説明

グルコース存在下で活性を増加するβ−グルコシダーゼ

【課題】高濃度グルコースによる阻害を受けず、セロビオースに高い特性を有し、酸性領域で活性を有するβ-グルコシダーゼ及びそれを利用したセルロースの糖化方法を提供することである。
【解決手段】堆肥由来のメタゲノムライブラリのスクリーニングによって単離された、1Mの高濃度グルコース存在下で酵素活性を有するβ-グルコシダーゼを提供し、またその酵素を用いたセルロースを分解する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度のグルコース存在下で活性を保持及び/又は増加するβ-グルコシダーゼ及び該β-グルコシダーゼを用いたセルロースの糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の光合成によって生産されるセルロース及びヘミセルロースは、地上で最も豊富なバイオマスである。化石燃料等の非再生可能資源の限界が懸念される中で、セルロースやヘミセルロースは、人口増大による食糧、飼料及び燃料不足を解決し得る再生可能資源として期待されている。しかし、セルロースやヘミセルロースは、化学的に非常に安定であるため、食糧やバイオエタノールの原料となる単糖にまで糖化することは技術やコストの面で容易ではなく、エネルギー資源としての実用化に向けて解決すべき課題は多い。
【0003】
一般にセルロースは、セルラーゼを合成できる微生物(細菌、真菌、粘菌、原生動物、昆虫等)によって分解される(非特許文献1)。セルラーゼは、セルロースのβ-1,4-グルカン又はβ D-グルコシド結合を加水分解して、セロオリゴ糖、セロビオース及びβ-D-グルコースを生成する酵素の総称であり、その作用形式により3つの型に大別されている。すなわち、エンドグルカナーゼ(EG;EC3.2.1.4)、エキソグルカナーゼ(セロビオハイドラーゼ;CBH;EC3.2.1.91)、及びβ-グルコシダーゼ(β-D-グルコシドグルハイドラーゼ;BG;EC3.2.1.21)(非特許文献2)である。エンドグルカナーゼは、主としてセルロース繊維の非結晶部分に作用してセルロース糖鎖の内部を切断する(非特許文献3)。また、エキソグルカナーゼは、結晶性セルロースに作用してセルロース糖鎖の末端を分解し、セロビオースを産生する(非特許文献4)。一方、β-グルコシダーゼは、エンドグルカナーゼ及び/又はエキソグルカナーゼの作用によって生じたセロビオース及び/又はセロオリゴ糖等から最終産物であるβ-D-グルコースを遊離させる働きをもつ(非特許文献5)。したがって、セルロースの糖化には、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ及びβ-グルコシダーゼの3つの酵素の存在とそれらの効率的な活性が必要となる。
【0004】
ところが、公知のβ-グルコシダーゼの多くは、1〜10mM程度の低濃度のグルコース存在下でその活性が阻害されるという性質をもつ。つまり、多くのβ-グルコシダーゼは、自身の活性によって生じるβ-D-グルコースの増加に伴い、その活性が低下してしまう。この性質は、セルラーゼによるセルロース分解反応系において、セロビオースの蓄積をもたらす原因となる。また、蓄積したセロビオースは、エキソグルカナーゼの活性を阻害するため、セルロース分解反応の更なる停滞を引き起こす。それ故、セルラーゼをグルコースへと完全に糖化するためには、グルコースによる活性阻害を受けないβ-グルコシダーゼの開発が必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Aro et al. Journal of Biological Chemistry, 276(26):24309-14 (2001)
【非特許文献2】Knowles et al. Trends in Biotechnology, 5, 255-261 (1987)
【非特許文献3】Kumar et al. J Ind Microbiol Biotechnol. 35(5):377-91. (2008)
【非特許文献4】Nevalainen and Penttila, 1995 Molecular biology of cellulolytic fungi. In: Genetics and Biotechnology K. Esser and U. Kuck, Editors, The Mycota Vol. III (1995), pp. 303-319 Springer Verlag.
【非特許文献5】Suurnakki et al. Cellulose 7:189-209 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高濃度のグルコース存在下であっても、グルコースによる阻害作用を受けることなく酵素活性を保持することのできるβ‐グルコシダーゼを単離し、それを提供することである。
【0007】
また、本発明の課題は、前記グルコース耐性を有するβ‐グルコシダーゼ若しくはその活性ポリペプチド断片又はそれらをコードする核酸を導入した形質転換体若しくはその後代を用いて、セルロースを効率的に糖化する方法を開発し、それを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者は、メタゲノム解析法によって高濃度グルコースに対する酵素活性阻害耐性を有するβ‐グルコシダーゼのスクリーニングを行った。その結果、1Mという非常に高濃度なグルコース存在下であってもその酵素活性がグルコース非存在下における活性と比較して低減しないばかりか、逆にグルコースの存在によって活性が増大するという従来知られていなかった性質を有する全く新規β‐グルコシダーゼを堆肥から単離することに成功した。本発明は、上記知見に基づいて成されたものであり、すなわち以下を提供する。
【0009】
(1)SDS-PAGEにおいて45〜55キロダルトンの分子量を示し、500mMよりも多く1M以下のグルコース存在下における酵素活性がグルコース非存在下における酵素活性に対して100%以上の相対活性を有するβ‐グルコシダーゼ。
(2)500mM以下のグルコース存在下における酵素活性がグルコース非存在下における酵素活性に対して100%以上の相対活性を有する、(1)に記載のβ‐グルコシダーゼ。
(3)以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のポリペプチドからなる、(1)又は(2)に記載のβ‐グルコシダーゼ
(a)配列番号1〜5で示されるいずれか一のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b)配列番号1〜5で示されるいずれか一のアミノ酸配列と少なくとも50%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチド、又は
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドのアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたポリペプチド
(4)配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドからなる、前記(3)(b)に記載のβ‐グルコシダーゼ。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のβ‐グルコシダーゼを構成するアミノ酸配列の一部を含み、かつその酵素活性を保持するポリペプチド断片。
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のβ‐グルコシダーゼ又は前記(5)に記載のポリペプチド断片をコードする核酸。
【0010】
(7)前記(6)に記載の核酸を発現可能な状態で含む発現ベクター。
(8)前記(7)に記載の発現ベクターを宿主に導入した形質転換体又はその後代。
(9)前記(8)に記載の形質転換体又はその後代に発現誘導処理を行い、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のβ‐グルコシダーゼ又は前記(5)に記載のポリペプチド断片を製造する方法。
(10)前記(1)〜(4)に記載のβ‐グルコシダーゼの少なくとも一つ、前記(5)に記載のポリペプチド断片の少なくとも一つ、好熱菌メイオサーマス ルバー(Meiothermus ruber)、及び/又は前記(8)に記載の形質転換体又はその後代を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程を含む、セルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法。
(11)前記(10)に記載の方法を用いた、セルロースからβ-D-グルコースを製造する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のβ‐グルコシダーゼ又はそのポリペプチド断片によれば、1Mのグルコース存在下であっても、p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド(以下、本明細書においては「pNPG」とする)、セロビオース及び/又はセロオリゴ糖をグルコース非存在下の活性に対して100%以上の相対活性で加水分解することができる。
【0012】
本発明の糖化方法によれば、1Mのグルコース存在下であってもpNPG、セルロース及び/又はヘミセルロースを効率的に糖化し、β-D-グルコースを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1a】20mMのpNPGを基質としたときの各濃度のグルコース存在下における本発明のβ‐グルコシダーゼの一つである2F2-β-Gluの活性を示す。ここでは、グルコース非存在下における活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図1b】20mMのpNPGを基質としたときの各濃度のグルコース存在下における本発明のβ‐グルコシダーゼの一つである2F2-β-Gluの好熱菌Meiothermus ruberホモログMru-β-Gluの活性を示す。ここでは、グルコース非存在下における活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図1c】20mMのpNPGを基質としたときの各濃度のグルコース存在下における本発明のβ‐グルコシダーゼの一つである2H7-β-Gluの活性を示す。ここでは、グルコース非存在下における活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図1d】20mMのpNPGを基質としたときの各濃度のグルコース存在下における本発明のβ‐グルコシダーゼの一つである4E5-β-Gluの活性を示す。ここでは、グルコース非存在下における活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図1e】20mMのpNPGを基質としたときの各濃度のグルコース存在下における本発明のβ‐グルコシダーゼの一つである3A5-β-Gluの活性を示す。ここでは、グルコース非存在下における活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図1f】20mMのpNPGを基質としたときの各濃度のグルコース存在下における本発明のβ‐グルコシダーゼの一つである2E3-β-Gluの活性を示す。ここでは、グルコース非存在下における活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図2a】(A)pNPGを基質としたときの2F2-β-Gluの30℃におけるカイネティクスを示す。(B)pNPGを基質としたときの2F2-β-Gluの75℃におけるカイネティクスを示す。
【図2b】(A)pNPGを基質としたときのMru-β-Gluの30℃におけるカイネティクスを示す。(B)pNPGを基質としたときのMru-β-Gluの65℃におけるカイネティクスを示す。
【図2c】(A)pNPGを基質としたときの2H7-β-Gluの30℃におけるカイネティクスを示す。(B)pNPGを基質としたときの2H7-β-Gluの60℃におけるカイネティクスを示す。
【図2d】(A)pNPGを基質としたときの4E5-β-Gluの30℃におけるカイネティクスを示す。(B)pNPGを基質としたときの4E5-β-Gluの55℃におけるカイネティクスを示す。
【図2e】(A)pNPGを基質としたときの3A5-β-Gluの30℃におけるカイネティクスを示す。(B)pNPGを基質としたときの3A5-β-Gluの50℃におけるカイネティクスを示す。
【図2f】(A)pNPGを基質としたときの2E3-β-Gluの30℃におけるカイネティクスを示す。(B)pNPGを基質としたときの2E3-β-Gluの60℃におけるカイネティクスを示す。
