説明

グリスニングが実質的に存在しない眼内レンズ

【化1】


本発明は、閉鎖したモールド中で眼内レンズを製造する方法に関し、式(I)による単一の高屈折率モノマーを含むアクリルモノマー組成物を、390nm以上の波長を有する光によって活性化される開始剤を用いて重合する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の高屈折率モノマーを含む共重合体から製造される眼内レンズであって、実質的にグリスニングが存在しない眼内レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
小切開での白内障手術の近年の進歩にともない、人工眼内レンズ(「IOL」)の用途に適した軟質で折り畳める(foldable)材料の開発に、より一層の重要性が置かれている。そのようなレンズに通常使用されている材料には、ヒドロゲル、シリコーン、及びアクリルポリマーが含まれる。
【0003】
ヒドロゲルは屈折率が比較的低く、あまり望ましい材料ではない。なぜなら規定の屈折力を得るために、より厚いレンズ光学部が必要になるからである。シリコーンはヒドロゲルより高い屈折率をもつが、折り畳んだ状態で眼内に入れた後、急激に開く(unfold)傾向がある。急激に開くと、角膜内皮を損傷し、及び/又は天然の水晶体嚢を破裂させる可能性がある。アクリルポリマーは、通常高い屈折率をもち、シリコーン材料よりゆっくりと、又は制御可能に開くので、現在のところ最適な材料である。米国特許第5290892号及び米国特許第5331073号は、例えば、IOL材料としての用途に適した高屈折率のアクリル共重合体を開示している。
【0004】
高屈折率の材料で作られた最新IOLのデザインにおいて重要な特徴は、レンズをより薄くできるため、より小さな寸法に収めることができる特定のデザインのレンズが可能となることである。これは結果的に白内障の手術において、切開サイズがより小さくなり、乱視などの合併症、又は切開の治癒に伴う合併症のリスクを減らす利点がある。
【0005】
IOL材料のさらなる必要条件は、レンズを丸めても裂け目又はしわを誘発しないことであり、それによりカートリッジのノズルからレンズを解放した後、光学的性能を妥協することなく、レンズが制御された状態で丸められる前の寸法に開く。薄く高屈折率のレンズが、眼内に備えられている時変形しないように、材料はまた十分硬質でなくてはならない。結局のところ、レンズは光学特性を保持するため平らのままでなければならない。
【0006】
IOLを製造する周知の方法は、開放したモールド中でアクリルモノマー組成物の重合をし、次いで、未加工のIOLにさらに切削(lathing)、穿孔(drilling)、研削(grinding)等の機械的処理をすることを含む。しかしながら、閉鎖したキャストモールド(castmould)でアクリルモノマー組成物を重合すると、すぐに使用できるIOLが直接形成されるので非常に有益である。特定の閉鎖したキャストモールドを用いたこのような方法では、一方で、重合された材料中に空気又は気体が充満した空胞が形成されることがある。このような空胞は、特にアゾ開始剤等の熱フリーラジカル開始剤が使用された場合、副産物として気体が生じて形成される。IOLを移植すると、これら空胞は水和し、その結果、光の反射に起因する白い点の形成を生じて、これが「グリスニング」として当技術分野で周知の現象となる。実際、これら水分を含んだ空胞は、IOL材料のものとは異なる屈折率をもつ。
【0007】
従来技術が提供するこの課題に対する解決法は、少なくとも1つの疎水性・高屈折率のIOL形成モノマーを含むアクリレートモノマー組成物を、少量の親水性モノマーと合わせて用いることである。後者の混入により、IOLの親水性が向上するため、いかなる水分もIOL内にうまく分散される。
【0008】
例えば、米国特許第5693095号は、2−ヒドロキシエチルアクリレート等の親水性モノマー、及び以下の一般式をもつ高屈折率のIOL形成・疎水性アリールアクリルモノマーを含む、アクリルモノマー組成物を開示している。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中:Xは水素かメチル、mは0〜6の整数、Yは直接結合、O、S、又はNR(Rはアルキルでもよい)であり、Arは任意で置換された芳香族基である。)アクリルモノマー組成物は、さらに1、4−ブタンジオールジアクリレート等の架橋剤を含む。アクリルモノマー組成物の重合は、ペルオキシフリーラジカル開始剤を使用し、熱的に開始されることが好ましい。この重合された材料には、実質的にグリスニングが存在しないと言われている。
