説明

グラビア版胴、並びに、これを用いたエッチングレジストの印刷方法及びプリント配線基板の製造方法

【課題】 本発明は、本発明は、凹凸の少ない端縁を有する回路線からなる配線パターンをエッチングにより形成することができるエッチングレジストを基材シートに印刷することができるグラビア版胴を提供する。
【解決手段】 本発明のグラビア版胴1は、金属箔S1上にエッチングレジストを形成するためのグラビア版胴であって、上記グラビア版胴1の表面には、エッチング配線パターンP1を印刷するためのセルを有する配線パターン印刷部11が形成されていると共に、上記配線パターン印刷部11以外の上記グラビア版胴1の表面には、エッチングによって消失する消失図柄部P2を印刷するためのセルを有する消失図柄印刷部12が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア版胴、並びに、これを用いたエッチングレジストの印刷方法及びプリント配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野の発展は目覚しく、電子機器の小型化、軽量化、高密度化が進み、これらの性能に対する要求が益々高度なものとなっている。このような要求に対してフレキシブル配線基板は可撓性を有しており、繰り返しの屈曲にも耐え得るため、電子機器の狭い空間内に様々な形態での実装が可能であり、電子機器の配線材、ケーブル、コネクター機能を付与した複合部品としての用途が拡大してきた。
【0003】
又、ICカード分野の発展も目覚しく、小型化、薄型化、低コスト化が進み、フレキシブル配線基板の用途が拡大しつつある。特に、無線を用いた非接触ID(RFID)システムは、入退室管理、物品管理、蔵書管理、アパレル管理、高速道路料金管理、回転寿司管理などの再利用型ラベル、DM(ダイレクトメール)管理、消耗品管理、宅配便管理、航空手荷物管理などの使い捨てラベルでの実用化が期待されている。
【0004】
従来、RFID用アンテナコイルは、フォトリソ法によるエッチングコイル及び巻線コイルが使用されてきた。フォトリソエッチングコイルは、十数ミクロン単位の回路線幅(Line)と回路線間(Space)が可能であり小型化に有利である。
【0005】
しかしながら、フォトリソエッチングコイルは、複雑な工程を必要とするためコスト高になるといった問題点を有している。又、巻線コイルは、試作レベルで様々な回路形状の作成が可能であり多品種少量に有利であるものの、回路線幅(Line)と回路線間(Space)が数ミリ単位のうえ自動化が困難であるためコスト高になるといった問題点を有している。
【0006】
そこで、特許文献1に示されているように、グラビア印刷法によるエッチングコイルを採用すると連続輪転方式のRoll to Rollでの製造が可能となり低コスト化を図ることができる。グラビア印刷法は、数百ミクロン単位の回路線幅(Line)と回路線間(Space)が可能であり、ICチップの小型化やアンテナコイルの小型化に伴った高密度な回路パターンの形成にも期待が持たれている。
【0007】
回路線間が狭い場合、エッチングにより形成される回路線の端縁に凹凸が生じていると、互いに隣接する回路線同士が接触して短絡を生じる虞があるので、回路線の端縁に凹凸ができるだけ生じないようにする必要がある。
【0008】
グラビア印刷法は、グラビア版胴のセル内にレジストインキを供給し、グラビア版胴のセル内の余分なレジストインキをドクターブレードで掻き取った後、基材シートにレジストインキを転写させる方法であり、基材シート上に配線パターンに対応したエッチングレジストを印刷することができる。
【0009】
そして、グラビア印刷法を用いて回路線を形成する場合、回路線の端縁に凹凸が形成されないようにするには、ドクターブレード、グラビア版胴、レジストインキなどを改良することが考えられる。
【0010】
一方、エッチングレジストの端縁に凹凸が形成されるのを防止することができたとしても、エッチングレジストが形成された基材シートのエッチング工程において、基材シートの不要部分の除去が精度良く行われず、形成される回路線の端縁の凹凸が増大し、或いは、基材シートの不要部分の除去に時間が掛かり過ぎ、その結果、基材シートにおける残存させるべき部分も除去されてしまうエッチング過多(オーバーエッチング)の発生によって期待通りの配線パターンが形成されないといった別の問題点も存在している。
