説明

ゲル化食品およびその製造方法

【課題】動物由来の乳や豆乳などのタンパク質性コロイド溶液を原料とする、特性に優れたゲル化食品を提供すること、および当該ゲル化食品を提供する方法。
【解決手段】動物由来の乳や豆乳などのタンパク質性コロイド溶液を米麹、麦麹、豆麹などの麹菌由来のプロテアーゼにて処理することにより、ゲル化食品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麹菌の酵素の作用によりタンパク質性コロイド溶液をゲル化させて得られる、苦味や生臭さなどの異味異臭がなく、食感が軟らかく滑らかなゲル化食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質性コロイド溶液とは、水を分散媒として、タンパク質のコロイド粒子、あるいはタンパク質、脂質、糖およびミネラルなどの複合体を含むコロイド粒子が、個々に親水性を保ち安定化された溶液で、その例としては、牛乳、豆乳、血液、卵白液、卵黄液および全卵液などが挙げられる。
【0003】
タンパク質性コロイド溶液は、加熱処理、凍結解凍処理、強酸処理や強アルカリ処理、またはタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)処理などにより、コロイド粒子間に働く親和力と反発力のバランスが崩れ、コロイド粒子が不溶化して分散媒の水を排出し凝集して沈殿する。あるいは条件さえ整えば、コロイド粒子が水和(水を保持)したままつながり、網目構造(ネットワーク)を形成し、凝固すなわちゲル化する。
【0004】
ゲルの構成要素は、タンパク質性コロイド粒子がつながった巨大複合体で、タンパク質性コロイド粒子間の親和力は主にタンパク質の変性に伴い生じる疎水的結合力である。一方、反発力は主にコロイド粒子表面の電荷によるイオン的反発力である。疎水的結合力がイオン的反発力より強すぎると凝集が起こる。ゲル化は両者の力のバランスがとれて、コロイド粒子が水和しながらつながり、網目構造(ネットワーク)を形成する場合に起こる。一方、疎水的結合力がイオン的反発力より弱すぎると凝集もゲル化も起こらず、粘稠な液状を保つ。
【0005】
通常、加熱処理によるゲル化は、ゆで卵に代表されるように、しなやかさに欠ける硬くてもろいゲルになる。一方、強アルカリ処理によるゲルはピータンに見られるように、軟らかく弾力性のあるしなやかなゲルになるが、アルカリ性であるため風味が悪くなる。また、タンパク質性コロイド溶液を構成するタンパク質の多くは、酸性側に等電点(表面の荷電の総和が0になるpH値)を有するため、強酸処理では、ゲル化よりタンパク質の凝集沈殿が激しく起こる。
【0006】
また、タンパク質性コロイド溶液にプロテアーゼを作用させると、ゲルが得られる。その例として、牛やヤギの乳に子牛の第4胃から得られる消化酵素製剤レンネットを作用させると、乳全体が軟らかく滑らかにゲル化することが挙げられる。このゲル化は特に凝乳といわれる。チーズの製造では、その凝乳物を細かく砕いて、溶液部分の乳清を排液し、不溶化した乳タンパク質や乳脂肪球の凝固物(カード)を集めて固めて熟成させる。
【0007】
乳全体をゲル化させるプロテアーゼは凝乳酵素とよばれ、レンネット中のプロテアーゼであるキモシンや、パイナップルに含まれるブロメライン、パパイヤに含まれるパパイン、キウイフルーツに含まれるアクチニジン、イチジクに含まれるフィシン、生姜に含まれるジンジベイン、そのほか、カビや細菌由来の凝乳酵素が多数知られている。しかし、キモシン以外の凝乳酵素は、通常、タンパク質の分解に伴う苦味や発酵臭や生臭みなどの異味異臭が少なからず発生するため、凝乳により得られるゲル化食品はほとんど市販されていない。
【0008】
ただ例外として、中国広東省の伝統食品である『キョンジョンアウナーイ』がある。これは、生姜の凝乳酵素であるジンジベインを用いて乳タンパク質のコロイド溶液全体を、軟らかく滑らかに凝乳させた生姜ミルクプリンであり、中国では昔からデザートとして市販されている。
【0009】
凝乳現象は、プロテアーゼの作用で乳タンパク質内部に位置していた疎水基の一部が表面に露出し、乳タンパク質が親水性を保ちつつ、疎水結合でつながって、分散媒の水をたっぷり保持する網目構造(ネットワーク)を生じる現象である。プロテアーゼが働きすぎると、乳タンパク質の疎水基が過度に表面に露出し、乳タンパク質は強固に疎水結合でつながって凝集し沈殿する。あるいは乳タンパク質が分解されて低分子化し、可溶化してゲル形成ができなくなる。したがって、乳タンパク質溶液や豆乳タンパク質溶液などのタンパク質性コロイド溶液を、軟らかく滑らかにゲル化させるためには、プロテアーゼの選択が必要であり、さらにプロテアーゼと乳タンパク質との反応条件を適度に設定することにより特性の優れたゲル化食品が得られる。
【0010】
このように、凝乳現象にはコロイド粒子を構成する乳タンパク質と、それを分解するプロテアーゼの相性があり、かつそれらの反応条件の最適化が難しく、乳タンパク質にキモシンを作用させて得られる軟らかく滑らかなゲルの調製を、キモシン以外の凝乳酵素で行うことは困難であった。
【0011】
