説明

グラビア印刷シリンダの加工方法および加工装置

本発明は、金属表面と、該金属表面に彫刻されたインクセルを備えるグラビア印刷シリンダ(4)の処理方法および処理装置(2)に関するものであり、インクセルの彫刻の際にバリまたは掘り起こしが発生する。インクセルが彫刻されたグラビア印刷シリンダ(4)が、バリまたは掘り起こしの除去のために電解液浴(14)に浸漬され、当該バリまたは掘り起こしが電解液浴(14)内で電気化学的に除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1と10の上位概念によるグラビア印刷シリンダの加工方法および加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直接彫刻によるグラビア印刷シリンダの公知の作製方法で、スチールから作製された版胴に、通例は基本銅層の形の金属コーティングおよびその上に被覆されたバラードメッキが設けられ、それから金属コーティングの表面研磨の後に、印刷の際に印刷インキの吸収に用いられるインクセルが彫刻機械によって金属コーティングに直接彫刻される。
【0003】
金属コーティングが銅からなる場合、インクセルの彫刻は、銅コーティングに進入し、切り屑を出すダイアモンド針によって電子機械的に行われるか、またはコーティング金属を蒸発または溶解させるレーザービームによってエネルギー的に行われる。電子機械的彫刻では、インクセルの縁部に沿って数ミクロンの大きさの小さく隆起するバリが形成され、レーザービーム彫刻では、インクセル周囲のコーティングの円筒状表面にいわゆる掘り起こしと呼ばれるものが形成される。この掘り起こしは、レーザービーム彫刻の際に溶解し、インクセルの周囲でコーティング表面上に堆積した金属からなる。隆起したバリも掘り起こしも、印刷の際に印刷画像を損ない、グラビア印刷シリンダの後加工の前に、例えば金属コーティングを電解クロムメッキする前に除去しなければならない。
【0004】
電子機械的彫刻の際に形成されたバリを除去するために、インクセルの彫刻直後に、例えばダイアモンドからなる表面仕上げ工具を金属コーティングの表面に沿って案内し、表面に対して押し付けることがすでに昔から公知であり、特許文献1に開示されている。しかしバリの一部が表面仕上げ工具によって除去されず、インクセルに入り込んで折れ曲がることが生じ得る。このことはインクセル容積、ひいては印刷画像を不所望に変化させる。
【0005】
さらに印刷シリンダをレーザー直接彫刻する場合に、掘り起こしを除去するために、彫刻された金属コーティングの表面を、腐食エッチングする液体、例えば銅の場合は硝酸によって濡らし、掘り起こしを化学的に溶かして除去することが公知である。しかしこの方法を使用する場合には、掘り起こしだけが除去されることを完全に保証することができない。不利な条件の下では、インクセル内およびインクセル外の周囲の表面もエッチング流体により腐食される。このことも同様に印刷画像を不所望に変化させる。
【0006】
類似の方法が、金属版胴の電子機械的作製の場合にも使用される。ここで発生するバリはすでに述べた特許文献1によれば、耐酸性の保護層が被覆された版胴プレートが、バリを溶解するのに十分な短い時間だけ彫刻後に化学的に後エッチングされることによって除去される。しかしこの方法は、表面に耐酸性の保護層が被覆された個所でしか実施できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第1159761号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の基礎とする課題は、冒頭に述べた形式の方法および装置において、印刷画像を不所望に変化させることなく、また保護層をグラビア印刷シリンダの表面に必要とせずに、バリまたは掘り起こしを確実に除去することができるように構成することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は方法に関しては本発明により、彫刻されたインクセルを備えるグラビア印刷シリンダを、バリまたは掘り起こしを除去するために電解液浴に浸漬し、バリまたは掘り起こしを電解液浴内で電気化学的に除去することによって解決される。
【0010】
電解液浴内でバリまたは掘り起こしを電気化学的に除去することは、公知の方法に対して、バリまたは掘り起こしのような微細粗部を有利に除去できるという利点を有する。なぜなら、この微細粗部の表面には比較的大きな電界線密度が発生し、したがって電流密度が比較的大きく、バリまたは掘り起こしが迅速に除去されるからである。一方、周囲の滑らかな表面では電界線密度と電流密度が非常に小さく、したがって非常にわずかな電気化学的除去しか行われない。
