説明

ケラチノサイト増殖因子アナログ

【課題】安定性の改良されたケラチノサイト増殖因子(KGF)のポリペプチドアナログを提供する。
【解決手段】KGFの特定アミノ酸配列において、アミノ酸残基の1以上の欠失または置換による電荷変化を含むKGFのタンパク質の、親分子KGFよりも安定である、新規なポリペプチドアナログを提供する。さらに該アナログが発現されるよう宿主細胞を増殖させ、産生されたアナログを単離することを特徴とするアナログの製法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えDNA技術および蛋白質エンジニアリングに関する。特に、組換えDNA方法は、非繊維芽細胞上皮細胞増殖の優れたマイトジェンであり、親KGFと比較して改良された安定性を有するケラチノサイト増殖因子(KFG)のポリペプチドアナログを生成するのに適用される。
【背景技術】
【0002】
組織の生成および再生の複雑なプロセスは、時々、軟組織増殖因子と呼ばれる多数のタンパク質因子によって仲介される。これらの分子は、一般に、1つの細胞型によって放出され、他の細胞型の増殖に影響するように作用する(Rubinら,(1989),Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,86:802−806)。いくつかの軟組織増殖因子は特定の細胞型によって分泌され、多細胞生物の発生における応答細胞の増殖、分化および/または成熟に影響する(Finchら,(1989),Science,245:752−755)。発生する生物におけるその役割に加えて、いくつかの因子は、より成熟した系の継続した健康および維持において重要である。例えば、哺乳動物では、迅速な細胞代謝回転が起こる多くの系がある。かかる系は皮膚および胃腸管を含み、共に上皮細胞からなる。軟組織増殖因子の群には繊維芽細胞成長因子(FGF)のタンパク質が含まれる。
【0003】
現在、一次構造の中には、同族性を共有する8つの公知のFGFファミリーメンバーがある:塩基性繊維芽細胞増殖因子、bFGF(Abrahamら(1986),EMBO J.,:2523−2528);酸性繊維芽細胞増殖因子、aFGF(Jayeら(1986),Science,233:541−545;int−2遺伝子産物、int−2(Dickson & Petes(1987),Nature,326:833);hst/kFGF(Delli−Boviら(1987),Cell,50:729−737およびYoshidaら(1987)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:7305−7309);FGF−5(Zhanら(1988),Mol.Cell.Biol.,:3487−3495;FGF−6(Maricsら(1989),Oncogene,:335−340);ケラチノサイト増殖因子(Finchら(1989),Science,24:752−755)およびヒサクトフィリン(Habazzettlら(1992),Nature,359:855−858)。
【0004】
タンパク質のFGFファミリーの中では、ケラチノサイト増殖因子(「KGF」)は、間葉組織に由来する非繊維芽細胞上皮(特にケラチノサイト)細胞増殖のユニークなエフェクターである。「天然KGF」なる語は、配列番号2に示したアミノ酸配列によって示される天然のヒト(hKGF)または組換え(rKGF)ポリペプチド(シグナル配列を含むまたは含まない)あるいはその対立遺伝子変異体をいう(特に断りのない限り、本明細書に記載した分子に対するアミノ酸番号付けは、配列番号2のアミノ酸32ないし194によって示されるごとく、天然分子の成熟形態(すなわち、シグナル配列を除いたもの)について示されたものに対応する)。
【0005】
天然KGFは天然ヒト源(hKGF)から単離することができるか、組換えDNA技術によって生成される(Finchら(1989),前掲;Rubinら(1989),前掲;Ronら(1993),The Journal of Biological Chemistry,268(4);2984−2988;およびYanら(1991),In Vitro Cell.Dec.Biol.,27A:437−438)。
【0006】
天然KGFは、水性状態では比較的不安定であって、化学的および物理的分解を受けて、その結果、処理および貯蔵の間に生物学的活性を喪失することが知られている(Chenら(1994),Pharmaceutical Research,11:1582−1589)。また、天然KGFは上昇した温度では凝集しやすく、酸性条件下では不活性となる(Rubinら(1989),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86:802−806)。また、水性溶液中での凝集の結果、不活化タンパク質となる。かかる活性の喪失のため、天然KGFタンパク質の水性組成物を長期間貯蔵できず、あるいはタンパク質を長期間にわたって投与できないので、不利である。さらに、これは特に、医薬組成物を調製する場合に問題となる。何故ならば、凝集したタンパク質は免疫原性となることが知られているからである(Clelandら(1992),Crit.Rev.Therapeutic Drug Carrier Systems,10:307−377; Robbinsら(1987),Diabetes,36,838−845;およびPinckardら(1967),Clin.Exp.Immunol.,:331−340)。
【0007】
組換えDNA技術は、種々のFGFフアミリーのメンバーの配列を修飾するのに利用されてきた。例えば、bFGFおよびaFGFは、天然または負に荷電したアミノ酸と結合するヘパリンで重要な正に荷電した残基を欠失または置換することによって修飾されてきた。その結果、修飾された分子ではヘパリン結合活性が低下することが報告されている。従って、患者におけるヘパリンおよび/またはヘパリン様分子によって隔離される修飾された分子の量は低下し、それにより、より多くのKGFがその標的受容体に到達するのでより有効であろうと教示されている(EP 0 298 723)。
【0008】
天然KGFの特性の1つ以上を改良し、または変更するために、蛋白質エンジニアリングを使用できる。Ron ら(1993),J.Biol.Chem.,268(4):2984−2988は、N−末端から3、8、27、38または49のアミノ酸が欠失された修飾KGFポリペプチドを報告した。3、8または27のN−末端残基を失ったポリペプチドはヘパリン結合活性を保持していたが、他のものは保持していなかった。また、3および8の残基を失ったポリペプチドは十分活性であり、他方、27残基を失ったポリペプチドの細胞分裂性は10−20分の1となり、38または49アミノ酸を欠くポリペプチドは細胞分裂性を有しなかったと報告された。修飾KGFポリペプチドの安定性は議論されておらず、報告されていない。
【0009】
公開されたPCT出願90/08771(前掲)はキメラタンパク質の生産を報告しており、ここでは天然KGFの成熟形態の最初の40のN−末端アミノ酸をaFGFのC−末端部分(約140アミノ酸)と合わせた。該キメラは、KGF様のケラチノサイトを標的とするが、ヘパリンに対する感受性(KGFではなくaFGFの特性)を欠くと報告された。該キメラの安定性は議論されておらず、報告されていない。
【0010】
かくして、先行文献は、天然KGFに対する有意に改良された安定性を有する修飾KGF分子を報告していない。さらに、先行文献は、かかる望ましい特性を持つKGF分子を首尾よく生成するだろうとの予測を抱くに十分な教示または証拠を報告していない。
【0011】
現在、その一次構造のみの知識に基づいて、タンパク質の特性を予測することは不可能である。例えば、aFGFの分裂促進活性はヘパリンの存在下で実質的に増加するが、bFGFの分裂促進活性は、ヘパリンはbFGFに強固に結合するという事実があるにも拘わらず、ヘパリンの存在下で僅かに増加するにすぎない[(BurgessおよびMaciag(1989),Annu.Rev.Biochem.,58:575−606;Schreiberら(1985),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:6138−6142;およびGospodarowizcおよびCheng(1986),J.Cell Physiol.,128:475−485);およびPCT90/00418)。対照的に、BALB/MK細胞に取り込まれたチミジンはヘパリンが培地中にFGFと共に含まれる場合には阻害される。
【0012】
一般に、アミノ酸変化のタンパク質に対する生物学的活性効果についても、効果は、タンパク質の三次元構造を含めた多数の因子、および修飾がタンパク質の一次構造上のヘパリン結合領域または受容体結合領域に対するものであるかに依存して変化するであろう。天然KGFの三次元構造も一次構造上のヘパリン結合領域および受容体結合領域も公表されていないので、先行技術での知識では、通常に範疇分けされるタンパク質に対するアミノ酸修飾の効果に基づいて、アミノ酸修飾の天然KGFに対する効果を推論できない。
【0013】
本発明の目的は、KGFのポリペプチドアナログおよび天然KGFと比較して高い安定性を示す(例えば、典型的なpH、熱および/または他の貯蔵条件に付した場合)、かかるアナログをコードする核酸分子を提供することにある。
【発明の開示】
【0014】
