説明

グリッドリフレクタ

【課題】グリッドリフレクタに生じる熱変形の異方性に起因するリフレクタ集光性の低下および電波反射率の低下を抑制する。
【解決手段】繊維強化複合材料3からなるアンテナ鏡面と、アンテナ鏡面の表面または内部に形成された導体材料からなるグリッドパターン4とを備えたグリッドリフレクタであって、繊維強化複合材料3として、グリッドパターン4と逆の熱膨張係数の異方性を持たせる。繊維強化複合材料3は、グリッドパターニング方向5に対して平行方向の剛性および熱膨張係数に対する寄与が大きい方向に配向された第1の強化繊維と、グリッドパターニング方向5に対して直交方向の剛性および熱膨張係数に対する寄与が大きい方向に配向された第2の強化繊維とで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星や宇宙航行体などの宇宙機器に搭載される衛星搭載用アンテナのグリッドリフレクタに関する。
【背景技術】
【0002】
衛星を利用した通信容量の増大要求に伴って、衛星通信における限られた周波数の有効利用が強く求められている。この解決策の1つとして、直交偏波を利用することが考えられる。直交偏波の利用により、1つの帯域幅にて、2つの偏波を利用することができ、2倍の信号を伝送することができる。
【0003】
ここで、衛星搭載デュアルグリッドアンテナ(偏波共用アンテナ)は、2つの直交偏波の利用を可能とするもので、直交偏波共用アンテナとして、商用通信衛星にも利用されている。
【0004】
通常のパラボラアンテナを用いた場合には、オフセット反射鏡から交差偏波が発生するため、偏波間アイソレーションが十分に取れない。また、給電系が直交偏波共用となるため、給電回路が複雑になり、物理的制約が大きいといった問題もある。この結果、偏波共用化が難しい。
【0005】
この問題を解決する一つの方法として、このデュアルグリッドアンテナの利用が挙げられる。デュアルグリッドアンテナを用いることで、鏡面から発生する交差偏波成分を低減でき、偏波により給電系を分離できる。このため、個々の給電回路を簡易化できる特徴がある。
【0006】
このような背景から、従来の通信衛星用アンテナリフレクタにおいては、直交する2つの直線偏波を用いるグリッドリフレクタが採用されている(例えば、特許文献1、2参照)。従来のグリッドリフレクタの鏡面材料としては、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)が用いられ、グリッド材料としては、例えば、銅などの導体材料が用いられている。
【0007】
一般に、グリッド材料である導体材料の熱膨張係数は、鏡面材料の繊維強化プラスチックよりも大きい。グリッドリフレクタは、グリッド材料を通信電波の周波数帯に応じた設計要求から決まる幅および間隔で、アンテナ鏡面に線状にパターニングされる。特許文献2の技術では、グリッド材料として鏡面内部に埋め込んだ導電性繊維が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−37418号公報
【特許文献2】特開2003−347840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1のような構成では、例えば、アンテナリフレクタに温度上昇が発生した場合には、グリッド材料および鏡面材料に熱膨張係数の違いによる熱応力が発生する。すなわち、グリッドのパターニング方向に平行な方向では、熱膨張係数が相対的に大きいグリッド材料によって鏡面材料には引張負荷が加わる。その結果として、鏡面は、伸長する。
【0010】
一方、グリッドのパターニング方向に垂直な方向では、グリッドパターンが鏡面に断続的に形成されている。このため、個々のグリッドパターンがパターニング方向に垂直な方向(グリッドの幅方向)に熱膨張をしても、それによって繊維強化複合材料に発生する引張応力は、グリッド圧着部近傍に局所的に分布することとなる。
【0011】
この結果、パターニング方向に垂直な方向でのアンテナ全体の伸長変形量は、パターニング方向に平行な方向と比べて小さくなる。さらに、パターニング方向引張負荷による鏡面材料のポアソン効果から、パターニング方向に垂直な方向には、収縮変形が起きる。以上のような効果により、グリッドリフレクタのパターニング方向に対する平行方向および垂直方向の2方向で、その熱変形量に異方性が生じてしまう。
【0012】