【0011】
本発明の好ましい構成では、グラビア印刷シリンダと、このグラビア印刷シリンダの周面から間隔をおいて電解液浴内に配置された対向電極に、直流、パルス状の直流、または整流された交流が印加される。このとき印刷シリンダはアノードとして、対向電極はカソードとして接続され、これにより正に荷電された金属イオンの流れがグラビア印刷シリンダから対向電極へ形成され、金属コーティングの微細粗部で金属が電気化学的に除去される。
【0012】
グラビア印刷シリンダは好ましくは部分的に、有利にはほぼ半分まで電解液浴に浸漬される。このときグラビア印刷シリンダは、バリまたは掘り起こしを電気化学的に除去する間、好ましくは回転される。まず第1に印刷シリンダの回転により、全周面に沿ってバリまたは掘り起こしが均等に除去される。このときに、全周面を電解液浴を通して連続的に運動させ、回転中に周面のすべての部分が電解液浴内でほぼ同じ時間的長さで対向電極の前を通過するようにする。または対向電極に対向する領域に同じ時間だけ滞在するようにする。第2にバリまたは掘り起こしの均等な除去は、電解液浴へ浸漬されたグラビア印刷シリンダの周面部分に沿って、対向電極がこれから一定の間隔を有していない個所でも保証される。第3に回転により好ましくは、グラビア印刷シリンダの電解液浴に浸漬されないそれぞれの周面部分が、連続的かつ切れ目なしに濡らされることが保証される。これによりとりわけ銅被覆を有するグラビア印刷シリンダでは、この周面部分に沿って銅が空気酸素により不所望に酸化されることが阻止される。浸漬されないグラビア印刷シリンダの部分がこのように連続的かつ切れ目なしで濡れることは、電解液の組成および/またはレオロジー特性を、電解液浴から突き出るグラビア印刷シリンダの周面部分に閉じた膜が形成されるように、または連続的な発泡層が形成されるように調整することによって達成される。
【0013】
しかし択一的に、とりわけグラビア印刷シリンダが小さい場合、シリンダを電解液浴に完全に浸漬することもできる。この場合も除去の間、とりわけ対向電極がグラビア印刷シリンダをその全周囲にわたって包囲していない場合にはグラビア印刷シリンダを回転するのが有利である。
【0014】
グラビア印刷シリンダの回転は、好ましくは印刷シリンダの半径または直径に依存して、一方ではバリまたは掘り起こしに所望の電流密度が達成されるように、他方ではグラビア印刷シリンダが電解液浴に部分的に浸漬されている場合には閉じた膜または連続的な発泡層がグラビア印刷シリンダの表面で破壊されないように調整する。回転速度は電気化学的除去の結果にも影響する。ここで回転速度は、電解液の組成に応じて変化することができる。
【0015】
グラビア印刷シリンダが電解液浴内で回転する際に、バリまたは掘り起こしに、グラビア印刷シリンダの周方向で彫刻されたインクセルとは反対の側で均等に電解液が流れるようにするため、本発明のさらなる好ましい構成では、グラビア印刷シリンダを交互に反対方向に回転させる。これは例えば3分から4分の間、時計方向に、そして3分から4分の間、反時計方向に回転することにより行われる。回転方向の交番は、電流の痕跡がグラビア印刷シリンダの周面に形成されるのを回避するためにも有利である。
【0016】
装置に関して本発明の課題は、バリまたは掘り起こしを電解液浴内で電気化学的に除去するための装置によって解決される。
【0017】
本発明の好ましい構成によれば、この装置は直流電源または整流回路を備える電流回路を有する。この電流回路は、バリまたは掘り起こしを電気化学的に除去するために、電解液浴に浸漬されアノードとして接続されたグラビア印刷シリンダと、およびこのグラビア印刷シリンダから間隔をおいて電解液浴内に配置されたカソードと持続的または間欠的に接続される。
【0018】
バリまたは掘り起こしを、グラビア印刷シリンダの全周面に沿って均等に除去するために、このグラビア印刷シリンダは電解液浴内で回転可能であり、これによりグラビア印刷シリンダの周面は対向電極の前方で均等に運動することができる。グラビア印刷シリンダを回転させるために好ましくは、回転方向が反転可能な回転駆動部を用い、この回転駆動部は有利には交互に反対方向に回転する。ここで最大回転角は有利には、印刷シリンダを電解液浴内で保持する位置固定された支持体から、回転する印刷シリンダへ電流を伝達するのにスリップリングが必要ないように選択される。
【0019】