【0011】
同様に、米国特許第6140438号及び米国特許第6326448号は、以下の式の芳香環含有(メタ)アクリレートモノマー(A)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中:Rは水素かメチル、nは0〜5の整数、Xは直接結合又は酸素であり、Rは任意で置換された芳香族基である)、親水性モノマー(B)、アルキル基が1〜20個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレートモノマー(C)、及び架橋剤(D)を含むアクリルモノマー組成物を開示している。重合は、どの従来の方法でも、すなわち、熱的にアゾ若しくはペルオキシ開始剤を使用して、又は、紫外線等の電磁波を照射しても行うことができる。この重合された材料は、1.5〜4.5重量%の吸水率を有し、向上した透明性を有する。この重合された材料は、さらにIOL用に機械的に処理される。
【0014】
米国特許第6329485号と米国特許第6657032号は、高屈折率の芳香族アクリレートモノマー、前記高屈折率の芳香族アクリレートモノマーよりも多い量の親水性モノマー、及び架橋剤を含むアクリルモノマー組成物を開示している。重合は、アゾ又はペルオキシ開始剤の存在下、好ましくはアゾ開始剤の2、2’−アゾビス(イソブチロニトリル)の存在下、熱開始反応によって行うことが好ましい。重合後、この重合された材料は、上記のようにIOL用に形成するためさらに機械的に処理される。
【0015】
上記の従来技術では、すべて、少なくとも2つのIOL形成モノマー、すなわち、疎水性モノマー及び親水性モノマーを含むアクリルモノマー組成物を用いており、並びに、重合された材料の親水性を向上させるためだけでなく、ガラス転移温度を周囲温度程度又はそれ以下に調節するため(そうでなければ、レンズを破損せずに折り畳むことができないので)の架橋剤を含む。しかしながら、これには屈折率も低くなるという不利な点があり、明らかに望ましくない。
【0016】
米国特許第6653422号は、以下の式をもつ非常に高い屈折率を有するアクリルモノマーを開示している。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中:好ましくは、Aは水素かメチル、Bは−(CH−であり、ここでmは2〜5の整数;Yは直接結合又は酸素、Cは−(CH−であり、ここにおいてwは0か1の整数;及びArはフェニルである。)IOL材料はこれらのモノマーのみ及び架橋性モノマーから作られる。屈折率は少なくとも1.50で、ガラス転移温度は好ましくは25℃以下で、伸長率は少なくとも150%である。実施例によると、3−ベンゾイルオキシプロピルメタクリレート(B=3、Y=O、w=1、Ar=フェニル)とポリエチレングリコール1000ジメチアクリレートから作られた共重合体は、1.543という最も高い屈折率(乾燥状態)を有する(実施例11)。
【0019】
米国出願第2005/0049376号は、光学部品及び特に光管理フィルムに適した硬化性(メタ)アクリレート組成物を開示している。高屈折率のほかに、これらの組成物が硬化した場合には、光管理フィルムの保管及び使用の間の形状保持に望ましい高いガラス転移温度を有する。表7及び8は41℃〜62℃のガラス転移温度を開示している。1、3−ビス(チオフェニル)プロパン−2−イルアクリレートとテトラブロモビスフェノールAジエポキシドのジアクリレートから作られた組成物の屈折率は、1.6016にまで上昇する(実施例14)。一般的に高屈折率を有するにもかかわらず、高いガラス転移温度のため、この組成物は明らかにIOL用途には適さない。
【0020】
米国特許第6015842号は、ポリエチレンオキシドジ(メタ)アクリレート等の親水性の架橋剤、1又は複数の親水性モノマー、紫外線吸収発色団(UV absorbing chromophore)、及び400〜500nmの範囲の波長をもつ青色光によって活性化されうるベンゾイルホスフィンオキシド光開始剤を含む組成物から、折り畳み可能なアクリルの高屈折率眼科用材料を調製する方法を開示している。
【0021】
米国出願第2005/0055090号は、高屈折率モノマー及び500nmを超える波長をもつ青色光によって活性化されうる光開始剤から作られる眼内レンズを開示している。高屈折率モノマーは、例えば、2−エチルフェノシキ(メタ)アクリレート、及び2−エチルチオフェニル(メタ)アクリレート等である。
