説明

ケーブルを通すための切り込みが設けられた自動車の車室用カーペット

本発明は、1または複数のケーブルを通すための少なくとも1つの切り込みを有する自動車の車室用カーペットに関し、少なくとも1つの上記切り込みは、湾曲形状のスリット(32)からなり、上記スリットの少なくとも1つの端に、1または複数の上記ケーブル(34)を通すための穴(33)が設けられることを特徴とする。本発明の切り込みは、カーペットの剛性と無関係に、1動作で、容易に1または複数の上記ケーブルを配置することを可能にする。上記切り込みは、音響漏洩を減少させることも可能にし、ウオータージェットによる裁断技術による1工程で、上記ウオータージェットを中断することなく、容易に作ることができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルを通すための切り込みが設けられた自動車の車室用カーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車における車室用カーペットは、フロアに所望の外観を与えることからなる美観に関する第1の機能と、騒音遮断に関する第2の本質的な機能とを有する。
【0003】
実際、カーペットによって覆われた自動車のフロアは、車室内における大部分の騒音を発生する領域である。このため、カーペットは、有効な音響遮蔽物を形成するように作られる。カーペットは、一般に、背面に高密度(ヘビーウエートと呼ばれる)コーティングが貼り付けられた敷物からなる。高密度コーティングを貼り付けることによって、カーペットに、いわゆる気密膜としての、ある程度の剛性が付与される。
【0004】
現今の自動車の前部座席と後部座席には、制御装置、暖房装置、エアーバッグ、マルチメディア装置のような、益々多くの電子装備品が設けられている。これらの電子装備品には、カーペットの下に隠されたケーブルを通じで電力が供給される。従って、カーペットの特に座席の領域に、ケーブルの通過を可能にする切り込みを設ける必要がある。
【0005】
これらの切り込みは、装着後の音響漏洩を制限するとともに、カーペットの剛性に抗して、複数のケーブルを同時に容易に装着することを可能にする必要がある。
【0006】
カーペットの切り込みの例を、図1〜3に示す。
【0007】
図1は、ケーブル3(断面が示されている)が通り抜ける、H字型の切り込み2が設けられたカーペット1を示す。H字の水平な棒の両側には、H字の両端を結ぶ線4′、5′(鎖線で示す)の周りに回動可能な、2つの舌状片4、5が設けられている。このH字型の切り込みは、様々なサイズのケーブルに使用することができる。ケーブルは、舌状片4、5を持ち上げて広い開口を作ることによって容易に装着することができる。ケーブルは、切り込みの端を開くことによって、図1に示すように、舌状片4、5とH字の垂直な棒の1つとの間に位置するようになる(ケーブルを受け入れるための円形の穴は設けられない)。しかしながら、これらの舌状片は、ケーブル3の回りに僅かに開かれたままになり、従って音響漏洩を生じる。さらに、時間が経過すると、舌状片4、5は重力によって落ち込んで穴を形成する。この穴の中に、部品、小石、その他の異物が堆積する可能性がある。さらに、これらの切り込みは、舌状片がつぶれたり損傷したりするリスクを回避するために、搭乗者の足が届く領域に存在しないことが望ましい。最後に、H字型の切り込みによる解決策は、カーペットに通常用いられている、高圧ウオータージェットによる裁断技術に適さないという欠点を有する。このような切り込みには、裁断工程中にジェットの3度の中断が必要であり、このことは加工動作のサイクルタイムを増加させる。
【0008】
図2は、ケーブル13(断面が示されている)が通り抜ける、星型の切り込み12が設けられたカーペットを示す。星型の中心には、ケーブルを通すための円形の穴14が設けられている。H字型の切り込みよりも有効であるためには、この切り込みはより精確に寸法決めされる必要があり、このため、一般に、長くて扱いが厄介なケーブルを一本ずつ通過させる必要がある。星型の寸法が小さく、装着後にケーブルとコネクタが自然に星型の中心に位置するときには、このような切り込みは、装着の容易性と音響的な遮断との間の良好な妥協を示す。しかしながら、1または複数のケーブルが星型の先端部へスリップすると、切り込みの端部が割れ、音響漏洩が生じる。さらに、H字型の切り込みによる解決策と同様に、この解決策も裁断工程中に要するジェットの3度の中断のために、高圧ウオータージェットによる裁断技術に適さない。
【0009】