支持体は好ましくは2つの保持部を有し、これらの保持部は印刷シリンダの反対方向の面端部に配置されており、印刷シリンダは突き出た2つのシャフト台により回転可能に保持部内に支承または張架されている。有利には少なくとも1つの保持部は回転駆動部を有し、この回転駆動部により、保持装置によって保持された印刷シリンダが回転される。保持部および回転駆動部の損傷を回避するために、グラビア印刷シリンダは好ましくは、保持部が回転駆動部とともに電解液浴の液面の上側に存在するようにし、電解液浴には浸漬されない。さらに保持部は好ましくは保護ケースにより包囲されている。
【0020】
電解液浴に浸漬されたグラビア印刷シリンダの回転数は有利には、この回転数が浸漬深度および/またはグラビア印刷シリンダの半径または直径、対向電極の形状および寸法、またはグラビア印刷シリンダの周面と位置固定された対向電極との間隔に依存して、または電解液の組成に依存して変化できるように調整される。これによりグラビア印刷シリンダの正に荷電された金属イオンから対向電極への所望の電流密度ならびに所望の電流作用時間が調整される。なぜならこれら2つのパラメータは研磨結果に影響するからである。択一的に所望の電流密度を、調整可能な整流回路によって、またはグラビア印刷シリンダと対向電極との間に印加される電圧を変化することによって調整することができる。
【0021】
バリまたは掘り起こしの大きさは、好ましくはプロセスパラメータ、例えば電流密度および/またはグラビア印刷シリンダの電解液浴内の滞在時間または電流の作用時間、電解液の濃度、温度およびコンダクタンスの変化により調整することができる。電解液の組成に応じて、グラビア印刷シリンダの表面における電流密度は有利には4から8A/dm、または8から15A/dmの間とすることができ、電解液浴中の滞在時間は有利には8分から9分以上、15分から30分の間である。
【0022】
電解液が、比較的大きな電流密度の結果として過度に加熱されるのを回避するため、装置は有利には、電解液浴の温度を監視する機構と、電解液を循環させる機構を有する。これらの機構は、新鮮な電解液がグラビア印刷シリンダの周面に均等に供給されるようにする。
【0023】
バリまたは掘り起こしの電気化学的除去の際には、有害ガスまたは環境汚染ガスが発生し得るから、有利には、グラビア印刷シリンダの装てん後に閉鎖することのできるカバーを電解液浴に設け、ガスが妨げられずに漏出するのを回避する。さらに装置には好ましくは吸引装置を設けることができ、これによりガスを吸引し、熱後処理装置で高温の下で酸素により燃焼または酸化させることができ、またはガスをガス洗浄機でクリーニングすることができる。
【0024】
バリまたは掘り起こしが所望のように除去された後、好ましくは電解液を電解液浴から排出または汲み出すことにより、グラビア印刷シリンダは電解液浴から取り除かれる。続いて、前もって電気化学的に処理した金属コーティングの表面を、有利には脱イオン水または蒸留水からなるクリーニング流体により洗浄することにより、または湿したウエスにより拭き取ることにより周面に付着した残留電解液を除去することによってクリーニングする。
【0025】
金属コーティングが銅からなる場合、電解液は有利にはリン酸とアルコールの混合液を含み、これには別の添加物、例えば界面活性剤および/または硫酸を添加することができる。
【0026】
電気化学的除去の場合、すべてのバリが完全には除去されないから、クリーニングしたグラビア印刷シリンダを機械的に研磨または表面加工する。
【0027】
彫刻されるコーティングが銅からなる場合、続いてこのコーティングを導電的にクロム層により被覆し、グラビア印刷シリンダの寿命を延長するようにする。しかし択一的に金属コーティングが、レーザー直接彫刻によりインクセルが彫刻される外部クロム層を有することもできる。この場合も、グラビア印刷シリンダは掘り起こしの電気化学的除去の後、クリーニングに続いてオプションとして機械的に研磨または表面加工することができる。しかしさらなる導電的被覆は不要である。
【0028】
以下、本発明の図面に示した実施形態に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】グラビア印刷シリンダの、彫刻されたバラードメッキ、または他の彫刻された金属コーティングの表面のバリまたは掘り起こしを除去するための本発明の装置を、グラビア印刷シリンダが本装置の電解液浴に浸漬される前の様子で概略的に示す図である。