【0011】
エッチング液、エッチング時間、エッチング温度などのエッチング条件を最適化することによって、得られる配線パターンの正確性や回路線の端縁の凹凸を抑制することが可能であるが、基材シートやレジストインキが異なると、エッチング条件の最適化も必要となり、このエッチング条件の最適化は高度な技術を要し、エッチング条件によらない解決方法が所望されている。
【0012】
【特許文献1】特開2000−192260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、凹凸の少ない端縁を有する回路線からなる配線パターンをエッチングにより形成することができるエッチングレジストを基材シートに印刷することができるグラビア版胴、並びに、上記グラビア版胴を用いたエッチングレジストの印刷方法及びプリント配線基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のグラビア版胴は、金属箔上にエッチングレジストを形成するためのグラビア版胴であって、上記グラビア版胴の表面には、エッチング配線パターンを印刷するためのセルを有する配線パターン印刷部が形成されていると共に、上記配線パターン印刷部以外の上記グラビア版胴の表面には、エッチングによって消失する消失図柄部を印刷するためのセルを有する消失図柄印刷部が形成されていることを特徴とする。
【0015】
又、上記グラビア版胴において、消失図柄印刷部によって印刷される消失図柄部が円形状であることを特徴とする。
【0016】
更に、上記グラビア版胴において、消失図柄印刷部は、消失図柄部が碁盤目状に印刷されるように構成されていることを特徴とする。
【0017】
そして、本発明のエッチングレジストの印刷方法は、金属箔とこの金属箔の裏面に形成された合成樹脂層とを含む基材シートにおける上記金属箔上にエッチングレジストを形成した後にエッチングによって上記金属箔の不要部分を除去してプリント配線基板を形成するための上記エッチングレジストを形成する印刷方法であって、エッチング配線パターンを印刷するためのセルを有する配線パターン印刷部と、上記配線パターン印刷部以外に形成され且つエッチングによって消失する消失図柄部を印刷するためのセルを有する消失図柄印刷部とが形成されているグラビア版胴の配線パターン印刷部及び消失図柄印刷部のセル内にエッチングレジストを形成するレジストインキを供給した後、上記グラビア版胴とこのグラビア版胴に接触して回転するバックアップロールとの間に、金属箔とこの金属箔の裏面に形成された合成樹脂層とを含む基材シートを供給して、この基材シートの金属箔表面に上記エッチング配線パターン及び上記消失図柄部を印刷することを特徴とする。
【0018】
又、本発明のプリント配線基板の製造方法は、エッチング配線パターンを印刷するためのセルを有する配線パターン印刷部と、上記配線パターン印刷部以外に形成され且つエッチングによって消失する消失図柄部を印刷するためのセルを有する消失図柄印刷部とが表面に形成されているグラビア版胴の上記配線パターン印刷部及び上記消失図柄印刷部のセル内に、エッチングレジストを形成するレジストインキを供給した後、上記グラビア版胴とこのグラビア版胴に接触して回転するバックアップロールとの間に、金属箔とこの金属箔の裏面に形成された合成樹脂層とを含む基材シートを供給して、この基材シートの金属箔表面に上記エッチング配線パターン及び上記消失図柄部を印刷してエッチング用基板を製造し、このエッチング用基板をエッチングすることによって、上記消失図柄部が印刷された金属箔部分を含めた上記金属箔の不要部分を除去し、上記エッチング配線パターンに対応する金属箔部分からなる配線パターンを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のグラビア版胴は、上述の如き構成を有しており、金属箔上にエッチングレジストをグラビア印刷するにあたって、金属箔上に、エッチング配線パターンと消失図柄部とを印刷することができる。