事実、世界の研究者が子牛のキモシンに代わる凝乳酵素を既存の植物、微生物等から探索したが、性質が子牛のキモシンに似たものは得られず、苦味や発酵臭等の風味的にも問題があった。比較的性質が子牛キモシンに似た凝乳酵素を作る3種のカビ(リゾムコール・プシルス(Rhizomucor pusillus)、リゾムコール・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)、エンドチア・パラサイティカ(Endothia parasitica))は発見されており、それらのカビを培養して調製された酵素剤が微生物由来のキモシンとして市販されている。
【0012】
また、以下の非特許文献1において、大豆タンパク質を主体としたタンパク質性コロイド溶液である豆乳に麹菌を作用させてゲル化させた例が公知化されている。
【0013】
非特許文献1では、オートクレーブにより酵素を失活させてゲルの物性を適度に保つ豆乳ゲル化食品が開示されている。この文献によると、豆乳ゲル化食品は、味噌漬け用米白味噌原料の麹から得た液を90℃で10分間加熱処理することによりデューテロリシン以外の酵素を失活させて酵素液を調製し、酵素液と豆乳とを混合して50℃で15時間インキュベートし、120℃で10分間オートクレーブし、オートクレーブ直後に氷冷して作製する。当該文献に記載の製造方法では、インキュベートによる加水分解反応だけでは適度な物性を得ることができず、オートクレーブで熱変性させることにより、型から出しても崩れにくく、豆腐様の滑らかさを有するという物性を得ていた。しかしながら、オートクレーブ後のゲル化食品は、表面に少々鬆が入っており、商品として販売するには欠点となった。さらに、90℃で酵素を失活させる、15時間もインキュベートする、オートクレーブ後に氷冷するなど、手間と時間が必要であり、この文献に記載された技術を産業として利用するには難点が多い。
【0014】
【非特許文献1】福岡女子大学人間環境学部紀要 34,23−26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように、従来の技術では、ゲル化させるために行った熱変性により、表面に鬆が入るという難点があった。さらに、オートクレーブや氷冷などの手間や時間が必要であるという難点もあった。
本発明は、タンパク質性コロイド溶液をゲル化させて、苦味や生臭さなどの異味異臭がなく、食感が軟らかく滑らかな物性を有し、かつ製造の容易なゲル化食品、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、動物由来の乳や豆乳などのタンパク質性コロイド溶液に、麹菌由来の酵素を混合して、好適には45〜65℃で10分〜20時間置くことにより、苦味や生臭さなどの異味異臭がなく、食感が軟らかく滑らかなゲル化食品が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下の食品およびその製造方法を提供するものである。
〔1〕 タンパク質性コロイド溶液を麹菌由来の酵素の作用により熱変性させることなくゲル化させて得られる、ゲル化食品。
〔2〕 ゲル化が、タンパク質性コロイド溶液に麹菌由来の酵素を加え、45〜65℃で10分〜20時間、保温することによって行なわれてなる、〔1〕記載の食品。
〔3〕 麹菌由来の酵素が、米麹、麦麹、豆麹またはこれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択された麹の粉砕物である、〔1〕または〔2〕に記載の食品。
〔4〕 タンパク質性コロイド溶液が、動物由来の乳または豆乳である、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の食品。
〔5〕 麹菌がアスペルギルス カワチ(Aspergillus kawachii)およびアスペルギルス オリーゼ(Aspergillus oryzae)である、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の食品。
〔6〕 アスペルギルス カワチとアスペルギルス オリーゼとが重量比で10:0〜0:10の混合割合である、〔5〕記載の食品。
〔7〕 厚み2cmのゲルの破断強度が5〜100g/cmである、〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の食品。
〔8〕 pHが2.5〜7.5である、〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の食品。
〔9〕 麹菌由来の酵素にてタンパク質性コロイド溶液をゲル化することによる、ゲル化食品の製造方法。
〔10〕 ゲル化が、麹菌由来の酵素とタンパク質性コロイド溶液とを45〜65℃で10分〜20時間保温することによって行なわれてなる、〔9〕記載の製造方法。
〔11〕 麹菌由来の酵素が、米麹、麦麹、豆麹またはこれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択された麹の粉砕物である、〔9〕または〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕 タンパク質性コロイド溶液が動物由来の乳または豆乳である、〔9〕〜〔11〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔13〕 麹菌がアスペルギルス カワチ(Aspergillus kawachii)およびアスペルギルス オリーゼ(Aspergillus oryzae)である、〔9〕〜〔12〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔14〕 アスペルギルス カワチとアスペルギルス オリーゼとが重量比で10:0〜0:10の割合である、〔13〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、タンパク質性コロイド溶液に麹菌由来の酵素を混合することにより、食感が軟らかく滑らかなゲル化食品が得られる。
