説明

グリチルリチン製剤

【課題】患者のQ.O.Lを低下させることなく、慢性肝疾患等を有効に治療し得るGL製剤の提供。
【解決手段】グリチルリチンの薬学的に許容される塩をグリチルリチンとして5〜30質量%と、グリチルリチンとともに該塩を構成する成分を有する塩基と、を含有することを特徴とするグリチルリチン製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリチルリチン製剤、さらに詳しくは、浸透圧、pH、粘度等を調整して、注射した際の痛みを軽減できるグリチルリチン製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
グリチルリチン(以下、GLと略記する。)およびその塩は、抗アレルギー作用、抗炎症作用、免疫調節作用、虚血再灌流障害保護作用、肝庇護作用、肝細胞増殖促進作用、抗ウイルス作用、抗血小板作用等の広範な生理活性作用を有することが知られており、古くから臨床薬として用いられている(例えば特許文献1)。現在では、単独で、もしくはアミノ酸との配合剤として、肝臓疾患や皮膚疾患、各種アレルギー、炎症等に幅広く使用され、特に、ウイルス性慢性肝疾患の治療薬としての利用が多い。現在のウイルス性慢性肝疾患の治療においては、ウイルスの完全排除を目指し、インターフェロン(IFN)などを用いた根治療法が確立されつつあるが、約半数が根治にいたらない。そのため、肝炎の進行や肝硬変の進展、さらには肝癌の発生等を抑制するために、GL製剤により血中トランスアミナーゼ値を安定化させる長期の肝庇護療法が必要不可欠となっている。
【0003】
GLは、通常アンモニウム塩等のGL塩の形態で投与される。
GL製剤の投与経路としては、一般的に、静脈内投与と経口投与の二経路がある。しかし、GLを経口投与した場合、GLは中性付近の腸内環境ではアニオン性の解離型で存在するため、難吸収性を示すこと、また、腸内細菌によりグリチルレチン酸に分解され、GLとして血液中、胆汁中へ移行することがほとんどないため、その効果が充分に発揮されない。したがって、GLの投与形態は、実際の臨床現場では注射剤による静脈内投与がほとんどである。
【特許文献1】特開2005−225836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、慢性肝疾患等の治療では、長期にわたる静脈注射を必要とする場合がほとんどであるため、注射部位の血管が硬くなってしまい、投与が困難になるケースが多く、その結果、患者のQ.O.L(Quality of Life)を著しく低下させている。
【0005】
したがって、本発明は、患者のQ.O.Lを低下させることなく、慢性肝疾患等を有効に治療し得るGL製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、GLの投与形態として皮下注射を選択すれば、身体の任意の部位から投与できるため、静脈注射と異なり、患者のQ.O.Lを低下させることなく、慢性肝疾患等の治療が可能であると考えた。
【0007】
ところで、投与形態を皮下注射とする場合、製剤は以下の要件を充足することが望ましい。(i)投与の際、痛みを生じないように、製剤のpH、浸透圧が調整されている。(ii)製剤の粘度ができるだけ低く調整されている。これは、注射針を皮膚にさしたときの痛み軽減のため、針をできるだけ細くする必要があるためである。(iii)投与ボリュームが少ない。これは、投与時の皮下の膨張による痛みをできるだけ軽減するためである。
【0008】
しかしながら、GL塩は、水溶液のpHは約4であり、また、高濃度にするとゲル化、高粘度化し、通常GL濃度は約2%が限界である。このため、通常のGL塩水溶液は、上記(i)〜(iii)の条件を充足することができない。そこで、本発明者らは、さらに研究した結果、GLの塩と、GLとともに該塩を構成する成分を有する塩基と、を含有する製剤であれば、低粘度でゲル化を抑制でき、pH調整、浸透圧調整が容易で投与の際の痛みを軽減できる製剤であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、GLの薬学的に許容される塩をGLとして5〜30質量%と、GLとともに該塩を構成する成分を有する塩基と、を含有することを特徴とするGL製剤を提供するものである。
また、本発明は、かかる塩がモノアンモニウム塩であるGL製剤を提供するものである。
また、本発明は、pHが7〜8であるGL製剤を提供するものである。
また、本発明は、かかるGL製剤が皮下注射用であるGL製剤を提供するものである。
また、本発明は、かかるGL製剤からなる肝機能障害改善剤を提供するものである。
また、本発明は、かかるGL製剤からなる皮膚疾患用剤を提供するものである。
また、本発明は、かかるGL製剤からなる抗アレルギー剤を提供するものである。
また、本発明は、かかるGLからなる抗ウイルス剤を提供するものである。
また、本発明は、かかるGLからなる虚血性再灌流障害改善剤を提供するものである。
また、本発明は、かかるGL製剤からなる慢性閉塞性肺疾患治療剤を提供するものである。
