説明

ケーブル被覆用モールド材料及びこれを用いたケーブル端末

【課題】混合時やモールド成形時には装置(金属容器)への粘着がなく、金属との接着時には接着性を示す、相反した特性を満たすことが可能なケーブル被覆用モールド材及びこれを用いたケーブル端末を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有するケーブル10a,10bの端末を、その絶縁被覆層と端末の金属面を覆ってモールド処理する際に用いるケーブル被覆用モールド材料において、カルボン酸無水物で変性されたポリオレフィン系熱可塑性樹脂が混合されたポリオレフィン系熱可塑性樹脂100質量部に対して、ポリプロピレンワックスを1〜10質量部含ませたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空灯火ケーブル等のケーブル端末をモールド処理するためのケーブル被覆用モールド材料及びこれを用いたケーブル端末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、航空灯火ケーブルの絶縁被覆材には、ゴムが用いられてきたが、ゴムは架橋して使用するため再利用が困難であった。そこで、航空灯火ケーブルの絶縁被覆材として、熱可塑性エラストマーによる再利用可能なケーブルが開発されている。
【0003】
熱可塑性エラストマーケーブルの利点は、材料が再利用できるほか、ケーブル端末のモールド処理が簡略化できることである。
【0004】
このモールド処理する際のケーブル接続は、ケーブル端末に、一体にゴムモールドしたプラグとレセップを組み合わせて接続するプラグ・レセップ接続方式と、予めゴムモールドされたアダプタを使用し、実際のケーブル布設現場でケーブル先端を口出ししてケーブル接続端子を取り付けた後、アダプタを挿入して接続するアダプタ方式がある。
【0005】
図1に示すように航空灯火ケーブル10のプラグ・レセップは、接続するケーブル10aの端部の導体にピン11を圧着して取り付け、他方の航空灯火ケーブル10bのケーブル端の導体にソッケット12を圧着して取り付け、これらの外周にモールド材13a、13bをモールドして、それぞれプラグ14付きケーブル10aと、レセップ15付きケーブル10bとで構成され、そのプラグ14とレセップ15同士を挿入或いは嵌合することで接続するものである。なお接続後には、接続部に自己融着性収縮テープや粘着性ビニルテープを巻いて絶縁補強される。
【0006】
このようにモールド処理とは、ケーブル接続の一つであるプラグ・レセップ接続方式に例えると、ケーブル端末に接続した金具の表面を、ケーブルの絶縁被覆材を含めて被覆することである。
【0007】
接続後の熱可塑性エラストマーケーブルは、モールド材13a、13bを熱可塑性エラストマーにすることで、ケーブル10の絶縁被覆材との溶融接着も可能になる。
【0008】
一方、ゴムケーブルでは、絶縁被覆材のゴムは架橋成形されているため、モールド材に使用されたゴムを被せるだけでは接着できない。そのため接着剤を塗布するが、絶縁被覆材に表面処理(例えば研磨機で表面を粗化)を施すなどしてから接着剤を塗布するなど工夫が必要であった。
【0009】
このように絶縁被覆材とモールド材の接着では、熱可塑性エラストマーが優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−54001号公報
【特許文献2】特開2005−344030号公報
【特許文献3】特開2002−348343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、金具とモールド材の接着では、熱可塑性エラストマーより、ゴムが優れている。この理由は、ゴムと金具の接着では、接着剤とゴムが架橋することで強固に結合するが、熱可塑性エラストマーでは接着剤と結合することがないためである。
【0012】
そこで、本発明者は、熱可塑性エラストマーと接着剤の結合を目的にカルボン酸で変性されたポリオレフィンを添加することでゴム並の接着性が得られる樹脂組成物を開発した。
【0013】
しかし、カルボン酸変性ポリオレフィンは、金属とよく接着することから樹脂組成物の混合時やモールド成形時に、樹脂組成物の装置(金属容器)への粘着が問題となり、モールド成型後に、装置から取り外すことことが難しくなる新たな問題が生じることが分かった。
【0014】
そこで、本発明の目的は、混合時やモールド成形時には装置(金属容器)への粘着がなく、金属との接着時には接着性を示す、相反した特性を満たすことが可能なケーブル被覆用モールド材及びこれを用いたケーブル端末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有するケーブルの端末を、その絶縁被覆層と端末の金属面を覆ってモールド処理する際に用いるケーブル被覆用モールド材料において、カルボン酸無水物で変性されたポリオレフィン系熱可塑性樹脂が混合されたポリオレフィン系熱可塑性樹脂100質量部に対して、ポリプロピレンワックスを1〜10質量部含ませたことを特徴とするケーブル被覆用モールド材料である。
【0016】
請求項2の発明は、ポリプロピレンワックスの数平均分子量が、9000以下である請求項1記載のケーブル被覆用モールド材料である。
【0017】
請求項3の発明は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有するケーブルの端末を、その絶縁被覆層と端末の金属面を覆ってモールド処理するケーブル端末において、請求項1又は2に記載のケーブル被覆用モールド材料を用いてモールド成型したことを特徴とするケーブル端末である。
