説明

ケイ素/炭素複合物質を調製するためのプロセス、こうして調製された物質、およびこの物質を含む電極、特に負電極

【課題】リチウムイオン電池の性能を改善する複合ケイ素/炭素物質が得られる調製プロセスを提供すること。
【解決手段】炭素コーティングされたケイ素粒子を含む複合ケイ素/炭素物質を調製するためのプロセスであって、次の連続工程が行われる、プロセス:ケイ素粒子を溶媒中にて酸素フリーのポリマーの溶液と混合し、それによってポリマー溶液中のケイ素粒子分散液を得る工程;工程a)にて得られた分散液をスプレー乾燥操作に供し、それによってポリマーでコーティングされたケイ素粒子からなる複合ケイ素/ポリマー材料を得る工程;工程a)にて得られた物質を熱分解し、それによって炭素コーティングされたケイ素粒子を含む複合ケイ素/炭素物質を得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素/炭素複合物質を調製するためのプロセスに関する。
本発明はさらに、このプロセスによって得ることができるケイ素/炭素複合物質に関する。
特に、本発明は、非水性有機電解質を有する電気化学的システム、例えば有機電解質を有する再充電可能な電気化学的貯蔵電池(蓄電池)(二次電池)、特にリチウム電池およびより正確にはリチウムイオン電池における電極、特に負電極のための電気化学的活物質として使用されることを目的とするケイ素/炭素複合物質に関する。
本発明はまた、電気化学的活物質としてこの複合物質を含む電極、特に負電極に関する。
本発明の技術分野は、一般に非水性の有機電解質を有する電気化学的システムに使用される電極の分野として定義でき、より詳細には、有機電解質を有する再充電可能な貯蔵電池(蓄電池)(二次電池)、例えばリチウム貯蔵電池、畜電池、電池およびより詳細にはリチウムイオン貯蔵電池、蓄電池、電池の分野として定義できる。
【背景技術】
【0002】
携帯用機器の市場の成長により、リチウム貯蔵電池(蓄電池)、電池技術が出現することとなった;その後、これらの貯蔵電池(蓄電池)、電池を用いる機器の仕様は、より要求が厳しくなってきている。こうした機器は、貯蔵電池の体積および重量の低減に関する要求と共に、さらに多くのエネルギーおよび操作時間の長さを必要としている。
リチウム技術は、他の現在の技術と比較して改善された特徴を提供する。元素リチウムは、最大の還元力を有する再軽量の金属であり、リチウム技術を用いる電気化学的システムでは、他のシステムでは1.5Vであるのに比べて4Vの電圧に到達できる。
リチウムイオン電池は、NiMH技術の100Wh/kg、鉛の30Wh/kg、およびNiCdの50Wh/kgに対して200Wh/kgの質量に対するエネルギー密度を提供する。
しかし、現在の物質、特に電極用の活物質は、性能の観点からその限界に達している。
電極用のこれらの活物質は、レシーバ構造を構成する電気化学的活物質を含み、その構造中におよびその構造からカチオン、例えばリチウムカチオンがサイクリング中に自然に挿入され、引き出される。リチウムイオン貯蔵電池の負電極用に最も頻繁に使用される活物質はグラファイト炭素であるが、その可逆性能は低く、不可逆性の容量損失「ICL」を示す。
【0003】
Li/イオン技術における負電極用の活物質に関して、性能を改善する1つの可能な様式は、グラファイトを良好な容量を有する別の物質、例えばスズまたはケイ素に置き換えることである。
3579mAh/gにて見積もられる理論容量に関しては(Siに関して→Li75Si)、ケイ素は炭素の望ましい代替である。それにもかかわらず、この物質は、それらの使用を妨げる1つの主要な欠点を有する。実際、充電(Li−イオンシステム)時の約300%のケイ素粒子の体積膨張は、粒子クラッキングおよび集電体からの粒子の脱離を導く。
充電−放電サイクルを繰り返した後に電極の一体性を維持することができる物質を提供するために、およびケイ素の固有の問題を克服するために、ここ数年にわたって多くの研究は、ケイ素がマトリックス中に分散した複合体、特にケイ素/炭素複合体に集中している。
【0004】
文献には、種々の方法、例えばエネルギーミリング、化学気相成長法(CVD)が、ケイ素炭素複合体を調製するために考慮されている。エネルギーミリングは、ケイ素および炭素の粒子をミリングボールの機械的作用の下で混合することからなる。化学気相成長法(CVD)に関しては、シラン(SiH)が一般に前駆体ガスとして使用される。コーティングされるべき炭素は、オーブンチャンバー内部に配置される。ガスが加熱されたチャンバーを通過するとき、炭素表面においてナノメートルのケイ素粒子に分解する。
Si/C複合体は、純粋なケイ素よりも良好なサイクル性を有するが、特定数の充電−放電サイクルの後に容量の低下を示す。これは、ケイ素粒子が破裂して電極から脱離するまで膨潤するので、サイクリング中にケイ素の微細構造が変化することによるものであり得る。ケイ素および炭素間の接触は、炭素がケイ素の体積変化を相殺できる程十分近接していない。
上述の不利益を是正することを目的としたケイ素/炭素複合物質の調製を記載している文献のうち、特にZHANG et al.による文献[1]、LIU et al.による文献[2]、およびCHEN et al.による文献[3]を挙げることができる。
【0005】
ZHANG et al.による文献[1]は、無秩序炭素およびナノメートルケイ素に基づく複合物質を、機械的ミリング、その後の熱分解によって調製することが記載されている。より正確には、ケイ素粉末およびポリ(塩化ビニル)(PVC)またはポリ(パラフェニレン)(PPP)の特定量を、ボールミル中にて24時間機械的にミルにかけ、Si−ポリマー複合体を得るが、複合体中にてそのSi粒子はポリマーでコーティングされている。