また、本発明は、かかるGL製剤からなる免疫疾患治療剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のGL製剤を用いれば、患者のQOLを低下させることなく、慢性肝疾患等を有効に治療し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のGL製剤は、GLの薬学的に許容される塩をGLとして5〜30質量%と、GLとともに該塩を構成する成分を有する塩基と、を含有するものである。
GLの薬学的に許容される塩としては、例えば、GLモノアンモニウム等のアンモニウム塩;GLモノナトリウム、GLジナトリウム等のナトリウム塩;GLモノカリウム、GLジカリウム等のカリウム塩等が挙げられる。また、これら以外にも、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩や、種々の有機アミン塩等が挙げられる。
【0012】
GLとともに上記塩を構成する成分を有する塩基としては、上記塩を構成する成分にヒドロキシ基、水又は弱酸の塩が付加した形態の化合物をいう。具体的には、アンモニウム塩であればアンモニア水、有機アミン塩であれば有機アミン水溶液、ナトリウム塩であれば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、カリウム塩であれば水酸化カリウム、炭酸カリウム、カルシウム塩であれば水酸化カルシウム、マグネシウム塩であれば水酸化マグネシウム、アルミニウムであれば水酸化アルミニウム等が挙げられる。
これらGLの塩と塩基を併用することにより、塩置換を起こすことなく、製剤のpH、浸透圧、粘度が調整された製剤を得ることができる。例えば、GLのモノアンモニウム塩は、通常pHは約4であるが、これを水酸化ナトリウムや水酸化カリウムでpH調整を行うと、弱塩基であるアンモニアがガスとして遊離し、ナトリウム塩、カリウム塩等に塩置換されてしまう。さらに、これらの塩は、解離度が高いため浸透圧も高くなる場合がある。pH調整にアンモニア水を用いれば、このような塩置換が生じることがなく、さらにpH、浸透圧、粘度の調整が可能である。
【0013】
これらのうち、GLのアンモニウム塩とアンモニア水を併用することが好ましい。GLのアンモニウム塩は、現在厚生労働省から注射用として認可されている唯一のGLの塩であり、また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基を用いた場合に比べてpH、浸透圧、粘度の調整が容易である。
【0014】
本発明の製剤中のGLの薬学的に許容される塩の含有量は、GLとして5〜30質量%であり、5〜20質量%であることが好ましい。5〜30質量%であれば、投与ボリュームを少なくすることができ、たとえ製剤の浸透圧がやや高くなった場合でも、皮下注射時の皮下の膨張による痛みを軽減することができる。30質量%を超えると高浸透圧になるため好ましくない。
例えば、既存の静脈内投与GL製剤(0.2質量%)の100倍濃度である20質量%のGLを含有する製剤の場合、GL製剤の常用量である80〜120mgを投与する場合には投与液量が400〜600μLでよく、GLの一日最大投与量である200mgを投与する場合でも1000μLとなり、既存の静脈内投与用のGL水溶液からなる注射製剤と比べて、著しく投与液量を減らすことができる。
【0015】
本発明のGL製剤のpHは、6〜8、特に6.5〜7.5に調整されていることが好ましい。pHを7〜8に調整することにより、皮下に注射した場合の痛みを軽減する効果が高くなる。
【0016】
本発明のGL製剤は、前記必須成分のほか、本発明による効果を妨げない範囲内で、薬学的に許容される任意成分を含有してもよい。この任意成分としては、例えば、安定化剤、局部麻酔剤、保存剤、分散剤などが挙げられる。とくに、局部麻酔剤を配合することにより、皮下注射の際の痛み軽減効果が高くなる。
【0017】
本発明のGL製剤は、GLの薬学的に許容される塩をGLとして5〜30質量%、GLとともに該塩を構成する成分を有する塩基、必要に応じて任意成分を混合し、必要に応じて脱気などの処理を行い、適当な容器中に規定量を充填し、あるいは自己投与が可能なプレフィルドシリンジ内に充填し、滅菌工程を経て、製品化し得る。
【0018】
本発明のGL製剤は、pH、浸透圧、粘度等の調整が容易であるため、皮下注射製剤として用いれば、従来の静脈内投与に比べて侵襲度が低くなり、患者のQ.O.L.を向上させることができるだけでなく、注射時の痛みの軽減に有効である。
本発明のGL製剤は、皮下注射用途以外に、点鼻、経肺等の用途にも利用が可能である。
【0019】
本発明のGL製剤は、現在臨床で使用されている疾患、たとえば急性および慢性肝疾患における肝機能障害の改善、湿疹、皮膚炎、蕁麻疹、皮膚そう痒症、薬疹、中毒疹、口内炎等の皮膚疾患、各種アレルギー、各種免疫疾患、各種ウイルス性疾患、虚血再灌流障害、慢性閉塞性肺疾患等に適用できる。特に、患者に対する侵襲度が低い皮下投与により患者に投与できることから、長期にわたる治療を必要とする慢性肝疾患患者において、従来の静脈内投与用の注射剤に比べて、非常に簡便に使用することができる。
【0020】
本発明のGL製剤は、治療する患者の体重や健康状態等に応じて、適宜、臨床医により処方される。用量としては、例えば、1日あたり、GLとして200mgを上限として、1日に1回から複数回に分けて投与することができる。
