説明

グラファイト伝導体とその製造方法

【課題】電子機器や設備の発熱部から放熱部への熱伝導や電気伝導等に使用され、また、複合化することによって、電磁波シールドや特殊環境での構造材として使用される高い耐熱性や優れた機械的強度と異方性等の機能性を併せ持つグラファイト伝導体とその製造方法を提供する。
【解決手段】竹材を熱処理しグラファイト化することによって、得られるグラファイトに伝導性を持たせることができる。このようにして得られるグラファイト伝導体は、竹材を短冊状、繊維状又は薄板状にして、坩堝内に所望の伝導傾斜がつくように並べ、加熱加圧処理することによって得ることができる。また、植物の細胞構造をグラファイト化する特徴を活かし、その空隙に他材料を挿入することによって、伝導性以外の機能性も併せ持ったグラファイト伝導体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器や設備の発熱部から放熱部への熱伝導や電気伝導等に使用され、また、複合化することによって電磁波シールドや特殊環境での構造材として使用される高い耐熱性や優れた機械的強度等の機能性を併せ持つグラファイト伝導体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、グラファイトは抜群の耐熱性や耐薬品性に加え、高い熱伝導性や電気伝導性を有するため、工業材料として重要な地位を占めており、電極、発熱体、構造材、熱伝導体等として広く利用されている。グラファイトは、結晶構造が層状であるために、伝導性や機械的強度に異方性があり、特に結晶層間に対して垂直方向の強度は、結晶層方向の数百分の一しかなく、手で引き剥がすことができるほど弱い。これを改善するために、異方性を平均化する方法が用いられるが、そのために高い伝導性も平均化して殺すことになっていた。また、他材料との複合化が困難であるために、限られた分野でしか活用できないという問題を有している。
【0003】
グラファイト結晶は、ベンゼン環が平面的な網状構造を形成し、この平面的な網状構造が層状に積層された構造を有する。このような結晶網面方向においては、高い熱伝導性と電気伝導性と引張り強度を有している。一方、この平面と垂直方向においては、面内の伝導性のわずか数百分の一の伝導性しか有しない。また、機械的強度に関しても、この結晶網面方向には強いが、この平面と垂直方向には極めて弱く、面間にて簡単に剥離する。
【0004】
このような異方性を改善するために等方性グラファイトが提案されている。等方性グラファイトは、微細なグラファイト粉体をHIP、SIP、押し出し成形等にて押し固めることによって、グラファイト結晶の異方性を平均化し、グラファイトの耐熱性や摺動性を利用しようというものである。
【0005】
一方、高い伝導性を利用するためには、単結晶グラファイトが有効であるが、単結晶に近いグラファイトブロックは天然には存在しないため、人工的に極めて単結晶に近いものが作製されている。そのようなグラファイトは、気相中で炭化水素ガスを高温で分解沈積させる方法や、特殊な高分子材料を高温でグラファイト化させる方法によって得られるが、極めて高価である。伝導異方性グラファイト熱伝導体としては、特殊な高分子材料を高温でグラファイト化させる方法によるシートや(例えば、特許文献1参照)、微細なグラファイト粉体を一方向に加圧し、押し固めることによって、異方性を持たせたシートが知られている。これらの伝導体は、面内方向に異方性はなく、その面の垂直方向との間に異方性を有するものである。また、一方向にのみ高い熱伝導性を持たせた伝導異方体としては、グラファイト繊維を束ねたり、固めたりしたものがある。また、特性を傾斜させる方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平03−075211号公報
【特許文献2】特許第3036039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、一軸方向だけや、指定の数方向に高い伝導性を有し、且つ、他の機能も併せ持つことができるグラファイト伝導体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、 竹材を熱処理してグラファイト化することにより得られる伝導異方性を有したグラファイト伝導体が提供される。即ち、竹材を熱処理して、グラファイト化することによって、得られるグラファイトに伝導性を持たせたものである。
【0008】