これらのSi−ポリマー複合体は、次いでアルゴン流下で650℃、800℃および900℃にて2時間加熱され、それによってナノメートルケイ素および無秩序炭素に基づく最終的な複合物質を得る。
次いで、リチウムイオン貯蔵電池(蓄電池)、電池のための複合アノードが、N−メチルピロリドン(NMP)中に、80%のケイ素/炭素複合物質、電気伝導添加剤として10%のカーボンブラック、および結合剤として10%のフッ化ポリビニリデン(PVDF)を含有する懸濁液を銅ウェブの両側に適用するこによって調製される。
Si/ポリマー複合物質を調製するために使用されるミリングのために、接触損失が炭素とケイ素との間に生じる。
この文献[1]にて調製される複合体Si/C物質は、このミリングのために極めて不規則なモルホロジーおよび不均一な粒径を有する。
【0006】
LIU et al.による文献[2]は、リチウムイオン貯蔵電池(蓄電池)のアノードのためのケイ素/無秩序炭素複合物質を調製するための方法を記載し、ここでPVCおよび1ミクロン未満のサイズを有するケイ素粒子は均質に混合され、次いでこの混合物は初めにアルゴン雰囲気中にて900℃で熱分解され、冷却される。得られた生成物は、次いで閉じたチャンバー中でアルゴン下、高エネルギー機械的ミリング(「HEMM」)に供される。こうして得られたサンプルは、PVCと再び混合され、この混合物は第1の熱分解と同じ条件下で2回目の熱分解が行われ、こうして熱分解されたサンプルはミルにかけられ、シーブされる。
こうして調製された物質は、40サイクル後に900mAh/gでの安定な容量、および第1のサイクルにてファラデー収率82%を示す。
この文献[2]において、グラファイトおよびケイ素を「HEMM」プロセスを用いてミルにかけて調製し、次いで得られた生成物をPVCと混合し、既に上述したものと同じ条件下で熱分解を行うことによって別の複合体を調製している。
複合体を調製するために文献[2]において使用される高エネルギーミリングのために、炭素とケイ素との間に接触損失が同様に生じ、文献[2]にて調製された物質は、同様に、このミリングのために、非常に不規則なモルホロジーおよび不均一な粒径を示す。
【0007】
特に文献[1]および[2]における上述のプロセスの一部の不利益を克服するために、CHEN et al.による文献[3]は、スプレー乾燥技術に続く熱処理を用いることによって小さい(微細)粒径を有する球状の、ナノ構造化Si/C複合体を調製することを提案しており、これによってナノメートルケイ素粒子および微細なグラファイト粒子が均質に捕捉され、フェノール−ホルムアルデヒド(「PF」)樹脂の熱分解によって生じた炭素マトリックスに埋め込まれた複合体が得られる。
より正確には、最初に樹脂がエタノール中に溶解され、次いでナノメートルケイ素粉末および微細なグラファイト粉末がPF樹脂溶液に添加され、それによってグラファイト粒子およびケイ素を含有する懸濁液が得られる。この懸濁液は、次いでスプレー乾燥操作に供され、その後Si/PF前駆体の球状または回転楕円体粒子が得られ、それを1000℃で2時間加熱することによってSi/C複合体が得られる。次いでこのSi/C複合体はPF溶液に分散されることができ、再びスプレー乾燥および熱分解の同じ工程に供され、それによって炭素コーティングされたSi/C複合体が得られる。
この文献[3]の複合体の容量は、第1のサイクルにわたって635mAh/gまで増大し、40サイクル後には500mAh/gになる。
使用される物質を考慮すれば、文献[3]の複合体の理論容量は1363mAh/gであるはずだが、実際のところ容量は635mAh/g、すなわち理論容量の50%に過ぎないことがわかった。
そのため、文献[3]にて調製された複合物質の電気化学的性能は、劣り、さらに容量および収率の観点からも特に不十分である。
そのため、前述のことを考慮すると、電極、特に負電極、例えばリチウムイオン貯蔵電池(蓄電池)のための電極および特にリチウムイオン貯蔵電池のための負電極用の活物質として使用される場合、サイクリング時において優れた機械的耐性を示し、容量、容量安定性および収率の観点から優れた電気化学的性能を示す複合ケイ素/炭素 Si/C物質を調製するプロセスが必要とされている。
単純で、信頼性があり、妥当なコストを有するこうしたプロセスがさらに必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】X.W. Zhang, P.K. Patil, C.Wang, A.J. Appleby, F.E Little, D.L Cocke,Journal of Power Sources, 125 (2004),206 - 213.
【非特許文献2】Y. Liu, K. Hanai, J. Yang, N. Imanishi, A. Hirano, Y. Takeda,Electrochemical and Solid-State Letters, 7(10), A369-A372 (2004).
【非特許文献3】L. Chen, X. Xie, B. Wang, K. Wang, J.Xie, Materials Science andEngineering, B: Solid-State Materials for Advanced Technology, 131(1-3),186-190, 2006.
