説明

グリース溜まり付き転がり軸受

【課題】 グリース潤滑のためのグリース溜まりを有し、組付け時までにグリース溜まりからグリース等が抜け出るのを防ぐことができるグリース溜まり付き転がり軸受を提供する。
【解決手段】 転がり軸受6と、この転がり軸受6の固定側軌道輪2に隣接して配置される環状のグリース溜まり部品7とでなる。グリース溜まり部品7は、内部がグリース溜まり10として形成され、このグリース溜まり10内のグリースGまたはその基油を、グリース吐出口16から固定側軌道輪2の軌道面2aの近傍に吐出する。グリース溜まり部品7内に、グリース吐出口16内に出入り方向に移動自在な漏出防止部材17を設ける。この漏出防止部材17は、一部がグリース吐出口16から突出した状態でグリース吐出口16を塞ぎ、この突出状態からグリース吐出口16内に入ることでグリース吐出口16の塞ぎ状態を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に工作機械主軸等の高速で回転する軸の支持に用いられ、グリースで潤滑するグリース溜まり付き転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械主軸軸受の潤滑方法としては、主に、搬送エアに潤滑オイルを混合してオイルをノズルから噴射するエアオイル潤滑と、メンテナンスフリーで使用可能なグリース潤滑とがある。エアオイル潤滑は、付帯設備としてエアオイル供給装置が必要なことと、エアを必要とすることから、コスト、省エネ、省資源、騒音等の観点から問題がある。また、オイルの飛散によって環境を悪化させる問題もある。これらの問題を解決するために、近年では、グリース潤滑による高速化および長寿命化の試みが注目され始め、要望も多くなってきている。
【0003】
このような試みの一つに、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1に記載の転がり軸受は、固定側軌道輪である外輪に隣接して、内部にグリース溜まりが形成されたグリース溜まり形成部品を設け、このグリース溜まり形成部品の転がり軸受内に挿入された隙間形成片と外輪の内径面との間に形成された隙間を通って、グリース溜まり内のグリースを外輪の軌道面の近傍に供給するようにしたものである。
【特許文献1】特開2006−132765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の転がり軸受は、転がり軸受とグリース溜まり形成部品とが組み合わさって、グリース溜まり形成部品の隙間形成片と外輪の内径面との間にグリース供給用の隙間が形成されるものであるため、転がり軸受およびグリース溜まり形成部品を主軸に組付けるまでは、隙間形成片の外径面が外部に露出した状態となっている。このため、この隙間形成片の外径面部分からグリース溜まり内のグリース自体、およびグリースから分離した基油が抜け出てしまう可能性がある。
【0005】
この発明の目的は、グリース潤滑のためのグリース溜まりを有するグリース溜まり部品を備え、このグリース溜まり部品を転がり軸受と組み合わせるまでにグリース溜まりからグリースまたはその基油が抜け出るのを防ぐことができるグリース溜まり付き転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のグリース溜まり付き転がり軸受は、内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受と、この転がり軸受に対して、軌道輪である内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に隣接して配置される環状のグリース溜まり部品とでなり、このグリース溜まり部品は、内部がグリース溜まりとして形成され、このグリース溜まりに続き、前記固定側軌道輪の軌道面の近傍に開口してグリース溜まり内のグリースまたはその基油を吐出するグリース吐出口を有し、前記グリース溜まり部品内において、前記グリース吐出口内に出入り方向に移動自在に配置され一部が前記グリース吐出口から突出した状態で前記グリース吐出口を塞ぎ、この突出状態からグリース吐出口内に入ることで前記グリース吐出口の塞ぎ状態を解除する漏出防止部材を設け、この漏出防止部材は、前記グリース溜まり部品が前記転がり軸受に対して組立位置に配置されることで、前記固定側軌道輪の軌道面の近傍に当接して押し込められて前記塞ぎ状態が解除されることを特徴とする。