本発明は、KGFの新規な生物学的活性ポリペプチドアナログを提供する。本発明では、「KGF」なる語は、天然KGF、ならびに天然KGFの生物学的活性のいくつかまたはすべて、特に非繊維芽細胞上皮細胞増殖を保持する、天然KGFのペプチド配列と実質的に同一のペプチド配列によって特徴付けられるタンパク質を含む。「天然KGFのペプチド配列と実質的に同一のペプチド配列によって特徴付けられる」とは、配列番号2のArg41、Gln43、Lys55、Lys95、Asn137、Gln138、Lys139、Arg144、Lys147、Gln152、Lys153およびThr154に対応する残基を有し、好ましくは、緊縮条件下で、配列番号1のヌクレオチド201ないし684にハイブリダイズできるDNA配列によってコードされるペプチド配列を意味する。
【0015】
2つのアミノ酸配列の間の対応するアミノ酸部分は、2つの配列を整列させて、アミノ末端および/またはカルボキシル末端のシフトを含めて残基を最大限にマッチングし、要すればギャップを導入しおよび/または候補体にインサートとして存在する残基を欠失させることによって決定できる。データベースのサーチ、配列解析および操作は、よく知られルーチンに使用されている配列相同性/同一性スキャンニングアルゴリズムプログラムのうちの1つを用いて行える(例えば、PearsonおよびLipman(1988),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85;2444−2448;Altschulら(1990),J.Mol.Biol.,215:403−410;LipmanおよびPearson(1985),Science,222:1435またはDeveuxら(1984),Nuc.Acids Res.,12:387−395)。
【0016】
ハイブリダイゼーションにおいて、緊縮条件は、塩、温度、有機溶媒および典型的にはハイブリダイゼーション反応で制御される他のパラメーターのストリンジェントな組合せ条件である。例示的緊縮条件は、62−67℃での4×SSC中でのハイブリダイゼーション、続いて62−67℃での約1時間の0.1×SSC中での洗浄である。別法として、例示的緊縮条件は、40−45℃での45−55%ホルムアミド、4×SSCでのハイブリダイゼーションである[T.Maniatisら,Molecular Cloning (A Laboratory Manual);Cold Spring Harbor Laboratory(1982),387ないし389頁参照]。
【0017】
かくして、タンパク質は、天然KGFの断片、キメラまたはハイブリッド分子を含めた、アミノ酸の対立遺伝子変異または欠失、置換または挿入を含む。KGFの1つの例は、置換されたまたは欠失された配列番号2のCysおよびCys15に対応する残基を有するタンパク質を含み、得られた分子は(1995年7月7日に出願されたU.S.S.N.08/487,825に教示されるごとく)親分子に比較して改良された安定性を有する。特に開示された分子は、C(1,15)S、アミノ酸位1および15のシステインの代わりにセリンの置換を有するKGF;ΔN15−ΔN24,天然KGFのN−末端の最初の15ないし24アミノ酸のいずれか1個の欠失を有するKGF;ΔN3/C(15)S、天然KGFのN−末端の最初の3つのアミノ酸の欠失およびアミノ酸位15のシステインの代わりにセリンの置換を有するKGF;ΔN3/C(15)、天然KGFのN−末端の最初の3つのアミノ酸の欠失およびアミノ酸位15におけるシステインの欠失を有するKGF;ΔN8/C(15)S、天然KGFのN−末端の最初の8つのアミノ酸の欠失およびアミノ酸位15におけるシステインの代わりにセリンの置換を有するKGF;ΔN8/C(15)、天然KGFのN−末端の最初の8つのアミノ酸の欠失およびアミノ酸位15におけるシステインの欠失を有するKGF;C(1,15,40)S、アミノ酸位1、15および40におけるシステインの代わりにセリンの置換を有するKGF;C(1,15,102)S、アミノ酸位1、15および102おけるシステインの代わりにセリンの置換を有するKGF;C(1,15,102,106)S、アミノ酸位1、15、102および106におけるシステインの代わりのセリンの置換を有するKGFを含む。
【0018】
KGFのもう1つの例は、(1994年10月13日に出願されたU.S.S.N.08/323,473に教示されているごとく)天然KGFのAsn115−His116−Tyr117−Asn118−Thr119のループ形成領域内の少なくとも1個のアミノ酸に代えてより高いループ形成能を有する少なくとも1個のアミノ酸を置換することによって生じるタンパク質を含み、特に、H(116)G、天然KGFのアミノ酸位116のヒスチジンに代えてのグリシンの置換を有するKGFを含む。
【0019】
なおさらなる例は、天然KGFの123−133の領域(配列番号2のアミノ酸154−164)内に1つ以上のアミノ酸置換、欠失または付加を有するタンパク質を含む。
【0020】
驚くべきことに、KGF分子(すなわち、親分子)のより正に荷電した残基を欠失させ、または中性または負に荷電したペプチドで置き換えることによって(すなわち、中性または正に荷電した残基に代えて負に荷電した残基で置き換えるか、または正に荷電した残基に代えて中性残基で置き換えることによって)、得られたKGFアナログは親分子と比較して改良された安定性を有することが判明した。好ましくは、本発明は、増大した安定性を有することに加え、天然KGFと比較して、十分な生物学的活性(すなわち、少なくとも実質的に同様の受容体結合または親和性)も呈するアナログに関する。
【0021】
本発明のもう1つの態様は、KGFの種々の生物学的活性ポリペプチドアナログをコードする精製単離された核酸分子に関する。1つの具体例において、かかる核酸は生物学的に機能するプラスミドまたはウイルスベクターにクローン化されたDNA分子を含む。別の具体例において、次いで、核酸構築体を利用して、原核生物または真核生物宿主細胞を安定に形質転換できる。さらにもう1つの具体例において、本発明は、核酸分子で安定に形質転換された原核生物(好ましくは、E.coli)または真核生物宿主細胞を適当な栄養条件下で、KGFアナログの発現を行うように増殖させる方法に関する。発現に続き、得られた組換えポリペプチドを単離し精製できる。
【0022】
本発明のさらなる態様は、治療上有効量のKGFアナログおよび医薬上許容される担体よりなる医薬組成物に関する。かかる組成物は、上皮細胞疾患および負傷に悩む患者を治療するのに有用である。
【0023】
これに関し、もう1つの態様は、治療上有効量のKGFアナログを患者に投与することによって上皮細胞の増殖を刺激する方法に関する。1つの具体例において、非繊維芽細胞上皮細胞は、その増殖が刺激される細胞である。かかる上皮細胞は種々の、付属器細胞、膵細胞、肝細胞、および呼吸系および胃腸管における粘膜上皮細胞を含む。
【0024】
図面の簡単な記載
図1は、天然KGFのヌクレオチド(配列番号1)およびアミノ酸(配列番号2)を示す(天然KGFの成熟形態をコードするヌクレオチドは配列番号1の塩基201ないし684によって示され、KGFの成熟形態は配列番号2のアミノ酸残基32ないし194によって示される)。
【0025】
図2A、2Bおよび2Cは、各々、pCFM1156、pCFM1656およびpCFM3102のプラスミドマップを示す。
【0026】
図3は構築体RSH−KGFのヌクレオチド配列(配列番号3)およびアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【0027】
図4はプラスミドKGFに含まれる構築体のヌクレオチド配列(配列番号5)およびアミノ酸配列(配列番号6)を示す。
【0028】
図5はプラスミドKGF(dsd)中に構築体を生じさせるためにプラスミドKGFに含有させた構築体におけるKpnI部位およびEcoRI部位(配列番号6のアミノ酸位46ないし85)の間のDNA配列を置換するのに用いる化学的に合成したOLIGO類(OLIGO#6ないしOLIGO#11;配列番号12−17)を示す。
【0029】
図6は、KGFを構築するのに使用される化学的に合成されたOLIGO類(OLIGO#12ないしOLIGO#24;配列番号18−30)を示す。
【0030】
図7は、R(144)Q、天然KGFのアミノ酸位144のアルギニンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号31)およびアミノ酸配列(配列番号32)を示す。
【0031】
図8は、C(1,15)S/R(144)E、天然KGFのアミノ酸位1および15におけるシステインの代りにセリンの置換および144位におけるアルギニンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号33)およびアミノ酸配列(配列番号34)を示す。
【0032】
図9は、C(1,15)S/R(144)Q、天然KGFのアミノ酸位1および15におけるシステインの代りにセリンの置換および144位におけるアルギニンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号35)およびアミノ酸配列(配列番号:36)を示す。
【0033】
図10は、ΔN23/R(144)Q、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失および144位におけるアルギニンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号37)およびアミノ酸配列(配列番号38)を示す。
【0034】
図11は、37℃におけるインキュベーション時間の関数としての、サイズ排除HPLCによって測定した可溶性タンパク質の量を示す。
【0035】
図12は、天然KGF、C(1,15)S/R(144)QおよびC(1,15)S/R(144)EについてのpHの関数としての推定された融解温度(T)を示す。
【0036】
図13は、DNA合成の間の[H]−チミジンの取り込みを測定し、それを天然KGF標準曲線と比較することによって決定した、R(144)Qの分裂促進活性の典型的プロフィールを示す。
【0037】