図3は、ケーブル23(断面が示されている)が通り抜ける、直線型の切り込み22が設けられたカーペットを示す。切り込みの中心には、ケーブルを通すための円形の穴24が設けられている。特にケーブルは、永続的な音響漏洩を生ずることなく、切り込みを横切る方向に小さい拘束力を受けるので、この解決策は、装着の容易性と音響的な遮断との間の良好な妥協を示す。また、このような切り込みは、ウオータージェットの中断を要しないので、ウオータージェットによる裁断方法によって容易に作ることができる。しかしながら、カーペットの剛性が大きいときには、スリットの端を開くことが困難であるため、ケーブル装着作業者は、ケーブルを一本ずつ通過させる必要がある。従って、このような切り込みは、比較的柔軟なカーペットに特に適する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、1または複数のケーブルを、カーペットの剛性に係わりなく、1動作で、容易に装着することを可能にする切り込みが設けられた、自動車の車室用カーペットを提供することによって、上述の問題を軽減することを目的とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明による切り込みは、音響漏洩を減少させるという利点を有する。さらに、本発明による切り込みは、ウオータージェットによる裁断技術によって、ウオータージェットの中断を要することなく、容易に作ることができる。この切り込みは、刃物による裁断にも適する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の対象は、1または複数のケーブルを通すための少なくとも1つの切り込みを有する自動車の車室用カーペットにおいて、少なくとも1つの上記切り込みは、湾曲形状のスリットからなり、上記スリットの少なくとも1つの端に、1または複数の上記ケーブルを通すための穴が設けられることを特徴とする、自動車の車室用カーペットに関する。上記ケーブルを通すための上記穴の上記スリットの上記端への位置付けは、上記ケーブルの容易な装着を可能にし、装着作業者は、上記ケーブルを正確に位置決めするためには、上記ケーブルを上記スリットの上記端へ向けて単に引っ張るだけでよい。さらに、上記スリットの湾曲形状は、1または複数の上記ケーブルの容易な導入のために充分大きな面積の開口を提供するので、簡単な動作による上記ケーブルの位置決めを可能にする。
【0013】
第1の変形においては、上記穴の近傍において、上記スリットは、上記穴の縁の概ね接線方向にある。このように上記穴に対して上記スリットをずらすことによって、上記穴の中における上記ケーブルの位置決めが改善される。実際、上記ケーブルの中心は、上記スリットと一直線には直接配置されないので、上記ケーブルが外力を受けても上記スリットの方へ戻る傾向を有することはない。
【0014】
上記穴は、上記スリットの凹部側に位置することが望ましい。
【0015】
第2の変形においては、上記穴の近傍において、上記スリットは、上記穴の縁に概ね直交する。この変形は、上記ケーブルが上記穴の近傍の上記スリットの方向に直交する方向の外力を受けるときに、上記ケーブルが上記スリットの中へ滑動することを回避するために使用することが望ましい。
【0016】
第1の実施の形態においては、上記スリットは湾曲形状をなす。このような形状は、特にウオータージェットによる裁断技術、またはその他の裁断技術による容易な裁断を可能にする。
【0017】
特に、上記スリットの1端における接線は、上記カーペットの縦方向に平行、または縦方向に近く、上記スリットの他端における接線は、上記カーペットの横方向に平行、または横方向に近い。従って、上記ケーブルの装着後に、上記カーペットの縦または横方向に伸びる、例えば座席の案内レールのような、上記自動車の他の部品の下に、望ましくは上記ケーブルが存在しない、上記スリットの1端を固定することが可能である。このように上記スリットを保持することによって、自動車の使用寿命中に上記スリットが開くことを制限し、従って、音響漏洩が後に発生することを制限または遅らせることができる。
【0018】
本特許出願においては、上記カーペットの縦及び横方向は、上記自動車の縦及び横方向と一致するとみなされる。
【0019】
第2の実施の形態においては、上記スリットは、少なくとも2つの直線の線分から形成される。このような形状は、ウオータージェットによる裁断技術にも、例えば刃物による裁断のような他の裁断技術にも適する。
【0020】
特に、上記スリットは、両端の2つの線分は上記カーペットの横方向に概ね平行で、中央の線分は上記カーペットの縦方向に概ね平行な、3つの線分から形成される。この向きは、上記スリットの一部分を上記自動車の他の部品の下に保持することを可能にし、音響漏洩の発生を制限する。
【0021】
