5)。
【0093】
実施例3:ヒト癌におけるTrio変異の標的化
多数(210)の多様なヒト癌(乳癌、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、精巣癌、卵巣癌、腎臓癌、黒色腫、ALL癌を含む)を、全ゲノムの518種のキナーゼにおける変異の存在について、システマチックシーケンシングによりスクリーニングした(Greenmanら、2007)。かくして、7つの繰り返し現れる変異(TrioG53E、Trio A97(InsP)、Trio T1258M、TrioV1920M、TrioG2795D、TrioR2817C、TrioA2983V)をTrio遺伝子中に発見した。このうちの5つは点変異(GEF1中に1つ、GEF2中に1つ、キナーゼ中に2つ、ATGの直後に1つ)、1つは挿入及び1つは欠失変異である。
【0094】
腫瘍形成におけるこれらTrio変異の関連の可能性をさらに調べるために、本発明者らは、Trio遺伝子に(部位特異的突然変異生成により)これら変異の各々を導入し、これら変異型を発現している安定なNIH3T3細胞株を作製した。本発明者らは、該細胞株の増殖、遊走及び浸潤特性を測定している(上記並びに「材料及び方法」を参照)。本発明者らは、TrioのGEF2ドメイン中にあるV1920M変異に特に注目している。
【0095】
本発明者らは、Trio変異型を安定的に発現しているNIH3T3細胞株を、TRIPE32Gペプチドを発現するレトロウイルスベクターに感染させ、上記のアッセイを読み出し(readout)として用いて、その阻害効果を解析した。
併せて、本発明者らは、Trio GEF活性が、特にGEF2ドメイン変異型(V1920M)において、RhoA活性を脱調節し得る変異により改変されたかどうかを調べた。そのために、本発明者らは、TrioのGEF2ドメイン又はTgatに(部位特異的突然変異生成により)V1920M変異を挿入し、組換えGST融合タンパク質を作製した。変異型のGEF活性を評価するために、インビトロヌクレオチド交換アッセイを記載されるようにして(Bouquierら、2009)行った。
【0096】
実施例4:細胞内へのペプチドの送達
治療用のペプチドは、その合理的設計の容易性及び標的特異性のために、抗癌剤として優れた潜在能力を有する。しかしながら、癌治療のためのそれらのインビボ応用にとって主要な障害は、それらの低い安定性及び貧弱な腫瘍浸透性である。したがって、効率的なペプチド送達のための様々なストラテジの開発の成功により、この新しく非常に有望なクラスの抗癌剤の使用が可能となり得る。
この背景から、本発明者らは、TRIPペプチドの安定性及び送達能力を増大させるために、種々のアプローチを開発している。本発明者らは、最近なされたペプチド化学及び送達の進歩を利用している(Borghoutsら、2005b)。
【0097】
A. ペプチドの安定性の増大
ペプチドの安定性は、対処すべき重要な問題である。例えば、融合組換えタンパク質の使用又は非天然アミノ酸の使用のような、ペプチドの半減期を増大させるための利用可能な技術がある(より詳細には、Borghoutsら、2005aを参照)。
本発明者らは、次いで、実施例1で定義された必須の残基(黒色太字の残基)に影響を与えることなく、非天然アミノ酸を含む下記のような構築物を作製した。
【0098】
B. 細胞膜を横切るペプチドの送達
現在のところ、ペプチドを細胞内に効率的に取り込ませる方法は、主に2つある:当該ペプチドを第2の細胞透過性ペプチドに融合させること又は当該ペプチドをコードする遺伝子を有するレンチウイルスベクターを用いること。
細胞傷害性も免疫誘発性も有さずに原形質膜を横切ってペプチドを形質導入できるPenetratin(商標)(Drosophila Antennapediaホメオドメインの3番目のヘリックス)及びTAT由来の配列(HIVウイルスのタンパク質形質導入ドメイン)を含む多様な細胞浸透性ペプチドが、過去数年内に記載されている。この背景から、本発明者らは、TAT由来ペプチドをTRIPE32Gペプチド(例えば配列番号4)に融合させ、それを培養培地中の細胞に直接適用している。上述の読み出しは、細胞中のペプチドの効率的送達及び効果を評価するために用いる。
レンチウイルスベクターはまた、ペプチドアプタマーのインビボにおける使用のための有望な代替物である。本発明者らは、レトロウイルスベクター(Bouquierら、2009)を用い、また新しい世代のレンチウイルスベクターを用いてこのようなベクターの使用を改善させた。
【0099】
C. アプタマー置換スクリーニング
インビボ送達の問題を回避するための代替的で非常に優れた方法は、小分子ライブラリを、標的からアプタマーをはずして置き換わり、阻害活性を再生する化合物についてスクリーニングし、これによりアプタマーを低分子量化合物インヒビターに変換するアプタマー置換スクリーニング(aptamer-displacement screen)の使用である(Baines及びColas、2006)。利点は、対応する化合物が、既に特徴付けられたペプチドと同一の部位を標的化し、同一の特性を共有し、細胞透過性の特徴を示すことである。
