説明

グリース組成物

【課題】低摩擦性及び低摩耗性に優れたグリースの提供。
【解決手段】 円盤状化合物、好ましくは下記一般式(1)で表される円盤状化合物から選ばれる少なくとも一種と、増ちょう剤とを含有するグリース組成物である。式中、Dはm個の側鎖と結合可能な環状の基を表し、Xは各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、Rは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基もしくはその塩、スルホ基もしくはその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基またはウレタン基を表す。mは2〜11の整数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品の潤滑剤として使用される潤滑グリースは、一般的には、増ちょう剤、基油、添加剤の三つから構成されている。グリースの特性の大部分は増ちょう剤の種類、あるいは基油の種類によって決まってしまう場合が多いが、それだけでは補いきれない特性を付加するために各種の添加剤が添加されている。
近年、産業界では省力化および機械の技術革新が進められ、使用環境の過酷化、機械の長寿命化、機械部品の小型化、メンテナンスフリー化指向に対応するため、潤滑部品に寄与するグリースに要求される性能も、より高いものが求められるようになってきた。従ってそこに使用されるグリースは更に低摩擦特性に優れ、耐熱性、長寿命特性を有することが望まれている。従来のグリースはその潤滑性が基油そのものの潤滑特性に大きく影響され、耐摩擦性、耐摩耗性、カジリ防止特性に限界があり改善すべき余地がある。基油に特定の増ちょう剤等を添加することで、所定の性質が改善されたグリース組成物が種々提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開平7−34083号公報
【特許文献2】特開平8−209176号公報
【特許文献3】特開2004−204218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、低摩擦性及び低摩耗性のグリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
(1) 円盤状化合物の少なくとも一種と、増ちょう剤とを含有するグリース組成物。
(2) 前記円盤状化合物の少なくとも一種が、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる(1)のグリース組成物。
【0005】
【化1】

式中、Dはm個の側鎖と結合可能な環状の基を表し、Xは各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、Rは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基もしくはその塩、スルホ基もしくはその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基またはウレタン基を表す。mは2〜11の整数を表す。
【0006】
(3) Dが5〜7員環構造の複素環残基である(2)のグリース組成物。
(4) 上記一般式(1)が下記一般式(2)で表される(2)又は(3)のグリース組成物。
【0007】
【化2】

(式中、X1、X2およびX3は各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、R11、R12およびR13は各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基またはその塩、スルホ基またはその塩、ヒドロキヒアミノ基、ウレイド基またはウレタン基を表す。)
【0008】
(5) 上記一般式(1)が、下記一般式(3)で表される(2)又は(3)のグリース組成物。
【0009】
【化3】