上記穴は、直径が上記穴を通す1または複数の上記ケーブルの直径に概ね等しい、円形をなすと有利である。このような形態は、上記ケーブルを上記穴に通すことによって発生する音響漏洩を最小化することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を、非限定的な添付図面を参照して説明する。これらの添付図面において:
−図1〜3は、それぞれ、従来技術によるH字型の切り込みと、星型の切り込みと、直線型の切り込みが設けられた、自動車の車室用カーペットの上面図であり;
−図4、5は、本発明による切り込みが設けられた、自動車の車室用カーペットの2つの実施の形態の上面図である。
【0023】
図1〜3については既に説明したので、図4、5についてのみ詳細に説明する。これらのすべての図において、切り込みの縁の間の距離と、切り込みとケーブルの間の距離は、明瞭化のために誇張されている。切り込みの縁は、音響漏洩と異物の貫通を制限するためにケーブルの外表面と切り込みの縁が接触するように、通常互いに接している。
【0024】
これらの図において、方向X、Yは、それぞれカーペットの縦と横方向を表す。
【0025】
本発明の第1の実施の形態を、図4を参照して説明する。この図は、湾曲形状のスリット32から形成された切り込みを有するカーペット31を示す。湾曲形状のスリット32の一端32aには、ケーブル34を通すための、円形の穴33が設けられている。一端32aは、スリットの凹側に位置する穴33に概ね接する。
【0026】
このように、コンマ(,)に類似した一般形状を示す。この形状は、切り込みに近接して、仮想の折り目線35を生じる。折り目線35は、穴33と反対側のスリットの他端32bを通る、円形の穴33の接線に概ね相当する。折り目線35と、スリット32の凹側に向けられたスリットの縁36は、ケーブル装着作業者がケーブル34を導入するために容易に持ち上げることが可能な、舌状片37の範囲を画定する。ケーブルを、穴33へ向けて単純に引っ張るだけで、穴の中におけるケーブルの正確な位置決めが可能である。
【0027】
穴33がスリット32に対して接線方向の位置にあるために、ケーブルが図4のF1方向に向けられた力を受けたときに、穴の縁は、ケーブルのための支持台として役に立つ。さらに、音響漏洩を制限するために、穴33の寸法を、穴33が受け入れる1または複数のケーブルの寸法に可能な限り近い値に調整することが可能である。このようにしても、舌状片37の回動によってもたらされる広い開口によって、装着の容易性が妨げられることはない。
【0028】
この例においては、スリットの一端32aにおける接線は、カーペットの縦方向Xに近く、一方、スリットの他端32bにおける接線は、カーペットの横方向Yに概ね平行である。この向きは、座席の案内レール38(縁が、図4に鎖線で略図的に示されている)を、ケーブルから離れた切り込みの他端32bの上に、穴を覆うことなく、X軸に平行に配置することを可能にする。このように覆うことによって、ケーブルが損傷するリスクを伴うことなく、切り込みが開くことを回避することによって、長時間にわたる切り込みの良好な有効性が保証される。
【0029】
このような切り込みは、ウオータージェットによる裁断技術による1工程で作ることができる。例えば、ウオータージェットは、スリットの一端32aに概ね直径方向に対向する点Aから始めて、円形の穴33の縁を描くことから開始する。次に、点Aの戻った後、ウオータージェットは、切断された円板を落下させるために、穴33の直径に沿って穴33を横切り、次いで湾曲形状のスリット32を形成する。
【0030】
図5は、第2の実施の形態を示す。この実施の形態においては、カーペット41は、概ね逆C字状に配置された3つの線分42a、42b、42cからなる、湾曲したスリット42から形成され、一端にケーブル44を通すための円形の穴43が設けられた切り込みを有する。
【0031】
円形の穴43は、1つの線分42aの自由端に位置する。線分42aは、穴43の中心を通り抜ける向きに伸びる。
【0032】
スリット42の両端を形成する2つの線分42a、42cは互いに平行で、中央の線分42bに概ね直交する。線分42cの自由端を通る穴43の接線に概ね相当する直線45は、3つの線分42a、b、cによって範囲を画定された舌状片46の折り目線を形成する。この舌状片の回動は、ケーブル44の容易な通過を可能にする広い開口をもたらす。ケーブル44を線分42aの端へ向けて引っ張ると、ケーブル44は、穴43の中へ納まる。
【0033】
スリットの長さと舌状片46の面積とを制限して、カーペットの疲労による音響漏洩の発生を制限するために、第3の線分42cは、第1の線分42aよりも短いことが望ましい。
【0034】