【非特許文献4】Y.Kwon, G.S. Park, J. Cho, Electrochimica Acta, 52(2007), 4663-4668.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特に上述の必要性を満たす複合ケイ素/炭素物質を調製するためのプロセスを提供することである。
先行技術のプロセスの短所、欠点、欠陥、制限および不利益を有しておらず、先行技術のプロセスの問題を解決する複合ケイ素/炭素物質を調製するためのプロセスを提供することが本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的およびその他は、炭素コーティングされたケイ素粒子を含む(で構成された)
複合ケイ素/炭素物質を調製するためのプロセスによって本発明に従って達成され、このプロセスでは次の連続工程が行われる:
a)ケイ素粒子を溶媒中にて酸素フリーのポリマーの溶液と混合し、それによってポリマー溶液中のケイ素粒子分散液を得る工程;
b)工程a)にて得られた分散液をスプレー乾燥操作に供し、それによってポリマーでコーティングされたケイ素粒子を含む(で構成された)複合ケイ素/ポリマー材料を得る工程;
c)工程b)にて得られた物質を熱分解し、それによって炭素コーティングされたケイ素粒子を含む複合ケイ素/炭素物質を得る工程。
【0011】
本発明に従うプロセスは、先行技術には決して記載されていなかった特定順序の特定工程を含む。
特に、本発明のプロセスは、基本的に先行技術のプロセスとは異なり、特にスプレー乾燥技術を用いる先行技術のプロセスとは、使用されるポリマーが、酸素原子を含んでいないポリマーであり、酸素を欠いた、酸素を含有していないポリマーである点で区別される。
予測できないことに、複合Si/C物質を調製するためにスプレー乾燥および熱分解を含むプロセスに酸素原子を有していないポリマーを用いることによって、電極、特に負電極のための電気化学的活物質としてこの物質を含むリチウム貯蔵電池(蓄電池)、電池の性能は、スプレー乾燥および熱分解によって調製されるが、酸素を含むポリマーまたは樹脂からのSi/C複合物質を電極用の活物質として含む貯蔵電池(蓄電池)と比較した場合に、改善される。
【0012】
明らかに、電極用、特に負電極用の活物質として、本発明のプロセスを用いて調製された複合物質を含むリチウムイオン貯蔵電池(蓄電池)、電池の性能はまた、電極、特に負電極の活物質がスプレー乾燥を含まないプロセス、例えばミリングまたは化学気相成長法(CVD)を用いて調製された複合Si/C物質からなる貯蔵電池に比べて大きく改善される。
換言すれば、本発明のプロセスは、まず、熱分解前のポリマー/Si複合体の粒径およびモルホロジーについて制御し、熱分解後にケイ素/炭素界面における後の強力な接触を確実にするという点でスプレー乾燥方法に固有の利点のすべてを有し、第2に、酸素を含有するポリマーを使用することに関する不利益を有していない。
本発明に従うプロセスは、先行技術のプロセスの不利益を有しておらず、先行技術のプロセスの解決策を提供する。
【0013】
有利なことには、ポリマーは、ポリスチレン(PS)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル(PAN)、およびポリパラフェニレン(PPP)から選択できる。
有利なことに、溶媒は、ハロゲン化アルカン、例えばジクロロメタン;ケトン、例えばアセトンおよび2−ブタノン;テトラヒドロフラン(THF);N−メチルピロリドン(NMP);アセトニトリル;ジメチルホルムアミド(DMF);ジメチルスルホキシド(DMSO);およびこれらの混合物から選択されてもよい。
好ましくは、ポリマーは、ポリスチレンであることができ、溶媒は2−ブタノンであることができる。
有利なことには、溶液中のポリマーの濃度は、10g/溶媒リットルから200g/溶媒リットルであってもよい。
ケイ素粒子は、マイクロメートル粒子、すなわちそれらの最大寸法によって定義されるサイズ(すなわち例えば球状粒子の場合には直径)が1〜200マイクロメートル、好ましくは1〜45マイクロメートルである粒子であってもよい。
またはケイ素粒子は、ナノメートル粒子、すなわちそれらの最大寸法によって定義されるサイズ(すなわち、例えば球状粒子の場合には直径)が5〜1000ナノメートル、好ましくは5〜100ナノメートルである粒子であってもよい。
ナノメートルケイ素粒子は、特にSiClを制御された雰囲気、すなわち好ましくはアルゴン下で還元することによって合成されたケイ素粒子であってもよい。
【0014】
有利なことには、および特にナノメートルケイ素粒子がSiClを制御された雰囲気下で還元することによって合成されたケイ素粒子である場合、工程a)は、制御された雰囲気、好ましくはアルゴン下で行われる。
有利なことには、分散液中のケイ素粒子の濃度は、0.1〜50g/Lであってもよい。
一般に、ポリマーでコーティングされたケイ素粒子は、例えば1マイクロメートル〜20マイクロメートルの直径を有する球状タイプのものである。
より一般的には、物質は、全体的に、ポリマーマトリックス中に捕捉され、埋め込まれたケイ素粒子を含有する球状または回転楕円体の複合物質である。
有利なことにはまた、分散剤が工程a)中に添加されてもよい。
一般に工程b)中、分散液は20℃〜220℃、好ましくは60℃〜110℃の温度にしたノズルを用いて液滴でスプレーされる。
有利なことには、工程c)は、600℃〜1100℃、好ましくは800℃〜900℃の温度で行われる。
有利なことには、工程c)は、制御された雰囲気、例えばアルゴン雰囲気、またはアルゴンおよび水素雰囲気下で行うことができる。
一般に、炭素コーティングされたケイ素粒子は、クラスターを形成し、ナノメートルサイズを有する。
【0015】
本発明はさらに、前述したようなプロセスによって得ることができる複合ケイ素/炭素物質に関する。