一方、温度降下が発生した場合には、温度上昇が発生した場合とは逆の挙動を示し、2方向の熱変形量に異方性が発生する。このように、グリッドリフレクタが熱変形量の異方性を有している場合には、温度変化による熱変形後の形状が、元の形状と相似形ではなくなり、リフレクタの集光性の低下を招いてしまう。
【0013】
また、特許文献2の技術では、グリッド材料として鏡面内部に埋め込んだ導電性繊維を用いている。このため、鏡面を構成する強化繊維である誘電性繊維との特性の違いから、上記と同様の熱変形異方性が生じる。特許文献2では、この課題を、導電性繊維を短く切断して混合することにより解決する手段が示されている。しかしながら、この方法では、電波反射率の低下が起きてしまう。
【0014】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、グリッドリフレクタに生じる熱変形の異方性に起因するリフレクタの集光性の低下および電波反射率の低下を抑制することのできるグリッドリフレクタを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るグリッドリフレクタは、繊維強化複合材料からなるアンテナ鏡面と、アンテナ鏡面の表面または内部に形成された導体材料からなるグリッドパターンとを備えたグリッドリフレクタであって、繊維強化複合材料として、グリッドパターンと逆の熱膨張係数の異方性を持たせるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、繊維強化複合材料にグリッドパターンと逆の熱膨張係数の異方性を持たせるとともに、グリッド材料として導体材料を用いることにより、グリッドリフレクタに生じる熱変形の異方性に起因するリフレクタの集光性の低下および電波反射率の低下を抑制することのできるグリッドリフレクタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1におけるデュアルグリッドリフレクタを示す拡大図である。
【図2】本発明の実施の形態2におけるデュアルグリッドリフレクタを示す拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態3におけるデュアルグリッドリフレクタを示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のグリッドリフレクタの好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0019】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1におけるデュアルグリッドリフレクタの拡大図である。図1におけるデュアルグリッドリフレクタは、強化繊維1と強化繊維2からなる平織繊維強化複合材料3によって形成されるアンテナ鏡面、およびグリッドパターン4で構成されている。さらに、強化繊維1および強化繊維2は、それぞれパターニング方向5に平行方向および垂直方向に、それぞれ配向されている。また、グリッドパターン4は、アンテナ鏡面の表面または内部に形成され、パターニング処理された導体材料からなる。
【0020】
強化繊維2は、強化繊維1とは異なる繊維方向熱膨張係数または繊維方向引張弾性率を有する。より具体的には、強化繊維2は、
(ケース1)繊維方向熱膨張係数が強化繊維1と同程度で、かつ繊維方向引張弾性率が強化繊維1よりも小さな強化繊維、
(ケース2)繊維方向引張弾性率が強化繊維1と同程度で、かつ繊維方向熱膨張係数が強化繊維1より大きい強化繊維、
(ケース3)繊維方向引張弾性率が強化繊維1よりも小さく、かつ繊維方向熱膨張係数が強化繊維1よりも大きな強化繊維
のいずれかである。
【0021】
そして、強化繊維1および強化繊維2の組み合わせとしては、例えば、それぞれPBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維およびp−アラミド繊維が挙げられる。また、グリッドパターン4の材料としては、例えば、銅などが用いられる。さらに、平織繊維強化複合材料3を構成する樹脂としては、例えば、シアネート樹脂等が用いられ、その引張弾性率は、強化繊維の繊維方向引張弾性率よりも1桁以上小さい。
【0022】
一方、熱膨張係数については、強化繊維の繊維方向熱膨張係数は、負の値を示すのに対し、樹脂材料の熱膨張係数は、絶対値として強化繊維の熱膨張係数よりも1桁以上大きい正の値を示す。
【0023】