【0019】
特に、タンパク質コロイド溶液として牛乳を用いた場合では、キモシンを用いることなく、牛乳全体を軟らかく滑らかに、離水もなく凝乳させることが可能で、麹菌由来の酵素作用により牛乳特有の生臭みが消えた好ましい風味と食感のゲル化食品が得られる。
【0020】
また、タンパク質性コロイド溶液として豆乳を用いた場合、硫酸カルシウムやグルコノデルタラクトンなどの凝固剤を用いる事なく、絹ごし豆腐や生湯葉の食感に近い、軟らかく滑らかな食感のゲル化食品を得ることができる。なお、豆乳においても牛乳の場合と同様に、麹菌由来の酵素作用により豆乳特有の生臭みが消えた好ましい風味と食感のゲル化食品が得られる。
【0021】
タンパク質性コロイド溶液は、良好なアミノ酸組成からなるタンパク質、必須脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、種々のビタミン、ならびにミネラルからなる脂質の複合体を主成分とするコロイド溶液であり、完全栄養食品としても知られている。さらに最近では成長促進、骨形成、血圧低下および抗酸化などの健康機能を示すペプチドならびにホルモン様生理活性成分が見出され、栄養機能のみならず健康機能の利用が注目されている。本発明では、タンパク質性コロイド溶液全体を軟らかく滑らかにゲル化できる。したがって、得られたゲル化食品は、特に栄養機能および健康機能成分の積極的な摂取が必要な乳幼児および高齢者に好ましく提供できる。
【0022】
さらに、本発明はタンパク質性コロイド溶液と麹菌由来の酵素を混ぜて容器中でゲル化するまで保温するという、簡単構成である。したがって、本発明によれば、手間と時間をかけずに良好な物性のゲル化食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、タンパク質性コロイド溶液を麹菌由来の酵素の作用によりゲル化させて得られるゲル化食品およびその製造方法に関する。
【0024】
本発明において、タンパク質性コロイド溶液とは、水を分散媒として、タンパク質のコロイド粒子あるいはタンパク質、脂質、糖およびミネラルなどの複合体からなるコロイド粒子が、個々に親水性を保ち安定化された溶液である。その例としては、牛乳、豆乳、血液、卵白液、卵黄液および全卵液などが挙げられる。その固形分濃度は5重量%以上で、好ましくは10重量%以上のコロイド溶液であればよく、その上限は好ましくは50重量%以下である。さらに、タンパク質の含有量は、ゲル化の観点から3重量%以上、好ましくは5重量%以上であり、その上限は好ましくは20重量%以下である。このようなタンパク質性コロイド溶液は、動物由来の乳(哺乳動物の乳)や、植物由来であれば豆乳が挙げられる。
哺乳動物の乳は、水溶性のビタミン、ミネラル、タンパク質および乳糖が水に溶解している乳清にカゼインミセルや乳脂肪球がコロイド粒子として安定に分散しているコロイド溶液である。哺乳動物の例としては、ヒト、牛、羊、山羊、馬などが挙げられる。
豆乳とは、JAS規格において定義されている豆乳であることが好ましく、大豆から熱水等によりタンパク質その他の成分を溶出させ、繊維質を除去して得られた乳状の飲料であって大豆固形分が8%以上、タンパク質が3%以上のものが好ましい。
【0025】
本発明にいう麹とは、麹菌を米、麦、大豆等の穀物、ならびに芋類、そば、おから、ふすまなどのその他の食品素材に接種して繁殖させたものをいう。
麹菌は、接種する食品素材の種類によって米麹、麦麹、豆麹等と呼ばれる。本発明ではこれらのいずれか1つまたは組み合わせて用いてもよいが、米麹が好ましい。米麹とは、蒸米に麹菌を接種して繁殖させたものである。
本発明で使用しうる麹菌としては、本発明に有効な酵素を生成するものであり、かつ食して害のない菌であれば特に制限はなく、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、ムコ−ル(Mucor)属、リゾープス(Rhizopus)属、モナスカス(Monascus)属、またはアブシディア(Absidia)属に属する微生物が挙げられ、具体的には焼酎麹菌アスペルギルス カワチ(Aspergillus kawachii)、味噌麹菌アスペルギルス オリーゼ(Aspergillus oryzae)などが例示される。
好適には、焼酎麹菌アスペルギルス カワチおよび味噌麹菌アスペルギルス オリーゼの使用が採用される。これらは、どちらか単独で使用しても、併用しても良い。前者と後者を麹の形態で、10:0〜0:10、好ましくは8:2〜2:8、より好ましくは6:4〜4:6、さらに好ましくは5:5の重量比で使用する。
これらの麹菌の使用形態に特に制限はないが、好ましくは麹を粉末状にしたものとして使用する。粉砕方法や程度は、当業者であれば適宜選択して行うことができる。
【0026】
本発明に使用される麹菌由来の酵素は、所望とするゲル化食品を得ることができるものであれば特に制限はない。また、麹菌由来の酵素としては、麹または麹菌自体を使用してもよい。