【0022】
よって、本発明の目的は、高屈折率及び低いガラス転移温度、特に25℃よりも低いガラス転移温度を有するIOLの製造方法を提供することである。
【0023】
本発明のさらなる目的は、グリスニングが実質的に存在しないIOLの製造方法を提供することである。
【0024】
また本発明の別の目的は、閉鎖したキャストモールドで行われるIOLの製造方法を提供することである。
【0025】
加えて、本発明の目的は、単一のIOL形成モノマーを含有するアクリルモノマー組成物を用いたIOLの製造方法を提供することである。
【特許文献1】米国特許第5290892号
【特許文献2】米国特許第5331073号
【特許文献3】米国特許第5693095号
【特許文献4】米国特許第6140438号
【特許文献5】米国特許第6326448号
【特許文献6】米国特許第6329485号
【特許文献7】米国特許第6657032号
【特許文献8】米国特許第6653422号
【特許文献9】米国出願第2005/0049376号
【特許文献10】米国特許第6015842号
【特許文献11】米国出願第2005/0055090号
【非特許文献1】Handbook of Chemistry & Physics, 59th Ed., CRC Press, Boca Raton, Florida, 1978 - 1979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、眼内レンズを製造する方法であって、以下の式(I)による単一の高屈折率モノマーを含有するアクリルモノマー組成物を、390nm以上の波長を有する光によって活性化される開始剤を用いて重合する方法に関する:
【0027】
【化4】

【0028】
(式中:RはH又はCH
はC〜Cアルキレン又は−(C〜Cアルキレン)−Y−(C〜Cアルキレン)−;
YはO又はS;
はC〜C18アリール又はヘテロアリール;
はH、又は、直鎖若しくは分岐C〜Cアルキル;
m+n=3;
n=0、1又は2;及び
m=1、2又は3である。)
【0029】
また、本発明は、本発明の方法により得ることができる眼内レンズに関する。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明による方法は、閉鎖したキャストモールドで便利に実施することができ、すぐに使える、すなわち最小限(例えば、切断のみ)の機械的処理で、又はさらなる機械的処理を必要としないIOLを提供する。加えて、本発明の方法により形成したIOLには、実質的にグリスニングが存在しない。グリスニングの存在を評価するテストは、米国特許実務において参照により援用される米国特許第5693095号に開示されている。
【0031】
本発明は、以下の定義を適用する。
【0032】
本明細書及び請求項において、動詞「含む」及びその活用形は、限定していない意味で使われており、かかる単語に続く項目が含まれることを意味しているが、特に言及されていない項目は除外していない。加えて、不定冠詞「a」又は「an」による要素への言及は、文脈から要素の1つ及び1つのみであることを明らかに必要とする場合を除き、要素の1つ以上が存在する可能性を除外していない。よって、不定冠詞「a」又は「an」は通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0033】
アルキル基は、例えば、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル基として理解される。そのようなアルキル基の例は、メチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、1−ブチル、2−ブチル、1−ペンチル、1−ヘキシル等を含む。
【0034】
アルキレン基は、1〜3個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキレン基として理解される。例えば、1、3−プロパンジイル(−CH−CH−CH−)、及びエタンジイル(−CH−CH−)等である。
【0035】