【0100】
このようなアプタマー置換スクリーニングを行うために、本発明者らは、記載されるような(Bardouら、2009)高処理スクリーニングアッセイを用いた。AptaScreenは、2つのルシフェラーゼレポーター遺伝子が特色をなす複式の酵母ツーハイブリッドアッセイである。これは、96又は384ウェルプレート中で行うことができ、完全自動化が可能である。実験手順の詳細については、(Bardouら、2009)を参照されたい。用いられる化合物のライブラリは、ChemBridge (San Diego, CA, USA)から購入される。
【0101】
実施例5:実施例2の材料及び方法
DNA構築物
Trio変異型は、Quick Change部位特異的突然変異生成キット(Stratagene Inc.)を、製造業者の取扱説明書に従って用いて得た。安定なNIH3T3細胞株を作製するために、GFPタグ化Tgat及び完全長Trioを、ピューロマイシン耐性レトロウイルスベクターpBabePuroにクローニングした。
組換えタンパク質
組換えGST-Trio DH2-PH2、GST-Tgatは、以前に記載されたようにして(Bouquierら、2009;Schmidtら、2002)精製した。
【0102】
細胞におけるRhoA活性化アッセイ
GTP結合RhoAのレベルは、記載されるような(Bouquierら、2009)GSTプルダウンアッセイにより測定した。簡潔には、細胞溶解物を、RhoA特異的エフェクターであるRhotekinの組換えRho結合ドメイン(RBD)(Cytoskeleton Inc.)でコーティングされたグルタチオンビーズと共にインキュベートした。サンプル中のトータル又はGTP結合RhoAは、モノクローナル抗RhoA抗体(Santa-Cruz Biotechnology Inc.)を用いてウェスタンブロット解析により明らかにした。
【0103】
ヌクレオチド交換阻害アッセイ
mant-GTP蛍光ヌクレオチド交換アッセイは、FLX800蛍光マイクロプレートリーダー(BioTek Instruments)で、記載されるようにして(Bouquierら、2009)行う。簡潔には、0.5μMのTgat又はTrio DH2-PH2(野生型又は変異型)を、20μM GST、GST-TRIPE32G及び1μM mant-GTPの存在下に5分間25℃でプレインキュベートする。交換反応を1μM RhoAの添加により開始させ、10分間モニタリングする。
【0104】
細胞株、トランスフェクション
NIH3T3細胞は、以前に記載されたようにして(Sirventら、2007)維持した。GST-TRIPペプチドを伴うか又は伴わずに種々のTrio変異型を安定的に発現するNIH3T3細胞株は、以下のようにして作製した。製造業者(QBiogene Inc.)のプロトコルに従って、Jet PEI試薬を用いて、記載されたレトロウイルス構築物をBOSCパッケージング細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後、ウイルスを含む上清を回収し、NIH3T3細胞を感染させるのに用いた。感染した細胞を、6μg/mLのピューロマイシン及び/又は1mg/mLのG418を用いて選択し、その後安定なトランスフェクタントを貯留した。種々の細胞株におけるmRNAレベルをRT-PCRにより、及びタンパク質発現レベルをポリクローナル抗GFP抗体(Torrey Pines Laboratories)を用いるウェスタンブロット解析によりモニタリングした。
【0105】
細胞成長アッセイ
種々のTrio変異型を安定的に発現しているNIH3T3細胞の成長速度を、CellTiter 96 Aqueousアッセイ(Promega)により、製造業者の取扱説明書に従って測定する。200μlの5%FBS培地中の1500細胞/ウェルを96ウェルプレートに播種し、通常の条件下に成長させた。
【0106】
フォーカス形成アッセイ
フォーカス形成アッセイは、6ウェルプレートに5×104細胞を播種し、10%FBS中で15〜21日間維持した記載される安定なNIH3T3細胞株を用いて行われる。培地は2日毎に新しいものに置き換える。クリスタルバイオレット(1%)を用いて染色後、プレートを写真撮影し、Metamorphソフトウェアを用いてフォーカスを数える。全ての実験は、3連で行われる。
【0107】
足場非依存性成長アッセイ
種々のTrio変異型を安定的に発現しているNIH3T3細胞(ウェル当たり1.25×103)を6ウェルプレート中の0.3%アガロース中で成長させる。各々の条件について2組のウェルを調べる。細胞は、1mlのトップアガーを毎週1回与えられる。3〜5週後にコロニーを数える。
【0108】
創傷治癒アッセイ