この複合物質は特に、任意の電気化学的システムにおける電極のための電気化学的活物質として有用である。好ましくは、この電極は負電極である。
本発明はさらに、非水性電解質を有する電気化学的システム、例えば再充電可能な電気化学的貯蔵電池(電気化学的二次電池)の電極、好ましくは負電極に関し、この電極は、電極用、好ましくは負電極用の電気化学的活物質として本発明のプロセスに従って調製された複合ケイ素/炭素物質を含む。
一般に、この電極、好ましくは負電極はさらに、結合剤、任意に1つ以上の電気伝導性添加剤および集電体を含む。
ここで、添付の図面を参照して、限定ではなく、例示として与えられる次の説明にて、より詳細に本発明を説明する:
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のプロセスを実施するためのスプレー乾燥機器を示す写真である;
【図2】図1に例示された機器に適合するスプレーノズルを示す写真およびこのノズルによって放出されたポリマー溶液中のケイ素粒子の分散液のミストである;
【図3】例えば本発明に従って試験されるべき正電極または負電極を含むボタン型電池、セルの形態の貯蔵電池、蓄電池(実施例2〜4)の垂直断面概略図である;
【図4】スプレー乾燥操作の後、実施例1にて得られた複合Si/ポリスチレン物質の走査電子顕微鏡(「SEM」)の下で撮影された画像である。図に示されるスケールは10μmを表す;
【図5】900℃での熱分解操作の後、実施例1にて得られた複合Si/C物質の走査電子顕微鏡(「MEB」)の下で撮影された画像である。図に示されるスケールは5μmを表す;
【図6】正電極が本発明のプロセスに従って実施例1にて調製された複合物質を電極活物質として含むボタン型電池、セルの第1のサイクリングプロトコルに従う試験(実施例2)中のサイクル数に関連した充電容量(mAh/g単位−実線の曲線)および放電容量(破線の曲線)を与えるグラフである;
【図7】正電極が本発明のプロセスを用いて実施例1にて調製された複合物質を電極活物質として含むボタン型電池、セルの第2のサイクリングプロトコルに従う試験(実施例3)中のサイクル数に関連した放電容量(mAh/g単位)を与えるグラフである;
【図8】正電極が、本発明のプロセスを用いて実施例1にて調製された複合物質を電極活物質として含むボタン型電池、セルの第1のサイクリングプロトコルに従う試験(実施例4)中のサイクル数に関連した放電容量(mAh/g単位)を与えるグラフであり、熱分解は、800℃(実線の曲線)または900℃(破線の曲線)にて行われる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般にこの説明は、本発明のプロセスを用いて調製された複合物質がリチウムイオン再充電可能な貯蔵電池(リチウムイオン二次電池)の正電極または負電極の活物質である実施形態についてより詳細に言及するが、次の説明は、必要に応じて拡張させることができ、本発明のプロセスに従って調製された複合物質のあらゆる用途および実施形態に適合できることは明らかである。
本発明に従うプロセスの第1の工程において、ケイ素粒子は、溶媒中の酸素原子を欠いたポリマーの溶液と混合され、それによってポリマー溶液中のケイ素粒子分散液が得られる。
本発明によれば、ポリマーは、酸素原子を含まない、酸素を含有しない、酸素原子を欠いたポリマーである。
このポリマーは、特にポリスチレン(PS)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル(PAN)、およびポリパラフェニレン(PPP)から選択できる。
これらのポリマーのうち、好ましいポリマーは、毒性がなく、低コストであり、それが塩素を放出しないという事実によりポリスチレン(PS)である。
【0018】
ポリマー溶液の溶媒は、種々広範な溶媒から選択できる。故に、この溶媒は、ハロゲン化アルカン、例えばジクロロメタン;ケトン、例えばアセトンおよび2−ブタノン;テトラヒドロフラン(THF);N−メチルピロリドン(NMP);アセトニトリル;ジメチルホルムアミド(DMF);ジメチルスルホキシド(DMSO);およびこれらの混合物から選択できる。
各ポリマーに関して、当業者は、ポリマーの完全な溶解を得るために選択されるべき溶媒を容易に決定できる。
例として、以下の表1に、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリアクリロニトリル(PAN)およびポリスチレン(PS)が1〜50質量%、好ましくは1〜20質量%の割合まで可溶性である溶媒を示す。溶媒中にポリマーが溶解するものはクロス(×)で示される。
【0019】
【表1】

【0020】
PPPは化学的攻撃に対して高い耐性があり、ジクロロメタンによってのみ可溶化できることに留意する。
好ましくは、ポリマーはポリスチレンであり、溶媒は2−ブタノンである。
溶媒溶液中へのポリマーの配置は、一般に、例えば溶媒中にポリマーが完全に溶解するのに十分な期間にわたって、撹拌下で行われる。
【0021】
溶液中のポリマー濃度は、選択された溶媒中のポリマーの溶解限度程度に高くてもよく、例えば10g/溶媒リットル〜200g/溶媒リットルの範囲であってもよい。
溶媒中のこうしたポリマー溶液に、一般に粉末の形態であるケイ素粒子を添加する。
ケイ素粒子は、マイクロメートル粒子、すなわち、それらの最大寸法によって定義されるサイズ(すなわち球状粒子に関しては直径)が1〜200マイクロメートル、好ましくは1〜45マイクロメートルである粒子であってもよい。
また他に、ケイ素粒子は、ナノメートル粒子、すなわちそれらの最大寸法によって定義されるサイズ(すなわち、例えば球状粒子の場合には直径)が5〜1000ナノメートル、好ましくは5〜100ナノメートルである粒子であってもよい。
マイクロメートルまたはナノメートルのケイ素粒子は、市販のナノメートルまたはマイクロメートル粒子であってもよい。