本発明による上述した伝導異方性を有したグラファイト伝導体は、竹材を所定条件下に加熱加圧処理することによって得ることができる。本発明によれば、面内の伝導性は、単一の軸方向だけに伝導させるのではなく、数方向のみに高い伝導性を付与したり、面内の伝導性を傾斜させたり、平均化することもできる。即ち、竹材を短冊状、繊維状又は薄板状にして、坩堝内に所望の伝導傾斜がつくように並べて、本発明に従って加熱加圧処理する。また、植物の細胞構造をグラファイト化する特徴を活かし、その空隙に他材料を挿入することによって、伝導性以外の機能性も併せ持ったグラファイト伝導体とすることができる。その製造には、空隙に他材料を溶融含浸する方法が適している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、竹材を所定条件下に加圧加熱処理することによって、伝導異方性を有したグラファイト伝導体を得ることができる。更に、竹材を短冊状、薄板状又は繊維状に削りだしたものを並べ重ねて、加圧加熱処理することにより、上記伝導性に傾斜をつけたグラファイトを得ることができる。
【0010】
また、樹脂、金属、ガラス、セラミックス等の材料を溶融させ、これをグラファイト化された竹材の植物細胞間に含浸させることにより、複合的な機能を付加できる。この溶融含浸による複合化によってグラファイトが持つ優れた伝導性を損なうことなく、機械的強度や電磁波シールド性も付加し得ることができ、かくして、グラファイト伝導体を熱伝導性や電気伝導性を必要とする構造材料や放熱部品として広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による伝導異方性を有したグラファイト伝導体は、竹材を熱処理して、グラファイト化することによって得られる。
【0012】
より詳細には、このような伝導異方性を有したグラファイト伝導体は、竹材の植物繊維方向に対して垂直な方向からの1Kg/cm2以上の加圧下に2400℃以上の温度にて熱処理をすることによって得ることができる。
【0013】
好ましい一態様によれば、竹材の節間を切り取り、500g/cm2以上の加圧下に120℃以上、250℃以下の温度にて熱処理して、曲面を持った竹材を概ね平面化した後、熱処理をして、グラファイト化を行う。
【0014】
更に、本発明によれば、竹材を短冊状、繊維状又は薄板状に切断し、これを坩堝中に入れて、上述したように、加圧下に熱処理をすることによって、加圧軸に垂直面内の伝導比を制御してなる伝導異方性を有したグラファイト伝導体を得ることができる。
【0015】
また、竹材の植物細胞組織をグラファイト化することにより生じる空隙に樹脂、金属、ガラス、セラミックス等の他材料を挿入することによって、好ましくは、溶融含浸させることによって、機械的強度、他素材との接合性、電磁波シールド性等の伝導性以外の機能性を付加してなる伝導異方性を有したグラファイト伝導体を得ることができる。
【0016】
このように、本発明によれば、竹材を加圧下に熱処理をすることによって、伝導異方性を有したグラファイト伝導体を得ることができる。このような伝導異方性を有したグラファイト伝導体に、樹脂、金属、ガラス、セラミックス等の他材料を溶融含浸することによって、本発明のグラファイト伝導体に、竹材の素材を活かし、指定方向への伝導性を付与したり、面内の伝導度を平均化したり、伝導度に傾斜をつけることも可能である。また、植物細胞の空隙を活かして、他材料との複合材化も可能な、優れた素材を得ることができる。
【実施例】
【0017】
以下、添付図面と実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。図1に示すように、竹の軸方向をa、円周接線方向をb、厚さ方向をcとする。伝導度の評価として、電気伝導度の測定は標準的な4端子法、熱伝導度はLaser PIT(アルバック理工製)を用いて行った。実施例では、竹材の植物繊維方向に対して垂直な1方向から加圧を行ったが、竹材の植物繊維方向に対して垂直方向に加圧力が印加されるのであれば、全周から加圧力を印加しても良い。ここで用いた等方性グラファイト坩堝は、50mm角、深さ40mm、肉厚30mmのものであり、押しブロックは、50mm角、長さ45mmである。
【0018】
実施例1
図1に示すように、孟宗竹の節間を約20mm角、厚さ1mmに切り取り、c方向に30Kg/cm2の圧力を印加し、2900℃の加熱処理を行った。昇温速度は10℃/分とし、熱処理はアルゴンガスフロー中で行った。このようにして得られたグラファイト伝導体の電気伝導度と熱伝導度の測定値を表1に示す。得られたグラファイト伝導体は高い伝導度を有するものであった。
【0019】
実施例2
