説明

グレージングチャンネル付き複層ガラス

【課題】複層ガラスの枠材からの抜けを防止するとともに、複層ガラスの寿命に悪影響を与えることなく、さらに交換の際のグレージングチャンネルの取り外しを容易とする。
【解決手段】スペーサによって隔置し空気層を有して重ねられた2枚のガラス板がその端縁部でシール材により接着され、該シール材の外表面が、前記2枚のガラス板の端面より内側に位置するようにして形成された複層ガラスと、前記複層ガラスの端縁部が嵌合される溝の側壁部に抜け止め部材が設けられるとともに、前記シール材の外表面に対向する位置に開口部が設けられたグレージングチャンネルと、前記グレージングチャンネルに前記複層ガラスの端縁部を嵌合した際、前記溝の側壁部と前記複層ガラスの端縁部との間に配置され、前記複層ガラスの端縁部に接着するとともに、固化した際に前記抜け止め部材と嵌合する接着剤とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グレージングチャンネル付き複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、省エネルギーや防音の観点から、複層ガラスが窓用ガラスとして多用されている。このような複層ガラスを窓枠(障子、框)に取り付ける際には、複層ガラスの周縁部にグレージング用のアタッチメント(グレージングチャンネル)を装着し、このグレージングチャンネルを介して複層ガラスを窓枠の溝に取り付けるようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複層ガラスの周縁部を包囲できるチャンネル状の補強材と、この補強材の複層ガラスに相対する内側面に設けた内部軟質材と、サッシと係合する外側面に設けた外部軟質材とからなるグレージング用のアタッチメントを周縁部に被着したアタッチメント付き複層ガラスが記載されている。
【0004】
一方最近では、窓枠を細くすることにより、複層ガラスの採光面積を広くして、断熱性、景観性及び見栄えを向上させた窓用ガラスが提案されている。ここで、窓枠が細くなるということは、グレージングチャンネル付き複層ガラスの端縁部が挿入される窓枠の溝が浅くなることを意味し、これに付随して複層ガラスの端縁部が嵌合されるグレージングチャンネルの溝の深さも浅くなる。
【0005】
したがって、上記特許文献1に開示されたような一般的な形状のグレージングチャンネルでは、グレージングチャンネルに対する複層ガラスの引き抜き強度が低下するため、グレージングチャンネルと複層ガラスとが分離し易くなり、組み立て作業性が悪くなってしまう。また、窓枠を開閉する際の力によって縦枠を円弧上に変形させる力が作用し、この変形力により、複層ガラスがグレージングチャンネルから外れ、結果として湾曲したまま元に戻らなくなる可能性があった。
【0006】
これに対して、例えば特許文献2において、グレージングチャンネルの複層ガラス端縁部を嵌合させる底部底面に、先端が矢印形状の突起部(隆条部)を備え、この突起部を複層ガラスの二次シール材に押し込んで没入させ、二次シール材が固化した際に、突起部を介してグレージングチャンネルを複層ガラスの二次シール材に保持させることにより、グレージングチャンネルに対する複層ガラスの引き抜き強度を高くし、グレージングチャンネルと複層ガラスとを分離し難くしたものが提案されている。
【0007】
しかし、特許文献2のようにグレージングチャンネルの突起部を複層ガラスの二次シール材に没入させたものでは、複層ガラスからの風圧や振動による外的な力が突起部を介して二次シール材に常に作用することとなる。また、窓枠を開閉する際の力によって縦枠を円弧上に変形させる力が作用し、この変形力により、グレージングチャンネルの突起部を介して二次シール材にその荷重が断続的に作用する。そのため、二次シール材が劣化して2枚のガラス板を拘束・保持する剛性が低下するので、一次シール材に変形歪みが生じ、結果として透湿抵抗の低下につながり、気密性や水密性が低下し、複層ガラスとしての寿命が短くなるという懸念がある。
【0008】
これに対して、複層ガラスを対象としたものではないが、特許文献3には、図9に示すように、ガラス等の面材110の端縁部に、所定の高さの係止面112aを有する抜け止め部材112が固着手段113により固着され、この抜け止め部材112を被嵌するように面材110の全周の端縁部にガスケット114が取り付けられ、建具の枠材116に設けられた係止部116aがガスケット114の係合部114aを押圧し係合することによりガスケット114が枠材116から抜けることを防止するとともに、抜け止め部材112の係止面112aがガスケット114に設けられた抜け止め部114bに接することで面材110がガスケット114から抜けることを防止するようにしたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−71170号公報