(式中、X21、X22およびX23は、各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、R21、R22およびR23は各々独立に置換基を表す。a21、a22およびa23は各々独立して1〜5の整数を表す。)
【0010】
(6) 前記増ちょう剤が、金属セッケン増ちょう剤の少なくとも一種を含有する(1)〜(5)のずれかのグリース組成物。
(7) 前記増ちょう剤が、ウレア系増ちょう剤の少なくとも一種を含有する(1)〜(6)のいずれかのグリース組成物。
(8) 前記増ちょう剤が、無機系増ちょう剤の少なくとも一種を含有する(1)〜(7)のいずれかのグリース組成物。
(9) 前記増ちょう剤が、有機系増ちょう剤の少なくとも一種を含有する(1)〜(8)のいずれかのグリース組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低摩擦性及び低摩耗性のグリース組成物を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、円盤状化合物の少なくとも一種と、増ちょう剤とを含有するグリース組成物に関する。本明細書において、「円盤状化合物」とはその中心部に円盤状の部分構造を有する化合物をいう。円盤状の部分構造は、分子構造から側鎖部を除いた中心の部分構造であり、その形態的特徴を、例えば、その原形となる化合物である水素置換体について説明すれば、以下のように表現することができる。
まず、以下の1)〜5)の方法により、円盤状の部分構造の原形となる水素置換体についての分子の大きさを求める。
1) 対象となる分子につき、できる限り平面に近い、好ましくは平面分子構造を構築する。この場合、結合距離、結合角としては、軌道の混成に応じた標準値を用いる事が好ましく、例えば日本化学会編、化学便覧改訂4版基礎編、第II分冊15章(1993年刊 丸善)を参照することができる。
2) 前記1)で得られた構造を初期値として、分子軌道法や分子力場法にて構造最適化する。方法としては例えば、Gaussian92、MOPAC93、CHARMm/QUANTA、MM3 が挙げられる。好ましくはGaussian92である。
3) 構造最適化によって得られた構造の重心を原点に移動させ、座標軸を慣性主軸(慣性テンソル楕円体の主軸)にとる。
4) 各原子にファンデルワールス半径で定義される球を付与し、これによって分子の形状を記述する。
5) ファンデルワールス表面上で各座標軸方向の長さを計測し、それらそれぞれをa、bおよびcとする。
以上の手順1)〜5)により求められたa、bおよびcを用いて、円盤状の形態を定義すると、a≧b>c且つa≧b≧a/2を満足する形態、好ましくはa≧b>c且つa≧b≧0.7aを満足する形態である。また、b/2>cを満足する形態も好ましい。
【0013】
また、円盤状部分構造の原形となる水素置換体である円盤状化合物の具体例を挙げると、例えば、日本化学会編、季刊化学総説No.22「液晶の化学」第5章、第10章2節(1994年刊 学会出版センター);C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.liq.Cryst.71巻、111頁(1981年);B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年);J.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,1794頁(1985年);J.Zhang、J.s.Mooreらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.,116巻、2655頁(1994年);に記載の母核化合物およびその誘導体が挙げられる。例えば、ベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体、トルキセン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、アントラセン誘導体、ヘキサエチニルベンゼン誘導体、ジベンゾピレン誘導体、コロネン誘導体およびフェニルアセチレンマクロサイクル誘導体が挙げられる。さらに、日本化学会編、“化学総説No.15 新しい芳香族の化学”(1977年 東京大学出版会刊)に記載の環状化合物およびそれらの複素原子置換等電子構造体を挙げることができる。
【0014】
前記円盤状化合物は、円盤状部分構造である環状の基と、該環状の基に結合した複数個(好ましくは2〜11個)の側鎖とを有する化合物であるのが好ましい。側鎖の少なくとも一つは、エステル結合を有しているのが好ましい。特に、側鎖の少なくとも一つが、下記一般式(4a)または一般式(4b)で表される基を含んでいるのが好ましい。なお、以下の式中、左側(−X0)がD側に結合する。
【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
式中、X0は単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。
0は、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜20の、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキレン基を表す)、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。二価の連結基は置換基を有していてもよい。L0はアルキレン基が好ましい。
また、X0とL0との組み合わせの基としては、−O(C=O)−アルキレン−、−O(C=O)−シクロアルキレン−が好ましい。
0は化合物の側鎖末端に位置し、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
【0018】
また、前記側鎖のうち少なくとも一つは、前記一般式(4a)で表される基を含んでいるのがより好ましい。中でも、側鎖が下記一般式(4)で表される基を含んでいるのがさらに好ましい。なお、以下の式中、左側(−L01)が環状の基側に結合する。
【0019】
【化6】

【0020】
01はX0と同義である。L01は酸素原子、硫黄原子、−(C=O)O−、−NH−(C=O)O−であるのが好ましい。R01は炭素原子数が1〜30の置換もしくは無置換のアルキル基を表し、pおよびqは各々整数を表す。R01の炭素原子数は1〜40であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ等)、スルフィド基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ等)、アルキルアミノ基(メチルアミノ、プロピルアミノ等)、アシル基(アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル等)およびアシルオキシ基(アセトキシ、ピバロイルオキシ、バンゾイルオキシ等)や、アリール基、複素環基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、およびウレイド基等が挙げられる。pは1〜20が好ましく、2〜10がより好ましい。qは1〜10が好ましく、1〜5がより好ましい。
【0021】
また、前記側鎖のうち少なくとも一つが、下記一般式(5)又は(6)で表される基を含んでいるのも好ましい。
【0022】
【化7】

式中、R01は炭素原子数が1〜30の置換もしくは無置換のアルキル基を表し、mおよびnは各々整数を表し、一般式(4)におけるR01と同じ意味の基を表す。
【0023】
【化8】

式中、R25は置換基を表し、a24は1〜5の整数を表す。
【0024】
また、前記側鎖の少なくとも一部が、下記一般式(7)で表される基であるのも好ましい。
【0025】
【化9】