【0021】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
注射用水及び日局アンモニア水(アンモニア:9.5〜10.5w/v%)を混合し、これにGLモノアンモニウム塩をGLとして5質量%となるように溶解し、GL製剤を製した。
【実施例2】
【0023】
GL濃度を10質量%とした以外は、実施例1と同様にしてGL製剤を調製した。
【実施例3】
【0024】
GL濃度を15質量%とした以外は、実施例1と同様にしてGL製剤を調製した。
【実施例4】
【0025】
GL濃度を20質量%とした以外は、実施例1と同様にしてGL製剤を調製した。
【実施例5】
【0026】
注射用水及び水酸化ナトリウムを混合し、これにGLトリナトリウム塩をGLとして8.5質量%となるように溶解し、GL製剤を製した。
【実施例6】
【0027】
注射用水及び水酸化カリウムを混合し、これにGLトリカリウム塩をGLとして8.4質量%となるように溶解し、GL製剤を製した。
【0028】
実施例1〜6で得られたGL製剤のpHと生理食塩水の浸透圧を1とした場合の浸透圧比を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
(試験例1)
8週齢のSD系雄性ラット(体重220〜260g)9匹を3匹ずつ3群に分け、24時間絶食させた。次いで、ウレタン麻酔下にて、実施例2〜4のGL製剤をGLとして10mg/kgとなるように背部皮下に投与した。投与後、経時的に頸静脈より採血を行い、血清中のGL量をセミミクロHPLC法にて定量し、定量値から実施例2〜4のGL製剤の生物学的利用率を算出した。結果を表2に示す。なお、生物学的利用率は、(皮下注射をした場合の血中のAUC/同量を静脈注射した場合の血中のAUC)×100(%)で定義される。
【0031】
(試験例2)
8ヶ月齢の雄性ビーグル犬(体重7.4〜8.2kg)3匹を24時間絶食させた。次いで、無麻酔下で、実施例4のGL製剤をGLとして10mg/kgとなるように背部皮下に投与した。投与後、経時的に左橈側皮静脈より採血を行い、試験例1と同様にして生物学的利用率を算出した。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2から明らかなように、GLの生物学的利用率は、ラットの場合60%前後、ビーグル犬の場合96%を示し、Q.O.Lを低下させることなく、静脈注射に匹敵する治療効果が期待できる。さらに、本発明のGL製剤は、IFN治療に比してきわめて安価であり、経済的にも有利であると考えられる。また、GLを高濃度で投与することから、注射時の痛みを軽減することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のGL製剤は、慢性肝疾患等の治療のための薬品分野で利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリチルリチンの薬学的に許容される塩をグリチルリチンとして5〜30質量%と、グリチルリチンとともに該塩を構成する成分を有する塩基と、を含有することを特徴とするグリチルリチン製剤。
【請求項2】
前記塩がモノアンモニウム塩である請求項1に記載のグリチルリチン製剤。
【請求項3】
pHが6〜8である請求項1又は2に記載のグリチルリチン製剤。
【請求項4】
皮下注射用である請求項1〜3のいずれか1項に記載のグリチルリチン製剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のグリチルリチン製剤からなる肝機能障害改善剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のグリチルリチン製剤からなる皮膚疾患用剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のグリチルリチン製剤からなる抗アレルギー剤。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載のグリチルリチン製剤からなる抗ウイルス剤。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のグリチルリチン製剤からなる虚血性再灌流障害改善剤。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載のグリチルリチン製剤からなる慢性閉塞性肺疾患治療剤。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載のグリチルリチン製剤からなる免疫疾患治療剤。

【公開番号】特開2007−126363(P2007−126363A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318138(P2005−318138)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000170358)株式会社ミノファーゲン製薬 (16)
【Fターム(参考)】