【特許文献2】特開平8−199920号公報
【特許文献3】特開2007−92484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献3に記載のものにおいては、ガラス等の面材に抜け止め部材を固着手段で固着することにより面材が枠材から抜けることを確実に防止しているが、面材として複層ガラスを用いた場合、製造公差により複層ガラスの板厚が厚くなると、はめ合い公差が小さくなり、枠材への嵌め込みが困難になるおそれがある。また、複層ガラスにグレージングチャンネル(ガスケット)を装着する以外に、抜け止め部材を装着する工程が必要となるため、製造工程が煩雑となり、経済性にも劣る。また、抜け止め部材の係止面(ガスケットの抜け止め部)が面材の端部より離れた面材の中央側にあるため、ガスケットを装着した面材を枠材に装着する際、嵌め込み難いという問題がある。また、面材の端部に抜け止め部材が密着するように装着されているため、面材として複層ガラスを用いた場合、グレージングチャンネル(ガスケット)との間の隙間から雨水等の水分が浸入するが、この水分がグレージングチャンネルの底部内底面と複層ガラスの端面との間に滞留し、その水分によって二次シールが劣化し、結果として複層ガラスとしての耐久性が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複層ガラスが枠材から抜けることを防止するとともに、複層ガラスの寿命に悪影響を与えることなく、さらに複層ガラスをグレージングチャンネルから容易に取り外すことができるようにしたグレージングチャンネル付き複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、スペーサによって隔置された2枚のガラス板が空気層を介して重ねられるとともに、該2枚のガラス板がその端縁部でシール材により接着され、該シール材の外表面が、前記2枚のガラス板の端面より該2枚のガラス板の内側に位置する複層ガラスと、前記複層ガラスの端縁部が嵌合される溝を有し、該溝の側壁部に抜け止め部材が設けられるとともに、前記シール材の外表面に対向する位置に開口部が設けられたグレージングチャンネルと、前記グレージングチャンネルに前記複層ガラスの端縁部を嵌合した際、前記溝の側壁部と前記複層ガラスの端縁部との間に配置され、前記複層ガラスの端縁部に接着するとともに、固化した際に前記抜け止め部材と嵌合する接着剤と、を備えたことを特徴とするグレージングチャンネル付き複層ガラスを提供する。
【0013】
これにより、固化した接着剤がグレージングチャンネルの抜け止め部材に嵌合しているため、グレージングチャンネルと複層ガラスとの結合が強固となり、よって、グレージングチャンネルに対する複層ガラスの引き抜き強度が上がる。また、シール材の外表面を複層ガラスの端面よりも内側に位置するようにするとともに、シール材の外表面に対向する位置にグレージングチャンネルに開口部を設けたため、複層ガラスとグレージングチャンネルとの間の隙間から浸入した水分がグレージングチャンネルの底部内底面と複層ガラスの端面との間に滞留することなく、グレージングチャンネルの開口部から外部に排水されるため、シール材が劣化することを防ぐので、複層ガラスの寿命に悪影響を与えることもない。
【0014】
また、請求項2に示すように、前記接着剤は、前記グレージングチャンネルに対する接着力よりも前記複層ガラスに対する接着力が強いことが好ましい。
【0015】
また、請求項3に示すように、前記接着剤は、シリコンを基材とする接着剤であることが好ましい。
【0016】
このような接着剤は、ガラス板に対して接着性が高く、樹脂に対して接着性が低いため、複層ガラスからグレージングチャンネルを容易に取り外すことが可能となる。
【0017】
また、請求項4に示すように、前記抜け止め部材は、前記複層ガラスの端部側に配置されたことが好ましい。
【0018】
これにより、複層ガラスにグレージングチャンネルを装着する場合や、グレージングチャンネルを装着した複層ガラスを枠材(框)に装着する際に、嵌め込み難くさが低減される。
【0019】
また、請求項5に示すように、前記接着剤は、前記複層ガラスの端縁部の側面及び端面に接着することが好ましい。
【0020】