24マルチウェルプレート中のTRIPペプチドを安定的に発現しているコンフルエントな細胞を、滅菌済ピペットチップで創傷させ、10%FBS-DMEMに晒した。プレートを、モーター駆動ステージを備えたZeiss社製倒立顕微鏡の5%CO2下に37℃で保持した。各々の皿から引っ掻いた軌跡(scratched path)を含む1つの視野を選択し、続けて15分毎に20時間スキャニングした。
【0109】
細胞浸潤アッセイ
細胞浸潤アッセイは、8μmの孔サイズのPETメンブレンフィルターを備えた6.4-mmのBiocoat Matrigel浸潤チャンバー(BD Biosciences)を用いて、製造業者の取扱説明書に従って行う。簡潔には、2.5×104細胞を0.5mlの培養培地に懸濁し、上部チャンバーに加えた。培養培地中の10%FBSを、化学誘因物質として下部チャンバーに置く。浸潤チャンバー内の細胞を給湿したインキュベーター内でインキュベートする。マトリゲルマトリクス及び8μmのメンブレン孔を横断し、フィルターの下面に拡散した細胞を、可視化のために5%ギムザ溶液で染色する。浸潤試験の各データ点は3組のチャンバーに由来し、エラーバーは、平均の標準誤差を表す。
【0110】
肺コロニー形成モデル
20匹の6〜8週齢の雌性ヌードマウスの尾部静脈に、(Bouquierら、2009)(100μLの滅菌済PBS中の2.5×106細胞、97%の生存能)を発現しているか又は発現していない乳癌細胞株を注入する。22日後、マウスの体重を測定し、頸椎脱臼により犠牲にする。肺を取り出し、切片を作製し、緩衝化された4%ホルムアルデヒドで固定し、盲検する。マウス当たり3つのH&E染色切片中の肺転移の数を評価し、平均転移数/mm2として表す。サンプル当たり3つの視野中の正常及び腫瘍の肺実質の範囲を、H&E染色切片について測定する。肺転移の領域は、Axiovision 4.4ソフトウェアを用いて評価する。各々の肺からの右下葉を溶解させ、50μgのタンパク質/サンプルを、ウェスタンブロットによって、1μg/mLの抗GFP抗体又は1μg/mLの抗α-チューブリンmAb (Sigma-Aldrich)を用いて解析した。密度測定を、AIDAソフトウェアにより行った。統計的解析を、スチューデントのt検定を用いて行った。差は、P<0.05であれば、統計的に有意であるとみなした。
【0111】
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【図3A】

【図3B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌治療を意図される医薬の製造のための、以下の配列番号2のアミノ酸配列:
【化1】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、ペプチドの活性に必要なアミノ酸を表し、X9、X13、X14、X16、X17、X18、X20、X21、X22、X23、X24、X25、X26、X27、X32及びX33は、任意のアミノ酸を表す]
を含むか又は該配列からなるペプチド(但し、該ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)の使用。
【請求項2】
前記ペプチドが、配列番号3のアミノ酸配列:
【化2】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、ペプチドの活性に必要なアミノ酸を表し、X13、X16、X17、X18、X23、X24、X27及びX32は、任意のアミノ酸を表す]
(但し、該アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)を含むか又は該配列からなる請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ペプチドが、以下の特徴:
・X13はDである、
・X16はM又はAである、
・X17 はSである、
・X18 はD、G又はAである、
・X23 はGである、
・X24 はAである、
・X27はLである、及び
・X32 はGである
のうち少なくとも1つを有する配列番号3のアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号4〜配列番号51を含む群から選択されるアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記ペプチドが、チオレドキシンのフラグメントからなるフランキング部位を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記ペプチドが、配列番号52〜配列番号99から選択されるアミノ酸配列を含むか又は該配列である請求項5に記載の使用。
【請求項7】
癌がT細胞急性白血病を含む白血病、肉腫、肺癌及び乳癌を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
配列番号3のアミノ酸配列:
【化3】