【図3a】2F2-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH依存性を示す。ここでは、最高活性値を示したpH5.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図3b】Mru-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH依存性を示す。ここでは、最高活性値を示したpH5.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図3c】2H7-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH依存性を示す。ここでは、最高活性値を示したpH4.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図3d】4E5-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH依存性を示す。ここでは、最高活性値を示したpH5.0の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図3e】3A5-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH依存性を示す。ここでは、最高活性値を示したpH6.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図3f】2E3-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH依存性を示す。ここでは、最高活性値を示したpH5.0の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図4a】2F2-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH安定性を示す。ここでは、pH8.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図4b】Mru-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH安定性を示す。ここでは、pH8.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図4c】2H7-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH安定性を示す。ここでは、pH8.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図4d】4E5-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH安定性を示す。ここでは、pH8.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図4e】3A5-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH安定性を示す。ここでは、pH8.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図4f】2E3-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性のpH安定性を示す。ここでは、pH8.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図5a】2F2-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度依存性を示す。ここでは、最高活性値を示した75℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図5b】Mru-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度依存性を示す。ここでは、最高活性値を示した65℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図5c】2H7-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度依存性を示す。ここでは、55℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図5d】4E5-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度依存性を示す。ここでは、最高活性値を示した55℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図5e】3A5-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度依存性を示す。ここでは、最高活性値を示した50℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図5f】2E3-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度依存性を示す。ここでは、最高活性値を示した60℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図6a】2F2-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度安定性を示す。ここでは、20℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図6b】Mru-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度安定性を示す。ここでは、20℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図6c】2H7-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度安定性を示す。ここでは、20℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図6d】4E5-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度安定性を示す。ここでは、20℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図6e】3A5-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度安定性を示す。ここでは、20℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図6f】2E3-β-Gluのβ‐グルコシダーゼ活性の温度安定性を示す。ここでは、20℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片
本発明の第1の実施形態は、β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片である。
【0015】
1−1.β‐グルコシダーゼの特徴
本発明のβ‐グルコシダーゼは、以下の(a)〜(c)に示す物理的及び化学的性質を有する。
【0016】
(a)分子量
本発明のβ‐グルコシダーゼは、SDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)において、分子量マーカーとの相対的位置で45〜55キロダルトン(kDa)の分子量を示す。具体的には、例えば、形質転換体Td-2F2由来の配列番号1のアミノ酸配列を含むβ‐グルコシダーゼ(以下「2F2-β-Glu」とする)であれば約51.5kDaの分子量を、形質転換体Td-2H7由来の配列番号2のアミノ酸配列を含むβ‐グルコシダーゼ(以下「2H7-β-Glu」とする)であれば約54.0kDaの分子量を、形質転換体Td-4E5由来の配列番号3のアミノ酸配列を含むβ‐グルコシダーゼ(以下「4E5-β-Glu」とする)であれば約53.0kDaの分子量を、形質転換体Td-3A5由来の配列番号4のアミノ酸配列を含むβ‐グルコシダーゼ(以下「3A5-β-Glu」とする)であれば約50.6kDaの分子量を、形質転換体Td-2E3由来の配列番号5のアミノ酸配列を含むβ‐グルコシダーゼ(以下「2E3-β-Glu」とする)であれば約51.4kDaの分子量を、そして好熱菌Meiothermus ruber由来の配列番号6のアミノ酸配列を含むβ‐グルコシダーゼ(以下「Mru-β-Glu」とする)であれば約52.5kDaの分子量を示す。
【0017】
(b)活性基質特異性
本発明のβ‐グルコシダーゼは、pNPG及びセロビオース及びセロオリゴ等(例えば、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース等)を基質として、それらを加水分解することができる。特にセロビース又はセロオリゴ糖に対して、pNPG以上に高い加水分解活性を有する。
【0018】
(c)グルコース耐性
本発明のβ‐グルコシダーゼは、高濃度のグルコースに対して高い活性阻害耐性を有し、基質を含む反応溶液中のグルコース濃度が100mM〜1Mの高濃度状態であっても基質をグルコース非存在下のときの活性に対して100%以上の相対活性で加水分解することができる。さらに、本発明のβ‐グルコシダーゼは、グルコース存在下で活性を増大する性質を有する。すなわち、本発明のβ‐グルコシダーゼにおいて、少なくとも1M以下のグルコースは、本酵素の活性阻害物質ではなく、活性促進物質として作用し得る。
【0019】
さらに本発明のβ−グルコシダーゼは、以下の(d)〜(e)に示す一以上の化学的性質を有することができる。
【0020】
(d)至適pH
本発明のβ‐グルコシダーゼのpHに対する酵素活性に関しては、30℃において、最高活性値を100%としたときにpH3.5〜pH7.5の酸性〜弱アルカリ性領域で70%以上の高い活性を示す。例えば、2F2-β-GluであればpH4.5〜pH6.5、Mru-β-GluであればpH5.0〜pH6.5、2H7-β-GluであればpH4.0〜pH6.0、4E5-β-GluであればpH4.5〜pH6.0、3A5-β-GluであればpH5.5〜pH7.5、そして2E3-β-GluであればpH3.5〜pH6.0の範囲で70%以上の活性を示す。
【0021】
さらに、本発明のβ‐グルコシダーゼのpHに対する安定性に関しては、30℃において、pH4.0〜pH8.5の範囲内で90%以上の活性を示す。例えば、pH8.5の活性を100%としたときに、2F2-β-GluであればpH4.0〜pH8.5の範囲で、Mru-β-GluであればpH7.0〜pH8.5の範囲で、2H7-β-GluであればpH4.0〜pH8.5の範囲で、4E5-β-GluであればpH7.0〜pH8.5の範囲で、3A5-β-GluであればpH5.5〜pH8.5の範囲で、そして2E3-β-GluであればpH5.0〜pH8.5の範囲で90%以上の活性を示す。
【0022】
(e)至適温度
本発明のβ‐グルコシダーゼの温度に対する活性に関しては、pH4.5〜pH 6.5の範囲において、最高活性値を100%としたときに30℃〜70℃の範囲で80%以上の高い活性を示す。例えば、2F2-β-GluであればpH5.5において70℃〜75℃の範囲で、Mru-β-GluであればpH5.5において50℃〜70℃の範囲で、2H7-β-GluであればpH4.5において50℃〜65℃の範囲で、4E5-β-GluであればpH5.0において45℃〜60℃の範囲で、3A5-β-GluであればpH6.5において30℃〜60℃の範囲で、及び2E3-β-GluであればpH5.0において40℃〜65℃の範囲で70%以上の活性を示す。
【0023】
さらに、本発明のβ‐グルコシダーゼの温度に対する安定性に関しては、20℃における活性値を100%としたときに、20℃〜70℃の範囲で80%以上の活性を示す。具体的には、例えば、2F2-β-GluであればpH5.5において20℃〜65℃の範囲で、Mru-β-GluであればpH5.5において20℃〜65℃の範囲で、2H7-β-GluであればpH4.5において20℃〜65℃の範囲で、4E5-β-GluであればpH5.0において20℃〜70℃の範囲で、3A5-β-GluであればpH6.5において20℃〜50℃の範囲で、及び2E3-β-GluであればpH5.0において20℃〜55℃の範囲で80%以上の活性を示す。
【0024】
本発明のβ‐グルコシダーゼは、前記物理的性質及び化学的性質を有するポリペプチドであれば、それが由来する生物種は問わない。例えば、細菌(例えば、アクチノマイセス類)、真菌(例えば、酵母、糸状菌)、粘菌、原生動物、又は昆虫(例えば、シロアリ、ゴキブリ)等のいずれの由来であってもよい。
【0025】
本発明のβ‐グルコシダーゼの具体例として、配列番号1〜5のいずれか一で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は配列番号1〜5のいずれか一で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加され、かつ前記物理的性質及び化学的性質を有するポリペプチドが挙げられる。ここで「数個」とは、2〜5個、好ましくは2〜4個、より好ましくは2〜3個又は2個の整数をいう。前記置換は、保存的アミノ酸置換であることが好ましい。保存的アミノ酸置換であれば、配列番号1〜5のいずれか一で示されるβ‐グルコシダーゼと実質的に同等な構造又は性質を有し得るからである。保存的アミノ酸置換とは、同一の保存的アミノ酸群に属するアミノ酸間の置換をいう。保存的アミノ酸群には、非極性アミノ酸群(グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、トリプトファンが属する)及び極性アミノ酸群(非極性アミノ酸以外のアミノ酸が属する)、荷電アミノ酸群(酸性アミノ酸群(アスパラギン酸、グルタミン酸が属する)及び塩基性アミノ酸群(アルギニン、ヒスチジン、リジンが属する)及び非荷電アミノ酸群(荷電アミノ酸以外のアミノ酸が属する)、芳香族アミノ酸群(フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンが属する)、分岐状アミノ酸群(ロイシン、イソロイシン、バリンが属する)、並びに脂肪族アミノ酸群(グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリンが属する)等が知られている。