図14は、DNA合成の間の[H]−チミジンの取り込みを測定し、それを天然KGF標準曲線と比較することによって決定した、ΔN23/R(144)Qの分裂促進活性の典型的プロフィールを示す。
【0038】
図15は、DNA合成の間の[H]−チミジンの取り込みを測定し、それを天然KGF標準曲線と比較することによって決定した、C(1,15)S/R(144)Qの分裂促進活性の典型的プロフィールを示す。
【0039】
図16は、DNA合成の間の[H]−チミジンの取り込みを測定し、それを天然KGF標準曲線と比較することによって決定した、C(1,15)S/R(144)Eの分裂促進活性の典型的プロフィールを示す。
【0040】
図17は、ΔN23/N(137)E、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸137位におけるアスパラギンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号41)およびアミノ酸配列(配列番号42)を示す。
【0041】
図18は、ΔN23/K(137)E、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸139位におけるリシンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号43)およびアミノ酸配列(配列番号44)を示す。
【0042】
図19は、ΔN23/K(139)Q、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸139位におけるリシンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号45)およびアミノ酸配列(配列番号46)を示す。
【0043】
図20は、ΔN23/R(144)A、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸144位におけるアルギニンの代りにアラニンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号47)およびアミノ酸配列(配列番号48)を示す。
【0044】
図21は、ΔN23/R(144)L、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸144位におけるアルギニンの代りにロイシンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号49)およびアミノ酸配列(配列番号50)を示す。
【0045】
図22は、ΔN23/K(147)E、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸147位におけるリシンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号51)およびアミノ酸配列(配列番号52)を示す。
【0046】
図23は、ΔN23/K(147)Q、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸147位におけるリシンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号53)およびアミノ酸配列(配列番号54)を示す。
【0047】
図24は、ΔN23/K(153)E、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸153位におけるリシンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号55)およびアミノ酸配列(配列番号56)を示す。
【0048】
図25は、ΔN23/K(153)Q、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸153位におけるリシンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号57)およびアミノ酸配列(配列番号58)を示す。
【0049】
図26は、ΔN23/Q(152)E/K(153)E、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸152位におけるグルタミンの代りにグルタミン酸の置換およびアミノ酸位153におけるリシンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド(配列番号59)配列およびアミノ酸配列(配列番号:60)を示す。
【0050】
詳細な記載
本発明により、KGFの新規なアナログが提供される。KGFアナログは、KGFにおける1つ以上の特異的な、正の荷電した残基を欠失または置換することによって生成される。
【0051】
KGFアナログは、他の特性のうちでも、種々の精製および/または貯蔵条件のうち少なくとも1つの条件の下で改良された安定性を有する。例えば、KGFアナログは、一般に、可溶性で、正しく折り畳まれたタンパク質のより大きい収率にて精製される。さらに、一旦物質が精製されたならば、それは、親分子の安定性と比較して、pH、温度等に対してより安定である。(144位のアルギニンに代えてGlnおよびGluでの置換によって修飾された[各々、R(144)QおよびR(144)E]およびある場合には同様にN−末端が修飾された)後記実施例に記載するごとく、天然KGFに対して、(1)37℃での貯蔵に際して半減期の35ないし37.2日の延長、(2)熱変性間にわたっての7.9ないし9.5%高い熱融解温度、および(3)一定範囲のpH値にわたってのTの増加が呈される。
【0052】
理論に拘束されるつもりはないが、R(144)QおよびR(144)Eの安定性が増強された考えられる理由は、ヘパリンの不存在下では、電荷の排斥により本来不安定である、塩基性残基のクラスターの総電荷密度が低下したためであろう。後記する結果は、X−線結晶解析によって測定した結果、144位におけるアルギニン残基はbFGFにおけるヘパリン結合を仲介する塩基性残基のクラスター内またはその近くにあると報告されている(Agoら(1991),J. Biochem.,110:360−363;およびErikssonら(1993), Protein Science,:1274−1284)残基に対応するらしいことを示唆する。
【0053】
天然KGFは46個の荷電残基(正電荷を担うものが27)を含有する。KGFアナログで得られた結果に鑑みると、天然KGFの一次配列とbFGFの一次配列との比較は、27個の正に荷電した残基のうちいくつかが、bFGFの三次構造で見い出されたクラスターと同様のクラスターを形成することを示唆する。タンパク質の三次元構造におけるかかる残基の位置に応じて、これらのクラスターとなった残基のうちの1以上と、負または中性電荷を担うアミノ酸との置換は、隣接する残基の静電的相互作用を改変し、増大した安定性を達成するのに有用であろう。
【0054】
本明細書に特に記載する好ましいR(144)Qに加えて、他のアナログも本発明に包含される。本発明で使用する「KGFアナログ」または「KGFのポリペプチドアナログ」は、特に、アミノ酸残基123−133(配列番号2のアミノ酸154−164)を含めた、アミノ酸残基41−154(配列番号2のアミノ酸72−185)のうち1つ以上が欠失した、または正電荷が減少したタンパク質を得るために選択された中性残基または負に荷電した残基で置換された電荷−電荷ポリペプチドを意味する。修飾で好ましい残基は、Arg41、Gln43、Lys55、Lys95、Lys128、Asn137、Gln138、Lys139、Arg144、Lys147、Gln152、Lys153またはThr154であり、Gln138、Lys139、Arg144、Lys147、Gln152またはLys153がより好ましく、Arg144が最も好ましい。置換のための好ましいアミノ酸は、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリンおよびスレオニンを含み、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギンがより好ましく、アラニンが特に好ましい。
【0055】
いずれの修飾も分子の三次構造における電荷の排斥を最小とするように考慮されるべきである。最も好ましくは、アナログは親分子と比較して増大した安定性を有する。明らかに、欠失または置換は多数とすべきでなく、2個の負に荷電した残基の間で電荷排斥が生じるように残基を近接させるべきでもない。
【0056】
KGFアナログが生物学的に生じた場合、すなわち、固相合成の産物、天然産物のタンパク質分解もしくは酵素的誘導体化とは反対に細胞発現の産物である場合、かかるポリヌクレオチドをコードする核酸は、天然ヌクレオチド配列と比較して、1つ以上のヌクレオチドが異なるであろう。かかるヌクレオチドは発現させることができ、得られたポリペプチドは、当業者に公知の多数の組換え技術のうちのいずれか1つによって精製できる。
【0057】
KGFアナログの全てまたは一部につきコードするDNA配列は、とりわけ、容易に発現されるベクターの構築を容易とするための、特定宿主細胞における発現に「好ましい」コドンの取り込み(例えば、「E.coli発現コドン」);制限酵素によって切断されるための部位の提供;およびさらなる開始、終止および中間ヌクレオチド配列の提供(例えば、E.coli細胞における発現のための開始メチオニンアミノ酸残基として)を含み得る。
【0058】
また、本発明は、ポリペプチドの発現の方法で使用する組換え分子またはベクターを提供する。かかるベクターは、天然に存在するものであれ合成したものであれ、DNAまたはRNAからなるものとでき、天然の環状、線状、一本鎖または二本鎖であり得、また、天然な存在するものまたは種々の成分の集合とできる。