【0026】
式中、L21は、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。好ましくは、酸素原子、オキシアルキレン基、オキシカルボニル基、アミノカルボニル基、カルボニルオキシ基およびカルボニル基であり、オキシカルボニル基およびカルボニル基がより好ましい。
【0027】
置換基R25、R71およびR72の例には、ハロゲン原子、アルキル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、アルケニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20の)、アルキニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20の)、アリール基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20の)、ヘテロ環基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20の)、シリルオキシ基(炭素原子数3〜40の、好ましくは3〜20の)、ヘテロオキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、アシルオキシ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20の)、カルバモイルオキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、アルコキシカルボニルオキシ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20の)、アリールオキシカルボニルオキシ基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20の)、アミノ基、アシルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、アミノカルボニルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、アルコキシアミノカルボニルアミノ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20の)、アリールオキシカルボニルアミノ基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20の)、スルファモイルアミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20の)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、メルカプト基、アルキルチオ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、アリールチオ基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20の)、ヘテロ環チオ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、スルファモイル基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20の)、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、アルキルおよびアリールスルホニル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、アシル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、アリールオキシカルボニル基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20の)、アルコキシカルボニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20の)、カルバモイル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、アリールおよびヘテロ環アゾ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20の)、イミド基(炭素原子数4〜40の、好ましくは4〜20の)、ホスフィノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20の)、ホスフィニル基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20の)、ホスフィニルオキシ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20の)、ホスフィニルアミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20の)、シリル基(炭素原子数3〜40の、好ましくは3〜20の)が含まれる。さらに、置換基R71及びR72は、これらの置換基から選ばれる1種以上の置換基によって置換されたこれらの置換基も含まれる。R71の置換基としては直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換された、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基およびアシル基が好ましい。aは0あるいは1〜5の整数であり、好ましくは1〜3である。
71の炭素原子数は1〜40であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。
【0028】
また、前記側鎖の少なくとも一つが、部分フッ化炭素基、フッ化炭素基を含んでいるのも好ましい。フッ化炭素基について二重結合、分岐、環状基、芳香環の有無は問わない。前記側鎖の少なくとも一つが、下記一般式(8)で表される基であるのも好ましい。
【0029】
【化10】

【0030】
式中、L21は、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜20の、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキレン基を表す)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。好ましくは、酸素原子、オキシアルキレン基、オキシカルボニル基、アミノカルボニル基、カルボニルオキシ基およびカルボニル基であり、オキシカルボニル基およびカルボニル基がより好ましい。
【0031】
置換基R81の例には、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニリオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシアミノカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルファモイルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールおよびヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が含まれる。これらの基の好ましい炭素数は置換基R25、R71およびR72と同じである。さらに、置換基R81は、これらの置換基から選ばれる1種以上の置換基によって置換されたこれらの置換基も含まれる。a個のR81のうち少なくとも1つは部分フッ化炭素基、フッ化炭素基を含む。フッ化炭素基について二重結合、分岐、環状基、芳香環の有無は問わない。R81の置換基としては部分フッ化炭素基、フッ化炭素基を含む直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換された、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基およびアシル基が好ましい。aは0あるいは1〜5の整数であり、好ましくは1〜3である。
81の炭素原子数は1〜40であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。
【0032】
前記円盤状の化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0033】
【化11】