麹菌はその種類によって多種多様な酵素を生成し、また、同じ麹菌であってもその製麹条件の違い、例えば品温経過の違い等によって生成する酵素のバランスが異なるが、本発明に有効な酵素を生成するものであれば特に制限はない。
【0027】
例えば米麹には、タンパク質分解酵素、糖質関連酵素等が含まれる。タンパク質分解酵素としては、例えば酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ等が挙げられる。糖質関連酵素とは、デンプン、繊維質、ヘミセルロース、ペクチンおよびそれらを構成する単糖、オリゴ糖に作用する酵素であり、例えばα−アミラーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ、トランスフェラーゼ、β−グリコシダーゼ、β−グルカナーゼ、キシラナーゼ、ガラクトマンナナーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ等が挙げられる。アスペルギルス カワチは特に酸性プロテアーゼ活性(pH3.0)が高く、クエン酸産生能が高いという特徴を有する。アスペルギルス オリーゼは特に中性プロテアーゼ活性(pH6.0)が高く、アミラーゼ活性が強いという特徴を有する。
【0028】
本発明において、タンパク質性コロイド溶液と麹菌由来の酵素米麹の酵素との混合割合は、次の通りである。即ち、麹菌は食品素材に接種、繁殖させた麹として使用し、タンパク質性コロイド溶液100mLに対して、通常2〜10g、好ましくは2〜4g、より好ましくは2〜3gの割合で使用される。両者を混合する際には、麹菌由来の酵素の熱安定性を考慮し、65℃以下で、好ましくは55℃以下で混合する。65℃より高い温度では、急激に酵素が熱で変性してしまうため酵素活性がゲル化に不十分となる。また、酵素反応を進める保温温度は、タンパク質性コロイド溶液が腐りやすい食品であるため、少なくとも腐敗の原因となる細菌類が増殖しにくい、45℃以上で行う必要がある。すなわち、タンパク質性コロイド溶液と麹菌酵素の混合液は45〜65℃に保つことが好ましく、45〜55℃に保つことがより好ましい。この保温には、恒温乾燥機や恒温水槽などが使用可能である。
混合後の保温は、腐敗の原因となる細菌類増殖の危険性を回避するために、なるべく高温かつ短時間で保温することが望まれる。しかしながら、高温に条件を設定することにより、酵素反応速度を早めすぎるとタンパク質性コロイドの凝集が生ずる場合があり、この場合はゲルから離水することが問題となる。したがって、保温時間は、タンパク質性コロイド溶液の種類やタンパク質濃度、麹菌由来の酵素の活性の強さと保温温度やpHなどにより当業者により適宜調節されるべきである。例えば、牛乳や豆乳のようなタンパク質含量が3〜3.5w/v%のコロイド溶液に対して、麹を2〜10w/v%混合して、45〜65℃で保温した場合、保温時間は、10分〜20時間、より好ましくは10分〜8時間、さらに好ましくは10分〜4時間である。
両者を混合する際のpHは、麹菌由来の酵素が十分作用するpH範囲であればよく、通常は特に調整する必要はない。例えば、牛乳や豆乳に米麹を混合した場合、pH2.5〜7.5の範囲となり、このpHは麹菌由来の酵素の作用するpH範囲である。
【0029】
本発明において、ゲル化食品の良好な物性に影響を及ぼさないものであれば、好ましい風味や外観を付与するために、甘味料、香料、食品素材、着色料、保存料、酸化防止剤、日持ち向上剤などを、保温前または保温後に、特に制限なく添加することができる。
甘味料としては、砂糖、果糖や水あめ、乳糖などのデンプン糖、オリゴ糖、還元麦芽糖やソルビトール、キシリトール、エリスリトールなどの糖アルコール、蜂蜜、グリチルリチンやステビア、甘茶、ソーマチンなどの天然系非糖質甘味料、サッカリンやアスパルテームなどの合成系非糖質甘味料などが挙げられる。
香料としては、ストロベリー、レモン、レモンライム、オレンジ、l−メントール、ハッカ油などの天然および合成香料が挙げられる。
食品素材としては、果実や野菜、種実やその加工品、香辛料、ココア、チョコレート、抹茶、紅茶、コーヒー、ワインなどの酒類や嗜好品などが挙げられる。
着色料としては、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用タール色素、天然色素などが挙げられる。
【0030】
本発明のゲル化食品は、苦味や生臭さなどの異味異臭がなく、食感が軟らかく滑らかである。苦味は、タンパク質がプロテアーゼにより分解されて(特に苦味アミノ酸であるロイシン、バリン、イソロイシンなどの疎水性アミノ酸)により生じる。また、生臭さは、動物由来の乳や豆乳などのタンパク質性コロイド溶液に特有の臭いである。滑らかさとは、舌の上でのざらつき感がないことをいう。これらの特徴の有無や程度は、官能検査により確認することができる。また、軟らかいとは、厚み2cmのゲルの破断強度が100g/cm以下であることをいう。しかしながら、滑らかで軟らかい食感のゲルを作る観点から、本発明において好ましい破断強度は、5〜100g/cm、より好ましくは5〜50g/cm、さらに好ましくは5〜20g/cmである。ここで、ゲルの破断強度は、ゲル圧縮回復測定器を用い、断面積1平方センチメートルのプランジャーを毎秒0.6mmで降下させて、厚さ約2cmのゲル表面を圧縮し、ゲルを破断するのに要する力を単位平方センチメートル当たりのg数値を示す値であり、テキソグラフ((株)日本食品開発研究所製)、やレオメータ(不動工業(株)製)、クリープメーター((株)山電製)などを使用して測定することができる。