アリール基は、6〜18個の炭素原子を有するアリール基として理解される。アリール基は、置換されていても非置換でもよい。アリール基が置換されている場合は、ハロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルキル−O−、C〜Cアルキル−S−、C〜Cハロアルキル、C〜Cハロアルキル−O−、及びC〜Cハロアルキル−S−からなる群より選択される、1〜5個の置換基で置換されることが好ましく、好ましくは1〜3個の置換基で置換される。アリール基は、ナフチル、アントラセニル等の縮環(annelated)アリール基であってもよい。
【0036】
ヘテロアリール基は、6〜18個の炭素原子を有し、また窒素、酸素、及び硫黄からなる群より選択される1〜3個、好ましくは1〜2個のヘテロ原子を含むアリール基として理解される。ヘテロアリール基の適切な例は、イミダゾリル、フラニル、イソオキサゾリル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリジル等を含む。ヘテロアリール基の命名法については、Handbook of Chemistry & Physics, 59th Ed., CRC Press, Boca Raton, Florida, 1978 - 1979を参照する。ヘテロアリール基は、インドリル及びベンゾチアゾリル等の縮環ヘテロアリール基であってもよい。
【0037】
式(I)による高屈折率モノマーは、疎水性の性質である。本発明の第一の好ましい実施態様によると、nは0及びm=3である。本発明の第二の好ましい実施態様によると、nは1及びmは2である。
【0038】
YはSであることがさらに好ましい。
【0039】
加えて、Rが置換されている場合、C〜Cアルキル、C〜Cアルキル−O−、又はC〜Cアルキル−S−によって置換されることが好ましい。しかしながら、Rが非置換であることが最も好ましく、及びフェニルであることが最も好ましい。
【0040】
米国出願第2005/0049376号は、式(I)のような高屈折率モノマーが、高屈折率モノマー合成中に副産物が形成されるため着色することがあることを開示している。しかしながら、IOL用には、何らかの事情で着色した高分子材料は望ましくない。本発明によると、したがって、式(I)による高屈折率モノマーを、重合反応に先立って、実質的に無色にするために精製することが好ましい。式(I)による高屈折率モノマーを精製する適切な手法は、当業者に周知であり、例えば、クロマトグラフィー及び活性炭による処理を含む。
【0041】
本発明によると、開始剤は、過酸化物等の熱的フリーラジカル開始剤又は2、2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ開始剤からなる群より選択することが好ましい。しかしながら、気体副産物を形成しないので、開始剤を、ホスフィンオキシド光開始剤、ケトンベースの光開始剤、及びベンゾイン光開始剤からなる群より選択することがより好ましい。開始剤はホスフィンオキシド光開始剤が、最も好ましい。そのようなホスフィンオキシド光開始剤の適当な例は、Ciba Specialty Chemicals社より市販されているホスフィンオキシド開始剤のIRGACURE(登録商標)及びDAROCURE(商標)シリーズ、BASF社より市販されているLUCIRIN(登録商標)シリーズ、及びESACURE(登録商標)シリーズが含まれる。本発明による方法で使用される光開始剤は、340nm以上、好ましくは390nm以上の波長を有する光の照射によって活性化されうる。390nm〜500nmの波長を有する光がさらに好ましい(紫外線/可視線(UV/VIS)照射;この特定の領域は「青色光照射」として当技術分野で周知でもある)。ケトンベースの光開始剤及びベンゾイン光開始剤は、340nm以上の波長、好ましくは340nm〜500nmの波長を有する光と合わせて使用することが好ましい。
【0042】
また、アクリルモノマー組成物が架橋剤を含むことが好ましく、架橋剤は2以上の不飽和基を有する末端エチレン不飽和化合物からなる群より選択されることが好ましく、架橋剤は(メタ)アクリレート基であることが好ましい。本発明のこの第四の好ましい実施態様による適切な架橋性モノマーは:
エチレングリコールジメタクリレート;
ジエチレングリコールジメタクリレート;
アリルメタクリレート;
2、3−プロパンジオールジメタクリレート;及び
1、4−ブタンジオールジメタクリレートを含む。
【0043】
架橋剤の使用は特に好ましく、水と湿気がより良く保持されることによってグリスニングを減少させる。そこで、ヒドロキシルエチルアクリレート等の親水性モノマーを単一の高屈折率モノマーと組み合わせて使用するとよい。
【0044】