【0034】
式中、Dはm個の側鎖と結合可能な環状の基を表し、Xは各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、Rは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基またはその塩、スルホ基またはその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基またはウレタン基を表す。mは2〜11の整数を表す。
【0035】
前記一般式(1)中、Dが表す環状の基の例には、芳香族基および複素環基が含まれる。芳香族基の芳香族環の例には、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、トリフェニレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環およびピレン環が含まれる。芳香族基は置換基を有していてもよい。
複素環基は、5員、6員または7員の複素環を有することが好ましい。5員環または6員環がさらに好ましく、6員環が最も好ましい。複素環を構成する複素原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましい。複素環は、芳香族性複素環であることが好ましい。芳香族性複素環は、一般に不飽和複素環である。最多二重結合を有する不飽和複素環がさらに好ましい。複素環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピロリン環、ピロリジン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、ピラゾール環、ピラゾリン環、ピラゾリジン環、トリアゾール環、フラザン環、テトラゾール環、ピラン環、チイン環、ピリジン環、ピペリジン環、オキサジン環、モルホリン環、チアジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペラジン環およびトリアジン環が含まれる。トリアジン環が好ましく、1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。複素環に他の複素環、脂肪族環または芳香族環が縮合していてもよい。ただし、単環式複素環が好ましい。
【0036】
前記一般式(1)中、Xは単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。Xが単結合の場合、複素環基でピペリジンのように遊離原子価をもった窒素原子で直接結合してもよく、さらに、遊離原子価がなくともヘテロ原子で結合し、オキソニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩のようにオニウム塩を形成してもよい。一般式(1)のXは、硫黄原子またはNR1基が好ましく、R1は炭素数が3以下のアルキル基または水素原子が好ましい。
【0037】
前記一般式(1)中、Rがアルキル基の場合は、炭素数が1〜30であるのが好ましく、2〜30であることがより好ましく、4〜30であることがさらに好ましく、6〜30であることが最も好ましい。アルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ等)、スルフィド基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ等)、アルキルアミノ基(メチルアミノ、プロピルアミノ等)、アシル基(アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル等)およびアシルオキシ基(アセトキシ、ピバロイルオキシ、ベンゾイルオキシ等)や、水酸基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基およびウレイド基等が挙げられる。
一般式(1)のRがアルケニル基、アルキニル基の炭素数および形状は、アルキル基と同義であり、また、同様の置換基を有していてもよい。
【0038】
前記一般式(1)中、Rがアリール基の場合は、フェニル基、インデニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基およびピレニル基等が挙げられるが、フェニル基やナフチル基が好ましい。さらに、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、上記アルキル基の置換基で例示したものの他、アルキル基が挙げられ、炭素数8以上の直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基、例えばアルキル基(オクチル、デシル、ヘキサデシル、2−エチルヘキシル等)、アルコキシ基(ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ等)、スルフィド基(ヘキサデシルチオ等)、置換アミノ基(ヘプタデシルアミノ等)、オクチルカルバモイル基、オクタノイル基およびデシルスルファモイル基等で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、2つ以上置換していることが好ましく、さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
【0039】
前記一般式(1)中、Rが複素環基の場合では、Dと同様に、5〜7員環構造の複素環基が好ましく、5員環または6員環がより好ましく、6員環が最も好ましい。これらの骨格の具体的な例も、岩波理化学辞典 第3版増補版(岩波書店発行)の付録11章 有機化学命名法 表4.主要複素単環式化合物の名称 1606頁および表5.主要縮合複素環式化合物の名称 1607頁に記載される化合物が挙げられる。また、これらは、アリール基と同様に、置換基を有していてもよく、炭素数8以上の直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、2つ以上置換していることが好ましく、さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
【0040】
Rのうち少なくとも1つは、エステル結合を有しているのが好ましく、エステル結合を含有する直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアルコキシ基であるのがより好ましい。さらに、Rの全てがエステル結合を含んでいるのがさらに好ましく、全てが、エステル結合を含有する直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアルコキシ基であるのがさらにより好ましい。即ち、Rのうち少なくとも1つは、前記式(4a)又は(4b)で表される基を含んでいるのが好ましく、前記式(4)〜(6)のいずれかで表される基を含んでいるのがより好ましい。
また、R−X−のうち少なくとも一つが、前記一般式(7)又は(8)で表される基であるのも好ましく、全てが前記一般式(7)又は(8)で表される基であるのもより好ましい。
【0041】
前記一般式(1)で表される化合物の中でも、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0042】
【化12】