【0059】
かかる発現ベクターの多くの例が知られている。ベクターの成分、例えば、レプリコン、選択遺伝子、エンハンサー、プロモーター等は天然源から得られるか、あるいは公知の手法によって合成できる。かかる場合、本発明で有用な発現ベクターは、KGFポリペプチドアナログをコードする挿入された核酸分子と機能的に関連する少なくとも1つの発現制御エレメントを含有する。この制御エレメントは、本発明の核酸分子からのポリペプチド発現の調節を担う。有用な制御エレメントは、例えば、lac系、trp系、フアージλからのオペレーターおよびプロモーター、解糖酵母プロモーター、酵母酸性ホスファターゼ遺伝子、酵母アルファ接合因子、およびアデノウイルス、エプスタイン−バールウイルス、ポリオーマ、およびシミアンウイルスからのプロモーター、ならびに種々のレトロウイルスからのものを含む。しかしながら、原核生物または真核生物発現に適した多数の他のベクターおよび制御エレメントが当該分野で公知であり、本発明の実施に使用できる。
【0060】
適当な原核生物クローニングベクターの例は、E.coliからのプラスミド(例えば、pBR322、col E1、pUCおよびF−因子)を含み、好ましいプラスミドはpCFM1156(ATCC 69702)、pCFM1656(ATCC 69576)およびpCFM3102(後記実施例に記載)である。他の適当な発現ベクターも哺乳動物、昆虫、酵母、真菌および細菌発現のために当該分野で知られており、これらもこの目的で使用できる。これらのベクターの適当な宿主細胞へのトランスフェクションの結果、KGFアナログポリペプチドが発現される。
【0061】
本発明で有用な宿主微生物は原核生物または真核生物であってよい。適当な原核生物宿主は、種々のE.coli(例えば、FM5、HB101、DH5α、DH10およびMC1061)、Pseudomonas、BacillusおよびStreptococcus菌株を含み、E.coliが好ましい。適当な真核生物宿主細胞は酵母および他の真菌、昆虫細胞、植物細胞、およびCOSのごとき動物細胞(例えば、COS−1およびCOS−7)およびCV−1サル細胞系、Swiss由来の3T3系、Balb−cまたはNIH細胞、HeLaおよびL−929マウス細胞、およびCHO、BHKまたはHaKハムスター細胞を含む。使用する宿主に応じて、それにより産生される組換えポリペプチドは哺乳動物または他の真核生物炭水化物でグリコシレートされ、あるいはグリコシレートされない。
【0062】
好ましい産生方法は、多くの因子および考慮に応じて変化し、所与の状況に対する最適産生手法は最小の実験にも拘わらず当業者に明らかであろう。次いで、得られた発現産物は当該分野で公知の手法を用いてほとんど均質に精製できる。原核生物細胞産生での典型的な精製手法は、圧力または他の手段による細胞壁の破壊、細胞夾雑物を除去するための遠心または濾過、続いての上清または濾液のイオン交換クロマトグラフィーおよび最後に疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む。もしアナログが不溶性形態で発現されたならば、もう1つの精製技術は、アナログを含有する封入体の可溶化、続くイオン交換クロマトグラフィー、次いでのタンパク質の再折り畳み、および最後の疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む。例示的精製技術は、1994年10月13日に出願されたU.S.S.N.08/323,339に教示されている。一般に、U.S.S.N.08/323,339は、(a)KGFからなる溶液を得て、(b)(a)の該溶液からのKGFをカチオン交換樹脂に結合させ;(c)カチオン交換樹脂からの溶出物中のKGFを溶出させ;(d)(c)からの溶出物溶液を適当な分子量排除マトリックスを通過させるか、(c)の溶出物溶液についての疎水性相互作用クロマトグラフィーを行い;次いで、(e)分子量排除マトリックスまたは疎水性相互作用クロマトグラフィーからKGFを回収することよりなるケラチノサイト増殖因子を精製する方法を教示する。
【0063】
勿論、当該アナログを迅速にスクリーニングして、その物理的特性を評価することができる。アナログをテストするのに使用する特異的アッセイは重要ではないが、実施例は種々のよく知られた安定性アッセイを記載する。さらに、生物学的活性のレベル(例えば、受容体結合および/またはアフィニティー、分裂促進、細胞増殖および/またはイン・ビトロ活性)も種々のアッセイを用いてテストすることができ、そのうちいくつかを実施例に記載する。多数のアッセイがよく知られており、それを用いて、KGFアナログを迅速にスクリーニングし、それらが許容される生物学的活性を有するか否かを決定できる。1つのかかるアッセイは、125I−KGF結合と競合することによって、KGF受容体(KGFR)に結合する能力についてKGFアナログを特異的にテストする(Bottaroら(1990),J.Biol.Chem.265:12767−12770;Ronら(1993),J.Biol.Chem.,268:2984−2988)。KGFR/KGFアナログ相互作用をアッセイするための別の方法は、リアルタイム生物特異的相互作用分析(BIA)のごとき技術の使用を含む(Felderら(1993), Molecular & Cellular Biology,13:1449−1455)。加えて、分裂促進アッセイを利用して、DNA合成を刺激するKGFアナログの能力をテストすることができる(Rubinら(1989),前掲)。最後に、細胞増殖アッセイを利用して、細胞増殖を刺激するKGFアナログの能力をテストすることができる(Falcoら(1988),Oncogene,:573−578)。前記したアッセイ系のいずれかを用いて、KGFアナログを、その生物学的活性について迅速にスクリーニングできる。
【0064】
KGFアナログは、通常はペプチドの一部ではなくさらなる化学部位を含有するようにさらに修飾できる。かかる誘導体化部位は、KGFアナログの溶解性、吸収、生物学的半減期等を改良できる。また、該物質はタンパク質等のいずれの望まない副作用も除去し、または軽減できる。かかる効果を仲介できる物質は、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE,18版、Mack Publishing Co., Easton,PA(1990)に開示されている。共有結合修飾は、ペプチドの標的アミノ酸残基を、選択された側鎖または末端残基と反応できる有機誘導体化剤と反応させることによって、分子に導入できる(T.E.Creighton(1983),PROTEINS:STRUCTURE AND MOLECULE PROPERTIES,W.H.Freeman & Co.,サンフランシスコ,79−86頁)。ポリエチレングリコール(「PRG」)は、治療的タンパク質産物の調製で使用されてきた1つのかかる化学的物質である。いくつかのタンパク質については、ポリエチレングリコールの結合はタンパク質分解から保護することが示されており(Sadaら(1991),J.Fermentation Bioengineering,71;137−139)、ある種のポリエチレングリコール部位を結合させる方法が利用できる。米国特許第4,179,337号、Davisら、「非免疫原性ポリペプチド」、1979年12月18日発行;および米国特許第4,002,531号、Royer,「ポリエチレングリコールでの酵素の修飾およびそれにより産生された産物」、1977年1月11日発行参照。レビューについては、Abuchowskiら、Enzymes as Drugs(HolcerbergおよびRoberts編、367−383頁(1991))参照。ポリエチレングリコールについては、ポリエチレングリコール分子をタンパク質に付着させるために種々の手段が使用されてきた。一般に、ポリエチレングリコール分子は、タンパク質上の反応性基を介してタンパク質に結合される。リシン残基上またはN−末端のアミノ基のごときアミノ基はかかる結合に便利である。例えば、Royer(米国特許第4,002,531号、前記)は、還元的アルキル化をポリエチレングリコール分子の酵素への結合に使用したと述べている。EP 0 539 167は(1993年4月28日公開、Wright、「PEGイミデートおよびそのタンパク質誘導体」)は、遊離アミノ基(類)を持つペプチドおよび有機化合物はPEGのイミデート誘導体または関連する水溶性有機ポリマーで修飾されると述べている。米国特許第4,904,584号(Shaw、1990年1月27日発行)は、反応性アミン基を介してのポリエチレングリコール分子の結合のためのタンパク質におけるリシン残基の数の修飾に関する。
【0065】
さらにもう1つの具体例において、本発明は、(ヒトのごとき)温血動物において病気を治療するために安全に非経口または経口投与される単一用量投与単位の医薬組成物に関する。かかる医薬組成物は、凍結乾燥したまたは脱水した治療剤または診断剤の形態とすることができ、これは生理学上許容される溶媒の添加によって復元できる。該溶媒は、乾燥した組成物を溶解でき、選択された投与経路と適合し、かつ有効成分および使用する復元用安定化剤に負の影響を与えない滅菌水、生理食塩水溶液、グルコース溶液または他の水性炭水化物(例えば、マンニトール、キシロール、グリセロールのごときポリオール)のようないずれの媒体であってもよい。特別の具体例において、本発明は、単一用量投与単位を製造するためのキッ指向される。該キットは、乾燥したタンパク質を収容した第1の容器および復元用安定化剤を含む水性組成物を収容した第2の容器を共に含有する。溶液中のタンパク質の濃度、各容器に充填される溶液の容量、および容器のキャパシティ(目的投与量単位における有効成分の所望の濃度に応じて適当に修飾できる相互に関連したパラメーター)については、これらは当業者によく知られた広い範囲内で変化し得る。