本発明の第一の好ましい実施態様によると、架橋剤は、少なくとも2つの(メタ)アクリレート部分を含む多官能性(メタ)アクリレートモノマーである。この実施態様によると、架橋剤は、以下の一般式(II)で表される。
【0045】
【化5】

【0046】
(式中:
はH又はCH
は置換又は非置換のC〜C300アルキル、アリール、アルカリール、アリールアルキル、又はヘテロアリール;
X=O;及び
q=2、3、又は4である。)
【0047】
置換されている場合、Rの置換基は、ハロ、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルキル−O−、C〜Cアルキル−S−、C〜Cハロアルキル−O−、C〜Cハロアルキル−S−、及びOH−からなる群より選択されることが好ましい。
【0048】
この好ましい実施態様による架橋剤の適切な例は、例えば米国特許実務において参照により援用される米国特許第6653422号に開示されている。
【0049】
本発明の第二の好ましい実施態様によると、架橋性モノマーは、部分的又は完全に(メタ)アクリル酸でエステル化されている末端OH末端基を有する樹枝状、星型、又は高分岐(共)重合体である。例えば、3アーム〜6アームのポリエトキシレートは当技術分野で周知であり、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、又はトリメチロールプロパンエトキシレートがコアとして使用される。別の例は、Perstorp AB社製造のBoltorn polymerシリーズ、特にH20、H30、及びH40である。
【0050】
本発明の第三の好ましい実施態様によると、架橋剤は親水性架橋剤である。この第三の好ましい実施態様は、第一と第二の好ましい実施態様より好ましい。
【0051】
第三の好ましい実施態様による親水性架橋剤は、式(III)を有する:
【0052】
【化6】

【0053】
(式中、R及びRは、独立してH又はCHであり;また
oは、数平均分子量が約200〜約2000である。)
しかしながら、本発明によると、oは1〜5が最も好ましい。
好ましくは、RはCHである。また、RはHであることが好ましい。
一般的に、1つだけの架橋剤がアクリレートモノマー組成物に存在するであろう。しかしながら、架橋剤の組み合せが望ましいことがある。
【0054】
アクリルモノマー組成物は、式(I)による高屈折率モノマー、並びに、所望の製品特性、例えばガラス転移温度及び伸長率等の機械的特性等、にとりわけ左右される様々な量の架橋剤を含んでもよい。しかしながら、高屈折率の材料を提供するためには、アクリレートモノマー組成物総重量に対して、アクリルモノマー組成物が式(I)による高屈折率モノマーを少なくとも50重量%含むことを必要とし、少なくとも60重量%が好ましく、少なくとも70重量%がより好ましく、少なくとも80重量%がさらに好ましく、及び90重量%が特に好ましい。式(I)による高屈折率モノマーの上限は、99.8重量%である。
【0055】
アクリレートモノマー組成物総重量に対して、アクリルモノマー組成物は、さらに0.1〜20.0重量%、好ましくは0.5〜15.0重量%の量の架橋剤を含むであろう。
【0056】
本発明によると、アクリレートモノマー組成物の総重量に対して、0.1〜3.0重量%の開始剤を使用することが好ましく、より好ましくは0.5〜2.5重量%である。
【0057】
本発明によると、アクリレートモノマー組成物は、直接にモールド中で重合することができ、モールドは閉鎖したキャストモールドが好ましい。しかしながら、特定の状況では、アクリレートモノマー組成物を初期重合して、初期重合アクリレートモノマー組成物の硬化の仕上げをモールド中で、好ましくは閉じたキャストモールドの中で行うと有利な場合がある。
【0058】
上で開示されたモノマーと架橋剤に加え、本発明による重合体組成物は、モノマー混合物の総重量に対して、全体で重量の最大約10%の、紫外線吸収剤等の他の目的に用いられる追加成分を含んでもよい。適した紫外線吸収剤は、チヌビン(Tinuvin)シリーズ等のベンゾトリアゾール化合物を含む。一例は、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メタリル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(Tinuvin P)である。紫外線吸収剤が存在する場合、紫外線吸収剤は、アクリレートモノマー組成物の総重量に対して、0.1〜5.0重量%の量が存在し、0.2〜4.0重量%が好ましい。