【0043】
式中、X1、X2およびX3は各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。X1、X2、X3が単結合の場合、複素環基でピペリジンのように遊離原子価をもった窒素原子で直接結合してもよく、さらに、遊離原子価がなくともヘテロ原子で結合し、オキソニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩のようにオニウム塩を形成してもよい。X1、X2、X3は、単結合でない場合、NR1基(R1は、炭素数が1〜30のアルキル基または水素原子)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基、例えば、オキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ウレイレン基、オキシスルホニル基、スルファモイル基等を表す。硫黄原子またはNR1基が好ましく、R1は、炭素数が3以下のアルキル基または水素原子が好ましい。この中では、イミノ基(−NH−)がより好ましい。
【0044】
前記一般式(2)中、R11、R12およびR13は、各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基またはその塩、スルホ基またはその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基またはウレタン基を表す。
【0045】
11、R12、R13でそれぞれ表されるアルキル基は、炭素数が1〜30であり、2〜30であることが好ましく、4〜30であることがより好ましく、6〜30であることが最も好ましい。アルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ等)、スルフィド基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ等)、アルキルアミノ基(メチルアミノ、プロピルアミノ等)、アシル基(アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル等)およびアシルオキシ基(アセトキシ、ピバロイルオキシ、ベンゾイルオキシ等)や、水酸基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基およびウレイド基等が挙げられる。R11、R12、R13がアルケニル基、アルキニル基の炭素数および形状は、アルキル基と同義であり、また、同様の置換基を有していてもよい。
【0046】
11、R12、R13でそれぞれ表されるアリール基では、フェニル基、インデニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基およびピレニル基等が挙げられるが、フェニル基やナフチル基が好ましい。さらに、炭素数8以上の直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基、例えばアルキル基(オクチル、デシル、ヘキサデシル、2−エチルヘキシル等)、アルコキシ基(ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、2−ヘキシルデシルオキシ、ヘキシルオキシエチレンオキシエチレンオキシ等)、スルフィド基(ヘキサデシルチオ等)、置換アミノ基(ヘプタデシルアミノ等)、オクチルカルバモイル基、オクタノイル基およびデシルスルファモイル基等で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、2つ以上置換していることが好ましく、さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
【0047】
11、R12、R13でそれぞれ表される複素環基では、一般式(1)のDと同様に、5〜7員環構造の複素環残基が好ましく、5員環または6員環がより好ましく、6員環が最も好ましい。これらの骨格の具体的な例も、岩波理化学辞典 第3版増補版(岩波書店発行)の付録11章 有機化学命名法 表4.主要複素単環式化合物の名称 1606頁および表5.主要縮合複素環式化合物の名称1607頁に記載される化合物が挙げられる。また、これらは、アリール基と同様に、炭素数8以上の直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、2つ以上置換していることが好ましく、さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
【0048】
11、R12およびR13のうち少なくとも1つは、エステル結合を有しているのが好ましく、エステル結合を含有する直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアルコキシ基であるのがより好ましい。さらに、R11、R12およびR13の全てがエステル結合を含んでいるのがさらに好ましく、全てが、エステル結合を含有する直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアルコキシ基であるのがさらにより好ましい。即ち、R11、R12およびR13のうち少なくとも1つは、前記式(4a)又は(4b)で表される基を含んでいるのが好ましく、前記式(4)〜(6)のいずれかで表される基を含んでいるのがより好ましい。
11−X1−、R12−X2−及びR13−X3−のうち少なくとも一つが、前記一般式(7)又は(8)で表される基であるのも好ましく、全てが前記一般式(7)又は(8)で表される基であるのもより好ましい。
【0049】
さらに前記一般式(2)で表される化合物のより好ましい態様として、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0050】
【化13】

【0051】
式中、X21、X22およびX23は、各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。X21、X22、X23が単結合の場合、複素環基でピペリジンのように遊離原子価をもった窒素原子で直接結合してもよく、さらに、遊離原子価がなくともヘテロ原子で結合し、オキソニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩のようにオニウム塩を形成してもよい。X21、X22、X23が単結合でない場合、NR1基(R1は、炭素数が1〜30のアルキル基または水素原子)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基、例えば、オキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ウレイレン基、オキシスルホニル基、スルファモイル基等を表す。X21、X22およびX23は、硫黄原子またはNR1基であるのが好ましく、R1は炭素数が3以下のアルキル基または水素原子が好ましい。この中では、イミノ基(−NH−)がより好ましい。
【0052】
式中、R21、R22およびR23は各々独立に置換基を表す。置換基R21、R22およびR23は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシアミノカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルファモイルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールおよびヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が含まれる。これらの基の好ましい炭素数は、置換基R25、R71およびR72と同じである。さらに、置換基R21、R22およびR23は、これらの置換基から選ばれる1種以上の置換基によって置換されたこれらの置換基も含まれる。
【0053】
21、R22およびR23のうち少なくとも1つは、エステル結合を有しているのが好ましく、エステル結合を含有する直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアルコキシ基であるのがより好ましい。さらに、R21、R22およびR23の全てがエステル結合を含んでいるのがさらに好ましく、全てが、エステル結合を含有する直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアルコキシ基であるのがさらにより好ましい。即ち、R21、R22およびR23のうち少なくとも1つは、前記式(4a)又は(4b)で表される基を含んでいるのが好ましく、前記式(4)〜(6)のいずれかで表される基を含んでいるのがより好ましい。
また、式中の(R21a21−Ph−X21−、(R22a22−Ph−X22−及びR23a23−Ph−X23−のうち少なくとも一つが、前記一般式(7)又は(8)で表される基であるのも好ましく、全てが前記一般式(7)又は(8)で表される基であるのもより好ましい。
【0054】
前記式中、a21、a22およびa23は各々独立して1〜5の整数を表す。
【0055】
以下に、本発明に使用可能な前記一般式(1)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
【0056】
【化14】