本発明のゲル化食品は、ゲル状の食品であるが、好ましくは離水がないゲル状の食品である。本発明において離水とは、ゲルの収縮により、ゲルと容器の接触面に目視できる隙間ができている状態をいう。したがって、本発明において、離水の有無の判定は目視検査により行う。
【実施例】
【0031】
以下に、試験例および実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]米麹のプロテアーゼ活性測定
(方法)
『第四回改正国税庁所定分析法』p223 211−8に記載の酸性プロテアーゼの測定方法を一部改変して行った。カゼイン溶液にマッキルベイン緩衝液を加えた基質溶液に、米麹より抽出した酵素液を混合した。40℃で60分反応させた後、TCA溶液を加えて反応を停止させ、沈殿を濾過した。その濾液に炭酸ナトリウム溶液とフェノール試薬を加え、40℃で30分発色を行い、660nmにおける吸光度を測定した。なお、基質溶液に酵素液を混合する直前にTCA溶液を加えて同様の操作を行ったものを対照として使用した。また、酸性プロテアーゼ活性を測定する際は、カゼイン溶液の調製時に乳酸およびpH3.0マッキルベイン緩衝液を添加することによりpHを3.0に調整した。また、中性プロテアーゼ活性を測定する際は、カゼイン溶液の調製時に水酸化ナトリウム溶液およびpH6.0マッキルベイン緩衝液を添加することによりpHを6.0に調整した。
【0033】
(溶液の組成)
マッキルベイン緩衝液(pH3.0、pH6.0)
M/5リン酸2ナトリウム溶液とM/10クエン酸溶液を混合し、pH3.0またはpH6.0に調整した。
カゼイン溶液
酸性プロテアーゼ活性測定用としては、カゼイン2gに10倍希釈乳酸5ml及び蒸留水約50mlを加え、沸騰するまで加熱しながら攪拌し、冷却後pH3.0に調整したマッキルベイン緩衝液20mlを加え、蒸留水で全量を100mlとした溶液を使用した。中性プロテアーゼ活性測定用として、乳酸に代わりN/10水酸化ナトリウム溶液8mlを加え、pH3.0に調整したマッキルベイン緩衝液に代わりpHを6.0に調整した緩衝液を使用して調製した。
0.4M TCA溶液
トリクロール酢酸を蒸留水に溶解し、0.4Mに調整した。
フェノール溶液
市販品(ナカライテスク製、蛋白質測定用フェノール試薬(Folin-Ciocalteu’s Reagent Soln.)37205−45)を5倍に希釈した。
0.4M炭酸ナトリウム溶液
炭酸ナトリウムを蒸留水に溶解し、0.4Mに調整する。
【0034】
(結果)
米麹のプロテアーゼ活性の測定結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
アスペルギルス カワチでは酸性プロテアーゼの活性が高く、アスペルギルス オリーゼでは中性プロテアーゼの活性が高いことが確認された。
【0037】
[実施例2] 各種米麹10w/v%添加牛乳の物性評価
(方法)
市販の牛乳(明治乳業製、おいしい牛乳)200mLを片手鍋に入れて60℃に加温し、米麹粉末20g(アスペルギルス カワチ20g(A)、アスペルギルス オリーゼ20g(B)、または各米麹粉末10gずつの混合物(C))を加え、液温を測定しながらよく攪拌した。混合物の液温が55℃になったら(混合約1〜2分後)、直ちに蓋付きプラスチック容器(江戸川物産(株)製、GF−052)に20gずつ分注して蓋をし、庫内温度を55℃に設定した恒温乾燥機に入れて、容器ごと保温した。所定の時間にそれぞれの容器を取り出し、冷蔵庫で約1時間冷却し、ゲル化状態と離水の状態を観察した。
【0038】
(結果)
物性評価結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
牛乳のゲル化速度は(A)アスペルギルス カワチが(B)アスペルギルス オリーゼより速いが、離水を生じ易いことが示された。また、両者を併用して使う(C)と、ゲル化速度が速いまま離水がかなり抑制された。
【0041】
[実施例3]米麹添加牛乳の物性と米麹添加量および保温時間
(方法)
市販の牛乳(明治乳業製、おいしい牛乳)200mLを片手鍋に入れて60℃に加温し、米麹粉末(アスペルギルス カワチ、またはアスペルギルス オリーゼ)を牛乳の1w/v%、2w/v%、3w/v%、および4w/v%加え、液温を測定しながらよく攪拌した。混合物の液温が55℃になったら(混合約1分後)、直ちに蓋付きプラスチック容器(江戸川物産(株)製、GF−052)に20gずつ分注して蓋をし、庫内温度を55℃に設定した恒温乾燥機に入れて、容器ごと保温した。所定の時間にそれぞれの容器を取り出し、冷蔵庫で約1時間冷却し、まず液性と離水の有無を観察した。次にpHとゲル破断強度を測定した。pH測定はカスタニーLABpHメーター(堀場製作所製)を使用して行った。ゲル破断強度はゲル圧縮回復測定器(テキソグラフ)((株)日本食品開発研究所製)を用い、断面積1平方センチメートルのプランジャーを毎秒0.6mmで降下させて、厚さ約2cmのゲル表面を圧縮し、ゲルを破断するのに要する力を単位平方センチメートル当たりのg数値として測定した。
【0042】
(結果)