【0059】
本発明は、また、本発明の方法によって得られる眼内レンズ、好ましくは柔軟性のある眼内レンズに関する。この眼内レンズは、25℃より低い、好ましくは15℃より低い、より好ましくは10℃より低いガラス転移温度Tgを有し、これは式(I)による疎水性の高屈折率モノマーを用いることによって得ることができる。加えて、IOLは、少なくとも1.50、好ましくは少なくとも1.55、また、より好ましくは少なくとも1.60の屈折率を有する。さらに、この眼内レンズは、優れた機械的特性を有し、例えば、伸長率が少なくとも150%、好ましくは少なくとも200%、また、より好ましくは少なくとも300%である。伸長率を測定する適切な方法は、例えば、米国特許実務において参照により援用される米国特許第6653422号に開示されている。
【実施例】
【0060】
HRIモノマーを下記のとおり合成した。純度は、典型的に95+%であった。他の原料は、外部の業者から市販のものを購入した。典型的に99+%の品質の材料を使用した。合成は、適切な実験用ガラス器具中で行われた。硬化のための青色光照射は、適切な気圧下、室温で、適した青色光源を用いて行った。
【0061】
HRIモノマー、1、3−ビス(フェニルチオ)プロパン−2−イルメタクリレートの合成
前駆物質1、3−ビス(フェニルチオ)プロパン−2−オールの合成
チオフェノール(54.1mL、529.1mmol、2.0eq)を三口フラスコに添加し、窒素雰囲気下において氷/水槽中で冷却した。水酸化カリウム(KOH)(29.68g、529.1mmol、2.0eq)をイソプロパノール(600mL)中に溶解させ、チオフェノールに添加した。エピクロルヒドリンI(20.7mL、264.5mmol、1.0eq)を20分間滴下した。発熱反応が観察され、温度は28℃より下に保持した。添加中、白い沈殿物が生じた。混合液を65℃で1時間加熱した。混合液を、aq.20%クエン酸水溶液(500mL)に注いだ。t−ブチルメチルエーテル(500mL)を添加し、そして層に分離した。水層をt−ブチルメチルエーテル(250mL)で抽出した。結合した有機層を続いて塩水(250mL)、飽和aq.NaHCO水溶液(500mL)そして、塩水(500mL)で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空で凝縮させ、黄色油を産出した。
【0062】
1、3−ビス(フェニルチオ)プロパン−2−イルメタクリレートモノマー
アルコールの1、3−ビス(フェニルチオ)プロパン−2−オール(20.0g、72.46mmol、1.0eq)を窒素雰囲気下においてTHF(400mL)に溶解させた。ETN(17.3mL、123.2mmol、1.7eq)と4−メトキシフェノールの数個の結晶を添加した。メタアクリロイルクロリド(10.6mL、108.7mmol、1.5eq)(新たに蒸留された)を添加した。溶液を50℃に温め、48時間攪拌した。混合液を真空で凝縮させ、ジクロロメタン(300mL)を添加した。混合液を冷却した飽和aq.NHCl水溶液(500mL)に注いだ。有機層を水層から分離した。水層をジクロロメタン(2 × 250mL)で抽出した。結合した有機層は水(2 × 500mL)で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空で凝縮させ、25.9g(>100%)の茶色の油を産出し、シリカ(ヘプタン100%〜へプタン中5%のエチルアセテート)上にろ過して精製した。産出物は、24.4g(97%)の実質的に無色の低粘度の油であった。このモノマーを、100ppmのモノ−メチルエーテルヒドロキノンで安定化させた。このモノマーの同一性を、NMR、GC−MS及びHPLC−MSによって確認した。
【0063】
HRIモノマーを用いた製剤化
HRIモノマー、1、3−ビス(フェニルチオ)プロパン−2−イルメタクリレート(M2)を、下記の組成で、光開始剤の早期分解を防ぐため抑制した光の状態で製剤化した。
【0064】
【表1】

【0065】
エチレングリコールジメタアクリレート
**Sigma-Aldrich社製のメタアクリレートで修飾されたベンゾトリアゾールベースの材料
***Ciba Specialty Chemicals社製のホスフィンオキシドベースの光開始剤
すべての材料が完全に溶解した後、製剤は使用できる状態であった。
【0066】
キャストモールディング(流し込み成型)