【0057】
【化15】

【0058】
【化16】

【0059】
【化17】

【0060】
【化18】

【0061】
【化19】

【0062】
【化20】

【0063】
【化21】

【0064】
【化22】

【0065】
【化23】

【0066】
【化24】

【0067】
【化25】

【0068】
【化26】

【0069】
【化27】

【0070】
【化28】

【0071】
前記一般式(1)で表される円盤状化合物の製造方法としては、例えば、種々の構造の母核となる円盤状化合物に、エステル基等を有する側鎖を反応させる方法(例えば塩化シアヌルの求核置換反応やチオシアヌル酸のアルキル化、ベンゼン誘導体のカップリング反応あるいはヒドロキシ置換されたベンゼン誘導体のアルキル化、アシル化、エーテル化およびアミド化等)、およびエステル基を有する側鎖構造の化合物を用いて環状構造を構築して円盤状化合物とする方法が挙げられる。中でも、ハロゲン原子を有する環状化合物(例えば塩化シアヌル、塩化ピリミジン等が挙げられる)と活性水素を持った化合物(アミン、アニリン、アルコール、フェノール、チオアルコール、チオフェノール等の誘導体が挙げられる)との反応より合成する方法が好ましい。その中でも塩化シアヌルを用いた反応が好ましい。
【0072】
反応に使用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素系有機溶媒、例えばジクロロメタン、エステル系有機溶媒、例えば、酢酸メチル若しくは酢酸エチル、ケトン系有機溶媒、例えばアセトン若しくはメチルエチルケトン、エ−テル系有機溶媒、例えばテトラヒドロフラン若しくはジオキサン、ニトリル系有機溶媒、例えばアセトニトリル若しくはプロピオニトリル、アミド系有機溶媒、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン、1,3−ジメチル−3,4,5,6,−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(DMPU)若しくはヘキサメチルリン酸トリアミド、若しくは、スルホキシド系有機溶媒、例えばジメチルスルホキシド等があげられる。また、必要ならば、触媒、塩基を用いてもよい。また、特願2004−080527号明細書に記載されている様に、塩基の存在下、水と有機溶媒との混合溶媒中で、塩化シアヌルとアミノフェノール誘導体とを反応させると高収率で、トリス(ヒドロキシフェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン類を合成できるので好ましい。
【0073】
本発明のグリース組成物において、前記円盤状化合物の含有量は、低摩擦特性の観点から、40〜95質量%であるのが好ましく、60〜90質量%であるのがより好ましい。本発明において、前記円盤状化合物は、基油の代わりに用いることができる。従って、本発明のグリース組成物は、通常グリースに含有される基油を含んでいなくてもよい。
【0074】
本発明のグリース組成物は、増ちょう剤を含有する。本発明に使用する増ちょう剤は、特に制限されず、従来一般的に使用されている増ちょう剤のいずれも使用可能である。例えば、Li石けん、複合Li石けん等の石けん系増ちょう剤;ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤;有機クレイやシリカに代表される無機系増ちょう剤;及びPTFEに代表される有機系増ちょう剤;等が挙げられる。これらのうち、特に好ましいものは、ウレア系増ちょう剤である。ウレア系増ちょう剤は、高荷重下の潤滑による発熱に対する耐性に優れ、他の増ちょう剤と比較して安価であり、従って実用性が高い。
【0075】
ウレア系増ちょう剤としては、ジウレア化合物及びポリウレア化合物等のいずれであってもよい。ジウレア化合物は、例えば、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等のジイソシアネー卜と、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オタタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等のモノアミンとの反応で得られる。ポリウレア化合物は、例えば、上記例示したのと同様のジイソシアネー卜と、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等のジアミンとの反応で得られる。ウレア系増ちょう剤は、ジウレア化合物から選択されるのが好ましく、オクチルアミン、ステアリルアミン等の脂肪族系アミン、シクロヘキシルアミン又はこれらの混合物と、ジイソシアネー卜化合物との反応によって得られるジウレア化合物から選択されるのがより好ましい。また、特開平11−241084号公報に記載の一般式(1)で表されるウレア化合物と一般式(2)で表されるジウレア化合物との混合物である増ちょう剤;特開平7−34083号公報に記載の芳香族ジウレア化合物;等を用いることもできる。
【0076】
本発明のグリース組成物中の増ちょう剤の好ましい含有量の範囲は、増ちょう剤の種類により変動する。本発明のグリース組成物中、例えば、石けん系増ちょう剤の含有量は、通常1〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。ウレア系増ちょう剤の含有量は、通常0.1〜30質量%が好ましく、1〜25質量%がより好ましい。
【0077】
本発明のグリース組成物は、好ましい特性を損なわない限り、増ちょう剤以外に、防錆剤、酸化防止剤等の他の添加剤を含有していてもよい。例えば、リチウム以外の金属塩からなる金属石けん、ベントンやシリカゲル等の他の増ちょう剤;アミン系、フェノール系、イオウ系、ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤;塩素系、イオウ系、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤;脂肪酸、植物油等の油性剤;石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、ソルビタンエステル等の防錆剤;ベンゾトリアゾールや亜硝酸ソーダ等の金属不活性化剤;ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレン等の粘度指数向上剤等を、単独または2種以上組み合わせて添加することができる。また、特開2002−371290号公報に記載されている様に、モンタンワックスを添加してもよい。
【0078】
本発明のグリース組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて通常の潤滑剤基油の1種または2種以上を混合することも可能である。前記基油については特に制限されず、従来一般的に、潤滑剤又はグリースに用いられている基油のいずれも使用することができる。前記基油として、鉱油、合成油、あるいはそれらの混合油を用いることができる。鉱油としては、例えば、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧または減圧蒸留により誘導される潤滑油原料をフェノール、フルフラール、N−メチルピロリドンの如き芳香族抽出溶剤で処理して得られる溶剤精製ラフィネート、潤滑油原料をシリカーアルミナを担体とするコバルト、モリプデン等の水素化処理用触媒の存在下において水素化処理条件下で水素と接触させて得られる水素化処理油、水素化分解触媒の存在下において苛酷な分解反応条件下で水素と接触させて得られる水素化分解油、ワックスを異性化用触媒の存在下において異性化条件下で水素と接触させて得られる異性化油、あるいは溶剤精製工程と水素化処理工程、水素化分解工程および異性化工程等を組み合わせて得られる潤滑油留分等を挙げることができる。特に、水素化分解工程や異性化工程によって得られる高粘度指数鉱油が好適なものとして挙げることができる。いずれの製造法においても、脱蝋工程、水素化仕上げ工程、白土処理工程等の工程は、常法により、任意に採用することができる。鉱油の具体例としては、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油およびブライトストック等が挙げられ、要求性状を満たすように適宜混合することにより基油を調整することができる。合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン、α−オレフィンオリゴマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングルコールエーテル、シリコーン油等を挙げることができる。これらの基油は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。
【0079】
本発明のグリース組成物は、種々の内燃機関及び工作機械等の機械器具や部品の摺動部等に用いられる潤滑用グリースとして用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例に制限されるものではない。
[合成例:N−28の合成例]
以下の合成スキームに従って、N−28を合成した。
【0081】
【化29】