しかし、ケイ素は天然に酸化物の層を有し、そのため市販のケイ素はわずかに酸化されていることに留意すべきである。さらに、酸化ケイ素SiOは、良好な電気化学的性能を有しておらず、好ましくは避けるべきである。そのため、酸化ケイ素を避けるために、制御された雰囲気、例えばアルゴン雰囲気下、例えばグローブボックス中でSiClを還元することによって合成される調製ナノメートルケイ素を使用することを想定できる。
この観点において、Y.KWON et al.の文献[4]を参照できる。
特に、この様式において合成されたケイ素を使用する場合、制御された雰囲気、例えばアルゴン雰囲気下、例えばグローブボックス中でポリマー溶液中にケイ素粒子を混合することによって工程a)を行うのが好ましい。
【0022】
ケイ素粒子と酸素原子を含まないポリマーの溶液の混合は、一般に撹拌下、例えば磁性撹拌器を用いて行われ、混合物は、一般に超音波によって均質化され、それによってポリマー溶液中のケイ素粒子の均質分散液が得られる。
分散液中のケイ素粒子濃度は、0.1〜50g/Lの範囲であってもよい。
ケイ素粒子に加えて、ポリマー/ケイ素混合物をスプレー乾燥の前に混合する場合にケイ素粒子の凝集、アグロメレーションを回避するために、工程a)の間にポリマー溶液に分散剤を添加することもできる。
この分散剤は、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)または、より一般的には、アニオン性界面活性剤、例えば硫酸ドデシルナトリウム;またはカチオン性界面活性剤、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロミド;または中性界面活性剤、例えばポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテルであってもよい。
分散剤は、一般に、分散されるべき物質の0.1〜100mmol/gの割合で使用される。
【0023】
本発明のプロセスによれば、この分散液は、ポリマーによるケイ素粒子のカプセル化を可能にするスプレー乾燥操作に供され、次いでこのポリマーは熱分解される。
このスプレー乾燥操作は、医薬および農業−食品分野に慣用的に一般に使用される従来の、一般のスプレー乾燥装置、技術、例えば図1に例示されるものを用いて行われてもよい。
分散液は、スプレー乾燥器、スプレータワーの上部に供給され、噴霧化するノズルを通過し(図2を参照)、液滴で分散液をスプレーする。
ノズルの温度は、分散液中の溶媒の沸点温度(Tb)に関して、一般に調節され、制御される。ノズルの最大温度またはTnozzlemaxは、好ましくは約Tb+30℃に等しく、ノズルの最小温度またはTnozzleminは、好ましくはTb−20℃に等しい。
上記の表1には、これらの溶媒の沸点と共に、様々な分散液の溶媒に関するノズルの温度範囲を示す。
ノズルは、一般に220℃、好ましくは60℃〜110℃の温度にしてもよい。
システムが圧力下に配置される場合、ノズルの温度を低下させることができる。
こうして形成された液滴は、次いで熱ガス、例えば熱空気のフローにて乾燥され、それにより溶媒を蒸発させ、次いで液滴を装置の内壁に落とす。
一般に粉末形態の複合ケイ素/ポリマー物質は、通常、サイクロンを用いて回収される。
ガス、例えば空気を含有する溶媒は、一般に、熱交換機にて冷却され、次いで冷蔵ユニットにて凝集され、最終的にこの目的のために提供された容器に回収される。ガス、例えば空気は、一般にスプレーに再注入される。
スプレー乾燥によれば、そのモルホロジーが一般に球状または回転楕円体であり、制御された粒径を有するポリマー/ケイ素複合体を得ることができる。
【0024】
一般に、複合ケイ素/ポリマー物質は、ポリマーマトリックス中に捕捉され、埋め込まれたケイ素粒子を含有し、一般にそれは粒子の形態である。
一般に、スプレー乾燥操作後に得られたポリマーでコーティングされたケイ素粒子は、球状または回転楕円体であり、シリカ粒子がナノメートルサイズである場合、図5に示されるように、一般に1マイクロメートル〜20マイクロメートルの直径を有する。
粒子は一般に粉末を形成する。
上述された制御されたモルホロジーおよび粒径は、熱分解後、強力な界面がケイ素と炭素との間で維持されることを確実にする。
複合ケイ素/ポリマー物質は、一般に、ポリマーでコーティングされたケイ素粒子によって形成された粉末からなり、次いで、本発明のプロセスに従って、一般に600℃〜1100℃の温度での熱分解熱処理に供される。
この処理は、一般に、制御された雰囲気、すなわち非酸化雰囲気、例えばアルゴン雰囲気、またはアルゴンおよび水素雰囲気下で行われ、酸化を最小限にする。
実際、ケイ素と酸素供給源との可能な接触を回避または最小限にするために、酸素を含まない制御された非酸化雰囲気、例えばアルゴン雰囲気下でプロセス全体を行うことが好ましい。
熱分解は、アルゴンフローの下で管状炉のような機器を用いて行うことができる。
【0025】
本発明のプロセスで得られた最終的な複合Si/C物質は、例えば炭素でコーティングされたケイ素粒子の形態(図5を参照)、より正確には炭素マトリックスでコーティングされたケイ素粒子の形態である。これらの粒子は、一般に、SiおよびCのクラスターまたは凝集物を形成し、一般にナノメートルサイズを有する。
複合Si/C物質は、粒子の形態、例えば一般に粉末の形態であってもよい。
本発明に従ってこうして調製された複合物質は、任意の電気化学的システムにおける電気化学的活物質として使用されてもよい。
より正確には、本発明に従って調製された複合物質は、特に、非水性電解質を有する任意の電気化学的システムにおける正電極または負電極のための電気化学的活物質として使用されてもよい。
上記で定義されるような正電極または負電極のための電気化学的活物質に加えて、この正電極または負電極はまた、一般に有機ポリマーである結合剤、場合により、1つ以上の電気伝導性添加剤および集電体を含む。
【0026】