上述のように調製された組成物を含有する光硬化HRIモノマーを、IOL成形品の形状のスペースを取り囲む下半分と上半分とからなる重合体キャストモールドに添加した。適切な条件の下、適切な長さの時間で、モールドに青色光を照射した。モールドを開いた後、IOL成形品を取り出し、品質を検査した。この成形品は、IOL材料に適した所望の特性をもつ光学的に透明な材料からなることが確認された。この成形品は折り畳んだ際に裂けることがなく、折り畳んだ際の力が解放されると、元の大きさに戻った。伸長率は、約100%であり、折り畳んだ後の折り畳み跡は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖したモールド中で眼内レンズを製造する方法であって、以下の式(I)による単一の高屈折率モノマーを含むアクリルモノマー組成物を、390nm以上の波長を有する光によって活性化される開始剤を用いて重合する方法。
【化1】


(式中:RはH、又はCH
はC〜Cアルキレン、又は−C〜Cアルキレン)−Y−(C〜Cアルキレン)−;
YはO、又はS;
はC〜C18アリール又はヘテロアリール;
はH、又は、直鎖若しくは分岐C〜Cアルキル;
m+n=3;
n=0又は1;及び
m=2又は3である。)
【請求項2】
nが0及びm=3である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
nが1及びmが2である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
YがSである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
がフェニルである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
開始剤が、ホスフィンオキシド光開始剤、ケトンベースの光開始剤、及びベンゾイン光開始剤からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
アクリルモノマー組成物が親水性架橋剤を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
親水性架橋剤が以下の式(II)を有する、請求項7に記載の方法。
【化2】


(式中:RはH又はCH
は置換又は非置換のC〜C300アルキル、アリール、アルカリール、アリールアルキル、又はヘテロアリール;
X=O;及び
q=2、3又は4である。)
【請求項9】
架橋剤が、部分的又は完全に(メタ)アクリル酸でエステル化されている末端OH末端基を有する樹枝状、星型、又は高分岐(共)重合体である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
架橋剤が、以下の式(III)を有する、請求項7に記載の方法。
【化3】


(式中:R及びRは、独立してH又はCHであり;また
oは、数平均分子量が約200〜約2000である。)
【請求項11】
oが1〜5である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
がCHである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
がHである、請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
アクリルモノマー組成物が親水性モノマーを含む、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の少なくとも1つの高屈折率モノマーを重合、又は共重合する方法によって得られる眼内レンズ。
【請求項16】
眼内レンズが柔軟なレンズである、請求項15に記載の眼内レンズ。

【公表番号】特表2009−526561(P2009−526561A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554167(P2008−554167)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国際出願番号】PCT/NL2007/050059
【国際公開番号】WO2007/094665
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(508241794)プロコルニア ホールディング ビー.ブイ. (3)
【氏名又は名称原語表記】PROCORNEA HOLDING B.V.
【Fターム(参考)】