【0066】
本発明によるKGFアナログは、治療剤および診断剤としておよび実験室試薬として有用であり得る。かくして、KGFアナログは、組織または器官試料中のKGFの量を定量するのに、またKGFRを発現する細胞を測定および/または単離するのに、イン・ビトロおよび/またはイン・ビボ診断アッセイで使用できる(Bottaroら(1990)、J.Biol.Chem.,265:12767−12770;Ronら(1993),J.Biol.Chem.268:2984−2988)。組織または器官のアッセイにおいては、KGFRに結合する未標識天然KGFRのため、125I−KGFアナログの標準化された結合曲線と比較して、KGFRに結合する125I−KGFアナログからの放射能はより少ないであろう。同様に、125I−KGFアナログを用いて、種々の細胞型におけるKGFRの存在を検出できる。
【0067】
また、本発明では、ペプチドに対して作製される抗体の生成におけるKGFアナログの使用が考えられ、この抗体は天然KGFにも結合する。この具体例において、該抗体はモノクローナルまたはポリクローナルであって、KGFアナログを用いて生成される。得られた抗体は、好ましくはそのタンパク質がその天然(生理学的活性)コンフォメーションにある場合に、天然KGFに優先的に結合する。これらの抗体はKGFの検出または精製で使用できる。
【0068】
さらに、本発明では、例えば、効果的なKGF送達の手段としてまたはKGF活性に対する阻害剤として、治療的適用を有する高親和性または低親和性KGF結合分子の発見におけるKGFアナログの使用が考えられる。KGFアナログの熱安定性は、生理学的条件(例えば、37℃における)でかかる結合分子を同定するのに重要である。というのは、KGFに対するその親和性は高度に温度依存性であり得るし、4℃で観察される親和性からは予測できないかも知れないからである。
【0069】
イン・ビボ使用では、KGFアナログは添加剤と共に処方され得る。かかる添加剤は緩衝液、担体、安定化剤、賦形剤、防腐剤、等張調節剤、抗酸化剤等(例えば、粘度調整剤または増量剤)を含む。特定の添加剤の選択は、貯蔵形態(例えば、液体または凍結乾燥したもの)およびKGFアナログの投与様式に依存するであろう。当該分野で知られている適当な組成物は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE(最新版)、Mack Publishing COmpany,Easton,PAで見い出すことができる。
【0070】
該KGFアナログは、損傷を有することによって特に特徴付けられる組織、または臨床的に不十分な数の非繊維芽細胞上皮細胞に治療上有効量にて投与できる。KGFはヘパリンに結合するので、細胞外環境において存在する、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパリン様グリコサミノグリカンおよびヘパリン様グリコサミノグリカンはイン・ビボでKGFに結合するようである。より多くのKGFがその標的受容体に到達し、細胞外環境においてヘパリンおよびヘパリン−様化合物によって隔離されていないので、ヘパリン結合能力が低下したKGFアナログは能力が増強されることになる。これらのアナログは、特別のKGFアナログの治療に要する投与量がより低いので、治療的により有用であろう。
【0071】
KGFアナログは、損傷を有することによって特に特徴付けられる組織、または臨床的に不十分な数の非繊維芽細胞上皮細胞に治療上有効量にて投与できる。KGFアナログが首尾よく投与できる領域は、限定されるものではないが、火傷および他の部分的および十分に厚みの負傷を持つ患者における毛嚢、汗腺および皮脂腺のごとき付属器構造の刺激、増殖および分化;表皮の下部皮膚への接着における欠点であり、その結果、ひどい病的状態を引き起こしかねないしばしば開いた水泡となる、表皮剥離によって引き起こされた病巣の加速された再上皮化;化学療法に誘導された脱毛症の予防、男性型禿頭または男性および女性における毛髪の進行的喪失の治療;胃および十二指腸潰瘍の治療;クローン病(一義的には小腸を患う)および潰瘍性結腸炎(一義的には大腸を患う)のごとき炎症性腸疾患の治療;細胞保護効果または再生またはその双方を誘導するための、治療(例えば、予備的治療および/または後治療)を介しての照射および化学療法的処置法における消化管毒の予防または低下;胃腸管全体の粘膜産生の刺激;未成熟幼児における硝子様膜病のごとき病気(すなわち、幼児呼吸困難症候群および気管支肺形成異常)の治療または予防を助け得る、II型肺胞細胞の増殖および分化の誘導;吸入負傷(高酸素レベルを含む)、気腫、肺損傷化学療法剤の使用、換気器具外傷または他の肺損傷環境による、急性または慢性肺損傷または機能不全を伴う細気管支および/または歯槽上皮の増殖および分化の刺激;肝硬変、劇症肝不全、急性ウイルス肝炎および/または肝臓に対する毒性障害によって引き起こされる損傷を治療または予防するための肝機能の増加;例えば、角膜磨損の治療における角膜細胞再生の誘導;進行性歯肉病を治療するための上皮細胞再生の誘導;鼓膜損傷を治療するための鼓膜上皮細胞の再生の誘導ならびに糖尿病の開始の治療または予防を含み、または島細胞移植のセッティングにおける付属物としての使用を含む。
【0072】
非繊維芽細胞上皮細胞の増殖が必要な患者には有効量のKGFアナログを投与する。「有効量」とは、治療すべき患者において所望の応答を惹起するのに要するKGFアナログの量であり、かくして、一般に、担当の医者によって決定される。投与するKGFアナログの量に影響する因子は、患者の年齢および一般的状態、治療すべき病気等を含む。典型的な投与量は0.001mg/kg体重ないし500mg/kg体重の範囲であろう。
【0073】
KGFアナログは非経口(例えば、IV、IT、IM、SCまたはIP経路)、経口または局所投与にて(ヒトのごとき)温血動物に安全に投与できる。KGFアナログは、患者の病気および状態に応じて、一回あるいは反復して投与できる。いくつかの場合では、KGFアナログは付属手段として他の療法に適用でき、また、他の医薬製剤と共に投与できる。
【0074】
以下の実施例は本発明を十分に説明するために含める。発明の精神を逸脱することなく、これまでに記載した手法に修飾をなし得ることは理解されるであろう。
【実施例】
【0075】
以下の実施例に記載した手法、または適当な代替手法の多くについての標準的な方法は、例えば、Molecular Cloning、第2版、Sambrookら,Cold Harbor Laboratory Press(1987)およびCurrent Protocols in Molcecular Biology,Ausabelら,Greene Publishing Association/Wiley Interscience,New York(1990)のごとき分子生物学の広く認識されたマニュアルで提供されている。
【0076】
実施例1:KGFおよびKGFアナログをコードするDNAの作製
(天然KGFの配列を持つポリペプチドをコードする)全長ヒトKGF遺伝子のクローニングは、動物細胞からのRNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および化学的に合成した(E.coli最適化コドン)オリゴヌクレオチド(「OLIGO」)のPCR双方によって行った。両手法を以下に記載する。
【0077】
ポリペプチドを産生することが知られている細胞から単離したRNAを用いるPCR増幅を行った。(Human Genetic Mutant Cell Culture Repository Institute For Medical Research,Camden,ニュージャージー州から入手した)ヒト繊維芽細胞系AG1523Aを、チオシアン酸グアニジウムで破壊し、続いて、(Chomyzinskiら(1987),Anal.Biochem.,172:156の方法に従って)抽出した。全RNAについての標準的な逆転写酵素プロトコルを用い、KGF cDNAを生成させた。KGF遺伝子のPCR(PCR#1)増幅は、鋳型としてKGF cDNAを、およびKGF遺伝子の直ぐ5’および3’側のDNA配列をコードするプライマーOLIGO#1およびOLIGO#2を用いて行った[モデル9600サーモサイクラー(Perkin−Elmer Cetus、Norwalk,CT);28サイクル;各サイクルは変性のために94℃における1分、アニーリングのために60℃における2分、および伸長のために72℃における3分とする]。PCR#1産物の少量アリコートを、次いで、50℃のアニーリング温度を除き前記したサイクル条件に同一である第2のKGF PCR(PCR#2)用の鋳型として使用した。KGF遺伝子の発現クローニングには、ネステッドOCRプライマーを用いて、KGF遺伝子の両末端に適当な制限部位を作った。OLIGO#3およびOLIGO#4を用いて、PCR#2からのKGF DNA産物を修飾し、各々、遺伝子の5’および3’末端にMluIおよびBamHI制限部位を含ませた[PCR#3;30サイクル;各サイクルは変性のために94℃における1分、アニーリングのために60℃における2分、および伸長のために72℃における3分とする]。引き続いて、このDNAをMluIおよびBamHIで切断し、フェノール抽出し、エタノール沈殿させた。次いで、それを再懸濁し、(T4リガーゼを用いて)「RSH」シグナル配列を含有するpCFM1156プラスミド(図2A)に連絡させて、構築体RSH−KGFを得た(図3)。
【0078】