【0082】
(化合物(N−28−A)の合成)
撹拌器および還流冷却器を装着した1Lの反応容器に、トルエン130mL、11−ブロモウンデカン酸345g(1.3mol)およびN,N−ジメチルホルムアミド0.1mLを加えた。この溶液に塩化チオニル114mL(1.58mol)を30分間かけて滴下した。滴下後、60℃に制御しながら2時間撹拌を行った。反応終了後、溶媒を減圧留去して、373gの化合物(N−28−A)を得た(収率:99%)。
【0083】
(化合物(N−28−B)の合成)
撹拌器、滴下漏斗および温度計を備えた3Lの反応容器に、アセトニトリル1L、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル272g(1.3mol)、およびトリエチルアミン199g(1.43mol)を加え、撹拌して溶液を得た。溶液を16℃に冷却し、得られた(N−28−A)369g(1.3mol)を、溶液を撹拌しながら1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1.5時間撹拌した。酢酸エチルで抽出、有機層を水で洗浄した後、有機層を分取して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して、590gの化合物(N−28−B)を得た。
【0084】
(化合物(N−28−C)の合成)
撹拌器、還流冷却器および温度計を装着した3Lの反応容器に、4−ニトロカテコール70g(0.45mol)、得られた(N−28−B)481g(1.1mol)およびN,N−ジメチルホルムアミド350mLを加え、撹拌して溶液を得た。これに炭酸カリウム152g(1.1mol)を加え、98℃に加熱して2時間撹拌した。室温に冷却後、酢酸エチルで抽出して、有機層を水で洗浄した後、有機層を分取して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、455gの化合物(N−28−C)を得た。
【0085】
(化合物(N−28−D)の合成)
撹拌器、還流冷却器および温度計を装着した3Lの反応容器に、還元鉄150g(2.7mol)、イソプロピルアルコール600mL、水120mLおよび塩化アンモニウム15gを加え、90℃に加熱撹拌し、還流させた。この中に、得られた化合物(N−28−C)を滴下し、そのまま2時間加熱撹拌を続けた。反応終了後、加熱状態のままセライトろ過し、酢酸エチルで洗浄した。ろ液を酢酸エチルで抽出、水で洗浄した後、有機層を分取して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して、425gの粗生成物を得た。シリカゲルカラム分取によって精製を行い、237g(91%)の化合物(N−28−D)を得た。
【0086】
(化合物N−28の合成)
撹拌器、還流冷却器および温度計を装着した3Lのガラス釜に、N,N−ジメチルホルムアミド500mLを注ぎ、得られた化合物(N−28−D)220g(0.26mol)を添加した。ついで、シアヌルクロリド15g(0.08mol)を30分かけて添加した。そして炭酸カリウム40g(0.3mol)を加え、98℃で2時間加熱撹拌した。室温に冷却後、酢酸エチルで抽出、有機層を水で洗浄した後、有機層を分取して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して、232gの粗生成物を得た。シリカゲルカラム分取によって精製を行い、166g(収率80%)の化合物(N−28)を得た。
以下に、合成した化合物のNMRデータを示す。
1H NMR (300MHz CDCl3):δ7.15−6.80(m,9H)、4.25(t,12H)、3.95(t,12H)、3.70(t,12H)、3.65(t,12H)、3.60(m,12H)、3.45(t,12H)、2.30(t,12H)、1.80−1.30(m,144H)、0.85(t,18H)。
【0087】
[実施例:グリース組成物の性能評価]
例示化合物N−28、N−34及びS−25をそれぞれ用い、下記表1に示す組成のグリース(実施例1〜5)をそれぞれ調製した。また、各種潤滑剤基油を用いて下記表2に示す組成のグリース(比較例1〜4)をそれぞれ調製した。
摩擦試験を実施し、摩擦係数および摩耗痕深さを測定した。なお、実施例における摩擦係数は、往復動型摩擦試験機(SRV摩擦摩耗試験機)を用いて測定し、下記の試験条件で摩擦試験を行った。実施例1〜5の結果を表1に、同様に比較例1〜4の結果を表2に示した。
(試験条件)
試験条件はボール−オンプレートの条件で行った。
試験片(摩擦材):SUJ−2
プレート:φ24×6.9mm
ボール:φ10mm
温度:150℃
荷重:200N
振幅:1.0mm
振動数:50Hz
試験時間:試験開始30分後を測定。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、種々の内燃機関及び工作機械等の機械器具や部品の摺動部等に用いられる潤滑用グリースとして用いることができるグリース組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状化合物の少なくとも一種と、増ちょう剤とを含有するグリース組成物。
【請求項2】
前記円盤状化合物の少なくとも一種が、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる請求項1に記載のグリース組成物。
【化1】