平織繊維強化複合材料3の熱膨張係数は、強化繊維および樹脂の引張弾性率、熱膨張係数と、強化繊維および樹脂の体積含有率とによって決まる。一般的に、グリッドパターン4を形成する導体材料の熱膨張係数は、平織繊維強化複合材料3のパターニング方向5の熱膨張係数よりも大きい。
【0024】
このような構成によれば、例えば、グリッドリフレクタに温度上昇が発生した場合、グリッドパターン4がパターニング方向5に伸長する。この結果、平織繊維強化複合材料3には、パターニング方向5に引張応力が発生する。このとき、平織繊維強化複合材料3は、ポアソン効果によってパターニング方向5に垂直な方向に収縮する。
【0025】
以上の作用により、グリッドリフレクタのパターニング方向5に平行な方向の熱膨張係数は、平織繊維強化複合材料3単体の同方向の熱膨張係数よりも大きくなる。一方、グリッドリフレクタのパターニング方向5に垂直な方向の熱膨張係数は、平織繊維強化複合材料3単体の同方向の熱膨張係数よりも小さくなる。
【0026】
ここで、本実施の形態1のように、パターニング方向5に垂直な方向に、繊維方向熱膨張係数が強化繊維1と同程度で、かつ繊維方向引張弾性率が強化繊維1よりも小さな強化繊維2を配向した、(ケース1)の場合を考える。この場合、平織繊維強化複合材料3のパターニング方向5に垂直な方向の熱膨張係数は、パターニング方向5の熱膨張係数に比べ大きくなる。
【0027】
このようにして生じた平織繊維強化複合材料3の熱膨張係数の異方性と、グリッドパターン4によって生じる熱変形の異方性とは、相殺し合うことになる。この結果、パターニング方向5およびそれに垂直な方向の熱変形量が等しくなり、アンテナリフレクタ全体として、等方的な熱変形挙動を実現することができる。
【0028】
また、強化繊維2として、上述した(ケース2)または(ケース3)を採用した場合にも、同様の効果が得られ、熱変形の異方性を解消することが可能となる。
【0029】
送受信する電波の周波数帯によって、グリッドパターン4の仕様は、変化しうる。グリッドパターン4の仕様を決定するパラメータとしては、主にグリッド幅、グリッド間隔、グリッド厚さ等が挙げられる。グリッドパターン4による異方性効果の大きさは、これらのパラメータによって異なってくる。
【0030】
本実施の形態1における図1の構成では、各配向方向の強化繊維として、強化繊維1または強化繊維2のどちらか一方の強化繊維を100%用いている場合を示した。しかしながら、各配向方向の繊維配合比率を変えることもできる。すなわち、各配向方向に強化繊維1および強化繊維2を所望の割合で配合した繊維束を用いることも可能である。これによって、グリッドパターン4による熱膨張係数の異方性効果の大きさに合わせて、平織繊維強化複合材料3の熱膨張係数逆異方性を調整することができる。
【0031】
以上のように、実施の形態1によれば、繊維強化複合材料は、グリッドのパターニング方向に対して平行方向の剛性および熱膨張係数に対する寄与が大きい方向に配向された強化繊維と、グリッドのパターニング方向に対して直交方向の剛性および熱膨張係数に対する寄与が大きい方向に配向された強化繊維とで構成されている。さらに、繊維強化複合材料にグリッドパターンと逆の熱膨張係数の異方性を持たせることで、両者の異方性が相殺される。
【0032】
これにより、アンテナ全体としての熱膨張係数を等方的になるように制御することができる。その結果、非相似的な熱変形が抑制されるため、このような熱変形が原因で生じるアンテナリフレクタの集光性低下が回避される。さらに、グリッド材料として導体材料を用いるため、電波反射率の低下は、生じない。
【0033】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、平織繊維強化複合材料3によって形成されるアンテナ鏡面を備えたデュアルグリッドリフレクタについて説明した。本実施の形態2では、平織繊維強化複合材料3に代えて、3軸織繊維強化複合材料6を用いる場合について説明する。
【0034】
図2は、本発明の実施の形態2におけるデュアルグリッドリフレクタの拡大図である。図2におけるデュアルグリッドリフレクタは、強化繊維1と強化繊維2からなる3軸織繊維強化複合材料6(繊維配向:+30度、−30度、90度)によって形成されるアンテナ鏡面、およびグリッドパターン4で構成されている。
【0035】
さらに、強化繊維1および強化繊維2とは、異なる繊維方向熱膨張係数または繊維方向引張弾性率を有し、それぞれ図2に示すように配向されている。また、グリッドパターン4は、アンテナ鏡面の表面または内部に形成され、パターニング処理された導体材料からなる。
【0036】