【0018】
請求項4の発明は、モールド成形する際に、モールド材と前記金属面とを接着剤を用いて接着した請求項3記載のケーブル端末である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金属との接着性を向上するカルボン酸変性ポリオレフィンを含む熱可塑性樹脂組成物にポリプロピレンワックスを添加することで、樹脂の混合時やモールド成型時の粘着を防止し、モールド後の金属面との接着性に優れたケーブル被覆用モールド材料を提供できるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が適用される航空灯火ケーブルのプラグ・レセップ接続方式を説明する図である。
【図2】本発明において接着性評価の試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0022】
先ず、本発明のケーブル被覆用モールド材料は、図1で説明したように、端子側の金属との接着性が良く、しかも、混合時やモールド成型時の金属への粘着も防止することができる。
【0023】
以下に、モールド成型材料である熱可塑性エラストマーが、溶融状態にあるときの金属との干渉を粘着、固相状態にあるときの金属との干渉を接着と表現するものとする。
【0024】
さて、本発明のケーブル被覆用モールド材料は、カルボン酸無水物で変性されたポリオレフィン系熱可塑性樹脂が混合されたポリオレフィン系熱可塑性樹脂100質量部に対して、ポリプロピレンワックスを1〜10質量部含ませたものである。
【0025】
熱可塑性エラストマーと金属との接着を高めるためには、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂に、カルボン酸変性ポリオレフィンの添加が必要であるが、カルボン酸は金属と接着するが、装置(金属容器)との粘着も良好となるため、このポリオレフィン系熱可塑性樹脂の溶融時の粘着性を防止するためにワックスの添加するようにしたものである。
【0026】
ここで述べるカルボン酸とは、無水マレイン酸、無水酢酸、無水フタル酸を指し、ポリオレフィンとはポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合樹脂、エチレン−メチルアクリレートコポリマ、エチレン−エチルアクリレートコポリマ、エチレン−酢酸ビニルコポリマ、エチレン−ブテンコポリマ、エチレン−メチルメタアクリレートコポリマ、スチレン−エチレンブチレン−スチレンなどを挙げることができる。
【0027】
ワックスは、装置(金属容器)と熱可塑性エラストマーの界面で潤滑剤の役割をもたらし粘着を防止する作用がある。
【0028】
種々のワックスについて粘着防止効果を確認したところ、脂肪酸系ではオレイン酸アマイド、ポリマー系ではポリプロピレンワックスが優れていた。しかし、オレイン酸アマイドは、金属と接着時には接着阻害を起こし好ましくなかった。ポリプロピレンワックスは、装置(金属容器)との粘着はオレイン酸アマイドに比べれば劣るものの作業の上で問題はなく金属との接着は良好であった。
【0029】
このとき、ポリプロピレンワックスの添加量を1〜10質量部に制限したのは、添加量1未満では接着性は良好だが作業性に劣り、添加量10質量部を超えると作業性への効果が小さく、接着性が低下するからである。ワックスはブリードすることにより潤滑剤として機能する。数平均分子量は、9000を超えると接着性は良好だが作業性が劣るため9000以下が好ましい。また、ワックスは分子量が小さすぎてブリードしやすくなると外観、物性(溶融張力)に悪影響を及ぼすおそれがあるため、数平均分子量は1000以上が好ましい。
【0030】
また、熱可塑性エラストマーと金属は、直接接着できるほうが作業の上では好ましいが、製品の信頼性を向上するために接着剤の併用も試みた。
【0031】
接着剤は、熱可塑性エラストマーと金属の接着に用いられるエポキシ系、アクリル系、オレフィン系から選択した。いずれの接着剤も主成分と硬化促進剤からなる二液性のもので、接着力及び扱いやすさによって最適な接着剤を選定した。
【0032】
オレフィン系接着剤は、接着剤未塗布と比べて接着力の増加が僅かで、部分的に絶縁被覆材とともに接着剤が金属から剥離する現象が見られた。エポキシ系、アクリル系は、共に接着力が増したものの、アクリル系では接着剤の硬化時間が早く放置時間により接着力のバラツキが見られた。よって、接着力が大きく、接着剤塗布後の放置時間の影響がないエポキシ系接着剤との併用が好ましい。
【実施例】
【0033】
次に本発明の実施例を比較例と併せて説明する。
【0034】
実施例1〜8と比較例1〜5を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1においての各組成は、プロピレン系エラストマ(MFR:7g/10min、密度:0.87g/cm3)、マレイン酸変性ポリプロピレン(MFR:1.3g/10min、密度:0.89g/cm3)、マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート(MFR:5g/10min、密度:1g/cm3)、炭酸カルシウム(平均粒径:1.2μm、脂肪酸表面処理)、難燃剤(非デカプロ型臭素系難燃剤)、酸化防止剤(フェノール系老化防止剤)、脂肪酸系ワックス(密度:0.90g/cm3、融点:119℃)、ポリエチレンワックス(密度:0.92g/cm3、数平均分子量:2000)、ポリプロピレンワックスA(密度:0.89g/cm3、数平均分子量:3000)、ポリプロピレンワックスB(密度:0.89g/cm3、数平均分子量:9000)、ポリプロピレンワックスC(密度:0.89g/cm3、数平均分子量:15000)を用いた。