麹菌としてアスペルギルス カワチを使用した場合の、物性(液性、離水の有無)と米麹添加量および保温時間の関係を表3に示す。アスペルギルス カワチを使用した場合の、物性(pH/ゲル破断強度g)と米麹添加量および保温時間の関係を表4に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
牛乳のゲル化に必要なアスペルギルス カワチの米麹添加量は実質的に2w/v%以上であり、1w/v%添加ではゲル化に55℃での保温時間が20時間もかかる。また保温時間が長くなるほど、米麹の添加量が多いほど、ゲルは離水が激しかった。離水の激しいゲルの破断強度は高く、最も硬いゲルで24.1gであった。離水のないゲルや少ないゲルの破断強度は比較的軟らかい傾向があり10g以下であった。
なお、pHは麹菌の添加量が多くなると低下する傾向があるが、低くてもpH5.5付近であった。pHが低くて保温時間が長いゲルは離水しやすい傾向が見られた。
【0046】
アスペルギルス オリーゼを使用した場合の、物性(液性、離水の有無)と米麹添加量および保温時間の関係を表5に示す。アスペルギルス オリーゼを使用した場合の、物性(pH/ゲル破断強度g)と米麹添加量および保温時間の関係を表6に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
一方、アスペルギルス オリーゼの米麹添加の場合は、牛乳のゲル化に必要な添加量は実質的に3w/v%以上であり、1w/v%添加ではゲル化せず、2w/v%添加でもゲル化に55℃での保温で20時間もかかる。また、アスペルギルス オリーゼの場合、ゲル化がマイルドに起こるためか、離水が見られなかった。pHは低くても5.60、ほとんどが6.5付近で麹菌の中性プロテアーゼの働きやすいpHであった。ゲル化は米麹の添加量が多いほど、かつ保温時間が長いほど起こりやすかった。
【0050】
以上、表3〜6の結果から、牛乳のゲル化には、麹菌由来の酵素のうち、中性プロテアーゼの活性よりも酸性プロテアーゼの活性が強く関与していると考えられた。以上より、55℃の保温条件で牛乳100mlをゲル化させる酸性プロテアーゼ活性として、約30000単位以上が必要であると思われる。
【0051】
[実施例4]牛乳のゲル化に対する米麹の併用効果
(方法)
アスペルギルス カワチとアスペルギルス オリーゼの各米麹の粉末を、それぞれ8:2、5:5、および2:8の重量比にブレンドした。市販の牛乳(明治乳業製、おいしい牛乳)200mLを片手鍋に入れて60℃に加温し、各米麹をブレンドした粉末をそれぞれ、牛乳に対して3w/v%の量を加え、液温を測定しながらよく攪拌した。混合物の液温が55℃になったら(混合約1分後)、直ちに蓋付きプラスチック容器(江戸川物産(株)製、GF−052)に20gずつ分注して蓋をし、庫内温度を55℃に設定した恒温乾燥機に入れて、容器ごと保温した。所定の時間にそれぞれの容器を取り出し、冷蔵庫で約1時間冷却し、ゲル化状態と離水の状態を観察した。結果を表7に示す。
【0052】
(結果)
牛乳のゲル化に対する各種米麹の配合比率と物性評価結果を表7に示す。表中、「K」とはアスペルギルス カワチの意味であり、「O」とはアスペルギルス オリーゼの意味である。
【0053】
【表7】

【0054】
表7ならびに実施例3の表3および5よりアスペルギルス カワチとアスペルギルス オリーゼを併用すると、牛乳のゲル化速度を促進し、かつゲルからの離水の発生を抑制できる事が示された。恐らく、ゲル化速度を早めるのは酸性プロテアーゼであり、離水を抑えるのは中性プロテアーゼであると考えられる。
【0055】
[実施例5]各種米麹10w/v%添加豆乳の物性評価
(方法)
市販の牛乳のかわりに豆乳(有機豆乳 豆腐もできる豆乳 めいらく(株)製)200mLを用い、実施例2と同じ操作を行った。
【0056】
(結果)
物性評価結果を表8に示す。
【0057】
【表8】

【0058】
豆乳の場合も牛乳の場合と同様に(A)アスペルギルス カワチが(B)アスペルギルス オリーゼより早くゲル化するが、離水を生じ易いことが示された。しかし、表2の牛乳の場合と比較して、豆乳の場合はタンパク質性コロイドの性質が異なるためか、ゲル化速度が遅く離水を起こしにくいゲルが得られた。
【0059】
[実施例6]米麹添加豆乳の物性と米麹添加量および保温時間
(方法)
市販の牛乳のかわりに豆乳(有機豆乳 豆腐もできる豆乳 めいらく(株)製)200mLを用い、実施例3と同じ操作を行った。
【0060】
(結果)
麹菌としてアスペルギルス カワチを使用した場合の、物性(液性、離水の有無)と米麹添加量および保温時間の関係を表9に示す。麹菌としてアスペルギルス カワチを使用した場合の、物性(pH/ゲル破断強度g)と米麹添加量および保温時間の関係を表10に示す。
【0061】
【表9】

【0062】
【表10】

【0063】
豆乳の場合、ゲル化に必要なアスペルギルス カワチの米麹添加量は2w/v%以上であることがわかった。牛乳の場合と比較して、離水の少ないゲルが得られた。米麹の添加量が多いほどpHは低下するが、保温時間とpHは関係がないいようであった。pHが低下するほどゲルの破断強度は高くなる傾向があるが、牛乳のゲルほど硬くならず、破断強度は10g以下の軟らかい滑らかな絹ごし豆腐様のゲルが得られた。
【0064】
アスペルギルス オリーゼを使用した場合の、物性(液性・離水の有無)と米麹添加量および保温時間の関係を表11に示す。アスペルギルス オリーゼを使用した場合の、物性(pH/ゲル破断強度g)と米麹添加量および保温時間の関係を表12に示す。
【0065】