本実施の形態2における3軸織繊維強化複合材料6は、パターニング方向5を0度とすると、強化繊維を+30度、−30度および90度に配向しており、+30度、−30度方向に強化繊維1が配向され、90度方向に強化繊維2が配向されている。より具体的には、強化繊維2は、
(ケース1)繊維方向熱膨張係数が強化繊維1と同程度で、かつ繊維方向引張弾性率が強化繊維1よりも小さな強化繊維、
(ケース2)繊維方向引張弾性率が強化繊維1と同程度で、かつ繊維方向熱膨張係数が強化繊維1より大きい強化繊維、
(ケース3)繊維方向引張弾性率が強化繊維1よりも小さく、かつ繊維方向熱膨張係数が強化繊維1よりも大きな強化繊維
のいずれかである。
【0037】
そして、強化繊維1および強化繊維2の組み合わせとしては、例えば、それぞれPBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維およびp−アラミド繊維が挙げられる。また、グリッドパターン4の材料としては、例えば、銅などが用いられる。さらに、3軸織繊維強化複合材料6を構成する樹脂としては、例えば、シアネート樹脂等が用いられ、その引張弾性率は、強化繊維の繊維方向引張弾性率よりも1桁以上小さい。
【0038】
一方、熱膨張係数については、強化繊維の繊維方向熱膨張係数は、負の値を示すのに対し、樹脂材料の熱膨張係数は、絶対値として強化繊維の熱膨張係数よりも1桁以上大きい正の値を示す。
【0039】
3軸織繊維強化複合材料6の熱膨張係数は、強化繊維および樹脂の引張弾性率、熱膨張係数と、強化繊維および樹脂の体積含有率とによって決まる。一般的に、グリッドパターン4を形成する導体材料の熱膨張係数は、3軸織繊維強化複合材料6のパターニング方向5の熱膨張係数よりも大きい。
【0040】
このような構成によれば、例えば、グリッドリフレクタに温度上昇が発生した場合、グリッドパターン4がパターニング方向5に伸長する。この結果、3軸織繊維強化複合材料6には、パターニング方向5に引張応力が発生する。このとき、3軸織繊維強化複合材料6は、ポアソン効果によってパターニング方向5に垂直な方向に収縮する。
【0041】
以上の作用により、グリッドリフレクタのパターニング方向5に平行な方向の熱膨張係数は、3軸織繊維強化複合材料6単体の同方向の熱膨張係数よりも大きくなる。一方、グリッドリフレクタのパターニング方向5に垂直な方向の熱膨張係数は、3軸織繊維強化複合材料6単体の同方向の熱膨張係数よりも小さくなる。
【0042】
ここで、本実施の形態2のように、パターニング方向5に垂直な方向に、繊維方向熱膨張係数が強化繊維1と同程度で、かつ繊維方向引張弾性率が強化繊維1よりも小さな強化繊維2を配向した、(ケース1)の場合を考える。この場合、3軸織繊維強化複合材料6のパターニング方向5に垂直な方向の熱膨張係数は、パターニング方向5の熱膨張係数に比べ大きくなる。
【0043】
このようにして生じた3軸織繊維強化複合材料6の熱膨張係数の異方性と、グリッドパターン4によって生じる熱変形の異方性とは、相殺し合うことになる。この結果、パターニング方向5およびそれに垂直な方向の熱変形量が等しくなり、アンテナリフレクタ全体として、等方的な熱変形挙動を実現することができる。
【0044】
また、強化繊維2として、上述した(ケース2)または(ケース3)を採用した場合にも、同様の効果が得られ、熱変形の異方性を解消することが可能となる。
【0045】
送受信する電波の周波数帯によって、グリッドパターン4の仕様は、変化しうる。グリッドパターン4の仕様を決定するパラメータとしては、主にグリッド幅、グリッド間隔、グリッド厚さ等が挙げられる。グリッドパターン4による異方性効果の大きさは、これらのパラメータによって異なってくる。
【0046】
本実施の形態2における図2の構成では、各配向方向の強化繊維として、強化繊維1または強化繊維2のどちらか一方の強化繊維を100%用いている場合を示した。しかしながら、各配向方向の繊維配合比率を変えることもできる。すなわち、各配向方向に強化繊維1および強化繊維2を所望の割合で配合した繊維束を用いることも可能である。これによって、グリッドパターン4による熱膨張係数の異方性効果の大きさに合わせて、3軸織繊維強化複合材料6の熱膨張係数逆異方性を調整することができる。
【0047】
以上のように、実施の形態2によれば、平織繊維強化複合材料に代えて、3軸織繊維強化複合材料を用いる場合にも、先の実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0048】
実施の形態3.