【0026】
また、β‐グルコシダーゼは、配列番号1〜5のいずれか一で示されるアミノ酸配列と50%以上、好ましくは55%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の同一性を有し、かつ前記物理的性質及び化学的性質を有するポリペプチドであってもよい。このようなポリペプチドとしては、例えば、β‐グルコシダーゼホモログ(オルソログ及びパラログを含む)やβ‐グルコシダーゼ変異体が挙げられる。一具体例としては、配列番号1で示される2F2-β-Gluのアミノ酸配列と約60%のアミノ酸同一性を有する好熱菌Meiothermus ruberのホモログ(オルソログ)であって、配列番号6のアミノ酸配列を含むMru-β-Gluが挙げられる。ここで「同一性」とは、二つのアミノ酸配列にギャップを導入して、又は導入しないで、最も高い一致度となるように整列(アラインメント)させたときに、前記ギャップの数を含めた、一方のアミノ酸配列の全アミノ酸残基数に対する他方のアミノ酸配列の同一アミノ酸残基数の割合(%)をいう。このような同一性を有するポリペプチドは、例えば、配列番号1〜5のいずれか一で示されるβ‐グルコシダーゼアミノ酸配列をクエリーとして、ゲノムデータベース等をBLAST検索等を用いて検索することによって得ることができる。
【0027】
本発明のβ‐グルコシダーゼを構成するアミノ酸は、修飾されていてもよい。ここでいう「修飾」とは、例えば、本発明のβ‐グルコシダーゼがその活性を有する上で必要な機能上の修飾(例えば、グリコシル化のような糖鎖の付加)及び/又は本発明のβ‐グルコシダーゼを検出する上で必要な標識修飾のいずれも含む。標識には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジン)による標識が挙げられる。
【0028】
また、本発明の、βグルコシダーゼは必要に応じて、シグナルペプチドや標識ペプチドのような他の生物種由来のアミノ酸配列又はタグアミノ酸配列のような人工的アミノ酸配列と連結することができる。
【0029】
1−2.活性ポリペプチド断片
本明細書において「活性ポリペプチド断片」とは、前記本発明のβ‐グルコシダーゼのアミノ酸配列の一部を含み、かつその酵素活性を有するポリペプチド断片をいう。本活性ポリペプチド断片のアミノ酸配列の長さは、本発明のβ‐グルコシダーゼの活性及びその化学的性質を有していれば特に限定はしない。具体的には、例えば、2H7-β-Gluであれば、配列番号1においてシグナル配列を除いたN末端から30番目〜C末端までのアミノ酸領域を含む断片が、本発明のβ‐グルコシダーゼの活性を有する断片として挙げられる。
【0030】
本発明の活性ポリペプチド断片も前記β‐グルコシダーゼと同様に、構成するアミノ酸が修飾されていてもよく、また、必要に応じて、シグナルペプチドや標識ペプチドのような他の生物種由来のアミノ酸配列又はタグアミノ酸配列のような人工的アミノ酸配列と連結することができる。
【0031】
1−3.効果
本発明のβ−グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片によれば、従来知られていたβ‐グルコシダーゼよりも高濃度のグルコース存在下、具体的には100mM〜1Mのグルコース存在下においてグルコース非存在下におけるその酵素活性と同等の活性を保持することができる。それのみならず、本発明のβ−グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片はグルコースの存在により、さらに高い活性で基質を加水分解することができる。このように、グルコースによってその活性をさらに増加することのできるβ−グルコシダーゼは、これまで全く知られていなかった。本発明のβ-グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片を用いることにより、セロビオース及び/又はセロオリゴ糖等の分解によって生じるβ-D-グルコースの阻害を受けことがなくなるため、セルロースの糖化反応における課題を容易に解決できるだけでなく、産生されるβ-D-グルコースによって、反応をより一層促進することもできるという有利な点を有する。したがって、本発明のβ−グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片は、セルロース糖化の効率化、実用化に資する。
【0032】
2.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸
2−1.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸の特徴
本発明の第2の実施形態は、前記第1実施形態のβ‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片(以下、本明細書において「本発明のβ‐グルコシダーゼ等」とする)をコードする核酸である。
【0033】
本明細書で「核酸」とは、原則として、DNA、RNA又はそれらの組合せをいうが、それ以外にも、PNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid;登録商標)/BNA(Bridge Nucleic Acid)、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸、擬似核酸又はそれらとDNA及びRNAの組み合わせも含む。好ましくは、DNAである。
【0034】
本発明の核酸は、前記実施形態1で説明をした本発明のβ‐グルコシダーゼ又はその活性断片をコードする。例えば、配列番号1〜6のいずれか一で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド若しくは配列番号1〜6のいずれか一で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたポリペプチド、配列番号1〜5のいずれか一で示されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有し、かつ前記物理的性質及び化学的性質を有するポリペプチド、あるいは、それらのアミノ酸配列の一部を含み、かつ第1実施形態に記載の酵素活性を有するポリペプチド断片をコードする核酸が挙げられる。具体的には、例えば、配列番号7〜12で示されるいずれか一の塩基配列(それぞれ、配列番号1〜6で示されるアミノ酸配列に対応する)を含む核酸、あるいはSNP(一塩基多型)等の多型変異体、スプライス変異体又は遺伝暗号の縮重変異体のように配列番号7〜12で示されるいずれか一の塩基配列において1個又は数個のヌクレオチドが欠失、置換又は付加した核酸が挙げられる。
【0035】
または、前記実施形態1で説明をした本発明のβ‐グルコシダーゼ又はその活性断片の塩基配列とそれぞれ95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有する核酸、又は配列番号7〜12で示される塩基配列の全部又は一部と相補的な塩基配列からなる核酸断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、それがコードするポリペプチドが第1実施形態に記載のβ‐グルコシダーゼのグルコース耐性を有する核酸である。ここで「同一性」とは、2つの塩基配列にギャップを導入して又は導入しないでアラインメントさせたときに、一方の塩基配列の全塩基数に対する他方の塩基配列の同一塩基数の割合(%)をいう。「数個」とは、2〜10個、2〜7個、2〜5個、2〜4個、2〜3個又は2個の整数をいう。また、「ストリンジェントな条件」とは、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。通常は低ストリンジェント〜高ストリンジェントな条件が挙げられるが、高ストリンジェントな条件が好ましい。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1% SDSで洗浄する条件であり、好ましくは50℃、5×SSC及び0.1% SDSで洗浄する条件である。高ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1% SDSで洗浄する条件である。
【0036】
2−2.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸の調製
本発明の核酸は、例えば、配列番号7〜12で示されるいずれか一の塩基配列に基づいて、PCR法を用いて合成したポリヌクレオチドを連結することによって得ることができる他、配列番号7〜12で示されるいずれか一の塩基配列に基づいて、その一部配列又はそれに相補する一部配列をプローブ又はプライマーとして用いて、適当な生物種のcDNAライブラリ、好ましくはメタゲノム解析法によって調製される複数の微生物(細菌、糸状菌、原生動物等を含む)由来のcDNAライブラリ又はゲノムライブラリからサザンブロッティング又はPCR等の当該分野で公知の方法、例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: a Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法によってそのオルソログを得ることができる。
【0037】
3.発現ベクター
3−1.発現ベクターの特徴
本発明の第3の実施形態は、第2実施形態の核酸を発現可能な状態で含む発現ベクターである。
【0038】
「発現ベクター」とは、一般に、内部にコードされた遺伝子を発現制御できるシステムを包含するベクターをいう。「第2実施形態の核酸」とは、本発明のβ‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸をいう。「発現可能な状態」とは、発現ベクターに含まれる前記核酸が宿主内の所定条件下で転写され得る状態をいう。例えば、発現ベクターに含まれる宿主特異的なプロモーターの制御下に前記核酸を連結した状態が該当する。
【0039】
本発明の発現ベクターにおけるベース部分、すなわち、ベクターの主要な骨格部分は、特に限定はしない。好ましくは、プラスミド又はウイルスである。プラスミドの場合、例えば、大腸菌由来のプラスミド(pBI系、pPZP系、pSMA系、pUC系、pBR系、pBluescript系(stratagene社)プラスミド)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(Yep13、Yep24、YCp50等)等を使用することができる。ウイルスの場合、ファージ(λgt11、λZAP等のλファージ)、植物ウイルス(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメゴールデンモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV))、昆虫ウイルス(例えば、バキュロウイルス)等を使用することができる。これらは、導入する宿主に応じて適宜選択すればよい。
【0040】
本発明の発現ベクターは、第2実施形態の核酸及びベース部分以外に、他の構成要素を含むことができる。例えば、プロモーター、エンハンサー若しくはターミネーター等の調節領域、又は選択マーカー遺伝子等の標識領域が挙げられる。また、宿主が真核生物である場合には、スプライシングシグナル(ドナー部位、アクセプター部位、ブランチポイント等)、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等の調節領域を連結することもできる。それぞれの構成要素の種類は、導入する宿主に応じて当該分野で公知のものを適宜選択すればよく、特に限定はしない。
【0041】
本発明の発現ベクターにおいて、前記プロモーターは、宿主特異的なプロモーター、すなわち、特定の宿主細胞内で作動可能なプロモーターを使用する。例えば、大腸菌中で作動可能なプロモーターとしては、lac、trp若しくはtacプロモーター又はファージ・ラムダ由来のPR若しくはPLプロモーター等が挙げられる。また、酵母で作動可能なプロモーターとしては、例えば、酵母解糖系遺伝子由来のプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター、TPI1プロモーター、ADH2-4cプロモーター等が挙げられる。植物細胞で作動可能なプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。昆虫細胞で作動可能なプロモーターとしては、例えば、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモーター、バキュロウイルス即時型初期遺伝子1プロモーター、バキュロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモーター等が挙げられる。
【0042】
エンハンサーとしては、例えば、CaMV 35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域及びCMVエンハンサー等が挙げられる。
【0043】
ターミネーターとしては、例えば、大腸菌用のリポポリプロテインlppの3’ターミネーター、trpオペロンターミネーター、amyBターミネーター、酵母用のADH1遺伝子のターミネーター、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35Sターミネーター等が挙げられる。