【0007】
この発明のグリース溜まり付き転がり軸受は、転がり軸受とグリース溜まり部品が分離された状態で、グリース溜まり部品のグリース溜まりにグリースを封入した後、そのグリース溜まり部品と転がり軸受を組立てる。グリース封入時のグリースの圧力により、漏出防止部材が押されて一部がグリース吐出口から突出して、グリース吐出口を塞ぐ。そのため、グリース溜まり部品と転がり軸受を組立てるまでに、グリース溜まり内のグリース自体またはその基油が漏出しない。グリース溜まりにグリースが封入されたグリース溜まり部品と転がり軸受とを組立てると、漏出防止部材が固定側軌道輪の軌道面の近傍に当接して押し込められることにより、グリース吐出口の塞ぎ状態が解除され、グリース溜まりのグリースまたは基油が吐出可能な状態となる。漏出防止部材が押し込まれる際に、漏出防止部材に押された分のグリースまたは基油が転がり軸受の固定側軌道輪の軌道面近傍に吐出されるため、グリース溜まり部品と転がり軸受を組立てた時点で転がり軸受に潤滑油が供給された状態となり、転がり軸受の初動運転が円滑に行える。
【0008】
この発明において、前記グリース吐出口は環状であり、前記漏出防止部材は、前記グリース吐出口よりも出入り方向の長さが長い筒状部と、この筒状部のグリース溜まり側に一体に設けられ、前記グリース吐出口の口径よりも外径が大きい鍔状部とを有するものとすることができる。その場合、前記グリース吐出口の内径面および外径面に、前記漏出防止部材の径方向位置を拘束する凸部を設けるとよい。また、前記漏出防止部材の筒状部の先端部に内径側と外径側とを連通する連通部を設けるとよい。
【0009】
グリース吐出口が環状であり、漏出防止部材が筒状部と鍔状部とを有する構成であると、グリース吐出口に筒状部が案内されて漏出防止部材が出入り方向に移動するため、漏出防止部材の動作が安定して行われる。この場合、漏出防止部材の鍔状部でグリース吐出口を塞ぐ。
前記凸部を設けると、グリース吐出口の径方向適正位置に漏出防止部材を保持することができ、転がり軸受運転時におけるグリース吐出口からのグリースまたは基油の吐出が良好に行われる。
前記連通部が設けられていないと、グリース吐出口内において漏出防止部材の内径側を通過したグリースまたは基油のみが転がり軸受内に供給されるが、連通部を設けると、グリース吐出口内において漏出防止部材の外径側のグリースまたは基油も連通部を通り抜けて転がり軸受内に供給されることになり、転がり軸受への潤滑油の供給が良好に行われる。
【0010】
この発明において、前記グリース吐出口はグリース溜まり部品の円周方向の複数箇所または1箇所に局所的に設けられ、前記漏出防止部材は、前記グリース吐出口の口径よりも直径が大きい球体としてもよい。
この構成によれば、グリース溜まり部品におけるグリース吐出口の周辺の構造および漏出防止部材の構造を簡略にできる。
【0011】
前記漏出防止部材を、前記グリース吐出口を塞ぐ側に弾性によって付勢する付勢手段を設けることができる。
上記付勢手段が設けられていると、グリース溜まり部品と転がり軸受を組立てるまでの間に、漏出防止部材でグリース吐出口を確実に塞いでおくことができ、グリースまたは基油の漏出防止効果が高くなる。
【0012】
前記転がり軸受はアンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、および円すいころ軸受のいずれであってもよい。この発明は上記各転がり軸受に適用できる。
【0013】
前記転がり軸受の転動体の材質は軸受鋼またはセラミックとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明のグリース溜まり付き転がり軸受は、内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受と、この転がり軸受に対して、軌道輪である内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に隣接して配置される環状のグリース溜まり部品とでなり、このグリース溜まり部品は、内部がグリース溜まりとして形成され、このグリース溜まりに続き、前記固定側軌道輪の軌道面の近傍に開口してグリース溜まり内のグリースまたはその基油を吐出するグリース吐出口を有し、前記グリース溜まり部品内において、前記グリース吐出口内に出入り方向に移動自在に配置され一部が前記グリース吐出口から突出した状態で前記グリース吐出口を塞ぎ、この突出状態からグリース吐出口内に入ることで前記グリース吐出口の塞ぎ状態を解除する漏出防止部材を設け、この漏出防止部材は、前記グリース溜まり部品が前記転がり軸受に対して組立位置に配置されることで、前記固定側軌道輪の軌道面の近傍に当接して押し込められて前記塞ぎ状態が解除されるため、グリース溜まり部品を転がり軸受と組み合わせるまでにグリース溜まりからグリースまたは基油が抜け出るのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の第1の実施形態を図1および図2と共に説明する。図1において、このグリース溜まり付き転がり軸受は、内輪1、外輪2、およびこれら内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在する複数の転動体3を有する転がり軸受6と、この転がり軸受6の外輪2に隣接して配置されるグリース溜まり部品7とでなる。複数の転動体3は、保持器4に保持されている。転がり軸受6はアンギュラ玉軸受であり、グリース溜まり部品7は転がり軸受6の軸受正面側に設けられる。転がり軸受6の内輪1は、図示しない主軸に嵌合して回転可能とされ、外輪2はスピンドルユニットにおける図示しないハウジングの内周に嵌合状態で固定支持される。内輪1および外輪2の材質は軸受鋼であり、転動体3の材質は軸受鋼またはセラミックである。
【0016】
固定側軌道輪となる外輪2には、その軌道面2aに続く段差面2bが、転動体3から離れる外輪正面側、つまり軌道面2aにおける接触角が生じる方向と反対側の縁部に続いて設けられている。この段差面2bは、軌道面2aから外径側に延びて外輪正面側に対面する面である。段差面2bから外輪正面側に続く内周面2cは、円筒状の面とされている。
【0017】
グリース溜まり部品7は、内径側部材8および外径側部材9を組み合わせて構成されたものであり、両部材8,9間に環状のグリース溜まり10が形成されている。図において、交差したハッチングで示す部分は、グリースGの充填された部分を示す。グリース溜まり部品7の外径の軸方向中間部に軸受背面側を向く段差面11が設けられ、この段差面11が外輪2の軸受正面側の端面2dに当接している。これにより、転がり軸受6およびグリース溜まり部品7を主軸に組付けた状態での外輪2の軸方向位置が位置決めされる。グリース溜まり部品7における前記段差面11よりも軸受正面側の部分は、内外輪1,2間の軸受空間に挿入された軸受内挿入部12とされ、その外径面13が前記外輪の内周面2cに嵌合している。図1(B)の部分拡大図に示すように、軸受内挿入部12の先端面14は、外輪2の段差面2bにわずかな隙間15を介して対向している。
【0018】
グリース溜まり部品7のグリース溜まり10は、径方向幅が軸受背面側に行くほど段階的に狭くなっており、その軸受背面側端に前記先端面14に抜けるグリース吐出口16が設けられている。グリース吐出口16は、内径側部材8と外径側部材9間に形成されて、軸方向に沿う環状の孔である。図示されていないが、グリース溜まり部品7には、グリース溜まり10にグリースを充填するためのグリース充填口が設けられている。グリース充填口は、例えば外径側部材9の軸受正面側部位9aに設けられる。
【0019】
グリース溜まり部品7には、転がり軸受6と組立てる時にグリース溜まり10内のグリースGまたはその基油が漏出するのを防止する漏出防止部材17が設けられている。この漏出防止部材17は、前記グリース吐出口16内の出入り方向すなわち軸方向に移動自在に配置され、グリース吐出口16よりも軸方向寸法が長く、かつ径方向寸法が短い筒状部17aと、この筒状部17aのグリース溜まり10側に一体に設けられ、径方向寸法が前記グリース吐出口16の径方向寸法よりも大きい鍔状部17bとを有する。鍔状部17bは、この実施形態のように、軸受背面側の面を、大径側ほど軸受正面側に後退したテーパ面としておくのがよい。また、鍔状部17bは、ゴム、樹脂等の弾性を有する材料で製作するのが望ましい。
