説明

グラスライニング製反応缶

【課題】本発明は、熱伝達を向上させることにより、金属製缶体内の液体との熱交換効率を向上させることを目的とする。
【解決手段】本発明によるグラスライニング製反応缶は、金属製缶体(1)のグラスライニング(21)を、鉄素地にコーティングする総厚さが0.6〜1.2mmであることにより、総括伝熱係数(U値:Kcal/m.hr.℃)を加熱時でジャケット(7)内の流体がスチームで、前記金属製缶体(1)内の流体が有機液体の時の前記U値370〜800(Kcal/m2.hr.℃)とし、熱交換効率を向上させる構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスライニング製反応缶に関し、特に、熱伝達を向上させることにより、金属製缶体内の液体との熱交換効率を向上させるための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種のグラスライニング製反応缶としては、社内製作のみで特許出願を行っていないため、特許文献等は開示していないが、その構成を図4に開示することができる。
すなわち、図4において、符号1で示されるものは、全体が密閉型の缶状をなす金属製缶体であり、この金属製缶体1の上部にはモータ2を有する減速機架台3が設けられ、この金属製缶体1内に回転自在に設けられた攪拌羽根4の軸5は前記減速機架台3を介して前記モータ2に接続されている。
【0003】
前記金属製缶体1の缶体外表面6には、この缶体外表面6の側部を覆うと共に所定の間隔の空洞からなるジャケット7が形成され、このジャケット7の複数個所には、このジャケット7内に冷却又は加熱用の液体又は気体等からなる媒体を供給して排出する循環用の入口8及び出口9が設けられている。
【0004】
前記金属製缶体1の上部に形成されたノズル10には、このノズル10を貫通する状態で下部に感温部11aを有するバッフル11が挿入され、このバッフル11は、前記金属製缶体1の内部に吊り下げられた状態で保持されると共に金属製缶体1内の加熱又は冷却される液体と接触することができるように構成されている。
【0005】
前記ジャケット7には、エアー抜き12、脚13、ドレン口14、アジテーティングノズル15が設けられ、前記金属製缶体1には、覗窓16、マンホール17、フラッシュバルブ18が設けられている。
【0006】
従って、前述の構成において、前記金属製缶体1内に医薬品等の液体を供給し、前記ジャケット7内に供給する媒体と同じ媒体をバッフル11内に供給してノズル10を密閉した後に、モータ2により攪拌羽根4を攪拌しつつ、前記バッフル11及びジャケット7内の媒体によって熱交換が行われ、前記液体の冷却又は加熱が行われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のグラスライニング製反応缶は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、グラスライニングは、鉄等の金属製母材に無機ガラスを高温で焼付けたもので、ガラスの表面を持つことから洗浄性に優れ、また、理化学ガラスと同等又はそれ以上の耐薬品性や耐熱性を有することから、化学薬品用の反応容器や医薬品の製造釜等に幅広く使用されている。
一般に、グラスライニングは金属製母材上に下釉を掛けて焼成し、更に上釉を掛けて焼成することにより形成されている。
しかしながら、ライニングされるガラスの熱伝導率λgが1.0(Kcal/m.h.℃)と炭素鋼の熱伝導率λFe45(Kcal/m.h.℃)に比べて1/45と小さく、ジャケット側から加熱・冷却での液体の内容物への熱伝導が小さく、総括伝熱係数U値が加熱時でジャケット内の流体がスチームである場合、該缶体内の液体が有機液体で300〜400(Kcal/m.h.℃)である。
【0008】
従って、固体と流体との間に温度差があると、両者の間に伝導ならびに対流による熱交換が行われる。
このときの伝熱速度Q(Kcal/h)は通常、伝熱面積A(m2)に比例し、また流体の平均温度t(℃)と壁温tw(℃)との差に比例するので次式で表される。
Q=xA(t−tw)
比例定数x(Kcal/m2.h.℃)は境膜伝熱係数と呼ばれ、その値は両端の流れの状態によって異なる。
【0009】
グラスライニング装置のように固体壁をはさんで温度の異なる流体の間で熱移動が行われる場合には、高温流体の平均温度tと低温流体の平均温度tとの差を温度の推進力としてとると、高温流体から低温流体への伝熱速度は
Q=U11(t−t
で表される。
係数Uを総括伝熱係数と呼び、
数1の(1)式で表される。
【0010】
【数1】

【0011】
前記U値を向上させるためには、
(1)Ig:グラスライニング厚みを薄くする。
(2)Kg:グラスの熱伝導度を高くする。
ことの二点が重要であるが、グラスライニングのガラスライニング厚は、JIS−R4201規格に0.6〜2.5mmと定められているが、実際のグラスライニング装置のガラスライニング厚はピンホール発生・修正・手直し焼成を焼成途中で繰り返し、通常2000L容器で1.3〜2.0mm位で製品化されている。
釉薬のくすり掛けは1回当たり0.2〜0.3mm位で、下釉施工を1〜2回、上釉施工を4〜5回行い、その都度、焼成炉内で溶融・焼付けをしている。
【0012】