【0044】
選択マーカー遺伝子としては、細菌用選択マーカーとしての薬剤耐性遺伝子(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子又はネオマイシン耐性遺伝子)、酵母用選択マーカーとしての栄養素遺伝子(例えば、ロイシン、ウラシル、アデニン、ヒスチジン、リジン又はトリプトファンの合成遺伝子)、蛍光又は発光レポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニターゼ(GUS)、又は緑色蛍光タンパク質(GFP))、酵素遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPT II)、ジヒドロ葉酸還元酵素等)が挙げられる。
【0045】
3−2.発現ベクターの調製
第2実施形態の核酸を前記本発明の発現ベクターの所定の部位に挿入する方法は、当該分野で公知の方法、例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: a Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法に従って行えばよい。通常は、調製された第2実施形態の核酸の両端を適当な制限酵素で処理し、発現ベクター中のプロモーター制御下における対応する制限酵素部位に挿入して連結する方法、又はTaq DNAポリメラーゼ等による3'-A突出末端を有するPCR産物であれば発現ベクター中のプロモーター制御下における5'-T突出末端部位に挿入して連結する方法等が採用される。その他、市販のシステム又はキットを用いる場合であれば、それらに特異的な方法によって調製することもできる。
【0046】
3−3.発現ベクターの効果
本実施形態の発現ベクターによれば、適応する宿主に導入することで、次で説明する形質転換体を得ることができる。
【0047】
4.形質転換体又はその後代
4−1.形質転換体又はその後代の特徴
本発明の第4の実施形態は、第3実施形態の発現ベクターを宿主に導入した形質転換体又はその後代である。
【0048】
本明細書において「形質転換体」とは、第3実施形態の発現ベクターの導入により形質転換された宿主であり、形質転換体の第1世代をいう。宿主は、導入された発現ベクターの複製が可能で、かつその発現ベクターに含まれる第2実施形態の核酸を発現できれば特に限定されない。宿主の具体例を挙げると、細菌(例えば、大腸菌(Escherichia coli等)及び枯草菌(Bacillus subtilis))、酵母(例えば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)又はメタノール資化性酵母(Pichia pastoris))、糸状菌(例えば、コウジカビ(Aspergillus)及びアカパンカビ(Neurospora))、植物(植物体、その器官、組織、分化した細胞若しくは未分化状態の植物細胞(カルス)を含む)又は昆虫細胞(例えば、sf9又はsf21)が挙げられる。
【0049】
本明細書において「形質転換体の後代」とは、前記形質転換体(第1世代)から無性生殖又は有性生殖を介して得られる形質転換体第2世代以降であって、かつ第2実施形態の核酸を発現可能な状態で保持しているものを意味する。例えば、宿主が大腸菌や酵母等の無性生殖を行う単細胞微生物であれば、形質転換体第1世代以降から分裂又は出芽等によって新たに生じた細胞(クローン体)が該当する。また、形質転換される宿主が植物であれば、形質転換体第1世代以降から採取した植物体の一部から再生させた植物体、形質転換体第1世代以降から無性生殖で得られる栄養繁殖器官(例えば、根茎、塊根、球茎、ランナー等)より新たに生じた新たな植物体、又は形質転換体第1世代以降の実生が該当する。
【0050】
4−2.形質転換体の調製
第3実施形態の発現ベクターを宿主に導入して本発明の形質転換体又はその後代を調製する方法は、当該分野で公知の形質転換方法を使用することができる。
【0051】
宿主が細菌であれば、例えば、ヒートショック法、カルシウムイオン法(例えば、リン酸カルシウム法)、エレクトロポレーション法等が挙げられる。また、宿主が酵母であれば、例えば、リチウム法、エレクトロポレーション法等を用いればよい。これらの技術は、いずれも当該分野で公知であり、様々な文献に記載されている。例えば、Sambrook, J. et.al、1989、Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、Guthrie, C. & Fink. G.R., 1991, Guide to Yeast Genetics and Molecular Biolog, Method in Enzymology, 194, Academic Pressを参照されたい。さらに、宿主が植物細胞であって、かつ前記発現ベクターがプラスミドベクターである場合には、形質転換方法としてプロトプラスト法、パーティクルガン法又はアグロバクテリウム(Agrobacterium)法等を利用することができる。いずれの方法も当該分野においては、公知の方法であり、詳細については植物代謝工学ハンドブック(2002年、NTS社)又は新版モデル植物の実験プロトコール:遺伝学的手法からゲノム解析まで(2001年秀潤社)等を参照すればよい。
【0052】
また、宿主が植物細胞であって、かつ前記発現ベクターがウイルスベクターの場合には、そのウイルスベクターを植物細胞に感染させることによって導入することができる。ウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法も公知の方法であり、詳細については、Hohnらの方法(Molecular Biology of Plant Tumors(Academic Press、New York)1982、pp549)、米国特許第4,407,956号明細書等を参考にすればよい。
【0053】
4−3.後代取得法
本発明の形質転換体から後代を得る方法は、その形質転換体の宿主である生物種において後代を得るために用いられる通常の方法で行えばよい。例えば、形質転換体の宿主が大腸菌や酵母であれば、適当な公知培地で培養することによって容易に得ることができる。例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkを参照すればよい。また、形質転換体の宿主が植物であれば、後代は、通常、種子、栄養繁殖器官又は植物体の一部(例えば、挿し木)の土耕栽培により得ることができる。
【0054】
4−4.効果
本発明の形質転換体又はその後代によれば、適当な発現条件下で、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を発現させることができる。
【0055】
5.β‐グルコシダーゼ又は活性ポリペプチド断片の製造方法
本発明の第5の実施形態は、第4実施形態の形質転換体又はその後代(以下、本明細書においては「形質転換体等」とする)に発現誘導処理を行い、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を製造する方法である。
【0056】
本方法は、本発明の発現ベクターを包含する形質転換体等を培養する工程(培養工程)、培養した形質転換体等に発現誘導処理を行う工程(発現誘導工程)、及び培養液及び/又は形質転換体等から本発明のβ‐グルコシダーゼ等を回収する工程(回収工程)を含む。以下、それぞれの工程について説明をする。
【0057】
5−1.培養工程
「培養工程」は、本発明の形質転換体等を適当な培地で培養する工程である。形質転換体等を培地で培養する方法は、形質転換体の宿主の培養に用いられる通常の方法に従えばよい。例えば、細菌を宿主とする場合、培地は、その微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、かつ生育、増殖可能なものであれば、天然培地、合成培地のいずれを用いることもでき、特に限定はしない。具体例としてLB培地が挙げられるが、これに限定はされない。また、形質転換体等を選択的に培養する場合にように、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加することもできる。培養は、通常、撹拌等の好気的条件下において37℃で対数増殖期まで行えばよい。また、酵母を宿主とする場合、培地は前記と同様にその酵母が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、かつ発現ベクターを保持しながら生育、増殖可能なものであれば、特に制限はしない。例えば、YPD培地や栄養素選択合成培地等を使用することができる。これらの培養方法は、当該分野で公知である。例えば、Sambrook, J. et.al、1989、Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、Guthrie, C. & Fink. G.R., 1991, Guide to Yeast Genetics and Molecular Biolog, Method in Enzymology, 194, Academic Pressを参照することができる。さらに、植物を宿主とする場合、培地は公知の液体培地で公知の方法に従い、水耕栽培するか、又は圃場で栽培すればよい。
【0058】
5−2.発現誘導工程
「発現誘導工程」は、培養した前記形質転換体等に所定の発現誘導処理を行い、形質転換体等に包含される発現ベクター中の本発明のβ‐グルコシダーゼ等をコードする核酸の発現を誘導させる工程である。発現誘導の方法は、ベクターに含まれるタンパク質発現制御システムによって異なるため、そのシステムに適した誘導処理を行えばよい。例えば、細菌を宿主とするタンパク質発現誘導型ベクターにおいて最も一般的に利用されているタンパク質発現誘導システムは、lacリプレッサー遺伝子及びlacオペレーターからなるシステムである。本システムは、IPTG(isopropyl-1-thio-β-D-Galactoside)処理によって発現を誘導することが可能である。したがって、本発明の形質転換体等が包含する発現ベクターがこのlacシステムを有する場合には、目的とする本発明のβ‐グルコシダーゼ等を発現させるためには、適当量(例えば、終濃度で1mM)のIPTGを培地中に添加すればよい。これらの誘導処理は、当該分野では公知の技術である。例えば、大野茂男及び西村善文監修,1997,タンパク質実験プロトコール(1)機能解析編,細胞工学別冊,実験プロトコールシリーズ,秀潤社を参照されたい。また、形質転換体等に包含される発現ベクター中の本発明のβ‐グルコシダーゼ等をコードする核酸が、発現ベクターを宿主細胞内に導入することで恒常的に発現可能な場合には、特段の誘導処理を必要とすることなく、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を発現させ、次の回収工程に供することができる。
【0059】
5−3.回収工程
「回収工程」は、発現誘導工程で誘導された本発明のβ‐グルコシダーゼ等を形質転換体等又はその培養液から回収する工程である。発現した本発明のβ‐グルコシダーゼ等が形質転換体の細胞内に生産される場合には、細胞を遠心等によって回収し、ソニケーター等の細胞破砕機を用いて破砕して本発明のβ‐グルコシダーゼ等を含む抽出液を調製する。また、発現した本発明のβ‐グルコシダーゼ等が形質転換体の細胞外に分泌される場合には、培養液をそのまま使用するか、又は遠心分離等により形質転換体等を除去し、上清を使用する。必要に応じて、得られた細胞抽出液又は上清を一般的なタンパク質の精製方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で、又は適宜組合せて用いることにより、前記培養物中から本発明のβ‐グルコシダーゼ等を単離精製することができる。ポリペプチドの回収は、当該分野では公知の技術である。例えば、大野茂男及び西村善文監修,1997,タンパク質実験プロトコール(1)機能解析編,細胞工学別冊,実験プロトコールシリーズ,秀潤社を参照されたい。
【0060】
なお、本発明のβ‐グルコシダーゼ等が目的のポリペプチドであるか否かは、例えば、SDS-PAGEによる泳動距離がその塩基配列から予想される分子量サイズに合致するか否か、本発明のβ‐グルコシダーゼに対する抗体(好ましくは、モノクローナル抗体)があれば、その抗体により免疫反応が見られるか否か、又は後述するような高濃度のグルコース存在下でpNPGを加水分解する活性を有するか否かで確認すればよい。
【0061】
5−4.効果
本発明の製造方法によれば、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を大量に製造することが可能となる。
【0062】
6.セルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法
本発明の第6の実施形態は、セルロース及び/又はヘミセルロースを分解し、糖化する方法である。本糖化方法は、本発明のβ‐グルコシダーゼ等及び/又は本発明の形質転換体等を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程を含むことを特徴とする。
【0063】
本明細書の「セルロース及び/又はヘミセルロース」(以下、「セルロース等」とする)は、セルロース等を含有するあらゆる資源を対象とすることができる。例えば、木本類(例えば、スギ又はカラマツのような針葉樹若しくはブナ、ナラ、カシ、ユーカリ又はポプラのような広葉樹の樹幹、根、枝、葉、花、種子及びそれらの落葉を含む)及び草本類(ススキ、タケ若しくはササ等の単子葉類、ヨモギ、セイタカアワダチソウ若しくはクズのような双子葉類の根、茎、葉、花、種子及びそれらの枯死体を含む)を含む種子植物又はシダ類等の利用度の低い植物資源のみならず、植物性農業廃棄物(例えば、イネ、ムギ、トウモロコシ等の茎、葉、籾殻)、農産物の加工処理で発生する残渣(例えば、果皮、オカラのような搾り粕)、紙資源(例えば、新聞紙、雑誌、廃棄OA紙、ダンボール)及び建築廃材が挙げられる。