【0037】
表1に示す組成を、それぞれミキサーで加熱しながら混合し、その混合物をミキサーから取り出し、ロールにてシート状に成形し、その後、金枠でプレスしてシートを作製して特性の評価を行った。
【0038】
表1中の各特性は、以下の手順で測定、評価した。
【0039】
(1)本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ラボプラストミル(東洋精機製)のミキサ(200cc)を使用して200℃×20分混合を行い作製した。
【0040】
(2)取り出した混合物は、160℃に保持した6インチロールに巻付け2mm厚に伸ばした。
【0041】
(3)ロールから試料を取出すことを作業性とし、試料が粘着によりロールに転写してしまうものを×、転写しないものを○と表記した。試料がロールに転写するものでロール回転を停止すれば剥がせるものを△で表記した。
【0042】
(4)ロールより取り出した試料は、厚さ1mmと2mmの金枠で200℃×3分プレス成形して接着評価用シート、及び引張試験用シートを作製した。
【0043】
(5)引張試験は、JIS C−3005に準拠し、厚さ2mmのシートを用い500mm/minの速度で引張強さ、伸びを測定した。
【0044】
(6)接着評価用試料は、ブリキ板に1mmシートを1MPaの荷重で200℃×1分加圧成形して作製した。このとき、ブリキ板にエポキシ系の接着剤を塗布したものと、塗布しないものを準備した。尚、金属にブリキ板を選択したのはプラグ・レセップ法で用いる端末金具が錫メッキされており、ブリキ板は錫亜鉛鋼板で材質的に近いためである。
【0045】
(7)接着性は、図2に示すように金属板(錫メッキ鋼板;ブリキ板)にはり合わせた材料シート(肉厚1mm)を25mm幅で片端を垂直方向に50mm/minにて剥離したときの剥離力の最大荷重を測定した。金具との接着が良好なゴムの最大荷重を接着性の基準とし、60N/25mm以上を○、未満を×と表記した。
【0046】
以上において、実施例1〜8は、引張試験、作業性、接着性で、全て目標とする特性を満足した。
【0047】
但し、実施例3は、数平均分子量が15000のポリプロピレンワックスCを用いたもので、ロール転写において実用上支障はないものの、数平均分子量が3000のポリプロピレンワックスA、数平均分子量が9000のポリプロピレンワックスBより劣る△である。よってポリプロピレンワックスの数平均分子量9000以下を用いるのが好ましい。
【0048】
上述の実施例1〜8に対して比較例1は、マレイン酸変性ポリプロピレンを含まないもので、金属との接着性が全くない。
【0049】
比較例2、3は、実施例1〜3のポリプロピレンワックスA〜Cを、脂肪酸系ワックス、ポリエチレンワックスに変えたものであり、比較例2では作業性は良好なものの接着剤無しでは接着性が得られず、比較例3では作業性、接着性共に目標を満足できない。
【0050】
比較例4は、実施例1のポリプロピレンワックスAの添加量が1未満の例であるが接着性は良好だが作業性の目標を満足しない。比較例5はポリプロピレンワックスAの添加量が10質量部を超えたもので、作業性は良好なものの、接着剤無しでは、金属との接着性を満足しない。
【0051】
以上より、マレイン酸変性ポリプロピレンで変性したポリプロピレン系エラストマ100質量部に対して、ポリプロピレンワックスを1〜10質量部添加するのがよいことがわかる。
【符号の説明】
【0052】
10 航空灯火ケーブル
11 ピン
12 ソケット
13a、13b モールド材
14 プラグ
15 レセップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有するケーブルの端末を、その絶縁被覆層と端末の金属面を覆ってモールド処理する際に用いるケーブル被覆用モールド材料において、カルボン酸無水物で変性されたポリオレフィン系熱可塑性樹脂が混合されたポリオレフィン系熱可塑性樹脂100質量部に対して、ポリプロピレンワックスを1〜10質量部含ませたことを特徴とするケーブル被覆用モールド材料。
【請求項2】
ポリプロピレンワックスの数平均分子量が、9000以下である請求項1記載のケーブル被覆用モールド材料。
【請求項3】
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有するケーブルの端末を、その絶縁被覆層と端末の金属面を覆ってモールド処理するケーブル端末において、請求項1又は2に記載のケーブル被覆用モールド材料を用いてモールド成型したことを特徴とするケーブル端末。
【請求項4】
モールド成形する際に、モールド材と前記金属面とを接着剤を用いて接着した請求項3記載のケーブル端末。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−244782(P2010−244782A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90870(P2009−90870)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】