本実施の形態3では、先の実施の形態2とは異なる構造を備えた3軸織繊維強化複合材料7を用いる場合について説明する。
【0049】
図3は、本発明の実施の形態3におけるデュアルグリッドリフレクタの拡大図である。図3におけるデュアルグリッドリフレクタは、強化繊維1と強化繊維2からなる3軸織繊維強化複合材料7(繊維配向:0度、+60度、−60度)によって形成されるアンテナ鏡面、およびグリッドパターン4で構成されている。
【0050】
さらに、強化繊維1および強化繊維2とは、異なる繊維方向熱膨張係数または繊維方向引張弾性率を有し、それぞれ図3に示すように配向されている。また、グリッドパターン4は、アンテナ鏡面の表面または内部に形成され、パターニング処理された導体材料からなる。
【0051】
本実施の形態3における3軸織繊維強化複合材料7は、パターニング方向5を0度とすると、強化繊維を0度、+60度および−60度に配向しており、0度方向に強化繊維1が配向され、+60度および−60度方向に強化繊維2が配向されている。より具体的には、強化繊維2は、
(ケース1)繊維方向熱膨張係数が強化繊維1と同程度で、かつ繊維方向引張弾性率が強化繊維1よりも小さな強化繊維、
(ケース2)繊維方向引張弾性率が強化繊維1と同程度で、かつ繊維方向熱膨張係数が強化繊維1より大きい強化繊維、
(ケース3)繊維方向引張弾性率が強化繊維1よりも小さく、かつ繊維方向熱膨張係数が強化繊維1よりも大きな強化繊維
のいずれかである。
【0052】
そして、強化繊維1および強化繊維2の組み合わせとしては、例えば、それぞれPBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維およびp−アラミド繊維が挙げられる。また、グリッドパターン4の材料としては、例えば、銅などが用いられる。さらに、3軸織繊維強化複合材料7を構成する樹脂としては、例えば、シアネート樹脂等が用いられ、その引張弾性率は、強化繊維の繊維方向引張弾性率よりも1桁以上小さい。
【0053】
一方、熱膨張係数については、強化繊維の繊維方向熱膨張係数は、負の値を示すのに対し、樹脂材料の熱膨張係数は、絶対値として強化繊維の熱膨張係数よりも1桁以上大きい正の値を示す。
【0054】
3軸織繊維強化複合材料7の熱膨張係数は、強化繊維および樹脂の引張弾性率、熱膨張係数と、強化繊維および樹脂の体積含有率とによって決まる。一般的に、グリッドパターン4を形成する導体材料の熱膨張係数は、3軸織繊維強化複合材料7のパターニング方向5の熱膨張係数よりも大きい。
【0055】
このような構成によれば、例えば、グリッドリフレクタに温度上昇が発生した場合、グリッドパターン4がパターニング方向5に伸長する。この結果、3軸織繊維強化複合材料7には、パターニング方向5に引張応力が発生する。このとき、3軸織繊維強化複合材料7は、ポアソン効果によってパターニング方向5に垂直な方向に収縮する。
【0056】
以上の作用により、グリッドリフレクタのパターニング方向5に平行な方向の熱膨張係数は、3軸織繊維強化複合材料7単体の同方向の熱膨張係数よりも大きくなる。一方、グリッドリフレクタのパターニング方向5に垂直な方向の熱膨張係数は、3軸織繊維強化複合材料7単体の同方向の熱膨張係数よりも小さくなる。
【0057】
ここで、本実施の形態3のように、繊維方向熱膨張係数が強化繊維1と同程度でかつ繊維方向引張弾性率が強化繊維1よりも小さな強化繊維2をパターニング方向5に対して+60度および−60度の方向に配向した、(ケース1)の場合を考える。この場合、3軸織繊維強化複合材料7のパターニング方向5に垂直な方向の熱膨張係数は、強化繊維2の繊維方向熱膨張係数および繊維方向引張弾性率が支配的となる。従って、3軸織繊維強化複合材料7のパターニング方向5に垂直な方向の熱膨張係数は、パターニング方向5の熱膨張係数に比べ大きくなる。
【0058】
このようにして生じた3軸織繊維強化複合材料7の熱膨張係数の異方性と、グリッドパターン4によって生じる熱変形の異方性とは、相殺し合うことになる。この結果、パターニング方向5およびそれに垂直な方向の熱変形量が等しくなり、アンテナリフレクタ全体として、等方的な熱変形挙動を実現することができる。
【0059】
また、強化繊維2として、上述した(ケース2)または(ケース3)を採用した場合にも、同様の効果が得られ、熱変形の異方性を解消することが可能となる。
【0060】
送受信する電波の周波数帯によって、グリッドパターン4の仕様は、変化しうる。グリッドパターン4の仕様を決定するパラメータとしては、主にグリッド幅、グリッド間隔、グリッド厚さ等が挙げられる。グリッドパターン4による異方性効果の大きさは、これらのパラメータによって異なってくる。