【0064】
一般に、セルロース等の糖化は、セルロース等をセロオリゴ糖に加水分解する工程(セルロース分解工程)、セロオリゴ糖をセロビオースに加水分解する工程(セロオリゴ糖分解工程)及びセロビオースをβ-D-グルコースに加水分解する工程(セロビオース分解工程)を含む。本発明のβ‐グルコシダーゼ等を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程は、主として「セロビオース分解工程」に含まれる。以下、前記3つの工程について説明をする。
【0065】
6−1.セルロース分解工程
「セルロース分解工程」は、セルロース等を分解して主としてセロオリゴ糖、一部でセロビオースを生成する工程である。本工程は、通常、エンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼによる加水分解作用によって進行する。使用するエンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼは、セルロース等の加水分解活性を有するものであれば、細菌由来、真菌(酵母、糸状菌を含む)由来、粘菌由来、シロアリやゴキブリ等の昆虫又は原生動物由来のいずれであってもよく、その種類は問わない。例えば、糸状菌の一種であるトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来のエンドグルカナーゼを使用することができる。本工程で使用するエンドグルカナーゼは、その活性を有していれば必ずしも精製されている必要はなく、例えば、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように各種セルラーゼ(エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ及びβ‐グルコシダーゼ)を包含する未精製(クルードな)溶液を使用することもできる。
【0066】
本工程の具体的方法としては、例えば、エンドグルカナーゼを1gのセルロース等に対して1〜10mg、好ましくは2mgで添加し、pH4〜pH6、好ましくはpH4.5〜pH5.5の範囲内において、30℃〜60℃、好ましくは40℃〜50℃の温度下で、6時間〜48時間、好ましくは12〜24時間インキュベートすればよい。本工程で使用するセルロース及び/ヘミセルロースは、木質状態、すなわち、リグニンを含有する状態又は後述するリグニン分解除去処理工程を経た状態のいずれであってもよい。好ましくは、リグニン分解除去処理工程を経た状態である。また、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように各セルラーゼを混合状態で包含する未精製溶液を使用する場合、当該未精製溶液が、エキソグルカナーゼも含有するため、本工程と次のセロオリゴ糖分解工程を連続的に行うことができる。それ故、当該未精製溶液処理後は、次のセロオリゴ糖分解工程を別途行わず、連続的にセロビオース分解工程に進めてもよい。
【0067】
6−2.セロオリゴ糖分解工程
「セロオリゴ糖分解工程」は、セルロース分解工程等で生じたセロオリゴ糖を分解してセロビオースを生成する工程である。本工程は、通常、エキソグルカナーゼによる加水分解作用によって進行する。使用するエキソグルカナーゼは、セロオリゴ糖の加水分解活性を有するものであれば、由来する種類は問わない。したがって、前記セルロース分解工程で使用したエンドグルカナーゼの由来する種と異なる種に由来するものであってもよい。例えば、セルロース分解工程でトリコデルマ・リーゼイ由来のエンドグルカナーゼを使用し、本工程で黒コウジカビの一種であるアスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)由来のエキソグルカナーゼを使用することもできる。
【0068】
前記セルロース分解工程後、エンドグルカナーゼを失活させてそれらを除去する処理は、特に必要はない。前記セルロース分解工程後、エキソグルカナーゼを添加することで、本工程の反応液中にセルロース又はヘミセルロースが残存していても、エンドグルカナーゼにより引き続きそれらを加水分解することができるからである。ただし、必要に応じて、失活・除去処理を行ってもよい。
【0069】
本工程で使用するエキソグルカナーゼも、前述のエンドグルカナーゼと同様に、その活性を有していれば必ずしも精製されている必要はなく、例えば、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように他のセルラーゼを包含する未精製状態であってもよい。
【0070】
本工程の具体的方法としては、例えば、エキソグルカナーゼを1gのセロオリゴ糖に対して1〜10mg、好ましくは2mgで添加し、pH4〜pH6、好ましくはpH4.5〜pH5.5の範囲内において、30℃〜60℃、好ましくは40℃〜50℃の温度下で、6時間〜48時間、好ましくは12〜24時間インキュベートすればよい。
【0071】
本工程で、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を用いてもよい。本発明のβ‐グルコシダーゼ等は、前述のようにセロオリゴ糖を加水分解する活性も有するからである。この場合、本発明のβ‐グルコシダーゼ等の作用により、次のセロビオース分解工程まで連続的に行うことができるため、別途セロビオース分解工程を行う必要がないという利点がある。一方、本工程において、本発明の形質転換体若しくはその後代又は本発明のβ‐グルコシダーゼの一つであるMru-β-Gluを生合成する好熱菌Meiothermus ruber(本明細書では、これらをまとめて以下「形質転換体及び細菌等」とする)を使用することもできる。この場合、反応液がその形質転換体及び細菌等の培養に適した状態であって、かつその形質転換体及び細菌等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、その形質転換体及び細菌等を当該反応液に直接投入すればよい。また、反応液はその形質転換体及び細菌等の培養に不適ではあるが、本発明の形質転換体及び細菌等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、その形質転換体及び細菌等を別途適当な条件下で培養し、その培養液上清を当該反応液に投入すればよい。一方、本発明の形質転換体及び細菌等が本発明のβ‐グルコシダーゼ等を内包し、分泌しない場合には、適当な培養条件で別途培養したその形質転換体及び細菌等から前記第5実施形態に記載の方法を用いて本発明のβ‐グルコシダーゼ等を回収し、それを反応液に添加する必要がある。これらは、当該分野で公知の技術に基づいて、適宜調節すればよい。
【0072】
6−3.セロビオース分解工程
「セロビオース分解工程」は、セロオリゴ糖分解工程等で生じたセロビオースを酵素によって加水分解し、最終産物であるβ-D-グルコースを生成する工程である。本工程は、通常、β-グルコシダーゼによる加水分解作用によって進行するが、一般的なβ-グルコシダーゼは、グルコースによりその活性が阻害されるため、本工程で生成したグルコース濃度が増加するにつれてはセロビオースの分解が停滞してしまう。それ故、従来のβ-グルコシダーゼでは、セロビオースが蓄積し、効率的な糖化反応を行えないという問題があった。本実施形態のセルロース等の糖化方法では、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を本工程に使用し、この問題を解決することを特徴としている。すなわち、本発明のβ‐グルコシダーゼ等は、1Mの非常に高濃度のグルコース存在下であってもセロビオースを加水分解する活性を保持することができる。さらに、グルコースの存在により、その活性を増加する新規性質を有することから、グルコース濃度の増大に伴うセロビオース分解工程の停滞を回避し、より効率的に糖化反応を完了することが可能となる。
【0073】
前記セロオリゴ糖分解工程後、エキソグルカナーゼ等を失活させてそれらを除去する処理は、特に必要ではない。これは、前記セロオリゴ糖分解工程後、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を添加することで、セロオリゴ糖分解工程後に残存するセロオリゴ糖をエキソグルカナーゼにより引き続き加水分解することができるからである。ただし、必要に応じて、失活・除去処理を行ってもよい。
【0074】
本工程の具体的方法として、例えば、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を使用する場合であれば、それらを1gのセロビオースに対して0.1〜1mg、好ましくは0.5mgで添加し、pH3.5〜pH7.5の範囲内において、30℃〜70℃温度下で、6時間〜48時間、好ましくは12〜24時間インキュベートすればよい。
【0075】
また、本工程において、本発明の形質転換体及び細菌等を使用する場合、セロオリゴ糖分解工程で記載したように、反応液がその形質転換体及び細菌等の培養に適した状態であって、かつ形質転換体及び細菌等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、その形質転換体及び細菌等を当該反応液に直接投入すればよい。この場合、反応温度は、形質転換体及び細菌等の増殖に適した温度にするか、又はそれらを増殖させた後、本発明のβ‐グルコシダーゼの至適温度に上げればよい。また、反応液はその形質転換体及び細菌等の培養に不適ではあるが、形質転換体及び細菌等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、形質転換体及び細菌等を別途適当な条件下で培養し、その培養液上清を当該反応液に投入すればよい。この場合、反応温度は、本発明のβ‐グルコシダーゼの至適温度にすることができる。一方、形質転換体及び細菌等が本発明のβ‐グルコシダーゼ等を内包し、分泌しない場合には、適当な培養条件で別途培養した形質転換体及び細菌等から前記第5実施形態に記載の方法を用いてβ‐グルコシダーゼ等を回収し、それを反応液に添加する必要がある。その際、添加する量は本発明のβ‐グルコシダーゼ等を使用する場合に準ずればよい。
【0076】
一例として、形質転換体が酵母であった場合、本発明のβ‐グルコシダーゼの活性と酵母の生育の至適pHは、ほぼ一致する。また、本発明のβ‐グルコシダーゼの活性によってセロビオースから生じたβ-D-グルコースは、酵母の栄養源となり得る。それ故、反応温度を酵母の増殖に適した30℃前後にすれば、酵母形質転換体を反応液にそのまま投入することで、本工程を達成し得る。さらに、当該工程を嫌気的条件下で行った場合、酵母はエタノール発酵を行うが、本発明のβ‐グルコシダーゼは、エタノールが反応液に対する体積比で5〜20%のときにエタノール非存在下と比較して活性が20%〜50%向上するという利点もある。したがって、セルロールやヘミセルロースからバイオエタノールを生成する場合に酵母の使用は非常に有効である。
【0077】
本工程では、本発明のβ‐グルコシダーゼ等がその活性を失わない範囲で、他の生物種由来のβ‐グルコシダーゼと共存することもできる。例えば、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように各セルラーゼを混合状態で包含する未精製溶液をセルロース分解工程で使用する場合が該当する。
【0078】
本工程後に、セルロースの糖化産物であるβ-D-グルコースを得ることができる。
【0079】
6−4.リグニン分解除去工程
一の実施形態において、木質バイオマスからセルロース等を糖化する場合、前記セルロース分解工程に先立ち、リグニンを分解除去する工程を含むことができる。この工程を含むことによって、効率的な木質バイオマスの糖化が可能となる。リグニン分解除去工程は、木質部においてセルロース及びヘミセルロースと結合するリグニンを除去する工程である。
【0080】
6−5.セルロース等の糖化方法の具体例
以下で、本実施形態の具体的方法について、一例を挙げて説明する。ただし、本実施形態は、ここで説明する方法に限定するものではない。
【0081】
まず、スギの木質部を1g採取し、コンバージミルで30分間粉砕する。次に、粉砕した粒子を2mg〜20mgのタンパク質成分を含有するトリコデルマ・リーゼイの培養上清1ml、及び1ユニット〜10ユニットの本発明のβ‐グルコシダーゼを含む10ml反応溶液(50mM酢酸ナトリウム、pH5.0を含む)に加える。ここで、トリコデルマ・リーゼイの培養上清は、酵素製剤として市販されているものを使用すればよい。続いて、反応液を50℃で振とうしながら24時間反応させることで、スギセルロースをβ-D-グルコースに糖化することができる。
【0082】
6−6.効果
本発明の糖化方法によれば、反応産物として生じるグルコースの濃度が500mM以下であれば、その阻害作用を受けることなく、セルロース等の糖化反応を進行させることができる。その結果、セルロース等の十分な糖化が可能となる。
【0083】
7.β-D-グルコース製造方法
本発明の第7の実施形態は、前記第6実施形態の糖化方法を用いてセルロース等からβ-D-グルコースを製造する方法である。
【0084】
本製造方法は、前記第6実施形態の糖化方法に準じて行うことにより、その結果の生産物としてβ-D-グルコースを得ることができる。したがって、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0085】