【表11】

【0066】
【表12】

【0067】
一方、豆乳に対するアスペルギルス オリーゼの米麹添加の場合は、ゲル化に必要な添加量は実質的に3w/v%以上であり、1w/v%添加ではゲル化せず、2w/v%添加でもゲル化に55℃での保温で20時間もかかった。また、牛乳と同様、豆乳の場合もアスペルギルス オリーゼの添加で離水は見られなかった。ゲル化したもののpHが約6以下であり、特に5.75付近が多く、その時のゲル破断強度は約5gと非常に軟らかいゲルが得られた。
【0068】
以上、表7〜12の結果から、豆乳のゲル化にも、麹菌由来の酵素のうち、中性プロテアーゼの活性よりも酸性プロテアーゼの活性が強く関与していると考えられた。55℃の保温条件で豆乳100mlをゲル化させる酸性プロテアーゼ活性として、牛乳のゲル化の場合と同様に、約30000単位以上必要であることが推察できる。ただし、牛乳の場合と比較して、豆乳の場合はゲル化速度が遅くなり、よりマイルドなゲル化が起こるためか、離水の少ないゲルになるという好ましい結果が得られた。
【0069】
[実施例7]豆乳のゲル化に対する米麹の併用効果
(方法)
アスペルギルス カワチとアスペルギルス オリーゼの各米麹の粉末を、それぞれ8:2、5:5、および2:8の重量比にブレンドした。市販の豆乳(有機豆乳 豆腐もできる豆乳 めいらく(株)製)200mLを片手鍋に入れて60℃に加温し、各米麹をブレンドした粉末をそれぞれ、牛乳に対して3w/v%の量を加え、液温を測定しながらよく混合した。混合物の液温が55℃になったら(混合約1分後)、直ちに蓋付きプラスチック容器に20gずつ分注して蓋をし、庫内温度を55℃に設定した恒温乾燥機に入れて、容器ごと保温した。所定の時間にそれぞれの容器を取り出し、冷蔵庫で約1時間冷却し、ゲル化状態と離水の状態を観察した。
【0070】
(結果)
各種米麹の配合比率と物性評価結果を表13に示す。表中、「K」はアスペルギルス カワチを意味し、「O」はアスペルギルス オリーゼを意味する。
【0071】
【表13】

【0072】
表13ならびに実施例6の表9および11より、アスペルギルス カワチとアスペルギルス オリーゼを併用すると、アスペルギルス カワチの配合比率が多いほど豆乳の場合もゲル化速度が促進され、しかも離水が抑えられる傾向が見られた。
【0073】
[実施例8]保温温度の検討
(方法)
米麹はアスペルギルス カワチとアスペルギルス オリーゼの米麹の等量配合粉末を用いた。保温温度は45℃、55℃、65℃の3水準を比較した。牛乳200mlをあらかじめ保温温度より5℃高い液温に温め、米麹粉末を3w/v%添加し、よく攪拌して液温が設定温度に下がったら直ちに、プラスチック容器へ20gずつ分注し、庫内温度を45℃、55℃、65℃に合わせた恒温乾燥機へ入れ、容器ごと保温した。所定の時間にそれぞれの容器を取り出し、冷蔵庫で約1時間冷却し、実施例3と同様の方法で、液性と離水の有無を観察した。またゲル破断強度をテキソグラフ((株)日本食品開発研究所製)で測定した。豆乳についても同様に測定した。
【0074】
(結果)
牛乳での測定結果を表14に示す。豆乳での測定結果を表15に示す。
【0075】
【表14】

【0076】
【表15】

【0077】
牛乳や豆乳などのタンパク質性コロイド溶液を麹菌由来の酵素作用でゲル化させるには、酵素反応温度の設定が重要である。通常、化学反応は温度が10℃上がると反応速度は2倍になる。しかし、酵素反応の主体は酵素タンパク質であり、加熱によりそれ自身が熱変性を起こす場合がある。
麹菌由来の酵素の場合も、65℃の保温では反応が早く進み、ゲル化は早く進行するが、4時間を越えると反応の進行により、コロイド粒子が過度に変性して凝集し、離水の多いゲルとなった。55℃と45℃では両者とも反応が適度に進み、同じようなゲル化を示したが、55℃の方がゲル破断強度が強くなる一方、離水はしやすい傾向が見られた。
【0078】
[実施例9]牛乳米麹プリンおよび豆乳米麹プリンの調製
(方法)
米麹はアスペルギルス カワチとアスペルギルス オリーゼをそれぞれ増殖させた米麹の等重量配合粉末を用いた。牛乳2Lを鍋に入れて加温し、液温が55℃になった時点で米麹の混合粉末を25g混合し、さらに液温を55℃に保ちながら、プリン容器へ100gずつ分注した。そして、蓋をしてあらかじめ庫内温度を55℃に設定しておいた恒温乾燥機で2時間保温後、容器を冷蔵庫に移し、冷却して、牛乳米麹プリンを調製した。また、豆乳についても同じ工程で、豆乳米麹プリンを調製した。
【0079】
[実施例10]牛乳米麹プリンの嗜好性官能検査と物性測定
(方法)
実施例9で調製した牛乳米麹プリンと、ゲル化剤に寒天などの増粘多糖類を用いて固めた市販のミルクプリン(森永乳業製)を試料とした。女子大生15名をパネラーとして官能検査(2点嗜好試験)によりこれら2つのプリンの嗜好性を比較した。また各プリンから厚さ2cmのゲル試料を調製し、テキソグラフ((株)日本食品開発研究所製)を用いて、断面積1平方センチの円筒形プランジャーを毎秒0.6mmの速度で降下させ、破断変形測定を実施した。
(結果)
嗜好試験の結果、牛乳米麹プリンを好ましいと選んだパネラーが12名、市販品を選んだパネラーが3名であった。好ましいと選んだ理由に付いては、食感が軟らかく滑らかである、およびミルクの生臭みが少ない、という理由が多かった。米麹の作用で牛乳の生臭みが抑制された結果であると考えられる。