【0020】
このグリース溜まり付き転がり軸受は、図2(A)のように、転がり軸受6に対して分離された状態にあるグリース溜まり部品7のグリース溜まり10にグリースGを封入してから、グリース溜まり部品7と転がり軸受6を組立てる。グリース封入時にグリースGがグリース溜まり10内に充填されるのに伴い、図2(B)のように、グリースGの圧力で漏出防止部材17がグリース溜まり部品7の先端側に押されて、漏出防止部材17の鍔状部17bがグリース吐出口16を塞ぐ。これにより、グリース溜まり10が密封された状態となり、グリース溜まり10のグリースG自体およびグリースGから分離した基油が漏出しない。前述したように、鍔状部17bの軸受背面側の面がテーパ面とされていると、密封性が高い。
【0021】
このようにグリース溜まり10にグリースGが封入されたグリース溜まり部品7を、図1のように転がり軸受6に対して組付けると、漏出防止部材17の筒状部17aの先端が外輪2の段差面2bに当たって、漏出防止部材17がグリース溜まり10側に押し込まれる。それにより、グリース吐出口16が開き、グリース溜まり10のグリースGまたは基油が吐出可能な状態となる。漏出防止部材17がグリース溜まり10側に押し込まれる際に、漏出防止部材17に押された分のグリースGまたは基油が外輪2の段差面2bに吐出され、それが軌道面2aに供給される。つまり、グリース溜まり部品7と転がり軸受6を組立てた時点で、転がり軸受6に潤滑油が供給された状態となっており、転がり軸受6の初動運転が円滑に行える。
【0022】
この実施形態では、グリース溜まり10に充填されるグリースGの圧力で漏出防止部材17をグリース溜まり部品7の先端側に押圧して、グリース吐出口16を塞ぐようにしているが、図3に示すように、ばね等の付勢手段18により、漏出防止部材17をグリース溜まり部品7の先端側へ弾性によって付勢するようにしてもよい。付勢手段18が設けられていると、グリース溜まり部品7と転がり軸受6を組立てるまでの間に、漏出防止部材17でグリース吐出口16を確実に塞いでおくことができ、グリースGまたは基油の漏出防止効果が高くなる。上記付勢手段18は、円周方向の3箇所程度に等配で設ければよい。
【0023】
また、図4に示すように、グリース吐出口16の内径面16aおよび外径面16bに、漏出防止部材17の径方向位置を拘束する凸部19を設けてもよい。凸部19が設けられていると、グリース吐出口16の径方向適正位置に漏出吐出口材17を保持することができ、転がり軸受6の運転時におけるグリース吐出口16からのグリースGまたは基油の吐出が良好に行われる。上記凸部19は、円周方向の最低3箇所に等配で設けるとよい。
【0024】
さらに、図5および図6に示すように、漏出防止部材17の筒状部17aの先端部に内径側と外径側とを連通する連通部20を設けてもよい。この実施形態では、連通部20は、筒状部17aの端面に形成された凹状の切欠きである。連通部20が設けられていないと、グリース吐出口16内において漏出防止部材17の内径側を通過したグリースGまたは基油のみが転がり軸受6内に供給され、漏出防止部材17の外径側のグリースGまたは基油は停滞してしまうが、連通部20が設けられていると、グリース吐出口16内において漏出防止部材17の外径側のグリースGまたは基油も連通部20を通り抜けて転がり軸受6内に供給されることになり、転がり軸受6への潤滑油の供給が良好に行われる。図6に示すように、円周上で連通部20が占める割合は80%程度であるのが望ましい。連通部20は、切欠きとせずに、筒状部17aの内径側と外径側とを連通する孔としてもよい。
【0025】
図7および図8は、この発明の第2の実施形態を示す。この実施形態は、転がり軸受6については第1の実施形態のものと全く同じであり、グリース溜まり部品7が第1の実施形態のものと異なっている。この実施形態のグリース溜まり部品7は、グリース吐出口16が円周方向の複数箇所に設けられた円形の開口とされ、漏出防止部材17は、上記グリース吐出口16に対応する円周方向位置に配置された球体とされている。漏出防止部材17の直径は、グリース吐出口16の口径よりも大きい。グリース吐出口16の軸方向長さは限りなく零に近い。そのため、漏出防止部材17が前記面16cに当接する状態で、漏出防止部材17の一部がグリース吐出口16の外に突出する。この突出量は、グリース溜まり部品7の先端面14と外輪2の段差面2b間の隙間15の寸法よりも大きい。また、グリース吐出口16の周囲のグリース溜まり10側の面16cは、上記球体である漏出防止部材17の表面と合致する球面状とされている。