以下で本発明の実施例を説明するが、ここで挙げる実施例は単なる具体的例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。
【0086】
<実施例1>グルコース耐性β-グルコシダーゼの単離
高濃度のグルコース存在下であっても、pNPGを加水分解できる活性を有するβーグルコシダーゼをメタゲノム解析法によって単離した。
【0087】
(1)堆肥由来の微生物ゲノムの抽出
木質を原料とする堆肥より微生物ゲノムを抽出した。まず、堆肥100gに対し、オートクレーブ滅菌した0.5M 硫酸アンモニウム水溶液(pH6.8) 500mlとオートクレーブ滅菌したスキムミルク水溶液(0.8 g/l)50mlを加え、サンプルに水が浸透するまでスターラーで撹拌した。次に、ワーリング社製ブレンダーにより、Hiのスイッチで5分間撹拌した。懸濁液を遠沈管に移し、遠心分離(1000rpm、10分間、4℃)を行った。上清を新しい遠沈管に移し、遠心分離(9000rpm、60分間、4℃)で集菌した。
【0088】
次に、上清を除き、得られた沈殿に10mlのDNA抽出バッファ(100mM Tris(Sigma社)−HCl(ナカライテスク社)バッファ(pH8.0)/100mM EDTA(pH8.0)(ナカライテスク社)/100mM リン酸ナトリウムバッファ(pH8.0)(ナカライテスク社)/1.5M NaCl(東京化成社)/1% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(シグマ社))を加え、混合液を穏やかに撹拌した。
【0089】
続いて、その混合液を-80℃のフリーザー内に一晩保存した後、60℃のインキュベータ(BR-40LF;タイテック社)内で溶解させた。溶解した溶液に20mg/mlのプロテイナーゼK(Sigma社)を200μl加え、37℃で1時間、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)を用いて200rpmで水平振とうしながら反応させた。その後、20% SDS溶液を1.5ml及び100mg/ml リゾチーム(ナカライテスク社)をそれぞれ1ml加え、65℃で3時間、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)を用いて200rpmで水平振とうさせた。
【0090】
続いて、反応後の溶液を、25℃で8000gにて30分間遠心分離し、水層と有機層に分離した後、水層を回収した。その水層と等量のTE飽和フェノール(ニッポンジーン社)を加え、一晩転倒混和させた。この工程を計3回繰り返した。ただし、2回目の転倒混和時間は、3時間とした。回収した水相にフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(PCI)溶液(Nippon gene社)を等量加え、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)を用いて室温で3時間転倒混和した。再び、25℃で8000gにて30分間遠心分離を行い、水層を回収した。
【0091】
得られた水層に1/10容量の3M 酢酸ナトリウム(ナカライテスク社)を加えて穏やかに撹拌した後、2.5倍容量のエタノール(キシダ化学社)を追加し、穏やかに撹拌した。溶液中に生じた糸状のDNA(メタゲノムDNA)を取りこぼさないように注意しながらデカンテーションにより上清を除き、その後、DNAを70%エタノールで2回洗浄した。DNAを風乾後、5mlのTEバッファを加え、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)内で一晩穏やかに水平に震盪させてメタゲノムDNAを溶解させた。
【0092】
(2)メタゲノムライブラリの構築
上記で得られたメタゲノムDNAをハイドロシェアー(ジーンマシーンズ社)によって物理的に剪断し、アガロースゲル(ニッポンジーン社)で電気泳動して分画した。5〜10kbのDNA断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルから抽出し、T4 DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)を用いてDNA断片の平滑化を行った。BamHI(NEB社)で切断後、T4 DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)による平滑末端化し、アルカリホスファターゼ(タカラバイオ社)による脱リン酸化処理を行ったp18GFPベクターに、DNA Ligation Kit Mighty Mix (タカラバイオ社)を用いて、前記調製したDNA断片を4℃、16時間で連結させた。反応後、反応液をフェノール(ニッポンジーン社)抽出し、エタノール沈殿を行って、30μlの0.1×TEに溶解した。作製したメタゲノムライブラリを、エレクトロポレーション法(ジーンパルサー;バイオラッド社)を用いて以下の条件にて大腸菌に導入した。25μlの大腸菌DH10B株(ElectroMAX DH10B cells,インビトロジェン社)、1μlのライゲーション溶液(組成)を混合し、エレクトロポレーションキュベット Gap 0.1 cm (Bio rad)に入れた後、1.8kV、200Ω、25μFでパルス処理し、直ちに1mlのSOC培地を加えて37℃で1時間振とう培養した。その後、培養液全量を100μg/ml アンピシリン及び100μM IPTGを含有するLBプレート(9cm)1枚に播種し、37℃で一晩培養した。翌日、プレートに1mlのLB培地を加え、スプレッダーを用いてプレートから形質転換体コロニーを回収した。得られた形質転換体の集団をメタゲノムライブラリとした。
【0093】
(3)βーグルコシダーゼ陽性クローンのスクリーニング
次に、得られたメタゲノムライブラリを、10μM IPTG(ナカライテスク社)、40μg/ml X-Glc(5-ブルモ-4-クロロ-3-インドイル-β-D-グルコピラノシド;シグマ社)を含むLBプレート上に播種し、β‐グルコシダーゼ活性を有するクローンのスクリーニングを行った。X-Glcは、β‐グルコシダーゼによって分解されると青色色素を発生する。そこで、青色を呈する形質転換体をβーグルコシダーゼ陽性クローンとして回収した。359クローンを解析した結果、13クローンのβーグルコシダーゼ陽性クローンを得ることができた。
【0094】
(4)グルコース耐性β-グルコシダーゼのスクリーニング
メタゲノムライブラリより得られた13クローンのβーグルコシダーゼ陽性クローンについてグルコース耐性のスクリーニングを行った。寒天培地上に生育させた各クローンを、1mlのLB-アンピシリン(ナカライテスク社)液体培地を含む96穴マイクロプレートに接種した。当該プレートをシェーカー(タイテック社M BR-024)で37℃、1000rpmにて一晩振とう培養した。培養液から200μlを分取し、100μlずつグルコース非存在下(0%)及び10%(v/v)グルコース存在下における活性測定に供した。具体的に説明すると、分取した培養液を、まず、遠心分離器(5810R;エッペンドルフ社)を用いて4℃にて4000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した。次に、ペレット(菌体)を、1mM pNPG(シグマ社)/及び0%又は10%グルコース(ナカライテスク社)を含む100mMリン酸バッファ(pH6.0)に懸濁した。シェーカー(M BR-024;タイテック社)で、37℃、1000rpmにて48時間振とうして反応させた後、遠心分離器(5810R;エッペンドルフ社)を用いて4℃にて4000rpmで10分間遠心分離し、上清50μlを分取して100μlの炭酸ナトリウム(ナカライテスク社)を添加し、反応を停止させた。反応のモニターは、405nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダー(VersaMax;モレキュラーデバイス社)の上で測定した。
【0095】
その結果、10%(v/v)グルコース存在下で活性低下を確認できない5クローン(Td-2F2、Td-2H7、Td-4E5、Td-3A5とTd-2E3)をグルコース耐性β-グルコシダーゼの遺伝子を有する形質転換体として単離した。それぞれのクローン由来のグルコース耐性β-グルコシダーゼを2F2-β-Glu、2H7-β-Glu、4E5-β-Glu、3A5-β-Glu及び2E3-β-Gluと便宜的に命名した。
【0096】
<実施例2>グルコース耐性β-グルコシダーゼの同定
実施例1で得られた5クローン由来の各β-グルコシダーゼをコードする遺伝子について、その塩基配列情報を得るため、プラスミドのショットガン解析を行った。プラスミドの抽出は、大腸菌からプラスミドを抽出する常法に従った。抽出した約1μgのプラスミドをそれぞれ1ユニットのSau3AI(タカラバイオ社)を用いて室温で5分間の反応により切断し、アガロースゲル(ニッポンジーン社)電気泳動により分画した後、1〜3kbのDNA断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルから抽出した。一方、1μgのpTDCm-ccdBamを5ユニットのBamHI(NEB社)で37℃にて4時間の反応により完全消化した。pTDCm-ccdBamは、pUC系プラスミドにアンバーコドン(停止コドン)を含むccdB遺伝子をクローン化したプラスミドである。また、ccdB遺伝子は、通常の大腸菌では致死的に作用するため、この遺伝子内に目的のDNA断片が挿入されていない形質転換体はコロニーを形成できない。
【0097】
続いて、BamHI切断したpTDCm-ccdBamの末端をアルカリホスファターゼ(タカラバイオ社)で脱リン酸化処理し、得られた開裂pTDCm-ccdBamと前記ゲル抽出したDNA断片とをT4 DNAリガーゼ(NEB社)により連結した。反応液を大腸菌JM109コンピテントセル(タカラバイオ社)に導入し、34μg/mlクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に播種した。37℃で一晩培養した後、生育した形質転換体をランダムに96個選択し、34μg/mlクロラムフェニコール含有LB培地を入れた96穴マイクロプレートに接種した。37℃にて一晩培養し、菌体の一部を鋳型とし、GEヘルスケア社鋳型増幅キットTempliPhiを用いて添付マニュアルに従い塩基配列用の鋳型を調製した。シーケンシング反応は、BigDye(登録商標)Terminator V3.1キット(ABI社)を用いてDNAシーケンサー(PRISM 310;ABI社)により行った。
【0098】
配列決定後の塩基配列をBLAST検索にかけて、既知のβ-グルコシダーゼ遺伝子と相同性の比較的高い(50%程度の相同性)ORFを推定β-グルコシダーゼとして選択した。続いて、その推定遺伝子のサブクローニングを行った。遺伝子の増幅は、2F2-β-Glu遺伝子については、Td-2F2 Fwd(配列番号13)及びTd-2F2 Rev(配列番号14)の組み合わせで、2H7-β-Glu遺伝子については、Td-2H7 Fwd(配列番号15)及びTd-2H7 Rev(配列番号17)、あるいはTd-2H7 Fwd2(配列番号16)及びTd-2H7 Rev(配列番号17)の組み合わせで、4E5-β-Glu遺伝子については、Td-4E5 Fwd(配列番号18)及びTd-4E5 Rev(配列番号19)の組み合わせで、3A5-β-Glu遺伝子については、Td-3A5 Fwd(配列番号20)及びTd-3A5 Rev(配列番号21)の組み合わせで、そして2E3-β-Glu遺伝子については、Td-2E3 Fwd(配列番号22)及びTd-2E3 Rev(配列番号23)の組み合わせで行った。プライマーは、すべてオペロン社製である。増幅された断片をアガロースゲル(ニッポンジーン社)電気泳動により分画後、それぞれについて約1.5kbのDNA断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルから抽出し、30μlの水に溶解した。得られたDNA溶液を5μl分取し、断片それぞれを、2F2-β-Glu遺伝子についてはNdeI/HindIIIにより、2H7-β-Glu遺伝子についてはNdeI/EcoRIにより、4E5-β-Glu遺伝子についてはNdeI/HindIIIにより、3A5-β-Glu遺伝子についてはNdeI/XhoIにより、そして2E3-β-Glu遺伝子についてはNdeI/XhoIにより切断した。ついで、各制限酵素断片を、2F2-β-Glu遺伝子についてはNdeI/HindIII切断したpJ28aに、2H7-β-Glu遺伝子についてはNdeI/EcoRI切断したpJ28aに、4E5-β-Glu遺伝子についてはNdeI/HindIII切断したpJ29bに、3A5-β-Glu遺伝子についてはNdeI/XhoI切断したpJ29bに、そして2E3-β-Glu遺伝子についてはNdeI/XhoI切断したpJ28aに、T4 DNAリガーゼ(NEB社)を用いて連結させた。
【0099】
なお、NdeI、EcoRI、HindIII、XhoI制限酵素はすべてNEB社製である。また、pJ28a、pJ29bは、pJExpress404(DNA2.0社製)ベクターのマルチクローニング部位を、pET28a(メルク社製)、pET29b(メルク社製)製のそれと交換したものである。大腸菌BL21(DE3)株(ニッポンジーン社)を反溶液で常法により形質転換した後、100μM IPTG(ナカライテスク社)/40μg/ml X-Glc(シグマ社)/100μg/mlアンピシリン(シグマ社)を含有するLBプレート上に塗布し、βーグルコシダーゼ活性を有するクローンのスクリーニングを行った。活性の見られたクローンを培養後、プラスミドを調製し、BigDye(登録商標)Terminator V3.1キット(ABI社)を用いてDNAシーケンサー(PRISM 310;ABI社)により塩基配列を確認した。こうして得られたプラスミドをそれぞれ「pJ28 Td-2F2 Bgl1」、「pJ28 Td-2H7 Bgl1」、「pJ28 Td-2H7 Bglmat」、「pJ29 Td-4E5 Bgl1」、「pJ29 Td-3A5 Bgl1」及び「pJ29 Td-2E3 Bgl1」と名付けた。