このように、接着剤が複層ガラスの端縁部の側面のみならず端面にも接着するようにしたため、複層ガラスに対するグレージングチャンネルの結合をより強固にすることができる。
【0021】
また、請求項6に示すように、前記複層ガラスの端部から前記接着剤が前記抜け止め部材と嵌合する部分の最上部までの長さが2mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0022】
これにより、複層ガラスに対するクレージングチャンネルの適度な結合強度を保ちつつ、グレージングチャンネルを交換する際の取り外しも容易となる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、固化した接着剤がグレージングチャンネルの抜け止め部材に嵌合しているため、グレージングチャンネルと複層ガラスとの結合が強固となり、よって、グレージングチャンネルに対する複層ガラスの引き抜き強度が上がる。また、シール材の外表面を複層ガラスの端面よりも内側に位置するようにするとともに、シール材の外表面に対向する位置にグレージングチャンネルに開口部を設けたため、複層ガラスとグレージングチャンネルとの間の隙間から浸入した水分がグレージングチャンネルの底部内底面と複層ガラスの端面との間に滞留することなく、グレージングチャンネルの開口部から外部に排水されるため、シール材が劣化することを防ぐので、複層ガラスの寿命に悪影響を与えることもない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るグレージングチャンネル付き複層ガラスの第1の実施形態を示す断面図。
【図2】グレージングチャンネル付き複層ガラスの組み立て方法を示す説明図。
【図3】ショアA硬度と、引き抜き強度の関係を示すグラフ。
【図4】DAヒレ長さと引き抜き強度との関係を示すグラフ。
【図5】GCヒレ長さと引き抜き強度との関係を示すグラフ。
【図6】グレージングチャンネル付き複層ガラス10の組み立て方法を示す説明図。
【図7】本発明に係るグレージングチャンネル付き複層ガラスの第2の実施形態を示す断面図。
【図8】本発明に係るグレージングチャンネル付き複層ガラスの第3の実施形態を示す断面図。
【図9】従来のガラス等の面材をガスケットを介して枠体に装着した様子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るグレージングチャンネル付き複層ガラスについて詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明に係るグレージングチャンネル付き複層ガラスの第1の実施形態を示す断面図である。
【0027】
図1には、グレージングチャンネル付き複層ガラス10の一部を断面で示しているが、このグレージングチャンネル付き複層ガラス10は、窓用ガラス板として使用されるもので、全体形状が矩形状のガラスパネルである。また、このグレージングチャンネル付き複層ガラス10は、断熱性、景観性、及び見栄えを向上させるために、細い窓枠(図示省略)にその端縁部が嵌め込まれることにより、建物の壁面に取り付けられる。さらに、このグレージングチャンネル付き複層ガラス10は、矩形状の複層ガラス12の四辺の端縁部に、グレージングチャンネル14が装着されて構成されている。すなわち、グレージングチャンネル14は、複層ガラス12の全ての端縁部に取り付けられる。
【0028】
複層ガラス12は、2枚のガラス板16、16が、スペーサ18を介して隔置され、スペーサ18の両側面が一次シール材22、22によって各ガラス板16、16の内面に接着されることにより、2枚のガラス板16、16の間に空気層20が形成されて構成されている。また、複層ガラス12は、その端縁部が二次シール材(シール材)24によって封止されている。
【0029】
スペーサ18は中空の金属製型材であり、その内部にはシリカゲル等の吸湿材26が収納されている。また、スペーサ18の空気層20側の面には、貫通孔28が開口され、この貫通孔28を介して空気層20の空気が吸湿材26によって乾燥される。
【0030】
一次シール材22としては、粘着性があり低透湿性の樹脂材料が用いられ、特にブチルゴムが使用される。また、二次シール材24としては、ガラスに対する接着性が高いポリサルファイド系シーラント、又はシリコン系シーラントが使用される。さらに、二次シール材24は、その外表面24Aが2枚のガラス板16、16の端面16A、16Aから2枚のガラス板16、16の内側に位置するように塗布される。
【0031】
なお、図1では、二次シール材24の外表面24Aを欠き取って円弧状面としているが、二次シール材24の外表面24Aは、その一部を欠き取ってその下に空間が形成されていればよく、その形状は円弧状面に限定されるものではなく水平面でもよい。