連結産物を(Hanahan(1983),J.Mol.Biol.,166:557の方法に従って)E.coli下部FMS(ATCC:53911)に形質転換し、28℃でLB+カナマイシンで平板培養した。いくつかの形質転換体を選択し、20μh/mLカナマイシンを含有する小さな液状培地中で増殖させた。RSH−KGFプラスミドを各培養から単離し、DNA配列を決定した。KGF遺伝子における内部NdeI部位のため、NdeIおよびBamHIのひとまとめにした制限部位を持つ所望の発現ベクターに天然遺伝子配列を直接クローニングすることは不可能であった。これは三方連結として達成された。プラスミドRSH−KGFをBsmIおよびSstIの唯一の制限酵素で切断し、(KGF遺伝子の3’末端を含有する)〜3kbpDNA断片を1%アガロースゲルを用いて電気泳動により単離した。PCR(PCR#4)はOLIGO#3の代わりにOLIGO#5で置き換える以外は前記したごとくに行った。次いで、PCR DNA産物をNdeIおよびBsmIで切断し、311bpDNA断片を4%アガロースゲルを用いて電気泳動によって単離した。連結の第3片は、NdeIおよびSstIで切断したpCRM1156の1.8kbpDNA断片であり、これは1%アガロースゲルにより電気泳動に従って単離した。前記したごとき連結(T4リカゼーゼ)、形質転換、カナマイシン選択およびDNA配列決定に続き、図4における構築体およびKGFと命名したプラスミドを含有するクローンを拾った。裁断産物を生じた内部リボソーム結合部位のため、唯一のKpnIおよびEcoRI部位間のKGF DNA配列は化学的に合成したOLIGO(OLIGO#6ないしOLIGO#11)で置き換えて、内部開始部位の使用を最小化した(図5)。
【0079】
【表1】

【0080】
該OLIGO類をT4ポリヌクレオチドキナーゼでリン酸化し、次いで、熱変性した。次いで、一本鎖(ss)OLIGOを放置して、温度をゆっくりと室温まで降下させることによってdsDNA断片を形成させた。次いで、T4リガーゼを用いて、内部OLIGO付着末端および全dsOLIGO断片をKpnIおよびEcoRIで切断したKGFプラスミドに共有結合連結させた。新しいプラスミドをKGF(dsd)と命名した。
【0081】
完全にE.coliコドンに最適化されたKGF遺伝子を、化学的に合成されたOLIGO#12ないし24のPCR増幅によって構築した。
【0082】
OLIGO#12ないし24を、天然KGFをコードする全DNA配列が「Watson」または「Crick」鎖のいずれかに由来のOLIGOによって表され、PCR増幅に際して、所望の二本鎖DNA配列を生じるように設計した(図6)[PCR#5、モデル9600サーモサイクラー、Perkin−Elmer Cetus;21サイクル、各サイクルは変性のために94℃における31秒、アニーリングのために50℃における31秒、および伸長のために73℃における31秒とする;21サイクルに続き、PCRは7分の最終伸長工程で終了した]。PCR増幅の後、DNA断片をXbaIおよびBamHIで切断し、521bp断片を、同一酵素で切断した発現プラスミドpCFM1156に連結した。PCR#5は、連結のためにバンドエイドオリゴ(Jayarmanら(1992)、Biotechniques,12:392)としてOLIGO#20ないしOLIGO#24を用い、外部プライマー(100ピコモル/100μl rxn)OLIGO#12およびOLIGO#13ならびにOLIGO#14ないしOLIGO#19の(T4リガーゼによる)連結によって誘導されるKGF鋳型の1μl/100μlrxn(OLIGO#15ないしOLIGO#18はT4ポリヌクレオチドキナーゼでリン酸化した)を利用した。最終構築体はKGFと命名した(最適化コドン)。
【0083】
本明細書に記載するKGFアナログのすべては、部分的には、KGF(dsd)またはKGF(最適化コドン)、または双方の組合せで見い出されるDNA配列からなる。該配列は、さらに、DNA断片合成のための前記した技術の1つ以上を利用して作製された特定のKGFアナログアミノ酸をコードするDNA配列を適当な制限部位へ挿入することによって修飾(改変)される。いずれのアナログも、前記した技術によってその全体が生成できる。しかしながら、いずれかの遺伝子の一部的または全体的なE.coli最適化コドンの存在は、調べると、培養した細菌細胞から得られ得るタンパク質の収率を有意には増加させなかったが、一般的OLIGO設計の一部として、適当な場合には最適化E.coliコドンを使用した。図7ないし10および17ないし26は、便宜な例によって、特定のKGFアナログヌクレオチドおよびアミノ酸配列構築を記載する:R(144)Q(図7);C(1,15)S/R(144)E(図8);C(1,15)S/R(144)Q(図9);ΔN23/R(144)Q(図10);ΔN23/N(137)E(図17);ΔN23/K(139)E(図18);ΔN23/K(139)Q(図19);ΔN23/R(144)A(図20);ΔN23/R(144)L(図21);ΔN23/K(147)E(図22);ΔN23/K(147)Q(図23):ΔN23/K(153)E(図24);ΔN23/K(153)Q(図25);およびΔN23/Q(152)E/K(153)E(図26)。本明細書に記載するすべてのKGFアナログ構築は確認されたDNA配列であった。
【0084】
実施例2:E.coliにおける産生
3つの異なる発現プラスミドをKGFアナログ遺伝子のクローニングで利用した。発現プラスミドは、pCFM1156(ATCC#69702)、pCFM1656(ATCC#69576)、およびpCFM3102(各々、図2A、2Bおよび2C)。プラスミドp3102は、PCR重複オリゴ突然変異誘発で一連の部位特異的塩基変化を作製することによってプラスミドpCFM1656から得ることができる。プラスミド複製プロモーターPcopBの直ぐ5’側のBgIII部位(pCFM1656プラスミドbp#180)で出発し、プラスミド複製遺伝子に向けて進行し、塩基対変化は以下の通りである。
【0085】
【表2】

【0086】
前記から分かるように、pCFM1156、pCFM1656およびpCFM3102は相互に非常に似ており、多くの同一制限部位を含有する。プラスミドは便利さによって選択し、ベクターDNA成分は新しい構築体の目的で容易に交換できる。すべてのクローニングで使用した宿主はE.coli菌株FM5(ATCC:53911)であり、形質転換は、製造業者に指示に従い、(Hanahan(1983)、前掲、に従って)またはGene PulserTMトランスフェクション装置(BioRad Laboratories,Inc.,Hercules,CA)での電気溶出によって行った。
【0087】
最初に、適当な菌株の凍結グリセロールストック0.1mLを、Luriaブロス500mLを含有する2Lフラスコに入れることによって、3つのpCFMベクターのうちの1つの上に所望の構築体を有する所望の組換えE.coliの小さくて新しく培養したばかりの接種物を開始した。培養を30℃で16時間振盪し、しかる後、培養を、滅菌したバッチ培地(Tsaiら(1987),J. Indusrial Microbiol.,:181−187)8Lを含有する15Lファーメンターに移した。
【0088】
フィードバッチ発酵はフィード#1培地の供給で開始する(Tsaiら(1987)、前掲)。OD600が35に到達したら、培養温度を2時間で37℃、次いで42℃まで急速に上昇させて、C1リプレッサーを変性することによって、所望のKGFアナログの発現を誘導した。フィード1の添加はフィード2の都合により断続し、その添加速度は300mL/時間で開始した。フィード2は175g/Lのトリプチカーゼ−ペプトン、87.5g/Lの酵母エキス、および260g/Lのグルコースからなるものであった。42℃での1時間後、培養温度を36℃まで低下させ、次いで、この温度をさらに6時間持続させた。
【0089】
次いで、発酵を停止し、遠心によって細胞を1L遠心ボトル内に入れたプラスチック製バッグに収穫した。400rpmで60分間遠心することによって細胞をペレット化し、しかる後、上清を除去し、細胞ペーストを−90℃で凍結した。
【0090】
E.coliにおける、種々のKGFアナログの発現に続き、天然KGF、R(144)Q、C(1,15)S/R(144)E、C(1,15)S/R(144)QおよびΔN23/E(144)Qタンパク質を以下の手法を用いて精製した。高細胞密度発酵からの細胞ペーストを、4℃にて、適当な高剪断ミキサーを用い、10−20%溶液(w/v)としての0.2M NaCl、20mM NaPO、pH7.5に懸濁した。次いで、懸濁した細胞を、ホモゲナイザー(APV Gaulin,Inc.,Everett,MA9)に溶液を3回通すことによって溶解させた。適当な熱交換器を用いることによって、流出するホモジネートを4−8℃まで冷却した。次いで、4200rpmで、4℃にて、39−60分間、JS 4.2ローターを備えたJ−6BTM(Beckman Instrumens,Inc.,Brea,CA)中で溶解物を遠心することによって夾雑物を除去した。次いで、上清を注意深くデカントし、4℃で0.2M NaCl、20mM NaPO、pH7.5で平衡化したS−Sepharose Fast FlowTM樹脂(Pharmacia,Piscataway,NJ)の先に調製した450mL(5cm×23cm)カラムに充填した。次に、該カラムを4℃にて、5倍カラム容量の(2250mL)の0.4M NaCl、20mM NaPO、pH7.5で洗浄した。5Lの0.5M NaCl、20mM NaPO、pH7.5でカラムを洗浄することによって所望にタンパク質を溶出させた。次いで、50mLずつの画分を収集し、溶出物のA280を連続的にモニターした。次いで、溶出した物質を含有するものとしてA280によって同定された画分を、14%ゲルを通すSDS−PAGEによって分析して、所望のポリペプチドの存在を確認した。
【0091】