【0100】
<実施例3>ゲノムデータベース検索による2F2-β-Gluの好熱菌メイオサーマス ルバー(Meiothermus ruber)ホモログMru-β-Gluの同定
実施例2で決定したβ-グルコシダーゼの一つである2F2-β-Gluのアミノ酸配列をクエリーとして、NCBIゲノムデータベースをBLAST検索した。その結果、60%のアミノ酸同一性を示す配列が好熱菌Meiothermus ruberゲノム上に同定された。本遺伝子の機能は、未同定であったが、クエリーとして用いた2F2-β-Gluがβ-グルコシダーゼであることから、β-グルコシダーゼ機能を有すると推察し、Mru-β-Glu遺伝子の合成を行った。
【0101】
<実施例4>Mru-β-Glu遺伝子の合成
Mru-β-Glu遺伝子については、前記BLAST検索で得られたアミノ酸配列を元に大腸菌のコドン使用頻度に合わせた塩基配列の設計を行い、それを元に遺伝子の全合成を行った。配列の最適化と全合成はGeneArt社により行われた。得られた遺伝子をNdeI、EcoRIの制限酵素で切断し、T5プロモーターにより発現誘導されるpJ28aベクターのNdeI、EcoRI部位にライゲーション法により挿入した。反応液の一部を大腸菌コンピテントセルBL21(バイオダイナミクスラボラトリー社)に導入し、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天プレート上に塗布した後、37℃で18時間培養した。生育した青色の単一コロニーから得られたプラスミドを「pJ28 Mru Bgl」と名付けた。
【0102】
<実施例5>β-グルコシダーゼの製造
他の実施例2及び4で調製したプラスミドを、2F2-β-Glu遺伝子については大腸菌コンピテントセルJM109(ニッポンジーン社)、Mru-β-Glu、2H7-β-Glu、4E5-β-Glu、3A5-β-Glu、2E3-β-Gluについては大腸菌コンピテントセルBL21(バイオダイナミクスラボラトリー社)にそれぞれ導入し、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天プレート上に塗布した後、37℃で18時間培養した。生育した単一コロニーを、Overnight Express溶液(ノバジェン社)、100μg/mlのアンピシリンを含む100mLのLB液体培地に植菌し、37℃で17時間振とう培養した(大量培養)。培養後の菌体を5000g、10分間の遠心で回収し、湿菌体重量で1gを10mlの20mM Tris-HCl(pH8.0)に懸濁した。次に0.75mlの10×BugBuster溶液(ノバジェン社)を加え、室温で20分間穏やかに混和した。4℃にて20000gで20分間遠心(トミー精工社)した後、上清を回収した。
【0103】
His-Trapカラム(1ml)(キアゲン社)を20mMリン酸ナトリウム(pH7.4)/0.5M塩化ナトリウム/20mMイミダゾール(いずれもナカライデスク社)で平衡化した後、前記上清をカラムに通した。平衡化に用いた溶液10mlでカラム内を洗浄し、イミダゾールの濃度勾配(20mM〜0.5M,20ml)をかけて、吸着蛋白質を溶出した。各画分の一部を取り出して、β-グルコシダーゼの活性を確認した。活性は、5μlの20mM pNPG/50μlのMcIlvaineバッファ(pH4.5)/20μlのddw(deionaized disti11ed water)からなる溶液に前記各画分25μl加えた計100μlの反応液について、プレートリーダー(VersaMax;モレキュラーデバイス社)により405nmにおける吸光度を測定した。これにより各プラスミドを保持する大腸菌について、以下の結果が得られた。
【0104】
すなわち、pJ28 Td-2H7 Bgl1を有する大腸菌からは、カラム吸着画分に全く活性が検出されず、非吸着画分にのみ活性が検出された。一方、pJ28 Td-2H7 Bglmatを保持する大腸菌からは、カラム吸着画分に活性が検出された。このことより、pJ28 Td-2H7 Bgl1はシグナルペプチドを有し、プロセッシングによりN末端のヒスチジンタグを含む領域が、酵素本体から除去されたと考えられた。これに対して、遺伝子配列から予測されたシグナルペプチド切断部位から下流の配列に対しN末端にヒスチジンタグを配したpJ28 Td-2H7 Bglmatについては、プロセッシングを受けないため、カラムに吸着したと考えられた。このことから、2H7-β-Gluの活性に必要な領域は配列番号2の30番目のアミノ酸からC末端までの配列であると結論された。さらに、pJ28 Td-2F2 Bgl1を有する大腸菌、pJ29 Td-4E5 Bgl1を有する大腸菌、pJ29 Td-3A5 Bgl1を有する大腸菌、pJ29 Td-2E3Bgl1を有する大腸菌、及びpJ29 MruBgl1を有する大腸菌からは、いずれもカラム吸着画分に活性が検出された。
【0105】
以後の実験では、pJ28 Td-2F2 Bgl1、pJ28 Mru Bgl、pJ28 Td-2H7 Bglmat、pJ29 Td-4E5 Bgl1、pJ29 Td-3A5 Bgl1及びpJ29 Td-2E3 Bgl1より生産された活性画分を回収し、20mM Tris-HCl(pH7.0)(ナカライテスク社)溶液とアミコンウルトラ-15限外濾過キットを用いて、5000g、15分間の遠心濃縮を3回繰り返した。その結果、20mM Tris-HCl溶液に含まれる本発明のβ‐グルコシダーゼ溶液を得た。本酵素溶液を用いて、以下の酵素学的解析を行った。
【0106】
<実施例6>グルコース耐性組換え型β-グルコシダーゼの分子量の測定
前記実施例5で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼの分子量をSDS-PAGEにより測定した。
【0107】
1μlの実施例5の酵素溶液(約2μgのタンパク質含有)、5μlの分子量マーカー(バイオラッド社)及び10μlの濃縮前の活性可溶画分を、SDS-PAGE(7.5-15%グラジエントゲル;DRC社)の各ウェルにアプライし、常法により電機泳動を行った。泳動後、ゲルをクマシーブリリアントブルー(CBB)で約30分間染色し、脱色液で30分間脱色した。
【0108】
組換え型β‐グルコシダーゼのマーカーに対する相対的な移動度は、2F2-β-Gluについては51.5kDa付近、2H7-β-Gluについては54.0kDa付近、4E5-β-Gluについては53.0kDa付近、3A5-β-Gluについては50.6kDa付近、及び2E3-β-Gluについては51.5kDa付近であった。これは、ヒスチジンタグの付加した酵素のアミノ酸配列から計算される分子量とほぼ一致していた。したがって、本発明のβ‐グルコシダーゼの分子量は、50kDa前後であることが明らかとなった。
【0109】
<実施例7>グルコース存在下におけるβ-グルコシダーゼの活性
異なるグルコース濃度下における実施例5で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼの活性を、pNPGを基質として検証した。
【0110】
β‐グルコシダーゼがpNPGを加水分解した際に生じるp-ニトロフェノール(pNP;4−ニトロフェノール)の遊離量を測定し、これを本酵素のグルコース生成(基質分解)活性とした。活性反応速度は、反応液の405nmにおける吸光度の変化をプレートリーダー(VersaMax;モレキュラーデバイス社)上でモニターすることによって測定した。なお、本系では、総量を170μlとした。これは、この量における光路長が0.5cmとなるため吸収の値を1cm光路に換算し易いからである。
【0111】
反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(2F2-β-Glu用pH5.5、Mru-β-Glu用pH5.5、2H7-β-Glu用pH4.5、4E5-β-Glu用pH5.0、3A5-β-Glu用pH6.5、2E3-β-Glu用pH5.0)を加え、これに20mMのpNPG溶液と0mM、62.5mM、125mM、250mM、500mM及び1M(1000mM)のグルコース溶液をそれぞれ組み合わせて添加し、ddwで100μlに調製した。これを、30℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0112】
結果を図1a〜図1fに示す。これらの図は、20mM pNPGにおける0mMグルコース、すなわちグルコース非存在下での反応速度を100%としたときの各グルコース濃度の相対活性値を示している。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、のグルコース濃度まで、0mMのときとほぼ変わらぬ活性を保持するだけでなく、逆にグルコース存在下の方がグルコース非存在下の活性と比較して活性が増大することが明らかとなった。具体的には、20mM pNPGにおいて2F2-β-Gluで約9倍(比活性892%:1Mグルコース)、Mru-β-Gluで約2.5倍(比活性246%:1Mグルコース)、2H7-β-Gluで約2.2倍(比活性215%:1Mグルコース)、4E5-β-Gluで約4.7倍(比活性466%:250mMグルコース)、3A5-β-Gluで約1.4倍(比活性140%:500mMグルコース)、及び2E3-β-Gluで最大約1.2倍(比活性115%:1Mグルコース)の高い活性を有する。このように、従来活性阻害物質とされてきたグルコースによって、逆に活性が促進されるβ‐グルコシダーゼはこれまで知られておらず、これらが新規の性質を有するβ‐グルコシダーゼであることが明らかとなった。
【0113】
<実施例8>pNPGを基質としたときのβ-グルコシダーゼのカイネティクス
pNPGを基質としたときの本発明のβ‐グルコシダーゼの最大初速度(Vmax)及びミカエリス定数(Km)を算出した。
【0114】
反応液は、0.01μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(2F2-β-Glu用pH5.5、Mru-β-Glu用pH5.5、2H7-β-Glu用pH4.5、4E5-β-Glu用pH5.0、3A5-β-Glu用pH6.5、2E3-β-Glu用pH5.0)を加え、これに0.015625mM、0.03125mM、0.0625mM、0.125mM、0.25mM、0.5mMのpNPG溶液を添加し、ddwで100μlに調製した。これを、30℃で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。上記実験を3回行い、平均をとった。また、より高温でのカイネティクスを解析するため、2F2-β-Gluでは75℃で5分間、Mru-β-Gluでは65℃で5分間、2H7-β-Gluでは60℃で5分間、4E5-β-Gluでは55℃で5分間、3A5-β-Gluでは50℃で5分間、2E3-β-Gluでは60℃で5分間それぞれ反応させた後、前記30℃での方法と同様に処理をし、吸光度を測定した。
【0115】
結果を図2a〜図2fに示す。この図から算出されるVmaxは、2F2-β-Gluで7.1±0.5 U/mg、Mru-β-Gluで11.3±0.7 U/mg、2H7-β-Gluで11.6±0.5 Unit/mg、4E5-β-Gluで34.2±1.0 U/mg、3A53A5-β-Gluで18.2±0.8 U/mg、2E3-β-Gluで33.5±1.2 U/mg、Kmは、2F2-β-Gluで193±22μM、Mru-β-Gluで112±9μM、2H7-β-Gluで84.7±6.7μM、4E5-β-Gluで423±15μM、3A5-β-Gluで140±8μM、2E3-β-Gluで269±8μMであった。
【0116】
<実施例9>セロビオース及びセロオリゴ糖を基質としたときのβ-グルコシダーゼのカイネティクス
セロビオースを基質としたとき2F2-β-Glu、Mru-β-Glu、2H7-β-Glu、4E5-β-Glu、3A5-β-Glu及び2E3-β-GluのVmax及びKmを算出した。
反応液は、0.01μgの前記各β‐グルコシダーゼを含む50μlのMcIlvaineバッファ(2F2-β-Glu用pH5.5、Mru-β-Glu用pH5.5、2H7-β-Glu用pH4.5、4E5-β-Glu用pH5.0、3A5-β-Glu用pH6.5、2E3-β-Glu用pH5.0)溶液(酵素溶液)に、50μlの基質溶液(0.15625mM、0.3125mM、0.625mM、1.25mM、2.5mM、1mM、5mM、10mMのセロビオース、又はセロオリゴ糖、すなわち、セロトリオース、セロテトラオース、若しくはセロペンタオース)を添加した。これを、2F2-β-Gluでは75℃で、Mru-β-Gluでは65℃で、2H7-β-Gluでは60℃で、4E5-β-Gluでは55℃で、3A5-β-Gluでは50℃で、2E3-β-Gluでは60℃でそれぞれ5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて酵素反応により生成された反応溶液中のグルコース量をインビトロジェン社製Amplex Red Glucose/Glucose Oxidase Assay Kitキットにより定量した。5μlの酵素反応液を取り出し、25μlのddwに加え、キット中の検出用反応溶液(working solution) 30μlに混合し、総量60μlとした。室温で30分間放置した後、グルコースとworking solutionとの反応により生じた蛍光を、蛍光プレートリーダー(SPECTRA max GEMINI XS ;モレキュラーデバイス社)を用いて、励起波長550nm、蛍光波長590nmの条件で測定した。上記実験を3回行い、平均をとった。