【0061】
本実施の形態3における図3の構成では、各配向方向の強化繊維として、強化繊維1または強化繊維2のどちらか一方の強化繊維を100%用いている場合を示した。しかしながら、各配向方向の繊維配合比率を変えることもできる。すなわち、各配向方向に強化繊維1および強化繊維2を所望の割合で配合した繊維束を用いることも可能である。これによって、グリッドパターン4による熱膨張係数の異方性効果の大きさに合わせて、3軸織繊維強化複合材料7の熱膨張係数逆異方性を調整することができる。
【0062】
以上のように、実施の形態3によれば、平織繊維強化複合材料に代えて、先の実施の形態2とは異なる構造からなる3軸織繊維強化複合材料を用いる場合にも、先の実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0063】
なお、上述の実施の形態1〜3では、(ケース1)〜(ケース3)を例示的に示して、強化繊維1および強化繊維2から構成された繊維強化複合材料を有するデュアルグリッドリフレクタの構成および効果を説明した。しかしながら、本願発明は、このような3ケースに限定されるものではなく、繊維強化複合材料にグリッドパターンと逆の熱膨張係数の異方性(すなわち、相殺し合う異方性)を持たせることができる構成を採用することで、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 強化繊維(第1の強化繊維)、2 強化繊維(第2の強化繊維)、3 平織繊維強化複合材料(繊維強化複合材料)、4 グリッドパターン、5 パターニング方向、6、7 3軸織繊維強化複合材料(繊維強化複合材料)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化複合材料からなるアンテナ鏡面と、
前記アンテナ鏡面の表面または内部に形成された導体材料からなるグリッドパターンと
を備えたグリッドリフレクタであって、
前記繊維強化複合材料として、前記グリッドパターンと逆の熱膨張係数の異方性を持たせることを特徴とするグリッドリフレクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のグリッドリフレクタにおいて、
前記繊維強化複合材料は、前記グリッドパターニング方向に対して平行方向の剛性および熱膨張係数に対する寄与が大きい方向に配向された第1の強化繊維と、前記グリッドパターニング方向に対して直交方向の剛性および熱膨張係数に対する寄与が大きい方向に配向された第2の強化繊維とで構成され、
前記第2の強化繊維が、
繊維方向熱膨張係数が前記第1の強化繊維と同程度で、かつ繊維方向引張弾性率が前記第1の強化繊維よりも小さい強化繊維、
または、繊維方向引張弾性率が前記第1の強化繊維と同程度で、かつ繊維方向熱膨張係数が前記第1の強化繊維より大きい強化繊維、
または、繊維方向引張弾性率が前記第1の強化繊維よりも小さく、かつ繊維方向熱膨張係数が前記第1の強化繊維よりも大きい強化繊維
であることを特徴とするグリッドリフレクタ。
【請求項3】
請求項2に記載のグリッドリフレクタにおいて、
前記繊維強化複合材料は、平織繊維強化複合材料であり、
前記第1の強化繊維は、前記パターニング方向に平行に配向され、
前記第2の強化繊維は、前記パターニング方向に垂直に配向される
ことを特徴とするグリッドリフレクタ。
【請求項4】
請求項2に記載のグリッドリフレクタにおいて、
前記繊維強化複合材料は、3軸織繊維強化複合材料であり、
前記第1の強化繊維は、前記パターニング方向を0度とすると、+30度、−30度方向に配向され、
前記第2の強化繊維は、前記パターニング方向を0度とすると、90度方向に配向される
ことを特徴とするグリッドリフレクタ。
【請求項5】
請求項2に記載のグリッドリフレクタにおいて、
前記繊維強化複合材料は、3軸織繊維強化複合材料であり、
前記第1の強化繊維は、前記パターニング方向を0度とすると、0度方向に配向され、
前記第2の強化繊維は、前記パターニング方向を0度とすると、+60度、−60度方向に配向される
ことを特徴とするグリッドリフレクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−206249(P2010−206249A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46367(P2009−46367)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、総務省、「偏波多重衛星通信技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】