【0020】
一方、金属箔をエッチングして金属箔の不要部分を除去するにあたって、金属箔の表面に印刷、形成されたエッチングレジストの端縁に対応する金属箔部分から除去され易い。
【0021】
そこで、本発明のグラビア版胴は、金属箔上に、エッチングレジストとして配線パターンに対応したエッチング配線パターンを印刷すると共に、エッチングによって最終的に除去される金属箔部分にも、エッチングの途中に消失する形状の消失図柄部を印刷し、最終的に除去される金属箔部分にエッチングが行われ易い部分を形成し、除去対象となっている金属箔部分がエッチングによって容易に除去されるようにすることができる。
【0022】
従って、本発明のグラビア版胴を用いてエッチングレジストを印刷することによって、金属箔上に形成されたエッチング配線パターンに対応する金属箔部分がエッチングによって過度に除去されないようにしながら、金属箔の不要部分の除去をエッチングによって短時間で除去することができ、その結果、エッチング配線パターンに対応する金属箔部分をその端縁に凹凸ができるだけ生じないように残すことができ、鮮明な端縁を有する回路線からなる緻密な配線パターンを有するプリント配線基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】グラビア印刷装置を示した模式側面図である。
【図2】本発明のグラビア版胴を示した模式平面図である。
【図3】配線パターン印刷部及び消失図柄印刷部を構成しているセルの平面図である。
【図4】配線パターン印刷部及び消失図柄印刷部を構成しているセルの断面図である。
【図5】エッチングファクターを説明するための模式図である。
【図6】エッチングファクターから得られる一次関数を示したグラフである。
【図7】プリント配線基板を製造する要領を示した模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のグラビア版胴の一例を図面を参照しつつ説明する。図1及び図2に示したように、グラビア版胴1は、一定長さを有する円柱状に形成されており、その表面には、配線パターン印刷部11及び消失図柄印刷部12が形成されている。
【0025】
図2〜4及び後述する図7に示したように、基材シートSの金属箔S1に転写塗工するレジストインキを溜めるためのセル11a、11a・・・がグラビア版胴1の表面を凹ませることによって無数に形成されており、これらセル11a、11a・・・によって配線パターン印刷部11が形成されている。配線パターン印刷部11、11・・・は、グラビア版胴1の回転軸の軸芯方向及び回転方向のそれぞれに所定間隔毎に形成されている。そして、配線パターン印刷部11のセル11a、11a・・・内に保持したレジストインキを基材シートSの金属箔S1上に転写塗工することによって、基材シートSの金属箔S1上にエッチングレジストとしてエッチング配線パターンP1をグラビア印刷することができるように構成されている。
【0026】
更に、図2〜4及び後述する図7に示したように、グラビア版胴1の表面において、配線パターン印刷部11が形成された部分を除いた残余部分、好ましくは、残余部分の全面には、基材シートSの金属箔S1に転写塗工するレジストインキを溜めるためのセル12a、12a・・・がグラビア版胴1の表面を凹ませることによって無数に形成されており、これらセル12a、12a・・・によって消失図柄印刷部12が形成されている。そして、消失図柄印刷部12のセル12a、12a・・・内に保持したレジストインキを基材シートSの金属箔S1上に転写塗工することによって、基材シートSの金属箔S1上に消失図柄部P2を無数にグラビア印刷することができるように構成されている。
【0027】
この消失図柄印刷部12のセル12a、12a・・・の形状としては、基材シートSの金属箔S1上に印刷された消失図柄部P2が、後述するエッチング処理において消失し得る形状となれば、特に限定されない。消失図柄部P2の形状としては、例えば、真円形、楕円形などの円形状、三角形、四角形、五角形などの多角形状、十字状、格子状などが挙げられ、多角形状、円形状が好ましく、円形状がより好ましい。