【図2】グラビア印刷シリンダが電解液浴に浸漬された後の、図1に対応する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図面に示されたグラビア印刷シリンダ4を電気化学的に処理するための装置2は、グラビア印刷シリンダ4上のバラードメッキのような金属コーティングの表面を電気化学的に滑らかにするために使用される。ここではとりわけ、先行してインクセルを電気化学的に彫刻またはレーザー直接彫刻する際に、インクセルの縁部に沿ってコーティングの表面に発生し、表面を越えて突き出たバリ、掘り起こし、または他の粗部が除去される。
【0031】
この装置2は実質的に、上側パン6と、上側パン6の下方に配置され、流体電解液10を収容するための下側パン8と、上側パン6および下側パン8に連通し、電解液10を下側パン8から上側パン6に形成された電解液浴14に搬送するための搬送ポンプ12と、電解液10を上側パン6から排出するために用いる、上側パン6にある高さ調整可能な排水口16と、電流回路20とからなり、前記電解液浴14には処理すべきグラビア印刷シリンダ4を浸漬することができ、前記電流回路20は、トランス24を介して交流電圧源22と接続された制御可能なブリッジ整流回路26を、交流を直流に変換するために有する。整流回路26の出力端にはプラス極28とマイナス極30があり、これらのうち一方は電気化学的処理の持続中に、アノードとして接続されたグラビア印刷シリンダ4に、他方はカソードとして接続され電解液浴14内に配置された対向電極32と接続される。
【0032】
装置2の動作中にグラビア印刷シリンダ4から除去された金属の一部が、カソードとして接続された対向電極32に堆積するから、必要な場合には対向電極32を材料除去によりクリーニングするために、電流回路20の極性を反転することができる。
【0033】
例えばバラードメッキの場合のように金属コーティングが銅からなる場合、電解液10は実質的にリン酸と水の混合液からなるが、この混合液に種々の添加剤、例えばアルコール、硝酸および/または界面活性剤を添加することができる。
【0034】
グラビア印刷シリンダ4を保持するための支持装置18は、上側パン6に沿って可動の2つの支承ブロック34を有する(一方のみが図示されている)。この支承ブロックは駆動スピンドル36,38によって、グラビア印刷シリンダ4の長手軸に平行に互いに運動することができ、それぞれが水平支持アーム42に取り付けられた保持部40を、グラビア印刷シリンダ4の隣接する面端部を越えて突き出たシャフト台(図示せず)を収容するために有する。保持部40には張架装置(図示せず)が設けられており、この張架装置ではそれぞれのシャフト台が、グラビア印刷シリンダ4がその長手軸を中心に回転できるよう張架されている。とりわけ2つの保持部40の少なくとも一方には回転駆動部(図示せず)が設けられており、グラビア印刷シリンダ4が長手軸を中心に回転することができ、前もって彫刻された金属コーティングを周方向に、対向電極32の前方で通過させることができる。
【0035】
張架装置は、グラビア印刷シリンダ4のシャフト台が、張架の後、張架装置と電気接触するように構成されており、張架装置はさらに保持部40にある導体44を介して整流回路26のプラス極28と電気接続されている。位置固定された導体44と回転可能な張架装置とを電気接触させるために、スリップリングを使用することができる。これはとりわけグラビア印刷シリンダ4を、回転方向を変化させないで回転駆動すべき場合である。しかし有利には、回転方向が反転可能な回転駆動部を使用する。この回転駆動部によりグラビア印刷シリンダ4は時計方向と反時計方向に、その長手軸を中心に交互に回転され、回転角の大きさは、グラビア印刷シリンダ4の全周が弓状の対向電極32を通過するような大きさにする。この場合は、金属コーティングのそれぞれの周部分が対向電極32に対向している時間が、金属コーティングの全周にわたって同じであることが保証される。この場合、電気接触は、導体44と張架装置との間のフレキシブルなケーブル(図示せず)を介して行うこともできる。なぜならそれぞれ360°より小さい回転角であれば、これらが過度に捩れることがないからである。さらに回転反転には、同じ回転方向で回転した場合のように金属コーティングの表面に電流痕跡が発生しないという利点がある。
【0036】
グラビア印刷シリンダ4を完全に電解液浴14に浸漬することもできるが、しかし図2に示すように部分的にだけ電解液浴14に浸漬するのが有利である。有利には浸漬深度は、保持部40が張架装置および回転駆動部とともに、電解液浴14の液面46の上方に残るように選択され、そこでは保護ケース(図示せず)により飛沫から保護される。これによりこれらの構成部品が腐食性の電解液と接触すること、および構成部品と対向電極32との間に電流が流れることが回避される。