【0026】
このグリース溜まり付き転がり軸受も、第1の実施形態と同様、転がり軸受6に対して分離された状態にあるグリース溜まり部品7のグリース溜まり10にグリースGを封入してから、グリース溜まり部品7と転がり軸受6を組立てる。グリースGがグリース溜まり10内に充填されるのに伴うグリースGの圧力で、図8のように、漏出防止部材17がグリース溜まり部品7の先端側に押されて、グリース吐出口16を塞ぐ。これにより、グリース溜まり10が密封された状態となり、グリース溜まり10のグリースGまたは基油が漏出しない。前述したように、グリース吐出口16の周囲のグリース溜まり10側の面16cが球面状であるため、密封性が高い。
【0027】
グリース溜まり10にグリースGが封入されたグリース溜まり部品7を、図7のように転がり軸受6に対して組付けると、漏出防止部材17の先端が外輪2の段差面2bに当たって、漏出防止部材17がグリース溜まり10側に押し込まれる。それにより、グリース吐出口16が開き、グリース溜まり10のグリースGまたは基油が吐出可能な状態となる。漏出防止部材17がグリース溜まり10側に押し込まれる際に、漏出防止部材17に押された分のグリースGまたは基油が外輪2の段差面2bに吐出され、それが軌道面2aに供給される。つまり、グリース溜まり部品7と転がり軸受6を組立てた時点で、転がり軸受6に潤滑油が供給された状態となっており、転がり軸受6の初動運転が円滑に行える。
【0028】
この実施形態についても、前記同様に、ばね等の付勢手段により、漏出防止部材17をグリース溜まり部品7の先端側に付勢するようにしてもよい(図示省略)。その場合も、前記同様の作用効果が得られる。
【0029】
図9は、図1および図2に示した第1の実施形態のグリース溜まり付き転がり軸受を用いた工作機械用スピンドル装置の例を示す。このスピンドル装置では、2個の上記グリース溜まり付き転がり軸受30を背面組合せで用いている。2個のグリース溜まり付き転がり軸受30A,30Bは、ハウジング32内で主軸31の両端を回転自在に支持する。各転がり軸受6の内輪1は、内輪位置決め間座36および内輪間座37により位置決めされ、内輪固定ナット39により主軸31に締め付け固定されている。外輪2は、外輪位置決め間座を兼ねるグリース溜まり部品7、外輪間座40および外輪押え蓋41,42によりハウジング32内に位置決め固定されている。ハウジング32は、ハウジング内筒32Aとハウジング外筒32Bとを嵌合させたものであり、その嵌合部に冷却のための通油溝43が設けられている。
【0030】
主軸31は、その前端の端部31aに工具またはワーク(図示せず)を着脱自在に取付けるチャック(図示せず)が設けられ、後ろ側の端部31bは、モータ等の駆動源が回転伝達機構(図示せず)を介して連結される。モータは、ハウジング32に内蔵してもよい。このスピンドル装置は、例えばマシニングセンター、旋盤、フライス盤、研削盤等の各種工作機械に適用できる。
【0031】
この構成のスピンドル装置によると、この実施形態のグリース溜まり付き転がり軸受30A,30Bにおける高速化、長寿命化、メンテナンスフリー化の作用が効果的に発揮される。
なお、このスピンドル装置は、第1の実施形態に係るグリース溜まり付き転がり軸受を適用した場合につき説明したが、他のいずれかの実施形態に係るグリース溜まり付き転がり軸受を用いてもよい。
【0032】
上記各実施形態では、転がり軸受6をアンギュラ玉軸受としたが、この発明は、転がり軸受6が円筒ころ軸受または円すいころ軸受である場合にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(A)はこの発明の第1の実施形態に係るグリース溜まり付き転がり軸受の断面図、(B)はその部分拡大図である。
【図2】(A),(B)は同グリース溜まり付き転がり軸受のグリース溜まり部品にグリースを封入する手順を示す説明図である。
【図3】異なるグリース溜まり部品の断面図である。
【図4】さらに異なるグリース溜まり部品の部分断面図である。