【0032】
また、図1では、複層ガラス12のガラス板16、16として、厚さが等しい2枚のガラス板を例示したが、ガラス板の厚さもこれに限定されるものではなく、例えば一方のガラス板16を他方のガラス板16よりも厚さの厚いガラスとしてもよい。また、ガラス板16としては、通常のフロート板ガラスのほか、型板ガラス、網入りガラス、磨き板ガラス、耐熱強化ガラス、機能性コーティング付きガラス等の各種のガラス板を使用してもよい。同様に、ガラス板16としては、単板ガラスのほか、中間接着層を介して複数枚のガラス板を積層した合わせガラスも使用できる。
【0033】
一方、グレージングチャンネル14は、補強材30、内部軟質材32、及び外部軟質材34から構成されており、補強材30、内部軟質材32、及び外部軟質材34によって複層ガラス12の端縁部を覆う溝が構成されている。
【0034】
補強材30は、硬質塩化ビニル樹脂材等の樹脂製であり、複層ガラス12の端縁部を包囲するように断面凹形状に構成される。内部軟質材32は、軟質塩化ビニル樹脂材等の樹脂製であり、詳しくは後述するが、グレージングチャンネル14の溝に嵌合される複層ガラス12に対する抜け止め部材(後でGCヒレ部とも言う)となるように、補強材30の複層ガラス12の表面に相対する内壁面に設けられている。外部軟質材34も同様に軟質塩化ビニル樹脂材等の樹脂製であり、補強材30の窓枠に相対する外壁面に設けられている。補強材30、内部軟質材32、及び外部軟質材34は、例えば、押出成形手段等の適宜の成形手段を用いて一体成形される。
【0035】
また、補強材30の底部、すなわち二次シール材24の外表面24Aに対向する位置には、排水用の開口部36が備えられている。この開口部36は、グレージングチャンネル14の長手方向に沿って所定の間隔をもって備えられている。また前述したように、二次シール材24の外表面24Aを複層ガラス12の端面よりも内側に形成して二次シール材24の外表面24Aの下側に空間を設けるようにしたため、外から浸入した水分がこの空間からグレージングチャンネル14の開口部36を介して排水される。これによりグレージングチャンネルの見付けを小さくしても二次シール材への水分の浸入を防止でき、複層ガラスの耐久性が向上する。
【0036】
なお、このグレージングチャンネル14は、内部軟質材32を後述する抜け止め部材(GCヒレ部)とし兼用しているが、内部軟質材32とは別に専用の抜け止め部材を設けてもよい。この場合、抜け止め部材は、軟質部材に限定されず、硬質部材としてもよい。
【0037】
抜け止め部材(GCヒレ部)として兼用される内部軟質材32は、グレージングチャンネル14の溝の内側隅部14Aに塗布された接着剤38と係合される。接着剤38に対する内部軟質材32の係合方向は、グレージングチャンネル14に対して複層ガラス12を引き抜く方向に抵抗を与える方向である。すなわち、接着剤38のうち複層ガラス12の側面とグレージングチャンネル14の内壁面とに介在する接着剤38Aの上面に内部軟質材32が係合され、これにより、複層ガラス12が枠材から引き抜かれないように、複層ガラス12のグレージングチャンネル14に対する引き抜き強度を高くしている。このように固化した際に内部軟質材32と係合する接着剤38Aは、内部軟質材32とともに、複層ガラス12がグレージングチャンネル14から抜けるのを防止するアンカー効果を有する。そこで、このアンカーシールとしての接着剤38AをDA(ダブルアンカー)ヒレ部と言うこととする。
【0038】
なお、接着剤38のうち、ガラス板16の端面16Aとグレージングチャンネル14の底面との間に介在された接着剤38Bは、ガラス板16の端面16Aに接着される。
【0039】
接着剤38としては、樹脂製のグレージングチャンネル14に対する接着力よりもガラス板16に対する接着力が高い接着剤であり、シリコン等の硬化性エラストマを基剤とする接着剤が使用される。
【0040】
図2に、グレージングチャンネル14の内部軟質材32と接着剤38Aとによりグレージングチャンネル14からの複層ガラス12の抜けを防止している部分(アンカー部)を拡大して示す。
【0041】
図2に示すように、ガラス板16の側面とグレージングチャンネル14の内壁面とに介在する接着剤38Aの上面に内部軟質材32が係合され、これにより、複層ガラス12がグレージングチャンネル14から引き抜かれないようになっている。
【0042】