(式中、Dはm個の側鎖と結合可能な環状の基を表し、Xは各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、Rは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基もしくはその塩、スルホ基もしくはその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基またはウレタン基を表す。mは2〜11の整数を表す。)
【請求項3】
Dが5〜7員環構造の複素環残基である請求項2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
上記一般式(1)が下記一般式(2)で表される請求項2又は3に記載のグリース組成物。
【化2】

(式中、X1、X2およびX3は各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、R11、R12およびR13は各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基またはその塩、スルホ基またはその塩、ヒドロキヒアミノ基、ウレイド基またはウレタン基を表す。)
【請求項5】
上記一般式(1)が、下記一般式(3)で表される請求項2又は3に記載のグリース組成物。
【化3】

(式中、X21、X22およびX23は、各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、R21、R22およびR23は各々独立に置換基を表す。a21、a22およびa23は各々独立して1〜5の整数を表す。)
【請求項6】
前記増ちょう剤が、金属セッケン増ちょう剤の少なくとも一種を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項7】
前記増ちょう剤が、ウレア系増ちょう剤の少なくとも一種を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項8】
前記増ちょう剤が、無機系増ちょう剤の少なくとも一種を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項9】
前記増ちょう剤が、有機系増ちょう剤の少なくとも一種を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載のグリース組成物。

【公開番号】特開2006−232875(P2006−232875A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45402(P2005−45402)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】