【0117】
2F2-β-Glu、Mru-β-Glu、2H7-β-Glu、4E5-β-Glu、3A5-β-Glu及び2E3-β-Gluの結果をそれぞれ表1〜6に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
【表3】

【0121】
【表4】

【0122】
【表5】

【0123】
【表6】

【0124】
表1〜6に示すように本発明の前記6つのβ‐グルコシダーゼ(2F2-β-Glu、Mru-β-Glu、2H7-β-Glu、4E5-β-Glu、3A5-β-Glu及び2E3-β-Glu)は、既知の多くのβ‐グルコシダーゼで見られる性質、すなわちpNGPに対して高い活性を有するが、セロビオースやセロオリゴ糖に対しては活性が低いという性質は見られず、むしろpNGPよりもセロビオースやセロオリゴ糖に対して同等あるいはそれ以上の活性を示すという性質を示すことが明らかとなった。
【0125】
既知のβ-グルコシダーゼの中には、高濃度の基質により阻害を受けることが知られているものがある。そこで、一例として、2H7-β-Gluを用いて高濃度のセロビオース存在下における酵素活性の基質依存性を検証した。その結果、セロビオース濃度が100mMであっても、基質阻害の影響を受けないことが判明した。このように、本願記載の酵素は、基質、生成物のいずれにも阻害を受けない特異な性質を有する酵素である。
【0126】
また、表7に、本発明のβ‐グルコシダーゼ及び既知高濃度グルコース耐性β‐グルコシダーゼの各特性を示す。
【0127】
【表7】

【0128】
表7で示すように、本願発明のβ‐グルコシダーゼ以外にも高濃度のグルコース存在下でその活性を有するβグルコシダーゼは既にいくつか知られていた。しかし、本発明のβ‐グルコシダーゼは、少なくとも表7において最も高いグルコース濃度存在下で100%の残存活性を有することが明らかとなった。すなわち、本発明のβ‐グルコシダーゼは、既知の高濃度のグルコース耐性β‐グルコシダーゼよりもその耐性が高い。また、本発明のβ‐グルコシダーゼは、従来のいずれの高濃度グルコース耐性β‐グルコシダーゼには見られない新規性質、すなわちグルコースによる活性向上という特異な性質を有することが判明した。
【0129】
<実施例10>β-グルコシダーゼ活性のpH依存性
実施例5で得られた本発明の各β‐グルコシダーゼにおける酵素活性のpH依存性について検証した。
【0130】
活性測定の方法は、実施例7に準じた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、ddwで100μlに調製した。前記McIlvaineバッファは、pH3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8及び8.5を調製し、各反応液に加えた。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0131】
結果を図3a〜fに示す。この図は、405nmにおける吸光度が最高値を示したpH(2F2-β-GluでpH5.5、Mru-β-GluでpH5.5、2H7-β-GluでpH4.5、4E5-β-GluでpH5.0、3A5-β-GluでpH6.5及び2E3-β-GluでpH5.0)の測定値を100%としたときの各pHにおける相対値を示している。
【0132】
<実施例11>β-グルコシダーゼ活性のpH安定性
実施例5で得られた本発明の各β‐グルコシダーゼにおける酵素活性のpH安定性、すなわちpHの影響により酵素が失活しない範囲について検証した。
【0133】
活性測定の方法は、実施例7に準じた。まず、各pH下で酵素を前処理するため0.1mgのβ‐グルコシダーゼを含む20μlの20mM Tris-HC(pH7.0)(酵素溶液)に80μlの各pHのMcIlvaineバッファ(すなわち、pH3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8及び8.5)を加えて混合し、室温で30分間処理した。続いて、10μlの処理後の溶液を取り出し、20mM Tris-HCl(pH7.0)で10倍希釈した後、これを酵素溶液として活性測定に用いた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの前記酵素溶液に50μlの対応するpHのMcIlvaineバッファ及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、ddwで100μlに調製した。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0134】
結果を図4a〜fに示す。この図は、pH8.5の測定値を100%としたときの各pHにおける相対値を示している。
【0135】
<実施例12>β-グルコシダーゼ活性の温度依存性
実施例5で得られた本発明の各β‐グルコシダーゼにおける酵素活性の温度依存性について検証した。
【0136】
活性測定の方法は、実施例7に準じた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(2F2-β-GluでpH5.5、Mru-β-GluでpH5.5、2H7-β-GluでpH4.5、4E5-β-GluでpH5.0、3A5-β-GluでpH6.5及び2E3-β-GluでpH5.0)及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、ddwで100μlに調製した。反応液を20℃、25℃、30℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃又は75℃の各温度で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0137】
結果を図5a〜fに示す。この図は、405nmにおける吸光度が最高値を示した温度(2F2-β-Gluで75℃、Mru-β-Gluで65℃、2H7-β-Gluで55℃、4E5-β-Gluで55℃、3A5-β-Gluで50℃及び2E3-β-Gluで60℃)の測定値を100%としたときの各温度における相対値を示している。
【0138】
<実施例13>β-グルコシダーゼ活性の温度安定性
実施例5で得られた本発明の各β‐グルコシダーゼにおける酵素活性の温度安定性、すなわち温度の影響により酵素が失活しない範囲について検証した。
【0139】
活性測定の方法は、実施例7に準じた。まず、各温度下で酵素を前処理するため0.1mg/mlのβ‐グルコシダーゼをそれぞれ含む100μlの20mM Tris-HCl(酵素溶液)を20℃〜75℃まで5℃刻みの各温度で10分間処理し、その後、氷中に保存した。続いて、処理後の酵素溶液1μl(1μgのβ‐グルコシダーゼを含む)に24μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液、50μlのMcIlvaineバッファ(2F2-β-GluでpH5.5、Mru-β-GluでpH5.5、2H7-β-GluでpH4.5、4E5-β-GluでpH5.0、3A5-β-GluでpH6.5及び2E3-β-GluでpH5.0)及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を加えて混合し、ddwで100μlに調製した。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0140】
結果を6a〜fに示す。この図は、20℃における測定値を100%としたときの各温度における相対値を示している。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明のβ‐グルコシダーゼ等を用いたセルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法によれば、セルロース及び/又はヘミセルロースを効率的に、かつ有効に糖化することができるため、未利用物を含む自然界に存在する多種多様なセルロース資源を食糧、飼料又はバイオエタノール等のエネルギー資源に変換することが可能となる。それ故、セルロース資源のエネルギー変換方法として、食品産業、畜産産業、エネルギー産業等の様々な分野に貢献し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SDS-PAGEにおいて45〜55キロダルトンの分子量を示し、500mMよりも多く1M以下のグルコース存在下における酵素活性がグルコース非存在下における酵素活性に対して100%以上の相対活性を有するβ‐グルコシダーゼ。
【請求項2】
500mM以下のグルコース存在下における酵素活性がグルコース非存在下における酵素活性に対して100%以上の相対活性を有する、請求項1に記載のβ‐グルコシダーゼ。
【請求項3】
以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のポリペプチドからなる、請求項1又は2に記載のβ‐グルコシダーゼ。
(a)配列番号1〜5で示されるいずれか一のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b)配列番号1〜5で示されるいずれか一のアミノ酸配列と少なくとも50%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチド、又は
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドのアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたポリペプチド
【請求項4】
配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドからなる、請求項3(b)に記載のβ‐グルコシダーゼ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のβ‐グルコシダーゼを構成するアミノ酸配列の一部を含み、かつその酵素活性を保持するポリペプチド断片。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のβ‐グルコシダーゼ又は請求項5に記載のポリペプチド断片をコードする核酸。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸を発現可能な状態で含む発現ベクター。
【請求項8】
請求項7に記載の発現ベクターを宿主に導入した形質転換体又はその後代。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換体又はその後代に発現誘導処理を行い、請求項1〜4のいずれか一項に記載のβ‐グルコシダーゼ又は請求項5に記載のポリペプチド断片を製造する方法。
【請求項10】
請求項1〜4に記載のβ‐グルコシダーゼの少なくとも一つ、請求項5に記載のポリペプチド断片の少なくとも一つ、好熱菌メイオサーマス ルバー(Meiothermus ruber)、及び/又は請求項8に記載の形質転換体若しくはその後代を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程を含む、セルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法を用いた、セルロースからβ-D-グルコースを製造する方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図1f】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図2f】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3f】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図4f】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図5e】
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【図5f】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図6e】
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【図6f】
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【公開番号】特開2011−205992(P2011−205992A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78134(P2010−78134)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物:第9回糸状分子生物学コンファレンス要旨集 発行者:糸状菌分子生物学研究会 発行日:平成21年10月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/酵素糖化・効率的発酵に資する基盤研究」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】