【0037】
対向電極32は、電解液10に対して耐腐食性の金属からなるタブ状に湾曲した薄板からなる。この薄板は浸漬されたグラビア印刷シリンダ4の周面に対して約120゜の円弧角にわたって対向しており、周面から実質的に一定の間隔を有する。これにより対向電極32に対向するグラビア印刷シリンダ4の周面部分では均等で同じ電流密度が得られる。対向電極32は導体47によって整流回路26のマイナス極30と接続されている。対向電極32を浸漬されたグラビア印刷シリンダ4の周面に接近させるために、または対向電極32の乾燥を回避するために、グラビア印刷シリンダ4の処理の終了後、電解液10を上側パン6から部分的に下側パン8へ排出すれば、対向電極32を必要に応じて上側パン6を基準にして上昇または降下させることができる。これは図2に矢印Aにより示されている。
【0038】
バリまたは掘り起こしを、グラビア印刷シリンダ4の彫刻された金属コーティングの表面から電気化学的に除去するために、グラビア印刷シリンダ4はまずクレーン(図示せず)によって支持装置18の2つの支承ブロック34の間に引き上げられ、支承ブロック34が長手軸を中心に回転できるよう軸方向に互いに接近した後、保持部40の張架装置に張架される。
【0039】
続いて搬送ポンプ12によって電解液10が、下側パン8から上側パン6に、そこの液面46が図2に示すような高さに達し、グラビア印刷シリンダ4が所望の浸漬深度まで電解液浴14に浸漬されるまでポンピングされる。次に電流回路20が閉じられ、これに基づいてパルス状の直流電流が電流回路20を通って流れる。この電流は、正に荷電された金属イオンをグラビア印刷シリンダ4の金属コーティングの表面から解離させ、上側パン6にある電解液10に移行させ、電解液浴14を通って対向電極32に移動させる。
【0040】
電界線の密度および金属コーティングの表面での電流密度は変化するものであり、彫刻の際に形成されたバリまたは掘り起こしのような微細粗部の表面における電界線および電流の密度は、周囲の平坦な表面またはインクセル内よりも非常に大きいから、そこで好ましくは電気化学的除去が行われる。すなわち、金属が溶解性の金属イオンに移行し、この金属イオンが表面から運び去られる。これによってバリまたは掘り起こしが除去され、周囲の滑らから表面が電解液により顕著に侵襲されることはない。
【0041】
電解液浴14に部分的に浸漬されたグラビア印刷シリンダ4上のバリを電気化学的に除去するために、まずグラビア印刷シリンダ4を緩慢に回転させながら、対向電極32を短時間、例えば約2分間、活性化させるために、制御可能な整流回路において、電解液浴14に浸漬されたグラビア印刷シリンダ4の表面を基準にして約8A/dmの電流密度を調整する。引き続き2倍の時間にわたり、すなわち約4分間、電流密度が半分に、すなわち約4A/dmに低減される。これによりとりわけバリの高さを低減することができる。グラビア印刷シリンダ4の表面をインクセルの内外で滑らかにするため、電流密度が再び約2から3分の間、約8A/dmに高められる。バリまたは掘り起こしを平坦にするために必要なグラビア印刷シリンダ4の電解液浴14における全体滞在時間は、前準備時間を除いて約9分から11分である。この時間の間、グラビア印刷シリンダ4は均等な低い回転速度で回転され、表面全体が対向電極32の前を通過するように運動される。回転は時計方向と反時計方向とで上に説明したように交互に行われる。すなわちグラビア印刷シリンダ4は、例えば2分から4分の長さで時計方向に回転され、次に2分から4分の長さで反時計方向に回転される。ここで回転数はグラビア印刷シリンダ4の半径または直径に適合される。しかし一般的にはグラビア印刷シリンダ4は、各回転方向で最大360°しか回転しない。
【0042】
グラビア印刷シリンダ4の回転により、それまで電解液浴14に浸漬されていなかったグラビア印刷シリンダ4の周面部分が電解液により濡らされる。ここで電解液の組成と粘度は、この周面部分に安定して閉じた電解フィルムが形成されるように調整される。この電解フィルムは閉じていて破れず、したがって電気化学的に除去される表面が空気酸素と接触し、それにより表面が酸化するのを阻止する。電解液浴14に浸漬するグラビア印刷シリンダ4の周面部分上では、交互に回転するため、バリに反対方向からも電解液が流れる。これによりバリが両方の側から均等に除去される。さらに、回転方向が同じである場合に発生し得る電流痕跡が阻止される。
【0043】