次いで、目的のタンパク質を含有する画分をプールし、続いて、等容量の蒸留水を添加した。次いで、希釈した試料を、4℃にて、0.4M NaCl、20mM NaPO、pH6.8で平衡化したS−Sepharose Fast Flowの先に調製した450mL(5cm×23cm)カラムに充填した。カラムを2250mLの0.4M NaCl、20mM NaPO、pH6.8で洗浄し、0.4M NaCl、20mM NaPO、pH6.8から0.6M NaCl、20mM NaPO、pH6.8の範囲の20カラム容量の直線グラジエントを用いてタンパク質を溶出させた。再度、溶出物のA280を定常的にモニターしつつ、50mLずつの画分を収集した。次いで、(15%SDS−PAGEで測定して)タンパク質を含有する画分をプールし、続いて、350ccの撹拌セル(Amicon,Inc.Mayberry,MA)中、YM−10膜(10000分子量カットオフ)を通して30−40mL容量まで遠心した。
【0092】
次いで、濃縮物を、1×PBS(Dulbeccoのリン酸緩衝化生理食塩水、「D−PBS」、無カルシウムおよびマグネシウム)または0.15M NaCl、20mM NaPO、pH7.0からなるカラム緩衝液で平衡化したSuperdex−75TM樹脂(Pharmacia)の先に作製した1300mL(4.4cm×85cm)カラムに充填した。試料がカラムに入った後、カラム緩衝液を用い、ゲル濾過マトリックスからタンパク質を溶出させた。しかる後、10mLずつの画分を回収し、(14%SDS−PAGEで測定して)アナログを含有するものをプールした。典型的には、タンパク質濃度は得られたプール中約5−10mg/mLであった。特に断りのない限り、前記手法の全ては4−8℃で行った。
【0093】
分析
分析は、E.coli由来の天然KGF;R(144)Q;C(1,15)S/R(144)E;C(1,15)S/R(144)QおよびΔN23/R(144)Qで行った。
【0094】
コンフォメーション安定性
ポリペプチドを、その貯蔵安定性、熱変性転移温度(T)、および広範囲のpH条件における安定性につき比較した。
【0095】
高温での凝集を防ぐ、天然KGF、R(144)Q、C(1,15)S/R(144)Q、C1,15)S/R(144)EおよびΔN23/R(144)Qの能力も調べた。0.5mg/mLのタンパク質を含有する試料をD−PBS中で調製した。各試料の0.5mLのアリコットを3ccの1型ガラス製バイアルに入れた。該バイアルを、ゴム製ストッパーで密封し、13mmのフリップ−オフアルミニウムシールをクリンプした。次いで、これらのバイアルを37℃のインキュベーターに入れた。所定の時間間隔で、バイアルを取り出し、可溶性タンパク質の喪失につき分析した。0.22μm Spin−Xフィルターユニット(Costar,Cambridge,MA)を通して、各試料250μLを遠心することによって目に見える沈殿を除去した。濾過溶液中の可溶性タンパク質を引き続いてサイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。HPLCピーク面積を積算し、結果を37℃におけるインキュベーション時間の関数としてプロットすることによって、可溶性タンパク質の量を決定した。結果を図11に示す。
【0096】
次いで、可溶性のモノマータンパク質の喪失についての半減期を、これらのカイネティック曲線から見積もった。表1は、これらのタンパク質につき、37℃での貯蔵に際して残存する可溶性KGFの半減期を示す。
【0097】
【表3】

【0098】
前記表1および図11から分かるように、天然KGFは最も迅速に凝集し、半減期は0.6日であった。R(144)Qは半減期を4.1日まで増大させた。C(1,15)S/R(144)Q、ΔN23/R(144)QおよびC(1,15)S/R(144)Eは、各々、可溶性半減期を13.3、22.3および38日まで実質的に増加させた。
【0099】
熱変性
熱変性は、PTC−343ペティエ型温度制御系を備えたJ−720TMスペクトロポラリメーター(Jasco,Inc.,Easton,MD)を用いて230nmにて円二色性(CD)によってモニターした。CD分析については、分析すべき0.1mg/mLのポリペプチドを含有する別の試料をD−PBS(Life Technologies,Inc.,Grand Island,NY)中で調製した。各試料につき、約2.5mLを100mm経路長の矩形SuprasilTM水晶(Heraeus Quartzschmelze,GmbH,Hanau,ドイツ国)蛍光セル(Hella Cells,Inc.,Jamaica,NY)に充填した。次いで、スペクトロポラリメーター中のペルティエ型温度制御系に入れた。加熱変性は50℃/時間の速度で行った。楕円率の変化を230nmでモニターして変性を示した。各試料のTは、溶液中のタンパク質分子の50%が変性される温度を確認することによって推定した(Biophysical Chemistry,Cantor and Schimmel(編),W.H.Freeman and Co.,サンフランシスコ(1980)。3種のタンパク質の各々について推定したTは表2にリストする。
【0100】
【表4】

【0101】
結果が示すように、R(144)Qは天然KGFと比較して、7℃より大きいT上昇を有する。R(144)QからC(1,15)S/R(144)QまたはΔN23への置き換えは、少なくともさらに1℃のT上昇、かつ天然KGFと比較して8℃を超える上昇を与える。さらに、C(1,15)S/R(144)Eは天然KGFよりも9℃を超えてより安定である。従って、アミノ酸144位における正に荷電した残基(Arg)を中性または負に荷電した残基にスイッチすると、ポリペプチドを実質的に安定化させた。
【0102】
pH
濃塩酸またはNaOHを添加することによりD−PBSを異なるpH値に調整することによって、C(1,15)S/R(144)QおよびC(1,15)S/R(144)Eの酸安定性を天然KGFのそれと比較した。異なるpH値のD−PBSの2.35mLを、水晶セル中の2.45mg/mL KGFタンパク質100μlと混合した。これらの試料を50℃/時間の速度で熱変性させ、230nmにおけるCDによってモニターした。図12は、天然KGF、C(1,15)S/R(144)QおよびC(1,15)S/R(144)Eにつき、pHの関数としてのTを示す。テストしたpH範囲において、C(1,15)S/R(144)QおよびC(1,15)S/R(144)Eは天然KGFよりも常に高いTを有した。
【0103】
イン・ビトロ生物学的活性
(Rubinら(1989)、前掲の方法に従って)Balb/MK細胞による[H]−チミジン摂取の測定によって、R(144)Q、ΔN23/R(144)Q、C(1,15)S/R(144)QおよびC(1,15)S/R(144)Eのイン・ビトロ分裂促進活性を、タンパク質濃度および半最大濃度の関数として測定した。
【0104】
一般に、公知の標準的な天然KGFに対するKGFアナログの各々の濃度は、イン・ビトロ生物学的アッセイを用いて測定した。次いで、各KGFアナログを希釈し、Balb/MK分裂促進アッセイを用い、生物学的活性につきアッセイした。まず、試料を、50%の使用者作製のイーグルMEM、50%の使用者作製のF12、5μg/mLのトランスフェリン、5μg/mlの亜セレン酸ナトリウム、0.0005%のHSAおよび0.005%Tween20からなるバイオアッセイ培地中に希釈した。次いで、Balb/MK細胞を接種したFalcon primeria96穴プレートにKGF試料を添加した。DNA合成の間の[H]−チミジンの取り込みを測定し、天然KGF標準曲線との比較によって、入力天然KGF濃度に変換した。結果を図13ないし16に示す。図13ないし16で分かるように、KGFアナログの各々は分裂促進活性を有する。
【0105】
本発明を一般的におよび好ましい具体例により記載したが、前記の記載に徴して他の変形および修飾が起こるのは当業者に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1−1】天然KGFのヌクレオチド(配列番号1)およびアミノ酸(配列番号2)を示す(天然KGFの成熟形態をコードするヌクレオチドは配列番号1の塩基201ないし684によって示され、KGFの成熟形態は配列番号2のアミノ酸残基32ないし194によって示される)。
【図1−2】天然KGFのヌクレオチド(配列番号1)およびアミノ酸(配列番号2)を示す(天然KGFの成熟形態をコードするヌクレオチドは配列番号1の塩基201ないし684によって示され、KGFの成熟形態は配列番号2のアミノ酸残基32ないし194によって示される)。
【図2−A】pCFM1156、pCFM1656およびpCFM3102のプラスミドマップを示す。
【図2−B】pCFM1156、pCFM1656およびpCFM3102のプラスミドマップを示す。
【図2−C】pCFM1156、pCFM1656およびpCFM3102のプラスミドマップを示す。
【図3】構築体RSH−KGFのヌクレオチド配列(配列番号3)およびアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図4】プラスミドKGFに含まれる構築体のヌクレオチド配列(配列番号5)およびアミノ酸配列(配列番号6)を示す。
【図5】プラスミドKGF(dsd)中に構築体を生じさせるためにプラスミドKGFに含有させた構築体におけるKpnI部位およびEcoRI部位(配列番号6のアミノ酸位46ないし85)の間のDNA配列を置換するのに用いる化学的に合成したOLIGO類(OLIGO#6ないしOLIGO#11;配列番号12−17)を示す。
【図6】KGFを構築するのに使用される化学的に合成されたOLIGO類(OLIGO#12ないしOLIGO#24;配列番号18−30)を示す。
【図7】R(144)Q、天然KGFのアミノ酸位144のアルギニンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号31)およびアミノ酸配列(配列番号32)を示す。