また、破断強度はそれぞれ3回測定の平均で、牛乳米麹プリンが12g/cm、市販の牛乳プリンが16g/cmと大差なかったが、テキソグラフの破断変形図で圧縮曲線がより直線に近い牛乳米麹プリンの方がゲルの弾力性が少なく滑らかな食感と判断されたものと考えられる。
図1は、牛乳米麹プリンのテキソグラフの破断変形図を示す。図2は、市販牛乳プリンのテキソグラフの破断変形図を示す。
[実施例11]豆乳米麹プリンの嗜好性官能検査と物性測定
(方法)
実施例9で調製した豆乳米麹プリンと、凝固剤を用いた固めた市販の絹ごし豆腐(高雄屋製)を試料として、女子大生15名をパネラーとして官能検査(2点嗜好試験)により嗜好性を比較した。
(結果)
15名全員が好ましいものとして豆乳米麹プリンを選んだ。その理由として、食感が軟らかく滑らかで、また豆乳の生臭みがほとんどなく好ましい甘味が上品で、生湯葉風の軟らかいプリンのような食感であることが多く挙げられた。
また各ゲルから厚さ2cmの試料を調製し、テキソグラフ((株)日本食品開発研究所製)を用いて、断面積1平方センチの円筒形プランジャーを毎秒0.6mmの速度で降下させ、破断変形測定を実施した。その結果、破断強度はそれぞれ3回測定の平均で、豆乳米麹プリンが10g/cm、市販の絹ごし豆腐が78g/cmと約8倍もの差があった。
図3は、豆乳米麹プリンのテキソグラフの破断変形図を示す。図4は、市販の絹ごし豆腐のテキソグラフの破断変形図を示す。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、牛乳米麹プリンのテキソグラフの破断変形図である。
【図2】図2は、市販牛乳プリンのテキソグラフの破断変形図である。
【図3】図3は、豆乳米麹プリンのテキソグラフの破断変形図である。
【図4】図4は、市販の絹ごし豆腐のテキソグラフの破断変形図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質性コロイド溶液を麹菌由来の酵素の作用により熱変性させることなくゲル化させて得られる、ゲル化食品。
【請求項2】
ゲル化が、タンパク質性コロイド溶液に麹菌由来の酵素を加え、45〜65℃で10分〜20時間、保温することによって行なわれてなる、請求項1記載の食品。
【請求項3】
麹菌由来の酵素が、米麹、麦麹、豆麹またはこれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択された麹の粉砕物である、請求項1または2に記載の食品。
【請求項4】
タンパク質性コロイド溶液が、動物由来の乳または豆乳である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の食品。
【請求項5】
麹菌がアスペルギルス カワチ(Aspergillus kawachii)およびアスペルギルス オリーゼ(Aspergillus oryzae)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の食品。
【請求項6】
アスペルギルス カワチとアスペルギルス オリーゼとが重量比で10:0〜0:10の混合割合である、請求項5記載の食品。
【請求項7】
厚み2cmのゲルの破断強度が5〜100g/cmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の食品。
【請求項8】
pHが2.5〜7.5である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の食品。
【請求項9】
麹菌由来の酵素にてタンパク質性コロイド溶液をゲル化することによる、ゲル化食品の製造方法。
【請求項10】
ゲル化が、麹菌由来の酵素とタンパク質性コロイド溶液とを45〜65℃で10分〜20時間保温することによって行なわれてなる、請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
麹菌由来の酵素が、米麹、麦麹、豆麹またはこれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択された麹の粉砕物である、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
タンパク質性コロイド溶液が動物由来の乳または豆乳である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
麹菌がアスペルギルス カワチ(Aspergillus kawachii)およびアスペルギルス オリーゼ(Aspergillus oryzae)である、請求項9〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
アスペルギルス カワチとアスペルギルス オリーゼとが重量比で10:0〜0:10の割合である、請求項13に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−178117(P2009−178117A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21601(P2008−21601)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(599131963)
【出願人】(591084768)株式会社菱六 (3)
【Fターム(参考)】