【0028】
又、消失図柄印刷部12のセル12a、12a・・・の形成パターンとしては、基材シートSの金属箔S1上に印刷された消失図柄部P2によって、エッチング配線パターンP1が印刷された金属箔S1部分以外の不要部分がエッチングによって円滑に除去されるように、消失図柄部P2を基材シートSの金属箔S1上に印刷することができればよい。消失図柄部P2の印刷パターンとしては、特に限定されないが、碁盤目状、即ち、グラビア版胴の回転軸の軸芯方向及び回転方向のそれぞれに所定間隔毎に、好ましくは一定間隔毎に消失図柄部P2を印刷する印刷パターンが好ましい。
【0029】
ここで、消失図柄部P2の形状及び形成パターンを決定する目安としてはエッチングファクターEFが挙げられる。このエッチングファクターEFとは、金属箔の厚み方向へのエッチングの進行量に対する金属箔の面方向へのエッチングの進行量の比率をいい、下記式1によって定義される。図6に示したように、下記で定義されるtを横軸とし、下記で定義される(b−a)/2を縦軸としたグラフは、(1/EF)を傾きとする一次関数となる。
エッチングファクターEF=2t/(b−a)・・・式1
【0030】
なお、図5に示したように、tは、金属箔の厚み(μm)を意味する。aは、エッチングによって形成された貫通孔におけるエッチング進行端側の開口幅(μm)を意味する。bは、エッチングによって形成された貫通孔におけるエッチング開始端側の開口幅(μm)を意味する。
【0031】
エッチングファクターEFは、金属箔の種類、エッチング液、エッチング温度などのエッチング条件が定まれば一定の値をとる。そして、図6に示したグラフにおいて、エッチング処理を施す金属箔の厚みt1に対応する直線上の縦軸の値〔(b1−a1)/2〕を求め、金属箔S1の面方向における消失図柄部P2の幅が〔(b1−a1)/2〕未満となるように調整すればよい。
【0032】
なお、上記グラビア版胴1は、鉄やアルミニウムなどの金属から形成されており、表面には銅メッキが施されている。そして、グラビア版胴1の銅メッキ面に、化学的な方法や機械的な方法を用いて、セル11a、12aを形成することができる。なお、グラビア版胴1の銅メッキ面にセル11a、12aを形成した後に銅メッキ面にクロームメッキなどが施される。
【0033】
化学的な方法によってセルを形成する方法としては、グラビア版胴1の銅メッキ面を鏡面状に研磨した上で銅メッキ面に感光剤をグラビア印刷の図柄のネガ型に塗布し、感光剤を硬化させた上で、感光剤によって被覆されていない銅メッキ面を腐食液によって腐食させ凹ませてセルを形成することができる。
【0034】
又、機械的な方法によってセルを形成する方法としては、例えば、グラビア版胴1の銅メッキ面を鏡面状に研磨した後、スタライスと呼ばれるダイヤモンドの針で銅メッキ面に彫刻を施して凹ませてセルを形成することができる。
【0035】
次に、上記グラビア版胴1を用いてグラビア印刷によりプリント配線基板を製造する要領を説明する。先ず、グラビア印刷方法で用いられるグラビア印刷装置Aについて説明する。図1中、1はグラビア版胴であり、このグラビア版胴1の下方にはレジストインキを溜めておく塗工液パン2が配設されている。なお、グラビア版胴1の側方には、グラビア版胴1の外周面に付着した余分なインキを除去するためのドクターブレード3が配設されている。
【0036】
更に、グラビア版胴1の上方にはバックアップロール4が配設されており、グラビア版胴1とバックアップロール4との対向面によって基材シートSが挟圧されるように構成されている。
【0037】
基材シートSとしては、プリント配線基板を製造するための原反シートが用いられる。基材シートSとしては、合成樹脂フィルムS2と金属箔S1とをポリウレタン系接着剤などの公知の接着剤S3層を介して積層一体化してなる積層シートが挙げられる。上記合成樹脂フィルムS2としては、耐熱性に優れたものを用いるのが好ましく、例えば、ポリエステルフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリカーボネートフィルム、芳香族ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂系フィルムなどが挙げられる。合成樹脂フィルムS2の厚さは、任意に決定しうるが、20〜200μmが好ましい。