[式中、太字下線付のアミノ酸は、ペプチドの活性に必要なアミノ酸を表し、X13、X16、X17、X18、X23、X24、X27及びX32は、任意のアミノ酸を表す]
(但し、該アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含まないし、該配列からなるものでもない)を含むか又は該配列からなる単離されたペプチド。
【請求項9】
前記ペプチドが、以下の特徴:
・X13はDである、
・X16はM又はAである、
・X17 はSである、
・X18 はD、G又はAである、
・X23 はGである、
・X24 はAである、
・X27はLである、及び
・X32 はGである
のうち少なくとも1つを有する配列番号3のアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる請求項8に記載の単離されたペプチド。
【請求項10】
前記ペプチドが、配列番号4〜配列番号51を含む群から選択されるアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる請求項8又は9に記載の単離されたペプチド。
【請求項11】
前記ペプチドが、チオレドキシンのフラグメントからなるフランキング部位を含む請求項8〜10のいずれか1項に記載の単離されたペプチド。
【請求項12】
前記ペプチドが、配列番号52〜配列番号99から選択されるアミノ酸配列を含むか又は該配列からなる請求項11に記載の単離されたペプチド。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項に記載のペプチドをコードする核酸配列を含むか又は該配列からなる単離された核酸。
【請求項14】
配列番号100〜配列番号196から選択される核酸配列を含むか又は該配列からなる請求項13に記載の単離された核酸。
【請求項15】
請求項13又は14に記載のヌクレオチド配列を含む組換えベクター、特にプラスミド、コスミド、ファージ又はDNAウイルス。
【請求項16】
前記ベクターに挿入された請求項13又は14に記載の核酸によりコードされるポリペプチドの宿主細胞における発現に必要な因子を含む請求項15に記載の組換えベクター。
【請求項17】
特にバクテリア、ウイルス、酵母、真菌類、植物又は哺乳動物細胞から選択され、特に請求項15又は16に記載のベクターによって、そのゲノムが請求項13又は14に記載のヌクレオチド配列を含むように形質転換された宿主細胞。
【請求項18】
活性成分として、以下のもの:
・少なくとも1つの請求項8〜12のいずれか1項に記載のペプチド、
・少なくとも1つの請求項13又は14に記載の核酸、及び
・少なくとも1つの請求項15又は16に記載の組換えベクター
のうち少なくとも1つを、医薬的に許容されるビヒクルと組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項19】
約700μg〜約80mg、好ましくは約7〜約40mgの前記ポリペプチドを単位用量として含むことを特徴とする請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
少なくとも1つの化学療法剤、特に
a.ドキソルビシン、メトトレキサート、ビンブラスチン、ビンクリスチン、クラドリビン、フルオロウラシル、シタラビン、アントラサイクリン、シスプラチン、シクロホスファミド、フルダラビン、ゲムシタビン、アロマターゼインヒビター、イリノテカン、ナベルビン、オキサリプラチン、タキソール、ドセタキセル及びコンブレタスタチン(好ましくはホスフェート):を含むか又はこれらからなる群又は
b.ベバシズマブ、ペガプタニブ及びラニビズマブ:を含むか又はこれらからなる群
から選択される化学療法剤を併せて含む請求項18又は19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
癌を含む腫瘍性の病変の治療のために同時に、別々に又は逐次的に用いられる請求項20に記載の医薬組成物。

【図5】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−507950(P2013−507950A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534782(P2012−534782)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055230
【国際公開番号】WO2011/048445
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(509211099)ユニベルシテ・モンペリエ・2・シアンス・エ・テクニク (8)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE MONTPELLIER 2 SCIENCES ET TECHNIQUES
【Fターム(参考)】