有機ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、コポリマーPVDF−HFP(ヘキサフルオライドプロピレン);およびエラストマー、例えばCMC−SBR(カルボキシメチルセルロース−スチレンブタジエンゴム)から選択できる。
必要に応じた電気伝導添加剤は、金属粒子、例えばAg、グラファイト、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノワイヤ、カーボンナノチューブ、電気伝導性ポリマーおよびこれらの混合物から選択されてもよい。
集電体は、一般に、銅、ニッケルまたはアルミニウム箔の形態である。
電極は、一般に、70〜94質量%の電気化学的活物質、1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%の結合剤、および場合により1〜15質量%の電気伝導添加剤を含む。
こうした電極は、電気化学的活物質、結合剤および場合により伝導添加剤ならびに溶媒を用いてスラリー、懸濁液、ペーストまたはインクを形成し、このスラリー、懸濁液、ペーストまたはインクを集電体上に堆積、コーティングまたは印刷し、堆積したインク、ペーストまたは懸濁液、スラリーを乾燥させ、堆積した乾燥インクまたはペーストおよび集電体をカレンダー加工、加圧することによって、従来通り調製できる。
本発明に従う複合Si/C物質の追加の利点によれば、電極としてのその使用は、複合体の特性に影響を与えないモルタル中での単なる粉砕が、存在し得る凝集、アグロメレートを分解するのに十分であるため、主要な機械的ミリングは必要としないことに留意すべきである。
【0027】
インク、ペーストまたは懸濁液、スラリーは、任意の適切な方法、例えばコーティング、堆積、表面適用、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセットを用いて適用できる。
電気化学的システムは、特に、本発明に従って調製された複合物質を含む上記で定義されたような正電極または負電極に加えて、電気化学的活物質として、さらに本発明の複合物質および非水性電解質を含有しない負電極または正電極を含む、非水性電解質を有する再充電可能な電気化学的貯蔵電池、蓄電池(電気化学的二次電池)、例えばリチウム電池または貯蔵電池、蓄電池、およびより詳細にはリチウムイオン貯蔵電池、蓄電池、電池であってもよい。
電気化学的活物質として本発明の複合物質を含有しない負電極または正電極は、本発明の複合物質とは異なる電気化学的活物質、結合剤、場合により1つ以上の電気伝導添加剤および集電体を含む。
結合剤および必要に応じた電気添加剤は、上記に既に記載されている。
電気化学的活物質として本発明の複合物質を含有しない負電極または正電極のための電気化学的活物質は、当業者に既知のあらゆる物質から選択されてもよい。
故に、本発明の複合物質が正電極の電気化学的活物質である場合、負電極の電気化学的活物質は、リチウムおよびこの技術分野における当業者に既知の他のいずれかの物質から選択できる。
【0028】
負電極の電気化学的活物質が本発明に従う物質で形成される場合、正電極の電気化学的活物質は、この技術分野における当業者に既知のおよび当業者によって適合可能な任意の物質から製造できる。
電解質は固体または液体であってもよい。
電解質が液体である場合、それは、例えば少なくとも1つの伝導塩、例えば有機溶媒中のリチウム塩および/またはイオン性液体の溶液を含む。
電解質が固体である場合、それはポリマー物質およびリチウム塩を含む。
リチウム塩は、例えばLiAsF、LiClO、LiBF、LiPF、LiBOB、LiODBF、LiB(C)、LiCFSO、LiN(CFSO(LiTFSI)、LiC(CFSO(LiTFSM)から選択できる。
【0029】
有機溶媒は、好ましくは電極の構成要素と適合性の溶媒であり、それは相対的にほぼ揮発性ではなく、非プロトン性であり、比較的極性である。例として、エーテル、エステルおよびこれらの混合物を挙げることができる。
エーテルは、特に、線状カーボネート、例えばジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、環状カーボネート、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、およびブチレンカーボネート;アルキルエステル、例えばホルメート(formiate)、アセテート、プロピオネートおよびブチレート;γブチロラクトン、トリグリム、テトラグリム、ラクトン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホランおよびこれらの混合物から選択される。溶媒は、好ましくはEC/DMC、EC/DEC、EC/DPCおよびEC/DMCを含む混合物である。
【0030】
貯蔵電池は、特にボタン型セルの形態であってもよい。
316Lステンレススチール製ボタン型電池、セルの様々な部品が図3に示される。
これらの部品は、次のようなものである:
−ステンレススチールケーシングの上方(5)および下方(6)部分
−ポリプロピレンガスケット(8)
−例えばリチウム金属を切断する、およびその後に集電体と電池の外部部分との良好な接触を確実にするという両方のために使用されるステンレススチール、シム、スキッド、リテーナ(4)
−すべての部品間の接触を確実にするスプリング(7)、
−電解質で含浸された微細孔セパレータ(2)
−電極(1)(3)。
【0031】
ここで、単に例示のためだけに与えられる非限定的な次の実施例を参照して、本発明を説明する。
【0032】
(実施例1)
この実施例において、複合ケイ素/炭素物質は、本発明のプロセスに従って調製される。
撹拌下、ポリスチレン(PS)を、200g/溶媒リットル〜10g/溶媒リットルの範囲の濃度で、2−ブタノン中の溶液中に配置する。好ましい溶液は、60g/リットルである。
毎回、ポリスチレンが溶媒中に完全に溶解し、それにより2−ブタノン中のポリスチレン溶液が得られるまで、待たなければならない。