【0038】
又、上記金属箔S1としては、アルミニウム箔、圧延銅箔、電解銅箔などが挙げられる。金属箔S1の厚さは5〜100μmが好ましい。
【0039】
更に、塗工液パン2内にレジストインキ21を供給する。このレジストインキ21としては、従来公知のものであれば、特に限定されず、合成樹脂を有機溶媒に溶解させてなるものが挙げられる。レジストインキ21を構成している合成樹脂としては、基材シートSの金属箔S1上にエッチング処理に耐え得る樹脂膜を形成することができればよく、例えば、アクリル系樹脂、アクリル−ウレタン系樹脂、エポキシメラミン樹脂、アクリル−エポキシ系樹脂、アクリル−酸変性エポキシ系樹脂、アクリル−ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂などが挙げられる。
【0040】
又、有機溶媒としては、合成樹脂を溶解させることができればよく、例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、シクロヘキサノン、1−ブタノール、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコールなどが挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0041】
グラビア版胴1は、その下部が塗工液パン2内のレジストインキ21中に浸かっており、グラビア版胴1を図1において反時計回りに回転させると共に、グラビア版胴1における配線パターン印刷部11及び消失図柄印刷部12のセル11a、12a内に供給された余分なレジストインキ21をドクターブレード3によって除去する。
【0042】
しかる後、グラビア版胴1とバックアップロール4との対向面間に長尺状の基材シートSを連続的に供給し、基材シートSをグラビア版胴1とバックアップロール4とで両側から押圧することによって、基材シートSの金属箔S1上に、グラビア版胴1における配線パターン印刷部11及び消失図柄印刷部12のセル11a、12a内に保持されたレジストインキ21を転移、塗工させ、レジストインキ21を乾燥させて樹脂膜を形成し、基材シートSの金属箔S1上にエッチング配線パターンP1及び消失図柄部P2を形成してエッチング用基板Eを製造する。
【0043】
エッチング用基板Eの金属箔S1上には、図7(a)に示したように、グラビア版胴1の配線パターン印刷部11によって所定箇所にエッチング配線パターンP1が形成されていると共に、金属箔S1上におけるエッチング配線パターンP1が形成されている部分を除いた残余部分の全体には、消失図柄印刷部12によって消失図柄部P2が形成されている。
【0044】
次に、エッチング用基板Eの金属箔S1にエッチング液を用いてエッチングの処理を施して金属箔S1の不要部分を溶解、除去する。エッチング用基板Eにエッチングの処理を施すと、エッチング配線パターンP1の外周縁に対応する金属箔部分S11と、消失図柄部P2の外周縁に対応する金属箔部分S12とを起点として金属箔S1が消失し易いことを見出した。
【0045】
なお、エッチング液としては、従来公知のものが用いられ、例えば、塩酸、硝酸、塩化鉄(III)などが挙げられる。
【0046】
詳細には、エッチング用基板Eにエッチングの処理を施すにつれて、図7(a)〜(e)に示したように、エッチング配線パターンP1の外周縁に対応する金属箔部分S11と、消失図柄部P2の外周縁に対応する金属箔部分S12とにおいて、金属箔S1のエッチングによる消失速度が大きいと共に、金属箔部分S11、S12の近傍部においても、金属箔部分S11、S12における金属箔S1の消失速度よりは小さいものの、エッチングによる金属箔S1の消失速度は大きくなっており、エッチング用基板E全体のエッチング処理に要する時間が短縮化される。
【0047】