グラスライニング装置の総括伝熱係数U値を向上させるためには、ガラスライニングの下釉厚み+上釉厚みの総計厚みを外側ジャケットに対応する該缶体内部のガラスライニング厚みで0.6〜1.2mmの薄膜にすることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によるグラスライニング製反応缶は、内面にグラスライニングが形成された金属製缶体と、前記金属製缶体内に設けられモータ駆動により回転する攪拌羽根と、前記金属製缶体の外周に設けられ前記金属製缶体内の液体を加熱又は冷却させるための媒体を収容するジャケットからなるグラスライニング製反応缶において、前記グラスライニングは、総厚さが0.6〜1.2mmであり、総括伝熱係数(U値:Kcal/m.hr.℃)を加熱時でジャケット内の流体がスチームで、前記金属製缶体内の流体が有機液体の時の前記U値370〜800(Kcal/m2.hr.℃)にした構成であり、また、前記金属製缶体の前記ジャケットに対応する缶体外表面には、鉄金属より熱伝導度が大であるアルミニウム、銅、金、銀、亜鉛の何れかをコーティングした構成であり、また、前記缶体外表面には、凹凸面が形成されている構成であり、また、前記缶体外表面には、スパイラル形状の帯板又はディンプル形状の金属チップが溶接密着されている構成であり、また、前記金属製缶体の内側部には、少なくとも一対の接続管を介し前記流体に接する状態でバッフルが設けられ、前記ジャケットと前記バッフルとの間は前記各接続管を介して連通し、前記ジャケット内の前記媒体が前記バッフル内を循環する構成である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるグラスライニング製反応缶は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、内面にグラスライニングが形成された金属製缶体と、金属製缶体内に設けられモータ駆動により回転する攪拌羽根と、前記金属製缶体の外周に設けられ前記金属製缶体内の液体を加熱又は冷却させるための媒体を収容するジャケットからなるグラスライニング製反応缶において、前記グラスライニングは、総厚さが0.6〜1.2mmであり、総括伝熱係数(U値:Kcal/m.hr.℃)を加熱時でジャケット内の流体がスチームで、前記金属製缶体内の流体が有機液体の時の前記U値370〜800(Kcal/m2.hr.℃)にしたことにより、総括伝熱係数Uを従来よりも向上させることができ、高効率の熱交換作用を得ることができる。また、前記金属製缶体の前記ジャケットに対応する缶体外表面には、鉄金属より熱伝導度が大であるアルミニウム、銅、金、銀、亜鉛の何れかをコーティングしたことにより、従来よりも熱交換効率を向上させることができる。また、前記缶体外表面には、凹凸面が形成されていることにより、缶体外表面の表面積を従来よりも大幅に大とし、熱交換効率を向上させることができる。また、前記缶体外表面には、スパイラル形状の帯板又はディンプル形状の金属チップが溶接密着されていることにより、前述の凹凸面の構成と同様に缶体外表面の表面積を従来よりも大幅に大とすることができる。また、前記金属製缶体の内側部には、少なくとも一対の接続管を介し前記流体に接する状態でバッフルが設けられ、前記ジャケットと前記バッフルとの間は前記各接続管を介して連通し、前記ジャケット内の前記媒体が前記バッフル内を循環することにより、金属製缶体内の液体と接するバッフル内にジャケット内の媒体を循環供給することができ、従来よりも熱交換効率を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、熱伝達を向上させることにより、金属製缶体内の液体との熱交換効率を向上させるようにしたグラスライニング製反応缶を提供することを目的とする。
【実施例】
【0016】
以下、図面と共に本発明によるグラスライニング製反応缶の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分については、同一符号を付して説明する。
図1において符号1で示されるものは、全体が密閉型の缶状をなす金属製缶体であり、この金属製缶体1の上部にはモータ2を有する減速機架台3が設けられ、この金属製缶体1内に回転自在に設けられた攪拌羽根4の軸5は前記減速機架台3を介して前記モータ2に接続されている。
【0017】
前記金属製缶体1の缶体外表面6には、この缶体外表面6の側部を覆うと共に所定の間隔の空洞からなるジャケット7が形成され、このジャケット7の複数個所には、このジャケット7内に冷却又は加熱用の液体又は気体等からなる媒体を供給して排出する循環用の入口8及び出口9が設けられている。
【0018】
前記金属製缶体1の上部に形成されたノズル10には、このノズル10を貫通する状態でバッフル11が挿入され、このバッフル11は、金属製缶体1の内側部1aに設けられた少なくとも一対の接続管20により前記金属製缶体1内に内設されている。
【0019】
前記ジャケット7とバッフル11との間を接続する接続管20により、このジャケット7とバッフル11との間が連通され、ジャケット7内を循環する冷却又は加熱用の媒体は、図示しない媒体供給源によって入口8から出口9を介して循環し、この媒体も前記バッフル11を循環するように構成されている。尚、この入口8及び出口9は、水蒸気の場合に、入口8から入れて出口9からドレンとして排出するが、媒体が水蒸気以外の熱媒体あるいは冷却水、ブラインなどの液体により金属製缶体1を加熱あるいは冷却する場合は、点線の矢印で示されるように、符号15aで示されるアジテーティングノズル又は出口9が液体の入口となり、前記入口8が出口となる。