ポリスチレン溶液のそれぞれにおいて、Aldrich(登録商標)によって供給される100nm未満のナノ粒子サイズを有する粉末形態でケイ素を添加し、混合物を磁性撹拌下、超音波により均質化する。この様式において、ポリスチレン溶液中のケイ素粒子分散液、例えば溶媒1リットルあたり60gのPSおよび溶媒1リットルあたり3gのSiの分散液が得られる。
次いでこれらの分散液それぞれを、スプレー乾燥装置、すなわちBuchi(登録商標:uはウムラウト)から得られる「Mini spray dryer B290」装置に添加する。分散液のそれぞれを、60℃(Tbnozzlemin)〜110℃(Tnozzlemax)のノズル温度を有するスプレー乾燥装置のノズルを通過させる。それにより、溶媒を蒸発させ、ポリスチレンでコーティングされたケイ素粒子を含む粉末またはSiを含むポリマーマトリックスを含む粉末はスプレー乾燥装置のスプレーの状態で回収される。
【0033】
図4のSEM画像からわかるように、溶媒1リットルあたり3gのSiおよび溶媒1リットルあたり60gのPSを含有する分散液をスプレー乾燥した後に得られた複合Si/PS物質粒子は、5〜100nmのSi粉末の初期直径について1マイクロメートル〜20マイクロメートルの直径を有する球状である。
分散液中のPS濃度がより高くなるにつれて、複合物質の粒子サイズがより大きくなる。
ポリスチレンでコーティングされたケイ素粒子の粉末(Si/PS複合体)は、次いで、酸化を最小限にするためにアルゴンおよび水素の制御された雰囲気下で、600℃〜1100℃、例えば800℃〜900℃の異なる一定温度にて管状炉中で熱分解される。
図5のSEM画像からわかるように、図4の粉末の900℃での熱分解後に得られたSi/C複合体粉末は、ナノメートル構造を有する。
900℃での熱分解後のポリスチレンは、その質量の約95%を失う。
この粉末の粒子は、炭素マトリックスでコーティングされたシリカ粒子である。
【0034】
実施例1にて調製された複合Si/C物質は、次いで、「ボタン型セル」タイプのリチウム金属電池中の正電極のための活物質として試験した(ハーフセル試験)。これらの試験は、実施例2〜4の主題である。
各ボタン型セル、電池を、同じ手順を綿密に観察しながら組み立てる。電池セルケーシングの底部から出発して、図3からわかるように、次のものを積み重ねる:
−集電体として作用するニッケルディスク上に堆積されるリチウム負電極(直径16mm、厚さ130マイクロメートル)であって、特に非水性媒体中の負電極に関するこの技術分野で使用される従来の活物質から選択される負電極のための任意の他の活物質を使用することも可能であるリチウム負電極(1);
−エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートの混合物中の溶液にて1mol/Lの割合でLPF塩に基づく液体電解質200μLであって、この技術分野において既知の他の任意の非水性液体電解質も使用できる電解質;
−ポリオレフィン製の微細孔膜、より正確にはCelgard(登録商標)ポリプロピレン製の微細孔膜である電解質含浸セパレータ(2)Φ16.5mm;
−上述され実施例1にて調製されたSi/C複合体(80質量%)、伝導物質としてのカーボンブラック(10質量%)および結合剤としてのポリビニリデンヘキサフルオライド(10重量%)を含み、全体が銅集電体(18μm厚さの箔)に堆積される厚さ25μmの複合体フィルムから取り出される直径14mmのディスクからなる正電極(3);
−ステンレススチール製のディスク、シム、スキッドまたはリテーナ(4)、
−ステンレススチール製のカバー、リッド(5)およびステンレススチール製の底部(6);
−ステンレススチールのスプリング(7)およびポリプロピレンのガスケットジョイント(8)。
次いでステンレススチールのケーシングをクリンピング機で閉じ、完全に空気を遮断する。電池が操作可能であるかどうかを確認するために、浮動電圧を測定することによって確認する。
【0035】
リチウムおよびその塩の酸素および水に対する高い反応性のために、セルボタン型電池の組立はグローブボックス中で行う。このボックスは、無水アルゴンの雰囲気下にてわずかに正の圧力下で維持される。センサを使用して酸素および水濃度を連続モニタリングする。通常、これらの濃度は1ppm未満に維持すべきである。
実施例1の本発明のプロセスに従って調製され、上述の手順に従うボタン型電池に載置された複合Si/C物質を、電池の実際容量を評価するために所定数のサイクルの間、様々な操作条件にて一定電流で、サイクリング、すなわち充電および放電操作に供する。
例えば、C/20速度で充電された電池は、その容量Cの全体を再生させる目的で一定電流が20時間与えられる電池である。電流の値は、容量Cを充電時間の数、すなわちこの場合は20時間で除したものに等しい。
【0036】
(実施例2)
この実施例において、電極活物質は、Si/PS複合体(図4)の熱分解によって、900℃の温度にて、上記実施例1に従って調製された複合体Si/C物質を含む。
試験は最初のサイクリング手順に従って行われる:
−20回のC/10充電−放電サイクル(10時間充電、10時間放電)。
−10回のC/5の充電−放電サイクル、
−5回のC/2の充電−放電サイクル、
−Cでの5回のサイクル、
−2Cでの5回のサイクル、
−5回のC/5放電−充電サイクル。
【0037】
この試験の結果を図7に示す。
20℃にて、C/10試験条件下(Cは1300mAh/gと等価)、このシステムが約1700mAh/gの安定な容量を送達する(図6)ことが確認される。
連続C/5、C/2、C、2Cサイクリング操作の後、システムは、1000mAh/gのオーダーの容量を回復する。
【0038】
(実施例3)
この実施例において、実施例2と同じ活性電極物質を含む電池を、C/2.5での35回の放電−充電サイクルを含む第2のサイクリング手順に従う試験に供する。容量は、図7に例示されるように、容量の非常に小さい降下を伴って800mAh/gの領域にあることが確認される。