つまり、本発明では、エッチング用基板Eにおいて、最終的に除去される金属箔S1部分に上述のように消失図柄部P2を形成してエッチング処理時に金属箔S1の消失し易い起点を複数、設けることによって、最終的に除去される金属箔S1部分がエッチングによって消失するのを促進している。
【0048】
そして、エッチング用基板Eのエッチング処理を進めていくにしたがって、図7(b)〜(d)に示したように、消失図柄部P2の外周縁部の下方にある金属箔部分S12aも上記金属箔部分S12を起点として他の金属箔S1部分よりも速い消失速度でもってエッチングにより除去される。消失図柄部P2はその大きさが小さいことから、エッチング用基板Eのエッチング処理が終了する前に、消失図柄部P2が直接、接していた金属箔部分が完全に消失してしまい、消失図柄部P2はエッチング用基板Eの金属箔S1上から離脱し消失する(図7(d))。
【0049】
更に、エッチング用基板Eのエッチング処理を進めて、図7(e)に示したように、エッチング配線パターンP1に対応する金属箔S1部分のみを残して金属箔S1の不要部分を完全に除去して、エッチング配線パターンP1に対応する金属箔S1部分からなる配線パターンF1を有するプリント配線基板Fを製造することができる。なお、図7(f)に示したように、プリント配線基板F上に残ったエッチング配線パターンP1は必要に応じて公知の要領で除去される。
【0050】
上述のように、最終的に完全に除去される金属箔S1部分に消失図柄部P2を複数、形成し、エッチングによって消失し易い起点を複数設けているので、エッチング用基板Eのエッチング処理に要する時間を短縮することができ、図7(b)〜(e)に示したように、エッチング用基板Eの金属箔S1上に形成されたエッチング配線パターンP1の外周縁部の下方に位置する金属箔部分S11aにおいて、エッチングによる浸食を最小限に抑えることができる。
【0051】
その結果、上述のようにして得られるプリント配線基板Fの配線パターンF1を形成している回路線の端縁F11には凹凸が殆ど形成されておらず、回路線はその端縁が鮮明に形成されていると共に、配線パターンF1もエッチング配線パターンP1に略対応した形状に形成され、よって、配線パターンF1は精度良く形成されており、隣接する回路線同士の短絡を防止しつつ配線パターンF1の緻密化を容易に図ることができる。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
図1に示したグラビア印刷装置Aを用いてグラビア印刷を行った。先ず、厚さ25μmのポリエステルフィルムと、厚さ20μmのアルミニウム箔とがポリウレタン系接着剤を介して積層一体化してなる長尺状の基材シートSを用意した。
【0053】
又、トルエン10重量部、酢酸エチル10重量部、酢酸ブチル10重量部、イソプロピルアルコール20重量部及びメチルエチルケトン10重量部からなる有機溶媒中に顔料10重量部及びアクリル系樹脂30重量部を溶解させてなるレジストインキ21を作製した。
【0054】
そして、刃先部の厚さが60μm、硬度がHV580、幅が1250mm、刃先部が研磨されたスウェーデン鋼ドクターブレード3(ロルフ・マイヤー製)を用意した。
【0055】
又、幅(長さ)1100mmのグラビア版胴1を用意した。このグラビア版胴1の表面には、図2に示したように、回転軸の軸芯方向及び回転方向に一定間隔毎に、配線パターン印刷部11が複数、形成されていた。配線パターン印刷部11は、グラビア版胴1の回転軸の軸芯方向に500mm、回転軸の回転方向に571.5mmの矩形状に形成されていた。
【0056】
配線パターン印刷部11は、無数のセル11a、11a・・・が回転軸の軸芯方向及び回転方向に一定間隔毎に碁盤目状に形成されることによって形成されていた。配線パターン印刷部11を構成しているセル11aは、図3及び図4に示した通り、10μm間隔で形成されていた。なお、配線パターン印刷部11の線数は200pliであった。
【0057】
更に、グラビア版胴1の表面において、配線パターン印刷部11が形成されていない残余部分には、消失図柄印刷部12が全面的に形成されていた。消失図柄印刷部12は、無数のセル12a、12a・・・が回転軸の軸芯方向及び回転方向に一定間隔毎に碁盤目状に形成されることによって形成されていた。消失図柄印刷部12を構成しているセル12aは、図3及び図4に示した通り、200pli間隔で形成されており、セル12aの開口端は、直径20μmの円形状に形成されていた。