【図5】さらに異なるグリース溜まり部品を備えたグリース溜まり付き転がり軸受の部分断面図である。
【図6】同グリース溜まり部品の漏出防止部材を軸受背面側から見た図である。
【図7】(A)はこの発明の第2の実施形態に係るグリース溜まり付き転がり軸受の断面図、(B)はその部分拡大図である。
【図8】同グリース溜まり付き転がり軸受のグリース溜まり部品の断面図である。
【図9】この発明のグリース溜まり付き転がり軸受を備えたスピンドル装置の構成図である。
【符号の説明】
【0034】
1…内輪
1a…軌道面
2…外輪(固定側軌道輪)
2a…軌道面
3…転動体
4…保持器
6…転がり軸受
7…グリース溜まり部品
10…グリース溜まり
16…グリース吐出口
17…漏出防止部材
17a…筒状部
17b…鍔状部
18…付勢手段
19…凸部
20…連通部
G…グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受と、この転がり軸受に対して、軌道輪である内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に隣接して配置される環状のグリース溜まり部品とでなり、
このグリース溜まり部品は、内部がグリース溜まりとして形成され、このグリース溜まりに続き、前記固定側軌道輪の軌道面の近傍に開口してグリース溜まり内のグリースまたはその基油を吐出するグリース吐出口を有し、
前記グリース溜まり部品内において、前記グリース吐出口内に出入り方向に移動自在に配置され一部が前記グリース吐出口から突出した状態で前記グリース吐出口を塞ぎ、この突出状態からグリース吐出口内に入ることで前記グリース吐出口の塞ぎ状態を解除する漏出防止部材を設け、この漏出防止部材は、前記グリース溜まり部品が前記転がり軸受に対して組立位置に配置されることで、前記固定側軌道輪の軌道面の近傍に当接して押し込められて前記塞ぎ状態が解除されることを特徴とするグリース溜まり付き転がり軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記グリース吐出口は環状であり、前記漏出防止部材は、前記グリース吐出口よりも出入り方向の長さが長い筒状部と、この筒状部のグリース溜まり側に一体に設けられ、前記グリース吐出口を塞ぐ鍔状部とを有するグリース溜まり付き転がり軸受。
【請求項3】
請求項2において、前記グリース吐出口の内径面および外径面に、前記漏出防止部材の径方向位置を拘束する凸部を設けたグリース溜まり付き転がり軸受。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、前記漏出防止部材の筒状部の先端部に内径側と外径側とを連通する連通部を設けたグリース溜まり付き転がり軸受。
【請求項5】
請求項1において、前記グリース吐出口はグリース溜まり部品の円周方向の複数箇所または1箇所に局所的に設けられ、前記漏出防止部材は、前記グリース吐出口の口径よりも直径が大きい球体であるグリース溜まり付き転がり軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記漏出防止部材を、前記グリース吐出口を塞ぐ側に弾性によって付勢する付勢手段を設けたグリース溜まり付き転がり軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記転がり軸受はアンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、および円すいころ軸受のいずれかであるグリース溜まり付き転がり軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記転がり軸受の転動体の材質は軸受鋼またはセラミックであるグリース溜まり付き転がり軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−228750(P2009−228750A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73814(P2008−73814)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】