バリまたは掘り起こしの除去の間に、電解液浴14の温度を監視し、過熱を阻止する。電解液を冷却するために、下側パン8には冷却ホース(図示せず)が設けられている。さらに電解液10を下側パン8と上側パン6の間、または上側パン6内で循環させることができる。このとき上側パン6内での通流比は、グラビア印刷シリンダ4に新鮮な電解液10が流れるように選択される。
【0044】
グラビア印刷シリンダ4を電気化学的に処理する際には有害ガスまたは環境汚染ガスが発生し得るから、ガスが環境または雰囲気に漏出するのを回避すべきである。そのために上側パン6には保持装置18の上方でカバー48が設けられている。このカバー48はグラビア印刷シリンダ4の長手軸に対して横方向に移動可能であり、グラビア印刷シリンダ4が電解液浴14内に装てんされた後、図2に示すように閉鎖することができる。
【0045】
さらに上側パン6には、電解液10の最高液面の上方に吸込み開口部50が設けられている。この吸込み開口部50は吸込みチャネル52を通して負圧ポンプまたはブロワ54、および後置された熱的な再燃焼装置(図示せず)と連通している。これによって液面46の上方では弱い負圧が上側パン6内で維持され、有毒ガスまたは環境汚染ガスが隙間または他の非密閉個所から漏出するのが回避される。
【0046】
グラビア印刷シリンダ4の処理後、電解液10は、上側パン6の底部にある弁50を通って下側パン8に完全に排出される。続いてグラビア印刷シリンダ4は上側パン6内で蒸留水または脱イオン水により洗浄され、付着している残余電解液を金属コーティングの表面から除去する。
【0047】
バラードメッキの場合のように金属コーティングが銅からなる場合、金属コーティングは引き続き、場合により前もって銅コーティングの表面を機械的に研磨した後、クロム層により導電被覆される。これに対して金属コーティングが基本銅層と、この基本銅層に被覆されたクロム層からなり、クロム層にインクセルがレーザー彫刻によって直接彫刻されている場合、グラビア印刷シリンダ4は、クロム層の表面から掘り起こしを電気化学的に除去し、これを洗浄すれば、さらなる作業工程なしで印刷に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面と、該金属表面に彫刻されたインクセルを備えるグラビア印刷シリンダの処理方法であって、該グラビア印刷シリンダにはインクセルの彫刻の際にバリまたは掘り起こしが発生する方法において、
彫刻されたインクセルを備えるグラビア印刷シリンダ(4)が、バリまたは掘り起こしの除去のために電解液浴(14)に浸漬され、当該バリまたは掘り起こしが電解液浴(14)内で電気化学的に除去されることを特徴とする方法。
【請求項2】
グラビア印刷シリンダ(4)は、バリまたは掘り起こしの電気化学的除去の間、その長手軸を中心に回転されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グラビア印刷シリンダ(4)は、反対の回転方向で交互に回転されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
グラビア印刷シリンダ(4)は、部分的にだけ電解液浴(14)に浸漬されることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
グラビア印刷シリンダ(4)の、電解液浴から突き出た部分は、グラビア印刷シリンダ(4)の回転の際に、安定して閉じた電解フィルムまたは電解泡により被覆されることを特徴とする請求項2または4に記載の方法。
【請求項6】
グラビア印刷シリンダ(4)および該グラビア印刷シリンダ(4)から距離を置いて電解液浴(14)内に配置された対向電極(32)には、直流電圧、パルス状直流電圧、または整流された交流電圧が印加され、
グラビア印刷シリンダ(4)はアノードとして、対向電極(32)はカソードとして接続されることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
グラビア印刷シリンダ(4)をアノードとして、対向電極(32)をカソードとして備える電流回路(20)では、バリまたは掘り起こしの電気化学的除去の間、電流密度が増大され、再び低減されることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
インクセルが彫刻されたグラビア印刷シリンダ(4)の金属表面は銅からなり、バリまたは掘り起こしの電気化学的除去の後、クロムにより電解被覆されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