この切り込みにおいては、線分42aに直交する方向の荷重を受けるケーブル45が移動するリスクはない。
【0035】
この例においては、線分42a、cは、カーペットの横方向Yに概ね平行であり、一方、中央の線分42bは、縦方向Xに概ね平行である。先の例と同様に、この向きは、座席の案内レール48(縁が、図5に鎖線で略図的に示されている)を、舌状片46の部分の上に、ケーブルから幾らかの距離をおいて配置することを可能にする。このようにして、線分42bと線分42a、cの一部が覆われて、切り込みが開くことが回避されることによって、長時間にわたる切り込みの良好な有効性が保証される。このようにして、線分42aに平行な力の影響を受けて、ケーブル44はスリットの中へ入り込むことはなく、スリットは、座席の案内レールによって閉ざされる。線分42aに接する円形の穴を作ることによって、線分42aに平行な力の影響を受けるケーブルの、穴の中における保持を改良することが可能になる。
【0036】
時間の経過に伴う舌状片の撓みと音響漏洩の形成を回避するために、切り込みは、自動車の床の空隙の上に位置しないように配置することが望ましい。しかしながら、この問題は、舌状片の寸法を減少させることによって制限できる。
【0037】
この切り込みは、ウオータージェットによる裁断技術による1工程で作ることができる。例えば、最初に、ウオータージェットは、線分42aに概ね直径方向に対向する点Bから始めて、円形の穴43の縁を描き、次いで、切断された円板を落下させるために、穴43の直径に沿って穴43を横切り、引き続いてを線分42a、42b、42cを形成する。
【0038】
これらの2つの実施の形態において、スリットの長さと形状は、カーペットの疲労による音響漏洩の形成を制限するために、舌状片の表面積を最小に減少させるように選ばれる。
【0039】
記載された実施の形態の1つにおける、スリットに対する穴の位置は、他の実施の形態に対しても用いることができる。
【0040】
各スリットの向きは、自動車の床の上に配置される部品に応じて検討される。
【0041】
本発明による切り込みは、その形状による効果によって、自動車の部品によってスリットの大部分を覆うことを可能にし、このことによって、長時間にわたる切り込みの有効性が改善され、これらの切り込みを搭乗者の足が届く範囲に設けることを可能にする。従来技術の切り込みは、このように覆うことは不可能であり、ケーブルは切り込みの中央部に配置され、切り込みの一部のみは保持可能であるが、対向する部分は外力にさらされたままである。
【0042】
変形として、穴をスリットの各端部に設けることが可能である。この場合、スリットの中央部分のみを自動車の部品によって覆うことができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数のケーブルを通すための少なくとも1つの切り込みを有する自動車の車室用カーペットにおいて、少なくとも1つの上記切り込みは、湾曲形状のスリット(32)からなり、上記スリットの少なくとも1つの端に、1または複数の上記ケーブルを通すための穴(33)が設けられることを特徴とする、自動車の車室用カーペット。
【請求項2】
上記穴(33)の近傍において、上記スリット(32)は、上記穴(33)の縁の概ね接線方向にあることを特徴とする、請求項1に記載の自動車の車室用カーペット。
【請求項3】
上記穴(33)は、上記スリットの凹部側に位置することを特徴とする、請求項2に記載の自動車の車室用カーペット。
【請求項4】
上記スリット(32)の1端(32a)における接線は、上記カーペットの縦方向に平行、または縦方向に近く、上記スリット(32)の他端(32b)における接線は、上記カーペットの横方向に平行、または横方向に近いことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の自動車の車室用カーペット。
【請求項5】
上記穴(33)は、直径が上記穴(33)を通す1または複数の上記ケーブルの直径に概ね等しい、円形をなすことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の自動車の車室用カーペット。

【公表番号】特表2007−524545(P2007−524545A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500268(P2007−500268)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050092
【国際公開番号】WO2005/085000
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】