ここで、接着剤38Aが、ガラス板16の側面に接着する長さをA、内部軟質材(GCヒレ部)32と接着する長さ(GCヒレ長さ)をBとし、さらに接着剤38Aによって形成されるヒレ(DAヒレ部)のガラス板16端部から内部軟質材32の上端部までの長さ(DAヒレ長さ)をCとする。
【0043】
複層ガラス12のグレージングチャンネル14(あるいは枠材)からの引き抜き強度は、接着剤38の硬度、上記A、B、Cの長さ等によって変化する。
【0044】
図3に、建築用シーリング材の硬度測定で一般的なショアA硬度と、引き抜き強度(複層ガラスを枠材から引き抜く際の引き抜き強度、アンカー強度)の関係を示す。このとき引き抜き強度は、100N/10cm以上あることが好ましい。これは、JIS A4706(2000年)に規定されている開閉力50Nに対して安全係数を2倍として設定した条件である。したがって図3のグラフよりショアA硬度20°以上の硬度を有する樹脂を用いることが好ましい。
【0045】
グレージングチャンネル14の内部軟質材32(GCヒレ部)と係合して引き抜き防止効果(アンカー効果)を発揮する接着剤38A(DAヒレ部を形成するアンカーシール)としては、ガラス板16に対しては強固な接着力が長期的に発現する一方、グレージングチャンネル14に対しては、ガラス板16に対するよりは接着強度の劣る接着剤を用いることが望ましい。具体的には、シリコーンシーラントが好適に例示される。
【0046】
接着剤38がグレージングチャンネル14にも強固に接着していると、グレージングチャンネル14を取り外すことが困難となる。しかし、ここでは、グレージングチャンネル14に対する接着力よりもガラス板16に対する接着力が大きい接着剤38としてシリコーンを基剤とする接着剤を用いているので、複層ガラス12の搬送時等にグレージングチャンネル14が破損した場合に、グレージングチャンネル14を複層ガラス12から容易に取り外して交換することが可能となる。
【0047】
なお、複層ガラス12の二次シール材24として一般に使用されるポリサルファイド系のシール材をアンカー部に用いた場合には、水分の浸入に対する耐久性が低く、長期信頼性に劣るため、劣化によりアンカー効果が損なわれる虞がある。
【0048】
図4に、DAヒレ長さ(C)と引き抜き強度との関係を示す。
【0049】
いま図2において、ガラス板16の側面に接着する長さA(引っ掛かり長さ)を1mmとしているので、図4において、DAヒレ長さが1mm以上でグラフが立ち上がるようになっている。図4に示すように、引き抜き強度が100N/10cm以上となるためには、DAヒレ長さCは2mm以上あればよいことがわかる。
【0050】
一方、DAヒレ長さの上限としては、板硝子協会が定める官民合同会議目録搭載ガラスの施工・使用に関する板硝子協会基準(平成17年基準)によれば、かかりしろ(ガラス底面と框との距離)は10mm以上と規定されていることから、その最小値10mmの場合であっても、複層ガラスとグレージングチャンネルとの装着性に支障が生じないように、DAヒレ長さの上限は5mmとすることが望ましい。
【0051】
これは、もしDAヒレ長さが5mmを超えると、相対するグレージングチャンネル側のヒレの付け根の位置が相対的にグレージングチャンネルの開口部側にオフセットされることになり、複層ガラスをグレージングチャンネルに装着し難くなるとともに、グレージングチャンネルを装着した複層ガラスを枠材に嵌め込み難くなる虞があるからである。また、グレージングチャンネル側のヒレ(GCヒレ部)も長くなることに伴い、複層ガラスとグレージングチャンネルの立設片(補強材30及び外部軟質材34等の複層ガラス側面に接するグレージングチャンネルの部分)と複層ガラスとの隙間(公差)によっては、複層ガラスをグレージングチャンネルに装着し難くなるからである。
【0052】
また、図5に、GCヒレ長さ(B)と引き抜き強度との関係を示す。
【0053】
図5に示すように、引き抜き強度が100N/10cm以上となるためには、GCヒレ長さBは0.2mm以上あればよいことがわかる。
【0054】
また図5からわかるように、特にGCヒレ長さBが1.0mm以上あると引き抜き強度は格段に大きくなる。すなわち、ガラス板16の側面に接着する長さA(引っ掛かり長さ)を1mmとするとき、DAヒレ長さCが2mm以上であれば、GCヒレ長さBは1mm以上となり、十分な引き抜き強度を得ることができる。
【0055】
図6に、このように構成されたグレージングチャンネル付き複層ガラス10の組み立て方法を示す。
【0056】