図1に示すように、孟宗竹の節間を切り取り、5Kg/cm2の圧力を印加し、150℃で熱処理することで、約50mm角、厚さ約5mmの概ね平面の竹板が得られた。次に、c方向に30Kg/cm2の圧力を印加し、2900℃の加熱処理を行った。昇温速度は10℃/分とし、熱処理はアルゴンガスフロー中で行った。表1に実施例1と併せて電気伝導度と熱伝導度の測定値を示す。高い伝導度を有した厚いグラファイト伝導体が得られた。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例3
図2に示すように、竹材の繊維組織に沿って割り出した長さ約20mm、太さ0.2〜0.5mmの繊維状片(図中Bの状態)を等方性グラファイト坩堝に入れ、30Kg/cm2の加圧をかけ、2900℃の加熱処理を行った。昇温速度は10℃/分とし、熱処理はアルゴンガスフロー中で行った。表2に電気伝導度の測定データを示す。試料1は竹材の繊維組織の方向を揃えた場合、試料2は竹材の繊維組織の方向を垂直に交わる2方向に揃えた場合、試料3は繊維状片を無作為に投入した場合のそれぞれの測定値である。繊維方向を揃えて入れることによって電気伝導性の方向性を制御できる。
【0022】
【表2】

【0023】
実施例4
実施例1で作成したグラファイト伝導体を等方性グラファイト坩堝にチタン片と共に入れ、アルゴンガスに置換後、減圧状態で2000℃に加熱した。熱処理後は熱処理前に比べて104%の重量増加を確認できた。曲げ強度については、チタンを溶融浸透させる前は63MPaであったが、チタンを溶融浸透させた後は67MPaに増加した。
【0024】
実施例5
実施例1で作成したグラファイト伝導体を等方性グラファイト坩堝にフェノール樹脂片と共に入れ、アルゴンガスに置換後、減圧状態で1000℃に加熱した。熱処理後は熱処理前に比べて102%の重量増加を確認できた。
【0025】
実施例6
実施例1で作成したグラファイト伝導体を等方性グラファイト坩堝にソーダ石灰ガラス片と共に入れ、アルゴンガスに置換後、減圧状態で2000℃に加熱した。熱処理後は熱処理前に比べて103%の重量増加を確認できた。
【0026】
実施例7
実施例1で作成したグラファイト伝導体を等方性グラファイト坩堝に炭化珪素セラミックス片と共に入れ、アルゴンガスに置換後、減圧状態で2500℃に加熱した。熱処理後は熱処理前に比べて103%の重量増加を確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明によるグラファイトの製造の一例を示し、竹材からの切り出し片とその加圧加熱の方向の一態様を示す。
【図2】竹材の繊維組織に沿って竹材から切り出した繊維状片を等方性グラファイト坩堝に入れる一態様を示す。
【符号の説明】
【0028】
1…竹材
2…切り出した竹材
3…等方性グラファイト坩堝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹材を熱処理してグラファイト化することにより得られる伝導異方性を有したグラファイト伝導体。
【請求項2】
竹材の植物繊維方向に対して垂直な方向からの1Kg/cm2以上の加圧下に2400℃以上の温度にて熱処理をする請求項1に記載の伝導異方性を有したグラファイト伝導体の製造方法。
【請求項3】
竹材の節間を切り取り、500g/cm2以上の加圧下に120℃以上、250℃以下の温度にて熱処理して、曲面を持った竹材を概ね平面化した後、熱処理をする請求項2に記載の伝導異方性を有したグラファイト伝導体の製造方法。
【請求項4】
短冊状、繊維状又は薄板状に切断された竹材を坩堝中に入れて加圧下に熱処理をして、加圧軸に垂直面内の伝導比を制御してなる請求項1に記載の伝導異方性を有したグラファイト伝導体。
【請求項5】
短冊状、繊維状又は薄板状に切断された竹材を坩堝中に入れて、竹材の繊維方向に対して垂直な一方向からの5Kg/cm2以上の加圧下に2400℃以上の温度にて熱処理をする請求項4に記載の伝導異方性を有したグラファイト伝導体の製造方法。
【請求項6】
竹材の植物細胞組織をグラファイト化することにより生じる空隙に樹脂、金属、ガラス、セラミックス等の他材料を挿入することによって、機械的強度、他素材との接合性、電磁波シールド性等の伝導性以外の機能性を付加したことを特徴とする伝導異方性を有したグラファイト伝導体。
【請求項7】
樹脂、金属、ガラス、セラミックス等の他材料を溶融含浸させることを特徴とする請求項6に記載のグラファイト伝導体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−239424(P2008−239424A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84123(P2007−84123)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(590003331)
【Fターム(参考)】