インクセルが彫刻されたグラビア印刷シリンダ(4)の金属表面はクロムからなる
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
金属表面と、該金属表面に彫刻されたインクセルを備えるグラビア印刷シリンダの処理装置であって、インクセルの彫刻の際にバリまたは掘り起こしが発生する装置において、
バリまたは掘り起こしを電解液浴(14)内で電気化学的に除去する機構(6,8,18,20,32)を特徴とする装置。
【請求項11】
グラビア印刷シリンダ(4)を電解液浴(14)内で回転する機構が設けられていることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
グラビア印刷シリンダ(4)を回転する機構は、グラビア印刷シリンダ(4)の回転方向を反転する手段を有することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
グラビア印刷シリンダ(4)を回転する機構は、グラビア印刷シリンダ(4)の回転数を調整する手段を有することを特徴とする請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
グラビア印刷シリンダ(4)を収容するための支持装置(18)が設けられており、
該支持装置は、バリまたは掘り起こしの電気化学的除去の際に、電解液浴(14)の液面の上方に配置された保持部(40)を有し、
該保持部は、グラビア印刷シリンダ(4)の、反対方向にある2つのシャフト台を収容することを特徴とする請求項10から13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
バリまたは掘り起こしを電気化学的の除去する機構(6,8,18,20,32)は、直流電圧源または整流回路(26)を備える電流回路(20)を有し、
該電流回路は、バリまたは掘り起こしを電気化学的に除去するために、電解液浴(14)に浸漬され、アノードとして接続されたグラビア印刷シリンダ(4)および該グラビア印刷シリンダ(4)から間隔をおいて電解液浴(14)内に配置され、カソードとして接続された対向電極(32)と持続的または間欠的に接続されることを特徴とする請求項10から14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
対向電極(32)は湾曲した表面を有し、
該表面は、グラビア印刷シリンダ(4)の周囲の一部分に実質的に同じ間隔で延在していることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
対向電極(32)は、60°より大きな角度でグラビア印刷シリンダ(4)の周囲に延在していることを特徴とする請求項15または16に記載の装置。
【請求項18】
グラビア印刷シリンダ(4)と対向電極(32)との間隔は調整可能であることを特徴とする請求項15から17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
電気化学的除去の間に電流回路(20)に流れる電流の電流密度を調整する手段(26)が設けられていることを特徴とする請求項15から18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
バリまたは掘り起こしの除去の際に発生するガスを吸引する機構が設けられていることを特徴とする請求項10から19のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−517629(P2011−517629A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500114(P2011−500114)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/001995
【国際公開番号】WO2009/115308
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(502453159)ヘル グラビア システムズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (7)
【氏名又は名称原語表記】HELL Gravure Systems GmbH&Co.KG
【住所又は居所原語表記】Philipp−Reis−Weg 5, D−24148 Kiel,Germany
【Fターム(参考)】