図6に示すように、グレージングチャンネル14の溝の内側隅部14Aに、塗布装置40のノズル42から接着剤38を塗布する。接着剤38の塗布量は、グレージングチャンネル14のサイズにもよるが、片側につき、グレージングチャンネル14の長手方向10cm当たり0.45〜1.2gの塗布量で塗布装置40を内側隅部14Aに沿って移動しながら内側隅部14Aの全域に接着材38を塗布する。また、接着剤38の塗布位置は、抜け止め部材として機能する内部軟質材32(GCヒレ部)の下側に回り込むように塗布する。これにより、内部軟質材32が複層ガラス12に押圧接触されて下側に弾性変形した際に、内部軟質材32の下面全域が接着剤38Aに接触し、内部軟質材32(GCヒレ部)と接着剤38A(DAヒレ部)との係合力が高められる。
【0057】
またこのとき、接着剤38は複層ガラス12の端面側にも回り込むので、図1に示すように、この複層ガラス12の端面側に回り込んだ接着剤38Bが二次シール材24にも接触し、二次シール材24との接着力も期待でき、アンカー部の耐久性を増すことも可能となる。
【0058】
接着剤38の塗布が終了すると、次に、グレージングチャンネル14の溝に複層ガラス12の端縁部を嵌合する。これにより、図1に示したグレージングチャンネル付き複層ガラス10が組み立てられる。
【0059】
このようにして組み立てられたグレージングチャンネル付き複層ガラス10によれば、複層ガラス12側に強固に固化した接着剤38が、グレージングチャンネル14の内部軟質材32に係合しているため、グレージングチャンネル14と複層ガラス12との結合が強固になる。よって、グレージングチャンネル14に対する複層ガラス12の引き抜き強度が向上する。
【0060】
また、このグレージングチャンネル付き複層ガラス10においては、複層ガラス12とグレージングチャンネル14との間に配置される内部軟質材32(GCヒレ部)と、固化した接着剤38(DAヒレ部)との係合によって双方の結合を強固にしている。これにより、複層ガラス12の寿命に悪影響を与えることはない。
【0061】
また、グレージングチャンネル付き複層ガラス10は、二次シール材24の外表面24Aが2枚のガラス板16、16の端面16A、16Aから2枚のガラス板16、16の内側に位置した複層ガラス12と、二次シール材24の外表面24Aに対向する位置に開口部36が設けられたグレージングチャンネル14とによって構成されている。したがって、複層ガラス12とグレージングチャンネル14との間の隙間から浸入してきた水分は、グレージングチャンネル14の底部内底面と複層ガラス12の端面との間に滞留することなく、グレージングチャンネル14の開口部36から外部に排水される。
【0062】
これにより、複層ガラス12の二次シール材24が水分の滞留によって劣化するという問題が解消されるので、この点においても複層ガラス12の寿命に悪影響を与えない。
【0063】
ところで、グレージングチャンネル付き複層ガラス10は、その運搬時にグレージングチャンネル付き複層ガラス10を現場で起立させ、面方向に回転させながら搬送する場合がある。この搬送時に、グレージングチャンネル14が損傷すると、そのグレージングチャンネル14を複層ガラス12から取り外して新たなグレージングチャンネル14と交換しなければならない。
【0064】
このとき、図1に示すグレージングチャンネル付き複層ガラス10は、グレージングチャンネル14に対する接着力よりもガラス板16に対する接着力が高い接着剤38を用いているので、複層ガラス12からグレージングチャンネル14を容易に取り外すことができる。
【0065】
次に、本発明に係るグレージングチャンネル付き複層ガラスの他の実施形態について説明する。
【0066】
図7は、本発明に係るグレージングチャンネル付き複層ガラスの第2の実施形態を示す断面図である。
【0067】
図7に示すグレージングチャンネル付き複層ガラス50において、図1のグレージングチャンネル付き複層ガラス10と同一又は類似の部材については同一の符号を付して、詳しい説明は省略することとする。
【0068】
図7に示す第2の実施形態に係るグレージングチャンネル付き複層ガラス50は、複層ガラス12の側面とグレージングチャンネル14の内壁面との間にのみ接着剤38が介在されたものである。
【0069】
図8は、本発明に係るグレージングチャンネル付き複層ガラスの第3の実施形態を示す断面図である。
【0070】
図8に示したグレージングチャンネル付き複層ガラス60は、グレージングチャンネル14に内部軟質材32を備えておらず、補強材30と一体成形された突条のストッパ片62を断面矩形の接着材38に係合させたものである。ストッパ片62は、複層ガラス12に接触しておらず、この場合には、接着剤38がシール材として機能する。また、ストッパ片62は、硬質塩化ビニル樹脂材等の樹脂製であり、軟質の内部軟質材32を接着剤38と係合させるものと比較して引き抜き強度は強くなる。