【図8】C(1,15)S/R(144)E、天然KGFのアミノ酸位1および15におけるシステインの代りにセリンの置換および144位におけるアルギニンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号33)およびアミノ酸配列(配列番号34)を示す。
【図9】C(1,15)S/R(144)Q、天然KGFのアミノ酸位1および15におけるシステインの代りにセリンの置換および144位におけるアルギニンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号35)およびアミノ酸配列(配列番号:36)を示す。
【図10】ΔN23/R(144)Q、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失および144位におけるアルギニンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号37)およびアミノ酸配列(配列番号38)を示す。
【図11】37℃におけるインキュベーション時間の関数としての、サイズ排除HPLCによって測定した可溶性タンパク質の量を示す。
【図12】天然KGF、C(1,15)S/R(144)QおよびC(1,15)S/R(144)EについてのpHの関数としての推定された融解温度(T)を示す。
【図13】DNA合成の間の[H]−チミジンの取り込みを測定し、それを天然KGF標準曲線と比較することによって決定した、R(144)Qの分裂促進活性の典型的プロフィールを示す。
【図14】DNA合成の間の[H]−チミジンの取り込みを測定し、それを天然KGF標準曲線と比較することによって決定した、ΔN23/R(144)Qの分裂促進活性の典型的プロフィールを示す。
【図15】DNA合成の間の[H]−チミジンの取り込みを測定し、それを天然KGF標準曲線と比較することによって決定した、C(1,15)S/R(144)Qの分裂促進活性の典型的プロフィールを示す。
【図16】DNA合成の間の[H]−チミジンの取り込みを測定し、それを天然KGF標準曲線と比較することによって決定した、C(1,15)S/R(144)Eの分裂促進活性の典型的プロフィールを示す。
【図17】ΔN23/N(137)E、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸137位におけるアスパラギンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号41)およびアミノ酸配列(配列番号42)を示す。
【図18】ΔN23/K(137)E、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸139位におけるリシンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号43)およびアミノ酸配列(配列番号44)を示す。
【図19】ΔN23/K(139)Q、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸139位におけるリシンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号45)およびアミノ酸配列(配列番号46)を示す。
【図20】ΔN23/R(144)A、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸144位におけるアルギニンの代りにアラニンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号47)およびアミノ酸配列(配列番号48)を示す。
【図21】ΔN23/R(144)L、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸144位におけるアルギニンの代りにロイシンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号49)およびアミノ酸配列(配列番号50)を示す
【図22】ΔN23/K(147)E、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸147位におけるリシンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号51)およびアミノ酸配列(配列番号52)を示す。
【図23】ΔN23/K(147)Q、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸147位におけるリシンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号53)およびアミノ酸配列(配列番号54)を示す。
【図24】ΔN23/K(153)E、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸153位におけるリシンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号55)およびアミノ酸配列(配列番号56)を示す。
【図25】ΔN23/K(153)Q、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸153位におけるリシンの代りにグルタミンの置換を有するKGFアナログのヌクレオチド配列(配列番号57)およびアミノ酸配列(配列番号58)を示す。
【図26】ΔN23/Q(152)E/K(153)E、天然KGFのN−末端の最初の23個のアミノ酸の欠失およびアミノ酸152位におけるグルタミンの代りにグルタミン酸の置換およびアミノ酸位153におけるリシンの代りにグルタミン酸の置換を有するKGFアナログのヌクレオチド(配列番号59)配列およびアミノ酸配列(配列番号:60)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図2のアミノ酸残基41−154(配列番号2のアミノ酸72−185)のうちの1以上の欠失または置換による電荷変化を含む天然KGFのポリペプチドアナログ。
【請求項2】
該欠失または置換アミノ酸が、Arg41、Gln43、Lys55、Lys95、Lys128、Asn137、Gln138、Lys139、Arg144、Lys147、Gln152、Lys153およびThr154よりなる群から選択される請求項1記載のポリペプチドアナログ。
【請求項3】
R(144)Q、C(1,15)S/R(144)Q、C(1,15)S/R(144)EおよびΔN23/R(144)Qよりなる群から選択される請求項1記載のポリペプチドアナログ。
【請求項4】
治療上有効量の請求項1記載のKGFのポリペプチドアナログおよび医薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項5】
治療上有効量の凍結乾燥した請求項1記載のポリペプチドアナログを含む医薬組成物。
【請求項6】
さらに、医薬上許容される担体を含む請求項4記載の医薬組成物。
【請求項7】
DNAおよびRNAよりなる群から選択される核酸分子であって、該核酸分子が、図2のアミノ酸残基41−154(配列番号2のアミノ酸72−185)のうちの1以上の欠失または置換による電荷変化を含む天然KGFのポリペプチドアナログをコードする該核酸分子。
【請求項8】
該欠失または置換アミノ酸がArg41、Gln43、Lys55、Lys95、Lys128、Asn137、Gln138、Lys139、Arg144、Lys147、Gln152、Lys153およびThr154よりなる群から選択される請求項7記載の核酸分子。
【請求項9】
ポリペプチドアナログがR(144)Q、C(1,15)S/R(144)Q、C(1,15)S/R(144)EおよびΔN23/R(144)Qよりなる群から選択される請求項7記載の核酸分子。
【請求項10】
請求項7記載の核酸分子を含む生物学的に機能的なプラスミドまたはベクター。
【請求項11】
請求項8記載の生物学的に機能的なベクターで安定的にトランスフェクトまたは形質転換された原核生物または真核生物宿主細胞。
【請求項12】
E.coliである請求項11記載の原核生物宿主細胞。
【請求項13】
哺乳動物細胞である請求項11記載の真核生物宿主細胞。
【請求項14】
チャイニーズハムスター卵巣細胞である請求項12記載の真核生物宿主細胞。
【請求項15】
請求項7記載の核酸分子で安定的に形質転換された原核生物または真核生物宿主細胞を、適当な栄養条件下、コードされたポリペプチドアナログが発現されるように増殖させ、次いで、かく産生されたポリペプチドアナログを単離することを特徴とするKGFのポリペプチドアナログの製法。
【請求項16】
有効量の請求項1記載のKGFのポリペプチドアナログを非繊維芽細胞上皮細胞と接触させることを特徴とする該細胞の生産を刺激する方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図2−C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2007−20575(P2007−20575A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−237876(P2006−237876)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【分割の表示】特願平8−513370の分割
【原出願日】平成7年10月12日(1995.10.12)
【出願人】(503349280)アムジエン・インコーポレーテツド (5)
【Fターム(参考)】