【0058】
そして、上記グラビア版胴1を用いると共に、塗工液パン2内に上記レジストインキ21を供給してグラビア版胴1の下部がレジストインキ21中に浸かった状態とした。次に、グラビア版胴1を図1において反時計回りに一定速度で回転させると共に、ドクターブレード3をその刃先部31がグラビア版胴1の外周面に押し付けられた状態で接触させ、ドクターブレード3をグラビア版胴1の回転軸の軸芯方向(長さ方向)に左右往復動させた。
【0059】
次に、長尺状の基材シートSをグラビア版胴1とバックアップロール4と対向面間に連続的に供給し、基材シートSをグラビア版胴1とバックアップロール4とで両側から押圧することによって、基材シートSのアルミニウム箔S1の表面に、グラビア版胴1の配線パターン印刷部11及び消失図柄印刷部12のセル11a、12a内に溜めたレジストインキ21を転移、塗工させて、所定のエッチング配線パターンP1及び消失図柄部P2を印刷した。なお、消失図柄部P2は、直径20μmの円形状であった。
【0060】
しかる後、基材シートSを熱風乾燥炉に供給して150℃で10秒間に亘ってレジストインキを乾燥させて樹脂膜を形成し、樹脂膜からなるエッチングレジストを形成してエッチング用基板を製造した。
【0061】
次に、エッチング用基板を15重量%の塩酸(液温:50℃)中に2分間に亘って浸漬してエッチング処理を施してアルミニウム箔の不要部分を溶解、除去してエッチング処理基板を製造した後、このエッチング処理基板のエッチングレジストを形成している樹脂膜を除去して、エッチング配線パターンP1の形状に対応した形状を有する配線パターンF1を有するフレキシブルプリント配線基板Fを得た。なお、消失図柄部P2は、エッチング用基板Eのエッチング処理中に全て完全に消失していた。
【0062】
(実施例2)
消失図柄印刷部12のセル12aの開口端を直径10μmの円形状に形成し、直径10μmの円形状の消失図柄部P2を基材シートSのアルミニウム箔S1上に印刷したこと以外は実施例1と同様にしてフレキシブルプリント配線基板Fを得た。なお、消失図柄部P2は、エッチング用基板Eのエッチング処理中に全て完全に消失していた。
【0063】
(実施例3)
消失図柄印刷部12のセル12aの開口端を直径40μmの円形状に形成し、直径40μmの円形状の消失図柄部P2を基材シートSのアルミニウム箔S1上に印刷したこと以外は実施例1と同様にしてフレキシブルプリント配線基板Fを得た。なお、消失図柄部P2は、エッチング用基板Eのエッチング処理中に全て完全に消失していた。
【0064】
(比較例1)
グラビア版胴1の表面に消失図柄印刷部12を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にしてフレキシブルプリント配線基板を得た。
【0065】
得られたフレキシブルプリント配線基板の回路線工程能力指数Cp及び工程能力指数の保持率を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0066】
(回路線工程能力指数Cp)
得られたフレキシブルプリント配線基板の配線パターンを構成している回路線の寸法を測定器(KEYENCE社製 商品名「デジタルHDマイクロスコープVH−500」)を用いて測定して標準偏差σを算出し、下記式に基づいて回路線工程能力指数Cpを算出した。なお、規格上限値は0.21mm、規格下限値は0.09mmとした。
回路線工程能力指数Cp=(規格上限値−規格下限値)/6σ
【0067】
(工程能力指数の保持率)
得られたエッチング用基板のエッチング配線パターンを構成している回路線の寸法を測定器(KEYENCE社製 商品名「デジタルHDマイクロスコープVH−500」)を用いて測定して標準偏差σを算出し、下記式に基づいてエッチング配線パターンの工程能力指数Cp(配線パターン工程能力指数Cp)を算出した。なお、規格上限値は0.21mm、規格下限値は0.09mmとした。
配線パターン工程能力指数Cp=(規格上限値−規格下限値)/6σ