【0039】
(実施例4)
この実施例において、900℃の温度にてSi/PS複合体(図4)の熱分解によって実施例1に従って調製された複合Si/C物質を含む活性電極物質の電気化学的性能を、800℃の温度にてSi/PS複合体(図4)の熱分解によって上記実施例1に従って調製された複合Si/C物質を含む活性電極物質の性能と比較する。
これら2つの物質を、実施例2と同じ手順に従って試験した。
これらの試験結果を図8に示す。
900℃での熱分解により調製された複合物質は良好な電気化学的性能を示すことが確認される。容量は、800℃での熱分解によって調製された複合物質を含む活性正電極物質の電池とは反対に、C/10およびC/5試験条件に関して安定である。容量は、より低い試験条件にてわずかに下がる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素コーティングされたケイ素粒子を含む複合ケイ素/炭素物質を調製するためのプロセスであって、次の連続工程が行われる、プロセス:
a)ケイ素粒子を溶媒中にて酸素フリーのポリマー溶液と混合し、それによってポリマー溶液中のケイ素粒子分散液を得る工程;
b)工程a)にて得られた分散液をスプレー乾燥操作に供し、それによってポリマーでコーティングされたケイ素粒子からなる複合ケイ素/ポリマー材料を得る工程;
c)工程b)にて得られた物質を熱分解し、それによって炭素コーティングされたケイ素粒子を含む複合ケイ素/炭素物質を得る工程。
【請求項2】
前記ポリマーが、ポリスチレン(PS)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル(PAN)、およびポリパラフェニレン(PPP)から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記溶媒が、ハロゲン化アルカン、例えばジクロロメタン;ケトン、例えばアセトンおよび2−ブタノン;テトラヒドロフラン(THF);N−メチルピロリドン(NMP);アセトニトリル;ジメチルホルムアミド(DMF);ジメチルスルホキシド(DMSO);およびこれらの混合物から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ポリマーがポリスチレンであり、前記溶媒が2−ブタノンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記溶液中のポリマーの濃度が、10g/溶媒リットル〜200g/溶媒リットルである、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ケイ素粒子がマイクロメートル粒子である、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ケイ素粒子がナノメートル粒子である、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記ケイ素粒子が、制御された雰囲気、好ましくはアルゴン下にて、SiClを還元することによって合成されるケイ素粒子である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
工程a)が制御された雰囲気、好ましくはアルゴン下で行われる、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記分散液中のケイ素粒子の濃度が0.1〜50g/Lの範囲である、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ポリマーでコーティングされたケイ素粒子が球状であり、例えば1マイクロメートル〜20マイクロメートルの直径を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
分散液がさらに、工程a)にて添加される、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
工程b)において分散液が、20℃〜220℃、好ましくは60℃〜110℃の温度にしたノズルによって液滴でスプレーされる、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
工程c)が、600℃〜1100℃、好ましくは800℃〜900℃の温度にて行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
工程c)が制御された雰囲気、例えばアルゴンの雰囲気またはアルゴンおよび水素の雰囲気下で行われる、請求項1から14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載のプロセスによって得ることができるケイ素/炭素複合物質。
【請求項17】
非水性電解質を有する電気化学的システム、例えば非水性電解質を有する電気化学的に再充電可能な貯蔵電池の電極であって、電気化学的活物質として、請求項16に記載の複合ケイ素/炭素物質を含む、電極。

【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−501951(P2012−501951A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526493(P2011−526493)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061772
【国際公開番号】WO2010/029135
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(510097644)コミッサリア ア ロンネルジー アトミック エ オ ゾンネルジー ザルテルナティーフ (33)
【Fターム(参考)】