【0071】
図5に示したGCヒレ長さと引き抜き強度との関係を示すグラフからわかるように、GCヒレ長さは0.2mm以上あれば十分な引き抜き強度を有しており、本実施形態のようなストッパ片62であっても、強い引き抜き強度を発揮することができる。
【0072】
また、上記各実施形態において、接着剤38の塗布量は、組み立てられたグレージングチャンネル14の内側隅部14Aからグレージングチャンネル14の高さの半分以下となることが好ましい。それ以上の塗布量で接着剤38が塗布されると、接着剤38が抵抗物となり、グレージングチャンネル14に対する複層ガラス12の嵌合作業が困難になるからである。
【0073】
なお、第2あるいは第3の実施形態のように、複層ガラス12の側面とグレージングチャンネル14の内壁面との間にのみ接着剤38が介在するようにするためには、図6に示した組み立て方法のように、グレージングチャンネル14の内側隅部14Aに接着剤38を塗布してから複層ガラス12を嵌合させるようにすると、どうしても複層ガラス12の端面側に接着剤38が入り込んでしまうことがあるので、グレージングチャンネル14に複層ガラス12を嵌合させた後に、接着剤38が位置する複層ガラス12とグレージングチャンネル14との間の隙間に、細径のノズルを挿入して接着剤38を塗布するようにしてもよい。
【0074】
以上、本発明に係るグレージングチャンネル付き複層ガラスについて詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0075】
10…グレージングチャンネル付き複層ガラス、12…複層ガラス、14…グレージングチャンネル、16…ガラス板、18…スペーサ、20…空気層、22…一次シール材、24…二次シール材、26…吸湿材、28…貫通孔、30…補強材、32…内部軟質材、34…外部軟質材、36…開口部、38…接着剤、40…塗布装置、42…ノズル、50…(第2の実施形態に係る)グレージングチャンネル付き複層ガラス、60…(第3の実施形態に係る)グレージングチャンネル付き複層ガラス、62…ストッパ片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペーサによって隔置された2枚のガラス板が空気層を介して重ねられるとともに、該2枚のガラス板がその端縁部でシール材により接着され、該シール材の外表面が、前記2枚のガラス板の端面より該2枚のガラス板の内側に位置する複層ガラスと、
前記複層ガラスの端縁部が嵌合される溝を有し、該溝の側壁部に抜け止め部材が設けられるとともに、前記シール材の外表面に対向する位置に開口部が設けられたグレージングチャンネルと、
前記グレージングチャンネルに前記複層ガラスの端縁部を嵌合した際、前記溝の側壁部と前記複層ガラスの端縁部との間に配置され、前記複層ガラスの端縁部に接着するとともに、固化した際に前記抜け止め部材と嵌合する接着剤と、
を備えたことを特徴とするグレージングチャンネル付き複層ガラス。
【請求項2】
前記接着剤は、前記グレージングチャンネルに対する接着力よりも前記複層ガラスに対する接着力が強いことを特徴とする請求項1に記載のグレージングチャンネル付き複層ガラス。
【請求項3】
前記接着剤は、シリコンを基材とする接着剤であることを特徴とする請求項2に記載のグレージングチャンネル付き複層ガラス。
【請求項4】
前記抜け止め部材は、前記複層ガラスの端部側に配置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたグレージングチャンネル付き複層ガラス。
【請求項5】
前記接着剤は、前記複層ガラスの端縁部の側面及び端面に接着することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のグレージングチャンネル付き複層ガラス。
【請求項6】
前記複層ガラスの端部から前記接着剤が前記抜け止め部材と嵌合する部分の最上部までの長さが2mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のグレージングチャンネル付き複層ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−122231(P2012−122231A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272822(P2010−272822)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】