【0068】
更に、上述のエッチング用基板をエッチング処理して得られたフレキシブルプリント配線基板の配線パターンを構成している回路線について、上述した回路線工程能力指数Cpの測定方法と同様の要領で回路線の工程能力指数Cp(回路線工程能力指数Cp)を算出し、下記式に基づいて工程能力指数の保持率を算出した。
工程能力指数の保持率(%)
=100×回路線工程能力指数/配線パターン工程能力指数
【0069】
【表1】

【符号の説明】
【0070】
1 グラビア版胴
11 配線パターン印刷部
11a セル
12 消失図柄印刷部
12a セル
E エッチング用基板
F プリント配線基板
F1 配線パターン
F11 端縁
P1 エッチング配線パターン
P2 消失図柄部
S 基材シート
S1 金属箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔上にエッチングレジストを形成するためのグラビア版胴であって、上記グラビア版胴の表面には、エッチング配線パターンを印刷するためのセルを有する配線パターン印刷部が形成されていると共に、上記配線パターン印刷部以外の上記グラビア版胴の表面には、エッチングによって消失する消失図柄部を印刷するためのセルを有する消失図柄印刷部が形成されていることを特徴とするグラビア版胴。
【請求項2】
消失図柄印刷部によって印刷される消失図柄部が円形状であることを特徴とする請求項1に記載のグラビア版胴。
【請求項3】
消失図柄印刷部は、消失図柄部が碁盤目状に印刷されるように構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグラビア版胴。
【請求項4】
金属箔とこの金属箔の裏面に形成された合成樹脂層とを含む基材シートにおける上記金属箔上にエッチングレジストを形成した後にエッチングによって上記金属箔の不要部分を除去してプリント配線基板を形成するための上記エッチングレジストを形成する印刷方法であって、エッチング配線パターンを印刷するためのセルを有する配線パターン印刷部と、上記配線パターン印刷部以外に形成され且つエッチングによって消失する消失図柄部を印刷するためのセルを有する消失図柄印刷部とが形成されているグラビア版胴の配線パターン印刷部及び消失図柄印刷部のセル内にエッチングレジストを形成するレジストインキを供給した後、上記グラビア版胴とこのグラビア版胴に接触して回転するバックアップロールとの間に、金属箔とこの金属箔の裏面に形成された合成樹脂層とを含む基材シートを供給して、この基材シートの金属箔表面に上記エッチング配線パターン及び上記消失図柄部を印刷することを特徴とするエッチングレジストの印刷方法。
【請求項5】
エッチング配線パターンを印刷するためのセルを有する配線パターン印刷部と、上記配線パターン印刷部以外に形成され且つエッチングによって消失する消失図柄部を印刷するためのセルを有する消失図柄印刷部とが表面に形成されているグラビア版胴の上記配線パターン印刷部及び上記消失図柄印刷部のセル内に、エッチングレジストを形成するレジストインキを供給した後、上記グラビア版胴とこのグラビア版胴に接触して回転するバックアップロールとの間に、金属箔とこの金属箔の裏面に形成された合成樹脂層とを含む基材シートを供給して、この基材シートの金属箔表面に上記エッチング配線パターン及び上記消失図柄部を印刷してエッチング用基板を製造し、このエッチング用基板をエッチングすることによって、上記消失図柄部が印刷された金属箔部分を含めた上記金属箔の不要部分を除去し、上記エッチング配線パターンに対応する金属箔部分からなる配線パターンを形成することを特徴とするプリント配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−23548(P2011−23548A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167380(P2009−167380)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000231626)日本製箔株式会社 (49)
【Fターム(参考)】