【0020】
前記ジャケット7には、エアー抜き12、脚13、ドレン口14、アジテーティングノズル15aが設けられ、前記金属製缶体1には、覗窓16、マンホール17、フラッシュバルブ18が設けられている。
【0021】
また、前記金属製缶体1に形成されているグラスライニング21は、金属製缶体1の内面1bを形成する鉄素地にコーティングする下釉層の厚さが0.15〜0.35mm位で薄く施工、焼き上げがなされ、その後、2〜3回繰り返して焼成し、前記下釉層にコーティングする上釉層が0.45〜0.85mmで、前記上釉層と下釉層を合わせた総厚さが0.6〜1.2mmで、従来の1.3〜2.4mmの総厚さに比較すると、この総厚さが極めて薄く形成されている。従って、下釉層の焼成繰り返しにより、この薄さでも、実際の焼成負荷に耐えられる。また、前記下釉層には、SiO,Al,AlN,C,SiCの少なくとも一種以上をフリット100W%に対して1〜90W%をミル添加することにより、耐火性と熱伝導性が向上する。尚、前述の上釉層及び下釉層の厚さは、一例を示したもので、前記総厚さが0.6〜1.2mmであれば、その値を前記数値より異なるものとすることもできる。
【0022】
また、前記金属製缶体1の缶体外表面6には、鉄金属より熱伝導度が大であるアルミニウム、銅、金、銀、亜鉛の何れをコーティングすることにより、熱伝導度を向上させ、熱交換効率を向上させることができる。
【0023】
また、前記缶体外表面6には、図示していないが、凹凸面の形成、スパイラル形状の帯体、ディンプル形状の金属チップの溶接により、前記缶体外表面6の表面積を増大させて熱交換効率を向上させることができる。
【0024】
また、前記バッフル11は、図1では1個のみしか示されていないが、前記内側部1aに沿って複数個設けることができ、その形状も、平板状、弧状板体等とすることができる。また、このバッフル11を金属製缶体1内に挿入する構成も、図1のノズル10に限らず、ノズル10の代わりに、図3の開口10Aを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明によるグラスライニング製反応缶を示す断面図である。
【図2】図1の要部の拡大断面図である。
【図3】図2の他の形態を示す断面図である。
【図4】従来のグラスライニング製反応缶を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 金属製缶体
1a 内側部
1b 内面
2 モータ
3 減速機架台
4 攪拌羽根
5 軸
6 缶体外表面
7 ジャケット
8 入口
9 出口
10 ノズル
11 バッフル
11a 感温部
12 エアー抜き
13 脚
14 ドレン口
15、15a アジテーティングノズル
16 覗窓
17 マンホール
18 フラッシュバルブ
20 接続管
21 グラスライニング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面(1b)にグラスライニング(21)が形成された金属製缶体(1)内に設けられモータ(2)駆動により回転する攪拌羽根(4)と、前記金属製缶体(1)の外周に設けられ前記金属製缶体(1)内の液体を加熱又は冷却させるための媒体を収容するジャケット(7)からなるグラスライニング製反応缶において、
前記グラスライニング(21)は、総厚さが0.6〜1.2mmであり、総括伝熱係数(U値:Kcal/m.hr.℃)を加熱時でジャケット(7)内の流体がスチームで、前記金属製缶体(1)内の流体が有機液体の時の前記U値370〜800(Kcal/m2.hr.℃)にしたことを特徴とするグラスライニング製反応缶。
【請求項2】
前記金属製缶体(1)の前記ジャケット(7)に対応する缶体外表面(6)には、鉄金属より熱伝導度が大であるアルミニウム、銅、金、銀、亜鉛の何れかをコーティングしたことを特徴とする請求項1記載のグラスライニング製反応缶。
【請求項3】
前記缶体外表面(6)には、凹凸面が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のグラスライニング製反応缶。
【請求項4】
前記缶体外表面(6)には、スパイラル形状の帯板又はディンプル形状の金属チップが溶接密着されていることを特徴とする請求項1又は2記載のグラスライニング製反応缶。
【請求項5】
前記金属製缶体(1)の内側部(1a)には、少なくとも一対の接続管(20)を介し前記流体に接する状態でバッフル(11)が設けられ、前記ジャケット(7)と前記バッフル(11)との間は前記各接続管(20)を介して連通し、前記ジャケット(7)内の前記媒体が前記バッフル(11)内を循環することを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載のグラスライニング製反応缶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−89008(P2010−89008A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261360(P2008−261360)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000209773)池袋琺瑯工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】